(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057307
(43)【公開日】2024-04-24
(54)【発明の名称】燃料電池用セパレータおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0258 20160101AFI20240417BHJP
H01M 8/0226 20160101ALI20240417BHJP
H01M 8/0221 20160101ALI20240417BHJP
H01M 8/0213 20160101ALI20240417BHJP
H01M 8/0228 20160101ALI20240417BHJP
H01M 8/0245 20160101ALI20240417BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20240417BHJP
【FI】
H01M8/0258
H01M8/0226
H01M8/0221
H01M8/0213
H01M8/0228
H01M8/0245
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163952
(22)【出願日】2022-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 洋
(72)【発明者】
【氏名】本多 雅之
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 尭頌
(72)【発明者】
【氏名】手島 真広
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕紀
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA08
5H126AA12
5H126BB06
5H126DD04
5H126DD14
5H126EE24
5H126FF04
5H126GG05
5H126GG18
5H126HH02
5H126JJ02
(57)【要約】
【課題】
燃料電池用セパレータの曲げ特性を向上させる。
【解決手段】
本発明は、炭素系フィラーと第1樹脂とを少なくとも含むシート状成形体22と、シート状成形体22の厚さ方向の少なくとも片側の面に備える第2樹脂のメッシュ10とを備え、シート状成形体22の厚さ方向の両側の面であって、第2樹脂のメッシュ10の表側の面からシート状成形体22の内方に向けて窪む流路状の溝30を備える燃料電池用セパレータ40およびその製造方法に関する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素系フィラーと第1樹脂とを少なくとも含むシート状成形体と、
前記シート状成形体の厚さ方向の少なくとも片側の面に備える第2樹脂のメッシュと、
を備え、前記シート状成形体の厚さ方向の両側の面であって、前記第2樹脂のメッシュの表側の面から前記シート状成形体の内方に向けて窪む流路状の溝を備えることを特徴とする燃料電池用セパレータ。
【請求項2】
前記第1樹脂および前記第2樹脂は同種の樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項3】
前記第1樹脂はポリフェニレンスルファイドであることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項4】
前記シート状成形体の厚さ方向の両側の面にフィルムを備え、
前記第2樹脂のメッシュは、前記シート状成形体と前記フィルムとの間に備えられ、
前記流路状の溝は、前記フィルムの表側の面から前記シート状成形体の内方に向けて窪んでおり、前記第2樹脂のメッシュを備える側において前記第2樹脂のメッシュの表側の面から前記シート状成形体の内方に向けて窪んでいることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項5】
前記シート状成形体の厚さ方向の両側の面にフィルムを備え、
前記第2樹脂のメッシュは、前記シート状成形体と前記フィルムとの間に備えられ、
前記流路状の溝は、前記フィルムの表側の面から前記シート状成形体の内方に向けて窪んでおり、前記第2樹脂のメッシュを備える側において前記第2樹脂のメッシュの表側の面から前記シート状成形体の内方に向けて窪んでいることを特徴とする請求項3に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項6】
請求項1に記載の燃料電池用セパレータを製造する方法であって、
炭素系フィラーと第1樹脂と水を含む水系コンパウンドから水を減じるろ過工程と、
前記ろ過工程後に水をさらに減じてシート状成形体を製造する一次賦形工程と、
前記一次賦形工程後の被成形物を加圧成形する加圧成形工程と、
を含み、
前記ろ過工程は、前記炭素系フィラーおよび前記第1樹脂のコンパウンドより大面積である第2樹脂のメッシュを用いて行われ、
前記一次賦形工程および前記加圧成形工程は、前記被成形物に前記第2樹脂のメッシュを備えた状態で行われることを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項7】
前記第1樹脂および前記第2樹脂は同種の樹脂であることを特徴とする請求項6に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項8】
前記第1樹脂はポリフェニレンスルファイドであることを特徴とする請求項6または7に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項9】
前記加圧成形は、前記第2樹脂のメッシュを備えた前記被成形物を、その厚さ方向両側からフィルムで挟持して行われることを特徴とする請求項6または7に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項10】
前記加圧成形は、前記第2樹脂のメッシュを備えた前記被成形物を、その厚さ方向両側からフィルムで挟持して行われることを特徴とする請求項8に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用セパレータおよびその製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素と酸素の反応を利用してエネルギーを取り出す電池である。当該反応によって生成するのは水であるため、燃料電池は地球環境に優しい電池として知られている。特に、固体高分子型燃料電池は、高出力密度を可能とし、小型で軽量であることから、自動車、通信機器、電子機器等のバッテリーとして有力視され、一部実用化されている。燃料電池は、複数個のセルを積み重ねて構成されたセルスタックである。セルとセルとの間には、セパレータと称する板状部材が配置されている。セパレータは、隣同士になる水素と酸素の通路を仕切る隔壁板であり、水素と酸素がイオン交換膜の全面にわたって均一に接触して流れる役割を担っている。このため、セパレータには、その流路となる溝が形成されている。
【0003】
セパレータは、その構成材料の観点で、金属材料系と、炭素材料系とに大別される。金属材料系のセパレータには、一般的に、ステンレススチール、アルミニウム若しくはその合金、あるいはチタニウム若しくはその合金が使用される。金属材料系のセパレータは、金属特有の強度と延性に起因して、加工性に優れ、かつ薄型化が可能である。しかし、金属材料系のセパレータは、後述の炭素材料系のセパレータに比べて比重が大きく、燃料電池の軽量化に反する。さらに、金属材料系のセパレータは、耐腐食性が低く、材料によっては不動態皮膜を形成するという欠点を有する。金属材料の腐食あるいは不動態皮膜は、セパレータの電気抵抗の上昇につながるので、好ましくない。金属材料系のセパレータの耐食性を改善するために貴金属をめっきあるいはスパッタ等によるコートする場合には高コスト化を招くが、当該高コスト化を防ぐために、セパレータの表面に形成される流路の凸部をフォトレジスト膜で形成する方法が知られている(特許文献1を参照)。
【0004】
一方、炭素材料系のセパレータは、金属材料系のセパレータに比べて比重が小さく、耐食性にも優れるという利点を有する。しかし、炭素材料系のセパレータは、加工性および機械的強度に劣る。また、さらなる低電気抵抗化(すなわち、さらなる高導電性化)の要求もある。機械的強度の改善方法としては、例えば、熱可塑性樹脂に黒鉛粒子を分散させたセパレータが知られている(特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-090937号公報
【特許文献2】特開2006-294407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、炭素材料系のセパレータには、さらに改善の余地がある。より具体的には、曲げ特性をさらに向上することが求められている。
【0007】
本発明は、上記課題を解決すること、すなわち、燃料電池用セパレータの曲げ特性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記目的を達成するための一実施形態に係る燃料電池用セパレータは、炭素系フィラーと第1樹脂とを少なくとも含むシート状成形体と、前記シート状成形体の厚さ方向の少なくとも片側の面に備える第2樹脂のメッシュとを備え、前記シート状成形体の厚さ方向の両側の面であって、前記第2樹脂のメッシュの表側の面から前記シート状成形体の内方に向けて窪む流路状の溝を備える。
(2)別の実施形態に係る燃料電池用セパレータにおいて、好ましくは、前記第1樹脂および前記第2樹脂は同種の樹脂であっても良い。
(3)別の実施形態に係る燃料電池用セパレータにおいて、好ましくは、前記第1樹脂はポリフェニレンスルファイドであっても良い。
(4)別の実施形態に係る燃料電池用セパレータにおいて、好ましくは、
前記シート状成形体の厚さ方向の両側の面にフィルムを備え、
前記第2樹脂のメッシュは、前記シート状成形体と前記フィルムとの間に備えられ、
前記流路状の溝は、前記フィルムの表側の面から前記シート状成形体の内方に向けて窪んでおり、前記第2樹脂のメッシュを備える側において前記第2樹脂のメッシュの表側の面から前記シート状成形体の内方に向けて窪んでいても良い。
(5)上記目的を達成するための一実施形態に係る燃料電池用セパレータの製造方法は、
炭素系フィラーと第1樹脂と水を含む水系コンパウンドから水を減じるろ過工程と、
前記ろ過工程後に水をさらに減じてシート状成形体を製造する一次賦形工程と、
前記一次賦形工程後の被成形物を加圧成形する加圧成形工程と、
を含み、
前記ろ過工程は、前記炭素系フィラーおよび前記第1樹脂のコンパウンドより大面積である第2樹脂のメッシュを用いて行われ、
前記一次賦形工程および前記加圧成形工程は、前記被成形物に前記第2樹脂のメッシュを備えた状態で行われる。
(6)別の実施形態に係る燃料電池用セパレータの製造方法において、好ましくは、前記第1樹脂および前記第2樹脂は同種の樹脂であっても良い。
(7)別の実施形態に係る燃料電池用セパレータの製造方法において、好ましくは、前記第1樹脂はポリフェニレンスルファイドであっても良い。
(8)別の実施形態に係る燃料電池用セパレータの製造方法において、好ましくは、前記加圧成形は、前記第2樹脂のメッシュを備えた前記被成形物を、その厚さ方向両側からフィルムで挟持して行われても良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、燃料電池用セパレータの曲げ特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る燃料電池用セパレータの製造過程において製造される一次賦形後のシートの平面図および正面図を示す。
【
図2】
図2は、一実施形態に係る燃料電池用セパレータの製造方法の例示的な工程を示す。
【
図3】
図3は、第2樹脂のメッシュ上にシート状成形体を有するシートを把持する状況の写真を示す。
【
図4】
図4は、一実施形態に係る燃料電池用セパレータの平面図、当該平面図におけるA-A線断面図および当該断面図における一部Bの拡大図を示す。
【
図5】
図5は、実施例1~4および比較例1,2による製造条件および評価結果を示す。
【
図6】
図6は、実施例1,2および比較例1の表層の光学顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0012】
(燃料電池用セパレータの製造方法)
図1は、一実施形態に係る燃料電池用セパレータの製造過程において製造される一次賦形後のシートの平面図および正面図を示す。
【0013】
一次賦形後のシートとしての被成形物1は、第2樹脂のメッシュ10の片面に、シート状成形体22を備える。第2樹脂のメッシュ10は、好ましくは、シート状成形体22より大面積である。シート状成形体22は、第2樹脂のメッシュ10の面内内側に存在する。このため、第2樹脂のメッシュ10の周囲を把持して被成形物1を容易に移動でき、次の工程に移行可能である。シート状成形体22は、炭素系フィラーと、第1樹脂とを含む厚さの小さな不織布である。第1樹脂は、特に制約されないが、好ましくは熱可塑性樹脂である。第1樹脂として好適な樹脂は、耐熱性に優れた樹脂であり、具体的には、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミド(PA)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)、ポリエーテルケトン(PEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニルサルフォン(PPSU)、ポリエーテルイミド(PEI)およびポリスルフォン(PSU)を例示できる。これらの中でも、PPSまたはPEEKが特に好適である。第1樹脂の平均粒径は、好ましくは1μm以上300μm以下、より好ましくは5μm以上150μm以下、さらにより好ましくは10μm以上100μm以下である。ここで、平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定法にて測定される粒径をいう。以後の平均粒径の測定方法も同様である。
【0014】
炭素系フィラーは、人造黒鉛、膨張黒鉛、天然黒鉛、カーボンナノチューブ、アモルファスカーボン等のいずれの炭素材料でも良い。ここで、膨張黒鉛とは、グラファイト(黒鉛)の正六角形平面を重ねた構造の特定の一面に他の物質層が入り込むこと(=インターカレーション)によって黒鉛層間を拡張させた黒鉛若しくは黒鉛層間化合物をいう。黒鉛粒子の形状については、特に制約は無く、薄片状、鱗片状、球状等適宜選択することができる。カーボンナノチューブは、単層、二層または多層のいずれのカーボンナノチューブでも良い。炭素系フィラーの平均粒径は、好ましくは1μm以上500μm、より好ましくは3μm以上300μm以下、さらにより好ましくは10μm以上150μm以下である。
【0015】
シート状成形体22を構成する材料として、炭素系フィラーおよび第1樹脂の他に、繊維を加えても良い。当該繊維は、樹脂繊維、炭素繊維、セラミックス繊維等のいかなる種類の繊維でも良いが、好ましくは樹脂繊維、さらに好ましくはアラミド繊維である。被成形物1に繊維を備えることによって、燃料電池用セパレータの強度をより高めることができる。
【0016】
第2樹脂は、好ましくは、耐熱性に優れた樹脂であり、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミド(PA)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)、ポリエーテルケトン(PEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニルサルフォン(PPSU)、ポリエーテルイミド(PEI)およびポリスルフォン(PSU)を例示できる。これらの中でも、PPSまたはPEEKが特に好適である。第2樹脂は、第1樹脂と同種である方がより好ましい。例えば、第1樹脂をPPSとして、第2樹脂もPPSとするのがより好ましい。また、第1樹脂をPEEKとして、第2樹脂もPEEKとするのがより好ましい。ただし、第1樹脂と第2樹脂とを必ずしも同種の樹脂としなくとも良い。例えば、第1樹脂をPPSとして、第2樹脂をPEEKとしても良い。また、第1樹脂をPEEKとして、第2樹脂をPPSとしても良い。
【0017】
第2樹脂のメッシュ10は、炭素系フィラーおよび第1樹脂の全部または多くをメッシュ10上に残して水を通過可能な目開きを有する。メッシュ10の孔の大きさは、目開きで好ましくは、1~200μmの範囲、より好ましくは10~100μmの範囲である。
【0018】
図2は、一実施形態に係る燃料電池用セパレータの製造方法の例示的な工程を示す。
【0019】
一実施形態に係る燃料電池用セパレータの製造方法は、セパレータを構成する材料(少なくとも、炭素系フィラーと第1樹脂)を水に分散させた水系コンパウンド25を製造するコンパウンド化工程(S100)と、第2樹脂のメッシュ10を用いて水系コンパウンド25中の水を減ずるろ過工程(S200)と、ろ過工程後の湿潤シート20からさらに水を減じたシート状成形体22を有するシート(「被成形物」ともいう)1を製造する一次賦形工程(S300)と、被成形物1の両面をフィルム30,30で挟んで加圧成形を行う加圧成形工程(S400)と、を含む。ここで、フィルム30の材料としては、PPS、PEEK等を例示できる。フィルム30の厚さとしては、好ましくは2~50μm、より好ましくは4~35μmを例示できる。
【0020】
ここで、ろ過工程は、抄紙工程と読み替えても良い。一次賦形工程では、第2樹脂のメッシュ10を通じた水の排出のみならず、熱および圧力をかけた乾燥処理を伴っても良い。また、一次賦形工程ではシート状成形体に矩形や窪みといった形状を予備的に付与しても良い。加圧成形工程において使用するフィルム30は、燃料電池用セパレータ40のガスバリア特性を高めるのに寄与する。ただし、フィルム30は、燃料電池用セパレータ40にとって必須の構成要素ではないため、備えていなくとも良い。加圧成形は、加圧を伴う成形法であれば特に制約はなく、好ましくは金型を用いた冷熱プレスを挙げることができる。燃料電池用セパレータ40は、その表面および裏面に流路状の溝41を有する。表面側の溝41は、酸化ガスを流すための流路である。裏面側の溝41は、冷却水を流すための流路である。
【0021】
第2樹脂のメッシュ10は、通常の製造工程では、金属製のメッシュであり、シート状成形体22から剥離される。しかし、メッシュをシート状成形体22から剥離する作業は非常に難しく、剥離の失敗はシート状成形体22の破損につながる。また、シート状成形体22から無事にメッシュを剥離できたとしても、その後のシート状成形体22のハンドリングが難しいという問題がある。この実施形態では、メッシュ10として第2樹脂を用いて、シート状成形体22と第2樹脂のメッシュ10とを一体化したままハンドリングを行い、シート状成形体22とメッシュ10との剥離を行うことなく加圧成形を行い、最終製品である燃料電池用セパレータ40を完成するようにしている。第2樹脂は、製品に残っていても、金属製ではないために、燃料電池作動環境下での腐食や溶出した金属イオンによる燃料電池の特性低下が生じない。
【0022】
図3は、第2樹脂のメッシュ上にシート状成形体を有するシートを把持する状況の写真を示す。
【0023】
シート状成形体22を直接把持する必要はなく、第2樹脂のメッシュ10を把持できることからハンドリング性が向上する。また、第2樹脂を燃料電池用セパレータ40に存在しても製品特性上の弊害はない。
【0024】
以上説明したように、従来、炭素材料系のセパレータを製造する際、ポリフェニレンスルフィドンに代表される樹脂と黒鉛との混合物を一次成形し、その一次成形体(「プリ成形体」ともいう。)の表面または内部にフィルムを備えて二次成形を行う場合がある。一次成形に際して、一般的に、紙の製造にて行われる抄紙工程と類似するろ過工程が行われる。当該ろ過工程では、金属メッシュが用いられ、ろ過工程後にさらに水を減じる一次賦形工程後に、シート状成形体22から金属メッシュが剥離される。しかし、金属メッシュを剥離した後のシート状成形体22は非常に脆く、把持できないほどにハンドリング性に劣る。このようなハンドリングの悪さは、燃料電池用セパレータの製造上の歩留まりを低下させることに通じる。この実施形態に係る製造方法によれば、第2樹脂のメッシュ10をセパレータに残すため、上記歩留まりの低下を生じにくい。
【0025】
(燃料電池用セパレータ)
図4は、一実施形態に係る燃料電池用セパレータの平面図、当該平面図におけるA-A線断面図および当該断面図における一部Bの拡大図を示す。
【0026】
燃料電池用セパレータ40は、炭素系フィラーと第1樹脂とを少なくとも含むシート状成形体22と、シート状成形体22の厚さ方向の少なくとも片側の面に備える第2樹脂のメッシュ10と、を備える。燃料電池用セパレータ40は、シート状成形体22の厚さ方向の両側の面であって、第2樹脂のメッシュ10の表側の面からシート状成形体22の内方に向けて窪む流路状の溝41を備える。前述の通り、第1樹脂および第2樹脂は同種の樹脂であっても良い。第1樹脂はポリフェニレンスルファイドであっても良い。
【0027】
また、
図4における一部Bの拡大図に示すように、シート状成形体22の厚さ方向の両側の面にフィルム30を備えても良い。その場合、第2樹脂のメッシュ10は、シート状成形体22とフィルム30との間に備えられる。流路状の溝41は、フィルム30の表側の面からシート状成形体22の内方に向けて窪んでおり、第2樹脂のメッシュ10を備える側(
図4では片側)においては、第2樹脂のメッシュ10の表側の面からシート状成形体22の内方に向けて窪んでいる。一部Bの拡大図から右側にその構成要素を表すように、燃料電池用セパレータ40は、シート状成形体22と、その一方の面に配置される第2樹脂のメッシュ10と、シート状成形体22とメッシュ10との積層体の表裏方向に配置されるフィルム30,30とを積層した構造を有する。
【0028】
なお、
図4では、第2樹脂のメッシュ10は、シート状成形体22の厚さ方向の片側の面にのみ備えられているが、シート状成形体22の厚さ方向の両側の面に備えられていても良い。さらには、第2樹脂のメッシュ10は、シート状成形体22の全面を包んでいても良い。
【0029】
この実施形態に係る燃料電池用セパレータは、第2樹脂のメッシュ10を含むため、優れた曲げ特性を発揮できる。ここで、曲げ特性は、曲げ強さ(曲げ強度)、曲げ歪および曲げ弾性率を意味する。
【実施例0030】
次に、本発明の実施例について、比較例と比較をしながら説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
1.原料
(1)グラファイト
セパレータのプレートの構成材料となるグラファイト粉末には、オリエンタル工業(株)製の品番:1707SJ(人造黒鉛、平均粒径125μm)およびオリエンタル工業(株)製の品番:AT-No.5S(人造黒鉛、平均粒径52μm)の2種類のグラファイト粉末を用いた。
(2)樹脂
セパレータのプレートの構成材料となる樹脂として、ポリフェニレンフルファイ(PPS)の粉末を用いた。PPSには、東レ(株)製のトレリナM2888のフレーク状のPPS粉末を冷凍粉砕して平均粒径50μmに調整したPPS微粉末を用いた。
(3)アラミド繊維
セパレータのプレートの構成材料となるアラミド繊維として、メタフェニレン基を含むパラ型アラミド繊維、メタフェニレン基を含まないパラ型アラミド繊維を用いた。メタフェニレン基を含むパラ型アラミド繊維には、帝人(株)製のテクノーラT32PNW 3-12(平均繊維長3.2mm、平均繊維径18μm)のアラミド繊維を用いた。メタフェニレン基を含まないパラ型アラミド繊維には、帝人(株)製のトワロン(登録商標)1097(平均繊維長1.2mm、比表面積6.9m2/g)、およびトワロン(登録商標)D8016(平均繊維長0.8mm)の2種類のアラミド繊維を用いた。
(4)炭素繊維
セパレータのプレートの構成材料となる炭素繊維として、PAN系炭素繊維である帝人(株)製のテナックスHT C137(平均繊維長6.0mm、平均繊維径7μm)を用いた。
(5)フィルム
セパレータ用のフィルムには、PPS製のフィルムを用いた。PPS製のフィルムには、東レ(株)製の厚さ9μmのフィルム(品番:トレリナ9-3071)を用いた。
(6)メッシュ
ろ過フィルターおよびセパレータの構成材料となるPPS製メッシュとして、tantore(株)製のPPSメッシュ(目開き10μm)、PPSメッシュ(目開き30μm)、(株)くればぁ製のPPSメッシュ(目開き100μm)の3種類を用いた。
【0032】
2.評価方法
(1)体積抵抗率
セパレータの体積抵抗率は、JIS K7194に基づき、日東精工アナリテック(株)製の装置(Loresta-GX T-700)を用いて測定した。体積抵抗率が2.5mΩ・cm未満の場合には合格と評価した。
(2)曲げ試験
セパレータの曲げ試験は、JIS K7171に基づき、(株)島津製作所製の装置(オートグラフ AG-100kNG)を用いて測定した。
(2a)曲げ強度
曲げ強度が40MPaを超えた場合には合格と評価した。
(2b)曲げ歪み
曲げ歪みが0.5%を超えた場合には合格と評価した。
(2c)曲げ弾性率
曲げ弾性率が10GPaを超えた場合には合格と評価した。
(2d)総合評価
各特性値評価のすべてが合格と評価された場合に、合格と評価した。また、各特性値評価のうち少なくとも1つの特性値評価が不合格と評価された場合に、不合格と評価した。
【0033】
3.セパレータの製造
図5は、実施例1~4および比較例1,2による製造条件および評価結果を示す。
図5中、PPS、アラミド繊維、炭素繊維、グラファイトおよび合計における数値は、質量部を示す。1質量部は、1gに相当する。
【0034】
(実施例1)
人造黒鉛粒子(1707SJ)977.8質量部および人造黒鉛粒子(AT-No.5S)244.4質量部、PPS粉末100質量部、メタフェニレン基を含むパラ型アラミド繊維(テクノーラT32PNW 3-12)62.5質量部、およびメタフェニレン基を含まないパラ型アラミド繊維(トワロン(登録商標)D8016)4.2質量部を用意し、これらを水中で混合分散して固形分1%のスラリーを作製した。このスラリーをろ過フィルターとして目開き10μmのPPSメッシュを備える25cm角の投入口を備えるろ過器へ投入し、ろ過によって得られる残渣であるシート状の湿潤シートを成形した。この湿潤シートをPPSメッシュごと150℃に加熱したプレス機にセットして面圧8MPaの圧力で約20分間加圧加熱し、湿潤シートを乾燥させて水分を除去することにより、PPSメッシュを備える、人造黒鉛粒子、PPS粒子、およびアラミド繊維が分散した厚さ2mm、坪量2200g/m2のシート状成形体を製造した。次に、分割式の金型を構成する下金型の内側の凹部に、上記シート状成形体を供した。そして、当該シート状成形体の上からろ過フィルターと同様のPPSメッシュを載せた。次に、分割式の金型を構成する上金型と、上記下金型とを閉じて成形を行った。PPSメッシュの位置は、シート状成形体の両面とした。成形は、面圧4MPaにて、金型の温度が340℃になるまで加熱し、面圧90Mpaまで昇圧して1分間保持した。その後圧力をそのまま保ちながら金型を30℃になるまで加圧冷却した。成形終了後に、金型を開き、成形体を取り出し、セパレータの製造を終了した。
【0035】
(実施例2)
人造黒鉛粒子(1707SJ)977.8質量部および人造黒鉛粒子(AT-No.5S)244.4質量部、PPS粉末100質量部、アラミド繊維(トワロン(登録商標)1097)4.2質量部、炭素繊維(HT C137)62.5質量部を用意し、これらを50wt%エタノール水溶液で混合分散して固形分1%のスラリーを作製した。このスラリーをろ過フィルターとして目開き100μmのPPSメッシュを備える25cm角の投入口を備えるろ過器へ投入し、ろ過によって得られる残渣であるシート状の湿潤シートを成形した。この湿潤シートをPPSメッシュごと150℃に加熱したプレス機にセットして面圧8MPaの圧力で約20分間加圧加熱し、湿潤シートを乾燥させて水分を除去することにより、PPSメッシュを備える、人造黒鉛粒子、PPS粒子、炭素繊維およびアラミド繊維が分散した厚さ2mm、坪量2200g/m2のシート状成形体を製造した。その後の条件は、実施例1と同様の条件とした。
【0036】
(実施例3)
湿潤シートの成形までの工程は、実施例2と同様である。PPSメッシュは、実施例2と同じものである。PPSメッシュの位置は、シート状成形体の片面とした。シート状成形体とPPSメッシュのユニットの両面側から厚さ9μmのフィルム(トレリナ9-3071)で挟み、実施例2と同様の条件下にて加圧成形を行い、セパレータを製造した。
【0037】
(実施例4)
PPSメッシュに、目開き30μmのものを用いた以外、実施例3と同じ条件にてセパレータを製造した。
【0038】
(比較例1)
PPSメッシュを備えず、シート状成形体の両面側から厚さ9μmのフィルム(トレリナ9-3071)で挟んだ以外の条件を実施例1と同一として、セパレータを製造した。
【0039】
(比較例2)
PPSメッシュを備えない以外の条件を実施例3と同一として、セパレータを製造した。
【0040】
4.評価結果
図5に示すように、実施例1~4および比較例1,2により製造した各セパレータは、体積抵抗率の評価では合格した。一方、曲げ試験の各項目では、実施例1~4により製造したセパレータは合格したものの、比較例1,2により製造したセパレータは一部の項目で合格水準に至らず、総合的には不合格となった。
【0041】
図6は、実施例1,2および比較例1の表層の光学顕微鏡写真を示す。
図6では、セパレータの平坦部の写真を示している。
【0042】
これらの写真から、表層に目開きの大きいメッシュを用いると形状がセパレータの表面に転写されることがわかった。一方、メッシュの目開きが小さいと、その痕跡は確認できなかった。
【0043】
上記実施形態は、本発明の好適な形態である。本発明の目的から逸脱しない限り、種々変形して実施可能である。
【0044】
例えば、第2樹脂のメッシュ10は、シート状成形体22の片面のみならず、両面を覆っていても良い。被成形物1を加圧成形する際に、第2樹脂のメッシュ10の余分な部分をカットしても良い。
1・・・被成形物、10・・・第2樹脂のメッシュ、20・・・湿潤シート、22・・・シート状成形体、25・・・水系コンパウンド、30・・・フィルム、40・・・燃料電池用セパレータ、41・・・溝。