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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057408
(43)【公開日】2024-04-24
(54)【発明の名称】積層ゴム支承装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/04 20060101AFI20240417BHJP
   F16F 1/40 20060101ALI20240417BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20240417BHJP
   E01D 19/04 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
F16F15/04 P
F16F1/40
E04H9/02 331A
E01D19/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164119
(22)【出願日】2022-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【弁理士】
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】津田 知英
(72)【発明者】
【氏名】桐子 竜二
(72)【発明者】
【氏名】三品 聡洋
【テーマコード(参考)】
2D059
2E139
3J048
3J059
【Fターム(参考)】
2D059AA37
2D059GG12
2E139AA01
2E139AC06
2E139AC19
2E139AC20
2E139BA20
2E139BD35
2E139CA02
2E139CB05
2E139CB15
3J048AA01
3J048BA08
3J048BB02
3J048DA01
3J048EA38
3J059AB11
3J059BA43
3J059BC04
3J059BC06
3J059BC13
3J059DA03
3J059GA42
(57)【要約】
【課題】支持性能を低下させることなく、減衰機能を有する積層ゴム支承装置を提供することを目的とする。
【解決手段】ゴム板材32と円形鋼板31とが交互に積層され、接着されて一体化された積層ゴム支承装置1において、円形鋼板31同士の間に、少なくとも一方の円形鋼板31の表面と摺動する滑り部材33を設け、リング状ゴム板材32bにおける平面視内側に、滑り部材33を配置する配置空間Sを設け、配置空間Sに滑り部材33を配置した。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム板材と剛性板材とが交互に積層され、接着されて一体化された積層ゴム支承装置であって、
前記剛性板材同士の間に、少なくとも一方の前記剛性板材の表面と摺動する滑り部材が設けられ、
前記ゴム板材における平面視内側に、前記滑り部材を配置する配置空間が設けられ、
該配置空間に前記滑り部材が配置された
積層ゴム支承装置。
【請求項2】
前記滑り部材が、両方の前記剛性板材の表面と摺動する
請求項1に記載の積層ゴム支承装置。
【請求項3】
最上段の前記ゴム板材の上側と、最下段の前記ゴム板材の下側にフランジ部材が設けられ、
最上段の前記ゴム板材と最下段の前記ゴム板材とは配置空間を有さない
請求項1に記載の積層ゴム支承装置。
【請求項4】
前記滑り部材は、
充填材が混入された充填材入り樹脂で構成された
請求項1に記載の積層ゴム支承装置。
【請求項5】
前記剛性板材が、前記ゴム板材より平面視外側に突出する
請求項1に記載の積層ゴム支承装置。
【請求項6】
積層された前記剛性板材及び前記ゴム板材の側周面を覆う、ゴム製の被覆ゴムが設けられた
請求項1に記載の積層ゴム支承装置。
【請求項7】
前記滑り部材は、無負荷状態の前記ゴム板材の厚みよりわずかに低く形成された
請求項1乃至請求項6のうちいずれかに記載の積層ゴム支承装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、上部構造物と下部構造物との間に配置し、下部構造物で上部構造物を支持する支持構造において、ゴム板材と剛性板材とが交互に積層され、接着されて一体化された積層ゴム支承装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、上部構造物と下部構造物との間に配置し、下部構造物で上部構造物を支持する支持構造において、ゴム板材と剛性板材とが交互に積層され、接着されて一体化された積層ゴム支承装置が用いられている。
【0003】
このような積層ゴム支承装置は、ゴム板材により上載荷重を支持するとともに、上部構造物と下部構造物とが水平方向に相対移動すると剛性板材に接着されたゴム板材が変形し、復元力として作用させることができる。
【0004】
しかしながら、このような積層ゴム支承装置は振動の減衰効果はなく、滑り支承装置やダンパーなどの減衰機能を有する装置と併用する必要があった。そこで、特許文献1に示すように、ゴム板材と剛性板材とが交互に積層され、接着されて一体化された積層ゴム支承装置の中心部に、減衰性を有するプラグを装着したものが提案されている。このように、積層ゴム支承装置の中心部に装着したプラグにより、減衰機能を付加することができるとされている。
しかしながら、中心に装着したプラグには支持性能がないため、上載荷重を支持するゴム板材がプラグによって減った分、支持性能が低下することとなった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-133481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明では、支持性能を低下させることなく、減衰機能を有する積層ゴム支承装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、ゴム板材と剛性板材とが交互に積層され、接着されて一体化された積層ゴム支承装置であって、前記剛性板材同士の間に、少なくとも一方の前記剛性板材の表面と摺動する滑り部材が設けられ、前記ゴム板材における平面視内側に、前記滑り部材を配置する配置空間が設けられ、該配置空間に前記滑り部材が配置されたことを特徴とする。
【0008】
前記剛性板材は、例えば、鋼板など耐久性及び所定の強度を有する板材であればよい。
前記配置空間は、前記滑り部材の平面視形状と略一致する空間であってもよいし、前記滑り部材の平面視形状よりひと回り大きな空間であってもよい。
【0009】
この発明により、支持性能を低下させることなく、減衰機能を備えることができる。
詳述すると、ゴム板材と剛性板材とが交互に積層され、接着されて一体化された支持機能及び復元機能を有する積層ゴム支承装置における前記剛性板材同士の間に、少なくとも一方の前記剛性板材の表面と摺動する滑り部材が設けられている。そのため、例えば、積層ゴム支承装置を下部構造物と上部構造物の間に配置した状態で構造物同士が水平方向に相対移動すると、滑り部材が剛性板材と摺動し、減衰効果を奏することができる。
【0010】
また、前記ゴム板材における平面視内側に、前記滑り部材を配置する配置空間が設けられ、該配置空間に前記滑り部材が配置されているため、つまり滑り部材の外周側がゴム板材で囲われているため、滑り部材が不用意に脱落することを防止できる。
【0011】
さらに、ゴム板材の平面視内側に設けた配置空間に配置した滑り部材は、前記ゴム板材より圧縮強度が高いため、ゴム板材と滑り部材とが協働して上載荷重を支持できるため、支持性能を低下させることなく、減衰効果を奏することができる。
また、前記滑り部材の摺動面積及び摺動面の摩擦係数のうち少なくとも一方を調整することで所望の減衰効果を奏する積層ゴム支承装置を構成することができる。
【0012】
この発明の態様として、前記滑り部材が、両方の前記剛性板材の表面と摺動してもよい。
この発明により、より高い減衰効果を奏することができる。詳述すると、滑り部材の両表面が前記剛性板材と摺動するため、片面だけが摺動する場合に比べて摺動面積が増大し、より高い減衰効果を奏することができる。
【0013】
またこの発明の態様として、最上段の前記ゴム板材の上側と、最下段の前記ゴム板材の下側にフランジ部材が設けられ、最上段の前記ゴム板材と最下段の前記ゴム板材とは配置空間を有さなくてもよい。
この発明により、所望の減衰性能を有する積層ゴム支承装置を構成することができる。
【0014】
詳しくは、最上段の前記ゴム板材と最下段の前記ゴム板材とは配置空間を有さないため、前記フランジ部材と前記剛性板材との間には、前記滑り部材が配置されない。前記剛性板材とフランジ部材とでは摩擦係数が異なるため、前記フランジ部材と前記剛性板材との間に前記滑り部材を配置すると、積層ゴム支承装置全体での減衰性能の調整が困難となる。これに対し、前記滑り部材が前記フランジ部材と摺動しないため、前記滑り部材の摺動面積及び摺動面の摩擦係数のうち少なくとも一方と剛性板材の摩擦係数とを調整することで、積層ゴム支承装置全体で所望の減衰効果を奏することができる。
【0015】
またこの発明の態様として、前記滑り部材は、充填材が混入された充填材入り樹脂で構成されてもよい。
この発明により、所望の摩擦係数を有するとともに、所望の圧縮強度を有する前記滑り部材を構成することができる。
【0016】
またこの発明の態様として、前記剛性板材が、前記ゴム板材より平面視外側に突出してもよい。
この発明により、前記滑り部材と剛性板材との摺動によって生じる熱を剛性板材における前記ゴム板材より平面視外側に突出する部分から放熱することができる。そのため、滑り部材と前記剛性板材との摩擦係数が熱によって変化することを抑制し、所望の減衰性能を有する積層ゴム支承装置を構成することができる。
【0017】
またこの発明の態様として、積層された前記剛性板材及び前記ゴム板材の側周面を覆う、ゴム製の被覆ゴムが設けられてもよい。
この発明により、積層された前記剛性板材及び前記ゴム板材が露出することを防止でき、前記剛性板材及び前記ゴム板材の劣化を抑制し、耐久性のある積層ゴム支承装置を構成することができる。
【0018】
またこの発明の態様として、前記滑り部材は、無負荷状態の前記ゴム板材の厚みよりわずかに低く形成されてもよい。
前記ゴム板材の厚みとは、積層方向の長さ、あるいは高さともいう。
【0019】
この発明により、所望の減衰機能と支持機能とを確実に備えることができる。
【0020】
詳しくは、上述したように、上載荷重を前記滑り部材と前記ゴム板材とで協働して支持するものの、上載荷重が作用すると、前記滑り部材及び前記ゴム板材は厚み方向に圧縮される。しかしながら、前記ゴム板材と前記滑り部材とを同じ高さで形成すると、圧縮強度が高い前記滑り部材に対して前記ゴム板材が大きく圧縮し、前記滑り部材に対して上載荷重が集中することになる。
【0021】
それに対し、前記滑り部材の高さを、無負荷状態の前記ゴム板材の厚みよりわずかに低く形成することで、上載荷重が作用した際に前記滑り部材に比べて前記ゴム板材が大きく圧縮され、前記滑り部材と前記ゴム板材とが略同じ高さとなり、前記滑り部材と前記ゴム板材とで協働して上載荷重を支持することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、支持性能を低下させることなく、減衰機能を有する積層ゴム支承装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】積層ゴム支承装置の斜視図。
図2】積層ゴム支承装置の分解斜視図。
図3】積層ゴム支承装置の説明図。
図4】積層ゴム支承装置の説明図。
図5】別の実施形態の積層ゴム支承装置の斜視図。
図6】別の実施形態の積層ゴム支承装置の概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
図1は積層ゴム支承装置1の斜視図を示し、図2は積層ゴム支承装置1の分解斜視図を示し、図3は積層ゴム支承装置1の説明図を示し、図4は積層ゴム支承装置1の説明図を示している。
【0025】
詳述すると、積層ゴム支承装置1の斜視図を示す図1では手前側の一部を切り欠いて断面を図示している。また、図1では、積層ゴム支承装置1における積層ゴム部3の側周面を覆う被覆ゴム4を透過状態で図示している。
積層ゴム支承装置1の分解斜視図を示す図2では、各要素の手前側の一部を切り欠いて断面を図示している。また、図2では、積層ゴム部3も一部分解して図示している。
【0026】
積層ゴム支承装置1の説明図を示す図3では、図3(a)に無負荷状態の積層ゴム支承装置1の断面図を示し、図3(b)に構造物100に設置した状態の積層ゴム支承装置1の断面図を示し、図3(c)は、図3(a)のA-A矢視断面図を示している。
また、図3(d)は図3(a)に示すa部の拡大図を示し、図3(e)は図3(b)に示すb部の拡大図を示し、図3(f)は図3(c)に示すc部の拡大図を示している。
【0027】
積層ゴム支承装置1の説明図を示す図4(a)では、構造物100に設置され、下部構造物101に対して左方向に上部構造物102が相対移動した状態の積層ゴム支承装置1の断面図を示し、図4(b)では、下部構造物101に対して右方向に上部構造物102が相対移動した状態の積層ゴム支承装置1の断面図を示している。また、図4(c)は図4(a)に示すa部の拡大図を示し、図4(d)は図4(b)に示すb部の拡大図を示している。
【0028】
積層ゴム支承装置1は、構造物100における下部構造物101と上部構造物102との間に装着され、上部構造物102の荷重を支持する支持機能を有し、下部構造物101と上部構造物102とが水平方向に相対移動した際に、下部構造物101と上部構造物102とを元の位置に向かって復元する復元機能とを有する支承装置である。さらに、積層ゴム支承装置1は、積層ゴム支承装置1に入力される地震動などの外力を減衰する減衰機能を備えている。
【0029】
詳述すると、積層ゴム支承装置1は、構造物100に取り付けるフランジ2(2a,2b)と、フランジ2同士の間に配置される積層ゴム部3と、積層ゴム部3の側周面を覆う被覆ゴム4とを備え、全体として略円柱状に形成している。
【0030】
構造物100に取り付けるフランジ2は、平面視円形で所定厚みを有する金属製で略円盤状の板材である。なお、フランジ2は下部構造物101の上面に取り付ける下フランジ2aと、上部構造物102の底面に取り付ける上フランジ2bとがある。
【0031】
積層ゴム部3は、フランジ2同士の間に配置され、フランジ2よりひと回り小さな円柱状に形成されており、積層ゴム支承装置1の支持機能、復元機能及び減衰機能を担う構成部分であり、その詳細な構造については後述する。なお、積層ゴム部3は、フランジ2と接着されて一体化している。
【0032】
被覆ゴム4は、フランジ2よりひと回り小さな円柱状に形成された積層ゴム部3の側周面の全体を覆うものであり、可撓性を有するゴムシートを巻き回して筒状に形成している。これにより、積層ゴム部3が露出することを防止している。
【0033】
積層ゴム支承装置1の支持機能、復元機能及び減衰機能を担う構成部分である積層ゴム部3について以下で詳しく説明する。
積層ゴム部3は、円形鋼板31、ゴム板材32(32a,32b)及び滑り部材33を備え、円形鋼板31とゴム板材32とを交互に上下方向に積層してフランジ2よりひと回り小さな円柱状に形成している。
【0034】
円形鋼板31は、フランジ2よりひと回り小さな円形状の鋼製板材であり、適宜の厚みで形成し、複数枚備えている。
ゴム板材32は、所定の厚みを有するゴム製であり、円形鋼板31と同じ外径で形成し、積層ゴム支承装置1の支持機能及び復元機能を担っている。なお、復元機能を担うゴム板材32は、外力に対する変形性能を要するため、円形鋼板31より厚い所定の厚みで形成している。
【0035】
ゴム板材32は、積層ゴム部3における最上段及び最下段に配置される円盤状ゴム板材32aと、積層ゴム部3における高さ方向の中間部分に配置されるリング状ゴム板材32bとがある。
円盤状ゴム板材32aは、上述したように、積層ゴム部3における最上段及び最下段に配置され、所定の厚みを有するゴム製であり、円形鋼板31と同径の円盤状に形成している。
【0036】
リング状ゴム板材32bは、上述したように、積層ゴム部3における高さ方向の中間部分に配置され、所定の厚みを有するゴム製である。リング状ゴム板材32bは、円形鋼板31と同じ外径と、後述する滑り部材33を配置する平面視円形状の配置空間S(図2参照)を平面視中央に有する平面視円形リング状に形成している。
なお、円盤状ゴム板材32aとリング状ゴム板材32bとは、同じ厚みで形成してもよいし、異なる厚みで形成してもよい。
【0037】
滑り部材33は、リング状ゴム板材32bの配置空間Sに配置される円盤状に形成されている。
滑り部材33は、円形鋼板31と摺動して積層ゴム支承装置1の減衰機能を担うため、充填材が混入された充填材入り樹脂で構成されている。
【0038】
より詳しくは、滑り部材33は、自己潤滑性を有するとともに、表面が低摩擦係数のPTFE製の円盤状体であり、ガラス繊維を充填材として10~20%の配合比率で含んだ充填材入りPTFE製である。
【0039】
なお、充填材入りPTFE製である滑り部材33は、配置空間Sを有するリング状ゴム板材32bの内径よりひと回り小さな外径で形成するとともに、無負荷状態のリング状ゴム板材32bの厚みより高さが低い円盤状で形成している。
【0040】
そのため、滑り部材33は、配置空間Sにおいて、水平方向に移動可能であるとともに、図3(d)に示すように、構造物100に装着する前の積層ゴム支承装置1において、リング状ゴム板材32bの上面より凹む態様となる。
【0041】
なお、滑り部材33は、積層ゴム支承装置1で支持する上部構造物102の重量によるが、構造物100に積層ゴム支承装置1を装着した状態で、上部構造物102の上載荷重が作用して、リング状ゴム板材32bが上下方向に圧縮された際に、圧縮されたリング状ゴム板材32bの上面と滑り部材33の上面とが略一致する高さとなるように設定されている。例えば、無負荷状態のリング状ゴム板材32bの厚みに対して滑り部材33の高さを90%~95%程度に設定している。
【0042】
このように各要素を構成した積層ゴム部3は、配置空間Sに滑り部材33を配置したリング状ゴム板材32bの上下に円形鋼板31を配置し、リング状ゴム板材32bと円形鋼板31とを接着して一体化する。そして、これを繰り返し、配置空間Sに滑り部材33を配置したリング状ゴム板材32bと円形鋼板31とを上下方向に交互に積層する。そして、最上段と最下段に円盤状ゴム板材32aを配置し、上下方向に隣接する円形鋼板31と接着して、全体として一体化された積層ゴム部3が構成される。
【0043】
このように構成された積層ゴム部3では、最上下段の円盤状ゴム板材32a、円形鋼板31及びリング状ゴム板材32bとは接着されて一体化されているものの、滑り部材33は、リング状ゴム板材32bや円形鋼板31と接着されていない。そのため、滑り部材33は、上下方向の両側に円形鋼板31が配置されているものの、リング状ゴム板材32bの配置空間Sにおいて移動可能に配置されている。
【0044】
そして、この状態では、図3(d)に示すように、無負荷状態のリング状ゴム板材32bの厚みより高さが低い円盤状で形成した滑り部材33の底面は、下側の円形鋼板31の上面と接しているが、上側の円形鋼板31と滑り部材33の上面との間にクリアランスが生じることとなる。
【0045】
このようにして、円形鋼板31、ゴム板材32及び滑り部材33を組み付けた積層ゴム部3における最上段の円盤状ゴム板材32aの上面を上フランジ2bの底面に接着するとともに、積層ゴム部3における最下段の円盤状ゴム板材32aの底面を下フランジ2aの上面に接着して、フランジ2と積層ゴム部3とを一体化する。さらに、フランジ2と一体化された積層ゴム部3の外側にゴム製シートを巻き回して被覆ゴム4を取付け、積層ゴム支承装置1の組付けは完了する。
【0046】
そして、組付けられた積層ゴム支承装置1を構造物100に装着すると、支持機能、復元機能及び減衰機能を有する支承装置として機能することができる。
詳述すると、積層ゴム支承装置1における下フランジ2aを下部構造物101の上面に取り付け、上フランジ2bを上部構造物102の底面に取り付けることで、構造物100に積層ゴム支承装置1を装着することができる。
【0047】
なお、本実施形態の説明では、構造物100に対してひとつの積層ゴム支承装置1を装着するように説明しているが、上部構造物102の重量等に応じて、適宜の間隔を隔てて適宜の数の積層ゴム支承装置1を装着することとなる。
【0048】
このように、構造物100に積層ゴム支承装置1を装着すると、上部構造物102の重量が積層ゴム支承装置1に対して上載荷重として作用する。
上載荷重が作用した積層ゴム支承装置1では,支持機能を担うゴム板材32が上下方向に圧縮される。ゴム板材32が圧縮されると、配置空間Sに滑り部材33が配置されたリング状ゴム板材32bが圧縮されて、リング状ゴム板材32bの厚みが滑り部材33の厚みと一致し、滑り部材33の上面が上側の円形鋼板31の底面と接触することとなる(図3(e)参照)。
【0049】
この状態では、滑り部材33の上面と底面の両面が円形鋼板31と摺動可能に接触することとなる。
そして、積層ゴム支承装置1が装着された構造物100において地震動等の水平方向の外力が作用すると、図4に示すように、下部構造物101に対して上部構造物102が水平方向に相対移動する。
【0050】
下部構造物101に対して上部構造物102が水平方向に相対移動すると、フランジ2を介して下部構造物101及び上部構造物102に上下方向が固定されたフランジ2は、図4(a),(b)に示すように、積層ゴム部3におけるゴム板材32が水平方向に変形することとなる。
【0051】
したがって、水平方向に変形したゴム板材32の弾性力がフランジ2を介して下部構造物101及び上部構造物102に対して、水平方向の変形を解消する方向、つまり変形方向と逆向きの復元力として作用することができる。
【0052】
また、水平方向にリング状ゴム板材32bが変形すると、リング状ゴム板材32bの配置空間Sに配置された滑り部材33もリング状ゴム板材32bの変形に伴って水平方向に移動する。
上述したように、滑り部材33の上下方向の両面が円形鋼板31と接しているため、滑り部材33の移動によって円形鋼板31と摺動する。円形鋼板31と滑り部材33とが摺動すると、その摺動面の摩擦によって、水平方向の外力を減衰することができる。この円形鋼板31と滑り部材33との摺動は、外力による変形時、そして、ゴム板材32による復元時にも起こり、そのたびに減衰することができる。
【0053】
上述のように、ゴム板材32と円形鋼板31とが交互に積層され、接着されて一体化された積層ゴム支承装置1は、円形鋼板31同士の間に、円形鋼板31の表面と摺動する滑り部材33が設けられ、リング状ゴム板材32bにおける平面視内側に、滑り部材33を配置する配置空間Sが設けられ、配置空間Sに滑り部材33が配置されているため、支持性能を低下させることなく、減衰機能を備えることができる。
【0054】
詳述すると、ゴム板材32と円形鋼板31とが交互に積層され、接着されて一体化された積層ゴム支承装置1における円形鋼板31同士の間に、円形鋼板31の表面と摺動する滑り部材33が設けられている。そのため、支持機能と復元機能とを有する積層ゴム支承装置1を構造物100の間に装着した状態で下部構造物101と上部構造物102とが水平方向に相対移動すると、滑り部材33が円形鋼板31と摺動し、減衰効果を奏することができる。
【0055】
また、リング状ゴム板材32bにおける平面視内側に、滑り部材33を配置する配置空間Sが設けられ、配置空間Sに滑り部材33が配置されているため、つまり滑り部材33の外周側がリング状ゴム板材32bで囲われているため、滑り部材33が不用意に脱落することを防止できる。
【0056】
さらに、リング状ゴム板材32bの平面視内側に設けた配置空間Sに配置した滑り部材33は、リング状ゴム板材32bより圧縮強度が高いため、リング状ゴム板材32bと滑り部材33とが協働して上載荷重を支持でき、支持性能を低下させることなく、減衰効果を奏することができる。
また、滑り部材33の摺動面積及び摺動面の摩擦係数のうち少なくとも一方を調整することで所望の減衰効果を奏する積層ゴム支承装置1を構成することができる。
【0057】
また、滑り部材33が、両方の円形鋼板31の表面と摺動しているため、より高い減衰効果を奏することができる。
詳述すると、滑り部材33の両表面が円形鋼板31と摺動するため、滑り部材33の片面だけが摺動する場合に比べて摺動面積が増大し、より高い減衰効果を奏することができる。
【0058】
なお、リング状ゴム板材32bの平面視内側の配置空間Sに配置した滑り部材33の平面視形状を大きく形成すると、配置空間Sを大きく形成することとなり、リング状ゴム板材32bは小さくなる。しかしながら、リング状ゴム板材32bの平面視内側が大きくなり、平面視外側形状が変わらないため、平面視径外側を小さく形成する場合に比べて面積変化量は小さくなる。逆に、滑り部材33の平面視形状を大きくしても、リング状ゴム板材32bと同様に滑り部材33の面積変化量も大きくないものの、両面が摺動面であるため、摺動面積としての面積変化量は2倍になり、減衰性能を大きく向上させることができる。
【0059】
また、円盤状ゴム板材32aの上側と、円盤状ゴム板材32aの下側にフランジ2(2a,2b)が設けられ、円盤状ゴム板材32aに配置空間Sを設けていないため、フランジ2(2a,2b)と円形鋼板31との間には、滑り部材33が配置されず、所望の減衰性能を有する積層ゴム支承装置1を構成することができる。
【0060】
詳述すると、円形鋼板31とフランジ2とでは摩擦係数が異なるため、フランジ2と円形鋼板31との間に滑り部材33を配置すると、積層ゴム支承装置1の全体での減衰性能の調整が困難となる。これに対し、フランジ2と摺動する滑り部材33を設けていないため、滑り部材33の摺動面積及び摺動面の摩擦係数のうち少なくとも一方と円形鋼板31の摩擦係数とを調整することで、積層ゴム支承装置1の全体で所望の減衰効果を奏することができる。
【0061】
また、滑り部材33は、充填材が混入された充填材入り樹脂で構成されているため、所望の摩擦係数を有するとともに、所望の圧縮強度を有する滑り部材33を構成することができる。
なお、滑り部材33に混入する充填材としては、例えばガラス繊維などが想定され、その混入量は、樹脂材に対して10~20%程度が好ましい。これにより、所望の摺動性を有するととともに、充填材が混入されているため、所定の圧縮強度を有する滑り部材33を構成することができる。
【0062】
例えば、樹脂材に対して混入するガラス繊維が10%より少ない場合、所望の圧縮強度が得られず、逆に、樹脂材に対して20%より多くガラス繊維が樹脂材に対して混入されると、摺動性が低減することとなる。
【0063】
また、積層された円形鋼板31及びリング状ゴム板材32bの側周面を覆う、ゴム製の被覆ゴム4が設けられているため、積層された円形鋼板31及びリング状ゴム板材32bが露出することを防止でき、円形鋼板31及びゴム板材32の劣化を抑制し、耐久性のある積層ゴム支承装置1を構成することができる。
【0064】
また、滑り部材33は、無負荷状態のリング状ゴム板材32bの厚みよりわずかに低く形成、具体的には、無負荷状態のリング状ゴム板材32bの厚みより5~10%程度低く形成されているため、所望の減衰機能と支持機能とを確実に得ることができる。
【0065】
詳しくは、上述したように、上載荷重を滑り部材33とリング状ゴム板材32bとで協働して支持するものの、上載荷重が作用すると、滑り部材33及びリング状ゴム板材32bは厚み方向に圧縮される。しかしながら、圧縮強度が高い滑り部材33に対してリング状ゴム板材32bの圧縮量は大きくなるため、滑り部材33とリング状ゴム板材32bとを同じ高さで形成すると、滑り部材33に対して上載荷重が集中することになる。
【0066】
それに対し、滑り部材33の高さを、無負荷状態のリング状ゴム板材32bの厚みよりわずかに低く形成することで、上載荷重が作用した際に滑り部材33に比べてリング状ゴム板材32bが大きく圧縮され、滑り部材33とリング状ゴム板材32bとが略同じ高さとなり、滑り部材33とリング状ゴム板材32bとで協働して上載荷重を支持することができる。
【0067】
なお、上述の説明では、円形鋼板31とゴム板材32の外径を同径とし、積層ゴム部3の側周面を被覆ゴム4で覆ったが、図5及び図6に示すように、ゴム板材32と積層する円形鋼板31aをゴム板材32より大径に形成し、ゴム板材32より径外側に突出するように構成してもよい。
【0068】
図5は円形鋼板31aがゴム板材32より径外側に突出する積層ゴム支承装置1aの斜視図を示し、図6は構造物100に設置した状態の積層ゴム支承装置1aの断面図を示している。
詳述すると、積層ゴム支承装置1aの斜視図を示す図5では手前側の一部を切り欠いて断面を図示している。
【0069】
積層ゴム支承装置1aにおける円形鋼板31aは、ゴム板材32よりひと回り大きく、フランジ2よりひと回り小さな外径で形成している。
これにより、積層ゴム支承装置1aは、上述した積層ゴム支承装置1における効果に加え、円形鋼板31aが、ゴム板材32より平面視外側に突出しているため、滑り部材33と円形鋼板31aとの摺動によって生じる熱を円形鋼板31aにおけるゴム板材32より平面視外側に突出する部分から放熱することができる。そのため、滑り部材33と円形鋼板31aの摩擦係数が熱によって変化することを抑制し、所望の減衰性能を有する積層ゴム支承装置1aを構成することができる。
【0070】
以上、本発明の構成と、前述の実施態様との対応において、本発明のゴム板材はゴム板材32(32a,32b)に対応し、
以下同様に、
剛性板材は円形鋼板31,31aに対応し、
積層ゴム支承装置は積層ゴム支承装置1,1aに対応し、
滑り部材は滑り部材33に対応し、
配置空間は配置空間Sに対応し、
最上段のゴム板材及び最下段のゴム板材は円盤状ゴム板材32aに対応し、
フランジ部材はフランジ2に対応し、
被覆ゴムは被覆ゴム4に対応するも、上記実施形態に限定するものではない。
【0071】
例えば、上述の説明では、上部構造物102と下部構造物101との間に積層ゴム支承装置1を配置した構造物100について説明したが、橋脚を下部構造物とし、主桁を上部構造物とする橋梁、ビルを下部構造物とし、ビルとビルとを連絡する渡り廊下を上部構造物とする連絡通路、柱を下部構造物とし、トラス屋根を上部構造物とする屋根構造、あるいは、ビルを上部構造物とし、別のビルを下部構造物とするエキスパンション構造における構造物、あるいは、サーバを上部構造物とし、ラックを下部構造物とする構造物とし、それらの可動部分に積層ゴム支承装置1,1aを設けた免震構造を構築してもよい。
【0072】
また、円形鋼板31は、鋼製板材でなくても、所定の摩擦係数と、耐久性及び所定の強度を有する板材であればよい。
さらにまた、上述の説明では、配置空間Sは滑り部材33の平面視形状よりひと回り大きな空間であったが、滑り部材33の平面視形状と略一致する空間であってもよい。
【符号の説明】
【0073】
1,1a…積層ゴム支承装置
2…フランジ
4…被覆ゴム
31,31a…円形鋼板
32…ゴム板材
32a…円盤状ゴム板材
32b…リング状ゴム板材
33…滑り部材
S…配置空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6