(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057623
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】医療用具
(51)【国際特許分類】
A61L 29/04 20060101AFI20240418BHJP
A61L 29/08 20060101ALI20240418BHJP
A61L 29/14 20060101ALI20240418BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20240418BHJP
A61L 31/10 20060101ALI20240418BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20240418BHJP
A61L 29/02 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
A61L29/04 100
A61L29/08 100
A61L29/14
A61L31/04 110
A61L31/10
A61L31/14
A61L29/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021039825
(22)【出願日】2021-03-12
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小濱 弘昌
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AC06
4C081AC08
4C081AC09
4C081BB05
4C081CA082
4C081CA282
4C081CF21
4C081DC03
4C081EA06
(57)【要約】
【課題】優れた潤滑性および耐久性(潤滑維持性)を発揮する表面潤滑層を形成できる親水性共重合体を提供する。
【解決手段】基材層と、前記基材層の少なくとも一部に形成された親水性共重合体を含む潤滑層と、を備える医療用具であって、前記親水性共重合体が、スルホン酸イオンの対イオンがアルカリ金属カチオンであるスルホベタイン構造を有する重合性単量体(A)由来の構成単位、および光反応性基を有する重合性単量体(B)由来の構成単位を含み、前記重合性単量体(A)由来の構成単位の含有量が全単量体由来の構成単位の合計に対して、80モル%を超え100モル%未満である、医療用具。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、前記基材層の少なくとも一部に形成された親水性共重合体を含む潤滑層と、を備える医療用具であって、
前記親水性共重合体が、スルホン酸イオンの対イオンがアルカリ金属カチオンであるスルホベタイン構造を有する重合性単量体(A)由来の構成単位、および光反応性基を有する重合性単量体(B)由来の構成単位を含み、前記重合性単量体(A)由来の構成単位の含有量が全単量体由来の構成単位の合計に対して、80モル%を超え100モル%未満である、医療用具。
【請求項2】
前記重合性単量体(A)が、下記式(1)で表される、請求項1に記載の医療用具:
【化1】
上記式(1)中、
R
11は、水素原子またはメチル基であり、
Z
1は、酸素原子または-NH-であり、
R
12およびR
15は、それぞれ独立して、炭素原子数1~20の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、
R
13およびR
14は、それぞれ独立して、炭素原子数1~20の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、
M
+は、アルカリ金属カチオンであり、
X
-は、アニオン部である。
【請求項3】
前記式(1)において、前記M+が、ナトリウムイオン(Na+)またはカリウムイオン(K+)である、請求項2に記載の医療用具。
【請求項4】
前記式(1)において、前記X-が、フッ化物イオン(F-)、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、ヨウ化物イオン(I-)、硫酸水素イオン(HSO4
-)、硫酸イオン(SO4
2-)、硝酸イオン(NO3
-)、リン酸二水素イオン(H2PO4
-)、リン酸水素イオン(HPO4
2-)、およびリン酸イオン(PO4
3-)からなる群より選択される、請求項2または3に記載の医療用具。
【請求項5】
前記重合性単量体(A)由来の構成単位の含有量が全単量体由来の構成単位の合計に対して、85モル%以上99.9モル%未満である、請求項1~4のいずれか1項に記載の医療用具。
【請求項6】
前記親水性共重合体は、前記重合性単量体(A)由来の構成単位および前記重合性単量体(B)由来の構成単位から構成される、請求項1~5のいずれか1項に記載の医療用具。
【請求項7】
前記潤滑層は、前記親水性共重合体から構成される、請求項1~6のいずれか1項に記載の医療用具。
【請求項8】
前記医療用具は、カテーテル、ステントまたはガイドワイヤである、請求項1~7のいずれか1項に記載の医療用具。
【請求項9】
基材層と、前記基材層の少なくとも一部に担持された潤滑層と、を備える医療用具の製造方法であって、
下記式(2)で表される重合性単量体(A’)由来の構成単位、および光反応性基を有する重合性単量体(B)由来の構成単位を含み、前記重合性単量体(A’)由来の構成単位の含有量が全単量体由来の構成単位の合計に対して、80モル%を超え100モル%未満である共重合体と、アルカリ金属塩と、溶媒とを含むコート液を調製し、前記コート液を前記基材層上に塗布することを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の医療用具の製造方法:
【化2】
上記式(2)中、
R
11は、水素原子またはメチル基であり、
Z
1は、酸素原子または-NH-であり、
R
12およびR
15は、それぞれ独立して、炭素原子数1~20の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、
R
13およびR
14は、それぞれ独立して、炭素原子数1~20の直鎖または分岐鎖のアルキル基である。
【請求項10】
前記アルカリ金属塩は、塩化ナトリウムまたは硫酸ナトリウムである、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性共重合体を含む表面潤滑層を有する医療用具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カテーテルはより末梢の病変へアクセスするために細径化が進んでいる。そのため、カテーテルと生体管腔内面との間のクリアランスが極めて小さくなり、カテーテル表面に高い摩擦抵抗が生じる。そのため、カテーテル表面に潤滑性および耐久性(潤滑維持性)を付与するコーティングが求められている。
【0003】
また、カテーテル等の基材にコーティングを施す際、生体材料への適用や作業者の安全の面から、溶剤としては水、アルコール、水/アルコール混合溶媒等の毒性の低い溶剤を選択する必要がある。そのため、コーティングの構成成分は、かような溶剤に溶解あるいは分散すること(溶剤溶解性)が求められている。
【0004】
上記を目的として、特許文献1には、スルホベタイン構造を有する重合性単量体(A)由来の構成単位と、スルホン酸基(-SO3H)、硫酸基(-OSO3H)および亜硫酸基(-OSO2H)ならびにこれらの塩の基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有する重合性単量体(B)由来の構成単位と、光反応性基を有する重合性単量体(C)由来の構成単位とを含む、親水性共重合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載の親水性共重合体を含む潤滑層は優れた潤滑性および耐久性(潤滑維持性)を発揮できる。また、上記特許文献1に記載の親水性共重合体は、水、アルコール、水/アルコール混合溶媒等の溶剤に対して優れた溶解性を示す。
【0007】
一方、上記特許文献1に記載の親水性共重合体は、構成単位(A)、(B)および(C)を含む3元またはそれ以上の共重合体である。一方で、生産性などの観点からは、親水性共重合体を構成する構成単位数は少ないことが好ましい。
【0008】
したがって、本発明の目的は、優れた潤滑性および耐久性(潤滑維持性)を発揮する表面潤滑層を形成でき、構成単位数の少ない親水性共重合体を提供することにある。
【0009】
また、本発明の他の目的は、良好な溶剤溶解性を有し、構成単位数の少ない親水性共重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、スルホベタイン構造を有する重合性単量体(A)由来の構成単位において、スルホン酸イオンの対イオンをアルカリ金属カチオンにすることにより、上記目的を達成できることを見出した。
【0011】
すなわち、上記目的は、基材層と、前記基材層の少なくとも一部に形成された親水性共重合体を含む潤滑層と、を備える医療用具であって、前記親水性共重合体が、スルホン酸イオンの対イオンがアルカリ金属カチオンであるスルホベタイン構造を有する重合性単量体(A)由来の構成単位、および光反応性基を有する重合性単量体(B)由来の構成単位を含み、前記重合性単量体(A)由来の構成単位の含有量が全単量体由来の構成単位の合計に対して、80モル%を超え100モル%未満である、医療用具によって達成できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、優れた潤滑性および耐久性(潤滑維持性)を発揮する表面潤滑層を形成でき、構成単位数の少ない親水性共重合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る医療用具の代表的な実施形態の表面の積層構成を模式的に表した部分断面図である。
【
図2】
図1の実施形態の応用例として、表面の積層構成の異なる構成例を模式的に表した部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、本明細書において、範囲を示す「X~Y」は、XおよびYを含み、「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~60%RHの条件で測定する。
【0015】
本明細書において、「(メタ)アクリル」との語は、アクリルおよびメタクリルの双方を包含する。よって、例えば、「(メタ)アクリル酸」との語は、アクリル酸およびメタクリル酸の双方を包含する。同様に、「(メタ)アクリロイル」との語は、アクリロイルおよびメタクリロイルの双方を包含する。よって、例えば、「(メタ)アクリロイル基」との語は、アクリロイル基およびメタクリロイル基の双方を包含する。
【0016】
本明細書において、「Aおよび/またはB」は、AおよびBの両方、または、AもしくはBのいずれか一方を意味する。
【0017】
また、本明細書において「置換」とは、特に定義しない限り、C1~C30アルキル基、C2~C30アルケニル基、C2~C30アルキニル基、C1~C30アルコキシ基、アルコキシカルボニル基(-COOR、RはC1~C30アルキル基)、ハロゲン原子(F、Cl、BrまたはI原子)、C6~C30アリール基、C6~C30アリールオキシ基、アミノ基、C1~C30アルキルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、チオール基、C1~C30アルキルチオ基またはヒドロキシル基で置換されていることを指す。なお、ある基が置換される場合、置換された構造がさらに置換される前の定義に含まれるような置換の形態は除外される。例えば、置換基がアルキル基である場合、置換基としてのこのアルキル基はさらにアルキル基で置換されることはない。
【0018】
また、本明細書において、ある構成単位がある単量体に「由来する」と規定される場合には、当該構成単位が、対応する単量体の有する重合性不飽和二重結合の一方の結合の切断により生じる2価の構成単位であることを意味する。
【0019】
<医療用具>
本発明の第一の態様によると、基材層と、前記基材層の少なくとも一部に形成された親水性共重合体を含む潤滑層と、を備える医療用具であって、前記親水性共重合体が、スルホン酸イオンの対イオンがアルカリ金属カチオンであるスルホベタイン構造を有する重合性単量体(A)由来の構成単位、および光反応性基を有する重合性単量体(B)由来の構成単位を含み、前記重合性単量体(A)由来の構成単位の含有量が全単量体由来の構成単位の合計に対して、80モル%を超え100モル%未満である、医療用具が提供される。
【0020】
本明細書において、「スルホン酸イオンの対イオンがアルカリ金属カチオンであるスルホベタイン構造を有する重合性単量体(A)」を、単に「重合性単量体(A)」または「単量体(A)」とも称する。また、「スルホン酸イオンの対イオンがアルカリ金属カチオンであるスルホベタイン構造を有する重合性単量体(A)由来の構成単位」を、単に「構成単位(A)」とも称する。
【0021】
同様にして、本明細書において、「光反応性基を有する重合性単量体(B)」を、単に「重合性単量体(B)」または「単量体(B)」とも称する。また、「光反応性基を有する重合性単量体(B)由来の構成単位」を、単に「構成単位(B)」とも称する。
【0022】
本明細書において、「スルホン酸イオンの対イオンがアルカリ金属カチオンであるスルホベタイン構造を有する重合性単量体(A)由来の構成単位、および光反応性基を有する重合性単量体(B)由来の構成単位を含み、前記重合性単量体(A)由来の構成単位の含有量が全単量体由来の構成単位の合計に対して、80モル%を超え100モル%未満である親水性共重合体」を、単に「本発明に係る親水性共重合体」または「親水性共重合体」とも称する。
【0023】
本発明は、表面潤滑層が上記特定の親水性共重合体を含むことを特徴とする。このため、まず特徴部分である親水性共重合体について説明した後、医療用具を下記[医療用具の好ましい実施形態]にて説明する。なお、本発明は、当該形態に限定されず、本発明の特徴部分以外の構成は、公知の医療用具の構成を同様にしてまたは適宜修正して適用できる。
【0024】
[親水性共重合体]
本発明に係る親水性共重合体は、スルホン酸イオンの対イオンがアルカリ金属カチオンであるスルホベタイン構造を有する重合性単量体(A)由来の構成単位、および光反応性基を有する重合性単量体(B)由来の構成単位を含む。また、本発明に係る親水性共重合体を構成する重合性単量体(A)由来の構成単位の含有量は、全単量体由来の構成単位の合計に対して、80モル%を超え100モル%未満である。当該親水性共重合体は、優れた潤滑性および耐久性(潤滑維持性)を発揮する表面潤滑層を形成することができる。また、当該親水性共重合体は、良好な溶剤溶解性(特に水、アルコール、水/アルコール混合溶媒に対する溶解性)を有する。かような効果が奏されるメカニズムについては完全には明らかではないが、以下のメカニズムが推定される。
【0025】
単量体(A)由来の構成単位に含まれるスルホベタイン構造は、優れた潤滑性付与効果を有する。このため、単量体(A)由来の構成単位の含有量を80モル%を超える親水性共重合体を含む表面潤滑層であれば、優れた潤滑性を発揮することができる。一方、本発明者の検討によれば、単量体(A)の単独重合体は塩化ナトリウム水溶液には可溶であるが、水や低級アルコールには溶解しないまたは溶解しにくい。また、単量体(B)由来の構成単位(構成単位(B))に含まれる光反応性基は、活性エネルギー線の照射により反応活性種を生成し、基材層表面と反応して化学結合を形成する。ゆえに、本発明に係る親水性共重合体を含む表面潤滑層は、基材層上に強固に固定化されるため、耐久性(潤滑維持性)に優れる。しかしながら、単量体(B)の単独重合体は水や低級アルコールには溶解しないまたは溶解しにくく、塩化ナトリウム水溶液にも溶解しない。従って、単量体(A)と単量体(B)(特にベンゾフェノン基を有する単量体)との共重合体は、水、塩化ナトリウム水溶液、低級アルコール、水/低級アルコール混合溶媒等に対してほとんど溶解あるいは分散せず(すなわち、溶剤溶解性がきわめて低く)、コーティングへの適用が困難であるとの課題がある。
【0026】
当該課題については、本発明者は、重合体間におけるスルホベタイン構造同士の静電相互作用が溶解性に影響を及ぼしていると推測した。重合性単量体(A)のスルホベタイン構造は、分子内にカチオン(第4級アンモニウムイオン(-N+(R)4))とアニオン(スルホン酸イオン(-SO3
-))を有し、同じ分子中のカチオンとアニオンとがまたは異なる分子中のカチオンとアニオンとが静電相互作用している。一方、スルホン酸イオンの対イオンをアルカリ金属カチオンとすると、一分子(スルホベタイン構造)中のアニオン(スルホン酸イオン(-SO3
-))がアルカリ金属カチオンと、カチオン(第4級アンモニウムイオン(-N+(R)4))が上記アルカリ金属カチオンの対イオンであるアニオンと、それぞれ優先的に相互作用(イオン対を形成)する。このため、重合体間の構成単位(A)(スルホベタイン構造)同士の相互作用が低減され、親水性重合体は水や低級アルコール等の水系溶剤中に溶解あるいは分散されやすくなる。ゆえに、本発明に係る親水性共重合体は、優れた溶剤溶解性(特に水、アルコール、水/アルコール混合溶媒に対する溶解性)を有する。このような溶剤溶解性の向上効果は、単量体(A)が下記式(1)で示される場合において特に顕著である。
【0027】
なお、上記メカニズムは推定であり、本発明は上記推定によって限定されない。
【0028】
以下、本発明に係る親水性共重合体を構成する各重合性単量体について説明する。
【0029】
(重合性単量体(A))
重合性単量体(A)(単量体(A))は、スルホン酸イオンの対イオンがアルカリ金属カチオンであるスルホベタイン構造を有する重合性単量体である。ここで、「スルホベタイン構造」とは、正電荷と硫黄元素を含む負電荷とが隣り合わない位置に存在し、正電荷を有する原子には解離しうる水素原子が結合しておらず、電荷の総和がゼロである構造を指す。
【0030】
単量体(A)の例としては、特に制限されないが、以下の構造を有する化合物が挙げられる。
【0031】
【0032】
上記構造中、RaおよびRdは、それぞれ独立して、置換されてもよい炭素原子数1~30のアルキレン基または置換されてもよい炭素原子数6~30のアリーレン基であってもよく、RbおよびRcは、それぞれ独立して、置換されてもよい炭素原子数1~30のアルキル基または置換されてもよい炭素原子数6~30のアリール基であってもよく、Yは、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基等のエチレン性不飽和基であってもよい。但し、上記一般式中、正電荷および負電荷の総和はゼロである。
【0033】
炭素原子数1~30のアルキレン基の例としては、メチレン基、エチレン基、トリエチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、sec-ブチレン基、tert-ブチレン基、ペンチレン基等が挙げられる。
【0034】
炭素原子数6~30のアリーレン基の例としては、フェニレン基、ナフチレン基、アントラセニレン基、フェナントレニレン基、ピレニレン基、ペリレニレン基、フルオレニレン基、ビフェニレン基等が挙げられる。
【0035】
炭素原子数1~30のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、n-へキシル基等が挙げられる。
【0036】
炭素原子数6~30のアリール基の例としては、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ペンタレニル基、インデニル基、ナフチル基、アズレニル基、ビフェニレニル基等が挙げられる。
【0037】
上記構造中、M+は、アルカリ金属カチオンである。また、X-は、アニオン部である。
【0038】
中でも、潤滑性および耐久性(潤滑維持性)のさらなる向上の観点から、単量体(A)は、下記式(1)で表される化合物であることが好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態によると、重合性単量体(A)が、下記式(1)で表される:
【0039】
【0040】
上記式(1)中、R11は、水素原子またはメチル基である。また、Z1は、酸素原子(-O-)または-NH-であり、好ましくは酸素原子(-O-)である。
【0041】
また、上記式(1)中、R12およびR15は、潤滑性および耐久性(潤滑維持性)のさらなる向上の観点から、それぞれ独立して、炭素原子数1~20の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、好ましくは炭素数1~12の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、より好ましくは炭素数1~8の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、さらにより好ましくは炭素数1~6の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、特に好ましくは炭素数1~3の直鎖のアルキレン基(メチレン基、エチレン基またはトリメチレン基)である。
【0042】
上記式(1)中、R13およびR14は、潤滑性および耐久性(潤滑維持性)のさらなる向上の観点から、それぞれ独立して、炭素原子数1~20の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、好ましくは炭素数1~12の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1~8の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、さらにより好ましくは炭素数1~4の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0043】
上記式(1)中、M+は、アルカリ金属カチオンである。アルカリ金属カチオン(M+)は、溶剤溶解性のさらなる向上の観点から、好ましくはナトリウムイオン(Na+)またはカリウムイオン(K+)であり、より好ましくはナトリウムイオン(Na+)である。すなわち、本発明の好ましい形態では、上記式(1)中、M+は、ナトリウムイオン(Na+)またはカリウムイオン(K+)である。本発明のより好ましい形態では、上記式(1)中、M+は、ナトリウムイオン(Na+)である。
【0044】
上記式(1)中、X-は、アニオン部である。アニオン部(X-)は、好ましくはフッ化物イオン(F-)、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、ヨウ化物イオン(I-)、硫酸水素イオン(HSO4
-)、硫酸イオン(SO4
2-)、硝酸イオン(NO3
-)、リン酸二水素イオン(H2PO4
-)、リン酸水素イオン(HPO4
2-)、またはリン酸イオン(PO4
3-)である。溶解性のさらなる向上の観点から、アニオン部(X-)は、より好ましくはフッ化物イオン(F-)、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、ヨウ化物イオン(I-)、硫酸水素イオン(HSO4
-)、硫酸イオン(SO4
2-)、硝酸イオン(NO3
-)またはリン酸イオン(PO4
3-)である。潤滑性および耐久性(潤滑維持性)のさらなる向上、溶解性のさらなる向上、ならびにこれらのバランスなどの観点から、アニオン部(X-)は、さらにより好ましくは塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、硫酸水素イオン(HSO4
-)または硫酸イオン(SO4
2-)であり、特に好ましくは塩化物イオン(Cl-)、硫酸イオン(SO4
2-)である。すなわち、本発明の好ましい形態では、上記式(1)中、X-は、フッ化物イオン(F-)、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、ヨウ化物イオン(I-)、硫酸水素イオン(HSO4
-)、硫酸イオン(SO4
2-)、硝酸イオン(NO3
-)、リン酸二水素イオン(H2PO4
-)、リン酸水素イオン(HPO4
2-)、およびリン酸イオン(PO4
3-)からなる群より選択される。本発明のより好ましい形態では、上記式(1)中、X-は、フッ化物イオン(F-)、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、ヨウ化物イオン(I-)、硫酸水素イオン(HSO4
-)、硫酸イオン(SO4
2-)、硝酸イオン(NO3
-)およびリン酸イオン(PO4
3-)からなる群より選択される。本発明のさらにより好ましい形態では、上記式(1)中、X-は、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、硫酸水素イオン(HSO4
-)または硫酸イオン(SO4
2-)からなる群より選択される。本発明の特に好ましい形態では、上記式(1)中、X-は、塩化物イオン(Cl-)または硫酸イオン(SO4
2-)である。なお、アニオン部が2価以上である場合には、2以上の構成単位(A)のスルホベタイン構造(第4級アンモニウムイオン、(-N+(R)4))と相互作用(イオン結合)する。例えば、アニオン部が硫酸イオン(SO4
2-)である場合には、硫酸イオンは隣接する2つの構成単位(A)の第4級アンモニウムイオンと相互作用する。
【0045】
本発明の親水性共重合体において、重合性単量体(A)由来の構成単位の含有量は、全単量体由来の構成単位の合計に対して(全単量体由来の構成単位の合計を100モル%としたとき)、80モル%を超え100モル%未満である。ここで、重合性単量体(A)由来の構成単位の含有量が80モル%以下であると、耐久性が十分発揮できない可能性がある。潤滑性および耐久性(潤滑維持性)(特に耐久性)のさらなる向上の観点から、重合性単量体(A)由来の構成単位の含有量は、全単量体由来の構成単位の合計に対して、好ましくは85モル%以上99.9モル%未満であり、より好ましくは90モル%以上99.5モル%以下である。すなわち、本発明の好ましい形態では、重合性単量体(A)由来の構成単位の含有量が全単量体由来の構成単位の合計に対して、85モル%以上99.9モル%未満である。本発明のより好ましい形態では、重合性単量体(A)由来の構成単位の含有量が全単量体由来の構成単位の合計に対して、90モル%以上99.5モル%以下である。かような範囲であれば、潤滑性および耐久性(潤滑維持性)と溶剤溶解性とのバランスが良好となる。なお、当該モル%は、重合体を製造する際の全単量体の合計仕込み量(モル)に対する単量体(A)の仕込み量(モル)の割合と実質的に同等である。また、親水性共重合体が2種以上の単量体(A)由来の構成単位を含む場合には、上記単量体(A)由来の構成単位の含有量は、これらすべての単量体(A)由来の構成単位の合計含有量である。
【0046】
(重合性単量体(B))
重合性単量体(B)(単量体(B))は、光反応性基を有する重合性単量体である。ここで、「光反応性基」は、活性エネルギー線を照射することで、ラジカル、ナイトレン、カルベン等の反応活性種を生成し、基材層と反応して化学結合を形成しうる基をいう。これにより、本発明に係る親水性共重合体を含む表面潤滑層は、基材層(基材)表面に強固に固定化することができる。ゆえに、当該表面潤滑層は、優れた耐久性(潤滑維持性)を発揮することができる。また、単量体(B)は、上記光反応性基以外に、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等のエチレン性不飽和基を有することが好ましい。
【0047】
光反応性基の例としては、アジド基、ジアゾ基、ジアジリン基、ケトン基、キノン基等が挙げられる。
【0048】
アジド基としては、例えば、フェニルアジド、4-フルオロ-3-ニトロフェニルアジド等のアリールアジド基;ベンゾイルアジド、p-メチルベンゾイルアジド等のアシルアジド基;エチルアジドホルメート、フェニルアジドホルメート等のアジドホルメート基;ベンゼンスルホニルアジド等のスルホニルアジド基;ジフェニルホスホリルアジド、ジエチルホスホリルアジド等のホスホリルアジド基;等が挙げられる。
【0049】
ジアゾ基としては、例えば、ジアゾメタン、ジフェニルジアゾメタン等のジアゾアルカン;ジアゾアセトフェノン、1-トリフルオロメチル-1-ジアゾ-2-ペンタノン等のジアゾケトン;t-ブチルジアゾアセテート、フェニルジアゾアセテート等のジアゾアセテート;t-ブチル-α-ジアゾアセトアセテート等のβ-ケト-α-ジアゾアセトアセテート;等から誘導される基等が挙げられる。
【0050】
ジアジリン基としては、例えば、3-トリフルオロメチル-3-フェニルジアジリン等から誘導される基等が挙げられる。
【0051】
ケトン基としては、例えば、アセトフェノン、ベンゾフェノン、アントロン、キサンチン、チオキサントン等の構造を有する基等が挙げられる。
【0052】
キノン基としては、例えば、アントラキノン等から誘導される基等が挙げられる。
【0053】
これらの光反応性基は、医療用具の基材層の種類などに応じて、適宜選択される。例えば、基材層がポリエチレン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等から形成される場合には、ケトン基またはフェニルアジド基であることが好ましく、モノマーの入手のし易さの点で、ベンゾフェノン構造を有する基(ベンゾフェノン基)であることがより好ましい。
【0054】
単量体(B)の例としては、2-アジドエチル(メタ)アクリレート、2-アジドプロピル(メタ)アクリレート、3-アジドプロピル(メタ)アクリレート、4-アジドブチル(メタ)アクリレート、4-(メタ)アクリロイルオキシベンゾフェノン、4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシベンゾフェノン、4-(メタ)アクリロイルオキシ-4’-メトキシベンゾフェノン、4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ-4’-メトキシベンゾフェノン、4-(メタ)アクリロイルオキシ-4’-ブロモベンゾフェノン、4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ-4’-ブロモベンゾフェノン、4-スチリルメトキシベンゾフェノン、4-(メタ)アクリロイルオキシチオキサントン等が挙げられる。
【0055】
単量体(B)は、合成品または市販品のいずれを用いてもよく、市販品としては、MRCユニテック株式会社等より入手することができる。
【0056】
本発明の親水性共重合体において、重合性単量体(B)由来の構成単位の含有量は、全単量体由来の構成単位の合計に対して(全単量体由来の構成単位の合計を100モル%としたとき)、好ましくは0モル%を超えて20モル%未満であり、より好ましくは0.1モル%を超え15モル%以下であり、特に好ましくは0.5モル%以上10モル%以下である。かような範囲であれば、親水性共重合体は基材層と十分に結合できるため、当該親水性共重合体を含む表面潤滑層は、基材層により強固に固定化されうる。また、かような範囲であれば、他の単量体(単量体(A))が十分量存在できるため、親水性共重合体は、単量体(A)による十分な潤滑性および耐久性をより有効に向上することができる。なお、当該モル%は、重合体を製造する際の全単量体の合計仕込み量(モル)に対する単量体(B)の仕込み量(モル)の割合と実質的に同等である。また、親水性共重合体が2種以上の単量体(B)由来の構成単位を含む場合には、上記単量体(B)由来の構成単位の含有量は、これらすべての単量体(B)由来の構成単位の合計含有量である。
【0057】
(その他の単量体)
本発明に係る親水性共重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記の単量体(A)および単量体(B)以外の重合性単量体(以下、「その他の単量体」とも称する)に由来する構成単位を含んでもよい。親水性共重合体がその他の単量体に由来の構成単位を有する場合の、その他の単量体としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、アクリル酸、メタクリル酸、N-メチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、ビニルピロリドン、2-メタクリロイルオキシエチルフォスフォリルコリン、2-メタクリロイルオキシエチル-D-グリコシド、2-メタクリロイルオキシエチル-D-マンノシド、ヒドロキシエチルメタクリレートなどが例示できる。また、この場合のその他の単量体に由来する構成単位の含有量は、全単量体由来の構成単位の合計量100モル%に対して、好ましくは10モル%未満、より好ましくは5モル%未満、さらにより好ましくは1モル%未満である(下限値:0モル%超)。好ましくは、本発明の親水性共重合体は、単量体(A)および単量体(B)から構成される(その他の単量体に由来する構成単位の含有量=0モル%)。すなわち、本発明の好ましい形態では、親水性共重合体は、前記重合性単量体(A)由来の構成単位および前記重合性単量体(B)由来の構成単位から構成される。なお、当該モル%は、重合体を製造する際の全単量体の合計仕込み量(モル)に対するその他の単量体の仕込み量(モル)の割合と実質的に同等である。
【0058】
本発明に係る親水性共重合体の末端は特に制限されず、使用される原料の種類によって適宜規定されるが、通常、水素原子である。共重合体の構造も特に制限されず、ランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよい。
【0059】
[親水性共重合体の物性]
本発明に係る親水性共重合体は、溶剤溶解性に優れ、特に、水、低級アルコール、または水および低級アルコールの混合溶媒に対する溶解性に優れる。ここで、「低級アルコール」とは、炭素原子数1~3のアルコール、すなわち、メタノール、エタノール、n-プロパノールまたはイソプロパノールを指す。これにより、毒性の低い上記溶剤をコート液に適用できるため、作業者の安全を確保することができる。さらに、低級アルコールを含有する溶剤は、蒸発速度が高いため、塗膜から速やかに除去される。ゆえに、医療用具のコーティングにおいて乾燥工程を簡略化でき、コーティング作業を迅速に行うことができる。なお、「溶剤溶解性に優れる」とは、上記の溶剤に対して好ましくは1重量%以上(より好ましくは3重量%以上、特に好ましくは5重量%以上)溶解または分散することをいう。この際、溶解または分散に要する時間は2時間以内であることが好ましい。
【0060】
共重合体の重量平均分子量は、好ましくは数千~数百万である。本発明において、「重量平均分子量」は、ポリエチレングリコールを標準物質とするゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography、GPC)により測定した値を採用するものとする。
【0061】
[医療用具の好ましい実施形態]
以下、添付した図面を参照して、本発明に係る医療用具の好ましい実施形態について説明する。なお、本発明は下記実施形態に限定されない。
【0062】
図1は、本発明に係る医療用具(以下、単に「医療用具」とも称する)の代表的な実施形態の表面の積層構造を模式的に表した部分断面図である。
図2は、本実施形態の応用例として、表面の積層構造の異なる構成例を模式的に表した部分断面図である。なお、
図1および
図2中、1は基材層を、1aは基材層コア部を、1bは基材表面層を、2は表面潤滑層を、10は医療用具を、それぞれ表す。
【0063】
図1および
図2に示されるように、本実施形態の医療用具10では、基材層1と、基材層1の少なくとも一部に固定化された(図中では、図面内の基材層1表面の全体(全面)に固定化された例を示す)親水性共重合体を含む表面潤滑層2と、を備える。表面潤滑層2は、親水性共重合体の光反応性基を介して基材層1に結合している。
【0064】
以下、本実施形態の医療用具の各構成について説明する。
【0065】
(基材層(基材))
本実施形態で用いられる基材層としては、上記の親水性共重合体に含まれる光反応性基と反応して化学結合を形成しうるものであれば、いずれの材料から構成されてもよい。具体的には、基材層1を構成(形成)する材料は、金属材料、高分子材料、セラミックス等が挙げられる。ここで、基材層1は、
図1に示されるように、基材層1全体(全部)が上記いずれかの材料で構成(形成)されても、または、
図2に示されるように、上記いずれかの材料で構成(形成)された基材層コア部1aの表面に他の上記いずれかの材料を適当な方法で被覆(コーティング)して、基材表面層1bを構成(形成)した構造を有していてもよい。後者の場合の例としては、樹脂材料等で形成された基材層コア部1aの表面に金属材料が適当な方法(メッキ、金属蒸着、スパッタ等従来公知の方法)で被覆(コーティング)されて、基材表面層1bを形成してなるもの;金属材料やセラミックス材料等の硬い補強材料で形成された基材層コア部1aの表面に、金属材料等の補強材料に比して柔軟な高分子材料が適当な方法(浸漬(ディッピング)、噴霧(スプレー)、塗布・印刷等の従来公知の方法)で被覆(コーティング)あるいは基材層コア部1aの補強材料と基材表面層1bの高分子材料とが複合化(適当な反応処理)されて、基材表面層1bを形成してなるもの等が挙げられる。よって、基材層コア部1aが、異なる材料を多層に積層してなる多層構造体、あるいは医療用具の部分ごとに異なる材料で形成された部材を繋ぎ合わせた構造(複合体)などであってもよい。また、基材層コア部1aと基材表面層1bとの間に、さらに別のミドル層(図示せず)が形成されていてもよい。さらに、基材表面層1bに関しても異なる材料を多層に積層してなる多層構造体、あるいは医療用具の部分ごとに異なる材料で形成された部材を繋ぎ合わせた構造(複合体)などであってもよい。
【0066】
上記基材層1を構成(形成)する材料のうち、金属材料としては、特に制限されるものではなく、カテーテル、ステント、ガイドワイヤ等の医療用具に一般的に使用される金属材料が使用される。具体的には、SUS304、SUS316、SUS316L、SUS420J2、SUS630等の各種ステンレス鋼(SUS)、金、白金、銀、銅、ニッケル、コバルト、チタン、鉄、アルミニウム、スズあるいはニッケル-チタン(Ni-Ti)合金、ニッケル-コバルト(Ni-Co)合金、コバルト-クロム(Co-Cr)合金、亜鉛-タングステン(Zn-W)合金等の各種合金が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。上記金属材料には、使用用途であるカテーテル、ステント、ガイドワイヤ等の基材層として最適な金属材料を適宜選択すればよい。
【0067】
また、上記基材層1を構成(形成)する材料のうち、高分子材料としては、特に制限されるものではなく、カテーテル、ステント、ガイドワイヤ等の医療用具に一般的に使用される高分子材料が使用される。具体的には、ポリアミド樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリスチレン等のスチロール樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、変性ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂(アリル樹脂)、ポリカーボネート樹脂、フッ素樹脂、アミノ樹脂(ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂)、アクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂(ケイ素樹脂)、ポリエーテル樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。上記高分子材料には、使用用途であるカテーテル、ステント、ガイドワイヤ等の基材層として最適な高分子材料を適宜選択すればよい。
【0068】
また、上記基材層の形状は、特に制限されることはなく、シート状、線状(ワイヤ)、管状など使用態様により適宜選択される。
【0069】
(潤滑層(表面潤滑層))
潤滑層(表面潤滑層)は、上記基材層(基材)1の少なくとも一部に担持される。ここで、潤滑層2が、基材層1表面の少なくとも一部に担持されているとしたのは、使用用途であるカテーテル、ガイドワイヤ、留置針等の医療用具において、必ずしもこれらの医療用具の全ての表面(表面全体)が湿潤時に潤滑性を有する必要はなく、湿潤時に表面が潤滑性を有することが求められる表面部分(一部の場合もあれば全部の場合もある)のみに潤滑層が担持されていればよいためである。このため、上述したように、潤滑層は、
図1、
図2に示されるような基材層の両面全体を被覆するように形成される形態;基材層の片面全体のみを被覆するように形成される形態;基材層の両面の一部を同じまたは異なる形態で被覆するように形成される形態;基材層の片面の一部を被覆するように形成される形態などを包含する。
【0070】
潤滑層(表面潤滑層)は、親水性共重合体を必須に含む。潤滑層は、親水性共重合体に加えて、他の成分を含んでもよい。ここで、他の成分としては、特に制限されない。例えば、医療用具がカテーテルなどの体腔や管腔内への挿入を目的とする場合には、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ薬、抗血栓薬、HMG-CoA還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症薬、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIbIIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、血管平滑筋増殖抑制薬、抗炎症薬、生体由来材料、インターフェロン、およびNO産生促進物質等の薬剤(生理活性物質)などが挙げられる。ここで、他の成分の添加量は、特に制限されず、通常使用される量が同様にして適用される。最終的には、他の成分の添加量は、適用される疾患の重篤度、患者の体重等を考慮して適切に選択される。好ましくは、潤滑層は、他の成分を含まない(親水性共重合体のみから構成される)。すなわち、本発明の好ましい形態では、潤滑層は、前記親水性共重合体から構成される。
【0071】
<医療用具の製造方法>
本発明に係る医療用具の製造方法(基材層上への表面潤滑層の形成方法)は、特に制限されず、公知の方法を同様にしてあるいは適宜改変して適用できる。好ましくは、スルホン酸イオンの対イオンが同じ分子中の第4級アンモニウムイオンであるスルホベタイン構造を有する重合性単量体由来の構成単位(構成単位(A’))および構成単位(B)を有し、構成単位(A’)の含有量が全構成単位に対して80モル%を超え100モル%未満である共重合体をアルカリ金属塩および溶媒と混合してコート液を調製し、このコート液を基材層に塗布方法が使用される。
【0072】
すなわち、本発明の第二の態様によると、基材層と、前記基材層の少なくとも一部に担持された潤滑層と、を備える医療用具の製造方法であって、
下記式(2)で表される重合性単量体(A’)由来の構成単位、および光反応性基を有する重合性単量体(B)由来の構成単位を含み、前記重合性単量体(A’)由来の構成単位の含有量が全単量体由来の構成単位の合計に対して、80モル%を超え100モル%未満である共重合体と、アルカリ金属塩と、溶媒とを含むコート液を調製し、前記コート液を前記基材層上に塗布することを含む、医療用具の製造方法が提供される:
【0073】
【0074】
上記式(2)中、
R11は、水素原子またはメチル基であり、
Z1は、酸素原子または-NH-であり、
R12およびR15は、それぞれ独立して、炭素原子数1~20の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、
R13およびR14は、それぞれ独立して、炭素原子数1~20の直鎖または分岐鎖のアルキル基である。
【0075】
このような方法であれば、共重合体は溶媒中に容易に溶解または分散する。このため、均一なコート液を調製できる。ゆえに、このようなコート液を基材層に塗布することにより、医療用具表面に潤滑性および耐久性(潤滑維持性)を付与することができる。
【0076】
本明細書において、「式(2)で表される重合性単量体(A’)」を、単に「重合性単量体(A’)」または「単量体(A’)」とも称する。また、「式(2)で表される重合性単量体(A’由来の構成単位」を、単に「構成単位(A’)」とも称する。
【0077】
本明細書において、「下記式(2)で表される重合性単量体(A’)由来の構成単位、および光反応性基を有する重合性単量体(B)由来の構成単位を含み、前記重合性単量体(A’)由来の構成単位の含有量が全単量体由来の構成単位の合計に対して、80モル%を超え100モル%未満である共重合体」を単に「本発明に係る共重合体」または「共重合体」とも称する。
【0078】
以下、上記態様について説明する。
【0079】
(コート液の調製)
本工程では、本発明に係る共重合体、アルカリ金属塩および溶媒を混合して、コート液を調製する。
【0080】
ここで、共重合体は、下記式(2)で表される重合性単量体(A’)由来の構成単位(構成単位(A’))、および光反応性基を有する重合性単量体(B)由来の構成単位(構成単位(B))を含み、前記重合性単量体(A’)由来の構成単位の含有量が全単量体由来の構成単位の合計に対して、80モル%を超え100モル%未満である。
【0081】
【0082】
本発明に係る共重合体を構成する構成単位(A’)は、スルホン酸イオン(-SO3
-)の対イオンが同じ分子中の第4級アンモニウムイオン(-N+(R13)(R14)(R15)-)である以外は、上記式(1)の重合性単量体(A)由来の構成単位(A)と同様である。このため、上記式(2)において、R11、Z1、R12およびR15、ならびにR13およびR14は、上記式(1)における定義と同様である。
【0083】
上記式(2)で表される化合物の例としては、{2-[(メタ)アクリロイルオキシ]エチル}ジメチル-(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド、{2-[(メタ)アクリロイルオキシ]エチル}ジメチル-(2-スルホエチル)アンモニウムヒドロキシド、{2-[(メタ)アクリロイルオキシ]エチル}ジエチル-(2-スルホエチル)アンモニウムヒドロキシド、{2-[(メタ)アクリロイルオキシ]エチル}ジエチル-(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド、{3-[(メタ)アクリロイルオキシ]プロピル}ジメチル-(2-スルホエチル)アンモニウムヒドロキシド、{3-[(メタ)アクリロイルオキシ]プロピル}ジメチル-(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド、{3-[(メタ)アクリロイルオキシ]プロピル}ジエチル-(2-スルホエチル)アンモニウムヒドロキシド、{3-[(メタ)アクリロイルオキシ]プロピル}ジエチル-(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド等が挙げられ、中でも、{2-[(メタ)アクリロイルオキシ]エチル}ジメチル-(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド、[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]ジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシドが好ましい。上記の化合物は、単独で用いてもよいし2種以上併用してもよい。
【0084】
単量体(A’)は、合成品または市販品のいずれを用いてもよい。市販品としては、シグマアルドリッチ等より入手することができる。また、合成する場合は、A.Laschewsky,polymers,6,1544-1601(2014)等を参照することができる。
【0085】
共重合体において、構成単位(A’)の含有量は、全単量体由来の構成単位の合計に対して、80モル%を超え100モル%未満である。ここで、構成単位(A’)の含有量は、上記構成単位(A)の含有量と同様である。
【0086】
本発明に係る共重合体を構成する構成単位(B)は、上記(重合性単量体(B))で述べたのと同じ重合性単量体(B)由来である。
【0087】
共重合体において、構成単位(B)の含有量は、上記(重合性単量体(B))で述べたのと同様である。
【0088】
本発明に係る共重合体は、上記構成単位(A’)および(B)に加えて、その他の単量体に由来の構成単位を含んでもよい。当該形態におけるその他の単量体およびその含有量は、上記(その他の単量体)で述べたのと同様である。
【0089】
本発明に係る共重合体の製造方法は、特に制限されず、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などの公知の重合方法が採用でき、好ましくは製造が容易なラジカル重合を使用する。
【0090】
重合方法は、通常、上記の単量体(A’)および単量体(B)、ならびに必要に応じてその他の単量体を、重合溶媒中で重合開始剤と共に撹拌および加熱することにより共重合させる方法が採用される。
【0091】
重合温度は、特に制限されないが、好ましくは25~100℃であり、より好ましくは30~80℃である。重合時間も、特に制限されないが、好ましくは30分~24時間であり、より好ましくは1~5時間である。
【0092】
重合溶媒としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール、n-ブタノール、2,2,2-トリフルオロエタノール等のアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等の多価アルコール類;などの水性溶媒であることが好ましい。重合に用いる原料を溶解させる観点から、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0093】
重合性単量体の濃度は、特に制限されないが、重合溶媒(mL)に対する各重合性単量体の合計固形分量(g)として、好ましくは0.05~1g/mLであり、より好ましくは0.1~0.5g/mLである。また、全単量体の合計仕込み量(モル)に対する各単量体の好ましい仕込み量(モル)の割合は、上述したとおりである。
【0094】
重合性単量体を含む反応溶液は、重合開始剤を添加する前に脱気処理を行ってもよい。脱気処理は、例えば、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスにて、反応溶液を0.5~5時間程度バブリングすればよい。脱気処理の際は、反応溶液を30~100℃程度に加温しても良い。
【0095】
重合体の製造には、従来公知の重合開始剤を用いることができ、特に制限されるものではないが、例えば2、2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系重合開始剤;過硫酸カリウム(KPS)、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過酸化水素、t-ブチルパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド等の過酸化物等の酸化剤に、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸等の還元剤を組み合わせたレドックス系重合開始剤等が使用できる。
【0096】
重合開始剤の配合量は、重合性単量体の合計量(モル)に対して、好ましくは0.01~10モル%であり、より好ましくは0.1~5モル%である。
【0097】
さらに、必要に応じて、連鎖移動剤、重合速度調整剤、界面活性剤、およびその他の添加剤を、重合の際に適宜使用してもよい。
【0098】
重合反応を行う雰囲気は特に制限されるものではなく、大気雰囲気下、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気等で行うこともできる。また、重合反応中は、反応液を攪拌しても良い。
【0099】
共重合体は、重合反応中に析出してもよい。重合後の共重合体は、再沈澱法、透析法、限外濾過法、抽出法など一般的な精製法により精製することができる。
【0100】
精製後の共重合体は、凍結乾燥、減圧乾燥、噴霧乾燥、または加熱乾燥等、任意の方法によって乾燥することもできるが、重合体の物性に与える影響が小さいという観点から、凍結乾燥または減圧乾燥が好ましい。
【0101】
得られた共重合体における各重合性単量体由来の構成単位の割合は、NMR、IR等の公知の手段を用い、各構成単位に含まれる基のピーク強度を分析することで確認することができる。
【0102】
得られた共重合体に含まれる未反応単量体は、共重合体全体に対して0.01重量%以下であることが好ましい。未反応単量体は少ないほど好ましい(下限値:0重量%)。残留する単量体の含量は、高速液体クロマトグラフィー等公知の手段で測定できる。
【0103】
本工程では、上記した共重合体を、アルカリ金属塩や溶媒と混合して、コート液を調製する。これにより、構成単位(A’)のスルホベタイン構造のスルホン酸イオン(-SO3
-)はアルカリ金属カチオンと、第4級アンモニウムイオンは上記アルカリ金属カチオンと対をなすアニオンと、それぞれイオン対を形成する(本発明に係る親水性共重合体となる)。
【0104】
ここで、アルカリ金属塩は、上記式(1)において規定したアルカリ金属カチオンとアニオンとの塩であることが好ましい。具体的には、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、臭化カリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、硫酸水素カリウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素カリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸カリウムおよびリン酸ナトリウムなどが挙げられる。これらのうち、溶剤溶解性のさらなる向上などの観点から、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、臭化カリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、硫酸水素カリウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、リン酸カリウムおよびリン酸ナトリウムが好ましい。潤滑性および耐久性(潤滑維持性)のさらなる向上、溶解性のさらなる向上、ならびにこれらのバランスなどの観点から、塩化カリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、硫酸水素ナトリウムおよび硫酸ナトリウムがより好ましく、塩化カリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウムがさらにより好ましく、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウムが特に好ましい。なお、上記アルカリ金属塩は、単独で使用されてもまたは2種以上を併用してもよいが、好ましくは単独で使用される。すなわち、本発明の好ましい形態によると、アルカリ金属塩は、塩化カリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、硫酸水素ナトリウムおよび硫酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも一種である。本発明のより好ましい形態によると、アルカリ金属塩は、塩化カリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、硫酸水素ナトリウムおよび硫酸ナトリウムからなる群より選択される。本発明の特に好ましい形態によると、アルカリ金属塩は、塩化ナトリウムまたは硫酸ナトリウムである。
【0105】
コート液の調製に使用できる溶媒としては、親水性共重合体の溶解性、作業安全性(毒性の低さ)などの観点から、上記[親水性共重合体の物性]の項において記載したものが好適である。好ましくは、溶媒は、水、メタノール、エタノールからなる群より選択される少なくとも1種であり、水、メタノールまたは水とメタノールとの混合溶媒(水/メタノール混合溶媒)である。
【0106】
コート液中の共重合体の濃度は、特に限定されないが、好ましくは1~50重量%であり、より好ましくは3~40重量%であり、さらにより好ましくは5~30重量%、特に好ましくは10~25重量%である。なお、2種以上の共重合体を添加する場合には、上記共重合体の濃度は、全ての共重合体の合計濃度である。かような範囲であれば、コート液の塗工性が良好であり、得られる表面潤滑層は潤滑性および耐久性(潤滑維持性)に優れる。また、1回のコーティングで所望の厚みの均一な表面潤滑層を容易に得ることができ、生産効率の点で好ましい。なお、共重合体の濃度が1重量%未満の場合、基材層表面に十分な量の親水性共重合体を固定できない場合がある。また、共重合体の濃度が50重量%を超える場合、コート液の粘度が高くなりすぎて、均一な厚さの表面潤滑層を得られない場合がある。但し、上記範囲を外れても、本発明の作用効果に影響を及ぼさない範囲であれば、十分に利用可能である。
【0107】
コート液中のアルカリ金属塩の濃度は、特に限定されないが、共重合体100重量部に対して、好ましくは1重量部以上60重量部以下であり、より好ましくは2重量部を超えて50重量部以下であり、さらにより好ましくは35重量部以上50重量部以下である。かような範囲であれば、親水性共重合体を溶剤(特に水、低級アルコールまたは水と低級アルコールとの混合溶剤)により容易に溶解できる。なお、2種以上のアルカリ金属塩を添加する場合には、上記アルカリ金属塩の濃度は、全てのアルカリ金属塩の合計濃度である。
【0108】
共重合体、アルカリ金属塩および溶媒の添加順序は、特に制限されない。具体的には、共重合体、アルカリ金属塩および溶媒を一括して投入する;共重合体およびアルカリ金属塩を一緒に溶媒に添加する;共重合体およびアルカリ金属塩をいずれかの順序で(共重合体添加後アルカリ金属塩の順序で、またはアルカリ金属塩添加後共重合体の順序で)溶媒に添加するなどが挙げられる。
【0109】
共重合体、アルカリ金属塩及び溶媒の混合条件は、特に制限されない。混合温度は、例えば、0~50℃、好ましくは5~40℃である。混合温度は、溶解または分散できる時間であれば特に制限されず、例えば、2時間以内である。
【0110】
本工程により、共重合体の構成単位(A’)のスルホベタイン構造のスルホン酸イオン(-SO3
-)がアルカリ金属カチオンと、第4級アンモニウムイオンが上記アルカリ金属カチオンの対イオンであるアニオンと、それぞれイオン対を形成する(本発明に係る親水性共重合体となる)。なお、本工程において、上記イオン対の形態が変わる以外は、共重合体の構成(例えば、構成単位(A)のイオン対以外の構造(例えば、式(1)、(2)中の、R11~R15およびZ1)、構成単位(B)、その他の単量体由来の構成単位、各構成単位の含有量)は、アルカリ金属塩の添加前後で変化しない。
【0111】
(塗布工程)
本工程では、上記にて調製されたコート液を医療用具の基材層上に塗布(コーティング)する。なお、コート液を塗布する前に、紫外線照射処理、プラズマ処理、コロナ放電処理、火炎処理、酸化処理、シランカップリング処理、リン酸カップリング処理等により基材層表面を予め処理してもよい。コート液の溶剤が水のみである場合、疎水性の基材層表面に塗布することは困難であるが、基材層表面をプラズマ処理することで基材層表面が親水化する。これにより、コート液の基材層表面への濡れ性が向上し、均一な表面潤滑層を形成することができる。また、金属やフッ素系樹脂等のC-H結合を持たない基材層表面に上記処理を施すことで、親水性共重合体の光反応性基との共有結合の形成が可能となる。
【0112】
基材層表面にコート液を塗布する方法としては、特に制限されるものではなく、塗布・印刷法、浸漬法(ディッピング法、ディップコート法)、噴霧法(スプレー法)、スピンコート法、混合溶液含浸スポンジコート法など、従来公知の方法を適用することができる。これらのうち、浸漬法(ディッピング法、ディップコート法)が好ましい。
【0113】
なお、カテーテル、ステント、ガイドワイヤ等の細く狭い内面に表面潤滑層を形成させる場合、コート液中に基材層を浸漬して、系内を減圧にして脱泡させてもよい。減圧にして脱泡させることにより、細く狭い内面に素早く溶液を浸透させ、表面潤滑層の形成を促進できる。
【0114】
また、基材層の一部にのみ表面潤滑層を形成させる場合には、基材層の一部のみをコート液中に浸漬して、コート液を基材層の一部にコーティングすることで、基材層の所望の表面部位に、表面潤滑層を形成することができる。
【0115】
基材層の一部のみをコート液中に浸漬するのが困難な場合には、予め表面潤滑層を形成する必要のない基材層の表面部分を着脱(装脱着)可能な適当な部材や材料で保護(被覆等)した上で、基材層をコート液中に浸漬して、コート液を基材層にコーティングした後、表面潤滑層を形成する必要のない基材層の表面部分の保護部材(材料)を取り外し、その後、加熱操作等により反応させることで、基材層の所望の表面部位に表面潤滑層を形成することができる。ただし、本発明では、これらの形成法に何ら制限されるものではなく、従来公知の方法を適宜利用して、表面潤滑層を形成することができる。例えば、基材層の一部のみを混合溶液中に浸漬するのが困難な場合には、浸漬法に代えて、他のコーティング手法(例えば、医療用具の所定の表面部分に、コート液を、スプレー装置、バーコーター、ダイコーター、リバースコーター、コンマコーター、グラビアコーター、スプレーコーター、ドクターナイフなどの塗布装置を用いて、塗布する方法など)を適用してもよい。なお、医療用具の構造上、円筒状の用具の外表面と内表面の双方が、表面潤滑層を有する必要があるような場合には、一度に外表面と内表面の双方をコーティングすることができる点で、浸漬法(ディッピング法)が好ましく使用される。
【0116】
(乾燥工程)
上記のように本発明の親水性共重合体を含むコート液中に基材層を浸漬した後、コート液から基材層を取り出して、被膜を乾燥させることが好ましい。乾燥条件は、被膜から溶媒を除去できれば特に制限されず、ドライヤー等を用いて温風処理を行ってもよいし、自然乾燥させてもよい。また、乾燥時の圧力条件も何ら制限されるものではなく、常圧(大気圧)下で行うことができるほか、加圧下または減圧下で行ってもよい。乾燥手段(装置)としては、例えば、オーブン、減圧乾燥機などを利用することができるが、自然乾燥の場合には、特に乾燥手段(装置)は不要である。
【0117】
(固定化工程)
上記乾燥工程後の被膜に対し、活性エネルギー線を照射する。これにより、被膜中の親水性共重合体の光反応性基が活性化し、光反応性基と基材層との間で化学結合が形成される。より具体的に、ベンゾフェノン構造を有する光反応性基と、ポリエチレン基材層との組み合わせの場合について説明する。親水性共重合体がベンゾフェノン構造を有する光反応性基を含む場合、紫外線を照射することで光反応性基内に2個のラジカルが生成する。このうち1個のラジカルがポリエチレン基材層から水素原子を引き抜き、代わりにポリエチレン基材層上に1個のラジカルが生成する。その後、光反応性基内の残りのラジカルとポリエチレン基材層上のラジカルとが結合することにより、光反応性基とポリエチレン基材層との間で共有結合が形成される。かような機構により、光反応性基を有する親水性共重合体を含む表面潤滑層は、基材層表面に強固に固定化される。ゆえに、当該表面潤滑層は、優れた耐久性(潤滑維持性)を発揮することができる。
【0118】
活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、ガンマ線等が挙げられるが、好ましくは紫外線または電子線であり、人体への影響を考慮すると、より好ましくは紫外線である。紫外線を用いる場合、照射波長としては、光反応性基が活性化しうる波長を適宜選択することができる。紫外線の照射強度は、特に制限されないが、好ましくは1~5000mW/cm2である。また、紫外線の積算光量も、特に制限されないが、好ましくは50~5000mJ/cm2であり、より好ましくは100~1000mJ/cm2である。紫外線を照射する装置としては、高圧水銀灯、低圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ等を例示することができる。
【0119】
上記の活性エネルギー線照射を行った後、溶剤(例えば、コート液調製に用いる溶剤)で基材層表面を洗浄し、未反応の親水性共重合体を除去してもよい。
【0120】
基材層への被膜(表面潤滑層)の固定化は、FT-IR、XPS等の公知の分析手段を用いて確認することができる。例えば、活性エネルギー線の照射前後でFT-IR測定を行い、活性エネルギー線照射によって形成される結合のピークと不変である結合のピークとの比を比較することにより、確認することができる。
【0121】
また、被膜(表面潤滑層)中のスルホベタイン構造中のスルホン酸イオンの対イオンがアルカリ金属カチオンであることは、ラマンスペクトル、FT-IR等の公知の分析手段を用いて確認することができる。例えば、構成単位(A)が上記式(1)の重合性単量体(A)由来である場合には、被膜(表面潤滑層)をラマンスペクトロメーター(例えば、カイザー社製、ラマンRXN1、測定波長:532nm)で測定して、アンモニウムのピーク(975cm-1でのピーク)およびアルカリ金属のピーク(例えば、ナトリウムの場合には992cm-1でのピーク)の存在を確認し、アンモニウムのピークは確認されず、アルカリ金属のピークが確認された場合には被膜中の共重合体のスルホン酸の対イオンがナトリウムであると判断する。
【0122】
上記方法により、本発明に係る医療用具は、本発明の親水性共重合体を含む表面潤滑層が表面に形成される。これにより、本発明に係る医療用具は、優れた潤滑性および耐久性(潤滑維持性)を発揮することができる。
【0123】
[医療用具の用途]
本発明に係る医療用具は、体液や血液などと接触して用いられ、体液や生理食塩水などの水系液体中において表面が潤滑性を有し、操作性の向上や組織粘膜の損傷の低減をなしうる。具体的には、血管内で使用されるカテーテル、ステント、ガイドワイヤ等が挙げられる。すなわち、本発明の一実施形態に係る医療用具は、カテーテル、ステントまたはガイドワイヤである。その他にも以下の医療用具が示される。
【0124】
(a)胃管カテーテル、栄養カテーテル、経管栄養用チューブなどの経口もしくは経鼻的に消化器官内に挿入ないし留置されるカテーテル類
(b)酸素カテーテル、酸素カヌラ、気管内チューブのチューブやカフ、気管切開チューブのチューブやカフ、気管内吸引カテーテルなどの経口または経鼻的に気道ないし気管内に挿入ないし留置されるカテーテル類
(c)尿道カテーテル、導尿カテーテル、尿道バルーンカテーテルのカテーテルやバルーンなどの尿道ないし尿管内に挿入ないし留置されるカテーテル類
(d)吸引カテーテル、排液カテーテル、直腸カテーテルなどの各種体腔、臓器、組織内に挿入ないし留置されるカテーテル類
(e)留置針、IVHカテーテル、サーモダイリューションカテーテル、血管造影用カテーテル、血管拡張用カテーテルおよびダイレーターあるいはイントロデューサーなどの血管内に挿入ないし留置されるカテーテル類、あるいは、これらのカテーテル用のガイドワイヤ、スタイレットなど
(f)人工気管、人工気管支など
(g)体外循環治療用の医療用具(人工肺、人工心臓、人工腎臓など)やその回路類。
【実施例0125】
以下に、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、各例中の部および%はいずれも重量基準である。以下、特に規定のない室温放置条件は全て、23℃/55%RHである。
【0126】
<共重合体の製造>
[製造例1]
シグマアルドリッチ社製[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチル-(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド(MSPB)2.791g(9.99mmol)およびMRCユニテック株式会社製4-メタクリロイルオキシベンゾフェノン(MBP)0.003g(0.01mmol)を2,2,2-トリフルオロエタノール/水(9/1 v/v)混合溶媒10mLに溶解させて、反応液を調製した。次に、この反応液を30mLのナス型フラスコに入れ、十分な窒素バブリングによって酸素を除き、重合開始剤としての4,4-アゾビス(4-シアノ吉草酸)(富士フイルム和光純薬株式会社製、V-501)28mg(0.10mmol)を添加した後、素早く密閉し、80℃の水浴で2時間重合を行った。次に、その重合液をアセトン中に滴下して沈殿させ、デカンテーションで上澄みを除去した後、さらにメタノールで2回洗浄を行い、共重合体Aを得た。
【0127】
[製造例2]
製造例1において、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチル-(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド(MSPB)および4-メタクリロイルオキシベンゾフェノン(MBP)の仕込み量をそれぞれ2.780g(9.95mmol)および0.013g(0.05mmol)に変更した以外は製造例1と同様の方法により、共重合体Bを得た。
【0128】
[製造例3]
製造例1において、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチル-(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド(MSPB)および4-メタクリロイルオキシベンゾフェノン(MBP)の仕込み量をそれぞれ2.71g(9.7mmol)および0.08g(0.3mmol)に変更した以外は製造例1と同様の方法により、共重合体Cを得た。
【0129】
[製造例4]
製造例1において、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチル-(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド(MSPB)および4-メタクリロイルオキシベンゾフェノン(MBP)の仕込み量をそれぞれ2.51g(9.0mmol)および0.27g(1.0mmol)に変更した以外は製造例1と同様の方法により、共重合体Dを得た。
【0130】
[製造例5]
製造例1において、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチル-(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド(MSPB)および4-メタクリロイルオキシベンゾフェノン(MBP)の仕込み量をそれぞれ2.24g(8.0mmol)および0.53g(2.0mmol)に変更した以外は製造例1と同様の方法により、共重合体Eを得た。
【0131】
上記製造例1~5で得られた共重合体A~Eの組成(MSPB:MBPの構成単位比(モル%))を表1に示す。
【0132】
【0133】
<親水性共重合体の溶剤溶解性試験>
[実施例1-1~8-1、比較例1-1~2-1]
上記製造例1~5で得られた共重合体A~Eについて、アルカリ金属塩を添加した時の水、および水/メタノール混合溶媒に対する溶解性を評価した。具体的には、各共重合体および下記表2に記載のアルカリ金属塩(塩化ナトリウム(NaCl)、硫酸ナトリウム(硫酸Na)またはリン酸三ナトリウム(リン酸Na))を、それぞれ、1重量%の濃度または10重量%の濃度および表2に記載の共重合体との混合重量比となるように、下記表2に記載の溶剤(水、または水とメタノールとの混合溶媒(水:メタノールの混合体積比=7:3))に25℃で添加し、2時間撹拌した後、下記の判定基準に従い、目視にて溶解性を試験した。結果を表2に示す。なお、下記表2中、「10/0」は、水単独における各親水性共重合体の溶解性を示し、「7/3」は、水とメタノールとの混合溶媒(水:メタノールの混合体積比=7:3)における各親水性共重合体の溶解性を示す。また、下記表2中の「-」は、アルカリ金属塩を添加していないことを示す。
【0134】
[溶剤溶解性の判定基準]
○:溶解あるいは分散する
×:溶解も分散もしない
【0135】
【0136】
表2の実施例1-1~7-1に示されるように、MSPB(単量体(A))由来の構成単位(A)の含有量が全構成単位に対して80モル%を超える共重合体A~Dは、アルカリ金属塩(塩化ナトリウムまたは硫酸ナトリウム)を添加することにより、水または水/メタノール混合溶媒に対して良好な溶解性を示す。特に実施例1-1~6-1と実施例7-1との比較から、アルカリ金属塩を共重合体100重量部に対して2重量部を超えて(特に35重量部以上)添加することにより、水および水/メタノール混合溶媒双方に対して良好な溶解性を発揮できることがわかる。
【0137】
一方、比較例1-1に示されるように、MSPB(単量体A)由来の構成単位の含有量が全構成単位に対して80モル%である共重合体Eは、相当量のアルカリ金属塩を添加しても、水および水/メタノール混合溶媒双方に溶解できない。また、比較例2-1に示されるように、MSPB(単量体A)由来の構成単位の含有量が全構成単位に対して80モル%を超える共重合体であっても、アルカリ金属塩を添加しない場合には、水および水/メタノール混合溶媒双方に溶解できないことがわかる。
【0138】
<摺動および耐久性試験>
[実施例1-2]
(被覆チューブ1の作製)
製造例2で得られた共重合体B(本発明に係る共重合体に相当)を10重量%の濃度になるように、水/メタノール混合溶媒(水:メタノールの混合重量比=7:3(v/v))に加えた後、塩化ナトリウムを共重合体 100重量部に対し35重量部の割合で添加・溶解し、コート液を調製した。なお、共重合体Bは、コート液中に均一に溶解・分散していた。
【0139】
外径0.84mmのポリエチレン(日本ポリエチレン社製ノバテック(登録商標)HB530)製チューブを、上記コート液に浸漬し、5mm/secの速度で引き上げた。室温(25℃)で10分間乾燥させて、塗膜をチューブ上に形成した。次に、塗膜に、波長365nm、ランプ電力1kWのUVを照射距離200mm、サンプル搬送速度2m/minの条件で照射して(積算光量:230mJ/cm2)、チューブ表面に共重合体を含む被覆層(潤滑層)(乾燥後の膜厚=1μm)を有する被覆チューブ1を作製した。なお、UV照射装置はウシオ電機株式会社のUVC-1212/1MNLC3-AA04(高圧水銀ランプ)を使用した。
【0140】
(スルホン酸イオンの対イオンの確認)
上記にて作製した被覆チューブ1の被覆層をラマンスペクトロメーター(カイザー社製、ラマンRXN1、測定波長:532nm、分解能:1cm-1)で測定して、被覆層中の共重合体のスルホン酸イオンの対イオンを確認した。その結果、アンモニウムのピーク(975cm-1)は確認されず、ナトリウム(992cm-1)のピークが確認された。このため、被覆層中の共重合体のスルホン酸イオンの対イオンは、アンモニウムカチオンではなく、ナトリウムカチオンであることを確認した。
【0141】
(初期摺動性の評価)
被覆チューブ1につき、下記方法にしたがって、摺動性(潤滑層の初期摺動性)を評価した。具体的には、被覆チューブ1を25℃の生理食塩水に浸漬して指で擦り、未処理のチューブ(ポリエチレン(日本ポリエチレン社製ノバテック(登録商標)HB530)製チューブ)と比較した。その結果、被覆チューブ1は、未処理のチューブに比して、滑りやすい低摩擦表面が形成されていることを確認した。
【0142】
(摺動耐久性の評価)
被覆チューブ1につき、下記方法にしたがって、摺動耐久性(潤滑層の耐久性)を評価した。具体的には、被覆チューブ1を25℃の生理食塩水に浸漬し、手でサンプルを挟み長軸方向に擦る手法により、摺動性を官能評価した。潤滑性(つるつる感)が損なわれるまでに擦った回数を測定することで、摺動耐久性を評価した。上記回数が多いほど、摺動耐久性が優れていると判断される。
【0143】
結果を以下の表3に示す。表3の「初期摺動性」において、「〇」は、未処理のチューブに比して、滑りやすい低摩擦表面が形成されていることを示す。また、「×」は、共重合体が溶解せずコート液を調製できなかった(被覆チューブを作製できなかった)ことを示す。表3の「摺動耐久性」において、「>50」は、少なくとも50回サンプルを擦っても摺動性が損なわれなかったことを示す。また、「×」は、共重合体が溶解せずコート液を調製できなかった(被覆チューブを作製できなかった)ことを示す。
【0144】
[実施例2-2]
(被覆チューブ2の作製)
実施例1-2において、共重合体Bを製造例3で得られた共重合体Cに変更した以外は実施例1-2と同様の方法に従い、チューブ表面に共重合体を含む被覆層(潤滑層)(乾燥後の膜厚=1μm)を有する被覆チューブ2を作製した。なお、共重合体Cは、コート液中に均一に溶解・分散していた。
【0145】
(スルホン酸イオンの対イオンの確認)
被覆チューブ2につき、実施例1-2と同様にして、被覆層中の共重合体のスルホン酸イオンの対イオンを確認した。その結果、アンモニウムのピーク(975cm-1)は確認されず、ナトリウム(992cm-1)のピークが確認された。このため、被覆層中の共重合体のスルホン酸イオンの対イオンは、アンモニウムカチオンではなく、ナトリウムカチオンであることを確認した。
【0146】
(初期摺動性の評価)
被覆チューブ2につき、実施例1-2に記載の方法にしたがって、摺動性(潤滑層の初期摺動性)を評価した。その結果、被覆チューブ2は、未処理のチューブに比して、滑りやすい低摩擦表面が形成されていることを確認した。
【0147】
(摺動耐久性の評価)
被覆チューブ2につき、実施例1-2に記載の方法にしたがって、摺動耐久性(潤滑層の耐久性)を評価した。結果を以下の表3に示す。
【0148】
[実施例3-2]
(被覆チューブ3の作製)
実施例1-2において、共重合体Bを製造例4で得られた共重合Dに変更した以外は実施例1-2と同様の方法に従い、チューブ表面に共重合体を含む被覆層(潤滑層)(乾燥後の膜厚=1μm)を有する被覆チューブ3を作製した。なお、共重合体Dは、コート液中に均一に溶解・分散していた。
【0149】
(スルホン酸イオンの対イオンの確認)
被覆チューブ3につき、実施例1-2と同様にして、被覆層中の共重合体のスルホン酸イオンの対イオンを確認した。その結果、アンモニウムのピーク(975cm-1)は確認されず、ナトリウム(992cm-1)のピークが確認された。このため、被覆層中の共重合体のスルホン酸イオンの対イオンは、アンモニウムカチオンではなく、ナトリウムカチオンであることを確認した。
【0150】
(初期摺動性の評価)
被覆チューブ3につき、実施例1-2に記載の方法にしたがって、摺動性(潤滑層の初期摺動性)を評価した。その結果、被覆チューブ3は、未処理のチューブに比して、滑りやすい低摩擦表面が形成されていることを確認した。
【0151】
(摺動耐久性の評価)
被覆チューブ3につき、実施例1-2に記載の方法にしたがって、摺動耐久性(潤滑層の耐久性)を評価した。結果を以下の表3に示す。
【0152】
[実施例4-2]
(被覆チューブ4の作製)
実施例2-2において、塩化ナトリウムを共重合体C100重量部に対し50重量部の割合で添加した以外は実施例2-2と同様の方法に従い、チューブ表面に共重合体を含む被覆層(潤滑層)(乾燥後の膜厚=1μm)を有する被覆チューブ4を作製した。なお、共重合体Cは、コート液中に均一に溶解・分散していた。
【0153】
(スルホン酸イオンの対イオンの確認)
被覆チューブ4につき、実施例1-2と同様にして、被覆層中の共重合体のスルホン酸イオンの対イオンを確認した。その結果、アンモニウムのピーク(975cm-1)は確認されず、ナトリウム(992cm-1)のピークが確認された。このため、被覆層中の共重合体のスルホン酸イオンの対イオンは、アンモニウムカチオンではなく、ナトリウムカチオンであることを確認した。
【0154】
(初期摺動性の評価)
被覆チューブ4につき、実施例1-2に記載の方法にしたがって、摺動性(潤滑層の初期摺動性)を評価した。その結果、被覆チューブ4は、未処理のチューブに比して、滑りやすい低摩擦表面が形成されていることを確認した。
【0155】
(摺動耐久性の評価)
被覆チューブ4につき、実施例1-2に記載の方法にしたがって、摺動耐久性(潤滑層の耐久性)を評価した。結果を以下の表3に示す。
【0156】
[実施例5-2]
(被覆チューブ5の作製)
実施例2-2において、塩化ナトリウムの代わりに硫酸ナトリウムを添加した以外は実施例2-2と同様の方法に従い、チューブ表面に共重合体を含む被覆層(潤滑層)(乾燥後の膜厚=1μm)を有する被覆チューブ5を作製した。なお、共重合体Cは、コート液中に均一に溶解・分散していた。
【0157】
(スルホン酸イオンの対イオンの確認)
被覆チューブ5につき、実施例1-2と同様にして、被覆層中の共重合体のスルホン酸イオンの対イオンを確認した。その結果、アンモニウムのピーク(975cm-1)は確認されず、ナトリウム(992cm-1)のピークが確認された。このため、被覆層中の共重合体のスルホン酸イオンの対イオンは、アンモニウムカチオンではなく、ナトリウムカチオンであることを確認した。
【0158】
(初期摺動性の評価)
被覆チューブ5につき、実施例1-2に記載の方法にしたがって、摺動性(潤滑層の初期摺動性)を評価した。その結果、被覆チューブ5は、未処理のチューブに比して、滑りやすい低摩擦表面が形成されていることを確認した。
【0159】
(摺動耐久性の評価)
被覆チューブ5につき、実施例1-2に記載の方法にしたがって、摺動耐久性(潤滑層の耐久性)を評価した。結果を以下の表3に示す。
【0160】
[実施例6-2]
(被覆チューブ6の作製)
実施例1-2において、共重合体Bを製造例1で得られた共重合体Aに変更した以外は実施例1-2と同様の方法に従い、チューブ表面に共重合体を含む被覆層(潤滑層)(乾燥後の膜厚=1μm)を有する被覆チューブ6を作製した。なお、共重合体Aは、コート液中に均一に溶解・分散していた。
【0161】
(スルホン酸イオンの対イオンの確認)
被覆チューブ6につき、実施例1-2と同様にして、被覆層中の共重合体のスルホン酸イオンの対イオンを確認した。その結果、アンモニウムのピーク(975cm-1)は確認されず、ナトリウム(992cm-1)のピークが確認された。このため、被覆層中の共重合体のスルホン酸イオンの対イオンは、アンモニウムカチオンではなく、ナトリウムカチオンであることを確認した。
【0162】
(初期摺動性の評価)
被覆チューブ6につき、実施例1-2に記載の方法にしたがって、摺動性(潤滑層の初期摺動性)を評価した。その結果、被覆チューブ6は、未処理のチューブに比して、滑りやすい低摩擦表面が形成されていることを確認した。
【0163】
(摺動耐久性の評価)
被覆チューブ6につき、実施例1-2に記載の方法にしたがって、摺動耐久性(潤滑層の耐久性)を評価した。結果を以下の表3に示す。
【0164】
[比較例1-2]
製造例5で得られた共重合体Eを10重量%の濃度になるように、水/メタノール混合溶媒(水:メタノールの混合重量比=7:3(v/v))に加えた後、塩化ナトリウムを共重合体 100重量部に対し35重量部の割合で添加したが、共重合体は溶解しなかった。コート液を調製することができないため、被覆チューブを作製できなかった。
【0165】
[比較例2-2]
製造例3で得られた共重合体C(本発明に係る共重合体に相当)を10重量%の濃度になるように、水/メタノール混合溶媒(水:メタノールの混合重量比=7:3(v/v))に加えたが、共重合体は溶解しなかった。コート液を調製することができないため、被覆チューブを作製できなかった。
【0166】
【0167】
表3に示されるように、MSPB(単量体(A))由来の構成単位(A)の含有量が全構成単位に対して80モル%を超える共重合体A~Dおよびアルカリ金属塩(塩化ナトリウムまたは硫酸ナトリウム)を含むコート液を用いて形成され、本発明に係る親水性共重合体を含む潤滑層は、摺動性(初期摺動性)および耐久性(摺動耐久性)に優れることが分かる。特に実施例1-2~5-2と実施例6-2との比較から、MSPB(単量体(A))由来の構成単位(A)の含有量が全構成単位に対して99.9モル%未満(特に99.5モル%以下)であると、耐久性(摺動耐久性)をさらに向上できることが分かる。
【0168】
以上の結果より、本発明に係る潤滑層は、優れた潤滑性(初期摺動性)および耐久性(潤滑維持性)を発揮できることがわかる。