(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057471
(43)【公開日】2024-04-24
(54)【発明の名称】空気入りタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29D 30/06 20060101AFI20240417BHJP
B60C 19/12 20060101ALI20240417BHJP
B60C 5/00 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
B29D30/06
B60C19/12 A
B60C5/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164237
(22)【出願日】2022-10-12
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】湯川 直樹
【テーマコード(参考)】
3D131
4F215
4F501
【Fターム(参考)】
3D131AA30
3D131AA60
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4F215AD17
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4F501TA11
4F501TB03
4F501TC21
4F501TC25
4F501TE10
4F501TV04
(57)【要約】
【課題】効率よくシーラント入りの空気入りタイヤを製造できる空気入りタイヤの製造方法を提供する。
【解決手段】空気入りタイヤの製造方法は、加硫済みの空気入りタイヤを準備する第1工程S1と、粘性シール剤を成分とする環状リングを空気入りタイヤとは別に準備する第2工程S2と、空気入りタイヤの内腔面に環状リングを貼付ける第3工程S3を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤの製造方法であって、
加硫済みの空気入りタイヤを準備する第1工程と、
粘性シール剤を成分とする環状リングを前記空気入りタイヤとは別に準備する第2工程と、
前記空気入りタイヤの内腔面に前記環状リングを貼付ける第3工程を含む、
空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記第2工程は、金型に区画された環状のキャビティ空間内に前記粘性シール剤を充填する工程を含む、請求項1に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記第2工程は、回転するドラムの外周面に前記粘性シール剤を周方向に沿ってらせん状に巻付ける工程を含む、請求項1に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記第2工程は、前記環状リングの内周面を被覆層で被覆する工程を含む、請求項1に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項5】
前記第2工程は、前記環状リングの少なくとも一部を軸方向から視てひだ状に蛇行させる工程を含む、請求項4に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項6】
前記被覆層は、フイルム状に形成される、請求項4に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項7】
前記被覆層は、前記内周面から剥離可能に形成される、請求項6に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項8】
前記被覆層は、多孔質状の制音体である、請求項5に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項9】
前記制音体の密度は、5~60kg/m3である、請求項8に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項10】
前記制音体は、エーテル結合とエステル結合が混在する分子構造を有する、請求項8に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項11】
23℃の雰囲気において、JIS K6400-5に準じて測定される前記制音体の引っ張り強さは、40~200kPaである、請求項8に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項12】
23℃の雰囲気において、JIS K6400-5に準じて測定される前記制音体の伸びは、100~600%である、請求項8に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項13】
23℃の雰囲気においてJIS K6400-2 D法に準じて測定される前記制音体の硬さは、20~120Nである、請求項8に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項14】
タイヤ軸を含む子午断面で、前記制音体の断面積は、タイヤ内腔の断面積の5~35%である、請求項8に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項15】
前記環状リングのタイヤ半径方向の厚さは一定である、請求項8に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項16】
前記環状リングの前記厚さは、2~6mmである、請求項15に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、空気入りタイヤの内腔面にパンク防止用のシーラント層が形成された空気入りタイヤが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1において、シーラント層は、ノズルから連続的に吐出される略紐状のシーラント材が加硫済みの空気入りタイヤの内周面に沿って連続的にらせん状に配置されることにより形成される。
【0005】
しかしながら、上述した工法は、シーラント層の形成に少なくない時間を要し、シーラント入りの空気入りタイヤの生産性の低下を招く一因となっている。
【0006】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、効率よくシーラント入りの空気入りタイヤを製造できる空気入りタイヤの製造方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、空気入りタイヤの製造方法であって、
加硫済みの空気入りタイヤを準備する第1工程と、
粘性シール剤を成分とする環状リングを前記空気入りタイヤとは別に準備する第2工程と、
前記空気入りタイヤの内腔面に前記環状リングを貼付ける第3工程を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明の前記製造方法は、前記第1工程で加硫済みの前記空気入りタイヤが準備され、前記第2工程で前記環状リングが前記空気入りタイヤとは別に準備される。そして、前記第3工程で前記空気入りタイヤの前記内腔面に前記環状リングが貼付けられる。ここで、前記第1工程と前記第2工程は、並列的に同時に進行可能である。また、前記第3工程は、従来の略紐状のシーラント材をらせん状に配置して貼付ける工程と比較すると、極めて短時間で完了する。従って、本発明によると、効率よくシーラント入りの空気入りタイヤを製造できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の製造方法で製造される空気入りタイヤの断面図である。
【
図2】本発明の製造方法の流れを示すフローチャートである。
【
図3】
図2の第1工程で準備される空気入りタイヤを示す断面図である。
【
図4】
図2の第2工程で準備される環状リングを示す断面図である。
【
図5】
図2の第3工程で環状リングが貼付けられる状況を示す断面図である。
【
図7】
図6の第2工程とは別の第2工程の詳細を示す断面図である。
【
図8】
図4の環状リングの変形例を示す断面図である。
【
図9】
図8の環状リングを蛇行させる工程を示す断面図である。
【
図10】
図9の環状リングを空気入りタイヤに貼付ける第3工程を示す断面図である。
【
図11】
図4の環状リングの別の変形例である環状リングを示す断面図である。
【
図12】
図11の環状リングのバリエーションを示す断面図である。
【
図13】
図11の環状リングの別のバリエーションを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、本発明の製造方法で製造される空気入りタイヤ1の断面図である。本製造方法で製造される空気入りタイヤ1は、内腔面にパンク防止用のシーラント層10が形成されたシーラント入りの空気入りタイヤ1である。
【0011】
空気入りタイヤ1は、トレッド部2と、一対のサイドウォール部3と、一対のビード部4とを含んでいる。シーラント層10は、トレッド部2の内腔面11に形成されている。シーラント層10は、トレッド部2から一対のサイドウォール部3またはビード部4にわたる内腔面に形成されていてもよい。
【0012】
シーラント層10は、粘性シール剤10aを含んでいる。粘性シール剤10aは、粘着性を有するものであれば特に限定されず、例えば、タイヤのパンクシールに用いられる通常のゴム組成物を使用することができる。ゴム組成物の主成分を構成するゴム成分として、例えば、ブチル系ゴムが用いられる。ブチル系ゴムとしては、ブチルゴム(I I R ) の他、臭素化ブチルゴム( B r - I I R ) 、塩素化ブチルゴム( C l - I I R )などのハロゲン化ブチルゴム( X - I I R ) 等も挙げられる。なかでも、流動性等の観点から、ブチルゴム、若しくはハロゲン化ブチルゴムのどちらか一方、又は両方を好適に使用できる。
【0013】
粘性シール剤10a中の液状ポリマーとして、液状ポリブテン、液状ポリイソブテン、液状ポリイソプレン、液状ポリブタジエン、液状ポリα - オレフィン、液状イソブチレン、液状エチレンα - オレフィン共重合体、液状エチレンプロピレン共重合体、液状エチレンブチレン共重合体等が挙げられる。なかでも、粘着性付与等の観点から、液状ポリブテンが好ましい。液状ポリブテンとしては、イソブテンを主体とし、更にノルマルブテンを反応させて得られる長鎖状炭化水素の分子構造を持った共重合体等が挙げられ、水素添加型液状ポリブテンも使用可能である。
【0014】
硬化剤(架橋剤)としてとしては特に限定されず、従来公知の化合物を使用できるが、有機過酸化物が好ましい。有機過酸化物架橋系において、ブチル系ゴムや液状ポリマーを用いることで、粘着性、シール性、流動性、加工性が改善される。
【0015】
有機過酸化物(架橋剤)の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは5質量部以上である。0.5質量部未満では、架橋密度が低くなり、粘性シール剤の流動が生じるおそれがある。該含有量は、好ましくは40質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは15質量部以下である。40質量部を超えると、架橋密度が高くなり、粘性シール剤10aが硬くなり、シール性が低下するおそれがある。
【0016】
粘性シール剤10aには、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、タルク、マイカおよびこれらの混合物からなる群から選択される無機添加物を添加してもよい。
【0017】
粘性シール剤は、例えば、ブチルゴム100質量部に対して、100~400質量部のポリブテン、1~15質量部の架橋剤及び1~15質量部の架橋助剤を含むことが望ましい。また、ポリブテンの平均分子量は、例えば、1000~4000であるのが望ましい。
【0018】
図2は、本発明の製造方法の流れを示すフローチャートである。製造方法100は、加硫済みの空気入りタイヤ1Aを準備する第1工程S1と、環状リングを準備する第2工程S2と、空気入りタイヤ1Aの内腔面11に環状リングを貼付ける第3工程S3とを含んでいる。
【0019】
図3は、第1工程S1で準備される空気入りタイヤ1Aを示している。空気入りタイヤ1Aは、成形工程により成形された生タイヤが加硫工程を経ることにより製造されたタイヤであり、その構造及び製造工程等は通常の空気入りタイヤと同等である。
【0020】
例えば、空気入りタイヤ1の一対のビード部4には、それぞれビードコアが埋設され、ビードコアに跨るように一対のビード部4の間をカーカスがのびる(図示せず)。また、カーカスのタイヤ半径方向外側には、ベルトプライが配されていてもよい。
【0021】
図4は、第2工程S2で準備される環状リング20を示している。環状リング20は、上記粘性シール剤10aを成分とする。
【0022】
この第2工程S2では、環状リング20が空気入りタイヤ1Aとは別に準備される。このため、第1工程S1と第2工程S2は、並列的に同時に進行可能である。例えば、第1工程S1での上記加硫工程と第2工程S2は、同時に行なうことができる。これにより、効率よくシーラント入りの空気入りタイヤ1を製造できるようになる。
【0023】
図5は、第3工程S3を示している。第3工程S3では、第2工程S2で準備した環状リング20が空気入りタイヤ1Aの内腔に配され、その半径方向外側に拡径される。これにより、環状リング20が空気入りタイヤ1Aの内腔面11に貼付けられる。空気入りタイヤ1Aの内腔面11に貼付けられた環状リング20は、空気入りタイヤ1のシーラント層10(
図1参照)を構成する。
【0024】
この第3工程S3は、従来の略紐状のシーラント材をらせん状に配置する工程と比較すると、極めて短時間で完了する。従って、本発明の製造方法100によると、効率よくシーラント入りの空気入りタイヤを製造できるようになる。
【0025】
図6は、第2工程S2の詳細を示している。本実施形態の第2工程S2では、金型30を用いたいわゆる注型工法により、環状リング20が製造される。金型30は、雌金型31及び雄金型32によって環状に区画されたキャビティ空間33を有する。第2工程S2では、キャビティ空間33内に粘性シール剤10aを充填することにより、環状リング20が製造される。このような注型工法を用いることにより、環状リング20の製造効率が飛躍的に向上する。
【0026】
従来の略紐状のシーラント材をらせん状に配置する工法によれば、タイヤ軸方向に隣り合う突き合わせ部分においてシーラント層10の厚さが小さくなる。このため、シーラント層10の全域にわたって良好なパンクシール性能を得ようとすると、上記突き合わせ部分の厚さを十分に確保する必要があり、その結果、シーラント層10の平均厚さが大きくなって、空気入りタイヤ1の重量が増加する。
【0027】
一方、
図6に示される注型工法により製造された環状リング20は、厚さが均一であるため、空気入りタイヤ1において、良好なパンクシール性能と軽量化の両立を図ることが可能となる。このような空気入りタイヤ1は、特に、走行用バッテリーの重量増及び搭載スペースの確保を課題とするEVに有用である。
【0028】
図7は、
図6の第2工程S2とは別の第2工程S2Aの詳細を示している。第2工程S2Aでは、回転するドラム40の外周面41に紐状の粘性シール剤10aを周方向に沿ってらせん状に巻付けることにより、環状リング20が製造される。
【0029】
図7に示される第2工程S2Aは、
図6に示される第2工程S2と比較すると、環状リング20の製造により多くの時間が必要となる。しかしながら、第2工程S2Aは、第1工程S1での上記加硫工程よりも短時間で完了するため、第1工程S1と第2工程S2とを並列的に同時に進行させることにより、シーラント入りの空気入りタイヤ1の製造効率には影響がない。
【0030】
図8は、
図4の環状リング20の変形例である環状リング20Aを軸方向から視た断面図である。環状リング20Aのうち、以下で説明されてない部分については、上述した環状リング20の構成が採用されうる。
【0031】
環状リング20Aは、軸方向から視てひだ状に蛇行するように形成されている。
図8では、環状リング20Aの全体が蛇行しているが、環状リング20Aの少なくとも一部が蛇行していてもよい。環状リング20Aは、第2工程S2にて蛇行される。また、ひだ状に蛇行するキャビティ空間33を有する金型30を用いて環状リング20Aが準備されてもよい。
【0032】
蛇行する環状リング20Aは、
図4に示される環状リング20と同等の周長を確保しつつ、その見かけ上の外径Dを空気入りタイヤ1Aのビード部4の最内径D4よりも小さくなるように構成できる。これにより、第3工程S3において、環状リング20が空気入りタイヤ1Aの内腔に容易に配される。
【0033】
図9は、環状リング20Aを蛇行させる工程を示している。環状リング20Aは、例えば、環状リング20Aの内周面21に接し、径方向の内側に移動する複数の第1ローラー51と、環状リング20Aの外周面22に接し、径方向の内側に移動する複数の第2ローラー52とによって変形される。なお、第1ローラー51及び第2ローラー52は、単数であってもよい。
【0034】
同図において、蛇行前の環状リング20A及び第1ローラー51及び第2ローラー52は、2点鎖線で描かれている。当初、第2ローラー52は、第1ローラー51より環状リング20Aの半径方向の外側に配置され、第1ローラー51及び第2ローラー52は、半径方向の内方に移動する。第2ローラー52の移動距離は、第1ローラー51の移動距離よりも大きく、第2ローラー52は、第1ローラー51より環状リング20Aの半径方向の内側の位置するまで移動する。これにより、環状リング20Aの蛇行が大きくなり、ひだ状の環状リング20Aが形成される。
【0035】
第1ローラー51及び第2ローラー52には、シリコン製のローラーが好適に使用される。このような第1ローラー51及び第2ローラー52によって、粘性シール剤10aの粘着が抑制される。第1ローラー51及び第2ローラー52の表面には、粘性シール剤10aの粘着を抑制するための加工、例えばフッ素樹脂加工(テフロン加工)が施されていてもよい。
【0036】
図10は、空気入りタイヤ1Aの内腔面11に環状リング20Aを貼付ける第3工程S3の一例である第3工程S3を示している。
【0037】
第2工程S2で準備された環状リング20Aは、空気入りタイヤ1Aの内腔に移動される。そして、第2ローラー52が軸方向に引き抜かれ、環状リング20Aが径方向に拡張可能な状態とされる。なお、環状リング20Aの内周面21には、第2ローラー52が軸方向に引き抜かれときに、環状リング20Aを支持するための治具が設けられていてもよい。
【0038】
その後、第1ローラー51が径方向の外側に移動することにより、環状リング20Aが径方向の外側に拡張し、環状リング20Aが空気入りタイヤ1Aの内腔面11に貼付けられる。
【0039】
図11は、
図4の環状リング20の別の変形例である環状リング20Bの断面図である。環状リング20Bのうち、以下で説明されてない部分については、上述した環状リング20、20Aの構成が採用されうる。
【0040】
環状リング20、20Aを構成する粘性シール剤10aは、粘着性が極めて高いので、第3工程S3での取り扱いに注意を要する。そこで、環状リング20Bは、環状リング20の内周面21を被覆層23にて被覆することにより、その取り扱いを容易なものにしている。
【0041】
図8に示される環状リング20Aの内周面21が被覆層23によって被覆されていてもよい。これにより、内周面21と第1ローラー51との粘着が抑制され、環状リング20Aを容易に蛇行させることが可能となる。
【0042】
被覆層23は、第2工程S2で環状リング20の内周面21に形成される。すなわち、第2工程S2は、環状リング20の内周面21を被覆層23で被覆する工程を含んでいる。
【0043】
図6に示される第2工程S2では、例えば、金型30のキャビティ空間33に被覆層23を装填した後、粘性シール剤10aを充填するインサート成形の手法が適用されてもよい。
【0044】
図9に示される環状リング20Aに被覆層23を適用する場合には、先に被覆層23を形成した後、環状リング20Aを蛇行させるのが望ましい。これにより、環状リング20Aと第1ローラー51との粘着が抑制され、環状リング20Aを容易に蛇行させることが可能となる。
【0045】
図12は、被覆層23の一形態として、フイルム状の被覆層24が形成された環状リング20Bを示している。フイルム状の被覆層24は、環状リング20Bの厚さや重量に及ぼす影響を抑制できる。
【0046】
被覆層24は、環状リング20Bの内周面21から剥離可能に形成される、のが望ましい。このような被覆層24は、粘着シールの剥離シートと同様に実現できる。被覆層24は、例えば、第3工程S3の完了後に剥離される。より具体的には、被覆層24は、空気入りタイヤ1がリムに組み込まれる直前に、内周面21から剥離されるのが望ましい。
【0047】
図13は、被覆層23の別の形態として、制音体25が形成された環状リング20Cを示している。制音体25は、例えば、多孔質状のスポンジ材により構成される。
【0048】
スポンジ材は、海綿状の多孔構造体であり、例えばゴムや合成樹脂を発泡させた連続気泡を有するいわゆるスポンジそのものの他、動物繊維、植物繊維又は合成繊維等を絡み合わせて一体に連結したウエブ状のものを含むものとする。また「多孔構造体」には、連続気泡のみならず独立気泡を有するものを含む。本例の制音体25には、ポリウレタンからなる連続気泡のスポンジ材が用いられる。
【0049】
上述のようなスポンジ材は、表面乃至内部の多孔部が振動する空気の振動エネルギーを熱エネルギーに変換して消費させることにより、音(空洞共鳴エネルギー)を小さくし、空気入りタイヤ1の走行ノイズを低減する。またスポンジ材は、収縮、屈曲等の変形が容易であるため、走行時のタイヤの変形に、実質的な影響を与えない。このため、操縦安定性が悪化するのを防止できる。しかもスポンジ材は、比重が非常に小さいため、タイヤの重量バランスの悪化を防止できる。
【0050】
スポンジ材として、好ましくはエーテル系ポリウレタンスポンジ、エステル系ポリウレタンスポンジ、ポリエチレンスポンジなどの合成樹脂スポンジ、クロロプレンゴムスポンジ(CRスポンジ)、エチレンプロピレンゴムスポンジ(EDPMスポンジ)、ニトリルゴムスポンジ(NBRスポンジ)などのゴムスポンジを好適に用いることができ、とりわけエーテル系ポリウレタンスポンジを含むポリウレタン系又はポリエチレン系等のスポンジが、制音性、軽量性、発泡の調節可能性、耐久性などの観点から好ましい。
【0051】
制音体25の密度は、5~60kg/m3である、のが望ましい。このような制音体25は、空気入りタイヤ1の質量の増加を招くことなく、空洞共鳴ノイズを効果的に吸収できる。
【0052】
制音体25は、エーテル結合とエステル結合が混在する分子構造を有する、のが望ましい。このような制音体25は、タイヤから剥がれないための、耐候性と強度との高いレベルでの両立に寄与する。
【0053】
制音体25は、連続気泡構造を有する、のが望ましい。このような制音体25は、空気入りタイヤ1の静音性を高める。
【0054】
23℃の雰囲気において、JIS K6400-5に準じて測定される制音体25の引っ張り強さは、40~200kPaである、のが望ましい。
【0055】
制音体25の引張強さが40kPa未満であると、制音体25の耐久性能が低下するおそれがある。逆に、制音体25の引張強さが200kPaを超えると、例えば、トレッド部2の制音体25を含む領域に釘等の異物が刺さった場合に、この異物に制音体25が引っ張られて、トレッド部2のシーラント層10から制音体25が剥がれるおそれがある。
【0056】
23℃の雰囲気において、JIS K6400-5に準じて測定される制音体25の伸びは、100~600%である、のが望ましい。
【0057】
上記伸びが100%以上である制音体25は、異物との接触時、弾性変形が促進されやすく、ひいては、異物の突き刺さりが抑制される。また、制音体25は、その伸びが大きいほど、高いノイズ低減効果を発揮する傾向があるため、このような制音体25は、ノイズ性能の観点からも望ましい。上記伸びが600%以下である制音体25は、入手が容易である。
【0058】
23℃の雰囲気においてJIS K6400-2 D法に準じて測定される制音体25の硬さは、20~120Nである、のが望ましい。上記硬さが20N以上の制音体25は、異物との接触時、異物の突き刺さりがより一層抑制される。上記硬さが120N以下の制音体25は、良好なノイズ低減効果が得られる。
【0059】
タイヤ軸を含む子午断面で、制音体25の断面積は、タイヤ内腔の断面積の5~35%である、のが望ましい。制音体25の断面積とは、制音体25の見かけの全体積であって、内部の気泡を含めた外形から定められる体積を意味する。
【0060】
制音体25の断面積がタイヤ内腔の断面積の5%以上であることにより、良好なノイズ低減効果が得られる。一方、制音体25の断面積がタイヤ内腔の断面積の35%以下であることにより、トレッド部2の放熱性が向上し、空気入りタイヤ1の耐久性能が高められる。
【0061】
環状リング20のタイヤ半径方向の厚さは一定である、のが望ましい。これにより、良好なパンクシール性能と軽量化の両立を図ることが可能となる。
【0062】
環状リング20の厚さは、2~6mmである、のが望ましい。環状リング20の厚さが2mm以上であることにより、良好なパンクシール性能が得られる。一方、環状リング20の厚さが6mm以下であることにより、容易に空気入りタイヤ1の軽量化を図ることができる。
【0063】
以上、本発明の空気入りタイヤ1が詳細に説明されたが、本発明は上記の具体的な実施形態に限定されることなく種々の態様に変更して実施される。
【0064】
図1の基本構造を有し、表1の仕様に基づく空気入りタイヤ1を製造するのに要する時間が発明者によって試算された。各時間は、従来の工法を想定した比較例を100とする指数で表される。
【0065】
比較例には第2工程が存在しないため、実施例の第2工程に要する時間は、比較例の第3工程に要する時間を基準としている。実施例の第2工程に要する時間は、全て第1工程に要する時間内に吸収され、全工程に要する時間に影響を及ぼさないこととしている。
【0066】
【0067】
表1から明らかなように、実施例の空気入りタイヤの製造方法は、比較例に比べて空気入りタイヤの生産性が有意に向上していることが確認できた。また、実施例に適用される被覆層は、空気入りタイヤの生産性を著しく向上させることが確認できた。
【0068】
[付記]
本発明は以下の態様を含む。
【0069】
[本発明1]
空気入りタイヤの製造方法であって、
加硫済みの空気入りタイヤを準備する第1工程と、
粘性シール剤を成分とする環状リングを前記空気入りタイヤとは別に準備する第2工程と、
前記空気入りタイヤの内腔面に前記環状リングを貼付ける第3工程を含む、
空気入りタイヤの製造方法。
[本発明2]
前記第2工程は、金型に区画された環状のキャビティ空間内に前記粘性シール剤を充填する工程を含む、本発明1に記載の空気入りタイヤの製造方法。
[本発明3]
前記第2工程は、回転するドラムの外周面に前記粘性シール剤を周方向に沿ってらせん状に巻付ける工程を含む、本発明1に記載の空気入りタイヤの製造方法。
[本発明4]
前記第2工程は、前記環状リングの内周面を被覆層で被覆する工程を含む、本発明1に記載の空気入りタイヤの製造方法。
[本発明5]
前記第2工程は、前記環状リングの少なくとも一部を軸方向から視てひだ状に蛇行させる工程を含む、本発明4に記載の空気入りタイヤの製造方法。
[本発明6]
前記被覆層は、フイルム状に形成される、本発明4または5に記載の空気入りタイヤの製造方法。
[本発明7]
前記被覆層は、前記内周面から剥離可能に形成される、本発明6に記載の空気入りタイヤの製造方法。
[本発明8]
前記被覆層は、多孔質状の制音体である、本発明5に記載の空気入りタイヤの製造方法。
[本発明9]
前記制音体の密度は、5~60kg/m3である、本発明8に記載の空気入りタイヤの製造方法。
[本発明10]
前記制音体は、エーテル結合とエステル結合が混在する分子構造を有する、本発明8に記載の空気入りタイヤの製造方法。
[本発明11]
23℃の雰囲気において、JIS K6400-5に準じて測定される前記制音体の引っ張り強さは、40~200kPaである、本発明8に記載の空気入りタイヤの製造方法。
[本発明12]
23℃の雰囲気において、JIS K6400-5に準じて測定される前記制音体の伸びは、100~600%である、本発明8に記載の空気入りタイヤの製造方法。
[本発明13]
23℃の雰囲気においてJIS K6400-2 D法に準じて測定される前記制音体の硬さは、20~120Nである、本発明8に記載の空気入りタイヤの製造方法。
[本発明14]
タイヤ軸を含む子午断面で、前記制音体の断面積は、タイヤ内腔の断面積の5~35%である、本発明8に記載の空気入りタイヤの製造方法。
[本発明15]
前記環状リングのタイヤ半径方向の厚さは一定である、本発明8に記載の空気入りタイヤの製造方法。
[本発明16]
前記環状リングの前記厚さは、2~6mmである、本発明15に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【符号の説明】
【0070】
1 :空気入りタイヤ
1A :空気入りタイヤ
10a :粘性シール剤
11 :内腔面
20 :環状リング
20A :環状リング
20B :環状リング
20C :環状リング
21 :内周面
22 :外周面
23 :被覆層
24 :被覆層
25 :制音体
30 :金型
33 :キャビティ空間
40 :ドラム
41 :外周面
100 :製造方法
S1 :第1工程
S2 :第2工程
S2A :第2工程
S3 :第3工程
S3A :第3工程