(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057508
(43)【公開日】2024-04-24
(54)【発明の名称】ビーム結合装置及びレーザ加工機
(51)【国際特許分類】
B23K 26/064 20140101AFI20240417BHJP
G02B 6/42 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
B23K26/064 G
B23K26/064 K
G02B6/42
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164303
(22)【出願日】2022-10-12
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダ
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】小林 哲也
(72)【発明者】
【氏名】有本 陽亮
【テーマコード(参考)】
2H137
4E168
【Fターム(参考)】
2H137AA13
2H137AB01
2H137AB06
2H137BA01
2H137BB02
2H137BB08
2H137BC12
2H137BC16
2H137BC32
2H137BC33
2H137BC51
2H137BC62
2H137CB13
2H137CB26
2H137CB32
2H137CB33
2H137HA01
4E168AD07
4E168CA07
4E168DA02
4E168DA13
4E168DA26
4E168DA28
4E168DA29
4E168EA02
4E168EA14
4E168JA01
(57)【要約】
【課題】レーザビームを高出力化しながら、誘導ラマン散乱による不要光に起因する不具合を軽減させることができるビーム結合装置を提供する。
【解決手段】ウェッジプリズム23の第1の面23aには第1のコーティングが施され、第2の面23bには第2のコーティングが施されている。ウェッジプリズム23は、第1の面23aで反射した第1のレーザビームと、第2の面23b及び第1の面23aをこの順で透過した第2のレーザビームとを互いに重畳させた結合レーザビームを射出する。第2のコーティングは、誘導ラマン散乱によって第1のレーザビームに基づいて発生する、光ファイバ(プロセスファイバ30)からウェッジプリズム23へと向かう第1の不要光と、誘導ラマン散乱によって第2のレーザビームに基づいて発生する、光ファイバからウェッジプリズム23へと向かう第2の不要光とのうち、少なくとも第2の不要光を反射する特性を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のレーザ発振器より射出される第1の波長を有する発散光の第1のレーザビームをコリメート光に変換する第1のコリメートレンズと、
第2のレーザ発振器より射出される第2の波長を有する発散光の第2のレーザビームをコリメート光に変換する第2のコリメートレンズと、
前記第1のコリメートレンズによってコリメート光に変換された前記第1のレーザビームを反射する特性を有する第1のコーティングが施された第1の面と、前記第2のコリメートレンズによってコリメート光に変換された前記第2のレーザビームを透過させる特性を有する第2のコーティングが施された第2の面とを含み、前記第1のコーティングは、前記第2の面を透過した前記第2のレーザビームを透過させる特性を有し、前記第1の面で反射した前記第1のレーザビームと、前記第2の面及び前記第1の面をこの順で透過した前記第2のレーザビームとを互いに重畳させることにより結合させた結合レーザビームを射出するウェッジプリズムと、
前記ウェッジプリズムより射出された前記結合レーザビームを集束させて、前記結合レーザビームを伝送する光ファイバに入射させる集束レンズと、
を備え、
前記第2のコーティングは、誘導ラマン散乱によって前記第1のレーザビームに基づいて発生する、前記光ファイバから前記ウェッジプリズムへと向かう第1の不要光と、誘導ラマン散乱によって前記第2のレーザビームに基づいて発生する、前記光ファイバから前記ウェッジプリズムへと向かう第2の不要光とのうち、少なくとも前記第2の不要光を反射する特性を有し、
前記ウェッジプリズムは、少なくとも前記第2の不要光を、前記ウェッジプリズムから前記集束レンズへと向かう前記結合レーザビームの光軸の方向である第1の方向と、前記第1のコリメートレンズから前記ウェッジプリズムへと向かう前記第1のレーザビームの光軸の方向である第2の方向とは異なる第3の方向に反射させる
ビーム結合装置。
【請求項2】
前記第2のコーティングは、前記第1及び第2の不要光を反射する特性を有し、
前記ウェッジプリズムは、前記第1及び第2の不要光を、前記第3の方向に反射させる
請求項1に記載のビーム結合装置。
【請求項3】
前記第2のコーティングで反射した前記第1の不要光または前記第1及び第2の不要光を吸収するビームダンパをさらに備える請求項1または2に記載のビーム結合装置。
【請求項4】
前記第1のレーザ発振器と、
前記第2のレーザ発振器と、
請求項1または2に記載のビーム結合装置と、
前記光ファイバによって伝送される前記結合レーザビームを被加工材に照射する加工ヘッドと、
を備えるレーザ加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビーム結合装置及びレーザ加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザ加工機が被加工材である板金を加工する際に使用するレーザビームの高出力化(高輝度化)が進んでいる。レーザ加工機は、2つのレーザ発振器より射出された波長が異なる2つのレーザビームを、波長選択性コーティングを施した光学部品で互いに重畳してレーザビームを高出力化することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようにレーザビームの高出力化すると、レーザビームを加工ヘッドへと伝送する光ファイバ内で誘導ラマン散乱による不要光が発生しやすくなる。誘導ラマン散乱による不要光が発生すると、レーザビームの品質が悪化するため、被加工材の加工品質を悪化させることがある。加工品質の悪化を回避するために加工速度を低下させざるを得なくなり、加工の効率が落ちてしまうことがある。また、誘導ラマン散乱による不要光がレーザ発振器に入射して、レーザ発振器が破損するおそれがある(特許文献1参照)。
【0005】
波長が異なる2つのレーザビームを重畳することによりレーザビームを高出力化しながら、誘導ラマン散乱による不要光に起因する不具合を軽減させることができる新たな構成の登場が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1またはそれ以上の実施形態の第1の態様は、第1のレーザ発振器より射出される第1の波長を有する発散光の第1のレーザビームをコリメート光に変換する第1のコリメートレンズと、第2のレーザ発振器より射出される第2の波長を有する発散光の第2のレーザビームをコリメート光に変換する第2のコリメートレンズと、前記第1のコリメートレンズによってコリメート光に変換された前記第1のレーザビームを反射する特性を有する第1のコーティングが施された第1の面と、前記第2のコリメートレンズによってコリメート光に変換された前記第2のレーザビームを透過させる特性を有する第2のコーティングが施された第2の面とを含み、前記第1のコーティングは、前記第2の面を透過した前記第2のレーザビームを透過させる特性を有し、前記第1の面で反射した前記第1のレーザビームと、前記第2の面及び前記第1の面をこの順で透過した前記第2のレーザビームとを互いに重畳させることにより結合させた結合レーザビームを射出するウェッジプリズムと、前記ウェッジプリズムより射出された前記結合レーザビームを集束させて、前記結合レーザビームを伝送する光ファイバに入射させる集束レンズとを備えるビーム結合装置を提供する。
【0007】
第1の態様のビーム結合装置において、前記第2のコーティングは、誘導ラマン散乱によって前記第1のレーザビームに基づいて発生する、前記光ファイバから前記ウェッジプリズムへと向かう第1の不要光と、誘導ラマン散乱によって前記第2のレーザビームに基づいて発生する、前記光ファイバから前記ウェッジプリズムへと向かう第2の不要光とのうち、少なくとも前記第2の不要光を反射する特性を有し、前記ウェッジプリズムは、少なくとも前記第2の不要光を、前記ウェッジプリズムから前記集束レンズへと向かう前記結合レーザビームの光軸の方向である第1の方向と、前記第1のコリメートレンズから前記ウェッジプリズムへと向かう前記第1のレーザビームの光軸の方向である第2の方向とは異なる第3の方向に反射させる。
【0008】
1またはそれ以上の実施形態の第1の態様によれば、ウェッジプリズムが第1のレーザビームと第2のレーザビームとを互いに重畳させることにより結合させた結合レーザビームを射出するので、レーザビームを高出力化することができる。1またはそれ以上の実施形態の第1の態様によれば、少なくとも第2の不要光が第1及び第2のコリメートレンズに向かうことがないので、誘導ラマン散乱による不要光に起因する不具合を軽減させることができる。
【0009】
1またはそれ以上の実施形態の第2の態様は、前記第1のレーザ発振器と、前記第2のレーザ発振器と、第1の態様のビーム結合装置と、前記光ファイバによって伝送される前記結合レーザビームを加工対象の被加工材に照射する加工ヘッドとを備えるレーザ加工機を提供する。
【0010】
1またはそれ以上の実施形態の第2の態様によれば、ウェッジプリズムが第1のレーザビームと第2のレーザビームとを互いに重畳させることにより結合させた結合レーザビームを射出するので、レーザビームを高出力化することができる。1またはそれ以上の実施形態の第2の態様によれば、少なくとも第2の不要光が第1及び第2のコリメートレンズに向かうことがないので、誘導ラマン散乱による不要光に起因する不具合を軽減させることができる。1またはそれ以上の実施形態の第2の態様によれば、高出力のレーザビームで被加工材を加工することができる。
【発明の効果】
【0011】
1またはそれ以上の実施形態に係るビーム結合装置及びレーザ加工機によれば、波長が異なる2つのレーザビームを互いに重畳することによりレーザビームを高出力化することができ、誘導ラマン散乱による不要光に起因する不具合を軽減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、1またはそれ以上の実施形態に係るビーム結合装置及びレーザ加工機を示す図である。
【
図2A】
図2Aは、1またはそれ以上の実施形態に係るビーム結合装置が備える第1のコリメートレンズの位置調整機構をZ軸と直交する面で切断した断面図である。
【
図2B】
図2Bは、1またはそれ以上の実施形態に係るビーム結合装置が備える第1のコリメートレンズの位置調整機構をX軸と直交する面で切断した断面図である。
【
図3】
図3は、1またはそれ以上の実施形態に係るビーム結合装置が備えるウェッジプリズムの動作を説明するための第1の例を示す特性図である。
【
図4】
図4は、1またはそれ以上の実施形態に係るビーム結合装置が備えるウェッジプリズムの動作を説明するための、第1の例より好ましい第2の例を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1またはそれ以上の実施形態に係るビーム結合装置は、第1のコリメートレンズ、第2のコリメートレンズ、ウェッジプリズム、集束レンズを備える。前記第1のコリメートレンズは、第1のレーザ発振器より射出される第1の波長を有する発散光の第1のレーザビームをコリメート光に変換する。前記第2のコリメートレンズは、第2のレーザ発振器より射出される第2の波長を有する発散光の第2のレーザビームをコリメート光に変換する。
【0014】
前記ウェッジプリズムは、前記第1のコリメートレンズによってコリメート光に変換された前記第1のレーザビームを反射する特性を有する第1のコーティングが施された第1の面と、前記第2のコリメートレンズによってコリメート光に変換された前記第2のレーザビームを透過させる特性を有する第2のコーティングが施された第2の面とを含む。前記第1のコーティングは、前記第2の面を透過した前記第2のレーザビームを透過させる特性を有する。前記ウェッジプリズムは、前記第1の面で反射した前記第1のレーザビームと、前記第2の面及び前記第1の面をこの順で透過した前記第2のレーザビームとを互いに重畳させることにより結合させた結合レーザビームを射出する。
【0015】
前記集束レンズは、前記ウェッジプリズムより射出された前記結合レーザビームを集束させて、前記結合レーザビームを伝送する光ファイバに入射させる。
【0016】
1またはそれ以上の実施形態に係るビーム結合装置において、前記第2のコーティングは、誘導ラマン散乱によって前記第1のレーザビームに基づいて発生する、前記光ファイバから前記ウェッジプリズムへと向かう第1の不要光と、誘導ラマン散乱によって前記第2のレーザビームに基づいて発生する、前記光ファイバから前記ウェッジプリズムへと向かう第2の不要光とのうち、少なくとも前記第2の不要光を反射する特性を有する。前記ウェッジプリズムは、少なくとも前記第2の不要光を、前記ウェッジプリズムから前記集束レンズへと向かう前記結合レーザビームの光軸の方向である第1の方向と、前記第1のコリメートレンズから前記ウェッジプリズムへと向かう前記第1のレーザビームの光軸の方向である第2の方向とは異なる第3の方向に反射させる。
【0017】
1またはそれ以上の実施形態に係るレーザ加工機は、前記第1のレーザ発振器と、前記第2のレーザ発振器と、1またはそれ以上の実施形態に係るビーム結合装置と、前記光ファイバによって伝送される前記結合レーザビームを加工対象の被加工材に照射する加工ヘッドとを備える。
【0018】
以下、1またはそれ以上の実施形態に係るビーム結合装置及びレーザ加工機について、添付図面を参照して具体的に説明する。
図1は、1またはそれ以上の実施形態に係るビーム結合装置及びレーザ加工機を示す。
図1に示す1またはそれ以上の実施形態に係るレーザ加工機100は、第1のレーザ発振器11、第2のレーザ発振器12、1またはそれ以上の実施形態に係るビーム結合装置であるビームカプラ20、加工ヘッド40を備える。第1のレーザ発振器11及び第2のレーザ発振器12は、例えば、ファイバレーザ発振器、ディスクレーザ発振器、またはダイレクトダイオードレーザ発振器である。
【0019】
第1のレーザ発振器11より射出される第1のレーザビームを伝送するフィーディングファイバ13のコネクタ13cは、ビームカプラ20の筐体201における突出部201pの端部に接続されている。第2のレーザ発振器12より射出される第2のレーザビームを伝送するフィーディングファイバ14のコネクタ14cは、筐体201における本体部201mの一方の端部に接続されている。プロセスファイバ30の第1のコネクタ30c1は本体部201mの他方の端部に接続され、第2のコネクタ30c2は加工ヘッド40の筐体401に接続されている。
【0020】
ビームカプラ20は、筐体201内に、第1のコリメートレンズ21、第2のコリメートレンズ22、ウェッジプリズム23、集束レンズ24、ビームダンパ25を備える。ビームカプラ20がビームダンパ25を備えることは必須ではないが、ビームダンパ25を備えることが好ましい。ウェッジプリズム23の第1の面23aには、後述する第1のコーティングが施されている。ウェッジプリズム23の第1の面23aと対向する第2の面23bには、後述する第2のコーティングが施されている。
【0021】
第1のレーザ発振器11より射出される第1のレーザビームは波長λ1を有し、第2のレーザ発振器12より射出される第2のレーザビームは波長λ1より長波長である波長λ2を有する。第1のレーザビーム、第2のレーザビーム、及び後述する結合レーザビームを一点鎖線で示す。波長λ1と波長λ2との差は50nm未満とするのがよい。その理由については後述する。なお、波長が異なる2つのレーザビームを互いに重畳させるためには、2つのレーザビームの波長の差は少なくとも5nm必要である。よって、波長λ1と波長λ2との差は少なくとも5nmである。
【0022】
第1のレーザ発振器11より射出された第1のレーザビームは、フィーディングファイバ13によってビームカプラ20へと伝送される。第2のレーザ発振器12より射出された第2のレーザビームは、フィーディングファイバ14によってビームカプラ20へと伝送される。
【0023】
第1のコリメートレンズ21は、フィーディングファイバ13の端部より射出される発散光の第1のレーザビームをコリメート光に変換する。コリメート光に変換された第1のレーザビームは、ウェッジプリズム23の第1の面23aに入射する。第2のコリメートレンズ22は、フィーディングファイバ14の端部より射出される発散光の第2のレーザビームをコリメート光に変換する。コリメート光に変換された第2のレーザビームは、ウェッジプリズム23の第2の面23bに入射する。
【0024】
図1においては、第1のコリメートレンズ21及び第2のコリメートレンズ22をレーザビームの入射面及び射出面の双方が凸面である両凸レンズとしているが、入射面が平面で射出面が凸面である平凸レンズであってもよい。第1のコリメートレンズ21及び第2のコリメートレンズ22のレンズの形状は限定されない。同様に、集束レンズ24及び加工ヘッド40内の後述するコリメートレンズ41または集束レンズ43も、両凸レンズであってもよいし、平凸レンズであってもよく、レンズの形状は限定されない。
【0025】
図2Aは、ビームカプラ20が備える第1のコリメートレンズ21の位置調整機構50をZ軸と直交する面で切断した断面図である。
図2Bは、ビームカプラ20が備える第1のコリメートレンズ21の位置調整機構50をX軸と直交する面で切断した断面図である。第1のコリメートレンズ21は、
図2A及び
図2Bに示すような位置調整機構50によって位置が調整されている。第2のコリメートレンズ22も、
図2A及び
図2Bに示す位置調整機構50と同様の位置調整機構によって位置が調整されている。第1のコリメートレンズ21より射出される第1のレーザビームの光軸方向をZ軸、Z軸に直交する2つの直交する方向をX軸及びY軸とする。
図2Bに示すように、ここでは第1のコリメートレンズ21を平凸レンズとしている。
【0026】
図2A及び
図2Bに示すように、第1のコリメートレンズ21はレンズホルダ51によって位置調整機構50に保持されている。
図2Aに示すように、X軸方向に伸びる2つのコイルスプリング53xはレンズホルダ51にX軸方向の力を与えており、Y軸に伸びる2つのコイルスプリング53yはレンズホルダ51にY軸方向の力を与えている。X軸調整用ねじ部材52xを回すことによってレンズホルダ51のX軸方向の位置を調整することができ、Y軸調整用ねじ部材52yを回すことによってレンズホルダ51のY軸方向の位置を調整することができる。
【0027】
図2Bに示すように、コネクタ13cは、突出部201pの端部に設けられている
図1では図示が省略されているレシーバ20Rに装着されている。Z軸方向に伸びる2つのコイルスプリング53zはレンズホルダ51にZ軸方向の力を与えている。突出部201p内には、レンズホルダ51に隣接して可動内筒54が設けられている。可動内筒54の端部の外周面には雄ねじ54swが形成されており、突出部201pの対向する内周面には雄ねじ54swと噛み合う螺合雌ねじ20swが形成されている。可動内筒54の位置をZ軸方向に調整することにより、レンズホルダ51のZ軸方向の位置を調整することができる。
【0028】
図1に戻り、ウェッジプリズム23の第1の面23aに施されている第1のコーティングは、コリメート光に変換された第1のレーザビームを反射する特性を有する。従って、第1のレーザビームは、第1の面23aで反射して集束レンズ24へと向かう。ウェッジプリズム23の第2の面23bに施されている第2のコーティングは、コリメート光に変換された第2のレーザビームを透過させる特性を有する。第1のコーティングは、第2の面23bを透過した第2のレーザビームを透過させる特性を有する。従って、第2のレーザビームは、第2の面23b及び第1の面23aをこの順で透過して集束レンズ24へと向かう。
【0029】
第1のコリメートレンズ21及び第2のコリメートレンズ22は、第1の面23aで反射した第1のレーザビームと、第2の面23b及び第1の面23aを透過した第2のレーザビームとが互いに重畳するように位置が調整されている。上記のように、第1のコリメートレンズ21は位置調整機構50によって第1のコリメートレンズ21におけるX軸、Y軸、Z軸の各方向の位置が調整されている。第2のコリメートレンズ22は、位置調整機構50と同様の位置調整機構によって第2のコリメートレンズ22におけるX軸、Y軸、Z軸の各方向の位置が調整されている。
【0030】
従って、ウェッジプリズム23は、第1のレーザビームと第2のレーザビームとを互いに重畳させることにより結合させた結合レーザビームを生成して射出する。集束レンズ24は、結合レーザビームを集束させてプロセスファイバ30のコアに入射させる。プロセスファイバ30は、結合レーザビームを加工ヘッド40へと伝送する光ファイバである。
【0031】
加工ヘッド40は、筐体401内に、コリメートレンズ41、ベンドミラー42、集束レンズ43を備える。コリメートレンズ41は、プロセスファイバ30の端部より射出される発散光の結合レーザビームをコリメート光に変換する。コリメートレンズ41は、コリメート光に変換された結合レーザビームの進行方向を90度曲げる。集束レンズ43は、入射された結合レーザビームを集束させて、加工対象の板金Wに照射する。レーザ加工機100は、板金Wを切断する加工機であってもよいし、板金Wを溶接する加工機であってもよい。板金Wは被加工材の一例であり、被加工材は板金に限定されない。
【0032】
以上のように構成されるレーザ加工機100において、プロセスファイバ30は10m~20mの長さを有する。結合レーザビームをプロセスファイバ30によって伝送するとき、光ファイバの非線形現象の1つである誘導ラマン散乱による不要光が発生しやすい。以下、誘導ラマン散乱による不要光をSRS光と称することとする。SRS光が発生する発生閾値Pthは、プロセスファイバ30の有効コア断面積Aeff、偏光因子fp、ラマン利得gR、有効ファイバ長Leffを用いて、次の式(1)で与えられる。
Pth=16×{Aeff/(fp・gR・Leff)} …(1)
【0033】
式(1)より、プロセスファイバ30のコアを大口径化すれば、発生閾値Pthが大きくなってSRS光が発生しにくくなる。しかしながら、プロセスファイバ30のコアを大口径化するとビーム品質が悪化し、特に板金Wが薄板である場合の加工品質が低下する。従って、プロセスファイバ30のコアを大口径化することによってSRS光の発生を抑えるという対策を採用することは困難である。また、式(1)より、プロセスファイバ30を短くすれば、発生閾値Pthが大きくなってSRS光が発生しにくくなる。しかしながら、上記のようにプロセスファイバ30は10m~20mと長く、プロセスファイバ30を短くすることによってSRS光の発生を抑えるという対策を採用することも困難である。
【0034】
従って、結合レーザビームをプロセスファイバ30によって伝送するときにSRS光が発生することを回避することは実質的に困難である。プロセスファイバ30で発生するSRS光は、ビームカプラ20へと向かうことがある。仮に、ビームカプラ20内に侵入したSRS光が第1のレーザ発振器11または第2のレーザ発振器12に入射すると第1のレーザ発振器11または第2のレーザ発振器12が破損するおそれがあるため、ビームカプラ20を次のように構成している。
【0035】
図3は、ビームカプラ20が備えるウェッジプリズム23の動作を説明するための第1の例を示す特性図である。
図3には、第1のレーザビームの波長λ1と第2のレーザビームの波長λ2との差が50nmを大きく超える場合における、第1のコーティングの反射・透過特性C11と第2のコーティングの反射・透過特性C21を示している。例えば、第1のレーザビームに基づいて発生する第1のSRS光は波長λ1より50nm程度、長波長側の波長λs1に発生し、第2のレーザビームに基づいて発生する第2のSRS光は波長λ2より50nm程度、長波長側の波長λs2に発生する。
【0036】
また、
図3には、第1のレーザビームの光強度特性LB1、第2のレーザビームの光強度特性LB2、第1のSRS光の光強度特性SRS1、第2のSRS光の光強度特性SRS2を併せて示している。
【0037】
図3に示すように、第2のコーティングの反射・透過特性C21は、第2のレーザビームを透過させ、第2のSRS光を反射する特性である。第1のコーティングの反射・透過特性C11は、第1のレーザビーム及び第1のSRS光を反射する特性である。従って、波長λ1、λ2、λs1、λs2が
図3に示す波長上の位置関係にあり、第1及び第2のコーティングがそれぞれ
図3に示す反射・透過特性C11及びC21を有するとき、ウェッジプリズム23は、第2の不要光を
図1に示す方向に反射させる。
【0038】
ウェッジプリズム23から集束レンズ24へと向かう結合レーザビームの光軸の方向を第1の方向とする。第1のコリメートレンズ21からウェッジプリズム23へと向かう第1のレーザビームの光軸の方向を第2の方向とする。ウェッジプリズム23は、第2の不要光を第1及び第2の方向とは異なる第3の方向に反射させる。
【0039】
例えば、ビームダンパ25は、黒アルマイト処理を施したアルミニウム素材で形成されている。ビームダンパ25は、入射する第2の不要光を吸収して、第1のコリメートレンズ21または第2のコリメートレンズ22へと向かうことを防止する。
【0040】
図4は、ビームカプラ20が備えるウェッジプリズム23の動作を説明するための、第1の例より好ましい第2の例を示す特性図である。
図4は、第1のレーザビームの波長λ1と第2のレーザビームの波長λ2との差を50nm未満として、第1のコーティングの反射率の好ましい反射・透過特性C12と第2のコーティングの反射率の好ましい反射・透過特性C22を示している。波長λ1と波長λ2との差が50nm未満であるから、波長λ1、λ2、λs1、λs2は
図4に示す波長上の位置関係にある。
【0041】
図4に示すように、第2のコーティングの反射・透過特性C22は、第2のレーザビームを透過させ、第1及び第2のSRS光を反射する特性である。第1のコーティングの反射・透過特性C12は、第1のレーザビームを反射する特性である。従って、波長λ1、λ2、λs1、λs2が
図4に示す波長上の位置関係にあり、第1及び第2のコーティングがそれぞれ
図4に示す反射・透過特性C12及びC22を有するとき、ウェッジプリズム23は、第1及び第2の不要光を第3の方向に反射させる。
【0042】
ビームダンパ25は、入射する第1及び第2の不要光を吸収して、第1のコリメートレンズ21または第2のコリメートレンズ22へと向かうことを防止する。
【0043】
このように、ウェッジプリズム23の第2の面23bに施されている第2のコーティングは、第1のSRS光と第2のSRS光とのうち、少なくとも第2のSRS光を反射する特性を有し、好ましくは、第1及び第2の不要光を反射する特性を有する。ウェッジプリズム23の第2の面23bで第1及び第2の不要光を反射させるために、波長λ1と波長λ2との差を50nm未満とするのがよい。
【0044】
以上のように、ビームカプラ20は、ウェッジプリズム23が第1のレーザビームと第2のレーザビームとを互いに重畳させることにより結合させた結合レーザビームを射出するように構成されているので、レーザビームを高出力化することができる。ビームカプラ20は、ウェッジプリズム23が少なくとも第2のSRS光を第3の方向に反射させるように構成されているので、少なくとも第2のSRS光が第1のコリメートレンズ21及び第2のコリメートレンズ22に向かうことがない。よって、ビームカプラ20によれば、SRS光に起因する不具合を軽減させることができる。
【0045】
ビームカプラ20は、ウェッジプリズム23が第1及び第2のSRS光を第3の方向に反射させるように構成されていることが好ましい。このように構成されていれば、第1及び第2のSRS光が第1のコリメートレンズ21及び第2のコリメートレンズ22に向かうことがない。よって、第1及び第2のSRS光を第3の方向に反射させるように構成されているビームカプラ20によれば、SRS光に起因する不具合をさらに軽減させることができる。
【0046】
ところで、ビームカプラを構成する光学部品が増えると各光学部品の位置調整機構が必要となり、調整作業の煩雑さを招き、ビームカプラが大型化してしまう。レーザビームが高出力になればなるほど熱レンズの影響を受けやすくなるため、レンズまたはミラー等の光学部品をできるだけ少なくすることが望まれる。以上説明したビームカプラ20によれば、少ない光学部品で第1のレーザビームと第2のレーザビームと結合させることができるという特長を有しつつ、SRS光に起因する不具合を軽減させることができる。
【0047】
レーザ加工機100は、第1のレーザ発振器11、第2のレーザ発振器12、ビームカプラ20、プロセスファイバ30によって伝送される結合レーザビームを加工対象の板金Wに照射する加工ヘッド40を備える。レーザ加工機100によれば、SRS光に起因する不具合を軽減させ、高出力のレーザビームで板金Wを加工することができる。
【0048】
本発明は以上説明した本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。
【符号の説明】
【0049】
11 第1のレーザ発振器
12 第2のレーザ発振器
13,14 フィーディングファイバ
13c,14c コネクタ
20 ビームカプラ(ビーム結合装置)
21 第1のコリメートレンズ
22 第2のコリメートレンズ
23 ウェッジプリズム
24,43 集束レンズ
25 ビームダンパ
30 プロセスファイバ
40 加工ヘッド
41 コリメートレンズ
42 ベンドミラー
100 レーザ加工機
W 板金(被加工材)
【手続補正書】
【提出日】2023-08-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0035
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0035】
図3は、ビームカプラ20が備えるウェッジプリズム23の動作を説明するための第1の例を示す特性図である。
図3には、第1のレーザビームの波長λ1と第2のレーザビームの波長λ2との差が50nmを大きく超える場合における、第1のコーティングの反射・透過特性C11と第2のコーティングの反射・透過特性C21を示している。例えば、第1のレーザビームに基づいて発生する第1のSRS光
(第1の不要光)は波長λ1より50nm程度、長波長側の波長λs1に発生し、第2のレーザビームに基づいて発生する第2のSRS光
(第2の不要光)は波長λ2より50nm程度、長波長側の波長λs2に発生する。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0037
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0037】
図3に示すように、第2のコーティングの反射・透過特性C21は、第2のレーザビームを透過させ、第2のSRS光を反射する特性である。第1のコーティングの反射・透過特性C11は、第1のレーザビーム及び第1のSRS光を反射する特性である。従って、波長λ1、λ2、λs1、λs2が
図3に示す波長上の位置関係にあり、第1及び第2のコーティングがそれぞれ
図3に示す反射・透過特性C11及びC21を有するとき、ウェッジプリズム23は、第2の
SRS光を
図1に示す方向に反射させる。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0038
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0038】
ウェッジプリズム23から集束レンズ24へと向かう結合レーザビームの光軸の方向を第1の方向とする。第1のコリメートレンズ21からウェッジプリズム23へと向かう第1のレーザビームの光軸の方向を第2の方向とする。ウェッジプリズム23は、第2のSRS光を第1及び第2の方向とは異なる第3の方向に反射させる。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0039
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0039】
例えば、ビームダンパ25は、黒アルマイト処理を施したアルミニウム素材で形成されている。ビームダンパ25は、入射する第2のSRS光を吸収して、第1のコリメートレンズ21または第2のコリメートレンズ22へと向かうことを防止する。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0041
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0041】
図4に示すように、第2のコーティングの反射・透過特性C22は、第2のレーザビームを透過させ、第1及び第2のSRS光を反射する特性である。第1のコーティングの反射・透過特性C12は、第1のレーザビームを反射する特性である。従って、波長λ1、λ2、λs1、λs2が
図4に示す波長上の位置関係にあり、第1及び第2のコーティングがそれぞれ
図4に示す反射・透過特性C12及びC22を有するとき、ウェッジプリズム23は、第1及び第2の
SRS光を第3の方向に反射させる。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0042
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0042】
ビームダンパ25は、入射する第1及び第2のSRS光を吸収して、第1のコリメートレンズ21または第2のコリメートレンズ22へと向かうことを防止する。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0043
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0043】
このように、ウェッジプリズム23の第2の面23bに施されている第2のコーティングは、第1のSRS光と第2のSRS光とのうち、少なくとも第2のSRS光を反射する特性を有し、好ましくは、第1及び第2のSRS光を反射する特性を有する。ウェッジプリズム23の第2の面23bで第1及び第2のSRS光を反射させるために、波長λ1と波長λ2との差を50nm未満とするのがよい。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0048
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0048】
本発明は以上説明した1またはそれ以上の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。