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特開2024-57345慣性錘及び慣性錘を有する動力伝達装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057345
(43)【公開日】2024-04-24
(54)【発明の名称】慣性錘及び慣性錘を有する動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 33/02 20060101AFI20240417BHJP
   H02K 7/02 20060101ALI20240417BHJP
   B62M 1/10 20100101ALI20240417BHJP
【FI】
F16H33/02 A
H02K7/02
B62M1/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164020
(22)【出願日】2022-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】522060021
【氏名又は名称】日本電動株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】福田 貴志
(72)【発明者】
【氏名】橘 貞一郎
(72)【発明者】
【氏名】横山 修一
(72)【発明者】
【氏名】一柳 健
【テーマコード(参考)】
5H607
【Fターム(参考)】
5H607AA12
5H607BB01
5H607CC03
5H607CC05
5H607DD03
5H607EE02
5H607EE41
(57)【要約】
【課題】電動二輪車の快適性やエネルギ効率を改善するための慣性錘、及び該慣性錘を有する動力伝達装置を提供することと、回動軸の回動を持続させることで、容易にクラッチを接続可能にするための慣性錘を有する動力伝達装置を提供することを目的とする。
【解決手段】上記課題を解決する本願発明は、電動モータ1と、クラッチ2と、慣性錘3と、取付シャフト4と、を備え、二輪車Bに組み込まれる動力伝達装置Xであって、慣性錘3は、取付シャフト4の半径方向に張り出すように設けられ、取付シャフト4は、慣性錘3を取付ける取付部41を有し、さらに中心軸が二輪車の進行方向に対して垂直に設けられる動力伝達装置である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと、クラッチと、慣性錘と、取付シャフトと、を備え、二輪車に組み込まれる動力伝達装置であって、
前記慣性錘は、前記取付シャフトの半径方向に張り出すように設けられ、
前記取付シャフトは、前記慣性錘を取付ける取付部を有し、さらに中心軸が前記二輪車の進行方向に対して垂直に設けられる動力伝達装置。
【請求項2】
前記取付シャフトは、前記電動モータと、前記クラッチを接続する、
請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記慣性錘は、前記取付シャフトに着脱可能に設けられる、
請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記慣性錘は、円盤状であって、
前記慣性錘の半径は、所定の位置にある前記取付部の中心軸から、前記動力伝達装置の全体を覆うハウジングの内壁までの距離と略同じ長さである、
請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記慣性錘は、外縁部に質量を集中させるリブを有する、
請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項6】
前記慣性錘は、前記電動モータ、及び/又は前記クラッチに近接する位置に設けられる、
請求項1から5のいずれかに記載の動力伝達装置。
【請求項7】
電動モータと、クラッチと、慣性錘と、取付シャフトと、を備え、二輪車に組み込まれる動力伝達装置の製造方法あって、
前記取付シャフトの端部を前記電動モータに取り付ける工程を含み、
前記慣性錘は、前記取付シャフトの半径方向に張り出すように設けられ、
前記取付シャフトは、前記慣性錘を取付ける取付部を有し、さらに中心軸が前記二輪車の進行方向に対して垂直に設けられる動力伝達装置の製造方法。
【請求項8】
二輪車に組み込まれ、電動モータと、クラッチと、取付シャフトと、を備える動力伝達装置において、
前記取付シャフトの取付部に取り付けられ、半径方向に張り出すように設けられる慣性錘であって、
前記取付シャフトは、中心軸が前記二輪車の進行方向に対して垂直方向に設けられる慣性錘。
【請求項9】
請求項8に記載の慣性錘が設けられた電動モータ。
【請求項10】
請求項1に記載の動力伝達装置が設けられた電動二輪車。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータ駆動車の惰性走行距離を延長する慣性錘と、該慣性錘を有する動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、道路用車両において、環境への配慮から電気により走行する二輪車が増加している。このような電動二輪車では、乗用車以上に限られた空間の中で電動モータからの動力を適切に伝達し、乗車時の快適性を高める設計が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-38184
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、電動モータのシャフトが直接減速機構に接続され、そのまま動力が後輪に伝わる動力伝達装置の構成が記載されている。
一方、このような動力伝達装置で電動モータを止めると、モータ回転子がモータ内部の磁石による磁力に引っ張られて回動角速度が急速に低下してしまう。これにより、乗車時の快適性やエネルギ効率を悪化させてしまう課題があった。
【0005】
また、一度得た回動を維持できないことは、特に遠心クラッチを使用する二輪車を一時停止する機会の多い街乗りで使用することを想定した場合には不便が多い。すなわち、遠心クラッチを繋ぐため、発車のたびに止まった電動モータを所定の速度まで動作させなければならず、シャフトとクラッチの作動ラグが生じ、乗車時の快適性やエネルギ効率を悪化させる課題があった。
【0006】
特に、二輪車に使用される湿式多板クラッチは、停止時に回動が急に止まってしまうと、エンジンオイルの粘性が出力側の回動を止める抵抗としてはたらくことがある。その後、切れたクラッチの再接続を試みると大きなトルクを入力する必要が生じるため、それを防ぐべくクラッチ入力側の回動を維持する仕組みがあることが好ましい。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑み、取り扱いが容易で、電動二輪車乗車時の快適性や操作性、エネルギ効率を改善するための動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本願発明は、電動モータと、クラッチと、慣性錘と、取付シャフトと、を備え、二輪車に組み込まれる動力伝達装置であって、慣性錘は、取付シャフトの半径方向に張り出すように設けられ、取付シャフトは、慣性錘を取付ける取付部を有し、さらに中心軸が二輪車の進行方向に対して垂直に設けられる。
このような構成によって、電動モータからのトルク入力が失われた後でも、慣性を利用して取付シャフトを長時間回動させ続けることができるため、快適性と操作性を向上させることができる。さらに、取り付けシャフトの中心軸が二輪車の進行方向に対して垂直に設けられるため、電動モータによる回動トルクの反力の影響が抑えられ車体のバランスがとりやすくなり操作性が向上する。
【0009】
本発明の好ましい形態では、取付シャフトは、電動モータと、クラッチを接続する。
このような構成によって、電動モータからのトルク入力が失われた後でも、慣性を利用してクラッチを入力側から長時間回動させ続け、クラッチが切れた後でも容易に再接続することができる。
【0010】
本発明の好ましい形態では、慣性錘は、取付シャフトに着脱可能に設けられる。
このような構成によって、既存の動力伝達装置に容易に慣性錘を取付け、また交換を容易にできる。
【0011】
本発明の好ましい形態では、慣性錘は、円盤状であって、慣性錘の半径は、所定の位置にある前記取付部の中心軸から、動力伝達装置の全体を覆うハウジングの内壁までの距離と略同じ長さである。
このような構成によって、慣性錘の慣性モーメントを大きくとることができ、慣性を利用した回動を長時間維持することができるため、操作性が向上する。
【0012】
本発明の好ましい形態では、慣性錘は、外縁部に質量を集中させるリブを有する。
このような構成によって、慣性錘の慣性モーメントを大きくとることができ、慣性を利用した回動を長時間維持することができるため、操作性が向上する。
【0013】
本発明の好ましい形態では、慣性錘は、電動モータ、及び/又はクラッチに近接する位置に設けられる。
このような構成によって、取付シャフトのたわみを抑え、取付シャフトの中心軸に対する慣性錘の偏心を抑えることができる。
【0014】
本発明の好ましい製造方法は、電動モータと、クラッチと、慣性錘と、取付シャフトと、を備え、取付シャフトの半径方向に張り出すように慣性錘を設け、取付シャフトは、慣性錘を取付ける取付部を有し、さらに中心軸が二輪車の進行方向に対して垂直に設けられる動力伝達装置の製造方法である。
このような製造方法によって、電動モータからのトルク入力が失われた後でも、慣性を利用して取付シャフトを長時間回動させ続ける動力伝達装置を容易に提供できる。
【0015】
上記課題を解決する本願発明は、二輪車に組み込まれる動力伝達装置に含まれる慣性錘であって、動力伝達装置は、電動モータと、クラッチと、取付シャフトと、を備え、取付シャフトは、慣性錘を取付ける取付部を有し、さらに中心軸が二輪車の進行方向に対して垂直方向に設けられ、取付シャフトの半径方向に張り出すように設けられる。
このような構成によって、電動モータからのトルク入力が失われた後でも、慣性を利用して取付シャフトを長時間回動させ続けることができる。
【0016】
本発明の好ましい形態では、回転子に接続されたモータシャフトを備え、慣性錘が取付けられた取付シャフトと、モータシャフトと、が直接接続される電動モータである。
このような構成によって、電動モータからのトルク入力が失われた後でも、道路用二輪車を惰性で長く走らせることができる。
【0017】
本発明の好ましい形態では、慣性錘が取付けられた取付シャフトと、クラッチを介して接続される、電動モータである。
このような構成によって、電動モータからのトルク入力が失われた後でも、道路用二輪車を惰性で長く走らせることができる。
【発明の効果】
【0018】
上記課題を解決する本発明は、電動二輪車の快適性やエネルギ効率を改善するための慣性錘、及び該慣性錘を有する動力伝達装置を提供し、また回動軸の回動を持続させることで、容易にクラッチを接続可能にするための慣性錘を有する動力伝達装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第一の実施形態に係る、動力伝達装置の断面模式図である。
図2】本発明の第一の実施形態に係る、動力伝達装置のうちの、一部の部品の組立を示す斜視図である。
図3】本発明の第一の実施形態に係る、慣性錘の正面図である。
図4】本発明の第一の実施形態に係る、慣性錘のA-A´における断面図である。
図5】本発明の第一の実施形態に係る、慣性錘の正面図である。
図6】本発明の第一の実施形態に係る、慣性錘のB-B´における断面図である。
図7】本発明の第一の実施形態に係る、慣性錘に含まれる可動錘のC-C´における断面図である。
図8】本発明の第一の実施形態に係る、動力伝達装置が取り付けられている二輪車の模式図である。
図9】本発明の第二の実施形態に係る、動力伝達装置の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を用いて、本発明の第一の実施形態に係る動力伝達装置、及び慣性錘について説明する。なお、以下に示す実施形態は本発明の一例であり、本発明を以下の実施形態に限定するものではない。
【0021】
≪第一の実施形態≫
図1は、道路用二輪車Bにおける電動モータ1から、後輪につながる出力ギア8までを有する動力伝達装置Xの断面模式図である。ただし、電動モータ1とクラッチ2のクラッチ本体部21は本発明の本質ではないため説明を省略している。動力伝達装置Xは、電動モータ1を走行の動力源として備え、電動モータ1からの動力が入力されるクラッチ2と、慣性錘3と、慣性錘3を取付ける取付シャフト4と、回動して動力を伝達する伝達シャフト5と、変速ギア6と、を備え、それらをハウジング7に収める。変速ギア6のうち最後のギアと出力ギア8は、チェーンで動力を伝達することが想定されるが、他の構成としてもよい。
【0022】
電動モータ1は、回転子と、回転子に直接接続されるモータシャフト11を備える一般的なコイルモータが想定されるが、回動するモータシャフト11が出力側にあれば他の形態を用いてもよい。電動モータ1は、動力伝達装置Xの動力源として、モータシャフト11と、取付シャフト4又は伝達シャフト5の何れかと、ジョイント12を介して接続される。
【0023】
また、電動モータ1と、その直後に来るシャフトとは、巻き掛け式伝動装置で接続してもよい。ここにおいて巻き掛け式伝動装置には、スプロケットとチェーン、Vベルトとプーリー、CVT(無段変速機構)による接続等が含まれる。このような構成によって、電動モータ1はハウジング7に対して張り出さない設計として、走行時の下半身の快適性、安定性を向上させることができる。
【0024】
ジョイント12は、ワンウェイクラッチやラチェット機構など回転の方向を一方向に限定する機構を備えることが好ましく、これにより電動モータ1が停止することで発生する回転を停止させる方向のトルクによって、後述する慣性錘3の回転運動が阻害されず、回転の持続時間が長くなる。この場合、動力伝達装置には、バックギアが搭載されることが好ましい。
【0025】
クラッチ2は、クラッチ本体部21と、入力軸22と、出力軸23を備え、電動モータ1からの動力を伝達、遮断する一般的なクラッチであり、本実施形態においては湿式多板式の遠心式クラッチを用いることを想定しているが、乾式、単板式など、他の形態を用いてもよい。また、クラッチ2の入力軸22と出力軸23とは、クラッチ本体部21に対して同じ側にあっても、反対側にあってもよい。同じ側にある場合は、入力軸22が内側、出力軸23が外側にある構成が好ましい。
【0026】
クラッチ2は、手動で操作できるマニュアルクラッチとしてもよい。このような構成によっても、遠心式クラッチとしたものと同様に、シャフトとクラッチの作動ラグを低減し、快適性を向上させることができる。また、クラッチの再接続し易さと合わせて、二輪車Bの操作性を向上することができる。
【0027】
慣性錘3は、取付シャフト4に着脱可能に取付けられ、取付シャフト4の半径方向に張り出すように円盤状に広がる部材である。慣性錘3は、重心周りに取付シャフト4を挿通するための円形の挿通部31及び挿通孔32を、円盤の厚み方向を貫通するように有し、重心が取付シャフト4上となる構成とする。好ましくは、慣性錘3の重心が取付シャフト4の中心軸上となる構成であるが、実際の取付けにキー及びキー溝などを用いてもよい。
【0028】
また、慣性錘3は、取付シャフト4に固定され、取付シャフト4と一緒に回動する。好ましくは、取付シャフト4の半径方向外側に張り出す薄板部33と、薄板部33から厚み方向に張り出すリブ34を設け、重心から離れた位置に質量を集中させてある。さらに好ましくは、リブ34の回動軸方向の厚みは、挿通部31における回動軸方向の厚みよりも厚い構成である。このような構成によって、慣性錘3の慣性モーメントを可能な限り大きくし、慣性による取付シャフト4の回動をより長時間保ち、回動の持続によって、クラッチ2を繋ぎやすくする。
【0029】
リブ34は、本実施形態においては慣性錘3と同じ径を有するドーナツ状の部材であって慣性錘3に貼り付けて設けている。一方、リブ34は、慣性錘3の重心が取付シャフト4上にあり、さらに慣性錘3が回動した際に偏心が発生しないように挿通孔32に点対称になるように設けられていれば、鉛や鉄などの高密度の部材を取り付けたものであってもよい。
【0030】
取付シャフト4は、電動モータ1からの動力を伝達する中実又は中空の円柱形の部材であり、図1に示すように、電動モータ1とクラッチ2とを直接接続し、水平かつ、動力伝達装置Xが組み込まれる二輪車Bの進行方向に対し中心軸が垂直になるように設ける。このような構成によって、電動モータ1によるトルクの反力がローリングに影響しないほか、動力伝達装置Xが既製品からの改造である場合にも、ハウジング7に手を加えず、慣性錘3を取付ける空間を広くとりやすくなる。また、取付シャフト4は、中心軸が一直線で、中央付近の軸径が最大となる段付き円柱の部材でもよい。
なお、図1、8に示す通り、ここにいう進行方向とは後輪の回転によって二輪車Bが進行する向きである。本実施形態において取付シャフト4は、後輪の車輪軸B1と平行になるように設けられており、さらにモータシャフト11、伝達シャフト5とも平行になるように設けられている。
【0031】
慣性錘3の半径は、取付シャフト4の長さ方向に垂直かつ取付部41を含む平面において、取付シャフト4の中心軸からハウジング7の内壁若しくは隣接する伝達シャフト5までのいずれか近い方までの距離と略同じ長さとし、慣性錘3を周囲に干渉しない最大の大きさにする。また、慣性錘3の厚みも同様に、周囲に干渉しない最大の大きさとすることが好ましい。このような構成によって、慣性錘3の慣性モーメントを可能な限り大きくし、慣性による取付シャフト4の回動を長時間保つことができる。
特に原動機のハウジングを改造して、動力伝達装置Xを得ることを想定した場合にあっては、もとのクランクシャフトの径と略同一の径で、同一の位置に設けることが好ましい。
【0032】
取付シャフト4は、慣性錘3を取付ける取付部41を有する。慣性錘3を取付ける構成としては、キー溝を設けてキーを介する構成や、割りピン、Oリングなどを用いる構成があるが、これらに限定されるものではない。図2に示すように、取付部41は、取付シャフト4の両端部よりも軸径が太いことが好ましい。このような構成によって、慣性錘3から加わるねじりモーメントに対する取付部41周辺の耐久性を高くできる。また、元々はクランクを接続するために中央部の軸径が太くなっているシャフトを取付シャフト4に流用してもよい。また、取付部41より軸径が細く、かつ両端部よりも軸径が太い副段付部44を有していてもよい。このような構成によって、取付部41とそれ以外の部分との軸径が大きく異なるがゆえに生じるねじり剛性の差や、慣性錘3から取付シャフト4に加わるねじりモーメントに対する耐久性を向上させることができる。
【0033】
取付シャフト4が、電動モータ1と、クラッチ2とを直接接続するとき、取付部41は、電動モータ1又はクラッチ2の少なくとも何れか一方に近接するように設けられ、そこに慣性錘3を取付ける構成としてもよい。特に、取付シャフト4の軸径が一定である場合は、取付部41を、電動モータ1又はクラッチ2の少なくとも一方に近接するように設け、そこに慣性錘3を取付ける。このような構成によって、慣性錘3の重量による取付シャフト4のたわみを抑え、重心位置の偏心による回動の斑を抑えることができる。
【0034】
図2は、取付シャフト4が電動モータ1と、クラッチ2とを直接接続するときの各部品の組立て図である。取付シャフト4のモータ側端部42は、ジョイント12を介してモータシャフト11に固定するか、電動モータ1の回転子に直接接続してもよい。クラッチ側端部43は、クラッチ2の入力軸22に固定するか、クラッチ2の入力軸22としてクラッチ本体部21に直接接続してもよい。
【0035】
図2に示すように、取付シャフト4が電動モータ1と、クラッチ2とを直接接続し、かつクラッチ2の入力軸22としてクラッチ本体部21に直接接続されるとき、出力軸23の内径は、クラッチ側端部43の軸径よりも大きい構成であり、出力軸23の軸方向長さは、副段付部44などの段差に当たらない長さである。
【0036】
図5に示すように、慣性錘3は、一部に可動機構を備えた可変慣性モーメントの構成としてもよい。慣性錘3の半径方向に直線状の摺動溝36を設け、そこに摺動可能に取付けられた可動錘35が、ばね37又はリンク機構で慣性錘3の中心軸側に接続される構成が考えられるが、他の構成にしてもよい。このような構成によって、慣性錘3が回動していないときは可動錘35が慣性錘3の中心軸付近にあり、起動加速時の回動が速くなるほか、慣性錘3が回動しているときは、可動錘35が遠心力で中心軸から遠い位置に移動し、慣性錘3の慣性モーメントが増加して、より大きい慣性力を得て回動することができる。また、好ましくは、可動錘35の、慣性錘3の半径方向に向く面に、挿通部31又はリブ34の曲面に合わせた丸みを設ける構成である。このような構成によって、可動錘35の可動距離を長くとれ、慣性錘3全体での慣性モーメントの変化を大きくすることができる。可動錘35の可動範囲は、図5に示すように、薄板部33に収めてもよいが、リブ34を削り、慣性錘3の外周部まで可動範囲としてもよい。
【0037】
図5に示す慣性錘3の構成では、可動錘35は、摺動溝36を挟んで対称の形状とし、円盤の厚み方向に質量の偏りが出ない形状とする。図6に示すように、摺動溝36を貫通する形状であり、実際は、複数の部品を摺動溝36内で接続し、図7に示す形状で薄板部33を挟むような構成とする。なお、図6では、ばね37は便宜上断面表示を省略している。
【0038】
図7に示すように、可動錘35は、摺動溝36に入るガイド351を有し、慣性錘3の半径方向に見たときに工の字型である形状を有し、薄板部33の面方向に対して線対称の部材である。また、薄板部33との接触面積を減らすため、突出部352を設ける。なお、摺動溝36から外れない形状であれば、他の形状を有してもよい。
【0039】
また、可動錘35は、ボルト孔や、可動錘35を篏合可能な溝を設けるなどの手段によって、使用状況に合わせ可動錘35を慣性錘3に固定できる構成としてもよい。例えば、慣性錘3の径方向に向けて設けられる長穴に可動錘35を貫入し、長孔の任意の位置においてねじ止め等によって固定できるような構成とする。
【0040】
以下、図1を用いて、本発明の第一の実施形態に係る実施の方法について詳述する。また、以下に示す実施の方法は一例であり、実施の方法はこれに限られず、順番は前後してもよい。なお、後述する第二の実施形態に係る実施の方法は、ここで述べる実施の方法と共通のため、説明を省略する。
【0041】
使用者は、図1に示す動力伝達装置Xが組み込まれる二輪車Bに乗り、電動モータ1を起動することで、ある程度(例えば1000rpm)の回転数からクラッチ2が繋がり、二輪車Bが走行を始める。その後、使用者が電動モータ1の入力を切っても、取付シャフト4、クラッチ2、伝達シャフト5、変速ギア6、出力ギア8が慣性で回動し続ける。このとき、慣性錘3が電動モータ1の急速な回転数低下を抑え、慣性での回動を続けることで、二輪車Bのスムーズな速度変更をすることができる。
【0042】
二輪車Bの惰性走行後、使用者が二輪車Bを一時的に停止させるとき、慣性錘3が回動し続けていれば、クラッチ2が切れても、ある程度の時間回動を続けた状態でアイドル状態となる。その後、使用者が二輪車Bを再発進させるとき、容易にクラッチ2を繋ぎ直して起動加速を行えるため、電動モータ1の起動に用いる電力を抑えて加速することができる。
【0043】
以下、図面を用いて、本発明の第一の実施形態に係る製造方法について詳述する。製造は、動力伝達装置を製造する目的を持つ製造者によって行われる。なお、以下に示す製造方法は一例であり、製造方法はこれに限られず、順番は前後してもよい。
【0044】
本発明の製造方法が、原動機の動力伝達装置からの改造である場合、当該装置のシャフトには、一般的にシリンダー乃至クランクが設けられている。
まず、製造者は、エンジンを電動モータ1に交換する。すなわち、製造者は、原動機と当該装置のシャフトを取り外し、新たに電動モータ1及び取付シャフト4を取り付ける。このとき、シリンダー乃至クランクが接続されていた箇所に取付部41が配置され、図2に示すような位置関係とするのが好ましい。このような製造方法によって、発電機の回転子が設けられていた空間を再利用でき、効果の高い本発明を容易に製造することができる。また、発電機の回転子が設けられていた空間に取付部41を配置し慣性錘3を取付けてもよいが、取り付け位置は適宜設計変更してよい。慣性錘3と取付部41との固定の方法は、特に限定されない。
【0045】
次に製造者は、慣性錘3が付いた取付シャフト4を、一方の端部を電動モータ1に、他方の端部をクラッチ2に取付けて固定する。固定の方法は、特に限定されない。
【0046】
最後に製造者は、図1に示すように、クラッチの出力軸23に、変速ギア6を取付け、他の動力伝達部品と接続して、ハウジング7に収める。このとき、電動モータ1はハウジング7の外にある構成が好ましい。
【0047】
一方、動力伝達装置Xをすべて新しく製造する場合、図2に示すように、取付シャフト4が電動モータ1と、クラッチ2とを直接接続する実施形態とする場合、まず慣性錘3の挿通孔32に取付シャフト4を挿通し、所定の位置にある取付部41に固定する。
【0048】
本発明における慣性錘3と取付部41について、慣性錘3の位置、大きさ、及び形状を、慣性モーメントが最大となるように決定し、それによって取付部41の位置を決定し、前述のように組み立てることとしてよい。
【0049】
以下、本発明の第二の実施形態に係る動力伝達装置、及び慣性錘について説明する。なお、以下に示す各実施形態は本発明の一例であり、本発明を以下の実施形態に限定するものではない。また、第一の実施形態と共通の部分は、符号を共通化し、説明を省略する。
【0050】
≪第二の実施形態≫
図9は、クラッチ2の出力軸23に慣性錘3を取付ける動力伝達装置Xの断面模式図である。但し、図1と同様、電動モータ1とクラッチ本体部21は本発明の本質ではないため、説明を省略している。このとき、クラッチの出力軸23が取付シャフト4と同じ役割を有することになり、それ以外のハウジング7内の回動軸はすべて伝達シャフト5となる。
【0051】
本実施形態において、電動モータ1は、伝達シャフト5を介してクラッチ2の入力軸22と接続され、クラッチ2を介した先の出力軸23に慣性錘3が設けられる構成となる。このとき、クラッチ2が切れても、出力軸23は慣性錘3の慣性力によって回動し続け、クラッチ2が切れた場合でも、出力軸23が回動し続ける時間を長く保つため、クラッチ2を再接続しやすくすることができる。
【0052】
出力軸23は、第一の実施形態における取付部41と同様の取付部を有し、そこに慣性錘3を取付ける。好ましくは、慣性錘3を、クラッチ本体部21と可能な限り近接する位置に設ける構成である。さらに好ましくは、慣性錘3を、クラッチ本体部21と、出力軸23に取付けられた変速ギア6と、の間に設ける構成である。このような構成によって、慣性錘3を可能な限りクラッチ本体部21に近づけ、出力軸23のたわみを抑えるため、回動時の重心の偏心を抑え、入力軸22と出力軸23がクラッチ本体部21に対して同じ側にあっても、相互の干渉を容易に回避することができる。
【0053】
出力軸23は、既存のクラッチ2の出力側の軸を、ジョイント等を介して延長用の軸と繋ぐ構成とし、そのアセンブリを出力軸23として扱ってもよい。このような構成によって、取付部を設けた延長用の軸を既存のクラッチ2に追加するだけで、容易に慣性錘3を取付けることができる。
【0054】
出力軸23の取付部は、軸径を太くすることが好ましい。このような構成によって、慣性錘3から加わるトルクに耐えるねじり剛性を大きくとることができる。
【0055】
入力軸22と、出力軸23とは、クラッチ本体部21に対して同じ側にあっても、互いに反対側にあってもよい。同じ側にある場合は、入力軸22が内側、出力軸23が外側の、同心軸である構成が好ましい。このような構成によって、慣性錘3を取付けられる位置を広くとることができる。
【0056】
以下、図面を用いて、本発明第二の実施形態に係る製造方法について詳述する。なお、以下に示す製造方法は一例であり、製造方法はこれに限られず、順番は前後してもよい。
【0057】
本実施形態の製造においては、まず、クラッチ2の出力軸23に、慣性錘3を取付け、固定する。固定の方法は、特に限定されない。出力軸23は、その先に動力を伝達するための変速ギア6も取付けるが、慣性錘3との位置関係は、特に限定されない。
【0058】
次に、電動モータ1と、クラッチ2の入力軸22とを、伝達シャフト5の両端にそれぞれ接続し、固定する。各端部の固定の方法は、特に限定されない。また、伝達シャフト5は、電動モータ1の回転子に直接固定してもよく、ジョイント12を介して接続してもよい。また、クラッチ2側では、クラッチジョイント24を介してクラッチ2の入力軸22に固定してもよく、クラッチ本体部21に直接固定してもよい。
【符号の説明】
【0059】
X 動力伝達装置
1 電動モータ
11 モータシャフト
12 ジョイント
2 クラッチ
21 クラッチ本体部
22 入力軸
23 出力軸
24 クラッチジョイント
3 慣性錘
31 挿通部
32 挿通孔
33 薄板部
34 リブ
35 可動錘
351 ガイド
352 突出部
36 摺動溝
37 ばね
4 取付シャフト
41 取付部
42 モータ側端部
43 クラッチ側端部
44 副段付部
5 伝達シャフト
6 変速ギア
7 ハウジング
8 出力ギア
B 二輪車
B1 車輪軸

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9