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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057441
(43)【公開日】2024-04-24
(54)【発明の名称】眼科装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/10 20060101AFI20240417BHJP
   A61B 3/107 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
A61B3/10
A61B3/107
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164181
(22)【出願日】2022-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】501299406
【氏名又は名称】株式会社トーメーコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 英夫
(72)【発明者】
【氏名】片岡 永
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA02
4C316AA03
4C316AA24
4C316AB16
4C316FA20
4C316FB13
4C316FB22
4C316FB27
4C316FY02
4C316FZ01
(57)【要約】
【課題】ドライアイの診断に有用な情報を提供する。
【解決手段】 本明細書に開示の眼科装置は、被検眼の角膜表面にパターン光を投影する投影部と、投影部により投影されたパターン光の角膜表面からの反射像を撮影する第1撮影部と、角膜表面からの反射像を所定の時間間隔で第1撮影部に繰り返し撮影させる制御部と、第1撮影部で撮影された撮影画像を処理する画像処理部と、を備えている。パターン光は、予め設定されたパターンの線形状の光である。画像処理部は、第1撮影部で撮影された撮影画像のそれぞれについて、当該撮影画像のパターン光によるパターン像の線のブレ量の絶対値の総和を算出する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼の角膜表面にパターン光を投影する投影部と、
前記投影部により投影された前記パターン光の前記角膜表面からの反射像を撮影する第1撮影部と、
前記角膜表面からの反射像を所定の時間間隔で前記第1撮影部に繰り返し撮影させる制御部と、
前記第1撮影部で撮影された撮影画像を処理する画像処理部と、を備えており、
前記パターン光は、予め設定されたパターンの線形状の光であり、
前記画像処理部は、前記第1撮影部で撮影された撮影画像のそれぞれについて、当該撮影画像の前記パターン光によるパターン像の線のブレ量の絶対値の総和を算出する、眼科装置。
【請求項2】
前記画像処理部で算出される前記ブレ量の絶対値の総和を前記撮影開始時又は前記撮影開始時から所定の時間が経過した時点から時系列に出力する出力部をさらに備える、請求項1に記載の眼科装置。
【請求項3】
前記出力部は、前記画像処理部で算出される前記ブレ量の絶対値の総和の時間変化量をさらに出力し、
前記時間変化量は、前記撮影開始時又は前記撮影開始時から所定の時間が経過した時点から所定時間経過時までの前記ブレ量の絶対値の総和の変化量である、請求項2に記載の眼科装置。
【請求項4】
前記パターン光を投影していない状態で被検眼の画像を撮像する第2撮像部と、
前記第2撮像部で撮像された画像を表示する表示部と、をさらに備えており、
前記表示部は、前記出力部から出力される前記ブレ量の絶対値の総和の時系列変化を示すグラフを合わせて表示する、請求項2又は3に記載の眼科装置。
【請求項5】
前記画像処理部は、前記第1撮影部で撮影された撮影画像のそれぞれについて、当該撮影画像の前記パターン像の線のブレ量の絶対値の総和が所定値を超えている変調箇所を特定し、
前記表示部は、前記第2撮像部で撮像された画像上に前記変調箇所を重畳表示する、請求項4に記載の眼科装置。
【請求項6】
前記表示部は、前記変調箇所が特定された撮像画像の撮影された時間を示すマークを、前記ブレ量の絶対値の総和の時系列変化を示すグラフに重畳表示する、請求項5に記載の眼科装置。
【請求項7】
前記被検眼が開瞼したことを検知する開瞼検知部をさらに備え、
前記画像処理部は、前記開瞼検知部で前記被検眼の開瞼が検知された直後に前記第1撮影部で撮影された撮影画像について算出された前記ブレ量の絶対値の総和が所定値となるように、前記第1撮影部で撮影された撮影画像のそれぞれについて算出された前記ブレ量の絶対値の総和を補正する、請求項1~3のいずれか一項に記載の眼科装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する技術は、眼科装置に関する。詳しくは、角膜表面に投影されたパターン光の角膜表面からの反射像を撮像する眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドライアイの状態を測定するために、角膜表面にパターン光を投影し、そのパターン光の角膜表面からの反射像を撮影する眼科装置が開発されている(例えば、特許文献1)。特許文献1に開示の眼科装置では、角膜表面にリング状のパターン光を投影し、そのパターン光の角膜表面からの反射像を観察・撮影・解析することで、角膜表面の状態及び角膜形状を測定する。そして、測定を開始してからの角膜形状の時間的変化を比較することにより、被検眼のドライアイの状態を判断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-321508号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、眼科医がドライアイを診断する際には、ドライアイ診療ガイドライン(ドライアイ診断フロー)に従って検査を実施している。具体的には、角膜をフルオレセインで染色し、瞼を閉じた後にすばやく瞼を開いた状態とさせ、角膜染色の破壊時間(Breakup time)を測定している。しかしながら、ドライアイには複数の種類があり、角膜染色の破壊時間(Breakup time)だけではドライアイの種類を診断することはできない。本明細書は、ドライアイの診断に有用な情報を提供することができる眼科装置を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書に開示する第1の眼科装置は、被検眼の角膜表面にパターン光を投影する投影部と、投影部により投影されたパターン光の角膜表面からの反射像を撮影する第1撮影部と、角膜表面からの反射像を所定の時間間隔で第1撮影部に繰り返し撮影させる制御部と、第1撮影部で撮影された撮影画像を処理する画像処理部と、を備えている。パターン光は、予め設定されたパターンの線形状の光である。画像処理部は、第1撮影部で撮影された撮影画像のそれぞれについて、当該撮影画像のパターン光によるパターン像の線のブレ量の絶対値の総和を算出する。
【0006】
従来の眼科装置では、開瞼した直後に撮影された画像を基準とし、その基準となる画像とその後に撮像された画像とを比較することで、ドライアイの状態を判断していた。しかしながら、ドライアイには複数の種類(例えば、涙液減少型、水濡れ性低下型、蒸発亢進型等)があり、これらのうち水濡れ性低下型のドライアイでは、開瞼直後のパターン光の反射像の歪みが最も大きく、その後は反射像の歪みが小さくなる。このため、開瞼した直後に撮影された画像を基準とすると、角膜表面の涙液層の変化を正しく評価することができない。これに対して、上記の第1の眼科装置では、撮影された撮影画像のそれぞれについて、当該撮影画像のパターン光によるパターン像の線のブレ量の絶対値の総和を算出する。すなわち、開瞼した直後に撮影された画像を基準とすることなく、撮影された画像のそれぞれについてパターン像の線のブレ量の絶対値の総和を算出する。このため、角膜表面の涙液層の変化を正しく評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本実施例の眼科装置の光学系の全体構成を示す模式図。
図2図1に示す眼科装置の制御系の構成を示すブロック図。
図3】角膜表面に形成される涙液層の時間的変化を測定するためのフローチャート。
図4】角膜表面からの反射像を撮影した画像(原画像)の一例を示す図。
図5図4に示す原画像を極座標変換した極座標変換画像の一例を示す図。
図6図5に示す極座標変換画像の歪みを修正した修正画像の一例を示す図。
図7】撮影された原画像に変調箇所を重畳した変調箇所重畳画像の一例を示す図。
図8】本実施例の眼科装置の表示装置に表示される画像の一例。
図9】本実施例の眼科装置の表示装置に表示される画像の要部を拡大して示す図。
図10】本実施例の眼科装置の表示装置に表示される画像の他の例(オフセット処理を行ったもの)。
図11】本実施例の眼科装置の表示装置に表示される画像の他の例(オフセット処理を行っていないもの)。
図12】本実施例の眼科装置の表示装置に表示される画像の他の例であって、リング光を投影していない状態で撮像された画像に疑似フルオレセイン画像を重畳した画像。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書が開示する第1の眼科装置では、画像処理部で算出されるブレ量の絶対値の総和を撮影開始時又は撮影開始時から所定の時間が経過した時点から時系列に出力する出力部をさらに備えてもよい。このような構成によると、パターン像の線のブレ量の時系列変化が出力され、ドライアイの状態の時間的変化を評価することができる。
【0009】
本明細書が開示する第1の眼科装置では、出力部は、画像処理部で算出されるブレ量の絶対値の総和の時間変化量をさらに出力してもよい。時間変化量は、撮影開始時又は撮影開始時から所定の時間が経過した時点から所定時間経過時までのブレ量の絶対値の総和の変化量であってもよい。このような構成によると、ブレ量が時間の経過に伴って増加しているのか、減少しているのかを評価することができる。これによって、ドライアイの種類を判断するために有用な情報を提供することができる。
【0010】
本明細書が開示する第1の眼科装置では、パターン光を投影していない状態で被検眼の画像を撮像する第2撮像部と、第2撮像部で撮像された画像を表示する表示部と、をさらに備えていてもよい。表示部は、出力部から出力されるブレ量の絶対値の総和の時系列変化を示すグラフを合わせて表示してもよい。このような構成によると、ブレ量の絶対値の総和の時系列変化がグラフとして表示され、その変化の態様を容易に把握することができる。
【0011】
本明細書が開示する第1の眼科装置では、画像処理部は、第1撮影部で撮影された撮影画像のそれぞれについて、当該撮影画像の前記パターン像の線のブレ量の絶対値の総和が所定値を超えている変調箇所を特定してもよい。表示部は、第2撮像部で撮像された画像上に変調箇所を重畳表示してもよい。このような構成によると、ドライアイの種類を判断するために有用な情報を提供することができる。
【0012】
本明細書が開示する第1の眼科装置では、表示部は、変調箇所が特定された撮像画像の撮影された時間を示すマークを、ブレ量の絶対値の総和の時系列変化を示すグラフに重畳表示してもよい。このような構成によると、パターン像が変調した変調箇所(すなわち、涙液層が変化した箇所)が発生した時刻を容易に特定することができる。
【0013】
本明細書が開示する第1の眼科装置では、被検眼が開瞼したことを検知する開瞼検知部をさらに備えてもよい。画像処理部は、開瞼検知部で被検眼の開瞼が検知された直後に第1撮影部で撮影された撮影画像について算出されたブレ量の絶対値の総和が所定値となるように、第1撮影部で撮影された撮影画像のそれぞれについて算出されたブレ量の絶対値の総和を補正してもよい。このような構成によると、開瞼が検知された直後に撮影された撮影画像について算出したブレ量の絶対値の総和に対して、その後に撮像された撮影画像について算出したブレ量の絶対値の総和がどのように変化したかを容易に把握することができる。
【0014】
(実施例)
以下、実施例に係る眼科装置(角膜形状解析装置)について説明する。図1に示すように、本実施例の眼科装置は、被検眼Cの角膜に対向して位置決めされるコーン1と、コーン1の背面に配置された照明装置2(例えば、LED等)を備えている。コーン1は、内部が中空の円錐形状の筒体であり、透明樹脂によって形成されている。コーン1の内壁面には同心円状のパターンが印刷された透明フィルムが貼り付けられる一方で、コーン1の外壁面には光を反射する塗装が施されている。したがって、コーン1の背面に配置された照明装置2による照明光は、コーン1内で散乱し、内壁面に貼り付けられた透明フィルムによって光の一部が遮られ、被検眼Cの角膜に投影される。これによって、被検眼の角膜には、図4に示すような同心円状のパターン光(リング光)が投影される。なお、コーン1によって所望のパターンを投影する方法としては、コーン1の内側に所望のパターンを直接切削し、その部分に遮光性の塗装を施す方法を採ることもできる。
【0015】
照明装置2の背面にはレンズ3及びハーフミラー4が配置される。ハーフミラー4には、固視灯点光源6の光がレンズ5を介して入射するようになっている。固視灯点光源6の光は、ハーフミラー4で反射され、レンズ3を透過してコーン1に入射する。コーン1に入射した光は、コーン1の中央開口部から被検眼Cの角膜に照射される。固視灯点光源6の光は、角膜観察時の固視灯として用いられ、コーン1によって形成される同心円状パターンの中心に位置するように調整される。また、被検眼Cの角膜表面で反射された光(すなわち、角膜表面に投影された同心円状パターンの光の反射像(リング像)と、固視灯の光の反射光の反射像)は、コーン1、レンズ3及びハーフミラー4を透過し、レンズ7によって焦点調整が行われた後にCCDカメラ8で観察される。
【0016】
なお、上述した眼科装置で角膜形状を正確に計測するためには、被検眼Cの角膜頂点を中心とする同心円状にリングパターンを投影することが好ましい。このためには、角膜形状計測時には固視灯点光源6を点灯し、その光を被検者に固視させる。コントローラ12(図2に図示)はCCDカメラ8で観察される固視灯点光源6の光が画像中央となるように、被検眼Cに対して光学系の位置を調整する。これによって、被検眼Cの角膜頂点を中心とする同心円状にリングパターンの光(リング光)を投影することができる。
【0017】
上述した眼科装置の制御系の構成について説明する。図2に示すように、眼科装置の制御はコントローラ12によって行われている。コントローラ12は、CPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータによって構成することができる。コントローラ12には、CCDカメラ8、撮影開始スイッチ11、入力装置13及びメモリ10が接続されている。撮影開始スイッチ11と入力装置13は検査者によって操作される。検査者が撮影開始スイッチ11を操作すると、コントローラ12は所定のプログラムを起動して、角膜表面に形成される涙液層の時間経過に伴う変化量を測定する。なお、CCDカメラ8によって撮影された画像データはコントローラ12に入力され、メモリ10等に記憶される。また、CCDカメラ8によって撮影された画像データは、コントローラ12によって画像処理が行われる。コントローラ12は、CCDカメラ8によって撮影された画像データを画像処理することで、ドライアイの診断に有用な情報を提供する。コントローラ12によって行われる画像処理については、後で詳述する。
【0018】
また、コントローラ12には、照明装置2、固視灯点光源6及び表示装置9が接続されている。コントローラ12は、照明装置2及び固視灯点光源6のON/OFFを行い、また、CCDカメラ8で撮影された画像等を表示装置9に表示する。
【0019】
次に、上述した眼科装置を用いて角膜表面に形成される涙液層の時間的変化を測定する手順について説明する。図3に示すように、まず、眼科装置は、被検眼の前眼部の画像を撮影する(S10)。具体的には、検査者は固視灯点光源6)を点灯し、被検者に固視灯を固視するよう指示する。固視灯点光源6が点灯されると、CCDカメラ8で観察される画像が表示装置9に表示される。コントローラ12は、表示装置9に表示される被検眼の前眼部が画面上の中央に位置するように(すなわち、固視灯点光源6による反射光が角膜Cの中央に位置決めされるように)、被検眼Cに対して光学系の位置調整を行う。光学系の位置調整が終了すると、コントローラ12は、照明装置2を点灯し、被検眼Cの角膜表面に同心円状のリング光を投影する。これによって、被検眼Cの前眼部を撮影する準備が完了する。次に、検査者は、撮影開始スイッチ11を操作すると共に、被検者にいったん閉瞼させて均質な涙液層を角膜表面に形成させてから、被検者に開瞼させる。検査者の撮影開始スイッチ11の操作によって、コントローラ12は、CCDカメラ8を操作して、角膜表面からの反射像の撮影を行う。
【0020】
次に、コントローラ12は、CCDカメラ8で撮影した画像を解析する処理を行う(S12~S26)。すなわち、本実施例では、撮影開始スイッチ11が操作されてから設定時間(例えば、10秒)が経過するまで、1秒間に15枚のフレームレートで角膜表面からの反射像を撮影する。そして、撮影した画像のそれぞれに対してステップS12~S26の処理を実行する。図4にはCCDカメラ8で撮影された画像(すなわち、原画像)の一例が示されている。なお、撮影開始スイッチ11が操作されてから設定時間が経過する(すなわち、撮影処理が完了する)までは検査者には瞬目をしないように指示される。
【0021】
以下、ステップS12~S26の処理を詳細に説明する。まず、コントローラ12は、撮影した画像内のリング像の中心を認識し(S12)、その中心を原点として極座標変換を行う(S14)。本実施例では、周方向に1°ごと、半径方向に240ピクセルの画像に変換する。図4に示すように、取得された画像には同心円状に複数のリング像が撮影されている。このため、リング像の中心を原点として極座標変換すると、図5に示す画像(極座標変換画像)が得られる。図5から明らかなように、極座標変換画像では、リング像は上下方向(y方向)に伸びる直線に変換される。リング像が直線状に伸びる像(以下、直線像ということがある)に変換されるため、ステップS16以降の処理を簡単に行うことができる。ただし、この画像は角膜表面からの反射画像であるため、乱視の程度や軸角度、また中心認識のずれによって三角関数で代表されるようなある方向に長軸と短軸をもつ曲線状になる場合もある。なお、ステップS12のリング像の中心認識には、例えば、最も中心に位置するリング像(すなわち、半径の最も小さなリング像)を用いて行うことができる。あるいは、原画像に固視灯の光が写っている場合は、固視灯の光を中心としてもよい。なお、ステップS12のリング像の中心は、公知の角膜形状解析(角膜トポグラフィ)を行うための中心と一致する必要はない。
【0022】
次に、コントローラ12は、ステップS14で極座標変換した画像の修正を行う(S16)。ステップS10で撮影された画像(図4に示す原画像)には、不安定な涙液層によって画像(リング像)の乱れや、まつ毛の影の混入によるリング像の一部欠損が生じている。このため、ステップS14で得られた極座標変換画像の直線像にも乱れや一部欠損が生じている。例えば、図5に示す画像には、不安定な涙液層による乱れが生じた領域や、まつ毛の影の混入によるリング像の一部欠損が生じた領域が含まれている。ステップS16では、極座標変換画像の直線像に生じている乱れや一部欠損等のアーチファクトを修正(除去)する。
【0023】
すなわち、極座標変換画像内の各画素の輝度を、当該画素から半径方向(第1方向の一例)及び周方向(第2方向の一例)に拡張した近傍領域内に設定された平均化領域内の画素群の輝度の平均をとることで、画像を復元する。本実施例では、被検眼Cの角膜表面に同心円状に配置された複数のリング光が照射される。このため、リング像に乱れや一部欠損が生じていなければ、極座標変換した直線像は上下方向(y方向)に伸びる略直線状の像となる。このため、例えば、ある画素を基準としたときに、その基準となる画素から角度が変わっても、その基準となる画素の近傍角度においては、リング間距離は大きく変化しないと考えられる。すなわち、リング像の半径方向の位置は大きく変化しないと考えられる。また、被検眼に乱視があったとしても、角度方向についてリング間距離が大きく変化することはないと考えられる。そこで、本実施例では、リング像に歪みや欠損が無い場合は、リング像の半径方向の位置はほとんど変化することがないという特性を利用して、リング像に歪みや欠損がある部分に対して、リング像の歪みを補正すると共に、リング像の欠損を補填する。
【0024】
なお、ステップS16の各画素の輝度の算出は、種々の方法を採ることができる。例えば、輝度を算出する対象となっている画素から周方向に予め設定された範囲だけ拡張した直線状の領域を平均化領域とし、その平均化領域内の各画素の輝度を平均してもよい。あるいは、輝度を算出する対象となっている画素から半径方向及び周方向に予め設定された範囲だけ単純に拡張した矩形状の領域を平均化領域とし、その平均化領域内の各画素の輝度を平均してもよい。
【0025】
あるいは、輝度を算出する対象となっている画素の近傍で平均値を算出する範囲を半径方向に変えながら最も誤差量の小さい平均化領域を特定し、特定した平均化領域内の各画素の輝度を平均してもよい。このような方法を採用するときの一例を、数1及び数2の式を用いて具体的に説明する。ここで、輝度を算出する対象となっている画素の位置を周方向の角度がaで半径がrとし、その輝度をP(a,r)とする。平均値を算出する範囲は、半径方向の計算範囲を±rとし、周方向の計算範囲を±aとする。上述したように、リング像に歪みや欠損が無い場合は、リング像の半径方向の位置はほとんど変化しない一方で、リング像に歪みや欠損がある場合は、リング像の半径方向の位置はずれることになる。リング像の半径方向へのずれ量は、周方向の位置(角度a)及び半径方向の位置rによって変化する。したがって、このリング像のずれ量をh(a,r)とする。上述したように、ずれ量h(a,r)は、角度aと半径rによって値が変化する関数とる。最も誤差量の小さい平均化領域を特定するため、数1に示すS(a’,r)を最小にする角度a’と、ずれ量h(a’,r)を求める。ここで、a’は、角度aの近傍の角度である。
【0026】
【数1】
【0027】
角度a’と、ずれ量h(a’,r)が求まると、数2によって画素(a,r)の平均化した輝度P’(a,r)を算出する。このように極座標変換画像内の各画素の輝度を平均値化することで、リング像の歪みや欠損が修正される。
【0028】
【数2】
【0029】
図6に数1及び数2の式を用いて修正された修正画像が示されている。図5図6の比較から明らかなように、修正画像では直線像の歪みが修正され、また、まつ毛の影による直線像の一部欠損も消失している。なお、修正画像においても、画像下部において直線像に歪みが残っている。これは修正前の画像(図5)において直線像が大きく崩れているためであると考えられるが、実用上は問題ないレベルにまで修正されている。なお、図6に示す修正画像では、角度方向0°、180°方向にあるリングの切り欠き部分が少しずれて補填されているが、これは欠落が始まる位置から外側にはデータが存在しないためである。また、上下の眼瞼によってデータが欠落している領域は修復する必要がないため、この部分の修復は行われていない。
【0030】
次に、コントローラ12は、ステップS16で修正された修正画像に基づいて、涙液層の状態を診断するために有用な情報を出力するための処理を行う(S18~26)。なお、ステップS18~26の処理は、撮影画像及びステップS16で修正した修正画像から上下の眼瞼にかからない領域を切り出し、その切り出した領域に対して実施している。
【0031】
まず、コントローラ12は、ステップS16によって修正された修正画像の輝度補正を行うと共に、ステップS16によって修正される前の極座標変換画像の輝度補正を行う(S18)。本実施例では、涙液層の不安定化によるリング像の輝度低下や位置変位を検出するために、ステップS16で修正された修正画像と、ステップS16で修正される前の極座標変換画像(以下、修正前画像ということがある)とを比較する。2つの画像を適切に比較するために、まず、各画像の輝度を補正する。
【0032】
具体的には、コントローラ12は、まず、ステップS16で修正された修正画像について、角度毎に、「半径方向の位置」と「輝度」との関係を示す輝度波形を取得し、その最大値と最小値を包括する包括直線を算出する。ここで、修正画像から算出される包括直線には、修正前画像の輝度の上限値と下限値が含まれるものと仮定し、修正画像から修正前画像用の包括直線を作成する。すなわち、修正前画像の上下限値が修正画像の包括直線を超える場合は、修正前画像の上下限値を採用して、修正画像の包括直線を補正して修正前画像用の包括直線を作成する。また、ステップS16で修正された修正画像は、リング像の位置が正しい位置に修正されている。涙液層の乱れによるリング像の歪みがなければ、修正前画像のリング像の位置と修正画像のリング像の位置とは一致し、大きくずれていないと考えられる。このため、修正画像のピーク位置の近傍で修正前画像のリング像のピーク位置を検出する。
【0033】
このように包括直線が算出されると、コントローラ12は、作成した包括直線を使用して、予め設定した輝度範囲(例えば、グレイレベル20~200(フルスパン:グレイレベル0~255))となるように輝度波形を拡張する。なお、輝度波形の拡張は、フルスパンより狭い範囲で行うことが好ましい。フルスパンより狭い範囲で拡張することで、計算過程において輝度が上下限値を超えてしまうことを防止することができる。修正画像の輝度波形を拡張すると共に、修正前画像の輝度波形を拡張することで、各リング像のピーク高さが略同一となるように正規化される。なお、ステップS18で実施する輝度補正については、特開2020-10986号公報に詳しく開示されている。
【0034】
次に、コントローラ12は、上記の処理によって輝度補正した修正前画像から輝度補正した修正画像を差し引くことで、リング像(直線像)のブレ量の絶対値の総和(以下、「ブレ量の総和」ということがある)を算出する(S20)。具体的には、コントローラ12は、まず、修正前画像の画素毎に、当該画素と、当該画素に対応する修正画像の画素との輝度差をそれぞれ算出する。例えば、リング像に歪みや欠損が生じていない場合、修正前画像の画素が明るい又は暗いとき(すなわち、ライン像上又はライン像上以外となるとき)、修正画像の対応する画素が明るい又は暗くなる(すなわち、ライン像上又はライン像以外となる)。このため、修正前画像と修正画像の対応する画素間の輝度差は小さくなる。一方、リング像に歪みや欠損が生じている場合、修正前画像の画素が明るい又は暗いとき(すなわち、ライン像上又はライン像上以外となるとき)は、修正画像の対応する画素は暗い又は明るくなる(すなわち、ライン像上以外又はライン像上となる)。このため、修正前画像と修正画像の対応する画素間の輝度差は大きくなる。また、リング像に歪みや欠損が大きくなると、修正前画像と修正画像の対応する画素間の輝度差が大きくなる画素の数が多くなる。本実施例では、修正前画像の画素毎に、当該画素と、当該画素に対応する修正画像の画素との輝度差をそれぞれ算出し、算出した輝度差の絶対値の和を求めることで、「ブレ量の総和」を求める。
【0035】
ここで、リング像に歪みや欠損が生じている場合、修正前画像のある画素が明るくなると(すなわち、ある画素は修正前画像においてリング像上の画素)、修正画像の対応する画素は暗くなる(すなわち、リング像が歪んでいるため、修正画像では対応する画素はリング像上の位置からずれ暗くなる)。リング像は半径方向に所定の間隔で配置されるため、修正前画像のある画素が明るくなると、ある画素から半径方向に所定の間隔の1/2だけずれた画素は暗くなる。したがって、修正前画像の画素が明るく、かつ、修正画像の対応する画素が暗くなる組合せと、修正前画像の画素が暗く、かつ、修正画像の対応する画素が明るくなる組合せとは、一対の関係となる。したがって、「ブレ量の総和」を評価する際に、両者をカウントする必要はない。本実施例では、修正前画像の画素が明るく、かつ、修正画像の画素が暗くなる場合のみ、「ブレ量の総和」を算出する際にカウントしている。これによって、まつ毛等によってリング像に欠損が生じている場合(すなわち、修正前画像の画素が暗く、修正画像の画素が明るくなる場合)は、「ブレ量の総和」を算出する際にカウントされない。これによって、リング像(直線像)のブレ量のみが適切に評価されることになる。
【0036】
なお、「ブレ量の総和」の算出は、上記の方法に限られず、種々の方法を採ることができる。例えば、修正前画像のリング像(明るい部分)を細線化して線とし、修正画像のリング像(明るい部分)を細線化して線とし、2つの線のずれと輝度差を数値化する。そして、2つの線のずれ量(絶対値)と、2つの線の輝度差(絶対値)とに所定の重み付けをし、これらを加算することで、「ブレ量の総和」を算出するようにしてもよい。
【0037】
次に、コントローラ12は、上記の処理によって輝度補正した修正前画像から輝度補正した修正画像を差し引くことで、変調箇所を抽出した変調箇所抽出画像を生成する(S22)。すなわち、涙液層の状態に全く変化がなければ、輝度補正した修正前画像のリング像の輝度及び位置は、輝度補正した修正画像のリング像の輝度及び位置と同一となる。逆に、涙液層の不安定化によってリング像の輝度及び位置が変化すると、それらが2つの画像の変調箇所となる。ステップS22では、2つの画像の差分をとることで、涙液層の変化した部分(変調箇所)を抽出する。なお、2つの画像の差分をとった差分画像は、極座標変換した画像であり、角膜上のどの位置で変調しているかを把握し難い。このため、2つの画像の差分をとった差分画像を直交座標へ変換し、眼画像上にプロットしてもよい。変調箇所を眼画像上にプロットした画像を図7に示す。図7に示すように、変調箇所が眼画像上にプロットされることで、眼のどの位置で涙液層の不安定化が生じているかを容易に把握することができる。なお、図7に示す画像ではリング像が除去されていないが、リング像を除去した画像を生成してもよい。すなわち、撮影した画像からリング像を除去し、そのリング像を除去した画像上に抽出した変調箇所を重畳してもよい。あるいは、リング光を投影していない状態で被検眼Cを撮影し、その撮影した画像に抽出した変調箇所を重畳してもよい。リング像を除去すると、虹彩や瞳孔の境界(エッジ)を認識し易くなるため、角膜上のどの位置で変調箇所が生じているかを認識し易くなる。
【0038】
次に、コントローラ12は、ステップS22の処理によって変調箇所を抽出した画像を、変調の程度を輝度で表現した疑似フルオレセイン画像に変換する(S24)。すなわち、ステップS22の処理によって、涙液層の変調箇所(すなわち、修正前画像と修正画像との変調箇所)が特定された変調箇所抽出画像が生成されている。変調箇所抽出画像では、修正前画像と修正画像との輝度差が大きいと涙液層の変調の程度が大きく、修正前画像と修正画像との輝度差が小さいと涙液層の変調の程度が小さくなっている。ここで、フルオレセイン画像は、ドライアイ検査において一般的に使用され、涙液層が破綻する程度に応じて染色部分の輝度が低下する方向に変移するようになっている。本実施例では、変調箇所抽出画像において、変調箇所の程度が大きくなるほど輝度を低下させることで、変調箇所抽出画像を疑似フルオレセイン画像に変換する。すなわち、ステップS24では、変調の程度に応じてフルオレセインに類似した色調で諧調を異ならせることで、変調箇所抽出画像を疑似フルオレセイン画像に変換する。
【0039】
次に、コントローラ12は、ステップS24で生成した疑似フルオレセイン画像を、リング像が除去された眼画像に重畳する(S26)。ステップS24で生成した疑似フルオレセイン画像は、極座標変換した画像であり、角膜上のどの位置で変調しているかを把握し難い。そこで、ステップS24で生成した疑似フルオレセイン画像を直交座標へ変換し、眼画像上に重畳する。これによって、角膜上のどの位置で変調箇所が生じているかを認識し易くなり、また、ドライアイ検査において得られるフルオレセイン画像と近似した画像となる。このため、ドライアイの診断に有用な画像を提供することができる。なお、疑似フルオレセイン画像が重畳される眼画像は、撮影した画像からリング像を除去した画像であってもよいし、リング光を投影していない状態で被検眼Cを撮影した画像であってもよい。ステップS26によって生成される画像の一例を図12に示す。図12に示すように、フルオレセインに類似した色調で変調箇所の輝度を変えた画像が眼画像上に重畳されることで、ドライアイ検査において得られる画像と近似した画像となり、また、眼のどの位置で涙液層の不安定化が生じているかを容易に把握することができる。なお、ステップS24、26で実施する疑似フルオレセイン画像の生成については、特開2020-10986号公報に詳しく開示されている。
【0040】
次に、コントローラ12は、撮影開始スイッチ11が操作されてから設定時間(例えば、10秒)が経過したか否かを判定する(S28)。撮影を開始してから10秒が経過したときは(S28でYES)、ステップS30に進む。撮影を開始してから10秒が経過していないときは(S28でNO)、ステップS10に戻って、ステップS10からの処理を繰り返す。これによって、撮影を開始してから設定時間となるまで、所定の時間間隔でCCDカメラ8によって角膜表面からの反射像が撮影され、撮影された画像について「ブレ量の総和」が算出されると共に疑似フルオレセイン画像が作成される。
【0041】
ステップS28でYESのときは、コントローラ12は、ステップS20で算出された「ブレ量の総和」のグラフと、ステップS22~ステップS26で生成された各種画像とを、表示装置9に表示する(S30)。「ブレ量の総和」のグラフと、変調箇所を重畳した眼画像とが1画面に表示されることで、ドライアイの診断に有用な情報が提供される。すなわち、ドライアイの種類には、涙液減少型、水濡れ性低下型、蒸発亢進型のように様々な種類があり、その種類によって治療方針が変わることになる。ドライアイの種類を診断するためには、涙液層が破壊される時間(いわゆる、Breakup time)だけではなく、涙液層が破壊されていくパターン(態様)を観察する必要がある。例えば、涙液減少型では角膜表面全体の涙液層が破壊され、水漏れ性低下型では角膜表面の涙液層が部分的に破壊される。したがって、涙液層が破壊されていくパターンを観察する必要がある。また、ドライアイでは、通常、開瞼後は時間の経過に伴って涙液層が破壊されていくため、「ブレ量の総和」も時間の経過に伴って増加する。しかしながら、水漏れ性低下型のドライアイでは、開瞼直後の涙液層の乱れが大きく、時間の経過に伴って涙液層の乱れが減少してゆく。このため、涙液層の乱れが時間の経過に伴ってどのように変化しているかを判断する必要もある。そこで、図8,9に示すように、本実施例の眼科装置では、表示装置9は、「ブレ量の総和」のグラフと、変調箇所を重畳した眼画像とを表示する。
【0042】
図8,9に示すように、表示装置9の画面30には、変調箇所を重畳した眼画像32と、Breakup timeを表示する表34と、「ブレ量の総和」の時系列変化を示すグラフ36とが表示される。眼画像32とグラフ36とは上下方向に並んで配置され、表34は眼画像32の側方に配置されている。また、眼画像32とグラフ36の間にはシークバー42が表示されている。検査者は、入力装置13を操作してシークバー42のスライダを水平方向に移動させることで、表示装置9には、スライダで指定された時刻に撮影された眼画像32が表示される。なお、グラフ36には時刻を示す縦線として、スライダから下方に伸びる線が表示されている。
【0043】
表示装置9には、種々の眼画像32を表示可能となっている。検査者は、入力装置13を操作することで、所望の眼画像32を表示装置9に表示することができる。例えば、図8に示すように、ステップS10で撮影された眼画像(すなわち、原画像)を表示することができ、また、図9に示すように、ステップS10で撮影された眼画像に変調箇所が重畳された画像を表示することができ、また、図12に示すように、ステップS26で生成された画像(すなわち、リング像が除去された眼画像に疑似フルオレセイン画像が重畳された画像)を表示することができる。上述したように、シークバー42のスライダを水平方向に移動させることで、表示装置9に表示される眼画像32の撮影時刻を変えることができる。その結果、検査者は、涙液層の変調箇所(いわゆる、輝度が低下した暗い領域)がどのように変化したかを観察することができる。例えば、涙液層の隣接する変調箇所(暗い領域)が結合する態様や、単独の変調箇所(暗い領域)が出現する態様や、涙液層の変調箇所(暗い領域)の広がり方や広がる速度等を容易に把握することができ、これによって、ドライアイの種類を判断することができる。眼画像32において、涙液層の変調箇所(暗い領域)が予め設定された面積以上となったときに、その変調箇所が設定面積以上となったことを示すマークを当該変調箇所に重ねて表示してもよい。これによって、検査者は、当該変調箇所の大きさ(面積)を容易に認識することができる。また、涙液層の変調箇所(暗い領域)のそれぞれの面積を算出することができるため、被検眼に予め設定した複数のエリア毎に、当該エリアに位置する変調箇所(暗い領域)の面積を算出して表示するようにしてもよい。
【0044】
なお、表示装置9には、細隙灯顕微鏡で観察される画像上に、ステップS24で生成した疑似フルオレセイン画像の変調箇所(輝度の暗い部分)のみを重畳した画像を表示するようにしてもよい。このような構成によると、フルオレセイン染色された眼を細隙灯顕微鏡で観察するときの画像に近似した画像が表示装置9に表示される。これによって、医師がドライアイの診断をより容易に行うことができる。なお、上記の画像を表示装置9に表示するためには、細隙灯顕微鏡で観察するときの画像を眼科装置が取得する必要があるが、このためには、例えば、眼科装置に細隙灯顕微鏡で観察される画像を撮影する撮影装置を別に設けてもよいし、細隙灯顕微鏡で観察される画像を外部装置からコントローラ12に入力するようにしてもよい。また、上記の例では、細隙灯顕微鏡で観察される画像上に、疑似フルオレセイン画像の変調箇所(輝度の暗い部分)のみを重畳した画像を表示する例であったが、このような例に限られない。例えば、細隙灯顕微鏡で観察される画像上に疑似フルオレセイン画像を重畳し、入力装置13を操作することで、細隙灯顕微鏡で観察される画像のみが表示される状態と、疑似フルオレセイン画像のみが表示される状態に切り替えるようにしてもよい。
【0045】
表34は、「ブレ量の総和」の時系列変化を示すグラフ36に表示される各測定において計測されたBreakup timeを表示する。例えば、図8に示す画像30では、グラフ36には3回の測定B1,B2,B3が表紙されている。このため、表34には、測定B1,B2,B3のそれぞれについて、Breakup time(表34においてBUT)が表示されている。図8においては、測定B1,B2,B3のBreakup timeが「0」となっており、これらの測定ではBreakupが生じていないことになっている。ここで、Breakupか生じたか否かは、ステップS20で算出される「ブレ量の総和」により判断してもよい。すなわち、ステップS20で算出される「ブレ量の総和」が所定の閾値以上となったときに、Breakupか生じたと判定するようにしてもよい。このような判定方法によると、「ブレ量の総和」を用いて客観的にBreakupが生じたか否かを判断することができる。なお、Breakupが生じたか否かは、上記の方法に限られず、種々の方法により判断することができる。例えば、疑似フルオレセイン画像の変調箇所(輝度の暗い部分)が所定の面積以上となったときに、Breakupが生じたと判断してもよい。なお、表34に示される「O-Time」とは、開瞼時間を表している。例えば、図9の測定B1では、開瞼時間は3.7秒であり、Breakup timeは2.0秒となっている。したがって、図9の測定B1では、Breakup timeとなってから1.7秒間だけ開瞼した状態が続いたこととなる。
【0046】
また、表34には、開瞼時から所定時間(例えば、3秒(ただし、検査者が任意の時間を設定可能))が経過するまでの「ブレ量の総和」の傾き(表34においてSlope)が表示されている。すなわち、開瞼時の「ブレ量の総和」と、開瞼時から所定時間が経過したときの「ブレ量の総和」との差分を、所定時間で除算した値(すなわち、傾き)を表示している。したがって、開瞼時から所定時間が経過するまでに、「ブレ量の総和」が増加したのか、減少したのかが直ちに認識することができる。上述したように、水漏れ性低下型のドライアイの場合、開瞼直後に「ブレ量の総和」が大きな値となり、時間の経過とともに「ブレ量の総和」が減少する。したがって、表34に表示される「ブレ量の総和」の傾きによって、被検眼が水漏れ性低下型のドライアイか否かを、容易に判断することができる。
【0047】
グラフ36は、図9に示すように、「ブレ量の総和」の時系列変化を示しており、縦軸40は「ブレ量の総和」を示し、横軸38は「時刻」を示している。なお、グラフ36には、被検眼の開瞼長さ48が合わせて表示されている。開瞼長さ48は、被検眼が閉瞼しているときは「0」となり、開瞼しているときは所定値で略一定となっている。なお、被検眼の開瞼長さは、例えば、ステップS10で撮影された眼画像から算出することができる。すなわち、ステップS10で撮影された眼画像の輝度に基づいて、眼の上部と下部を検出し、その間の距離を開瞼長として計算する。計算した開瞼長が「0」の間は閉瞼状態と判断でき、開瞼長ゼロの最後の時点を「開瞼開始ポイント」と判断する。そして、「開瞼開始ポイント」の後に開瞼長が最大となった時点を「開瞼終了ポイント」と判断することができる。このように、ステップS10で撮影された眼画像をコントローラ12が画像処理することで、コントローラ12は、被検眼の開瞼を検知する「開瞼検知部」として機能する。なお、上記の実施例では、ステップS10で撮影される全ての画像について画像処理(S12~S26)を行ったが、このような例に限られない。例えば、S12~S26の画像処理を行う画像としては、「開瞼終了ポイント」が検出されてから所定時間(例えば、0.5秒)を経過した以降に撮影される画像を用いるようにしてもよい。開瞼後に撮影される画像を画像処理の対象とすることで、画像処理の対象となる画像が絞り込まれ、効率的に画像処理を行うことができる。
【0048】
上記したように、グラフ36は、「ブレ量の総和」38の時系列変化が示されるため、「ブレ量の総和」38が開瞼直後から所定時間が経過するまでに、どのように変化したか(例えば、増加又は減少)を容易に把握することができる。その結果、水漏れ性低下型のドライアイか否かを、容易に判断することができる。なお、グラフ36は、その一部を拡大して表示できるようにしてもよい。グラフ36を拡大表示することで、「ブレ量の総和」がどのように変化しているかを容易に認識することができる。
【0049】
なお、既に説明したように、被検眼によっては、例えば、角膜表面に傷がある等の理由によって、開瞼直後の涙液層の乱れが大きく、開瞼直後に撮影された画像の「ブレ量の総和」も大きくなる。このため、このような眼の場合、「ブレ量の総和」が開瞼直後からどのように推移するかを見るためには、開瞼直後の画像の「ブレ量の総和」を基準として評価しなければならない。このため、例えば、開瞼直後に撮影された画像の「ブレ量の総和」が「0」となるようにオフセット量を算出し、その算出したオフセット量で撮影された画像のそれぞれをオフセットする。このようなオフセット処理によって。「ブレ量の総和」が開瞼直後からどのように推移するかを容易に把握することができる。図10にオフセット処理したときの「ブレ量の総和」のグラフ36を示し、図11にオフセット処理していないときの「ブレ量の総和」のグラフ36を示している。図10のオフセット処理したグラフ36では、「ブレ量の総和」46は、開瞼直後は「0」となり、その後の推移が示されている。一方、図11のオフセット処理されていないグラフ36では、「ブレ量の総和」46は、開瞼直後に大きな値をとり、その後の推移(すなわち、減少しているのか増加しているのか)が認識し難くなっている。図10,11から明らかなように、オフセット処理によって、「ブレ量の総和」の推移が判定し易くなり、被検眼のドライアイのタイプを適正に判定することができる。
【0050】
なお、水濡れ性低下型のドライアイでは、開瞼直後の涙液層の乱れが大きく、時間の経過に伴って涙液層の乱れが減少してゆく。Breakup timeを「ブレ量の総和」が閾値となったか否かで判断する場合、「ブレ量の総和」をオフセット処理すると、Breakup timeを判定することができなくなる。したがって、開瞼直後の「ブレ量の総和」が増加しているか、減少しているかを判断し、減少している場合は、水濡れ性低下型のドライアイであるとしてオフセット処理をしないようにする。これによって、水濡れ性低下型の被検眼に対してもBreakup timeの判定を可能にすることができる。
【0051】
点状表層角膜症は、リング光を投影していない状態の眼画像によって確認することができる。本実施例の眼科装置では、リング光を投影していない状態の眼画像を表示装置9に表示することができる。このため、本実施例の眼科装置によって、点状表層角膜症か否かを判断するために有用な情報を提供することができる。また、本実施例の眼科装置は、Breakup timeによりドライアイか否かを判断するための情報を提供することができる。また、従来のドライアイの診断方法としては、角膜染色の破壊パターンにより、ドライアイの種類を判断して診療方法を決定する方法もある。本実施例の眼科装置では、表示装置9に表示される涙液層の変調箇所(いわゆる、輝度が低下した暗い領域)がどのように変化したかの態様(いわゆる、Breakup pattern)からドライアイの種類を判断するための情報を提供できる。さらに、本実施例の眼科装置では、「ブレ量の総和」の傾きから水濡れ性低下型のドライアイか否かを診断するための情報を提供することができる。上述したように、本実施例の眼科装置では、ドライアイの診断に必要とされる情報を1つの検査を行うだけで提供することができる。すなわち、従来のドライアイ診療ガイドラインによって被検眼の診断を行う場合、被検眼に対して複数の検査を行い、これらの結果から総合的に診断しなければならなかった。本実施例の眼科装置では、複数の検査で得られる結果を、1つの検査を実施するだけで得ることができる。このため、ドライアイの診断に必要な検査結果を効率的に取得することができる。その結果、ドライアイの診断を的確に行うことができ、1つの検査で治療方針まで決定することができる。
【0052】
以上、本実施例について詳細に説明したが、これは例示に過ぎず、本明細書に開示の技術は、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。
【0053】
例えば、上述した実施例では、リング光が投影された被検眼の画像を所定の時間間隔で撮影していたが、本明細書に開示の技術は、このような例に限られない。例えば、リング光が投影された被検眼の画像と、リング光が投影されていない被検眼の画像とを、数フレームごとに交互に撮影してもよい。
【0054】
また、上述した実施例では、被検眼の角膜表面に同心円状に配置された複数のリング光を投影したが、被検眼の角膜表面に投影するパターン光はリング光に限られない。例えば、縦線、横線、グリッドなど、ある間隔で形作られた任意のパターンで角膜表面を覆うパターン光を用いることができる。このようなパターン光を用いた場合でも、適当な分割領域を設定することで、その領域を近傍においてずらしても類似度の高い領域を容易に見つけることができる。このため、上述した実施例と同様の解析を行うことができる。
【0055】
また、上述した実施例では、撮影した画像を極座標変換し、極座標変換した画像を用いてその後の解析を行ったが、このような形態に限られない。例えば、撮影した画像をそのまま解析して、リング像の位置ずれ等を検出してもよい。
【0056】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0057】
1:コーン
2:照明装置
3:レンズ
4:ハーフミラー
6:固視灯点光源
8:CCDカメラ
10:メモリ
12:コントローラ
図1
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図3
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図6
図7
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図12