(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057330
(43)【公開日】2024-04-24
(54)【発明の名称】樹冠抽出装置および樹冠抽出方法
(51)【国際特許分類】
G01B 11/00 20060101AFI20240417BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20240417BHJP
G06V 10/82 20220101ALI20240417BHJP
G01B 11/26 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
G01B11/00 B
G06T7/00 350C
G06V10/82
G01B11/26 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163993
(22)【出願日】2022-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】591074161
【氏名又は名称】アジア航測株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505398941
【氏名又は名称】東日本高速道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】597165618
【氏名又は名称】株式会社ネクスコ東日本エンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】于 忠策
(72)【発明者】
【氏名】新名 恭仁
(72)【発明者】
【氏名】廣永 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】岩田 彰隆
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 達也
(72)【発明者】
【氏名】本部 星
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄吾
(72)【発明者】
【氏名】北澤 剛
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 秀治
【テーマコード(参考)】
2F065
5L096
【Fターム(参考)】
2F065AA04
2F065AA37
2F065BB05
2F065FF12
2F065FF42
2F065FF43
2F065GG04
2F065HH04
2F065JJ01
2F065QQ21
2F065QQ31
5L096AA06
5L096AA09
5L096FA32
5L096FA66
5L096FA69
5L096HA11
(57)【要約】
【課題】広葉樹であっても、樹冠の範囲を高精度に自動抽出することが可能な樹冠抽出装置および樹冠抽出方法を得る。
【解決手段】航空レーザ点群データから、数値標高モデル点群データを生成するDEM点群データ作成部31と、数値表層モデル点群データを生成するDSM点群データ作成部32と、数値表層モデル点群データから植生点群データを分類する植生分類部33と、数値標高モデル点群データに基づいて、植生点群データを数値高さモデル点群データに変換する地面高データ変換部34と、数値高さモデル点群データから植生サーフェス点群データを作成するサーフェス点群データ作成部35と、植生サーフェス点群データに基づいて樹冠縁部と樹冠中心ベクトルとを予測する樹冠縁部・中心ベクトル予測部36と、樹冠縁部と樹冠中心ベクトルとに基づいて植生サーフェス点群データから樹冠ポリゴンを形成する樹冠ポリゴン形成部37と、を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空レーザ計測による3次元の点群データに基づいて、樹木の生育域内から広葉樹の樹冠の範囲を抽出する樹冠抽出装置であって、
前記3次元の点群データから、地面の高さを3次元座標化した数値標高モデル点群データと、地物に応じた地表面の高さを3次元座標化した数値表層モデル点群データと、を生成する生成部と、
前記数値表層モデル点群データから、前記樹木の植生に応じた植生点群データを分類する分類部と、
前記数値標高モデル点群データに基づいて、前記植生点群データを地面からの高さに応じた数値高さモデル点群データに変換する変換部と、
前記数値高さモデル点群データから、植生サーフェス点群データを作成する作成部と、
前記植生サーフェス点群データに基づいて、樹冠縁部の分類点群データと樹冠中心ベクトルとを予測する予測部と、
前記樹冠縁部の分類点群データと前記樹冠中心ベクトルとを用いて、前記分類点群データをクラスタリングして樹冠点を求めるとともに、前記樹冠点を包含する樹冠ポリゴンを形成する形成部と、
を備えたことを特徴とする樹冠抽出装置。
【請求項2】
前記分類部は、深層学習モデルを用いて、前記数値表層モデル点群データを前記植生点群データと植生以外の点群データとに分類することを特徴とする請求項1に記載の樹冠抽出装置。
【請求項3】
前記作成部は、前記数値高さモデル点群データのXY平面を分けるグリッドの最高点を代表点とする、前記グリッドの特徴量を属性として備える、前記植生サーフェス点群データを作成することを特徴とする請求項1に記載の樹冠抽出装置。
【請求項4】
前記予測部は、深層学習モデルを用いて、前記樹冠縁部の分類点群データと前記樹冠中心ベクトルとを予測することを特徴とする請求項1に記載の樹冠抽出装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の樹冠抽出装置により、航空レーザ計測による3次元の点群データに基づいて、樹木の生育域内から広葉樹の樹冠の範囲を抽出する樹冠抽出方法であって、
前記3次元の点群データから、地面の高さを3次元座標化した数値標高モデル点群データと、地物に応じた地表面の高さを3次元座標化した数値表層モデル点群データと、を生成する工程と、
前記数値表層モデル点群データから、前記樹木の植生に応じた植生点群データを分類する工程と、
前記数値標高モデル点群データに基づいて、前記植生点群データを地面からの高さに応じた数値高さモデル点群データに変換する工程と、
前記数値高さモデル点群データから、植生サーフェス点群データを作成する工程と、
前記植生サーフェス点群データに基づいて、樹冠縁部の分類点群データと樹冠中心ベクトルとを予測する工程と、
前記樹冠縁部の分類点群データと前記樹冠中心ベクトルとを用いて、前記分類点群データをクラスタリングして樹冠点を求めるとともに、前記樹冠点を包含する樹冠ポリゴンを形成する工程と、
を備えたことを特徴とする樹冠抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空レーザ点群データ(航空レーザ計測による3次元の点群データ)に基づいて、樹冠、特に、生育域内における広葉樹の樹冠の範囲を自動的に抽出する樹冠抽出装置および樹冠抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、森林における樹木の形態(例えば、樹木の位置や本数、樹高など)を調査したり、樹木位置を検出するための技術として、各種の装置や方法が提案されている。
【0003】
また、調査対象森林域(生育域)に関する森林資源情報や樹木の伐採状況などを管理するために、森林域の状態を評価したり、算定などを行う技術も知られている。
【0004】
特に、近年において、道路わきや線路わきの樹木を管理する上で、これらの技術は、倒木などを未然に回避するためにも非常に重要なものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5844438号公報
【特許文献2】特許第5507418号公報
【特許文献3】特開2020-112887号公報
【特許文献4】特開2019-185449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これまでの技術では、スギやヒノキなどの針葉樹であれば、樹冠が重なり合うことがないため、ある程度は樹冠範囲の自動抽出が可能であるものの、樹冠が複雑に重なり合う広葉樹については、樹木毎の樹冠範囲を正確に抽出することが困難であった。
【0007】
即ち、広葉樹の場合には、同じ樹種の複数本の樹木を1本の樹木としてまとめて検出するなど、生育域内の広葉樹を単木として検出するのが難しいという課題があった。
【0008】
特に、広葉樹は、樹冠が針葉樹よりも複雑な形状をしているため、樹木毎に樹冠の範囲を精度よく抽出し、単木として検出できるようにすることは、例えば道路わきや線路わきなどでの樹木を管理する場合において、倒木などのリスクのある樹木を特定するのに極めて有用となる。
【0009】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたものであって、広葉樹であっても、樹冠の範囲を高精度に自動抽出でき、樹木の管理などに用いて好適な樹冠抽出装置および樹冠抽出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態は、航空レーザ計測による3次元の点群データに基づいて、樹木の生育域内から広葉樹の樹冠の範囲を抽出する樹冠抽出装置であって、前記3次元の点群データから、地面の高さを3次元座標化した数値標高モデル点群データと、地物に応じた地表面の高さを3次元座標化した数値表層モデル点群データと、を生成する生成部と、前記数値表層モデル点群データから、前記樹木の植生に応じた植生点群データを分類する分類部と、前記数値標高モデル点群データに基づいて、前記植生点群データを地面からの高さに応じた数値高さモデル点群データに変換する変換部と、前記数値高さモデル点群データから、植生サーフェス点群データを作成する作成部と、前記植生サーフェス点群データに基づいて、樹冠縁部の分類点群データと樹冠中心ベクトルとを予測する予測部と、前記樹冠縁部の分類点群データと前記樹冠中心ベクトルとを用いて、前記分類点群データをクラスタリングして樹冠点を求めるとともに、前記樹冠点を包含する樹冠ポリゴンを形成する形成部と、を備えることを要旨とする。
【0011】
本発明の他の実施形態は、樹冠抽出装置により、航空レーザ計測による3次元の点群データに基づいて、樹木の生育域内から広葉樹の樹冠の範囲を抽出する樹冠抽出方法であって、前記3次元の点群データから、地面の高さを3次元座標化した数値標高モデル点群データと、地物に応じた地表面の高さを3次元座標化した数値表層モデル点群データと、を生成する工程と、前記数値表層モデル点群データから、前記樹木の植生に応じた植生点群データを分類する工程と、前記数値標高モデル点群データに基づいて、前記植生点群データを地面からの高さに応じた数値高さモデル点群データに変換する工程と、前記数値高さモデル点群データから、植生サーフェス点群データを作成する工程と、前記植生サーフェス点群データに基づいて、樹冠縁部の分類点群データと樹冠中心ベクトルとを予測する工程と、前記樹冠縁部の分類点群データと前記樹冠中心ベクトルとを用いて、前記分類点群データをクラスタリングして樹冠点を求めるとともに、前記樹冠点を包含する樹冠ポリゴンを形成する工程と、を備えることを要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
以上のように本発明によれば、広葉樹であっても、樹冠範囲を高精度に自動抽出でき、樹木の管理などに用いて好適な樹冠抽出装置および樹冠抽出方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る樹冠抽出装置が適用される樹冠抽出システムの構成例を示す概略図である。
【
図2】樹冠抽出方法について例示するものであって、(a)は、樹冠自動抽出処理のための航空レーザ点群データの反射強度色付け表示を示す鳥瞰図であり、(b)は、(a)の樹冠毎の色分け表示を示す鳥瞰図であり、(c)は、(a)の樹冠毎の色分け表示を示す上面図である。
【
図3】(a)は、航空レーザ計測データ(反射パルス)を例示する断面図であり、(b)は、(a)の樹冠表層データ(数値表層モデル点群データ/DSM)を例示する鳥瞰図であり、(c)は、(a)の樹冠標高データ(数値標高モデル点群データ/DEM)を例示する鳥瞰図である。
【
図4】広葉樹を例に、樹木の樹冠の範囲について示す概略図である。
【
図5】樹冠抽出装置の構成例を示すブロック図である。
【
図6】樹冠抽出方法を説明するために示すフローチャートである。
【
図7】DSM,DEMの生成について具体的に説明するために示すものであって、(a)は、オルソ画像であり、(b)は、(a)を計測対象とした場合のフィルタリング前の航空レーザ計測データであり、(c)は、(a)を計測対象とした場合のフィルタリング後の航空レーザ点群データである。
【
図8】植生分類について具体的に説明するために示すものであって、(a)は、DSM点群データであり、(b)は、(a)のDSM点群データにおける植生とそれ以外の点群データであり、(c)は、(a)のDSM点群データにおける植生点群データである。
【
図9】植生点群データの地面高データ(数値高さモデル点群データ/DCM)への変換に係る処理の流れを説明するために示すフローチャートである。
【
図10】植生点群データの地面高データへの変換に係る処理の流れについて具体的に説明するためのものであって、(a)は、植生点群データおよび樹冠標高データの一例を示す図であり、(b)は、植生点の地面からの高さを算出する手法について例示する図であり、(c)は、変換された地面高データの一例を示す図である。
【
図11】属性付き植生サーフェス点群データからの特徴量の抽出および樹冠縁部の分類点群データと樹冠中心ベクトルとの予測について説明するために示す図である。
【
図12】樹冠縁部の分類について説明するために示すものであって、(a)は、樹冠縁部の分類点群データの分類のための深層学習モデルの損失関数を例示する図であり、(b)は、一つの樹冠における樹冠縁部と内部とを分類するための教師データの作成について説明するために示す図であり、(c)は、局所形状を対比するために示す俯瞰図であり、(d)は、局所形状を対比するために示す断面図である。
【
図13】樹冠中心ベクトルの抽出について説明するために示すものであって、(a)は、樹冠中心ベクトルを抽出するための深層学習モデルの損失関数を例示する図であり、(b)は、一つの樹冠における樹冠中心ベクトルと樹冠中心点とを例示する図である。
【
図14】樹冠縁部の分類点群データと樹冠中心ベクトルとを用いて、クラスタリングにより樹冠点を求める際の処理の流れを説明するために示す図である。
【
図15】樹冠縁部の分類点群データと樹冠中心ベクトルとを用いて、クラスタリングにより樹冠点を求める際の処理の流れを説明するために示すフローチャートである。
【
図16】
図15のフローチャートにおいて、縁部予測確率をもとに、樹冠縁部点と内部点とを分ける手法について説明するために示す図であり、(a)は、樹冠縁部点と内部点とを分類するための算術式を例示する図であり、(b)は、処理の一例を示す図である。
【
図17】
図15のフローチャートにおいて、内部点を樹冠中心点に集める手法について説明するために示す図である。
【
図18】
図15のフローチャートにおいて、内部点をクラスタリングし、樹冠中心点を求める手法について説明するために示す図である。
【
図19】
図15のフローチャートにおいて、樹冠ポリゴンの作成について説明するために示す図である。
【
図20】具体例として、現地調査(目視)による樹冠ポリゴンと自動抽出された樹冠ポリゴンとを対比して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に示す実施の形態は、本発明の技術的思想(構造、配置など)を具体化するための装置や方法を例示するものであって、発明の技術的思想は、下記のものに特定されるものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された事項の範囲内において、種々の変更を加えることができる。また、図面は模式的なものであり、装置やシステムの構成などは現実のものとは異なることに留意すべきである。
【0015】
実施の形態
以下、本発明の実施形態に係る樹冠抽出装置および樹冠抽出方法について図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、本実施形態に係る樹冠抽出装置1が適用される樹冠抽出システムの構成例を示す概略図であり、
図2,3は、樹冠抽出装置1による樹冠抽出方法について説明するために樹冠自動抽出処理の一例を示するものである。即ち、この樹冠抽出装置1は、樹冠抽出システムにおいて、航空レーザ計測による樹木の生育域内からの3次元の点群データ(航空レーザ点群データ)に基づいて、樹木A,B,Cの樹冠範囲を自動抽出するものである。
【0017】
ここで、樹冠範囲とは、例えば
図4に示すように、広葉樹において、樹木の幹の上部にあって枝や葉の生い茂っている部分である。
【0018】
まず、樹冠抽出装置1について説明する前に、航空レーザ計測について簡単に説明する。
【0019】
航空レーザ計測とは、例えば
図1に示すように、航空機やヘリコプターまたはドローンなどの飛行体6に搭載されたレーザ計測装置(図示省略)を用いて上空からレーザパルスを照射し、その反射パルスのパルス照射からの時間によって反射点までの距離を求めることにより、計測対象であるパルス照射領域内の高さ情報を航空レーザ計測データとして取得するものである。
【0020】
レーザパルスとしては、例えば、1000m先において約20cmの円がパルス照射領域となるように調整される。
【0021】
なお、
図1において、照射されるレーザパルスのうち、樹木Aで反射されるパルスをファーストパルス、樹木B,Cで反射されるパルスを中間パルス、地盤(地面)で反射されるパルスをラストパルスとしている。
【0022】
また、樹木Aは、例えば、高木や低木などが混在する複層林における高木層の広葉樹などであり、樹木B,Cは、例えば、複層林において、樹木Aの枝下などで生育する亜高木層や低木層の樹木(広葉樹など)である。
【0023】
図1に示すように、本実施形態に係る樹冠抽出装置1は、入力装置2、演算処理装置3、記憶装置4、および、出力装置5などから構成されている。
【0024】
入力装置2は、キーボードやマウスであり、担当者が本樹冠抽出装置1を操作する際に用いられる。また、入力装置2としては、いずれも図示していないが、飛行体6により取得された航空レーザ計測データ(生データ)を、例えばハードディスクを介して取り込む取込装置を含むとともに、スキャナやインターネットに接続された通信機などを含むものであっても良い。
【0025】
演算処理装置3は、コンピュータ(PC)および該PC上で実行されるプログラムなどにより構築され、例えば、各種のプログラムの実行により、計測対象である樹木A,B,Cの生育域内に対応する航空レーザ点群データに基づいて、樹木A,B,Cの樹冠範囲を自動抽出するために用いられる。
【0026】
なお、航空レーザ点群データとは、演算処理装置3において直交座標系により3次元座標化された、航空レーザ計測データに応じた3次元の点群データ(オリジナル点群データ)である。
【0027】
記憶装置4は、PCに内蔵または外付けされたハードディスク装置などにより構成されるものであって、例えば、各種のプログラムや深層学習(ディープラーニング)モデルなどが記憶される。
【0028】
ここで、深層学習モデルとは、従来の機械学習では必須な「特徴量の設計」が不要で、大量のデータをもとに自動で特徴量を抽出し、学習していくAI(Artificial Intelligence)技術である。
【0029】
出力装置5は、ディスプレイやプリンタであり、演算処理装置3によって自動抽出された、樹木A,B,Cの樹冠範囲に基づいた個別樹冠ポリゴンなどの画面表示やプリントアウトに用いられる。また、出力装置5としては、インターネットに接続されたクラウドや携帯端末などとの通信を行う通信機などを含むものであっても良い。
【0030】
航空レーザ計測データを3次元座標化した航空レーザ点群データは、例えば
図2に示すように、複雑な形状を有する広葉樹の樹冠に応じた高さ情報や反射強度などの属性情報を含み、その樹冠範囲を、個別に、かつ、高精度に抽出できるようにすることで、樹冠毎の2次元(上面図)あるいは3次元(鳥瞰図)での色分け表示が容易に可能となる。
【0031】
なお、
図2において、(a)は、航空レーザ点群データの反射強度色付け表示を例示する鳥瞰図であり、(b)は、(a)の樹冠毎の色分け表示例を示す鳥瞰図であり、(c)は、(a)の樹冠毎の色分け表示例を示す上面図である。
【0032】
また、得られる高さ情報としては、例えば
図3に示すように、樹木や構造物などの地物の高さを樹冠表層データ(数値表層モデル点群データ)として3次元座標化したDSM(Digital Surface Model)点群データのほか、地盤の高さを樹冠標高データ(数値標高モデル点群データ)として3次元座標化したDEM(Digital Elevation Model)点群データの取得も可能である。
【0033】
なお、
図3において、(a)は、航空レーザ計測データ(反射パルス)の一例を示す断面図であり、(b)は、(a)のDSM点群データを例示する鳥瞰図であり、(c)は、(a)のDEM点群データを例示する鳥瞰図である。
【0034】
以下に、本実施形態に係る樹冠抽出装置1について、より詳細に説明する。
【0035】
図5は、本樹冠抽出装置1の構成を具体的に示すもので、演算処理装置3は、例えばPCのCPU(Central Processing Unit)が、DEM点群データ作成部(生成部)31、DSM点群データ作成部(生成部)32、植生分類部(分類部)33、地面高データ変換部(変換部)34、サーフェス点群データ作成部(作成部)35、樹冠縁部・中心ベクトル予測部(予測部)36、および、樹冠ポリゴン形成部(形成部)37などとして機能する。
【0036】
DEM点群データ作成部31およびDSM点群データ作成部32は、飛行体6より提供される航空レーザ計測データに対し、特定のソフトによりノイズ除去処理やフィルタリング処理を施して、DEM点群データおよびDSM点群データの生成を行う。
【0037】
植生分類部33は、後述する深層学習モデルである特徴量抽出・データ分類手法(例えば、KPConv)により、DSM点群データを、植生点群データとそれ以外の点群データとに分類する。
【0038】
地面高データ変換部34は、植生点群データとDEM点群データとに基づいて、植生点群データを地面高(h)により変換した、植生の地面高データ(数値高さモデル点群データ)としてのDCM(Digital Canopy Model)点群データを生成する。
【0039】
サーフェス点群データ作成部35は、ここでは、DCM点群データをグリッドで区切り、グリッド内の最高地面高データを持つ最高点を代表点とするとともに、その反射強度や、代表点(最高点)と最低点との高度差などを属性情報とする属性付き植生サーフェス点群データの生成を行う。
【0040】
樹冠縁部・中心ベクトル予測部36は、深層学習モデル(例えば、KPConv)による属性付き植生サーフェス点群データからの特徴量の抽出と、深層学習モデル(例えば、多層パーセプトロン(MLP))による樹冠縁部の分類点群データの算出と樹冠中心ベクトルの予測と、を実行する。
【0041】
樹冠ポリゴン形成部37は、予測された樹冠縁部の分類点群データと樹冠中心ベクトルとを用いて、その分類点群データのクラスタリングを行って樹冠点を求めるとともに、樹冠点を包含するポリゴンを算出して、最終的に個別の樹冠ポリゴンの形成を行う。
【0042】
記憶装置4は、例えば、各種の点群データを記憶する点群データ記憶部41、演算処理装置3を機能させるためのプログラムや学習済みの深層学習モデルなどを記憶するプログラム記憶部42、および、演算パラメータや閾値、学習用のパラメータなどを記憶するパラメータ記憶部43を備える。
【0043】
次に、
図6を参照して、樹冠抽出装置1による樹冠抽出方法について説明する。
【0044】
図6に示すように、例えば、飛行体6により取得された航空レーザ計測データが記憶装置4の点群データ記憶部41に一時的に記憶された状態において、まずは、DEM点群データ作成部31によるDEM点群データの作成と、DSM点群データ作成部32によるDSM点群データの作成と、が行われる(ステップS01)。
【0045】
DEM点群データ作成部31およびDSM点群データ作成部32では、記憶装置4のプログラム記憶部42に予め記憶されている特定のソフトなどを用いて、点群データ記憶部41より読み出された航空レーザ計測データに対し、例えば
図7(b),(c)に示すようなノイズ除去処理とフィルタリング処理とが行われることによって、樹木や人工構造物などの地物を含まない地盤の高さを3次元座標化したDEM点群データと、樹木や人工構造物などの地物の高さを含む地表面の高さを3次元座標化したDSM点群データと、が作成される。そのDEM点群データおよびDSM点群データは、一旦、点群データ記憶部41の専用のエリアに記憶される。
【0046】
なお、
図7において、(a)は、オルソ画像であり、(b)は、(a)を計測対象とした場合のフィルタリング前の航空レーザ計測データであり、(c)は、(a)を計測対象とした場合のフィルタリング後のオリジナル点群データ(DEM点群データ,DSM点群データ)である。
【0047】
次いで、記憶装置4のプログラム記憶部42に記憶されている深層学習モデル(例えば、KPCocv)を用いて、点群データ記憶部41より読み出されたDSM点群データが、樹木の植生に応じた植生点群データとそれ以外の点群データとに分類される(ステップS02)。
【0048】
即ち、植生分類部33においては、例えば
図8(a)~(c)に示すように、DSM点群データから樹木の植生のみに応じた植生点群データ(x,y,z)iが分類される。その植生点群データ(x,y,z)iは、一旦、点群データ記憶部41の専用のエリアに記憶される。
【0049】
次いで、地面高データ変換部34において、点群データ記憶部41より読み出された植生点群データ(x,y,z)iが、DEM点群データに基づいて、植生の地面高点群データ(x,y,h)iに変換される(ステップS03)。
【0050】
即ち、地面高データ変換部34では、まずは、例えば
図10(a)に示すように、植生点群データとDEM点群データとから、植生点(x,y,zt)の地面位置座標(x,y)の最近隣地面点(6点程度)の探索が行われる(
図9のステップS31)。
【0051】
そして、例えば
図10(b)に示すように、線形回帰により最近隣地面点の平面(地面)が予測される(
図9のステップS32)。
【0052】
また、例えば
図10(b)に示すように、植生点(x,y,zt)から予測した平面上に鉛直線を下すことにより、地面からの高さ(x,y,zg)が算出される(
図9のステップS33)。
【0053】
こうして、例えば
図10(c)に示すように、最終的には、DSM点群データが地面高hのDCM点群データ(植生の地面高データ)に変換される。そのDCM点群データは、一旦、点群データ記憶部41の専用のエリアに記憶される。
【0054】
次いで、サーフェス点群データ作成部35において、例えば、点群データ記憶部41より読み出されたDCM点群データから、代表点の反射強度などを属性とする属性付き植生サーフェス点群データの生成が行われる(ステップS04)。
【0055】
その属性付き植生サーフェス点群データは、一旦、点群データ記憶部41の専用のエリアに記憶される。
【0056】
ここで、属性付き植生サーフェス点群データの作成では、まず、点群データ記憶部41より読み出された地面高hのDCM点群データのXY平面を、例えば50cm×50cmのグリッドに分割し、その分割された各グリッドに属する点を抽出し、抽出した点の最高点を代表点とするとともに、以下のグリッドの属性(特徴量)を次工程での深層学習モデルによる処理の入力(x,y,h,r,n,Δz,(Rn)j,(Ln)k)iとした。
【0057】
即ち、グリッドの属性として、例えば入力iの、座標(x,y,h)を代表点の座標とし、反射強度(r)を代表点の反射強度とし、グリッドに属する点数をn、グリッドに属する最高点と最低点との高度差をΔzとした。
【0058】
また、グリッドに属する点の反射番号毎の点数を(Rn)j(j=1,2,…,Rmax)とするとともに(例えば、点の持つ反射番号が1から5までならばjは1,2,…,5となる)、グリッドに属する点の地表高さの階層毎の点数を(Ln)k(k=1,2,…,Lmax)とした(例えば、地表高さの階層を2mおきの、0~2m、2m~4m、4m~6m、…、18~20m、20m以上、という階層に分けるならばkは1,2,…,11となる)。
【0059】
次いで、樹冠縁部・中心ベクトル予測部36において、例えば
図11に示すように、点群データ記憶部41より読み出された属性付き植生サーフェス点群データに対して、KPConvによる特徴量抽出処理と、MLPによる樹冠縁部予測(樹冠縁部分類)と中心ベクトル予測(樹冠中心ベクトル回帰)と、が行われる(ステップS05)。
【0060】
樹冠縁部予測では、例えば
図12(a),(b)に示すように、植生サーフェス点群データの各点を0または1に分類する2クラス分類問題とし、出力ciとしてクラスを定義(0を縁部、1を内部)するとともに、人が作成した正解となる樹冠ポリゴンをR%に縮小した範囲を樹冠内部、その範囲に含まれる点群を樹冠内部点とする教師データとし、損失関数としてDice Lossを追加したCross Entropyをセットした。
【0061】
図12(c),(d)からも明らかなように、樹冠ポリゴンの縁部と内部とでは局所形状が異なっている。
【0062】
樹冠中心ベクトル予測では、例えば
図13(a),(b)に示すように、植生サーフェス点群データの各点が属する樹冠中心点方向を予測するリグレッション問題とし、出力(u,v)iとして2次元ベクトル(u,v)を定義し、教師データとして着目点から中心点への単位(中心)ベクトルを設定し、損失関数としてCosine Lossをセットした。
【0063】
樹冠縁部・中心ベクトル予測部36にて、予測できた樹冠縁部(縁部予測確率)の分類点群データおよび樹冠中心ベクトルは、例えば記憶装置4に記憶されるようにしても良い。
【0064】
次いで、樹冠ポリゴン形成部37において、予測できた樹冠縁部の分類点群データと樹冠中心ベクトルとを用いて、樹冠点のクラスタリングが行われる(ステップS06)。
【0065】
ここでのクラスタリング処理としては、詳細については後述するが、例えば
図14に示すように、Point Gatheringによって、内部点と縁部点の移動と近傍点の探索とが繰り返され、近傍点の樹冠中心ベクトルの方向が大きく変化したら移動が停止されて、最終的に、グルーピングした点に基づいた個別樹冠ポリゴンの作成が行われる。
【0066】
図15は、樹冠縁部の分類点群データの縁部予測確率と樹冠中心ベクトルとを用いて、樹冠点をクラスタリングする際の処理の流れを説明するために示すフローチャートである(
図6のステップS06参照)。
【0067】
樹冠点のクラスタリングにおいて、まずは、例えば
図16(a),(b)に示すように、縁部予測確率をもとに樹冠点が樹冠縁部点と内部点とに分けられる(ステップS61)。
【0068】
そして、内部点がPoint Gatheringにより集められる(ステップS62)。ここでは、例えば
図17に示すように、まずは、各内部点i(x_i,y_i)が移動対象点として選択され、その選択された移動対象点が樹冠中心ベクトルにより移動された後、移動先の最近傍内部点j(x_j,y_j)が探索されて次の移動の対象点とされる。こうして、全ての内部点i(x_i,y_i)について、移動対象点の選択と移動とが繰り返される。なお、樹冠中心点の周辺では、内部点i(x_i,y_i)の樹冠中心ベクトルの方向のばらつきが大きいことから、これが繰り返しを終了する条件とされている。
【0069】
このようにして、移動された内部点i(x_i,y_i)は、例えば
図18に示すように、DBSCANアルゴリズムなどによりクラスタリングされて、各クラスタの平均位置が樹冠中心点(0,1,2,3,4)とされる(ステップS63)。
【0070】
樹冠中心点が決定されると、今度は、先に説明したように内部点i(x_1,y_1)の場合と同様にして、樹冠縁部点がPoint Gatheringにより集められる(ステップS64)。
【0071】
そして、移動された樹冠縁部点の最近傍内部点j(x_j,y_j)が探索されて、その距離が算出される。
【0072】
こうして、算出された距離が、例えば予め格納された閾値以内であれば、移動された樹冠縁部点は有効な樹冠縁部点とされ、その最近傍内部点j(x_j,y_j)の属するクラスタへと帰属される。なお、無効な樹冠縁部点はノイズとして破棄される。
【0073】
このように、最終的にはグルーピングによってクラスタ毎に植生点群データの凸包を算出することにより(ステップS65)、例えば
図19に示すように、樹冠ポリゴンの作成が個別に可能とされる(ステップS66)。
【0074】
なお、樹冠ポリゴン形成部37にて形成された樹冠ポリゴンは、例えば記憶装置4に記憶されるようにしても良い。
【0075】
また、各工程において、取得される各種の点群データの記憶装置4の点群データ記憶部41への格納を省略し、連続した一連の処理とすることも可能である。
【0076】
具体例
次に、本実施形態に係る樹冠抽出装置1の具体例について説明する。
【0077】
図20は、高速道路などの道路わきに植栽された広葉樹の生育域を計測対象とし、樹冠抽出装置1を用いて自動抽出された樹冠ポリゴン51と、現地調査(目視)に基づいて作成された樹冠ポリゴン52と、を対比させるようにした、出力装置5の出力例である。
【0078】
図20に示すように、例えば、複数本の樹木が列状に植栽された場所においては、現地調査された樹冠ポリゴン52と比較しても、自動抽出された樹冠ポリゴン51によって、より多くの樹木の樹冠範囲を単木として正確に抽出できていることが分かる。
【0079】
即ち、たとえ計測対象の樹木が広葉樹であったとしても、樹木毎に樹冠範囲を精度よく抽出できるようになる。
【0080】
特に、一部の生育域において、複数本の樹木の樹冠範囲を単木の樹冠範囲として誤って抽出している個所も見受けられるものの、植生分類や樹冠縁部の分類点群データと樹冠中心ベクトルとの予測などに深層学習モデルを用いるようにしているため、学習データの質を高めるなど、学習を積み重ねることによって、より一層の精度の向上が期待できる。
【0081】
したがって、道路わきや線路わきなどでの樹木を管理する場合において、例えば、道路上や線路上にはみ出しそうな巨木や倒木などのリスクのある樹木を特定するのに極めて有用となる。
【0082】
上記したように、本実施形態によれば、樹冠範囲が針葉樹よりも複雑な広葉樹であっても、樹冠の範囲を高精度に自動抽出でき、樹木の管理などに用いて好適な樹冠抽出装置および樹冠抽出方法を提供できる。
【0083】
即ち、航空レーザ計測による生データ(航空レーザ計測データ)の3次元座標化による航空レーザ点群データに基づいて、樹木の生育域内から広葉樹の樹冠範囲を抽出する樹冠抽出装置において、広葉樹の樹冠範囲をより正確に抽出できるようになる。これにより、たとえ広葉樹であっても、樹木を単木毎に効率よく自動抽出することが可能となる。したがって、道路わきや線路わきなどの樹木を管理する場合において、特に、多くの樹木の中から特定の広葉樹の樹冠範囲を抽出するのに極めて有用となり、リスク木などの合理的な管理が容易となる。
【0084】
なお、複数本の樹木が列状に植栽された箇所を樹木の抽出対象とする場合に限らず、例えば、複数の樹木が面状に植栽された箇所や自然育成する箇所などを樹木の抽出対象とする場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0085】
1 樹冠抽出装置
2 入力装置
3 演算処理装置
4 記憶装置
5 出力装置
6 飛行体
31 DEM点群データ作成部(生成部)
32 DSM点群データ作成部(生成部)
33 植生分類部(分類部)
34 地面高データ変換部(変換部)
35 サーフェス点群データ作成部(作成部)
36 樹冠縁部・中心ベクトル予測部(予測部)
37 樹冠ポリゴン形成部(形成部)
41 点群データ記憶部
42 プログラム記憶部
51 自動抽出された樹冠ポリゴン
52 現地調査された樹冠ポリゴン