(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057213
(43)【公開日】2024-04-24
(54)【発明の名称】水溶性チタンキレート剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 7/28 20060101AFI20240417BHJP
C07C 59/08 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
C07F7/28 F
C07C59/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163799
(22)【出願日】2022-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 将
(72)【発明者】
【氏名】宮部 慎介
【テーマコード(参考)】
4H006
4H049
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB40
4H006AB49
4H006AC90
4H006BN10
4H006BS10
4H049VN05
4H049VP01
4H049VQ36
4H049VR42
4H049VR52
4H049VS18
4H049VU17
4H049VU33
4H049VW02
(57)【要約】
【課題】水溶性のチタンキレート錯体の工業的な製造において、安全かつ効率的に製造する方法を提供すること。
【解決手段】チタンに対するヒドロキシカルボン酸のモル比が1.5以上3.5以下であるチタンキレート化合物の溶液に、アンモニアを、チタンに対するアンモニアのモル比が0.5以上3.5以下となるように添加して反応させ、反応物を得る反応工程を有する、水溶性チタンキレート剤の製造方法である。前記反応工程において、さらに過酸化水素を、チタンに対する過酸化水素のモル比が0.05モル以上0.30モル以下となるように添加して反応させることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンに対するヒドロキシカルボン酸のモル比が1.5以上3.5以下であるチタンキレート化合物の溶液に、アンモニアを、チタンに対するアンモニアのモル比が0.5以上3.5以下となるように添加して反応させ、反応物を得る反応工程を有する、水溶性チタンキレート剤の製造方法。
【請求項2】
前記チタンキレート化合物の溶液が、溶質として遊離ヒドロキシカルボン酸を含む溶液である、請求項1に記載の水溶性チタンキレート剤の製造方法。
【請求項3】
前記チタンキレート化合物の溶液が、チタンアルコキシドを溶媒で希釈して希釈液を得る第一工程と、前記希釈液とヒドロキシカルボン酸とを混合してチタンキレート化合物を得る第二工程からなる方法で得られる、請求項1に記載の水溶性チタンキレート剤の製造方法。
【請求項4】
前記チタンアルコキシドが、テトラメトキシチタン(IV)、テトラエトキシチタン(IV)、テトラ-n-プロポキシチタン(IV)、テトライソプロポキシチタン(IV)、テトラ-n-ブトキシチタン(IV)及びテトライソブトキシチタン(IV)から選ばれる少なくとも一種である、請求項3に記載の水溶性チタンキレート剤の製造方法。
【請求項5】
前記溶媒が、前記チタンアルコキシドが有するアルキル基の少なくとも一つと同じ炭素数のアルキル基を有する一価のアルコールである、請求項3に記載の水溶性チタンキレート剤の製造方法。
【請求項6】
前記ヒドロキシカルボン酸が、クエン酸、酒石酸、乳酸及びグリコール酸から選ばれる少なくとも一種である、請求項3に記載の水溶性チタンキレート剤の製造方法。
【請求項7】
前記第一工程における希釈液におけるチタンアルコキシドの濃度が40質量%以上90質量%以下である、請求項3に記載の水溶性チタンキレート剤の製造方法。
【請求項8】
前記第二工程におけるヒドロキシカルボン酸の使用量が、前記第一工程で得られた希釈液中のチタンアルコキシド1モルに対して、1.0モル以上3.5モル以下である、請求項3に記載の水溶性チタンキレート剤の製造方法。
【請求項9】
前記第二工程の後、得られたチタンキレート化合物に水を添加してチタンキレート化合物の水溶液を得る、請求項3に記載の水溶性チタンキレート剤の製造方法。
【請求項10】
前記アンモニアの添加が、濃度10質量%以上50質量%以下のアンモニア水の添加である、請求項1に記載の水溶性チタンキレート剤の製造方法。
【請求項11】
前記反応工程において、さらに過酸化水素を、チタンに対する過酸化水素のモル比が0.05モル以上0.30モル以下となるように添加して反応させる、請求項1に記載の水溶性チタンキレート剤の製造方法。
【請求項12】
前記過酸化水素の添加が、濃度10質量%以上50質量%以下の過酸化水素水の添加である、請求項11に記載の水溶性チタンキレート剤の製造方法。
【請求項13】
前記反応物を乾燥する乾燥工程を有する、請求項1に記載の水溶性チタンキレート剤の製造方法。
【請求項14】
前記水溶性チタンキレート剤のチタンに対するヒドロキシカルボン酸のモル比が、2.5超3.0以下である、請求項1~13の何れか1項に記載の水溶性チタンキレート剤の製造方法。
【請求項15】
前記水溶性チタンキレート剤が、平均粒子径が1μm以上300μm以下の粉末である、請求項14に記載の水溶性チタンキレート剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性チタンキレート剤の製造方法、特にヒドロキシカルボン酸を配位子とする水溶性チタンキレート剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタンキレート錯体は、各種の架橋剤、触媒及び分散剤等、様々な用途で使用されている。チタンキレート錯体としては、クエン酸、酒石酸、乳酸といったヒドロキシカルボン酸又はその塩を配位子とし、チタンアルコキシド、チタン酸化物、金属チタン等のチタン化合物を金属源として形成されるチタンキレート錯体が知られている。
【0003】
このチタンキレート錯体の生成反応として、特許文献1では、乳酸などのヒドロキシカルボン酸とチタンテトラアルコキシドを水の共存下で反応させたのちアミンアンモニア、苛性ソーダ、炭酸カリ等の塩基を加え中和造塩する方法により、安定な水溶液を与えるチタンキレートが得られることが記載されている。しかしながら、この方法では、ヒドロキシカルボン酸とチタンテトラアルコキシドとを水の共存下で反応させているため、チタンテトラアルコキシドが加水分解を起こしてしまい、所望するチタンとのキレートを得難く、チタンキレート錯体の水溶液に対する安定性を謳っているものの、さらなる改善の余地があった。
【0004】
水溶液に対する安定性を改善することを目的とした提案としては、例えば特許文献2~4に、金属チタン粉末、過酸化水素水及びアンモニア水を混合し、クエン酸や乳酸といった錯形成剤を加えて放置した後、加熱乾燥して水分を除去することによりチタンキレート錯体を得ることが記載されている。また、特許文献5においても、チタン粉末に代えて含水酸化チタンを用いることにより、チタンキレート錯体を得たことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭50-5177号公報
【特許文献2】特開2000-159786号公報
【特許文献3】特開2004-43353号公報
【特許文献4】特開2006-182616号公報
【特許文献5】特開2004-18477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、水に対して安定した挙動を示すチタンキレート錯体は、原料として金属チタンやチタン酸化物といったチタン化合物を用いているが、チタンキレート錯体に水溶性を付与するためには過酸化水素水やアンモニア水といった劇物を大量に使用する必要がある。これは、チタンをクエン酸や乳酸などの錯形成剤と容易に反応させるために、ペルオキソチタン酸錯体を形成させる必要があるためであるが、工業的に製造するには危険性が高い。
【0007】
したがって本発明の課題は、水溶性のチタンキレート錯体(以下、水溶性チタンキレート剤ということもある。)の工業的な製造において、安全かつ効率的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記実情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、チタンと錯形成剤により形成されるキレート前駆体を予め存在させた系にアンモニアを混合することで、劇物の使用を抑えつつ、水に対して安定して溶解することができる水溶性チタンキレート剤を得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、チタンに対するヒドロキシカルボン酸のモル比が1.5以上3.5以下であるチタンキレート化合物の溶液に、アンモニアを、チタンに対するアンモニアのモル比が0.5以上3.5以下となるように添加して反応させ、反応物を得る反応工程を有する、水溶性チタンキレート剤の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、劇物の使用量を減らせるため、工業的に安全かつ効率的な水溶性チタンキレート剤の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1で得られた水溶性チタンキレート剤の
1H-NMRチャートである。
【
図2】比較例1で得られた水溶性チタンキレート剤の
1H-NMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。本実施形態の製造方法は、チタンに対するヒドロキシカルボン酸のモル比が1.5以上3.5以下であるチタンキレート化合物の溶液に、アンモニアを、チタンに対するアンモニアのモル比が0.5以上3.5以下となるように添加して反応させ、反応物を得る反応工程を有する、水溶性チタンキレート剤の製造方法に係るものである。
【0013】
本発明の反応工程で使用されるチタンキレート化合物は、チタンに対するヒドロキシカルボン酸のモル比が1.5以上3.5以下、好ましくは2.0以上3.0以下で錯体を形成するものである。すなわち、チタンに対してヒドロキシカルボン酸が1.5モル以上3.5モル以下、好ましくは2.0モル以上3.0モル以下で配位したチタンキレート錯体である。本発明の出発物質として、この範囲のチタンキレート化合物を用いることで、劇物の使用を低減した本発明の水溶性チタンキレート剤を得ることができる。
【0014】
前記チタンキレート化合物は、チタンアルコキシドを溶媒で希釈して希釈液を得る第一工程、及び、前記希釈液とヒドロキシカルボン酸を混合して混合物を得る第二工程を行うことにより得ることが好ましい。
【0015】
第一工程で使用するチタンアルコキシドとしては、チタン原子に4つのアルコキシ基が配位しているチタンテトラアルコキシドが挙げられる。チタンアルコキシドにおいて配位子であるアルコキシ基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよいが、炭素数4以下であることがヒドロキシカルボン酸との反応性や水溶性キレート剤の合成のしやすさの点から好ましい。チタンアルコキシドにおけるアルコキシ基の炭素数は1以上である。チタン原子に配位する4つのアルコキシ基は同一であってもよく、異なってもよいが、同一であることが、チタンアルコキシドの入手容易性の点から好ましい。これらの観点から、チタンアルコキシドは、例えば、テトラメトキシチタン(IV)、テトラエトキシチタン(IV)、テトラ-n-プロポキシチタン(IV)、テトライソプロポキシチタン(IV)、テトラ-n-ブトキシチタン(IV)及びテトライソブトキシチタン(IV)から選ばれる少なくとも一種であることが特に好ましい。
【0016】
溶媒としては、有機溶媒が挙げられる。特にチタンアルコキシドを希釈液として流動性が高い状態で安定的に存在させて、ヒドロキシカルボン酸との反応性を高めることができる点や、目的物であるチタンキレート化合物を水含有溶媒中で分散又は溶解させて使用したいとき等に除去せずに使用できる等の理由から、極性有機溶媒が好ましく、特に、アルコールが好ましい。アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-ペンタノール等が挙げられるが、特に炭素数1以上4以下の脂肪族アルコールが、チタンアルコキシドとヒドロキシカルボン酸とを液状態で均一に混合させやすいので反応性を高めやすい点や水溶性キレート剤の合成のしやすさの点で好ましい。またアルコールとして、1価のアルコールを用いることが、入手コストの点で好ましい。とりわけ、前記チタンアルコキシドが有するアルキル基の少なくとも一つと同じ炭素数のアルキル基を有する一価のアルコールを用いることがキレート生成物と溶媒との相溶性や分離回収の点で好ましく、前記チタンアルコキシドが有する4つのアルキル基と同じ炭素数のアルキル基を有する一価のアルコールが最も好ましい。これらの溶媒は、1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0017】
第一工程により得られる、溶媒をチタンアルコキシドと混合させた希釈液中、チタンアルコキシドの割合は、90質量%以下であることが、チタンアルコキシドを流動化させてヒドロキシカルボン酸と混合させやすくする点で好ましい。また希釈液中におけるチタンアルコキシドの割合は、40質量%以上であることが、溶媒及びヒドロキシカルボン酸の使用量を抑制しながら効果的に収率を高める点から好ましい。これらの点から、希釈液中のチタンアルコキシドの量は50質量%以上85質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上80質量%以下であることが特に好ましい。また同様の観点から、希釈液中の溶媒の量はチタンアルコキシド100質量部に対して10質量部以上150質量部以下が好ましく、15質量部以上100質量部以下がより好ましい。
【0018】
希釈液は、溶媒とチタンアルコキシド以外の成分を含有していてもよいが、得られるチタンキレート化合物の純度を高める点などから、溶媒とチタンアルコキシド以外の成分を実質的に非含有であることがより好ましい。具体的には、希釈液中、溶媒及びチタンアルコキシド以外のその他の成分の量は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。第一工程におけるチタンアルコキシドの溶媒による希釈は、ヒドロキシカルボン酸の不存在下で行う。
【0019】
溶媒は、水分含量が低いことが、チタンアルコキシドがヒドロキシカルボン酸との反応前に加水分解してしまうことを防止できる点で好ましい。この観点から、溶媒は、水分含量が10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0020】
第二工程で用いるヒドロキシカルボン酸としては、入手の容易性やチタンアルコキシドとの反応性、入手コストの点から、脂肪族ヒドロキシカルボン酸が好ましく挙げられる。例えば、1価のカルボン酸として、乳酸、グリコール酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸が挙げられ、2価のカルボン酸として、タルトロン酸、リンゴ酸、酒石酸が挙げられ、3価のカルボン酸として、クエン酸、イソクエン酸等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸同士が脱水反応しにくい点で好ましく、α-ヒドロキシカルボン酸の中でも、入手容易性や取り扱いのし易さの点から、乳酸、グリコール酸、酒石酸、クエン酸が好ましい。特に室温で溶液となり、チタンアルコキシド希釈液と混合しやすく、容易にチタンキレート化合物が製造できる観点から、乳酸が好ましい。ここでいうヒドロキシカルボン酸としては、ヒドロキシカルボン酸のアミン塩等の塩の形態ではないことが、廃液処理のし易さや着色されにくい点で好ましい。
【0021】
第二工程において、ヒドロキシカルボン酸は、希釈液に対し、該希釈液中のチタンアルコキシド1.0モルに対して、1.0モル以上混合させることが、ヒドロキシカルボン酸が配位したチタンキレート化合物を高い収量で得られる点から好ましく、3.5モル以下混合させることが、得られるチタンキレート化合物の過度なオリゴマー化を抑制しつつヒドロキシカルボン酸の使用量を抑制して、生産性を高める点で好ましい。これらの点から、ヒドロキシカルボン酸は、チタンアルコキシド1.0モルに対して、1.1モル以上3.3モル以下で混合させることがより好ましく、1.2モル以上3.0モル以下混合させることが更に一層好ましい。
【0022】
本発明においては、高い生産性により効率的にチタンキレート化合物を得るという効果を奏する範囲内において、第二工程において、ヒドロキシカルボン酸以外に、チタンに配位可能な配位子化合物を希釈液に添加してもよい。そのような配位化合物としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を有するハロゲン原子含有化合物、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、t-ブチルアミノ基、ペンチルアミノ基等の官能基を有するアミン類、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリス-t-ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等のホスフィン類が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸以外の、チタンに配位可能な配位子化合物の使用量は、ヒドロキシカルボン酸1.0モルに対して1.0モル以下であることが好ましく、0.5モル以下であることが好ましく、0.3モル以下であることが最も好ましい。なお、第二工程における希釈液とヒドロキシカルボン酸との混合時に、溶媒に希釈されていない追加のチタンアルコキシドの添加は行わない。
【0023】
溶媒とチタンアルコキシドとを混合する第一工程、及び、それにより得られる希釈液とヒドロキシカルボン酸とを混合する第二工程は、いずれも室温下(0℃以上40℃以下)で行うことができる。第一工程及び第二工程は、連続的に行うことが好ましい。
【0024】
第二工程により得られるチタンキレート化合物は、チタン金属原子に、ヒドロキシカルボン酸が1分子以上配位した化合物である。このように、チタン金属原子にヒドロキシカルボン酸が配位したチタンキレート化合物は、水分と混合させた場合でもヒドロキシカルボン酸による配位状態が維持されて重合が抑制されやすい。第二工程により得られるチタンキレート化合物において、ヒドロキシカルボン酸以外の配位子としては、アルコキシ基、水酸基、ハロゲン原子、アミノ基、ホスフィン類等が挙げられ、アルコキシ基が好ましい。このようなチタンキレート化合物としては下記式(1)で示すものが挙げられる。
Ti(R1)m(L)n ・・・(1)
(式中、R1は、アルコキシ基、水酸基、ハロゲン原子、アミノ基又はホスフィン類を表し、複数存在する場合、同一であってもよく、異なっていてもよい。Lはヒドロキシカルボン酸に由来する基を表し、複数存在する場合、同一であってもよく、異なっていてもよい。mは0以上3以下の数を示し、nは1以上3以下の数を示し、m+nは3~6である。)
【0025】
なお第二工程で、ヒドロキシカルボン酸とチタンアルコキシドとの反応により生じるアルコールが、ヒドロキシカルボン酸と更に反応して水が生じる場合がある。一般式(1)のR1で表される水酸基の由来としては、この反応により生じる水が挙げられる。一般式(1)においてチタンの配位数は、Lがs座の配位子(sは正の整数)である場合、m+s×nで表され、6であることが好ましい。
【0026】
R1で表されるアルコキシ基としては、チタンアルコキシドにおける配位子として挙げられたものと同様のアルコキシ基が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。アミノ基としては、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、t-ブチルアミノ基、ペンチルアミノ基等が挙げられる。ホスフィン類としては、例えば、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリス-t-ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等が挙げられる。
Lで表されるヒドロキシカルボン酸に由来する基としては、ヒドロキシカルボン酸におけるヒドロキシル基の酸素原子又はヒドロキシカルボン酸におけるカルボキシル基の酸素原子が、チタン原子に配位してなる基が挙げられる。また、ヒドロキシカルボン酸におけるヒドロキシル基の酸素原子及びヒドロキシカルボン酸におけるカルボキシル基の酸素原子が、チタン原子に2座で配位してなる基が挙げられる。これらの中、ヒドロキシカルボン酸におけるヒドロキシル基の酸素原子及びヒドロキシカルボン酸におけるカルボキシル基の酸素原子が、チタン原子に2座で配位してなる基であることが好ましい。mが0の場合はm+nは3であることが好ましく、mが1以上3以下の場合はm+nは4又は5であることが好ましい。
【0027】
第二工程で得られるチタンキレート化合物は、チタン原子同士が酸素原子等を介して結合したオリゴマーなどの重合体を、水溶性を有する範囲で含有していてもよく、実質的に含有しなくてもよい。例えば、当該チタンキレート化合物のモノマーとオリゴマーが等量存在していたとしても、オリゴマーの重合度が低く水溶性を有していれば、本発明の範疇となる。例えば、第二工程で得られるチタンキレート化合物において、式(1)で表されるモノマーと上記オリゴマーとのモル比は、モノマー1.0モルに対してオリゴマーが1.0モル以下であることが好ましく、0.8モル以下であることがより好ましく、0.5モル以下であることが更に一層好ましい。
【0028】
前記第二工程の後、得られたチタンキレート化合物及び溶媒の混合物に水を添加してもよい。これにより、チタンキレート化合物の水含有溶媒の分散液又は溶解液を得ることができる。これは、例えば、チタンキレート化合物をその用途に適した形態とする点等から好ましい。
【0029】
本発明の反応工程においては、前記チタンキレート化合物の溶液に、アンモニアを、チタンに対するアンモニアのモル比が0.5以上3.5以下、好ましくは1.0以上3.0以下となるよう添加して反応させる。本発明においては、原料となるチタンを液相のチタンキレート化合物溶液として用いることから、比較的反応し易い状態であるため、従来技術と異なり、アンモニアの量を低減することができる。
【0030】
本発明の反応工程で使用するアンモニアは、一般的に流通しているものを使用することができるが、高品質の水溶性チタンキレート剤を得る観点から、不純物を含まないものであることが好ましい。また、前記チタンキレート化合物の溶液と液相で接触させて、反応し易い状態にする観点から、アンモニアの添加を、濃度10質量%以上50質量%以下、特に15質量%以上45質量%以下のアンモニア水を用いて行うことが好ましい。
【0031】
本発明の反応工程においては、さらに過酸化水素を、チタンに対する過酸化水素のモル比が0.05モル以上0.40モル以下、特に0.10モル以上0.30モル以下となるように添加して反応させることが好ましい。
【0032】
本発明の反応工程で使用する過酸化水素は、一般的に流通しているものを使用することができるが、高品質の水溶性チタンキレート剤を得る観点から、不純物を含まないものであることが好ましい。また、前記チタンキレート化合物の溶液と液相で接触させて、反応し易い状態にする観点から、過酸化水素の添加を、濃度10質量%以上50質量%以下、特に15質量%以上45質量%以下の過酸化水素水を用いて行うことが好ましい。
【0033】
本発明においては、前記反応工程で得られた反応物を乾燥する乾燥工程を有していてもよい。前記乾燥工程は、前記反応工程で得られたチタンキレート化合物とアンモニアとの反応溶液を乾燥して、チタンキレート剤の乾燥粉末を得る工程である。この乾燥は、従来公知の方法を使用することができ、例えば、蒸発乾固、真空乾燥、減圧乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥等を挙げることができる。
前記乾燥粉末は、平均粒子径が1μm以上300μm以下、特に3μm以上200μm以下の粉末であることが好ましい。なお、乾燥粉末の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡観察において、倍率1000倍で任意に抽出した粒子20個の粒子径の算術平均値として求められるものである。
【0034】
以上の工程により得られたチタンキレート化合物は、各種の架橋剤、触媒及び分散剤等として有用に用いることができる。
【実施例0035】
以下、本発明を実施例により説明する。しかしながら、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、例中の測定は下記の方法で行った。
(1)1H-NMR分析
測定試料をフーリエ変換核磁気共鳴分光計(日本電子株式会社製、ECA500)により測定した。
(2)平均粒子径
測定試料を走査型電子顕微鏡観察において、倍率1000倍で任意に抽出した粒子20個の粒子径の算術平均値として求めた。
【0036】
(実施例1)
〔チタンキレート前駆体の製造〕
テトライソプロポキシチタン(IV)7.12gにイソプロパノール3.01gを混合して希釈液を得た。この希釈液にL-乳酸(純度90質量%)7.51gを添加して撹拌することにより乳酸チタンキレート前駆体を得た。次いで、得られた前駆体に9.03mlの水を添加して撹拌することにより、乳酸チタンキレート前駆体水溶液を得た。この乳酸チタンキレート前駆体を
1H-NMRにより測定したところ、チタン原子に二座で配位している乳酸が2モルであり、遊離している乳酸が1モル存在していることが確認された。
〔反応工程〕
得られた乳酸チタンキレート前駆体水溶液10gに、30%過酸化水素水0.21gを添加して茶褐色透明溶液を得た。次いで、30%アンモニア水1.07gを添加して橙色透明溶液を得た。
〔乾燥工程〕
得られた橙色透明溶液を80℃のホットプレートで加熱して蒸発濃縮した後、フッ素樹脂ビーカーに移し、さらに105℃で加熱して蒸発乾固した。得られた乾固物を乳鉢で粉砕して、平均粒子径が30μmの水溶性チタンキレート剤の粉末4.2gを得た。
各原料の使用量と得られた水溶性チタンキレート剤粉末量を表1に示す。また、得られた水溶性チタンキレート剤粉末の
1H-NMR測定結果を
図1に示す。
【0037】
(比較例1)
イソプロパノール10g及び純水2.54gをビーカーで混合し混合溶液Aを得た。これとは別に、イソプロパノール11.14g及びテトライソプロポキシチタン10gをビーカーで混合し混合溶液Bを得た。混合溶液Bをマグネチックスターラーで撹拌しながら、混合溶液Aを2g/分で滴下し、滴下終了後、さらに30分間撹拌して非晶質酸化チタンスラリーを得た。このスラリーを吸引ろ過で濾別した後、105℃で乾燥して、非晶質酸化チタン3.2gを得た。
得られた非晶質酸化チタン1.00gに、30%過酸化水素水49.95g及び30%アンモニア水12.49gを加えて10分間撹拌して黄色透明溶液を得た。得られた溶液に90%L-乳酸3.76gを添加して30分間撹拌して黄色透明溶液を得た。
得られた黄色透明溶液を80℃のホットプレートで加熱して蒸発濃縮した後、フッ素樹脂ビーカーに移し、さらに105℃で加熱して蒸発乾固した。得られた乾固物を乳鉢で粉砕して、平均粒子径が30μmの水溶性チタンキレート剤の粉末4.1gを得た。
各原料の使用量と得られた水溶性チタンキレート剤粉末量を表1に示す。また、得られた水溶性チタンキレート剤粉末の
1H-NMR測定結果を
図2に示す。
【0038】
【0039】
表1の結果から、実施例1の本発明の方法が比較例1の方法と比べて30%アンモニア水及び30%過酸化水素水の使用量が抑えられていることが判る。また、
図1及び
図2の結果から、同じ構造の水溶性チタンキレート剤粉末が得られていることが判る。