(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057389
(43)【公開日】2024-04-24
(54)【発明の名称】浮体式洋上風力発電用下部構造、及び浮体式洋上風力発電用下部構造の施工方法
(51)【国際特許分類】
F03D 13/25 20160101AFI20240417BHJP
B63B 75/00 20200101ALI20240417BHJP
B63B 77/10 20200101ALI20240417BHJP
B63B 35/00 20200101ALI20240417BHJP
【FI】
F03D13/25
B63B75/00
B63B77/10
B63B35/00 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164089
(22)【出願日】2022-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】山本 正嗣
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 栄治
(72)【発明者】
【氏名】荒川 研佑
【テーマコード(参考)】
3H178
【Fターム(参考)】
3H178AA03
3H178AA26
3H178AA43
3H178BB75
3H178CC22
3H178DD61X
3H178DD67Z
(57)【要約】
【課題】 大型化にも適用可能であり、タワー等の下端に生じるモーメントを低減することが可能な浮体式洋上風力発電用下部構造等を提供する。
【解決手段】 浮体式洋上風力発電用下部構造1は、風力発電装置3を洋上に浮かべた状態で支持するための基礎構造である。浮体式洋上風力発電用下部構造1は、洋上に浮いた状態で、風力発電装置3が浮体式洋上風力発電用下部構造1の上床版5の上方に配置される。浮体式洋上風力発電用下部構造1は、主に、筒状構造体7、上床版5、下床版9等によって構成される。複数の中空の筒状構造体7の下端には下床版9が接合され、上方には上床版5が接合される。すなわち、上床版5とした床版9とで、複数の筒状構造体7が固定され、筒状構造体7の内部には、密閉された空間が形成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全高よりも全幅が広い浮体式洋上風力発電用下部構造であって、
風力発電装置用のタワーが取り付けられる上床版と、
前記上床版の下方に接合される複数の中空の筒状構造体と、
複数の前記筒状構造体の下端に接合される下床版と、
を具備することを特徴とする浮体式洋上風力発電用下部構造。
【請求項2】
複数の前記筒状構造体同士の間に、波が通過可能な隙間が形成されていることを特徴とする請求項1記載の浮体式洋上風力発電用下部構造。
【請求項3】
前記筒状構造体同士の間において、補強構造が設けられることを特徴とする請求項2に記載の浮体式洋上風力発電用下部構造。
【請求項4】
前記風力発電装置用のタワーは、前記上床版の略中央に配置され、
前記風力発電装置用のタワーの下方であって、前記上床版の下部には、中央補強構造が設けられることを特徴とする請求項2に記載の浮体式洋上風力発電用下部構造。
【請求項5】
前記中央補強構造は、前記上床版と前記下床版の間に配置された、前記筒状構造体であることを特徴とする請求項4に記載の浮体式洋上風力発電用下部構造。
【請求項6】
前記筒状構造体は、プレストレストコンクリート製であり、
前記中央補強構造と前記上床版との接合部において、厚みが厚い増厚部が設けられ、
前記増厚部には、前記増厚部と、前記上床版とにまたがって緊張材が配置されることを特徴とする請求項5に記載の浮体式洋上風力発電用下部構造。
【請求項7】
前記下床版は、前記上床版よりもサイズが大きいことを特徴とする請求項1記載の浮体式洋上風力発電用下部構造。
【請求項8】
前記下床版及び前記上床版は、複数の前記筒状構造体を包含可能な形状であって、前記筒状構造体との接合部近傍の外縁をつなぐ直線に対して、前記筒状構造体同士の間にはくびれ形状が形成されることを特徴とする請求項1記載の浮体式洋上風力発電用下部構造。
【請求項9】
前記筒状構造体は、複数のリング部材が長手方向に連結されて構成されることを特徴とする請求項1記載の浮体式洋上風力発電用下部構造。
【請求項10】
前記筒状構造体は、プレストレストコンクリート製であり、前記筒状構造体と、前記上床版又は前記下床版との接合部において、厚みが厚い増厚部が設けられ、
前記増厚部には、前記増厚部と、前記上床版又は前記下床版とにまたがって緊張材が配置されることを特徴とする請求項1に記載の浮体式洋上風力発電用下部構造。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれかに記載の浮体式洋上風力発電用下部構造の施工方法であって、
岸壁近傍において、移動機構の上部に前記下床版を施工する工程aと、
前記下床版上に、前記筒状構造体を設置する工程bと、
前記筒状構造体上に前記上床版を設置する工程cと、
前記下床版と前記上床版との間で、前記筒状構造体にプレストレスを付与する工程dと、
を具備し、
上記工程の少なくとも一部の間において、前記移動機構を移動させて、並行して複数の工程を実施することを特徴とする浮体式洋上風力発電用下部構造の施工方法。
【請求項12】
前記工程cにおいて、他の移動機構によって、構台上の前記上床版を前記筒状構造体の上方に水平方向に移動させて配置することを特徴とする請求項11記載の浮体式洋上風力発電用下部構造の施工方法。
【請求項13】
前記工程cにおいて、他の移動機構によって、前記上床版の埋設型枠を前記筒状構造体の上方に移動させて配置し、前記埋設型枠にコンクリートを打設することで前記上床版を施工することを特徴とする請求項11記載の浮体式洋上風力発電用下部構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洋上の風力発電装置を支持する浮体式洋上風力発電用下部構造等に関する。
【背景技術】
【0002】
洋上風力発電風車などの洋上構造物として、浮体式でタワー等を支持する方式が提案されている。一般的に、着床式の下部構造に対して、このような浮体式の下部構造は、コスト等を考慮すると、例えば50m以上の水深で適用される。また、浮体式の下部構造としては、水深等に応じていわゆるバージ型、セミサブ型、スパー型等が提案されている。
【0003】
ここで、全高よりも全幅が広い浮体である、いわゆるセミサブ型の浮体は、複数の円形または多角形の筒状浮体が用いられ、風力発電用のタワー又はタワーの直下に直接接合される筒状体(以下単に「タワー等」とする。)は、下方または上下において水平方向の梁などの連結材によって他の筒状浮体と連結される構造が一般的である(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-53899号公報
【特許文献2】特表2017-506184号公報
【特許文献3】特表2018-513808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、受風効率、発電効率、メンテナンス効率等により、風車規模のコストメリットを狙った大型化が検討されている。すなわち、より長い受風用の翼(ブレード)に伴いより高いタワーが用いられる。これに伴い、浮体式の下部構造自体も大型化する必要がある。
【0006】
前述したように、一般的なセミサブ型の浮体式の下部構造では、タワー等は、梁構造によって他の周囲の筒状浮体と連結される。この際、翼への受風力の強弱や波浪による浮体の揺動との関係に伴うタワーの揺動等によって、梁(タワーに対して垂直な方向の連結部材)との接合部にはタワーの転倒挙動に伴うモーメントと水平力(せん断力)がかかる。
【0007】
下端のみに梁を有する浮体式の下部構造では、タワーの上端からタワー等の下端までの距離が大きくなるほど、タワー等からのモーメントが大きくなる。したがって、風車規模の大型化に伴い、より大きなモーメントが下端の梁構造に付与されることとなる。このため、モーメントを低減する対策が要求される。また、複雑な形状によるコストアップはするものの、下端を補うために上端にも梁を有する浮体式の下部構造としても、モーメントや水平力は風向きや波の向きによりあらゆる方向に作用するため、上下端ともに堅固な梁が必要となる。さらに、梁の連結部では応力集中の課題も有する。
【0008】
一方、従来の浮体式の下部構造としては、一般的に鋼製の筒状浮体及び梁が用いられる。しかし、浮体式の下部構造の大型化に伴う厚肉鋼板の加工には課題がある。これは、大型風車の厚肉かつ大口径の杭を製造してきたヨーロッパに対し、日本国内の工場では、厚肉鋼板の曲げ加工について、加工機が無いことや製作管理ノウハウが追い付いていないことを背景としている。
【0009】
これに対し、コンクリートを用いた浮体式の下部構造を用いた方法も提案されている。しかし、コンクリート製の下部構造であっても、前述したようなタワー等の下端に生じるモーメントと水平力に対しては対策が必要である。
【0010】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、大型化にも適用可能であり、タワー等の下端に生じるモーメントと水平力を低減することが可能な浮体式洋上風力発電用下部構造等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した目的を達成するために、第1の発明は、全高よりも全幅が広い浮体式洋上風力発電用下部構造であって、風力発電装置用のタワーが取り付けられる上床版と、前記上床版の下方に接合される複数の中空の筒状構造体と、複数の前記筒状構造体の下端に接合される下床版と、を具備することを特徴とする浮体式洋上風力発電用下部構造である。筒状構造体の形状は水圧に有利な円形とすることが望ましく、それにより筒状構造体の壁厚の薄肉化とこれに伴う軽量化につながる。
【0012】
複数の前記筒状構造体同士の間に、波が通過可能な隙間が形成されていることが望ましい。
【0013】
前記筒状構造体同士の間において、補強構造が設けられることが望ましい。なお、補強構造としては、上床版と下床版に設けられて、上床版と下床版を補強する構造であってもよい。
【0014】
前記風力発電装置用のタワーは、前記上床版の略中央に配置され、前記風力発電装置用のタワーの下方であって、前記上床版の下部には、中央補強構造が設けられてもよい。この場合、前記中央補強構造は、前記上床版と前記下床版の間に配置された、前記筒状構造体であってもよい。
また、前記風力発電装置用のタワーは、前記上床版の端部筒状構造体の上部に偏心配置してもよい。
【0015】
前記筒状構造体は、プレストレストコンクリート製であり、前記中央補強構造と前記上床版との接合部において、厚みが厚い増厚部が設けられ、前記増厚部には、前記増厚部と、前記上床版とにまたがって緊張材が配置されてもよい。
【0016】
前記下床版のサイズは、前記上床版のサイズよりも大きくてもよい。
【0017】
前記下床版及び前記上床版は、複数の前記筒状構造体を包含可能な形状であって、前記筒状構造体との接合部近傍の外縁をつなぐ直線に対して、前記筒状構造体同士の間にはくびれ形状が形成されてもよい。
【0018】
前記筒状構造体は、複数のリング部材が長手方向に連結されて構成されてもよい。
【0019】
前記筒状構造体は、プレストレストコンクリート製であり、前記筒状構造体と、前記上床版又は前記下床版との接合部において、厚みが厚い増厚部が設けられ、前記増厚部には、前記増厚部と、前記上床版又は前記下床版とにまたがって緊張材が配置されてもよい。
【0020】
第1の発明によれば、従来の梁構造ではなく、筒状構造体を下床版と上床版とで挟み込むようにして構成し、風力発電装置用のタワーを上床版に取り付けることで、タワーによるモーメントを上床版で受けることができる。このため、下部(下床版)でモーメントを受ける場合と比較して、タワー先端からの距離を短くすることができ、モーメントを低減することができる。また、タワーによるモーメントと水平力を梁の様な水平方向に限定された複数方向ではなく、上床版の全ての水平方向で受けることができる。このため、上端の梁でモーメントと水平力を受ける場合と比較しても、あらゆる方向のモーメントと水平力を効率よく支持することができる。
【0021】
なお、本発明において風力発電装置用のタワーには、風力発電装置が搭載されるタワーと直接接合されるトランジションピース等も含むものとする。すなわち、上床版とタワーとの間に設けられるトランジションピース等の接合用の構造を含むものとする。
【0022】
また、複数の筒状構造体同士の間に隙間を形成することで、隙間を波が通過可能とすることができる。このため、波力の影響を抑制することができる。
【0023】
また、筒状構造体同士の間において、上床版と下床版に補強構造を設けることで、上床版及び下床版と、筒状構造体との接合部における接合強度を高めることができる。
【0024】
また、風力発電装置用のタワーを、上床版の略中央に配置することで、下部構造が大型化しても、バランスを取りやすくなり、バラストによる姿勢や喫水等の調整が容易となる。この際、タワーの下方であって、上床版の下部に中央補強構造を設けることで、タワーから受ける力に対して、より高い強度を確保することができる。
【0025】
この場合、中央補強構造として、上床版と下床版の間に配置された、筒状構造体を適用することができる。このようにすることで、同一の筒状構造体を利用することができ、製造性が向上するだけでなく、より大きな浮力を確保することができる。なお、この場合でも、タワー等から受けるモーメントは、上床版で受けるため、中央補強構造を介して下床版へ直接加わるモーメントと水平力を低減することができる。
【0026】
また、筒状構造体をプレストレストコンクリート製とした際に、中央補強構造と上床版との接合部において、厚みが厚い増厚部を設け、増厚部に、増厚部と上床版とにまたがって緊張材を配置することで、中央補強構造と上床版との接合強度をより高めることができる。
【0027】
また、下床版のサイズを上床版のサイズよりも大きくして、下床版の張り出し量を大きくすることで、下部構造の上下動(ヒーブ)等を抑制することができ、下床版の一部を揺動抑制機能として機能させることができる。
【0028】
また、下床版及び上床版の形状を、複数の筒状構造体との接合部近傍の外縁をつなぐ直線に対して、筒状構造体同士の間にくびれ形状を形成することで、例えばタワー等を上床版上に配置する場合などにおいて、浮体式の下部構造の軽量化や浮体組立に用いるクレーンの小型化に寄与し、クレーンと上床版等との干渉を避けることができる。
【0029】
また、筒状構造体が複数のリング部材を長手方向に連結して構成するため、連結数を変えるだけで、所望の長さに施工することができる。特に、コンクリート製とする場合、リングごとの型枠が同サイズ(径、高さ、厚さ)になるだけでなく、風車の大きさなどの設計条件に応じて、同サイズの円筒の本数にて調整可能な場合もあるため、型枠が同寸法となり、転用が図られるといった低コスト化にもつながる。
【0030】
また、筒状構造体をプレストレストコンクリート製とした際に、それぞれの筒状構造体と、上床版及び下床版との接合部において、厚みが厚い増厚部を設け、増厚部と、上床版又は下床版とにまたがって緊張材を配置してもよく、この場合には、筒状構造体と上床版又は下床版との接合強度をより高めることができる。また、筒状構造体の増厚方向を一般部に対して外側または内側の一方とする場合、内側または外側の型枠を転用することが可能である。
【0031】
第2の発明は、第1の発明にかかる浮体式洋上風力発電用下部構造の施工方法であって、岸壁近傍において、移動機構の上部に前記下床版を施工する工程aと、前記下床版上に、前記筒状構造体を設置する工程bと、前記筒状構造体上に前記上床版を設置する工程cと、前記下床版と前記上床版との間で、前記筒状構造体にプレストレスを付与する工程dと、を具備し、上記工程の少なくとも一部の間において、前記移動機構を移動させて、並行して複数の工程を実施することを特徴とする浮体式洋上風力発電用下部構造の施工方法である。
【0032】
前記工程cにおいて、他の移動機構によって、構台上の前記上床版を前記筒状構造体の上方に水平方向に移動させて配置してもよい。
【0033】
前記工程cにおいて、他の移動機構によって、前記上床版の埋設型枠を前記筒状構造体の上方に移動させて配置し、前記埋設型枠にコンクリートを打設することで前記上床版を施工してもよい。
【0034】
第2の発明によれば、浮体を浜出しする岸壁の近傍で個々のパーツごとに組み立てて移動させていくことで、大型の浮体を運搬する工程を削減することができる。また、各工程を移動させながら行うことで、複数の工程を同時に進行させることができる。
【0035】
例えば、筒状構造体を下床版上に施工した後、隣接する構台等の上で施工された上床版を水平方向に移動させることで、大型の上床版を効率よく筒状構造体の上方に配置することができる。
【0036】
また、筒状構造体を下床版上に施工した後、上床版の埋設型枠を筒状構造体の上方に配置し、埋設型枠にコンクリートを打設することで上床版を施工することで、大型の上床版を効率よく施工することができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、大型化にも適用可能であり、タワー等の下端に生じるモーメントや水平力を低減することが可能な浮体式洋上風力発電用下部構造等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】浮体式洋上風力発電用下部構造1の使用状態を示す図。
【
図2】(a)は浮体式洋上風力発電用下部構造1を示す正面図、(b)は(a)のA-A線断面図。
【
図3】(a)は他の浮体式洋上風力発電用下部構造1を示す正面図、(b)は(a)のB-B線断面図。
【
図4】(a)は他の浮体式洋上風力発電用下部構造1を示す正面図、(b)は(a)のC-C線断面図。
【
図5】(a)~(c)は他の浮体式洋上風力発電用下部構造1を示す正面図。
【
図6】(a)は他の浮体式洋上風力発電用下部構造1を示す正面図、(b)は(a)のD-D線断面図。
【
図7】(a)は他の浮体式洋上風力発電用下部構造1を示す正面図、(b)は(a)のE-E線断面図。
【
図8】(a)は他の浮体式洋上風力発電用下部構造1を示す正面図、(b)は(a)のI-I線断面図、(c)は(b)の他の実施形態を示す図。
【
図9】(a)、(b)は、他の下床版9の形態を示す図。
【
図10】浮体式洋上風力発電用下部構造1の施工工程を示す図。
【
図11】(a)~(c)は下床版9の施工工程を示す図。
【
図12】(a)、(b)は、筒状構造体7の施工工程を示す図。
【
図13】(a)~(c)は、
図12(b)のG部であって、筒状構造体7と下床版9との接合部の構造を示す図。
【
図14】(a)、(b)は、筒状構造体7と下床版9との他の接合部の構造を示す図。
【
図15】(a)、(b)は、上床版5の施工工程を示す図。
【
図16】(a)、(b)は、上床版5の他の施工工程を示す図。
【
図17】(a)、(b)は、トランジションピース13と中央補強構造19aとの接合構造を示す図。
【
図18】(a)、(b)は、トランジションピース13と中央補強構造19aとの他の接合構造を示す図。
【
図19】(a)、(b)は、トランジションピース13と中央補強構造19aとの他の接合構造を示す図。
【
図20】(a)は、トランジションピース13と中央補強構造19aとの他の接合構造を示す図、(b)は周方向の緊張材35cを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、浮体式洋上風力発電用下部構造1の使用状態を示す図である。浮体式洋上風力発電用下部構造1は、洋上に浮かべた状態で風力発電装置3を支持するためのセミサブ型の浮体である。浮体式洋上風力発電用下部構造1は、全高よりも全幅が広い。浮体式洋上風力発電用下部構造1は、洋上に浮いた状態で、風力発電装置3のタワーが浮体式洋上風力発電用下部構造1の上床版5の上方に取り付けられる。
【0040】
なお、本実施形態では、前述したように、トランジションピース13を含めて、風力発電装置3のタワーが浮体式洋上風力発電用下部構造1の上床版5の上方に取り付けられるものとする。この際、風力発電装置3のタワー(トランジションピース13)は、上床版5の略中央に配置されることが、安定上望ましいが、側方での偏心配置でもバラスト等での調整が可能である。また、上床版5は、例えば海上に露出しており、係留索11が接続される。すなわち、浮体式洋上風力発電用下部構造1は、係留索11によって海底に係留される。
【0041】
図2(a)は、浮体式洋上風力発電用下部構造1を示す正面図であり、
図2(b)は
図2(a)のA-A線断面図である。浮体式洋上風力発電用下部構造1は、主に、筒状構造体7、上床版5、下床版9等によって構成される。複数の中空の筒状構造体7の下端には下床版9が接合され、上方には上床版5が接合される。すなわち、上床版5と下床版9とで、複数の筒状構造体7が固定され、筒状構造体7の内部には、密閉された空間が形成される。なお、前述したように、上床版5には風力発電装置3のタワーが取り付けられる。
【0042】
筒状構造体7は、鉄筋・型枠・コンクリート現場打ちでの一体構築方法でもよいが、複数のセグメント又はリング部材が長手方向に連結されて構成することが望ましく、これにより早く構築できる。筒状構造体7の製造方法については詳細を後述する。なお、図示した例では、筒状構造体7が3本併設される例を示すが、これには限られない。例えば、筒状構造体7は4本以上であってもよい。
【0043】
また、下床版9は、筒状構造体7の最外周部よりも外方にはみ出していることが望ましい。このように、平面視において、下床版9の少なくとも一部を筒状構造体7の外方にはみ出させることで、このはみ出している部分が、浮体式洋上風力発電用下部構造1を洋上に浮かべた際の揺動の抵抗となり、揺動を抑制することができる。このため、例えば、下床版9のサイズを、上床版5のサイズよりも大きくしてもよい。
【0044】
ここで、
図2(b)に示すように、複数の筒状構造体7は、隙間をあけて配置されることが望ましい。このように、複数の筒状構造体7同士の間に、隙間を形成することで、波が隙間を通過することが可能となり、横から受ける波力を抑制することができる。
【0045】
一方、筒状構造体7同士を壁体でつなげてもよい。
図3(a)は、他の浮体式洋上風力発電用下部構造1を示す正面図であり、
図3(b)は
図3(a)のB-B線断面図である。
図3に示す例では、複数の筒状構造体7同士が補強壁15によって連結される。すなわち、複数の筒状構造体7同士の間には、波が通過することが可能な隙間は形成されない。この場合には、補強壁15で囲まれた空間も浮体として機能するとともに、補強壁15が上床版5と下床版9の補強構造として機能し、特に、上床版5及び下床版9と筒状構造体7との接合部を、補強壁15によって補強することができる。このように、筒状構造体7同士の間は、必ずしも隙間が形成されなくてもよい。また、波の通過用に一部貫通部を設けてもよい。
【0046】
また、筒状構造体7同士の間に他の補強構造を設けてもよい。
図4(a)は、他の浮体式洋上風力発電用下部構造1を示す正面図であり、
図4(b)は
図4(a)のC-C線断面図である。
図4に示す例では、筒状構造体7同士の間において、上床版5と下床版9には補強構造17が設けられる。補強構造17は、筒状構造体7の上部と下部にのみ形成されるため、複数の筒状構造体7同士の間に、隙間を形成することができ、波が隙間を通過することが可能となる。このように、上床版5及び下床版9と筒状構造体7との接合部近傍に補強構造17を形成することで、上床版5及び下床版9と筒状構造体7との接合部の強度向上と、波による影響の抑制を両立することができる。なお、補強構造17は、上床版5及び下床版9と一体で構成してもよく、別部材で構成して上床版5及び下床版9に接合してもよい。さらに、補強構造17を筒状構造体7と接合することで、より一層の強度向上が図られる。
【0047】
また、筒状構造体7同士の間に他の補強構造を設けてもよい。
図5(a)、
図5(b)に示す例では、筒状構造体7同士の間に、斜材(方杖)である補強構造17aが配置される。より詳細には、
図5(a)では、筒状構造体7同士の間の空間を対角線上に補強構造17aが配置され、
図5(b)では、逆V字状(又はV字状)に補強構造17aが配置される。なお、
図5(a)、
図5(b)に示す例では、補強構造17aは上床版5又は下床版9に固定されるが、
図5(c)に示すように、補強構造17aを筒状構造体7に固定してもよく、その両方に固定してもよい。また、補強構造17aは図示した形態でなくてもよいが、いずれの形態であっても複数の筒状構造体7同士の間に隙間を形成することができるため、波が隙間を通過することが可能となる。
【0048】
また、上床版5の略中央部の下方に補強構造を設けてもよい。
図6(a)は、他の浮体式洋上風力発電用下部構造1を示す正面図であり、
図6(b)は
図6(a)のD-D線断面図である。
図6に示す例では、上床版5の略中央部の下方に中央補強構造19が配置される。中央補強構造19は、それぞれの筒状構造体7から中央に向けて形成された壁状の部位である。前述したように、風力発電装置3のタワー(図示省略)の下部は、上床版5の略中央に配置されることが望ましい。この際、風力発電装置3のタワーと上床版5との接合部には大きなモーメントと水平力が付与される。これに対し、風力発電装置3のタワーの下方であって、上床版5の下部に、中央補強構造19を設けることで、上床版5の略中央を補強することができる。
【0049】
また、上床版5の略中央部の下方に設ける中央補強構造は
図6に示す形態には限られない。
図7(a)は、他の浮体式洋上風力発電用下部構造1を示す正面図であり、
図7(b)は
図7(a)のE-E線断面図である。
図7に示す例では、風力発電装置3のタワーの下方であって、上床版5の下部に、中央補強構造19aが設けられる。中央補強構造19aは、上床版5と下床版9の間に配置された、筒状構造体7と同様の構造である。すなわち、三つの筒状構造体7の略中央に、さらに一つの筒状構造体7が設置される。この場合、風力発電装置3のタワーと中央補強構造19aは上床版5を介して連続するが、風力発電装置3のタワーから受ける力はまず上床版5で受けることになり、上床版5が受けた力の一部が中央補強構造19aによってさらに下床版9に伝達される。このように上床版5と下床版9の略中央部が、中央補強構造19aで連結されるため、上方からの荷重も上床版5と下床版9の両方で受けることができる。なお、筒状構造体7と中央補強構造19a(中央の筒状構造体7)との間に隙間を形成することができるため、波が隙間を通過することが可能となる。筒状構造体7と中央補強構造19a(中央の筒状構造体7)の間に
図3~
図6に示す補強構造を設けてもよい。
【0050】
図8(a)は、他の浮体式洋上風力発電用下部構造1を示す正面図であり、
図8(b)は
図8(a)のI-I線断面図である。
図8に示す例では、風力発電装置3のタワーの下方であって、上床版5の下部に、中央補強構造19aが設けられるとともに、上床版5の下面に、中央補強構造19aと筒状構造体7とを連結するように、補強構造17が設けられる。すなわち、三つの筒状構造体7の略中央に、さらに一つの筒状構造体7が設置され、これらが周囲の補強構造17で連結される。このように上床版5と下床版9の略中央部が、中央補強構造19aで連結されるとともに、その周囲の上床版5が補強構造17で補強されるため、タワーのモーメントによって生じる力の一部を、より効率よく外側の筒状構造体7に逃すことができる。なお、さらに高い強度を確保するためには、
図8(c)に示すように、中央補強構造19aの径を、他の筒状構造体7よりも大きくしてもよい。また、さらに、中央補強構造19aの厚みを、他の筒状構造体7よりも厚くしてもよい。このようにすることで、後述する中央補強構造19aに配置される緊張材の本数を増やしたり径を大きくしたりすることが可能となる。このように、タワーの曲げモーメントの大きさに対して、必要に応じ、上床版5への補強構造17での補強や、中央補強構造19aの径の拡大、増厚、緊張材の材質の変更・本数・径の増加、梁や斜材追加などを、適宜選択または組み合わせることによって、より高い強度を確保することができる。
【0051】
また、上床版5及び下床版9の形状は上述した実施形態には限られない。
図9(a)、
図9(b)に示す例では、平面視において、下床版9の外形にくびれ21が形成される。なお、上床版5に対しても同様の形態とすることができる。すなわち、下床版9及び上床版5は、複数の筒状構造体7を包含可能な形状であって、筒状構造体7との接合部近傍の外縁をつなぐ直線(図中F)に対して、筒状構造体7同士の間にくびれ形状が形成される。なお、
図9(a)に示すように、筒状構造体7の外周部よりも筒状構造体7と中央補強構造19aとの連結部の幅を狭くしてもよいし、
図9(b)に示すように、筒状構造体7の外周部と筒状構造体7と中央補強構造19aとの連結部の幅をほぼ等しくしてもよい。また、前述したように、下床版9のサイズを上床版5のサイズよりも大きくする場合において、下床版9と上床版5とを同一の外形でサイズのみを変えてもよく、上床版5を
図9(a)に示すような形態として、下床版9を
図9(b)に示すような形態としてもよい。このようにくびれ21を形成することで、例えば、上床版5の略中央に風力発電装置3のタワーを設置する際に、クレーンのブームと上床版5とが干渉することを抑制することができる。
さらに、図示はしていないが、上床版や下床版内を一部中空にすることで所要の強度を確保しながら軽量化を図ることが可能である。中空化ないしは軽量化の方法としては、コンクリート打設前にボイドと呼ばれる中空または発泡スチロールなどの埋設体を設置しておけばよい。
【0052】
次に、浮体式洋上風力発電用下部構造1の施工方法について説明する。なお、筒状構造体7、上床版5、下床版9はコンクリート製であってもよく、鋼製であってもよいが、以下の説明では、各構成がプレストレストコンクリート製であるとして説明する。また、浮体式洋上風力発電用下部構造1としては、
図2~
図9のいずれの形態であってもよいが、
図9(b)に示す例で説明する。
【0053】
図10は、浮体式洋上風力発電用下部構造1の製造工程を示す図である。なお、以下の説明では各部材の内部の鉄筋等については図示を省略する。浮体式洋上風力発電用下部構造1は、岸壁25の近傍における浮体製作ヤード23において製造される。
【0054】
まず、岸壁25近傍の浮体製作ヤード23の下床版9の施工位置において、移動機構(図示省略)の上部に下床版9を構築する。移動機構としては、例えば、多軸台車やエアキャスターなどを利用することができる。次に、下床版9を移動させて、筒状構造体7の施工位置において、下床版9の上に、筒状構造体7(以下、筒状構造体7と同様の構造である中央補強構造19aを含む)を設置する。さらに、下床版9を移動させて、上床版5の施工位置において、筒状構造体7上に上床版5を設置する。この際、下床版9と上床版5との間で、筒状構造体7に鉛直方向のプレストレスを付与する。以上により、浮体式洋上風力発電用下部構造1が完成する。トランジションピースを設置し、これを含めたプレストレス付与でもよい(図示省略)。
【0055】
このように、浮体製作ヤード23において、各工程の少なくとも一部の間において、移動機構を移動させることで、並行して複数の工程を実施することができる。なお、製造完成した浮体式洋上風力発電用下部構造1は半潜水台船27上に移動される。半潜水台船27に移動後は、移動機構から架台に受け替え、移動機構を陸上に退避させる。半潜水台船27は所用の水深箇所まで曳航し、バラスト注水にて沈め、浮体式洋上風力発電用下部構造1を離脱させる。また、半潜水台船27上において、上床版5上に風力発電装置3等が設置される。その後、所用の水深箇所において半潜水台船27を沈めることで、浮体式洋上風力発電用下部構造1等を半潜水台船27から離脱させて、設置場所まで曳航して、設置場所に風力発電装置3を設置することができる。一般的には、風力発電装置3等の設置箇所は、広いヤードと岸壁側での大型クレーンを要するため、浮体製作ヤード23とは別箇所になる。また、浮体式洋上風力発電用下部構造1等を半潜水台船27から離脱させた後に、風力発電装置3等の設置を行ってもよい。
【0056】
次に、各工程についてより詳細に説明する。
図11は、下床版9の施工方法の一例を示す図である。前述したように、下床版9が大型化すると、一体で施工することが困難である。このため、
図11(a)に示すように、複数の分割床版29を予めプレキャスト材として施工し、これを一体化する方法を採用してもよい。
【0057】
より詳細には、まず、埋設底枠と鋼製側枠(又は埋設側枠)を設置し、内部鉄筋(定着材31a、定着鉄筋31b含む)を設置した後コンクリートを打設する。養生期間経過後に、鋼製側枠を脱型して各分割床版29を施工することができる。なお、定着材31aは、各分割床版29の上面に突出して、後述する筒状構造体7との接合部における緊張材の定着部として機能する。また、定着鉄筋31bは、分割床版29同士の接合方向に突出し、分割床版29同士を接合する際に接合部として機能する。なお、定着材31aは、各分割床版29の上面に突出させず孔とし、台形状などの嵌合構造を設けることで、位置合わせと組み立てが容易になる。
【0058】
次に、各分割床版29を移動機構上に配置して、それぞれの分割床版29同士の間に間詰コンクリート33を打設して複数の分割床版29同士を一体化する。この際、
図11(c)に示すように、内部に配置された鞘管に緊張材35を配置して例えば3方向から緊張・定着することでプレストレスを付与することができる。なお、下床版9の分割形態は図示した例には限られない。また、緊張材35の配置も図示した例には限られない。
【0059】
図12(a)は、得られた下床版9の上方に筒状構造体7を施工する工程を示す図である。前述したように、筒状構造体7は、複数のリング部材37が長手方向(鉛直方向)に連結されて構成される。この際、リング部材37同士の間には止水部材や、ずれ止めの凹凸嵌合構造を設けてもよい。また、リング部材37は、あらかじめ周方向に緊張材が配置されてプレストレスが付与されてもよい。すべてのリング部材37を連結することで、筒状構造体7の施工が完了する。なお、リング部材37は、リング状に一体で構成されたプレストレストコンクリート製や、周方向に複数に分割構成されたセグメントを周方向に連結することでリング状としてもよい。
【0060】
図13(a)は、
図12(b)のG部における断面図であり、下床版9と筒状構造体7との接合部の構造を示す概略図である。前述したように、下床版9には、あらかじめ円形の周方向に所定の間隔で定着材31aが埋設される。また、筒状構造体7の下部(最下段のリング部材37)には空間が形成され、定着材31aと緊張材35aとを接続するカプラ41が収容される。緊張材35aは緊張されて筒状構造体7の上方で定着されることで、筒状構造体7にプレストレスを付与することができる。カプラ41とその空間は、筒状構造体7の下部(最下段のリング部材37)側ではなく、下床版9側に設けてもよく、この場合はリング部材37の設置時に下床版9上の定着材31aの突出がなくなる。
【0061】
なお、
図12(b)に示すように、下床版9に定着材31aを埋設するのではなく、下床版9の下方に箱抜き39を設けて定着材31aを定着させてもよい。この方法であれば、定着材31aを下側から後設置にすることで、リング部材37の設置時に下床版9上の定着材31aの突出がなくすことができる。また、定着作業を容易にするために、箱抜き39を下床版9の上面側から形成し、下床版9の上方で定着作業を可能としてもよい。
【0062】
また、
図13(a)は筒状構造体7の平面図であり、
図13(b)は
図13(a)のH-H線断面図(筒状構造体7の展開図)である。
図13に示すように、緊張材35aを下床版9に定着するのではなく、下床版9を略U字状に貫通させて両端を筒状構造体7の上方で緊張後に定着させてもよい。
【0063】
次に、筒状構造体7の上方に上床版5を配置する。
図15(a)、
図15(b)は、上床版5を筒状構造体7の上方に設置する方法を示す図である。上床版5は隣接する構台49上の移動機構43a上で施工される。上床版5は、例えば下床版9と同様に複数に分割してから一体化してもよい。ここで、構台49は、下床版9等の移動方向(下床版9等を移動させる移動機構43の移動方向)の側方に配置される。すなわち、移動機構43に対して移動機構43aは略直行する方向へ移動可能である。このため、移動機構43aによって、構台49上の上床版5を筒状構造体7の上方に水平方向に移動させて配置することができる。
【0064】
なお、あらかじめ上床版5を施工した後に筒状構造体7の上方に配置するのではなく、筒状構造体7の上方で上床版5を施工してもよい。
図16(a)、
図16(b)は、筒状構造体7の上方で上床版5を施工する方法を示す図である。この場合には、例えば
図15に示す方法で、筒状構造体7の上方に埋設型枠45(埋設底枠及び埋設側枠)を配置し、埋設型枠45に補強鉄筋等を配置してコンクリートを打設することで、上床版5を施工してもよい。すなわち、移動機構43aによって、上床版5の埋設型枠45を筒状構造体7の上方に移動させて配置し、埋設型枠45にコンクリートを打設することで上床版5を施工することができる。
【0065】
なお、前述したように、下床版9と筒状構造体7は、一括して縦方向に緊張される緊張材35aによってプレストレスが付与される。この際、緊張材35aの上方は、上床版5に定着してもよい。また、中央の筒状構造体7(中央補強構造19a)においては、上方の風力発電タワー(トランジションピース)の固定を兼ねてもよい。
【0066】
図17(a)は、トランジションピース13の固定構造の一例を示す概略図である。なお、以下の各実施形態では、緊張材35aが下床版9に定着される例を示すが、その定着方法は、
図13(a)~
図13(c)のいずれの形態であってもよく、
図14に示すように緊張材35aを配置してもよい。
【0067】
図17(a)に示す例では、緊張材35aは上床版5を貫通してトランジションピース13において定着される。すなわち、トランジションピース13は、緊張材35aによって上床版5に固定される。このようにすることで、トランジションピース13の固定が容易となる。
【0068】
なお、
図17(b)に示すように、中央補強構造19aと上床版5との接合部において、厚みが厚い増厚部47を設けてもよい。例えば、中央補強構造19aを構成するリング部材として、最上段のリング部材を、他のリング部材と内径は一定のまま外径を大きくして厚肉としてもよい。この場合には、増厚部47に、増厚部47と上床版5とにまたがって緊張材35bを配置することができる。この際、緊張材35bが緊張材35aの外側に配置されるため作業性が良好である。
【0069】
なお、さらに、中央補強構造19aと下床版9との接合部においても、厚みが厚い増厚部47を設けてもよい。例えば、中央補強構造19aを構成するリング部材として、最下段のリング部材を、他のリング部材と内径は一定のまま外径を大きくして厚肉としてもよい。この場合には、増厚部47に、増厚部47と下床版9とにまたがって緊張材35bを配置することができる。
【0070】
なお、図示した例では、中央補強構造19aに対して増厚部47を設けたが、中央補強構造19a以外の筒状構造体7にも適用可能である。すなわち、プレストレストコンクリート製の筒状構造体7に対して、上床版5又は下床版9との接合部において、厚みが厚い増厚部47を設け、増厚部47に、増厚部47と上床版5又は下床版9とにまたがって緊張材を配置してもよい。
【0071】
また、増厚部47の形態は
図17(b)に示す例には限られない。
図18(a)は、増厚部47を中央補強構造19aの内側に形成した例を示す図である。なお、以下、中央補強構造19aに対する例を説明するが、他の筒状構造体7にも同様に適用可能である。この場合には、中央補強構造19aを構成するリング部材として、最上段及び最下段のリング部材を、他のリング部材と外径は一定のまま内径を小さくして厚肉としてもよい。このようにすることで、中央補強構造19aの外周面に段差が形成されないため、前述した波等に対する抵抗を小さくすることができることや、円筒内部の補強部間の長さを少しでも小さく強固できる。
【0072】
また、
図18(b)に示すように、増厚部47を中央補強構造19aの内側と外側の両方に形成してもよい。この場合には、中央補強構造19aを構成するリング部材として、最上段及び最下段のリング部材を、他のリング部材に対して外径が大きく、内径を小さくして厚肉としてもよい。このようにすることで、中央補強構造19aの上下における強度をより高めることができる。
【0073】
なお、前述した例では、リング部材の厚みを厚くすることで増厚部を形成したがこれには限られない、例えば、
図19(a)に示すように、下床版9及び上床版5にリング状に増厚部47aを形成してもよい。この場合、下床版9の上面に形成された増厚部47a上に中央補強構造19aを配置し、中央補強構造19aに対応する部位の上床版5の上面に増厚部47aを形成する。トランジションピース13は、上床版5の増厚部47a上に配置されて固定される。
【0074】
また、
図19(b)に示すように、中央補強構造19aの上下に増厚部47を形成するとともに、下床版9及び上床版5にリング状に増厚部47aを形成してもよい。この場合、緊張材35bは、増厚部47と増厚部47aを貫通するように配置されて定着される。
【0075】
また、
図20(a)に示すように、増厚部47に、周方向の緊張材35cを配置してもよい。この場合には、
図20(b)に示すように、3本の緊張材35cを周方向にずらして配置してもよい。例えば、1本の緊張材35cを2/3周配置して、3本の緊張材35cを1/3周ずつずらして配置して定着してもよい。なお、緊張材35cの定着位置は図示した例には限られず、また、それぞれの緊張材35cを全周にわたって配置してもよい。
【0076】
以上、本実施形態によれば、筒状構造体7を複数のリング部材37で構成するため、大型の筒状構造体7も容易に施工することができる。また、さらなる風力発電装置3の大型化に対しても、筒状構造体7の長さや本数を変えることで対応が可能となる。
【0077】
この際、従来のように梁構造ではなく、筒状構造体7を下床版9と上床版5とで挟み込むようにして構成し、風力発電装置3用のタワー(トランジションピース13含む)を上床版5に取り付けることで、タワーによるモーメントと水平力を上床版5で受けることができる。このため、下床版9で直接モーメントと水平力を受ける場合と比較して、タワー先端からの距離を短くすることができ、モーメントを低減することができる。
【0078】
この際、筒状構造体7同士の間において、上床版5と下床版9に補強構造を設けることで、上床版5及び下床版9と、筒状構造体7との接合部における接合強度を高めることができる。
【0079】
また、風力発電装置3用のタワーを、上床版5の略中央に配置することで、下部構造が大型化しても、バランスを取りやすくなり、バラストによる姿勢や喫水等の調整が容易となる。この際、タワーの下方であって、上床版5の下部に中央補強構造19、19aを設けることで、タワーから受ける力に対して、より高い強度を確保することができる。
【0080】
また、筒状構造体7をプレストレストコンクリート製とした際に、中央補強構造19aと上床版5又は下床版9との接合部において、厚みが厚い増厚部47、47aを設け、増厚部47、47aに、増厚部47、47aと上床版5又は下床版9とにまたがって緊張材35bを配置することで、中央補強構造19aと上床版5又は下床版9との接合強度をより高めることができる。
【0081】
また、複数の筒状構造体7の間にあえて隙間をあけることで、筒状構造体7の隙間に波を通過させることができる。このため、浮体式洋上風力発電用下部構造1にかかる波力を抑制することができる。
【0082】
また、下床版9のサイズを上床版5のサイズよりも大きくしておくことで、海中における下床版9を、浮体式洋上風力発電用下部構造1の揺動抑制機構として機能させることができる。
【0083】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0084】
例えば、各実施形態における構成は、互いに組み合わせることができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0085】
1………浮体式洋上風力発電用下部構造
3………風力発電装置
5………上床版
7………筒状構造体
9………下床版
11………係留索
13………トランジションピース
15………補強壁
17、17a………補強構造
19、19a………中央補強構造
21………くびれ
23………浮体製作ヤード
25………岸壁
27………半潜水台船
29………分割床版
31a………定着材
31b………定着鉄筋
33………間詰コンクリート
35、35a、35b、35c………緊張材
37………リング部材
39………箱抜き
41………カプラ
43、43a………移動機構
45………埋設型枠
47、47a………増厚部
49………構台