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特開2024-57624芝草用の植物成長調整剤および芝草の成長調整方法
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  • 特開-芝草用の植物成長調整剤および芝草の成長調整方法 図1
  • 特開-芝草用の植物成長調整剤および芝草の成長調整方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057624
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】芝草用の植物成長調整剤および芝草の成長調整方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 43/40 20060101AFI20240418BHJP
   A01P 21/00 20060101ALI20240418BHJP
   A01G 7/06 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
A01N43/40 101C
A01P21/00
A01G7/06 A
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089604
(22)【出願日】2021-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】523164137
【氏名又は名称】ディスカバリー、パーチェイサー、コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】Discovery Purchaser Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】中村 新
(72)【発明者】
【氏名】坂田 和毅
【テーマコード(参考)】
2B022
4H011
【Fターム(参考)】
2B022EA01
4H011AB03
4H011BB09
(57)【要約】      (修正有)
【課題】芝草用の植物成長調整剤およびそれを用いた芝草の成長調整方法を提供する。
【解決手段】式(I)で表される化合物またはその農園芸上許容可能な塩を含有する芝草用の植物成長調整剤およびそれを用いた芝草の成長調整方法を提供する。

(式中、Rは、2,6-ジククロロフェニルまたは2,3,5,6-テトラフルオロ-4-メトキシフェニルを表し、nは、1を表す。)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(I)で表される化合物またはその農園芸上許容可能な塩を含有する、芝草用の植物成長調整剤。
【化1】
(式中、
Rは、2,6-ジククロロフェニルまたは2,3,5,6-テトラフルオロ-4-メトキシフェニルを表し、
nは、1を表す。)
【請求項2】
芝草の成長を促進するための、請求項1に記載の植物成長調整剤。
【請求項3】
芝草における芽数を増加させるための、請求項1に記載の植物成長調整剤。
【請求項4】
前記芝草がベントグラス類である、請求項1に記載の植物成長調整剤。
【請求項5】
Rが2,6-ジククロロフェニルを表す、請求項1~4のいずれか一項に記載の植物成長調整剤。
【請求項6】
下式(I)で表される化合物またはその農園芸上許容可能な塩の有効量を、芝草またはその所在区画に施用する工程を含んでなる、芝草の成長調整方法。
【化2】
(式中、
Rは、2,6-ジククロロフェニルまたは2,3,5,6-テトラフルオロ-4-メトキシフェニルを表し、
nは、1を表す。)
【請求項7】
芝草の成長を促進する方法である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
芝草における芽数を増加させる方法である、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記芝草の成長レベルを指標として式(I)で表される化合物またはそれらの農園芸上許容可能な塩の有効量を決定する工程を含んでなる、請求項6~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記芝草の成長レベルを指標として式(I)で表される化合物またはそれらの農園芸上許容可能な塩の施用時期を決定する工程を含んでなる、請求項6~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記芝草の成長レベルが、芝草における芽数である、請求項6~10のいずれか一項に記載の方法。
記載の方法。
【請求項12】
前記芝草がベントグラス類である、請求項6~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
Rが、2,6-ジククロロフェニルを表す、請求項6~12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、芝草用の植物成長調整剤および芝草の成長調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業分野において、植物の成長を制御することは生産性向上のために重要な技術である。現在では植物の成長調節を目的とした様々な種類の植物成長調整剤が実用化され、植物成長調整剤は作物の収量や生産物の品質向上に貢献している。植物成長調整剤の中には植物の任意の組織の生育を促進するものと抑制するものの双方が含まれ、例えば、発根促進剤、着果促進剤、果実肥大促進剤、果樹の摘果剤、果実着色促進剤、矮化剤、除草剤等が植物成長調整剤に含まれる。
【0003】
一方で、フルオピコリド、フルオピラムまたはフルオピモミド等の2-ピリジルアルキルベンズアミド誘導体は、従来より、さまざまな植物を損傷する植物病原性真菌、細菌または線虫等に対して優れた活性を示す農園芸剤として知られている。例えば、特許文献1および特許文献2は、フルオピコリドおよびフルオピラムをはじめとする2-ピリジルアルキルベンズアミド誘導体を殺真菌剤として使用しうることを開示しており、特許文献3は、フルオピモミドを殺真菌または殺細菌剤として使用しうることを開示している。このような2-ピリジルアルキルベンズアミド誘導体を含有する殺真菌剤は一般的に、畑地、水田、果樹園、ゴルフ場、公園等に施用され、施用のためにそのまま散布または水に希釈して散布し、使用することが可能である。
【0004】
しかしながら、上述のような2-ピリジルアルキルベンズアミド誘導体が植物を成長させる効果、とりわけ芝草における芽数の増加を有することについては何ら報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO99/42447号公報
【特許文献2】WO2004/016088公報
【特許文献3】CN102086173公報
【開示の概要】
【0006】
本開示者らは、今般、鋭意検討の結果、特定の構造を有する2-ピリジルアルキルベンズアミド誘導体またはそれらの農園芸上許容可能な塩が、芝生(芝生に使用される草)に対する優れた成長調整効果を有することを見出した。本開示はこれらの知見に基づくものである。
【0007】
したがって、本開示は、芝草用の植物成長調整剤およびそれを用いた芝草の成長調整方法を提供することを一つの目的としている。
【0008】
本開示の一つの態様によれば、式(I)で表される化合物またはそれらの農園芸上許容可能な塩を含有する、芝草用の植物成長調整剤が提供される。
【化1】
(式中、
Rは、2,6-ジククロロフェニルまたは2,3,5,6-テトラフルオロ-4-メトキシフェニルを表し、
nは1を表す。)
【0009】
また、本開示の別の態様によれば、上記式(I)で表される化合物またはその農園芸上許容可能な塩の有効量を、芝草またはその所在区画に施用する工程を含んでなる、芝草の成長調整方法が提供される。
【0010】
本開示によれば、式(I)で表される化合物またはそれらの農園芸上許容可能な塩を用いて、芝草の成長を調整ないし促進することができる。本開示の化合物またはそれらの農園芸上許容可能な塩は、芝草における芽数を促進する上で特に有利に利用することができる。また、本開示の化合物またはそれらの農園芸上許容可能な塩は、殺菌効果も有することから、芝生を損傷する菌を殺菌しつつ、芝生の成長を促進する上で特に有利に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】芝草(クリーピングベントグラス)の芽数の増加について、フルオピコリドを施用(2400g ai/ha)した場合と無処理の場合とを比較したグラフである。
図2】芝草(クリーピングベントグラス)の匍匐茎における新芽の発生について、フルオピコリドを施用(960g ai/ha)した場合と無処理の場合とを比較したグラフである。
【発明の具体的説明】
【0012】
本開示の一つの実施態様によれば、植物成長調整剤は、式(I)で表される化合物またはそれらの農園芸上許容可能な塩を含んでなることを特徴としている。
【化2】
(式中、
Rは、2,6-ジククロロフェニルまたは2,3,5,6-テトラフルオロ-4-メトキシフェニルを表し、
nは1を表す。)式(I)で表される化合物またはそれらの農園芸上許容可能な塩を用いると、芝草の急速な成長を達成しうることは意外な事実である。
【0013】
本開示の好ましい態様によれば、式(I)で表される化合物において、Rは、好ましくは2,6-ジククロロフェニルである。
【0014】
より具体的には、式(I)で表される化合物において、好ましくは下式(II):
【化3】
で表されるフルオピコリド(IUPAC名:2,6-ジクロロ-N-[[3-クロロ-5-(トリフルオロメチル)ピリジン-2-イル]メチル]ベンズアミド)または下式(III):
【化4】
で表されるフルオピモミド(IUPAC名:N-[[3-クロロ-5-(トリフルオロメチル)ピリジン-2-イル]メチル]-2,3,5,6-テトラフルオロ-4-メトキシベンズアミド)である。
【0015】
式(I)で表される化合物の農園芸上許容可能な塩としては当該技術分野で許容されるものであれば特に限定されないが、例えば、ジメチルアンモニウム塩、トリエチルアンモニウム塩のようなアンモニウム塩;塩酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、硝酸塩のような無機酸塩;酢酸塩、メタンスルホン酸塩のような有機酸塩、等が挙げられる。
【0016】
植物成長調整剤において、式(I)で表される化合物の農園芸上許容可能な塩の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.1~100質量%、好ましくは0.5~95質量%であり、より好ましくは1~50重量%であり、より一層好ましくは2~35重量%である。
【0017】
植物成長調整剤は、式(I)で表される化合物の農園芸上許容可能な塩の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.1~100質量%、好ましくはそれ以外の成分を含んでいてもよい。したがって、本開示の一実施態様によれば、植物成長調整剤は、組成物として提供される。
【0018】
植物成長調整剤は、所望により農園芸上許容される担体を含んでいてもよい。農園芸上許容される担体としては、特に限定されず、固体担体、液体担体、ガス状担体のいずれであってもよい。
【0019】
固体担体としては、例えば、クレー、シリケート、シリカ、樹脂、ロウ、肥料またはそれらの類似物等が挙げられる。
【0020】
液体担体としては、例えば、水、アルコール、ケトン、石油溶剤、飽和または不飽和炭化水素、塩素化炭化水素、液化石油ガスまたはそれらの類似物等が挙げられる。
【0021】
ガス状担体としては、LPG、空気、窒素、炭酸ガス、ジメチルエーテルまたはそれらの類似物等が挙げられる。
【0022】
植物成長調整剤は、上記担体以外にも、農園芸上許容可能な添加剤をさらに含んでいてもよい。添加剤としては、特に限定されないが、例えば、界面活性剤、分散剤、固着剤、消泡剤、凍結防止剤、染料、増粘剤、粘着剤、保護コロイド、浸透剤、安定剤、金属イオン封鎖剤、凝集防止剤、防錆剤、顔料またはその他の補助剤(カルボキシメチルセルロース、アラビアガム、ポリエチレングリコール、ステアリン酸カルシウム等)等が挙げられる。
【0023】
植物成長調整剤は、本開示の剤とは別の植物成長調節剤、殺菌剤、殺ダニ剤、除草剤、殺虫剤、肥料、BT剤、昆虫病原ウィルス剤等と混合または併用することができる。混合または併用することができる薬剤は、例えば、公知文献、「ザ・ペスティサイドマニュアル(ThePesticideManual,17thEdition,2015)」、「渋谷成美ら,SHIBUYAINDEX-2014-17thEdition,2014年2月」等に記載の化合物を挙げることができる。
【0024】
植物成長調整剤の剤形は、特に限定されず、散布用粉末、顆粒剤、溶液剤、濃縮乳剤、乳化剤、濃縮懸濁液、エアゾール等の任意の剤形に処方されてもよい。
【0025】
植物成長調整剤は、式(I)で表される化合物の農園芸上許容可能な塩を有効成分として、芝草の生長を促進するために使用することができる。したがって、本開示の一実施態様によれば、式(I)で表される化合物の農園芸上許容可能な塩を含有する、芝草の成長促進剤が提供される。好ましい態様によれば、成長促進剤は、日本国農薬取締法第2条(平成30年6月15日公布)において定義されたものである。
【0026】
植物成長調整剤は、式(I)で表される化合物の農園芸上許容可能な塩を有効成分として、芝草における芽数を増加させるために使用することができる。したがって、別の好ましい態様によれば、式(I)で表される化合物の農園芸上許容可能な塩を含有する、芝草における芽数を増加させるための剤が提供される。
【0027】
また、上記式(I)で表される化合物の農園芸上許容可能な塩は、そのまままたは上述のような剤形に調整して、芝草またはその所在区画に対して施用して芝草の成長を調整することができる。したがって、本開示の別の態様によれば、上記式(I)で表される化合物またはその農園芸上許容可能な塩の有効量を、芝草またはその所在区画に施用する工程を含んでなる、芝草の成長調整方法が提供される。好ましい態様によれば、本開示の上記方法は、芝草の成長を促進する方法である。また、より具体的な態様によれば、本開示の上記方法は、芝草における芽数を増加させる方法である。
【0028】
上記式(I)で表される化合物またはその農園芸上許容可能な塩を芝草またはその所在区画に施用する手法としては、好ましくは散布処理、土壌処理、表面処理または薫蒸処理等が挙げられる。
【0029】
散布処理としては、例えば、散布、噴霧、ミスティング、アトマイジング、散粒、水面施用が挙げられる。また、土壌処理としては、例えば、土壌灌注、土壌混和が挙げられる。また、表面処理としては、例えば、塗布、粉衣、被覆することが挙げられる。また、薫蒸処理としては、例えば、土壌注入後、ポリフィルムで土壌を覆うことが挙げられる。なお、本開示の方法には、式(I)で表される化合物またはその塩、あるいはこれらを含んでなる上記植物成長調整剤を浸透移行剤として適用することも含まれる。
【0030】
芝草の所在区画としては、例えば、芝草の生育する場所(土壌、ビニールハウス内、敷地内)等である。また、芝草において、上記式(I)で表される化合物またはその塩が適用される部位は、特に限定されないが、葉、種子、根またはそれらの植物部位が挙げられる。
【0031】
本開示の実施態様によれば、芝草は、寒地型芝草または暖地型芝草のいずれであってもよい。寒地型芝草としては、ケンタッキーブルーグラス(Poa pratensis L.)、ラフブルーグラス(Poa trivialis L.)、カナダブルーグラス(Poa compressa L.)、アニュアルブルーグラス(Poa annua L.)、アップランドブルーグラス(Poa glaucantha Gaudin)、ウッドブルーグラス(Poa nemoralis L.)およびバルバスブルーグラス(Poa bulbosa L.)のようなブルーグラス類(Poa spp.);クリーピングベントグラス(Agrostis palustris Huds.)、コロニアルベントグラス(Agrostis tenius Sibth.)、ベルベットベントグラス(Agrostis canina L.)、サウスジャーマンミックスドベントグラス(tenius Sibth、Agrostis canina L.およびAgrostis palustris Huds.を含むAgrostis spp.)およびレッドトップ(Agrostis alba L.)のようなベントグラス類およびレッドトップ(Agrostis spp.);レッドフェスク(Festuca rubra L.spp.rubra)、クリーピングフェスク(Festuca rubra L.)、チューイングフェスク(Festuca rubra commutata Gaud.)、シープフェスク(Festuca ovina L.)、ハードフェスク(Festuca longifolia Thuill.)、ヘアフェスク(Festuca capillata Lam.)、トールフェスク(Festuca arundinacea Schreb.)、ミードウフェスク(Festuca elanor L.)のようなフェスク類(Festuca spp.);アニュアルライグラス(Lolium multiflorum Lam.)、ペレニアルライグラス(Lolium perenne L.)イタリアンライグラス(Lolium multiflorum Lam.)のようなライグラス類(Lolium spp.);フェアウエーホイートグラス(Agropyron cristatum(L.)Gaertn.)、クレステッドホイートグラス(Agropyron desertorum(Fisch.)Schult.)及びウエスタンホイートグラス(Agropyron smithii Rydb.)のようなホイートグラス類(Agropyron spp.)等が挙げられる。
【0032】
他の寒地型芝草としては、例えば、ビーチグラス(Ammophila breviligulata Fern.)、スムースブロメグラス(Bromus inermis Leyss.)、例えばチモシー(Phleum pratense L.)、サンドキャットテイル(Phleum subulatum L.)のようなキャットテイル類、オーチャードグラス(Dactylis glomerata L.)、ウィーピングアルカリグラス(Puccinellia distans(L.)Parl.)、クレステッドドッグズテイル(Cynosurus cristatus L.)がある。
【0033】
暖地型芝草としては、ノシバ(Zoysia japonica)、コウライシバ(Zoysia matrella)、ヒメコウライシバ(Zoysia matrella)、ビロードシバ(Zoysia tenuifolia)、オニシバ(Zoysia macrostachya)、スナシバ(Zoysia hondana)、ナガミノオニシバ(Zoysia sinica)、バミューダグラス(Cynodon spp.L.C.Rich)、ゾイシアグラス(Zoysia spp.Willd.)、セイントオーガスチングラス(Stenotaphrum secundatum Walt Kuntze)、センチピードグラス(Eremochloa ophiuroides Munro Hack.)、カーペットグラス(Axonopus affinis Chase)、バヒアグラス(Paspalum notatum Flugge.)、キクユグラス(Pennisetum clandestinum Hochst.ex Chiov.)、バッファローグラス(Buchloe dactyloids(Nutt.)Engelm.)、ブルーグラマ(Bouteloua gracilis(H.B.K.)Lag.ex Grffiths)、シーショアパスパルウム(Paspalum vagin atum Swartz)およびサイドオーツグラマ(Bouteloua curtipendula(Michx.Torr.)等が挙げられる。
【0034】
本開示一つの実施態様によれば、芝草は、上記式(I)で表される化合物またはその農園芸上許容可能な塩により植物成長調整作用が奏されるものであれば特に限定されないが、前述の通り寒地型芝草及び暖地型芝草を含むすべての芝草を含み、通常、健常であることが好ましい。ここで、健常とは、ピシウム病等の病気に罹患していない状態を意味する。
【0035】
本開示の一つの具体的態様によれば、芝草は、好ましくは寒地型芝草であり、より好ましくはベントグラス類であり、より一層好ましくはクリーピングベントグラスである。
【0036】
また、本開示の別の具体的態様によれば、芝草は、ノシバ、コウライシバ、ヒメコウライシバ、ビロードシバ、バミューダグラス、バヒアグラス、セントオーガスチングラス、センチピドグラス、カーペットグラス、キクユグラス、クリーピングベントグラス、コロニアルベントグラス、ケンタッキーブルーグラス、フェスク類、イタリアンライグラスおよびペレニアルライグラスから選択される少なくとも一つのものである。
【0037】
本開示によれば、芝草の成長レベルを参照して上記式(I)で表される化合物またはその塩の有効量を予め設定し、芝草に適用することができる。したがって、好ましい実施態様によれば、本開示の方法は、芝草の成長レベルを指標として式(I)で表される化合物またはその塩の有効量を決定する工程を含んでなる。上記式(I)で表される化合物またはその塩の施用量は、芝草の成長レベルの他、外部条件(例えば、温度、湿度など)を参照してまた指標として設定してもよい。
【0038】
上記式(I)で表される化合物またはその塩の有効量は、特に限定されないが、例えば、480~4800g ai/haとすることができ、好ましくは720~3600g ai/haであり、より好ましくは960~2400g ai/haである(ai/haは、以下、100%の活性化合物に基づく「1ヘクタール当たりの活性物質」を意味する)。
【0039】
本開示によれば、芝草の成長レベルを参照して上記式(I)で表される化合物またはその塩の施用時期を予め設定し、芝草に適用することができる。したがって、好ましい実施態様によれば、本開示の方法は、芝草の成長レベルを指標として式(I)で表される化合物またはそれらの農園芸上許容可能な塩の施用時期を決定する工程を含んでなる。
【0040】
式(I)で表される化合物またはその塩の施用時期の決定とは、施用する季節、時間間隔、施用回数の決定を包含していてもよい。例えば、式(I)で表される化合物またはその塩は、成長期または植栽期に1回以上芝草に施用してもよく、栽植前、出芽前または出芽後に1回以上芝草に施用してもよい。
【0041】
また、式(I)で表される化合物またはその塩の施用時期は、季節を参照して決定してもよく、季節的施用を適用してもよい。本明細書において使用する場合、「季節的施用」とは、成長の季節に付随するある時間の範囲を示すのに使用される。北半球と南半球では季節が異なるため、「春」、「秋」等の温度的季節を示す用語は、地理的位置に依存して異なる説明を必要とする。さらに、熱帯の気候ではしばしば乾季と雨季という用語で示される季節を経験する。したがって、「季節的施用」という用語は、使用される俗称に関係なく、そのような季節に付随する客観的な基準に対して、本明細書では使用する。
【0042】
したがって、春として参照されるある季節は、大部分の植物が成長を始める、通常、北半球では、3月から5月いっぱい、南半球では9月から11月の月を含むと考えられる、冬と夏の間の季節を提供する。この季節は、日中の平均気温が約30°Fから約80°Fの範囲である。
【0043】
秋と参照される別の季節は、夏から冬への移行を表す。北半球では、秋の始まりは、一般には、9月ごろであると考えられ、南半球では、その始まりは3月ごろと考えられる。しかし秋の定義には別のものが存在し、そのうちあるものは一年の月に基礎を置き、他のものは昼夜平分時および至点に基づいている。この季節は、日中の平均気温が約30°Fから約85°Fの範囲である。
【0044】
夏は、南半球では、12月、1月および2月の全部の月であり、北半球では、6月、7月および8月の全部の月である。この気象学的な夏の定義はまた、一年で最も長く最も暑い日があり、および様々な程度に変化して日中の光が優勢である季節としての夏の一般的な意識と一致する。季節の天文学的な開始の使用は、春と夏が、春は昼夜平分時から至点へ長くなり、夏は至点から昼夜平分時へ短くなるという、一日の長さのほとんど同様なパターンを有するということを意味するが、一方で気象学的な夏は、最も長い日に向かって作り上げていきその後減少する、そのため夏は春よりもより多い日中の時間を持つということを包含する。夏の季節は、日中の平均気温が約55°Fから約95°Fの範囲である。
【0045】
冬は、冬至に始まり春分で終わる。気象学的に計算すると、冬は、典型的には、昼夜平分時および至点のある月の始まりにおいて、より早く始まりおよび終わり、最も短い日と最も低い気温を持つ季節である。冬は、一般には、寒い気候を有し、特により高い緯度や高度では、雪と氷とを有する。季節の最も低い平均気温は、一般には、北半球では1月に、南半球では、6月に経験する。この季節は、日中の平均気温が約32°Fから約-35°Fの範囲である。
【0046】
また、本開示の別の態様によれば、芝草用の植物成長調整剤としての、上記式(I)で表される化合物またはその農園芸上許容可能な塩が提供される。好ましい態様によれば、植物成長調整剤は、芝草の成長を促進するための剤である。また、別の好ましい態様によれば、植物成長調整剤は、芝草における芽数を増加させるための剤である。また、好ましい態様によれば、芝草がベントグラス類である。また、好ましい態様によれば、上記式(I)で表される化合物はフルオピコリドまたはフルオピモミドである。
【0047】
また、本開示の別の態様によれば、芝草用の植物成長調整剤としての、上記式(I)で表される化合物またはその農園芸上許容可能な塩の使用が提供される。好ましい態様によれば、植物成長調整剤は、芝草の成長を促進するための剤である。また、別の好ましい態様によれば、植物成長調整剤は、芝草における芽数を増加させるための剤である。また、好ましい態様によれば、芝草がベントグラス類である。また、好ましい態様によれば、上記式(I)で表される化合物はフルオピコリドまたはフルオピモミドである。
【0048】
また、本開示の別の態様によれば、芝草用の植物成長調整剤の製造における、上記式(I)で表される化合物またはその農園芸上許容可能な塩の使用が提供される。好ましい態様によれば、植物成長調整剤は、芝草の成長を促進するための剤である。また、別の好ましい態様によれば、植物成長調整剤は、芝草における芽数を増加させるための剤である。また、好ましい態様によれば、芝草がベントグラス類である。また、好ましい態様によれば、上記式(I)で表される化合物はフルオピコリドまたはフルオピモミドである。
【0049】
また、本開示の一実施形態によれば、以下の(1)~(13)を提供することができる。
(1)下式(I)で表される化合物またはその農園芸上許容可能な塩を含有する、芝草用の植物成長調整剤。
【化5】
(式中、
Rは、2,6-ジククロロフェニルまたは2,3,5,6-テトラフルオロ-4-メトキシフェニルを表し、
nは、1を表す。)
(2)芝草の成長を促進するための、(1)に記載の植物成長調整剤。
(3)芝草における芽数を増加させるための、(1)に記載の植物成長調整剤。
(4)前記芝草がベントグラス類である、(1)に記載の植物成長調整剤。
(5)Rが2,6-ジククロロフェニルを表す、(1)~(4)のいずれかに記載の植物成長調整剤。
(6)下式(I)で表される化合物またはその農園芸上許容可能な塩の有効量を、芝草またはその所在区画に施用する工程を含んでなる、芝草の成長調整方法。
【化6】
(式中、
Rは、2,6-ジククロロフェニルまたは2,3,5,6-テトラフルオロ-4-メトキシフェニルを表し、
nは、1を表す。)
(7)芝草の成長を促進する方法である、(6)に記載の方法。
(8)芝草における芽数を増加させる方法である、(6)または(7)に記載の方法。
(9)上記芝草の成長レベルを指標として式(I)で表される化合物またはそれらの農園芸上許容可能な塩の有効量を決定する工程を含んでなる、(6)~(8)のいずれかに記載の方法。
(10)上記芝草の成長レベルを指標として式(I)で表される化合物またはそれらの農園芸上許容可能な塩の施用時期を決定する工程を含んでなる、(6)~(9)のいずれかに記載の方法。
(11)芝草の成長レベルが、芝草における芽数である、(6)~(10)のいずれかに記載の方法。
記載の方法。
(12)芝草がベントグラス類である、(6)~(11)のいずれかに記載の方法。
(13)Rが、2,6-ジククロロフェニルを表す、(6)~(12)のいずれかに記載の方法。
【実施例0050】
以下、本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらの例に限定されるものではない。なお、特段の記載のない限り、単位および測定方法は、日本産業規格(JIS)の規定に従う。
【0051】
試験例1:フルオピコリドがクリーピングベントグラスの成長に与える影響の確認
フルオピコリドのフロアブル製剤を用いてPGR(Plant Growth Regulator)効果を試験した。具体的には、植物成長調整剤を以下の表1に示す通り調製し、フルオピコリドがクリーピングベントグラスの成長に与える影響を評価した。
【0052】
【表1】
【0053】
全ての処理は、400mL/分を送達するように調整されたホローコーンノズルを備えている電動肩掛け式噴霧器を用いて施用した。散布対象作物はクリーピングベントグラスとしてフルオピコリド処理区画にはフルオピコリドを2400g ai/haとなるように散布し、無処理の区画には、水のみを散布した。
【0054】
クリーピングベントグラスの草丈は4-5mm程度で、上記薬剤を処理した。試験は、1処理当たり3反復で、完全乱塊法で配置した。個々のクリーピングベントグラス区画は、1mであった。全ての区画は、当該植物成長調整剤による処理を含むように分割法を用いて配置した。
【0055】
最初の施用時には、代表的なサンプルクリーピングベントグラスは、みずみずしい緑色で、密度が均一で、高温ストレス等のどのような徴候も示していなかった。区画には、有害生物は存在しておらず、特別な維持管理は必要なかった。
【0056】
試験期間中、クリーピングベントグラス区画を、当該植物成長調整剤で処理0日後、8日後、16日後および28日後の計4回評価した。データは、0.81cm当たりの芽数で示した。
【0057】
結果を図1に示す。処理16日後および28日後では、無処理の区画と比較してフルオピコリドで処理した区画では芽数が有意に増加することが示された。
【0058】
試験例2:フルオピコリドがクリーピングベントグラス匍匐茎の新芽発生に与える影響
植物成長調整剤を以下の表2に示す通り調製し、フルオピコリドがクリーピングベントグラス匍匐茎の新芽の発生に与える影響を評価した。
【0059】
【表2】
【0060】
全ての処理は、エッペンドルフ社製マイクロピペットを用いて施用した。対象作物はベントグラスとしてフルオピコリド処理の区画にはフルオピコリドを960g ai/haとなるように1ヘクタール当たり5000Lで処理し、無処理の区画には、水のみを処理した。
【0061】
散布前にベントグラスの各匍匐茎を採取し、葉と根をすべて取り除いて節が10個になるように切りそろえてプラスチックパックに入れ、薬剤処理の後20~25℃で培養した。1処理当たり4反復行った。新芽の発生数、処理9、13、19、32、40日後(DAT)に計上した。
【0062】
結果を図2に示す。
9DATにおいて、フルオピコリドの適用により、新芽は匍匐茎1本当たり平均3本に増加し、13DATにおいては、最大値である3.5本に達した。したがって、無処理と比較して、フルオピコリドは2週間以内の新芽の発生を加速することが示された。
図1
図2