(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057279
(43)【公開日】2024-04-24
(54)【発明の名称】シミュレータシステム、シミュレーション方法、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
H04L 67/59 20220101AFI20240417BHJP
H04L 67/12 20220101ALI20240417BHJP
【FI】
H04L67/59
H04L67/12
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163896
(22)【出願日】2022-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100157277
【弁理士】
【氏名又は名称】板倉 幸恵
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 健吾
(72)【発明者】
【氏名】高梨 昌樹
(57)【要約】
【課題】次世代コネクティッドサービスの評価に適したシミュレーション環境を提供する。
【解決手段】シミュレータシステムは、対象デバイスを仮想的に実現するデバイスシミュレータ部と、対象デバイスに関する情報を用いて対象デバイスにおいて使用される情報である提供情報を生成し、生成した提供情報を送信するサービス部と、デバイスシミュレータ部と、サービス部との間の通信環境を仮想的に実現するネットワークシミュレータ部と、ネットワークシミュレータ部へと情報を配信する配信部と、を備える。配信部は、対象デバイスに関する情報のうち、ネットワークシミュレータ部に影響を及ぼす特定の情報である特定情報をネットワークシミュレータ部へと配信し、ネットワークシミュレータ部は、配信された特定情報を用いて、通信環境における通信品質を変更する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シミュレータシステムであって、
対象デバイスを仮想的に実現するデバイスシミュレータ部と、
前記デバイスシミュレータ部から前記対象デバイスに関する情報を取得し、取得した情報を用いて前記対象デバイスにおいて使用される情報である提供情報を生成し、生成した提供情報を前記デバイスシミュレータ部に送信するサービス部と、
前記デバイスシミュレータ部と、前記サービス部との間の通信環境を仮想的に実現するネットワークシミュレータ部と、
前記ネットワークシミュレータ部へと情報を配信する配信部と、
を備え、
前記配信部は、前記対象デバイスに関する情報のうち、前記ネットワークシミュレータ部に影響を及ぼす特定の情報である特定情報を前記ネットワークシミュレータ部へと配信し、
前記ネットワークシミュレータ部は、配信された前記特定情報を用いて、前記通信環境における通信品質を変更する、シミュレータシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のシミュレータシステムであって、
前記ネットワークシミュレータ部は、異なる前記通信環境をそれぞれ仮想的に実現する複数のネットワークシミュレータ部を含み、
前記配信部は、前記特定情報を、前記複数のネットワークシミュレータ部にそれぞれ配信し、
前記複数のネットワークシミュレータ部は、それぞれ配信された前記特定情報を用いて、各前記通信環境における通信品質をそれぞれ変更する、シミュレータシステム。
【請求項3】
請求項2に記載のシミュレータシステムであって、
前記複数のネットワークシミュレータ部のそれぞれから前記サービス部に対する通信を集約すると共に、前記サービス部から前記複数のネットワークシミュレータ部のそれぞれに通信を分散させる第1多重装置部と、
前記複数のネットワークシミュレータ部のそれぞれから前記デバイスシミュレータ部に対する通信を集約すると共に、前記デバイスシミュレータ部から前記複数のネットワークシミュレータ部のそれぞれに通信を分散させる第2多重装置部と、
のうちの少なくとも一方をさらに備える、シミュレータシステム。
【請求項4】
請求項3に記載のシミュレータシステムであって、
前記複数のネットワークシミュレータ部を、それぞれ1つ以上の前記ネットワークシミュレータ部から構成される第1群、第2群、第3群に分割したとき、
前記第1群に属する前記ネットワークシミュレータ部から構成された第1ネットワークと、
前記第2群に属する前記ネットワークシミュレータ部と、前記第2群に属する前記ネットワークシミュレータ部に対する通信の集約及び分散を行う前記第1多重装置部及び前記第2多重装置部と、から構成された第2ネットワークと、
前記第3群に属する前記ネットワークシミュレータ部と、前記第3群に属する前記ネットワークシミュレータ部に対する通信の集約及び分散を行う前記第1多重装置部及び前記第2多重装置部と、から構成された第3ネットワークと、
を備える、シミュレータシステム。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のシミュレータシステムであって、
前記ネットワークシミュレータ部と、前記デバイスシミュレータ部とは、それぞれ地図を有しており、
前記対象デバイスに関する情報には、前記対象デバイスの位置情報が含まれ、
前記配信部は、前記特定情報として、前記対象デバイスの位置情報を前記ネットワークシミュレータ部へと配信し、
前記ネットワークシミュレータ部は、配信された前記対象デバイスの位置情報を用いて、前記地図から前記対象デバイスの位置周辺における電波環境を推定し、推定した電波環境に応じて、前記通信環境における通信品質を変更する、シミュレータシステム。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のシミュレータシステムであって、
前記デバイスシミュレータ部は、
前記対象デバイスが有する1つまたは複数のセンサを仮想的に実現し、
前記特定情報として、前記1つまたは複数のセンサから取得された情報を用いる、シミュレータシステム。
【請求項7】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のシミュレータシステムであって、
前記デバイスシミュレータ部は、前記対象デバイスとしての車両を仮想的に実現する、シミュレータシステム。
【請求項8】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のシミュレータシステムであって、
前記サービス部が前記デバイスシミュレータ部から取得する前記対象デバイスに関する情報には、仮想的に実現された前記対象デバイスに仮想的に搭載されたカメラのカメラ画像が含まれており、
前記サービス部は、前記デバイスシミュレータ部から取得した前記カメラ画像を表示部に表示させる、シミュレータシステム。
【請求項9】
シミュレーション方法であって、情報処理装置が、
対象デバイスを仮想的に実現するデバイスシミュレーション工程と、
前記対象デバイスに関する情報を取得し、取得した情報を用いて前記対象デバイスにおいて使用される情報である提供情報を生成し、生成した提供情報を送信するサービス工程と、
前記デバイスシミュレーション工程と、前記サービス工程との間の通信環境を仮想的に実現するネットワークシミュレーション工程と、
情報を配信する配信工程と、
を備え、
前記配信工程では、前記対象デバイスに関する情報のうち、前記ネットワークシミュレーション工程に影響を及ぼす特定の情報である特定情報を前記ネットワークシミュレーション工程へと配信し、
前記ネットワークシミュレーション工程では、配信された前記特定情報を用いて、前記通信環境における通信品質を変更する、シミュレーション方法。
【請求項10】
コンピュータプログラムであって、情報処理装置に、
対象デバイスを仮想的に実現するデバイスシミュレーション機能と、
前記対象デバイスに関する情報を取得し、取得した情報を用いて前記対象デバイスにおいて使用される情報である提供情報を生成し、生成した提供情報を送信するサービス機能と、
前記デバイスシミュレーション機能と、前記サービス機能との間の通信環境を仮想的に実現するネットワークシミュレーション機能と、
情報を配信する配信機能と、
を実行させ、
前記配信機能では、前記対象デバイスに関する情報のうち、前記ネットワークシミュレーション機能に影響を及ぼす特定の情報である特定情報を前記ネットワークシミュレーション機能へと配信し、
前記ネットワークシミュレーション機能では、配信された前記特定情報を用いて、前記通信環境における通信品質を変更する、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミュレータシステム、シミュレーション方法、及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代移動体通信であるBeyond5G(B5G)や、6Gの研究開発が活発に行われている。このような次世代移動体通信を利用することで、遠隔運転システムや、遠隔自動運転システムのような、今まで実現できなかったコネクティッドサービスを実現できる可能性がある。ここで、遠隔運転システムとは、遠隔地にいるドライバーが、車両から送信された映像や位置情報等に基づいて、外部から車両を手動で制御するシステムを指す。また、遠隔自動運転システムとは、クラウドやエッジサーバが、車両から送信された映像や位置情報等に基づいて、自動運転を行うシステムを指す。以降、遠隔運転システムや遠隔自動運転システムのように、ネットワークを介して、車両のような対象デバイスを制御するサービスや、対象デバイスにおいて使用される何らかの情報を提供するサービスを総称して「次世代コネクティッドサービス」と呼ぶ。
【0003】
上記のように、移動体通信網の進化によって、次世代コネクティッドサービスの実現可能性はあるものの、実証ベースでの次世代コネクティッドサービスの評価は、初期段階では難しい。これは、例えば遠隔自動運転システムの評価をしようとする場合、実車の手配及び改造、クラウドシステムの構築等が必要となり、時間、コスト共に大きな投資が必要となることに起因する。この点を考慮すると、次世代コネクティッドサービス開発の初期段階では、実車やクラウドシステムを仮想的に実現したシミュレーション環境において、サービスの実現可能性を含めた評価を行うことが、開発リードタイムの短縮や、コスト削減につながるため好ましい。この点、非特許文献1には、複数のシミュレータの間で、車両の運動情報(位置、速度等)を同期しながら評価通信を行うシミュレータが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Dongyao Jia, Jie Sun, Anshuman Sharma, Zuduo Zheng, Bingyi Liu, "Integrated simulation platform for conventional, connected and automated driving: A design from cyber-physical systems perspective", ScienceDirect Volume 124, March 2021, Article 102984.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、現在、このような次世代コネクティッドサービスの評価に適したシミュレーション環境は存在しないという課題があった。例えば、非特許文献1に記載のシミュレータは、ネットワークシミュレータ内の評価通信が増加すると性能をスケールできなくなるため、次世代コネクティッドサービスのようなリアルタイムシミュレーションには適していない。なお、このような課題は、コネクティッドサービスの対象となる対象デバイスとして、遠隔運転システムや遠隔自動運転システムの例で示した車両を用いる場合に限らず、ロボット、ドローン等の任意のデバイスを用いる場合に共通する。また、このような課題は、次世代移動体通信であるB5Gや6Gを使用してコネクティッドサービスを構築する場合に限らず、任意の通信システムを利用してコネクティッドサービスを構築する場合に共通する。
【0006】
本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、次世代コネクティッドサービスの評価に適したシミュレーション環境を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本発明の一形態によれば、シミュレータシステムが提供される。このシミュレータシステムは、対象デバイスを仮想的に実現するデバイスシミュレータ部と、前記デバイスシミュレータ部から前記対象デバイスに関する情報を取得し、取得した情報を用いて前記対象デバイスにおいて使用される情報である提供情報を生成し、生成した提供情報を前記デバイスシミュレータ部に送信するサービス部と、前記デバイスシミュレータ部と、前記サービス部との間の通信環境を仮想的に実現するネットワークシミュレータ部と、前記ネットワークシミュレータ部へと情報を配信する配信部と、を備え、前記配信部は、前記対象デバイスに関する情報のうち、前記ネットワークシミュレータ部に影響を及ぼす特定の情報である特定情報を前記ネットワークシミュレータ部へと配信し、前記ネットワークシミュレータ部は、配信された前記特定情報を用いて、前記通信環境における通信品質を変更する。
【0009】
この構成によれば、シミュレータシステムは、対象デバイスを仮想的に実現するデバイスシミュレータ部と、デバイスシミュレータ部から取得した対象デバイスに関する情報を用いて対象デバイスにおいて使用される情報である提供情報を生成し、生成した提供情報をデバイスシミュレータ部に送信するサービス部と、デバイスシミュレータ部とサービス部との間の通信環境を仮想的に実現するネットワークシミュレータ部と、を備えるため、次世代コネクティッドサービスの評価が可能なシミュレーション環境を提供できる。また、この構成によれば、配信部は、ネットワークシミュレータ部に影響を及ぼす特定の情報である特定情報をネットワークシミュレータ部へと配信し、ネットワークシミュレータ部は、配信された特定情報を用いて通信環境における通信品質を変更するため、ネットワークシミュレータ部により仮想的に実現される通信環境の通信品質を更新しながら、リアルタイムな次世代コネクティッドサービスの評価を実行できる。換言すれば、対象デバイスの移動に伴い通信品質が変化するような次世代コネクティッドサービス(例えば、遠隔運転システムや、遠隔自動運転システム等)について、実態に即した評価を実現できる。さらに、本構成によれば、デバイスシミュレータ部とネットワークシミュレータ部とは、配信部を経由して特定情報を共有するため、これらの間での直接な同期を図る必要がなくなり、同期のために互いに動作を妨げられることがない。これらの結果、本構成によれば、次世代コネクティッドサービスの評価に適したシミュレーション環境を提供できる。
【0010】
(2)上記形態のシミュレータシステムにおいて、前記ネットワークシミュレータ部は、異なる前記通信環境をそれぞれ仮想的に実現する複数のネットワークシミュレータ部を含み、前記配信部は、前記特定情報を、前記複数のネットワークシミュレータ部にそれぞれ配信し、前記複数のネットワークシミュレータ部は、それぞれ配信された前記特定情報を用いて、各前記通信環境における通信品質をそれぞれ変更してもよい。
この構成によれば、複数のネットワークシミュレータ部によってそれぞれ実現される複数の通信環境を利用することによって、複数の通信環境を並行使用したサービス評価を実行できるため、より一層、実態に即した評価を実現できる。また、配信部は、特定情報を、複数のネットワークシミュレータ部にそれぞれ配信し、複数のネットワークシミュレータ部は、それぞれ配信された特定情報を用いて、各通信環境における通信品質をそれぞれ変更する。このため、複数のネットワークシミュレータ部間において同期をとる必要がなくなり、各ネットワークシミュレータ部を独立した別々のプロセスとして並行動作させることができる。
【0011】
(3)上記形態のシミュレータシステムにおいて、前記複数のネットワークシミュレータ部のそれぞれから前記サービス部に対する通信を集約すると共に、前記サービス部から前記複数のネットワークシミュレータ部のそれぞれに通信を分散させる第1多重装置部と、前記複数のネットワークシミュレータ部のそれぞれから前記デバイスシミュレータ部に対する通信を集約すると共に、前記デバイスシミュレータ部から前記複数のネットワークシミュレータ部のそれぞれに通信を分散させる第2多重装置部と、のうちの少なくとも一方をさらに備えてもよい。
この構成によれば、複数のネットワークシミュレータ部とサービス部との通信を集約及び分散させる第1多重装置部と、複数のネットワークシミュレータ部とデバイスシミュレータ部との通信を集約及び分散させる第2多重装置部と、のうちの少なくとも一方をさらに備える。このような第1多重装置部を用いれば、サービス部からは、複数のネットワークシミュレータ部を1つの回線とみなし処理できる。同様に、第2多重装置部を用いれば、デバイスシミュレータ部からは、複数のネットワークシミュレータ部を1つの回線とみなし処理できる。このため、複数のネットワークシミュレータ部と、第1多重装置部と、第2多重装置部と、を用いて、サービス部あるいはデバイスシミュレータ部からのトラフィック量に応じて、性能をスケール可能なネットワークを構成できる。すなわち本構成によれば、拡張性の高いシミュレータシステムを構成できる。
【0012】
(4)上記形態のシミュレータシステムにおいて、前記複数のネットワークシミュレータ部を、それぞれ1つ以上の前記ネットワークシミュレータ部から構成される第1群、第2群、第3群に分割したとき、前記第1群に属する前記ネットワークシミュレータ部から構成された第1ネットワークと、前記第2群に属する前記ネットワークシミュレータ部と、前記第2群に属する前記ネットワークシミュレータ部に対する通信の集約及び分散を行う前記第1多重装置部及び前記第2多重装置部と、から構成された第2ネットワークと、前記第3群に属する前記ネットワークシミュレータ部と、前記第3群に属する前記ネットワークシミュレータ部に対する通信の集約及び分散を行う前記第1多重装置部及び前記第2多重装置部と、から構成された第3ネットワークと、を備えてもよい。
この構成によれば、第1群に属するネットワークシミュレータ部から構成された第1ネットワークと、第2群に属するネットワークシミュレータ部、第1多重装置部及び第2多重装置部から構成された第2ネットワークと、第3群に属するネットワークシミュレータ部、第1多重装置部及び第2多重装置部から構成された第3ネットワークと、を備える。こうすれば、性能をスケールしない第1ネットワークと、性能をスケール可能な第2及び第3ネットワークとが混在した環境でサービス評価を実行できるため、より一層、拡張性の高いシミュレータシステムを構成できる。
【0013】
(5)上記形態のシミュレータシステムにおいて、前記ネットワークシミュレータ部と、前記デバイスシミュレータ部とは、それぞれ地図を有しており、前記対象デバイスに関する情報には、前記対象デバイスの位置情報が含まれ、前記配信部は、前記特定情報として、前記対象デバイスの位置情報を前記ネットワークシミュレータ部へと配信し、前記ネットワークシミュレータ部は、配信された前記対象デバイスの位置情報を用いて、前記地図から前記対象デバイスの位置周辺における電波環境を推定し、推定した電波環境に応じて、前記通信環境における通信品質を変更してもよい。
この構成によれば、特定情報として対象デバイスの位置情報を使用し、ネットワークシミュレータ部は、配信された対象デバイスの位置情報を用いて、地図から対象デバイスの位置周辺における電波環境を推定し、推定した電波環境に応じて、通信環境における通信品質を変更する。このため、対象デバイスの移動に伴い電波環境が変化し、この電波環境の変化に起因して通信品質が変化するような次世代コネクティッドサービス(例えば、遠隔運転システムや、遠隔自動運転システム等)について、より一層実態に即した評価を実現できる。
【0014】
(6)上記形態のシミュレータシステムにおいて、前記デバイスシミュレータ部は、前記対象デバイスが有する1つまたは複数のセンサを仮想的に実現し、前記特定情報として、前記1つまたは複数のセンサから取得された情報を用いてもよい。
この構成によれば、デバイスシミュレータ部は、対象デバイスが有する1つまたは複数のセンサを仮想的に実現し、特定情報として、対象デバイスが有する1つまたは複数のセンサから取得された情報を用いるため、より一層実態に即した評価を実現できる。
【0015】
(7)上記形態のシミュレータシステムにおいて、前記デバイスシミュレータ部は、前記対象デバイスとしての車両を仮想的に実現してもよい。
この構成によれば、デバイスシミュレータ部は、対象デバイスとしての車両を仮想的に実現するため、例えば、遠隔運転システムや、遠隔自動運転システムといった車両を用いた次世代コネクティッドサービスの評価を実現できる。
【0016】
(8)上記形態のシミュレータシステムにおいて、前記サービス部が前記デバイスシミュレータ部から取得する前記対象デバイスに関する情報には、仮想的に実現された前記対象デバイスに仮想的に搭載されたカメラのカメラ画像が含まれており、前記サービス部は、前記デバイスシミュレータ部から取得した前記カメラ画像を表示部に表示させてもよい。
この構成によれば、サービス部は、デバイスシミュレータ部から取得したカメラ画像を表示部に表示させるため、表示部に表示されるカメラ画像の画質を確認することによって、デバイスシミュレータ部とサービス部との間の通信環境を一見して把握できる。これは、通信環境の良/不良と、表示部に表示されるカメラ画像の画質の良/不良が比例するためである。
【0017】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、シミュレータ装置、情報処理装置、シミュレータシステム、これら各装置及びシステムの機能を実現するために情報処理装置において実行される方法、これら各装置及びシステムの機能を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを配布するためのサーバ装置、そのコンピュータプログラムを記憶した一時的でない記憶媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】次世代コネクティッドサービスの一例について説明する図である。
【
図2】本発明の一実施形態としてのシミュレータシステムの概略図である。
【
図3】シミュレータシステムにおける処理手順の一例を示すシーケンス図である。
【
図4】シミュレータシステムの構成の具体例について説明する図である。
【
図5】第2実施形態のシミュレータシステムの概略図である。
【
図6】第3実施形態のシミュレータシステムの概略図である。
【
図7】第4実施形態のシミュレータシステムの概略図である。
【
図8】第5実施形態のシミュレータシステムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1実施形態>
図1は、次世代コネクティッドサービスの一例について説明する図である。「次世代コネクティッドサービス」とは、ネットワークを介して、車両のような対象デバイスを制御するサービスや、ネットワークを介して、何らかの対象デバイス(車両に限られない)に対して、対象デバイスにおいて使用される何らかの情報を提供するサービスを意味する。
図1(A)は、次世代コネクティッドサービスの一例としての遠隔自動運転システムの概要を示す。
図1(B)は、次世代コネクティッドサービスの他の例としての遠隔運転システムの概要を示す。
【0020】
遠隔自動運転システムSaは、サーバSVが、車両C1から送信された映像や位置情報等に基づいて、自動運転を行うシステムである。
図1(A)に示すように、遠隔自動運転システムSaでは、ネットワークNTを介して、サーバSVと、対象デバイスとしての車両C1と、が通信可能に接続されている。車両C1は、サーバSVへと「対象デバイスに関する情報」を送信する。対象デバイスに関する情報には、例えば、位置情報、速度情報、映像等が含まれる。サーバSVは、対象デバイスに関する情報を用いて、車両C1を制御するための「提供情報」を生成し、提供情報を車両C1へと送信する。提供情報には、例えば、舵角、アクセル開度等の、車両C1を制御するための情報が含まれる。車両C1は、受信した提供情報に基づいて車両C1を制御する。これにより、遠隔自動運転を実現できる。
【0021】
遠隔運転システムSbは、遠隔地にいるドライバーOPが、車両C2から送信された映像や位置情報等に基づいて、外部から車両C2を手動で制御するシステムである。
図1(B)に示すように、遠隔運転システムSbでは、ネットワークNTを介して、情報処理装置端末PCと、対象デバイスとしての車両C2と、が通信可能に接続されている。車両C2は、端末PCへと、対象デバイスに関する情報(上述)を送信する。ドライバーOPは、端末PCに表示される対象デバイスに関する情報(例えば、映像等)を参照しつつ、端末PCを操作する。端末PCは、ドライバーOPの操作内容に応じた提供情報(上述)を生成し、提供情報を車両C2へと送信する。車両C2は、受信した提供情報に基づいて車両C2を制御する。これにより、遠隔運転を実現できる。
【0022】
なお、
図1の例では、対象デバイスとして車両を用いた遠隔自動運転システムSaや、遠隔運転システムSbを例示した。しかし、次世代コネクティッドサービスは、ドローンを遠隔自動操作/遠隔操作するシステムとして構成されてもよく、ロボットを遠隔自動操作/遠隔操作するシステムとして構成されてもよい。すなわち、対象デバイスとしては、車両以外の任意のデバイスを利用できる。対象デバイスとしては、例示したドローン、ロボットのほか、スマートフォンなどのデバイスも含み得る。また、ネットワークNTは、例えば、次世代移動体通信であるBeyond5G(B5G)や、6Gによって構築されているが、ネットワークNTは、B5Gや6G以外の移動体通信によって構築されてもよく、無線通信によって構築されてもよく、有線通信によって構築されてもよく、車車間通信によって構築されてもよい。
【0023】
図2は、本発明の一実施形態としてのシミュレータシステム1の概略図である。シミュレータシステム1は、
図1で説明したような次世代コネクティッドサービスを、1つまたは複数の情報処理装置を用いて仮想的に構築し、次世代コネクティッドサービスの評価を行うことができるシステムである。
図2に示すように、シミュレータシステム1は、サービス部10と、ネットワークシミュレータ部20と、デバイスシミュレータ部30と、配信部40とを備えている。
【0024】
デバイスシミュレータ部30は、対象デバイスを仮想的に実現する機能部である。対象デバイスとは、
図1に示した車両C1,C2や、ロボット、ドローン、スマートフォン等の、本シミュレータシステム1による制御対象(あるいは、情報の提供対象)となる任意のデバイスである。デバイスシミュレータ部30は、対象デバイスが有する1つまたは複数のセンサを仮想的に実現している。デバイスシミュレータ部30は、これら仮想的に実現された、1つまたは複数のセンサからそれぞれ取得された情報を、対象デバイスに関する情報として取得し、サービス部10へと送信する。
【0025】
図1(A)の遠隔自動運転システムSaを例示して具体例を説明する。デバイスシミュレータ部30は、車両C1に搭載されたセンサとして、例えば、次のa1~a4を仮想的に実現する。
(a1)カメラ
(a2)GPS(Global Positioning System/全地球測位システム)センサ
(a3)車速センサ
(a4)電波強度センサ
そして、デバイスシミュレータ部30は、センサa1~a4に対応した、次のb1~b4を、対象デバイスに関する情報として取得し、送信する。以降、次のb1~b4に示す情報を単に「センサ情報」とも呼ぶ。
(b1)カメラ画像
(b2)車両C1の位置情報
(b3)車両C1の速度情報
(b4)車両C1における受信信号強度
【0026】
サービス部10は、対象デバイスに対して、所定のサービスを提供する機能部である。サービス部10は、デバイスシミュレータ部30から取得したセンサ情報(対象デバイスに関する情報)を用いて提供情報を生成し、生成した提供情報をデバイスシミュレータ部30に送信する。なお、サービス部10がセンサ情報から提供情報を生成する処理には、周知の自動運転技術が使用できる。
【0027】
図1(A)の遠隔自動運転システムSaを例示して具体例を説明する。サービス部10は、車両C1の提供情報として、例えば、次のc1,c2を生成、送信する。
(c1)車両C1の舵角
(c2)車両C1のアクセル開度
【0028】
ネットワークシミュレータ部20は、デバイスシミュレータ部30と、サービス部10との間の通信環境を仮想的に実現する機能部である。
図2の例では、ネットワークシミュレータ部20は、複数のネットワークシミュレータ部NS1~NSn(nは自然数)を含んでいる。ネットワークシミュレータ部NS1~NSnは、それぞれ、異なる通信環境を仮想的に実現している。ここで「異なる通信環境」とは、同一の次世代移動体通信(例えば6G)に準拠した異なるキャリアを実現したものであってもよく、それぞれ異なる通信方式に準拠した異なるネットワークを実現したものであってもよい。後者の場合、例えば、ネットワークシミュレータ部NS1はB5Gに準拠したネットワーク、ネットワークシミュレータ部NS2は6Gに準拠したネットワーク、ネットワークシミュレータ部NS3は無線通信に準拠したネットワーク、ネットワークシミュレータ部NS4は有線通信に準拠したネットワーク、としてもよい。
【0029】
配信部40は、デバイスシミュレータ部30からセンサ情報(対象デバイスに関する情報)を取得する。そして配信部40は、センサ情報(対象デバイスに関する情報)のうち、ネットワークシミュレータ部20に影響を及ぼす特定の情報を抜き出し、ネットワークシミュレータ部20へと配信する。ネットワークシミュレータ部20に影響を及ぼす特定の情報を、単に「特定情報」とも呼ぶ。本実施形態では、特定情報として、上記b4で例示した「受信信号強度」を用いる場合を例示する。なお、配信部40は、センサ情報b1~b4の全てを受信することに代えて、特定情報(例えばb4:受信信号強度)のみを受信し、受信した特定情報(例えばb4)を配信してもよい。
【0030】
なお、デバイスシミュレータ部30により実現される工程を「デバイスシミュレーション工程」とも呼び、デバイスシミュレータ部30により実現される機能を「デバイスシミュレーション機能」とも呼ぶ。同様に、サービス部10により実現される工程を「サービス工程」とも呼び、サービス部10により実現される機能を「サービス機能」とも呼ぶ。ネットワークシミュレータ部20により実現される工程を「ネットワークシミュレーション工程」とも呼び、ネットワークシミュレータ部20により実現される機能を「ネットワークシミュレーション機能」とも呼ぶ。配信部40により実現される工程を「配信工程」とも呼び、配信部40により実現される機能を「配信機能」とも呼ぶ。
【0031】
図3は、シミュレータシステム1における処理手順の一例を示すシーケンス図である。
図3では、図示の便宜上、n個のネットワークシミュレータ部NS1~NSnのうちの2つのみを抜き出して記載している。
図3に示す処理は、シミュレータシステム1を構成する情報処理装置の起動を契機として開始されてもよく、情報処理装置内において実装されている所定のアプリケーションの実行を契機として開始されてもよい。ステップS10において、サービス部10、ネットワークシミュレータ部20、デバイスシミュレータ部30、及び配信部40の各機能部が起動する。
【0032】
ステップS20~S28に示す処理を「第1処理SA」とも呼ぶ。第1処理SAは、次世代コネクティッドサービスの機能を実現するための処理である。ステップS30~S26に示す処理を「第2処理SB」とも呼ぶ。第2処理SBは、ネットワークシミュレータ部20により仮想的に実現される通信環境の通信品質を変更(更新)するための処理である。第1処理SAと、第2処理SBとは、非同期で実行されるが、処理SA,SBを同期させて実行してもよい。また、第1処理SAと第2処理SBとの実行回数は、同じであってもよいし、相違してもよい。例えば、第1処理SAが複数回実行される間に、第2処理SBが1回実行される、等の構成にしてもよい。
【0033】
第1処理SAについて説明する。ステップS20においてデバイスシミュレータ部30は、仮想的に実現されたセンサ(例えばa1~a4)から、センサ情報(例えばb1~b4)を取得する。ステップS22においてデバイスシミュレータ部30は、センサ情報を、サービス部10へと送信する。この際、デバイスシミュレータ部30は、複数のネットワークシミュレータ部NS1~NSnにより実現された仮想的な通信環境のうちの1つを用いて、サービス部10との通信を行う(
図3:破線丸枠)。どの通信環境を用いるかは、通信品質の良否に応じて決定されてもよいし、任意の選択プログラムを用いて決定されてもよい。図示の例では、デバイスシミュレータ部30は、ネットワークシミュレータ部NS1を用いて、センサ情報をサービス部10へ送信している。
【0034】
ステップS24においてサービス部10は、受信したセンサ情報を用いて、提供情報(例えばc1,c2)を生成する。また、サービス部10は、受信したセンサ情報の少なくとも一部(例えばb1:カメラ画像)を、モニタ等の表示部に表示させる。なお、センサ情報の表示は、省略してもよい。その後、ステップS26においてサービス部10は、生成した提供情報を、デバイスシミュレータ部30へと送信する。この際、サービス部10は、複数のネットワークシミュレータ部NS1~NSnにより実現された仮想的な通信環境のうちの1つを用いて、デバイスシミュレータ部30との通信を行う(
図3:破線丸枠)。どの通信環境を用いるかは、通信品質の良否に応じて決定されてもよいし、任意の選択プログラムを用いて決定されてもよい。図示の例では、サービス部10は、ネットワークシミュレータ部NS2を用いて、提供情報をデバイスシミュレータ部30へ送信している。
【0035】
ステップS28においてデバイスシミュレータ部30は、サービス部10から受信した提供情報を用いて、仮想的に実現された車両(対象デバイス)を制御する。その後、シミュレータシステム1は、処理をステップS20に遷移させ、上述したステップS20~S28を繰り返す。これにより、シミュレータシステム1において遠隔自動運転システムSaを仮想的に実現できる。
【0036】
第2処理SBについて説明する。ステップS30においてデバイスシミュレータ部30は、仮想的に実現されたセンサ(例えばa1~a4)から、センサ情報(例えばb1~b4)を取得する。ステップS32においてデバイスシミュレータ部30は、センサ情報を、配信部40へと送信する。ステップS34において配信部40は、取得したセンサ情報から、ネットワークシミュレータ部20に影響を及ぼす特定の情報である、特定情報(例えばb4:受信信号強度)を抜き出す。ステップS36において配信部40は、特定情報(例えばb4:受信信号強度)を、ネットワークシミュレータ部20を構成する全てのネットワークシミュレータ部NS1~NSnに対して、それぞれ配信する。
【0037】
ステップS36において各ネットワークシミュレータ部NS1~NSnは、それぞれ、配信された特定情報(例えばb4:受信信号強度)を用いて、各機能部が仮想的に実現している通信環境における通信品質を変更する。具体的には、上述の例の通り特定情報として受信信号強度を用いる場合は、各ネットワークシミュレータ部NS1~NSnは、それぞれ、配信された受信信号強度の大きさに比例させて、通信品質を良好に変更する。その後、シミュレータシステム1は、処理をステップS30に遷移させ、上述したステップS30~S36を繰り返す。これにより、センサ情報(より具体的には、センサ情報のうちの特定情報)に応じて、ネットワークシミュレータ部20により仮想的に実現される通信環境の通信品質を変更(更新)できる。
【0038】
このように、シミュレータシステム1によれば、遠隔自動運転システムSaを仮想的に実現する第1処理SAと、通信環境の通信品質を変更(更新)する第2処理SBとを実行することによって、遠隔自動運転システムSaのリアルタイムシミュレーションを実現できる。
【0039】
図4は、シミュレータシステム1の構成の具体例について説明する図である。
図4では、
図2,3で説明したサービス部10、ネットワークシミュレータ部20、デバイスシミュレータ部30、及び配信部40の具体的な実現方法について説明する。なお、
図4では、図示の便宜上、センサ数、及び、ネットワークシミュレータ部の数が、
図1~
図3の具体例と一致していない部分がある。
【0040】
図2,3で説明したデバイスシミュレータ部30及びサービス部10は、例えば、CARLAを利用して構築されたリアルタイムシミュレータ(エミュレータ)として構成できる。
図2,3で説明したネットワークシミュレータ部20は、例えば、OMNeT++を利用して構築されたリアルタイムシミュレータ(エミュレータ)として構成できる。
図2,3で説明した配信部40は、例えば、SUMOを利用して構築されたリアルタイムシミュレータ(エミュレータ)として構成できる。
図4では、CARLAベースで構築された部分にドットハッチングを付し、OMNeT++ベースで構築された部分を白抜きの太枠で示し、SUMOベースで構築された部分に斜線ハッチングを付している。
図4のうち、格子ハッチングを付した矩形は、各ネットワーク空間を結ぶネットワークインタフェースである。
【0041】
CARLAはUnreal Engineベースの運転制御シミュレータである。CARLAには、LiDAR、カメラ、Depthカメラ等の、自動運転で使用する様々なセンサモデルが実装されており、RoSやAutowareとの連携もサポートしている。CARLAではシミュレータの世界に対して、Pythonによるスクリプトで指示を与えることでシミュレーションを実施する。スクリプトとCARLAとの間は、RPC(Remote Procedure Call)通信で情報のやり取りを行う。このため、このRPC通信をOMNeT++経由で転送することによって、通信の状況を変化させることができる。また、CARLAは、交通シミュレータSUMOが提供するTraCI(Traffic Control Interface)をサポートしており、このTraCI経由で、CARLAで生成された情報を共有、同期できる。
【0042】
OMNeT++はネットワークシミュレータで、移動体通信網や、車車間通信網など、様々な拡張ライブラリが提供されている。本実施形態では、例えば、OMNeT++の3つのライブラリinet,Veins,Simu5Gを使用できる。inetは、OMNeT++に対して標準的なTCP/IPのプロトコルスタックとリアルタイムシミュレーション機能を提供するライブラリである。Veinsは、車車間通信用の拡張ライブラリで、シミュレータに対して車両モデルとTraCIによるSUMOとの接続機能を提供する。Simu5Gは、移動体通信網の拡張ライブラリで、LTEや5Gのネットワークモデルを提供する。
【0043】
SUMO(Simulation of Urban MObility)は交通シミュレータであり、SUMOによって、シミュレータ内に大量の車両を生成し、車両群の流れをシミュレーションすることができる。SUMOは、TraCIと呼ばれる外部クライアントと接続するためのインタフェースを持ち、他のシミュレータとの連携が可能である。本実施形態の例では、SUMOのTraCIを用いてCARLAとOMNeT++との間での配信部40の機能(Publish/Subscribe)を実現する。上述したCARLA,OMNeT++,SUMOはいずれも、OSS(Open Source Software)のシミュレータである。
【0044】
図4の例では、シミュレータシステム1は、3つのネットワーク空間N1~N3により構成されている。各ネットワーク空間N1~N3は、それぞれ異なる情報処理装置を用いて構築されている。情報処理装置としては、例えばPC(Personal Computer)を利用できる。情報処理装置は、図示しないCPU、ROM、RAM、通信部、記憶部、入出力部を含んで構成されている。
図4で説明する各機能部は、CPUが、ROMに格納されているコンピュータプログラムをRAMに展開して実行することにより実現される。なお、各ネットワーク空間N1~N3は、1台の情報処理装置を用いて構築されてもよい。各ネットワーク空間N1~N3を1台の情報処理装置で実現する場合、例えば、Linux(登録商標)のネットワーク名前空間機能を用いた仮想ネットワークとして構築すればよい。
【0045】
第1ネットワーク空間N1には、CARLAによって構成された4つの機能部(サービス機能部101と、センサ表示部302a~c)が含まれている。サービス機能部101は、提供情報c1,c2を生成する機能部である。センサ表示部302aは、対象デバイスのうちのセンサAにより取得された情報を表示する機能部である。センサAが例えばカメラであった場合、センサ表示部302aは、当該カメラによって取得された画像を表示する。センサAがカメラ以外(例えば車速センサであった場合、センサ表示部302aは、当該車速センサによって取得された車速を表示する。同様に、センサ表示部302bは、対象デバイスのうちのセンサBにより取得された情報を表示する機能部であり、センサ表示部302cは、対象デバイスのうちのセンサCにより取得された情報を表示する機能部である。サービス機能部101と、センサ表示部302a~cとは、
図2のサービス部10に相当する。なお、センサ表示部302a~cは、省略してもよい。
【0046】
第2ネットワーク空間N2には、OMNeT++によって構成された3つの機能部(ネットワークシミュレータ機能部NS1~3)が含まれている。図示の例では、ネットワークシミュレータ機能部NS1,NS2,NS3は、それぞれ、異なる通信キャリアによって実現される通信環境を仮想的に実現している。ネットワークシミュレータ機能部NS1~3は、
図2のネットワークシミュレータ部20に相当する。各ネットワークシミュレータ機能部NS1~3は、それぞれ、配信機能部401からの情報の配信を受けるためのインタフェースである、配信IF205a~cを含んでいる。配信IF205a~cの詳細は後述する。
【0047】
第3ネットワーク空間N3には、CARLAによって構成された機能部であるデバイスシミュレータ機能部301及び配信IF305と、SUMOによって構成された機能部である配信機能部401と、OMNeT++によって構成された機能部である配信IF204a~cと、が含まれている。
【0048】
デバイスシミュレータ機能部301は、CARLAによって実現される種々のセンサ(LiDAR、カメラ、Depthカメラ等)が定義されている機能部である。デバイスシミュレータ機能部301は、これらの種々のセンサのほか、センサを搭載した車両そのものや、当該車両が走行する仮想世界をも定義している。配信IF305は、CARLAベースのデバイスシミュレータ機能部301から、SUMOベースの配信機能部401への情報の配信を行うためのインタフェースである。配信IF305は、CARLAにおいて標準で用意されているSUMO接続用プログラムを使用して構築できる。デバイスシミュレータ機能部301及び配信IF305は、
図2のデバイスシミュレータ部30に相当する。配信機能部401は、SUMOによって実現される、特定情報の配信を行う機能部である。配信機能部401は、
図2の配信部40に相当する。
【0049】
第3ネットワーク空間N3の配信IF204a~cと、第2ネットワーク空間N2の配信IF205a~cとは、SUMOベースの配信機能部401から、OMNeT++ベースのネットワークシミュレータ機能部NS1~3への情報の配信を行うためのインタフェースである。第3ネットワーク空間N3の配信IF204a~cは、OMNeT++のライブラリであるVeinsが用意するSUMO接続用のデーモンプログラムを利用して構築できる。第2ネットワーク空間N2の配信IF205a~cは、OMNeT++プロセス内で動作するTraCIのManagerを利用して構築できる。
【0050】
図4において実線で表す通信、具体的には、サービス機能部101とデバイスシミュレータ機能部301との間の通信、及び、センサ表示部302a~cとデバイスシミュレータ機能部301との間の通信は、ネットワークシミュレータ機能部NS1~3のOMNeT++プロセスによって行われる。一方、
図4において破線で表す通信、具体的には、配信IF305,204a~c,205a~cを介した、デバイスシミュレータ機能部301と、配信部40と、ネットワークシミュレータ機能部NS1~3との間の通信は、SUMOのTraClを用いて行われる。SUMOはマルチクライアントとの接続を可能としているため、
図4のような複数のクライアントとの間での情報の入出力が可能である。
【0051】
以上のように、第1実施形態のシミュレータシステム1は、対象デバイスを仮想的に実現するデバイスシミュレータ部30と、デバイスシミュレータ部30から取得した対象デバイスに関する情報(センサ情報)を用いて対象デバイスにおいて使用される情報である提供情報(上記の具体例では、対象デバイスを制御するための提供情報)を生成し、生成した提供情報をデバイスシミュレータ部30に送信するサービス部10と、デバイスシミュレータ部30とサービス部10との間の通信環境を仮想的に実現するネットワークシミュレータ部20と、を備えるため、次世代コネクティッドサービスの評価が可能なシミュレーション環境を提供できる(
図3:第1処理SA)。また、このシミュレータシステム1によれば、配信部40は、ネットワークシミュレータ部20に影響を及ぼす特定の情報である特定情報をネットワークシミュレータ部20へと配信し、ネットワークシミュレータ部20は、配信された特定情報を用いて通信環境における通信品質を変更する(
図3:第2処理SB)。このため、ネットワークシミュレータ部20により仮想的に実現される通信環境の通信品質を更新しながら、リアルタイムな次世代コネクティッドサービスの評価を実行できる。換言すれば、対象デバイスの移動に伴い通信品質が変化するような次世代コネクティッドサービス(例えば、
図1で説明した遠隔運転システムSbや、遠隔自動運転システムSa等)について、実態に即した評価を実現できる。さらに、シミュレータシステム1によれば、デバイスシミュレータ部30とネットワークシミュレータ部20とは、配信部40を経由して特定情報を共有するため、これらの間での直接な同期を図る必要がなくなり、同期のために互いに動作を妨げられることがない。これらの結果、シミュレータシステム1によれば、次世代コネクティッドサービスの評価に適したシミュレーション環境を提供できる。
【0052】
また、第1実施形態のシミュレータシステム1によれば、複数のネットワークシミュレータ部NS1~NSnによってそれぞれ実現される複数の通信環境を利用することによって、複数の通信環境を並行使用したサービス評価を実行できるため、より一層、実態に即した評価を実現できる。また、配信部40は、特定情報を、複数のネットワークシミュレータ部NS1~NSnにそれぞれ配信し(
図3:ステップS34)、複数のネットワークシミュレータ部NS1~NSnは、それぞれ配信された特定情報を用いて、各通信環境における通信品質をそれぞれ変更する(
図3:ステップS36)。このため、複数のネットワークシミュレータ部NS1~NSn間において同期をとる必要がなくなり、各ネットワークシミュレータ部NS1~NSnを独立した別々のプロセスとして並行動作させることができる。
【0053】
さらに、第1実施形態のシミュレータシステム1によれば、デバイスシミュレータ部30は、対象デバイスが有する1つまたは複数のセンサを仮想的に実現する(上記a1~a4,
図4のセンサ表示部302a~c)。そして、シミュレータシステム1では、特定情報として、対象デバイスが有する1つまたは複数のセンサから取得された情報(例えばb4)を用いる。このため、シミュレータシステム1では、より一層実態に即した評価を実現できる。
【0054】
さらに、第1実施形態のシミュレータシステム1によれば、デバイスシミュレータ部30は、対象デバイスとしての車両C1,C2(
図1)を仮想的に実現する。このため、例えば、
図1で説明したような、遠隔運転システムSbや、遠隔自動運転システムSaといった車両を用いた次世代コネクティッドサービスの評価を実現できる。
【0055】
さらに、第1実施形態のシミュレータシステム1によれば、サービス部10は、デバイスシミュレータ部30から取得したカメラ画像を表示部に表示させる(
図3:ステップS24)。このため、利用者は、表示部に表示されるカメラ画像の画質を確認することによって、デバイスシミュレータ部30とサービス部10との間の通信環境を一見して把握できる。これは、通信環境の良/不良と、表示部に表示されるカメラ画像の画質の良/不良が比例するためである。
【0056】
<第2実施形態>
図5は、第2実施形態のシミュレータシステム1Aの概略図である。第2実施形態では、サービス部10あるいはデバイスシミュレータ部30からのトラフィック量に応じて、ネットワークシミュレータ部20の性能をスケール可能なネットワークを構成する。第2実施形態のシミュレータシステム1Aは、第1実施形態で説明した構成に加えてさらに、第1多重装置部50aと、第2多重装置部50bと、を備えている。
【0057】
第1多重装置部50aは、サービス部10と、ネットワークシミュレータ部20(具体的には、ネットワークシミュレータ部NS1~NSn)との間に接続されている。この結果、サービス部10からは、ネットワークシミュレータ部NS1~NSnは1回線であるように見える。第1多重装置部50aは、ネットワークシミュレータ部NS1~NSnのそれぞれから、サービス部10に対する通信を集約する。また、第1多重装置部50aは、サービス部10から、ネットワークシミュレータ部NS1~NSnのそれぞれに通信を分散させる。第1多重装置部50aを用いることで、単一のネットワークシミュレータ部NSx(xは任意の自然数)だけを利用して通信する場合と比較して、サービス部10が通信性能(回線の太さ)に縛られることがなくなる。この結果、サービス部10は、プロセス数を並行動作させることによって処理性能を向上できる。
【0058】
第2多重装置部50bは、デバイスシミュレータ部30と、ネットワークシミュレータ部20(具体的には、ネットワークシミュレータ部NS1~NSn)との間に接続されている。この結果、デバイスシミュレータ部30からは、ネットワークシミュレータ部NS1~NSnは1回線であるように見える。第2多重装置部50bは、ネットワークシミュレータ部NS1~NSnのそれぞれから、デバイスシミュレータ部30に対する通信を集約する。また、第2多重装置部50bは、デバイスシミュレータ部30から、ネットワークシミュレータ部NS1~NSnのそれぞれに通信を分散させる。第2多重装置部50bを用いることで、単一のネットワークシミュレータ部NSxだけを利用して通信する場合と比較して、デバイスシミュレータ部30が通信性能(回線の太さ)に縛られることがなくなる。この結果、デバイスシミュレータ部30は、プロセス数を並行動作させることによって処理性能を向上できる。
【0059】
第1多重装置部50a及び第2多重装置部50bは、例えば、マルチパスTCPプロトコルを用いて構成できる。第1多重装置部50a及び第2多重装置部50bは、各ネットワークシミュレータ部NS1~NSnに対して、均等に通信トラフィックを分配できる。また、第1多重装置部50a及び第2多重装置部50bは、各ネットワークシミュレータ部NS1~NSnのプロセスが動作するCPUコアの性能に応じて、通信トラフィックを分配してもよい。なお、図示の例では、第1多重装置部50aと第2多重装置部50bとの両方を用いるとしたが、第1多重装置部50aと、第2多重装置部50bとのうちの少なくとも一方を設ける構成としてもよい。
【0060】
このように、シミュレータシステム1Aの構成は種々の変更が可能であり、第1多重装置部50aや、第2多重装置部50bを用いて、ネットワークシミュレータ部20の性能をスケール可能なネットワークを構成してもよい。このような第2実施形態のシミュレータシステム1Aによっても、上述した第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0061】
さらに第2実施形態のシミュレータシステム1Aによれば、複数のネットワークシミュレータ部NS1~NSnとサービス部10との通信を集約及び分散させる第1多重装置部50aと、複数のネットワークシミュレータ部NS1~NSnとデバイスシミュレータ部30との通信を集約及び分散させる第2多重装置部50bと、のうちの少なくとも一方をさらに備える。このような第1多重装置部50aを用いれば、サービス部10からは、複数のネットワークシミュレータ部NS1~NSnを1つの回線とみなし処理できる。同様に、第2多重装置部50bを用いれば、デバイスシミュレータ部30からは、複数のネットワークシミュレータ部NS1~NSnを1つの回線とみなし処理できる。このため、複数のネットワークシミュレータ部NS1~NSnと、第1多重装置部50aと、第2多重装置部50bと、を用いて、サービス部10あるいはデバイスシミュレータ部30からのトラフィック量に応じて、性能をスケール可能なネットワークを構成できる。すなわちシミュレータシステム1Aによれば、拡張性の高いシミュレータシステムを構成できる。
【0062】
<第3実施形態>
図6は、第3実施形態のシミュレータシステム1Bの概略図である。第3実施形態では、性能をスケールしないネットワークと、性能をスケール可能なネットワークとを混在させたネットワークを構成する。第3実施形態のシミュレータシステム1Bは、第1実施形態で説明した構成において、ネットワークシミュレータ部20に代えてネットワークシミュレータ部20Bを備え、さらに、第1多重装置部50a1~50ai(iは2以上の自然数)と、第2多重装置部50b1~50biと、を備えている。
【0063】
ネットワークシミュレータ部20Bは、複数のネットワークシミュレータ部NS1~NSn,NS11~NS1n,・・・,NSi1~NSinを備えている。ネットワークシミュレータ部20Bが備えるシミュレータの数は、任意に決定できる。ここで、ネットワークシミュレータ部NS1~NSnを「第1群」とし、ネットワークシミュレータ部NS11~NS1nを「第2群」とし、ネットワークシミュレータ部NSi1~NSinを「第y群」とする。yは3以上の自然数であり、y=i+1である。
【0064】
第1群に属するネットワークシミュレータ部NS1~NSnから構成されたネットワークを「第1ネットワークNN1」とも呼ぶ。
【0065】
第2群に属するネットワークシミュレータ部NS11~NS1nは、サービス部10との間で、通信トラフィックの集約、及び、分散を行う第1多重装置部50a1と接続されている。また、第2群に属するネットワークシミュレータ部NS11~NS1nは、デバイスシミュレータ部30との間で、通信トラフィックの集約、及び、分散を行う第2多重装置部50b1と接続されている。第1多重装置部50a1及び第2多重装置部50b1の詳細は、第2実施形態で説明した通りである。なお、第2群に属するネットワークシミュレータ部NS11~NS1nと、第2群に属するネットワークシミュレータ部NS11~NS1nに対する通信の集約及び分散を行う第1多重装置部50a1及び第2多重装置部50b1と、から構成されたネットワークを「第2ネットワークNN2」とも呼ぶ。
【0066】
第y群に属するネットワークシミュレータ部NSi1~NSinは、サービス部10との間で、通信トラフィックの集約、及び、分散を行う第1多重装置部50aiと接続されている。また、第y群に属するネットワークシミュレータ部NSi1~NSinは、デバイスシミュレータ部30との間で、通信トラフィックの集約、及び、分散を行う第2多重装置部50biと接続されている。第1多重装置部50ai及び第2多重装置部50biの詳細は、第2実施形態で説明した通りである。なお、第y群に属するネットワークシミュレータ部NSi1~NSinと、第y群に属するネットワークシミュレータ部NSi1~NSinに対する通信の集約及び分散を行う第1多重装置部50ai及び第2多重装置部50biと、から構成されたネットワークを「第yネットワークNNy」とも呼ぶ。
【0067】
このようにすれば、サービス部10や、デバイスシミュレータ部30は、
図3のステップS22,S26,S32における通信を、性能をスケールしない第1ネットワークNN1や、性能をスケール可能な第2ネットワークNN2~第yネットワークNNyのうちの、任意のネットワークを利用して実施できる。
【0068】
このように、シミュレータシステム1Bの構成は種々の変更が可能であり、シミュレータシステム1Bを、性能をスケールしない第1ネットワークNN1や、性能をスケール可能な第2ネットワークNN2~第yネットワークNNyを備える構成としてもよい。このような第3実施形態のシミュレータシステム1Bによっても、上述した第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0069】
さらに第3実施形態のシミュレータシステム1Bによれば、シミュレータシステム1Bは、第1群に属するネットワークシミュレータ部NS1~NSnから構成された第1ネットワークNN1と、第2群に属するネットワークシミュレータ部NS11~NS1n、第1多重装置部50a1及び第2多重装置部50b1から構成された第2ネットワークNN2と、第y群(例えばy=3)に属するネットワークシミュレータ部NSi1~NSin、第1多重装置部50ai及び第2多重装置部50biから構成された第yネットワークNNyと、を備える。こうすれば、性能をスケールしない第1ネットワークNN1と、性能をスケール可能な第2及び第yネットワークNN2,NNy(例えばy=3)とが混在した環境でサービス評価を実行できるため、より一層、拡張性の高いシミュレータシステムを構成できる。
【0070】
<第4実施形態>
図7は、第4実施形態のシミュレータシステム1Cの概略図である。第4実施形態では、特定情報として、受信信号強度に代えて、対象デバイスの位置情報を用いる。第4実施形態のシミュレータシステム1Cは、第1実施形態で説明した構成において、ネットワークシミュレータ部20に代えてネットワークシミュレータ部20Cを備え、デバイスシミュレータ部30に代えてデバイスシミュレータ部30Cを備え、配信部40に代えて配信部40Cを備えている。
【0071】
ネットワークシミュレータ部20Cは、各ネットワークシミュレータ部NS1~NSnが、それぞれ、地
図60を備えている点が相違する。同様に、デバイスシミュレータ部30は、地
図60を備えている点が相違する。各地
図60は、同一の地図であり、ネットワークシミュレータ部20において実装されている通信方式に対応した通信基地局の位置情報が含まれている。配信部40Cは、
図3の第2処理SBにおける処理内容が、第1実施形態とは一部相違する。
【0072】
図3(第2処理SB)のステップS34において、配信部40Cは、取得したセンサ情報から、ネットワークシミュレータ部20に影響を及ぼす特定の情報である、特定情報(b2:対象デバイスの位置情報)を抜き出す。ステップS36において配信部40は、特定情報(b2:対象デバイスの位置情報)を、ネットワークシミュレータ部20を構成する全てのネットワークシミュレータ部NS1~NSnに対して、それぞれ配信する。
【0073】
図3(第2処理SB)のステップS36において、各ネットワークシミュレータ部NS1~NSnは、それぞれ、配信された対象デバイスの位置情報を用いて、地
図60から、対象デバイスの位置周辺にある通信基地局を求める。そして、各ネットワークシミュレータ部NS1~NSnは、対象デバイスから周辺の通信基地局までの距離を用いて、対象デバイスの位置周辺における電波環境を推定する。その後、各ネットワークシミュレータ部NS1~NSnは、推定した電波環境に応じて、通信品質を変更(更新)する。なお、各ネットワークシミュレータ部NS1~NSnは、電波環境の推定の際に、遮蔽物の有無や、環境的要因(例えば天候等)をも考慮してよい。
【0074】
このように、シミュレータシステム1Cの構成は種々の変更が可能であり、特定情報としては、受信信号強度以外の種々の情報を利用できる。上記の例では、対象デバイスの位置情報を利用したが、対象デバイスの速度情報を特定情報として用いてもよい。このような第4実施形態のシミュレータシステム1Cによっても、上述した第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0075】
さらに第4実施形態のシミュレータシステム1Cによれば、シミュレータシステム1Cでは、特定情報として対象デバイスの位置情報b2を使用し、ネットワークシミュレータ部20Cは、配信された対象デバイスの位置情報b2を用いて、地
図60から対象デバイスの位置周辺における電波環境を推定し、推定した電波環境に応じて、通信環境における通信品質を変更する。このため、対象デバイスの移動に伴い電波環境が変化し、この電波環境の変化に起因して通信品質が変化するような次世代コネクティッドサービス(例えば、遠隔運転システムSbや、遠隔自動運転システムSa等)について、より一層実態に即した評価を実現できる。
【0076】
<第5実施形態>
図8は、第5実施形態のシミュレータシステム1Dの概略図である。第5実施形態では、単一のネットワークシミュレータ部NSを用いてシステムを構成する。第5実施形態のシミュレータシステム1Dは、第1実施形態で説明した構成において、ネットワークシミュレータ部20に代えてネットワークシミュレータ部20Dを備えている。ネットワークシミュレータ部20Dは、単一のネットワークシミュレータ部NSから構成されている。
【0077】
このように、シミュレータシステム1Dの構成は種々の変更が可能であり、単一のネットワークシミュレータ部NSを用いてシステムを構成してもよい。このような第5実施形態のシミュレータシステム1Dによっても、上述した第1実施形態と同様の効果を奏することができる。さらに第5実施形態のシミュレータシステム1Dによれば、シミュレータシステム1Dの構成を単純化し、システムの構築を容易にできる。
【0078】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば、ハードウェアによって実現されるとした構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、逆に、ソフトウェアによって実現されるとした構成の一部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。そのほか、例えば次のような変形も可能である。
【0079】
[変形例1]
上記実施形態では、シミュレータシステム1,1A~1Dの構成の一例を示した。しかし、シミュレータシステム1の構成はあくまで一例であり、任意の態様を採用できる。例えば、シミュレータシステム1は、複数のサービス部10を備えていてもよく、複数のデバイスシミュレータ部30を備えていてもよい。上記実施形態において、シミュレータシステム1は、リアルアイムシミュレータ(現実時間と、シミュレータ内の時間とが対応したシミュレータ)として構成するものとした。しかし、シミュレータシステム1は、現実時間と、シミュレータ内の時間とが対応していないシステムとして構成されてもよい。
【0080】
上記実施形態(
図4)では、シミュレータシステム1,1A~1Dを構成するために使用可能な技術の一例を示した。しかし、シミュレータシステム1は、周知のシミュレータを利用して構築してよい。例えば、SUMOに代えて、MQTT(Message Queueing Telemetry Transport)や、ZeroMQを利用して、配信部40を構成してもよい。
【0081】
[変形例2]
上記実施形態では、第1処理SA及び第2処理SBの処理手順の一例を例示した。しかし、これら処理手順は種々の変更が可能であり、各ステップにおける処理内容の追加/省略/変更をしてもよく、ステップ(手順)の実行順序を変更してもよい。
【0082】
例えば、上記実施形態では、特定情報として、対象デバイスのセンサ情報から選択された情報であるとした。しかし、特定情報としては、下記の条件1,2を共に満たす情報である限りにおいて、任意の情報を用いることができる。
(条件1)対象デバイスに関する情報
(条件2)ネットワークシミュレータ部20に影響を及ぼす情報
例えば、条件1,2を満たす情報として、対象デバイスの位置近傍の気象を用いてもよい。気象は、電波環境に影響を及ぼすからである。例えば、条件1,2を満たす情報として、対象デバイスの位置近傍の環境要因を用いてもよい。環境要因とは、例えば、電波環境に影響を及ぼす情報であればどのようなものでも使用でき、例えば、対象デバイスが位置する住所(市街地か否か)等を利用できる。条件1,2を満たす情報として、対象デバイスが接続中のネットワークシミュレータ部NSxにおける通信トラフィックの混雑状況を用いてもよい。
【0083】
例えば、上記実施形態では、提供情報として、車両C1への制御指令(舵角、アクセル開度)を例示した。しかし、提供情報としては、対象デバイスにおいて使用される情報である限りにおいて任意の情報を利用できる。例えば、提供情報としては、対象デバイスにおいて表示され、対象デバイスを制御するための参考に付される地図情報や、経路情報、道路情報等、種々の情報を利用できる。
【0084】
[変形例3]
上記第1~5実施形態のシミュレータシステム1,1A~1Dの構成、及び上記変形例1,2のシミュレータシステム1,1A~1Dの構成は、適宜組み合わせてもよい。
【0085】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【0086】
本発明は、以下の形態としても実現することが可能である。
[適用例1]
シミュレータシステムであって、
対象デバイスを仮想的に実現するデバイスシミュレータ部と、
前記デバイスシミュレータ部から前記対象デバイスに関する情報を取得し、取得した情報を用いて前記対象デバイスにおいて使用される情報である提供情報を生成し、生成した提供情報を前記デバイスシミュレータ部に送信するサービス部と、
前記デバイスシミュレータ部と、前記サービス部との間の通信環境を仮想的に実現するネットワークシミュレータ部と、
前記ネットワークシミュレータ部へと情報を配信する配信部と、
を備え、
前記配信部は、前記対象デバイスに関する情報のうち、前記ネットワークシミュレータ部に影響を及ぼす特定の情報である特定情報を前記ネットワークシミュレータ部へと配信し、
前記ネットワークシミュレータ部は、配信された前記特定情報を用いて、前記通信環境における通信品質を変更する、シミュレータシステム。
[適用例2]
適用例1に記載のシミュレータシステムであって、
前記ネットワークシミュレータ部は、異なる前記通信環境をそれぞれ仮想的に実現する複数のネットワークシミュレータ部を含み、
前記配信部は、前記特定情報を、前記複数のネットワークシミュレータ部にそれぞれ配信し、
前記複数のネットワークシミュレータ部は、それぞれ配信された前記特定情報を用いて、各前記通信環境における通信品質をそれぞれ変更する、シミュレータシステム。
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載のシミュレータシステムであって、
前記複数のネットワークシミュレータ部のそれぞれから前記サービス部に対する通信を集約すると共に、前記サービス部から前記複数のネットワークシミュレータ部のそれぞれに通信を分散させる第1多重装置部と、
前記複数のネットワークシミュレータ部のそれぞれから前記デバイスシミュレータ部に対する通信を集約すると共に、前記デバイスシミュレータ部から前記複数のネットワークシミュレータ部のそれぞれに通信を分散させる第2多重装置部と、
のうちの少なくとも一方をさらに備える、シミュレータシステム。
[適用例4]
適用例1から適用例3のいずれか一項に記載のシミュレータシステムであって、
前記複数のネットワークシミュレータ部を、それぞれ1つ以上の前記ネットワークシミュレータ部から構成される第1群、第2群、第3群に分割したとき、
前記第1群に属する前記ネットワークシミュレータ部から構成された第1ネットワークと、
前記第2群に属する前記ネットワークシミュレータ部と、前記第2群に属する前記ネットワークシミュレータ部に対する通信の集約及び分散を行う前記第1多重装置部及び前記第2多重装置部と、から構成された第2ネットワークと、
前記第3群に属する前記ネットワークシミュレータ部と、前記第3群に属する前記ネットワークシミュレータ部に対する通信の集約及び分散を行う前記第1多重装置部及び前記第2多重装置部と、から構成された第3ネットワークと、
を備える、シミュレータシステム。
[適用例5]
適用例1から適用例4のいずれか一項に記載のシミュレータシステムであって、
前記ネットワークシミュレータ部と、前記デバイスシミュレータ部とは、それぞれ地図を有しており、
前記対象デバイスに関する情報には、前記対象デバイスの位置情報が含まれ、
前記配信部は、前記特定情報として、前記対象デバイスの位置情報を前記ネットワークシミュレータ部へと配信し、
前記ネットワークシミュレータ部は、配信された前記対象デバイスの位置情報を用いて、前記地図から前記対象デバイスの位置周辺における電波環境を推定し、推定した電波環境に応じて、前記通信環境における通信品質を変更する、シミュレータシステム。
[適用例6]
適用例1から適用例5のいずれか一項に記載のシミュレータシステムであって、
前記デバイスシミュレータ部は、
前記対象デバイスが有する1つまたは複数のセンサを仮想的に実現し、
前記特定情報として、前記1つまたは複数のセンサから取得された情報を用いる、シミュレータシステム。
[適用例7]
適用例1から適用例6のいずれか一項に記載のシミュレータシステムであって、
前記デバイスシミュレータ部は、前記対象デバイスとしての車両を仮想的に実現する、シミュレータシステム。
[適用例8]
適用例1から適用例7のいずれか一項に記載のシミュレータシステムであって、
前記サービス部が前記デバイスシミュレータ部から取得する前記対象デバイスに関する情報には、仮想的に実現された前記対象デバイスに仮想的に搭載されたカメラのカメラ画像が含まれており、
前記サービス部は、前記デバイスシミュレータ部から取得した前記カメラ画像を表示部に表示させる、シミュレータシステム。
[適用例9]
シミュレーション方法であって、情報処理装置が、
対象デバイスを仮想的に実現するデバイスシミュレーション工程と、
前記対象デバイスに関する情報を取得し、取得した情報を用いて前記対象デバイスにおいて使用される情報である提供情報を生成し、生成した提供情報を送信するサービス工程と、
前記デバイスシミュレーション工程と、前記サービス工程との間の通信環境を仮想的に実現するネットワークシミュレーション工程と、
情報を配信する配信工程と、
を備え、
前記配信工程では、前記対象デバイスに関する情報のうち、前記ネットワークシミュレーション工程に影響を及ぼす特定の情報である特定情報を前記ネットワークシミュレーション工程へと配信し、
前記ネットワークシミュレーション工程では、配信された前記特定情報を用いて、前記通信環境における通信品質を変更する、シミュレーション方法。
[適用例10]
コンピュータプログラムであって、情報処理装置に、
対象デバイスを仮想的に実現するデバイスシミュレーション機能と、
前記対象デバイスに関する情報を取得し、取得した情報を用いて前記対象デバイスにおいて使用される情報である提供情報を生成し、生成した提供情報を送信するサービス機能と、
前記デバイスシミュレーション機能と、前記サービス機能との間の通信環境を仮想的に実現するネットワークシミュレーション機能と、
情報を配信する配信機能と、
を実行させ、
前記配信機能では、前記対象デバイスに関する情報のうち、前記ネットワークシミュレーション機能に影響を及ぼす特定の情報である特定情報を前記ネットワークシミュレーション機能へと配信し、
前記ネットワークシミュレーション機能では、配信された前記特定情報を用いて、前記通信環境における通信品質を変更する、コンピュータプログラム。
【符号の説明】
【0087】
1,1A~1D…シミュレータシステム
10…サービス部
20,20B~20D…ネットワークシミュレータ部
30,30C…デバイスシミュレータ部
40,40C…配信部
50a,50a1~50ai…第1多重装置部
50b,50b1~50bi…第2多重装置部
101…サービス機能部
301…デバイスシミュレータ機能部
302a,302b,302c…センサ表示部
401…配信機能部
C1,C2…車両
204a~c…配信IF
205a~c…配信IF
305…配信IF
N1…第1ネットワーク空間
N2…第2ネットワーク空間
N3…第3ネットワーク空間
NN1…第1ネットワーク
NN2…第2ネットワーク
NNy…第yネットワーク
NS,NS1~NSn,NS11~NS1n,NSi1~NSin…ネットワークシミュレータ部
NT…ネットワーク
OP…ドライバー
PC…端末
SA…第1処理
SB…第2処理
SV…サーバ
Sa…遠隔自動運転システム
Sb…遠隔運転システム