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  • -膜電極接合体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057421
(43)【公開日】2024-04-24
(54)【発明の名称】膜電極接合体
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1004 20160101AFI20240417BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20240417BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
H01M8/1004
H01M8/10 101
H01M4/86 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164146
(22)【出願日】2022-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 駿介
(72)【発明者】
【氏名】喜多尾 典之
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018AS02
5H018EE17
5H018HH00
5H126AA02
5H126BB06
5H126GG17
5H126JJ00
(57)【要約】
【課題】本開示の課題は、発電性能かつ耐久性に優れる膜電極接合体を提供することを提供することである。
【解決手段】本実施形態は、固体高分子電解質膜、前記固体高分子電解質膜の一方の面上に配置されたアノード触媒層、及び前記固体高分子電解質膜の他方の面上に配置されたカソード触媒層を有する膜電極接合体であって、前記アノード触媒層が、電極触媒と、スルホン酸基を有するアイオノマーと、セリウムイオン及びマンガンイオンから選択される金属イオンと、前記金属イオンと抱接化合物を形成できるホスト化合物と、を少なくとも含み、前記ホスト化合物の分子量が、300以上である、膜電極接合体である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜、前記固体高分子電解質膜の一方の面上に配置されたアノード触媒層、及び前記固体高分子電解質膜の他方の面上に配置されたカソード触媒層を有する膜電極接合体であって、
前記アノード触媒層が、電極触媒と、スルホン酸基を有するアイオノマーと、セリウムイオン及びマンガンイオンから選択される金属イオンと、前記金属イオンと抱接化合物を形成できるホスト化合物と、を少なくとも含み、
前記ホスト化合物の分子量が、300以上である、膜電極接合体。
【請求項2】
前記ホスト化合物が、環状構造を有するクラウンエーテル化合物であり、前記環状構造の環員数が15以上である、請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項3】
前記ホスト化合物が、芳香族環又は脂肪族環を有するクラウンエーテル化合物である、請求項2に記載の膜電極接合体。
【請求項4】
前記クラウンエーテル化合物が、ジベンゾ-15-クラウン-5-エーテル、ベンゾ-18-クラウン-6-エーテル、ジベンゾ-18-クラウン-6-エーテル、ベンゾ-21-クラウン-7-エーテル、ジベンゾ-21-クラウン-7-エーテル、ベンゾ-24-クラウン-8-エーテル、ジベンゾ-24-クラウン-8-エーテル、シクロヘキサノ-18-クラウン-6-エーテル、シクロヘキサノ-21-クラウン-7-エーテル、シクロヘキサノ-24-クラウン-8-エーテル、ジシクロヘキサノ-18-クラウン-6-エーテル、ジシクロヘキサノ-21-クラウン-7-エーテル、ジシクロヘキサノ-24-クラウン-8-エーテル、及びこれらの化合物の芳香族環又は脂肪族環が、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基、ホルミル基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のヒドロキシアルキル基、炭素数2~7のカルボキシアルキル基、及び炭素数6~14のアリール基から選択される少なくとも1種の置換基により置換された化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である、請求項3に記載の膜電極接合体。
【請求項5】
前記アイオノマーが、パーフルオロスルホン酸ポリマーである、請求項1~4のいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、膜電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料ガスと酸化剤ガスとの電気化学反応によって発電する燃料電池として、固体高分子型燃料電池が注目されている。固体高分子型燃料電池は、室温作動が可能であり、出力密度も高いため、自動車用途等に適した形態として、活発に研究されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池は、一般に、電解質膜である固体高分子電解質膜と、固体高分子電解質膜の一方の面上に配置されたアノード触媒層と、固体高分子電解質膜の他方の面上に配置されたカソード触媒層とを有する膜電極接合体(「MEA」とも称す)を備える。アノード触媒層は、燃料極として機能し、カソード触媒層は、空気極として機能する。MEAの両面には、さらにガス拡散層が配置されることもあり、この形態は、膜電極ガス拡散層接合体(「MEGA」とも称す)と呼ばれる。
【0004】
各電極は、触媒層を含み、触媒層では、触媒層中に含まれる電極触媒によって電極反応が生じる。電極反応を生じさせるためには、電解質、触媒及び反応ガスの三相が共存する三相界面が必要であるため、触媒層は、一般に、触媒及び電解質を含む。また、ガス拡散層は、触媒層への反応ガスの供給及び電子の授受を行うための層であり、多孔質かつ電子伝導性を有する材料が用いられる。
【0005】
ここで、固体高分子型燃料電池では、発電時に、触媒層において、水と酸素から過酸化水素(H)が生成されたり、過酸化水素から水酸化ラジカル(・OH)が生成されたりすることがある。この過酸化水素及び水酸化ラジカルは、固体高分子電解質膜や触媒層中に含まれるアイオノマー等の電解質樹脂を劣化させる原因となる。
【0006】
そこで、セリウムイオン等のラジカルクエンチ剤をMEA中に含有させることにより、燃料電池の発電中に発生する過酸化水素ラジカルを無害化させる技術が提案されている。酸化水素ラジカルの無害化とは、例えば、過酸化水素ラジカルからの水への反応である。
【0007】
例えば、非特許文献1では、18-クラウン-6-エーテル/セリウムイオン(CRE/Ce)の配位錯体が触媒と膜の間のナフィオンアイオノマーに埋め込まれた膜電極アセンブリ(MEA)が開示されている。CeはHO-ラジカルを捕捉する役割を果たし、CREは、セル運転中において、MEAからのセリウムイオンの溶出を軽減することが記載されている(要約等)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Vo Dinh Cong Tinhら、"Enhancement of oxidative stability of PEM fuel cell by introduction of HO radical scavenger in Nafion ionomer"、Journal of Membrane Science 613 (2020) 118517
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の通り、非特許文献1には、ラジカルクエンチ剤としてのセリウムイオン及び18-クラウン-6-エーテルを含むアノード触媒層が開示されている。セリウムイオンの課題の一つとして、イオンの移動による濃度減少に伴う耐久性低下が挙げられるが、非特許文献1では、18-クラウン-6-エーテルを添加することにより、セリウムイオンのMEA外への溶出を軽減することができると記載されている。
【0010】
しかしながら、18-クラウン-6-エーテルを含むアノード触媒層を有する膜電極接合体を使用して調査したところ、性能低下が認められ、発電性能及び耐久性の点で改善の余地があることが判明した。
【0011】
そこで、本開示の目的は、発電性能かつ耐久性に優れる膜電極接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、上記性能低下の理由は、アノード触媒層中に含まれる18-クラウン-6-エーテルがカソード触媒層に移行し、カソード触媒を被毒するため、また、カソードのアイオノマーにおけるプロトン伝導性を低下させるためであることが分かった。そこで、本発明者らは、さらに検討を進めたところ、所定値以上の分子量を有するホスト化合物を用いることで、ホスト化合物のカソード触媒層への移行を抑制することができ、その結果、性能低下を抑制できることを見出し、本開示に至った。
【0013】
そこで、本実施形態の態様例は以下の通りである。
(1) 固体高分子電解質膜、前記固体高分子電解質膜の一方の面上に配置されたアノード触媒層、及び前記固体高分子電解質膜の他方の面上に配置されたカソード触媒層を有する膜電極接合体であって、
前記アノード触媒層が、電極触媒と、スルホン酸基を有するアイオノマーと、セリウムイオン及びマンガンイオンから選択される金属イオンと、前記金属イオンと抱接化合物を形成できるホスト化合物と、を少なくとも含み、
前記ホスト化合物の分子量が、300以上である、膜電極接合体。
(2) 前記ホスト化合物が、環状構造を有する、(1)に記載の膜電極接合体。
(3) 前記環状構造の環員数が、15以上である、(2)に記載の膜電極接合体。
(4) 前記ホスト化合物が、クラウンエーテル化合物である、(3)に記載の膜電極接合体。
(5) 前記ホスト化合物が、芳香族環又は脂肪族環を有するクラウンエーテル化合物である、(4)に記載の膜電極接合体。
(6) 前記クラウンエーテル化合物が、ジベンゾ-15-クラウン-5-エーテル、ベンゾ-18-クラウン-6-エーテル、ジベンゾ-18-クラウン-6-エーテル、ベンゾ-21-クラウン-7-エーテル、ジベンゾ-21-クラウン-7-エーテル、ベンゾ-24-クラウン-8-エーテル、ジベンゾ-24-クラウン-8-エーテル、シクロヘキサノ-18-クラウン-6-エーテル、シクロヘキサノ-21-クラウン-7-エーテル、シクロヘキサノ-24-クラウン-8-エーテル、ジシクロヘキサノ-18-クラウン-6-エーテル、ジシクロヘキサノ-21-クラウン-7-エーテル、ジシクロヘキサノ-24-クラウン-8-エーテル、及びこれらの化合物の芳香族環又は脂肪族環が、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基、ホルミル基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のヒドロキシアルキル基、炭素数2~7のカルボキシアルキル基、及び炭素数6~14のアリール基から選択される少なくとも1種の置換基により置換された化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である、(5)に記載の膜電極接合体。
(7) 前記アイオノマーが、パーフルオロスルホン酸ポリマーである、(1)~(6)のいずれか1つに記載の膜電極接合体。
(8) 前記ホスト化合物の含有量が、前記金属イオン1molに対して0.4~5.0molである、(1)~(7)のいずれか1つに記載の膜電極接合体。
(9) 前記ホスト化合物と前記金属イオンの少なくとも一部が、包接化合物を形成している、(1)~(8)のいずれか1つに記載の膜電極接合体。
(10) (1)~(9)のいずれか1つに記載の膜電極接合体を含む、固体高分子型燃料電池。
【発明の効果】
【0014】
本開示により、発電性能かつ耐久性に優れる膜電極接合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態に係る膜電極接合体及び固体高分子型燃料電池の構成例を説明するための模式的断面図であり、例示としての燃料電池10の要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施形態は、固体高分子電解質膜、前記固体高分子電解質膜の一方の面上に配置されたアノード触媒層、及び前記固体高分子電解質膜の他方の面上に配置されたカソード触媒層を有する膜電極接合体であって、前記アノード触媒層が、電極触媒と、スルホン酸基を有するアイオノマーと、セリウムイオン及びマンガンイオンから選択される金属イオンと、前記金属イオンと抱接化合物を形成できるホスト化合物と、を少なくとも含み、前記ホスト化合物の分子量が、300以上である、膜電極接合体である。
【0017】
本実施形態により、発電性能かつ耐久性に優れる膜電極接合体を提供することができる。アノード触媒層で用いられるスルホン酸基を有するアイオノマーは、イオン電導性に優れるため、高い発電効率に寄与することができる。しかし、スルホン酸基を有するアイオノマーは、膜電極接合体内に発生した過酸化水素ラジカルにより分解される。アイオノマーの分解は、アノード触媒層の劣化に繋がる。また、固体高分子電解質膜としてはプロトン伝導性のイオン交換膜が使用されるが、該固体高分子電解質膜も過酸化水素ラジカルにより分解される。固体高分子電解質膜が分解されるとガスバリア性が低下し、クロスリーク量が増大し、性能低下に繋がる。なお、過酸化水素の発生の主なメカニズムとして、アノードの水素とカソードから膜を透過した酸素がアノード触媒上で反応して生じることが提唱されている。本実施形態においては、ラジカルクエンチ剤として機能する、セリウムイオン及び/又はマンガンイオンをアノード触媒層中に添加する。過酸化水素の発生源であり得るアノード触媒層においてセリウムイオン及び/又はマンガンイオンにより過酸化水素ラジカルを補足して無害化し得るため、固体高分子電解質膜の分解やアノード触媒層の劣化を効果的に抑制することができる。また、本実施形態においては、分子量が300以上のホスト化合物もアノード触媒層中に添加する。本実施形態におけるホスト化合物をアノード触媒層中に添加することにより、アノード触媒層中におけるセリウムイオン及び/又はマンガンイオンの移動を抑制することができ、面方向における濃度の偏りを低減することができる。また、本実施形態におけるホスト化合物は、その分子量範囲のためにカソード触媒層への移行が少ないため、従来生じていた、18-クラウン-6-エーテル等のホスト化合物によるカソード触媒の劣化を抑制することができる。そのため、本実施形態に係る膜電極接合体は、優れた発電性能とともに、優れた耐久性も備えることができる。
【0018】
以下、本実施形態の構成について説明する。
【0019】
固体高分子電解質膜は、電子及びガスの流通を阻止するとともに、アノードで発生したプロトン(H)を、アノード側触媒層からカソード側触媒層に移動させる機能を有する。本実施形態における固体高分子電解質膜としては、当該技術分野で公知のプロトン伝導性を有するイオン交換膜を使用することができる。固体高分子電解質膜としては、高い発電効率及び優れた基本特性の観点から、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体からなるイオン交換膜が好ましい。固体高分子電解質膜としては、例えば、電解質であるスルホン酸基を有するフッ素樹脂(ナフィオン(デュポン社製)、フレミオン(AGC社製)、及びアシプレックス(旭化成社製)等)から形成される膜を使用することができる。
【0020】
固体高分子電解質膜の厚さは、特に制限されるものではないが、例えば、プロトン伝導性の向上の観点から、5μm~50μmである。
【0021】
カソード触媒層は、空気極(酸素極)として機能する。
【0022】
カソード触媒層は、電極触媒(単に「触媒」ともいう)及び電解質を少なくとも含む。電極触媒としては、金属担持触媒が好ましい。金属担持触媒では、金属触媒が担体に担持されている。
【0023】
担体としては、当該技術分野で公知の担体を使用することができ、特に制限されるものではない。担体としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等の炭素材料;炭化ケイ素等の炭素化合物等が挙げられる。担体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
金属触媒は、電極での反応において触媒作用を示すものであれば、特に制限されない。
空気極(カソード):O+4H+4e→2H
水素極(アノード):2H→4H+4e
【0025】
金属触媒としては、特に制限されないが、例えば、白金、パラジウム、ロジウム、金、銀、オスミウム、イリジウム、又はこれらの2種以上の合金を使用することができる。また、白金合金としては、特に制限されないが、例えば、白金と、アルミニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ガリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、バナジウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、チタン及び鉛のうちの少なくとも1種との合金を使用することができる。金属触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
カソード触媒層における電極触媒の含有量は、特に制限されるものではないが、例えば、触媒層の全質量に対して、3~40質量%である。
【0027】
カソード触媒層に用いられる電解質としては、アイオノマーが好ましい。アイオノマーは、陽イオン交換樹脂とも称され、アイオノマー分子から形成されるクラスターとして存在する。アイオノマーとしては、特に制限されるものではないが、例えば、当該技術分野で公知のアイオノマーを使用することができる。アイオノマーとしては、例えば、パーフルオロスルホン酸樹脂等のフッ素樹脂系電解質;スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等のスルホン化プラスチック系電解質;スルホアルキル化ポリエーテルエーテルケトン、スルホアルキル化ポリエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリスルホン、スルホアルキル化ポリスルフィド、スルホアルキル化ポリフェニレン等のスルホアルキル化プラスチック系電解質等が挙げられる。電解質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
アノード触媒層は、燃料極、すなわち水素極として機能する。
【0029】
本実施形態におけるアノード触媒層は、電極触媒に加え、スルホン酸基を有するアイオノマー、セリウムイオン及びマンガンイオンから選択される金属イオン、及び、金属イオンと抱接化合物を形成できるホスト化合物を少なくとも含む。上記ホスト化合物の分子量は、300以上である。
【0030】
電極触媒としては、特に制限されるものではないが、例えば、上述の材料を用いることができる。
【0031】
スルホン酸基を有するアイオノマーとしては、特に制限されるものではないが、例えば、パーフルオロスルホン酸アイオノマー等のイオン伝導性を有する高分子電解質樹脂が挙げられる。スルホン酸基を有するアイオノマーの具体例としては、ナフィオン、アクイビオン(ソルベイ社)等が挙げられる。
【0032】
金属イオンは、セリウムイオン及びマンガンイオンから選択される。セリウムイオン及びマンガンイオンは、ラジカルクエンチ剤として機能する。当該ラジカルクエンチ剤は、過酸化水素から生成する水酸化ラジカルの水酸化イオンへの変換を容易にすることができ、アノード触媒層の劣化を抑制することができる。例えば、セリウムイオンによる水酸化ラジカルの水酸化物イオンへの反応は以下の通りである。
Ce3++・OH(水酸化ラジカル)→Ce4++OH(水酸化物イオン)
【0033】
セリウムイオンは、+3価でもあってもよく、+4価であってもよい。マンガンイオンは、+3価でもあってもよく、+4価であってもよい。
【0034】
セリウムイオンを得るためのセリウム塩としては、特に制限されるものではないが、例えば、硝酸セリウム、炭酸セリウム、酢酸セリウム、塩化セリウム、硫酸セリウム、硝酸二アンモニウムセリウム、又は硫酸四アンモニウムセリウム等が挙げられる。セリウム塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。セリウム塩は、有機金属錯塩であってもよい。有機金属錯塩としては、例えば、セリウムアセチルアセトナート等が挙げられる。
【0035】
マンガンイオンを得るためのマンガン塩としては、特に制限されるものではないが、例えば、硝酸マンガン、炭酸マンガン、酢酸マンガン、塩化マンガン、又は硫酸マンガン等が挙げられる。マンガン塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
本実施形態におけるホスト化合物は、ゲスト化合物としてのセリウムイオン又はマンガンイオンと抱接化合物を形成する。また、本実施形態におけるホスト化合物は、300以上の分子量を有する。
【0037】
本実施形態における抱接化合物は、ゲスト化合物としての上記金属イオンがホスト化合物の中に包接された形態を有する付加化合物を指す。抱接化合物を形成するホスト化合物としては、例えば、クラウンエーテル化合物、シクロデキストリン化合物、又はシクロファン化合物等が挙げられる。ホスト化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
本実施形態におけるホスト化合物は、上記金属イオンと抱接化合物を形成できる化合物であって300以上の分子量を有する化合物であれば、特に制限されるものではない。300以上の分子量を有するホスト化合物を用いることにより、移行抑制効果を得ることができ、すなわち、ホスト化合物のアノード触媒層からカソード触媒への移行を抑制することができる。
【0039】
ホスト化合物は、環状構造を有することが好ましく、また、環状構造の環員数は、15以上であることが好ましく、18以上であることが好ましい。一実施形態において、ホスト化合物は、クラウンエーテル化合物であることが好ましい。クラウンエーテル化合物は、(-CH-CH-Y-)ユニット又は(-CH-CH-CH-Y-)ユニットの繰り返し構造を有する環を有する化合物であり、Yは、O、S、N及びPから選択される少なくとも1種のヘテロ原子である。クラウンエーテル化合物は、この環状構造の中に金属イオンを捕まえて抱接化合物を形成する。クラウンエーテル化合物の環員数は、15個以上であることが好ましく、18個以上であることが好ましい。
【0040】
クラウンエーテル化合物としては、例えば、クラウンエーテル又はクラウンエーテル誘導体が挙げられる。300以上の分子量を有するクラウンエーテルとしては、例えば、21-クラウン-7-エーテル、24-クラウン-8-エーテル等が挙げられる。本実施形態において、ホスト化合物は、芳香族環又は脂肪族環を有するクラウンエーテル化合物であることが好ましい。芳香族環又は脂肪族環を有するクラウンエーテル化合物は、その構造に起因して高い疎水性を有するため、移行抑制効果に優れる。芳香族環又は脂肪族環を有するクラウンエーテル化合物としては、例えば、ジベンゾ-15-クラウン-5-エーテル、ベンゾ-18-クラウン-6-エーテル、ジベンゾ-18-クラウン-6-エーテル、ベンゾ-21-クラウン-7-エーテル、ジベンゾ-21-クラウン-7-エーテル、ベンゾ-24-クラウン-8-エーテル、ジベンゾ-24-クラウン-8-エーテル、シクロヘキサノ-18-クラウン-6-エーテル、シクロヘキサノ-21-クラウン-7-エーテル、シクロヘキサノ-24-クラウン-8-エーテル、ジシクロヘキサノ-18-クラウン-6-エーテル、ジシクロヘキサノ-21-クラウン-7-エーテル、ジシクロヘキサノ-24-クラウン-8-エーテル、及びこれらの化合物の芳香族環又は脂肪族環が、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子又は臭素原子)、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基、ホルミル基、炭素数1~6のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基)、炭素数1~6のヒドロキシアルキル基、炭素数2~7のカルボキシアルキル基、及び炭素数6~14のアリール基(例えば、フェニル基)から選択される少なくとも1種の置換基により置換された化合物等が挙げられる。置換基の個数は、例えば、1~6個であり、1~5個であり、1~4個であり、1~3個であり、1~2個であり、1個である。これらの化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
本実施形態の膜電極接合体中のアノード触媒層において、ホスト化合物と金属イオンの少なくとも一部が包接化合物を形成している。
【0042】
上述の通り、本実施形態の膜電極接合体は、過酸化水素又は過酸化物ラジカルに対して優れた耐性を有する。耐性が向上する理由は、明確ではないが、以下のように推測される。アノード触媒層中に、セリウムイオン及び/又はマンガンイオンと、そのホスト化合物とを含むことにより、少なくともそれらの一部が抱接化合物を形成する。該包接化合物は、アノード触媒層中のアイオノマーのスルホン酸基(-SO-)と相互作用し、スルホン酸基の一部が抱接化合物でイオン交換されて、スルホン酸基がセリウムイオンとホスト化合物の包接化合物に配位した構造(例えば、3つのスルホン酸基が(Ce/クラウンエーテル)3+に配位した構造)を形成する。このような構造を形成することにより、セリウムイオン等の金属イオンの面方向の移動が抑制され、その結果、金属イオンの移動による濃度の偏りが低減される。そのため、金属イオンによるラジカルクエンチ効果を効果的に得ることができる。また、本実施形態で用いられるホスト化合物は、分子量が比較的大きいこと、すなわち300以上の分子量を有することにより、過酸化水素又は過酸化物ラジカルに対する耐性が向上すると推定される。電解質膜中に予め製造した抱接化合物を含有させた場合も同様であると推定される。分子量が大きいホスト化合物を用いることにより、ホスト化合物のカソード触媒層への移行が少ないため、従来生じていた、18-クラウン-6-エーテル等のホスト化合物によるカソード触媒の劣化を抑制することができる。そのため、本実施形態の膜電極接合体は、優れた耐久性及び発電性能を奏することができる。
【0043】
本実施形態において、アノード触媒層中における上記金属イオンとホスト化合物の含有量は、アノード触媒層の固形分総量に対して、0.1~20質量%であることが好ましい。なお、当該含有量について、抱接化合物は、金属イオンとホスト化合物の混合物とみなす。すなわち、上記金属イオンとホスト化合物を別個に又は単に混合してアノード触媒層中に添加した場合は、高分子電解質中で抱接化合物が生成していたとしてもその量は考慮せずに、配合した金属イオンと包接化合物の合計量のみを計算の対象とする。また、予め抱接化合物を形成した後に、当該包接化合物をアノード触媒層中に添加した場合は、その抱接化合物の量は、その抱接化合物を形成した金属イオンと包接化合物の合計量とする。さらに、抱接化合物を形成した金属イオンとホスト化合物以外に、さらに、抱接化合物を形成していない金属イオンとホスト化合物が存在する場合はそれらも計算の対象とする。
【0044】
本実施形態における上記金属イオンとホスト化合物の相対比について、ホスト化合物の上記金属イオンに対するモル比([ホスト化合物のモル数]/[金属イオンのモル数])は、例えば、0.1~10であり、0.2~7.5であることが好ましく、0.4~5.0であることが好ましい。すなわち、ホスト化合物の含有量は、上記金属イオン1モルに対し、例えば、0.1~10モルであり、0.2~7.5モルであることが好ましく、0.4~5.0モルであることが好ましい。なお、この相対比においても、上記と同様に抱接化合物は両者の混合物とみなす。
【0045】
[膜電極接合体の製造方法]
触媒層は、例えば、電極触媒、アイオノマー及び溶媒を含む触媒インク(例えば、約10%の固形分濃度)を調製する工程と、触媒インクを基材表面に塗布し、塗膜中の溶媒を揮発させることにより基材表面に触媒層を形成する工程と、基材表面の触媒層を電解質膜に転写する工程により形成することができる。また、基材の代わりに固体高分子電解質膜に触媒インクを直接塗布する方法により、触媒層を形成することもできる。固体高分子電解質膜上にカソード触媒層及びアノード触媒層を形成することにより、膜電極接合体を作製することができる。
【0046】
触媒インクの塗布方法としては、例えば、スプレー法、ドクターブレードやアプリケーターを用いたブレードコート法、ダイコート法、リバースロールコータ法、間欠ダイ塗工法等が挙げられる。
【0047】
本実施形態におけるアノード触媒層は、アノード触媒層を形成するための触媒インク中に、上記金属イオン及び上記ホスト化合物を含有させること以外は、当該技術分野で公知のアノード触媒層の製造法に従って形成することができる。具体的には、アノード触媒層を形成するための触媒インクは、電極触媒、スルホン酸基を有するアイオノマー、上記金属イオン、ホスト化合物、及び溶媒を含む。上記金属イオン及びホスト化合物は、それぞれ別に加えてもよいし、両者の包接化合物(複合体)の形態で加えてもよい。
【0048】
[膜電極接合体及び固体高分子型燃料電池の具体的構成]
固体高分子型燃料電池は、固体高分子電解質膜の両面に触媒層(電極)が接合された膜電極接合体(MEA)を基本単位とする。また、固体高分子型燃料電池において、触媒層の外側には、一般に、ガス拡散層が配置される。ガス拡散層は、触媒層に反応ガス及び電子を供給するためのものであり、カーボンペーパー、カーボンクロス等が用いられる。また、触媒層は、電極反応の反応場となる部分である。
【0049】
以下、図1を参照しつつ、膜電極接合体及び固体高分子型燃料電池の構成について説明する。図1は、本実施形態に係る固体高分子型燃料電池の構成例を説明するための模式的断面図であり、例示としての燃料電池10の要部の断面図である。固体高分子型燃料電池は、発電体と該発電体の両面に配置される燃料電池セパレータから構成される単セルの積層体を備える。複数の単セルは、積層方向に積層され、各単セルは電気的に直列に接続される。図1に示すように、燃料電池10には、基本単位である単セル1が複数積層されている。各単セル1は、酸化剤ガス(例えば空気)と燃料ガス(例えば水素)との電気化学反応により起電力を発生する固体高分子型燃料電池である。単セル1は、ガス拡散層(GDL:Gas Diffusion Layer)7が両側に配置された膜電極ガス拡散層接合体(MEGA:Membrane Electrode & Gas Diffusion Layer Assembly)2と、MEGA2を区画するように、MEGA2に接触するセパレータ3とを備えている。なお、本実施形態では、MEGA2は、一対のセパレータ3、3により挟持されている。
【0050】
MEGA2は、膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)4と、この両面に配置されたガス拡散層7、7とを含む。膜電極接合体4は、電解質膜5と、電解質膜5を挟むように接合された一対の電極6、6とから構成される。電解質膜5は、例えば、固体高分子材料で形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜である。電極6は、例えば、白金等の触媒を担持した多孔質のカーボン素材を含む。電解質膜5の一方側に配置された電極6がアノードとして機能し、他方側の電極6がカソードとして機能する。ガス拡散層7は、ガス透過性を有する導電性部材によって形成される。ガス透過性を有する導電性部材としては、例えば、カーボンペーパー若しくはカーボンクロス等のカーボン多孔質体、又は金属メッシュ若しくは発泡金属等の金属多孔質体等が挙げられる。本実施形態において、アノード電極はアノード触媒層から構成され、カソード電極はカソード触媒層から形成される。
【0051】
MEGA2は、燃料電池10の発電部であり、セパレータ3は、MEGA2のガス拡散層7に接触している。また、ガス拡散層7が存在しない場合には、膜電極接合体4が発電部であり、この場合には、セパレータ3は、膜電極接合体4に接触している。したがって、燃料電池10の発電部は、膜電極接合体4を含むものであり、セパレータ3に接触する。
【0052】
セパレータ3は、金属基材(例えばステンレス基材)を有する板状の部材である。金属基材は、導電性やガス不透過性等に優れている。図1において、セパレータ3の発電部側の面がMEGA2のガス拡散層7と当接し、他方の面が隣接する他のセパレータ3と当接している。
【0053】
一方の電極(すなわちアノード電極)6側のガス拡散層7とセパレータ3との間に画成されるガス流路21は、燃料ガスが流通する流路であり、他方の電極(すなわちカソード電極)6側のガス拡散層7とセパレータ3との間に画成されるガス流路22は、酸化剤ガスが流通する流路である。セル1を介して対向する一方のガス流路21に燃料ガスが供給され、ガス流路22に酸化剤ガスが供給されると、セル1内で電気化学反応が生じて起電力が生じる。
【0054】
さらに、あるセル1と、それに隣接するもう一つのセル1とは、アノード電極6とカソード電極6とを向き合わせて配置されている。また、あるセル1のアノード電極6に沿って配置されたセパレータ3の背面側の頂部と、もう一つのセル1のカソード電極6に沿って配置されたセパレータ3の背面側の頂部とが、面接触している。隣接する2つのセル1間で面接触するセパレータ3、3の間に画成される空間(冷却剤流路)23には、セル1を冷却する冷媒(例えば水)が流通する。
【実施例0055】
以下に、本実施形態について実施例を用いて説明する。
【0056】
[実施例1]
(カソード触媒層の形成)
電極触媒としての金属担持触媒を、水及びエタノールを含むアイオノマー溶液(DE2020)中にビーズミルを用いて分散させ、触媒インクを調製した。触媒インク中のエタノールに対する水の質量比(水/エタノール)は、約1とした。得られた触媒インクをポリテトラフルオロエチレンシート上に塗工及び乾燥させて、カソード触媒層を形成した。
【0057】
カソード触媒層中のPt目付量は0.2mg/cm、アイオノマーとカーボンの質量比(I/C)は1.0とした。触媒粒子としては、30%Pt/Vulcan(登録商標)(田中貴金属工業社製、TEC10V30E)を用いた。
【0058】
(包接化合物(複合体)の形成)
100mLナスフラスコに21-クラウン-7-エーテル(21CRE)(3.08g、0.01mol)と硝酸セリウム(III)6水和物(4.34g、0.01mol)を量りとり、エタノール(20mL)、水(20mL)を添加し、24時間室温で攪拌した。その後、エバポレーターで溶液を除去した後、60℃下で真空乾燥を1時間行い、白色固体を得た。FT-IRにてエーテル基由来のピークが低波数側にシフトしていることを確認することにより、CREとCeが包接化合物を形成していることを確認した。
【0059】
(アノード触媒層の形成)
電極触媒として、60wt%Pt/Ketjen(登録商標)を用いた。当該電極触媒及び上記複合体を、水、エタノール及びナフィオン(登録商標)を含むアイオノマー溶液(DE2020)中に分散させ、触媒インクを調製した。この触媒インクをポリテトラフルオロエチレンシート上に塗工及び乾燥させて、アノード触媒層を形成した。
【0060】
アノード触媒層のPt目付量は0.1mg/cm、セリウムイオン濃度は4μg/cmとした。ホスト化合物は、上述の通り、Ce:配位子=1:1molの比で含有されている。アイオノマーとカーボンの質量比(I/C)は、1.0とした。
【0061】
(膜電極接合体の作製)
得られたカソード触媒層及びアノード触媒層のそれぞれを、ナフィオン(登録商標)膜(NR211)の両面にそれぞれ熱転写して、膜電極接合体E1を作製した。熱転写の条件は、140℃、50kgf/cm(4.90MPa)、5minとした。初期性能試験用の膜電極接合体の電極面積は、1cm×1cm(1cm)とした。耐久性試験用の膜電極接合体の電極面積は、3.6cm×3.6cm(12.96cm)とした。この膜電極接合体を撥水層付きペーパー拡散層(GDL)で挟んで試験セルを作製した。
【0062】
[実施例2]:21CRE(0.01mol)の代わりに24-クラウン-8-エーテル(24CRE)(0.01mol)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、膜電極接合体E2を作製した。
【0063】
[実施例3]:21CRE(0.01mol)の代わりにベンゾ-18-クラウン-6-エーテル(B18CRE)(0.01mol)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、膜電極接合体E3を作製した。
【0064】
[実施例4]:21CRE(0.01mol)の代わりにジベンゾ-18-クラウン-6-エーテル(DB18CRE)(0.01mol)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、膜電極接合体E4を作製した。
【0065】
[実施例5]:21CRE(0.01mol)の代わりにジシクロヘキサノ-18-クラウン-6-エーテル(DCH18CRE)(0.01mol)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、膜電極接合体E5を作製した。
【0066】
[実施例6]:0.004molのB18CREを添加したこと以外は、実施例3と同様にして、膜電極接合体E6を作製した。
【0067】
[実施例7]:0.050molのB18CREを添加したこと以外は、実施例3と同様にして、膜電極接合体E7を作製した。
【0068】
[比較例1]:21CRE(0.01mol)の代わりに15-クラウン-5-エーテル(15CRE)(0.01mol)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、膜電極接合体C1を作製した。
【0069】
[比較例2]:21CRE(0.01mol)の代わりに18-クラウン-6-エーテル(18CRE)(0.01mol)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、膜電極接合体C2を作製した。
【0070】
[比較例3]:ホスト化合物を入れなかったこと以外は、実施例1と同様にして、膜電極接合体C3を作製した。
【0071】
[評価]
(初期性能試験)
上記試験セル(電極面積:1cm)の電流-電圧特性を以下の条件で評価した。結果として、1.0A/cmにおける電圧値を下記表1に示す。
低加湿環境(30%RH)、掃引速度:20mA/s、セル温度:90℃、圧力:150kPa(abs)、カソードガス種:空気、カソードガス流量:2.0L/min、アノードガス種:水素、アノードガス流量:0.5L/min。
【0072】
(耐久性試験)
上記試験セル(電極面積:12.96cm)を発電用セルに組み込み、低加湿環境(90℃、30%RH)において耐久性試験を行った。耐久性試験は、セル温度を90℃とし、水素/空気を供給し、電流密度0.05A/cmにおける固体高分子型燃料電池の初期の特性及び耐久性試験負荷後の特性を評価した。アノード側は露点67℃、カソード側は露点67℃となるようにそれぞれ水素及び空気を加湿してセル内に供給し、運転初期のセル電圧及び運転開始後の経過時間とセル電圧との関係を測定した。結果を下記表1に示す。また、上記のセルの評価条件において、運転初期のセル電圧及び運転開始後300時間経過後のセル電圧を測定した。
【0073】
【表1】
【0074】
本明細書中に記載した数値範囲の上限値及び/又は下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。例えば、数値範囲の上限値及び下限値を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、数値範囲の上限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、また、数値範囲の下限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。
【0075】
以上、本実施形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本開示に含まれるものである。
【符号の説明】
【0076】
1:セル、2:MEGA(発電部)、3:セパレータ(燃料電池用セパレータ)、4:膜電極接合体(MEA)、6:電極、7:ガス拡散層、10:燃料電池、21、22:ガス流路、31:金属基材、32:酸化スズ皮膜
図1