(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057221
(43)【公開日】2024-04-24
(54)【発明の名称】揺動式生物硝化方法および揺動式生物硝化装置
(51)【国際特許分類】
C02F 3/34 20230101AFI20240417BHJP
C02F 3/00 20230101ALI20240417BHJP
C02F 3/12 20230101ALI20240417BHJP
C02F 3/08 20230101ALI20240417BHJP
C02F 3/10 20230101ALI20240417BHJP
【FI】
C02F3/34 101D
C02F3/34 101A
C02F3/34 101B
C02F3/00 D
C02F3/12 A
C02F3/12 D
C02F3/12 H
C02F3/08 Z
C02F3/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163814
(22)【出願日】2022-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】596136316
【氏名又は名称】三菱ケミカルアクア・ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】小寺 博也
(72)【発明者】
【氏名】山東 丈夫
【テーマコード(参考)】
4D003
4D027
4D028
4D040
【Fターム(参考)】
4D003AA14
4D003AB02
4D003AB12
4D003DA21
4D003EA01
4D003EA14
4D003EA17
4D003EA19
4D003EA30
4D003FA02
4D003FA04
4D003FA05
4D027CA00
4D028AC03
4D028AC09
4D028BB02
4D040BB42
4D040BB82
4D040BB91
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、従来の流動床混合流れ方式より高い硝化速度で、高濃度のアンモニア性窒素を含む被処理水を処理できる揺動式生物硝化方法および揺動式生物硝化装置を提供することである。
【解決手段】硝化槽5内に装填された複数の生物保持体6に被処理水を通水する際に下記要件1、要件2、要件3および要件4を満たすこと。
要件1:1つの生物保持体6の立体的な大きさが、最大長さ方向が5mmを超えて、かつ、直径20mmの球体に収まる。
要件2:被処理水の銅イオン濃度が0.1~300μg/Lである。
要件3:被処理水の線速度LV
通水[m/h]と気体の線速度LV
ガス[m/h]との線速度比(LV
ガス/LV
通水)が0.3~6.0である。
要件4:下記充填率が75%以上である。
充填率(%)=(複数の生物保持体6のかさ体積)/(硝化槽5内の有効水量体積)×100
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水のアンモニア性窒素を処理する揺動式生物硝化方法であり、
硝化槽内に装填された複数の生物保持体に前記被処理水を通水する際に、下記の要件1、要件2、要件3および要件4を満たす、揺動式生物硝化方法。
要件1:1つの前記生物保持体の立体的な大きさが、最大長さ方向が5mmを超えて、かつ、直径20mmの球体に収まること。
要件2:前記被処理水の銅イオン濃度が、0.1~300μg/Lであること。
要件3:前記被処理水の線速度LV通水[m/h]と前記硝化槽内の貯留水中の気体の線速度LVガス[m/h]との線速度比(LVガス/LV通水)が、0.3~6.0であること。
要件4:下式(1)で算出される充填率が、75%以上であること。
充填率(%)=(複数の生物保持体のかさ体積)/(硝化槽内の有効水量体積)×100 ・・・式(1)
【請求項2】
前記生物保持体が、多孔質の担体と、前記担体に保持された硝化菌とを有する、請求項1に記載の揺動式生物硝化方法。
【請求項3】
前記被処理水を上向流として通水する、請求項1または2に記載の揺動式生物硝化方法。
【請求項4】
前記被処理水の前記銅イオン濃度が、0.5~50μg/Lである、請求項1または2に記載の揺動式生物硝化方法。
【請求項5】
複数の生物保持体が装填された硝化槽と、
前記硝化槽内に被処理水を供給する被処理水供給管と、
前記被処理水に、銅イオンを供給し得る銅供給源と、
前記硝化槽内に供給される前記被処理水の流量を調整する通水量調整手段と、
前記硝化槽内の貯留水に気体を供給する気体供給装置と、
前記通水量調整手段および前記気体供給装置と電気的に接続された制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、下記の要件3および要件4を満たす制御を実行し、
下記の要件1および要件2を満たす、揺動式生物硝化装置。
要件1:1つの前記生物保持体の立体的な大きさが、最大長さ方向が5mmを超えて、かつ、直径20mmの球体に収まること。
要件2:前記被処理水の銅イオン濃度が、0.1~300μg/Lであること。
要件3:前記被処理水の線速度LV通水[m/h]と前記硝化槽内の貯留水中の気体の線速度LVガス[m/h]との線速度比(LVガス/LV通水)が、0.3~6.0であること。
要件4:下式(1)で算出される充填率が、75%以上であること。
充填率(%)=(複数の生物保持体のかさ体積)/(硝化槽内の有効水量体積)×100 ・・・式(1)
【請求項6】
前記銅供給源が、前記被処理水と接触している、請求項5に記載の揺動式生物硝化装置。
【請求項7】
前記制御装置が、前記被処理水の前記銅イオン濃度が0.1~300μg/Lとなる制御を実行する、請求項5または6に記載の揺動式生物硝化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揺動式生物硝化方法および揺動式生物硝化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被処理水のアンモニア性窒素を微生物によって硝酸性窒素に変換する生物硝化反応が知られている。アンモニア性窒素は、例えば、地下水、井戸水、湖沼水、河川水、工業排水に含まれることがある。
【0003】
低濃度のアンモニア性窒素を含む被処理水の一般的な生物硝化方法として、硝化菌等の微生物が付着したろ材を充填して形成した固定床に、被処理水を押出流れとして通水する固定床押出流れ方式がある。しかし、固定床押出流れ方式においては、硝化槽当たりの硝化速度が0.1kgN/m3/d程度と低いことが課題である。
【0004】
高濃度のアンモニア性窒素を含む被処理水の生物硝化方法として、微生物を保持した担体を硝化槽内で循環流動させながら被処理水を通水する流動床混合流れ方式がある(例えば、特許文献1)。
特許文献1の
図1に示す流動床混合流れ方式の生物硝化装置によれば、硝化槽内の貯留水に散気部から空気を供給しながら、被処理水供給管から被処理水を硝化槽に供給できる。被処理水は硝化槽内に流入すると、貯留水と瞬間的に混合される。結果、貯留水全体の濃度が一様となる。
【0005】
流動床混合流れ方式においては、硝化菌等を担持した生物保持体が硝化槽内の貯留水中で流動している。この生物保持体と被処理水が接触することで、アンモニア性窒素が硝酸性窒素に変換されて処理される。処理水は処理水流出管から槽外に流出する。流動床混合流れ方式によれば、高濃度のアンモニア性窒素を含む被処理水を処理できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の流動床混合流れ方式をもってしても、硝化槽当たりの硝化速度は約0.2kgN/m3/d程度である。この硝化速度には改善の余地がある。
本発明の目的は、従来の流動床混合流れ方式より高い硝化速度で、高濃度のアンモニア性窒素を含む被処理水を処理できる揺動式生物硝化方法および揺動式生物硝化装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、(i)生物保持体の大きさ、(ii)被処理水の銅イオン濃度、(iii)被処理水の線速度LV通水[m/h]と硝化槽内の貯留水中の気体の線速度LVガス[m/h]との線速度比(LVガス/LV通水)、および(iv)生物保持体の充填率を所定の範囲内とすることに想到した。この特定の条件下で硝化反応を行うと、従来の流動床混合流れ方式より高い硝化速度を実現できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は、下記の態様を有する。
[1]被処理水のアンモニア性窒素を処理する揺動式生物硝化方法であり;硝化槽内に装填された複数の生物保持体に前記被処理水を通水する際に、下記の要件1、要件2、要件3および要件4を満たす、揺動式生物硝化方法。
要件1:1つの前記生物保持体の立体的な大きさが、最大長さ方向が5mmを超えて、かつ、直径20mmの球体に収まること。
要件2:前記被処理水の銅イオン濃度が、0.1~300μg/Lであること。
要件3:前記被処理水の線速度LV通水[m/h]と前記硝化槽内の貯留水中の気体の線速度LVガス[m/h]との線速度比(LVガス/LV通水)が、0.3~6.0であること。
要件4:下式(1)で算出される充填率が、75%以上であること。
充填率(%)=(複数の生物保持体のかさ体積)/(硝化槽内の有効水量体積)×100 ・・・式(1)
[2]前記生物保持体が、多孔質の担体と、前記担体に保持された硝化菌とを有する、[1]に記載の揺動式生物硝化方法。
[3]前記被処理水を上向流として通水する、[1]または[2]に記載の揺動式生物硝化方法。
[4]前記被処理水の前記銅イオン濃度が、0.5~50μg/Lである、[1]~[3]のいずれかに記載の揺動式生物硝化方法。
[5]複数の生物保持体が装填された硝化槽と;前記硝化槽内に被処理水を供給する被処理水供給管と;前記被処理水に、銅イオンを供給し得る銅供給源と;前記硝化槽内に供給される前記被処理水の流量を調整する通水量調整手段と;前記硝化槽内の貯留水に気体を供給する気体供給装置と;前記通水量調整手段および前記気体供給装置と電気的に接続された制御装置と;を備え;前記制御装置は、下記の要件3および要件4を満たす制御を実行し;下記の要件1および要件2を満たす、揺動式生物硝化装置。
要件1:1つの前記生物保持体の立体的な大きさが、最大長さ方向が5mmを超えて、かつ、直径20mmの球体に収まること。
要件2:前記被処理水の銅イオン濃度が、0.1~300μg/Lであること。
要件3:前記被処理水の線速度LV通水[m/h]と前記硝化槽内の貯留水中の気体の線速度LVガス[m/h]との線速度比(LVガス/LV通水)が、0.3~6.0であること。
要件4:下式(1)で算出される充填率が、75%以上であること。
充填率(%)=(複数の生物保持体のかさ体積)/(硝化槽内の有効水量体積)×100 ・・・式(1)
[6]前記銅供給源が、前記被処理水と接触している、[5]に記載の揺動式生物硝化装置。
[7]前記制御装置が、前記被処理水の前記銅イオン濃度が0.1~300μg/Lとなる制御を実行する、[5]または[6]に記載の揺動式生物硝化装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来の流動床混合流れ方式より高い硝化速度で、高濃度のアンモニア性窒素を含む被処理水を処理できる揺動式生物硝化方法および揺動式生物硝化装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】揺動式生物硝化装置の一例を示す概略構成図である。
【
図2】複数の生物保持体の平均密度の測定方法を説明するための模式図である。
【
図3】複数の生物保持体の平均密度の測定方法を説明するための模式図である。
【
図4】揺動式生物硝化装置の他の一例を示す概略構成図である。
【
図5】
図4の揺動式生物硝化装置の被処理水供給管の内部の模式図である。
【
図6】揺動式生物硝化装置の他の一例を示す概略構成図である。
【
図7】他の一例に係る揺動式生物硝化装置の被処理水供給管の内部の模式図である。
【
図8】揺動式生物硝化装置の他の一例を示す概略構成図である。
【
図9】揺動式生物硝化装置の他の一例を示す概略構成図である。
【
図10】実施例で用いた揺動式生物硝化装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書における以下の用語の意味は以下の通りである。
「アンモニア性窒素」とは、水中にアンモニウム塩として含まれている窒素をいう。アンモニア態窒素ともいう。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
【0013】
<被処理水>
被処理水はアンモニア性窒素を少なくとも含むものであれば、特に限定されない。例えば、地下水、井戸水、湖沼水、河川水、工場用水、下水、排水が挙げられる。ただし、被処理水はこれらの例示に限定されない。
【0014】
被処理水は、アンモニア性窒素以外に、炭酸水素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、塩化物イオン等の陰イオン;鉄イオン、マンガンイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等の陽イオン;有機物;細菌等をさらに含むことがある。ただし、被処理水の成分はこれらに限定されない。
被処理水の有機物の主成分として、フミン酸、フルボ酸等が挙げられる。ただし、被処理水は、これら例示した成分以外の有機物を含むことがある。
【0015】
被処理水のアンモニア性窒素の含有量は特に限定されないが、例えば、0.1~15mg/Lの範囲内である。アンモニア性窒素の含有量が0.5mg/L以上であり、好ましくは1mg/L以上であると、高い硝化速度を実現できる揺動式生物硝化方法および揺動式生物硝化装置を適用するメリットがさらに大きくなる。さらに高濃度のアンモニア性窒素を含む場合(例えば、アンモニア性窒素の含有量が15mg/Lを超え、50mg/L以下である場合)は、硝化槽を多段にすることが好ましい。
被処理水の鉄の含有量は特に限定されないが、例えば、0~20mg/Lの範囲内である。一実施形態に係る揺動式生物硝化方法および揺動式生物硝化装置によれば、被処理水に鉄が含まれる場合であっても、高い硝化速度を実現できる。
【0016】
以下、本発明のいくつかの実施形態について適宜図面を参照しながら説明する。図面における寸法比は、説明の便宜上のものであり、実際のものとは異なる場合がある。また、図面において、同一の構成については同じ符号を用いて示し、重複する構成について説明を省略することがある。
【0017】
<揺動式生物硝化装置>
図1に示す揺動式生物硝化装置1Aは、井戸2の原水(井戸水)を汲み上げるための揚水ポンプ3と;原水のための前処理槽8と;第1の端部が揚水ポンプ3と接続され、第2の端部が前処理槽8内と接続された揚水管9と;前処理槽8の貯留水に浸漬された銅線10Aと;生物硝化反応のための硝化槽5と;第1の端部が前処理槽8内と接続され、第2の端部が硝化槽5の底部近傍と接続された被処理水供給管4Aと;被処理水供給管4Aの途中に設けられた給水ポンプ11と;被処理水供給管4Aの途中に設けられ、硝化槽5内に供給される被処理水の流量を調整する通水量調整手段(図示略)と;硝化槽5内に装填された複数の生物保持体6と;硝化槽5内の貯留水に気体を供給するためのブロワ12と;第1の端部がブロワ12と接続され、第2の端部が硝化槽5内で開口している気体供給管13と;通水量調整手段および散気装置と電気的に接続された制御装置(図示略)と;硝化槽5内の液面付近に位置するスクリーン28と;スクリーン28と接続された処理水流出管7とを備える。
【0018】
揚水管9は、井戸2の井戸水を前処理槽8内に供給する。前処理槽8は、原水(この例では井戸水)を前段処理して被処理水とするための槽である。被処理水は、硝化槽5内に装填された複数の生物保持体6からなる生物保持体領域11に通水される水である。
【0019】
前処理槽8は、例えば、単なる原水貯槽であってもよく、溶存酸素供給装置を備えた槽でもよい。ここでいう溶存酸素供給装置は、溶存酸素を供給するための曝気装置であり、散気装置とは異なる。
他にも、前段処理の例として脱メタン処理、砂ろ過処理が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
銅線10Aは、前処理槽8内の貯留水と接触している。銅線10Aは、被処理水に銅イオンを供給し得る銅供給源の一例である。銅線10Aは銅単体であってもよく、銅の合金であってもよい。
銅線10Aによれば、銅イオンが前処理槽8内の貯留水に溶出する結果、被処理水に銅イオンを供給できる。揺動式生物硝化装置1Aにおいては、被処理水の銅イオン濃度が0.1~300μg/Lの範囲内となる(要件2)。
【0021】
被処理水供給管4Aは、給水ポンプ11によって被処理水を硝化槽5内に供給する。被処理水供給管4Aの途中には、硝化槽5内に供給される被処理水の水量を測定する通水量測定手段(図示略)と;通水量調整手段が設けられている。
通水量調整手段としては、例えば、流量調整弁が挙げられる。
通水量測定手段としては、例えば、ローターメータ、電磁流量計が挙げられる。
被処理水供給管4Aには、給水ポンプ11が設けられているが、このことは必須ではない。給水ポンプ11を設けず、水位差によって被処理水を硝化槽5内に供給してもよい。
【0022】
被処理水供給管4Aには、硝化槽5に供給される被処理水の銅イオン濃度、鉄の含有量およびアンモニア性窒素を測定する水質計(図示略)が設けられている。
被処理水供給管4Aには、例えば曝気槽のような溶存酸素供給手段が設けられていてもよい。溶存酸素供給手段は、被処理水に溶存酸素を供給するためのものである。
【0023】
硝化槽5は、生物保持体6を用いた生物硝化反応によって被処理水のアンモニア性窒素を処理するためのものである。硝化槽5には複数の生物保持体6が装填されている。
硝化槽5においては複数の生物保持体6が装填されることで、生物保持体領域11が形成されている。生物保持体領域11では、被処理水の通水時に揺動するように各生物保持体6が装填されている。硝化槽5内の生物保持体6に通水された被処理水の線速度がLV通水[m/h]である。
【0024】
LV通水[m/h]は、通水量[m3/h]を硝化槽5の断面積S[m2]で除することで算出できる。断面積Sは、硝化槽5の底面(底部に担体を支える有孔ブロック、ストレーナー、スクリーン、グリッド等の支持板が存在する場合には、それら支持板の上面)から通水時にオーバーフローする水位までの縦方向各位置での水平断面積の平均値である。
【0025】
硝化槽5は、生物保持体領域11における各生物保持体6と被処理水とを接触させることで、被処理水のアンモニア性窒素を酸化して処理水とする。生物保持体領域11は、複数の生物保持体6で硝化槽5の底部を覆うようにし、かつ、複数の生物保持体6を硝化槽5の高さ方向で多段に積み重ねて形成されていてもよい。
【0026】
硝化槽5の大きさは、処理すべき水量によって設計可能である。そのため、硝化槽5の容積は特に限定されない。例えば、硝化槽5の容積は0.1~100m3の範囲内とすることができる。また、硝化槽5の形状は特に限定されないが、硝化槽5は気液固三相流動反応槽に関するものである。そのため、気液固三相の流動を阻害する障害物はできるだけない形状が好ましく、特に凹凸の少ない形状が好ましい。例えば、円筒形、角形が挙げられる。加工性の点から、その断面が角形である硝化槽は好ましい。
【0027】
硝化槽5の材質は特に限定されない。種々の素材の中でも、耐圧性に優れる素材は好適である。例えば、コンクリート、鉄の合金、アクリル樹脂、繊維強化樹脂が挙げられる。硝化槽5の加工しやすさの面からはパネル水槽(FRP水槽)が好ましい。
【0028】
生物保持体6は、担体が硝化菌を保持したものである。1つの生物保持体6の立体的な大きさは、最大長さ方向が5mmを超えて、かつ、直径20mmの球体に収まる大きさである(要件1)。
生物保持体6は、担体と、担体に保持された硝化菌とを有する。担体の形状は、要件1が満足される限り、特に限定されない。例えば、立方体、直方体、球体、円錐状、多角錐状、筒体、糸状体が挙げられる。ただし、通水時に揺動させることや硝化槽5への装填の容易さを考慮すると、直方体、立方体、球体が好ましい。
【0029】
複数の生物保持体6において、各担体の形状はすべて互いに同一である必要はなく、互いに異なる形状であってもよい。揺動状態を維持しやすく、また、均一に硝化反応を行いやすい点では、各担体は互いに同一の形状が好ましいが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0030】
担体としては、担体の表面および内部に硝化菌を担持することでより多くの硝化菌を担持でき、硝化速度がさらに向上する点から、多孔質の担体が好ましい。担体が多孔質の場合は、担体の内部に硝化菌が担持されていてもよい。
多孔質の担体の孔径は0.01~3mm程度が好ましく、0.05~1mm程度がより好ましく、0.1~0.5mm程度がさらに好ましい。
【0031】
特に、硝化菌の担持を良好に維持でき、かつポンプや配管の損傷を最小限に抑制できる点から、スポンジ担体が好ましい。スポンジ担体の空隙率は85~99%程度が好ましく、90~97%程度がより好ましい。
スポンジ担体の材料としては、例えば、ポリビニールアルコール、ポリエチレングリコール、ポリウレタンが挙げられる。
スポンジ担体の真密度は0.90~1.50g/cm3が好ましく、1.00~1.40g/cm3がより好ましく、1.00~1.20g/cm3がさらに好ましい。
【0032】
スポンジ担体の見かけの表面積は300m2/m3以上が好ましく、600m2/m3以上がより好ましい。スポンジ担体の見かけの表面積が前記下限値以上であると、表面積が充分大きく、被処理水との接触効率が高くなる。また、硝化菌を保持しやく、酸素供給効率も高くなり、硝化速度がさらに高くなる。
【0033】
硝化菌としては、アンモニア性窒素の生物硝化に用いられる公知の硝化菌が挙げられる。例えば、Nitrosomonasを代表とする硝化菌は、独立栄養であり、基本的には炭酸ガスを唯一の炭素源としており、有機物基質を必要とせずアンモニア性窒素の存在下で生育できるが、その増殖速度は極めて小さい。硝化速度を高くするためには、硝化菌を硝化槽内に大量に保持する操作が必要となる。よって、硝化菌を、浮遊菌体ではなく担体に担体した状態で保持することが好ましい。
硝化菌の担体への担持方法としては、例えば、既存の水処理装置の硝化槽に担体を投入して担体の表面等に硝化菌を増殖させる方法が挙げられる。
【0034】
生物保持体6の平均密度は1.00~2.00g/cm3が好ましく、1.05~1.40g/cm3がより好ましく、1.10~1.20g/cm3がさらに好ましい。ここで、生物保持体6の平均密度は各生物保持体6が硝化菌を保持した湿潤状態における平均密度である。湿潤状態については後述する。
生物保持体6の平均密度が前記範囲の下限値以上であれば、生物保持体6が硝化槽5内の貯留水に沈降しやすいため、揺動状態を維持できる。そのため、生物保持体6は過度に流動することがない。よって、被処理水は出口方向に向かい徐々に複数の生物保持体6と接触しながら、硝化反応が進みやすい。生物保持体6の平均密度が前記範囲の上限値以下であれば、生物保持体6が揺動しやすい。
したがって、生物保持体6の平均密度が前記範囲内であれば、生物保持体6が被処理水の通水によって貯留水中で揺動しやすい。そのため、被処理水中の不純物(ss等)が生物保持体6に付着しにくくなる。結果として、被処理水と各生物保持体との接触効率がよくなり、硝化速度がより高くなる。
【0035】
生物保持体の平均密度は、以下のようにして算出できる。
まず、複数の生物保持体の質量m[g]を測定する。例えば、
図2に示すように、質量計30の上に容積が既知の容器20を載置した状態で、かさ体積が一定となるように生物保持体6を硝化槽から取り出して容器20に装填する。ここで、かさ体積を一定とするには、例えば、容積が既知の容器20の側面に目安線Lを引いておき、目安線Lと最上段の生物保持体6の上面とが一致するように複数の生物保持体6を容器20に装填することができる。
【0036】
硝化槽から生物保持体を取り出す際には、担体に付着した貯留水が生物保持体から滴り落ちる。この滴り落ちた貯留水の質量は、複数の生物保持体の質量m[g]に含めないものとする。本実施形態においては硝化槽から、かさ体積500cm3程度の生物保持体をすくい出して水面上に保持し、水滴が5秒間以上滴り落ちなくなったときを生物保持体の「湿潤状態」として定義する。このような湿潤状態の生物保持体を容器20に装填する。
その後、生物保持体を硝化槽から取り出して容器20に装填する操作を繰り返し、複数の生物保持体の全体のかさ体積が所定の値となったときの質量を複数の生物保持体の質量m[g]として記録する。
【0037】
続いて、複数の生物保持体の体積V[cm
3]を測定する。
図3に示すように、湿潤状態の生物保持体6が装填された容器20に、別途用意したビーカー40から所定のかさ体積となるまで、すなわち、目安線Lまで水を注ぎ、生物保持体6同士の間を水で満たす。このとき、ビーカー40から容器20に注いだ水の量を測定し、所定のかさ体積とビーカー40から注いだ水の量との差分を複数の生物保持体の体積V[cm
3]とする。
最後に、複数の生物保持体の質量m[g]を生物保持体の体積V[cm
3]で除して生物保持体6の平均密度m/V[g/cm
3]とする。
【0038】
生物保持体1個分の平均体積は、通水時の揺動を考慮すると、0.03~5.00cm3が好ましく、0.06~1.00cm3がより好ましく、0.10~0.30cm3がさらに好ましい。生物保持体1個分の体積が前記範囲の下限値以上であると、スクリーン28等による生物保持体の固液分離が容易になる。生物保持体の1個分の体積が前記範囲の上限値以下であると、LVガスが比較的小さくても生物保持体が揺動しやすくなる。
ここで、生物保持体1個分の平均体積は、硝化槽内の複数の生物保持体の総体積を硝化槽内の生物保持体の個数で除した値である。
また、複数の生物保持体において、各生物保持体の体積は互いにすべて同一である必要はなく、互いに異なっていてもよい。
【0039】
生物保持体は、例えば以下のようにして準備できる。
既存の生物硝化装置の硝化槽を用いて担体を通水培養する。例えば、新品の多孔質の担体の密度は、内部に空気を含むため1g/cm3未満の値となることが多い。
硝化槽で担体を通水培養していくと担体から空気が徐々に抜け、硝化菌が担体に付着していく。そして、硝化菌と水を含んだ湿潤状態での密度が例えば1.0~1.4g/cm3の範囲内となるまで通水培養し、生物保持体とする。
【0040】
再び
図1を参照する。処理水流出管7は、硝化槽5から処理水を取り出すためのものである。処理水流出管7は、スクリーン28と接続されている。処理水はスクリーン28に一度集められたのち処理水流出管7を介して硝化槽5外に流出する。
処理水流出管7の途中には、硝化槽5から流出する処理水の水量を測定する流出量測定手段(図示略)と;処理水流出管7を流れる処理水の流量を調整する流出量調整手段(図示略)が設けられている。
流出量測定手段としては、例えば、ローターメータ、電磁流量計が挙げられる。
流出量調整手段としては、例えば、流量調整弁が挙げられる。
【0041】
ブロア12および気体供給管13を備えた散気装置は、気体供給装置の一例である。硝化槽5内の貯留水に供給された気体の線速度がLVガス[m/h]である。
揺動式生物硝化装置1Aにおいては、硝化槽5内の底部付近に延びた気体供給管13の開口から、気体が硝化槽5内の貯留水に供給される。気体供給管13の途中には気体供給量調整手段(図示略)が設けられている。
【0042】
散気装置は原則として生物保持体6の表面に付着した固形物を曝気して取り除くためのものである。散気装置によれば、硝化槽内に供給した気泡によって、生物保持体6の表面に付着した固形物を取り除くことができる。
【0043】
散気装置により供給する気体は、生物保持体6を揺動させられる気体であれば特に限定されないが、硝化反応を阻害せず、かつ、爆発や腐食等が起こらない安全な気体が好ましい。
気体としては、例えば、空気、アルゴンや窒素等の不活性ガスが挙げられる。
【0044】
揺動式生物硝化装置1Aにおいては、気体供給管13の開口面が散気部であるが、他の例において散気部は、散気孔が形成された散気管、散気球、ディフューザーであってもよい。
気体供給量調整手段としては、例えば、ゲート弁、バタフライ弁、インバーターによるブロワ周波数の制御が挙げられる。
【0045】
制御装置は、インターフェイス部(図示略)、記憶部(図示略)、処理部(図示略)、判定部(図示略)、制御部(図示略)等を備える。
インターフェイス部は、通水量測定手段、通水量調整手段、水質計、流出量測定手段、流出量調整手段、散気装置のブロアおよび気体供給量調整手段と、制御部との間を電気的に接続するものである。
【0046】
記憶部は、線速度比(LVガス/LV通水)、下式(1)で算出される充填率を算出するための揺動式生物硝化装置1Aの運転条件等を記憶するものである。
充填率(%)=(複数の生物保持体6のかさ体積/硝化槽5内の有効水量体積)×100 ・・・式(1)
【0047】
LVガス[m/h]は、硝化槽内の貯留水中の気体の線速度である。LVガス[m/h]は、下式(2)で算出される。
LVガス[m/h]=散気装置による気体の供給量[m3/h]/硝化槽の断面積S[m2] ・・・式(2)
【0048】
LV通水[m/h]は、複数の生物保持体に通水される被処理水の線速度である。LV通水は、以下の式(3)で計算される。
LV通水=通水量[m3/h]/硝化槽の断面積S[m2] ・・・式(3)
【0049】
記憶部に記憶される運転条件として、例えば、被処理水の銅イオン濃度、複数の生物保持体6の体積の総和、硝化槽5内の有効水量体積、硝化槽5の断面積S、硝化槽5内に装填した生物保持体6のかさ体積、総質量、個数、生物保持体6の平均密度、被処理水の供給量、処理水の流出量、硝化槽5内への気体供給量が挙げられる。
【0050】
揺動式生物硝化装置1Aにおいて、式(1)中の「複数の生物保持体6のかさ体積」は、生物保持体領域11を構成するすべての生物保持体6の体積の総和である。つまり、「複数の生物保持体のかさ体積」とは、複数の生物保持担体を硝化槽内に投入したとき、静置状態における生物保持体の集合体が、有効水量体積の空間内に占める体積である。
【0051】
「生物保持体のかさ体積」は、高さ方向で均一な角型または円筒形の硝化槽において、硝化槽内に投入したすべての生物保持体6の静置時における硝化槽5の底面(底部に担体を支える有孔ブロック、ストレーナー、スクリーン、グリッド等の支持板が存在する場合には、それらの支持板の上面)から生物保持担体の上表面までの距離(有効充填高さhZ)と、硝化槽5の断面積Sを乗ずることで算出できる。
【0052】
揺動式生物硝化装置1Aにおいて、式(1)中の「硝化槽5内の有効水量体積」は、硝化槽5内に存在する被処理水および生物保持担体の合計の体積である。この「硝化槽5内の有効水量体積」は、硝化槽5のオーバーフロー水位までの空容積である。硝化槽5の底面(底部に担体を支える有孔ブロック、ストレーナー、スクリーン、グリッド等の支持板が存在する場合には、それら支持板の上面)から通水時にオーバーフローする水位までの距離(有効水位hT)と、硝化槽5の断面積Sを乗ずることで算出できる。
【0053】
処理部は、以下の演算1を行うことができる。
演算1:複数の生物保持体6のかさ体積、硝化槽5内の有効水量体積をそれぞれ算出し、次いで、前記式(1)から生物保持体6の充填率を算出する。
【0054】
処理部は、以下の演算2を行うことができる。
演算2:通水量調整手段の流量値および硝化槽5の断面積SからLV通水を算出し、かつ、気体供給量調整手段の供給値および硝化槽5の断面積SからLVガスを算出し、線速度比(LVガス/LV通水)を算出する。
【0055】
判定部は、例えば、以下に掲げる事項の少なくとも1項を判定し得る。
・水質計で測定された被処理水の銅イオン濃度が、0.1~300μg/Lの範囲内であるか否か(要件2)。
・線速度比(LVガス/LV通水)が0.3~6.0の範囲内であるか否か(要件3)。
・処理部で算出された生物保持体6の充填率が75%以上であるか否か(要件4)。
・水質計で測定された被処理水の鉄の含有量が0.5mg/L以上であるか否か。
【0056】
制御部は、判定部における判定結果、記憶部に記憶された揺動式生物硝化装置1Aの運転条件等に基づいて、揺動式生物硝化装置1Aの制御を行うものである。制御部は、要件3および要件4を満たすための制御を実行する。
制御部は、要件2を満たすための制御、つまり、被処理水の前記銅イオン濃度が0.1~300μg/Lとなるための制御を実行してもよい。また、被処理水中に含まれたアンモニア性窒素含有量が安定した場合、銅イオン濃度を事前に好ましい範囲内に確保してもよい。
【0057】
判定部において銅イオン濃度が0.1μg/L未満であると判定されたときは、制御部によって以下の制御がなされ得る。
・被処理水の供給量を減らして被処理水の銅イオン濃度を高くするように通水量調整手段を制御すること。
・処理水の流出量を減らして被処理水の銅イオン濃度を高くするように流出量調整手段を制御すること。
【0058】
判定部において銅イオン濃度が300μg/L超であると判定されたときは、制御部によって以下の制御がなされ得る。
・被処理水の供給量を増やして被処理水の銅イオン濃度を低くするように通水量調整手段を制御すること。
・処理水の流出量を増やして被処理水の銅イオン濃度を低くするように流出量調整手段を制御すること。
【0059】
判定部において線速度比(LVガス/LV通水)が0.3未満であると判定されたときは、制御部によって以下の制御がなされ得る。
・散気装置による気体の供給量を増やしてLVガス[m/h]を高くするように気体供給量調整手段を制御すること。
・被処理水の供給量を減らしてLV通水[m/h]を低くするように通水量調整手段を制御すること。
・処理水の流出量を減らしてLV通水[m/h]を低くするように流出量調整手段を制御すること。
【0060】
判定部において線速度比(LVガス/LV通水)が6.0超であると判定されたときは、制御部によって以下の制御がなされ得る。
・散気装置による気体の供給量を減らしてLVガス[m/h]を低くするように気体供給量調整手段を制御すること。
・被処理水の供給量を増やしてLV通水[m/h]を高くするように通水量調整手段を制御すること。
・処理水の流出量を増やしてLV通水[m/h]を高くするように流出量調整手段を制御すること。
【0061】
例えば、判定部において生物保持体6の充填率が75%未満であると判定された場合、制御部によって以下の制御がなされ得る。
・被処理水の供給量を減らして硝化槽5内の貯留水の体積を減らすように通水量調整手段を制御すること。
・処理水の流出量を増やして硝化槽5内の貯留水の体積を減らすように流出量調整手段を制御すること。
【0062】
他にも、判定部において被処理水の鉄の含有量が0.5mg/L以上であると判定されたときは、制御部によって以下の制御がなされ得る。
・散気装置による気体の供給量を調整するように気体供給量調整手段を制御すること。
・通水量調整手段、流出量調整手段の各流量を調整してLV通水を調節すること。
【0063】
処理部、判定部および制御部は、専用のハードウエアによって実現されるものであってもよい。また、処理部、判定部および制御部は、メモリおよび中央演算装置(CPU)によって構成されてもよい。CPUの場合、処理部、判定部および制御部の機能を実現するためのプログラムをメモリにロードして実行することによってその機能を実現させてもよい。
【0064】
制御装置には、周辺機器として、入力装置、表示装置等が接続されていてもよい。入力装置としては、例えば、ディスプレイタッチパネル、スイッチパネル、キーボード等の入力デバイスが挙げられる。表示装置としては、例えば、液晶表示装置、CRT等の表示デバイスが挙げられる。
【0065】
<揺動式生物硝化方法>
以下、揺動式生物硝化装置1Aを用いた硝化方法の一例について説明する。
まず、既存の生物硝化装置の硝化槽で通水培養した複数の生物保持体6を、揺動式生物硝化装置1Aの硝化槽5内に装填する。
1つの生物保持体6の立体的な大きさが、最大長さ方向が5mmを超えて、かつ、直径20mmの球体に収まるものを用いる(要件1)。そのため、被処理水の通水時にそれぞれの生物保持体が揺動する。生物保持体6の装填時には、通水時に生物保持体6が揺動可能となるように、生物保持体6同士の間には揺動のための空間を空けておくとよい。
【0066】
次いで、アンモニア性窒素を含む原水(この例では、井戸水)を前処理槽8に溜める。前処理槽8内で銅線10Aと接触することで、被処理水に銅イオンが供給される。
その後、被処理水供給管4Aによって前処理槽8から硝化槽5の底部近傍に被処理水を供給して硝化槽5に貯める。このとき、硝化槽5内に水を貯めていくと、生物保持体領域11における生物保持体6同士の間にも水が満たされる。その後も貯水を続けると、生物保持体領域11の最上段の生物保持体6が貯留水に浸漬される。
【0067】
硝化槽5内に水を貯める際には、下式(1)で算出される充填率が75%以上となるようにする。
充填率(%)=(複数の生物保持体6のかさ体積)/(硝化槽5内の有効水量体積)×100 ・・・式(1)
【0068】
(生物硝化反応)
硝化槽5において被処理水が生物保持体領域11に通水されると、被処理水が生物保持体6と接触する。そして、被処理水のアンモニア性窒素が生物保持体6の硝化菌によって酸化されて硝酸性窒素になる。このようにして、アンモニア性窒素を含む被処理水を硝化槽5で処理して処理水とする。
【0069】
通水時に気体曝気を行うことでスポンジ担体のみかけ上の体積は膨張するが、この時の膨張率は2~25%の範囲内に収まることが望ましい。膨張率は下式(4)で算出される。
膨張率(%)=(通水時における複数の生物保持体6が硝化槽5内を占める体積[m3]-静置時における複数の生物保持体6のかさ体積[m3])/(有効水量体積[m3])×100 ・・・式(4)
【0070】
(銅イオン濃度:要件2)
本実施形態においては、被処理水を通水する際に被処理水の銅イオン濃度を0.1~300μg/Lの範囲内とする。
銅イオン濃度は0.5μg/L以上が好ましく、1.0μg/L以上がより好ましい。銅イオン濃度を0.1μg/L以上とすることで硝化菌による生物硝化反応が活性化される結果、高い硝化速度を実現できる。
銅イオン濃度は100.0μg/L以下が好ましく、50.0μg/L以下がより好ましく、10.0μg/L以下がさらに好ましい。銅イオン濃度を300μg/L以下とすることで硝化菌による生物硝化反応が阻害されにくくなる結果、高い硝化速度を実現できる。
【0071】
(LVガス/LV通水:要件3)
本実施形態では被処理水を通水する際に、線速度比(LVガス/LV通水)を0.3~6.0とする。線速度比(LVガス/LV通水)は0.5~6.0が好ましく、2.0~4.0がより好ましい。
線速度比(LVガス/LV通水)が前記数値範囲内であれば、生物保持体6の表面に鉄等の固形物を付着しにくくしながら、硝化速度を高めることができる。特に、被処理水の鉄の含有量が1.0mg/L超である場合、硝化反応中に生成した水酸化鉄等の固形物が生物保持体の表面に大量に付着する可能性がある。この場合、線速度比(LVガス/LV通水)を0.3以上とすることは特に有益であり得る。
【0072】
LV通水は、例えば、通水量調整手段、流出量調整手段の各流量によって調節可能である。
LV通水は特に限定されないが、5~40m/hの範囲内が好ましく、8~30m/hがより好ましく、10~25m/hがさらに好ましい。LV通水が前記範囲の下限値以上であると、生物保持体6が揺動しやすい。LV通水が前記範囲の上限値以下であると、硝化反応効率を維持しやすいため、硝化速度がさらに向上しやすい。
【0073】
LVガスは、例えば、散気装置の気体供給量によって調節可能である。散気装置から散気される気体量は、気体供給量調整手段によって任意の気体量に調整できる。
LVガスは特に限定されないが、生物保持体6を揺動させる点、また、気体供給に必要な電気エネルギーを低減する点で、LVガスは3~100m/hの範囲内が好ましく、20~60m/hの範囲内がより好ましい。
【0074】
(充填率:要件4)
本実施形態では、被処理水を通水する際に式(1)で算出される充填率を75%以上とする。そのため、硝化速度が充分に高くなる。硝化速度を高める点では、前記式(1)で算出される充填率は75%以上とすることが好ましく、80%以上とすることがより好ましく、85%以上とすることがさらに好ましい。
前記式(1)で算出される充填率の計算上の上限は100%であるが、通水時に生物保持体6を揺動させる点では、100%以下とすることが好ましく、98%以下とすることがより好ましく、95%以下とすることがさらに好ましい。
ただし、充填率が100%付近になると揺動するための空間的なスペースが少なくなる。そのため、被処理水が鉄イオンを含む場合には、水酸化鉄等の濁質が担体に付着することで、ろ過閉塞が発生し得る。
【0075】
(上向流)
揺動式生物硝化装置1Aにおいては、被処理水が上向流として生物保持体領域11の複数の生物保持体6に通水される。本実施形態のように被処理水を上向流として通水することで、曝気時においても生物保持体が揺動しやすい状態を実現できる。
【0076】
<作用機序>
以上一例を用いて説明した一実施形態に係る揺動式生物硝化方法においては、(i)生物保持体の大きさ、(ii)被処理水の銅イオン濃度、(iii)線速度比(LVガス/LV通水)および(iv)生物保持体の充填率が所定の条件を満たす。そのため、以下に掲げる利点が提供され得る。よって、高濃度のアンモニア性窒素を含む被処理水を高い硝化速度で処理でき、かつ、処理装置の小型化も可能である。
【0077】
・通水時に生物保持体が硝化槽内で揺動可能となるため、固形物が生物保持体の表面に付着しにくくなる。そのため、生物保持体による硝化反応の反応効率がよくなる。
・被処理水の銅イオン濃度が充分に高く、かつ、過度には高くないため、高い硝化速度を実現できる。結果として、高濃度のアンモニア性窒素を含む被処理水も処理できる。また、処理装置の小型化も実現できる。
・生物保持体が揺動可能であるため、通水時に被処理水が生物保持体の全体と効率的に接触する。その結果、生物保持体の充填率を75%以上としながらも、短絡流の発生や生物保持体6と接触しないデッドスペースの発生を防ぐことができる。よって、硝化速度も向上し、また、優れた硝化速度を実現できる。
・本実施形態によれば優れた硝化速度を実現できる。そのため、硝化槽の数を増やす必要性も少なくなる。また、硝化槽自体も小型化が可能である。
【0078】
例えば特許文献1のような流動床混合流れ方式の硝化方法においては、充填率が75%以上になると、担体の流動性不良によるデッドスペースや短絡流が発生するため、硝化速度を高めることに限界がある。
対して、本実施形態においては通水時に生物保持体が揺動するため、被処理水が複数の生物保持体と全体的に効率よく接触する。そのため、所定の充填率を75%以上としながらも、短絡流の発生や生物保持体と接触しないデッドスペースの発生を防ぐことができ、結果として硝化速度を高めることができる。かかる本実施形態の生物硝化反応は、揺動床押出流れ方式であるとも言える。
【0079】
本実施形態においては、生物保持体が硝化槽内の貯留水中で揺動可能である。そのため、被処理水の鉄の含有量が1.0mg/L以下である場合、LVガスが相対的に低くても生物保持体の表面に付着した固形物を充分に除去できるため、硝化反応の効率を高く維持できる。結果、高い硝化速度を実現できる。この場合、曝気によるエネルギー消費量を削減できる。
一方、後述の実施例に示すように、被処理水の鉄の含有量が1.0mg/L超である場合であっても、アンモニア性窒素を高い硝化速度で処理できる。
【0080】
また、以上説明した揺動式生物硝化装置1Aは上述した構成を備えるため、揺動式生物硝化装置1Aを用いることによって上述の一実施形態に係る揺動式生物硝化方法を実施でき、上述の作用機序を発揮できる。
例えば揺動式生物硝化装置1Aのように硝化槽を1つ備える場合、被処理水の滞留時間を30min以下とした場合でも、5mg/L以上の高濃度のアンモニア性窒素を含む被処理水のアンモニア性窒素をおよそ0.1mg/L未満まで低減する処理が可能となる。よって、例えば、1mg/L以上の高濃度のアンモニア性窒素を含む被処理水を処理する場合、被処理水を飲用化する用途に本発明を特に好適に適用できる。
【0081】
<他の実施形態例>
以上一実施形態例を示して一実施形態について説明したが、本発明は本明細書に開示の実施形態例に限定されず、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施できる。本明細書に開示の実施形態は、その他の様々な形態で実施可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置換、変更が可能である。
以下、いくつかの変形例を示すが、本発明の実施形態はこれらの変形例に限定されるものではない。
【0082】
上述の揺動式生物硝化装置1Aにおいては、銅供給源の銅線10Aは、前処理槽8内の貯留水に接触しているが、銅供給源はこの形態例に限定されない。また、銅供給源は、被処理水に銅イオンを供給してもよく、原水に銅イオンを供給してもよい。
例えば
図4に示す揺動式生物硝化装置1Bにおいては、
図5に示すように被処理水供給管4Bの配管内部に銅線10Aが配置されている。被処理水供給管4Bの第1の端部は揚水ポンプ3と接続され、第2の端部は硝化槽5内と接続されている。
揺動式生物硝化装置1Bによれば、被処理水供給管4Bにおいて原水の井戸水に銅イオンを供給できる。被処理水供給管4B内で原水に銅イオンが供給された後の被処理水を、硝化槽5内の生物保持体6に通水できる。
【0083】
また、銅の供給方法も特に限定されない。例えば、
図6に示す揺動式生物硝化装置1Cにおいては、前処理槽8内の貯留水に銅電極10Cが陽極として浸漬されている。また、該貯留水に陰極16が浸漬されている。銅電極10Cは電源15の正電位側と接続されている。また、陰極16は電源15の負電位側と接続されている。
揺動式生物硝化装置1Cによれば、電気分解によって陽極、すなわち銅電極10Cを溶解させることで被処理水に銅イオンを供給できる。そして、前処理槽8内で原水に銅イオンが供給された後の被処理水を、硝化槽5内の生物保持体6に通水できる。
【0084】
電源15は、揺動式生物硝化装置の図示略の制御装置と電気的に接続されていることが好ましい。この場合、制御装置の制御部によって以下の制御がなされ得る。
・制御装置の判定部において銅イオン濃度が0.1μg/L未満であると判定されたとき、銅電極10Cに流れる電流値を高くして溶出する銅イオンを多くすることで、銅イオン濃度を高くするように制御すること。
・制御装置の判定部において銅イオン濃度が300μg/L超であると判定されたとき、銅電極10Cに流れる電流値を低くして溶出する銅イオンを少なくすることで、銅イオン濃度を高くするように制御すること。
【0085】
銅供給源の形態は、銅線や銅電極に限定されない。他のバリエーションとしては、例えば、被処理水供給管を銅単体の配管とすることや銅合金の配管とすることが挙げられる。他にも、電源の正電位側と接続された銅電極を被処理水供給管の内部に配置してもよい。
図7に示す被処理水供給管4Aの内部には、銅電極10Cおよび陰極16が配置されている。銅電極10Cは電源15の正電位側と接続されている。また、陰極16は電源15の負電位側と接続されている。
いずれのバリエーションにおいても、被処理水または原水に銅イオンを供給できる。
【0086】
他にも、銅の水溶性化合物またはその水溶液を、被処理水または原水に添加することにより被処理水または原水に供給してもよい。例えば、
図8に示す揺動式生物硝化装置1Dは、銅イオン注入装置10Dを備える。揺動式生物硝化装置1Dにおいて、被処理水供給管4Aの第1の端部は揚水ポンプ3と接続され、第2の端部は硝化槽5の底部近傍と接続されている。
【0087】
銅イオン注入装置10Dは、銅の水溶性化合物またはその水溶液が貯留されたタンク17と;第1の端部がタンク17と接続され、第2の端部が被処理水供給管4Aの途中と接続された注入管18と;注入管18の途中に設けられた注入ポンプ19と;を有する。
揺動式生物硝化装置1Dによれば、注入ポンプ19を駆動させることでタンク17から銅イオンを被処理水供給管4A内の原水の井戸水に供給できる。そして、被処理水供給管4A内で原水に銅イオンが供給された後の被処理水を、硝化槽5内の生物保持体6に通水できる。
【0088】
注入ポンプ19は、揺動式生物硝化装置の図示略の制御装置と電気的に接続されていることが好ましい。この場合、制御装置の制御部によって以下の制御がなされ得る。
・制御装置の判定部において銅イオン濃度が0.1μg/L未満であると判定されたとき、注入ポンプ19によるタンク17内の液体の供給量を高くすることで、銅イオン濃度を高くするように制御すること。
・制御装置の判定部において銅イオン濃度が300μg/L超であると判定されたとき、注入ポンプ19によるタンク17内の液体の供給量を低くすることで、銅イオン濃度を低くするように制御すること。
【0089】
また、銅供給源の配置も、銅を被処理水に供給することができる位置であれば特に限定されない。銅供給源と原水または被処理水とを接触させて銅を供給する場合は、銅供給源が原水または被処理水と接する位置にあることが好ましい。
図9に例示する揺動式生物硝化装置1Eのように、硝化槽5内の被処理水に銅線10Aが浸漬されてもよい。また、図示は省略するが、電源の正電位側と接続された銅電極10Cが硝化槽5内の被処理水に浸漬されてもよい。
【0090】
銅供給源を被処理水または原水に接触させて銅を溶出させる場合、銅供給源の形態も特に限定されるものではない。例えば、
図1の銅線10Aのように銅の単体または合金を線状に成形したものを用いてもよいが、他の例では、銅の単体または合金を板状に成形したものを用いてもよい。銅供給源を被処理水または原水に接触させて銅を溶出させる場合、溶存酸素濃度が高いほど銅の溶出が促進される傾向がある。
【0091】
上述の実施形態例においては、被処理水が上向流として生物保持体領域11の複数の生物保持体6に通水されるが、他の例では、生物保持体領域11の上側から下側に向かって被処理水を下向流として生物保持体6に通水してもよい。
下向流として被処理水を通水する場合でも、同様の作用効果が得られるため、高い硝化速度を実現できる。
【0092】
硝化槽の数は1つに限定されず、複数でもよい。例えば、被処理水のアンモニア性窒素の含有量が2mg/L以下の場合、硝化槽の数は1つでもよい。ただし、被処理水のアンモニア性窒素の含有量が2~6mg/Lの場合、硝化槽の数を増やして複数としてもよい。また、硝化反応を促進するために散気装置を設ける硝化槽の数は1つでもよい。例えば、アンモニア性窒素の含有量が6mg/L程度増える毎に、散気装置を設ける硝化槽を1つずつ増やしてもよい。
【0093】
硝化槽5内の貯留水の溶存酸素濃度(DO)を測定するDOメータを用いてもよい。
複数の生物硝化槽がある場合、前処理槽8における曝気装置は、各生物硝化槽の間に設けられたほうがよい。生物硝化槽内の生物保持体の揺動状態に直接影響しないようにするためである。
【0094】
硝化槽5から流出する処理水に後段処理を施す後段処理装置を用いてもよい。後段処理装置は、被処理水の水質、処理水の水質等に応じて適宜設置され得る。
後段処理装置としては、例えば、イオン交換処理槽、凝集剤添加装置、酸化剤添加装置、砂ろ過塔、膜ろ過装置、殺菌剤添加装置が挙げられる。
後段処理が施された後の最終処理水の用途は特に限定されない。例えば、生活用水、飲用水としての用途が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0095】
以上、本発明をいくつかの具体的な実施形態に即して説明したが、各実施形態は例として提示されたものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書に記載された各実施形態は、発明の効果が奏される範囲内で、様々に変形することができ、かつ、実施可能な範囲内で、他の実施形態により説明された特徴と組み合わせることができる。
【実施例0096】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載に限定されない。
【0097】
<被処理水の調製>
原水水質:採取した地下水に硫酸鉄七水和物を加えて鉄イオンの濃度が0.3~3.0mg/Lである模擬地下水を調製した。さらに採取した地下水に塩化アンモニウム、硫酸銅5水和物を加え、アンモニア性窒素濃度、銅濃度を調整した。採取したときの地下水水温は17±1℃であり、アルカリ度は85mg/Lであり、pHは7.6±0.2であった。
【0098】
<試験装置の構築>
図10に示す試験装置50を構築した。試験装置50は、硝化槽5と被処理水供給管14とスクリーン28と処理水流出管7とを有する。被処理水供給管14の吐出口14aは、硝化槽5内で下向きに開口している。
【0099】
(生物保持体)
スポンジ担体として、5mm角の立方体状のポリウレタン製スポンジ担体(株式会社テクノフォームジャパン製「ウォーターフレックスAQ-15」)を用意した。通水培養する前のスポンジ担体の密度は0.044g/cm3であった。これらのスポンジ担体を既存の生物硝化装置の硝化槽で通水培養し、約10kg(約6500個)の生物保持体を調製した。通水培養後、硝化槽から生物保持体をすくい出して水面上に保持し、水滴が5秒間以上滴り落ちなくなったとき、生物保持体が湿潤状態にあると判断し、10Lの目盛り付き容器に装填した。
【0100】
生物保持体を10Lの目盛り付き容器に装填し終えたとき、生物保持体の質量mは、5785gであった。その後、生物保持体が装填された目盛り付き容器内に、別途用意したビーカーから水を注いで生物保持体同士の間を水で満たし、水面が10Lの目盛りに到達したとき注水を止めた。このとき別途用意したビーカーから注いだ水量は、4770cm3であった。生物保持体の体積Vを10000cm3(10L)-4770cm3=5230cm3とした。
よって、生物保持体の平均密度は5785g/5230cm3≒1.1g/cm3と算出した。
【0101】
(硝化槽)
断面形状が長方形の透明アクリル製の水槽を使用した。この水槽の上面は大気開放されている。水槽の正面の幅は500mmであり、側面の奥行は150mmであり、高さは2300mmである。水槽の有効水量は150Lとした。通水時には被処理水を水槽の下部から供給し、水槽上部に出口を設置し、通水時に被処理水が上向流となるように設計した。
【0102】
被処理水の供給水量は12.5L/min(LV通水:10[m/h])とした。水槽の高さ800mmの位置に穴をあけ、90度垂直下向き方向に水槽側面に這わせるように被処理水供給管を延ばした。被処理水供給管の長さは500mmであり、管の内径は71mmである。
被処理水供給管14の出口は水槽の底面から高さ300mmの位置になるように設置した。また、水槽の底部には水槽内に均一に気体が供給されるように散気管を配置した。気体供給量は3.8~75L/min(LVガス3~240m/h)とした。
実施例では、気体として、特段の前処理を行っていない空気(大気)を用いた。
【0103】
(揺動式生物硝化装置)
硝化反応後の処理水のアンモニア性窒素濃度を測定しながら、被処理水への塩化アンモニウムの添加量を徐々に増やした。処理水のアンモニア性窒素濃度が0.1mg/Lに到達したときの、被処理水のアンモニア性窒素濃度を測定した。このようにして処理水のアンモニア性窒素濃度値が0.1mg/L以下に維持できる硝化速度の最大値を求めた。硝化速度の計算方法は以下の通りである。
【0104】
<測定方法>
(硝化速度)
通水開始後原水への塩化アンモニウム添加量を徐々に上げていくと、生物硝化反応が追い付かず、処理水中に0.1mg/Lを超えるアンモニア性窒素濃度が検出されるようになった。その時の硝化槽当たりの硝化速度[kgN/m3/d]は、以下のように算出した。
硝化速度[kgN/m3/d]=(被処理水のアンモニア性窒素濃度[kg/m3]-処理水のアンモニア性窒素濃度[kg/m3])×通水量[m3/d]÷水槽体積[m3]
【0105】
硝化速度の評価基準は以下の通りである。
◎:硝化速度が0.8kgN/m3/d以上である。
〇:硝化速度が0.5kgN/m3/d超0.8kgN/m3/d未満である。
△:硝化速度が0.22kgN/m3/d超0.5kgN/m3/d以下である。
×:硝化速度が0.22kgN/m3/d以下である。
【0106】
(銅イオン濃度)
ICP発光分光分析装置(Thermo Fisher Scientific社製品「iCAP RQ ICP-MS」)を用いて水槽に供給する前の被処理水について測定した。
【0107】
(充填率)
前記式(1)から生物保持体の充填率を算出した。
【0108】
(LVガス)
前記式(2)からLVガスを算出した。
【0109】
(LV通水)
前記式(3)からLV通水[m/h]を算出した。
【0110】
(膨張率)
前記式(4)から生物保持体の膨張率を算出した。
【0111】
<実施例1~8、比較例1、2>
表1に示す条件で被処理水を水槽内の生物保持体に通水した。各例においては、被処理水に添加する銅イオン量を変更することで、銅イオン濃度を変更した。結果を表1に示す。
【0112】
【0113】
表1に示す結果から、銅イオン濃度が0.1~300μg/Lの範囲内であれば、従来の流動床混合流れ方式より高い硝化速度を実現できることを確認した。
【0114】
<実施例9~13>
表2に示す条件に変更したうえで、被処理水を水槽内の生物保持体に通水した。結果を表2に示す。表2には参考のため実施例3の結果を併せて示す。
【0115】
【0116】
表2に示す結果から、線速度比(LVガス/LV通水)を0.3~6.0の範囲内とすることで、従来の流動床混合流れ方式より高い硝化速度を実現できることを確認した。
【0117】
<実施例14~17>
表3に示す条件に変更したうえで、被処理水を水槽内の生物保持体に通水した。結果を表3に示す。表3には参考のため実施例3の結果を併せて示す。
【0118】
【0119】
表3に示す結果から、被処理水の鉄濃度が1.0mg/Lより高い場合、線速度比(LVガス/LV通水)を2.0以上とすることで、高い硝化速度を実現できることが分かった。
【0120】
<実施例18~20>
表4に示す条件に変更したうえで、被処理水を水槽内の生物保持体に通水した。結果を表4に示す。表4には参考のため実施例3の結果を併せて示す。
【0121】
【0122】
表4に示す結果から、生物保持体の充填率が高ければ高いほど、硝化速度が増加する傾向にあることが分かった。これは、多くの硝化菌を担持できるためと考えられる。
【0123】
<比較例3、4>
表5に示す条件に変更したうえで、被処理水を水槽内の生物保持体に通水した。結果を表5に示す。
【0124】
【0125】
比較例3ではスポンジが揺動しなかった。また、硝化菌への基質拡散速度も低い。さらに酸素律速があるため、硝化速度は低くなったと考えられる。
比較例4でもスポンジが揺動状態にならず、完全混合流れとなった。被処理水の押出流れを維持できないため、硝化性能は低くなったと考えられる。
【0126】
以上示した実施例、比較例の結果から、(i)生物保持体の大きさ、(ii)銅イオン濃度、(iii)線速度比(LVガス/LV通水)、および(iv)生物保持体の充填率を全て所定の範囲内とすることで、従来の流動床混合流れ方式より高い硝化速度を実現できることが分かった。生物保持体の充填率が75%未満の場合(比較例4)や、線速度比(LVガス/LV通水)が0の場合(比較例3)、硝化速度が低下することを確認した。
よって、高濃度のアンモニア性窒素の処理において、高い硝化速度の実現のために硝化槽を2つ以上に増設する必要性が低いため、処理装置の小型化も可能である。
本発明の一態様によれば、従来の流動床混合流れ方式より高い硝化速度で、高濃度のアンモニア性窒素を含む被処理水を処理できる揺動式生物硝化方法および揺動式生物硝化装置が提供される。