IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 筑波大学の特許一覧

特開2024-57359三次電池用電極、三次電池、三次電池用電極の製造方法
<>
  • 特開-三次電池用電極、三次電池、三次電池用電極の製造方法 図1
  • 特開-三次電池用電極、三次電池、三次電池用電極の製造方法 図2
  • 特開-三次電池用電極、三次電池、三次電池用電極の製造方法 図3
  • 特開-三次電池用電極、三次電池、三次電池用電極の製造方法 図4
  • 特開-三次電池用電極、三次電池、三次電池用電極の製造方法 図5
  • 特開-三次電池用電極、三次電池、三次電池用電極の製造方法 図6
  • 特開-三次電池用電極、三次電池、三次電池用電極の製造方法 図7
  • 特開-三次電池用電極、三次電池、三次電池用電極の製造方法 図8
  • 特開-三次電池用電極、三次電池、三次電池用電極の製造方法 図9
  • 特開-三次電池用電極、三次電池、三次電池用電極の製造方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057359
(43)【公開日】2024-04-24
(54)【発明の名称】三次電池用電極、三次電池、三次電池用電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20240417BHJP
   H01M 10/36 20100101ALI20240417BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20240417BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M10/36 Z
H01M4/02 A
H01M4/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164049
(22)【出願日】2022-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】守友 浩
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AL01
5H029AM07
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029CJ12
5H029CJ13
5H029CJ14
5H029CJ22
5H029HJ02
5H050AA19
5H050BA15
5H050CA01
5H050CB01
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA12
5H050GA13
5H050GA14
5H050GA22
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】二次電池と同様の製造プロセスで製造可能な三次電池用電極、三次電池、および三次電池用電極の製造方法を提供する。
【解決手段】電極板2と、前記電極板2上に存在する第1の電極合剤層3と、を有し、前記第1の電極合剤層3は、第1の電極材料を含み、前記第1の電極材料は、部分酸化状態のプルシアンブルー類似体を含む、三次電池用電極1。完還元状態のプルシアンブルー類似体を部分酸化して、部分酸化状態のプルシアンブルー類似体とする第1の工程と、電極板上に前記部分酸化状態のプルシアンブルー類似体を含む電極用組成物を塗布して塗膜を形成し、前記塗膜を乾燥して、前記電極板上に前記部分酸化状態のプルシアンブルー類似体を含む電極合剤層を形成する第2の工程と、を有する、三次電池用電極の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極板と、前記電極板上に存在する第1の電極合剤層と、を有し、
前記第1の電極合剤層は、第1の電極材料を含み、
前記第1の電極材料は、部分酸化状態のプルシアンブルー類似体を含み、
前記部分酸化状態のプルシアンブルー類似体は、下記一般式(1)で表され、FeまたはMが2価より大きく、三次電池用電極。
NaM[Fe(CN)(M=Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Cd) (1)
【請求項2】
第1の電極と第2の電極が、単一の電解質を介して対向してなり、
前記第1の電極は、請求項1に記載の三次電池用電極であり、
前記第2の電極は、電極板と、前記電極板上に存在する第2の電極合剤層と、を有し、
前記第2の電極合剤層は、第2の電極材料を含み、
前記第2の電極材料は、部分酸化状態のプルシアンブルー類似体または完還元状態のプルシアンブルー類似体を含み、
前記部分酸化状態のプルシアンブルー類似体は、下記一般式(1)で表され、FeまたはMが2価より大きく、
前記完還元状態のプルシアンブルー類似体は、下記一般式(2)で表される、三次電池。
NaM[Fe(CN)(M=Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Cd) (1)
Na4y-2M[Fe(CN)(M=Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Cd;0.67<y<1.00) (2)
【請求項3】
完還元状態のプルシアンブルー類似体を部分酸化して、部分酸化状態のプルシアンブルー類似体とする第1の工程と、
電極板上に前記部分酸化状態のプルシアンブルー類似体を含む電極用組成物を塗布して塗膜を形成し、前記塗膜を乾燥して、前記電極板上に前記部分酸化状態のプルシアンブルー類似体を含む電極合剤層を形成する第2の工程と、を有し、
前記部分酸化状態のプルシアンブルー類似体は、下記一般式(1)で表され、FeまたはMが2価より大きく、
前記完還元状態のプルシアンブルー類似体は、下記一般式(2)で表される、三次電池用電極の製造方法。
Na4y-2M[Fe(CN)(M=Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Cd;FeおよびMが2価;0.67<y<1.00) (1)
Na4y-2M[Fe(CN)(M=Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Cd;0.67<y<1.00) (2)
【請求項4】
前記第1の工程は、塩化ナトリウムと、遷移金属の塩化物、遷移金属の臭化物、および遷移金属の硝酸塩から選択される1種とを含む第1の溶液と、塩化ナトリウムと、フェロシアン化ナトリウムと、フェリシアン化カリウムまたはフェリシアン化ナトリウムとを含む第2の溶液とを混合し、その沈殿物をろ過回収して、前記部分酸化状態のプルシアンブルー類似体を得る工程である、請求項3に記載の三次電池用電極の製造方法。
【請求項5】
前記第1の工程は、完還元状態のプルシアンブルー類似体と酸化剤を混合し、前記部分酸化状態のプルシアンブルー類似体を得る工程である、請求項3に記載の三次電池用電極の製造方法。
【請求項6】
完還元状態のプルシアンブルー類似体と完酸化状態のプルシアンブルー類似体を混合し、その混合物を含む電極合剤層を電極板上に形成して電極とし、前記電極を電解液に浸漬して、前記電極合剤層に含まれる前記完還元状態のプルシアンブルー類似体と前記完酸化状態のプルシアンブルー類似体を、部分酸化状態のプルシアンブルー類似体に変換する、請求項3に記載の三次電池用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次電池用電極、三次電池、および三次電池用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
三次電池は、環境中の温度差を電気エネルギーに変換するエネルギーハーベスト技術の1つである。三次電池の性能(起電力と放電容量)を決定しているものは、電極材料の酸化還元電位の温度係数(α)と容量係数(β)である。具体的には、三次電池で発生する起電力は、ΔT×(α(正極)-α(負極))で表される。ここで、ΔTはデバイス温度の変化量、α(正極)は正極材料の温度係数、α(負極)は負極材料の温度係数である(例えば、特許文献1参照)。β(正極)は正極材料の容量係数であり、正極の部分酸化の度合いに大きく依存する。β(負極)は負極材料の容量係数であり、負極の部分酸化の度合いに大きく依存する。β(正極)とβ(負極)が小さいほど、放電容量は大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-73596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、三次電池の製造方法は、必須のプロセスとして、正極と負極の電位を揃え、また、放電容量を最大化するために、部分酸化プロセスを有する。部分酸化プロセスは、通常、電極を備える電池セル(半セル)を作製した後、前記電極を部分酸化するプロセスである。
【0005】
従来の三次電池の製造方法は、部分酸化プロセスを有するため、二次電池の製造方法よりも製造プロセスが1つ多くなる。三次電池を構成するプルシアンブルー類似体は水系電解質中で部分酸化を行うため、水系電解質によって金属電極が腐食する。そのため、高価なITO電極が用いられている。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、二次電池と同様の製造プロセスで製造可能な三次電池用電極、三次電池、および三次電池用電極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]電極板と、前記電極板上に存在する第1の電極合剤層と、を有し、
前記第1の電極合剤層は、第1の電極材料を含み、
前記第1の電極材料は、部分酸化状態のプルシアンブルー類似体を含み、
前記部分酸化状態のプルシアンブルー類似体は、下記一般式(1)で表され、FeまたはMが2価より大きく、三次電池用電極。
NaM[Fe(CN)(M=Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Cd) (1)
[2]第1の電極と第2の電極が、単一の電解質を介して対向してなり、
前記第1の電極は、請求項1に記載の三次電池用電極であり、
前記第2の電極は、電極板と、前記電極板上に存在する第2の電極合剤層と、を有し、
前記第2の電極合剤層は、第2の電極材料を含み、
前記第2の電極材料は、部分酸化状態のプルシアンブルー類似体または完還元状態のプルシアンブルー類似体を含み、
前記部分酸化状態のプルシアンブルー類似体は、下記一般式(1)で表され、FeまたはMが2価より大きく、
前記完還元状態のプルシアンブルー類似体は、下記一般式(2)で表される、三次電池。
NaM[Fe(CN)(M=Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Cd) (1)
Na4y-2M[Fe(CN)(M=Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Cd;0.67<y<1.00) (2)
[3]完還元状態のプルシアンブルー類似体を部分酸化して、部分酸化状態のプルシアンブルー類似体とする第1の工程と、
電極板上に前記部分酸化状態のプルシアンブルー類似体を含む電極用組成物を塗布して塗膜を形成し、前記塗膜を乾燥して、前記電極板上に前記部分酸化状態のプルシアンブルー類似体を含む電極合剤層を形成する第2の工程と、を有し、
前記部分酸化状態のプルシアンブルー類似体は、下記一般式(1)で表され、FeまたはMが2価より大きく、
前記完還元状態のプルシアンブルー類似体は、下記一般式(2)で表される、三次電池用電極の製造方法。
Na4y-2M[Fe(CN)(M=Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Cd;FeおよびMが2価;0.67<y<1.00) (1)
Na4y-2M[Fe(CN)(M=Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Cd;0.67<y<1.00) (2)
[4]前記第1の工程は、塩化ナトリウムと、遷移金属の塩化物、遷移金属の臭化物、および遷移金属の硝酸塩から選択される1種とを含む第1の溶液と、塩化ナトリウムと、フェロシアン化ナトリウムと、フェリシアン化カリウムまたはフェリシアン化ナトリウムとを含む第2の溶液とを混合し、その沈殿物をろ過回収して、前記部分酸化状態のプルシアンブルー類似体を得る工程である、[3]に記載の三次電池用電極の製造方法。
[5]前記第1の工程は、完還元状態のプルシアンブルー類似体と酸化剤を混合し、前記部分酸化状態のプルシアンブルー類似体を得る工程である、[3]に記載の三次電池用電極の製造方法。
[6]完還元状態のプルシアンブルー類似体と完酸化状態のプルシアンブルー類似体を混合し、その混合物を含む電極合剤層を電極板上に形成して電極とし、前記電極を電解液に浸漬して、前記電極合剤層に含まれる前記完還元状態のプルシアンブルー類似体と前記完酸化状態のプルシアンブルー類似体を、部分酸化状態のプルシアンブルー類似体に変換する、[3]に記載の三次電池用電極の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、二次電池と同様の製造プロセスで製造可能な三次電池用電極、三次電池、および三次電池用電極の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る三次電池用電極を示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る三次電池を示す断面図である。
図3】実験例1で得られた粉末とNa1.76Ni[Fe(CN)0.94粉末のX線回折パターンを示す図である。
図4】実験例1で得られた粉末を含む電極の起電力を測定した結果を示す図である。
図5】実験例2で得られた粉末を含む電極の起電力を測定した結果を示す図である。
図6】実験例3で得られた粉末を含む電極の起電力を測定した結果を示す図である。
図7】実験例4で得られた粉末を含む電極の起電力を測定した結果を示す図である。
図8】実験例5で得られた粉末を含む電極の起電力を測定した結果を示す図である。
図9】実験例6で得られた粉末を含む電極の起電力を測定した結果を示す図である。
図10】実験例7で得られた粉末を含む電極の起電力を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の三次電池用電極、三次電池、および三次電池用電極の製造方法の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0011】
[三次電池用電極]
以下、本発明の一実施形態に係る三次電池用電極について、図面を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る三次電池用電極を示す断面図である。
図1に示すように、本実施形態の三次電池用電極1は、電極板2と、電極板2上に存在する電極合剤層(第1の電極合剤層)3とを有する。
【0012】
電極合剤層3は、電極材料(第1の電極材料)を含む。
前記電極材料は、部分酸化状態のプルシアンブルー類似体を含む。
【0013】
電極板2は、特に限定されないが、例えば、金属電極等が挙げられる。
金属電極としては、例えば、銅、アルミニウム等から構成される電極が挙げられる。
【0014】
部分酸化状態のプルシアンブルー類似体は、下記一般式(1)で表され、下記一般式(1)においてFeまたはMが2価より大きい状態である。
NaM[Fe(CN)(M=Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Cd) (1)
【0015】
なお、完還元状態のプルシアンブルー類似体は、下記一般式(2)で表される。
Na4y-2M[Fe(CN)(M=Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Cd;0.67<y<1.00) (2)
【0016】
また、完酸化状態のプルシアンブルー類似体は、下記一般式(3)、下記一般式(4)、下記一般式(5)、または下記一般式(6)で表される。
Na3y-2M[Fe(CN)(M=Ni、Cu、Cd;0.67<y<0.80;Feが3価、Mが2価) (3)
M[Fe(CN)(M=Fe、Mn;0.67<y<1.00) (4)
M[Fe(CN)(M=Co;0.80<y<1.00) (5)
Na3y-2M[Fe(CN)(M=Co;0.67<y<0.80;Feが3価、Mが2価) (6)
【0017】
電極合剤層3は、部分酸化状態のプルシアンブルー類似体以外に、バインダー樹脂(結着剤)や導電助剤を含んでいてもよい。
バインダー樹脂として、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、フッ素ゴム等が挙げられる。
導電助剤としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック(AB)、ファーネスブラック、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0018】
本実施形態の三次電池用電極1によれば、電極合剤層3に含まれる電極材料が、部分酸化状態のプルシアンブルー類似体を含むため、従来、三次電池の製造において必要であった部分酸化の工程が不要となり、二次電池と同様の製造プロセスで製造可能である。
【0019】
[三次電池用電極の製造方法]
本発明の一実施形態に係る三次電池用電極の製造方法は、完還元状態のプルシアンブルー類似体を部分酸化して、部分酸化状態のプルシアンブルー類似体とする第1の工程と、電極板上に前記部分酸化状態のプルシアンブルー類似体を含む電極用組成物を塗布して塗膜を形成し、前記塗膜を乾燥して、前記電極板上に前記部分酸化状態のプルシアンブルー類似体を含む電極合剤層を形成する第2の工程と、を有する。
前記部分酸化状態のプルシアンブルー類似体は、上記一般式(1)で表され、上記一般式(1)においてFeまたはMが2価より大きい状態である。
前記完還元状態のプルシアンブルー類似体は、上記一般式(2)で表される。
【0020】
「第1の実施形態」
(第1の工程)
第1の実施形態の三次電池用電極の製造方法は、上記第1の工程が、塩化ナトリウムと、遷移金属の塩化物、遷移金属の臭化物、および遷移金属の硝酸塩から選択される1種とを含む第1の溶液と、塩化ナトリウムと、フェロシアン化ナトリウムと、フェリシアン化カリウムまたはフェリシアン化ナトリウムとを含む第2の溶液とを混合し、その沈殿物をろ過回収して、前記部分酸化状態のプルシアンブルー類似体を得る工程である。
【0021】
第1の溶液は、塩化ナトリウムと、遷移金属の塩化物、遷移金属の臭化物、および遷移金属の硝酸塩から選択される1種とを含む。
第1の溶液における塩化ナトリウムの濃度は、特に限定されないが、例えば、1mol/L~5mol/Lが好ましい。
第1の溶液における遷移金属の塩化物、遷移金属の臭化物、および遷移金属の硝酸塩から選択される1種の濃度は、特に限定されないが、例えば、5mmol/L~30mmol/Lが好ましい。
【0022】
第2の溶液は、塩化ナトリウムと、フェロシアン化ナトリウム(Na[Fe(CN)])と、フェリシアン化カリウム(K[Fe(CN)])またはフェリシアン化ナトリウム(Na[Fe(CN)])とを含む。
第2の溶液における塩化ナトリウムの濃度は、特に限定されないが、例えば、1mol/L~5mol/Lが好ましい。
第2の溶液におけるフェロシアン化ナトリウムの濃度は、特に限定されないが、例えば、5mmol/L~30mmol/Lが好ましい。
第2の溶液におけるフェリシアン化カリウムまたはフェリシアン化ナトリウムの濃度は、特に限定されないが、例えば、5mmol/L~30mmol/Lが好ましい。
第2の溶液におけるフェロシアン化ナトリウムと、フェリシアン化カリウムまたはフェリシアン化ナトリウムとの配合比は、特に限定されず、フェロシアン化ナトリウムを部分酸化する度合いに応じて適宜調整される。
フェリシアン化カリウムを原料に用いる場合は、第2の溶液中のカリウムイオンをナトリウムイオンに置換する必要がある。カリウムイオンをナトリウムイオンへ置換するには、例えば、第2の溶液中にNa3y-2Ni[Fe(CN)(0.67<y<1.00)微粉末を加え、充分に攪拌することにより行う。
【0023】
第1の溶液と第2の溶液とを混合すると、部分酸化されたプルシアンブルー類似体が沈殿物として得られる。沈殿物は、濾紙でろ過回収し、充分に洗浄し、乾燥する。
第1の溶液と第2の溶液とを混合する際の温度は、特に限定されないが、例えば、室温(25℃)~50℃である。
第1の溶液と第2の溶液とを混合した後、その混合液を保持する時間は、特に限定されないが、例えば、1時間~5時間である。
【0024】
(第2の工程)
第1の工程で得られた部分酸化されたプルシアンブルー類似体を、バインダー樹脂(結着剤)や導電助剤と混合してなる電極用組成物を、電極板上に塗布して塗膜を形成する。
次いで、上記塗膜を乾燥して、電極板上に部分酸化されたプルシアンブルー類似体を含む電極合剤層を形成する。
【0025】
「第2の実施形態」
(第1の工程)
第2の実施形態の三次電池用電極の製造方法は、上記第1の工程が、完還元状態のプルシアンブルー類似体と酸化剤を混合し、部分酸化状態のプルシアンブルー類似体を得る工程である。
【0026】
完還元状態のプルシアンブルー類似体は、上記一般式(2)で表される。
【0027】
酸化剤としては、完還元状態のプルシアンブルー類似体を酸化することができるものであれば、特に限定されないが、例えば、過マンガン酸カリウム(KMnO)等が挙げられる。
【0028】
完還元状態のプルシアンブルー類似体と酸化剤の配合比は、特に限定されず、完還元状態のプルシアンブルー類似体を部分酸化する度合いに応じて適宜調整される。
【0029】
完還元状態のプルシアンブルー類似体と酸化剤を混合するには、蒸留水に完還元状態のプルシアンブルー類似体を分散する。蒸留水に完還元状態のプルシアンブルー類似体を分散する場合、酸化剤の濃度は、特に限定されないが、例えば、酸化剤として過マンガン酸カリウムを用いる場合、完還元状態のプルシアンブルー類似体のモル数の0モル数超、1/3モル数以下とする。
【0030】
完還元状態のプルシアンブルー類似体と酸化剤とを含む蒸留水(分散液)を、例えば、室温(25℃)~50℃で、1時間~5時間保持する。
【0031】
上記分散液を、所定の温度で、所定の時間保持した後、上記分散液をろ過して、部分酸化状態のプルシアンブルー類似体を得る。
【0032】
(第2の工程)
第2の工程は、第1の実施形態と同様に行う。
【0033】
「第3の実施形態」
第3の実施形態の三次電池用電極の製造方法は、完還元状態のプルシアンブルー類似体と完酸化状態のプルシアンブルー類似体を混合し、その混合物を含む電極合剤層を電極板上に形成して電極とし、前記電極を電解液に浸漬して、前記電極合剤層に含まれる前記完還元状態のプルシアンブルー類似体と前記完酸化状態のプルシアンブルー類似体を、部分酸化状態のプルシアンブルー類似体に変換する。
第3の実施形態の三次電池用電極の製造方法は、上記の第1の工程と第2の工程を含む工程を経て、三次電池用電極を製造する方法である。
【0034】
完還元状態のプルシアンブルー類似体は、上記一般式(2)で表される。
【0035】
完酸化状態のプルシアンブルー類似体は、上記一般式(3)、上記一般式(4)、上記一般式(5)、または上記一般式(6)で表される。
【0036】
完還元状態のプルシアンブルー類似体と完酸化状態のプルシアンブルー類似体の配合比は、特に限定されず、完還元状態のプルシアンブルー類似体を部分酸化する度合いに応じて適宜調整される。
【0037】
第3の実施形態の三次電池用電極の製造方法では、完還元状態のプルシアンブルー類似体と完酸化状態のプルシアンブルー類似体を混合し、その混合物を、バインダー樹脂(結着剤)や導電助剤と混合してなる電極用組成物を、電極板上に塗布して塗膜を形成する。
次いで、上記塗膜を乾燥して、電極板上に部分酸化されたプルシアンブルー類似体を含む電極合剤層を形成する。
このようにして得られた電極を電解液に浸漬することにより、電気的接触を高めた電極内で、完還元状態のプルシアンブルー類似体と完酸化状態のプルシアンブルー類似体の間で、電子とナトリウムのやり取りを行い、完還元状態のプルシアンブルー類似体と完酸化状態のプルシアンブルー類似体を、部分酸化状態のプルシアンブルー類似体に変換する。
【0038】
本実施形態の三次電池用電極の製造方法によれば、電極合剤層を形成するための電極用組成物が、部分酸化状態のプルシアンブルー類似体を含むため、従来、三次電池の製造において必要であった部分酸化の工程が不要となり、二次電池と同様の製造プロセスで製造可能である。
【0039】
[三次電池]
図2は、本発明の一実施形態に係る三次電池を示す断面図である。図2において、図1と同一の構成について同一符号を付して、説明を省略する。
図2に示すように、本実施形態の三次電池10は、第1の電極11と、第2の電極12と、電解液13とを有する。
【0040】
第1の電極11は、上述の実施形態の三次電池用電極1である。
【0041】
第2の電極12は、電極板14と、電極板14上に存在する電極合剤層(第2の電極合剤層)15とを有する。
【0042】
電極合剤層15は、電極材料(第2の電極材料)を含む。
前記電極材料は、部分酸化状態のプルシアンブルー類似体または完還元状態のプルシアンブルー類似体を含む。
なお、第2の電極12の電極合剤層15が完還元状態のプルシアンブルー類似体を含む場合には、三次電池10を作製した後、第1の電極11と第2の電極12を、抵抗を介して短絡させて、電極合剤層15に含まれる完還元状態のプルシアンブルー類似体を部分酸化する。これにより、三次電池10が機能するようになる。
【0043】
電極板14は、電極板2と同様のものが用いられる。
【0044】
完還元状態のプルシアンブルー類似体としては、上記一般式(2)で表されるものが挙げられる。
【0045】
上記第2の電極材料は、部分酸化状態のプルシアンブルー類似体または完還元状態のプルシアンブルー類似体以外に、バインダー樹脂(結着剤)や導電助剤を含んでいてもよい。
【0046】
本実施形態の三次電池10によれば、素子全体の温度変化を利用して、熱エネルギーを電気エネルギーへ変換することが可能であり、かつ薄型化が可能である。
【実施例0047】
以下、実験例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0048】
[実験例1]
Na1.76Ni[Fe(CN)0.94粉末を過マンガンカリウムで部分酸化した。
Na1.76Ni[Fe(CN)0.94粉末120mgを、蒸留水10mlに分散させて、Na1.76Ni[Fe(CN)0.94粉末の分散液を調製した。
得られた分散液を50℃で1時間保持した。
上記分散液に、Na1.76Ni[Fe(CN)0.94のNiのモル数の1/3、1/6または1/12の過マンガン酸カリウムを加えて、1時間攪拌した。
その後、過マンガン酸カリウムを加えた分散液をろ過し、蒸留水で洗浄した後、ろ紙で粉末を回収した。
【0049】
「X線回折」
実験例1で得られた粉末(部分酸化した粉末)とNa1.76Ni[Fe(CN)0.94粉末のX線回折(XRD)を行った。
X線回折装置として、リガク社製のMiniFlex(商品名)を用いた。X線回折の結果を図3に示す。図3に示す結果から、Na1.76Ni[Fe(CN)0.94に過マンガン酸カリウムを加えて、Na1.76Ni[Fe(CN)0.94を部分酸化しても、Na1.76Ni[Fe(CN)0.94の骨格(結晶構造)が保持されていることが確認された。
【0050】
「粉末を含む電極の起電力の測定」
ITO電極板上に、Na1.76Ni[Fe(CN)0.94のNiのモル数の1/3の過マンガン酸カリウムを加えて得られた粉末と、ポリフッ化ビニリデン樹脂と、アセチレンブラックとを含む電極用組成物を塗布して塗膜を形成し、前記塗膜を乾燥して、電極板上に電極材料を含む電極合剤層を形成して、電極を得た。
Ag/AgCl標準電極を対極として、温度変化に対する上記電極の電極合剤層の起電力を測定した。
電解液としては、過塩素酸ナトリウム(NaClO)を17mol/kg含む水溶液を用いた。
測定温度を50℃とした。
結果を図4に示す。
図4に示す結果から、1回目の充電容量(赤線)に対する2回目の充電容量(青線)の比から、Na1.76Ni[Fe(CN)0.94の酸化の度合いが0.25であることが変わった。すなわち、Na1.76Ni[Fe(CN)0.94は、過マンガン酸カリウムで部分酸化されることが確認された。
【0051】
[実験例2]
塩化ナトリウムを4mol/Lと塩化コバルトを10mmol/L含む溶液A1を調製した。溶媒としては、蒸留水を用いた。
塩化ナトリウムを4mol/LとNa[Fe(CN)]を10mmol/L含む溶液B1を調製した。溶媒としては、蒸留水を用いた。
100mLの溶液A1と100mLの溶液B1を、35℃で混合し、その混合液を12時間保持した後、蒸留水で洗浄し、ろ過して、粉末を得た。
【0052】
「重金属元素比の測定」
実験例2で得られた粉末の重金属元素比を、エネルギー分散型X線分析装置(SEM-EDX)を用いて定量した。
エネルギー分散型X線分析装置として、日本電子社製のJST-IT2000(商品名)を用いた。結果を表1に示す。
【0053】
「粉末を含む電極の起電力の測定」
ITO電極板上に、実験例2で得られた粉末(Na1.49Co[Fe(CN)0.88)と、ポリフッ化ビニリデン樹脂と、アセチレンブラックとを含む電極用組成物を塗布して塗膜を形成し、前記塗膜を乾燥して、電極板上に電極材料を含む電極合剤層を形成して、電極を得た。
Ag/AgCl標準電極を対極として、温度変化に対する上記電極の電極合剤層の起電力を測定した。
電解液としては、過塩素酸ナトリウム(NaClO)を17mol/kg含む水溶液を用いた。
測定温度を50℃とした。
結果を図5に示す。
図5に示す結果から、1回目の充電容量に対する2回目の充電容量の比から、Na[Fe(CN)]の酸化の度合いが0.02であることが変わった。
【0054】
[実験例3]
塩化ナトリウムを4mol/Lと塩化コバルトを10mmol/L含む溶液A1を調製した。溶媒としては、蒸留水を用いた。
塩化ナトリウムを4mol/LとNa[Fe(CN)]を4mmol/LとK[Fe(CN)]を6mmol/L含む溶液B2を調製した。溶媒としては、蒸留水を用いた。
100mLの溶液A1と100mLの溶液B2を、35℃で混合し、その混合液を12時間保持した後、蒸留水で洗浄し、ろ過して、粉末を得た。
【0055】
「重金属元素比の測定」
実験例3で得られた粉末の重金属元素比を、実験例2と同様にして定量した。結果を表1に示す。
【0056】
「粉末を含む電極の起電力の測定」
実験例3で得られた粉末(Na1.23Co[Fe(CN)0.82)を用いたこと以外は実験例2と同様にして、電極を得た。
実験例2と同様にして、温度変化に対する上記電極の電極合剤層の起電力を測定した。
結果を図6に示す。
図6に示す結果から、1回目の充電容量に対する2回目の充電容量の比から、Na[Fe(CN)]の酸化の度合いが0.04であることが分かった。
【0057】
[実験例4]
塩化ナトリウムを4mol/Lと塩化コバルトを10mmol/L含む溶液A1を調製した。溶媒としては、蒸留水を用いた。
塩化ナトリウムを4mol/LとNa[Fe(CN)]を2mmol/LとK[Fe(CN)]を8mmol/L含む溶液B3を調製した。溶媒としては、蒸留水を用いた。
100mLの溶液A1と100mLの溶液B3を、35℃で混合し、その混合液を12時間保持した後、蒸留水で洗浄し、ろ過して、粉末を得た。
【0058】
「重金属元素比の測定」
実験例4で得られた粉末の重金属元素比を、実験例2と同様にして定量した。結果を表1に示す。
【0059】
「粉末を含む電極の起電力の測定」
実験例4で得られた粉末(Na1.32Co[Fe(CN)0.85)を用いたこと以外は実験例2と同様にして、電極を得た。
実験例2と同様にして、温度変化に対する上記電極の電極合剤層の起電力を測定した。
結果を図7に示す。
図7に示す結果から、1回目の充電容量に対する2回目の充電容量の比から、Na[Fe(CN)]の酸化の度合いが0.07であることが変わった。
【0060】
【表1】
【0061】
[実験例5]
塩化ナトリウムを4mol/Lと塩化ニッケルを10mmol/L含む溶液A2を調製した。溶媒としては、蒸留水を用いた。
塩化ナトリウムを4mol/LとNa[Fe(CN)]を10mmol/L含む溶液B1を調製した。溶媒としては、蒸留水を用いた。
100mLの溶液A2と100mLの溶液B1を、35℃で混合し、その混合液を12時間保持した後、蒸留水で洗浄し、ろ過して、粉末を得た。
【0062】
「重金属元素比の測定」
実験例5で得られた粉末の重金属元素比を、実験例2と同様にして定量した。結果を表2に示す。
【0063】
「粉末を含む電極の起電力の測定」
実験例5で得られた粉末(Na1.25Ni[Fe(CN)0.82)を用いたこと以外は実験例2と同様にして、電極を得た。
実験例2と同様にして、温度変化に対する上記電極の電極合剤層の起電力を測定した。
結果を図8に示す。
図8に示す結果から、1回目の充電容量に対する2回目の充電容量の比から、Na[Fe(CN)]の酸化の度合いが0.02であることが変わった。
【0064】
[実験例6]
塩化ナトリウムを4mol/Lと塩化ニッケルを10mmol/L含む溶液A2を調製した。溶媒としては、蒸留水を用いた。
塩化ナトリウムを4mol/LとNa[Fe(CN)]を5mmol/LとK[Fe(CN)]を5mmol/L含む溶液B4を調製した。溶媒としては、蒸留水を用いた。
100mLの溶液A2と100mLの溶液B4を、35℃で混合し、その混合液を12時間保持した後、蒸留水で洗浄し、ろ過して、粉末を得た。
【0065】
「重金属元素比の測定」
実験例6で得られた粉末の重金属元素比を、実験例2と同様にして定量した。結果を表2に示す。
【0066】
「粉末を含む電極の起電力の測定」
実験例6で得られた粉末(Na1.25Ni[Fe(CN)0.85)を用いたこと以外は実験例2と同様にして、電極を得た。
実験例2と同様にして、温度変化に対する上記電極の電極合剤層の起電力を測定した。
結果を図9に示す。
図9に示す結果から、1回目の充電容量に対する2回目の充電容量の比から、Na[Fe(CN)]の酸化の度合いが0.11であることが変わった。
【0067】
[実験例7]
塩化ナトリウムを4mol/Lと塩化ニッケルを10mmol/L含む溶液A2を調製した。溶媒としては、蒸留水を用いた。
塩化ナトリウムを4mol/LとNa[Fe(CN)]を1mmol/LとK[Fe(CN)]を9mmol/L含む溶液B5を調製した。溶媒としては、蒸留水を用いた。
100mLの溶液A2と100mLの溶液B5を、35℃で混合し、その混合液を12時間保持した後、蒸留水で洗浄し、ろ過して、粉末を得た。
【0068】
「重金属元素比の測定」
実験例7で得られた粉末の重金属元素比を、実験例2と同様にして定量した。結果を表2に示す。
【0069】
「粉末を含む電極の起電力の測定」
実験例7で得られた粉末(Na1.18Ni[Fe(CN)0.85)を用いたこと以外は実験例2と同様にして、電極を得た。
実験例2と同様にして、温度変化に対する上記電極の電極合剤層の起電力を測定した。
結果を図10に示す。
図10に示す結果から、1回目の充電容量に対する2回目の充電容量の比から、Na[Fe(CN)]の酸化の度合いが0.16であることが変わった。
【0070】
【表2】
【符号の説明】
【0071】
1 三次電池用電極
2 電極板
3 電極合剤層(第1の電極合剤層)
10 三次電池
11 第1の電極
12 第2の電極
13 電解液
14 電極板
15 電極合剤層(第2の電極合剤層)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10