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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057391
(43)【公開日】2024-04-24
(54)【発明の名称】腐食検査用測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/02 20060101AFI20240417BHJP
【FI】
G01N17/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164094
(22)【出願日】2022-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅田 照朗
(72)【発明者】
【氏名】橙 来樹
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 將展
(72)【発明者】
【氏名】江▲崎▼ 達哉
(72)【発明者】
【氏名】重永 勉
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼見 明秀
(72)【発明者】
【氏名】篠森 正利
(72)【発明者】
【氏名】中西 祐二
(72)【発明者】
【氏名】小林 明宏
【テーマコード(参考)】
2G050
【Fターム(参考)】
2G050AA02
2G050AA04
2G050EB02
(57)【要約】
【課題】被検査物の腐食検査のための測定の信頼性を確保できる。
【解決手段】腐食検査用測定装置1は、金属製の基材21と該基材上の表面処理膜22、23とを有する被検査物2の腐食の検査のための測定を行う装置であって、含水電解質材料を保持しかつ、表面処理膜の表面に接触する接触部3と、表面処理膜に接触部を介して電気的に接続される電極41を有しかつ、電極と基材との間に電圧を印加させながら、電極と基材との間の通電状態を測定する測定部4と、を備え、接触部の少なくとも一部は、含水電解質材料を保持するための保水性を有するシートであって、接触部は、測定時に広げられて表面処理膜の表面に接触する展開状態と、非測定時に小さくされた収納状態と、に切り替わる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の基材と該基材上の表面処理膜とを有する被検査物の腐食の検査のための測定を行う装置であって、
含水電解質材料を保持しかつ、前記表面処理膜の表面に接触する接触部と、
前記表面処理膜に前記接触部を介して電気的に接続される電極を有しかつ、前記電極と前記基材との間に電圧を印加させながら、前記電極と前記基材との間の通電状態を測定する測定部と、を備え、
前記接触部の少なくとも一部は、前記含水電解質材料を保持するための保水性を有するシートであって、前記接触部は、測定時に広げられて前記表面処理膜の表面に接触する展開状態と、非測定時に小さくされた収納状態と、に切り替わる、腐食検査用測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の腐食検査用測定装置において、
前記接触部を挟んで前記被検査物とは逆側に位置しかつ、前記接触部を前記表面処理膜の表面に接触させると共に、前記接触部を展開状態に維持する維持部をさらに備えている、腐食検査用測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の腐食検査用測定装置において、
前記維持部は、前記接触部を介して前記被検査物に吸着する磁石である、腐食検査用測定装置。
【請求項4】
請求項1に記載の腐食検査用測定装置において、
前記接触部は、収納状態において巻かれかつ、展開状態において引き延ばされ、
前記接触部は、前記接触部の表面に貼り付けられた渦巻きバネを有し、
前記渦巻きバネは、前記接触部を巻くように付勢している、腐食検査用測定装置。
【請求項5】
請求項1に記載の腐食検査用測定装置において、
前記接触部を収納するハウジングをさらに備え、
前記接触部は、前記収納状態において前記ハウジングの中に収納され、前記展開状態において前記ハウジングの外まで広がる、腐食検査用測定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の腐食検査用測定装置において、
前記ハウジングは、開口を有し、
前記接触部は、前記開口を通じて広げられかつ小さくされる、腐食検査用測定装置。
【請求項7】
請求項6に記載の腐食検査用測定装置において、
前記ハウジングに取り付けられかつ、前記開口を開閉するカバーをさらに備え、
前記カバーは、非測定時に前記開口を閉じる、腐食検査用測定装置。
【請求項8】
請求項1に記載の腐食検査用測定装置において、
前記装置は、ポータブルであり、
充放電可能な給電用のバッテリをさらに備え、
前記装置は、非測定時に、前記バッテリを充電する充電器に接続される、腐食検査用測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、腐食検査用測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、塗装金属材の耐食性評価装置が記載されている。塗装金属材は、金属製の基材の上に樹脂製の塗膜が設けられてなる。塗装金属材では、例えば塩水といった腐食因子が塗膜に浸透し、基材に到達することで錆が発生、すなわち腐食が開始する。塗装金属材の腐食過程は、錆が発生するまでの過程と、発生した錆が進展する過程とに分けられる。特許文献1の耐食性試験装置は、錆が発生するまでの腐食抑制期間を評価する。
【0003】
具体的に、この耐食性評価装置は、塗膜側に配置される電極と、電極と基材との間に電圧を印加する電源部と、を備えている。塗膜と電極との間には、両者に接触するように電解質材料が配置される。耐食性評価装置は、電極と基材との間に電圧を印加し、塗膜が絶縁破壊する電圧値に基づいて、塗装金属材の耐食性を評価する。
【0004】
特許文献2には、腐食が進展する速度を評価する耐食性試験装置が記載されている。この試験に用いられる塗装金属材には、塗膜を貫通して金属製基材に達する人工傷が二箇所に加えられている。耐食性試験装置は、その塗装金属材の腐食を進行させることにより耐食性を評価する。
【0005】
具体的に、この耐食性試験装置は、二つの保持部を有する容器を備えている。容器は、塗装金属材の表面に設置される。二つの保持部はそれぞれ、含水電解質材料を保持する。二つの保持部はそれぞれ、二箇所の人工傷に対応する。容器の底は、各保持部において開口している。含水電解質材料は、人工傷に接触する。二つの保持部のそれぞれには、電極が収容されている。耐食性試験装置は、二つの電極を介して金属製基材に通電することによって、塗装金属材の腐食を進行させる。
【0006】
この耐食性試験装置は、含水電解質材料と電極とが容器に収容されている。この耐食性試験装置を用いた塗装金属材の試験は、試験対象の塗装金属材の表面に容器を設置することによって行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6436688号公報
【特許文献2】特開2020-118468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記の評価装置の評価対象は、例えば自動車部品用の塗装金属板である。特許文献1又は2に記載された従来の装置は、自動車の製造工程等において、塗装工程毎に製造ラインから部品を取り出し、塗膜の品質を確認する場合に好適に用いることができる。
【0009】
ところで、ユーザーに販売された自動車は、経年劣化によって塗装金属板が腐食する場合がある。自動車のユーザーは、塗装金属板が腐食する時期を予想したい、又は、腐食を早期に発見したいという要求を持っている。
【0010】
劣化の進行は、自動車の使用環境に応じて変化する。例えば冬期に道路上に融雪剤が撒かれた環境下で使用される自動車や、潮風に当たる環境下で使用される自動車の塗装金属板は、相対的に錆が発生しやすい。塗装金属板に錆が発生する時期は一律ではない。ユーザーの自動車は、例えば整備工場に定期的に入庫されるため、整備工場に入庫した自動車について塗装金属板の耐食性を検査できれば、ユーザー毎に、塗装金属板の腐食する時期の予測、又は、腐食の早期発見が実現できる。
【0011】
ところが、前述した従来の装置は、整備工場において、ユーザーの自動車について、塗装金属板の耐食性を検査できる構造を有していない。整備工場において整備士が使用可能な、新たな装置が必要である。
【0012】
特に、整備工場において、ユーザーの自動車について塗装金属板の腐食を検査する場合、その検査の信頼性を確保することが必要である。従来の装置は、信頼性を確保できる構造を有していない。
【0013】
ここに開示する技術は、被検査物の腐食検査のための測定の信頼性を確保できる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
ここに開示する技術は、金属製の基材と該基材上の表面処理膜とを有する被検査物の腐食の検査のための測定を行う装置に係る。この腐食検査用測定装置は、
含水電解質材料を保持しかつ、前記表面処理膜の表面に接触する接触部と、
前記表面処理膜に前記接触部を介して電気的に接続される電極を有しかつ、前記電極と前記基材との間に電圧を印加させながら、前記電極と前記基材との間の通電状態を測定する測定部と、を備える。
【0015】
前記接触部の少なくとも一部は、前記含水電解質材料を保持するための保水性を有するシートであって、前記接触部は、測定時に広げられて前記表面処理膜の表面に接触する展開状態と、非測定時に小さくされた収納状態と、に切り替わる。
【0016】
前記の測定装置は、表面処理膜に電気的に接続される電極と、基材との間に電圧を印加しながら、電極と基材との間の通電状態を測定する。電極と表面処理膜との間には、含水電解質材料を保持している接触部が介在する。測定部は、通電状態として、例えば電極と基材との間の電流、及び/又は、電圧を測定する。その測定値に基づけば、被検査物に腐食が発生するまでの腐食抑制期間が評価できる。
【0017】
電極と基材との間の通電状態の測定において、接触部に劣化がないこと、及び、接触部が湿潤状態を維持していること(換言すると、接触部が含水電解質材料を保持していること)が、正確な測定を実現するために必要である。
【0018】
前記の測定装置において、接触部は、少なくとも一部がシートであって、展開状態と収納状態とに切り替わる。接触部は、非測定時には小さくされた収納状態になる。測定者は、測定を行おうとする際に、収納状態の接触部を広げて展開状態にする。接触部を広げる際に測定者は、接触部に劣化がないこと、及び、接触部が湿潤状態を維持していることを確認することができる。
【0019】
前記の測定装置を用いると、接触部に劣化がないこと、及び、接触部が湿潤状態を維持していることが測定者によって確認された後に、測定を行うことができる。測定装置は、測定を正確に行うことができる。例えば整備工場において、前記の測定装置を用いて、被検査物としての自動車の腐食検査のための測定を行えば、その測定の信頼性を確保することができる。
【0020】
また、非測定時に接触部が小さくされているため、接触部の表面積は小さい。収納状態において、含水電解質材料を保持する接触部の乾燥が抑制される。次の測定時に、測定者が、湿潤状態を保った接触部を広げて展開状態にすれば、測定装置を用いて被検査物を測定できる。測定装置を使った測定の効率化が図られる。
【0021】
尚、接触部の収納状態は、接触部が折り曲げられて畳まれることにより小さくなった状態、又は、接触部が巻かれることにより小さくなった状態、としてもよい。
【0022】
前記腐食検査用測定装置は、前記接触部を挟んで前記被検査物とは逆側に位置しかつ、前記接触部を前記表面処理膜の表面に接触させると共に、前記接触部を展開状態に維持する維持部をさらに備えている、としてもよい。
【0023】
測定装置が測定を行っている最中に、維持部は、接触部を表面処理膜の表面に接触した状態に維持させる。測定装置は、電極と基材との間の通電状態を正確に測定できる。測定装置を用いた測定の信頼性が確保できる。
【0024】
前記維持部は、前記接触部を介して前記被検査物に吸着する磁石である、としてもよい。
【0025】
被検査物は金属製の基材を含むため、磁石は、その磁力によって、接触部を介して被検査物に吸着できる。磁石の使用は、接触部を表面処理膜に容易に接触させることができると共に、測定の間、その接触状態を維持できる。また、測定終了後に、測定者が磁石を取り外せば接触部は解放されるから、測定者は、接触部を展開状態から収納状態へ容易に切り替えることができる。
【0026】
前記接触部は、収納状態において巻かれかつ、展開状態において引き延ばされ、
前記接触部は、前記接触部に取り付けられた渦巻きバネを有し、
前記渦巻きバネは、前記接触部を巻くように付勢している、としてもよい。
【0027】
接触部は、非測定時に、渦巻きバネの付勢力によって強制的に巻かれる。非測定時の接触部の乾燥が抑制される。
【0028】
測定を行おうとする際に、測定者は、渦巻きバネの付勢力に抗して接触部を広げて展開状態にできる。測定者は、測定装置を使った被検査物の測定を速やかに開始することができる。また、測定が終了すれば、接触部は、渦巻きバネの付勢力によって、再び強制的に巻かれる。測定装置の後片付けは、容易である。
【0029】
前記の腐食検査用測定装置は、前記接触部を収納するハウジングをさらに備え、
前記接触部は、前記収納状態において前記ハウジングの中に収納され、前記展開状態において前記ハウジングの外まで広がる、としてもよい。
【0030】
展開状態において接触部が大きく広がるため、測定者は、接触部を、被検査物の表面処理膜の表面に接触させやすい。測定装置を用いた測定作業の作業性が高まる。
【0031】
また、非測定時に小さくされた接触部は、ハウジングの中に収納される。非測定時に接触部が乾燥することが抑制される。
【0032】
前記ハウジングは、開口を有し、
前記接触部は、前記開口を通じて広げられかつ小さくされる、としてもよい。
【0033】
測定装置を使用する測定者は、接触部をハウジングに出し入れしやすい。
【0034】
前記の腐食検査用測定装置は、前記ハウジングに取り付けられかつ、前記開口を開閉するカバーをさらに備え、
前記カバーは、非測定時に前記開口を閉じる、としてもよい。
【0035】
非測定時にカバーがハウジングの開口を閉じると、ハウジングが密閉される。非測定時に、ハウジングに収納された接触部の乾燥が抑制される。
【0036】
前記装置は、ポータブルであり、
前記の腐食検査用測定装置は、充放電可能な給電用のバッテリをさらに備え、
前記装置は、非測定時に、前記バッテリを充電する充電器に接続される、としてもよい。
【0037】
バッテリを備えた、ポータブルな測定装置は、場所の制約を受けずに、被検査物を測定できる。バッテリは非測定時に充電される。例えば整備工場において自動車の測定を行う場合、整備士は、測定装置を充電器から外して、測定対象の自動車へ運び、測定装置を当該自動車に取り付けて、その自動車の塗装金属板の測定を行うことができる。この測定装置は、塗装金属板が腐食する時期を予想したい、又は、腐食を早期に発見したいという、自動車のユーザーの要求を満たすことができる。
【発明の効果】
【0038】
以上説明したように、前記の腐食検査用測定装置を用いると、被検査物の腐食検査のための測定の信頼性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1図1は、腐食検査用測定装置を示している。
図2図2は、非測定時の測定装置を示している。
図3図3は、測定装置を含む、検査システムのブロック図である。
図4図4は、測定装置の充電状態を示している。
図5図5は、電極と塗装鋼板の基材との間に印加される電圧の変化(一点鎖線)、及び該電圧の印加に伴い電極と基材との間に流れる電流の変化(実線)を示している。
図6図6は、絶縁電圧と腐食抑制期間との相関関係を示している。
図7図7は、自動車に対する電極の接続箇所を例示している。
図8図8は、自動車に対する電極の接続箇所を例示している。
図9図9は、測定装置を用いた測定手順のフローチャートである。
図10図10は、測定値に基づく腐食検査のフローチャートである。
図11図11は、測定装置の変形例を示している。
図12図12は、測定装置の変形例を示している。
図13図13は、測定装置の変形例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、腐食検査用測定装置(以下、測定装置という)の実施形態について、図面を参照しながら説明する。ここで説明する測定装置は例示である。
【0041】
(測定装置、及び、検査システムの構成)
図1、2は、測定装置1を示している。図1の下図は、測定装置1を側方から見た場合の断面図である。図1の上図は、下図のA-A断面図である。図3は、測定装置1を含む検査システム10を示している。
【0042】
尚、以下の説明においては、説明の都合上、測定装置1の前後、左右、上下をそれぞれ、以下のように定める。つまり、図1の紙面右を前、紙面左を後として、紙面左右方向を前後方向とし、図1の上図の紙面上を左、下を右として、紙面上下方向を左右方向とし、図1の下図の紙面上を上、下を下として、紙面上下方向を上下方向とする。尚、これらの方向は、説明にのみ使用されるものであり、測定装置1の構造を限定するためには用いられない。
【0043】
測定装置1は、被検査物2の腐食の検査のための測定を行う。被検査物2は、一例として、自動車部品用の金属板である。自動車部品用の金属板は、金属製の基材と、基材の上の表面処理膜とを有している。金属製基材は、鋼板(高張力鋼板、又は、超高張力鋼板を含む)、又は、アルミニウム合金板であり、導電性を有している。表面処理膜は、樹脂製塗膜であり、絶縁性を有している。図例の被検査物2は、いわゆる塗装鋼板2である。塗装鋼板2は、図1の下図に示すように、基材としての鋼板21、該鋼板21上の化成皮膜22、及び、さらにその上の電着塗膜23を有している。化成皮膜22及び電着塗膜23はそれぞれ、表面処理膜である。尚、図1の塗装鋼板2は、その厚みを誇張して描いている。
【0044】
化成皮膜22は、腐食因子が直接、鋼板21に触れるのを防ぐとともに、化成皮膜22自身が反応し、鋼板21表面をアルカリ性環境にして錆を防ぐ役割を有している。化成皮膜22はまた、電着塗膜23と鋼板21との密着性を向上させる役割も有している。具体的に、化成皮膜22は、例えばクロメート化成皮膜又はリン酸亜鉛皮膜である。
【0045】
電着塗膜23は、高いつきまわり性と均一性とを有し、焼付工程後には高い耐食性を示すことにより、鋼板21を保護する役割を有している。具体的に、電着塗膜23は、例えばエポキシ樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料等である。
【0046】
測定装置1は、例えば整備工場において、ユーザーの自動車における塗装鋼板2の腐食を検査するための測定を行う。測定装置1は、特許第6436688号公報(特許権者:マツダ株式会社)に記載された耐食性評価装置の評価原理を利用している。測定装置1は、塗装鋼板2について、腐食が発生するまでの腐食抑制期間に関する測定を行う。この測定装置1は、塗装鋼板2が腐食する時期を予想したい、又は、腐食を早期に発見したいという、自動車のユーザーの要求を満たすことができる。
【0047】
(測定装置の構造)
測定装置1は、ポータブルである。測定装置1は、ハウジング11を備えている。後述する、測定装置1の各要素は、少なくとも非測定時には、ハウジング11の中に収納されている。整備士は、測定装置1を容易に持ち運ぶことができる。
【0048】
測定装置1は、接触部3、及び、測定部4を備えている。測定装置1はまた、情報処理装置5、カメラ61、湿潤センサ62、ヒータ63、温度センサ64、及び、バッテリ6を備えている。
【0049】
(接触部)
接触部3は、塗装鋼板2の電着塗膜23の表面に接触する。接触部3は、電着塗膜23と、後述する負電極41との間に介在する。尚、詳細は後述するが、負電極41は、接触部3の後部に対して電気的に接続される。
【0050】
接触部3は、保水性を有するシートである。接触部3は、含水電解質材料を保持する。シートである接触部3は、容易に変形をする柔軟性を有している。接触部3はまた、非導電性を有している。例えば天然繊維(例えば木綿)の布は、接触部3に求められる機能を全て満足できる。尚、接触部3は、天然繊維の布に限定されない。
【0051】
接触部3は、前後方向の長さが、左右方向の長さよりも長い、細長い形状である。接触部3は、図1に示すように、測定装置1が測定を行う場合には、広げられた展開状態になる。展開状態の接触部3は、電着塗膜23の表面に接触する。接触部3はまた、図2に示すように、測定装置1が測定を行わない場合には、小さくされた収納状態となる。より具体的に、接触部3は、接触部3の前部が、左右方向に延びる軸について巻かれることにより小さくされる(図1の下図の破線も参照)。
【0052】
図1の上図に示すように、接触部3の前部の表面には、渦巻きバネ31が貼り付けられている。渦巻きバネ31は、高弾性を有する金属製の薄い板材からなる。渦巻きバネ31は、接触部3の前部における右端と左端とのそれぞれに位置している。図1は、渦巻きバネ31が、引き延ばされた状態を示しており、この状態では、渦巻きバネ31は、前後方向に延びる。
【0053】
非測定時に、接触部3は、渦巻きバネ31の弾性復元力によって巻かれて、強制的に収納状態になる。収納状態では接触部3の表面積が小さいから、非測定時の接触部3の乾燥が抑制される。尚、詳細は後述するが、整備士は、測定装置1を使った測定を開始する際に、渦巻きバネ31の弾性復元力に抗して、接触部3の前部を前方へ引き延ばすことにより、接触部3を展開状態にする。整備士は、測定装置1を使った測定を速やかに開始することができる。
【0054】
尚、渦巻きバネ31は、接触部3の必須の要素ではない。渦巻きバネ31は、省略することもできる。
【0055】
含水電解質材料は、電解質溶液である。電解質溶液は、導電性を増加させるとともに、被検査物2の腐食因子としての役割を有している。含水電解質材料は、支持電解質を含む溶液であれば様々なものを使用することができる。具体的には例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、硝酸カリウム、リン酸カルシウム、酒石酸水素カリウム等の水溶液等を、含水電解質材料として使用することができる。本実施形態においては塩化ナトリウム水溶液を、含水電解質材料として使用する。保水性を有する接触部3は、塩化ナトリウム水溶液を保持している。つまり、木綿の布からなる接触部3は、少なくとも測定の最中に湿っている。
【0056】
尚、測定装置1は、接触部3とは別に、含水電解質材料を保持する保持部をさらに備えてもよい。保持部は、例えば多孔質部材によって構成してもよい。保持部が、含水電解質材料を、接触部3へ適宜供給すれば、接触部3は、測定の最中、含水電解質材料を保持できる。
【0057】
(ハウジング)
収納状態にある接触部3は、図2に示すように、ハウジング11の中に収納される。非測定時に接触部3が乾燥することが抑制される。
【0058】
ハウジング11は、図に示す構成例では、左右方向の幅よりも前後方向の長さが長い、略矩形箱状である。ハウジング11の形状は、特定の形状に限定されない。ハウジング11は、下部開口12と、前部開口13とを有している。下部開口12は、ハウジング11の下方へ開口している。前部開口13は、ハウジング11の前方へ開口している。
【0059】
整備士は、前部開口13及び下部開口12を通じて、収納状態にある接触部3を引き延ばしたり、展開状態にある接触部3を巻いてハウジング11の中へ入れたりする。ハウジング11の開口は、接触部3の展開と収納とを容易にする。図1に示すように、接触部3が展開状態になると、接触部3の前部は、ハウジング11の外まで広がる。
【0060】
前部開口13は、図2に矢印で示すように、前カバー14によって開閉される。前カバー14は、ヒンジ15を介して、ハウジング11に取り付けられている。前カバー14は、透明材料、例えばアクリル樹脂といった透明樹脂によって形成されてもよい。前カバー14が透明材料からなれば、ハウジング11の前部開口13が閉じられていても、整備士は、ハウジング11の中を、前カバー14を通じて視認できる。また、後述のカメラ61がハウジング11の中において接触部3を撮影する場合に、前カバー14が透明材料からなれば、撮影対象に光を当てることができる。尚、ハウジング11もまた、透明材料、例えばアクリル樹脂といった透明樹脂によって形成されてもよい。
【0061】
前カバー14の先端には、磁石16が取り付けられている。整備士は、測定装置1を用いて測定を開始する際に、前カバー14を開けて前部開口13を開放させ、接触部3を前方へ引き延ばした後、前カバー14を閉じる。図1に示すように、磁石16は、展開状態にある接触部3の上に位置する。磁石16は、塗装鋼板2に対して磁力によって吸着する。磁石16は、渦巻きバネ31の弾性復元力によって収納状態へ戻ろうとする接触部3の前部を、塗装鋼板2の上に押さえ付ける。測定装置1が測定を行っている最中に、接触部3は、塗装鋼板2の電着塗膜23の表面に接触した状態に維持される。測定装置1は、接触部3が表面処理膜22、23に接触した状態を維持しながら、負電極41と鋼板21との間の通電状態を正確に測定できる。磁石16は、維持部の一例である。磁石16の使用は、接触部3を表面処理膜22、23に容易に接触させることができ、その接触状態を容易に維持することができる。また、磁石16の使用は、測定終了後に、接触状態に維持された接触部3を容易に解放することができる。
【0062】
ハウジング11には、下カバー17が取り付けられている。下カバー17は、ハウジング11の下部開口12を開閉する。下カバー17は、図1に示すように、測定中は、下部開口12を開放し、非測定時は、図2に示すように、下部開口12を閉じる。接触部3は、測定中に、ハウジング11の下部開口12を通じて、表面処理膜22、23に接触できる。
【0063】
下カバー17は、ハウジング11の下部開口12の形状に対応するよう、左右方向よりも前後方向に長くなった細長い形状である。下カバー17は、容易に変形をする柔軟性を有しているシートである。下カバー17は、図1に示すように、測定装置1が測定を行っている間は、左右方向に延びる軸について巻かれて、ハウジング11の後部に位置している。下カバー17は、図2に示すように、測定装置1が測定を行っていない間は、前方に向かって引き延ばされることにより、下部開口12を閉じる(図2の矢印を参照)。
【0064】
下カバー17は、下部開口12を閉じた状態において、ハウジング11の中ができるだけ気密になるよう、通気性を有しない材料、例えば軟質ポリ塩化ビニルによって構成されてもよい。ハウジング11の中が気密になれば、ハウジング11に収納された接触部3の乾燥が抑制される。
【0065】
ここで、下カバー17の先端に、磁性体が取り付けられてもよい。図2に示すように、下カバー17が下部開口12を閉じた際に、下カバー17の先端の磁性体は、前カバー14の磁石16に吸着することができる。これにより、前カバー14及び下カバー17の両方が、閉じた状態に維持される。
【0066】
(測定部)
測定部4は、電気化学測定を行う。測定部4は、負電極41と正電極42とを有している。負電極41は、接触部3を介して電着塗膜23に電気的に接続される。正電極42は、鋼板21に電気的に接続される。測定部4は、負電極41と鋼板21との間に電圧を印加させながら、負電極41と鋼板21との間の通電状態を測定する。具体的に測定部4には、ポテンショ/ガルバノスタットが使用可能である。
【0067】
負電極41は、図1に示すように、接触部3の後部に接続されている。負電極41は、この構成例では、側面視で反転したL字状を有している。負電極41は、接触部3の上に置かれている。上下に重なった負電極41と接触部3は、一対の磁石18によって、上下方向に挟まれている。一対の磁石18は、負電極41と接触部3とを密着させることにより、測定時に、負電極41と接触部3との接続状態を維持する。負電極41は、接触部3を介し電着塗膜23に電気的に接続される。
【0068】
後述するように、例えば接触部3が劣化した場合、整備士は、接触部3を交換する。接触部3は、一対の磁石18によって保持されているため、整備士は、磁石18を取り外すことによって、接触部3の交換を容易に行うことができる。
【0069】
尚、測定装置1は、一対の磁石18に代えて、負電極41と接触部3と狭持するクランプを有してもよい。クランプもまた、測定時に負電極41と接触部3との接続状態を維持できると共に、接触部3の交換が容易である。
【0070】
一対の磁石18のうち、下側の磁石は、測定装置1の測定時に、下部開口12を通じてハウジング11の下方へ露出している。下側の磁石は、負電極41と接触部3とを狭持する機能の他にも、測定装置1の測定時に塗装鋼板2に吸着することにより、磁石16と共に、測定装置1を塗装鋼板2に固定する機能を有している。
【0071】
一対の磁石18の内、上側の磁石は磁力が相対的に強い磁石とし、下側の磁石は磁力が相対的に弱い磁石としてもよい。こうすることで、一対の磁石18は、負電極41と接触部3とを強い力で狭持することができる。その一方で、下側の磁石は、被検査物2である自動車の塗装鋼板2に対する吸着力が弱いため、塗装鋼板2の表面に傷等が付くことを抑制できる。
【0072】
正電極42は、この構成例ではワニ口クリップ(アリゲータクリップ)によって構成されている。ワニ口クリップは、後述するように、塗装鋼板2において、化成皮膜22及び電着塗膜23が除去されて、鋼板21が露出した箇所を挟む(図1の下図参照)。これにより正電極42は、鋼板21に電気的に接続される。尚、正電極42は、ワニ口クリップに限らない。
【0073】
(情報処理装置)
情報処理装置5は、測定部4により負電極41と鋼板21との間に印加される電圧を制御する制御部としての機能を有している。情報処理装置5はまた、測定部4の測定値を、装置の外部に出力する出力部としての機能を有している。情報処理装置5は、図3に示すように、出力部としての通信部51と、同じく出力部としての記憶部52とを有している。
【0074】
通信部51は、例えばWi-Fi又はブルートゥース(登録商標)といった、近距離無線通信により通信を行う。通信部51は、直接又は間接に、検査センタ7及び管理システム8との間で、情報の授受を行う。測定装置1と、検査センタ7又は管理システム8との間に、中継装置が介在してもよい。尚、検査センタ7は、測定装置1から測定値を集めて、被検査物2の腐食状態を判断する。検査センタ7は後で説明する。
【0075】
管理システム8は、整備工場の管理を行う。管理システム8には、監視カメラ81が接続されている。監視カメラ81は、自動車の腐食検査のための測定を行う場所に設置されている。後述するように、監視カメラ81が撮影した画像に基づいて、管理システム8は、測定装置1を使った測定が行われることを判断できる。
【0076】
通信部51は、検査センタ7へ、測定部4の測定値を含む様々な情報を送信する。通信部51が送信する情報の詳細は、後で説明する。
【0077】
記憶部52は、情報処理装置5に着脱可能に装着される記憶媒体53を有している。記憶媒体53は、例えば不揮発性メモリを含むメモリカードとしてもよい。記憶媒体53は、外部の装置、例えばパーソナルコンピュータによって、情報を読み込み可能であることが好ましい。
【0078】
記憶部52は、測定部4の測定値を含む様々な情報を、記憶媒体53へ書き込む。記憶媒体53へ書き込まれる情報は、後述する通信部51が送信する情報と同じ、又は、ほぼ同じである。整備士が、記憶媒体53を情報処理装置5から取り外すことによって、測定部4の測定値が、装置の外部に出力されることと等価になる。
【0079】
情報処理装置5はまた、操作部54を有している。操作部54は、整備士が操作を行う。整備士は、操作部54の操作を通じて、測定装置1を使った測定を開始させかつ、その測定を終了させる。
【0080】
(カメラ、湿潤センサ、ヒータ、温度センサ、バッテリ)
カメラ61は、レンズとイメージセンサとを含んで構成されている。カメラ61は、動画像を撮影する。図1に例示するように、カメラ61はハウジング11の中に設置されている。カメラ61は、接触部3の上方に位置している。カメラ61は、例えば図1に二点鎖線で示す範囲を撮影する。カメラ61の撮影範囲は、接触部3の前部から、前後方向の中間部までの範囲である。カメラ61の撮影範囲には、磁石16が接触部3を押さえている箇所が少なくとも含まれる。また、カメラ61の撮影範囲には、磁石16が接触部3を押さえておらずかつ、湿潤センサ62、ヒータ63及び温度センサ64が設置されていない箇所、換言すれば接触部3そのものが露出している箇所が含まれる。
【0081】
カメラ61は、少なくとも測定中の、接触部3の状態を撮影している。接触部3の状態には、接触部3自体の劣化状態、及び、接触部3と電着塗膜23との接触状態が含まれる。この測定装置1では、磁石16によって接触部3が電着塗膜23に接触している箇所と、接触部3と負電極41とが接触している箇所とが、前後方向に離れている。このため、カメラ61は、測定中に、接触部3の状態を撮影することができる。カメラ61の撮影画像は、後述するように、測定装置1の測定が正しく行われていることを確認するために用いられる。
【0082】
カメラ61は、情報処理装置5に接続されている。カメラ61は、撮影した動画像を、情報処理装置5へ出力する。
【0083】
湿潤センサ62は、接触部3の中間部に設置されている。湿潤センサ62は、接触部3の湿潤状態に関する信号を、情報処理装置5へ出力する。湿潤センサ62は、例えば水分を検知すると共に、その水分量に応じたレベルの信号を情報処理装置5へ出力してもよいし、水分量が所定以上である場合に信号を情報処理装置5へ出力してもよい。湿潤センサ62の信号に基づけば、測定装置1の測定中に、接触部3が乾燥せずに、十分な含水電解質材料を保持していることが把握できる。
【0084】
ヒータ63も、接触部3の前後方向の中間部に設置されている。ヒータ63は、例えばラバーヒータやフィルムヒータとしてもよい。ヒータ63は、情報処理装置5によって、その動作が制御される。ヒータ63は、含水電解質材料及び塗装鋼板2の測定箇所の温度を、所定の温度帯に調整する機能を有している。ヒータ63は、少なくとも含水電解質材料が凍らない温度に、接触部3の温度を維持する。含水電解質材料等の温度を所定の温度帯にすることは、測定装置1の測定値の信頼性を高めて、腐食検査の確度を高めることができる。
【0085】
温度センサ64は、接触部3の中間部に設置されている。温度センサ64は、接触部3の温度に関する信号を、情報処理装置5へ出力する。温度センサ64は、温度に応じたレベルの信号を情報処理装置5へ出力してもよいし、所定温度以上である場合に信号を情報処理装置5へ出力してもよい。温度センサ64の信号に基づけば、測定装置1の測定中に、含水電解質材料を保持している接触部3が凍結していないことが把握できる。
【0086】
バッテリ6は、充放電可能な二次電池である。バッテリ6からの給電によって、測定部4は、測定時に被検査物2に電圧を印加する。この他にも、バッテリ6は、情報処理装置5、カメラ61、湿潤センサ62、ヒータ63、及び、温度センサ64へ電力を供給する。バッテリ6を備えた測定装置1は、場所の制約を受けずに、被検査物2の測定ができる。
【0087】
バッテリ6は、測定装置1の非測定時に充電される。図4は、充電器9がバッテリ6を充電している状態を示している。
【0088】
測定装置1は、充電用コネクタ19を備えている。充電用コネクタ19は、充電器9に接続される。充電器9は、図4に例示するように、測定装置1の後端部が差し込まれるソケット91を有していてもよい。整備士は、前述したように、接触部3をハウジング11に収納させてハウジング11の下部開口12及び前部開口13を閉めた測定装置1を、ソケット91に差し込めば、充電器9に接続された電源92からの電力により、バッテリ6を充電することができる。
【0089】
(検査センタ)
検査センタ7は、測定装置1から、測定値の情報を収集する。検査センタ7は、整備工場に設置されていてもよいし、整備工場から離れた場所に設置されていてもよい。検査センタ7は、複数の測定装置1のそれぞれから、測定値を収集してもよい。検査センタ7は、一つの整備工場における複数の測定装置1から測定値を収集する以外にも、複数の整備工場それぞれにおける、一つ又は複数の測定装置1から測定値を収集してもよい。検査センタ7が測定値を収集する対象の整備工場は、特定の地域における整備工場としてもよい。そうすることによって、類似した使用環境において使用されている、様々なユーザーの自動車について、検査センタ7は、腐食に関する測定値を、効率良く収集することができる。
【0090】
検査センタ7に設置されたコンピュータ72は、収集した測定値の情報に基づいて、被検査物2の腐食状態を判断する。この判断についての詳細は、後述する。コンピュータ72はまた、カメラ61の撮影画像に基づいて、測定に用いられた接触部3の劣化の判断も行う。検査センタ7は、測定を行った整備士が持っている端末71へ、通信によって、判断結果を送信する。端末71は、少なくとも、通信機能と表示機能とを有している。端末71は、例えばスマートフォン又はタブレットであってもよい。整備士は、端末71が受信した判断結果を、ユーザーに伝えることができる。
【0091】
検査センタ7は、データベース73を備えている。データベース73には、収集された測定値等の情報が蓄積される。また、データベース73は、接触部3の劣化の判断のために利用される情報も記憶している。コンピュータ72は、データベース73の情報に基づいて、接触部3の劣化も判断する。
【0092】
(腐食検査の原理)
前述したように、測定装置1の負電極41は、含水電解質材料を保持している接触部3を介して塗装鋼板2の電着塗膜23の表面に電気的に接続され、正電極42は、鋼板21に接続される(図1の下図参照)。そして、情報処理装置5の制御のもとで、測定部4は、負電極41と鋼板21との間に電圧を印加させながら、負電極41と鋼板21との間の通電状態を測定する。
【0093】
このとき、測定部4は、図5に一点鎖線で示すように、電圧を、時間に対して徐々に高めながら印加する。印加電圧の掃引速度は、具体的には例えば、0.1~10V/sの範囲であり、より好ましくは0.5~2V/sである。測定部4は、印加電圧に対して、負電極41と鋼板21との間に流れる電流を検出する。
【0094】
図5において実線で示すように、両者間の電流は印加電圧を上昇させても、時刻tに電圧値Vとなるまではほとんど流れない。しかし、電圧値Vを超えると電流量が急激に増加し、電圧値V(時刻t)において電流量は閾値Aに到達する。
【0095】
これは、電圧値Vに至るまでは表面処理膜22、23における腐食因子としての含水電解質材料の遮断性能が維持されており、電流量が抑えられているものの、(1)印加電圧の上昇が表面処理膜22、23への腐食因子の浸透を助ける、又は、(2)表面処理膜22、23が徐々に破壊され、腐食因子が表面処理膜22、23の内部へ徐々に浸透し、やがて鋼板21の表面に到達した、ことにより、電流量が急激に増加したことを示している。換言すると、電圧の印加に伴い腐食因子の表面処理膜22、23への浸透が促され、腐食因子が鋼板21の表面に到達したことにより、表面処理膜22、23は絶縁破壊され、その遮断性能は失われたといえる。
【0096】
そして、電流量が閾値Aに達したときの電圧値Vを絶縁電圧とすると、絶縁電圧Vとなる時間tは、腐食因子が鋼板21に到達するまでの期間、すなわち鋼板21の腐食抑制期間に対応すると考えられる。
【0097】
図6は、鋼板21の表面上に化成皮膜22、及び、電着塗膜23を形成した塗装鋼板2について、腐食促進試験である複合サイクル試験により得られた腐食抑制期間と、測定装置1の測定に得られた絶縁電圧Vと、の相関関係を示している。
【0098】
なお、複合サイクル試験は、試験片に対し、塩水噴霧工程(8時間)、乾燥工程(8時間)、及び、湿潤工程(8時間)の各工程を24時間1サイクルとして施す試験である。腐食抑制期間は、試験片表面の20%に塗膜膨れ(錆)が形成されたサイクル数である。
【0099】
図6において、E1~E4に示す4点は、それぞれ電着塗膜23の膜厚が5μm、7μm、10μm、及び15μmの塗装鋼板2において、焼付条件150℃・20分のものを示す。また、E5,E6,E3の3点は、電着塗膜23の膜厚10μmの塗装鋼板2において、焼付条件をそれぞれ、140℃・15分、140℃・20分、及び150℃・20分としたものを示す。図6に示すように、前記の点は電着塗膜23の膜厚及び焼付条件が変化しても回帰直線に沿ったものであり、その決定係数Rは0.83であることから、腐食抑制期間と絶縁電圧Vとの間には高い相関関係があると言える。
【0100】
従って、塗装鋼板2の表面処理膜22,23の絶縁電圧Vを測定することにより、塗装鋼板2の耐食性を評価することができる。
【0101】
ここで、整備工場においてユーザーの自動車の塗装鋼板2の腐食を検査する場合、絶縁電圧Vまで電圧を高めてしまうと、ユーザーの自動車の塗装鋼板2における表面処理膜22、23が絶縁破壊をしてしまう。つまり、検査のために、ユーザーの自動車の塗装鋼板2を劣化させてしまう。そこで、測定装置1の測定部4は、表面処理膜22、23が劣化しておらずかつ、鋼板21が腐食していない塗装鋼板2についての絶縁電圧V未満、好ましくは、電流量が増加する電圧値V未満の最大電圧を予め定めておき、負電極41と鋼板21との間に印加する電圧を、当該最大電圧まで徐々に増大させる。測定部4は、印加電圧に対して、負電極41と鋼板21との間に流れる電流を検出する。
【0102】
塗装鋼板2における表面処理膜22、23が劣化していない場合は、表面処理膜22、23における腐食因子の遮断性能が維持されているため、印加電圧を上昇させても負電極41と鋼板21との間に電流はほとんど流れない。それに対し、表面処理膜22、23が劣化している場合は、表面処理膜22、23における腐食因子の遮断性能が低下しているため、印加電圧を上昇させると腐食因子が浸透しやすい。つまり、前記の最大電圧以下の印加電圧であっても、負電極41と鋼板21との間に電流が流れやすい。また、表面処理膜22、23がさらに劣化していて、塗装鋼板2が既に腐食していると、表面処理膜22、23が既に絶縁破壊している、又は、前記の最大電圧以下の印加電圧であっても、表面処理膜22、23の絶縁破壊が生じて、電流量が閾値Aに達し得る。従って、測定装置1が測定した電流値に基づけば、表面処理膜22、23の劣化状態、乃至、塗装鋼板2の腐食状態を判断できる。
【0103】
つまり、この測定装置1は、塗装鋼板2の鋼板21と表面処理膜22、23表面との間に、電圧を増大させながら印加し、鋼板21と表面処理膜22、23表面との間の電流量を測定する。検査センタ7は、その測定値に基づいて、塗装鋼板2が腐食する時期を予想したり、又は、腐食を早期に発見したりできる。
【0104】
ここで、前述した測定に際し、接触部3及び塗装鋼板2の温度は10~40℃において一定に保持されていることが好ましい。温度は、より好ましくは、20~30℃、特に好ましくは、23~27℃である。ヒータ63は、接触部3を介して塗装鋼板2に接触しているため、測定の間、塗装鋼板2及び接触部3の温度を、特定の温度に維持することができる。
【0105】
(測定装置の取り付け手順)
次に、測定装置1の、塗装鋼板2の測定箇所への取り付け手順を説明する。整備士は先ず、測定装置1を充電器9から取り外し、下カバー17を巻き取ることによって下部開口12を開放させると共に、前カバー14を回動させて前部開口13を開放させる。そして、収納状態にある接触部3を、手で引き延ばす。接触部3は、下部開口12及び/又は前部開口13を通じて、ハウジング11の外まで広がる。ハウジング11の下部開口12及び前部開口13の両方が開放されているため、整備士は、接触部3を容易に引き出すことができる。
【0106】
整備士は次いで、接触部3を、塗装鋼板2の電着塗膜23に接触させた状態にして、前カバー14を閉じる。これにより、磁石16を塗装鋼板2に吸着させる。接触部3が、磁石16と電着塗膜23との間に挟まれる。また、一対の磁石18も、塗装鋼板2に吸着させる。測定装置1は、磁石16、18によって、塗装鋼板2の上に、動かないように置かれる。
【0107】
展開状態において、接触部3がハウジング11の外にまで大きく広がるため、整備士は、接触部3を、塗装鋼板2の表面処理膜22、23の表面に接触させやすい。測定装置1を用いた測定作業の作業性が高まる。
【0108】
また、測定中は、接触部3の大部分と負電極41とがハウジング11に覆われているため、整備士が不用意に、接触部3又は負電極41に触れてしまうことが抑制できる。
【0109】
正電極42は、塗装鋼板2の鋼板21に接続される。整備士は、例えば図1に示すように、塗装鋼板2の化成皮膜22及び電着塗膜23の一部を削り取ることにより露出させた鋼板21に、正電極42を接続してもよい。
【0110】
(測定箇所の例示)
測定装置1を用いた塗装鋼板2の腐食検査のための測定は、自動車の様々な箇所について行うことができる。
【0111】
一例として、図7は、自動車20のドア201を被検査物とする例を示している。この場合、測定装置1の負電極41は、ドア201の内側のインナーパネル203に電気的に接続されてもよい。測定装置1の正電極42は、一例として、ボンネットヒンジ204に接続されてもよい。より具体的に、整備士は、ボンネットヒンジ204の表面処理膜22、23を剥がして鋼板21を露出させて、正電極42としてのワニ口クリップを、ボンネットヒンジ204に接続してもよい。自動車20の外観に現れにくい箇所に、負電極41及び/又は正電極42を接続することが、ユーザーの自動車20に対して行う検査として好ましい。尚、測定のために表面処理膜22、23を剥がした箇所は、測定後に補修すればよい。
【0112】
図8は、別の例として、自動車20のサスペンションアーム205を被検査物とする例を示している。測定装置1の負電極41は、サスペンションアーム205の下面に接続されてもよい。この場合の下面は、サスペンションアーム205が自動車20に取り付けられている状態において、下を向く面である。測定装置1は、磁石16、18によって、サスペンションアーム205の下面に対して、上下逆さまに取り付けることができる。
【0113】
測定装置1の正電極42は、一例として、サスペンションアーム205の上面に接続されてもよい。より具体的には、サスペンションアーム205の上面の表面処理膜22、23を剥がして鋼板21を露出させて、正電極42としてのワニ口クリップを、サスペンションアーム205の上面に接続してもよい。ワニ口クリップは、対象物を挟むことができるため、サスペンションアーム205の上面の縁207に取り付けやすい。尚、測定装置1の測定後に、表面処理膜22、23を剥がした箇所を、補修する点は、前記と同じである。
【0114】
整備工場において自動車20の塗装鋼板2の腐食検査を行う場合、例えばサイドシル、サブフレーム、サスペンションアームといった部品毎に複数の測定点を定めて、測定を行ってもよい。複数の測定点の測定値を考慮することによって、各部品の腐食状態を正確に判断できる。
【0115】
また、測定点には、例えば溶接された個所を含めてもよい。溶接された箇所は、その溶接時のスパッタ等に起因して、表面処理膜22、23が劣化しやすい場合がある。表面処理膜22、23が劣化しやすい箇所を、腐食検査のための測定点に含めることは、塗装鋼板2の腐食を未然に防止する上で有利である。
【0116】
(検査システムにおける検査手順)
次に、検査システム10による、検査手順について、図9及び10のフローチャートを参照しながら、詳細に説明をする。図9のフローチャートは、測定装置1を使って、自動車の塗装鋼板2の腐食検査のための測定を行う手順に関係する。尚、図9のフローチャートにおいて、可能な範囲でステップの順番を入れ替えたり、一部のステップを省略したり、ステップを追加したりしてもよい。
【0117】
まずスタート後のステップS91において、測定装置1の情報処理装置5は、測定装置1が充電器9から取り外されたか否かを判断する。情報処理装置5は、充電用コネクタ19と充電器9との接続状態に基づいて、測定装置1が充電器9から取り外されたか否かを判断してもよい。
【0118】
ステップS91の判断がNoの場合、測定装置1は、ステップS911において、バッテリ6の充電を行う。続くステップS912において、測定装置1は、バッテリ6の充電が完了したか否かを判断する。ステップS912の判断がNoの場合、プロセスはステップS91へ戻る。ステップS912の判断がYesの場合、プロセスはリターンする。
【0119】
ステップS91の判断がYesの場合、測定装置1のカメラ61は撮影を開始する。カメラ61が、測定装置1の測定前から測定中も継続して撮影を行う。測定前から開始されたカメラ61の撮影画像は、測定装置1の測定が正しく行われていることの確認に用いることができるから、測定装置1を使った測定の信頼性を確保できる。
【0120】
尚、整備士は、測定装置1を充電器9から取り外した後、前述したように、収納状態の接触部3を引き出して展開状態にし、測定装置1を、自動車20の測定箇所へ取り付ける。整備士は、測定前に、接触部3の状態を確認できる。例えば接触部3が変色する等して劣化している場合、整備士は、接触部3を新たな接触部3に交換する。尚、接触部3は、所定回数の測定を行う度に、交換されてもよい。接触部3は、一対の磁石18によって挟持されているため、整備士は、接触部3の交換を容易に行うことができる。また、接触部3が乾燥している場合、つまり、接触部3が含水電解質材料を十分に保持していない場合、整備士は、接触部3に含水電解質材料を保持させる。
【0121】
測定装置1が負電極41と鋼板21との間の通電状態の測定する際に、含水電解質材料を保持する接触部3に劣化がないこと、及び、接触部3の湿潤状態が維持していることが、測定の精度を確保して、正確な測定を実現するために必要である。
【0122】
測定前に、整備士が、収納状態の接触部3を広げて接触部3の状態を確認するため、測定装置1は、正確に測定を行うことができる。
【0123】
尚、整備士が接触部3を交換した場合、整備士は、測定装置1を充電器9に一旦接続し、再度、充電器9から取り外してもよい。こうすることで、カメラ61は、適切なタイミングで撮影を開始できる。
【0124】
整備士は、前述した手順に従って測定装置1を塗装鋼板2の測定箇所へ取り付ける。ステップS93において、測定装置1は、整備士が操作部54を操作することにより測定開始の操作が行われたか否かを判断する。ステップS93の判断がNoの場合、プロセスはステップS93を繰り返す。測定装置1は、操作が行われることを待つ。ステップS93の判断がYesの場合、測定装置1の測定部4は、前述したように、負電極41と鋼板21との間に電圧を印加し、負電極41と鋼板21との間の電流及び電圧を測定する(ステップS94)。
【0125】
ステップS95において、測定装置1は電圧を上昇させ、続くステップS96において、測定装置1は、印加電圧が、最大電圧を超えたか否かを判断する。前述したように、最大電圧は、絶縁電圧未満の電圧に予め設定されている。尚、最大電圧は、被検査物2としての部品の種類にかかわらず一律の電圧であってもよいし、部品毎に異なる電圧であってもよい。最大電圧が部品毎に異なる電圧である場合、整備士は、測定開始前に、操作部54を通じて測定対象の部品を特定する入力を行えばよい。そうすることによって測定装置1は、部品に対応した最大電圧を負電極41と鋼板21との間に印加することができる。
【0126】
ステップS96において印加電圧が最大電圧を超えていない場合、プロセスはステップS97へ進む。印加電圧が最大電圧を超えた場合、プロセスは、測定を終了するためステップS98へ進む。
【0127】
ステップS97において、測定装置1は、測定した電流値に基づいて、塗装鋼板2の表面処理膜22、23について絶縁破壊が生じたか否かを判断する。電流値が閾値Aに達した場合、測定装置1は、絶縁破壊が生じたと判断する。ステップS97の判断がNoの場合、プロセスはステップS94へ戻る。測定装置1は、印加電圧を上昇させながら、電流値及び電圧値の測定を継続する。ステップS97の判断がYesの場合、測定を終了するため、プロセスはステップ98へ進む。
【0128】
ステップS98において、測定装置1の測定部4は、電流及び電圧の測定を終了すると共に、カメラ61は、撮影を終了する。続くステップS99において、測定装置1の情報処理装置5は、測定部4の測定値とカメラ61の撮影画像とを対応付けて検査センタ7へ送信する。測定中に、印加電圧が時間の経過に対して次第に高まっている(つまり、変化している)ため、測定装置1は、測定値と撮影画像とを、時間経過について対応づけて送信する。測定装置1はまた、測定時における、湿潤センサ62の信号に基づく接触部3の湿潤状態に関する情報、及び、温度センサ64の信号に基づく接触部3の温度に関する情報も検査センタ7へ送信する。
【0129】
測定値及び撮影画像の送信後、整備士は、測定装置1を自動車20から取り外し、接触部3を収納状態にした上で、ハウジング11の中へ収納する。その後、整備士は、測定装置1を充電器9に接続する。測定装置1は、充電器9に取り付けられたか否かを判断する。測定装置1は、充電用コネクタ19と充電器9との接続状態に基づいて、測定装置1が充電器9から取り付けられたか否かを判断してもよい。ステップ910の判断がNoの場合、プロセスはステップS910を繰り返す。ステップS910の判断がYesの場合、プロセスはステップS911へ進む。測定装置1は、バッテリ6の充電を行う。
【0130】
こうして、測定装置1を使った測定が完了する。
【0131】
尚、ステップS98において電流及び電圧の測定及び撮影を終了した後、又は、ステップS99において検査センタ7情報を送信した後に、測定装置1を使った他の測定箇所の測定を継続して行ってもよい。複数の測定箇所の測定を継続して行う場合には、必要に応じて、適宜のタイミングで、接触部3の交換が行われてもよい。
【0132】
図10は、検査センタ7における処理に関するフローチャートである。図10のフローチャートも、可能な範囲でステップを入れ替えたり、一部のステップを省略したり、ステップを追加したりしてもよい。
【0133】
まずステップS101において、検査センタ7のコンピュータ72は、測定装置1から測定値を受信したか否かを判断する。受信していない場合、プロセスはステップS101を繰り返す。受信した場合、プロセスはステップS102へ進む。
【0134】
ステップS102において、コンピュータ72は、受信した情報に基づいて解析を行う。この解析において、コンピュータ72は、測定値と共に受信したカメラ61の撮影画像に基づいて、測定が正しく行われたか否かを判断する。コンピュータ72は、測定が正しく行われたか否かを判断する際に、接触部3の湿潤状態及び温度に関する情報を考慮する。測定が正しく行われていた場合、コンピュータ72は、測定された電流値に基づいて塗装鋼板2の腐食状態を判断する。
【0135】
ステップS103において、コンピュータ72は、解析結果を、測定を行った整備士の端末71へ送信する。その後、コンピュータ72は、ステップS104において、今回受信した測定値を、データベース73に蓄積する。
【0136】
ここで、検査センタ7から解析結果を受けた整備士の端末71には、例えば図10に例示する画面711~713が表示される。画面711は、塗装鋼板2が腐食に関して問題を有していない場合の画面の例示である。この画面711には、解析結果として「OK」が記され、理由として「最大電圧が印加されても絶縁破壊が生じない」が記され、状況として「本日から**年間は、錆が発生しないと予測」と記されている。
【0137】
画面712には、解析結果として「NG」が記され、理由として「**ボルトが印加されると絶縁破壊が発生」が記されている。整備士は、これらの情報を自動車のユーザーに伝える。
【0138】
画面713には、解析結果として「エラー」が記され、理由として「接触部が劣化と判定」が記されている。この場合は、測定が正確に行われていないため、整備士は、測定装置1を使って、改めて測定を行う。
【0139】
コンピュータ72は、例えばカメラ61の撮影画像に基づいて、公知の画像解析技術を使うことによって接触部3の劣化を判断できる。具体的に、接触部3である布は、劣化すると色が付着する。コンピュータ72は、カメラ61の撮影画像に基づいて、接触部3の着色面積を算出し、その着色面積の割合が所定よりも大きい場合は、接触部3が劣化していると判断してもよい。
【0140】
コンピュータ72はまた、次の場合は、測定不良と判断してもよい。(1)例えばカメラ61の撮影画像に基づいて、画像上における接触部3の面積割合が所定以下の場合、接触部3が十分に広げられていない、又は、接触部3と電着塗膜23との接触状態が不良の可能性があるため、測定不良と判断する。(2)測定中に、接触部3が、(一瞬でも)電着塗膜23から剥がれたことが、カメラ61の撮影画像から認識できた場合、測定不良と判断する。(3)カメラ61の撮影画像の日時データと、測定部4の測定値の日時データとが不一致である場合、カメラ61の撮影画像と測定部4の測定値とが対応していないとして、測定不良と判断する。(4)温度センサ64の信号に基づいて接触部3の温度が低温(例えば0℃以下)の場合、接触部3が凍結しているとして、測定不良と判断する。(5)湿潤センサ62の信号に基づいて接触部3が乾燥している場合、測定時に含水電解質材料が不存在であるとして、測定不良と判断する。
【0141】
測定が正確に行われていない場合に、検査システム10は、前述したように、整備士に再測定を促す。この検査システム10は、正確な測定及び正確な検査を実現できる。
【0142】
(まとめ)
以上説明したように、測定装置1は、測定時に広げられて表面処理膜22、23の表面に接触する展開状態と、非測定時に小さくされた収納状態と、に切り替わる接触部3を備えている。測定を行う際に接触部3は収納状態から展開状態へ切り替わるから、接触部3に劣化がないこと、及び、接触部3が湿潤状態を維持していることが整備士によって確認される。その確認後に、測定が行われるから、測定装置1は、腐食検査のための測定を正確に行うことができる。
【0143】
また、非測定時に接触部3が小さくされているため、接触部3の表面積は小さい。収納状態において、含水電解質材料を保持する接触部3の乾燥が抑制される。次の測定時に、整備士が湿潤状態を保った接触部3を広げて展開状態にすれば、測定装置1は、塗装鋼板2についての測定を行うことができる。測定装置1を使った測定作業の効率化が図られる。
【0144】
また、測定装置1は、カメラ61を備えている。カメラ61は、接触部3が表面処理膜22、23の表面に接触している状況を撮影する。カメラ61の撮影画像に基づけば、接触部3に劣化がないこと、及び、測定中に、接触部3が表面処理膜22、23の表面に接触していることを確認できる。
【0145】
さらに、測定装置1は、出力部としての通信部51及び記憶部52を備えている。測定部4の測定値とカメラ61の撮影画像とが対応付けて出力されるから、測定が正確に行われたことが、測定場所とは別の場所において、又は、測定時の後のタイミングにおいて、確認でき、測定の信頼性が確保できる。
【0146】
また、測定部4の測定値とカメラ61の撮影画像とが、時間について対応するから、測定が正しく行われたことが確認できる。
【0147】
その結果、例えば整備工場において、測定装置1を用いて自動車の塗装鋼板2の腐食検査のための測定を行った場合に、その測定の信頼性を確保することができる。測定装置1を用いることによって、塗装鋼板2が腐食する時期を予想したい、又は、塗装鋼板2の腐食を早期に発見したいという、自動車のユーザーの要求を満たすことができる。
【0148】
(変形例)
尚、前記の構成では、測定装置1の測定値に基づいて、検査センタ7が被検査物2の腐食状態を判断しているが、測定装置1の情報処理装置5が、カメラ61の撮影画像等に基づいて測定不良か否かを判断すると共に、測定値に基づいて被検査物2の腐食状態を判断してもよい。この場合、測定装置1が、整備士の端末71へ、解析結果を送信すればよい。
【0149】
また、測定部4が、電流値及び電圧値を表示するモニタを備え、カメラ61は、測定中に、接触部3の状況と共に、モニタに表示された電流値及び電圧値を撮影してもよい。
【0150】
また、図9のステップS91において、測定装置1が充電器9から取り外されたことに基づいて、カメラ61は撮影を開始しているが、これに代えて、管理システム8が、監視カメラ81の撮影画像に基づいて、測定装置1を所持している整備士が検査対象の自動車に接近したことを判断して、接近信号を測定装置1へ送信してもよい。測定装置1が接近信号を受信した場合に、カメラ61が撮影を開始してもよい。また、整備士が、適宜のタイミングで、カメラ61の撮影を手動で開始させてもよい。
【0151】
図11は、測定装置1の変形例を示している。前述した測定装置1では、負電極41が接触部3の後部において接触部3に対して電気的に接続されていた。これとは異なり、負電極は、ワニ口クリップ43によって構成されてもよい。ワニ口クリップ43は、L字状の負電極41に電気的に接続されている。尚、L字状の負電極41は、接触部3とは接続していない。
【0152】
展開状態の接触部3の先端は、被検査物2に形成された穴24の縁に巻き付けられている。ワニ口クリップ43は、穴24の縁を挟むことによって、接触部3を間に挟んで電着塗膜23の表面に、電気的に接続できる。尚、穴24は、例えば前述したドア201のインナーパネル203に形成された水抜き穴202であってもよい(図7参照)。また、穴24は、サスペンションアーム205に形成された穴206であってもよい(図8参照)。ワニ口クリップ43の使用は、負電極41と被検査物2の表面処理膜22、23との電気的な接続を、より容易にかつ、適切に行うことができる。また、ワニ口クリップ43の使用は、接触部3を表面処理膜22、23の表面に固定できる。ワニ口クリップ43は、接触部3を表面処理膜22、23の表面に接触させると共に、接触部3を展開状態に維持する維持部の一例である。
【0153】
接触部3は、前述したように、左右方向に延びる軸について巻かれることにより小さくされる他にも、図12に例示されるように、折り曲げられて畳まれることにより小さくされてもよい。折り畳まれた接触部3は、ハウジング11の中に収納でき、表面積が小さくなることと相まって、接触部3の乾燥が抑制できる。
【0154】
下カバー17は、柔軟性を有するシートに限らず、例えば図13に示すように、ハウジング11の下部に着脱可能に取り付けられる蓋形状のカバー170であってもよい。
【符号の説明】
【0155】
1 測定装置
11 ハウジング
12 下部開口
13 前部開口
14 前カバー
16 磁石(維持部)
17 下カバー
2 塗装鋼板(被検査物)
21 鋼板(基材)
22 化成皮膜(表面処理膜)
23 電着塗膜(表面処理膜)
3 接触部
31 渦巻きバネ
4 測定部
41 負電極
43 ワニ口クリップ(維持部)
51 通信部(出力部)
52 記憶部(出力部)
53 記憶媒体
6 バッテリ
61 カメラ
7 検査センタ(外部)
9 充電器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12
図13