(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057267
(43)【公開日】2024-04-24
(54)【発明の名称】植物たん白質成形体用改質剤、植物たん白質成形体および飲食品
(51)【国際特許分類】
A23J 3/14 20060101AFI20240417BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
A23J3/14
A23D9/00 518
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163878
(22)【出願日】2022-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】魚住 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】泉 秀明
(72)【発明者】
【氏名】北村 陽亜
(72)【発明者】
【氏名】志田 政憲
【テーマコード(参考)】
4B026
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG02
4B026DG03
4B026DG04
4B026DH03
4B026DL03
4B026DL08
4B026DX08
(57)【要約】
【課題】植物たん白質成形体の食感を良好にする植物たん白質成形体用改質剤を提供する。
【解決手段】本発明の植物たん白質成形体用改質剤は、植物たん白質成形体を改質するための粉末状の改質剤であって、油分を45質量%以上85質量%以下含有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物たん白質成形体を改質するための粉末状の改質剤であって、
油分を45質量%以上85質量%以下含有する
植物たん白質成形体用改質剤。
【請求項2】
押出成形により製造される前記植物たん白質成形体用である
請求項1に記載の植物たん白質成形体用改質剤。
【請求項3】
前記改質剤は、粉末油脂であって、
再溶解時のメディアン径が0.5μm以上2.0μm以下である
請求項1に記載の植物たん白質成形体用改質剤。
【請求項4】
前記油分を55質量%以上75質量%以下含有する
請求項1に記載の植物たん白質成形体用改質剤。
【請求項5】
植物たん白質と、請求項1の植物たん白質成形体用改質剤とを含み、
前記植物たん白質成形体用改質剤の含有量は、前記植物たん白質の含有量と前記植物たん白質成形体用改質剤の含有量との合計を100質量%としたときに、0.01質量%以上10質量%以下である
植物たん白質成形体。
【請求項6】
請求項5の植物たん白質成形体を含む飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物たん白質成形体用改質剤、植物たん白質成形体および飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヴィーガン等に対応したプラントベース食品の開発が盛んであり、植物たん白質を使用した肉様食品が市場に出回っている。肉様食品として代表的なものには、ひき肉を模した粒状の植物たん白質や、畜肉のスライスやジャーキーを模した板状(扁平状)の植物たん白質などがある。以上の通り、様々な形状に成形した植物たん白質(以下「植物たん白質成形体」という)が開発されている。
【0003】
植物たん白質成形体には、畜肉と同等の食感であることが求められている。そして、植物たん白質成形体の食感には、弾力、膨化度や表面の形状(例えば滑らかさやツヤ・ハリ)などが大きな影響を与える事が知られている。
【0004】
そこで、植物たん白質成形体の食感を良好にするための各種の技術が提案されている。例えば、特許文献1には、大豆たん白に油分40%である粉末油脂を加えて乾燥畜肉様食品を製造することで、ビーフジャーキーに食感を類似させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の技術では、粉末油脂に含まれる油分が少ないため、食感(弾力性)や膨化度を良好にするという観点からは、依然として改善の余地があった。以上の事情を考慮して、本発明では、植物たん白質成形体の食感を良好にする植物たん白質成形体用改質剤、植物たん白質成形体用改質剤を使用した植物たん白質成形体、および、植物たん白質成形体を含む飲食品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]本発明の植物たん白質成形体用改質剤は、植物たん白質成形体を改質するための粉末状の改質剤であって、油分を45質量%以上85質量%以下含有する。
【0008】
[2]押出成形により製造される前記植物たん白質成形体用である上記[1]に記載の植物たん白質成形体用改質剤。
【0009】
[3]前記改質剤は、粉末油脂であって、再溶解時のメディアン径が0.5μm以上2.0μm以下である[1]または[2]に記載の植物たん白質成形体用改質剤。
【0010】
[4]前記油分を55質量%以上75質量%以下含有する[1]から[3]の何れかに記載の植物たん白質成形体用改質剤。
【0011】
[5]本発明の植物たん白質成形体は、植物たん白質と、上記の植物たん白質成形体用改質剤とを含み、前記植物たん白質成形体用改質剤の含有量は、前記植物たん白質の含有量と前記植物たん白質成形体用改質剤の含有量との合計を100質量%としたときに、0.01質量%以上10質量%以下である。
【0012】
[6]本発明の飲食品は、上記の植物たん白質成形体を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明の植物たん白質成形体用改質剤によれば、植物たん白質成形体を改質することで、食感を良好にすることができる。
【0014】
本発明の植物たん白質成形体は、植物たん白質成形体用改質剤により改質されるから、食感が良好になる。
【0015】
本発明の飲食品によれば、改質された植物たん白質成形体を含むから、畜肉を用いたような飲食品により近づけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例13~15および参考例1に係る植物たん白質成形体の写真である。
【
図2】実施例18,22および参考例2に係る植物たん白質成形体の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<植物たん白質成形体用改質剤>
本発明に係る植物たん白質成形体用改質剤(以下、単に「改質剤」とも言う)は、植物たん白質成形体を改質するための粉末状の改質剤である。植物たん白質成形体とは、植物たん白質を用いた成形体であって、畜肉の食感および組織を模擬したものである。植物たん白質成形体の形状には、用途に応じた各種の形状(例えば、紐状、粒状または板状など)が採用される。
【0018】
植物たん白質成形体に本発明の改質剤を用いることで、弾力性、膨化度や表面の形状(なめらかさやツヤ・ハリ)を良好にすることができる。ひいては、植物たん白質成形体の食感を良好にすることが可能になる。
【0019】
本発明の改質剤は、例えば粉末状の油脂組成物(いわゆる粉末油脂)であって、油分を45質量%以上85質量%以下の割合で含有する。油分の含有量の詳細については、後述する。
【0020】
本発明の改質剤は、例えば、油脂と乳化基材と賦形剤とを含む。例えば、油脂を含む油相と、乳化基材および賦形剤を含む水相とを攪拌、均一化することにより得た水中油型乳化物を乾燥粉末化することで、改質剤を得ることができる。以上のような改質剤は、水中油型乳化物を、凍結乾燥または噴霧乾燥させた乳化型の形態である。なお、乳化型の改質剤の製造方法の詳細については後述する。
【0021】
改質剤に含有される油脂は、食用油脂であれば特に限定されない。油脂としては、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、菜種油、大豆油、綿実油、ヒマワリ油、米油、サフラワー油、コーン油、オリーブ油、ゴマ油、シア脂、サル脂、カカオ脂、豚脂(ラード)、牛脂、乳脂、魚油、羊脂、それらの加工油(分別、硬化及びエステル交換反応のうち1つ以上の処理がなされたもの)、香味油等が例示される。これらの中でも植物たん白成形体用改質剤はヴィーガン対応食など動物原料を食さない食品に利用されることを考慮すると、植物油脂が好ましく、さらに植物たん白に与える風味の観点からは、パーム油、パーム核油、ヤシ油、ヤシ極度硬化油、菜種油が好ましく、パーム油、ヤシ極度硬化油、菜種油が特に好ましい。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
改質剤に含有される乳化基材は、粉末油脂の構造の形成や、粉末油脂の乳化安定性の維持に寄与する成分であれば特に限定されない。乳化基材としては、例えば糖質、蛋白質およびガム質などであり、具体的には、加工澱粉(エーテル化処理したカルボキシメチル澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉、エステル化処理したリン酸澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、酢酸澱粉、湿熱処理澱粉、酸処理澱粉、架橋処理澱粉、α化処理澱粉、難消化性澱粉等)、脱脂粉乳、乳由来蛋白質(乳構成蛋白質(カゼインナトリウム、カゼインカリウム、ホエイ蛋白質、蛋白質濃縮ホエイパウダー、ホエイプロテインコンセントレート(WPC)、及びホエイプロテインアイソレート(WPI)等)及びその酵素分解物(乳ペプチド等)、全脂粉乳、脱脂粉乳、ミルクプロテインコンセントレート、クリームパウダー、バターミルクパウダー並びにトータルミルクプロテイン等)、豆由来蛋白質(大豆蛋白質、大豆分離蛋白質、エンドウ豆蛋白質、そら豆蛋白質、緑豆蛋白質、インゲン豆蛋白質、ヒラ豆(レンズ豆)蛋白質、ヒヨコ豆蛋白質、ルピン豆蛋白質、落花生蛋白質、ササゲ蛋白質)、種子由来蛋白質(ゴマ、キャノーラ、ココナッツ、オリーブ、ひまわり、ピーナッツ、ビート、コットン、アーモンドなどに由来する蛋白質)、穀物類由来蛋白質(トウモロコシ、そば、小麦、エンバク、米などに由来する蛋白質)、小麦蛋白質、米蛋白質、アラビアガム、ガティガム、コラーゲン、コラーゲンペプチド、ゼラチン、スフィンゴ脂質、植物ステロール類、胆汁末、トマト糖脂質、並びにその加水分解物などが例示され、この中でも粉末油脂の賦形剤としても機能する観点から、加工澱粉、乳由来蛋白質、豆由来蛋白質、アラビアガム、ガティガムが好ましく、加工澱粉、乳由来蛋白質、豆由来蛋白質がより好ましく、ヴィーガン対応食など動物原料を食さない食品に利用される観点からは、加工澱粉、大豆蛋白質、大豆分離蛋白質、エンドウ豆蛋白質が特に好ましい。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
改質剤における乳化基材の配合量の下限は、改質剤全体に対して、例えば1質量%以上であり、好ましくは2質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上である。乳化基材の配合量の上限は、改質剤全体に対して、好ましくは18質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下である。乳化基材の配合量を上記の範囲内にすることで、改質剤(粉末油脂)の乳化安定性を確保することができる。
【0024】
改質剤に含有される賦形剤は、例えば任意のデキストリンが使用される。デキストリンは、デンプンを化学的または酵素的方法により低分子化したデンプン部分加水分解物であり、市販品などを使用できる。デンプンの原料としては、コーン、キャッサバ、米、馬鈴薯、甘藷、小麦などが挙げられる。デキストリンとして、具体的には、例えば、デキストリン、マルトデキストリン、イソマルトデキストリン(分岐マルトデキストリン)、水あめ、粉あめ、シクロデキストリン、分岐シクロデキストリン、焙焼デキストリン、高分子デキストリン、難消化性デキストリン、グルコースシロップ、デキストロースなどが例示される。DE(Dextrose Equivalent)は特に限定されないが、3~30が好ましく、10~30がより好ましい。DEはデキストリンの構成単位であるグルコース残基の鎖長の指標となるものであり、デキストリン中の還元糖の含有量(%)を示す値である。これらのデキストリンは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
賦形剤の含有量の下限は、改質剤全体に対して、例えば10質量%以上であり、好ましくは15質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上である。賦形剤の含有量の上限は、改質剤全体に対して、例えば45質量%以下であり、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは35質量%以下である。
【0026】
改質剤における油分の含有量の下限は、改質剤全体(100質量%)に対して、45質量%以上であり、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは55質量%以上である。改質剤における油分の含有量の上限は、改質剤全体に対して、例えば85質量%以下であり、好ましくは80質量%以下であり、より好ましくは75質量%以下である。改質剤中の油分の含有量を上記の範囲内にすることで、植物たん白質成形体の食感を良好にすることができる。なお、改質剤における油分の含有量とは、改質剤中に含まれる油分全体の含有量であり、典型的には油脂の含有量であるが、その他の成分(例えば賦形剤や乳化基材)に油分が含有される場合には、油脂とその他の成分中の油分との合計量である。
【0027】
改質剤が乳化型である場合の製造方法の一例について説明する。乳化型の改質剤の製造方法は、例えば、乳化工程と粉末化工程とを含む。
【0028】
乳化工程は、乳化基材と賦形剤を含む水相に、前述のような油脂を含む油相を添加して、攪拌および乳化した後に均質化することにより、水中油型乳化物を得る工程である。具体的には、乳化工程では、前述の各原材料を乳化機(例えばホモミキサーなど)の撹拌槽に投入して撹拌混合した後、分散機(例えば圧力式ホモジナイザー)で均質化する。
【0029】
原材料のうち、油脂と賦形剤と乳化基材に対する水の配合比は、特に限定されるものではないが、例えば、油脂と賦形剤との合計量100質量%に対して水50~200質量%の範囲内にすることができる。これらの配合手順は、特に限定されないが、例えば、賦形剤を水に室温で分散した後に加熱下で攪拌して(または賦形剤を加熱した水に分散、攪拌して)完全に溶解させた後、ホモミキサーで攪拌しながら、油脂を加熱溶解させたものを滴下して乳化することができる。得られた乳化液は、圧力式ホモジナイザーに供給することによって油滴サイズが微細化される。例えば、市販の圧力式ホモジナイザーを用いて、10~250kgf/cm2程度の圧力をかけて均質化し、油滴サイズを微細化することができる。
【0030】
粉末化工程は、乳化工程で得られた水中油型乳化物を乾燥粉末化することで、改質剤を得る工程である。水中油型乳化物を乾燥粉末化する方法としては、一般的に知られている噴霧乾燥法、真空凍結乾燥法、真空乾燥法などを用いることができる。これらの中でも、噴霧乾燥法により得られる噴霧乾燥型粉末油脂が好ましい。
【0031】
粉末化工程では、まず、均質化した乳化液(水中油型乳化物)を高圧ポンプで噴霧乾燥機の入口に供給し、高温熱風を吹き込み、噴霧乾燥機の槽内に上方から噴霧する。噴霧乾燥された粉末は槽内底部に堆積される。噴霧乾燥機としては、例えば、アトマイザー方式やノズル方式で噴霧するスプレードライヤーを用いることができる。次に、噴霧乾燥された粉末を噴霧乾燥機の槽内から取り出した後、振動流動槽などにより搬送しながら冷風で冷却することによって、粉末油脂を製造することができる。なお、以上の製造方法において、適宜に加熱殺菌工程などを設けることもできる。
【0032】
改質剤が乳化型である場合には、上述した通り、水中油型乳化物を乾燥したものであり、水に添加すると元の水中油型乳化物となり、油滴が再分散した状態となる。改質剤における再溶解時のメディアン径の下限は、例えば0.3μm以上であり、好ましくは0.5μm以上である。改質剤における再溶解時のメディアン径の上限は、例えば2.5μm以下であり、好ましくは2.0μm以下であり、より好ましくは1.5μm以下である。再溶解時のメディアン径が上記の範囲内にあることで、植物たん白質成形体の食感を良好にする効果が顕著になる。
【0033】
なお、メディアン径は、改質剤を25℃の水に再溶解した際の油滴のメディアン径を、レーザー回折式粒子径分布測定装置によって測定することができる。
【0034】
本発明の改質剤は、以上に例示した、水中油型乳化物を乾燥させた乳化型以外の形態であってもよい。乳化型以外の形態に係る改質剤としては、例えば、油脂と賦形剤とを含み、当該賦形剤に油脂を含侵させたものである。このような改質剤は、例えば、賦形剤に油脂を吸油させることで、得ることができる。以上の形態において、賦形剤としては、例えば上述したデキストリン、保油力のある澱粉や食物繊維などが例示される。
【0035】
以上の説明から理解される通り、本発明の改質剤は、油脂と賦形剤とを含み、改質剤の形態に応じて、適宜にその他の成分(例えば乳化型の形態では乳化基材)を含有し得る。
【0036】
さらに、本発明の改質剤には、上述した成分以外のその他の成分が配合されていてもよい。その他の成分としては、粉末油脂に通常配合され得る成分が挙げられ、例えば、乳化剤、抗酸化剤、賦形剤(デキストリン以外)、増粘剤、防腐剤、着色剤、フレーバー、pH調整剤等が挙げられる。乳化剤としては、例えば、レシチン、サポニン、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸ナトリウム、ステアロイル乳酸カルシウム等を例示することができる。なお、改質剤に含有される水分の含有量は、改質剤全体に対して、例えば0.1質量%以上10質量%以下であり、好ましくは0.5質量%以上7質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上3質量%以下である。
【0037】
<植物たん白質成形体>
本発明の植物たん白質成形体(以下、単に「成形体」とも言う)は、植物たん白質と、上述した改質剤とを含む。本発明の成形体は、食感が良好になる。
【0038】
植物たん白質としては、例えば、大豆、そら豆、えんどう豆、緑豆、ヒヨコ豆、落花生、ルビナス、キマメ、ナタ豆、ツル豆、インゲン豆、小豆、ササゲ、レンズ豆、イナゴ豆、オーツ麦、大麦、小麦、ライ麦、米、トウモロコシ、馬鈴薯、薩摩芋、チア、キヌア、ムラサキウマゴヤシ、麻、アーモンド、カシューナッツ、クルミ、ヘーゼルナッツ、ブラジルナッツ、ピスタチオ、パンプキンシード、ココナッツ、グレープシード、金時豆、黒豆、ほうれん草、アスパラガス、ブロッコリー、ケール、クランベリー、ザクロ、菜種、ひまわり種子、綿実種子、亜麻(アマニ)、ゴマ等の各種の植物由来の植物性たん白質、または、これらのたん白質を含む組成物などが例示される。また、これらの植物たん白質の酵素分解物や熱分解物等を使用してもよい。なお、これらは1種単独で植物性たん白質素材として使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
上記のたん白質の中でも、大豆由来の植物性たん白質、えんどう豆由来の植物性たん白質、小麦由来の植物性タンパク質の少なくとも1種を使用することが好適であり、大豆由来の植物性たん白質を使用することが最も好ましい。大豆由来の植物性たん白質としては、例えば全脂大豆粉、脱脂大豆粉、分離大豆たん白質、濃縮大豆たん白質、などを使用することができる。
【0040】
植物たん白質の含有量の下限は、成形体全体(100質量%)に対して、例えば50質量%以上であり、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上である。なお、植物たん白質の含有量の上限は、特に限定されず、例えば改質剤以外が全て植物たん白質であってもよいし、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは90質量%以下であり、さらに好ましくは85質量%以下である。
【0041】
改質剤の含有量は、植物たん白質の含有量と改質剤の含有量との合計を100質量%としたときに、例えば0.01質量%以上10質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは0.2質量%以上7質量%以下である。改質剤の含有量を上記の範囲内にすることで、食感を良好にするという効果が顕著になる。
【0042】
改質剤の含有量は、所望する成形体の形状に応じても適宜に変更される。例えば、紐状や粒状の成形体の場合には、改質剤の含有量の下限は、植物たん白質の含有量と改質剤の含有量との合計を100質量%としたときに、例えば0.01質量%以上であり、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.2質量%以上である。改質剤の含有量の上限は、植物たん白質の含有量と改質剤の含有量との合計を100質量%としたときに、例えば2.0質量%以下であり、好ましくは1.5質量%以下であり、より好ましくは0.7質量%以下である。紐状や粒状の成形体の場合において、改質剤の含有量を上記の範囲内にすることで、特に成形体の弾力および膨化度を良好にすることができる。
【0043】
板状の成形体の場合には、改質剤の含有量の下限は、植物たん白質の含有量と改質剤の含有量との合計を100質量%としたときに、例えば0.01質量%以上であり、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.2質量%である。改質剤の含有量の上限は、植物たん白質の含有量と改質剤の含有量との合計を100質量%としたときに、例えば8.0質量%以下であり、好ましくは7.0質量%以下である。
【0044】
また、板状の成形体の中でも中心部を膨化させる場合(実施例において後述するホルモン様の場合)には、改質剤の含有量は、植物たん白質の含有量と改質剤の含有量との合計を100質量%としたときに、0.01質量%以上2.0質量%以下が好ましい。一方で、板状の成形体の中でも膨化を抑制させる場合(実施例において後述する平板状の場合)には、改質剤の含有量は、植物たん白質の含有量と改質剤の含有量との合計を100質量%としたときに、2.5質量%以上8.0質量%以下が好ましい。板状の成形体の場合において、改質剤の含有量を上記の範囲内にすることで、特に、表面のなめらかさ、表面のハリおよびツヤを良好にすることができる。
【0045】
なお、成形体は、植物たん白質および改質剤の他に、増粘剤、食用油、澱粉、加工澱粉、小麦粉、コーンフラワー、米粉、食物繊維、食塩、グルタミン酸ソーダ、グラニュー糖、ブドウ糖、酵母エキス、香辛料、香辛料抽出物、凍結解凍蒟蒻ミンチ、ローストオニオン、増粘多糖類、ココアパウダー、ビーツ粉末、卵白、乳たん白、ゼラチン、コラーゲン等の他の各種の成分を含んでもよい。
【0046】
本発明の改質剤が用いられる植物たん白質成形体は、例えば押出成形により製造される。例えば、植物たん白質や本発明の改質剤を含む原料を混合後に押出機(例えば2軸エクストルーダー)のホッパーに投入して、一定量の水を供給しながらバレル温度30~150℃で加熱する。その後、押出機の先端に設置されたダイ(金型)から押出成形することで、成形体を得る。なお、必要に応じて、押出成形の際にダイを冷却してもよい。ダイの形状については、所望する成形体の形状に応じて適宜に変更し得る。例えば、粒状や紐状の成形体を得たい場合には、丸型のダイを使用し、板状の植物たん白質成形体を得たい場合には、板型のダイを使用する。なお、粒状の成形体は、例えば紐状の成形体を得た後に適宜にカットすることで得られる。
【0047】
以上の説明から理解される通り、本発明の改質剤は、植物たん白質とともに原料として添加することで、成形体を改質するものである。また、改質剤を水に溶解させ、別途、原料として供給することで使用することもできる。
【0048】
本発明の植物たん白質成形体は、各種の飲食品の原料として畜肉の代わりに使用される。植物たん白質成形体が粒状である場合には、挽肉の代替として、例えばハンバーグ、パティ、ミートボール、ナゲット、つくね、ビーフジャーキー、そぼろ、ソーセージ、サラミ、フランクフルト、アメリカンドック、餃子、焼売、春巻き、肉饅頭、小龍包、焼売、メンチカツ、ミートパイ、ミートソース様食品、ラビオリ、ラザニア、ミートローフ、ロールキャベツ、ピーマンの肉詰め等に使用される。また、植物たん白質成形体が板状である場合には、畜肉や畜肉の内臓の代替として、フィレ肉(ヒレ)、フライドチキン、ホルモン、ジャーキー等に使用される。
【実施例0049】
以下に、実施例により本発明を詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0050】
<1>改質剤の作製
表1に実施例1~12および比較例1,2の改質剤1~14を以下の方法にて作製した。
【0051】
実施例1~9,11,12および比較例1,2に係る改質剤1~9,11~14は、水中油型乳化物を噴霧乾燥させた乳化型である。表1に記載の油脂を70℃に調温し油相とした。油相、乳化基材(加工澱粉、カゼインナトリウム)、賦形剤(デキストリン)の合計量100質量%に対して100質量%の水を60℃に調温し、乳化基材、賦形剤を添加し水相とした。油相を70℃で、水相を60℃で保持し、ホモミキサーで攪拌しながら水相に油相の全量を添加し、水中油型に乳化させた後、ホモジナイザーで150kgf/cm2の圧力をかけて均質化し、水中油型乳化物を得た。得られた水中油型乳化物を、ノズル式スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥し、水分1.5質量%の改質剤を得た(噴霧乾燥条件:入口温度210℃)。改質剤の組成は表1に示したとおりである。
【0052】
一方で、実施例10に係る改質剤10は、デキストリンに油脂を含侵させたものである。実施例10は、デキストリンを攪拌しながら、60℃に調温した油脂を加え、均一になるように混合することで作製した。混合方法は、一般的に知られている粉体混合法を用いることができる。
【0053】
実施例1~12および比較例1,2においては、改質剤全体に対する油分の含有量は油脂の含有量に相当する。なお、比較例2については、油脂の含有量が多すぎるため、改質剤の作製が困難であった。
【0054】
得られた改質剤について、再溶解時のメディアン径を測定した。その結果を表1に示す。なお、実施例10については、乳化型ではないため、メディアン径の測定は省略した。メディアン径は、改質剤を25℃の水で10質量%濃度となるように溶解した際の油滴のメディアン径を、レーザー回折式粒子径分布測定装置(商品名「SALD-2300」、株式会社島津製作所製)によって測定した。
【0055】
<2>植物たん白質成形体の作製1
実施例1~12,比較例1に係る改質剤1~13を用いて、紐状の植物たん白質成形体を作製した。具体的には、原料(改質剤0.2質量%,脱脂大豆粉99.8質量%)を均一に混合した原料を2軸エクストルーダーのホッパーに投入し、一定量の水を供給しながら、バレル温度30~150℃で加熱した。その後、丸穴ダイから押出成形して紐状の成形体を得た。
【0056】
改質剤1~13を用いて得られた成形体について評価を行った。脱脂大豆粉と水のみで作成した成形体(参考例1)を基準として、喫食時の「弾力」と、成形体自体の「膨化度」とを評価した。その結果を表1に示す。参考例1に係る成形体の作製条件は、上述した実施例1~12,比較例1と同様である。
【0057】
[弾力]
弾力は得られた成形体を1cm幅にカットし、3分間沸騰したお湯で加熱したもので評価した。参考例1に対して、喫食時の弾力がより強く感じるかをパネル10名で評価した。パネルは五味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)の識別テスト、味の濃度差識別テスト、食品の味の識別テスト、基準嗅覚テストを実施し、その各々のテストで適合と判断された20~50代の男性6名、女性4名を選抜した。評価基準は、以下の通りである。
◎:10名中、8名以上が強く感じると回答した。
○:10名中、5名~7名が強く感じると回答した。
△:10名中、3名~4名が強く感じると回答した。
×:参考例1より弾力を強く感じると答えたのは10名中2名以下であった。
【0058】
[膨化度]
膨化度は、得られた紐状の成形体の外径(mm)をそれぞれ5カ所測定して平均値を求め、参考例1の外径に対する実施例・比較例の外径の比(実施例・比較例の平均外径/参考例1の平均外径)により評価した。評価基準は、以下の通りである。
◎+:外径比が1.6以上
◎:外径比が1.3以上1.6未満
○:外径比が1.2以上1.3未満
×:外径比が1.2未満
【0059】
【0060】
表1から把握される通り、実施例1~12に係る改質剤1~12は、油分を45質量%以上85質量%以下含有することで、比較例1に係る改質剤13と比較して、成形体の弾力および膨化度が良好であった。すなわち、成形体の食感が良好になったと言える。
【0061】
<3>植物たん白質成形体の作製2
実施例2に係る改質剤2の添加量を相違させて実施例13~16に係る成形体を作製した。成形体の作製条件は、上述した「<2>植物たん白質成形体の作製1」と同様である。
図1には、実施例13~15および参考例1に係る成形体の写真を示す。
【0062】
実施例13~16に係る成形体について、喫食時の「弾力」と、「大豆臭のマスキング」と、成形体自体の「膨化度」とについて評価をした。その結果を表2に示す。なお、「弾力」と「膨化度」との評価基準は、上述した「<2>植物たん白質成形体の作製1」と同様である。
【0063】
[大豆臭のマスキング]
大豆臭のマスキングは、「弾力」の評価と同様に、得られた成形体を1cm幅にカットして、3分間沸騰したお湯で加熱したもので評価した。大豆臭のマスキングについては、参考例1に対して弱く感じるかをパネル10名で評価した。
評価基準は、以下の通りである。
◎:10名中、8名以上が弱く感じると回答した。
○:10名中、5名~7名が弱く感じると回答した。
△:10名中、3名~4名が弱く感じると回答した。
×:参考例1より大豆臭を弱く感じると回答したのは10名中2名以下であった。
【0064】
【0065】
表2から把握される通り、成形体が紐状である場合には、改質剤の含有量が植物たん白質の含有量と改質剤の含有量との合計を100質量%としたときに0.2質量%以上0.7質量%以下であると、特に弾力および膨化度が良好になることが確認された。なお、大豆臭のマスキングに関しては、全ての実施例において良好であった。
【0066】
<4>植物たん白質成形体の作製3
表3に示す配合で、実施例17~22,比較例3,参考例2に係る板状の成形体を作製した。具体的には、原料(改質剤および脱脂大豆粉)を混合して、2軸エクストルーダーのホッパーに投入し、一定量の水を供給しながら、バレル温度30~150℃で加熱した。その後、板型のダイから押出成形して板状の成形体を得た。なお、膨化を抑制するためダイを冷却しながら押出成形を行った。
図2には、参考例2および実施例18,22に係る成形体の写真(表面および断面)を示す。
【0067】
得られた成形体について、以下の通り、「形状」「表面のなめらかさ」および「表面のハリ、ツヤ」について評価を行った。その結果を表3に示す。
【0068】
[形状]
得られた成形体の断面を目視で観察した。「フィレ様」は、表面にざらつきがあり、チキンのフィレ肉を模した形状である。「平板状」は、表面がなめらかな外層を有し、膨化が抑制された形状である。「ホルモン様」は、表面がなめらかな外層を有しつつも、中心部が膨化した形状である。
【0069】
[表面のなめらかさ]
参考例2を基準として、目視により表面のなめらかさが強く感じるかをパネル10名で行った。評価基準は、以下の通りである。
◎:10名中、8名以上が強く感じると回答した。
○:10名中、5名~7名が強く感じると回答した。
△:10名中、3名~4名が強く感じると回答した。
×:参考例2より弾力を強く感じると答えたのは10名中2名以下であった。
【0070】
[表面のハリ、ツヤ]
参考例2を基準として、目視により表面のハリ、ツヤが強く感じるかをパネル10名で行った。評価基準は、以下の通りである。
◎:10名中、8名以上が強く感じると回答した。
○:10名中、5名~7名が強く感じると回答した。
△:10名中、3名~4名が強く感じると回答した。
×:参考例2より弾力を強く感じると答えたのは10名中2名以下であった。
【0071】
【0072】
表3から把握される通り、実施例17~22に係る板状の成形体は、比較例3に係る成形体と比較して、表面のなめらかさ、および、表面のハリ、ツヤが良好になることが確認できた。また、本発明の改質剤の添加量に応じて、成形体の形状が変化(ホルモン様または平板状)することも確認された。
【0073】
<飲食品(大豆ハンバーグ)の作製>
実施例2、比較例1および参考例1で得られた紐状の植物たん白質成形体を用いて大豆ハンバークを作製した。以下の通り、大豆ハンバーグを作製した。
【0074】
まず、紐状の植物たん白質成形体を5mm幅にカットし、十分量の水に浸漬させ、室温で1時間放置した。余分な水気を切り、水戻し粒状大豆たん白とした。そして、粉末状大豆たん白20g、メチルセルロース4g、菜種油20gを混合し、そこに氷水156gを加えて、カッターミキサーで十分に攪拌し、大豆カードを作製した。
【0075】
水戻し粒状大豆たん白108gへ、大豆カード110g、食用油脂50g、ソテーオニオン30g、食塩2g、香辛料0.5gを加え、粘りが出るまでよく捏ね合わせて生地を作製した。生地を50gずつに成形し、180℃に設定したコンベクションオーブンで15分焼成した。焼成後、半分にカットしたものを試験に供した。
【0076】
実施例2、比較例1で得られた植物たん白質成形体を用いて作製した大豆ハンバーグをそれぞれ実施例23、比較例4とした。実施例23および比較例4にについて、「弾力」と「大豆臭のマスキング」とを評価した。
【0077】
[弾力]
弾力は、参考例1の成形体を用いて作製した大豆ハンバーグを基準として、喫食時に強く感じるかをパネル10名で評価した。評価基準は、以下の通りである。
◎:10名中、8名以上が強く感じると回答した。
○:10名中、5名~7名が強く感じると回答した。
△:10名中、3名~4名が強く感じると回答した。
×:10名中、2名以下が強く感じると回答した。
【0078】
[大豆臭のマスキング]
大豆臭のマスキングは、参考例1の成形体を用いて作製した大豆ハンバーグを基準として、喫食時に弱く感じるかをパネル10名で評価した。評価基準は、以下の通りである。
◎:10名中、8名以上が弱く感じると回答した。
○:10名中、5名~7名が弱く感じると回答した。
△:10名中、3名~4名が弱く感じると回答した。
×:10名中、2名以下が弱く感じると回答した。
【0079】
【0080】
表4から把握される通り、実施例23に係る大豆ハンバーグは、比較例4に係る大豆ハンバーグと比較して、弾力および大豆臭のマスキングが良好であることが確認できた。すなわち、実施例23に係る大豆ハンバーグは、改質された植物たん白質成形体を含むことで、畜肉を用いたような飲食品により近づいたと言える。