(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057622
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】生体内留置物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/915 20130101AFI20240418BHJP
【FI】
A61F2/915
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021020192
(22)【出願日】2021-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 牧人
(74)【代理人】
【識別番号】100123663
【弁理士】
【氏名又は名称】広川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】松下 周平
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA07
4C267AA44
4C267AA47
4C267AA54
4C267AA55
4C267BB32
4C267BB40
4C267CC09
4C267CC20
4C267CC21
4C267CC22
4C267CC26
4C267DD01
4C267FF05
4C267GG50
4C267HH07
(57)【要約】
【課題】ステントカバーの端部の空隙に生体内組織などが入り込むことを抑制し、ステントカバーの破損やステントの脱落のリスクが低減される生体内留置物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】管状のステント20と、空隙32を有する管状で、繊維31により形成されたステントカバー30と、を有する生体内留置物10であって、繊維31は、折り返されつつステントカバー30の円周方向へ波線状に連続し、ニット状に編み込まれた長尺繊維31Aと、ステントカバー30の軸方向の端部に配置された少なくとも1つの短尺繊維31Bと、を有し、長尺繊維31A上の軸方向の一端側の折り返し部34Bから軸方向の他端側の折り返し部34Aを介して軸方向の一端側の他の折り返し部34Bに至るまでの長さで区分された前記繊維をループと定義し、短尺繊維31Bは、軸方向の端部に位置し、円周方向に隣接した、端部側に凸状となる端部ループ37同士を接続している。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延び、先端および基端を有し、径方向への拡張および収縮が可能に形成され、隙間を有する管状のステントと、
軸方向に延び、先端および基端を有し、径方向への拡張および収縮が可能に形成され、空隙を有する管状で、繊維により形成されたステントカバーと、を有する生体内留置物であって、
前記ステントカバーの繊維は、
折り返されつつ前記ステントカバーの円周方向へ波線状に連続し、ニット状に編み込まれた長尺繊維と、
前記ステントカバーの軸方向の端部に配置された少なくとも1つの短尺繊維と、を有し、前記長尺繊維上の軸方向の一端側の折り返し部から軸方向の他端側の折り返し部を介して軸方向の一端側の他の折り返し部に至るまでの長さで区分された前記繊維をループと定義し、
前記短尺繊維は、軸方向の端部に位置し、円周方向に隣接した、端部側に凸状となる前記ループ同士を接続していることを特徴とする生体内留置物。
【請求項2】
前記短尺繊維は、前記ステントカバーの軸方向の端部のループと、当該ループと軸方向に隣接する他のループとが交差する軸方向の位置より端部側にあることを特徴とする請求項1に記載の生体内留置物。
【請求項3】
前記ステントカバーの軸方向の端部側の前記短尺繊維の端部から、当該短尺繊維が接続する前記ループの端部側の折り返し部までの長さは、前記ループの軸方向長さより短いことを特徴とする請求項1または2に記載の生体内留置物。
【請求項4】
前記ステントカバーの軸方向の中央側の前記短尺繊維の端部の位置は、前記短尺繊維が接続する前記ループの軸方向の中心位置より端部側にあることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の生体内留置物。
【請求項5】
前記短尺繊維は、前記ステントカバーの軸方向の中央側に向く凸部を1つ有する凸型形状であり、2つの隣接する前記ループのみと接続し、前記短尺繊維の終端は、接続する前記ループの前記ステントカバーの端部側の折り返し部より端部側に位置することを特徴とする請求項4に記載の生体内留置物。
【請求項6】
前記ステントカバーの軸方向の端部の前記長尺繊維および前記短尺繊維の径方向の厚みは、前記端部以外の前記長尺繊維の径方向の厚みより小さいことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の生体内留置物。
【請求項7】
前記ステントカバーの軸方向の端部に位置する全ての前記ループが前記短尺繊維で接続されていることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の生体内留置物。
【請求項8】
隣接する前記ステントカバーの端部の前記ループ同士が固定されたループ間接続部を有することを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の生体内留置物。
【請求項9】
前記ステントカバーは、前記ステントの軸方向の長さの範囲内にあることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の生体内留置物。
【請求項10】
前記ステントカバーは、生分解性材料により形成されることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の生体内留置物。
【請求項11】
軸方向に延び、先端および基端を有し、径方向への拡張および収縮が可能に形成され、隙間を有する管状のステントおよび、空隙を有するように繊維がニット状に編み込まれて管状に形成された管状繊維部材を準備する準備工程と、
前記準備工程後に芯金部材を前記管状繊維部材に挿入する挿入工程と、
前記挿入工程後に前記管状繊維部材の軸方向に離れた複数の接続領域で、編み込まれた前記繊維同士の交差位置を接続する接続工程と、
前記接続工程後に各々の前記接続領域の範囲内にある軸方向の位置で前記管状繊維部材を切断する切断工程と、
前記切断工程後に得られたステントカバーを前記ステントに取り付ける取付工程と、
前記接続工程後であって前記取付工程前のいずれかの段階で、前記管状繊維部材または前記ステントカバーから前記芯金部材を抜去する抜去工程と、を有することを特徴とする生体内留置物の製造方法。
【請求項12】
前記接続工程において、各々の前記接続領域にある前記管状繊維部材の軸方向および円周方向の全ての前記交差位置を接続することを特徴とする請求項11に記載の生体内留置物の製造方法。
【請求項13】
前記接続工程において、超音波溶着機で前記交差位置を溶着することを特徴とする請求項11または12に記載の生体内留置物の製造方法。
【請求項14】
前記接続工程において、前記管状繊維部材の空隙の前記軸方向の幅より広い接触面幅の接触面を有する前記超音波溶着機を使用し、各々の接続領域において、前記接触面幅が前記管状繊維部材の軸に平行になるように前記接触面を前記繊維に接触させることを特徴とする請求項13に記載の生体内留置物の製造方法。
【請求項15】
前記接続工程において、前記管状繊維部材の空隙が軸方向に10個連続する領域の前記軸方向の幅より狭い前記接触面幅を有する前記接触面を使用することを特徴とする請求項14に記載の生体内留置物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内留置物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血管等の生体管腔における病変部の治療方法として、カテーテルのような治療器具を経皮的に生体管腔に導入し、生体管腔内から病変部を治療する方法が知られている。このような治療方法において、病変部が狭窄病変の場合、狭窄病変をバルーンで拡張し、バルーン拡張後の再狭窄を防ぐ目的で、体内埋込型の医療器具であるステントを留置することが多い。ステントの表面は、再狭窄の原因である血管平滑筋細胞の遊走や増殖を抑制する薬剤を塗布されることが多い。このような薬剤を塗布されたステントは、薬剤溶出ステントとして知られている。
【0003】
ステントは、線状の構成要素であるストラットが波状および環状に形成されて、径方向に収縮および拡張することが可能な管状構造を有する。ステントを病変部に留置する際は、術者は、ステントが収縮されて装着されたカテーテルを病変部まで移行(デリバリー)する。ステントが病変部に到達した後に、術者がカテーテルを操作することでステントが拡張し、病変部に留置される。
【0004】
留置する病変部にプラークが存在する場合、ステントの拡張によってストラットがプラークに押し付けられると、プラークに亀裂が生じてデブリが生じることがある。その結果、ストラットとストラットの間を通過してデブリが血液中に移行し、場合によっては末梢側の血管にトラップされて末梢血管を閉塞し、末梢組織の壊死を発生させる。
【0005】
特許文献1では、ステントに、空隙を有するステントカバーとして繊維を織り込んだ織物や繊維を編み込んだ編物(ニット)を被せた構造の生体内留置物が提案されている。ステントカバーの空隙に相当する繊維に囲まれた領域は、ステントの隙間に相当するストラットに囲まれた領域より小さい。このため、ストラットの押し付けで生じるデブリがステントカバーにトラップされ、デブリの血液中への移行が防止される。また、ステントカバーが空隙を有するため、この生体内留置物の留置後は、ステントカバーの空隙から内皮細胞が浸潤する。このため、ステントカバーに空隙がない場合よりも早期に内皮され、血栓発生のリスクが低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
空隙を有するステントカバーとしてのニットは、繊維が交互に折り返されてループを形成しつつ円周方向に連続することで、ループが円周方向に連続する。また、繊維を編み込む際の特定のループと、ループが任意数連続した後の同じ円周方向の位置に形成されるループは、軸方向にずれつつ交差する。このように繊維が連続することで、ニットは円周方向と軸方向にループが連なった螺旋状の構造となっている。このため、ニットの軸方向の端部に存在するループを除き、任意のループは軸方向の両側に隣接するループから拘束を受ける。しかし、軸方向の端部に存在するループは軸方向の片側に隣接するループが存在しないため、ループが径方向外側に広がってしまうことがある。径方向外側に広がったループに、カテーテルのデリバリー中に生体内組織などが引っ掛かると、ニットの破損やステントの脱落を引き起こすリスクがある。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、ステントカバーの端部の空隙に生体内組織などが入り込むことが抑制され、ステントカバーの破損やステントの脱落のリスクが低減される生体内留置物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する生体内留置物は、軸方向に延び、先端および基端を有し、径方向への拡張および収縮が可能に形成され、隙間を有する管状のステントと、軸方向に延び、先端および基端を有し、径方向への拡張および収縮が可能に形成され、空隙を有する管状で、繊維により形成されたステントカバーと、を有する生体内留置物であって、前記ステントカバーの繊維は、折り返されつつ前記ステントカバーの円周方向へ波線状に連続し、ニット状に編み込まれた長尺繊維と、前記ステントカバーの軸方向の端部に配置された少なくとも1つの短尺繊維と、を有し、前記長尺繊維上の軸方向の一端側の折り返し部から軸方向の他端側の折り返し部を介して軸方向の一端側の他の折り返し部に至るまでの長さで区分された前記繊維をループと定義し、前記短尺繊維は、軸方向の端部に位置し、円周方向に隣接した、端部側に凸状となる前記ループ同士を接続していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記のように構成した生体内留置物は、ステントカバーの軸方向の端部に位置するループが、円周方向に隣接して短尺繊維を介して接続される他のループから拘束を受けるため、径方向外側に広がりにくい。このため、生体内組織などが引っ掛かることによるステントカバーの破損やステントの脱落を引き起こすリスクが低減される。また、ループ内の空隙とループに隣接する空隙の存在が維持される。このため、内皮細胞の浸潤性を損なわないことから内皮化の遅延が抑制され、血栓の発生リスクが抑制される。
【0011】
前記短尺繊維は、前記ステントカバーの軸方向の端部のループと、当該ループと軸方向に隣接する他のループとが交差する軸方向の位置より端部側にあってもよい。短尺繊維がない状態で軸方向の端部のループの径方向外側への広がりが起こる場合、当該ループは、軸方向に隣接する他のループと交差する軸方向位置を支点として、それより端部側の位置で径方向外側に広がろうとする。短尺繊維が端部側に設けられることで、当該ループが径方向外側に広がるために必要なモーメントが増加することにより、ステントカバーの広がりを防止する効果が高まる。
【0012】
前記ステントカバーの軸方向の端部側の前記短尺繊維の端部から、当該短尺繊維が接続する前記ループの端部側の折り返し部までの長さは、前記ループの軸方向長さより短くてもよい。これにより、生体内組織などが引っ掛かることによるステントカバーの破損やステントの脱落を引き起こすリスクが低減される。
【0013】
前記ステントカバーの軸方向の中央側の前記短尺繊維の端部の位置は、前記短尺繊維が接続する前記ループの軸方向の中心位置より端部側にあってもよい。これにより、端部に位置するループが径方向外側に広がるために必要なモーメントが増加することにより、ステントカバーの広がりを防止する効果が高まる。
【0014】
前記短尺繊維は、前記ステントカバーの軸方向の中央側に向く凸部を1つ有する凸型形状であり、2つの隣接する前記ループのみと接続し、前記短尺繊維の終端は、接続する前記ループの前記ステントカバーの端部側の折り返し部より端部側に位置してもよい。これに加えて、上述した、ステントカバーの軸方向の中央側の短尺繊維の端部の位置が、短尺繊維が接続するループの軸方向の中心位置より端部側にある場合、短尺繊維が端部ループ内を円周方向に沿って分断するように配置される場合と比較して、ループ内の空隙の面積の減少が抑えられる。このため、内皮細胞の浸潤性の低下が抑制され、より早期の内皮化が促される。そして、血栓の発生リスクが更に抑制される。
【0015】
前記ステントカバーの軸方向の端部の前記長尺繊維および前記短尺繊維の径方向の厚みは、前記端部以外の前記長尺繊維の径方向の厚みより小さくてもよい。これにより、端部の外径が小さくなり、デリバリー時の通過性が向上するため、生体内留置物はより末梢の病変を治療できるようになる。
【0016】
前記ステントカバーの軸方向の端部に位置する全てのループが前記短尺繊維で接続されていてもよい。これにより、ループが径方向外側に広がるリスクがさらに低下する。このため、生体内組織などが引っ掛かることによるステントカバーの破損やステントの脱落を引き起こすリスクが低減される。
【0017】
隣接する前記ステントカバーの端部の前記ループ同士が固定されたループ間接続部を有してもよい。これにより、ループが径方向外側に広がるリスクがさらに低下する。このため、生体内組織などがループに引っ掛かることによるステントカバーの破損やステントの脱落を引き起こすリスクが低減される。
【0018】
前記ステントカバーは、前記ステントの軸方向の長さの範囲内にあってもよい。これにより、ステントカバーの軸方向の端部の径方向外側への望ましくない広がりを抑制できる。このため、生体内組織などがステントカバーに引っ掛かることによるステントカバーの破損やステントの脱落を引き起こすリスクが低減される。
【0019】
前記ステントカバーは、生分解性材料により形成されてもよい。これにより、生体内留置物を生体内に留置後、ステントカバーが分解して消失することで、ステントカバーを起点に異物反応が起きるリスクが低減される。
【0020】
上記目的を達成する生体内留置物の製造方法は、軸方向に延び、先端および基端を有し、径方向への拡張および収縮が可能に形成され、隙間を有する管状のステントおよび、空隙を有するように繊維がニット状に編み込まれて管状に形成された管状繊維部材を準備する準備工程と、前記準備工程後に芯金部材を前記管状繊維部材に挿入する挿入工程と、前記挿入工程後に前記管状繊維部材の軸方向に離れた複数の接続領域で、編み込まれた前記繊維同士の交差位置を接続する接続工程と、前記接続工程後に各々の前記接続領域の範囲内にある軸方向の位置で前記管状繊維部材を切断する切断工程と、前記切断工程後に得られたステントカバーを前記ステントに取り付ける取付工程と、前記接続工程後であって前記取付工程前のいずれかの段階で、前記管状繊維部材または前記ステントカバーから前記芯金部材を抜去する抜去工程と、を有することを特徴とする。
【0021】
上記のように構成した生体内留置物の製造方法は、切断された位置にあったループの繊維と、これと軸方向に隣接するループの繊維との交差位置が接続されているため、切断された位置にあったループの繊維が、ステントカバーから遊離し得るフラグメントとして残存することが防止される。これより、本製造方法で得られる生体内留置物においては、生体内へ留置後にフラグメントが生体内に飛ばされて生体管腔を閉塞するリスクが低減される。
【0022】
前記接続工程において、各々の前記接続領域にある前記管状繊維部材の軸方向および円周方向の全ての前記交差位置を接続してもよい。これにより、全てのループが短尺繊維で接続された生体内留置物が得られ、ループが径方向外側に広がるリスクがさらに低下する。このため、生体内組織などがステントカバーに引っ掛かることによるステントカバーの破損やステントの脱落を引き起こすリスクが低減される。
【0023】
前記接続工程において、超音波溶着機で前記交差位置を溶着してもよい。これにより、接続工程に要する時間が短縮される。また、溶着箇所周辺の熱影響が減少し、ステントカバーの空隙が意図せず減少して内皮細胞の浸潤性を損なうリスクが低減される。
【0024】
前記接続工程において、前記管状繊維部材の空隙の前記軸方向の幅より広い接触面幅の接触面を有する前記超音波溶着機を使用し、各々の接続領域において、前記接触面幅が前記管状繊維部材の軸に平行になるように前記接触面を前記繊維に接触させて溶着してもよい。これにより、超音波溶着機が管状繊維部材の軸方向のいずれの位置で接触しても、交差位置が確実に溶着される。
【0025】
前記接続工程において、前記管状繊維部材の空隙が軸方向に10個連続する領域の前記軸方向の幅より狭い前記接触面幅を有する前記接触面を使用してもよい。これにより、接続領域の軸方向の長さが長くなり過ぎることなく、交差位置が溶着されない拡張性および収縮性に優れるステントカバーの中央部の領域が広く確保される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施形態に係る生体内留置物およびバルーンカテーテルを示す平面図である。
【
図6】ステントカバーの変形例を示す平面図である。
【
図7】生体内留置物の製造方法を説明する図であり、(A)は管状繊維部材に保護チューブおよび芯金部材を挿入した状態、(B)は超音波溶着機により接続領域を溶着している状態、(C)は管状繊維部材から芯金部材を除去した状態、(D)は管状繊維部材を切断している状態、(E)は保護チューブを除去して完成したステントカバーを示す。
【
図8】超音波溶着機と管状繊維部材を示す斜視図である。
【
図9】生体内留置物の他の例の一部を示す平面図である。
【
図10】収縮状態にある生体内留置物およびバルーンカテーテルの
図1のB-B線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。
【0028】
本実施形態に係る生体内留置物10は、血管、胆管、気管、食道、尿道、またはその他の生体管腔内に生じた狭窄部や閉塞部などの病変を治療するために用いられる。生体内留置物10は、公知のカテーテルに搭載されて使用される。一例として、生体内留置物10は、
図1に示すように、バルーンカテーテル1のバルーン2の外周面に載置されて、生体管腔に挿入される。
【0029】
バルーンカテーテル1は、長尺なシャフト3の先端部に、シャフト3の内部を通して供給される流体によって拡張可能なバルーン2を有している。生体内留置物10は、収縮した状態のバルーン2の外周面に載置される。バルーン2は、病変にて拡張することで、生体内留置物10とともに病変を押し広げる。この後、バルーン2が収縮すると、生体内留置物10は拡張した状態でバルーン2から離れ、病変の開通状態を維持する。
【0030】
生体内留置物10は、
図2に示すように、ステント20と、ステント20を覆うステントカバー30とを有している。
【0031】
ステント20は、
図3に示すように、バルーン2の拡張力によって拡張する、いわゆるバルーン2拡張型のステント20である。ステント20は、収縮状態のバルーン2の外周面に載置される。ステント20は、線状のストラット21により、全体として円管状に形成されている。ストラット21は、バルーン2の軸方向に並ぶ複数の環状体22と、軸方向に隣接する環状体22同士を接続する接続要素23により構成されている。なお、ステント20の形態は、これに限定されない。また、ステント20は超弾性合金の復元力によって拡張する、いわゆる自己拡張型のステント20であってもよい。
【0032】
各々の環状体22は、複数の線状要素24を折り返しつつ円周方向に連続して配置して形成されている。軸方向に隣接する環状体22同士は、接続要素23によって一体的に連結されている。隣接する環状体22同士は、軸方向と交差する円周方向に沿った周上の少なくとも1か所で、接続要素23により接続される。
【0033】
線状要素24および接続要素23の線材の幅は、特に限定されないが、例えば30~500μmである。線状要素24および接続要素23の線材の長さは、特に限定されないが、例えば0.2~20mmである。線状要素24および接続要素23の線材の厚さは、特に限定されないが、例えば30~500μmである。拡張時のステント20の外径は、拡張時のステントカバー30の内径と略同一であるが、これより大きくても小さくてもよい。拡張時のステント20の軸方向の長さは、拡張時のステントカバー30の軸方向の長さと略同一であるが、これより長くても短くてもよい。
【0034】
ステント20は、径方向に収縮された状態で、収縮されたバルーン2の外表面に配置される。バルーン2が拡張すると、ステント20は、円周方向に隣接する線状要素24の成す角度が広がり、ステント20は径方向へ拡張する。
【0035】
ステント20の構成材料は、公知の材料を適用でき、例えばステンレス、コバルトクロム合金、ニッケルチタン合金などの金属材料、ポリ乳酸、ポリカプロラクトンなどの高分子材料、等を適用できる。
【0036】
ステントカバー30は、
図2、4~5に示すように、柔軟な繊維31により複数の空隙32を有して管状に形成される。ステントカバー30は、軸方向の先端および基端の間に、中央部33を有している。ステントカバー30は、ステント20の軸方向の長さの範囲内にある。
【0037】
ステントカバー30の繊維31は、ニットの形態で管状に編まれた長尺繊維31Aと、ステントカバー30の軸方向の先端部および基端部に配置される複数の短尺繊維31Bとを有している。
【0038】
長尺繊維31Aは、長尺繊維31A上の軸方向の一端側の折り返し部34Bから軸方向の他端側の折り返し部34Aを介して軸方向の一端側の他の折り返し部34Bに至るまでの長さで区分された複数のループ34を有している。なお、一端側の向きと他端側の向きは固定されているものではなく、その都度設定されてよい。複数のループ34は、ステントカバー30の円周方向に連続して配置され、螺旋状に並ぶ。元のループ34と、ループ34が任意数連続した後の同じ円周方向の位置に形成されるループ34は、軸方向にずれつつ交差する。このように繊維31が連続することで、ニットは円周方向と軸方向にループ34が連なった管状の構造となる。円周方向に連続する複数のループ34は、360度毎に異なる列38を形成する。空隙32は、ループ34の内側の領域である。
【0039】
ループ34は、ステントカバー30の軸方向の各々の端部に、複数の端部ループ37を含んでいる。各々の端部ループ37は、中央部33側の折り返し部34Bから端部側の折り返し部34Aを介して中央部33側の他の折り返し部34Bに至るまでの長さで区分し、端部側へ向かって凸状としている。
【0040】
ステントカバー30は、
図5に示すように、軸方向の各々の端部に、複数の端部空隙35と、複数の隣接領域36とを有する。端部空隙35は、端部に向かって凸状である端部ループ37形成される空隙32であり、端部ループ37の内側の領域である。
【0041】
隣接領域36は、
図5に示すように、円周方向に隣接する2つの端部空隙35の間に位置する空隙32である。すなわち、隣接領域36は、端部側の折り返し部34Aから中央部33側の折り返し部34Bを介して端部側の他の折り返し部34Aに至るまでの長さで区分される中央部33側へ向かって凸状であるループ34の内側の領域である。ステントカバー30の各々の端部において、端部空隙35および隣接領域36は、円周方向へ交互に配置される。
【0042】
各々の短尺繊維31Bは、ステントカバー30の軸方向の各々の端部の接続範囲Aにおいて、円周方向に隣接する2つの端部ループ37と、交差位置39で接続されている。すなわち、短尺繊維31Bは、円周方向に隣接する2つの端部ループ37の間に位置し、2つの端部ループ37を接続している。各々の短尺繊維31Bは、4つの交差位置39で、いずれかの端部ループ37と接続されている。なお、各々の短尺繊維31Bに対して端部ループ37が接続される交差位置39の数は、限定されず、少なくとも1つであればよい。なお、このような繊維同士の接続は、繊維同士が固定されることを意味し、融着固定や接着固定などの方法を適用することにより形成される。
【0043】
接続範囲Aにおいて、長尺繊維31A同士が交差する長尺繊維交差位置40で長尺繊維31A同士が交差位置39と同様に、接続されていてもよい。交差する繊維31同士が接続される接続範囲Aの好ましい範囲は、ステントカバー30の軸方向の各々の端部から、ステントカバー30の端部ループ37から軸方向の中央部33側に4つ移動した先のループ34の繊維31と、5つ移動した先のループ34の繊維31が交差する長尺繊維交差位置40までを含む範囲以内である。
【0044】
短尺繊維31Bは、生体内留置物10の軸方向の各々の端部に配置される、繊維31から切断されて切り離された小片である。短尺繊維31Bは、管状に編まれた長い管状繊維部材60(
図7を参照)から、軸方向に所定の長さを有するステントカバー30を切り出す際に、ループ34が切断させることで形成される。
【0045】
拡張時の軸方向に並ぶ列38の間隔、すなわち円周方向へ延びる繊維31が1周する毎に軸方向へずれる長さであるウェール幅Wは、特に限定されないが、例えば0.015~8.0mmであり、好ましくは0.15~0.95mmである。拡張時の円周方向に並ぶループ34の間隔であるコース幅Cは、特に限定されないが、例えば0.01~5.0mmであり、好ましくは0.1~0.6mmである。
【0046】
短尺繊維31Bの中央部33側の位置P3は、端部ループ37と、端部ループ37の中央部33側に配置されて端部ループ37と軸方向に隣接する他のループ34とが交差する軸方向の位置P2より端部側にあることが好ましいが、これに限定されない。位置P3から位置P2までの距離L1は、ウェール幅Wの1/4程度と想定される。距離L1は、特に限定されないが、好ましくは0.00375~2.0mmであり、より好ましくは0.0375~0.2375mmである。
【0047】
ステントカバー30の軸方向の端部側の短尺繊維31Bの端部の位置P5から、当該短尺繊維31Bが接続する端部ループ37の端部側の折り返し部34Aの位置P4までの距離L2は、当該端部ループ37の軸方向の距離L3(端部ループ37の端部側の折り返し部34Aの位置P4から中央部33側の折り返し部34Bの位置P1までの距離L3)より短いことが好ましいが、これに限定されない。距離L2は、0~ウェール幅W程度と想定される。距離L2は、特に限定されないが、好ましくは0~8.0mmであり、より好ましくは0~0.95mmである。距離L3は、ウェール幅Wの5/4程度と想定される。距離L3は、特に限定されないが、好ましくは0.01875~10.0mmであり、より好ましくは0.1875~1.1875mmである。
【0048】
ステントカバー30の軸方向の中央側の短尺繊維31Bの端部の位置P3は、短尺繊維31Bが接続する端部ループ37の軸方向の中心位置P6(位置P4と位置P1の間の中間位置)より端部側にあることが好ましいが、これに限定されない。すなわち、位置P3から位置P1までの距離L4は、位置P4から位置P1までの距離L3の1/2よりも大きいことが好ましいが、これに限定されない。距離L4は、ウェール幅Wの3/4程度と想定される。距離L4は、特に限定されないが、好ましくは0.01125~6.0mmであり、より好ましくは0.1125~0.7125mmである。
【0049】
端部ループ37の中央部33側に配置されて端部ループ37と軸方向に隣接する他のループ34とが交差する軸方向の位置P2から、中央部33側の折り返し部34Bの位置P1までの距離L5は、ウェール幅Wの半分程度と想定される。距離L5は、特に限定されないが、好ましくは0.0075~4.0mmであり、より好ましくは0.075~0.475mmである。
【0050】
各々の短尺繊維31Bは、ステントカバー30の軸方向の中央側に向く凸部を1つ有する凸型形状であり、2つの隣接する端部ループ37のみと接続し、各々の短尺繊維31Bの両端は、接続する端部ループ37の、ステントカバー30の端部側の折り返し部34Aより端部側に位置する。なお、短尺繊維31Bが接続する2つの端部ループ37は、隣接していなくてもよい。また、短尺繊維31Bは、3つ以上の端部ループを接続してもよい。
【0051】
ステントカバー30の各々の端部に位置する全ての端部ループ37が、短尺繊維31Bで接続されている。なお、端部ループ37の一部が、短尺繊維31Bで接続されていてもよい。
【0052】
ステントカバー30の軸方向の端部から中央部33へ向かう接続範囲A内の長尺繊維31Aおよび短尺繊維31Bの径方向の厚みは、中央部33内の長尺繊維31Aの径方向の厚みより小さい。なお、接続範囲A内の長尺繊維31Aおよび短尺繊維31Bの径方向の厚みは、中央部33内の長尺繊維31Aの径方向の厚みと同等、または中央部33内の長尺繊維31Aの径方向の厚みより大きくてもよい。
【0053】
なお、ステントカバー30は、
図6に示す変形例のように、円周方向に隣接する端部ループ37同士が直接的に接続されたループ間接続部31Cを有してもよい。
【0054】
繊維31の繊維径は、特に限定されないが、例えば0.007~0.1mmであり、好ましくは0.01~0.03mmである。拡張時のステントカバー30の外径は、特に限定されないが、例えば1.00~50.00mmであり、好ましくは2.25~4.00mmである。ステントカバー30の軸方向の長さは、特に限定されないが、例えば5~250mmであり、好ましくは12~38mmである。
【0055】
ステントカバー30を形成する繊維31の構成材料は、特に限定されないが、生分解性材料や非生分解性材料を適用できる。生分解性材料は、例えばポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリジオキサノン(PDO)、トリメチレンカーボネート(PTMC)、またはそれらの共重合体(二元共重合体、三元共重合体、四元共重合体)として、グリコール酸-乳酸共重合体(PGA-LA)、グリコール酸-カプロラクトン共重合体(PGA-CL)、等である。これらの中でも、特に、ポリグリコール酸、グリコール酸-乳酸共重合体またはグリコール酸-カプロラクトン共重合体が好ましく、ポリグリコール酸がより好ましい。なお、ポリグリコール酸の破断伸びは、約40%である。非生分解性材料は、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリオレフィン(PO)、酸化アクリル、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレンコビニルアセテート(PEVA)、ポリエチレンエラストマー、ポリエチレンオキシドポリブチレンテレフタレート共重合体(PEO-PBT)、ポリエチレンオキシドポリ乳酸共重合体(PEO-PLA)、ポリブチルメタクリレート(PBMA)、ポリウレタン(PU)、シリコン-ポリカーボネートウレタン共重合体(SPCU)、医療グレードのポリカーボネートウレタン(PCU)、ポリアミド(PA)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMA)、マレイン酸、ヘロン酸、タコン酸の1つ以上を含むカルボン酸部分および/またはこれらのモノマー、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマー、ポリオレフィンエラストマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリフルオロポリマー、および/またはポリアミドの組み合わせおよび/またはエステル、等である。
【0056】
ステントカバー30とステント20は、接着、融着または糸で結ぶなどの公知の技術で、全体あるいは一部が固定されてもよい。ステントカバー30とステント20が固定されることで、デリバリー中にステントカバー30がステント20から脱落するリスクが減少する。
【0057】
次に、本実施形態に係る生体内留置物10の作用を説明する。
生体内留置物10は、
図2、4~5に示すように、ステントカバー30の短尺繊維31Bが、ステントカバー30の軸方向の端部の円周方向に隣接する端部ループ37同士を接続している。これにより、端部ループ37は、円周方向に隣接して短尺繊維31Bを介して接続される他の端部ループ37から拘束を受けるため、径方向外側に広がにくい。このため、バルーンカテーテル1のバルーン2に載置した生体内留置物10を生体管腔内で搬送する際に、生体内組織などが引っ掛かることによるステントカバー30の破損やステント20の脱落を引き起こすリスクが低減される。また、端部ループ37内の空隙32と、端部ループ37に隣接する空隙32の存在が維持される。このため、内皮細胞の浸潤性を損なわないことから内皮化の遅延が抑制され、血栓の発生リスクが抑制される。また、短尺繊維31Bが長尺繊維31Aに接続されているため、短尺繊維31Bがステントカバー30から脱落しない。このため、短尺繊維31Bが生体管腔の抹消へ飛散することによる末梢側の管腔を閉塞するリスクが抑制される。
【0058】
<製造方法>
次に、
図7を参照して、生体内留置物10の製造方法を説明する。
【0059】
まず、管状のステント20および、空隙32を有するように繊維31をニット状に編んで管状に形成した管状繊維部材60を準備する(準備工程)。次に、
図7(A)に示すように、例えばPTFE製の保護チューブ101を被せたステンレス製の芯金部材100を、管状繊維部材60の内腔に挿入する(挿入工程)。保護チューブ101は、PTFE製であるため、溶融した材料が芯金部材100に固着することを防止する。なお、保護チューブ101の材料は、溶融した材料が固着しにくい材料であれば、PTFEに限定されない。また、保護チューブ101は、設けられなくてもよい。また、芯金部材100の材料は、ステンレスに限定されない。管状繊維部材60の軸方向の長さは、複数のステントカバー30を切り出すことが可能な長さで設定される。
【0060】
次に、
図7(B)、
図8に示すように、管状繊維部材60の外周面の軸方向に離れた複数の接続領域CRに、超音波溶着機のホーン110を押し付ける。ホーン110は、管状繊維部材60に接触する接触面111を有している。接触面111は、管状繊維部材60の円周方向へ円弧状の凹面で形成される。管状繊維部材60の軸方向において、接触面111の接触面幅Sは、管状繊維部材60の空隙32の幅(ウェール幅W)よりも広い。このため、接触面111が管状繊維部材60の軸方向のいずれかの位置で接触しても、接触面111は交差位置に確実に接触する。次に、超音波溶着機により接触面111を管状繊維部材60の繊維31に押し付けつつ、超音波により加振する。これにより、超音波による振動が管状繊維部材60を発熱させ、軟化溶融現象が起こされて、交差位置の繊維31同士が接続される(接続工程)。このような超音波による溶着では、接触面111の周囲への熱の影響が少なく、また、溶着に要する時間が短い。各々の接続領域CRにおいて、ホーン110の接触面111は、接触面幅Sが管状繊維部材60の軸に平行になるように、管状繊維部材60の外周面に接触する。各々の接続領域CRにおいて、接触面幅Sは、管状繊維部材60の空隙32が軸方向に複数個、好ましくは15個、より好ましくは10個、さらに好ましくは8個連続する領域の軸方向の幅より狭いが、これに限定されない。
【0061】
続いて、管状繊維部材60の接続領域CRの全周をホーン110により超音波溶着するために、管状繊維部材60およびホーン110を相対的に回転させて、接続領域CRの円周方向の複数個所で溶着する。このとき、ホーン110の軸方向の位置は固定される。これにより、管状繊維部材60の接続領域CRの全周において、交差位置の繊維31同士が接続される。接続領域CRの軸方向の長さは、最終的に形成する接続範囲Aの軸方向の長さの約2倍である。
【0062】
接続領域CRの繊維31の径方向の厚みは、ホーン110の押圧により、接続領域CR以外の繊維31の径方向の厚みよりも小さくなる。
【0063】
次に、
図7(C)に示すように、芯金部材100を管状繊維部材60から抜去する(抜去工程)。このとき、管状繊維部材60と芯金部材100の間に保護チューブ101が設けられているため、管状繊維部材60から芯金部材100を引き抜くことが容易である。次に、
図7(D)に示すように、管状繊維部材60の軸方向の接続領域CRで、管状繊維部材60を保護チューブ101とともに切断する(切断工程)。切断する位置は、各々の接続領域CRの軸方向の略中央である。これにより、切断部位の両側が、異なるステントカバー30の軸方向の端部の、接触する繊維31同士が溶着された接続範囲Aを形成する。なお、前述の芯金部材100を管状繊維部材60から抜去する工程は、管状繊維部材60を切断した後に行われてもよい。この場合、管状繊維部材60は、芯金部材100とともに切断される。
【0064】
次に、
図7(E)に示すように、切断された管状繊維部材60から形成されたステントカバー30から、保護チューブ101を取り除く。なお、保護チューブ101は、抜去工程において、芯金部材100とともに、または芯金部材100の抜去後に管状繊維部材60から抜去されてもよい。この後、ステント20の外周にステントカバー30を被せて取り付ける(取付工程)。これにより、ステント20およびステントカバー30を有する生体内留置物10が完成する。
【0065】
なお、管状繊維部材60を切断した後に、切断した部材の軸方向の端部を超音波溶着することによって、接触する繊維31同士が溶着された接続範囲Aを形成してもよい。
【0066】
また、複数のホーン110が接続領域CR上で円周方向に並べて配置され、接続領域CRの円周方向の複数個所で交差位置の繊維31同士が同時に溶着されてもよい。その後、管状繊維部材60および複数のホーン110を相対的に回転させてもよい。複数のホーン110を用いる場合、超音波振動に伴う管状繊維部材60の振動が抑制され、接続領域CRの軸方向の長さおよび位置のバラつきが円周方向上で抑制される。
【0067】
また、交差位置の繊維31同士の接続にあたり、超音波融着の代わりにレーザー溶着を用いてもよい。レーザー溶着を用いる場合、管状繊維部材60に対して振動が加わらないため、接続領域CRの軸方向の長さおよび位置のバラつきが円周方向上で抑制される。また素材を損傷するリスクが低減される。
【0068】
また、長尺繊維31Aおよび短尺繊維31Bを接続する方法は、超音波溶着やレーザー溶着に限定されず、例えば、熱風溶着、振動溶着、誘導溶着、高周波溶着または熱溶着等であってもよい。なお、長尺繊維31Aおよび短尺繊維31Bを接続する方法としては、接着剤等の他の部材を使用せずに、長尺繊維31Aおよび短尺繊維31Bの材料同士を直接的に接続する方法が好ましい。
【実施例0069】
実施例1として、上述の製造方法により、生体内留置物10を製造した。
準備した管状繊維部材60の繊維31の材料はPET、繊維径は27μm、コース幅Cは150μm、ウェール幅Wは250μmであった。管状繊維部材60に保護チューブ101および芯金部材100を挿入し、超音波溶着機のホーン110を外周面に押し付けた。ホーン110の接触面幅Sは2mm、接触面111の曲率半径は2mm、接触面111上の接触面幅Sに垂直な方向の幅は水平距離において3mmであった。超音波溶着機の周波数は40kHz、溶着時間は1秒であった。次に、接続位置CRを軸方向の中央で切断した。
【0070】
結果として、接続範囲Aにて接触する繊維31同士が接続されたステントカバー30が得られた。切断工程により形成された短尺繊維31Bは、円周方向に隣接する長尺繊維31Aの端部ループ37同士を接続していた。得られたステントカバー30を、別途準備したステント20に被せて、生体内留置物10を得た。
【0071】
以上のように、本実施形態に係る生体内留置物10は、軸方向に延び、先端および基端を有し、径方向への拡張および収縮が可能に形成され、隙間を有する管状のステント20と、軸方向に延び、先端および基端を有し、径方向への拡張および収縮が可能に形成され、空隙32を有する管状で、繊維31により形成されたステントカバー30と、を有する生体内留置物10であって、ステントカバー30の繊維31は、折り返されつつステントカバー30の円周方向へ波線状に連続し、ニット状に編み込まれた長尺繊維31Aと、ステントカバー30の軸方向の端部に配置された少なくとも1つの短尺繊維31Bと、を有し、長尺繊維31A上の軸方向の一端側の折り返し部34Bから軸方向の他端側の折り返し部34Aを介して軸方向の一端側の他の折り返し部34Bに至るまでの長さで区分された前記繊維をループと定義し、短尺繊維31Bは、軸方向の端部に位置し、円周方向に隣接した、端部側に凸状となる端部ループ37同士を接続している。
【0072】
上記のように構成した生体内留置物10は、ステントカバー30の軸方向の端部に位置する端部ループ37が、円周方向に隣接して短尺繊維31Bを介して接続される他の端部ループ37から拘束を受けるため、径方向外側に広がにくい。このため、生体内組織などが引っ掛かることによるステントカバー30の破損やステント20の脱落を引き起こすリスクが低減される。また、端部ループ37内の端部空隙35と端部ループ37に隣接する隣接領域36の存在が維持される。このため、内皮細胞の浸潤性を損なわないことから内皮化の遅延が抑制され、血栓の発生リスクが抑制される。
【0073】
また、短尺繊維31Bは、ステントカバー30の軸方向の端部の端部ループ37と、当該端部ループ37と軸方向に隣接する他のループ34とが交差する軸方向の位置P2より端部側にある。軸方向の端部のループ34の径方向外側への広がりが起こる場合、当該ループ34は、軸方向に隣接する他のループ34と交差する軸方向位置を支点として、それより端部側の位置で径方向外側に広がろうとする。短尺繊維31Bが端部側に設けられることで、当該ループ34が径方向外側に広がるために必要なモーメントが増加することにより、ステントカバー30の広がりを防止する効果が高まる。
【0074】
また、ステントカバー30の軸方向の端部側の短尺繊維31Bの端部から、当該短尺繊維31Bが接続する端部ループ37の端部側の折り返し部34Aまでの距離L2は、端部ループ37の軸方向の距離L3より短い。これにより、生体内組織などが引っ掛かることによるステントカバー30の破損やステント20の脱落を引き起こすリスクが低減される。
【0075】
また、ステントカバー30の軸方向の中央側の短尺繊維31Bの端部の位置P3は、短尺繊維31Bが接続するループ34の軸方向の中心位置P6より端部側にある。これにより、端部に位置するループ34が径方向外側に広がるためのモーメントが増加することにより、ステントカバー30の広がりを防止する効果が高まる。
【0076】
また、短尺繊維31Bは、ステントカバー30の軸方向の中央側に向く凸部を1つ有する凸型形状であり、2つの隣接する端部ループ37のみと接続し、短尺繊維31Bの終端は、接続する端部ループ37のステントカバー30の端部側の折り返し部34Aより端部側に位置してもよい。これに加えて、上述した、ステントカバー30の軸方向の中央側の短尺繊維31Bの端部の位置P3が、短尺繊維31Bが接続するループ34の軸方向の中心位置P6より端部側にある場合、短尺繊維31Bが端部ループ37内を円周方向に沿って分断するように配置される場合と比較して、端部ループ37内の空隙32の面積の減少が抑えられる。このため、内皮細胞の浸潤性の低下が抑制され、より早期の内皮化が促される。そして、血栓の発生リスクが更に抑制される。
【0077】
また、ステントカバー30の軸方向の端部の長尺繊維31Aおよび短尺繊維31Bの径方向の厚みは、端部以外の長尺繊維31Aの径方向の厚みより小さい。これにより、端部の外径が小さくなり、デリバリー時の通過性が向上するため、生体内留置物10はより末梢の病変を治療できるようになる。
【0078】
また、ステントカバー30の軸方向の端部に位置する全ての端部ループ37が短尺繊維31Bで接続されている。これにより、端部ループ37が径方向外側に広がるリスクがさらに低下する。このため、生体内組織などが引っ掛かることによるステントカバー30の破損やステント20の脱落を引き起こすリスクが低減される。
【0079】
また、隣接するステントカバー30の端部の端部ループ37同士が固定されたループ間接続部31Cを有してもよい。これにより、端部ループ37が径方向外側に広がるリスクがさらに低下する。このため、生体内組織などが端部ループ37に引っ掛かることによるステントカバー30の破損やステント20の脱落を引き起こすリスクが低減される。
【0080】
また、ステントカバー30は、ステント20の軸方向の長さの範囲内にある。これにより、ステントカバー30の軸方向の端部の径方向外側への望ましくない広がりを抑制できる。このため、生体内組織などがステントカバー30に引っ掛かることによるステントカバー30の破損やステント20の脱落を引き起こすリスクが低減される。
【0081】
また、ステントカバー30は、生分解性材料により形成されてもよい。これにより、生体内留置物10を生体内に留置後、ステントカバー30が分解して消失することで、ステントカバー30を起点に異物反応が起きるリスクが低減される。
【0082】
また、生体内留置物10の製造方法は、軸方向に延び、先端および基端を有し、径方向への拡張および収縮が可能に形成され、隙間を有する管状のステント20および、空隙32を有するように繊維がニット状に編み込まれて管状に形成された管状繊維部材60を準備する準備工程と、準備工程後に芯金部材100を管状繊維部材60に挿入する挿入工程と、挿入工程後に管状繊維部材60の軸方向に離れた複数の接続領域CRで、編み込まれた繊維31同士の交差位置39を接続する接続工程と、接続工程後に各々の接続領域CRの範囲内にある軸方向の位置で管状繊維部材60を切断する切断工程と、切断工程後に得られたステントカバー30をステント20に取り付ける取付工程と、接続工程後であって取り付け工程前のいずれかの段階で、管状繊維部材60またはステントカバー30から芯金部材100を抜去する抜去工程と、を有することを特徴とする。
【0083】
上記のように構成した生体内留置物10の製造方法は、切断された位置にあったループの繊維31と、これと軸方向に隣接するループの繊維31との交差位置39が接続されているため、切断された位置にあったループの繊維31が、ステントカバー30から遊離し得るフラグメントとして残存することが防止される。これより、本製造方法で得られる生体内留置物10においては、生体内へ留置後にフラグメントが生体内に飛ばされて生体管腔を閉塞するリスクが低減される。
【0084】
また、前述の接続工程において、各々の接続領域CRにある管状繊維部材60の軸方向および円周方向の全ての交差位置39および長尺繊維交差位置40を接続する。これにより、全てのループ34が短尺繊維31Bで接続された生体内留置物10が得られ、ループ34が径方向外側に広がるリスクがさらに低下する。このため、生体内組織などがステントカバー30に引っ掛かることによるステントカバー30の破損やステント20の脱落を引き起こすリスクが低減される。
【0085】
また、前述の接続工程において、超音波溶着機で交差位置39を溶着する。これにより、接続工程に要する時間が短縮される。また、溶着箇所周辺の熱影響が減少し、ステントカバー30の空隙32が意図せず減少して内皮細胞の浸潤性を損なうリスクが低減される。
【0086】
また、前述の接続工程において、管状繊維部材60の空隙32の軸方向の幅より広い接触面幅Sの接触面111を有する超音波溶着機を使用し、各々の接続領域CRにおいて、接触面幅Sが管状繊維部材60の軸に平行になるように接触面111を繊維31に接触させて溶着する。これにより、超音波溶着機が管状繊維部材60の軸方向のいずれの位置で接触しても、交差位置39が確実に溶着される。
【0087】
また、前述の接続工程において、管状繊維部材60の空隙32が軸方向に10個連続する領域の軸方向の幅より狭い接触面幅Sの接触面111を使用してもよい。これにより、接続領域CRの軸方向の長さが限定されるために長くなり過ぎることなく、交差位置39が溶着されない拡張性および収縮性に優れるステントカバー30の中央部33の領域が広く確保される。
【0088】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、短尺繊維31Bの形状は、特に限定されず、直線状、波状、またはジグザグ状等であってもよい。また、例えば
図9のように、短尺繊維31Bは、ステントカバー30の円周方向へ延在してリング状に形成されてもよい。
【0089】
また、ステントカバー30の長尺繊維31Aおよび短尺繊維31Bが接続された接続範囲Aは、
図10に示すように、折りたたみ部30Aを有するように縮径されてもよい。これにより、接続範囲Aのステントカバー30は、折りたたみ部30Aが開くように拡径する。これにより、繊維31の破断伸びが小さくても、ステントカバー30の端部の拡張径が大きく確保され、ステントカバー30の端部の拡張時の破断が防止される。なお、長尺繊維31Aおよび短尺繊維31Bが伸縮性の高い材料により形成される場合には、接続範囲Aは、折り畳まれる構造を有さずに縮径されてもよい。
【0090】
また、ステント20またはステントカバー30の表面または内部に、免疫抑制剤などの公知の薬剤が含まれてもよい。