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特開2024-57288弾性波デバイス、フィルタ、マルチプレクサおよびウエハ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057288
(43)【公開日】2024-04-24
(54)【発明の名称】弾性波デバイス、フィルタ、マルチプレクサおよびウエハ
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/25 20060101AFI20240417BHJP
【FI】
H03H9/25 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163926
(22)【出願日】2022-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】原井 奨大
【テーマコード(参考)】
5J097
【Fターム(参考)】
5J097AA05
5J097AA14
5J097BB15
5J097CC05
5J097DD07
5J097EE08
5J097EE10
5J097FF05
5J097GG03
5J097KK01
5J097KK03
5J097KK09
(57)【要約】
【課題】メイン応答の劣化を抑制し、かつスプリアスを抑制することが可能な弾性波デバイスを提供する。
【解決手段】弾性波デバイスは、基板10と、基板10上に設けられる圧電層14と、圧電層14上に設けられ、平均ピッチは圧電層14の厚さの0.5倍以上である複数の電極指18を備える少なくとも一対の櫛型電極20と、基板10と圧電層14との間に設けられ、圧電層14のバルク波の音速より速いバルク波の音速を有する第1絶縁層11と、第1絶縁層11と圧電層14との間に設けられ、第1絶縁層11のバルク波の音速より速いバルク波の音速を有する第2絶縁層12とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられる圧電層と、
前記圧電層上に設けられ、平均ピッチは前記圧電層の厚さの0.5倍以上である複数の電極指を備える少なくとも一対の櫛型電極と、
前記基板と前記圧電層との間に設けられ、前記圧電層のバルク波の音速より速いバルク波の音速を有する第1絶縁層と、
前記第1絶縁層と前記圧電層との間に設けられ、前記第1絶縁層のバルク波の音速より速いバルク波の音速を有する第2絶縁層と、
を備える弾性波デバイス。
【請求項2】
前記基板のバルク波の音速は前記第2絶縁層のバルク波の音速より速い請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記圧電層と前記第2絶縁層との間に設けられ、酸化シリコン層またはフッ素を添加した酸化シリコン層である第3絶縁層を備え、
前記第2絶縁層と前記第3絶縁層との界面と、前記圧電層と前記一対の櫛型電極との界面と、の距離は前記平均ピッチの4倍以下である請求項2に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記圧電層は、回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板であり、
前記第2絶縁層の厚さは、前記平均ピッチの4倍以下であり、
前記第2絶縁層のバルク波の音速は前記第1絶縁層のバルク波の音速の2倍以下である請求項3に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記圧電層は、回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板であり、
前記第2絶縁層のバルク波の音速は前記第1絶縁層のバルク波の音速の1.1倍以下である請求項3に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記第2絶縁層の厚さは、前記平均ピッチの3倍以下である請求項5に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
前記圧電層は、回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板であり、
前記第2絶縁層の厚さは、前記平均ピッチの3倍以下であり、
前記第2絶縁層のバルク波の音速は前記第1絶縁層のバルク波の音速の1.35倍以下である請求項3に記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
前記圧電層は、回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板であり、
前記第2絶縁層の厚さは、前記平均ピッチの0.8倍以下であり、
前記第2絶縁層のバルク波の音速は前記第1絶縁層のバルク波の音速の2倍以下である請求項3に記載の弾性波デバイス。
【請求項9】
前記圧電層と前記第2絶縁層との間に厚さが前記平均ピッチの1/16倍以上の他の層は設けられておらず、
前記圧電層は、回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板であり、
前記第2絶縁層のバルク波の音速は前記第1絶縁層のバルク波の音速の1.1倍以下である請求項2に記載の弾性波デバイス。
【請求項10】
前記第1絶縁層は、多結晶または非晶質の酸化アルミニウム層である請求項5から9のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項11】
前記第1絶縁層は、多結晶または非晶質の窒化シリコン層、多結晶または非晶質の窒化アルミニウム層および多結晶または非晶質の炭化シリコン層である請求項5から9のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項12】
単結晶サファイア基板である基板と、
前記基板上に設けられ、回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板である圧電層と、
前記圧電層上に設けられ、平均ピッチは前記圧電層の厚さの0.5倍以上である複数の電極指を備える少なくとも一対の櫛型電極と、
前記基板と前記圧電層との間に設けられ、多結晶または非晶質の酸化アルミニウム層である第1絶縁層と、
前記第1絶縁層と前記圧電層との間に設けられ、
厚さは、前記平均ピッチの3倍以下であり、多結晶または非晶質の窒化酸化アルミニウム層、多結晶または非晶質の窒化アルミニウム層、多結晶または非晶質のシリコン層、多結晶または非晶質の窒化シリコン層、または、多結晶または非晶質の窒化チタン層である第2絶縁層と、
前記圧電層と前記第2絶縁層との間に設けられ、前記第2絶縁層との界面と、前記圧電層と前記一対の櫛型電極との間の界面と、の距離が前記平均ピッチの2倍以下であり、酸化シリコン層またはフッ素を添加した酸化シリコン層である第3絶縁層と、
を備える弾性波デバイス。
【請求項13】
単結晶サファイア基板である基板と、
前記基板上に設けられ、回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板である圧電層と、
前記圧電層上に設けられ、平均ピッチは前記圧電層の厚さの0.5倍以上である複数の電極指を備える少なくとも一対の櫛型電極と、
前記基板と前記圧電層との間に設けられ、多結晶または非晶質の酸化アルミニウム層である第1絶縁層と、
前記第1絶縁層と前記圧電層との間に設けられ、
厚さは、前記平均ピッチの0.8倍以下であり、多結晶または非晶質の炭化シリコン層、または、ダイヤモンドライクカーボン層である第2絶縁層と、
前記圧電層と前記第2絶縁層との間に設けられ、前記第2絶縁層との界面と、前記圧電層と前記一対の櫛型電極との間の界面と、の距離が前記平均ピッチの2倍以下であり、酸化シリコン層またはフッ素を添加した酸化シリコン層である第3絶縁層と、
を備える弾性波デバイス。
【請求項14】
請求項1から9および13のいずれか一項に記載の弾性波デバイスを備えるフィルタ。
【請求項15】
請求項14に記載のフィルタを備えるマルチプレクサ。
【請求項16】
基板と、
前記基板上に設けられ、回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板である圧電層と、
前記基板と前記圧電層との間に設けられ、多結晶または非晶質の酸化アルミニウム層である第1絶縁層と、
前記第1絶縁層と前記圧電層との間に設けられ、前記第1絶縁層のバルク波の音速より速く、かつ前記基板のバルク波の音速より遅いバルク波の音速を有する第2絶縁層と、
を備えるウエハ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイス、フィルタ、マルチプレクサおよびウエハに関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等の通信機器に用いられる弾性波共振器として、弾性表面波共振器が知られている。弾性表面波共振器を形成する圧電層を支持基板に接合することが知られている。圧電層の厚さを弾性表面波の波長以下とすることが知られている(例えば特許文献1)。圧電層と支持基板との間に圧電層より音速の低い低音速層を設けることが知られている(例えば特許文献2から7)。低音速層と支持基板との間に圧電層より音速の速い高音速層を設けることが知られている(例えば特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-034363号公報
【特許文献2】特開2015-115870号公報
【特許文献3】特開2015-122566号公報
【特許文献4】特開2019-201345号公報
【特許文献5】特開2022-25374号公報
【特許文献6】米国特許第10020796号明細書
【特許文献7】国際公開第2017/043427号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
低音速層と支持基板との間に高音速層を設けることにより、スプリアス応答を抑制することができる。しかし、メイン応答が劣化してしまうことがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、メイン応答の劣化を抑制し、かつスプリアス応答を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられる圧電層と、前記圧電層上に設けられ、平均ピッチは前記圧電層の厚さの0.5倍以上である複数の電極指を備える少なくとも一対の櫛型電極と、前記基板と前記圧電層との間に設けられ、前記圧電層のバルク波の音速より速いバルク波の音速を有する第1絶縁層と、前記第1絶縁層と前記圧電層との間に設けられ、前記第1絶縁層のバルク波の音速より速いバルク波の音速を有する第2絶縁層と、を備える弾性波デバイスである
【0007】
上記構成において、前記基板のバルク波の音速は前記第2絶縁層のバルク波の音速より速い構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記圧電層と前記第2絶縁層との間に設けられ、酸化シリコン層またはフッ素を添加した酸化シリコン層である第3絶縁層を備え、前記第2絶縁層と前記第3絶縁層との界面と、前記圧電層と前記一対の櫛型電極との界面と、の距離は前記平均ピッチの4倍以下である構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記圧電層は、回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板であり、前記第2絶縁層の厚さは、前記平均ピッチの4倍以下であり、前記第2絶縁層のバルク波の音速は前記第1絶縁層のバルク波の音速の2倍以下である構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記圧電層は、回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板であり、前記第2絶縁層のバルク波の音速は前記第1絶縁層のバルク波の音速の1.1倍以下である構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記第2絶縁層の厚さは、前記平均ピッチの3倍以下である構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記圧電層は、回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板であり、前記第2絶縁層の厚さは、前記平均ピッチの3倍以下であり、前記第2絶縁層のバルク波の音速は前記第1絶縁層のバルク波の音速の1.35倍以下である構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記圧電層は、回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板であり、前記第2絶縁層の厚さは、前記平均ピッチの0.8倍以下であり、前記第2絶縁層のバルク波の音速は前記第1絶縁層のバルク波の音速の2倍以下である構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記圧電層と前記第2絶縁層との間に厚さが前記平均ピッチの1/16倍以上の他の層は設けられておらず、前記圧電層は、回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板であり、前記第2絶縁層のバルク波の音速は前記第1絶縁層のバルク波の音速の1.1倍以下である構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記第1絶縁層は、多結晶または非晶質の酸化アルミニウム層である構成とすることができる。
【0016】
上記構成において、前記第1絶縁層は、多結晶または非晶質の窒化シリコン層、多結晶または非晶質の窒化アルミニウム層および多結晶または非晶質の炭化シリコン層である構成とすることができる。
【0017】
本発明は、単結晶サファイア基板である基板と、前記基板上に設けられ、回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板である圧電層と、前記圧電層上に設けられ、平均ピッチは前記圧電層の厚さの0.5倍以上である複数の電極指を備える少なくとも一対の櫛型電極と、前記基板と前記圧電層との間に設けられ、多結晶または非晶質の酸化アルミニウム層である第1絶縁層と、前記第1絶縁層と前記圧電層との間に設けられ、厚さは、前記平均ピッチの3倍以下であり、多結晶または非晶質の窒化酸化アルミニウム層、多結晶または非晶質の窒化アルミニウム層、多結晶または非晶質のシリコン層、多結晶または非晶質の窒化シリコン層、または、多結晶または非晶質の窒化チタン層である第2絶縁層と、前記圧電層と前記第2絶縁層との間に設けられ、前記第2絶縁層との界面と、前記圧電層と前記一対の櫛型電極との間の界面と、の距離が前記平均ピッチの2倍以下であり、酸化シリコン層またはフッ素を添加した酸化シリコン層である第3絶縁層と、を備える弾性波デバイスである。
【0018】
本発明は、単結晶サファイア基板である基板と、前記基板上に設けられ、回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板である圧電層と、前記圧電層上に設けられ、平均ピッチは前記圧電層の厚さの0.5倍以上である複数の電極指を備える少なくとも一対の櫛型電極と、前記基板と前記圧電層との間に設けられ、多結晶または非晶質の酸化アルミニウム層である第1絶縁層と、前記第1絶縁層と前記圧電層との間に設けられ、厚さは、前記平均ピッチの0.8倍以下であり、多結晶または非晶質の炭化シリコン層、または、ダイヤモンドライクカーボン層である第2絶縁層と、前記圧電層と前記第2絶縁層との間に設けられ、前記第2絶縁層との界面と、前記圧電層と前記一対の櫛型電極との間の界面と、の距離が前記平均ピッチの2倍以下であり、酸化シリコン層またはフッ素を添加した酸化シリコン層である第3絶縁層と、を備える弾性波デバイスである。
【0019】
本発明は、上記弾性波デバイスを備えるフィルタである。
【0020】
本発明は、上記フィルタを備えるマルチプレクサである。
【0021】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられ、回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板である圧電層と、前記基板と前記圧電層との間に設けられ、多結晶または非晶質の酸化アルミニウム層である第1絶縁層と、前記第1絶縁層と前記圧電層との間に設けられ、前記第1絶縁層のバルク波の音速より速く、かつ前記基板のバルク波の音速より遅いバルク波の音速を有する第2絶縁層と、を備えるウエハである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、メイン応答の劣化を抑制し、かつスプリアス応答を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1(a)および図1(b)は、実施例1における弾性波共振器の平面図および断面図である。
図2図2は、比較例1に係る弾性波共振器の断面図である。
図3図3(a)は、シミュレーション1における周波数に対するアドミッタンスの絶対値|Y|を示し、図3(b)は、Q1/Q3に対するΔYを示す図である。
図4図4(a)は、シミュレーション2における周波数に対するアドミッタンスの絶対値|Y|を示し、図4(b)は、絶縁層11のバルク波の音速V1に対するΔYを示す図である。
図5図5(a)から図5(c)は、シミュレーション3におけるサンプルA~Dの周波数に対するアドミッタンスの絶対値|Y|を示す図である。
図6図6は、シミュレーション3における厚さT2に対するΔYを示す図である。
図7図7(a)および図7(b)は、シミュレーション3における厚さT2に対するΔYを示す図である。
図8図8は、実施例1の変形例1に係る弾性波共振器の断面図である。
図9図9は、実施例2に係る弾性波共振器の断面図である。
図10図10(a)および図10(b)は、シミュレーション4における厚さT2に対するΔYを示す図である。
図11図11は、実施例3に係るウエハの断面図である。
図12図12(a)は、実施例4に係るフィルタの回路図、図12(b)は、実施例4の変形例1に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照し本発明の実施例について説明する。
【実施例0025】
実施例1では弾性波デバイスが弾性波共振器を有する例を説明する。図1(a)および図1(b)は、実施例1に係る弾性波共振器の平面図および断面図である。電極指の配列方向をX方向、電極指の延伸方向をY方向、支持基板および圧電層の積層方向をZ方向とする。X方向、Y方向およびZ方向は、圧電層の結晶方位のX軸方向およびY軸方向とは必ずしも対応しない。圧電層が回転YカットX伝搬基板の場合、X方向は結晶方位のX軸方向となる。
【0026】
図1(a)および図1(b)に示すように、支持基板10(基板)上に圧電層14が設けられている。支持基板10と圧電層14との間に絶縁層11(第1絶縁層)が設けられている。絶縁層11と圧電層14との間に絶縁層12(第2絶縁層)が設けられている。絶縁層12と圧電層14との間に絶縁層13(第3絶縁層)が設けられている。絶縁層11、12、13および圧電層14の厚さをそれぞれT1、T2、T3およびT4とする。
【0027】
圧電層14上に弾性波共振器26が設けられている。弾性波共振器26はIDT22および反射器24を有する。反射器24はIDT22のX方向の両側に設けられている。IDT22および反射器24は、圧電層14上の金属膜16により形成される。
【0028】
IDT22は、対向する一対の櫛型電極20を備える。櫛型電極20は、複数の電極指18と、複数の電極指18が接続されたバスバー19と、を備える。一対の櫛型電極20の電極指18が交差する領域が交差領域25である。交差領域25の長さが開口長である。一対の櫛型電極20は、交差領域25の少なくとも一部において電極指18が1本ごとに交互に設けられている。交差領域25において複数の電極指18が主に励振する弾性波は、主にX方向に伝搬する。一対の櫛型電極20のうち一方の櫛型電極20の電極指18のピッチがほぼ弾性波の波長λとなる。複数の電極指18のピッチ(電極指18の中心間のピッチ)をDとすると、一方の櫛型電極20の電極指18のピッチは電極指18の2本分のピッチDとなる。反射器24は、IDT22の電極指18が励振した弾性波(弾性表面波)を反射する。これにより弾性波はIDT22の交差領域25内に閉じ込められる。
【0029】
圧電層14は、例えば単結晶タンタル酸リチウム(LiTaO)層または単結晶ニオブ酸リチウム(LiNbO)層であり、例えば回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム層または回転YカットX伝搬ニオブ酸リチウム層である。圧電層14の厚さT4は、スプリアスおよび損失を抑制する観点から1λ以下が好ましく、0.5λ以下がより好ましい。圧電層14が薄くなりすぎると弾性波が励振され難くなることから、厚さT4は、0.1λ以上が好ましい。
【0030】
支持基板10は、例えばサファイア基板、アルミナ基板、シリコン基板、スピネル基板、水晶基板、石英基板または炭化シリコン基板である。サファイア基板は単結晶Al基板であり、アルミナ基板は多結晶または非晶質Al基板であり、シリコン基板は単結晶または多結晶のシリコン基板であり、スピネル基板は多結晶または非晶質MgAl基板であり、水晶基板は単結晶SiO基板であり、石英基板は多結晶または非晶質SiO基板であり、炭化シリコン基板は多結晶または単結晶のSiC基板である。支持基板10のX方向の線膨張係数は圧電層14のX方向の線膨張係数より小さい。これにより、弾性波共振器の周波数温度依存性を小さくできる。
【0031】
絶縁層11を伝搬するバルク波の音速は、絶縁層13および圧電層14を伝搬するバルク波の音速より速い。これにより、圧電層14および絶縁層13内にメイン応答の弾性波のエネルギーが閉じ込められる。絶縁層11は、例えば多結晶または非晶質であり、酸化アルミニウム層、窒化シリコン層、窒化アルミニウム層または炭化シリコン層である。弾性波を絶縁層13および圧電層14内に閉じ込める観点から、絶縁層11の厚さT1は、0.3λ以上が好ましく、1λ以上が好ましい。特性を向上させる観点から厚さT1および厚さT2は各々10λ以下が好ましい。なお、各層のバルク波の音速は、横波の音速Vであり、剛性率をG、密度をρとすると、数1で表される。
【数1】
剛性率Gは、ヤング率をE、ポアソン比をνとすると、数2で表される。
【数2】
ポアソン比νは0.2~0.3であり、典型的には0.25である。よって、各層のヤング率および密度を測定することで、各層のバルク波の音速を算出できる。
【0032】
絶縁層13は、例えば温度補償膜であり、圧電層14の弾性定数の温度係数の符号と反対の符号の弾性定数の温度係数を有する。例えば圧電層14の弾性定数の温度係数は負であり、絶縁層13の弾性定数の温度係数は正である。絶縁層13は、例えば無添加またはフッ素等の添加元素を含む酸化シリコン(SiO)層であり、例えば多結晶または非晶質である。これにより、弾性波共振器の周波数温度係数を小さくできる。絶縁層13が酸化シリコン層の場合、絶縁層13を伝搬するバルク波の音速は圧電層14を伝搬するバルク波の音速より遅くなる。
【0033】
絶縁層13が温度補償の機能を有するためにはメイン応答の弾性波のエネルギーが絶縁層13内にある程度存在することが求められる。弾性表面波のエネルギーが集中する範囲は弾性表面波の種類に依存するものの、典型的には弾性表面波のエネルギーは圧電層14の上面から2λ(λは弾性波の波長)の範囲に集中し、特に圧電層14の上面からλの範囲に集中する。そこで、絶縁層13の下面から圧電層14の上面までの距離(厚さT3+T4)は、2λ以下が好ましく、1λ以下がより好ましい。
【0034】
絶縁層12は、メイン応答の弾性波を反射させる反射層である。絶縁層12を伝搬するバルク波の音速は、絶縁層11を伝搬するバルク波の音速より速い。絶縁層12は、例えば多結晶または非晶質であり、酸化アルミニウム層、窒化酸化アルミニウム層、窒化アルミニウム層、シリコン層、窒化シリコン層、炭化する混相、窒化チタン層またはダイヤモンドライクカーボン層である。絶縁層12の厚さT2の好ましい範囲については後述する。
【0035】
金属膜16は、例えばアルミニウム(Al)、銅(Cu)またはモリブデン(Mo)を主成分とする膜である。電極指18と圧電層14との間にチタン(Ti)膜、クロム(Cr)膜または窒化チタン(TiN)膜等の密着膜が設けられていてもよい。密着膜は電極指18より薄い。電極指18を覆うように絶縁層が設けられていてもよい。絶縁層は保護膜または温度補償膜として機能する。
【0036】
弾性波の波長λは例えば1μmから6μmである。2本の電極指18を1対としたときの対数は例えば20対から300対である。IDT22のデュティ比は、(電極指18の太さ)/(電極指18のピッチ)であり、例えば30%から70%である。IDT22の開口長は例えば10λから50λである。弾性波の波長λは電極指18の平均ピッチDの2倍である。電極指18の平均ピッチは、IDT22のX方向の幅を電極指18の本数で除することで算出できる。
【0037】
[比較例1]
図2は、比較例1に係る弾性波共振器の断面図である。図2に示すように、比較例1では、絶縁層12が設けられていない。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0038】
[シミュレーション1]
比較例1の弾性波共振器について、絶縁層11のQ値を変え、メイン応答とスプリアス応答のシミュレーション1を行った。シミュレーション1の条件は以下である。
支持基板10:サファイア基板、Q値=500
絶縁層11:酸化アルミニウム層、厚さT1=2.7λ、Q値=Q1
絶縁層13 酸化シリコン層、厚さT3=0.2λ、Q値=Q3=500
圧電層14:42°回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板、T4=0.3λ、Q値=2000
金属膜16:アルミニウム膜、厚さは0.07λ
弾性波の波長λ(2×D):2.2μm
各層を伝搬するバルク波の音速は以下である。
支持基板10:V0=7068.2m/s
絶縁層11:V1=4581.8m/s
絶縁層13:V2=3683.5m/s
圧電層14:V3=3750.8m/s
Q値は振動のQ値であり、弾性波の減衰定数の逆数である。
【0039】
まず、絶縁層11のバルク波の音速を4581.8m/sとし、絶縁層11のQ値Q1を絶縁層13のQ値Q3に対し、1倍、0.5倍および0.2倍と変化させた。
【0040】
図3(a)は、シミュレーション1における周波数に対するアドミッタンスの絶対値|Y|を示し、図3(b)は、Q1/Q3に対するΔYを示す図である。図3(b)において、ドットはシミュレーション点を示し、曲線は近似曲線である。メイン応答ΔYは、メイン応答Mnにおける共振周波数frの|Y|と反共振周波数faの|Y|との差である。スプリアス応答ΔYはスプリアス応答Spにおける|Y|の差が最も大きい応答の|Y|の差である。
【0041】
図3(a)に示すように、Q1=0.2×Q3では、Q1=Q3に比べ、スプリアス応答Spが小さくなっているものの、メイン応答Mnにおける共振周波数frの|Y|と反共振周波数faの|Y|との差も小さくなっている。図3(b)に示すように、Q1/Q3を小さくすると、スプリアス応答ΔYが小さくなるもののメイン応答ΔYも小さくなる。このように、絶縁層11のQ値Q1を低くし減衰定数を大きくすると、スプリアス応答ΔYは小さくなるが、メイン応答ΔYも小さくなってしまう。
【0042】
[シミュレーション2]
比較例1の弾性波共振器について、絶縁層11のバルク波の音速V1を変え、メイン応答とスプリアス応答のシミュレーション2を行った。
絶縁層11:酸化アルミニウム層、厚さT1=2.7λ、Q値=0.5×Q3
絶縁層11のバルク波の音速:V1
その他のシミュレーション条件はシミュレーション1と同じである。
【0043】
図4(a)は、シミュレーション2における周波数に対するアドミッタンスの絶対値|Y|を示し、図4(b)は、絶縁層11のバルク波の音速V1に対するΔYを示す図である。図4(b)において、ドットはシミュレーション点を示し、曲線は近似曲線である。
【0044】
図4(a)および図4(b)に示すように、絶縁層11のバルク波の音速V1を速くすると、メイン応答MnのΔYは大きくなるが、スプリアス応答SpのΔYも大きくなってしまう。
【0045】
比較例1のシミュレーション1および2のように、スプリアス応答SpのΔYを小さくすると、メイン応答MnのΔYが小さくなり、メイン応答MnのΔYを大きくすると、スプリアス応答SpのΔYが大きくなる。このように、メイン応答の劣化を抑制し、かつスプリアス応答を抑制することは難しい。
【0046】
比較例1において、スプリアス応答を抑制しようとすると、メイン応答が劣化する理由について、図2を用いて説明する。電極指18は、メイン応答の弾性表面波50とスプリアス応答の不要波52を励振する。弾性表面波50は例えばSH(Shear Horizontal)波であり、不要波52は例えばバルク波である。特許文献4のように、弾性表面波50は圧電層14の上面から2λ程度までの範囲を伝搬する。よって、圧電層14の厚さT4が例えば電極指18の平均ピッチDの2倍(λ)以下での場合(すなわち、電極指18の平均ピッチDが圧電層14の厚さT4の0.5倍以上の場合)、かつ、絶縁層13の厚さT3と圧電層14の厚さT4の合計が例えば電極指18の平均ピッチDの4倍(2×λ)以下の場合について、弾性表面波50の閉じ込めと不要波52の減衰を考える。
【0047】
不要波52が支持基板10との界面56において反射することでスプリアス応答となる。そこで、絶縁層11のバルク波の音速V1を圧電層14のバルク波の音速V4および絶縁層13のバルク波の音速V3より速くする。周波数の低い弾性表面波50は絶縁層11と13との界面55において反射しやすくなる。周波数の高い不要波52(例えばバルク波)は界面55を透過しやすくなる。界面55を透過した不要波52は支持基板10と絶縁層11との界面56において反射され、電極指18に戻りスプリアス応答となる。絶縁層11の厚さT1およびQ値Q1等を適宜設定することで、絶縁層11を通過する不要波52を減衰させることができる。これにより、スプリアス応答を抑制できる。一方、弾性表面波50は界面55において反射され、圧電層14および絶縁層13内に閉じ込められるため、メイン応答は劣化しにくい。
【0048】
しかし、界面55において、弾性表面波50が反射され、不要波52を透過させるためには、絶縁層11のバルク波の音速V1が圧電層14のバルク波の音速V4および絶縁層13のバルク波の音速V3に比べ速すぎないことが条件となる。例えば、シミュレーション1では、絶縁層11のバルク波の音速V1は、圧電層14のバルク波の音速V4の1.22倍であり、かつ絶縁層13のバルク波の音速V3の1.24倍である。この場合、弾性表面波50の閉じ込め効果は十分でなく、弾性表面波50の一部は絶縁層11内に侵入する。このため、弾性表面波50が減衰し、メイン応答が劣化してしまう。
【0049】
シミュレーション1では、絶縁層11のQ値Q1を低くすることで、スプリアス応答を抑制できる。しかし、絶縁層11内に侵入した弾性表面波50が減衰するためメイン応答が劣化してしまう。シミュレーション2では、絶縁層11のバルク波の音速V1を速くすることで、弾性表面波50が絶縁層11に侵入することを抑制でき、メイン応答の劣化を抑制できる。しかし、絶縁層11のバルク波の音速V1が速くなると、界面55において不要波52が反射されやすくなるため、スプリアス応答が大きくなってしまう。
【0050】
[実施例1]
実施例1において、スプリアス応答を抑制し、かつメイン応答の劣化を抑制できる理由について、図1(b)を用いて説明する。実施例1では、絶縁層12(第2絶縁層)を絶縁層11(第1絶縁層)と圧電層14との間に設ける。絶縁層12のバルク波の音速V2は絶縁層11のバルク波の音速V1より速い。これにより、弾性表面波50は、絶縁層12と13との間の界面54において反射しやすくなり、絶縁層11に侵入しにくくなる。これにより、メイン応答の劣化を抑制できる。また、不要波52は界面54を透過し絶縁層11に侵入する。これにより、不要波52は絶縁層11において減衰し、スプリアス応答を抑制できる。
【0051】
絶縁層12の厚さT2が大きすぎると、不要波52が界面54において反射されやすくなる。この観点から厚さT2は、平均ピッチDの4倍(2×λ)以下が好ましく、3倍(1.5×λ)以下がより好ましく、2倍(1×λ)以下がさらに好ましく、0.8倍(0.4×λ)以下がさらに好ましい。界面54において弾性表面波50が反射しやすくする観点から、厚さT2は、平均ピッチDの0.02倍(0.01×λ)以上が好ましく、0.2倍(0.1×λ)以上がより好ましい。
【0052】
絶縁層12のバルク波の音速V2が速すぎると、不要波52が界面54において反射されやすくなる。この観点から絶縁層12のバルク波の音速V2は、絶縁層11のバルク波の音速V1の2倍以下が好ましく、1.5倍以下がより好ましく、1.35倍以下がさらに好ましく、1.1倍以下がさらに好ましい。界面54において弾性表面波50が反射しやすくする観点から、音速V2は、音速V1の1.01倍以上が好ましく、1.02倍以上がより好ましい。
【0053】
支持基板10のバルク波の音速V0が速い場合には、図1(b)および図2の界面56において不要波52が反射されやすく、スプリアス応答が生じやすい。一方、支持基板10は、各層を支持する観点から硬い材料を用いることがある。支持基板10のバルク波の音速V0が絶縁層12のバルク波の音速V2より速い場合、絶縁層11および12を設けることが好ましい。支持基板10のバルク波の音速V0は、例えば絶縁層12のバルク波の音速V2の1.1倍以上であり、1.2倍以上である。
【0054】
絶縁層11のバルク波の音速V1が速すぎると、不要波52が絶縁層11に侵入しにくくなる。この観点から、絶縁層11のバルク波の音速V1は、圧電層14のバルク波の音速V4および絶縁層13のバルク波の音速V3の1.5倍以下が好ましく、1.3倍以下がより好ましい。絶縁層11のバルク波の音速V1が遅すぎると、弾性表面波50が絶縁層11に侵入してしまう。この観点から、音速V1は、音速V4およびV3の1.05倍以上が好ましく、1.2倍以上がより好ましい。
【0055】
[シミュレーション3]
実施例1において、絶縁層12の厚さT2およびバルク波の音速を変えてメイン応答とスプリアス応答のシミュレーション3を行った。シミュレーション3の条件は以下である。
絶縁層11:酸化アルミニウム層、厚さT1=2.7λ、Q値=Q1=250
絶縁層12:厚さT2、Q値=Q2=500
絶縁層11のバルク波の音速:V1=4581.8m/s
絶縁層12のバルク波の音速:V2
その他のシミュレーション条件はシミュレーション1と同じである。
【0056】
図5(a)から図5(c)は、シミュレーション3におけるサンプルA~Dの周波数に対するアドミッタンスの絶対値|Y|を示す図である。サンプルA~Dの条件は以下である。
サンプルA:T2=0.3λ、V2=6029m/s=1.32×V1
サンプルB:T2=0λ(比較例1)
サンプルC:T2=1.1λ、V2=6029m/s=1.32×V1
サンプルD:T2=0.01λ、V2=6029m/s=1.32×V1
【0057】
図5(a)に示すように、サンプルAは、サンプルBに比べ、スプリアス応答Spがやや小さく、メイン応答Mnがやや大きい。図5(b)に示すように、サンプルCは、サンプルAに比べ、メイン応答Mnはほぼ同じであり、スプリアス応答Spは大きい。図5(c)に示すように、サンプルDは、サンプルAに比べ、メイン応答Mnがやや小さく、スプリアス応答Spはやや大きい。
【0058】
図6は、シミュレーション3における厚さT2に対するΔYを示す図である。絶縁層12のバルク波の音速V2は6029m/sである。厚さT2=0は比較例1に相当する。各サンプルA~Dの厚さT2を矢印で示している。ドットはシミュレーション点を示し、曲線は近似曲線である。図6に示すように、厚さT2が0より大きいとき、メイン応答ΔYは比較例1のサンプルBより大きくなる。厚さT2が0.7λ以下では、スプリアス応答ΔYは比較例1と同程度である。このように、厚さT2が0.7λ以下ではスプリアス応答ΔYは比較例1のサンプルBと同程度でありかつメイン応答を大きくできる。厚さT2が0.7λ以上かつ1.5λ以下ではスプリアス応答ΔYはサンプルBより大きいものの、メイン応答ΔYをサンプルBより大きくできる。
【0059】
図7(a)および図7(b)は、シミュレーション3における厚さT2に対するΔYを示す図である。図7(a)は、メイン応答ΔYを示し、図7(b)は、スプリアス応答ΔYを示す。ドットはシミュレーション点を示し、直線はドットとつなぐ線である。絶縁層12の音速V2は以下の4水準とした。
V2=4983m/s=1.09×V1
V2=6029m/s=1.32×V1
V2=7505m/s=1.64×V1
V2=8504m/s=1.86×V1
【0060】
図7(a)に示すように、絶縁層12が厚くなると、メイン応答ΔYは大きくなる。絶縁層12のバルク波の音速V2が速くなるとメイン応答ΔYは大きくなる。図7(b)に示すように、ある音速V2のときに厚さT2を大きくすると、閾値の厚さまでは、スプリアス応答ΔYは比較例1と同程度である。閾値の厚さを越えると、スプリアス応答ΔYが大きくなる。音速V2が速くなると、閾値の厚さが小さくなる。
【0061】
図7(b)のように、V2=1.86×V1およびV2=1.64×V1では、スプリアス応答ΔYは52dB程度で飽和している。スプリアス応答ΔYが40dB程度でスプリアス応答の抑制効果があると考えると、絶縁層12の厚さT2が1.5λ(平均ピッチDの3倍)以下かつ絶縁層12のバルク波の音速V2が絶縁層11のバルク波の音速V1の約1.35倍以下であるとき、スプリアス応答を抑制し、かつメイン応答を比較例1より大きくできる。
【0062】
また、絶縁層12の厚さT2が0.4λ(平均ピッチDの0.8倍)以下かつ絶縁層12のバルク波の音速V2が絶縁層11のバルク波の音速V1の約2倍以下であるとき、スプリアス応答を抑制し、かつメイン応答を比較例1より大きくできる。
【0063】
絶縁層12のバルク波の音速V2が絶縁層11のバルク波の音速V1の約1.1倍以下であるとき、絶縁層12の厚さによらず、スプリアス応答ΔYを比較例1と同程度以下とでき、かつメイン応答を比較例1より大きくできる。特に、絶縁層12の厚さT2が約1.5λ(平均ピッチDの3倍)以下のとき、スプリアス応答ΔYを比較例1と同程度以下にできる。
【0064】
また、絶縁層12の厚さT2が0.7λ(平均ピッチDの1.4倍)以下かつ絶縁層12のバルク波の音速V2が絶縁層11のバルク波の音速V1の約1.35倍以下であるとき、スプリアス応答を比較例1より抑制し、かつメイン応答を比較例1より大きくできる。
【0065】
さらに、絶縁層12の厚さT2が0.3λ(平均ピッチDの0.6倍)以下かつ絶縁層12のバルク波の音速V2が絶縁層11のバルク波の音速V1の約1.65倍以下であるとき、スプリアス応答を比較例1より抑制し、かつメイン応答を比較例1より大きくできる。
【0066】
さらに、絶縁層12の厚さT2が0.2λ(平均ピッチDの0.4倍以下)かつ絶縁層12のバルク波の音速V2が絶縁層11のバルク波の音速V1の約1.9倍以下であるとき、スプリアス応答を比較例1より抑制し、かつメイン応答を比較例1より大きくできる。
【0067】
シミュレーション3では、圧電層14として42°回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板を用いていたが、回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板であれば、弾性波の主な伝搬方向は結晶方位のX軸方向となり、シミュレーション3と同じである。よって、シミュレーション3の結果は、圧電層14が回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板である場合に適用できる。また、30°~60°回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板はSH波を主モードとする。よって、圧電層14が30°~60°(または36°~50°)回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板の場合に、シミュレーション3の結果をより適用できる。なお、弾性波はLamb波等でもよい。
【0068】
シミュレーション3では、絶縁層13として無添加の酸化シリコン層を用いていたが酸化シリコン層にフッ素等の他の元素が添加されていても絶縁層13のバルク波の音速は大きくは変わらない。よって、シミュレーション3の結果は、絶縁層13が酸化シリコン層またはフッ素等の他の元素を添加した酸化シリコン層である場合に適用できる。
【0069】
シミュレーション3では、絶縁層11として多結晶または非晶質の酸化アルミニウム層を用いており、シミュレーション3の結果を絶縁層11が多結晶または非晶質の酸化アルミニウム層の場合に適用できる。絶縁層11は、多結晶または非晶質の窒化シリコン層、多結晶または非晶質の窒化アルミニウム層および多結晶または非晶質の炭化シリコン層でもよい。
【0070】
絶縁層11が多結晶または非晶質の酸化アルミニウム層の場合、絶縁層12として、例えば、多結晶または非晶質の窒化酸化アルミニウム層、多結晶または非晶質の窒化アルミニウム層、多結晶または非晶質のシリコン層、多結晶または非晶質の窒化シリコン層、または、多結晶または非晶質の窒化チタン層を用いることにより、絶縁層12のバルク波の音速V2を絶縁層11のバルク波の音速V1より速くかつV1の約1.35倍以下にできる。また、絶縁層12として、例えば、多結晶または非晶質の炭化シリコン層、または、ダイヤモンドライクカーボン層を用いることにより、絶縁層12のバルク波の音速V2を絶縁層11のバルク波の音速V1より速くかつV1の約2倍以下にできる。なお、材料名+層とは、層の中に材料を構成する元素以外に意図的または意図せず不純物が含まれることを許容し、例えば材料を構成する元素の合計が80原子%以上または90原子%以上である。例えば、酸化アルミニウム層では、アルミニウムと酸素の含有率の合計が80原子%以上または90原子%以上である。
【0071】
[実施例1の変形例1]
図8は、実施例1の変形例1に係る弾性波共振器の断面図である。図8に示すように、支持基板10と絶縁層11との間に絶縁層15が設けられている。絶縁層15は、例えば絶縁層11よりQ値の低いQ値を有する減衰層である。その他の構成は実施例1と同じであり、説明を省略する。
【0072】
実施例1の変形例1のように、Q値の低い絶縁層15を設けることで、絶縁層15において不要波52をより減衰できるため、スプリアス応答をより抑制できる。絶縁層15は、減衰層以外の絶縁層でもよい。絶縁層15のQ値は絶縁層11のQ値の0.5倍以下が好ましく、0.2倍以下がより好ましい。
【実施例0073】
図9は、実施例2に係る弾性波共振器の断面図である。図9に示すように、圧電層14と絶縁層12との間には他の層が設けられておらず、圧電層14と絶縁層12とは直接接している。その他の構成は実施例1と同じであり、説明を省略する。
【0074】
[シミュレーション4]
実施例2において、絶縁層12の厚さT2およびバルク波の音速を変えてメイン応答とスプリアス応答のシミュレーション4を行った。シミュレーション4の条件は絶縁層13を設けない以外はシミュレーション3と同じである。絶縁層12の音速V2は以下の3水準とした。
V2=4983m/s=1.09×V1
V2=6029m/s=1.32×V1
V2=6882m/s=1.50×V1
絶縁層12および13を設けない比較例2についてもシミュレーションを行った。
【0075】
図10(a)および図10(b)は、シミュレーション4における厚さT2に対するΔYを示す図である。図10(a)は、メイン応答ΔYを示し、図10(b)は、スプリアス応答ΔYを示す。ドットはシミュレーション点を示し、直線はドットとつなぐ線である。
【0076】
図10(a)に示すように、絶縁層12が厚くなると、メイン応答ΔYは大きくなる。絶縁層12のバルク波の音速V2が速くなるとメイン応答ΔYは大きくなる。図10(b)に示すように、V2=1.09×V1では、厚さT2によらず、スプリアス応答ΔYは比較例2と同程度である。
【0077】
シミュレーション4のように、圧電層14と絶縁層12との間に他の層が設けられていない場合にも、絶縁層12を設けることで、メイン応答の劣化を抑制しかつスプリアス応答を抑制できる。なお、厚さがλ/32以下の層は、特性にほとんど影響しない。よって、圧電層14と絶縁層12との間に厚さがλ/32(平均ピッチDの1/16)以上の他の層が設けられていないことが好ましい。圧電層14と絶縁層12との間に厚さがλ/64(平均ピッチDの1/32)以上の他の層が設けられていないことがより好ましい。例えば、圧電層14と絶縁層12との間に、圧電層14と絶縁層12とを接合する接合層として、厚さが10nm~100nmの酸化アルミニウム層または窒化酸化アルミニウム層が設けられていてもよい。
【0078】
絶縁層12のバルク波の音速V2が絶縁層11のバルク波の音速V1の約1.1倍以下であるとき、スプリアス応答ΔYを比較例2と同程度以下とでき、かつメイン応答を比較例2より大きくできる。特に、絶縁層12の厚さT2が約0.5λ(平均ピッチDの1倍以下)のとき、スプリアス応答ΔYを比較例2と同程度以下にできる。
【0079】
実施例2においても、支持基板10と絶縁層11との間に実施例1の変形例1の絶縁層15を設けてもよい。
【0080】
実施例1、2およびその変形例において、支持基板10と絶縁層11との界面等の各層間の界面が平坦面の例を説明したが、これらの界面の少なくとも1つの界面を例えば算術平均粗さRaが100nm以上の粗面としてもよい。
【実施例0081】
実施例3は、ウエハの例である。図11は、実施例3に係るウエハの断面図である。図11に示すように、ウエハ30には、弾性波共振器26が設けられていない。その他の構成は実施例1の図1(b)と同じであり説明を省略する。実施例3のウエハ30は、実施例1および2その変形例において、弾性波共振器26が設けられていないウエハでもよい。
【0082】
ウエハ30の場合、圧電層14の厚さT4は、例えば0.3×λ(すなわち0.6×D)である。よって、ウエハ30の場合には、実施例1および2その変形例において、説明した平均ピッチDは1.67×T4に相当する。例えば、厚さが、平均ピッチDの1/32倍、1/16倍、0.4倍、0.6倍、0.8倍、1.4倍、3倍および4倍は、圧電層14の厚さT4の1/20倍、1/10倍、0.67倍、1倍、1.35倍、2.3倍、5倍および6.7倍にそれぞれ相当する。
【実施例0083】
図12(a)は、実施例4に係るフィルタの回路図である。図12(a)に示すように、入力端子Tinと出力端子Toutとの間に、1または複数の直列共振器S1からS3が直列に接続されている。入力端子Tinと出力端子Toutとの間に、1または複数の並列共振器P1およびP2が並列に接続されている。1または複数の直列共振器S1からS3および1または複数の並列共振器P1およびP2の少なくとも1つに実施例1または2の弾性波共振器を用いることができる。ラダー型フィルタの共振器の個数等は適宜設定できる。フィルタは、多重モード型フィルタでもよい。
【0084】
[実施例4の変形例1]
図12(b)は、実施例4の変形例1に係るデュプレクサの回路図である。図12(b)に示すように、共通端子Antと送信端子Txとの間に送信フィルタ40が接続されている。共通端子Antと受信端子Rxとの間に受信フィルタ42が接続されている。送信フィルタ40は、送信端子Txから入力された高周波信号のうち送信帯域の信号を送信信号として共通端子Antに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。受信フィルタ42は、共通端子Antから入力された高周波信号のうち受信帯域の信号を受信信号として受信端子Rxに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。送信フィルタ40および受信フィルタ42の少なくとも一方を実施例4のフィルタとすることができる。
【0085】
マルチプレクサとしてデュプレクサを例に説明したがトリプレクサまたはクワッドプレクサでもよい。
【0086】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0087】
10 支持基板
11、12、13、15 絶縁層
14 圧電層
16 金属膜
18 電極指
20 櫛型電極
22 IDT
26 弾性波共振器
40 送信フィルタ
42 受信フィルタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12