(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057497
(43)【公開日】2024-04-24
(54)【発明の名称】撥水撥油剤
(51)【国際特許分類】
C09K 3/18 20060101AFI20240417BHJP
D21H 21/14 20060101ALI20240417BHJP
D21H 19/10 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
C09K3/18 101
D21H21/14 Z
D21H19/10 B
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164285
(22)【出願日】2022-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129791
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 真由美
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】松田 礼生
(72)【発明者】
【氏名】坂下 浩敏
(72)【発明者】
【氏名】柴田 俊
(72)【発明者】
【氏名】上原 徹也
【テーマコード(参考)】
4H020
4L055
【Fターム(参考)】
4H020BA02
4L055AA02
4L055AA03
4L055AC06
4L055AG44
4L055AG47
4L055AG48
4L055AH13
4L055AH17
4L055BE08
4L055EA04
4L055EA05
4L055EA08
4L055EA10
4L055EA12
4L055EA14
4L055EA20
4L055EA25
4L055EA32
4L055FA11
(57)【要約】
【課題】紙に対して優れた撥水性および撥油性を与えることができる撥水撥油剤を提供。
【解決手段】多糖類およびサイズ剤を含む撥水撥油剤であって、多糖類は、20質量%水溶液において50℃で60cps以下の粘度を示す、撥水撥油剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖類およびサイズ剤を含む撥水撥油剤であって、
前記多糖類は、20質量%水溶液において50℃で60cps以下の粘度を示す、撥水撥油剤。
【請求項2】
前記多糖類は、澱粉である、請求項1に記載の撥水撥油剤。
【請求項3】
前記澱粉は、疎水化変性澱粉である、請求項2に記載の撥水撥油剤。
【請求項4】
前記疎水化変性澱粉は、アルケニルコハク酸エステル化澱粉である、請求項3に記載の撥水撥油剤。
【請求項5】
前記サイズ剤は、アルキルケテンダイマーである、請求項1に記載の撥水撥油剤。
【請求項6】
50℃における粘度が300cps以下である、請求項1に記載の撥水撥油剤。
【請求項7】
前記撥水撥油剤における前記多糖類の含有量は、40質量%以下である、請求項1に記載の撥水撥油剤。
【請求項8】
前記撥水撥油剤における前記サイズ剤の含有量は、5質量%以下である、請求項1に記載の撥水撥油剤。
【請求項9】
前記撥水撥油剤における前記サイズ剤の含有量は、前記多糖類と前記サイズ剤の合計に対し、10質量%以下である、請求項1に記載の撥水撥油剤。
【請求項10】
さらに添加剤を含む、請求項1に記載の撥水撥油剤。
【請求項11】
紙の表面を処理するための、請求項1に記載の撥水撥油剤。
【請求項12】
請求項1に記載の撥水撥油剤から形成された撥水撥油層を紙の表面に有する、撥水撥油紙。
【請求項13】
前記撥水撥油層における前記撥水撥油剤の固形分量が、6.0g/m2以下である、請求項12に記載の撥水撥油紙。
【請求項14】
請求項1に記載の撥水撥油剤で、紙を外添処理することにより処理することを含む、紙の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、撥水撥油剤に関する。
【背景技術】
【0002】
紙からできている食品包装材および食品容器は、食品の水分および油分の浸透を防止することが要求される。したがって、紙に撥油性を付与するために、紙に耐油剤が適用されている(特許文献1~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-307363号公報
【特許文献2】特開2002-69889号公報
【特許文献3】国際公開第2022/080464号
【特許文献4】特開2022-103182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的は、紙に対して優れた撥水性および撥油性を与えることができる撥水撥油剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の態様を含む。
<1>多糖類およびサイズ剤を含む撥水撥油剤であって、
前記多糖類は、20質量%水溶液において50℃で60cps以下の粘度を示す、撥水撥油剤。
<2>前記多糖類は、澱粉である、上記<1>に記載の撥水撥油剤。
<3>前記澱粉は、疎水化変性澱粉である、上記<2>に記載の撥水撥油剤。
<4>前記疎水化変性澱粉は、アルケニルコハク酸エステル化澱粉である、上記<3>に記載の撥水撥油剤。
<5>前記サイズ剤は、アルキルケテンダイマーである、上記<1>~<4>のいずれかに記載の撥水撥油剤。
<6>50℃における粘度が300cps以下である、上記<1>~<5>のいずれかに記載の撥水撥油剤。
<7>前記撥水撥油剤における前記多糖類の含有量は、40質量%以下である、上記<1>~<6>のいずれかに記載の撥水撥油剤。
<8>前記撥水撥油剤における前記サイズ剤の含有量は、5質量%以下である、上記<1>~<7>のいずれかに記載の撥水撥油剤。
<9>前記撥水撥油剤における前記サイズ剤の含有量は、前記多糖類と前記サイズ剤の合計に対し、10質量%以下である、上記<1>~<8>のいずれかに記載の撥水撥油剤。
<10>さらに添加剤を含む、上記<1>~<9>のいずれかに記載の撥水撥油剤。
<11>紙の表面を処理するための、上記<1>~<10>のいずれかに記載の撥水撥油剤。
<12>上記<1>~<11>のいずれかに記載の撥水撥油剤から形成された撥水撥油層を紙の表面に有する、撥水撥油紙。
<13>前記撥水撥油層における前記撥水撥油剤の固形分量が、6.0g/m2以下である、上記<12>に記載の撥水撥油紙。
<14>上記<1>~<11>のいずれかに記載の撥水撥油剤で、紙を外添処理することにより処理することを含む、紙の処理方法。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、紙に対して優れた撥水性および撥油性を与えることができる撥水撥油剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<撥水撥油剤>
本開示の撥水撥油剤は、多糖類およびサイズ剤を含む撥水撥油剤であって、前記多糖類は、20質量%水溶液において50℃で60cps以下の粘度を示す。
【0008】
従前では、耐油剤に多糖類を高濃度で含ませた場合、耐油剤の粘度が大きくなり、耐油剤を紙に安定的に塗工し難くなる。一方で、耐油剤に多糖類を低濃度で含ませた場合、紙の耐油性が小さく成り得る。
【0009】
本開示の撥水撥油剤は、上記特徴を有することにより、紙に対して優れた撥水性および撥油性を与えることができる。特に、多糖類濃度を高くした場合であっても紙を良好に処理することができ、紙に優れた撥水撥油性を与えることができる。
【0010】
本開示の撥水撥油剤は、媒体(例えば、水および有機溶媒などの液状媒体)を含んでもよい。本開示の撥水撥油剤は、好ましくは水分散液であってよい。
【0011】
本開示の撥水撥油剤は、多糖類を含む。当該多糖類は、1種類の多糖類からなっていてもよく、または2種類以上の多糖類からなっていてもよい。撥水撥油剤に含まれる多糖類は、紙に対し、撥水性および撥油性を供し得る。
【0012】
従前では、耐油剤に多糖類を高濃度で含ませた場合、耐油剤の粘度が大きくなり、耐油剤を紙に安定的に塗工し難くなる。一方で、耐油剤に多糖類を低濃度で含ませた場合、紙の耐油性が小さく成り得る。
【0013】
本開示の撥水撥油剤に含まれる多糖類は、水溶性の多糖類であっても疎水性の多糖類であってもよい。多糖類は水に溶解して、または水に部分的に溶解して、多糖類の水溶液または多糖類を含む分散液を形成し得る。多糖類の水溶液または分散液は、その水溶液または分散液に含まれる多糖類の量に従い、所定の粘度を有する。
【0014】
以下、本明細書において、「水溶液」は、多糖類が液中に完全に溶解している形態に限定されず、多糖類が液中に一部溶解している形態も包含するものとして用いられ得る。例えば、本明細書における「水溶液」は、多糖類が液中に分散している分散液、または多糖類が液中に懸濁している懸濁液といった形態も含まる。
【0015】
本開示の撥水撥油剤に含まれる多糖類は、20質量%水溶液において、50℃で60cps以下の粘度を示す。かかる粘度を示すことにより、撥水撥油剤が多糖類を高濃度で含む場合でも、撥水撥油剤の粘度が大きくなり難くなる。従って、多糖類を高濃度で含む撥水撥油剤を紙に塗工し易くなり、紙の撥水性および撥油性が向上し得る。
【0016】
本開示の撥水撥油剤を紙へ塗工し易くする観点から、多糖類は、20質量%水溶液において、50℃で好ましくは55cps以下の粘度を示してもよく、より好ましくは50cps以下の粘度、さらに好ましくは45cps以下、特に好ましくは40cps、格別に好ましくは30cpsの粘度を示してもよい。
【0017】
撥水性および撥油性の向上の観点から、多糖類は、20質量%水溶液において、50℃で1cps以上の粘度を示してもよく、好ましくは5cps以上の粘度、より好ましくは10cps以上の粘度示してもよい。
【0018】
本開示の撥水撥油剤を紙へ塗工し易くする観点から、多糖類は、20質量%水溶液において、30℃で200cps以下の粘度を示してもよい。撥水性および撥油性のさらなる向上の観点から、多糖類は、20質量%水溶液において、30℃で好ましくは150cps以下の粘度を示してもよく、より好ましくは130cps以下の粘度、さらに好ましくは120cps以下の粘度を示してもよい。
【0019】
撥水性および撥油性の向上の観点から、多糖類は、20質量%水溶液において、30℃で1cps以上の粘度を示してもよく、好ましくは10cps以上の粘度を示してもよく、より好ましくは30cps以上の粘度示してもよい。
【0020】
多糖類の水溶液の粘度は、B型の回転式粘度計を使用して測定される。例えば、B型の回転式粘度計による測定では、No.2のローターを用いてもよい。ローターの回転数は、60rpmとすることができる。
【0021】
50℃、20質量%水溶液における粘度は、例えば、多糖類の分子量調整により調整することができる。具体的には、50℃、20質量%水溶液における粘度は、多糖類のグルコシド結合を切断することによって調整してもよい。多糖類のグルコシド結合の切断は、例えば、湿式酸処理、乾式酸処理、加熱処理、デンプン分解酵素、または酸化剤等を使用して実行してもよい。多糖類のグルコシド結合を切断することによって、多糖類の分子量が小さくなり、50℃、20質量%水溶液における粘度を小さくすることができる。つまり、低粘度化した多糖類を得ることができる。多糖類の低粘度化は、多糖類の加工(または変性)後に行ってもよく、加工(または変性)前に行ってもよい。
【0022】
多糖類は、グルコース、ガラクトース、フルクトース等の単糖類が複数(3個以上、例えば3個以上2000個以下)で結合した化合物であってよい。多糖類は、単糖類が3以上10個以下結合したオリゴ糖類であってもよい。
【0023】
多糖類は、酸性多糖類、中性多糖類、または塩基性多糖類であってよい。酸性多糖類は、一般的に、カルボキシル基(-COOH)等を有する多糖類である。酸性多糖類の具体例は、カラギーナン、ペクチン、アラビアガム、キサンタンガム、ジェランガム、寒天、トラガントガムである。中性多糖類は、電気的に中性である多糖類である。中性多糖類の具体例は、タマリンドシードガム、グアーガム、ローカストビーンガム、澱粉、プルランである。塩基性多糖類は、アミノ基(-NH2)等を有する多糖類である。塩基性多糖類の具体例は、キトサンである。
【0024】
多糖類の具体例としては、キサンタンガム、カラヤガム、ウェランガム、グアーガム、ペクチン、タマリンドガム、カラギーナン、キトサン、アラビアガム、ローカストビーンガム、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体、アルギン酸、澱粉(換言すると、スターチ)、寒天、デキストラン、プルランが挙げられる。多糖類は、置換されている多糖類であってよく、特に、ヒドロキシル基が置換されている多糖類であってよい。
【0025】
撥水性および撥油性の向上の観点から、多糖類は、澱粉であってよい。澱粉は、植物性澱粉であってよい。例えば、澱粉は、米粉澱粉、小麦澱粉、トウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、さつまいも澱粉、小豆澱粉、緑豆澱粉、くず澱粉、または片栗澱粉等が挙げられる。
【0026】
澱粉は、未加工澱粉または加工澱粉であってよい。換言すると、澱粉は、未変性澱粉または変性澱粉であってよい。澱粉としては、エステル化変性、エーテル化変性、酸化変性、アルカリ変性、酵素変性および漂白変性等の少なくとも1つの変性を施した変性澱粉であってよい。
【0027】
変性澱粉としては、例えば、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化酸化澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、アルケニルコハク酸エステル化澱粉、酢酸澱粉、酸化澱粉、ヒドロキシアルキル化澱粉、ヒドロキシアルキル化リン酸架橋澱粉(例えば、アルキル基の炭素数2以上40以下または2以上10以下、特に2または3)、リン酸架橋澱粉、リン酸化澱粉、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉、酸変性澱粉、アルカリ処理澱粉、酵素処理澱粉、漂白処理澱粉、カチオン化澱粉(例えば、四級アンモニウム化澱粉)アルファ化澱粉を挙げることができる。澱粉を化学的あるいは酵素的な方法により低分子化したデキストリンも挙げることができる。
【0028】
撥水性および撥油性の向上の観点から、澱粉は、疎水化変性澱粉であってよい。疎水化変性澱粉は、疎水基(例えば、炭素数1~40、2~40、3~30または4~20の炭化水素基)を有するように変性(疎水化処理)されている澱粉である。疎水化変性澱粉の例は、アルケニルコハク酸エステル化澱粉、酢酸エステル化澱粉、ポリアクリロニトリルグラフト澱粉、(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸エステルグラフト澱粉、架橋澱粉である。(メタ)アクリル酸エステルの例は、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチルである。架橋澱粉において、多官能性(2~5価)薬剤を用いるが、多官能性薬剤の例は、オキシ塩化リン、エピクロロヒドリンなどである。
【0029】
疎水化変性方法の例は、コハク酸のアルケニル(例えば、アルケニル基の炭素数3~40、例えば5~30または6~24)誘導体(例えば、オクテニルコハク酸無水物やドデセニルコハク酸無水物などのアルケニルコハク酸無水物)を用いて原料澱粉をエステル化してアルケニルコハク酸エステル化澱粉(またはアルケニルコハク酸変性澱粉)を得る方法、疎水性モノマー(例えば、アクリロニトリルなどの不飽和ニトリル、アルキル(メタ)アクリレート(例えば、アルキル基の炭素数1~30)などのアクリルモノマー)を原料澱粉にグラフト化する方法、原料澱粉をオルガノシランと反応させる方法、ならびにエーテル化またはエステル化により炭化水素基(例えば、炭素数1~30)を含む疎水基をデンプンに付与させる方法、等である。原料澱粉をエステル化してアルケニルコハク酸エステル化澱粉を得る場合、弱塩基性環境下(例えば、pH7.5~8.0)で原料澱粉とコハク酸のアルケニル誘導体とを反応させてもよい。原料澱粉の例は、トウモロコシ澱粉、米澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ポテトスターチ、タピオカスターチ、甘藷澱粉等の天然澱粉である。
【0030】
撥水性および撥油性の向上の観点から、多糖類は、アルケニルコハク酸エステル化澱粉(例えば、オクテニルコハク酸エステル化澱粉またはオクテニルコハク酸変性澱粉)であってよい。アルケニルコハク酸エステル化澱粉において、アルケニル基の炭素数は、炭素数3~40、例えば5~30または6~24であってよい。アルケニルコハク酸エステル化澱粉の具体例としては、オクテニルコハク酸エステル化澱粉、デセニルコハク酸エステル化澱粉、ドデセニルコハク酸エステル化澱粉、テトラデセニルコハク酸エステル化澱粉、ヘキサデセニルコハク酸エステル化澱粉、オクタデセニルコハク酸エステル化澱粉等を挙げることができる。オクテニルコハク酸エステル化澱粉が好ましい。エステル化澱粉のエステル化度は置換度として表し(無水グルコース残基1モル当りの置換基DSモル)、DSが0.005~0.3または0.01~0.2であってよい。
【0031】
疎水化変性澱粉は、疎水基(例えば、炭素数1~40、2~40または3~30の炭化水素基)を有するが、親水性(例えば、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、オキシアルキレン基(アルキレンの炭素数1~3、特に1または2))も有していることが好ましい。疎水基および親水基の存在により、撥水性および撥油性が高くなり得る。
【0032】
本開示の撥水撥油剤における多糖類の含有量は、40質量%以下であってよく、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは25質量%、さらにより好ましくは20質量%以下であってよい。
【0033】
本開示の撥水撥油剤における多糖類の含有量は、1質量%以上であってよく、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは7質量%以上、さらにより特に好ましくは10質量%以上、特に好ましくは15質量%以上であってよい。
【0034】
本開示の撥水撥油剤は、サイズ剤を含む。撥水撥油剤がサイズ剤を含むことにより、撥水撥油剤の撥水性および撥油性が向上し得る。本開示の撥水撥油剤に用いるサイズ剤は、市販品として入手可能なサイズ剤を用いてもよい。
【0035】
サイズ剤は、例えば、オレフィン系サイズ剤、ロジン系サイズ剤、アクリル系サイズ剤、ポリアクリルアミド系サイズ剤、スチレン-マレイン酸系サイズ剤、アクリル系共重合体系サイズ剤、アクリルエマルジョン系サイズ剤、オレフィン-マレイン酸樹脂系サイズ剤、ウレタン系サイズ剤、AKD(アルキルケテンダイマー)系サイズ剤、ASA(アルケニル無水コハク酸)系サイズ剤、および石油樹脂系サイズ剤等が挙げられる。サイズ剤のイオン性は、カチオン系、アニオン系、またはノニオン系であってよい。撥水性および撥油性をより向上させる観点から、サイズ剤は、アルキルケテンダイマーであってよい。
【0036】
アルキルケテンダイマーは、例えば、下記式:
【化1】
[式中:
R
1は、アルキル基またはアルケニル基
R
2は、アルキル基またはアルケニル基]
で表される化合物であってよい。
【0037】
撥水性および撥油性をより向上させる観点から、R1およびR2は、それぞれ独立して、炭素数が4~32のアルキル基またはアルケニル基であってよく、好ましくは炭素数が8~28のアルキル基またはアルケニル基、より好ましくは炭素数が12~24のアルキル基またはアルケニル基、さらに好ましくは炭素数が14~24のアルキル基またはアルケニル基であってよい。
【0038】
本開示の撥水撥油剤におけるサイズ剤の含有量は、5質量%以下であってよく、好ましくは0.1質量%~5質量%、より好ましくは0.3質量%~3質量%、さらに好ましくは0.5質量%~1質量%であってよい。
【0039】
本開示の撥水撥油剤におけるサイズ剤は、開示の撥水撥油剤に含まれる多糖類およびサイズ剤の含有量の合計に対して、10質量%以下であってよく、好ましくは1質量%~10質量%、より好ましくは1質量%~8質量%、さらに好ましくは2質量%~5質量%であってよい。
【0040】
撥水撥油剤は、50℃における粘度が300cps以下であってよい。本開示の撥水撥油剤がかかる粘度を有する場合、本開示の撥水撥油剤を紙へ塗工し易くなる。本開示の撥水撥油剤を紙へより塗工し易くする観点から、本開示の撥水撥油剤の50℃における粘度は、好ましくは1~300cps、より好ましくは30cps~250cps、さらに好ましくは50cps~200cpsであってよい。
【0041】
本開示の撥水撥油剤は、さらに添加剤を含んでもよい。添加剤としては、pH調整剤、紙力増強剤、歩留まり向上剤、着色剤(染料・顔料)、蛍光着色剤、スライムコントロール剤、防滑剤、および消泡剤等を含んでよい。
【0042】
<用途>
本開示に係る撥水撥油剤は、外的処理剤(表面処理剤)あるいは内的処理剤として使用できる。撥水撥油剤で処理して得られる製品は、高い撥水性および/または撥油性を有する。そのため、撥水撥油剤は、撥水剤および/または撥油剤として利用される。さらに、撥水撥油剤は、防汚剤、耐油剤、耐油剤、汚れ脱離剤、剥離剤あるいは離型剤またはその成分として利用され得る。
【0043】
<撥水撥油紙>
本開示の撥水撥油剤は、紙を処理(例えば、表面処理)するために使用することができる。つまり、本開示の撥水撥油剤は、紙の表面を処理するための撥水撥油剤であってよい。本開示の撥水撥油剤を用いて紙を処理することにより、撥水撥油紙を得ることができる。
【0044】
撥水撥油剤は、従来既知の方法により紙に適用することができる。例えば、抄造前のパルプスラリーに本開示の撥水撥油剤を添加する内添処理方法、または抄造後の紙に本開示の撥水撥油剤を適用する外添処理方法を用いることができる。
【0045】
本開示の撥水撥油剤の処理方法は、外添処理方法が好ましい。外添処理方法としてはサイズプレス、コーティング(例えば、ゲートロールコーター、ビルブレードコーター、バーコーターなど)、スプレー装置等を採用してもよい。撥水撥油剤を有機溶剤または水に分散して希釈して、浸漬塗布、スプレー塗布、泡塗布などのような既知の方法により、被処理物の表面に付着させ、乾燥する方法を採ってもよい。
【0046】
外添処理方法のサイズプレスは、塗布方式によって以下のように分けることも可能である。一態様の塗布方式は、2本のゴムロールの間に紙を通して形成されるニップ部に塗布液(即ち、サイズ液)を供給し、ポンドと呼ばれる塗液溜りを作り、この塗液溜りに紙を通して紙の両面にサイズ液を塗布する、いわゆるポンド式ツーロールサイズプレスである。他の塗布方式は、サイズ液を表面転写型により塗布するゲートロール型、及び、ロッドメタリングサイズプレスである。ポンド式ツーロールサイズプレスにおいてサイズ液は紙の内部まで浸透しやすく、表面転写型においてサイズ液成分は紙の表面に留まりやすい。表面転写型は、ポンド式ツーロールサイズプレスと比べて、塗布層が紙の表面に留まりやすく、表面に形成される撥水撥油層がポンド式ツーロールサイズプレスより多い。本開示では、前者のポンド式2ロールサイズプレスを用いた場合でも紙に撥水性および撥油性能を付与できる。このように処理された紙は、室温または高温での簡単な乾燥後に、任意に、紙の性質に依存して300℃まで、例えば200℃まで、特に80℃以上180℃以下の温度範囲をとり得る熱処理を伴うことで、優れた撥水性および撥油性を示す。
【0047】
本開示の紙の処理方法としては、オンマシンにより本開示の撥水撥油剤を紙に外添する方法を採用してもよい。つまり、紙の製造工程と塗工工程が一体(換言すれば、連続的)となった処理方法であってよい。例えば、本開示の紙の処理方法としては、紙原料スラリーを抄紙機のワイヤーパートに供給して脱水し、さらにプレスパートで搾水したのち、ドライヤパートを通過させて乾燥させることで塗工用原紙を得て、引き続き当該塗工用原紙をコーターヘッドに通過させて撥水撥油剤を塗工した後、ドライヤパート通過させて乾燥させる方法であってよい。
【0048】
本開示の撥水撥油剤は、石膏ボード原紙、コート原紙、中質紙、一般ライナーおよび中芯、中性純白ロール紙、中性ライナー、防錆ライナーおよび金属合紙、クラフト紙などにおいて使用することができる。また、中性印刷筆記用紙、中性コート原紙、中性PPC用紙、中性感熱用紙、中性感圧原紙、中性インクジェット用紙および中性情報用紙においても用いることができる。
【0049】
本開示の撥水撥油剤により処理される紙は、紙でできた容器、紙でできた成形体(例えばパルプモールド)等であってよい。例えば、食品包装材および食品容器が好ましい。紙は、従来既知の抄造方法によって製造できる。
【0050】
紙のパルプ原料としては、クラフトパルプあるいはサルファイトパルプ等の晒あるいは未晒化学パルプ、砕木パルプ、機械パルプあるいはサーモメカニカルパルプ等の晒あるいは未晒高収率パルプ、新聞古紙、雑誌古紙、段ボール古紙あるいは脱墨古紙等の古紙パルプのいずれも使用することができる。また、上記パルプ原料と石綿、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール等の合成繊維との混合物も使用することができる。
【0051】
サイズ剤を加えて、紙の耐水性を向上してもよい。サイズ剤は、例えば、カチオン性サイズ剤、アニオン性サイズ剤、ロジン系サイズ剤(例えば、酸性ロジン系サイズ剤、中性ロジン系サイズ剤)である。サイズ剤の量は、パルプに対して0.01質量%以上5質量%以下であってよい。
【0052】
紙には必要に応じて、通常使用される程度の製紙用薬剤として、カルボキシメチルセルロース、ポリアミドポリアミン-エピクロルヒドリン樹脂等の紙力増強剤、凝集剤、定着剤、歩留り向上剤、染料、蛍光染料、スライムコントロール剤、消泡剤等の紙の製造で使用される添加剤を使用することができる。必要により、ポリビニルアルコール、グルコース、染料、コーティングカラー、防滑剤等を用いて、サイズプレス、ゲートロールコーター、ビルブレードコーター、キャレンダー等によって、撥水撥油剤を紙に塗布することができる。添加剤として、ポリビニルアルコールまたはグルコースを使用することが好ましい。ポリビニルアルコールまたはグルコースを多糖類とともに用いることにより、高い撥水撥油性が得られる。製紙用薬剤としてのポリビニルアルコールの量は、多糖類100質量部に対して、1質量部以上1000質量部以下、2質量部以上200質量部以下、3質量部以上100質量部以下または5質量部以上50質量部以下、特に10質量部以上40質量部以下であってよい。
【0053】
本開示の撥水撥油紙は、紙の表面に本開示の撥水撥油剤から形成された撥水撥油層を有する。撥水撥油層における多糖類の含有量は、6.0g/m2以下であってよく、好ましくは0.02g/m2以上6.0g/m2以下、より好ましくは0.2g/m2以上5.0g/m2以下、さらに好ましくは0.5g/m2以上4.0g/m2以下、特に好ましくは1.0g/m2以上3.0g/m2以下であってよい。撥水撥油層における撥水撥油剤の含有量は、撥水撥油剤に含まれる固形分量であってよい。
【0054】
外添において、撥水撥油層に含まれるサイズ剤は、0.01g/m2以上2.0g/m2以下であってよく、好ましくは0.01g/m2以上1.5g/m2以下、より好ましくは0.03g/m2以上1.3g/m2以下、特に好ましくは0.05g/m2以上1.0g/m2以下であってよい。
【0055】
本開示の撥水撥油紙は、例えば、1000秒以上、2000秒以上、特に3000秒以上の透気度を有し得る。透気度は、JISP8117(2009)に準拠して測定される。透気度が大きいほうが、ガスバリア性が高く、酸素などのガスだけでなく、水分(水蒸気を含む)も透過させ難くなる。
【実施例0056】
以下、本開示の撥水撥油剤について、実施例において説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
以下において使用した試験方法は次のとおりである。
【0058】
粘度測定
粘度は、B型粘度計を使用して測定した。粘度の測定は、回転数60rpmおよび温度50℃で実施し、ローターはNo.2を用いた。B型粘度計は、Blookfield社製デジタル粘度計を用いた。
【0059】
耐油性試験(実用油試験)
市販のオリーブオイルを約0.1gたらした撥水撥油紙紙を70℃のオーブンに入れ、7分後に取り出し染込み具合を観察した。
裏側の染込みの程度により、以下のように評価数値を設定した。
5:0-5%
4:6-20%
3:21-50%
2:51-75%
1:76-100%
【0060】
〈吸水度(Cobb値)評価〉
吸水度(Cobb値)は、JIS P 8140:1998に準じて測定した。
一面が平滑に仕上げられた固い台板の表面に、紙基材を置き、その表面に内径112.8mmの金属シリンダをクランプで固定した。その後、シリンダ内の水深が10mmとなるように水を注いだ。水と紙基材との接触が開始されてから1分間に吸収された水の重量を求めた。得られた数値を1平方メートル当たりの重量(gsm)に換算し、吸水度(Cobb値)を求めた。)
【0061】
透気度
容器状に成形した紙の容器底部の透気度(透気抵抗度)を、株式会社安田精機製作所製の自動ガーレー式デンソーメーター(製品No.323-AUTO、通気孔径直径28.6±0.1mm)を用いてJISP8117(2009)に準拠して測定した。
【0062】
多糖類の20質量%水溶液の粘度測定
所定量のオクテニルコハク酸変性澱粉-1を水に溶解し、オクテニルコハク酸変性澱粉の濃度が20質量%の水溶液を調製した。かかる水溶液の粘度を測定した。オクテニルコハク酸変性澱粉-2、およびオクテニルコハク酸変性澱粉-3についても、20質量%の水溶液を調製し、粘度を測定した。それら粘度の測定結果を表1に示す。
【0063】
【0064】
[実施例1]
(原紙の作製)
木材パルプとして、LBKP(=広葉樹さらしクラフトパルプ)とNBKP(針葉樹さらしクラフトパルプ)の質量比率が、60質量%と40質量%で、かつ、パルプのろ水度が400ml(Canadian Standard Freeness)のパルプスラリーを調整し、このパルプスラリーに湿潤紙力剤を乾燥パルプに対して固形分濃度で0.5質量%添加して長網抄紙機により、紙密度が0.58g/cm3の坪量48g/m2の紙を外添処理(サイズプレス処理)の原紙として使用した。原紙の耐油性(実用油試験)は、1であった。原紙の吸水度(Cobb値)は65であった。原紙の透気度は250秒であった。
(オクテニルコハク酸変性澱粉の製造)
水400部入ったフラスコにトウモロコシ澱粉20部を強攪拌しながら25℃で少量ずつ添加した後、pHが4以下になるまで希塩酸を添加して撹拌した。
この水溶液を約70~90℃で水分率が7%以下になるまで乾燥した後、160℃で所定の粘度になるまで焙焼を行い低粘度のトウモロコシ澱粉を得た。
得られた低粘度トウモロコシ澱粉100部を水120部が入ったフラスコに撹拌しながら少量ずつ添加した後、2%水酸化ナトリウム水溶液でpHを中和した。
次いでpHを7.5~8.0に維持しながらオクテニルコハク酸無水物4部を添加し、約30~40℃で5時間反応した。
反応後、希硫酸で中和し、次いで300部の水で数回水洗した。
得られた固形物を乾燥後、細かく砕いてオクテニルコハク酸デンプンナトリウムを得た。前記160℃での焙焼時間を調整することにより、それぞれ異なる所望の粘度のオクテニルコハク酸デンプンナトリウム1~3を得た。
【0065】
(撥水撥油紙の作製)
撥水撥油剤は、オクテニルコハク酸変性澱粉-1が20質量%およびアルキルケテンダイマーが0.5質量%となるように調整し、サイズプレス機で処理した後、ドラムドライヤーで乾燥し、撥水撥油紙(加工紙)を得た。撥水撥油剤の粘度は、80cpsであった。得られた撥水撥油紙のオクテニルコハク酸変性澱粉-1とアルキルケテンダイマーの合計の固形分の塗工量は3.2g/m2であった。得られた撥水撥油紙を試験紙として用い、耐油性試験(実用油試験)、吸水度(Cobb値)評価、および透気度の評価を行った。評価結果を表2に示す。ここで記載したサイズプレス処理(Mathis社製のサイズプレス機を使用)とは、ロールとロールの間に撥水撥油剤をため、任意のロールスピードとニップ圧で、ロール間の撥水撥油剤に原紙を通す、いわゆるポンド式2ロールサイズプレス処理のことである。
【0066】
[実施例2]
アルキルケテンダイマーが1.0質量%となるように調整した他は、実施例1と同様の処理を行った。得られた撥水撥油紙のオクテニルコハク酸変性澱粉-1とアルキルケテンダイマーの合計の固形分の塗工量は3.5g/m2であった。撥水撥油剤の粘度は、108cpsであった。評価結果を表2に示す。
【0067】
[実施例3]
オクテニルコハク酸変性澱粉-2を用いる他は、実施例1と同様の処理を行った。得られた撥水撥油紙のオクテニルコハク酸変性澱粉-2の固形分の塗工量は3.2g/m2であった。撥水撥油剤の粘度は、58cpsであった。評価結果を表2に示す。
【0068】
[実施例4]
オクテニルコハク酸変性澱粉-2を20質量%、およびアルキルケテンダイマーを1.0質量%となるように調整した他は、実施例1と同様の処理を行った。得られた撥水撥油紙のオクテニルコハク酸変性澱粉-2とアルキルケテンダイマーの合計の固形分の塗工量は3.4g/m2であった。撥水撥油剤の粘度は、91cpsであった。評価結果を表2に示す。
【0069】
[比較例1]
オクテニルコハク酸変性澱粉-3を用いた他は、実施例1と同様の処理を行った。撥水撥油剤の粘度は、390cpsであった。撥水撥油剤の粘度が大きかったため、撥水撥油剤で紙へ処理することができなかった。評価結果を表2に示す。
【0070】
[比較例2]
アルキルケテンダイマーを用いなかった他は、実施例1と同様の処理を行った。撥水撥油剤の粘度は、45cpsであった。得られた撥水撥油紙のオクテニルコハク酸変性澱粉-1の固形分の塗工量は3.2g/m2であった。撥水撥油剤の粘度は、45cpsであった。評価結果を表2に示す。
【0071】
【0072】
上記の結果から、本開示の撥水撥油剤は、紙に対して優れた撥水性および撥油性を与えることができることがわかった。