(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057214
(43)【公開日】2024-04-24
(54)【発明の名称】接着剤組成物、フェノール樹脂組成物、および接着剤組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09J 161/06 20060101AFI20240417BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240417BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20240417BHJP
B27D 1/04 20060101ALI20240417BHJP
B27D 1/10 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
C09J161/06
C09J11/06
C09J11/08
B27D1/04 K
B27D1/10 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163801
(22)【出願日】2022-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503299789
【氏名又は名称】株式会社サンベーク
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕司
(72)【発明者】
【氏名】栃本 卓哉
【テーマコード(参考)】
2B200
4J040
【Fターム(参考)】
2B200AA01
2B200BA01
2B200CA11
2B200EG15
2B200HA20
4J040BA012
4J040BA112
4J040DD022
4J040HA196
4J040HC01
4J040JA05
4J040KA14
4J040KA25
4J040KA42
4J040LA06
4J040MA08
4J040MA09
4J040NA07
(57)【要約】
【課題】優れた取扱い性を有するとともに、高い接着強度を有し、よって機械的強度において優れる木材製品または紙製品を得ることができる接着剤組成物を提供する。
【解決手段】木材製品または紙製品を製造するために用いられる接着剤組成物であって、当該接着剤組成物は、レゾール型フェノール樹脂と、アミノ酸と、を含む、接着剤組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材製品または紙製品を製造するために用いられる接着剤組成物であって、
当該接着剤組成物は、
レゾール型フェノール樹脂と、
アミノ酸と、
を含む、接着剤組成物。
【請求項2】
増粘剤をさらに含む、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記増粘剤は、デンプン、セルロース類、およびポリビニルアルコール類から選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
前記アミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、セリン、アスパラギン酸、およびグルタミン酸、ならびにこれらの塩から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
前記木材製品は、合板である、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
前記紙製品は、ダンボールである、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
木材製品または紙製品を製造するために用いられる接着剤組成物に配合するためのフェノール樹脂組成物であって、
当該フェノール樹脂組成物は、
レゾール型フェノール樹脂と、
アミノ酸と、
を含むフェノール樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の接着剤組成物の製造方法であって、
当該方法は、
レゾール型フェノール樹脂とアミノ酸とを混合して、フェノール樹脂組成物を得る工程と、
前記前記フェノール樹脂組成物と増粘剤とを混合して、接着剤組成物を得る工程と、
を含む、接着剤組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材製品または紙製品を製造するために用いられる接着剤組成物およびその製造方法、ならびに当該接着剤組成物に配合するために用いられるフェノール樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合板などの木材製品の製造において木質単板を接着するための接着剤として、またはダンボール等の紙製品において原紙を貼り合わせるための接着剤として、フェノール類とアルデヒド類とをアルカリ触媒下で反応させて得られるレゾール型フェノール樹脂が知られている。しかし、このレゾール型フェノール樹脂は、大気環境保護の観点、および人体環境の保護の観点から望ましくない物質である未反応フェノール類、およびアルデヒド類を含む。ホルムアルデヒドの含有量が低減されたレゾール型フェノール樹脂を得るためには、アルデヒド類に対して過剰量のフェノール類を反応させれば良いが、過剰量のフェノール類を用いて得られるレゾール型フェノール樹脂は、未反応のフェノール類を多く含むため硬化性が悪く、さらに得られる硬化物において、市場が要求する機械的強度を満足するものではない。また、アルデヒド類に対して過剰量のフェノール類を用いて得られるレゾール型フェノール樹脂は、未反応のフェノール類を多量に含むため、環境面や労働安全衛生面から使用することは好ましくない。
【0003】
上記問題を解決するための技術として、特許文献1には、レゾール型フェノール樹脂を製造する際に、アルカリ触媒存在下、フェノール類中にアルデヒド類を分割添加して多段階で反応させて高分子化したレゾール型フェノール樹脂を含む木質材料用接着剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のレゾール型フェノール樹脂は、合板などの木材製品の製造において木質単板を接着するための接着剤として用いられる場合、粘性を補完するために、小麦粉等の増粘剤が添加されることがある。本発明者は、上記接着剤用途に小麦粉等の増粘剤を用いた場合、経時的な高粘度化が起こり、接着剤の塗布作業の作業性が低下する要因となることがあり、この不具合を改善する余地があることを見出した。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、優れた接着性を有しつつ、小麦粉等の増粘剤の配合量を低減することにより、経時的な高粘度化が抑制された接着剤組成物を製造するためのフェノール樹脂組成物、および当該フェノール樹脂組成物を用いて製造される木材または紙製品の製造に用いられる接着剤組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下に示す接着剤組成物およびフェノール樹脂組成物が提供される。
[1]木材製品または紙製品を製造するために用いられる接着剤組成物であって、
当該接着剤組成物は、
レゾール型フェノール樹脂と、
アミノ酸と、
を含む、接着剤組成物。
[2]増粘剤をさらに含む、項目[1]に記載の接着剤組成物。
[3]前記増粘剤は、デンプン、セルロース類、およびポリビニルアルコール類から選択される少なくとも1種である、項目[2]に記載の接着剤組成物。
[4]前記アミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、セリン、アスパラギン酸、およびグルタミン酸、ならびにこれらの塩から選択される少なくとも1種である、項目[1]~[3]のいずれかに記載の接着剤組成物。
[5]前記木材製品は、合板である、項目[1]~[4]のいずれかに記載の接着剤組成物。
[6]前記紙製品は、ダンボールである、項目[1]~[5]のいずれかに記載の接着剤組成物。
[7]木材製品または紙製品を製造するために用いられる接着剤組成物に配合するためのフェノール樹脂組成物であって、
当該フェノール樹脂組成物は、
レゾール型フェノール樹脂と、
アミノ酸と、
を含むフェノール樹脂組成物。
[8] 項目[1]~[6]のいずれかに記載の接着剤組成物の製造方法であって、
当該方法は、
レゾール型フェノール樹脂とアミノ酸とを混合して、フェノール樹脂組成物を得る工程と、
前記フェノール樹脂組成物と増粘剤とを混合して、接着剤組成物を得る工程と、
を含む、接着剤組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、増粘剤との相溶性に優れ、よって優れた取扱い性を有するとともに、高い接着強度を有し、よって機械的強度において優れる木材製品または紙製品を得ることができる、木材製品または紙製品の製造用のフェノール樹脂組成物、およびこのようなフェノール樹脂組成物を含む木材製品または紙製品の製造のための接着剤組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0010】
[フェノール樹脂組成物]
本実施形態のフェノール樹脂組成物は、合板などの木材製品の製造において木質単板を接着するための接着剤として、またはダンボール等の紙製品において原紙を貼り合わせるための接着剤として使用する接着剤組成物に配合するための、樹脂組成物である。本実施形態のフェノール樹脂組成物は、レゾール型フェノール樹脂と、アミノ酸と、を含む。
【0011】
本実施形態のフェノール樹脂組成物は、レゾール型フェノール樹脂を含むことにより、これを接着剤組成物は、優れた接着強度を有する。
【0012】
本実施形態のフェノール樹脂組成物は、レゾール型フェノール樹脂に加え、アミノ酸またはその塩を含む。本実施形態のフェノール樹脂組成物は、アミノ酸またはその塩を含むことにより、レゾール型フェノール樹脂に不可避的に含まれる未反応残存モノマーである遊離アルデヒドおよび遊離フェノールの量が低減される。よって環境負荷および人体への負荷が低減される。アミノ酸またはその塩により遊離アルデヒドおよび遊離フェノールの量が低減される理由は必ずしも明らかではないが、アミノ酸と、フェノール樹脂組成物中の遊離アルデヒドおよび遊離フェノールとが反応または相互作用することにより、遊離アルデヒドおよび遊離フェノールは、不揮発性化合物または不活性化合物として存在するためと考えられる。
【0013】
また本実施形態のフェノール樹脂組成物は、アミノ酸またはその塩を含むことにより、経時安定性が改善される。ここで、フェノール樹脂組成物の経時安定性とは、この樹脂組成物の特性の経時的変化が小さいことを指す。樹脂組成物の特性の経時的変化としては、樹脂組成物に含まれるフェノール樹脂が高分子量化して、樹脂組成物が高粘度化することを含む。本実施形態のフェノール樹脂組成物は、アミノ酸の緩衝作用により、そのpHが中性領域に維持されるため、樹脂組成物に含まれるレゾール型フェノール樹脂の高分子量化や、未反応の遊離ホルムアルデヒド類と遊離フェノールとのさらなる重合反応が抑制されて、フェノール樹脂の高粘度化や、樹脂組成物の性状の変化が低減される。
以下、本実施形態のフェノール樹脂組成物に配合される成分について詳述する。
【0014】
(レゾール型フェノール樹脂)
本実施形態のフェノール樹脂組成物に用いられるレゾール型フェノール樹脂は、塩基性触媒下、フェノール類と、アルデヒド類とを、反応溶媒中で、以下で説明する所定の条件で反応させて得られる樹脂である。
【0015】
本実施形態で用いられるレゾール型フェノール樹脂の合成のために使用されるフェノール類としては、フェノール;o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール等のクレゾール類;o-エチルフェノール、m-エチルフェノール、p-エチルフェノール等のエチルフェノール類;イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p-tert-ブチルフェノール等のブチルフェノール類;p-tert-アミルフェノール、p-オクチルフェノール、p-ノニルフェノール、p-クミルフェノール等のアルキルフェノール類;フルオロフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、ヨードフェノール等のハロゲン化フェノール類;p-フェニルフェノール、アミノフェノール、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール等の1価フェノール置換体:及び、1-ナフトール、2-ナフトール等の1価のフェノール類;レゾルシン、アルキルレゾルシン、ピロガロール、カテコール、アルキルカテコール、ハイドロキノン、アルキルハイドロキノン、フロログルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ジヒドロキシナフタリン等の多価フェノール類などが挙げられる。これらを単独あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0016】
本実施形態で用いられるレゾール型フェノール樹脂の合成のために使用されるアルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ポリオキシメチレン、クロラール、ヘキサメチレンテトラミン、フルフラール、グリオキザール、n-ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フェニルアセトアルデヒド、o-トルアルデヒド、サリチルアルデヒド等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし、2種類以上組み合わせて使用してもよい。また、これらアルデヒド類の前駆体あるいはこれらのアルデヒド類の溶液を使用することも可能である。中でも、製造コストの観点から、ホルムアルデヒド水溶液を使用することが好ましい。
【0017】
本実施形態で用いられるレゾール型フェノール樹脂の合成のために使用される塩基性触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム等の炭酸塩;石灰等の酸化物;亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩;リン酸ナトリウム等のリン酸塩;アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ヘキサメチレンテトラミン、ピリジン等のアミン類等が挙げられる。
【0018】
本実施形態で用いられるレゾール型フェノール樹脂の合成のために使用される反応溶媒としては、水が一般的であるが、有機溶媒を使用してもよい。このような有機溶媒の具体例としては、アルコール類、ケトン類、芳香族類等が挙げられる。またアルコール類の具体例としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。ケトン類の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。芳香族類の具体例としてはとしては、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0019】
レゾール型フェノール樹脂の形態としては、固形、水溶液、溶剤溶液、および水分散液が挙げられる。レゾール型フェノール樹脂の合成のための反応溶媒として有機溶媒が使用された場合、反応生成物を含む反応溶液から、抽出、乾燥等の公知の手段により有機溶媒を除去して使用される。
【0020】
本実施形態で用いられるレゾール型フェノール樹脂は、フェノール類(P)とアルデヒド類(F)とを、配合モル比(F/P)が0.8以上、好ましくは、0.8以上3.0以下、より好ましくは、1.0以上2.8以下、さらにより好ましくは、1.2以上2.5以下となるような比率で、反応釜に仕込み、さらに重合化触媒としての上述の塩基性触媒を添加して、適当な時間(例えば、3~6時間)還流を行うことにより得られる。フェノール類(P)とアルデヒド類(F)との配合モル比(F/P)が、0.8未満である場合には、生成するレゾール型フェノール樹脂の重量平均分子量が小さく、耐熱性に劣る場合がある。またフェノール類(P)とアルデヒド類(F)との配合モル比(F/P)が、3.0を超える場合は、反応中に樹脂のゲル化が進行し易くなるため、反応効率が低下し、また水不溶性の高分子量のレゾール型フェノール樹脂が生成するため好ましくない。反応温度は、例えば、40℃~120℃であり、好ましくは60℃~100℃である。これにより、ゲル化を抑制して、目的の分子量のレゾール型フェノール樹脂を得ることができる。レゾール型フェノール樹脂の重量平均分子量は、好ましくは、20,000~35,000であり、より好ましくは、25,000~31,000である。上記範囲の分子量を有するレゾール型フェノール樹脂は、水溶解性を有するとともに、その硬化物は高い機械的強度を有する。
【0021】
(アミノ酸)
本実施形態のフェノール樹脂組成物に配合されるアミノ酸としては、グリシン、アラニン、バリン、セリン等の中性アミノ酸;グルタミン等の酸性アミノ酸;ならびにアスパラギン等の塩基性アミノ酸が挙げられる。アミノ酸は、塩の形態であってもよく、アミノ酸塩としては、アミノ酸のナトリウム塩、およびカリウム塩等が挙げられる。アミノ酸またはその塩は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
中でも好ましく用いられるアミノ酸およびその塩としては、グリシン、アスパラギン酸、およびアスパラギン酸ナトリウムが挙げられる。このようなアミノ酸を用いることにより、得られるフェノール樹脂組成物のpHを中性に保つことができ、かつ水溶性を高く維持できる。
【0023】
(フェノール樹脂組成物の製造方法)
本実施形態のフェノール樹脂組成物は、レゾール型フェノール樹脂とアミノ酸成分とを、公知の手段で水に溶解させて水溶液とすることにより、または上記レゾール型フェノール樹脂の合成工程中にアミノ酸を添加することにより、得ることができる。
【0024】
アミノ酸またはその塩の配合量は、レゾール型フェノール樹脂の質量に対して、たとえば、0.1~30質量%であり、好ましくは、0.5~25質量%であり、より好ましくは、1~20質量%である。上記範囲でアミノ酸またはその塩を配合することにより、レゾール型フェノール樹脂中に残存した遊離アルデヒド類および遊離フェノール類が低減され得る。
【0025】
本実施形態のフェノール樹脂組成物は、固形分が10質量%以上80質量%以下の水溶液として提供される。本実施形態の樹脂組成物の固形分量は、溶媒である水の量を調整することにより、このフェノール樹脂組成物の用途に応じて調整することができる。たとえば本実施形態のフェノール樹脂組成物を、合板等の木材製品製造用の接着剤組成物に配合する場合、固形分は30~60質量%とすることが好ましい。また、本実施形態のフェノール樹脂組成物を、ダンボール等の紙製品製造用の接着剤組成物に配合する場合、固形分は10~70質量%とすることが好ましい。これにより、所望の接合強度を損なうことなく、各製品の製造に適した粘度を有する接着剤組成物を得ることができる。
【0026】
本実施形態のフェノール樹脂組成物は、未反応の遊離フェノール類の含有量が、フェノール樹脂組成物全体に対して、1質量%以下、好ましくは、0.8質量%以下、より好ましくは、0.6質量%以下まで低減されている。
【0027】
また本実施形態のフェノール樹脂組成物は、未反応の遊離アルデヒド類の含有量が、フェノール樹脂組成物全体に対して、1質量%以下、好ましくは、0.8質量%以下、より好ましくは、0.6質量%以下まで低減されている。
【0028】
本実施形態のフェノール樹脂組成物のpHは、中性に近く、例えば、6~8であり、好ましくは、6.5~7.8であり、より好ましくは、6.8~7.5である。このようなpHは、フェノール樹脂組成物中にアミノ酸が存在することにより達成される。本実施形態のフェノール樹脂組成物は、上記範囲のpHを有することにより、経時安定性に優れる。
【0029】
[接着剤組成物]
本実施形態の接着剤組成物は、木材製品または紙製品を製造するために用いられる接着剤組成物である。当該接着剤組成物は、上述のフェノール樹脂組成物を含み、すなわち、上述のレゾール型フェノール樹脂と、上述のアミノ酸と、を含む。
【0030】
好ましい実施形態において、本実施形態の接着剤組成物は、増粘剤を含む。増粘剤としては、当該分野で一般的に使用される増粘剤を使用することができる。増粘剤としては、例えば、デンプン、セルロース類、およびポリビニルアルコール類が挙げられる。これは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
デンプンとしては、コーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、タピオカデンプン、小麦デンプン、馬鈴薯デンプン、甘藷デンプン等、およびこれらデンプンを酸化、酸処理、エステル化、またはエーテル化したデンプンが挙げられる。
セルロース類としては、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、並びに、カルボキシメチルセルロース、およびカルボキシエチルセルロース等が挙げられる。
ポリビニルアルコール類としては、無変性のポリビニルアルコール、または変性ポリビニルアルコール(ポリビニルアルコール誘導体)が挙げられる。
【0032】
本実施形態の接着剤組成物は、その他の成分として、硬化促進剤、増量剤、粘度調整剤等を含んでもよい。
硬化促進剤としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸塩が挙げられる。
増量剤としては、例えば、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩が挙げられる。
粘度調整剤としては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、へキシレングリコール、フェノキシエタノール等の高沸点の水溶性の有機溶剤が挙げられる。
【0033】
(接着剤組成物の製造方法)
本実施形態の接着剤組成物は、上述のフェノール樹脂組成物に、増粘剤および必要に応じて、水およびその他の成分を混合することにより製造することができる。接着剤組成物の組成は、これを用いて製造する製品やその製造方法により適宜調整することができる。
本実施形態の接着剤組成物の固形分は、例えば、10~80質量%とすることができる。
本実施形態の接着剤組成物中のレゾール型フェノール樹脂の配合量は、例えば、接着剤組成物の固形分に対して、例えば、5~40質量%とすることができ、好ましくは、10~30質量%である。
本実施形態の接着剤組成物中の増粘剤の配合量は、例えば、接着剤組成物の固形分に対して、例えば、5~40質量%とすることができ、好ましくは、10~30質量%である。
本実施形態の接着剤組成物が、増量剤を含む場合、その配合量は、接着剤組成物の固形分に対して、例えば、50~90質量%とすることができ、好ましくは、60~90質量%である。
各成分を上記範囲の量で用いることにより、経時的な高粘度化が低減され取扱い性に優れるとともに、高強度/高品質の木材製品または紙製品を製造することができる。
【0034】
(接着剤組成物の物性)
本実施形態の接着剤組成物は、上記成分を特定の配合量で含むことにより、優れた接着強度を有する。また、本実施形態の接着剤組成物は、木材製品または紙製品を製造する際の使用に適切な粘度を有するとともに、その粘度の経時的な上昇が抑制される。接着剤組成物の経時的な高粘度化が抑制されていることにより、この接着剤組成物は優れた保存安定性を有し、取扱い性において優れる。また、このような接着剤組成物は、例えば、合板作製用の板材に塗布する場合、均一な塗布量で塗布することができる。
【0035】
[用途]
本実施形態の接着剤組成物は、合板等の木材製品、またはダンボール等の紙製品を製造するために用いられる。
【0036】
(木材製品)
本実施形態の接着剤組成物を用いて合板を製造する場合、少なくとも2つの木製単板の間に本実施形態の接着剤組成物を塗布し、次いで最外層に位置する単板を面方向に加熱加圧することにより、合板を製造する。
【0037】
(紙製品)
本実施形態の接着剤組成物を用いてダンボールを製造する場合、波形に成形された中芯原紙とライナー原紙とを、本実施形態の接着剤組成物を用いて貼合することにより、ダンボール製造する。より具体的には、接着剤組成物を付着させる手段を有するコルゲーターを用い、波形に成形された中芯紙の頂縁と接着剤ロールとを当接させて頂縁に接着剤組成物を塗布し、その後、中芯の、接着剤組成物が塗布された片面または両面にライナー紙を貼り合わせることにより、ダンボールを製造する。
【0038】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例0039】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
[レゾール型フェノール樹脂の調製]
(調製例1)
攪拌機、還流装置、温計を装備したフラスコにフェノール1,000重量部、37%ホルマリン2,240重量部(F/Pモル比:2.6)及び30%苛性ソーダ691重量部を仕込み、還流条件下で、B型粘度計にて25℃における粘度が約3.0Pとなるまで反応させた。更に、70℃まで冷却後フェノール730重量部(F/Pモル比:1.5)及び30%苛性ソーダ319重量部を仕込み、85℃にてフェノール樹脂の粘度が約10.0Pとなるまで反応させた。その後、水を添加し、フェノール樹脂のB型粘度計による25℃での粘度を約2.0Pに調整し、レゾール型フェノール樹脂(1)を得た。
得られたレゾール型フェノール樹脂(1)の数平均分子量は3,500、重量平均分子量は29,000であった。
なお、重量平均分子量及び数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定した。GPCによる分子量測定は、測定装置として東ソー製HLC-8020を用い、カラムには東ソー製TSKgelG1000HXL(1本)、G2000HXL(2本)、G3000HXL(1本)を使用し、THF溶媒で行った。重量平均分子量及び数平均分子量は、この測定結果から単分散ポリスチレン標準試料により作成した分子量校正曲線を使用して算出した。
【0041】
[フェノール樹脂組成物の調製]
(調製例2)
調製例1で得られたレゾール型フェノール樹脂(1)100重量部に対して、グリシン0.2重量部を添加し、内温60℃で、30分間混合して、フェノール樹脂組成物(1)を調製した。得られたフェノール樹脂組成物(1)のB型粘度計による25℃での粘度は、3.0Pであった。
得られたフェノール樹脂組成物(1)の、調製例1と同様の手法で測定された数平均分子量は3,700、重量平均分子量は30,000であった。
【0042】
(調製例3)
調製例1で得られたレゾール型フェノール樹脂(1)を85℃にて再加熱し、25℃での粘度が3.0Pとなるまで反応させて、フェノール樹脂組成物(2)を調製した。
得られたフェノール樹脂組成物(2)の、調製例1と同様の手法で測定された数平均分子量は4,000、重量平均分子量は36,000であった。
【0043】
フェノール樹脂組成物の組成および物性を、表1に示す。
【表1】
【0044】
[接着剤組成物の調製]
(実施例1)
調製例2で得られたフェノール樹脂組成物(1)100重量部に、硬化促進剤として炭酸ナトリウム、充填剤として炭酸カルシウム、増粘剤として小麦粉、粘度調整剤として水を表2のとおり配合し室温で20分混合して、実施例1の糊液(接着剤組成物)を調製した。
【0045】
(実施例2)
調製例1で得られたレゾール型フェノール樹脂(1)100重量部に、硬化促進剤として炭酸ナトリウム、充填剤として炭酸カルシウム、増粘剤としてグリシンおよび小麦粉、粘度調整剤として水を表2のとおり配合し、室温で40分混合して、実施例2の糊液を調製した。
【0046】
(比較例1)
調製例1で得られたレゾール型フェノール樹脂(1)を使用し、表2に記載の配合で実施例1と同様にして、糊液を作製した。
【0047】
(比較例2)
調製例3で得られたフェノール樹脂組成物(2)を使用し、表2に記載の配合で実施例1と同様にして糊液を作製した。
【0048】
[糊剤の粘度および粘度変化の測定]
各実施例および各比較例で得られた糊液(接着剤組成物)の製造直後粘度を、25℃の液温にて、B型粘度計を用いて測定した。
さらにこれらの糊液を25℃の恒温槽中に2時間放置した後の粘度を、25℃の液温にて、B型粘度計を用いて測定した。
製造直後の接着剤組成物の粘度と2時間放置後の粘度とから、粘度変化率(%)を以下の式を用いて算出した。粘度変化率の値が小さいほど、接着剤組成物の経時的な高粘度化が抑制されており、糊液の安定性が良好であることを示す。なお、糊液の安定性が良好であると、これを板材に塗布する際に、塗布量のムラが生じず、均一な塗布量で塗布できるため好ましい。
(式)粘度上昇率=(2時間放置後の接着剤組成物の粘度)/(製造直後の接着剤組成物の粘度)
【0049】
[合板の作製]
上記実施例および比較例で得られた糊液を使用して1.8mm厚のカラマツの単板を5plyにて重ね合わせ、合板を製造した。製造条件を以下に示す。
糊塗塗布量:28g/尺
冷圧条件:10kg/cm2、25℃、30分
加熱加圧条件:10kg/cm2、120℃、25秒/mm。
【0050】
[合板の性能評価]
各実施例および比較例の糊液を使用して得られた合板を試験片として用い以下の項目について測定した。結果を表1に示す。
(接着強度(常態接着力、湿態接着力))
接着強度(特類接着力)は、JAS木材編記載の試験法(スチーミング繰り返し試験)に準拠して測定を行った。
(木破率(常態木破率、湿態木破率))
木破率は、JAS木材編記載の試験法(スチーミング繰り返し試験)に準拠して測定を行った。
【0051】
【0052】
グリシンを含むフェノール樹脂組成物(1)を使用した実施例1と、グリシンを含まないフェノール樹脂組成物(2)を使用した比較例2との比較より、実施例1の糊液は、製造直後から2時間にわたる粘度の増加の程度(粘度上昇率)が、比較例2の糊液に比べ抑制されていた。またレゾール型フェノール樹脂(1)とグリシンとを含む実施例2の糊液と、グリシンを含まない比較例1の糊液との比較より、実施例2の糊液は、造直後から2時間にわたる粘度の増加の程度(粘度上昇率)が、比較例1の糊液に比べ抑制されていた。