(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005757
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】車両用バックドア取付治具及び方法
(51)【国際特許分類】
B62D 65/06 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
B62D65/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106113
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】勝浦 秀樹
【テーマコード(参考)】
3D114
【Fターム(参考)】
3D114AA04
3D114AA15
3D114BA13
3D114CA07
3D114FA09
3D114GA02
(57)【要約】
【課題】車体へのバックドアの取付精度を向上させることができる車両用バックドア取付治具を提供する。
【解決手段】バックドア(2)によって開閉可能な開口部(4)近傍の車体(3)に設置される一対の治具ユニット(1)を備えている。左治具ユニット(1L)は、バックドア(2)の左側縁と接してバックドア(2)を右治具ユニット(1R)に向けて付勢する付勢ユニットを有する。右治具ユニット(1R)も、同様の付勢ユニットを有している。左治具ユニット(1L)及び右治具ユニット(1R)の付勢力の釣り合いによってバックドア(2)が車体(3)に対して位置決めされる。この状態で、左治具ユニット(1L)と上記左側縁との接触点を通る付勢方向(DL)と、右治具ユニット(1R)と上記右側縁との接触点を通る付勢方向(DR)とは、バックドア(2)の一対の取付部の中央点を含む中央面(PC)上で交差する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用バックドア取付治具であって、
上部に設けられた一対の取付部で車体に取り付けられるバックドアによって開閉可能な開口部近傍の車体左側及び右側に設置される一対の左治具ユニット及び右治具ユニットを備え、
前記左治具ユニットが前記バックドアの左側縁と接して前記バックドアを前記右治具ユニットに向けて付勢する付勢ユニットを有し、かつ、前記右治具ユニットが前記バックドアの右側縁と接して前記バックドアを前記左治具ユニットに向けて付勢する付勢ユニットを有しており、
前記左治具ユニット及び前記右治具ユニットの前記付勢ユニットによる付勢力の釣り合いによって前記バックドアが車体に対して位置決めされた状態において、前記左治具ユニットと前記バックドアの前記左側縁との接触点を通る前記付勢力の付勢方向と、前記右治具ユニットと前記バックドアの前記右側縁との接触点を通る前記付勢力の付勢方向とが、前記一対の取付部間の中央点を含む車体幅方向に垂直な中央面上で交差する、車両用バックドア取付治具。
【請求項2】
前記左治具ユニット及び右治具ユニットが左右対称な構成を有しており、
前記付勢ユニットが、前記接触点において前記バックドアと接触するローラと、前記ローラを前記付勢方向に付勢するスプリングとを有している、請求項1に記載の車両用バックドア取付治具。
【請求項3】
前記付勢ユニットが、前記ローラを回転可能に保持する揺動可能な揺動ブロックと、前記揺動ブロックと機械的にリンク接続されると共に前記揺動ブロックを介して前記ローラを付勢する前記スプリングが内蔵されたリンク機構とをさらに備えている、請求項2に記載の車両用バックドア取付治具。
【請求項4】
車両用バックドア取付方法であって、
請求項3に記載の車両用バックドア取付治具の一対の前記左治具ユニット及び前記右治具ユニットを車体に設置し、
前記バックドアの前記左側縁及び前記右側縁に前記ローラをそれぞれ接触させて、前記左治具ユニット及び前記右治具ユニットの前記付勢ユニットによる付勢力の釣り合いによって前記バックドアを車体に対してセンタリングさせ、
前記バックドアの一対の前記取付部を前記車体に取り付けられた一対のヒンジ部材にそれぞれ締結する、車両用バックドア取付方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用バックドア取付治具及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ワンボックスタイプ、ハッチバックタイプ又はSUVなどの車両は、車両の後部に上方に開くバックドアが設けられるのが一般的である。下記特許文献1は、車両にバックドアを取り付けるための治具及び方法を開示している。特許文献1に開示された装置及び方法は、バックドアを保持して車体の取付部に向けてバックドアを運ぶための治具である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バックドアは、車体に予め取り付けられた一対のヒンジ部材に固定される。バックドアをヒンジ部材に取り付ける際には、その位置を正確に合わせる必要がある。バックドアは大きな部品であり、その取付部である上縁でのわずかな位置ズレは、その下縁では大きくなる。引用文献1に開示された治具は、バックドアを運ぶための治具であり、バックドアを動かして車体に対する位置合わせを行いやすくするものである。一方、バックドアが取り付けられる車体側でも位置決め用の治具を用いることで、位置合わせの精度を向上させることが可能である。本発明は、車体側の取付治具及び当該治具を用いた方法に関するものである。
【0005】
本発明の目的は、車体へのバックドアの取付精度を向上させることのできる車両用バックドア取付治具及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両用バックドア取付治具は、上部に設けられた一対の取付部で車体に取り付けられるバックドアによって開閉可能な開口部近傍の車体左側及び右側に設置される一対の左治具ユニット及び右治具ユニットを備えている。左治具ユニットは、バックドアの左側縁と接してバックドアを右治具ユニットに向けて付勢する付勢ユニットを有する。同様に、右治具ユニットも、バックドアの右側縁と接しバックドアを左治具ユニットに向けて付勢する付勢ユニットを有している。左治具ユニット及び右治具ユニットの付勢ユニットによる付勢力の釣り合いによってバックドアが車体に対して位置決めされる。この位置決め状態で、左治具ユニットと上記左側縁との接触点を通る付勢方向と右治具ユニットと上記右側縁との接触点を通る付勢方向とは、バックドアの一対の取付部の中央点を含む車体幅方向に垂直な中央面上で交差する。
【0007】
本発明に係る車両用バックドア取付方法は、上記取付治具を用いてバックドアを車体に取り付ける方法である。なお、このとき、上記付勢ユニットは、バックドアと接触するローラを保持する揺動可能な揺動ブロックと、揺動ブロックと機械的にリンク接続されると共に揺動ブロックを介してローラを付勢するスプリングが内蔵されたリンク機構とを備えている。この取付方法では、左右対称な構成を有する一対の左治具ユニット及び右治具ユニットが車体に設置される。次いで、バックドアの左側縁及び右側縁にローラをそれぞれ接触させることで、左治具ユニット及び右治具ユニットの付勢ユニットによる付勢力の釣り合いによってバックドアが車体に対してセンタリングされる。その状態で、バックドアの一対の取付部が車体に取り付けられた一対のヒンジ部材にそれぞれ締結される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る車両用バックドア取付治具及び方法によれば、車体へのバックドアの取付精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る車両用バックドア取付治具の正面を示す斜視図である。
【
図4】上記取付治具を用いてバックドアを取り付ける際の搬送治具も示す斜視図である。
【
図5】バックドアの右側取付部を上方から見た拡大斜視図である。
【
図6】バックドアの左側取付部を下方から見た拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照しつつ、実施形態に係る車両用バックドア取付治具について説明する。
【0011】
バックドア取付治具は、一対の治具ユニット1を備えている。治具ユニット1は、バックドア2を車体3の取り付ける際に一時的に車体3に設置される。より詳しくは、治具ユニット1は、上下に開かれるバックドア2によって開閉可能な開口部4近傍の車体3の左側及び右側に設置される。バックドア2は、治具ユニット1を用いて、その上部に設けられた一対の取付部で車体に取り付けられる。治具ユニット1は、バックドア2の車体3への取り付けが完了した後に車体3から取り外される。治具ユニット1は、バックドア2の車体3への取り付け精度を向上させるものである。
【0012】
一対の治具ユニット1のうち、車体3の左側に設置されるものを左治具ユニット1L、右側に設置されるものを右治具ユニット1Rとも呼ぶ。また、本実施形態の車体3は、その後部に二つのバックドア2及び5を備えている(
図4参照)。一方のバックドア5は、車体3の後面のほぼ全体の開口部を開閉し得る。他方のバックドア2は、上述した大きなバックドア5の上半分に形成された開口部4を開閉し得る。本実施形態の取付治具は、バックドア2の車体3への取り付けを補助する治具である。
【0013】
一対の左治具ユニット1L及び右治具ユニット1Rは左右対称な構成を有している。即ち、左治具ユニット1Lと右治具ユニット1Rとは鏡像の関係にある。なお、ここに言う「左右対称な構成」とは、形状や寸法が鏡像の関係にあることのみならず、後述するスプリング90(
図3参照)のバネ定数が同じであることも含む。以下、左治具ユニット1Lを例に治具ユニット1を説明する。右治具ユニット1Rの詳しい説明は省略するが、右治具ユニット1Rも対称に同じ構成を備えている。
【0014】
図1~
図3を参照しつつ、治具ユニット1(左治具ユニット1L)の構成を詳しく説明する。
【0015】
治具ユニット1は、3Dプリンタなどで形成された樹脂製のメインフレーム6を有している。メインフレーム6は、縦長のフレームであるが、その下方は、車体3に設置されたときに安定するように末広がりに形成されている。また、メインフレーム6の上端は、メインフレーム6が車体に設置されたときに開口部4に向けて突出されるように延出されている。即ち、この延出部7は、メインフレーム6の長さ方向に対して角度を持って側方に延出されている。延出部7は、二股に形成されている。
【0016】
メインフレーム6の正面上部には、治具ユニット1を車体3に設置する際に作業者によって把持されるハンドル8が手前に突出するように形成されている。また、メインフレーム6の上部には、メインフレーム6の長さ方向に沿ってリンク機構9が内蔵されている。リンク機構9については追って詳しく説明する。メインフレーム6のハンドル8の下方には、マグネットユニット10が取り付けられている。
【0017】
マグネットユニット10は、メインフレーム6に形成された貫通孔の内部に配されている。マグネットユニット10の正面には、回転可能なダイアル11が設けられている。ダイアル11を回転させることで、マグネットユニット10の背面に磁力を生じさせたり(ON状態)、磁力生じさせなかったり(OFF状態)を機械的に切り替えできる。車体3はスチール製であるので、マグネットユニット10をON状態にすれば治具ユニット1が車体3に引きつけられ、治具ユニット1の脱落が防止される。ダイアル11の回転位置は、OFF位置とON位置との間で簡単に切替可能である。
【0018】
メインフレーム6の背面の中央部と下部には、ロケートピン12が取り付けられている。ロケートピン12の先端は車体3に形成されたロケートホールに挿入され、ロケートピン12によって治具ユニット1の車体3に対する位置決めが行なわれる。メインフレーム6の背面の最下部の両端には、パッド13がそれぞれ取り付けられている。各パッド13は、ネジ機構によってメインフレーム6に一対のナットによって固定される。パッド13の突出量はネジ機構によってネジ機構の軸方向に調整可能である。ロケートピン12及びパッド13の突出量によって、メインフレーム6と車体3との距離を調整可能である。ロケートピン12及びパッド13の車体3との接触部はゴムや樹脂で形成されており、車体3に傷をつけないようにされている。
【0019】
メインフレーム6の最上部の延出部7は上述したように二股に形成されているが、その一方にはフックユニット14が取り付けられている。より具体的には、フックユニット14は、治具ユニット1が車体3に設置されたときに後方(開口部4の開口側)に位置する方の二股部の外側面に取り付けられている。フックユニット14は、垂直に揺動可能なスイングフック15を有している(
図5及び
図6参照)。スイングフック15は、ほぼL字形状を有しており、そのL字の屈曲部近傍でフックユニット14の本体にピン接続されている。
図5及び
図6に示されるフックユニット14の状態は、ロック状態である。ロック状態でのスイングフック15の水平アーム部には、スイングフック15を揺動させる際に操作されるノブ16が設けられている。ノブ16には、操作しやすいようにゴムキャップがはめられている。
【0020】
一方、ロック状態でのスイングフック15の垂直アーム部の先端には、把持パッド17が設けられている。把持パッド17は、ネジ機構によって垂直アームに取り付けられており、把持パッド17の突出量はネジ機構によってネジ機構の軸方向に調整可能である。ネジ機構の軸方向は、スイングフック15がロック状態にあるときの車幅方向である。ノブ16を操作してロック状態のスイングフック15を上方に90度以上揺動させると、把持パッド17と車体3との接触が外れ、その状態がスイングフック15の自重で維持されてフックユニット14はアンロック状態となる。フックユニット14がアンロック状態のときに、治具ユニット1を車体3から取り外すことができる。
【0021】
また、ノブ16を操作してアンロック状態のスイングフック15を揺動させれば、スイングフック15の自重でフックユニット14のロック状態が維持される。スイングフック15を揺動させてロック状態にすると、把持パッド17が車体3に接触し、把持パッド17とメインフレーム6とで車体3を把持する。この結果、治具ユニット1が車体3にしっかりと設置される。把持パッド17の車体3との接触部はゴムや樹脂で形成されており、車体3に傷をつけないようにされている。
【0022】
延出部7の二股部の間には、メインフレーム6に対して揺動可能な揺動ブロック18が取り付けられている。揺動ブロック18は、その揺動軸に沿って視た側面視でほぼL字形状を有しており、そのL字の屈曲部で延出部7の先端部にピン接続されている。また、揺動ブロック18の水平アームの先端は、後述するリンク機構9とピン接続されている。言い換えれば、揺動ブロック18とリンク機構9とは機械的にリンク接続されている。一方、揺動ブロック18の垂直アームの背面には、複数枚の金属製のシム19を介してローラブラケット20が固定されている。そして、ローラブラケット20には、円柱状のローラ21が回転可能に取り付けられている。即ち、揺動ブロック18は、シム19及びローラブラケット20を介して、ローラ21を回転可能に保持している。揺動ブロック18及びローラブラケット20は、3Dプリンタなどで形成された樹脂製の部品である。シム19の厚さや枚数を変えることで、ローラ21の位置を微調整することができる。ローラ21の周面部は、バックドア2の側縁との接触部であり、ゴムや樹脂で形成されており、バックドア2に傷をつけないようにされている。
【0023】
リンク機構9について
図3を参照しつつ説明する。リンク機構9は金属製である。リンク機構9は、揺動ブロック18やローラ21を介してバックドア2を付勢する付勢力を発生するスプリング90を内蔵している。ここで、バックドア2の側縁と接触するローラ21を回転可能に保持する揺動ブロック18、及び、当該揺動ブロック18と機械的にリンク接続されたスプリング90を有するリンク機構9によって、付勢ユニットが構成されている。各治具ユニット1の付勢ユニットは、バックドア2を相手側の治具ユニット1に向けて付勢する。
【0024】
図3に示されるように、リンク機構9は、アッパーロッドアッセンブリ91、ロワーロッドアッセンブリ92、及び、伸縮ロッドアッセンブリ93を備えている。ロワーロッドアッセンブリ92は、メインフレーム6に取り付けられ、その中央に伸縮ロッドアッセンブリ93の下端がピン接続されている。アッパーロッドアッセンブリ91は、揺動ブロック18の端部に取り付けられており、その中央に伸縮ロッドアッセンブリ93の上端がピン接続されている。上述したスプリング90は、伸縮ロッドアッセンブリ93に組み込まれている。伸縮ロッドアッセンブリ93には、スプリング90のスプリングシートも組み込まれている。
【0025】
ロワーロッドアッセンブリ92の位置は、メインフレーム6に対して変わらない。一方、アッパーロッドアッセンブリ91の位置は、揺動ブロック18の揺動に伴って若干であるが変化する。このため、アッパーロッドアッセンブリ91とロワーロッドアッセンブリ92との間の距離は変化するが、これらの間に配された伸縮ロッドアッセンブリ93は当該距離変化に追従して伸縮する。当該距離が短くなるときにはスプリング90が縮められるため、スプリング90は弾性復元力を発揮する。この弾性復元力がローラ21を介してバックドア2を付勢する付勢力となる。なお、本実施形態では、スプリング90は常に縮められた状態となるように伸縮ロッドアッセンブリ93に組み込まれている。
【0026】
次に、
図4~
図6を参照しつつ、本実施形態に係るバックドア2の車体3への取付方法について説明する。
【0027】
バックドア2は、上述した特許文献1に開示されたような搬送治具22によって、水平状態で搬送される。バックドア2は、サクションカップなどで搬送治具22に保持されている。搬送治具22は、作業員によるバックドア2の車体3への移動を補助する。車体3の開口部4の上方には、バックドア2が固定される一対のヒンジ部材23が予め取り付けられている。ヒンジ部材23のバックドア2の取付部分はL字型に屈曲されており、その先端面には、基準孔23a及び長孔23bが形成されている。長孔23bは、車幅方向に長く形成されている。ヒンジ部材23におけるこの先端面とヒンジ部との間の中間面には、一対のボルト挿通孔23cが形成されている。バックドア2の上端部には、車体の屋根と連続面を形成する延出部がある。バックドア2は水平状態で搬送されるので、この延出部は下方に向けて延びている。この延出部の側縁がローラ21と接触する。
【0028】
本実施形態では、一対のヒンジ部材23は同一部品であり、基準孔23aは長孔23bの左側に位置している。バックドア2には、基準孔23a及び長孔23bと締結されるスタッドボルト24(
図6参照)が設けられている。また、図示されていないが、バックドア2には、ヒンジ部材23のボルト挿通孔23cに合わせて、ボルト締結孔が設けられている。なお、バックドア2も基本的には左右対称な形状を有している。特に、ローラ21と接触するその側縁は左右対称な形状を有している。本実施形態のヒンジ部材23はダブルヒンジであり、上述した大きなバックドア5も既に一対のヒンジ部材23に取り付けられている。
【0029】
取付作業では、まず、治具ユニット1を車体3の開口部4近傍にそれぞれ設置する。治具ユニット1には、上述したように調整可能な要素があるが、これらの要素は予め調整されている。特にローラ21の位置であるが、バックドア2の取り付け中にはバックドア2の上述した側縁とローラ21の周面とが常に接触し、スプリング90の弾性復元力、即ち、付勢力がバックドア2に常に作用するように設定されている。
【0030】
治具ユニット1の車体3への取付作業の一例を説明する。作業者は、一方の手でハンドル8を把持し、他方の手でマグネットユニット10のダイアル11を把持する。このとき、ダイアル11はOFF位置にある。また、フックユニット14はアンロック状態とされている。作業者は、治具ユニット1のロケートピン12を車体3のロケートホールに挿入すると共に、ダイアル11をON位置にする。その後、ダイアル11を把持していた手を離してノブ16を操作し、スイングフック15を揺動させてフックユニット14をロック状態にする。この結果、治具ユニット1は、ロケートピン12、パッド13及び把持パッド17によって、車体3に対して正確に位置決めされる。また、マグネットユニット10の磁力によって治具ユニット1の脱落や位置ズレも抑止される。この作業は、二人の作業者によって車体3の右側と左側とで同時に行われる。なお、車体3に形成されるロケートホールは、リヤサイドウィンドが取り車体付けられると隠れる位置に形成されている。
【0031】
次に、バックドア2を移動させて、バックドア2のスタッドボルト24をヒンジ部材23の基準孔23aに挿入させるように上方から降下させる。この際、上述したバックドア2の側縁はローラ21の外周面と接触する。このため、二つのローラ21はわずかに外方に移動されて揺動ブロック18が揺動され、バックドア2の両側縁には両側方からスプリング90による付勢力が作用する。より詳しく説明すれば、左治具ユニット1Lの上述した付勢ユニット(ローラ21、揺動ブロック18,及び、スプリング90を有するリンク機構9)が、バックドア2の左側縁と接してバックドア2を右治具ユニット1Rに向けて付勢する。同様に、右治具ユニット1Rの付勢ユニットが、バックドア2の右側縁と接してバックドア2を左治具ユニット1Lに向けて付勢する。
【0032】
この付勢は左右対称に行われるため、バックドア2は左右の付勢力の釣り合いによって、車体3に対して位置決めされ、即ち、センタリングされる。バックドア2は、この状態を維持されつつ降下され、スタッドボルト24が基準孔23a及び長孔23bに挿入される。このとき、バックドア2は、取付治具、即ち、一対の治具ユニット1によって正確にセンタリングされる。また、バックドア2が降下される際には、ローラ21は回転するので、ローラ21は、バックドア2に付勢力を作用させつつもバックドア2の降下を阻害することはない。
【0033】
ここで、
図7に示されるように、バックドア2の上部に設けられた車体3への一対の取付部の中央点を含む車体幅方向に垂直な中央面PCを規定する。中央面PCは、車体3に設けられたバックドア2の取付部(ヒンジ部材23)の中央点を含む車体幅方向に垂直でもある。また、左治具ユニット1Lとバックドア2の左側縁との接触点、即ち、ローラ21と左側縁との接触点を通る付勢力の方向を付勢方向DLと規定する。付勢方向DLは、当該接触点におけるローラ21の法線方向になる。同様に、右治具ユニット1Rとバックドア2の右側縁との接触点、即ち、ローラ21と右側縁との接触点を通る付勢力の方向を付勢方向DRと規定する。付勢方向DRも、当該接触点におけるローラ21の法線方向になる。
【0034】
本実施形態では、付勢力の釣り合いによってバックドア2が車体3に対して位置決め(センタリング)された状態では、付勢方向DLと付勢方向DRとは中央面PC上で交差する。これは、付勢力が左右対称に、即ち、左右均等にバックドア2に作用していることを意味しており、この結果、バックドア2は車幅方向に正確に位置決め(センタリング)される。ここで、一対の治具ユニット1の付勢力は、互いに相手に向けてバックドア2に作用する、即ち、付勢力のほぼ全てが車幅方向に作用する。このため、位置決め時にバックドア2に作用する様々な摩擦抵抗力等に対抗して、付勢力を有効に作用させてバックドア2を正確に位置決め(センタリング)することができる。
【0035】
基準孔23a及び長孔23bにスタッドボルト24が挿通された状態でバックドア2は正確にセンタリングされており、左右の二人の作業者は、それぞれ、まず基準孔23aに挿入されたスタッドボルト24をナットで締結する。これにより、バックドア2の車体3に対する位置が固定される。その後、長孔23bに挿通されたスタッドボルト24をナットで締結すると共に、ボルト挿通孔23cにボルトを挿通してバックドア2のボルト締結孔(図示せず)に当該ボルトを締結する。即ち、バックドア2の一対の取付部が、車体3に取り付けられた一対のヒンジ部材23にそれぞれ締結される。この結果、バックドア2は、ヒンジ部材23を介して、車体3にしっかりと固定される。
【0036】
本実施形態に係る車両用バックドア取付治具は、バックドア2によって開閉可能な開口部4近傍の車体3の左側及び右側に設置される一対の左治具ユニット1L及び右治具ユニット1Rを備えている。左治具ユニット1Lは、バックドア2の左側縁と接してバックドア2を右治具ユニット1Rに向けて付勢する付勢ユニットを有している。同様に、右治具ユニット1Rも、バックドア2の右側縁と接してバックドア2を左治具ユニット1Lに向けて付勢する付勢ユニットを有している。左治具ユニット1L及び右治具ユニット1Rの付勢力の釣り合いによって車体3に対してバックドア2が位置決めされる。この状態において、左治具ユニット1Lによる上述した付勢方向DLと右治具ユニット1Rによる上述した付勢方向DRとが、上述した中央面PC上で交差する。
【0037】
このため、一対の治具ユニット1による付勢力が左右対称に、即ち、左右均等にバックドア2に作用するので、バックドア2を正確に位置決め(センタリング)することができる。また、一対の治具ユニット1の付勢力は、互いに相手に向けてバックドア2に作用するので、バックドア2の位置を車幅方向に調整するように有効に作用する。このため、バックドア2に作用する様々な摩擦抵抗力等に対抗してバックドア2を正確に位置決め(センタリング)することができる。
【0038】
なお、バックドア2を車体3に取り付ける際には、バックドア2の位置決めが重要であることは既に述べた。車体3に対するバックドア2の位置を、カメラやセンサなどを設置して検出し、この検出結果に基づいてバックドア2の位置を補正することも可能ではある。しかし、この場合は、カメラやセンサに加えて演算機器等の装置が必要になるため、複雑かつ高価になる。本実施形態の取付治具によれば、簡便かつコスト増を抑制しつつ、バックドア2を正確に位置決め(センタリング)することができる。
【0039】
また、本実施形態では、左治具ユニット1L及び右治具ユニット1Rは左右対称な構成を有している。そして、各治具ユニット1(1L又は1R)の付勢ユニットは、上述した接触点においてバックドア2と接触するローラ21と、ローラ21を上述した付勢方向に付勢するスプリング90とを有している。バックドア2と接触するのが回転可能なローラ21であるので、バックドア2の位置決め時にバックドア2の移動(降下)を阻害することがない。また、ローラ21を介して上述した付勢力をバックドア2に作用させるが、ローラ21にも付勢力の反力が作用する。反力が作用してもローラ21は回転可能であるため、バックドア2は引っ掛かることなく円滑に位置決め(センタリング)され得る。
【0040】
さらに、各治具ユニット1(1L又は1R)の付勢ユニットは、ローラ21を保持する揺動ブロック18と、この揺動ブロック18を介してローラ21を付勢するスプリング90が内蔵されたリンク機構9とをさらに備えている。リンク機構9は、揺動ブロック18と機械的にリンク接続されている。このため、ローラ21は、揺動ブロック18によって移動可能であり、バックドア2の左右側縁に追従してより効果的に接触状態を維持できる。このため、付勢力が安定的にバックドア2に作用するので、バックドア2は安定して位置決め(センタリング)され得る。
【0041】
そして、ローラ21を保持する揺動ブロック18には、揺動ブロック18とリンク接続されたリンク機構9によってスプリング90の弾性復元力が付勢力として伝達される。これにより、リンク機構9を介した揺動ブロック18の揺動によってスプリング90の弾性復元力を付勢力に変換して、効率よくローラ21に伝達させることができる。ここで、スプリング90の弾性復元力の作用方向とローラ21による付勢力の付勢方向DL又はDRとが異なっても弾性力から付勢力への変換は円滑に行われ得る。従って、付勢力を効果的にローラ21に伝達することで、バックドア2を確実かつ正確に位置決め(センタリング)することができる。
【0042】
また、本実施形態に係る車両用バックドア取付方法は、上述した取付治具の一対の左治具ユニット1L及び右治具ユニット1Rを車体に設置して行われる。バックドア2の左側縁及び右側縁にローラ21をそれぞれ接触させて、左治具ユニット1L及び右治具ユニット1Rの付勢力の釣り合いによってバックドア2が車体3に対してセンタリングされる。バックドア2の一対の取付部が、車体に取り付けられた一対のヒンジ部材23にそれぞれ締結される。従って、本実施形態の取付方法によれば、上述した取付治具によってもたらされる効果がもたらされ、バックドア2を確実、円滑、かつ、正確に位置決め(センタリング)することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 治具ユニット
1L 左治具ユニット
1R 右治具ユニット
2 バックドア
3 車体
4 開口部
9 リンク機構(付勢ユニットの一部)
18 揺動ブロック(付勢ユニットの一部)
21 ローラ(付勢ユニットの一部)
23 ヒンジ部材
90 スプリング(付勢ユニットの一部)
DL (左治具ユニット1Lによる)付勢方向
DR (右治具ユニット1Rによる)付勢方向
PC 中央面