(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057523
(43)【公開日】2024-04-24
(54)【発明の名称】摩擦攪拌接合工具
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20240417BHJP
【FI】
B23K20/12 344
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164338
(22)【出願日】2022-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】592015271
【氏名又は名称】テクノエイト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】田口 輝貴
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167BG08
4E167BG25
(57)【要約】
【課題】被接合部材に接近離隔させられる回転治具と回転治具のショルダ面から突出し可能に回転治具に挿通されたピンとを備えた、小型の摩擦攪拌接合工具を提供する。
【解決手段】円筒状の本体44内に収容された電動モータ46により回転駆動される送りねじ軸58の螺進によりピン42の回転治具40のショルダ面38からピン突出量Pが調節される。これにより、油圧シリンダを用いてピンの回転治具のショルダ面から突出し量が調節される場合に比較して、油圧シリンダ、油圧シリンダから作動油を還流させる油圧タンク、油圧タンク内の作動油を油圧シリンダへ供給する油圧ポンプ、油圧ポンプから油圧シリンダへの作動油をそれぞれ制御する電磁制御弁、回転体に油圧を供給するシール機構などが不要となるので、摩擦攪拌接合工具10が大幅に小型となる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接合部材に接近離隔させられる軸状の回転治具と、前記回転治具の先端に形成されたショルダ面から突出し可能に前記回転治具に設けられたピンとを備え、軸まわりに回転駆動され且つ軸方向に移動する工具チャックにより把持される摩擦攪拌接合工具であって、
前記工具チャックにより基端部が把持され、先端部には前記回転治具が同心に連結された筒状の本体と、
前記本体内に軸まわりの相対回転不能に挿入された電動モータと、
前記電動モータに連結され、前記本体に固定されたナット部材に螺合された状態で前記回転治具を縦通する送りねじ軸と、を備え、
前記ピンは、前記送りねじ軸の先端部と共に軸方向に移動させられて、前記回転治具のショルダ面からの突出し量が変化させられる
ことを特徴とする摩擦攪拌接合工具。
【請求項2】
前記筒状の本体の前記先端部に開く開口には、外に向かうほど大径となるテーパ状内周面が形成され、
前記回転治具の基端部には、前記テーパ状内周面に密着するテーパ状外周面が形成され、
前記筒状の本体の前記先端部の外周面に形成された雄ねじに螺合された環状ナットにより、前記回転治具の基端部が前記本体の前記先端部に固定されている
ことを特徴とする請求項1の摩擦攪拌接合工具。
【請求項3】
前記回転治具の基端部には、前記回転治具の基端部の端面に開き且つ前記回転軸の基端部の内周面から外周面へ貫通する径方向のスリットが形成され、
前記回転治具の基端部の内周面には、前記ナット部材が嵌合されている
ことを特徴とする請求項1の摩擦攪拌接合工具。
【請求項4】
前記ピンは、小径部と大径部とを備え、
前記回転治具は、前記送りねじ軸を収容し、且つ前記ピンの大径部を前記送りねじ軸の先端が接触可能に摺動可能に嵌め入れる縦通穴と、
前記小径部が前記ショルダ面の中央から突き出すように前記縦通穴の底面に貫通させられた貫通穴とを、備える
ことを特徴とする請求項1の摩擦攪拌接合工具。
【請求項5】
前記ピンの大径部と前記回転治具の貫通穴周縁部との間に、圧縮コイルスプリングが介挿されている
ことを特徴とする請求項4の摩擦攪拌接合工具。
【請求項6】
前記回転治具の縦通穴内には、前記送りねじ軸の先端部が摺動可能に嵌め入れられる軸受メタルが嵌め入れられている
ことを特徴とする請求項4の摩擦攪拌接合工具。
【請求項7】
前記電動モータ、前記ナット部材、前記送りねじ軸、前記ピンは、前記本体と同心であり、前記本体よりも小径である
ことを特徴とする請求項1の摩擦攪拌接合工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被接合部材同士を摩擦攪拌接合により接合する際に用いる摩擦攪拌接合装置に関し、特に、被接合部材の厚みの組み合わせに応じてショルダ面からのピンの突出し量を変更可能な摩擦攪拌接合工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
同種金属又は異種金属製の被接合部材同士を摩擦攪拌接合(FSW)により接合するに際しては、被接合部材に面接触して摩擦熱を発生させことで被接合部材を軟化させるショルダ面と、そのショルダ面の中央部から突き出して被接合部材の接合部を塑性変形させながら練り混ぜて被接合部材の原子同士を接合させることで被接合部材同士の接合を行なうピンとを備えた摩擦攪拌接合工具が用いられる。たとえば、特許文献1に記載された摩擦攪拌接合工具がそれである。
【0003】
この摩擦攪拌接合工具は、作動装置内の電動モータの回転駆動により軸心まわりに回転駆動され、且つ作動装置内の第一のシリンダにより上方および下方へ移動させられて被接合部材に接近離隔させられる回転治具と、回転治具のショルダ面から下方へ突出し可能に回転治具に挿通され、上方への突出し部位が作動装置内に付き入れられて第二の油圧シリンダに連結されたピンとを、備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1に記載の従来の摩擦攪拌接合工具では、回転治具が作動装置内の第一のシリンダにより上方および下方へ移動させられ、回転治具に挿通されたピンが作動装置内の第二のシリンダにより回転治具のショルダ面から下方へ突出し可能とされているが、作動装置内の電動モータにより回転駆動される回転治具およびピンと、第一の油圧シリンダおよび第二の油圧シリンダとの機構的な関係の開示がなく、摩擦攪拌接合工具の実現可能性が不明であるという課題があった。
【0006】
また、仮に、上記の摩擦攪拌接合工具が実現され得たとしても、第一の油圧シリンダおよび第二の油圧シリンダ、それらから作動油を還流させる油圧タンク、油圧タンク内の作動油を第一の油圧シリンダおよび第二の油圧シリンダへ供給する油圧ポンプ、油圧ポンプから第一の油圧シリンダおよび第二の油圧シリンダへの作動油をそれぞれ制御する複数個の電磁制御弁、回転体に油圧を供給するシール機構などを必要とし、摩擦攪拌接合工具が大型となるという欠点がある。
【0007】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的とするところは、被接合部材に接近離隔させられる回転治具と、回転治具のショルダ面から突出し可能に回転治具に挿通されたピンとを備えた、小型の摩擦攪拌接合工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨とするところは、(a)被接合部材に接近離隔させられる軸状の回転治具と、前記回転治具の先端に形成されたショルダ面から突出し可能に前記回転治具に設けられたピンとを備え、軸まわりに回転駆動され且つ軸方向に移動する工具チャックにより把持される摩擦攪拌接合工具であって、(b)前記工具チャックにより基端部が把持され、先端部には前記回転治具が同心に連結された筒状の本体と、(c)前記本体内に軸まわりの相対回転不能に挿入された電動モータと、(d)前記電動モータに連結され、前記本体に固定されたナット部材に螺合された状態で前記回転治具を縦通する送りねじ軸と、を備え、(e)前記ピンは、前記送りねじ軸の先端部と共に軸方向に移動させられて、前記回転治具のショルダ面からの突出し量が変化させられ
ことにある。
【発明の効果】
【0009】
本発明の摩擦攪拌接合工具によれば、筒状の本体内に収容された電動モータにより回転駆動される送りねじ軸の螺進によりピンの回転治具のショルダ面から突出し量が調節される。これにより、油圧シリンダを用いてピンの回転治具のショルダ面からの突出し量が調節される場合に比較して、油圧シリンダ、油圧シリンダから作動油を還流させる油圧タンク、油圧タンク内の作動油を油圧シリンダへ供給する油圧ポンプ、油圧ポンプから油圧シリンダへの作動油をそれぞれ制御する電磁制御弁、回転体に油圧を供給するシール機構などが不要となるので、摩擦攪拌接合工具が大幅に小型となる。
【0010】
ここで、好適には、前記筒状の本体の前記先端部に開く開口には、外に向かうほど大径となるテーパ状内周面が形成され、前記回転治具の基端部には、前記テーパ状内周面に密着するテーパ状外周面が形成され、前記筒状の本体の前記先端部の外周面に形成された雄ねじに螺合された環状ナットにより前記回転治具の基端部が前記本体の前記先端部に固定されている。これにより、本体と回転治具との間の心出し精度が高められる。
【0011】
また、好適には、前記回転治具の基端部には、前記回転治具の基端部の端面に開き且つ前記回転軸の基端部の内周面から外周面へ貫通する径方向のスリットが形成され、前記回転治具の基端部の内周面には、前記ナット部材が嵌合されている。これにより、ナット部材が前記環状ナットの締め付けによるコレットチャック構造により強固に固定される。
【0012】
また、好適には、前記ピンは、小径部と大径部とを備え、前記回転治具は、前記送りねじ軸を収容し、且つ前記ピンの大径部を前記送りねじ軸の先端が接触可能に摺動可能に嵌め入れる縦通穴と、前記小径部が前記ショルダ面の中央から突き出すように前記縦通穴の底面に貫通させられた貫通穴とを、備える。これにより、ピンに加えられる被接合部材からの荷重は、送りねじ軸、および送りねじ軸が螺合された環状ナット、環状ナットが固定された回転治具を介して、本体により支持される。
【0013】
また、好適には、前記ピンの大径部と前記回転治具の貫通穴周縁部との間に、圧縮コイルスプリングが介挿されている。これにより、ピンは圧縮コイルスプリングによって常時体側へ付勢されているので、ピンの突出し量を少なくするために送りねじ軸が本体側へ移動させられたとき、ピンの位置も送りねじ軸の移動量だけ移動させられる。
【0014】
また、好適には、前記回転治具の縦通穴内には、前記送りねじ軸の先端部が摺動可能に嵌め入れられる軸受メタルが嵌め入れられている。これにより、送りねじ軸の先端部がピンの大径部の端面の中央に当接させられるので、被接合部材からの荷重がピンに加えられたときに、送りねじ軸の座屈が好適に抑制される。
【0015】
また、好適には、前記電動モータは、軸回りの回転不能且つ軸方向移動可能に前記本体内に嵌め入れられている。これにより、送りねじ軸が、電動モータにより回転駆動されることで、軸方向に移動させられて、ピンの回転治具のショルダ面からピン突出量が調節される。
【0016】
また、好適には、前記電動モータ、前記ナット部材、前記送りねじ軸、前記ピンは、前記本体と同心であり、前記本体よりも小径である。これにより、摩擦攪拌接合工具が1本の棒状に構成され、小型に構成される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施例の摩擦攪拌接合工具を含む摩擦攪拌接合装置を説明する図である。
【
図2】
図1の摩擦攪拌接合工具を示す、縦断面を部分的に含む正面図である。
【
図3】
図1の回転治具の先端部を拡大して示す断面図である。
【
図4】
図1の回転治具の先端部を示す断面図であって、
図3のIV-IV視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して説明する。
【実施例0019】
図1において、本発明の一実施例の摩擦攪拌接合工具10が適用された摩擦攪拌接合装置12が示されている。摩擦攪拌接合装置12は、被接合部材Wを水平な上面において固定する位置固定のテーブル14と、基台16上に水平方向であるX方向に移動可能に設けられ、X方向モータ18によりX方向に駆動される支柱20と、支柱20に固定されたY方向案内部材22にX方向に直交する水平なY方向の移動可能に設けられ、Y方向モータ24によりY方向に駆動されるY方向移動部材26と、Y方向移動部材26に固定されたZ方向案内部材28に垂直方向すなわちZ方向の移動可能に設けられ、Z方向モータ30によりZ方向に駆動されるZ方向移動部材32と、Z方向移動部材32にZ方向の軸まわりに回転可能に設けられ、摩擦攪拌接合工具10を把持した状態で工具駆動モータ34により垂直な中心軸まわりに回転駆動される工具チャック36と、を備えている。
【0020】
摩擦攪拌接合工具10は、回転駆動されつつ、Z方向に下降させられることで、被接合部材Wに面接触して摩擦熱を発生させことで被接合部材Wを軟化させるショルダ面38を先端面として有する長手状の回転治具40と、そのショルダ面38の中央部から被接合部材W側に突き出した状態でX方向或いはY方向に移動させられることで、被接合部材Wの接合部を塑性変形させながら練り混ぜて被接合部材Wの原子同士を接合させることで被接合部材W同士の接合を行なうピン42とを備えている。
【0021】
図2に詳しく示すように、摩擦攪拌接合工具10は、工具チャック36により基端部(
図2の上端部)が把持される円筒状の本体44を、備えている。本体44の先端部には、本体44の軸線C1に対して同心の長手状の回転治具40が連結されている。本体44内には、長手状の電動モータ46が軸線C1まわりの相対回転不能に且つ軸線C1方向の移動可能に挿入されている。たとえば、電動モータ46の外周面に突設された複数本の軸線C1方向の長手状案内突起48と、本体44の内周面に突設された複数本の軸線C1方向の長手状案内突起50とが、電動モータ46の軸線C1まわりの相対回転を阻止しつつ軸線C1方向の移動を許容するようになっている。
【0022】
筒状の本体44の先端部(
図2の下端部)に開く開口には、本体44の外すなわち下方に向かうほど大径となるテーパ状内周面44aが形成されている。また、回転治具40の基端部(
図2の上端部)40aには、テーパ状内周面44aに密着するテーパ状外周面40bが形成されている。本体44の先端部の外周面には、雄ねじ52が形成されている。回転治具40の基端部40aは、他の部分よりも大径である。環状ナット54には、回転治具40の基端部40aよりも小径の貫通穴54aが形成されている。回転治具40を差し通し且つ回転治具40の基端部40aと貫通穴54aとが係合する状態で環状ナット54が、雄ねじ52に螺合されている。これにより、回転治具40が本体44の先端部に同心に固定されている。
【0023】
回転治具40の基端部40aには、回転治具40の基端部40aの上端面に開き且つ回転治具40の基端部40aの内周面から外周面へ貫通する径方向のスリット56が周方向に複数箇所たとえば3箇所形成されている。
【0024】
回転治具40の基端部40aの開口には、雄ねじが形成された送りねじ軸58の基端部58aと螺合するナット部材60が嵌合されている。本体44の先端部に開く開口に形成されたテーパ状内周面44a、回転治具40の基端部にテーパ状内周面44aに密着するように形成されたテーパ状外周面40b、回転治具40の基端部40aに形成されたスリット56、および、本体44の先端部外周面に形成された雄ねじ52に螺合して回転治具40を締め付ける環状ナット54は、ナット部材60を本体44に着脱可能に固定するコレットチャックとして機能している。
【0025】
ピン42は、回転治具40のショルダ面38から突き出す小径部42aと、回転治具40の先端部内に位置する大径部42bとを備えている。回転治具40は、送りねじ軸58を収容し、且つピン42の大径部42bを送りねじ軸58の先端が接触可能に摺動可能に嵌め入れる縦通穴62と、小径部42aが凹状のショルダ面38の中央部から突き出すように縦通穴62の底面に貫通させられた貫通穴64とを、備える。
【0026】
図3に詳しく示すように、縦通穴62は貫通穴64よりも大径であり、ピン42の大径部42bと回転治具40の縦通穴62の底面すなわち貫通穴64の周縁部との間には、ピン42を大径部42b側へ常時付勢する圧縮コイルスプリング66が介挿されている
【0027】
回転治具40の縦通穴64内には、送りねじ軸58の先端部および中間部に摺動可能に嵌め入れられた円筒状の軸受メタル68および69が嵌め入れられている。軸受メタル68は、送りねじ軸58の先端部がピン42の大径部42bの端面の中央に当接するように、送りねじ軸58の先端部を芯出しして位置決めする。軸受メタル69は、送りねじ軸58に大きな軸方向荷重が加えられても送りねじ軸58を直線状に維持するように送りねじ軸58の中間部を芯出しして位置決めする。
【0028】
ピン42は、回転治具40に対して、相対回転不能且つ軸方向に移動可能に設けられている。たとえば
図3のIV-IV視断面を示す
図4に示すように、ピン42の大径部42bの外周面には、断面が三角の複数本の突条70が軸線C1方向に形成されており、回転治具40の縦通穴62の少なくとも下端部の内周面には、突条70を受け入れる複数本のV溝72が形成されている。
【0029】
電動モータ46、ナット部材60、送りねじ軸58、ピン42は、本体44よりも小径であり、本体44と同心である。電動モータ46は、たとえばサーボモータであり、電動モータ46には、モータ駆動回路74およびモータ制御回路76が、設けられている。モータ制御回路76は、たとえば位置固定に設けられた図示しないピン突出量設定操作装置から送信された指令信号を受ける受信モジュールを備え、ピン突出量設定操作装置において設定操作されたピン突出量Pが得られるように、モータ駆動回路74を介して電動モータ46の回転量を制御する。
【0030】
本実施例の摩擦攪拌接合工具10によれば、円筒状の本体44内に収容された電動モータ46により回転駆動される送りねじ軸58の螺進によりピン42の回転治具40のショルダ面38からピン突出量Pが調節される。これにより、油圧シリンダを用いてピンの回転治具のショルダ面から突出し量が調節される場合に比較して、油圧シリンダ、油圧シリンダから作動油を還流させる油圧タンク、油圧タンク内の作動油を油圧シリンダへ供給する油圧ポンプ、油圧ポンプから油圧シリンダへの作動油をそれぞれ制御する電磁制御弁、回転体に油圧を供給するシール機構などが不要となるので、摩擦攪拌接合工具10が大幅に小型となる。
【0031】
また、本実施例の摩擦攪拌接合工具10によれば、円筒状の本体44の先端部に開く開口には、外に向かうほど大径となるテーパ状内周面44aが形成され、回転治具40の基端部には、テーパ状内周面44aに密着するテーパ状外周面40bが形成され、本体44の先端部の外周面に形成された雄ねじ52に螺合された環状ナット54により回転治具40の基端部が本体44の先端部に固定されている。これにより、本体44と回転治具40との間の心出し精度が高められる。
【0032】
また、本実施例の摩擦攪拌接合工具10によれば、回転治具40の基端部には、回転治具40の基端部の端面に開き且つ回転治具40の基端部の内周面から外周面へ貫通する径方向の56スリットが形成され、回転治具40の基端部の内周面には、ナット部材60が嵌合されている。これにより、ナット部材60が環状ナット54の締め付けによるコレットチャック構造により強固に固定される。
【0033】
また、本実施例の摩擦攪拌接合工具10によれば、ピン42は、小径部42aと大径部42bとを備え、回転治具40は、送りねじ軸58を収容し、且つピン42の大径部42bを送りねじ軸58の先端が接触可能に摺動可能に嵌め入れる縦通穴62と、小径部42aがショルダ面38の中央から突き出すように縦通穴62の底面に貫通させられた貫通穴64とを、備える。これにより、ピン42に加えられる被接合部材Wからの荷重は、送りねじ軸58、および送りねじ軸58が螺合された環状ナット54、環状ナット52が固定された回転治具40を介して、本体44により支持される。
【0034】
また、本実施例の摩擦攪拌接合工具10によれば、ピン42の大径部42bと回転治具40の貫通穴64周縁部との間に、圧縮コイルスプリング66が介挿されている。これにより、ピン42は圧縮コイルスプリング66によって本体44側へ常時付勢されているので、ピン42の突出量Pを少なくするために送りねじ軸58が本体44側へ移動させられたとき、ピン42の位置も送りねじ軸58の移動量だけ移動させられる。
【0035】
また、本実施例の摩擦攪拌接合工具10によれば、回転治具40の縦通穴62内には、送りねじ軸58の先端部が摺動可能に嵌め入れられる軸受メタル68が嵌め入れられている。これにより、送りねじ軸58の先端部がピン42の大径部42bの端面の中央に当接させられるので、被接合部材Wからの荷重がピン42に加えられたときに、送りねじ軸58の座屈が好適に抑制される。
【0036】
また、また、本実施例の摩擦攪拌接合工具10によれば、電動モータ46は、軸回りの回転不能且つ軸方向移動可能に本体44内に嵌め入れられている。これにより、送りねじ軸58が、電動モータ46により回転駆動されることで、軸方向に移動させられて、ピン42の回転治具40のショルダ面38からピン突出量Pが調節される。
【0037】
また、本実施例の摩擦攪拌接合工具10によれば、電動モータ46、ナット部材60、送りねじ軸58、ピン42は、本体44と同心であり、本体44よりも小径である。これにより、摩擦攪拌接合工具10が1本の棒状に構成され、小型に構成される。
【0038】
以上、摩擦攪拌接合工具10を図面に基づいて説明したが、それらはあくまでの本発明の一実施例であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【0039】
たとえば、前述の実施例では、電動モータ46は、本体44に対して軸方向の移動可能且つ軸まわりの回転不能に設けられていた。しかし、電動モータ46の出力軸と送りねじ軸58との間に、軸方向まわり回転不能且つ軸方向の移動可能に連結するカップリングが用いられる場合には、電動モータ46は本体44に対して固定されていてもよい。
【0040】
また、前述の実施例では、ナット部材60は、回転治具40を介して本体44に固定されていたが、本体44に対して直接固定されていてもよい。
【0041】
また、前述の実施例では、軸受メタル68および軸受メタル69が回転治具40の縦通穴62内に設けられていたが、送りねじ軸58の径が大きく曲げ強度が十分に高い等の場合には、軸受メタル68および軸受メタル69の一方又は両方は必ずしも設けられていなくてもよい。
【0042】
また、前述の実施例では、ピン42の小径部42aと回転治具40との間で軸まわりの相対回転不能且つ軸方向の移動可能に儲けられていたが、ピン42の大径部42bと回転治具40との間で軸まわりの相対回転不能且つ軸方向の移動可能に儲けられていてもよい。
【0043】
また、前述の実施例では、ピン42を本体44側に付勢する圧縮コイルスプリング66が設けられていたが、それに替えて、送りねじ軸58とピン42との間に、相対回転は許容するが軸方向の相対移動不能に連結されていてもよい。