(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057625
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】太陽光発電環境システム
(51)【国際特許分類】
A01G 22/00 20180101AFI20240418BHJP
H02S 20/10 20140101ALI20240418BHJP
【FI】
A01G22/00
H02S20/10 C
H02S20/10 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164377
(22)【出願日】2022-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】591032703
【氏名又は名称】群馬県
(71)【出願人】
【識別番号】596041227
【氏名又は名称】石坂産業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 豊
(72)【発明者】
【氏名】田島 創
(72)【発明者】
【氏名】小松 秀和
【テーマコード(参考)】
2B022
【Fターム(参考)】
2B022AB02
2B022AB20
2B022DA19
(57)【要約】
【課題】太陽光発電システムにおいて、太陽光電池モジュール周辺の環境に配慮した植栽やメンテナンスが容易になるシステムがなかった。
【解決手段】太陽電池モジュール周辺の土壌と植栽を制御することで夏期の太陽電池モジュール周辺の温度上昇を抑え、二酸化炭素を吸収し、メンテナンスを容易にする太陽光発電環境システムを提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上設置型の太陽光発電環境システムであって、
地上部から架設された太陽電池モジュールと、
土壌と、
前記土壌に植栽された植物と、
を含み、前記土壌が少なくとも石膏を含み且つ酸性度が7.1以上9.5未満であり、
前記植物の前記土壌の中に存在する根が根粒状の第一の根と、該第一の根を繋ぐ前記第一の根より径が細い第二の根とからなり、前記植物が前記第一の根より発芽する植物であることを特徴とする地上設置型の太陽光発電環境システム。
【請求項2】
前記植物が少なくともジャノヒゲ又はスゲから選ばれる1種である、請求項1に記載の太陽光発電環境システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地上設置型の太陽光発電環境システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化への対策として再生可能エネルギーの利用が進められている。太陽電池を利用した太陽光発電は、温室効果ガスの排出削減につながる発電方法として普及してきた。一方、その設置場所では、土壌や礫がむき出しになっていて、雨による土砂の流出、土壌や礫の間から高い草丈の植物や蔓などの繁茂、などで太陽光発電システムの機能を損なう、発電効率が低下する、周辺環境に急激な変化を生じる、などの問題が生じている。
【0003】
地上設置型の太陽光発電システムの周辺に繁茂した草や蔓を除去するため、草刈り機、除草剤、草を食べる山羊などによるいわゆる除草が行われている。しかし、夏期に実施される除草作業は、作業者が熱中症になったり、草刈り機を利用する場合には、飛び石により太陽電池モジュールを破損したり、除草剤を用いる場合には、自然に存在しない化学成分により土壌や水、大気、更には作業者の健康を害したり、また、山羊を用いる場合には、山羊が太陽電池モジュール上に登ってやはり太陽電池モジュールを破損するなど、問題が生じることがあった。
【0004】
更に繁茂した草は、タンポポに代表されるように、種などを飛ばす性質があり、この飛行する種が、太陽電池の直流出力を交流に変換するインバータと系統に異常が生じたときに太陽光発電システムを安全に停止させる系統連系保護装置を搭載する所謂パワーコンディショナの冷却ファンに詰まるなどして負の影響を与え、冷却効率が低下することを原因とするこのパワーコンディショナの故障などの原因となるため、発電はもとより、系統への負の影響の原因となっていた。
【0005】
このようなことから、近年義務化された太陽光発電施設のメンテナンスについて、効率的且つ安価に、更に太陽光発電効率低下を防ぐような太陽光発電システムの環境構築が望まれていた。
【0006】
一方、太陽電池の温度特性として、太陽電池の温度が上昇すると発電時の電圧が低下することが指摘されている(非特許文献1)。太陽電池の発電量は、発電時の電圧と電流との積で算出されることから、太陽電池の温度上昇が発電量や発電効率の低下の原因となり課題だった。
【0007】
このような課題を解決するため、例えば特許文献1では、太陽電池モジュール周辺に植栽を施す取り組みが行われている。
【0008】
しかし、この特許文献1では、この発明に記載されているように、生育する植物が一定しないため、上述したように繁茂した植物が太陽電池モジュールの日射を遮ったり、パワーコンディショナに負の影響を与えたりする課題の解決には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】一般社団法人 太陽光発電協会編 太陽光発電システムの設計と施工
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した様に太陽光発電システムには、以下の課題があった。
【0012】
従来の太陽光発電システムでは、太陽電池モジュールの周辺や太陽電池モジュール下に繁茂した草や蔓が日射を遮り、太陽電池の発電量や発電効率が低下する。この草などを除去するための除草作業が太陽電池モジュールや作業者に負の影響を与える。不特定の植物が飛ばす種が、パワーコンディショナの冷却機能を低下させ、このパワーコンディショナの故障の原因となる、また、この種が太陽電池モジュールに付着して発電量を低下する、更に防草シートを施した場合には、この防草シート周辺の温度が高温になり発電量を低下させる、などの課題があった。
【0013】
これらのことから、生育する植物が一定していて、他の植物の浸入を阻害し、種などを飛散させず、植栽部の周囲の温度を低下させるような植栽とその植栽を実現する太陽光発電環境システムの開発が求められていた。
【0014】
本発明はこのような課題を解決するために成されたものであり、太陽電池モジュールへの日射を遮ることなく、育成する植物が一定していて、この太陽電池モジュールを含む太陽光発電システムの設置部地温を低下する地上設置型の太陽光発電環境システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記目的を達成するために、気温40℃を超える環境での除草作業など実施検査を重ねた上で鋭意検討した結果、酸性度(pHと記すこともある)が7.1以上9.5未満の土壌に、このアルカリ性の土壌でも育成して且つ根粒により増殖する植物で、この植物の地上部の葉と地下部である根とに特性がありこの特性により他の植物の増殖を阻み、種を飛ばさない植物を植栽することで、特に夏期の太陽光発電システム周辺の地温を低下させ、メンテナンスが容易に行える太陽光発電環境システムが構築できることを見い出し、本発明を成すにいたった。
【0016】
すなわち本発明の第一の発明は、地上設置型の太陽光発電システムとその周囲環境を含む太陽光発電環境システムであって、地上部から架設された太陽電池モジュールと、土壌と、この土壌に植栽された植物と、を含み、この土壌は少なくとも石膏を含み且つ酸性度が7.1以上9.5未満であり、この植物はこの土壌の中に存在する根が根粒状の第一の根とこの第一の根を繋ぐ第一の根より径が細い第二の根とからなり、この第一の根より発芽する植物である、ことが特徴である地上設置型の太陽光発電環境システムである。
【0017】
この第一の発明の作用は、この太陽光発電環境システムにおける太陽電池モジュール下にアルカリ性の土壌があり、この土壌に適応できる植物を選択的に繁茂する作用と、この植物により他の植物の浸入割合を低下させる作用と、太陽電池モジュール下及びその周辺の夏場の温度を他の場所に比べ低下させる作用である。
【0018】
第二の発明は、植物が少なくともジャノヒゲ又はスゲから選ばれる1種である、請求項1に記載の太陽光発電環境システムである。
【0019】
この第二の発明の作用は、ジャノヒゲ又はスゲを植栽することで、種を飛ばすことなくこの植物がアルカリ性の土壌でも繁茂し、他の植物の浸入を防ぎ、太陽電池モジュール周辺の温度を低下する作用である。
【発明の効果】
【0020】
この発明の太陽光発電環境システムでは、この太陽光発電環境システムの太陽電池モジュールやパワーコンディショナなどの周辺温度を低下させる効果や地上設置型の太陽光発電環境システムのメンテナンスを容易にする効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の太陽光発電環境システム1の実施態様のシステム全体の外観図である。
【
図2】従来の太陽光発電システム全体の外観図である。
【
図3】本発明の太陽光発電環境システム1に用いる土壌5の写真である。
【
図4】本発明の太陽光発電環境システム1に用いる植物6の全体写真である。地下部では根粒状の太い根62同士を繋ぐ細い根63の写真である。
【
図5】本発明の太陽光発電環境システム1に用いる植物6を酸性度9の土壌5に施し栽培を開始した実験の写真である。
【
図6】本発明の太陽光発電環境システム1に用いる植物6を酸性度9の土壌5に施し栽培を開始後2ヶ月後の実験現場の写真である。
【
図7】本発明の太陽光発電環境システム1に用いる植物6を酸性度9の土壌5に施し栽培を開始後5ヶ月後の実験現場の写真である。
【
図8】本発明の太陽光発電環境システム1に用いる植物6を酸性度9の土壌5に施し栽培を開始後7ヶ月後の写真である。
【
図9】本発明の太陽光発電環境システム1に用いる植物6を酸性度9の土壌5に施し栽培を開始後10ヶ月後の写真である。
【
図10】本発明の太陽光発電環境システム1を実施した場所の外観写真である。
【
図11】従来の太陽光発電システム12の外観写真である。
【
図12】従来の太陽光発電システム12の不特定複数の植物が繁茂している部分の外観写真である。
【
図13】従来の太陽光発電システム12の防草シートを突き抜けて植物が繁茂している部分の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明につき、図面を用いてより詳細に説明する。
【0023】
本発明の地上設置型の太陽光発電環境システム1は、少なくとも、太陽光により発電する太陽電池2を含む太陽電池モジュール3と、パワーコンディショナ4と、この太陽電池モジュール3とパワーコンディショナ4とを電気的に連結する配線10と、太陽電池モジュール3の下やその周辺の土壌5と、架台9と、土壌5に植栽する植物6と、から成る。更に、パワーコンディショナ4を系統へと繋ぐ図示しない電線も含む。架台9は、基礎に支えられておりこの基礎の周りに土壌5を配置している。
【0024】
太陽光発電環境システム1に用いる土壌5について詳述する。
太陽光発電環境システム1に用いる土壌5は、酸性度(pHと記すこともある)が7.1以上9.5未満の土壌である。この土壌5の酸性度の範囲は、7.1以上9.5未満が好ましく、7.5以上9.0未満がより好ましく、7.5以上8.7以下が更に好ましい。
【0025】
土壌5の酸性度が7.1未満の場合には、土壌5に植栽する植物6が繁茂する際に、太陽光発電に対して害のある植物8(
図2、
図11~
図13参照)や他の植物が浸入して成長する場合がある。例えば、
図2、
図11~
図13に示すように従来の太陽光発電システム12では、防草シートで覆われた資材11や礫の間から太陽光発電に対して害のある植物8が太陽電池モジュール3より上方まで繁茂し、
図11のように太陽電池2への日射を遮ることとなる。また、土壌5の酸性度が9.5以上の場合には、この土壌5に植栽する植物6の育成が遅れる場合がある。
【0026】
土壌5の製造方法については、特に限定されないが、酸性度が7以下の土壌にアルカリ性を示す物質を施すことにより製造することが出来る。アルカリ性を示す物質については、石膏を含むことが最適であるが、自然に算出する物質なども好ましく用いられる。この物質として硫酸カルシウム所謂石膏は、この物質として特に有効に用いることが出来る。更に、土壌5は、建築物の建て替え時に発生する建設系解体発生土を好ましく用いる場合がある。建設系解体発生土では、家屋の壁材として用いられる石膏ボードなどが含まれるため、好ましく用いることができる。この建設系解体発生土に不溶化材を添加したり、造粒したりした所謂造粒土も好ましく用いられる。
【0027】
太陽光発電環境システム1に用いる植物6について
図1及び
図3~
図4を用いて詳述する。
太陽光発電環境システム1に用いる植物6は、少なくとも地上部61と、地下部である粒状の太い根62と、やはり地下部でありこの根粒状の太い根62同士を繋ぐ細い根63とから成る。太い根62と細い根63とから成る植物6の地下部は、所謂匍匐茎と呼ばれることもある。太い根62と細い根63とから成る地下部が好ましい理由は、他の植物の繁殖や太陽光発電に対して害のある植物8を防ぐ性質があるためである。
【0028】
太陽光発電環境システム1で用いた植物6は、この性質を有しており、酸性度7.1の土壌においても他の植物を4年に渡り防いでいる実績を確認している。太い根62は、植栽時には、単独で存在することももちろんできる。この単独で存在する太い根62は、太陽光発電環境システム1を施工する際、土壌5に混ぜ、施工時に効率的に分散させられるため、好ましい。更に上述したこの造粒土を土壌5として用いる場合には、太い根62と造粒土とがそれぞれ粒状で混合しやすいため、好ましく用いられる。
【0029】
地上部61は、太い根62から芽が出て、地上に複数の針状の地上部61を形成すると好ましい。地上部61の葉の長さは40cm未満が好ましい。また、葉の長さが40cm以上になったとしても、重力によりこの地上部61の葉先が垂れるようになり、所謂草丈が30cm以下になれば好ましく植物6として用いることが出来る。草丈30cm以下の植物6が好ましく用いられる理由は、地上部61が太陽電池2の上部にまで達して太陽電池2への日射を遮ることがないためである。また、草丈は、太陽発電モジュール3の下端と草丈の上部との間の距離が5cm以上あると好ましい。
【0030】
植物6の繁殖は、地下部である粒状の太い根62と、やはり地下部である太い根62同士を繋ぐ細い根63とが広がることにより繁殖すると好ましい。この繁殖の仕方が好ましい理由は、太陽光発電環境システム1の外部にまで植物6が繁殖することを防ぐため、土壌5を仕切り7で外部と区分するためである。後述するが、太陽光発電環境システム1の外への繁殖を防ぐため、例えば太陽光発電環境システム1とその外部とを区切る仕切り7があると好ましい。太陽光発電環境システム1は、低圧や高圧の発電設備として運用されるため、太陽光発電環境システム1には人の立ち入りを制限するフェンスなどが付設されている。このフェンスの土台部を仕切り7として併用することも好ましくできる。
【0031】
植物6は、日本国において3月から4月頃地上部61が地上に芽を出すと好ましい。この理由は、他の植物が定植する前に植物6が繁殖しやすくなるためである。後述する実施例1にも示すが、植物6として地下部にジャノヒゲの特徴を有している植物を利用した場合には、
図9に示すように植物6を定植してから10ヶ月後も他の植物の浸入を阻害することが確かめられている。更に、半年経過した17ケ月後も10か月後と同様の状態にあることを確認した。
【0032】
植物6の種類について詳述する。
植物6の種類として、ジャノヒゲ属、ジャノヒゲ属の亜種、地下部がジャノヒゲ属に類似していて地上部が常緑ではなくて冬季に枯れる性質のもの、が好ましく用いられる。
【0033】
太陽光発電環境システム1について詳述する。
太陽光発電環境システム1は、電気事業法に定められる電気工作物であり、一般用電気工作物と、事業用電気工作物とを含んでいる。
【0034】
【0035】
図2は、従来の太陽光発電システムの外観図である。従来の地上設置型の太陽光発電システム12は、少なくとも、太陽光により発電する太陽電池2を含む太陽電池モジュール3と、パワーコンディショナ4と、この太陽電池モジュール3とこのパワーコンディショナ4とを電気的に連結する配線10と、この太陽電池モジュール3の下やその周辺の資材11と、架台9とから成る。更に、パワーコンディショナ4を系統へと繋ぐ図示しない電線も含む。この架台9は、基礎に支えられておりこの基礎の周りにこの資材11を配置している。
【0036】
従来の地上設置型の太陽光発電システム12の資材11としては、pHが7未満の土壌であったり、コンクリートの礫であったり、砕石などが用いられている。また、資材11の上に防草を目的とした所謂防草シートが張られる場合もある。
図11から
図13は、資材11として砕石を用い、その上を防草シートで覆った従来の地上設置型の太陽光発電システム12である。
【0037】
従来の地上設置型の太陽光発電システム12の周辺を撮影した写真を
図11から
図13に示す。このように、従来の地上設置型の太陽光発電システム12周辺には、不特定の草が繁茂している。更に
図13では、イネ科の植物が防草シートを突き抜けて育成していることが確認できる。
【0038】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明する。しかし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【実施例0039】
<実施例1>
土壌5として、建設系解体発生土から作製した石坂産業株式会社製精選土を用いた。この精選土のpHは、原料である建設系解体発生土の発生する場所により異なり、pH7.1以上9.5未満であった。この精選土には、石膏が5重量%~25重量%含まれていた。この石膏の含有量と土壌は、やはり原料の発生場所によると考えられる。なお、石膏の含有割合は、蛍光X線分析装置などにより、元素分析を行うことで確認できた。具体的には、精選土に含まれるカルシウム量と、硫黄量とから、硫酸カルシウム量を算出した。
【0040】
土壌5として、pH9、石膏20重量%のものを選び、厚さ0.5cm、高さ5cmの仕切り7が土壌5の表面から露出するように設け、仕切り7の内部に精選土を深さ30cmとなるように入れ、更に植物6として土壌5の表面の30%に植物6として地上部が2~5cmに成長した地下部の太い根62を定植した。植物6の定植は、土壌5の地表面の面積25cm2、深さ5cmに地下部の太い根62が1つとなるように施した。
【0041】
この定植は、5月の中旬に行った。仕切り7を設けた容器は、太陽電池モジュール下の周辺を模擬した半日陰に置き、その後17ヶ月間にわたり経過を観察した。植物6は、夏季の最高気温が40℃を超える群馬県太田市及び栃木県足利市において、2017年から2021年5年間にわたり栽培を続けたもので、地上部の葉の長さは平均35cm、草丈平均28cm、太い根62と細い根63とを持ち、土壌pH6.5、農薬や除草剤不使用、他の植物が植物6の周辺に育成せず、冬季には地上部が枯れ、種を飛散は確認されないものを用いた。また、植物6は、仕切り7を設けると外には繁茂しない。
【0042】
<実施例1の結果>
上記実施例1の結果、植物6は良好に育成した。7月(定植から2ケ月後)から9月が最も葉の色が濃く(
図6参照)、このとき植物6の波長は、最大で35cm程で、その葉先は重力により地表面方向に垂れて草丈は28cm程度となった。
【0043】
10月末(定植から5ケ月後)には、葉の5%程度が茶色に変色し(
図7参照)、12月中旬には、ほとんどの葉が枯れて茶色に変色した(
図8参照)。その後、翌年の4月初旬には前の年の5月に定植した植物6の地上部と同様の葉を確認することが出来た(
図9参照)。また、やはり翌年の6月初旬及び試験開始から17ヶ月後の翌年の10月に確認したところ、土壌5と植物6を施した仕切り7の内側において、植物6以外の植物の育成は確認できなかった。
【0044】
図8の状態は更に4ヶ月間続き、12ヶ月前の状況を再現することを確認した。このことから、仕切り7の内側において、植物6以外の植物の育成が防がれたことを確認した。また、仕切り7の外部で土壌5のみを施し、植物6を施さなかった区画では、植物6の育成を確認できなかった。このことから、植物6は、仕切り7の外側まで広がらないことを確認した。
【0045】
これらのことから、土壌5に植物6を施した太陽光発電環境システム1では、メンテナンスが容易に行えることを確認した。さらに、夏期における温度は、外気温32.2℃のとき植物6を施さない場所(後述する比較例1で詳細を説明)で31.8℃、植物6を施した場所で27.1℃だった。この実験によると、植物6により4.7℃の温度低下が確認できた。また、この温度低下の傾向は、夏期を通して確認できた。
【0046】
非特許文献1によると太陽電池の発電量は、25℃における発電量を基準としており、温度10℃の上昇により4.6%低下する。このことから、温度25℃の場合と比較した植物6を施した場合の発電量の低下率0.97%は、植物6を施さない場合の発電量の低下率3.13%に比べ2.16%改善する効果があることが期待できる。さらに、土壌5に植物6を施した太陽光発電環境システム1では、発電への影響も良好になることが確認できた。
【0047】
以上の結果を栃木県足利市で太陽電池による大規模発電事業所謂メガソーラー発電事業や太陽光発電システムのメンテナンスを行っている企業に確認したところ、土壌5に植物6を施した太陽光発電環境システム1は、良好な太陽光発電システムであると判断された。これらのことから、pH9、石膏20重量%のアルカリ性の精選土の土壌5に地上部61と、地下部である粒状の太い根62と、やはり地下部でありこの根粒状の太い根62同士を繋ぐ細い根63とから成る植物6を施した太陽光発電環境システム1の総合判定を良好とした。
【0048】
更に、実施例1の実施期間において、植物6は、順調に育成した。植物6は、冬期は枯れ、地上部の乾燥重量として28.3g/m2だった。植物6の乾燥物をセルロースとして考えた場合の二酸化炭素固定量は、64g/m2-CO2と見積もれた。この二酸化炭素固定量は、最大出力500kW程度の発電設備における敷地面積を30m×100mとした場合、192kg-CO2と見積もられた。このことから、この太陽光発電環境システム1の環境保全への貢献は、良好と判断した。
【0049】
<比較例1>
植物6を施さない場合の環境変化を調べるため、比較例1を実施した。
土壌5として、建設系解体発生土から作製した石坂産業株式会社製精選土を用いた。この精選土のpHは、原料である建設系解体発生土の発生する場所により異なり、pH7.1以上9.5未満であった。この精選土には、石膏が5重量%~25重量%含まれていた。この石膏の含有割合は、蛍光X線分析装置などにより、元素分析を行うことで確認できた。具体的には、精選土に含まれるカルシウムと、硫黄とから、硫酸カルシウム量を算出した。土壌5として、実施例1と同じpH9、石膏20重量%のものを選び、実施例1と同日に実施例1の仕切り7の外に施した。比較例1の土壌5は、実施例1と同様に太陽電池モジュール3の下や周辺を模擬した半日陰に置き、その後1年間にわたり経過を観察した。
【0050】
<比較例1の結果>
上記比較例1の結果、この区画において植物6の育成は認められなかった。一方で、12月までは植物6以外の他の植物8の育成も確認できなかった。これは、土壌5に含まれるアルカリ成分がこの他の植物8の成長を阻害しているためと考えられた。しかし、12月から他の植物8の成長を確認し、4月には、この他の植物8の草丈は50cm以上にまで達した。酸性の降雨により土壌5のアルカリ性が中性に近づいたことで他の植物8が育成しやすくなったと考えられた。
【0051】
このことから、比較例1の条件では、太陽光発電システムの発電量に負の影響を与えることを確認した。太陽光発電システムの発電量に対する負の影響を排除するため、他の植物の除去には、除草剤を噴霧したり、草刈りをするなどメンテナンスをする必要が生じ、環境への負荷が生じたと判断した。
【0052】
また、夏期における温度は、外気温32.2℃のときこの比較例1の場所では31.8℃だった。非特許文献1によると太陽電池の発電量は、25℃における発電量を基準としており、温度10℃の上昇により4.6%低下する。このことから、植物6を施さない場合の発電量の低下率3.13%が確認できた。
【0053】
以上のことから、土壌5のみを施した従来の太陽光電池システムでは、施工当初は、不特定の植物の育成は制限できるものの、その後除草などのメンテナンスが必要であると考えられる。以上の結果を栃木県足利市で太陽電池による大規模発電事業所謂メガソーラー発電事業や太陽光電池システムのメンテナンスを行っている企業に確認したところ、土壌5の施工は、施工当初において、メンテナンス費用を抑える効果はあるが、その後は一般の土壌との差を見いだせないと判断された。これらのことから、土壌5のみ施した従来の太陽光電池システムの総合判定を普通とした。
【0054】
実施例1と比較例1の結果のまとめを示す。
【表1】
【0055】
<実験例1>
栃木県足利市において0.1MWhの発電量を有する太陽光発電施設において、8月に環境測定を行った。この日は終日晴天であり、1m/秒程度の微風があった。この発電施設は、草の発生を抑えるため、太陽電池モジュール周辺に除草シートを施しているが、不特定の草がこの除草シートを突き抜けて根を生やしており、除草作業は困難だった。なお環境測定として、9時から15時までの6時間において1.5時間ごとに、大気温度、除草シート上温度、植物6の植栽部(除草シート上)温度、太陽電池モジュール上面部温度、太陽電池モジュール下面温度をそれぞれ測定した。
【0056】
この実験は、本発明の太陽光発電環境システム1の場合の温度低下効果について、現状との比較を行うため、実施した。それぞれの温度測定区の最高温度は、大気温度39℃、除草シート上温度59℃、植物6の植栽部(除草シート上)温度39℃、太陽電池モジュール上面部温度58℃、太陽電池モジュール下面温度56℃、除草シート上温度と植物6の植栽部温度の差20℃だった。この植物6の植栽の有用性を確認することができた。
【0057】
実験例1の温度の測定結果を下記表2に示す。
【表2】
本発明は、太陽光発電システムに関わるもので、特に夏期における太陽電池モジュール周辺温度を低下させることで温度による発電量の低下を抑制したり、太陽光発電システムのメンテナンスを容易にしたり、環境への貢献度を高める太陽光発電環境システムであり、再生可能エネルギーに寄与できるので、産業上の利用可能性は高い。