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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005761
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】浴槽装置
(51)【国際特許分類】
   F24H 15/196 20220101AFI20240110BHJP
   A47K 3/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
F24H15/196 301H
F24H15/196 301Z
A47K3/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106121
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100123630
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 誠
(72)【発明者】
【氏名】坪井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】市川 由有
(72)【発明者】
【氏名】榎 将剛
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 慧
(72)【発明者】
【氏名】宇野 涼子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 知子
【テーマコード(参考)】
3L024
【Fターム(参考)】
3L024CC11
3L024EE02
3L024GG02
3L024GG05
3L024GG06
3L024GG42
3L024GG50
3L024HH17
(57)【要約】
【課題】入浴者の個人差や、入浴者の使用法に依存することなく、十分な疲労回復効果を得ることができる浴槽装置を提供する。
【解決手段】本発明は、浴槽装置(1)であって、浴槽本体(2)と、入浴者の心拍数又は血流量を、検出又は推定する生体情報取得部(56)と、所定の基準温度よりも高い温感刺激、及び所定の基準温度よりも低い涼感刺激を入浴者に与える温冷熱装置と、心拍数又は血流量に基づいて、温冷熱装置を制御する制御部(64)と、を有し、制御部は、心拍数の上昇又は血流量の上昇が、所定の第1の条件を満足すると、温冷熱装置を制御して入浴者に涼感刺激を与え、生体情報取得部により取得された心拍数の低下又は血流量の低下が、所定の第2の条件を満足すると、温冷熱装置を制御して入浴者に温感刺激を与えることを特徴としている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入浴者に温感刺激及び涼感刺激を与えることができる浴槽装置であって、
湯水を貯留すると共に、貯留した湯水を排出するための排水部を備えた浴槽本体と、
この浴槽本体内の入浴者の心拍数又は血流量を、検出又は推定する生体情報取得部と、
所定の基準温度よりも高い温感刺激、及び所定の基準温度よりも低い涼感刺激を入浴者に与える温冷熱装置と、
上記生体情報取得部により取得された心拍数又は血流量に基づいて、上記温冷熱装置を制御する制御部と、を有し、
上記制御部は、上記生体情報取得部により取得された心拍数の上昇又は血流量の上昇が、所定の第1の条件を満足すると、上記温冷熱装置を制御して入浴者に涼感刺激を与え、上記生体情報取得部により取得された心拍数の低下又は血流量の低下が、所定の第2の条件を満足すると、上記温冷熱装置を制御して入浴者に温感刺激を与えることを特徴とする浴槽装置。
【請求項2】
上記制御部は、入浴者が上記浴槽本体内に入った後、所定の待機時間経過後に上記生体情報取得部により取得された心拍数又は血流量に基づいて、入浴者への涼感刺激又は温感刺激の付与が開始されるように上記温冷熱装置を制御する請求項1記載の浴槽装置。
【請求項3】
さらに、入浴者の身体温度を取得する身体温度取得部を有し、上記制御部は、上記身体温度取得部により取得された入浴者の身体温度に基づいて上記待機時間を変更する請求項2記載の浴槽装置。
【請求項4】
上記生体情報取得部は入浴者の心拍数を検出又は推定可能に構成され、上記制御部は入浴者の心拍数に基づいて入浴者の身体温度を推定する請求項3記載の浴槽装置。
【請求項5】
上記制御部は、入浴者に最初に涼感刺激又は温感刺激を与えた後、所定の交替時間毎に涼感刺激及び温感刺激を交互に与えるように上記温冷熱装置を制御する請求項1又は2に記載の浴槽装置。
【請求項6】
上記制御部は、入浴者に最初に涼感刺激又は温感刺激を与える場合には、入浴者が上記浴槽本体内に入ったとき、又は入浴者が上記浴槽本体内に入った後、所定の待機時間が経過したときの心拍数又は血流量を基準とし、
上記基準となる心拍数又は血流量から心拍数が所定値上昇したとき又は血流量が所定値上昇したとき、上記第1の条件が満足されたと判断し、上記基準となる心拍数又は血流量から心拍数が所定値低下したとき、又は血流量が所定値低下したとき、上記第2の条件が満足されたと判断し、
上記制御部は、入浴者に最初に涼感刺激又は温感刺激を与えた後は、温感刺激の付与開始から心拍数が所定値上昇したとき、又は血流量が所定値上昇したとき、上記第1の条件が満足されたと判断し、涼感刺激の付与開始から心拍数が所定値低下したとき、又は血流量が所定値低下したとき、上記第2の条件が満足されたと判断する請求項1に記載の浴槽装置。
【請求項7】
上記制御部は、心拍数又は血流量が所定の上閾値よりも大きくなったとき、上記第1の条件が満足されたと判断し、心拍数又は血流量が所定の下閾値よりも小さくなったとき、上記第2の条件が満足されたと判断する請求項1又は2に記載の浴槽装置。
【請求項8】
上記制御部は、心拍数又は血流量の上昇率が所定の上昇率よりも大きくなったとき、上記第1の条件が満足されたと判断し、心拍数又は血流量の低下率が所定の低下率よりも大きくなったとき、上記第2の条件が満足されたと判断する請求項1又は2に記載の浴槽装置。
【請求項9】
さらに、上記浴槽本体に設けられた複数の電極を有し、上記生体情報取得部は、上記複数の電極によって検出された心電信号に基づいて入浴者の血流量を推定する請求項1又は2に記載の浴槽装置。
【請求項10】
さらに、入浴者が上記浴槽本体内に入った後の経過時間を検出する経過時間検出部と、上記浴槽本体内に貯留されている湯水の温度を取得する湯水温度取得部と、を有し、上記生体情報取得部は、上記経過時間検出部により検出された経過時間、及び上記湯水温度取得部により取得された湯水の温度に基づいて、入浴者の心拍数又は血流量を推定する請求項1又は2に記載の浴槽装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴槽装置に関し、特に、入浴者に温感刺激及び涼感刺激を与えることができる浴槽装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2007-29183号公報(特許文献1)には、血行促進装置が記載されている。この血行促進装置は、足先を挿入できる浴槽と、貯水タンクと、貯水タンク内の水を温ミストに変えて浴槽内に供給し、温刺激を与える温ミスト生成手段と、浴槽内に外気を供給して冷刺激を与える外気導入手段とを備えている。
【0003】
特開2009-394号公報(特許文献2)には、足温浴器が記載されている。この足温浴器は、上面が開口した足浴槽と、この足浴槽内に貯水された水を加熱する加熱手段と、足浴槽の水温を検知する温度検出手段と、この温度検出手段の出力により加熱手段の加熱量を制御する制御手段を備えている。また、足浴槽の中央部の一部には足浴槽の貯水が流通しない低温槽が設けられており、足浴槽の底部と低温槽の底部の間には、制御手段により開閉される連通口が設けられている。この構成により、温水と冷水に繰り返し交互に足を浸すことができ、より血行を良くする効果を得ようとしている。
【0004】
このように、人体の一部に温刺激と冷刺激を繰り返し与えることにより、温刺激では血流量が増加し、冷刺激では血流量が減少し、これを繰り返すことで更なる血行促進効果を得ることができ、これにより、疲労の回復を期待できることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-29183号公報
【特許文献2】特開2009-394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本件発明者らの研究によれば、温刺激と血流量の増加、冷刺激と血流量の低下の関係には個人差があり、同じ温刺激を与えた場合でも得られる血流量の増加効果は個々人で異なり、同じ冷刺激を与えた場合でも得られる血流量の低下効果は個々人で異なったものとなる。ここで、特許文献1記載の発明においては、一定時間毎に温浴と冷浴が切り換えられるため、使用者によっては、温浴による血流量増加効果や、冷浴による血流量減少効果を十分に得られず、疲労回復に繋がらない場合があるという問題がある。また、特許文献2記載の発明においては、使用者が自らの意思で足浴槽と低温槽の間で足を移動させる必要があるため、足を移動させるのが面倒であると共に、使用者の使い方によっては十分な疲労回復効果が得られないという問題がある。
【0007】
従って、本発明は、入浴者の個人差や、入浴者の使用法に依存することなく、十分な疲労回復効果を得ることができる浴槽装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明は、入浴者に温感刺激及び涼感刺激を与えることができる浴槽装置であって、湯水を貯留すると共に、貯留した湯水を排出するための排水部を備えた浴槽本体と、この浴槽本体内の入浴者の心拍数又は血流量を、検出又は推定する生体情報取得部と、所定の基準温度よりも高い温感刺激、及び所定の基準温度よりも低い涼感刺激を入浴者に与える温冷熱装置と、生体情報取得部により取得された心拍数又は血流量に基づいて、温冷熱装置を制御する制御部と、を有し、制御部は、生体情報取得部により取得された心拍数の上昇又は血流量の上昇が、所定の第1の条件を満足すると、温冷熱装置を制御して入浴者に涼感刺激を与え、生体情報取得部により取得された心拍数の低下又は血流量の低下が、所定の第2の条件を満足すると、温冷熱装置を制御して入浴者に温感刺激を与えることを特徴としている。
【0009】
このように構成された本発明においては、湯水を貯留した浴槽本体内の入浴者の心拍数又は血流量が生体情報取得部により取得される。制御部は、取得された生体情報に基づいて、入浴者に温感刺激及び涼感刺激を与える温冷熱装置を制御する。制御部は、生体情報取得部により取得された心拍数の上昇又は血流量の上昇が、第1の条件を満足すると、温冷熱装置を制御して入浴者に涼感刺激を与え、生体情報取得部により取得された心拍数の低下又は血流量の低下が、第2の条件を満足すると、温冷熱装置を制御して入浴者に温感刺激を与える。
【0010】
このように構成された本発明によれば、心拍数の上昇又は血流量の上昇に基づいて入浴者に涼感刺激が与えられ、心拍数の低下又は血流量の低下に基づいて入浴者に温感刺激が与えられる。この結果、入浴者に心拍数の上昇及び低下を与える刺激、又は入浴者に血流量の上昇及び低下を与える刺激を確実に与えることができ、入浴者の個人差や、入浴者の使用法に依存することなく十分な疲労回復効果を得ることができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、制御部は、入浴者が浴槽本体内に入った後、所定の待機時間経過後に生体情報取得部により取得された心拍数又は血流量に基づいて、入浴者への涼感刺激又は温感刺激の付与が開始されるように温冷熱装置を制御する。
【0012】
一般に、入浴者の心拍数、血流量は、脱衣行為や、洗体行為、浴槽跨ぎ行為、身体温度と浴槽本体内に貯留されている湯水の温度との温度差による驚愕反射によって一時的に上昇することがあり、このような状態で取得された心拍数や血流量は、入浴者の身体の状態を正確に反映していない。上記のように構成された本発明によれば、入浴者が浴槽本体内に入った後、所定の待機時間経過後に生体情報取得部により取得された心拍数又は血流量に基づいて、温冷熱装置が制御される。この結果、入浴者の身体の状態が正確に反映された信頼性の高い心拍数又は血流量に基づいて涼感刺激又は温感刺激を付与することができ、確実に疲労回復効果を得ることができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、さらに、入浴者の身体温度を取得する身体温度取得部を有し、制御部は、身体温度取得部により取得された入浴者の身体温度に基づいて待機時間を変更する。
【0014】
このように構成された本発明によれば、入浴者の身体温度に基づいて待機時間が変更されるので、入浴者の身体温度が適温になった後で涼感刺激又は温感刺激を付与することができ、入浴者は快適な入浴を楽しむことができると共に、涼感刺激又は温感刺激による疲労回復効果も得ることができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、生体情報取得部は入浴者の心拍数を検出又は推定可能に構成され、制御部は入浴者の心拍数に基づいて入浴者の身体温度を推定する。
【0016】
入浴中の入浴者の身体は湯水の中に浸かっており、一般に、浴槽本体内に貯留されている湯水の温度の影響を受けずに身体温度を検出することが困難である。上記のように構成された本発明によれば、入浴者の心拍数に基づいて入浴者の身体温度が推定されるので、入浴者に負担をかけることなく、入浴者の身体温度を取得することができる。
【0017】
本発明において、好ましくは、制御部は、入浴者に最初に涼感刺激又は温感刺激を与えた後、所定の交替時間毎に涼感刺激及び温感刺激を交互に与えるように温冷熱装置を制御する。
【0018】
このように構成された本発明によれば、最初に涼感刺激又は温感刺激を与えた後、所定の交替時間毎に涼感刺激及び温感刺激を交互に与えるので、心拍数又は血流量が計測できない場合においても涼感刺激又は温感刺激が長時間連続して付与されるのを防止することができる。
【0019】
本発明において、好ましくは、制御部は、入浴者に最初に涼感刺激又は温感刺激を与える場合には、入浴者が浴槽本体内に入ったとき、又は入浴者が浴槽本体内に入った後、所定の待機時間が経過したときの心拍数又は血流量を基準とし、基準となる心拍数又は血流量から心拍数が所定値上昇したとき又は血流量が所定値上昇したとき、第1の条件が満足されたと判断し、基準となる心拍数又は血流量から心拍数が所定値低下したとき、又は血流量が所定値低下したとき、第2の条件が満足されたと判断し、制御部は、入浴者に最初に涼感刺激又は温感刺激を与えた後は、温感刺激の付与開始から心拍数が所定値上昇したとき、又は血流量が所定値上昇したとき、第1の条件が満足されたと判断し、涼感刺激の付与開始から心拍数が所定値低下したとき、又は血流量が所定値低下したとき、第2の条件が満足されたと判断する。
【0020】
このように構成された本発明によれば、入浴者に最初に涼感刺激又は温感刺激を与えた後は、温感刺激又は涼感刺激の付与開始から、心拍数又は血流量が所定値以上、上昇又は低下したとき、温感刺激と涼感刺激が切り替えられるので、適切な時機に刺激を切り替えることができ、入浴者に疲労回復効果を与えることができる温感刺激又は涼感刺激を付与することができる。
【0021】
本発明において、好ましくは、制御部は、心拍数又は血流量が所定の上閾値よりも大きくなったとき、第1の条件が満足されたと判断し、心拍数又は血流量が所定の下閾値よりも小さくなったとき、第2の条件が満足されたと判断する。
【0022】
このように構成された本発明によれば、心拍数又は血流量が所定の上閾値よりも大きくなったとき、又は所定の下閾値よりも小さくなったとき、温感刺激と涼感刺激が切り替えられるので、適切な時機に刺激を切り替えることができ、入浴者に疲労回復効果を与えることができる温感刺激又は涼感刺激を付与することができる。
【0023】
本発明において、好ましくは、制御部は、心拍数又は血流量の上昇率が所定の上昇率よりも大きくなったとき、第1の条件が満足されたと判断し、心拍数又は血流量の低下率が所定の低下率よりも大きくなったとき、第2の条件が満足されたと判断する。
【0024】
このように構成された本発明によれば、心拍数又は血流量の上昇率又は低下率が所定値よりも大きくなったとき、温感刺激と涼感刺激が切り替えられるので、適切な時機に刺激を切り替えることができ、入浴者に疲労回復効果を与えることができる温感刺激又は涼感刺激を付与することができる。
【0025】
本発明において、好ましくは、さらに、浴槽本体に設けられた複数の電極を有し、生体情報取得部は、複数の電極によって検出された心電信号に基づいて入浴者の血流量を推定する。
【0026】
血流量の計測により入浴者の入浴を妨げることなく快適に入浴状態を維持してもらうために、非接触で血流量を計測することが望ましい。しかしながら、例えば、非接触での計測として光学式センサを用いた場合、入浴中の入浴者の姿勢や体勢がずれると計測位置が変わるため計測精度に優れない。上記のように構成された本発明によれば、入浴中の入浴者の姿勢や体勢によらず入浴者の心電信号に基づいて入浴者の血流量を推定するので、入浴者に負担をかけることなく、入浴者の血流量を取得することができる。
【0027】
本発明において、好ましくは、さらに、入浴者が浴槽本体内に入った後の経過時間を検出する経過時間検出部と、浴槽本体内に貯留されている湯水の温度を取得する湯水温度取得部と、を有し、生体情報取得部は、経過時間検出部により検出された経過時間、及び湯水温度取得部により取得された湯水の温度に基づいて、入浴者の心拍数又は血流量を推定する。
【0028】
このように構成された本発明によれば、入浴者が浴槽本体内に入った後の経過時間、及び浴槽本体内に貯留されている湯水の温度に基づいて、入浴者の心拍数又は血流量が推定されるので、特別なセンサを必要とすることなく簡便に心拍数又は血流量を推定することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の浴槽装置によれば、入浴者の個人差や、入浴者の使用法に依存することなく、十分な疲労回復効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の第1実施形態による浴槽装置を設置した浴室全体を示す斜視図である。
図2】本発明の第1実施形態による浴槽装置における吐水装置への湯水の供給系統を示す図である。
図3】本発明の第1実施形態による浴槽装置に備えられている電極の構造を示す断面図である。
図4】本発明の第1実施形態による浴槽装置に備えられている制御ユニットのブロック図である。
図5】本発明の第1実施形態による浴槽装置に備えられている生体情報取得部によって取得された入浴者の心電波形の一例を示す図である。
図6】心拍数と血流量の関係の一例を示す図である。
図7】入浴者の心拍数と、入浴者の深部体温との関係の一例を示すグラフである。
図8】本発明の第1実施形態による浴槽装置の作用を示すフローチャートである。
図9】本発明の第1実施形態による浴槽装置の作用の一例を示すタイムチャートである。
図10】本発明の第2実施形態による浴槽装置の作用を示すフローチャートである。
図11】本発明の第2実施形態による浴槽装置の作用の一例を示すタイムチャートである。
図12】浴槽本体内に貯留されている所定温度の湯水に浸かった入浴者の血流量の時間的変化の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、添付図面を参照して、本発明の実施形態による浴槽装置を説明する。
図1は、本発明の第1実施形態による浴槽装置を設置した浴室全体を示す斜視図である。図2は、本発明の第1実施形態による浴槽装置における吐水装置への湯水の供給系統を示す図である。図3は、本発明の第1実施形態による浴槽装置に備えられている電極の構造を示す断面図である。図4は、本発明の第1実施形態による浴槽装置に備えられている制御ユニットのブロック図である。
【0032】
図1に示すように、本発明の第1実施形態の浴槽装置1は、浴槽本体2と、この浴槽本体2に取り付けられた負電極4a、正電極4b、及び基準電極4cと、を有し、浴室R内に設置される。さらに、浴槽装置1は、浴槽本体2の上縁に設けられた吐水装置8と、浴槽本体2内の湯水を吐水装置8及び浴槽吐水口9aから吐出させる循環装置9と、循環装置9等を制御する制御ユニット6と、を有する。また、浴室Rの壁面には、リモコン6aが取り付けられており、このリモコン6aにより、浴槽装置1の吐水装置8を操作できるようになっている。さらに、本実施形態において、浴槽装置1は、浴室Rの一側に、壁面に接するように配置されている。
【0033】
本実施形態の浴槽装置1は、入浴者が吐水装置8を作動させることにより、浴槽本体2内に貯留されている湯水よりも温度の高い湯水又は温度の低い湯水が吐水装置8から吐出されるように構成されている。また、本実施形態において、浴槽装置1は、負電極4a、正電極4b、及び基準電極4cによって取得された心電信号に基づいて、吐水装置8から吐出させる湯水の温度を制御して、入浴者に涼感刺激又は温感刺激を与えるように構成されている。
【0034】
浴槽本体2は、平面視において略長方形の箱形に形成され、内部に湯水を貯留するように構成されている。本実施形態においては、浴槽本体2は、その1つの長辺、及びその両側の2つの短辺全体が、浴室Rの内壁面に接するように配置されている。また、浴槽本体2の一方の短辺を構成する内壁面は、入浴者が寄りかかるように形成された第1の内壁面である背もたれ面2aとして構成されている。さらに、浴槽本体2の底面には、浴槽本体2内の湯水を排出するための排水部(図示せず)が設けられている。また、浴室Rの内壁面に接していない側の浴槽本体2の長辺には、エプロン2bが着脱可能に取り付けられている。
【0035】
吐水装置8は、浴槽本体2の背もたれ面2aの上部に設けられ、浴槽本体2の内方に向けて湯水を吐出するように構成されている。本実施形態において、吐水装置8は、背もたれ面2a上縁に沿って延びる扁平で幅広な吐水口8aを備えており、背もたれ面2aに寄りかかった入浴者の首、肩、背中に向けて湯水を吐出するように構成されている。また、吐水装置8は、循環装置9によって浴槽取水口9bから引き込まれた湯水の一部を吐水口8aから吐出させるように構成されている。このため、浴槽本体2内の湯水は、循環装置9によって吸い込まれ、吐水口8aから吐出されて浴槽本体2内に流入するように循環する。さらに、循環装置9によって浴槽取水口9bから引き込まれた湯水の一部は、浴槽本体2の背もたれ面2aに設けられた浴槽吐水口9aからも吐出される。
【0036】
負電極4a及び正電極4bは、浴槽本体2内に貯留された湯水を介して入浴者の心電信号を検出するために、浴槽本体2に取り付けられた一組の電極である。入浴者の心電信号は、これらの負電極4aと正電極4bの間の電位差の信号として取得される。負電極4a及び正電極4bからなる一組の電極は、何れも浴槽本体2の短辺を構成する背もたれ面2a上に配置されている。また、基準電極4cは、負電極4a及び正電極4bによって検出される電位の基準電位を取得するための電極であり、この電極も浴槽本体2の背もたれ面2a上に配置されている。
【0037】
また、負電極4a及び正電極4bは、背もたれ面2aの水平方向(幅方向)の中心線の左右に、中心線に対して左右対称の位置に配置されている。即ち、負電極4a及び正電極4bは、背もたれ面2a上に中心線から左右方向に夫々離間して配置されている。さらに、負電極4a及び正電極4bは、浴槽本体2内の水面よりも下側に位置するように夫々配置されている。負電極4a及び正電極4bは、浴槽本体2内の水面よりも下側であり、基準電極4cよりも上側の高さ位置に取り付けることができる。一方、基準電極4cは、背もたれ面2aの中心線上に、負電極4a及び正電極4bよりも下方に配置されている。また、基準電極4cは、必ずしも備えられていなくても良く、省略することもできる。
【0038】
次に、図2を参照して、吐水装置8への湯水の供給系統を説明する。
まず、図2に示すように、循環装置9は、浴槽本体2の内壁面に設けられた浴槽取水口9bから浴槽本体2内の湯水を吸い込み、吐水装置8の吐水口8aから浴槽本体2内に湯水を吐出させるように構成されている。また、浴槽取水口9bから吸い込まれた湯水の一部は、浴槽本体2の背もたれ面2aに設けられた浴槽吐水口9aから吐出される。具体的には、循環装置9は、浴槽取水口9bから湯水を吸い込み、吐水口8a及び浴槽吐水口9aから吐出させるポンプにより構成されている。
【0039】
一方、吐水装置8に対しては、浴槽本体2内に貯留された湯水の温度よりも高い温度の湯水を供給する高温湯水供給管40a、及び浴槽本体2内に貯留された湯水の温度よりも低い温度の水を供給する低温湯水供給管40bからも湯水及び水が供給される。即ち、浴槽取水口9bから吸い込まれ、循環装置9によって加圧された湯水、高温湯水供給管40aから供給された湯水、及び低温湯水供給管40bから供給された水は、何れも混合室44に導かれ、ここで混合されて吐水装置8の吐水口8aから吐出される。なお、容積の大きな特別な混合室を設けることなく、高温湯水供給管40aからの湯水と、低温湯水供給管40bからの水を管路内で合流させ、混合させることもできる。
【0040】
また、高温湯水供給管40a、低温湯水供給管40bは、夫々、高温側リニアバルブ42a、低温側リニアバルブ42bを介して混合室44に接続され、各供給管から混合室44に流入する湯水又は水の量を制御できるようになっている。さらに、本実施形態においては、高温湯水供給管40aに対しては、浴槽本体2内に貯留された湯水の温度よりも高い温度の湯水が、給湯器52から供給される。即ち、上水道54から供給された水道水は、分岐部54aにおいて分岐され、一方が給湯器52に供給され、他方は低温湯水供給管40bに直接流入する。給湯器52に供給された水道水は、浴槽本体2内に貯留された湯水の温度よりも高い温度に加熱され、高温湯水供給管40aに供給される。
【0041】
これにより、浴槽本体2内に貯留された湯水の温度よりも高い温度の湯水を吐出させる場合には、高温側リニアバルブ42aが開かれ、浴槽本体2内から吸い込まれた湯水と高温湯水供給管40aから供給された湯水が混合室44において混合され、吐水装置8から吐出される。一方、浴槽本体2内に貯留された湯水の温度よりも低い温度の湯水を吐出させる場合には、低温側リニアバルブ42bが開かれ、浴槽本体2内から吸い込まれた湯水と低温湯水供給管40bから供給された水道水が混合室44において混合され、吐水装置8から吐出される。従って、本実施形態において、高温側リニアバルブ42a、低温側リニアバルブ42b、循環装置9、及び吐水装置8は、温感刺激及び涼感刺激を入浴者に与える温冷熱装置として機能する。
【0042】
さらに、浴槽本体2内に貯留された湯水の温度は、浴槽本体2に取り付けられた浴槽温度センサ46によって検出される。また、吐水装置8から吐出すべき湯水の温度は、吐水装置8に取り付けられた吐水温度センサ48によって検出される。さらに、高温湯水供給管40aから流入する湯水の温度は、高温側温度センサ50aによって検出され、低温湯水供給管から流入する水の温度は、低温側温度センサ50bによって検出される。さらに、各湯水及び水の温度を検出するセンサは、他のセンサから得られたデータに基づいて温度を推定することにより、一部を省略することもできる。
【0043】
これらの温度センサによって検出された温度は制御ユニット6に送られ、制御ユニット6は、これらの検出温度に基づいて、高温側リニアバルブ42a及び低温側リニアバルブ42bの開度を制御し、所要の温度の湯水を吐水装置8から吐出させる。即ち、制御ユニット6は、吐水温度センサ48によって検出される温度が所要の温度となるように、高温側リニアバルブ42a及び低温側リニアバルブ42bの開度を制御する。制御ユニット6による制御の詳細については後述する。
【0044】
次に、図3を参照して、浴槽本体2に取り付けられた各電極の構造を説明する。
なお、ここでは、負電極4aの構造を説明するが、本実施形態においては、負電極4a、正電極4b、及び基準電極4cは、何れも同一の構造を有する。
【0045】
図3に示すように、負電極4aは、電極部10と、前面パッキン12aと、背面パッキン12bと、フランジ14と、防湿チューブ16と、接続端子18と、固定ネジ20と、導線22と、シース24と、を有する。負電極4aは、浴槽本体2の背もたれ面2aの表面に露出するように取り付けられ、負電極4aと背もたれ面2aとの間の水密性がパッキンにより確保されている。
【0046】
電極部10は、導電金属製の部品であり、円板状に形成された円板部10aと、この円板部10aの背面から垂直に突出する軸部10bから構成されている。円板部10aは薄い円板状の部分であり、この円板部10aの前面が、背もたれ面2aの表面に露出し、電位を検出するように構成されている。即ち、本実施形態においては、円板部10aは、直径約15mm、厚さ約2.5mmに形成されており、この円板部10a全体が背もたれ面2aの表面上に配置されている。軸部10bは、円板部10aの背面中央から直角に延びる丸棒状の部分であり、背もたれ面2aに形成された貫通穴を通って、背もたれ面2aの裏側に突出している。また、軸部10bの中間部には雄ネジ山が形成され、先端部には接続端子18を固定するための固定部が形成されている。
【0047】
前面パッキン12aは、ゴム製の円板状の部材であり、中央には、電極部10の軸部10bを通すための円形穴が形成されている。前面パッキン12aは、電極部10の円板部10aとほぼ同一の直径を有し、円板部10aの背面側に配置される。負電極4aが背もたれ面2aに取り付けられた状態では、前面パッキン12aが、円板部10aの背面と背もたれ面2aの表面の間に挟まれ、背もたれ面2aと負電極4aの間の水密性が確保されている。
【0048】
背面パッキン12bは、ゴム製の円板状の部材であり、中央には、電極部10の軸部10bを通すための円形穴が形成されている。背面パッキン12bは、前面パッキン12aよりも大きい、フランジ14の大径部とほぼ同一の直径を有し、背もたれ面2aの背面側に配置される。負電極4aが背もたれ面2aに取り付けられた状態では、背面パッキン12bが、背もたれ面2aの背面とフランジ14の端面の間に挟まれ、背もたれ面2aの裏側の表面と負電極4aの間の水密性が確保されている。なお、前面パッキン12a及び背面パッキン12bは、樹脂製であっても良い。
【0049】
フランジ14は、大径部及び小径部からなる段付きの円柱状の部材であり、中心には、電極部10の軸部10bを貫通させるための雌ネジ山が形成されている。フランジ14の大径部は、背面パッキン12bとほぼ同一の直径に形成され、小径部は、大径部の背面側に形成されている。フランジ14を貫通するように形成された雌ネジ山と、電極部10の軸部10bに形成された雄ネジ山を螺合させ、締め付けることによって、フランジ14の大径部側の端面により、背面パッキン12bが背もたれ面2aの背面に押し付けられ、水密性が確保される。
【0050】
防湿チューブ16は、ゴム製の細長いチューブであり、電極部10の軸部10b先端や、接続端子18、導線22等を覆うように配置される。防湿チューブ16の先端には、フランジ14の小径部が嵌め込まれ、防湿チューブ16内への湿気の侵入が防止される。なお、防湿チューブ16は、樹脂製であっても良い。
【0051】
接続端子18は導電金属製の部品であり、導線22の先端に圧着接続されている。接続端子18の先端部には、固定ネジ20を通すための穴が設けられており、この穴を通った固定ネジ20を、電極部10の軸部10b先端に設けられた雌ネジに螺合させることにより、接続端子18を電極部10に固定することができる。これにより、電極部10と導線22を、着脱自在に電気的に接続することができる。
【0052】
導線22は、電極部10と制御ユニット6(図1)を電気的に接続するための導電線であり、負電極4aから制御ユニット6まで延びている。また、導線22には、絶縁材料製のシース24が被せられ、導線22の電気絶縁性が確保されている。本実施形態においては、負電極4a、正電極4b、及び基準電極4cから夫々延びる導線22が制御ユニット6に接続され、心電信号が制御ユニット6に入力される。
【0053】
次に、図4を参照して、本発明の第1実施形態による浴槽装置1に備えられている制御ユニット6の構成を説明する。
図4に示すように、制御ユニット6は、入浴者の血流量を推定する生体情報取得部56と、入浴者の身体温度を取得する身体温度取得部58と、浴槽に入った後の経過時間を検出する経過時間検出部60と、浴槽本体2内の湯水の温度を取得する湯水温度取得部62と、温冷熱装置を制御する制御部64と、を有する。具体的には、制御ユニット6は、マイクロプロセッサ、メモリ、インターフェイス回路、及びこれらを作動させるソフトウェア等(以上、図示せず)から構成され、上記各部の機能を実現している。
【0054】
また、図4に示すように、制御ユニット6には、負電極4a、正電極4b、及び基準電極4cが接続され、これらによって取得された電位情報が制御ユニット6に入力される。さらに、制御ユニット6には、浴槽温度センサ46、吐水温度センサ48、高温側温度センサ50a、及び低温側温度センサ50bが接続され、これらのセンサによる検出信号が制御ユニット6に入力される。また、制御ユニット6には、循環装置9、高温側リニアバルブ42a、及び低温側リニアバルブ42bが接続され、制御ユニット6からの制御信号により、これらを作動させる。
【0055】
生体情報取得部56は、負電極4a、正電極4b、及び基準電極4cによって取得された電位の信号に基づいて、入浴者の心電信号を検出するように構成されている。浴槽本体2内の入浴者の心電信号は、浴槽本体2内の湯水を介して、各電極間の電位差の信号として検出することができる。
【0056】
図5は、生体情報取得部56によって取得された入浴者の心電波形の一例を示す図である。心電信号は、負電極4aと正電極4bの間の電位差の信号として、生体情報取得部56によって取得され、図5に示す心電波形はこれを時系列の波形として示したものである。図5に示すように、心電波形には、振幅の大きいインパルス状のR波が周期的に現れ、単位時間当たりのR波の数をカウントすることにより、入浴者の心拍数(bpm)を取得することができる。さらに、生体情報取得部56は、心電信号から得られた心拍数に基づいて、入浴者の血流量を推定するように構成されている。
【0057】
図6は、心拍数と血流量の関係の一例を示す図である。図6の上欄は、浴槽本体2の中の入浴者の心拍数(bpm)の時間に対する変化の一例を示すグラフである。図6の中欄は、上欄に示す心拍数と同時に計測された入浴者の血流量(mL/min/100g)の時間に対する変化の一例を示すグラフである。図6に示すように、入浴者の血流量は、心拍数の増加に伴って増加していることがわかる。さらに、図6の下欄は、上欄に示す心拍数と中欄に示す血流量の相関を示す図である。このように、入浴者の心拍数と血流量の間には、十分に高い相関性があり、入浴者の心拍数を検出することにより、その血流量を十分な精度で推定することができる。本実施形態において、生体情報取得部56は、このような相関性を利用して、心電信号に基づいて入浴者の血流量を推定している。なお、変形例として、浴槽装置1にレーザー血流計等を備えておき、入浴者の血流量を直接検出するように本発明を構成することもできる。
【0058】
次に、身体温度取得部58は、浴槽本体2の中の入浴者の身体温度を取得するように構成されている。本実施形態において、身体温度取得部58は、生体情報取得部56によって取得された入浴者の心拍数に基づいて、入浴者の深部体温を、入浴者の身体温度として推定するように構成されている。ここで、深部体温とは、入浴者の身体の内部の温度を意味し、通常、舌下温、直腸温、鼓膜温等が深部体温として測定される。図7は、入浴者の心拍数と、入浴者の深部体温との関係の一例を示すグラフである。本実施形態において、身体温度取得部58は、図7のような、心拍数と深部体温の関係に基づいて、入浴者の深部体温を推定している。
【0059】
なお、本実施形態において、身体温度取得部58は、入浴者の心拍数の変化に基づいて、入浴者の深部体温の変化を推定しているが、入浴者の体温を直接測定するように本発明を構成することもできる。例えば、サーモグラフ(図示せず)により入浴者を撮像して、入浴者の体温を検出することもできる。また、サーモグラフにより検出される体温は、入浴者の体表温度であるが、体表温度と深部体温には所定の関係が知られているため、検出された体表温から深部体温を推定することができる。或いは、入浴者が体温計を装着しながら入浴することで、入浴者の体温を測定するように本発明を構成することもできる。
【0060】
次に、経過時間検出部60は、入浴者が浴槽本体2内の湯水に浸かった後に経過した時間を検出するように構成されている。具体的には、入浴者が浴槽本体2の中に入ると、生体情報取得部56によって入浴者の心電信号が取得されるようになる。経過時間検出部60は、生体情報取得部56によって心電信号が取得されるようになると、入浴者が浴槽本体2の中に入ったと判定し、この時点からの経過時間を制御ユニット6に内蔵されたタイマー(図示せず)により積算する。なお、入浴者が浴槽本体2の中に入ったことを検知することができる任意のセンサを設けておき、このセンサにより入浴者の入浴を検知し、検知後の経過時間を計測するように本発明を構成することもできる。
【0061】
湯水温度取得部62は、浴槽温度センサ46、吐水温度センサ48、高温側温度センサ50a、及び低温側温度センサ50bから入力された検出信号に基づいて、各部の温度を取得するように構成されている。即ち、湯水温度取得部62は、浴槽温度センサ46から入力された検出信号に基づいて、浴槽本体2内に貯留されている湯水の温度を取得する。また、本実施形態においては、湯水温度取得部62によって取得された浴槽本体2内の湯水の温度を基準温度とし、基準温度よりも温度の高い湯水が吐水装置8から温感刺激として吐出され、基準温度よりも温度の低い湯水が吐水装置8から涼感刺激として吐出される。
【0062】
さらに、湯水温度取得部62は、高温側温度センサ50aから入力された検出信号に基づいて高温湯水供給管40aから供給される湯の温度を取得し、低温側温度センサ50bから入力された検出信号に基づいて低温湯水供給管40bから供給される水の温度を取得する。また、湯水温度取得部62は、吐水温度センサ48から入力された検出信号に基づいて、吐水装置8から吐出される湯水の温度を取得する。なお、本実施形態においては、各部の温度を取得するために、夫々温度センサが設けられているが、これらの温度センサの少なくとも一部を省略し、推定された温度を湯水温度取得部62が取得するように本発明を構成することができる。例えば、浴槽本体2内の湯水の温度が温度制御装置(図示せず)によって或る設定温度に維持されている場合には、この設定温度が浴槽本体2内の湯水の温度として、湯水温度取得部62によって取得されるように本発明を構成することもできる。
【0063】
制御部64は、生体情報取得部56によって推定された入浴者の血流量に基づいて、入浴者に温感刺激又は涼感刺激を与えるように構成されている。入浴者に温感刺激を与える場合には、制御部64は、循環装置9を作動させることにより、浴槽取水口9bから取り込まれた浴槽本体2内の湯水を吐水装置8の吐水口8aから吐出させる。また、同時に、高温側リニアバルブ42aを開弁させて、吐水口8aから吐出させる湯水に、温度の高い湯を混合する。これにより、吐水装置8の吐水口8aからは、基準温度である浴槽本体2内の湯水の温度よりも温度が高い湯水が吐出され、入浴者に温感刺激が与えられる。一方、入浴者に涼感刺激を与える場合には、浴槽本体2内の湯水を吐水装置8の吐水口8aから吐出させると共に、低温側リニアバルブ42bを開弁させて、吐水口8aから吐出させる湯水に、温度の低い水を混合する。これにより、吐水装置8の吐水口8aからは、基準温度である浴槽本体2内の湯水の温度よりも温度が低い湯水が吐出され、入浴者に涼感刺激が与えられる。
【0064】
このため、本実施形態において、吐水装置8、循環装置9、高温側リニアバルブ42a、及び低温側リニアバルブ42bは、所定の基準温度よりも高い温感刺激、及び所定の基準温度よりも低い涼感刺激を入浴者に与える温冷熱装置として機能する。また、制御部64による制御の詳細については後述する。
【0065】
次に、図8及び図9を参照して、本発明の第1実施形態による浴槽装置1の作用を説明する。
図8は、本実施形態の浴槽装置1の作用を示すフローチャートである。図9は、本実施形態の浴槽装置1の作用の一例を示すタイムチャートである。なお、図8に示すフローチャートは、入浴者が浴槽本体2の中に入ったとき、即ち、制御ユニット6に内蔵された生体情報取得部56によって入浴者の心電信号が検出され始めたとき、実行が開始される。
【0066】
まず、図8のステップS1においては、入浴者が浴槽本体2の中に入った後、所定の待機時間が経過したか否かが判断される。ステップS1の処理は、所定の待機時間tWが経過するまで繰り返し実行される。即ち、入浴者の心拍数や血流量は、浴槽本体2の中に入った直後は、「驚愕反射」により一時的に上昇することが知られている。この驚愕反射により上昇した心拍数や血流量は、入浴者の本来の身体状態を示すものではない。このため、本実施形態においては、所定の待機時間tWが経過した後で、生体情報取得部56により取得された血流量に基づいて、入浴者への涼感刺激又は温感刺激の付与を開始させるように構成されている。なお、本実施形態において、待機時間tWは1分に設定されている。
【0067】
図9は、浴槽装置1の作用の一例を示すタイムチャートであり、上段には入浴者の血流量の時間的変化が示され、下段には、吐水装置8から吐出される湯水の温度が示されている。
図9に示す例では、時刻t0において入浴者が浴槽本体2内の湯水に浸かると、驚愕反射により入浴者の心拍数が上昇し、これに伴い入浴者の血流量も増加している。そして、時刻t0から待機時間tWが経過した時刻t1においては、驚愕反射による血流量の増加も収まり、血流量は入浴者の平常時に近い値まで低下している。
【0068】
待機時間twが経過すると、図8のフローチャートにおける処理は、ステップS2に進む。ステップS2においては、入浴者の体温が所定の体温T1以上に上昇したか否かが判断される。即ち、制御部64は、身体温度取得部58によって推定された入浴者の深部体温が、所定の体温T1以上に上昇したか否かを判断し、体温T1以上に上昇した場合にはステップS4に進み、体温T1以上に上昇していない場合にはステップS3に進む。即ち、入浴者の深部体温が十分に上昇している場合には、ステップS4以下における、温感刺激又は涼感刺激を付与する処理に移行する。一方、入浴者の深部体温が十分に上昇していない場合には、ステップS3に進み、待機時間tWが経過した後、所定の延長時間tEが経過するまでステップS3の処理が繰り返される。
【0069】
なお、本実施形態においては、所定の体温T1は37.5℃に設定され、所定の延長時間tEは3分に設定されている。即ち、入浴者の深部体温が十分に上昇していない状態で温感刺激や涼感刺激を与える処理に移行すると、入浴者は入浴を楽しむことができず、入浴者に不快感を与えてしまう場合がある。このため、本実施形態においては、入浴者の身体が十分に温まった後で、温感刺激や涼感刺激を付与することとし、身体が十分に温まっていない場合には、入浴者が温まる時間ための待機時間tWを所定の延長時間tEだけ延長するようにしている。このように、本実施形態において、制御部64は、身体温度取得部58により取得された入浴者の身体温度に基づいて待機時間tWを変更する。
【0070】
図9に示す例においては、時刻t0において入浴を開始した後、所定の待機時間tWが経過した時刻t1において入浴者の身体温度が適温になっているため、図8のフローチャートにおける処理は、時刻t1においてステップS4に進んでいる。
【0071】
ステップS4においては、吐水装置8の吐水口8aからの湯水の吐出が開始される。即ち、制御ユニット6の制御部64は、循環装置9に制御信号を送ってこれを作動させ、吐水装置8から湯水を吐出させる。なお、この状態においては、高温側リニアバルブ42a及び低温側リニアバルブ42bは閉弁されたままにされている。このため、浴槽取水口9b(図2)から吸入された浴槽本体2内の湯水が、そのまま吐水装置8の吐水口8aから吐出されて、入浴者の首筋や肩に当てられる。このように、本実施形態においては、入浴者が入浴を開始した後、所定の待機時間tWが経過し、入浴者の身体温度が適温になった後、吐水装置8からの湯水の吐出が開始されている。これに対して、変形例として、入浴の開始直後から、又は、待機時間tW中に、吐水装置8からの湯水の吐出が開始されるように本発明を構成することもできる。
【0072】
次いで、ステップS5においては、検出された入浴者の心電信号から心拍数が求められ、これに基づいて入浴者の血流量が推定される。推定された血流量は、制御ユニット6の生体情報取得部56により取得される。
【0073】
さらに、ステップS6においては、生体情報取得部56により取得された血流量の上昇が、所定の第1の条件を満足しているか否かが判断される。即ち、図9の時刻t1において吐水装置8からの湯水の吐出が開始されると、これを浴びている入浴者の心拍数、血流量、及び深部体温が上昇を始める。ステップS6においては、所定の待機時間tWが経過し、吐水装置8からの湯水の吐出が開始された時刻t1における血流量を基準点として、この基準点から血流量が所定値である第1差分値上昇したとき、第1の条件が満足されたと判定される。本実施形態においては、基準点における血流量から、血流量が3(mL/min/100g)増加したと推定されると、第1の条件が満足されたと判定される。図8に示すフローチャートにおいては、時刻t1の後、第1の条件が満足されるまでステップS5→S6→S7→S8→S5の処理が繰り返し実行される。
【0074】
このように、本実施形態においては、入浴者に最初に涼感刺激又は温感刺激を与える場合には、入浴者が浴槽本体2内に入った後、所定の待機時間tWが経過したときの血流量を基準とし、この基準点から第1差分値上昇したとき、第1の条件が満足されたと判定している。なお、所定の待機時間tWが経過したときの血流量から第2差分値低下した場合には、制御部64により第2の条件が満足されたと判定される。
【0075】
また、これに対して、変形例として、生体情報取得部56により血流値を取得したタイミング、すなわち、入浴の開始直後を基準として、この基準点から血流量が所定値である第1差分値上昇したとき、第1の条件が満足されたと判定されるように本発明を構成することもできる。なお、この変形例において、入浴の開始直後を基準として、この基準点から第2差分値低下した場合には、制御部64により第2の条件が満足されたと判定される。
【0076】
次に、図9の時刻t2において、入浴者の血流量が基準点における血流量から所定の第1差分値上昇すると、図8に示すフローチャートにおける処理は、ステップS6→S9に進む。
【0077】
ステップS9においては、制御部64により、涼感刺激の付与が実行される。即ち、制御ユニット6の制御部64は、低温側リニアバルブ42bに制御信号を送り、これを所定量開弁させる。これにより、浴槽取水口9b(図2)から吸入され、吐水装置8の吐水口8aから吐出されている浴槽本体2内の湯水に、低温湯水供給管40bから供給された温度の低い水が混合され、吐水口8aから吐出される湯水の温度が低下する。これにより、入浴者の首筋や肩に、温度の低い湯水が当てられ、入浴者に涼感刺激が付与される。なお、本実施形態において、制御部64は、基準温度である浴槽本体2内の湯水の温度よりも約4℃低い湯水が吐水装置8の吐水口8aから吐出されるように、低温側リニアバルブ42bの開度を制御する。
【0078】
図9に示す例では、時刻t2から低温側リニアバルブ42bが開弁され、図9の下段に示すように、吐水口8aから吐出される湯水の温度が低下する。この際、吐出される湯水の温度が急激に低下することがないよう、低温側リニアバルブ42bの開度は少しずつ増大される。
【0079】
このように、入浴者に涼感刺激を付与することにより、入浴者の心拍数、血流量、及び深部体温は低下し始める。図9に示す例では、その上段に示すように、時刻t2における血流量を基準点として、入浴者の血流量が低下し始める。図8に示すフローチャートにおいては、時刻t2においてステップS9が実行された後は、ステップS8→S5→S6→S7→S8の処理が繰り返し実行される。
【0080】
ここで、ステップS7においては、生体情報取得部56により取得された血流量の低下が、所定の第2の条件を満足しているか否かが判断される。即ち、図9の時刻t2から涼感刺激が開始されることにより、入浴者の心拍数、血流量、及び深部体温が低下を始める。ステップS7においては、涼感刺激が開始された時刻t2における血流量を基準点として、この基準点から血流量が所定値である第2差分値低下したとき、第2の条件が満足されたと判定される。本実施形態においては、基準点における血流量から、血流量が2(mL/min/100g)減少したと推定されると、第2の条件が満足されたと判定される。
【0081】
このように、本実施形態において、制御部64は、入浴者に最初に涼感刺激又は温感刺激を与えた後は、涼感刺激の付与開始から血流量が所定値低下したとき、第2の条件が満足されたと判断している。また、本実施形態において、入浴者に最初に涼感刺激又は温感刺激を与えた後は、温感刺激の付与開始から血流量が所定値上昇したとき、第1の条件が満足されたと制御部64により判断される。
【0082】
次に、図9の時刻t3において、入浴者の血流量が基準点における血流量から所定の第2差分値低下すると、図8に示すフローチャートにおける処理は、ステップS7→S10に進む。
【0083】
ステップS10においては、制御部64により、温感刺激の付与が実行される。即ち、制御ユニット6の制御部64は、低温側リニアバルブ42bに制御信号を送り、これを閉弁させる一方、高温側リニアバルブ42aに制御信号を送り、これを所定量開弁させる。これにより、浴槽取水口9b(図2)から吸入され、吐水装置8の吐水口8aから吐出されている浴槽本体2内の湯水に、高温湯水供給管40aから供給された温度の高い湯が混合され、吐水口8aから吐出される湯水の温度が上昇する。これにより、入浴者の首筋や肩に、温度の高い湯水が当てられ、入浴者に温感刺激が付与される。なお、本実施形態において、制御部64は、基準温度である浴槽本体2内の湯水の温度よりも約2℃高い湯水が吐水装置8の吐水口8aから吐出されるように、高温側リニアバルブ42aの開度を制御する。
【0084】
図9に示す例では、時刻t3から高温側リニアバルブ42aが開弁され、図9の下段に示すように、吐水口8aから吐出される湯水の温度が上昇する。この際、吐出される湯水の温度が急激に上昇することがないよう、高温側リニアバルブ42aの開度は少しずつ増大される。
【0085】
このように、入浴者に温感刺激を付与することにより、入浴者の心拍数、血流量、及び深部体温は上昇し始める。図9に示す例では、その上段に示すように、時刻t3における血流量を基準点として、入浴者の血流量が上昇し始める。図8に示すフローチャートにおいては、時刻t3においてステップS10が実行された後は、ステップS8→S5→S6→S7→S8の処理が繰り返し実行される。
【0086】
その後、図9に示す例では、時刻t4において、血流量が所定値である第1差分値上昇すると、再び第1の条件が満足されたと判定され、涼感刺激の付与が開始されている。以後、涼感刺激の付与と、温感刺激の付与が交互に繰り返され、これに伴い入浴者の血流量の減少、増加が繰り返される。このように、入浴者は、血流量の増減が繰り返されることにより、血行が改善されて、体内に蓄積されていた疲労物質が減少する。さらに、疲労物質の減少により筋硬度が低下して、入浴者の疲労が回復される。
【0087】
時刻t4の後、疲労回復した入浴者が出浴すると(浴槽本体2から出ると)、制御ユニット6の生体情報取得部56により心電信号が検出されなくなり、入浴者が出浴したと判定される。入浴者が出浴すると、図8のフローチャートにおける処理は、ステップS8→ENDに進み、図8に示すフローチャートの1回の処理が終了する。
【0088】
本発明の第1実施形態の浴槽装置1によれば、血流量の上昇に基づいて入浴者に涼感刺激が与えられ(図8のステップS6→S9)、血流量の低下に基づいて入浴者に温感刺激が与えられる(図8のステップS7→S10)。この結果、入浴者に血流量の上昇及び低下を与える刺激を確実に与えることができ、入浴者の個人差や、入浴者の使用法に依存することなく十分な疲労回復効果を得ることができる。
【0089】
また、本実施形態の浴槽装置1によれば、入浴者が浴槽本体2内に入った後、所定の待機時間tW経過(図8のステップS1→S2)後に生体情報取得部56により取得された血流量に基づいて、温冷熱装置である循環装置9等が制御される。この結果、入浴者の身体の状態が正確に反映された信頼性の高い血流量に基づいて涼感刺激又は温感刺激を付与することができ、確実に疲労回復効果を得ることができる。
【0090】
さらに、本実施形態の浴槽装置1によれば、入浴者の身体温度に基づいて待機時間が変更される(図8のステップS2→S5又はS2→S3→S5)ので、入浴者の身体温度が適温になった後で涼感刺激又は温感刺激を付与することができ、入浴者は快適な入浴を楽しむことができると共に、涼感刺激又は温感刺激による疲労回復効果も得ることができる。
【0091】
また、本実施形態の浴槽装置1によれば、入浴者の心拍数に基づいて入浴者の身体温度が推定される(図7)ので、入浴者に負担をかけることなく、入浴者の身体温度を取得することができる。
【0092】
さらに、本実施形態の浴槽装置1によれば、温感刺激又は涼感刺激の付与開始から、血流量が所定値以上、上昇(図9のt3からt4)又は低下(図9のt2からt3)したとき、温感刺激と涼感刺激が切り替えられるので、適切な時機に刺激を切り替えることができ、入浴者に疲労回復効果を与える温感刺激又は涼感刺激を付与することができる。
【0093】
また、本実施形態の浴槽装置1によれば、入浴者の心電信号に基づいて入浴者の血流量が推定される(図6)ので、入浴者に負担をかけることなく、入浴者の血流量を取得することができる。
【0094】
次に、図10及び図11を参照して、本発明の第2実施形態による浴槽装置を説明する。
本実施形態の浴槽装置は、制御ユニット6によって実行される制御が、上述した第1実施形態とは異なっている。従って、ここでは、本発明の第2実施形態の、第1実施形態とは異なる部分のみを説明し、同様の構成、作用、効果については説明を省略する。
【0095】
図10は、本実施形態の浴槽装置の作用を示すフローチャートである。図11は、本実施形態の浴槽装置の作用の一例を示すタイムチャートである。なお、図10に示すフローチャートは、上述した第1実施形態と同様に、入浴者が浴槽本体2の中に入ったとき実行が開始される。
【0096】
まず、図10のステップS11乃至S15における処理は、図8のステップS1乃至S5における処理と同じであるため、説明を省略する。また、図11に一例を示すタイムチャートにおいては、時刻t10において入浴者が浴槽本体2内の湯水に浸かると、驚愕反射により入浴者の心拍数、血流量が上昇し、待機時間tWが経過した時刻t11において、血流量は入浴者の平常時に近い値まで低下する。そして、時刻t11において、入浴者の深部体温は所定の体温T1以上に上昇しているため、吐水装置8の吐水口8aからの湯水の吐出が開始される。即ち、浴槽取水口9b(図2)から吸入された浴槽本体2内の湯水が、そのまま吐水装置8の吐水口8aから吐出されて、入浴者の首筋や肩に当てられる。さらに、図10のステップS15においては、検出された入浴者の心電信号から心拍数が求められ、これに基づいて入浴者の血流量が推定される。推定された血流量は、制御ユニット6の生体情報取得部56により取得される。
【0097】
次に、ステップS16においては、生体情報取得部56により取得された血流量が、所定の第1の条件を満足しているか否かが判断される。即ち、図11の時刻t11において吐水装置8からの湯水の吐出が開始されると、これを浴びている入浴者の心拍数、血流量、及び深部体温が上昇を始める。ステップS16においては、上昇している血流量が所定の上閾値よりも大きくなったとき、第1の条件が満足されたと判定される。本実施形態においては、血流量が12(mL/min/100g)よりも大きくなると、第1の条件が満足されたと判定される。好ましくは、この血流量の上閾値は、10~13(mL/min/100g)に設定する。図10に示すフローチャートにおいては、時刻t11の後、第1の条件が満足されるまでステップS15→S16→S17→S18→S15の処理が繰り返し実行される。
【0098】
次に、図11の時刻t12において、入浴者の血流量が上閾値よりも大きくなると、図10に示すフローチャートにおける処理は、ステップS16→S19に進む。
【0099】
ステップS19においては、制御部64により、涼感刺激の付与が所定時間実行される。即ち、制御ユニット6の制御部64は、低温側リニアバルブ42bに制御信号を送り、これを所定量開弁させる。これにより、浴槽取水口9b(図2)から吸入され、吐水装置8の吐水口8aから吐出されている浴槽本体2内の湯水に、低温湯水供給管40bから供給された温度の低い水が混合され、吐水口8aから吐出される湯水の温度が低下する。これにより、入浴者の首筋や肩に、温度の低い湯水が当てられ、入浴者に涼感刺激が付与される。なお、本実施形態において、制御部64は、基準温度である浴槽本体2内の湯水の温度よりも約4℃低い湯水が吐水装置8の吐水口8aから吐出されるように、低温側リニアバルブ42bの開度を制御する。図11のタイムチャートにおいては、時刻t12から入浴者への涼感刺激の付与が開始されている。
【0100】
時刻t12において涼感刺激の付与が開始された後、所定の交替時間taが経過すると、図10に示すフローチャートにおける処理は、ステップS19→S20に進む。なお、本実施形態においては、所定の交替時間taは約2分に設定されており、時刻t12において開始された涼感刺激が約2分継続される。
【0101】
次に、ステップS20においては、制御部64により、温感刺激の付与が所定の交替時間ta実行される。即ち、制御ユニット6の制御部64は、低温側リニアバルブ42bに制御信号を送り、これを閉弁させると共に、高温側リニアバルブ42aに制御信号を送り、これを所定量開弁させる。これにより、浴槽取水口9b(図2)から吸入され、吐水装置8の吐水口8aから吐出されている浴槽本体2内の湯水に、高温湯水供給管40aから供給された温度の高い湯が混合され、吐水口8aから吐出される湯水の温度が上昇する。これにより、入浴者の首筋や肩に、温度の高い湯水が当てられ、入浴者に温感刺激が付与される。なお、本実施形態において、制御部64は、基準温度である浴槽本体2内の湯水の温度よりも約2℃高い湯水が吐水装置8の吐水口8aから吐出されるように、高温側リニアバルブ42aの開度を制御する。図11のタイムチャートにおいては、時刻t13から入浴者への温感刺激の付与が開始されている。
【0102】
時刻t13においての温感刺激の付与が開始された後、所定の交替時間taが経過すると、図10に示すフローチャートにおける処理は、ステップS20→S23に進み、時刻t13において開始された温感刺激が約2分継続される。
【0103】
ステップS23においては、入浴者が出浴したか(浴槽本体2から出たか)否かが判断される。入浴者が出浴した場合には、図10に示すフローチャートの1回の処理を終了し、入浴者が出浴していない場合にはステップS24に進む。
【0104】
ステップS24においては、涼感刺激及び温感刺激の付与が所定回数繰り返されたか否かが判断される。涼感刺激及び温感刺激の付与が所定回数繰り返された場合には、図10に示すフローチャートの1回の処理を終了し、所定回数繰り返されていない場合には、ステップS19に戻り、再び涼感刺激の付与が実行される。(なお、ステップS19、S20の処理が行われた後、ステップS24が実行された場合には、フローチャートにおける処理はステップS19に戻り、ステップS21、S22の処理が行われた後、ステップS24が実行された場合には、フローチャートにおける処理はステップS21に戻る。)本実施形態においては、所定の繰り返し回数は、3回に設定されている。
【0105】
図11に示す例においては、所定の交替時間ta温感刺激の付与が行われた後、時刻t14において、フローチャートにおける処理はステップS19に戻り、再び涼感刺激の付与が開始される。このように、図10のフローチャートにおいて、ステップS19→S20→S23→S24→S19の処理が3回繰り返されると、ステップS24→ENDに処理が進み、図10に示すフローチャートの1回の処理を終了する。また、ステップS19→S20→S23→S24→S19の処理の繰り返し中に入浴者が出浴した場合には、図10に示すフローチャートの1回の処理を終了する(ステップS23→END)。
【0106】
一方、図10に示すフローチャートにおいて、ステップS14の処理が行われた後、ステップS15→S16→S17→S18→S15の処理が繰り返し実行されている間に、血流量の第2の条件が満足されたと判定された場合には、ステップS21以下の処理が実行される。即ち、ステップS17においては、生体情報取得部56により取得された血流量が、所定の第2の条件を満足しているか否かが判断される。ステップS17においては、低下している血流量が所定の下閾値よりも小さく大きくなったとき、第2の条件が満足されたと判定される。本実施形態においては、血流量が6(mL/min/100g)よりも小さくなると、第2の条件が満足されたと判定される。好ましくは、この血流量の下閾値は5~8(mL/min/100g)に設定する。
【0107】
第2の条件が満足されたと判定されると、フローチャートにおける処理は、ステップS17→S21に進み、以下、ステップS21では、所定の交替時間ta温感刺激の付与が行われ、ステップS22では、所定の交替時間ta涼感刺激の付与が行われる。この場合には、ステップS21→S22→S23→S24→S21の処理が3回繰り返された後、図10に示すフローチャートの処理が終了する(ステップS24→END)。また、ステップS21→S22→S23→S24→S21の処理の繰り返し中に入浴者が出浴した場合には、図10に示すフローチャートの1回の処理を終了する(ステップS23→END)。
【0108】
一方、図10に示すフローチャートにおいて、ステップS14の処理が行われた後、ステップS15→S16→S17→S18→S15の処理が繰り返し実行されている間に、入浴者が出浴した場合には、図10に示すフローチャートの1回の処理を終了する(ステップS18→END)。
【0109】
このように、本発明の第2実施形態の浴槽装置においては、吐水装置8からの湯水の吐出が開始された後、入浴者の血流量が第1の条件、又は第2の条件を満足すると涼感刺激(ステップS16→S19の場合)、又は温感刺激(ステップS17→S21の場合)の付与が開始される。そして、その後は所定の交替時間ta毎に、涼感刺激及び温感刺激が交互に付与され、涼感刺激と温感刺激の付与は最大で3回繰り返される。
【0110】
本発明の第2実施形態の浴槽装置によれば、最初に涼感刺激又は温感刺激を与えた後、所定の交替時間ta毎に涼感刺激及び温感刺激を交互に与えるので、心拍数又は血流量が計測できない場合においても、涼感刺激又は温感刺激が長時間連続して付与されるのを防止することができる。
【0111】
また、本実施形態の浴槽装置によれば、血流量が所定の上閾値よりも大きくなったとき(図11のt12又はt14)、又は所定の下閾値よりも小さくなったとき(図11のt13)、温感刺激と涼感刺激が切り替えられるので、適切な時機に刺激を切り替えることができ、入浴者に疲労回復効果を与える温感刺激又は涼感刺激を付与することができる。
【0112】
なお、本実施形態においては、入浴開始以降、刺激が涼感刺激から開始されているが、変形例として、例えば、冬場など身体温度が低下しており、初期の血流量が低く、血流量が所定の下閾値よりも小さい場合において、温感刺激の付与から刺激が開始されるように本発明を構成することもできる。これにより、初期の血流量が低い場合でも適切な時期に刺激の付与を開始することができる。
【0113】
また、上述した第2実施形態においては、血流量が所定の上閾値よりも大きくなったとき、血流量の上昇の第1の条件が満足されたと判断され、血流量が所定の下閾値よりも小さくなったとき、血流量の低下の第2の条件が満足されたと判断されていた。これに対して、変形例として、第1の条件、第2の条件は、上述した第1実施形態と同様に設定することもできる。即ち、図10に示すフローチャートのステップS16において、基準値から血流量が所定の第1差分値上昇したとき第1の条件が満足されたと判断し、ステップS17において、基準値から血流量が所定の第2差分値低下したとき第2の条件が満足されたと判断するように本発明を構成することもできる。
【0114】
さらに、上述した第1実施形態における第1の条件、第2の条件を、第2実施形態と同様に設定することもできる。即ち、図8に示すフローチャートのステップS6において、血流量が所定の上閾値よりも大きくなったとき第1の条件が満足されたと判断し、ステップS7において、血流量が所定の下閾値よりも小さくなったとき第2の条件が満足されたと判断するように本発明を構成することもできる。
【0115】
以上、本発明の実施形態による浴槽装置を説明したが、上述した実施形態に種々の変更を加えることができる。特に、上述した第1、第2実施形態においては、第1の条件、第2の条件を血流量に基づいて判断していたが、変形例として、入浴者の心拍数に基づいて第1の条件、第2の条件を判断するように本発明を構成することもできる。入浴者の心拍数は、血流量とほぼ同様に推移するため、入浴者の心拍数に基づいても同様の制御を行うことができる。
【0116】
即ち、心拍数の基準値から心拍数が所定の第1差分値上昇したとき第1の条件が満足されたと判断し、心拍数の基準値から心拍数が所定の第2差分値低下したとき第2の条件が満足されたと判断するように本発明を構成することもできる。例えば、心拍数の第1差分値を3bpm、第2差分値を2bpmに設定することができる。
【0117】
或いは、心拍数が所定の上閾値よりも大きくなったとき第1の条件が満足されたと判断し、心拍数が所定の下閾値よりも小さくなったとき第2の条件が満足されたと判断するように本発明を構成することもできる。例えば、心拍数の上閾値を87bpm、下閾値を77bpmに設定することができる。好ましくは、心拍数の上閾値は85~90bpm、下閾値は75~80bpmに設定する。
【0118】
さらに、第1の条件を血流量又は心拍数の上昇率で規定し、第2の条件を血流量又は心拍数の低下率で規定することもできる。即ち、心拍数又は血流量の上昇率が所定の上昇率よりも大きくなったとき、第1の条件が満足されたと判断し、心拍数又は血流量の低下率が所定の低下率よりも大きくなったとき、第2の条件が満足されたと判断するように本発明を構成することもできる。例えば、血流量が1分間に2(mL/min/100g)以上増加した場合に第1の条件が満足されたと判断し、血流量が1分間に2(mL/min/100g)以上減少した場合に第2の条件が満足されたと判断するように本発明を構成することもできる。また、心拍数が1分間に2bpm以上増加した場合に第1の条件が満足されたと判断し、心拍数が1分間に2bpm以上減少した場合に第2の条件が満足されたと判断するように本発明を構成することもできる。
【0119】
この変形例によれば、心拍数又は血流量の上昇率又は低下率が所定値よりも大きくなったとき、温感刺激と涼感刺激が切り替えられるので、適切な時機に刺激を切り替えることができ、入浴者に疲労回復効果を与える温感刺激又は涼感刺激を付与することができる。
【0120】
また、上述した第1、第2実施形態においては、浴槽本体に設けた電極により、入浴者の心電信号を検出し、これに基づいて血流量を推定していた。これに対して、変形例として、浴槽本体に貯留されている湯水の温度、及び入浴者が浴槽本体内の湯水に浸かっている時間に基づいて、入浴者の心拍数、血流量を推定するように本発明を構成することもできる。
【0121】
図12の上段のグラフは、浴槽本体内に貯留されている、平均的な入浴者の身体温度よりも高い温度である38℃の湯水に浸かった入浴者の血流量の時間的変化の一例を示すグラフであり、下段のグラフは、浴槽本体内に貯留されている38℃の湯水に浸かった入浴者に対し、平均的な入浴者の身体温度よりも低い温度である32℃の涼感刺激を付与した場合の血流量の時間的変化の一例を示すグラフである。図12の上段に示すように、入浴者が入浴前の身体温度よりも高い温度の湯水に浸かっている場合には、時間の経過と共に血流量が増加する。また、図12の下段に示すように、入浴者が入浴前の身体温度よりも温度の低い涼感刺激を付与されている場合には、時間の経過と共に血流量が低下する。
【0122】
このように、浴槽本体内の湯水の温度と、それに浸かっている入浴者の血流量の時間的変化には一定の関係があり、浴槽本体内の湯水の温度と、入浴者が湯水に浸かっている時間に基づいて、入浴者の血流量の変化量を推定することができる。このため、制御ユニット6に内蔵されている湯水温度取得部62により浴槽本体内の湯水の温度を取得し、経過時間検出部60により入浴者が湯水に浸かっている時間を検出することにより、入浴者の血流量の変化量を推定することができる。これにより、生体情報取得部56は、経過時間検出部60により検出された経過時間、及び湯水温度取得部62により取得された湯水の温度に基づいて、入浴者の血流量を推定することができる。
【0123】
また、図12は、浴槽本体内の湯水の温度と、それに浸かっている入浴者の血流量の時間的変化の関係を示すものであるが、入浴者の心拍数の時間的変化についても同様の傾向の関係が知られている。これにより、生体情報取得部56は、経過時間検出部60により検出された経過時間、及び湯水温度取得部62により取得された湯水の温度に基づいて、入浴者の心拍数を推定することができる。
また、入浴者の心拍数の推定は、入浴者の心拍間隔から推定してもよい。なお、入浴者の心拍数の検出とは、入浴者の心拍数を間接的に示す、心拍間隔を検出することも含む。
【0124】
このように、浴槽本体内の湯水の温度と、入浴者がそれに浸かっている時間に基づいて、入浴者の血流量の変化量、及び入浴者の心拍数の変化量を推定することができ、これに基づいて、所定の第1の条件、及び所定の第2の条件が満足されているか否かを判断することができる。
【0125】
この変形例によれば、入浴者が浴槽本体2内に入った後の経過時間、及び浴槽本体2内に貯留されている湯水の温度に基づいて、入浴者の心拍数又は血流量が推定されるので、特別なセンサを必要とすることなく簡便に心拍数又は血流量を推定することができる。
【0126】
また、上述した実施形態においては、温感刺激及び涼感刺激を入浴者に与える温冷熱装置として、吐水装置8等が備えられていた。これに対して変形例として、浴室の天井等に冷暖房装置を設け、これを所定の基準温度よりも高い温風、及び所定の基準温度よりも低い冷風を浴槽本体2内の入浴者に送る温冷熱装置とすることもできる。また、温冷熱装置としてミスト発生装置を設け、ミスト発生装置により、浴室内又は浴槽本体2内に所定の基準温度よりも高いミスト、及び所定の基準温度よりも低いミストを発生させ、入浴者に温感刺激及び涼感刺激を与えるように本発明を構成することもできる。さらに、浴槽本体2の背もたれ面2a等に、壁面を加熱及び冷却することができる加熱/冷却装置を設けておき、これを温冷熱装置として、温感刺激及び涼感刺激を入浴者に与えるように本発明を構成することもできる。
【0127】
さらに、上述した実施形態においては、浴槽本体2に貯留されている湯水の温度を基準温度とし、この基準温度よりも高い温感刺激、及びこの基準温度よりも低い涼感刺激を入浴者に与えていた。これに対して、変形例として、入浴中の入浴者の平均的な体温(例えば約37℃)を基準温度とすることもできる。
【符号の説明】
【0128】
1 浴槽装置
2 浴槽本体
2a 背もたれ面
2b エプロン
4a 負電極
4b 正電極
4c 基準電極
6 制御ユニット
6a リモコン
8a 吐水口
9 循環装置
9a 浴槽吐水口
9b 浴槽取水口
10 電極部
10a 円板部
10b 軸部
12a 前面パッキン
12b 背面パッキン
14 フランジ
16 防湿チューブ
18 接続端子
20 固定ネジ
22 導線
24 シース
40a 高温湯水供給管
40b 低温湯水供給管
42a 高温側リニアバルブ
42b 低温側リニアバルブ
44 混合室
46 浴槽温度センサ
48 吐水温度センサ
50a 高温側温度センサ
50b 低温側温度センサ
52 給湯器
54 上水道
54a 分岐部
56 生体情報取得部
58 身体温度取得部
60 経過時間検出部
62 湯水温度取得部
64 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12