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特開2024-57290ワークと該ワークを加工する加工体との相対位置の補正方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057290
(43)【公開日】2024-04-24
(54)【発明の名称】ワークと該ワークを加工する加工体との相対位置の補正方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/404 20060101AFI20240417BHJP
   B23Q 15/24 20060101ALI20240417BHJP
   B23Q 17/22 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
G05B19/404 G
B23Q15/24
B23Q17/22 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163928
(22)【出願日】2022-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(74)【代理人】
【識別番号】100104662
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智司
(74)【代理人】
【識別番号】100184631
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 隆
(72)【発明者】
【氏名】廣野 陽子
【テーマコード(参考)】
3C001
3C029
3C269
【Fターム(参考)】
3C001KA01
3C001KB01
3C001TA02
3C001TB02
3C029AA00
3C269AB02
3C269BB03
3C269CC02
3C269CC07
3C269EF10
3C269JJ18
3C269MN16
(57)【要約】
【課題】可動式ワーク主軸台と、可動式ワーク主軸台に搭載され、ワークを保持するワーク主軸と、加工体を保持する加工体保持部と、該加工体保持部を移動可能に支持する移動台と、可動式ワーク主軸台及び加工体移動台の相対位置を変更可能な送り機構部とを有する工作機械において、加工中におけるワークと加工体との相対位置を高精度で補正可能な補正方法を提供する。
【解決手段】可動式ワーク主軸台4をワーク加工時における使用予定位置に移動させた後に、可動式ワーク主軸台4のワーク主軸11と加工体保持部7との相対位置のずれ量を算出し、算出したずれ量を基に、ワーク加工中におけるワークWと加工体Tとの相対位置のずれ量を推定し、推定したずれ量を補正するように送り機構部を制御する。
【選択図】図6A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に移動可能な可動式ワーク主軸台と、該可動式ワーク主軸台に搭載され、ワークを保持するワーク主軸と、前記ワークを加工する加工体を保持する加工体保持部と、該加工体保持部を搭載した状態で所定方向に移動可能な加工体移動台と、前記可動式ワーク主軸台及び前記加工体移動台の相対位置を変更可能な送り機構部とを有する工作機械において、加工中における前記ワークと前記加工体との相対位置を補正する補正方法であって、
前記ワークの加工開始前に、前記送り機構部によって、前記可動式ワーク主軸台をワーク加工時における使用予定位置に移動させる移動工程と、
前記使用予定位置に移動した前記可動式ワーク主軸台に搭載された前記ワーク主軸と前記加工体保持部との相対位置のずれ量を算出する位置ずれ算出工程と、
前記位置ずれ算出工程にて算出したずれ量を基に、ワーク加工中における前記ワークと前記加工体との相対位置のずれ量を推定し、推定した該ずれ量を補正するように前記送り機構部を制御する補正制御工程とを備えていることを特徴とする補正方法。
【請求項2】
前記ワークの加工開始前に、前記可動式ワーク主軸台に搭載された前記ワーク主軸及び前記加工体保持部のいずれか一方に基準物を取り付けるとともに、前記ワーク主軸及び前記加工体保持部のうち前記基準物が取り付けられていない方に当該基準物の位置情報を測定可能な測定センサを取付ける取付工程をさらに備え、
前記位置ずれ算出工程において、前記測定センサにより前記基準物の位置情報を測定し、測定した該位置情報を基に、前記ワーク主軸と前記加工体保持部との相対位置のずれ量を算出する請求項1記載の補正方法。
【請求項3】
前記取付工程において、前記可動式ワーク主軸台に搭載された前記ワーク主軸に前記基準物を取り付けるとともに、前記加工体保持部に前記測定センサを取り付ける請求項2記載の補正方法。
【請求項4】
前記工作機械は、所定位置に移動不能に固定され、前記可動式ワーク主軸台のワーク主軸と同軸に対向するワーク主軸を保持する固定式ワーク主軸台をさらに備え、
前記取付工程は、前記ワークの加工開始前に、前記固定式ワーク主軸台に搭載された前記ワーク主軸に基準物を取付ける工程をさらに含み、
前記位置ずれ算出工程は、前記加工体保持部に取付けられた前記測定センサにより、前記固定式ワーク主軸台のワーク主軸に取付けられた前記基準物の位置情報を測定し、測定した該位置情報を基に、前記固定式ワーク主軸台のワーク主軸と前記加工体保持部との相対位置のずれ量を算出する工程をさらに含み、
前記補正制御工程は、前記位置ずれ算出工程にて算出した前記各ワーク主軸と前記加工体保持部との相対位置のずれ量を基に、前記ワークの加工中における前記ワークと前記加工体との相対位置のずれ量を推定し、推定した該ずれ量を補正するように前記送り機構部を制御することを特徴とする請求項3記載の補正方法。
【請求項5】
前記可動式ワーク主軸台は2つ設けられ、該2つの可動式ワーク主軸台は、それぞれに搭載されたワーク主軸が同軸に対向するように配置されており、
前記取付工程では、前記各可動式ワーク主軸台に搭載された各ワーク主軸に基準物を取付け、
前記移動工程では、前記各可動式ワーク主軸台をワーク加工時における使用予定位置に移動させ、
前記位置ずれ算出工程では、前記加工体保持部に取付けた前記測定センサにより前記各基準物の位置情報を測定し、測定した各基準物の位置情報を基に、前記各可動式ワーク主軸台に搭載された各ワーク主軸と前記加工体保持部との相対位置のずれ量を算出し、
前記補正制御工程では、前記位置ずれ算出工程にて算出した各ワーク主軸と前記加工体保持部との相対位置のずれ量を基に、前記ワークの加工中における前記ワークと前記加工体との相対位置のずれ量を推定し、推定したずれ量を補正するように前記送り機構部を制御することを特徴とする請求項3記載の補正方法。
【請求項6】
前記補正制御工程では、前記ワークの加工中において、前記位置ずれ算出工程にて算出した各ワーク主軸と前記加工体保持部との相対位置のずれ量を、各ワーク主軸の対向方向における前記加工体の位置に応じて補間した値を、当該加工体の位置におけるワークと加工体との相対位置のずれ量と推定し、推定した該ずれ量を補正するように前記送り機構部を制御することを特徴とする請求項4又は5記載の補正方法。
【請求項7】
前記工作機械は、互いに対向する2つの前記ワーク主軸に前記ワークの延設方向の両端部を支持させた状態で、前記加工体保持部に保持された加工体により当該ワークの加工を実行するように構成され、
前記補正制御工程では、前記ワークの加工中において、前記位置ずれ算出工程にて算出した各ワーク主軸と前記加工体保持部との相対位置のずれ量を、前記ワークの延設方向における前記加工体の位置に応じて線形補間した値を、当該加工体の位置におけるワークと加工体との相対位置のずれ量と推定し、推定した該ずれ量を補正するように前記送り機構部を制御することを特徴とする請求項4又は5記載の補正方法。
【請求項8】
前記工作機械は、前記加工体移動台に連結されて所定軸線回りに回転可能な旋回駆動軸と、該旋回駆動軸を回転駆動する旋回駆動部と、該旋回駆動軸を回転不能に固定するための回転固定機構とを備え、
前記回転固定機構は、前記旋回駆動軸を回転不能に固定可能な複数の固定機構部を有していて、該複数の固定機構部の作動/非作動の組み合わせを異ならせた複数の作動状態に切替え可能に構成され、
前記位置ずれ算出工程は、前記複数の作動状態のそれぞれにおいて実行され、
前記補正制御工程では、前記ワークの加工中において、現時点における前記回転固定機構の作動状態が前記複数の作動状態のうちいずれに該当するかを判別し、前記位置ずれ算出工程にて算出した前記ワーク主軸と前記加工体保持部との相対位置のずれ量のうち、判別した作動状態に対応する相対位置のずれ量を特定し、特定したずれ量を基に、前記ワークと前記加工体との相対位置のずれ量を推定し、推定した該ずれ量を補正するように前記送り機構部を制御することを特徴とする請求項1から7のいずれか1つに記載の補正方法。
【請求項9】
前記回転固定機構は、前記複数の固定機構部として、前記旋回駆動軸を機械的に固定する第1固定機構部と、前記旋回駆動部に付設された電磁ブレーキ機構である第2固定機構部とを有していることを特徴とする請求項8記載の補正方法。
【請求項10】
前記工作機械は、前記加工体移動台に連結されて所定軸線回りに回転可能な旋回駆動軸と、該旋回駆動軸を回転駆動する旋回駆動部とを備え、
前記位置ずれ算出工程では、前記旋回駆動部によって前記旋回駆動軸を回転させることにより、前記加工体移動台の前記所定軸線回りの角度を予め定めた複数の角度位置に変更して、各角度位置にて、前記基準物の位置情報を測定し、測定した該位置情報を基に、前記ワーク主軸と前記加工体保持部との相対位置のずれ量を算出し、
前記補正制御工程では、前記ワークの加工中において、前記旋回駆動軸の前記所定軸線回りの旋回角度を取得し、取得した旋回角度に応じて、前記位置ずれ算出工程にて算出した前記各角度位置におけるずれ量を線形補間して、前記ワークと前記加工体との相対位置のずれ量を推定し、推定した該ずれ量を補正するように前記送り機構部を制御することを特徴とする請求項1から9のいずれか1つに記載の補正方法。
【請求項11】
前記位置ずれ算出工程において、前記工作機械の機内又は機外のカメラにより撮像された撮像画像を基に前記ワーク主軸と前記加工体保持部との相対位置のずれ量を算出する請求項1記載の補正方法。
【請求項12】
所定方向に移動可能な可動式ワーク主軸台と、該可動式ワーク主軸台に搭載され、ワークを保持するワーク主軸と、前記ワークを加工する加工体を保持する加工体保持部と、該加工体保持部を搭載した状態で所定方向に移動可能な加工体移動台と、前記可動式ワーク主軸台及び前記加工体移動台の相対位置を変更可能な送り機構部とを有する工作機械であって、
前記ワークの加工開始前に、前記送り機構部によって、前記可動式ワーク主軸台をワーク加工時における使用予定位置に移動させる移動工程と、
前記使用予定位置に移動した前記可動式ワーク主軸台に搭載された前記ワーク主軸と前記加工体保持部との相対位置のずれ量を算出する位置ずれ算出工程と、
前記位置ずれ算出工程にて算出したずれ量を基に、ワーク加工中における前記ワークと前記加工体との相対位置のずれ量を推定し、推定した該ずれ量を補正するように前記送り機構部を制御する補正制御工程とを実行するように構成されているプログラム実行部を備えていることを特徴とする工作機械。
【請求項13】
所定方向に移動可能な可動式ワーク主軸台と、該可動式ワーク主軸台に搭載され、ワークを保持するワーク主軸と、前記ワークを加工する加工体を保持する加工体保持部と、該加工体保持部を搭載した状態で所定方向に移動可能な加工体移動台と、前記可動式ワーク主軸台及び前記加工体移動台の相対位置を変更可能な送り機構部とを有する工作機械に用いられるプログラムであって、
前記ワークの加工開始前に、前記送り機構部によって、前記可動式ワーク主軸台をワーク加工時における使用予定位置に移動させる移動工程と、
前記使用予定位置に移動した前記可動式ワーク主軸台に搭載された前記ワーク主軸と前記加工体保持部との相対位置のずれ量を算出する位置ずれ算出工程と、
前記位置ずれ算出工程にて算出したずれ量を基に、ワーク加工中における前記ワークと前記加工体との相対位置のずれ量を推定し、推定した該ずれ量を補正するように前記送り機構部を制御する補正制御工程とを実行するように構成されている補正部としての機能をコンピュータに発揮させることを特徴とする工作機械用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定方向に移動可能な可動式ワーク主軸台を有する工作機械において、ワークと該ワークを加工する加工体との相対位置を補正する補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、工作機械において加工中のワークと工具(加工体)との相対位置を補正する補正方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この補正方法は、チルトテーブルを有するマシニングセンタに適用され、ワークの加工開始前に、該チルトテーブルに基準球を取付けて、該基準球の中心位置のずれ量を、工具主軸に取付けたタッチプローブによって測定する。そして、ワークの加工開始後は、この測定したずれ量を基にワークと工具との相対位置を補正するように加工制御を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-194451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示す補正方法は、旋盤系の複合加工機に適用することも可能である。この複合加工機は、通常、ワークを保持するワーク主軸と、ワーク主軸が搭載されるワーク主軸台と、工具(加工体)を保持する加工体保持部と、加工体保持部を搭載した状態で移動可能な加工体移動台と、ワーク主軸台及び加工体移動台の相対位置を変更可能な送り機構部と有しており、基準球(基準物)をワーク主軸に取付けて、タッチプローブ(測定センサ)を加工体保持部に取付けることで、前記特許文献1と同様の方法でワークと加工体との相対位置を補正することができる。なお、加工体保持部は、例えば回転工具(加工体)を保持する工具主軸や、周面に非回転工具(加工体)を保持するタレット等により構成される。
【0005】
前記ワーク主軸台の種類として、工作機械に移動不能に固定された固定式ワーク主軸台と、所定方向に移動可能な可動式ワーク主軸台との2種類がある。可動式ワーク主軸台を有する工作機械に対して、前記基準物を用いた補正方法を適用しようとすると以下の問題が生じる。
【0006】
すなわち、ワーク加工時における可動式ワーク主軸台の位置は、加工対象となるワークのサイズなどによって変更される。このため、基準物を測定したときの可動式ワーク主軸台の位置と、実際に加工を行う際の可動式ワーク主軸台の位置とが異なるという状況が発生する。このように、基準物の測定時とワーク加工時とで可動式ワーク主軸台の位置が異なっていると、測定した基準物の位置情報を基にワーク加工時におけるワーク及び加工体の相対位置を補正したとしても、その補正精度を十分に確保することができないという問題がある。
【0007】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであって、所定方向に移動可能な可動式ワーク主軸台を備えた工作機械において、ワーク加工時におけるワークと加工体との相対位置を高精度で補正可能な補正方法を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、所定方向に移動可能な可動式ワーク主軸台と、該可動式ワーク主軸台に搭載され、ワークを保持するワーク主軸と、前記ワークを加工する加工体を保持する加工体保持部と、該加工体保持部を搭載した状態で、所定方向に移動可能な加工体移動台と、前記可動式ワーク主軸台及び前記加工体移動台の相対位置を変更可能な送り機構部とを有する工作機械において、加工中における前記ワークと前記加工体との相対位置を補正する補正方法であって、記ワークの加工開始前に、前記送り機構部によって、前記可動式ワーク主軸台をワーク加工時における使用予定位置に移動させる移動工程と、前記使用予定位置に移動した前記可動式ワーク主軸台に搭載された前記ワーク主軸と前記加工体保持部との相対位置のずれ量を算出する位置ずれ算出工程と、前記位置ずれ算出工程にて算出したずれ量を基に、ワーク加工中における前記ワークと前記加工体との相対位置のずれ量を推定し、推定した該ずれ量を補正するように前記送り機構部を制御する補正制御工程とを備えている補正方法に係る。
【0009】
第1の発明によれば、移動工程において、ワーク主軸を支持する可動式ワーク主軸台が、ワーク加工時における使用予定位置まで移動される。そして、位置ずれ算出工程において、前記使用予定位置に移動した前記可動式ワーク主軸台に搭載されたワーク主軸と前記加工体保持部との相対位置のずれ量が算出される。ここまでの工程はワークの加工前に実行される。ワークの加工開始後は、該位置ずれ算出工程にて算出されたワーク主軸と加工体保持部との相対位置のずれ量を基に、補正制御工程にて、ワーク加工中におけるワークと加工体との相対位置のずれ量が推定され、推定された該ずれ量を補正するよう送り機構部が制御される。
【0010】
したがって、例えば、機械要素の摩耗等に起因してワーク主軸と加工体保持部との相対的な位置関係が変化し、ワークと加工体との相対位置のずれ量が可動式ワーク主軸台の位置に応じた量で個別に発生していたとしても、ワーク加工時には送り機構部によりそのずれ量を適切に補正することができる。よって、例えばワークの大きさに応じて可動式ワーク主軸台の位置を変更されたとしても加工体によるワークの加工精度を向上させることができる。
【0011】
第2の発明は、前記ワークの加工開始前に、前記可動式ワーク主軸台に搭載された前記ワーク主軸及び前記加工体保持部のいずれか一方に基準物を取り付けるとともに、前記ワーク主軸及び前記加工体保持部のうち前記基準物が取り付けられていない方に当該基準物の位置情報を測定可能な測定センサを取付ける取付工程をさらに備え、前記位置ずれ算出工程において、前記測定センサにより前記基準物の位置情報を測定し、測定した該位置情報を基に、前記ワーク主軸と前記加工体保持部との相対位置のずれ量を算出するものである。
【0012】
第2の発明によれば、前記可動式ワーク主軸台及び前記加工体保持部を利用した機内測定によりずれ量を把握することが可能となる。
【0013】
第3の発明は、前記取付工程において、前記可動式ワーク主軸台に搭載された前記ワーク主軸に前記基準物を取り付けるとともに、前記加工体保持部に前記測定センサを取り付ける
第3の発明によれば、前記加工保持部に前記測定センサを取り付けるので、例えば工具自動交換装置(ATC)を利用して工具と測定センサを交換することでその取付作業を簡単にしつつ、取付精度等も担保しやすい。また、ワーク主軸に取付けた基準物の位置測定は、可動式ワーク主軸台をワーク加工時における使用予定位置に移動させた後に実行される。したがって、基準物の測定時とワーク加工時とで可動式ワーク主軸台の位置を一致させることができる。よって、可動式ワーク主軸台を備えた工作機械であっても測定した基準物の位置情報を基に、ワーク加工時におけるワーク及び加工体の相対位置を精度良く補正することができる。
【0014】
第4の発明は、第3の発明において、前記工作機械は、所定位置に移動不能に固定され、前記可動式ワーク主軸台のワーク主軸と同軸に対向するワーク主軸を保持する固定式ワーク主軸台をさらに備え、前記取付工程は、前記ワークの加工開始前に、前記固定式ワーク主軸台に搭載された前記ワーク主軸に基準物を取付ける工程をさらに含み、前記位置ずれ算出工程は、前記加工体保持部に取付けられた前記測定センサにより、前記固定式ワーク主軸台のワーク主軸に取付けられた前記基準物の位置情報を測定し、測定した該位置情報を基に、前記固定式ワーク主軸台のワーク主軸と前記加工体保持部との相対位置のずれ量を算出する工程をさらに含み、前記補正制御工程は、前記位置ずれ算出工程にて算出した前記各ワーク主軸と前記加工体保持部との相対位置のずれ量を基に、前記ワークの加工中における前記ワークと前記加工体との相対位置のずれ量を推定し、推定した該ずれ量を補正するように前記送り機構部を制御するものである。
【0015】
第4の発明によれば、可動式ワーク主軸台と、該可動式ワーク主軸台に対向する固定式主軸台とを備えた工作機械を対象として、位置ずれ算出工程にて、可動式ワーク主軸台のワーク主軸に取付けられた基準物の位置情報に加えて、固定式ワーク主軸台のワーク主軸に取付けられた基準物の位置情報を測定センサにより測定し、測定した各基準物の位置情報を基に、各ワーク主軸と加工体保持部との相対位置のずれ量を算出し、算出した各相対位置のずれ量を基に、ワーク加工中におけるワークと加工体との相対位置のずれ量を推定し、推定した各ずれ量を補正するように送り駆動部を制御するようにしたことで、前記可動式ワーク主軸台及び前記固定式ワーク主軸台の双方を備えている工作機械であっても適切なずれ量の補正を行うことが可能となる。
【0016】
第5の発明は、第3の発明において、前記可動式ワーク主軸台は2つ設けられ、該2つの可動式ワーク主軸台は、それぞれに搭載されたワーク主軸が同軸に対向するように配置されており、前記取付工程では、前記各可動式ワーク主軸台に搭載された各ワーク主軸に基準物を取付け、前記移動工程では、前記各可動式ワーク主軸台をワーク加工時における使用予定位置に移動させ、前記位置ずれ算出工程では、前記加工体保持部に取付けた前記測定センサにより前記各基準物の位置情報を測定し、測定した各基準物の位置情報を基に、前記各可動式ワーク主軸台に搭載された各ワーク主軸と前記加工体保持部との相対位置のずれ量を算出し、前記補正制御工程では、前記位置ずれ算出工程にて算出した各ワーク主軸と前記加工体保持部との相対位置のずれ量を基に、前記ワークの加工中における前記ワークと前記加工体との相対位置のずれ量を推定し、推定したずれ量を補正するように前記送り機構部を制御するものである。
【0017】
第5の発明によれば、2つの可動式ワーク主軸台を対向配置してなる工作機械において、各可動式ワーク主軸台をそれぞれ、ワーク加工時における使用予定位置に移動させた後に、各可動式ワーク主軸台のワーク主軸に取付けられた各基準物の位置情報を測定センサにより測定し、測定した各基準物の位置情報を基に、前記各可動式ワーク主軸台に搭載された各ワーク主軸と前記加工体保持部との相対位置のずれ量を算出し、算出した各ずれ量を基に、ワーク加工中における前記ワークと前記加工体との相対位置のずれ量を推定し、推定したずれ量を送り機構部により補正するようにしたことで、複数の前記可動式ワーク主軸台を備えている工作機械であっても適切なずれ量の補正を行うことが可能となる。
【0018】
第6の発明は、第4又は第5の発明において、前記補正制御工程では、前記ワークの加工中において、前記位置ずれ算出工程にて算出した各ワーク主軸と前記加工体保持部との相対位置のずれ量を、各ワーク主軸の対向方向における前記加工体の位置に応じて補間した値を、当該加工体の位置におけるワークと加工体との相対位置のずれ量と推定し、推定した該ずれ量を補正するように前記送り機構部を制御するものである。
【0019】
第6の発明によれば、各ワーク主軸と前記加工体保持部の全ての使用予定位置の組み合わせについてずれ量を実測しなくても、様々な使用態様において適切な補正を実現することが可能となる。
【0020】
第7の発明は、第4又は第5の発明において、前記工作機械は、互いに対向する2つのワーク主軸に前記ワークの延設方向の両端部を支持させた状態で、前記加工体保持部に保持された加工体により当該ワークの加工を実行するように構成され、前記補正制御工程では、前記ワークの加工中において、前記位置ずれ算出工程にて算出した各ワーク主軸と前記加工体保持部との相対位置のずれ量を、前記ワークの延設方向における前記加工体の位置に応じて線形補間した値を、当該加工体の位置におけるワークと加工体との相対位置のずれ量と推定し、推定した該ずれ量を補正するように前記送り機構部を制御するものである。
【0021】
第7の発明によれば、ワークの加工中は、ワークの延設方向の両端部が前記2つのワーク主軸により両端支持され、前記加工体は2つのワーク主軸の間に位置する点に着目して、位置ずれ算出工程にて算出された各ワーク主軸と加工体保持部との相対位置のずれ量を、ワーク延設方向における加工体の位置に応じて線形補間することで、当該加工体位置におけるワークと加工体との相対位置のずれ量を推定するようにした。これによれば、代表点(ワークの両端部)においてずれ量を測定しておけば、任意の加工体の位置におけるずれ量を推定して送り機構の補正ができるので、ずれ量の実測の手間を軽減しつつ、高精度化を実現できる。
【0022】
第8の発明は、第1から第7のいずれか1つの発明において、前記工作機械は、前記加工体移動台に連結されて所定軸線回りに回転可能な旋回駆動軸と、該旋回駆動軸を回転駆動する旋回駆動部と、該旋回駆動軸を回転不能に固定するための回転固定機構とを備え、前記回転固定機構は、前記旋回駆動軸を回転不能に固定可能な複数の固定機構部を有していて、該複数の固定機構部の作動/非作動の組み合わせを異ならせた複数の作動状態に切替え可能に構成され、前記位置ずれ算出工程は、前記複数の作動状態のそれぞれにおいて実行され、前記補正制御工程では、前記ワークの加工中において、現時点における前記回転固定機構の作動状態が前記複数の作動状態のうちいずれに該当するかを判別し、前記位置ずれ算出工程にて算出した前記ワーク主軸と前記加工体保持部との相対位置のずれ量のうち、判別した作動状態に対応する相対位置のずれ量を特定し、特定したずれ量を基に、前記ワークと前記加工体との相対位置のずれ量を推定し、推定した該ずれ量を補正するように前記送り機構部を制御するものである。
【0023】
第9の発明は、第8の発明において、前記回転固定機構は、前記複数の固定機構部として、前記旋回駆動軸を機械的に固定する第1固定機構部と、前記旋回駆動部に付設された電磁ブレーキ機構である第2固定機構部とを有しているものである。
【0024】
第8及び第9の発明によれば、旋回駆動軸の回転固定機構の作動状態に応じて、ワークと加工体との相対位置のずれ量を高精度で補正することができる。よって、回転固定機構の作動により、加工体移動台の支持構造が変形したり旋回駆動軸に撓み変形が生じたりしたとしても、ワーク加工中におけるワークと加工体との相対位置を高精度で補正して両者の位置関係を一定に維持することができる。延いては、加工体によるワークの加工精度を可及的に向上させることができる。
【0025】
第10の発明は、第1から第9のいずれか1つの発明において、前記工作機械は、前記加工体移動台に連結されて所定軸線回りに回転可能な旋回駆動軸と、該旋回駆動軸を回転駆動する旋回駆動部とを備え、前記位置ずれ算出工程では、前記旋回駆動部によって前記旋回駆動軸を回転させることにより、加工体移動台の前記所定軸線回りの角度を予め定めた複数の角度位置に変更して、各角度位置にて、前記基準物の位置情報を測定し、測定した該位置情報を基に、前記ワーク主軸と前記加工体保持部との相対位置のずれ量を算出し、前記補正制御工程では、前記ワークの加工中において、前記旋回駆動軸の前記所定軸線回りの旋回角度を取得し、取得した旋回角度に応じて、前記位置ずれ算出工程にて算出した前記各測定位置におけるずれ量を線形補間して、前記ワークと前記加工体との相対位置のずれ量を推定し、推定した該ずれ量を補正するように前記送り機構部を制御するものである。
【0026】
第10の発明によれば、加工体移動台の所定軸線回りの旋回角度に応じて、ワークと加工体との相対位置を適切に補正して、加工体によるワークの加工精度を可及的に向上させることができる。
【0027】
第11の発明は、前記位置ずれ算出工程において、前記工作機械の機内又は機外のカメラにより撮像された撮像画像を基に前記ワーク主軸と前記加工体保持部との相対位置のずれ量を算出するものである。
【0028】
第11の発明によれば、例えば工作機械の機内カメラやワークの搬出入を行うAGV等のロボットに搭載されているカメラを利用して、前記ワーク主軸と前記加工体保持部の相対位置のずれ量を非接触で測定することが可能となる。
【0029】
第12の発明は、所定方向に移動可能な可動式ワーク主軸台と、該可動式ワーク主軸台に搭載され、ワークを保持するワーク主軸と、前記ワークを加工する加工体を保持する加工体保持部と、該加工体保持部を搭載した状態で所定方向に移動可能な加工体移動台と、前記可動式ワーク主軸台及び前記加工体移動台の相対位置を変更可能な送り機構部とを有する工作機械であり、前記ワークの加工開始前に、前記送り機構部によって、前記可動式ワーク主軸台をワーク加工時における使用予定位置に移動させる移動工程と、前記使用予定位置に移動した前記可動式ワーク主軸台に搭載された前記ワーク主軸と前記加工体保持部との相対位置のずれ量を算出する位置ずれ算出工程と、前記位置ずれ算出工程にて算出したずれ量を基に、ワーク加工中における前記ワークと前記加工体との相対位置のずれ量を推定し、推定した該ずれ量を補正するように前記送り機構部を制御する補正制御工程とを実行するように構成されているプログラム実行部を備えている工作機械に係る。
【0030】
第12の発明によれば、例えば加工プログラムで指定されている前記可動式ワーク主軸台の位置に応じて、前記ワーク主軸と前記加工体保持部との相対位置のずれ量を自動で測定、及び、補正することができ、加工精度の高い工作機械を実現できる。
【0031】
第13の発明は、所定方向に移動可能な可動式ワーク主軸台と、該可動式ワーク主軸台に搭載され、ワークを保持するワーク主軸と、前記ワークを加工する加工体を保持する加工体保持部と、該加工体保持部を搭載した状態で所定方向に移動可能な加工体移動台と、前記可動式ワーク主軸台及び前記加工体移動台の相対位置を変更可能な送り機構部とを有する工作機械に用いられるプログラムであって、前記ワークの加工開始前に、前記送り機構部によって、前記可動式ワーク主軸台をワーク加工時における使用予定位置に移動させる移動工程と、前記使用予定位置に移動した前記可動式ワーク主軸台に搭載された前記ワーク主軸と前記加工体保持部との相対位置のずれ量を算出する位置ずれ算出工程と、前記位置ずれ算出工程にて算出したずれ量を基に、ワーク加工中における前記ワークと前記加工体との相対位置のずれ量を推定し、推定した該ずれ量を補正するように前記送り機構部を制御する補正制御工程とを実行するように構成されている補正部としての機能をコンピュータに発揮させる工作機械用プログラムに係る。
【0032】
第13の発明を用いれば、既存の工作機械のプログラムをアップデートすることで、第12の発明と同様の効果を発揮させることが可能となる。なお、工作機械用のプログラムは、電子的に配信されるものであってもよいし、CD、DVD、HDD、フラッシュメモリ等のプログラム記録媒体に記録されるものであってもよい。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係る補正方法によれば、可動式ワーク主軸台をワーク加工時における使用予定位置に移動させた後の前記可動式ワーク主軸台のワーク主軸と加工体保持部との相対位置のずれ量を算出し、算出したずれ量を基に、ワーク加工中におけるワークと加工体との相対位置のずれ量を推定し、推定したずれ量を補正するように送り機構部を制御するようにしたことで、可動式ワーク主軸台を備えた工作機械であってもワーク加工中におけるワークと加工体との相対位置を高精度で補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】実施形態におけるワークと工具との相対位置の補正方法を実現する工作機械の一例を示す全体斜視図である。
図2】旋回駆動軸による工具主軸台の支持構造を示すB軸に沿った縦断面図である。
図3】工具主軸台に連結された旋回駆動軸の回転固定機構の作動状態を説明するための表である。
図4】工作機械の制御構成を示すブロック図である。
図5】第1ワーク主軸に取付けられた基準球を、工具主軸に取付けられたタッチプローブにより測定する様子を示す斜視図である。
図6A】工作機械による基準球の測定動作を説明するための説明図である。
図6B】工作機械による基準球の測定動作を説明するための説明図である。
図6C】工作機械による基準球の測定動作を説明するための説明図である。
図7】測定データ処理装置により生成される位置ずれデータを説明するための説明図である。
図8】第1ワーク主軸及び第2ワーク主軸に両端支持されたワークを、工具主軸に保持された工具により加工している様子を示す概略図である。
図9】実施形態2を示す図7相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1は、実施形態におけるワークWと工具T(加工体の一例)との相対位置の補正方法を実現する工作機械1の一例を示す全体斜視図である。なお、以下の説明において、前側、後側はそれぞれ、工作機械1の正面側及び背面側を意味し、左側及び右側は、工作機械1を前側から見たときの左側及び右側を意味する。
【0036】
本例の工作機械1は、5軸制御の複合旋盤であって、ベッド2と、該ベッド2上にZ軸方向(左右方向)に対向するように配置された第1ワーク主軸台3及び第2ワーク主軸台4と、第1ワーク主軸台3及び第2ワーク主軸台4の間にX軸(上下)方向及びZ軸方向に移動可能に配置されたタレット刃物台5と、ベッド2上にX軸,Y軸(前後)及びZ軸方向に移動可能に配置された工具主軸台6(加工体移動台の一例)と、工具主軸台6に保持されて工具Tを回転駆動する工具主軸7(加工体保持部の一例)と、工作機械1の各部の動作を制御する制御装置50(図4参照)とを備えている。ベッド2上におけるワーク加工領域の左側には、前記工具主軸7に装着された工具Tと、次工程で使用する工具Tとを自動的に交換する工具交換装置8が配置されている。
【0037】
前記第1ワーク主軸台3は、前記ベッド2の上面に固定され、第1ワーク主軸10をZ軸と平行なC軸を中心に回転自在に保持する。一方、前記第2ワーク主軸台4は、第2ワーク主軸11を、前記第1ワーク主軸10と同軸に保持してC軸を中心に回転自在に保持するとともに、前記ベッド2の上面に設けられた一対のガイドレール(図示省略)によりZ軸方向に移動自在となっており、送りモータ33a及び送りねじ(図示省略)によって前記Z軸方向に移動する。第1ワーク主軸10は第1主軸モータ(図示省略)によって駆動され、第2ワーク主軸11は第2主軸モータ(図示省略)によって駆動される。そして、第1ワーク主軸台3が固定式ワーク主軸台を構成し、第2ワーク主軸台4が可動式ワーク主軸台を構成している。
【0038】
タレット刃物台5は、Z軸と平行な軸線回りに旋回可能なタレット5aを有していて、送りモータ及び送りねじ(いずれも図示省略)によってZ軸方向及びX軸方向に移動可能に構成されている。タレット5aの外周部には、旋削加工用の工具5bが周方向に間隔を空けて放射状に配置されている。
【0039】
工具主軸台6は、ベッド2の上面に立設されたコラム12に、サドル13、スライダ14、及びラム15を介して連結されている。
【0040】
コラム12は、ベッド2の上面の左右両端部に跨がる門型状をなしており、 前記サドル13は、コラム12の前側面に設けられた一対のガイドレール(図示省略)によって前記Z軸方向に移動自在に構成され、一対の送りねじ37及び一対の送りモータ33bによって前記Z軸方向に移動する。
【0041】
前記スライダ14は、サドル13の前側面に設けられた一対のガイドレールによってX軸方向に移動自在になっており、一対の送りねじ38及び一対の送りモータ33cによって前記X軸方向に移動する。
【0042】
前記ラム15は、スライダ14に形成されたラム案内穴14aに挿入された状態で不図示の案内板によりY軸方向に移動可能に支持されている。そして、このラム15は、スライダ14の幅方向中央の下端部に配置された1つの送りねじ(図示省略)と送りモータ33dによってY軸方向に移動する。
【0043】
前記工具主軸台6は、図2に示すように、ラム15に回転自在に支持された旋回駆動軸16に固定されていて、該旋回駆動軸16に連結された旋回モータ31(旋回駆動部の一例)によって、Y軸と平行なB軸(所定軸線の一例)を中心に旋回可能に構成されている。
【0044】
旋回駆動軸16は、ラム15内に設けられた前側軸受17と後側軸受(図示省略)によってB軸回りに回転可能に支持され、回転固定機構35によりB軸回りの回転を固定に可能に構成されている。回転固定機構35は、旋回モータ31に付設された電磁ブレーキ機構32と、ラム15内に設けられたカップリング機構30とを含んでいる。カップリング機構30が第1固定機構部に相当し、電磁ブレーキ機構32が第2固定機構部に相当する。
【0045】
電磁ブレーキ機構32は、モータ軸と共に回転する可動部材と、電磁力により軸方向に駆動されて該可動部材に当接する摩擦部材とを備えた周知の構成を採用することができる。
【0046】
カップリング機構30は、前側軸受17よりも前側に配置された円環状のピストン30aを有している。ピストン30aは、油圧によってB軸と平行に移動可能に構成されている。ピストン30aの後端面には、B軸を中心とする環状領域に噛合歯が形成されている。また、前側軸受17の外輪17a及び内輪17bの前側面にも同様に、B軸を中心とする環状領域に噛合歯がそれぞれ形成されている。ピストン30aの噛合歯と、前側軸受17の外輪17aの噛合歯と、前側軸受17の内輪17bの噛合歯とは、3ピースカップリングを構成しており、ピストン30aが後側に移動すると、該ピストン30aの噛合歯が、前側軸受17の外輪17aと内輪17bとの両噛合歯に噛み合う。これにより、旋回駆動軸16が回転不能に固定されて、該旋回駆動軸16に連結された工具主軸台6が所望の旋回角度に固定(クランプ)される。
【0047】
回転固定機構35は、カップリング機構30及び電磁ブレーキ機構32の作動/非作動を異ならせた複数の作動状態に切替え可能に構成されている。複数の作動状態とは、図3に示すように、カップリング機構30のみが作動するカップリング作動状態と、電磁ブレーキ機構32のみが作動するブレーキ作動状態と、カップリング機構30及び電磁ブレーキ機構32が共に非作動となる固定解除状態との3つである。カップリング作動状態及びブレーキ作動状態では、工具主軸台6が旋回駆動軸16と共に回転不能に固定されるので、工具主軸7に装着された工具Tによってミーリング加工及び旋削加工を行うことができる。このミーリング加工及び旋削加工に際して、カップリング作動状態とブレーキ作動状態とのいずれを採用するかは使用者側で任意に選択することができる。固定解除状態では、工具主軸台6が旋回駆動軸16と共にB軸回りに回転可能になるので、工具主軸7に装着された工具Tによってコンタリング加工を行うことができる。なお、後述する位置ずれ測定モードでは、回転固定機構35は毎回同じ状態(本例では一例としてカップリング作動状態)に制御される。
【0048】
前記工具主軸台6には、工具主軸7を回転駆動する主軸モータが内蔵されており、工具主軸7の先端には、工具Tが着脱可能に装着される。また、工具主軸7の先端には、工具Tに替えて後述するタッチプローブ20を装着可能になっている。
【0049】
タッチプローブ20は、接触式の測定センサであって、ワークWの加工開始前に行う位置ずれ測定モードにて使用される。位置ずれ測定モードは、ワークWの加工を行う通常運転モードとは別のモードであって、各ワーク主軸10、11に取付けた基準球9a(図5参照)をタッチプローブ20により測定することで、工具主軸7と各ワーク主軸10,11との相対位置のずれ量を測定するためのモードである。位置ずれ測定モードにて測定されたずれ量は、通常運転モードにてワークWの加工を行う際の補正量として使用される。
【0050】
図4に示すように、前記制御装置50は、プログラム記憶部51、プログラム実行部52、及び駆動制御部53などから構成されている。また、この制御装置50には、NC操作盤60及び測定データ処理装置70がそれぞれ接続されている。なお、これら制御装置50、NC操作盤60及び測定データ処理装置70は、CPU、RAM、ROMなどを含むコンピュータから構成されている。
【0051】
前記NC操作盤60は、入力部61及び表示部62を有している。表示部62は、プログラム実行部52におけるNCプログラム51aの実行状況などを表示可能になっている。入力部61は、モード選択ボタン61aと、サイクル実行ボタン61bと、測定開始ボタン61cとを有している。モード選択ボタン61aは、通常運転モードと位置ずれ測定モードとのいずれかを選択するためのボタンである。サイクル実行ボタン61bは、通常運転モードにおいて、工作機械1にNCプログラム51a基づくワークWの加工動作を実行させるためのボタンである。測定開始ボタン61cは、位置ずれ測定モードにおいて、工作機械1にタッチプローブ20を用いた位置ずれ測定処理を開始させるためのボタンである。
【0052】
プログラム記憶部51には、通常運転モードにて実行されるNCプログラム51aと、位置ずれ測定モードにて実行される位置ずれ測定プログラム51bとが記憶されている。
【0053】
プログラム実行部52は、前記NC操作盤60の入力部61から入力された指令に従いNCプログラム51a又は位置ずれ測定プログラム51bを実行し、各プログラム51a,51bにて規定された指令信号(速度指令信号や位置指令信号など)を駆動制御部53に送信する。具体的には、プログラム実行部52は、モード選択ボタン61aにより通常運手モードが選択されている状態で、サイクル実行ボタン61bが押された場合には、プログラム記憶部51に記憶されたNCプログラム51aを実行して、該NCプログラム51aに規定された動作を工作機械1に実行させるべく駆動制御部53に指令信号を送信する。
【0054】
前記プログラム実行部52は、モード選択ボタン61aにより位置ずれ測定モードが選択されている状態で、測定開始ボタン61cが押された場合には、プログラム記憶部51に記憶された位置ずれ測定プログラム51bを実行して、タッチプローブ20を用いた基準球9aの測定動作を工作機械1に実行させるべく、駆動制御部53に指令信号を送信する。
【0055】
前記駆動制御部53は、送りモータ33(送り機構部の一例)、主軸モータ34、旋回モータ31、前記カップリング機構30及び前記電磁ブレーキ機構32の作動を制御する機能部である。送りモータ33は、X軸、Y軸及びZ軸方向の送り動作を実現するためのモータであって、上述した送りモータ33a~33d等からなる。また、主軸モータ34は、第1ワーク主軸10、第2ワーク主軸11、及び工具主軸7を駆動するモータ等からなる。駆動制御部53は、通常運転モードにおいては、後述する測定データ処理装置70にて生成された位置ずれデータを基に、ワークWと工具Tとの相対位置のずれ量を補正するべく送りモータ33の駆動制御を行う。
【0056】
図5に示すように、タッチプローブ20は、スタイラス21と、スタイラス21の先端に固定された球状の測定子22と、スタイラス21の基端部に接続された回路ケース23とを有している。回路ケース23内には、測定子22が測定対象物(本例では、後述する基準球9a)に接触した際のスタイラス21の変位を検知してオンオフ信号を出力する出力回路が収容されている。この出力回路から出力されたオンオフ信号は、測定データ処理装置70に入力される。
【0057】
基準球9aは、後述するように、作業者によって第1ワーク主軸10及び第2ワーク主軸11の端面に装着される。基準球9aは、装着治具9bに一体で固定されており、装着治具9bは、各ワーク主軸10,11(図5では第1ワーク主軸10のみを示す)の端面に位置決め固定される。
【0058】
タッチプローブ20は、工具主軸7に装着され、工作機械1による測定動作に伴い工具主軸台6が移動することで、プローブ先端の測定子22が基準球9aに対して-X、+X、-Y、+Y、及び+Zの5方向(図5中の矢印参照)から接触するようになっている。この測定子22の接触によりタッチプローブ20から出力されるオンオフ信号が測定データ処理装置70に入力される。なお、タッチプローブ20による測定点の数は、3点以上確保できれば良く、必ずしも5点に限定されない。
【0059】
測定データ処理装置70は、図4に示すように、位置ずれ算出部71と、データ記憶部72とを有しており、位置ずれ算出部71は、タッチプローブ20から入力されるオンオフ信号を基に、タッチプローブ20の測定子22と基準球9aとの接触位置を算出し、算出した接触位置を基に基準球9aの中心位置(位置情報の一例)を算出する。そして、位置ずれ算出部71は、算出した基準球9aの中心位置の正規位置(設計値に基づいて幾何学的に決まる位置)からのずれ量を算出し、算出したずれ量のデータを、基準球9aが取付けられた各ワーク主軸10,11と前記工具主軸7との相対位置のずれ量である位置ずれデータとして生成する。そして、位置ずれ算出部71は、生成した位置ずれデータをデータ記憶部72に記憶させる。なお、固定主軸台である第1ワーク主軸台3のワーク主軸10に取り付けられる基準球9aの正規位置は、設計値に基づいて幾何学的に決定される。一方、可動主軸台である第2ワーク主軸台4のワーク主軸11に取付けられる基準球9aの正規位置は、例えば設計値と、第2ワーク主軸台4を使用予定位置へ移動させるための指令値、第2ワーク主軸台4の移動方向の位置を検出するリニアスケールの出力値、又は第2ワーク主軸台4を駆動する送りモータ33のロータリーエンコーダの出力値等から算出される移動距離等に基づいて正規位置を決定してもよい。
【0060】
次に、図6A図6Cを参照して、位置ずれ測定モードにおける基準球9aの測定処理の詳細を説明する。
【0061】
図6Aに示すように、先ず、作業者が、第1ワーク主軸10及び第2ワーク主軸11にそれぞれ基準球9aを取付けるとともに、工具主軸7に前記タッチプローブ20(測定センサの一例)を取付ける。なお、工具主軸7へのタッチプローブ20の取付けは、工具交換装置8により自動で行うようにしてもよい。
【0062】
作業者は、基準球9a及びタッチプローブ20の取付け作業が完了した後、NC操作盤60のモード選択ボタン61aにより位置ずれ測定モードを選択する。位置ずれ測定モードでは、通常運転モードで使用されるサイクル実行ボタン61bなどの操作は無効化される。この位置ずれ測定モードにおいて、作業者が測定開始ボタン61cを押すと、制御装置50のプログラム実行部52により位置ずれ測定プログラム51bが実行され、駆動制御部53による制御の下、工作機械1が測定動作を開始する。この測定動作では、図6Bに示すように、駆動制御部53による制御の下、送りモータ33により第2ワーク主軸台4が、ワークWのNC加工時における使用予定位置まで移動される。この使用予定位置は、駆動制御部53によってプログラム記憶部51に記憶されたNCプログラム51aを解析することにより特定される。なお、図6Bの例では、第2ワーク主軸台4の使用予定位置(実線で示す位置)が元の位置(二点鎖線で示す位置)よりも左側に位置する場合を示しているが、これに限ったものではなく、第2ワーク主軸台4の使用予定位置が元の位置よりも右側に位置する場合もあり得る。
【0063】
そして、第2ワーク主軸台4が使用予定位置まで移動した後は、図6Cに示すように、駆動制御部53による制御の下、送りモータ33及び旋回モータ31によって工具主軸台6が各基準球9aに対して予め設定された複数の角度位置(本例では、B軸回りの旋回角度θが0°、45°及び90°となる3つの角度位置)に順次移動され、各角度位置において、タッチプローブ20の測定子22が基準球9aに対して上述した5方向(-X、+X、-Y、+Y、及び+Z。図5参照)から接触し、この接触に伴いタッチプローブ20から出力されるオンオフ信号が測定データ処理装置70に入力される。測定データ処理装置70では、上述したように、タッチプローブ20からのオンオフ信号を基に各基準球9aの中心位置のずれ量を算出し、算出したずれ量を位置ずれデータとしてデータ記憶部72に記憶する。
【0064】
図7は、測定データ処理装置70のデータ記憶部72に記憶された位置ずれデータの一例である。上側の3行はそれぞれ、第1ワーク主軸10に取付けられた基準球9aの中心位置のX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の位置ずれ量を表し、下側の3行はそれぞれ、第2ワーク主軸11に取付けられた基準球9aの中心位置のX軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向の位置ずれ量を表している。位置ずれ量は、工具主軸台6のB軸回りの旋回角度θに応じて3列に分けて表示されている。左から1列目、2列目及び3列目は、それぞれ、旋回角度θが0°、45°及び90°である場合に対応している。位置ずれデータ中に示す第1ワーク主軸10の基準球9aの中心位置のずれ量は、第1ワーク主軸10と工具主軸7との相対位置のずれ量に相当し、第2ワーク主軸11の基準球9aの中心位置のずれ量は、第2ワーク主軸11と工具主軸7との相対位置のずれ量に相当する。なお、図7においては、便宜的に位置ずれ量をアルファベット3文字(例えばXL0)で表しているが、実際にはこれが数値に置き換わる。
【0065】
次に、通常運転モードにおいて、制御装置50の駆動制御部53により前記位置ずれデータを基に実行されるワークWと工具Tとの相対位置の補正制御について説明する。
【0066】
駆動制御部53は、先ず、NCプロブラムに基づいてワークWの加工制御を実行した場合に発生すると予測されるワークWと工具Tとの相対位置のずれ量を、前記データ記憶部72に記憶された前記位置ずれデータを基に推定する。
【0067】
具体的には、駆動制御部53は、ワーク加工時における工具TのZ軸方向の位置、及び、工具主軸台6のB軸回りの旋回角度θに応じて位置ずれデータを線形補間した値を、ワークWと工具Tとの相対位置のずれ量として推定する。ここで、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向のずれ量の推定値をδx、δy、δzとし、ワークWの両端から加工中の工具Tの先端位置までの距離をa,b(図8参照)とし、工具主軸台6のB軸回りの旋回角度をθとしたとき、推定されるずれ量δxは、以下の式により算出される。なお、Y軸及びZ軸方向のずれ量δy、δzについては、X軸方向のずれ量δxと同様の考え方で算出することができるので、ここでは詳細な算出式は省略する。
【0068】
δx=K1+(K2-K1)×{a/(a+b)}
ここで、
【0069】
(i)工具主軸台6のB軸回りの旋回角度が0°以上45°以下である場合
K1=(XL45-XL0)×θ/45
K2=(XR45-XR0)×θ/45
【0070】
(ii)工具主軸台6のB軸回りの旋回角度が45°以上90°以下である場合
K1=XL45+(XL90-XL45)×θ/45
K2=XR45+(XR90-XR45)×θ/45
そして、駆動制御部53は、推定したずれ量δx、δy、δzを補正するように送りモータ33を制御して、工具主軸台6のX軸、Y軸及びZ軸方向の位置補正を行う。一例として、δxが10μm、δyが15μm、δzが-20μmであった場合、駆動制御部53は、工具主軸台6の位置を、NCプログラム51a規定された位置に対してX軸方向に-10μm、Y軸方向に-15μm、Z軸方向に+20μmだけ補正するように送りモータ33を制御する。これにより、工具TとワークWとの相対位置のずれ量が補正されてワークWの加工精度を向上させることができる。
【0071】
以上説明したように、本実施形態によれば、第1ワーク主軸台3及び第2ワーク主軸4に取付けた各基準球9aの中心位置をタッチプローブ20により測定し、ワーク加工時には、測定した中心位置の正規位置からのずれ量である位置ずれデータを基に、ワークWと工具Tとの相対位置のずれ量を推定して、推定したずれ量を補正するように送りモータ33を制御するようにしたことで、工具TによるワークWの加工精度を向上させることができる。
【0072】
そして、本実施形態では、タッチプローブ20により第2ワーク主軸11の基準球9aを測定する際には、第2ワーク主軸台4をワーク加工時における使用予定位置まで移動させた状態で行うようにした。したがって、基準球9aの測定時とワーク加工時とで第2ワーク主軸台4の位置を一致させることができる。よって、測定した基準球9aの位置情報(本例では中心位置のずれ量)を基に、ワーク加工時におけるワークW及び工具Tの相対位置を精度良く補正することができる。
【0073】
また、本実施形態では、位置ずれデータ(つまり、各ワーク主軸10,11と、工具主軸7との相対位置のずれ量)を、ワークWの延設方向における工具位置に応じて線形補間した値を、当該工具位置におけるワークWと工具Tとの相対位置のずれ量と推定するようにした。これにより、ワークWと工具Tとの相対位置のずれ量を精度良く推定することができる。延いては、送りモータ33によるワークWと工具Tとの相対位置の補正精度を格段に向上させることができる。
【0074】
(実施形態2)
図9は、実施形態2を示す図7相当図である。この実施形態では、旋回駆動軸16の回転固定機構35の作動状態を考慮して位置ずれデータを生成する点、及び位置ずれデータに基づく補正制御を実行する点が前記実施形態1とは異なっている。なお、工作機械1のハードウェア構成は実施形態1と同様であるため、同じ構成要素には同じ符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0075】
すなわち、本実施形態では、位置ずれ測定モードにおいて、測定開始ボタン61cが押されると、駆動制御部53による制御の下、カップリング作動状態、ブレーキ作動状態、及び固定解除状態(図3参照)の各状態において、実施形態1と同様の手順により、タッチプローブ20を用いた各ワーク主軸10,11の基準球9aの測定動作が実行され、測定データ処理装置70の位置ずれ算出部71にて位置ずれデータが生成され、データ記憶部72に該位置ずれデータが記憶される。
【0076】
図9は、測定データ処理装置70のデータ記憶部72に記憶された位置ずれデータの一例である。この位置ずれデータでは、カップリング作動状態と、ブレーキ作動状態と、固定解除状態とのそれぞれに対して、実施形態1と同様のデータ構成で位置ずれ量が記述されている。なお、図9においては、位置ずれ量を便宜的にアルファベット4文字(例えばXaL0)で表しているが、実際にはこれが数値に置き換わる。
【0077】
次に、通常運転モードにおいて、制御装置50の駆動制御部53により前記位置ずれデータを基に実行されるワークWと工具Tとの相対位置の補正制御について説明する。
【0078】
駆動制御部53は、補正制御の実行に際して、先ず、現時点における回転固定機構35(カップリング機構30及び電磁ブレーキ機構32)の作動状態が、前カップリング作動状態と、ブレーキ作動状態と、固定解除状態とのいずれの状態に該当するかを判別する。そして、駆動制御部53は、前記データ記憶部72に記憶された位置ずれデータ(図9参照)のうち、判別した作動状態に対応する位置ずれデータを抽出(特定)して、抽出した位置ずれデータを基に、ワークWと工具Tとの相対位置のずれ量を推定し、推定した該ずれ量を補正するように送りモータ33を制御する。相対位置のずれ量の推定は、実施形態1と同様に、ワーク加工時における工具TのZ軸方向の位置、及び、工具主軸台6のB軸回りの旋回角度θに応じて位置ずれデータを線形補間することで実行される。
【0079】
以上説明したように、本実施形態の位置ずれ測定モードでは、回転固定機構35の3つの作動状態(カップリング作動状態、ブレーキ作動状態、及び固定解除状態)のそれぞれにおいて、タッチプローブ20による各基準球9aの測定動作を実行して位置ずれデータを生成し、ワーク加工時には、現時点における前記回転固定機構35の作動状態に応じた位置ずれデータを使用してワークWと工具Tとの相対位置を補正するようにした。これにより、ワークWと工具Tとの相対位置の補正精度を可及的に向上させることができる。すなわち、回転固定機構35の構成要素であるカップリング機構30又は電磁ブレーキ機構32が作動すると、機械内部の構成部品同士の嵌合隙間等が変化して、例えば図2の二点鎖線で示すように工具主軸台6の位置が変化する。本実施形態では、このような工具主軸台6の位置変化を考慮して、工具TとワークWとの相対位置を補正することができるので、回転固定機構35の作動状態を考慮しない場合に比べて補正精度を格段に向上させることができる。
【0080】
(他の実施形態)
前記各実施形態では、工具主軸台6に保持された工具主軸7にタッチプローブ20を装着するようにしているが、これに限ったものではなく、タッチプローブ20を、タレット刃物台5のタレット5aに装着するようにしてもよい。この場合、タッチプローブ20により測定される各基準球9aの中心位置のずれ量は、タレット5aと各ワーク主軸10,11との相対位置のずれ量に相当する。したがって、ワーク加工時には、このずれ量を補正するように送りモータ33を制御することで、タレット5aに装着された工具5bとワークWとの相対位置を補正することができる。なお、この場合、タレット5aが加工体保持部に相当し、タレット刃物台5が加工体移動台に相当する。
【0081】
前記各実施形態では、送りモータ33により工具主軸台6の位置を補正することにより、ワークWと工具Tとの相対位置のずれ量を補正するようにしているが、これに限ったものでなく、各ワーク主軸台3,4の位置を補正するようにしてもよいし、各ワーク主軸台3,4及び工具主軸台6の双方の位置を補正するようにしてもよい。すなわち、ワークWと工具Tとの相対位置を補正可能であれば送りモータ33による移動対象及び移動方向は限定されない。
【0082】
前記各実施形態では、ワークWと工具Tとの相対位置のずれ量を、X軸、Y軸及びZ軸方向の全ての方向にて補正するようにしているが、これに限ったものではなく、例えば、X軸、Y軸、及びZ軸のうちいずれか1つ又は2つの軸方向においてのみ補正するようにしてもよい。この場合、タッチプローブ20による各基準球9aの中心位置の測定も、該1つ又は2つの軸方向においてのみ行えばよい。
【0083】
前記各実施形態では、第1ワーク主軸台3が固定主軸台であり、第2ワーク主軸台4が可動主軸台である例を説明したが、これに限ったものではない。すなわち、工作機械1は、1つの可動主軸台のみを有するものであってもよいし、2つのワーク主軸台が共に可動主軸台で構成されていてもよい。前者の場合には、1つのワーク主軸台を使用予定位置に移動させた後に、基準球9aの位置ずれ測定を行えばよい。また、後者の場合、2つのワーク主軸台をそれぞれの使用予定位置に移動させた後に、基準球9aの位置ずれ測定を行えばよく、ワークWと工具Tとの位置ずれ量の推定処理や補正処理は前記各実施形態と同様に行えばよい。
【0084】
前記各実施形態では、第1ワーク主軸10及び第2ワーク主軸11に取付ける基準物の一例として基準球9aを採用しているが、これに限ったものではなく、例えば立方体状の部材を基準物として採用し、各面の位置をタッチプローブ20により測定するようにしてもよい。また、基準物は、各ワーク主軸10,11に取付けた基準マークであってもよく、この場合、工具主軸7に取付ける測定センサとしてカメラなどの画像センサを採用し、該画像センサにより基準マークの位置ずれ量を測定することで、各ワーク主軸10,11と工具主軸7との相対位置のずれ量を算出することができる。
【0085】
前記各実施形態では、測定センサがタッチプローブ20により構成される例を説明したが、これに限ったものではない。測定センサは、例えば、レーザ変位計の原理を利用した非接触プローブで構成されていてもよいし、上述のようにカメラなどの画像センサにより構成されていてもよい。
【0086】
前記各実施形態では、基準球9aの中心位置のずれ量を、工具主軸7と各ワーク主軸10,11との相対位置のずれ量(位置ずれデータ)として算出するようにしているが、これに限ったものではなく、例えば、ワーク主軸10,11を120°ずつ回転させて各角度位置にて測定した基準球9aの位置情報を基に、各ワーク主軸10,11の軸心位置の位置ずれ量を算出して前記位置ずれデータとして生成するようにしてもよい。
【0087】
前記実施形態では、工作機械1は複合旋盤とされているが、これに限ったものではなく、例えば付加加工を行う付加加工機や、切削加工及び付加加工の双方を実行可能なハイブリッド機であってもよい。付加加工では、例えば工具Tに替えて供給ノズルを使用し、該供給ノズルからワーク表面に供給した粉末材料をレーザ等により溶融固化させる。この場合、供給ノズル及び/又はレーザユニットがワークを加工する加工体として機能する。また、ワーク主軸と加工体保持部との相対位置のずれ量は、供給ノズルの先端を基準としてもよいし、供給ノズルから供給される粉末材料の到達予定地点を基準としてもよいし、レーザの照射点を基準とてもよい。
【0088】
前記各実施形態では、基準物と測定センサを取り付けてから可動式ワーク主軸台を移動させていたが、この順番についてはこれに限られず、逆であってもよい。また、基準物と測定センサは相補的な関係にあることから、可動式ワーク主軸台に測定センサを設けておき、加工体保持部に基準物を設けてもよい。
【0089】
また、測定センサについては可動式ワーク主軸台又は加工体保持部のいずれかに設けられているものに限られない。例えば工作機械の機内に設けられた内部カメラや、工作機械にワークの搬出入を行うAGV等のロボットのマニピュレータに設けられた外部カメラで可動式ワーク主軸台のワーク主軸及びその近傍と、加工体保持部及びその近傍が含まれるように撮像し、その撮像画像に基づいてそれぞれの相対位置のずれ量を算出するようにしてもよい。ワーク主軸、加工体保持部の位置を撮像画像から検出しやするように例えば所定のマーカが付与された基準物をそれぞれに取り付けてもよいし、いずれか一方にのみ取り付けてもよい。加えて、ワーク主軸や加工体保持部に位置情報を取得するために利用できるマーカやその他の特徴点があるならばそれを基準物としてもよい。
【0090】
前記各実施形態では、ワークWを第1ワーク主軸10及び第2ワーク主軸11によって両端支持した状態における各ワーク主軸10,11と工具主軸7との位置ずれ量を差出し、算出した両位置ずれ量を、ワーク延設方向(2つのワーク主軸10,11の対向方向)の工具Tの位置に応じて線形補間した値を、当該工具Tの位置におけるワークWと工具Tとの相対位置のずれ量と推定するようにしているが、補間の態様は必ずしも線形補間である必要はない。例えば、可動支持台である第2ワーク支持台4の位置に応じてガイドレールの撓み量が非線形に変化する場合には、非線形関数を用いて前記ずれ量を算出するようにしてもよい。また、ワークWは必ずしも両端支持される必要はなく、片持ち支持されていてもよい。この場合、ワークを片持ち支持しているワーク主軸と工具主軸7との位置ずれ量を基に、ワーク延設方向における工具Tの位置に応じた補間演算を実行することでワークWと工具Tとの相対位置のずれ量を推定するようにすればよい。
【0091】
なお、上述した実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではない。当業者にとって変形および変更が適宜可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲内と均等の範囲内での実施形態からの変更が含まれる。
【符号の説明】
【0092】
T 工具(加工体)
W ワーク
θ 旋回角度
1 工作機械
3 第1ワーク主軸台(固定式ワーク主軸台)
4 第2ワーク主軸台(可動式ワーク主軸台)
6 工具主軸台(加工体移動台)
7 工具主軸(加工体保持部)
9a 基準球(基準物)
10 第1ワーク主軸(ワーク主軸)
11 第2ワーク主軸(ワーク主軸)
16 旋回駆動軸
20 タッチプローブ(測定センサ)
30 カップリング機構(第1固定機構部)
31 旋回モータ(旋回駆動部)
32 電磁ブレーキ機構(第2固定機構部)
33 送りモータ(送り機構部)
35 回転固定機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9