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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057317
(43)【公開日】2024-04-24
(54)【発明の名称】非接触給電設備
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/40 20160101AFI20240417BHJP
   H02J 50/12 20160101ALI20240417BHJP
   B60M 7/00 20060101ALI20240417BHJP
   B60L 5/00 20060101ALI20240417BHJP
   B60L 53/122 20190101ALI20240417BHJP
【FI】
H02J50/40
H02J50/12
B60M7/00 X
B60L5/00 B
B60L53/122
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163965
(22)【出願日】2022-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003643
【氏名又は名称】株式会社ダイフク
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】布谷 誠
【テーマコード(参考)】
5H105
5H125
【Fターム(参考)】
5H105BA02
5H105BB07
5H105CC02
5H105DD10
5H105EE15
5H125AA11
5H125AC04
5H125AC26
5H125FF15
(57)【要約】
【課題】移動体の移動経路に沿って並ぶように配置された複数の給電線を有する非接触給電設備において、資材コストや設置工数を低減しつつ、各給電線を流れる交流電流を適切に同期させる。
【解決手段】対象給電線3Tと隣接給電線3Nとを電磁結合する結合ユニット5を備える。対象電源装置2Tは、隣接電源装置2Nにより隣接給電線3Nに交流電流が供給されている状態で、結合ユニット5を介した電磁誘導により対象給電線3Tに流れる誘導電流の位相である誘導電流位相を検出する位相検出部8と、対象給電線3Tに供給する交流電流を生成する交流電流生成部6と、対象給電線3Tに供給される交流電流の位相が位相検出部8により検出された誘導電流位相に近づくように、交流電流生成部6を制御する位相制御部7とを備える。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
受電装置を備えた移動体の移動経路に沿って並ぶように配置された複数の給電線と、
複数の前記給電線のそれぞれに接続され、接続された前記給電線に交流電流を供給する電源装置と、を備え、
前記受電装置に非接触で電力を供給する非接触給電設備であって、
複数の前記給電線の1つを対象給電線とし、前記対象給電線に接続された電源装置を対象電源装置とし、前記移動経路に沿って前記対象給電線と隣り合う前記給電線を隣接給電線とし、前記隣接給電線に接続された電源装置を隣接電源装置として、
前記対象給電線と前記隣接給電線とを電磁結合する結合ユニットを備え、
前記対象電源装置は、
前記隣接電源装置により前記隣接給電線に交流電流が供給されている状態で、前記結合ユニットを介した電磁誘導により前記対象給電線に流れる誘導電流の位相である誘導電流位相を検出する位相検出部と、
前記対象給電線に供給する交流電流を生成する交流電流生成部と、
前記対象給電線に供給される交流電流の位相が前記位相検出部により検出された前記誘導電流位相に近づくように、前記交流電流生成部を制御する位相制御部と、を備える、非接触給電設備。
【請求項2】
前記位相検出部は、前記対象電源装置により前記対象給電線に交流電流が供給されていない状態で、前記誘導電流位相を検出する、請求項1に記載の非接触給電設備。
【請求項3】
前記対象電源装置は、前記誘導電流位相を記憶する位相記憶部と、前記対象電源装置により前記対象給電線に供給される電力である負荷電力を検出する負荷電力検出部と、をさらに備え、前記位相制御部は、前記対象給電線に印加される交流電圧に対する前記対象給電線を流れる交流電流の位相差が前記負荷電力に応じて変化することに応じて、前記対象給電線を流れる交流電流の位相を、前記位相記憶部に記憶した前記誘導電流位相に一致させるように前記交流電流生成部を制御する、請求項2に記載の非接触給電設備。
【請求項4】
前記結合ユニットは、前記対象給電線の一部により構成される対象コイル部と、前記隣接給電線の一部により構成される隣接コイル部と、磁性体コアとを備え、前記対象コイル部と前記隣接コイル部と前記磁性体コアとが同心状に配置されている、請求項1から3の何れか一項に記載の非接触給電設備。
【請求項5】
前記磁性体コアは環状に形成され、
前記移動経路に沿う方向を経路方向として、
前記対象コイル部と前記隣接コイル部と前記磁性体コアとが、前記経路方向に交差する平面に沿って前記移動体の移動軌跡を囲むように配置されている、請求項4に記載の非接触給電設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受電装置を備えた移動体の移動経路に沿って並ぶように配置された複数の給電線と、複数の給電線のそれぞれに交流電流を供給する複数の電源装置とを備え、受電装置に非接触で電力を供給する非接触給電設備に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2002-67747号公報には、交流電流が流れる給電線としての誘導線路(47)が移動体(V)の移動経路に沿って複数配置され、非接触で移動体(V)に電力を供給する電源設備(非接触給電設備)が開示されている(背景技術において括弧内の符号は参照する文献のもの。)。複数の誘導線路(47)には、それぞれの誘導線路(47)に電力を供給するために電源装置(インバータ(M))が接続されている。受電装置(ピックアップコイル(5))を備えた移動体(V)は、複数の誘導線路(47)を乗り継ぎながら、それぞれの誘導線路(47)から非接触で電力の供給を受けて走行する。移動体(V)が円滑に走行するためには、誘導線路(47)の乗り継ぎ区間においても安定して給電されることが好ましく、隣接する誘導線路(V)同士の交流電流が同期していることが重要である。
【0003】
この電源設備では、それぞれの電源装置(インバータ(M))に、光伝送装置(51)が接続されている。そして、特定のインバータ(M)から誘導線路(47)に給電される交流電流の周波数等の電気的特性を特定するクロックパルス信号が、当該インバータ(M)に接続された光伝送装置(51)から出力される。このクロックパルス信号は、他の複数のインバータ(M)にそれぞれ接続された光伝送装置(51)を介して他のインバータ(M)に並列に伝達される。他のインバータ(M)は、それぞれ伝達されたクロックパルス信号に基づき、当該クロックパルス信号を出力した特定のインバータ(M)が出力する交流電流に同期した交流電流をそれぞれのインバータ(M)に接続された誘導線路(47)に出力する。これにより、複数の誘導線路(47)に流れる交流電流が同期し、移動体(V)は複数の誘導線路(47)を乗り継ぎながら安定して給電されることができ、移動体(V)は円滑な走行が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-67747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、クロックパルス信号などの基準となる同期信号をそれぞれの電源装置に伝達して、当該同期信号に基づいて複数の電源装置を同期させる場合、給電線に加えて同期信号の伝送線も移動経路に沿って配設する必要があると共に、伝送線に同期信号を伝送するための光伝送装置等の信号伝送装置も多く必要になる。このため、設備の資材コストの上昇や、設置工数が増加する傾向がある。また、多数の信号伝送装置が必要であるため、これらの装置のメンテナンスに要するコストも大きくなり易い。
【0006】
上記背景に鑑みて、移動体の移動経路に沿って並ぶように配置された複数の給電線を有する非接触給電設備において、資材コストや設置工数を低減しつつ、各給電線を流れる交流電流を適切に同期させる技術の提供が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記に鑑みた非接触給電設備は、受電装置を備えた移動体の移動経路に沿って並ぶように配置された複数の給電線と、複数の前記給電線のそれぞれに接続され、接続された前記給電線に交流電流を供給する電源装置と、を備え、前記受電装置に非接触で電力を供給する非接触給電設備であって、複数の前記給電線の1つを対象給電線とし、前記対象給電線に接続された電源装置を対象電源装置とし、前記移動経路に沿って前記対象給電線と隣り合う前記給電線を隣接給電線とし、前記隣接給電線に接続された電源装置を隣接電源装置として、前記対象給電線と前記隣接給電線とを電磁結合する結合ユニットを備え、前記対象電源装置は、前記隣接電源装置により前記隣接給電線に交流電流が供給されている状態で、前記結合ユニットを介した電磁誘導により前記対象給電線に流れる誘導電流の位相である誘導電流位相を検出する位相検出部と、前記対象給電線に供給する交流電流を生成する交流電流生成部と、前記対象給電線に供給される交流電流の位相が前記位相検出部により検出された前記誘導電流位相に近づくように、前記交流電流生成部を制御する位相制御部と、を備える。
【0008】
従来は、複数の電源装置からそれぞれの給電線に供給される交流電流の位相を同期させるために、信号伝送線及び信号伝送装置を用いて複数の電源装置に同期信号を供給する必要があった。本構成によれば、隣接電源装置から隣接給電線に供給された交流電流の位相が誘導電流位相として対象電源装置により検出される。そして、当該対象電源装置は、対象給電線に供給する交流電流の位相が誘導電流位相に近づくように交流電流生成部を制御して対象給電線に交流電流を供給する。これにより、信号伝送装置からの同期信号を用いることなく、隣接給電線を流れる交流電流と、対象給電線を流れる交流電流とを同期させることができる。そして、それぞれの電源装置が、隣接電源装置及び対象電源装置となることにより、非接触給電設備のそれぞれの電源装置から出力される交流電流を同期させることができる。このように、本構成によれば、移動体の移動経路に沿って並ぶように配置された複数の給電線を有する非接触給電設備において、資材コストや設置工数を低減しつつ、各給電線を流れる交流電流を適切に同期させることができる。また、設置後のメンテナンスに要するコストも低減させることができる。
【0009】
非接触給電設備のさらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する例示的且つ非限定的な実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】非接触給電設備を備えた物品搬送設備の平面図
図2】物品搬送車の正面図
図3】非接触給電設備のシステム構成を示す模式的なブロック図
図4】受電装置の構成を示す模式的な回路ブロック図
図5】結合ユニットの一例を示す斜視図
図6】結合ユニットの断面図
図7】電源装置の一例を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、物品搬送設備において物品を搬送する移動体に電力を供給する電源設備を例として、非接触給電設備の実施形態を説明する。本実施形態では、図1図2等に示すように、建物の天井に吊り下げられた走行レール20を移動経路10とし、当該走行レール20に沿って移動して物品を搬送する物品搬送車30を移動体の一例として説明する。移動体としての物品搬送車は、このように天井側を走行する天井搬送車に限らず、床面に設置されたレールを移動経路10とし、当該レールに沿って移動して物品を搬送する床上搬送車やスタッカークレーンなどの他の物品搬送車であってもよい。また、これらの物品搬送車が走行部と本体部等、複数の部位に分かれて構成される場合には、物品搬送車の全体に限らず、その一部、例えば走行部のみが移動体に対応すると考えても良い。例えば、物品搬送車が本実施形態のような天井搬送車の場合には、後述する走行部12が移動体に相当すると考えてもよい。また、スタッカークレーンの場合には、クレーン部を載置支持する走行台車が移動体に相当すると考えてもよい。
【0012】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る物品搬送設備200は、物品搬送車30の走行経路である移動経路10に沿って配置された走行レール20と、走行レール20に案内されて移動経路10に沿って走行する物品搬送車30とを備えている。本実施形態では、物品搬送車30による搬送対象の物品は、例えば、半導体基板を収容するFOUP(Front Opening Unified Pod)や、ディスプレイの材料となるガラス基板等である。物品搬送設備200には、半導体基板を収容する収容庫(不図示)や、半導体基板に回路等を形成するための種々の処理を施す物品処理部Pも備えられている。
【0013】
図2に示すように、本実施形態では、物品搬送車30は、移動経路10に沿って天井から吊り下げ支持されて配置された一対の走行レール20に案内されて移動経路10に沿って走行する走行部12と、走行レール20の下方に位置して走行部12に吊り下げ支持された本体部13と、移動経路10に沿って配設された給電線3から非接触で駆動用電力を受電する受電装置4とを備えている。図示及び詳細な説明は省略するが、本体部13には、本体部13に昇降自在に備えられて物品を吊り下げ状態で支持する物品支持部が備えられている。上述したように、物品搬送車30は移動体に相当するが、狭義には走行部12のみが移動体に相当するということもできる。
【0014】
走行部12には、図2に示すように、電動式の駆動モータ14にて回転駆動される一対の走行輪15が備えられている。走行輪15は、走行レール20のそれぞれの上面にて形成される走行面を転動する。また、走行部12には、上下方向Zに沿う軸心周り(上下軸心周り)で自由回転する一対の案内輪16が、一対の走行レール20における内側面に当接する状態で備えられている。また、走行部12は、走行用の駆動モータ14やその駆動回路等を備えて構成されており、物品搬送車30を走行レール20に沿って走行させる。本体部13には、物品支持部を昇降させるアクチュエータ、物品を把持する把持部を駆動するアクチュエータ等、及び、それらの駆動回路等が備えられている。これらの駆動モータ14や、アクチュエータ、駆動回路等は、物品搬送車30における電気的負荷LD(図4参照)に相当する。
【0015】
物品搬送設備200には、不図示の設備コントローラが備えられており、それぞれの物品搬送車30に対して搬送指令を出して物品を搬送させている。物品搬送車30は、搬送指令に基づいて、自律走行し、例えば物品処理部Pと物品搬送車30との間で物品の受け渡しを行うと共に、上述した収容庫(不図示)と物品処理部Pとの間で物品を搬送する。
【0016】
駆動モータ14や、種々のアクチュエータ、これらを駆動する駆動回路等への電力は、給電線3から非接触で受電装置4に供給される。上述したように、受電装置4を介して物品搬送車30に駆動用電力を供給する給電線3は、移動経路10に沿って配設されている。本実施形態では、給電線3は、受電装置4に対して、移動経路10に沿った方向である経路方向Lに直交する経路幅方向H(ここでは、経路方向L及び上下方向Zの双方に直交する方向)の両側に配置されている。
【0017】
図4に示すように、受電装置4は、給電線3に対向するように物品搬送車30に配置されたピックアップコイル40(図2参照)と、物品搬送車30の内部において配線基板上に形成された受電回路(詳細は後述する)とを備えている。上述したように、電源装置2は、誘導線である給電線3に高周波電流を流し、給電線3の周囲に磁界を発生させる。ピックアップコイル40は、給電線3に流れる交流電流により誘導起電力を生じさせる。図4に示すように、このピックアップコイル40に対して受電回路が電気的に接続されており、受電回路に電気的負荷LDが接続されている。この電気的負荷LDは、例えば上述したような走行用の駆動モータ14、物品支持部を昇降させるアクチュエータ、物品を把持する把持部を駆動するアクチュエータ等、及び、それらの駆動回路等である。
【0018】
受電回路は、例えば、ピックアップコイル40と共に構成される共振回路42の一部と、整流回路43と、チョッパ回路やレギュレータ回路などの電力調整部45とを含む。ここでは、共振回路42は、ピックアップコイル40と共振コンデンサ41との並列回路として形成されている形態を例示している。共振回路は、これに限らずピックアップコイル40に対してコンデンサが直列接続された直列共振回路として構成されていてもよい。整流回路43は、この共振回路42(共振コンデンサ41)に対して並列に接続されている。整流回路43は、ピックアップコイル40に接続されて(共振回路42に接続されて)、ピックアップコイル40に誘導された交流電流及び交流電圧を、直流電流及び直流電圧に整流する。本実施形態では、整流回路43は全波整流回路である形態を例示しているが、整流回路43は、半波整流回路であってもよい。尚、図示は省略しているが、整流回路43からの出力部、電力調整部45からの出力部の少なくとも一方に、脈動成分を平滑化するための平滑コンデンサが備えられていると好適である。
【0019】
本実施形態の非接触給電設備100は、HID(High Efficiency Inductive Power Distribution Technology)と称されるワイヤレス給電技術を用いて、物品搬送車30の電気的負荷LDに駆動用電力を供給する。図3に示すように、非接触給電設備100は、給電線3と、給電線3に接続され、給電線3に交流電流を供給する電源装置2とを備えている。電源装置2は、誘導線である給電線3に高周波電流を流し、給電線3の周囲に磁界を発生させる。本実施形態の物品搬送設備200は、図1に例示したように比較的大きな規模の設備である。従って、送電の効率が低下することや、故障時に設備の全体が停止することなどを抑制するために、給電線3と電源装置2とを含む給電システム1が1系統だけではなく、複数系統設けられている。そして、1系統の給電システム1は、複数の物品搬送車30に電力を供給する。
【0020】
物品搬送車30は、複数の給電システム1を乗り換えながら、連続して電力の供給を受けて、物品搬送設備200内を走行する。物品搬送車30が円滑に走行するためには、給電システム1、つまり給電線3の乗り継ぎ区間においても安定して給電されることが好ましい。具体的には、複数の給電システム1の交流電流の位相が一致するように調整されていることにより、物品搬送車30は、複数の給電システム1から連続して電力の供給を受けながら、物品搬送設備200内を自律走行することができる。
【0021】
従来は、複数の電源装置2からそれぞれの給電線3に供給される交流電流の位相を同期させるために、例えば、同期信号の伝送装置及び同期信号を伝送する信号伝送線を備えて、それぞれの電源装置2に同期信号が供給されていた。そして、それぞれの電源装置2では、その同期信号に基づいて交流電流の位相が他の電源装置2から出力される交流電流の位相と一致するように、交流電流を出力していた。しかし、このような伝送装置や信号伝送線を備えると、設備の資材コストの上昇や、設置工数が増加する傾向がある。また、多数の信号伝送装置が必要であるため、これらの装置のメンテナンスに要するコストも大きくなり易い。本実施形態の非接触給電設備100は、そのような同期信号を用いることなく、複数の給電システム1の間で、交流電流を同期させることが可能である。
【0022】
上述したように、本実施形態の非接触給電設備100は、受電装置4を備えた物品搬送車30などの移動体の移動経路10に沿って並ぶように配置された複数の給電線3と、複数の給電線3のそれぞれに接続され、接続された給電線3に交流電流を供給する複数の電源装置2とを備え、それぞれの受電装置4に非接触で電力を供給する。ここで、図3に示すように、複数の給電線3の1つを対象給電線3Tとし、対象給電線3Tに接続された電源装置2を対象電源装置2Tとする。また、移動経路10に沿って対象給電線3Tと隣り合う給電線3を隣接給電線3Nとし、隣接給電線3Nに接続された電源装置2を隣接電源装置2Nとする。
【0023】
ここで、1組の対象給電線3T及び対象電源装置2Tに対しては、配置上は2組の隣接給電線3N及び隣接電源装置2Nの組が存在し得る。しかし、以下の説明においては、2組の隣接給電線3N及び隣接電源装置2Nの組の内の1組を、隣接給電線3N及び隣接電源装置2Nとする。また、対象給電線3T及び隣接給電線3Nは固定的なものではなく、全ての給電線3が対象給電線3T及び隣接給電線3Nになり得る。対象電源装置2T及び隣接電源装置2Nについても同様である。
【0024】
後述するように、対象給電線3Tは他の給電線3と交流電流の位相が一致するように調整される対象の給電線3であり、対象電源装置2Tは、交流電流の位相が一致するように、交流電流を出力する電源装置2である。例えば、複数の給電線3及びそれに接続された電源装置2を順次、対象給電線3T及び対象電源装置2Tに設定することで、全ての電源装置2からそれぞれの給電線3に流れる交流電流の位相を調整することができる。当然ながら、この際には、対象給電線3T及び対象電源装置2Tの設定に応じて、順次、隣接給電線3N及び隣接電源装置2Nが設定される。
【0025】
詳細については、図5から図7を参照して説明するが、本実施形態では、図3に示すように、対象給電線3Tと隣接給電線3Nとを電磁結合する結合ユニット5が備えられている。上述したように、全ての給電線3が対象給電線3T及び隣接給電線3Nになり得るため、図3に示すように、隣接する給電線3の間には、全て結合ユニット5が配置されていると好適である。詳細は、後述するが、結合ユニット5は、図7に示すように、対象給電線3Tの一部、及び隣接給電線3Nの一部をコイルとして機能させ、隣接給電線3Nと対象給電線3Tとを相互誘導作用によって電磁結合させるユニットである。
【0026】
結合ユニット5によって対象給電線3Tと隣接給電線3Nとが電磁結合することで、隣接給電線3Nを流れる交流電流により、対象給電線3Tに誘導電流が生じる。対象給電線3Tに接続された対象電源装置2Tが、誘導電流の位相である誘導電流位相を検出し、この誘導電流位相に一致するように交流電流を出力することで、対象給電線3Tを流れる交流電流と隣接給電線3Nを流れる交流電流とを同期させることができる。
【0027】
このため、図7に示すように、対象電源装置2Tは、位相検出部8と、位相制御部7と、交流電流生成部6とを備えている。隣接電源装置2Nを含む他の電源装置2も、適宜対象電源装置2Tとなり得るため、対象電源装置2T以外の電源装置2も、位相検出部8と、位相制御部7と、交流電流生成部6とを備えている。以下、対象電源装置2Tが備えるその他の機能部等の説明においても同様である。
【0028】
位相検出部8は、隣接電源装置2Nにより隣接給電線3Nに交流電流が供給されている状態で、結合ユニット5を介した電磁誘導により対象給電線3Tに流れる誘導電流の位相である誘導電流位相を検出する。位相制御部7は、対象給電線3Tに供給される交流電流の位相が位相検出部8により検出された誘導電流位相に近づくように、好ましくは一致するように、交流電流生成部6を制御する。交流電流生成部6は、対象給電線3Tに供給する交流電流を生成する。図7に示すように、交流電流生成部6は、例えばスイッチング素子を用いたフルブリッジ回路により構成されており、位相制御部7により生成されたスイッチング制御信号に基づいてスイッチングし、対象給電線3Tに交流電流を出力する。当然ながら、交流電流生成部6は、フルブリッジ回路に限らず、ハーフブリッジ回路等、他の構造であってもよい。
【0029】
位相検出部8は、少なくとも交流電圧センサ81と位相特定部82とを備えて構成されている。交流電圧センサ81に代えて、交流電流センサが備えられている形態であってもよい。即ち、位相検出部8は、対象給電線3Tに誘導された誘導電流の電気的特性(周波数、位相)を検出可能なセンサと、当該センサの検出結果に基づいて誘導電流位相を特定可能な位相特定部82と、を備えていればよい。1つの態様として、交流電圧センサ81は、結合ユニット5における対象給電線3Tの両端電圧を検出すると好適である。位相検出部8は、後述するように、交流電圧センサ81と位相特定部82と位相記憶部83とを備えて構成されていてもよいし、位相記憶部83を備えず、交流電圧センサ81と位相特定部82とを備えて構成されていてもよい。
【0030】
交流電流生成部6は、フルブリッジ回路により構成されたいわゆるインバータ回路であり、直流側に交流直流変換器(AC/DCコンバータ67)が接続され、交流側に給電線3が接続されている。AC/DCコンバータ67には、商用電源69が接続されており、交流電流生成部6は、交流の商用電源69からAC/DCコンバータ67を介して直流電力の供給を受けて、給電線3に交流電流を出力している。
【0031】
位相制御部7は、スイッチング制御部71と位相調整部72と備えている。位相調整部72は、交流電流生成部6が出力する交流電流の位相が、位相検出部8が検出した誘導電流位相に近づくように調整して、交流電流の指令値を設定する(さらに交流電圧の指令値が設定されてもよい)。交流電流生成部6が例えば電圧型インバータ回路により構成されている場合は、スイッチング制御部71は、交流電圧の指令値に基づいて、交流電流生成部6をスイッチング制御するためのスイッチング制御信号を生成して、出力する。
【0032】
図7に示すように、本実施形態では、位相検出部8は、さらに誘導電流位相を記憶する位相記憶部83を備えている。また、交流電流生成部6の直流側、具体的にはAC/DCコンバータ67と交流電流生成部6との間には、対象電源装置2Tにより対象給電線3Tに供給される電力である負荷電力を検出する負荷電力検出部9が備えられている。つまり、対象電源装置2Tは、位相記憶部83と負荷電力検出部9とをさらに備えている。
【0033】
交流では、電圧位相と電流位相との関係が、消費電力によって変化する。給電線3から見た場合、この消費電力は負荷電力に相当する。給電線3に流れる交流電流は、受電装置4に接続される電気的負荷LDの消費電力が増減した場合、消費電力の変動に応じて電圧位相に対する電流位相が変化することになる。上述したように、電気的負荷LDには、物品搬送車30の走行輪15の駆動モータ14なども含まれる。例えば、物品搬送車30は停車と走行とを繰り返すが、停車時には消費電力は極めて小さく、発進や加速の際には定常走行中に比べて消費電力が大きくなる。この他にも、物品搬送車30は、物品支持部を昇降させるアクチュエータ、物品を把持する把持部を駆動するアクチュエータ等の電気的負荷LDを備えており、消費電力が変動する。
【0034】
位相制御部7は、対象給電線3Tに印加される交流電圧に対する対象給電線3Tを流れる交流電流の位相差が電気的負荷LDの消費電力である負荷電力に応じて変化することに応じて、交流電流の位相を補正する。つまり、位相制御部7は、当該位相差が負荷電力に応じて変化することに応じて、対象給電線3Tを流れる交流電流の位相を、位相記憶部83に記憶した誘導電流位相に一致させるように交流電流生成部6を制御する。これにより、対象電源装置2Tは、負荷電力が変化しても、対象電源装置2Tにより対象給電線3Tに供給される交流電流の位相と、隣接電源装置2Nにより隣接給電線3Nに供給される交流電流の位相との一致度を高め易い。
【0035】
上述したように、交流電流生成部6は、AC/DCコンバータ67を介して商用電源69から直流電力の供給を受けて、給電線3に交流電流を出力している。従って、給電線3に出力される交流電力を大きくするためには、商用電源69からAC/DCコンバータ67を介して交流電流生成部6に供給される直流電力も大きくする必要がある。換言すれば、負荷電力が大きくなると、給電線3に出力される交流電力も大きくなり、交流電流生成部6の直流側の直流電力も大きくなる。つまり、負荷電力と直流電力との間には相関関係がある。
【0036】
図7に示すように、負荷電力検出部9は、直流電圧センサ91、直流電流センサ92、乗算器93を備えており、交流電流生成部6の直流側における直流電力を検出することによって、負荷電力を検出する。具体的には、直流電圧センサ91の検出値と直流電流センサ92の検出値とを乗算器93によって乗算することによって、負荷電力を検出する。位相制御部7は、負荷電力に対する交流電流の位相を示したマップデータ等が記憶された不図示のマップ記憶部を備えており、当該マップデータに基づいて、交流電流の位相を調整する。換言すれば、位相制御部7は、負荷電力に基づいて交流電流の位相をフィードバック制御する。
【0037】
ところで、誘導電流位相を精度良く検出するためには、対象給電線3Tに流れる誘導電流の振幅が適切に確保されていること(大きいこと)が好ましい。このため、結合ユニット5は、対象給電線3Tと隣接給電線3Nとの電磁結合の結合率が高くなるように構成されている。具合的には、図5及び図6に示すように、結合ユニット5は、対象給電線3Tの一部により構成される対象コイル部5Tと、隣接給電線3Nの一部により構成される隣接コイル部5Nと、磁性体コア51とを備えている。そして、対象コイル部5Tと隣接コイル部5Nと磁性体コア51とは同心状に配置されている。同心状とは、厳密に同じ軸状に配置されていなくてもよく、電磁結合が可能な範囲でずれて配置されていてもよい。また、磁性体コア51は例えはフェライトコアである。
【0038】
磁性体コア51を備えることにより、隣接コイル部5Nを流れる電流により生じる磁界の磁束を磁性体コア51に集め、多くの磁束を対象コイル部5Tと電磁結合させて誘導電流の振幅を大きくし易い。また、対象コイル部5Tと隣接コイル部5Nと磁性体コア51とが同心状に配置されていることで、隣接コイル部5Nからの磁束が、磁性体コア51及び対象コイル部5Tと鎖交し易く、誘導電流の振幅を大きくし易い。
【0039】
図5におけるVI-VI断面図である図6に示すように、本実施形態では、結合ユニット5は、対象コイル部5Tと、隣接コイル部5Nと、磁性体コア51と、ユニットケース52とを備えている。ユニットケース52は、例えば樹脂等に形成され、内部に磁性体コア51を収容している。ユニットケース52は、図5に示すように、移動体としての走行部12の移動軌跡を囲むことができるように環状である。簡略化のため、図5では不図示であるが、磁性体コア51も、走行部12の移動軌跡を囲むことができるように環状である。ここで、環状とは、円環状に限らず、矩形環状も含む。また、連続した環状に限らず、一部が欠けた環状であってもよい。
【0040】
磁性体コア51は、図5に例示する形態では、ユニットケース52と同様に、例えば移動経路10である走行レール20上を走行する物品搬送車30の走行部12の移動軌跡を、上下方向Zにおける下側が開放されると共に、上下方向Zにおける上側及び経路幅方向Hの両外側の三方から囲む矩形環状に形成されていると好適である。対象コイル部5T及び隣接コイル部5Nは、それぞれ対象給電線3T及び隣接給電線3Nが、上下方向Zにおける上側並びに経路幅方向Hの両外側から磁性体コア51と同様に走行部12の移動軌跡を三方から囲うように配設されている。
【0041】
尚、本実施形態では、物品搬送車30が、走行レール20上を走行する走行部12と、走行部12に吊り下げ支持される本体部13とを備える形態を例示している。このため、結合ユニット5が、走行部12の下方が開いた三方から走行部12の走行軌跡を囲む環状に形成されている形態を例示している。しかし、例えば、走行部12の上に本体部が位置するような物品搬送車の場合には、結合ユニット5は、走行部12の移動軌跡を四方から囲む環状に形成されていてもよい。当然ながら、本体部13も含めて、物品搬送車30の全体の移動軌跡を四方から囲む環状に、結合ユニット5が形成されることを妨げるものではない。
【0042】
また、例えば、物品搬送車が床上搬送車の場合も、床よりも下に結合ユニット5を配置することが困難であることが多い。従って、物品搬送車が床上搬送車の場合も、移動体としての床上搬送車の移動軌跡を上下方向Zにおける上側及び経路幅方向Hの両外側の三方から囲む矩形環状に形成されていると好適である。
【0043】
尚、移動軌跡を囲む環状と称した場合、囲む対象は移動軌跡の全体でなくてもよい。例えば、移動軌跡を三方から囲む環状の場合では、移動軌跡の経路幅方向Hの両外側から移動軌跡を囲む場合に、移動軌跡の経路幅方向Hにおける上下方向Zの全範囲を結合ユニット5が囲う必要はない。つまり、経路幅方向Hに沿った方向から見て、結合ユニット5の全体が移動軌跡と重複していなくてもよく、結合ユニット5と移動軌跡とは少なくとも一部が重複していればよい。従って、例えば本体部13を含む物品搬送車30の全体を移動体とし、物品搬送車30の全体の移動軌跡を対象とした場合であっても、結合ユニット5は、移動軌跡を三方から囲むということができる。
【0044】
図6に示すように、磁性体コア51は例えば中空の筒状であり、径方向内側の筒状空間内に、対象コイル部5T及び隣接コイル部5Nに相当する対象給電線3T及び隣接給電線3Nが配設されている。従って、対象コイル部5T、隣接コイル部5N、磁性体コア51は、同じ平面に沿って配置されている。即ち、対象コイル部5Tと隣接コイル部5Nと磁性体コア51とは、経路方向Lに交差する平面に沿って走行部12の移動軌跡を囲むように配置されている。従って、移動経路10に沿った物品搬送車30の移動を妨げることなく、高い結合率で対象給電線3Tと隣接給電線3Nとが電磁結合するように、結合ユニット5を適切に配置することができる。尚、ここでは、対象給電線3T及び隣接給電線3Nにおける対象コイル部5T及び隣接コイル部5Nを内包した磁性体コア51がユニットケース52内に収容されている形態を例示したが、結合ユニット5がユニットケース52を備えることなく構成されていることを妨げるものではない。
【0045】
ところで、位相検出部8は、対象電源装置2Tにより対象給電線3Tに交流電流が供給されていない状態で、誘導電流位相を検出すると好適である。位相検出部8による誘導電流位相の検出は、対象電源装置2Tから対象給電線3Tに交流電流が出力されている状態で実施されてもよいが、この場合は、対象電源装置2Tから対象給電線3Tに供給されている交流電流の影響で、誘導電流位相の検出精度が低下する可能性がある。対象電源装置2Tから供給される交流電流と、誘導電流とが重畳されるため、位相が例えば2箇所で検出される場合がある。対象電源装置2Tから出力される交流電流の位相は、対象電源装置2Tには既知であるから、複数箇所で位相が検出されても、当該交流電流の位相を除外することで誘導電流位相を特定できる。しかし、2つの位相が近い場合には、区別が付きにくく、誘導電流位相の検出精度が低下することがある。
【0046】
従って、位相検出部8は、対象電源装置2Tにより対象給電線3Tに交流電流が供給されていない状態で、誘導電流位相を検出すると好適である。対象給電線3Tに流れる電流が、ほぼ隣接給電線3Nを流れる電流によって誘導された電流のみとなる。従って、対象電源装置2Tから対象給電線3Tに供給される交流電流の影響を受けることなく、誘導電流位相の検出精度を高め易い。
【0047】
1つの好適な態様として、複数の給電システム1を備えた非接触給電設備100では、順次、給電システム1を起動していくと好適である。例えば、非接触給電設備100が、第1の給電システム1、第2の給電システム1、第3の給電システム1の順にn個の給電システム1を備えているとする。はじめに、全ての給電システム1において電源装置2が停止している状態で、第1の給電システム1が起動される。この時点では、同期を取るべき給電システム1は存在していない。
【0048】
次に、第1の給電システム1に隣接する第2の給電システム1の電源装置2及び給電線3を対象電源装置2T及び対象給電線3Tに設定する。第1の給電システム1の電源装置2及び給電線3は、隣接電源装置2N及び隣接給電線3Nに相当することになる。上述したように、第1の給電システム1は稼働しているため、第1の給電システム1の給電線3を流れる電流により、第2の給電システム1の給電線3に誘導電流が生じる。第2の給電システム1の電源装置2は、第2の給電システム1の給電線3に、第1の給電システム1の給電線3を流れる交流電流に同期した交流電流を供給する。
【0049】
次に、第2の給電システム1に隣接する第3の給電システム1の電源装置2及び給電線3を対象電源装置2T及び対象給電線3Tに設定する。対象電源装置2T及び対象給電線3Tであった第2の給電システム1の電源装置2及び給電線3は、隣接電源装置2N及び隣接給電線3Nに相当することになる。上述したように、第1の給電システム1に同期して稼働している第2の給電システム1の給電線3を流れる電流により、第3の給電システム1の給電線3に誘導電流が生じる。第3の給電システム1の電源装置2は、第3の給電システム1の給電線3に、第2の給電システム1の給電線3を流れる交流電流に同期した交流電流を供給するように起動する。第1の給電システム1の給電線3を流れる交流電流と第2の給電システム1の給電線3を流れる交流電流とは、同期しているから、これにより、第1の給電システム1の給電線3を流れる交流電流と、第2の給電システム1の給電線3を流れる交流電流と、第1の給電システム1の給電線3を流れる交流電流とが同期する。
【0050】
以降、第4の給電システム1、第5の給電システム1、・・・、n-1番目の給電システム1、n番目の給電システム1を順次立ち上げる。n-1番目の給電システム1の電源装置2及び給電線3を隣接電源装置2N及び隣接給電線3Nとし、n番目の給電システム1の電源装置2及び給電線3を対象電源装置2T及び対象給電線3Tとして、n番目の給電システム1の給電線3に交流電流が供給されると、第1の給電システム1からn番目の給電システム1までのn個の給電線3を流れる交流電流が同期することになる。
【0051】
〔その他の実施形態〕
以下、その他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0052】
(1)位相検出部8による誘導電流位相の検出は、対象電源装置2Tから対象給電線3Tに交流電流が出力されている状態で実施されてもよいと上述した。例えば、全ての給電システム1が立ち上がった後で、位相検出部8が誘導電流位相を検出すると、非接触給電設備100の稼働中に電流位相の微調整が可能となる。また、対象電源装置2Tから対象給電線3Tに交流電流が出力されている状態で誘導電流位相が検出される構成と、対象電源装置2Tから対象給電線3Tに交流電流が出力されていない状態で誘導電流位相が検出される構成とは、必ずしも排他的である必要はない。対象電源装置2Tは、何れの状態においても、誘導電流位相が検出可能に構成されていてもよい。例えば、非接触給電設備100を起動する際には、対象給電線3Tに交流電流が供給されていない状態で誘導電流位相が検出され、非接触給電設備100の起動後は、対象給電線3Tに交流電流が供給されている状態で誘導電流位相が検出されてもよい。
【0053】
(2)上記においては、対象電源装置2Tが、誘導電流位相を記憶する位相記憶部83を備えている形態を例示した。しかし、位相記憶部83を備えることなく、位相特定部82が特定した誘導電流位相をリアルタイムで用いて位相制御部7が交流電流生成部6を制御してもよい。例えば、対象電源装置2Tが非接触給電設備100の立ち上げ時にのみ誘導電流位相を検出するような運用の場合には、位相記憶部83を備えていなくてもよい。当然ながら、対象電源装置2Tが非接触給電設備100の立ち上げ時にのみ誘導電流位相を検出するような運用であると共に、位相記憶部83を備えていてもよい。
【0054】
(3)上記においては、対象電源装置2Tが、負荷電力検出部9を備えている構成を例示して説明した。しかし、対象電源装置2Tは負荷電力検出部9を備えていなくてもよい。上述したように、負荷電力が変動することによって、給電線3における交流電圧の位相と、交流電流の位相の位相差が変化する。立ち上げ時の位相差は、ほぼ無負荷時の位相差であるから、この際の位相差と、物品搬送設備200の稼働後の位相差との差に基づいて、位相制御部7は、電気的負荷LDの変化による影響を知ることができる。そして、位相制御部7は、交流電圧の位相を調整すること、例えば電圧制御型のインバータ回路により構成された交流電流生成部6のスイッチング制御信号を調整して、交流電流の位相が同期するように交流電圧の位相を変化させてもよい。この場合、負荷電力を検出しなくても交流電流の位相の調整が可能である。従って、対象電源装置2Tが負荷電力検出部9を備えていない形態を妨げるものではない。
【0055】
(4)上記においては、結合ユニット5が磁性体コア51を備えている形態を例示したが、対象コイル部と隣接コイル部とが充分に高い結合率で電磁結合できるように配置可能であれは、磁性体コア51を備えていなくてもよい。また、対象コイル部5Tと隣接コイル部5Nとは、直線状に近接配置されてもよい。従って、磁性体コア51の有無に拘わらず、対象コイル部5Tと隣接コイル部5Nとは、同心環状に配置されていなくてもよい。また、対象コイル部5Tと隣接コイル部5Nとが直線状に近接配置されてもよいため、磁性体コア51の有無に拘わらず、対象コイル部5Tと隣接コイル部5Nと磁性体コア51とは、経路方向Lに交差する平面に沿って移動経路10を囲むように配置されていなくてもよい。
【0056】
〔実施形態の概要〕
以下、上記において説明した非接触給電設備の概要について簡単に説明する。
【0057】
1つの態様として、受電装置を備えた移動体の移動経路に沿って並ぶように配置された複数の給電線と、複数の前記給電線のそれぞれに接続され、接続された前記給電線に交流電流を供給する電源装置と、を備え、前記受電装置に非接触で電力を供給する非接触給電設備は、複数の前記給電線の1つを対象給電線とし、前記対象給電線に接続された電源装置を対象電源装置とし、前記移動経路に沿って前記対象給電線と隣り合う前記給電線を隣接給電線とし、前記隣接給電線に接続された電源装置を隣接電源装置として、前記対象給電線と前記隣接給電線とを電磁結合する結合ユニットを備え、前記対象電源装置は、前記隣接電源装置により前記隣接給電線に交流電流が供給されている状態で、前記結合ユニットを介した電磁誘導により前記対象給電線に流れる誘導電流の位相である誘導電流位相を検出する位相検出部と、前記対象給電線に供給する交流電流を生成する交流電流生成部と、前記対象給電線に供給される交流電流の位相が前記位相検出部により検出された前記誘導電流位相に近づくように、前記交流電流生成部を制御する位相制御部と、を備える。
【0058】
従来は、複数の電源装置からそれぞれの給電線に供給される交流電流の位相を同期させるために、信号伝送線及び信号伝送装置を用いて複数の電源装置に同期信号を供給する必要があった。本構成によれば、隣接電源装置から隣接給電線に供給された交流電流の位相が誘導電流位相として対象電源装置により検出される。そして、当該対象電源装置は、対象給電線に供給する交流電流の位相が誘導電流位相に近づくように交流電流生成部を制御して対象給電線に交流電流を供給する。これにより、信号伝送装置からの同期信号を用いることなく、隣接給電線を流れる交流電流と、対象給電線を流れる交流電流とを同期させることができる。そして、それぞれの電源装置が、隣接電源装置及び対象電源装置となることにより、非接触給電設備のそれぞれの電源装置から出力される交流電流を同期させることができる。このように、本構成によれば、移動体の移動経路に沿って並ぶように配置された複数の給電線を有する非接触給電設備において、資材コストや設置工数を低減しつつ、各給電線を流れる交流電流を適切に同期させることができる。また、設置後のメンテナンスに要するコストも低減させることができる。
【0059】
また、前記位相検出部は、前記対象電源装置により前記対象給電線に交流電流が供給されていない状態で、前記誘導電流位相を検出すると好適である。
【0060】
本構成によれば、対象給電線に流れる電流が、ほぼ隣接給電線を流れる電流によって誘導された電流のみとなる。従って、対象電源装置から対象給電線に供給される交流電流の影響を受けることなく、誘導電流位相の検出精度を高め易い。
【0061】
また、前記対象電源装置は、前記誘導電流位相を記憶する位相記憶部と、前記対象電源装置により前記対象給電線に供給される電力である負荷電力を検出する負荷電力検出部と、をさらに備え、前記位相制御部は、前記対象給電線に印加される交流電圧に対する前記対象給電線を流れる交流電流の位相差が前記負荷電力に応じて変化することに応じて、前記対象給電線を流れる交流電流の位相を、前記位相記憶部に記憶した前記誘導電流位相に一致させるように前記交流電流生成部を制御すると好適である。
【0062】
交流では、電圧位相と電流位相との関係が、負荷によって変化する。従って、対象給電線を介した電力の供給先の負荷変動に応じて、対象給電線の電流位相と隣接給電線の電流位相とがずれる場合がある。本構成によれば、位相記憶部に記憶された誘電電流位相に一致するように、負荷電力検出部により検出された負荷電力に応じた位相のずれを補正することができる。従って、本構成によれば、対象電源装置により対象給電線に供給される交流電流の位相と、隣接電源装置により隣接給電線に供給される交流電流の位相との一致度を高め易い。
【0063】
また、前記結合ユニットは、前記対象給電線の一部により構成される対象コイル部と、前記隣接給電線の一部により構成される隣接コイル部と、磁性体コアとを備え、前記対象コイル部と前記隣接コイル部と前記磁性体コアとが同心状に配置されていると好適である。
【0064】
磁性体コアを備えることにより、隣接コイル部を流れる電流により生じる磁界の磁束を磁性体コアに集め、多くの磁束を対象コイル部と電磁結合させて誘導電流の振幅を大きくし易い。また、対象コイル部と隣接コイル部と磁性体コアとが同心状に配置されていることで、隣接コイル部からの磁束が、磁性体コア及び対象コイル部と鎖交し易く、誘導電流の振幅を大きくし易い。即ち、本構成によれば、結合ユニットによる対象給電線と隣接給電線とを電磁結合の結合率(結合係数)を高め易く、誘導電流の振幅を大きくして誘導電流位相の検出精度を高め易い。
【0065】
また、前記磁性体コアは環状に形成され、前記移動経路に沿う方向を経路方向として、前記対象コイル部と前記隣接コイル部と前記磁性体コアとが、前記経路方向に交差する平面に沿って前記移動体の移動軌跡を囲むように配置されていると好適である。
【0066】
本構成によれば、移動経路に沿った移動体の移動を妨げることなく、高い結合率で対象給電線と隣接給電線とが電磁結合するように、結合ユニットを適切に配置することができる。
【符号の説明】
【0067】
2 :電源装置
2N :隣接電源装置
2T :対象電源装置
3 :給電線
3N :隣接給電線
3T :対象給電線
4 :受電装置
5 :結合ユニット
5N :隣接コイル部
5T :対象コイル部
6 :交流電流生成部
7 :位相制御部
8 :位相検出部
9 :負荷電力検出部
10 :移動経路
30 :物品搬送車(移動体)
51 :磁性体コア
83 :位相記憶部
100 :非接触給電設備
L :経路方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7