(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057183
(43)【公開日】2024-04-24
(54)【発明の名称】樹脂シートの製造装置および樹脂シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 48/25 20190101AFI20240417BHJP
B29C 48/305 20190101ALI20240417BHJP
B29C 48/88 20190101ALI20240417BHJP
B29C 48/08 20190101ALI20240417BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20240417BHJP
【FI】
B29C48/25
B29C48/305
B29C48/88
B29C48/08
B29L7:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163731
(22)【出願日】2022-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉川 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】井ノ本 健
【テーマコード(参考)】
4F207
【Fターム(参考)】
4F207AG01
4F207AJ08
4F207AR07
4F207AR12
4F207KA01
4F207KA17
4F207KK64
4F207KL84
(57)【要約】
【課題】笛鳴りを抑制できる樹脂シートの製造装置および製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明の樹脂シートの製造装置は、口金、キャスト装置および減圧チャンバを備えている。さらに、上記減圧チャンバの後方板のシート搬送方向上流側に、上記キャスト装との間に第一の隙間をあけ、かつ上記後方板との間に第二の隙間をあけて配置された、シート幅方向に延在する遮蔽部材を備えている。上記キャスト装置と上記後方板との間の隙間が、上記第一の隙間および第二の隙間のそれぞれを介して上記遮蔽部材よりもシート搬送方向上流側の空間と連通している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂シート材料を吐出する吐出口を有する口金と、
前記吐出口から吐出された樹脂シート材料を搬送しながら冷却して固化するキャスト装置と、
前記吐出口よりもシート搬送方向上流側に前記キャスト装置との間に隙間をあけて配置され、前記樹脂シート材料と前記キャスト装置の間の空間を覆い、空気を吸引して減圧空間とする減圧チャンバと、
を備えた樹脂シートの製造装置であって、
前記減圧チャンバの後方板のシート搬送方向上流側に、前記キャスト装置との間に第一の隙間をあけ、かつ前記後方板との間に第二の隙間をあけて配置された、シート幅方向に延在する遮蔽部材を備え、
前記キャスト装置と前記後方板との間の隙間は、前記第一の隙間および第二の隙間のそれぞれを介して前記遮蔽部材よりもシート搬送方向上流側の空間と連通している、
樹脂シートの製造装置。
【請求項2】
前記後方板から前記遮蔽部材までの最短距離X、前記キャスト装置から前記遮蔽部材までの最短距離Yが、0.5≦Y/X≦1.5を満たす、請求項1の樹脂シートの製造装置。
【請求項3】
前記遮蔽部材の位置または角度を調整できる調整機構を備えた、請求項2の樹脂シートの製造装置。
【請求項4】
前記遮蔽部材が、当該遮蔽部材の延在方向に垂直な平面での断面形状において、前記後方板に面している角がいずれも直線で構成されている、請求項1の樹脂シートの製造装置。
【請求項5】
前記遮蔽部材が、当該遮蔽部材の延在方向に垂直な平面での断面形状が四角である、請求項1の樹脂シートの製造装置。
【請求項6】
前記減圧チャンバの側板のシート幅方向外側に、前記キャスト装置との間に第三の隙間をあけ、かつ前記側板との間に第四の隙間をあけて配置された補助遮蔽部材を備え、
前記キャスト装置と前記側板との間の隙間は、前記第三の隙間および第四の隙間のそれぞれを介して前記補助遮蔽部材よりもシート幅方向外側の空間と連通している、
請求項1の樹脂シートの製造装置。
【請求項7】
樹脂シート材料を口金の吐出口からキャスト装置に向けて吐出し、前記吐出口よりもシート搬送方向上流側に配置された減圧チャンバで前記樹脂シート材料と前記キャスト装置の間の空間を覆い、前記減圧チャンバ内の空気を吸引して減圧空間とし、前記樹脂シート材料を前記キャスト装置に密着させ、前記キャスト装置で前記樹脂シート材料を搬送しながら冷却して固化する、樹脂シートの製造方法であって、
前記減圧チャンバと前記キャスト装置との間の隙間に、前記キャスト装置の近傍を通る第一の流路と、当該第一の流路とは物理的に隔たれた部分を有する第二の流路とのそれぞれを通じて、上記減圧チャンバのシート搬送方向上流側の空間から空気を取り込む、
樹脂シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂シートの製造装置および樹脂シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
まず、一般的な樹脂シートの製造装置について説明する。
図5は一般的な樹脂シートの製造装置の斜視図である。
図5に示すように、一般的な製造装置は、樹脂シート材料3を吐出する吐出口5を有する口金1と、吐出口5から吐出された樹脂シート材料3を搬送しながら冷却して固化するキャスト装置2と、吐出口5よりもシート搬送方向上流側にキャスト装置2との間に隙間をあけて配置され、樹脂シート材料3とキャスト装置2との間の空間13(以下、減圧空間)を覆い、排気ノズル9で空気を吸引して減圧空間13内を減圧する減圧チャンバ4と、を備える。減圧空間13が減圧されることで樹脂シート材料3をキャスト装置2に密着させ、搬送しながら冷却し、固化する、シートの製造方法が知られている。ここで、
図5では排気ノズル9が減圧チャンバ4のシート幅方向の両端面を構成する側板18に設置されているが、シート搬送方向上流側の面を構成する後方板19に設置されるものもある。
【0003】
さらに、様々な目的で、減圧チャンバに機能を付加することが行われている。例えば、特許文献1に開示されている流延装置がある。特許文献1には、減圧チャンバ内の圧力変動による厚みムラを抑制する目的で、遮風ユニットが備えられた減圧チャンバが開示されている。
図8は特許文献1の流延装置の後方板付近でのシート幅方向に対して垂直な断面図である。
図8に示すように、特許文献1の減圧チャンバ4では、後方板19とキャスト装置2との間の隙間15からの外気流入を抑える遮風ユニットとして複数のラビリンス板7が設けられている。ラビリンス板7で縮流部を複数設けて流動抵抗を上げることで、減圧チャンバ4内の圧力変動を防ぎ、厚みムラを抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般的な減圧チャンバでは、製膜中に笛鳴り(騒音)を引き起こすことがある。この現象を説明するために、後方板よりもシート搬送方向上流側の空間から減圧空間内に流れこむ気流について説明する。
図6は一般的な樹脂シートの製造装置の側面図である。
図6に示すように、一般的な減圧チャンバ4はキャスト装置2との接触を防ぐため、後方板19とキャスト装置2との間に隙間15をあけて配置される。この隙間15を通って、後方板19よりもシート搬送方向上流側の空間12から減圧空間13に気流8aが流入する。製膜速度やシート物性などに合わせ、密着力を強くするために減圧チャンバの減圧を強めると、気流8aが強くなって、笛鳴り(騒音)を引き起こすことがある。この笛鳴りは、側板とキャスト装置との間の隙間でも同様に発生し、健康被害だけでなく、作業性や安全面にも悪影響を与え、問題となっている。
【0006】
上記の特許文献1の技術は笛鳴りに着目していないため、他の技術同様、笛鳴りを抑制できない。
【0007】
そこで本発明は、笛鳴りを抑制できる樹脂シートの製造装置と、その製造装置を用いた樹脂シートの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記課題を解決する本発明は、樹脂シート材料を吐出する吐出口を有する口金と、上記吐出口から吐出された樹脂シート材料を搬送しながら冷却して固化するキャスト装置と、上記吐出口よりもシート搬送方向上流側に上記キャスト装置との間に隙間をあけて配置され、上記樹脂シート材料と上記キャスト装置の間の空間を覆い、空気を吸引して減圧空間とする減圧チャンバと、を備えた樹脂シートの製造装置であって、
上記減圧チャンバの後方板のシート搬送方向上流側に、前記キャスト装置との間に第一の隙間をあけ、かつ前記後方板との間に第二の隙間をあけて配置された、シート幅方向に延在する遮蔽部材を備え、
上記キャスト装置と上記後方板との間の隙間は、上記第一の隙間および第二の隙間のそれぞれを介して上記遮蔽部材よりもシート搬送方向上流側の空間と連通している。
【0009】
本発明の樹脂シートの製造装置は、下記(2)~(6)のいずれかの態様であることが好ましい。
(2)上記後方板と上記遮蔽部材との最短距離X、上記キャスト装置と上記遮蔽部材との最短距離Yが、0.5≦Y/X≦1.5を満たす、上記(1)の樹脂シートの製造装置。
(3)上記遮蔽部材の位置または角度を調整できる調整機構を備えた、上記(1)または(2)の樹脂シートの製造装置。
(4)上記遮蔽部材が、当該遮蔽部材の延在方向に垂直な平面での断面形状において、上記後方板に面している角がいずれも直線で構成されている、上記(1)~(3)のいずれかの樹脂シートの製造装置。(5)上記遮蔽部材が、当該遮蔽部材の延在方向に垂直な平面での断面形状が四角である、上記(1)~(3)のいずれかの樹脂シートの製造装置。
(6)上記減圧チャンバの側板のシート幅方向外側に、前記キャスト装置との間に第三の隙間をあけ、かつ前記側板との間に第四の隙間をあけて配置された補助遮蔽部材を備え、上記キャスト装置と上記側板との間の隙間は、上記第三の隙間および第四の隙間のそれぞれを介して上記補助遮蔽部材よりもシート幅方向外側の空間と連通している、上記(1)~(5)のいずれかの樹脂シートの製造装置。
【0010】
(7)上記課題を解決する本発明は、樹脂シート材料を口金の吐出口からキャスト装置に向けて吐出し、上記吐出口よりもシート搬送方向上流側に配置された減圧チャンバで上記樹脂シート材料と上記キャスト装置の間の空間を覆い、空気を吸引して減圧空間とし、上記樹脂シート材料を上記キャスト装置に密着させ、上記キャスト装置で上記樹脂シート材料を搬送しながら冷却して固化する、樹脂シートの製造方法であって、
上記減圧チャンバと上記キャスト装置との間の隙間に、上記キャスト装置の近傍を通る第一の流路と、当該第一の流路とは物理的に隔たれた部分を有する第二の流路とのそれぞれを通じて、上記減圧チャンバのシート搬送方向上流側の空間から空気を取り込む。
【0011】
[用語説明]
本発明における各用語の意味を説明する。
「樹脂シート材料」とは、シートを構成する材料をいう。樹脂シート材料としては、たとえば、ポリエチレン・ポリプロピレン・ポリスチレン・ポリメチルペンテンなどの樹脂、脂環族樹脂、ナイロン6・ナイロン66などのポリアミド樹脂、アラミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート・ポリブチレンテレフタレート・ポリプロピレンテレフタレート・ポリブチルサクシネート・ポリエチレン-2,6-ナフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、4フッ化エチレン樹脂・3フッ化エチレン樹脂・3フッ化塩化エチレン樹脂・4フッ化エチレン-6フッ化プロピレン共重合体・フッ化ビニリデン樹脂などのフッ素樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリグリコール酸樹脂、ポリ乳酸樹脂、などを溶媒に溶かすか溶融するなどして流動化したものを用いることができる。またこれらの熱可塑性樹脂としてはホモ樹脂であってもよく、共重合または2種類以上のブレンドであってもよい。また、各熱可塑性樹脂中には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、無機粒子、有機粒子、減粘剤、熱安定剤、滑剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、屈折率調整のためのドープ剤などが添加されていてもよい。
【0012】
「口金」とは、吐出口から樹脂シート材料をシート状に吐出する装置をいう。口金としては、Tダイ、コートハンガーダイ、Lダイ、フィッシュテールダイであるが、これらに限らない。
「キャスト装置」とは、口金の吐出口から吐出された樹脂シート材料を密着させることで、冷却、固化しながら、下流へ搬送する装置をいう。形態としては、ロール、ベルトであるが、これらに限らない。
「シート搬送方向」とは、キャスト装置がシートを搬送する方向をいう。搬送先が下流側、反対が上流側である。
「シート幅方向」とは、樹脂シート材料が口金でシート状に成形されたときの幅方向と一致する方向をいう。
【0013】
「減圧チャンバ」とは、口金の吐出口よりもシート搬送方向上流側に配置され、樹脂シート材料とキャスト装置との間の空間を覆い、空気を吸引して上記空間内を減圧することで樹脂シート材料をキャスト装置に密着させる装置をいう。一般的には、空間の圧力は大気圧に対して-1500Pa以上-50Pa以下である。また、空間の圧力を製膜条件に応じて制御してもよい。
「側板」とは、減圧チャンバのシート幅方向の両端の面を構成する板をいう。
「後方板」とは、減圧チャンバのシート搬送方向上流側の面を構成する板をいう。
「遮蔽部材」とは、後方板のシート搬送方向上流側に、後方板およびキャスト装置との間に隙間をあけて配置された、シート幅方向に延在する部材をいう。遮蔽部材の延在方向に垂直な平面での遮蔽部材の断面形状としては、四角形、三角形、円形、楕円形であるが、これらに限らない。
【0014】
「第一の隙間」とは、キャスト装置と遮蔽部材との間の隙間をいう。
「第二の隙間」とは、後方板と遮蔽部材との間の隙間をいう。
「補助遮蔽部材」とは、側板のシート幅方向外側に、側板およびキャスト装置との間に隙間をあけて配置された部材をいう。
「第三の隙間」とは、キャスト装置と補助遮蔽部材との間の隙間をいう。
「第四の隙間」とは、側板と補助遮蔽部材との間の隙間をいう。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、笛鳴りを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】本発明の樹脂シートの製造装置の後方板付近でのシート幅方向に対して垂直な断面図
【
図3】本発明の樹脂シートの製造装置の遮蔽部材の一例における後方板付近でのシート幅方向に対して垂直な断面図
【
図4】本発明の樹脂シートの製造装置の補助遮蔽部材の一例における正面図
【
図7】一般的な樹脂シートの製造装置の後方板付近でのシート幅方向に対して垂直な断面図
【
図8】特許文献1の流延装置の後方板付近でのシート幅方向に対して垂直な断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明について詳細に述べるが、本発明は以下の実施例を含む実施形態に限定されるものではない。
図1~4は本発明の樹脂シートの製造装置に関する図である。なお、従来の技術と同じ用途および機能を有している部材については、同じ符号を有している場合がある。
【0018】
笛鳴りの発生メカニズムについて説明する。本発明者らは実験、理論計算を重ねた結果、笛鳴りは減圧チャンバとキャスト装置との間の隙間で発生する渦に起因することを見出した。後方板とキャスト装置との間の隙間での笛鳴りについて説明する。
図7は一般的な樹脂シートの製造装置の後方板付近でのシート幅方向に対して垂直な断面図である。
図7に示すように、圧力差によって、気流8aが後方板19よりもシート搬送方向上流側の空間から後方板19とキャスト装置2との間の隙間15を通って減圧空間13に流れ込む。減圧空間13の減圧が強まって気流8aの流速が速くなると、隙間15を形成する後方板19の外側の角部10aで、渦11aの生成・剥離が周期的に繰り返されることで笛鳴りが発生する。
【0019】
本発明者らはさらに鋭意工夫を重ねた結果、この笛鳴りを抑制できる本発明の樹脂シートの製造装置を見出した。
図1は本発明の樹脂シートの製造装置の側面図、
図2は本発明の樹脂シートの製造装置の後方板付近でのシート幅方向に対して垂直な断面図である。
図1に示すように、本発明の樹脂シートの製造装置では、後方板19のシート搬送方向上流側に、キャスト装置2との間に第一の隙間16cをあけ、かつ後方板19との間に第二の隙間16bをあけて配置された、シート幅方向に延在する遮蔽部材6を備えている。後方板19とキャスト装置2との間の隙間15は、第一の隙間16cおよび第二の隙間16bのそれぞれを介して遮蔽部材6よりもシート搬送方向上流側の空間12aと連通している。すると、
図2に示すように、空間12aから、第二の隙間16bを通る気流8bと第一の隙間16cを通る気流8cが隙間15を通って減圧空間13に流れ込む。その際、気流8bによって反時計まわりの渦11b、気流8cによって時計まわりの渦11cが発生し、流されて、後方板19の角部10a近くの衝突点14で衝突する。このように回転方向の異なる渦11bと11cとが角部10a近くで衝突することで、渦11aの周期性を崩し、笛鳴りを抑制できる。
【0020】
本発明の樹脂シートの製造装置は、
図2に示すように後方板19と遮蔽部材6との最短距離X、キャスト装置2と遮蔽部材6との最短距離Yが、0.5≦Y/X≦1.5を満たすことが好ましい。最短距離XまたはYが小さくなるほど、流動抵抗が大きくなるため、気流8bまたは8cの流量は少なくなる。Y/Xを0.5以上、1.5以下にすることで、気流8bと気流8cの流量バランスが同程度となり、渦11bと11cの強度も同程度となるため、衝突した際の笛鳴り抑制効果がより顕著になる。より好ましくは、0.8≦Y/X≦1.2である。
【0021】
本発明の樹脂シートの製造装置は、遮蔽部材の位置または角度を調整できる調整機構を備えることが好ましい。遮蔽部材の位置や角度を調整できるようにすることで、プロセス条件に合わせて、最適な位置に遮蔽部材を調整できるようになる。
【0022】
本発明の樹脂シートの製造装置は、遮蔽部材が、当該遮蔽部材の延在方向に垂直な平面での断面形状において、後方板に面している角がいずれも直線で構成されていることが好ましい。例えば、断面形状が四角形であることが好ましい。
図3は、遮蔽部材6の延在方向に垂直な平面での断面図であり、断面形状が四角形の例である。
図3に示すように、遮蔽部材6の断面形状において、後方板19に面している角部10b、10cがどちらも湾曲しておらず直線で構成されていると、角部10b、10cでそれぞれ剥離渦11b、11cが発生しやすくなり、渦の衝突による気流乱れがより顕著になり、渦の周期性を崩して笛鳴りを抑制する効果が高まる。遮蔽部材の断面形状が丸や楕円形のような角がない形状でも剥離渦は発生するので、本発明の効果は発現するが、角部10b、10cが湾曲していない方が剥離渦は発生し易く、笛鳴りを抑制する効果が高まる。
【0023】
なお、
図3では、角部10cは後方板19に面してはいないが、本発明においては、後方板19がキャスト装置2まで延びているとして、後方板19に面しているかどうかを判断すればよい。
【0024】
図4は本発明の樹脂シートの製造装置の補助遮蔽部材の一例における正面図である。
図4に示すように、本発明の樹脂シートの製造装置は、減圧チャンバ4の側板18のシート幅方向外側に、キャスト装置2との間に第三の隙間16eをあけ、かつ側板18との間に第四の隙間16dをあけて配置された補助遮蔽部材17を備えている。キャスト装置2と側板18との間の隙間15は、第三の隙間16eおよび第四の隙間16dのそれぞれを介して補助遮蔽部材17よりもシート幅方向外側の空間12bと連通していることが好ましい。補助遮蔽部材17を備えることで、遮蔽部材6と同様に、キャスト装置2と側板18との間の隙間15で発生する渦の周期性を崩し、笛鳴りを抑制できる。
【0025】
本発明の樹脂シートの製造方法は、減圧チャンバとキャスト装置との間の隙間に、キャスト装置の近傍を通る第一の流路と、当該第一の流路とは物理的に隔たれた部分を有する第二の流路とのそれぞれを通じて、減圧チャンバのシート搬送方向上流側の空間から空気を取り込む。
【0026】
図1を参照して空気の流れを説明する。遮蔽部材6よりもシート搬送方向上流側の空間12aから、隙間16cを通って、減圧チャンバとキャスト装置との間の隙間15へ至る流路が第一の流路である。空間12aから、遮蔽部材6の上側と隙間16bを通って、隙間15へ至る流路が第二の流路である。第一の流路と第二の流路とは、空間12aから隙間15へ至る途中で、遮蔽部材6によって物理的に隔たれている。このように物理的に隔たれた部分を有する2つの流路を通じて隙間15に空気を取り込むことで、上記した樹脂シートの製造装置で説明した現象が生じて笛鳴りを抑制できる。
【実施例0027】
[実施例1]
図1に示す樹脂シート製造装置を用いて、実際に樹脂シートを製造して評価した結果を説明する。本実施形態における具体的なシートの成形方法は以下の通りである。
【0028】
(1)樹脂シート材料
ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂(東レ(株)製熱可塑性樹脂F20S)
(2)押出
樹脂シート材料は乾燥後に押出機に供給した。押出機を用いて流量250kg/hの樹脂シート材料を押し出し、ギヤポンプ、フィルターを介した後、口金に供給した。また、口金に至るまでの装置温度は280℃である。
【0029】
(3)口金
幅500mm、間隙2mmの吐出口から樹脂シート材料を吐出して、シート状に成形した。
【0030】
(4)キャスト装置
温度35℃、速度10m/分で回転するシート成形ロールにシートを密着させ、冷却して固化した。口金の吐出口はシート成形ロール中心の直上で、口金の吐出口からシート成形ロールの外周面までの最短距離が40mmとなる位置に設置した。
【0031】
(5)減圧チャンバ
排気ノズルは減圧チャンバの側板に配置し、減圧空間の圧力は大気圧から-600Pa、減圧チャンバの側板および後方板とキャスト装置との隙間がそれぞれ2mmになるように配置した。
【0032】
(6)遮蔽部材
遮蔽部材を減圧チャンバの後方板のシート搬送方向上流側に、後方板およびキャスト装置と隙間をあけて配置した。遮蔽部材は、シート幅方向から見た時の断面形状が、長径32mm、短径5mmの楕円であり、延在方向であるシート幅方向の長さを500mmとした。また、遮蔽部材は設置位置と角度を調整できる機構を備えており、後方板と遮蔽部材との最短距離Xが45mm、キャスト装置と遮蔽部材との最短距離Yが20mmとなるように調整した(Y/X=0.44)。
【0033】
(7)笛鳴りの評価
騒音計(エムケー・サイエンティフィック製、型番DT-815)を用いて、減圧チャンバからシート搬送方向上流側に1m離れた位置で笛鳴りの音圧レベルを測定した。
【0034】
[実施例2~6]
遮蔽部材の位置を変えてXとYを表1に示したように変更した以外は実施例1と同様にして音圧レベルを測定した。
【0035】
[実施例7]
シート幅方向から見た時の遮蔽部材の断面形状が、長辺32mm、短辺5mmの長方形の物に変更した以外は、実施例1と同様にして音圧レベルを測定した。
【0036】
[実施例8]
減圧チャンバの側板のシート幅方向外側に、キャスト装置および側板との間に隙間をあけて補助遮蔽部材を配置した以外は、実施例1と同様にして音圧レベルを測定した。補助遮蔽部材は延在方向であるシート搬送方向の長さが200mm、延在方向に垂直な平面の断面形状が、長径5mm、短径3mmの楕円とした。
【0037】
[比較例1]
遮蔽部材を設置しないこと以外は実施例1と同様にして音圧レベルを測定した。
実施例1~8、比較例1の条件と測定した音圧レベルを表1にそれぞれまとめた。
【0038】
【0039】
[評価結果]
表1を参照して、各実施例、各比較例の効果は、比較例1に対して音圧レベルがどの程度減少できたかで評価した。
【0040】
比較例1は音圧レベルが85dBであった。一方、遮蔽部材を備えた実施例1は、音圧レベルが62dBで23dB減少し、比較例1に比べて笛鳴りが大幅に小さくなった。
【0041】
「0.5≦Y/X≦1.5」の条件を満足する実施例2および実施例5は、音圧レベルが54dBで、比較例1に比べて31dBした。実施例1に比べても8dB減少した。
【0042】
「0.8≦Y/X≦1.2」の条件を満足する実施例3および実施例4は、音圧レベルが50~51dBで、比較例1に比べて34~35dB減少した。実施例1に比べても11~12dB減少した。
【0043】
遮蔽部材の断面形状が長方形の実施例7は、音圧レベルが52dBで、比較例1に比べて33dB減少した。、実施例1に比べても10dB減少した。
【0044】
補助遮蔽部材を備えた実施例8は、音圧レベルが53dBで、比較例1に比べて32dB減少した。実施例1と比べても9dB減少した。
【0045】
Y/Xが1.67の実施例6は、音圧レベルが61dBで、比較例1と比べて24dB減少し、実施例1と同等の効果であった。
本発明は樹脂シートの製造装置および製造方法に限らず、溶液樹脂シート製造装置および製造方法や、ダイコーティングなどにも応用できるが、その応用範囲が、これらに限定されるものではない。