(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057655
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】プラズマ照射装置
(51)【国際特許分類】
H05H 1/26 20060101AFI20240418BHJP
【FI】
H05H1/26
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164435
(22)【出願日】2022-10-13
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中埜 吉博
(72)【発明者】
【氏名】松元 裕次
【テーマコード(参考)】
2G084
【Fターム(参考)】
2G084AA24
2G084BB24
2G084CC03
2G084CC19
2G084CC20
2G084CC34
2G084DD12
2G084DD22
2G084EE15
2G084GG04
2G084HH28
2G084HH43
(57)【要約】
【課題】プラズマ照射対象側の構成を削減又は省略した形で、プラズマ照射対象に過度に電流が流れることを抑制する。
【解決手段】プラズマ照射装置2は、ガスの放出口34を備えるとともに放出口34に向かってガスを流すガス流路30を有する本体部20Aと、誘電体層である誘電体部50と誘電体部50を介して互いに対向して配置される第1電極42及び第2電極44とを備えるとともにガス流路30内でプラズマ放電を発生させる放電部40と、交流電力を発生させる駆動回路61と、駆動回路61を制御する制御部70と、を有する。駆動回路61は、少なくとも所定位置に交流電力を発生させ、第1電極42及び第2電極44には、上記所定位置の交流電力に応じた大きさの交流電力が供給される。制御部70は、上記所定位置の有効電力値を基準値以下に抑える制限制御を行う。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスの放出口を備えるとともに前記放出口に向かって前記ガスを流すガス流路を有する本体部と、誘電体層と前記誘電体層を介して互いに対向して配置される第1電極及び第2電極とを備えるとともに前記ガス流路内でプラズマ放電を発生させる放電部と、交流電力を発生させる駆動回路と、前記駆動回路を制御する制御部と、を有するプラズマ照射装置であって、
前記駆動回路は、少なくとも所定位置に交流電力を発生させ、
前記第1電極及び前記第2電極には、前記所定位置の交流電力に応じた大きさの交流電力が供給され、
前記制御部は、前記所定位置の有効電力値を基準値以下に抑える制限制御を行う
プラズマ照射装置。
【請求項2】
前記駆動回路は、電源からの電力に基づいて一対の第1電力路間に交流電圧を印加する交流電圧発生部と、第1巻線部及び第2巻線部を有する昇圧トランスと、を備え、
前記昇圧トランスは、一対の前記第1電力路からの交流電圧が前記第1巻線部の両端に印加され、前記第1巻線部の両端に印加される交流電圧を昇圧した交流電圧が前記第2巻線部の両端に印加され、
前記第2巻線部の両端に印加された交流電圧に基づく交流電圧が、一対の第2電力路を介して前記第1電極と前記第2電極との間に印加され、
前記制御部は、一対の前記第1電力路を介して供給される交流電力の有効電力値を前記基準値以下に抑えるように前記制限制御を行う
請求項1に記載のプラズマ照射装置。
【請求項3】
前記ガスは、希ガスである
請求項1又は請求項2に記載のプラズマ照射装置。
【請求項4】
前記ガスは、ヘリウムガスである
請求項3に記載のプラズマ照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はプラズマ照射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、タンパク質水溶液の処理方法が開示されている。特許文献1で開示される処理方法では、水系溶媒にタンパク質が混合されてタンパク質水溶液が作成され、このタンパク質水溶液に対してプラズマ発生装置で発生したプラズマが照射されることでタンパク質膜が製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されるプラズマ照射装置(プラズマ発生装置)は、商用交流電源からの交流電圧、即ち、正弦波のような一般的な交流電圧を昇圧して電極間に印加することで、プラズマを発生させる。しかし、この種のプラズマ照射装置では、プラズマ照射対象に流れる電流(漏れ電流)を適正範囲内にコントロールするためには、プラズマ照射対象に流れる電流を何らかの方法で把握しなければならない。プラズマ照射対象に流れる電流を把握する方法としては、例えば、プラズマ照射対象側に電極などを設けて監視する方法が考えられるが、この方法では、プラズマ照射対象側に特別な部品を設けることが必須となってしまい、プラズマ照射対象側において構成の煩雑化を招いてしまう。
【0005】
そこで、上述した課題の少なくとも一部を解決するために、プラズマ照射対象側の構成を削減又は省略した形で、プラズマ照射対象に過度に電流が流れることを抑制し得る技術を提供する
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様のプラズマ照射装置は、
ガスの放出口を備えるとともに前記放出口に向かって前記ガスを流すガス流路を有する本体部と、誘電体層と前記誘電体層を介して互いに対向して配置される第1電極及び第2電極とを備えるとともに前記ガス流路内でプラズマ放電を発生させる放電部と、交流電力を発生させる駆動回路と、前記駆動回路を制御する制御部と、を有するプラズマ照射装置であって、
前記駆動回路は、少なくとも所定位置に交流電力を発生させ、
前記第1電極及び前記第2電極には、前記所定位置の交流電力に応じた大きさの交流電力が供給され、
前記制御部は、前記所定位置の有効電力値を基準値以下に抑える制限制御を行う
プラズマ照射装置。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る技術は、プラズマ照射対象側の構成を削減又は省略した形で、プラズマ照射対象に過度に電流が流れることを抑制し得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係るプラズマ照射装置が概略的に例示される概略図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係るプラズマ照射装置の本体部が概念的に例示される斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2で例示された本体部が三分割して示される分解斜視図である。
【
図4】
図4は、
図2で例示された本体部が第3方向(幅方向)中心位置にて第3方向と直交する方向に切断された切断面の断面概略図である。
【
図5】
図5は、
図2で例示された本体部が第1方向中心位置にて第1方向と直交する方向に切断された切断面の断面概略図である。
【
図6】
図6は、
図2で例示された本体部が第2方向(厚さ方向)中心位置にて第2方向と直交する方向に切断された切断面の断面概略図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態に係るプラズマ照射装置の電気的構成を例示するブロック図である。
【
図8】
図8は、
図7のプラズマ照射装置の具体例を示す回路図である。
【
図9】
図9は、実証実験に用いる構成を説明する説明図である。
【
図10】
図10は、実験1、2において一対の第1電力路間に印加する電圧波形を示すグラフである。
【
図11】
図11は、実験1、2において第1電力路を流れる電流の波形を示すグラフである。
【
図12】
図12は、実験1、2において一対の第1電力路に供給される電力の波形を示すグラフである。
【
図13】
図13は、実験1、2において銅板からグラウンドに流れる漏れ電流のピーク値の経時的変化を示すグラフである。
【
図14】各交流電圧において漏れ電流を様々に変化させた場合の第1電力路に供給される有効電力値と漏れ電流の実効値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の[1]~[5]には、実施形態の一例が列挙される。
【0010】
[1]ガスの放出口を備えるとともに前記放出口に向かって前記ガスを流すガス流路を有する本体部と、誘電体層と前記誘電体層を介して互いに対向して配置される第1電極及び第2電極とを備えるとともに前記ガス流路内でプラズマ放電を発生させる放電部と、交流電力を発生させる駆動回路と、前記駆動回路を制御する制御部と、を有するプラズマ照射装置であって、
前記駆動回路は、少なくとも所定位置に交流電力を発生させ、
前記第1電極及び前記第2電極には、前記所定位置の交流電力に応じた大きさの交流電力が供給され、
前記制御部は、前記所定位置の有効電力値を基準値以下に抑える制限制御を行う
プラズマ照射装置。
【0011】
上記[1]のプラズマ照射装置は、所定位置の交流電力に応じた大きさの交流電力が第1電極及び第2電極に供給され、上記所定位置の有効電力を基準値以下に抑えるように制限制御がなされるため、放電部の有効電力を所定値(上記基準値に対応する値)以下に抑えることができる。放電部から照射対象に対してプラズマが照射される場合、照射対象を流れる電流と放電部の有効電力とは正の相関があり、照射対象を流れる電流と上記所定位置の有効電力も正の相関がある。ゆえに、上記所定位置の有効電力を基準値以下に抑えるように制限制御を行えば、照射対象を流れる電流を所定値(上記基準値に対応する電流値)以下に抑えやすい。このように、上記プラズマ照射装置は、照射対象において過剰に電流が流れることを抑制することができ、このような抑制動作を、プラズマ照射装置内でなされる制御に基づき、照射対象側の構成を削減又は省略した形で実現することができる。
【0012】
[2]前記駆動回路は、電源からの電力に基づいて一対の第1電力路間に交流電圧を印加する交流電圧発生部と、第1巻線部及び第2巻線部を有する昇圧トランスと、を備え、
前記昇圧トランスは、一対の前記第1電力路からの交流電圧が前記第1巻線部の両端に印加され、前記第1巻線部の両端に印加される交流電圧を昇圧した交流電圧が前記第2巻線部の両端に印加され、
前記第2巻線部の両端に印加された交流電圧に基づく交流電圧が、一対の第2電力路を介して前記第1電極と前記第2電極との間に印加され、
前記制御部は、一対の前記第1電力路を介して供給される交流電力の有効電力を前記基準値以下に抑えるように前記制限制御を行う
[1]に記載のプラズマ照射装置。
【0013】
上記[2]のプラズマ照射装置は、昇圧トランスによって変圧することで、第1電極と第2電極との間により高い交流電圧を発生させることができる。一方で、このプラズマ照射装置は、有効電力の監視を一次側(一対の第1電力路側)にて行うことができるため、照射対象において電流が過剰に流れること抑制する上で必要となる監視回路を小型化しやすい。つまり、このプラズマ照射装置は、放電部により高い交流電圧を印加することと、照射対象側の電流を抑制するために必要な監視回路を小型化することを、両立することができる。
【0014】
[3]前記ガスは、希ガスである
[1]又は[2]に記載のプラズマ照射装置。
【0015】
上記[3]のプラズマ照射装置は、希ガスの利用により、効率よく電離を促すことができるようになり、プラズマの照射を好適に行うことができる。
【0016】
[4]前記ガスは、ヘリウムガスである
[3]に記載の溶液処理装置。
【0017】
上記[4]のプラズマ照射装置は、ヘリウムガスの利用により、さらに効率よく電離を促すことができるようになり、プラズマの照射をより好適に行うことができる。
【0018】
[5]前記放電部は、前記第1電極又は前記第2電極の一方が直接又は他部材を介して前記ガス流路内の空間に面し、前記第1電極と前記第2電極との間に前記電圧を印加することに応じて前記ガス流路内で沿面放電を発生させる
[1]から[4]のいずれか一つに記載の溶液処理装置。
【0019】
上記[5]のプラズマ照射装置は、放電部が沿面放電を発生させる構成であるため、より低い印加電圧で、より効率的にプラズマを照射することができる。
【0020】
<第1実施形態>
1.プラズマ照射装置2の構成
第1実施形態に係るプラズマ照射装置2は、
図1のような構成をなす。
図1に示されるプラズマ照射装置2は、例えば、タンパク質を含んだ溶液を照射対象としてプラズマを照射する装置として機能し得る。タンパク質を含んだ溶液は、例えば、血液に含まれるタンパク質(血液タンパク質)を含んだ溶液である。「血液タンパク質を含んだ溶液」は、例えば、血漿、赤血球、白血球、血小板などの成分(血液の成分)を含む血液であってもよい。但し、この場合、溶液には、白血球、血小板などの一部の成分が含まれていなくてもよい。上記「血液タンパク質」は、水に溶解しやすい血液中に多く存在するたんぱく質を指しており、アルブミン、ヘモグロビンなどの負に帯電したタンパク質や、イムノグロブリンなどの正に帯電したタンパク質を指す。プラズマの照射対象である溶液は、動物や人体などの表面や内部に存在する「血液タンパク質を含んだ溶液」(例えば、血液)などの容器に収容されていない溶液であってもよく、容器に収容された溶液であってもよい。いずれの場合でも、溶液の状態は、液体状、ゼリー状、ゲル状、ゾル状のいずれであってもよく、これらの2種以上の状態のものが含まれていてもよい。つまり、本明細書において「溶液」は、液体、ゲル、ゾルのいずれも含む概念である。
【0021】
プラズマ照射装置2は、主に、照射ユニット3、ガス供給部7、制御部5、電源部9、などを備える。
【0022】
ガス供給部7は、ヘリウムガスやアルゴンガスなどの不活性ガス(以下、単にガスともいう)を供給する装置であり、例えば、照射ユニット3とガス供給部7との間に介在する可撓性の管路を介して後述するガス流路30に不活性ガスを供給する。ガス供給部7は、例えばボンベ等から供給される高圧ガスを減圧するレギュレータと、流量制御を行う流量制御部とを含み、この流量制御部は、ガス流路30を流れるガスの流量を制御し得る。
図1では、上記管路、上記レギュレータ、及び上記流量制御部などの図示が省略されている。
【0023】
電源部9は、周期的な電圧を発生させ、照射ユニット3に設けられた後述の2つの電極間に電圧を印加する装置である。電源部9は、主に制御部5と電源回路6とを備える。電源回路6は、高周波数の高電圧を発生させて導電部間に印加し得る回路であればよく、公知の様々な電源回路が採用され得る。制御部5は、電源回路6を制御し得る装置であればよく、例えば、マイクロコンピュータなどの情報処理装置を有する制御装置によって構成されている。
図1の例では、電源部9の全体が、照射ユニット3の外部に設けられている。しかし、電源部9の一部又は全部が、照射ユニット3に設けられていてもよい。電源部9の詳細は、後述される。
【0024】
照射ユニット3は、プラズマを発生させて照射し得るユニットである。照射ユニット3は、主に、プラズマ照射部20と、このプラズマ照射部20を保持する保持部3Aとを備える。照射ユニット3は、使用者によって把持されつつ使用される構成であってもよく、使用者以外の手段(例えば、ロボット等)によって移動可能とされる構成であってもよく、位置が固定された移動不能な状態で使用される構成であってもよい。
【0025】
保持部3Aは、プラズマ照射部20における本体部20Aが固定される部位であり、本体部20Aを保持する機能を有する。保持部3Aは、本体部20Aを自身の内部に配置しつつ保持する構成であってもよく、本体部20Aを自身の外側に配置しつつ保持する構成であってもよい。
図1の例では、保持部3Aは、ケース体として構成され、本体部20Aは、保持部3Aの内部に収容されつつ保持部3Aに対して固定されている。
【0026】
プラズマ照射部20は、誘電体バリア放電を生じさせる装置として構成されている。プラズマ照射部20は、
図2のような外観であり、所定の立体形状として構成された本体部20Aを備える。
図2の例では、本体部20Aは、板状且つ直方体状に構成されている。プラズマ照射部20は、本体部20Aの長手方向の端部に形成された放出口34からプラズマPを照射するように動作する。プラズマPは、いわゆる大気圧低温プラズマである。
【0027】
図3には、本体部20Aが3分割された構成が分解斜視図として概念的に示されている。本体部20Aは、厚さ方向中央部に第3誘電体層53が設けられ、第3誘電体層53よりも厚さ方向一方側に第4誘電体層54が設けられている。更に、本体部20Aは、第3誘電体層53よりも厚さ方向他方側に第1誘電体層51及び第2誘電体層52が設けられている。第1誘電体層51及び第2誘電体層52によって構成された誘電体領域の内部には、第1電極42及び第2電極44が埋め込まれている。
図3には、本体部20Aが3分割された構成が概念的に示されているが、実際の構成は、第1誘電体層51、第2誘電体層52、第3誘電体層53、及び第4誘電体層54の各々が、一体的な誘電体部50(
図5参照)の一部として構成されている。
【0028】
図4で示されるように、本体部20Aには、放出口34に向かってガスを流すように構成されたガス流路30が設けられている。ガス流路30は、ガスを導入する導入口32と、ガスを放出する放出口34と、導入口32と放出口34との間に設けられる中間流路36と、を有する。導入口32は、本体部20Aの後端側において本体部20Aの内部と外部とに通じる開口部である。放出口34は、本体部20Aの先端側において本体部20Aの内部と外部とに通じる開口部である。中間流路36は、導入口32と放出口34とに通じる通気路であり、導入口32と放出口34との間でガスを流す流路である。ガス流路30は、照射ユニット3の外部に設けられたガス供給部7から供給される不活性ガスを導入口32から導入し、導入口32側から導入されたガスを中間流路36内の空間を通して放出口34に誘導する誘導路となっている。
図4では、ガス供給部7から供給される不活性ガスを導入口32に導くための管路7Aが二点鎖線によって概念的に示されている。
【0029】
図4で示されるように、プラズマ照射部20には放電部40が設けられている。放電部40は、ガス流路30内でプラズマ放電を発生させる部位である。放電部40は、誘電体部50と第1電極42と第2電極44とを備え、第1電極42と第2電極44とが誘電体部50の一部である第1誘電体層51(
図5参照)を介して互いに対向して配置される。放電部40は、沿面放電部として構成され、第1電極42と第2電極44との電位差に基づく電界をガス流路30内で発生させてその内壁面に沿った沿面放電による大気圧低温プラズマを発生させる。
【0030】
本明細書では、プラズマ照射部20においてガス流路30が延びる方向が第1方向であり、第1方向と直交する方向のうち誘電体部50の厚さ方向が第2方向であり、第1方向及び第2方向と直交する方向が第3方向である。
図4の例では、誘電体部50と第1電極42と第2電極44とが一体的に設けられて本体部20Aが構成され、本体部20Aの長手方向が第1方向である。
図5のように、第2方向は、本体部20Aを第1方向と直交する平面方向に切断した切断面での本体部20Aの短手方向であり、本体部20Aの高さ方向且つ厚さ方向である。第3方向は、本体部20Aを第1方向と直交する平面方向に切断した切断面での本体部20Aの長手方向であり、本体部20Aの幅方向である。本明細書では、第1方向において放出口34側が本体部20Aの先端側であり、第1方向において導入口32側が本体部20Aの後端側である。
【0031】
図5で示されるように、誘電体部50は、第1誘電体層51、第2誘電体層52、第3誘電体層53、及び第4誘電体層54を備え、本体部20Aは全体として中空状に構成されている。第1誘電体層51は、中間流路36内の空間よりも第2方向(厚さ方向)他方側に配置されるとともに自身の内部に第2電極44が埋め込まれるように構成される。つまり、第1誘電体層51を介して第1電極42及び第2電極44が対向している。第2誘電体層52は、セラミック材料によって第1電極42を覆うように構成されたセラミック保護層であり、第1誘電体層51よりも中間流路36の空間側において第1電極42を覆うように配置される。第1誘電体層51及び第2誘電体層52は、中間流路36における第2方向他方側の内壁部を構成する。第4誘電体層54は、中間流路36の空間よりも第2方向(厚さ方向)一方側に配置され、中間流路36における第2方向一方側の内壁部を構成する。第3誘電体層53は、第2方向において第1誘電体層51と第4誘電体層54との間に配置され、中間流路36における第3方向一方側の側壁部及び第3方向他方側の側壁部を構成する。つまり、中間流路36は、第1誘電体層51、第2誘電体層52、第3誘電体層53、及び第4誘電体層54により画成されている。第1誘電体層51、第2誘電体層52、第3誘電体層53、及び第4誘電体層54の材料は、例えばアルミナなどのセラミック、ガラス材料や樹脂材料を好適に用いることができる。誘電体部50において機械的強度が高いアルミナが誘電体として用いられれば、放電部40の小型化が図られやすくなる。
【0032】
図5で示されるように、第1電極42は、誘電体部50の一部である第2誘電体層52を介して中間流路36内の空間に面する。第2電極44は、第1電極42に対して中間流路36とは反対側に設けられる。第2電極44は、第1電極42と平行に配されており、第2方向において第1電極42よりも中間流路36から離れている。
図6で示されるように、第1電極42は、中間流路36に沿うように第1方向に直線状に延び、第1の幅且つ第1の厚さで第1方向の第1領域に配置されている。第2電極44は、中間流路36に沿うように第1方向に直線状に延び、第2の幅且つ第2の厚さで第1方向の第2領域に配置されている。第1電極42及び第2電極44の厚さ、幅、配置は、特に限定されない。第1電極42と第2電極44の幅や厚さの一方又は両方は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0033】
このように構成された放電部40は、周期的に変化する電圧が第1電極42と第2電極44との間に印加されたときに中間流路36内で沿面放電を発生させる。沿面放電によって生じたプラズマは、ガス供給部7から中間流路36内に供給されたガスによって放出口34を介して外部に放出される。なお、
図6の例では、第1方向の領域AR1において中間流路36が一定幅で構成され、領域AR2では、先端側に向かうにつれて中間流路36の幅が小さくなっており、放出口34付近においてガスの流速を高め得る構成となっている。従って、中間流路36で生じたプラズマが、より遠方まで届きやすくなっている。
【0034】
2.電源部9の詳細
図7のように、電源部9は、駆動回路61と制御部70とを備える。駆動回路61は、後述の所定位置に交流電力を供給し得る回路であり、第1電極42と第2電極44との間に交流電圧を印加し得る回路である。制御部70は、駆動回路61を制御し得る装置である。制御部70は、情報処理機能や演算機能などを備えた制御装置であり、例えば、CPUや記憶部などを有する装置である。
【0035】
駆動回路61は、電源回路62、昇圧トランス64、電流センサ66、電圧センサ68、第1電力路72,74、第2電力路76,78などを有する。電源回路62は、一対の第1電力路72,74の間に交流電圧を印加する回路である。昇圧トランス64は、一対の第1電力路72,74を介して入力される交流電力を昇圧し、一対の第2電力路76,78に交流電力を供給する変圧器である。
【0036】
電源部9は、例えば、
図8のように構成することができる。
図8の例では、電源回路62は、電源62Aと交流発生回路62Bとを有する。電源62Aは、直流電圧を出力する直流電源である。
【0037】
交流発生回路62Bは、交流電圧発生部の一例に相当し、電源62Aからの電力に基づいて一対の第1電力路72,74間に交流電圧を印加するように動作する回路である。交流発生回路62Bは、一対の導電路63A,63Bと、スイッチング素子63C,63Dと、ダイオード63E,63Fとを有する。一対の導電路63A,63Bには、電源62Aからの直流電圧が印加される。
図8の例では、導電路63Aが電源62Aの高電位側の電極に短絡し、導電路63Bが電源62Aの低電位側の電極に短絡する。
【0038】
一対の第1電力路72,74は、交流発生回路62Bから昇圧トランス64の第1巻線部64Aに交流電力を供給する経路である。一対の第1電力路72,74には、交流発生回路62Bから交流電圧が印加される。一方の第1電力路72のうち、電力路72Aは抵抗66Aの一端側に接続され、電力路72Bは抵抗66Aの他端側に接続される。
【0039】
図8の例では、昇圧トランス64は、第1巻線部64Aと第2巻線部64Bとを備え、一対の第1電力路72,74からの交流電圧が第1巻線部64Aの両端に印加される。昇圧トランス64は、第1巻線部64Aの両端に交流電圧が印加された場合に、第1巻線部64Aの両端に印加される交流電圧を昇圧した交流電圧を第2巻線部64Bの両端に印加するように変圧する。第1巻線部64Aの一端は、一方の第1電力路72の一端に短絡するように電気的に接続され、第1巻線部64Aの他端は、他方の第1電力路74の一端に短絡するように電気的に接続される。第2巻線部64Bの一端は、一方の第2電力路76の一端に短絡するように電気的に接続され、第2巻線部64Bの他端は、他方の第2電力路78の一端に短絡するように電気的に接続される。一方の第2電力路76の他端は第1電極42に短絡するように電気的に接続され、他方の第2電力路78の他端は第2電極44に短絡するように電気的に接続される。従って、第2巻線部64Bの両端に印加された交流電圧に基づく交流電圧は、一対の第2電力路76,78を介して第1電極42と第2電極44との間に印加される。
【0040】
電流センサ66は、第1電力路72,74を流れる電流の値を検出するセンサである。
図8の例では、電流センサ66は、第1電力路72を流れる電流の値を特定し得る電圧値を制御部70に与える。
図8に示される電流センサ66は、抵抗66Aと増幅部66Bとを有し、抵抗66Aの両端に印加される電圧を増幅した検出値(第1電力路72を流れる電流の値を特定し得るアナログ電圧値)を制御部70に与える。なお、
図8に開示される電流センサ66はあくまで一例であり、第1電力路72,74を流れる電流の値を検出し得るセンサであれば、公知の他の構成であってもよい。
【0041】
電圧センサ68は、一対の第1電力路72,74間に印加される電圧の値を検出するセンサである。
図8の例では、電圧センサ68は、第1電力路72,74間に印加される電圧の値を特定し得る電圧値を制御部70に与える。
図8に示される電圧センサ68は、第1電力路72,74間の電圧を抵抗68A,68Bによって分圧した電圧を増幅部68Cによって増幅した検出値(第1電力路72,74間に印加される電圧の値を特定し得るアナログ電圧値)を制御部70に与える。なお、
図8に開示される電圧センサ68の構成はあくまで一例であり、第1電力路72,74間の電圧値を検出し得るセンサであれば、公知の他の構成であってもよい。
【0042】
交流発生回路62Bは、例えば制御部70によって制御される。制御部70は、スイッチング素子63C,63Dをいずれも一定時間オン状態にする制御と、スイッチング素子63C,63Dをいずれもオフ状態にする制御とを交互に行い、このような制御において、スイッチング素子63C,63Dをいずれも一定時間オン状態にするオン動作を周期的に行う。
図10の太線の波形は、このような周期的制御によって一対の第1電力路72,74の間に印加される交流電圧の波形の一例であり、
図11の太線の波形は、
図10のような交流電圧に基づいて第1電力路72に流れる電流の波形の一例である。
図10の横軸の時間と
図11の横軸の時間は対応している。
【0043】
図10の例では、スイッチング素子63C,63Dがいずれもオフ状態であり且つ一対の第1電力路72,74の間の電圧が0である状態のときには、電源62Aに基づく直流電圧は一対の第1電力路72,74間に印加されない(
図10の時間3μs付近参照)。この状態からスイッチング素子63C,63Dがいずれもオン状態に切り替わると、電源62Aに基づく直流電圧が一対の第1電力路72,74間に印加されるため、一対の第1電力路72,74間に印加される電圧(第1電力路74を基準とする第1電力路72の電圧)は上昇する(
図10の時間5μs付近参照)。このような電圧上昇に伴い、第1巻線部64Aにおいて一方の第1電力路72側から他方の第1電力路74側へ流れる電流は上昇する。このような電圧変化及び電流変化がなされるオン状態からスイッチング素子63C,63Dがいずれもオフ状態に切り替わると、電源62Aから一対の第1電力路72,74への電力供給は停止し、一対の第1電力路72,74の間に印加される電圧は減少して0になる(
図10の時間8μs付近参照)。このような電圧変化に伴い、第1巻線部64Aにおいて一方の第1電力路72側から他方の第1電力路74側へ流れる電流は減少して0になる。
【0044】
図8に示される電源部9は、このような交流電圧を一次側の電力路(一対の第1電力路72,74)に印加することができる。一対の第1電力路72,74間に交流電圧が印加されることにより第1巻線部64Aの両端に交流電圧が印加されると、第1巻線部64Aにおいて交流電流が生じるとともに、この交流電流に応じた交流電流が第2巻線部64Bにおいて生じる。第1巻線部64Aの両端電圧をE1とし、第2巻線部64Bの両端電圧をE2とし、第1巻線部64Aの巻数をN1とし、第2巻線部64Bの巻数をN2とし、αを巻線比とした場合、N1<N2であり、E2/E1=N2/N1=αとみなすことができる。よって、第1巻線部64Aに交流電圧が印加される場合、第2巻線部64Bの両端には第1巻線部64Aに印加される交流電圧のα倍程度の電圧が生じるように昇圧がなされる。第1電極42と第2巻線部64Bの一端は短絡し、第2電極44と第2巻線部64Bの他端は短絡するため、第2巻線部64Bの両端に印加される交流電圧と同等の交流電圧が第1電極42と第2電極44との間に印加される。本明細書では、第1電極42と第2電極44との間に印加される印加電圧は、第2電極44の電位を基準とする第1電極42の電位の相対的な大きさであり、第1電極42の電位をV1とし、第2電極44の電位をV2とする場合、上記印加電圧は、V1-V2である。
【0045】
なお、
図8の例では、電源部9が電源62Aを含んでいるが、電源62Aは、電源部9の外部に設けられていてもよい。また、
図8に開示される回路はあくまで一例であり、電源部9は、交流電圧を発生し得る回路であれば、公知の様々な回路を採用し得る。
【0046】
電源部9は、第1電極42と第2電極44との間に周期的に変化する電圧(交流電圧)を印加するが、この交流電圧の周波数は、例えば、20kHz~300kHzの範囲内であることが望ましい。電源部9が第1電極42と第2電極44との間に印加する交流電圧は、例えば、第1電極42と第2電極44との間の電位差の最大値が0.5kV~10kVの範囲内となるように調整されることが望ましい。
【0047】
電源部9が一対の第1電力路72,74間に印加する電圧の波形は、電圧が上昇する波形である凸波形と電圧が下降する波形である凹波形とが交互の繰り返されるように周期的に変化する波形である。この波形は、
図10のような波形でもよいが、正弦波の波形、矩形波の波形、三角波の波形などであってもよく、その他の交流波形でもよい。同様に、電源部9が第1電極42と第2電極44との間に印加する電圧の波形は、
図10のような交流電圧を昇圧した交流電圧の波形でもよいが、正弦波の波形、矩形波の波形、三角波の波形などであってもよく、その他の交流波形でもよい。
【0048】
3.電源部9の制御
電源部9では、制御部70が駆動回路61を制御することで、第1電極42と第2電極44との間に交流電圧を印加する。駆動回路61は、このように交流電圧を印加する際に、交流発生回路62Bによって所定位置に交流電力を発生させ、第1電極42及び前記第2電極44には、上記所定位置の交流電力に応じた大きさの交流電力が供給される。制御部70は、このような動作の際に上記所定位置の電圧及び電流を監視する。以下で説明される代表例では、上記所定位置は、一対の第1電力路72,74であり、一対の第1電力路72,74に供給される交流電力に応じた交流電力が一対の第2電力路76,78及び両電極(第1電極42、第2電極44)に供給される。制御部70は、一対の第1電力路72,74(所定位置)を介して供給される交流電力を監視し、上記所定位置の有効電力値を基準値以下に抑えるように制限制御を行う。
【0049】
一対の第1電力路72,74を介して供給される交流電力(瞬時電力)の値P1は、電流センサ66によって検出される第1電力路72の電流値I1(瞬時電流値)と電圧センサ68によって検出される一対の第1電力路72,74間の電圧値(瞬時電圧値)V1との積(I1×V1)として、P1=I1×V1の式により求めることができる。以下では、交流電力値P1を瞬時電力値P1とも称する。本明細書では、このように得られる瞬時電力値P1の1周期分の平均値を一対の第1電力路72,74の有効電力値Peとする。例えば、
図10において太線で示される波形のような交流電圧を一対の第1電力路72,74間に対して周期Tで印加する場合、ある時間(時点)tにおける一対の第1電力路72,74の有効電力値Peは、時間tの直近の1周期分の期間(時間tよりも周期Tだけ前の時間(時点)t0から時間(時点)tまでの期間)における瞬時電力値P1の平均値である。制御部70は、電流センサ66の検出値及び電圧センサ68の検出値に基づいて第1電力路72の電流値I1(瞬時電流値)及び第1電力路72,74間の電圧値V1(瞬時電圧値)を継続的に検出しつつ、電流値I1及び電圧値V1を検出した時点毎の有効電力値Peを検出する。このようにして、制御部70は、一対の第1電力路72,74の有効電力値Peを継続的に検出する。
【0050】
制御部70は、交流発生回路62Bを制御する際にスイッチング素子63C,63Dのオン時間を制御することにより一対の第1電力路72,74(所定位置)の有効電力値Peを増減することができる。そして、制御部70は、一対の第1電力路72,74(所定位置)の有効電力値Peを継続的に監視しながら、有効電力値Peをコントロールする。制御部70によってなされる「有効電力値Peをコントロールする制御」は、具体的には、有効電力値Peを基準値Pth以下に抑える制御(制限制御)を含む。有効電力値Peを基準値Pth以下に抑える制御は、有効電力値Peが基準値Pthを超えないように維持する制御であってもよく、有効電力値Peが基準値Pthを超えた場合に有効電力値Peを基準値Pth以下に導く制御であってもよく、有効電力値Peを基準値Pth以下の目標値に維持しようとする制御であってもよい。具体的には、例えば、「有効電力値Peを基準値Pth以下に抑える制御」は、制御部70が一対の第1電力路72,74(所定位置)の有効電力値Peを所定の短時間毎に検出し、この短時間毎の各検出時点においていずれかの検出時点の有効電力値Peが基準値Pthに達した場合に、スイッチング素子63C,63Dのオン時間をその達した検出時点でのオン時間よりも一定時間低減させるような制御であってもよい。
【0051】
放電部40から放出されるプラズマが照射される照射対象(例えば血液タンパク質を含んだ溶液)において流れる電流と、一対の第1電力路72,74(所定位置)の有効電力値Peとは強い正の相関があり、照射対象を流れる電流が大きいほど有効電力値Peは大きくなる。よって、制御部70によって上記有効電力値Peを基準値Pth以下に抑えるように制御することができれば、照射対象を流れる電流が過剰に上昇しないような制御(例えば、照射対象を流れる電流を基準値Pthに対応する規定値以下に抑える制御)が可能である。
【0052】
4.実証実験
次の説明は、照射対象において流れる電流と有効電力値Peとの間に正の相関があることを確認する実験に関する。以下で説明される実験は、
図8に示されるような第1実施形態に係るプラズマ照射装置2を用いて
図9のような環境で行われた実験である。
図9の例では、プラズマ照射装置2から導電性の銅板102に対してプラズマが照射されうる。銅板102とグラウンドとの間には電流が流れる経路(導電性の部材からなる導電路)が構成される。電流計104は、銅板102からグラウンドに流れる電流の値を計測する。
【0053】
実証実験における実験1では、
図9のような構成を用い、ガス供給路にヘリウムガスを流した状態で、一対の第1電力路72,74において
図10の太線のような波形の交流電圧(一次電圧)を発生させるように交流発生部を動作させた。そして、このように動作させた場合に第1電力路72を流れる電流(一次電流)を計測するとともに、銅板102からグラウンドに流れる電流を電流計104によって計測した。実験1において一対の第1電力路72,74に印加される交流電圧の周波数は200kHzであり、この交流電圧の実効値は1.5kVである。なお、電流計104は、銅板102とグラウンドとの間に200Ωの抵抗を介在させ、この200Ωの抵抗に生じる電圧を検出して銅板102からグラウンドに流れる電流の値を求める。なお、実証実験において銅板102からグラウンドに流れる電流は、漏れ電流とも称する。一方、実験2では、
図9のような構成を用い、ヘリウムガスを流さない点以外は実験1と同一の条件でプラズマ照射装置2を動作させた。
【0054】
図10において太線で示される波形は、実験1において一対の第1電力路72,74間に印加される交流電圧の波形であり、
図10において細線で示される波形は、実験2において一対の第1電力路72,74間に印加される交流電圧の波形である。
図10において、縦軸は第1電力路72,74間に印加される交流電圧(瞬時電圧)の値であり、横軸は経過時間である。
図11において太線で示される波形は、実験1において第1電力路72を流れる電流の波形であり、
図11において細線で示される波形は、実験2において第1電力路72を流れる電流の波形である。
図11において、縦軸は第1電力路72を流れる電流(瞬時電流)の値であり、横軸は経過時間である。
図12において太線で示される波形は、実験1において一対の第1電力路72,74に供給される電力(瞬時電力)の波形であり、
図12において細線で示される波形は、実験2において一対の第1電力路72,74に供給される電力(瞬時電力)の波形である。
図12において、縦軸は第1電力路72,74間の交流電力(瞬時電力)の値であり、横軸は経過時間である。
図13において太線で示される波形は、実験1において銅板102からグラウンドに流れる電流(漏れ電流)の実効値の波形であり、
図13において細線で示される波形は、実験2において銅板102からグラウンドに流れる電流(漏れ電流)の瞬時値の波形である。
図13において、縦軸は漏れ電流の瞬時値であり、横軸は経過時間である。なお、漏れ電流の実効値は上記瞬時値の波形から算出される。
図10、
図11、
図12、
図13において横軸の時間は対応している。つまり、
図10、
図11、
図12、
図13における時間0の各タイミングは互いに同一のタイミングであり、
図10、
図11、
図12、
図13における時間が2μsの各タイミングは互いに同一のタイミングである。
【0055】
本実証実験の実験1と実験2では、プラズマ照射装置2と銅板102の位置関係を同一とし、ガス流路30内にガス供給部7からガス(ヘリウムガス)を流すか否かが実験1と実験2とで異なる。この場合、実験1の位置関係での「漏れ電流の実効値」は、実験1において銅板102からグラウンドに流れる電流(漏れ電流)の実効値と実験2において銅板102からグラウンドに流れる電流(漏れ電流)の実効値との差である。また、プラズマ照射装置2と銅板102とがいずれの位置関係にあるときでも、プラズマ照射装置2と銅板102とが所定の位置関係にあるときの当該位置関係での「漏れ電流の実効値」は、放電部40に交流電圧を印加するように第1動作を行いつつガス供給部7からガス流路30内にガス(ヘリウムガス)を流す場合に銅板102からグラウンドに流れる電流(漏れ電流)の実効値から、上記第1動作と同一の第1動作を行いつつガス流路30内に上記ガス(ヘリウムガス)を流さない場合に銅板102からグラウンドに流れる電流(漏れ電流)の実効値を引いた値である。
【0056】
更に、実証実験では、第1電極42と第2電極44の間に印加する交流電圧の実効値を5種類(1.3kV、1.4kV、1.5kV、1.6kV、1.7kV)用意し、各々の交流電圧の場合において「銅板102と放電部40の間の距離を様々に変化させて各第1動作(ヘリウムガスを流す場合の第1動作及び流さない場合の第1動作)を行い、銅板102からグラウンドに流れる電流(漏れ電流)の実効値を検出する」という実験を行った。そして、交流電圧と上記距離(銅板102と放電部40の間の距離)の組み合わせを様々に異ならせた場合の各条件において第1電力路72,74の有効電力値Peと上記漏れ電流との関係を求めた。
図14には、その実験結果が示される。
図14において、縦軸は有効電力値であり、横軸は漏れ電流の実効値である。
図14のように、5種類(1.3kV、1.4kV、1.5kV、1.6kV、1.7kV)の交流電圧のいずれの場合でも、漏れ電流の実効値が大きくなるほど第1電力路72,74の有効電力値Peが大きくなる「正の相関」が確認された。換言すれば、5種類(1.3kV、1.4kV、1.5kV、1.6kV、1.7kV)の交流電圧のいずれの場合でも、有効電力値Peが大きいほど漏れ電流の実効値は大きくなり、有効電力値Peと漏れ電流の実効値との関係は近似式(漏れ電流の実効値が大きくなるほど大きい有効電力値Peが定まる近似式)によって近似することもできる。このように、第1電力路72,74の有効電力値Peと漏れ電流の実効値は強い正の相関関係があるため、制御部70によって上記有効電力値Peを基準値Pth以下に抑えるように制御することができれば、照射対象を流れる電流が過剰に上昇しないような制御(具体的には、照射対象の漏れ電流の実効値を規定値(上記相関関係によって基準値Pthに対応する値として特定される規定値)以下に抑える制御)が可能である。
【0057】
<他の実施形態>
本開示は、上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではない。上述又は後述の実施形態の特徴は、矛盾しない範囲であらゆる組み合わせが可能である。また、上述又は後述の実施形態のいずれの特徴も、必須のものとして明示されていなければ省略することもできる。更に、上述した実施形態の特徴は、次のように変更されてもよい。
【0058】
上述の実施形態に係るプラズマ照射装置2は、「所定位置」が一対の第1電力路72,74であったが、「所定位置」は、一対の第2電力路76,78であってもよい。この場合、第1電極42及び第2電極44には、当該所定位置の交流電力に応じた大きさ(具体的には同等の大きさ)の交流電力が供給される。そして、この場合、制御部70は、当該所定位置の有効電力値を基準値以下に抑えるように制限制御を行えばよい。
【0059】
上述の実施形態に係るプラズマ照射装置は、ガス流路30内に供給するガスとしてヘリウムガスが用いられるが、ヘリウムガス以外の希ガスであってもよい。
【0060】
上述の実施形態に係るプラズマ照射装置は、
図5のように、第1電極42が他部材である第2誘電体層52を介してガス流路30内の空間に面していたが、第1電極42が他部材を介さずにガス流路30内の空間に面していてもよい。つまり、第1電極42がガス流路30内の空間に露出し、第1電極42がガス流路30の内壁の一部をなすような構成であってもよい。
【0061】
上述の実施形態に係る説明では、「有効電力値Peを基準値Pth以下に抑える制御」の一例が説明されたが、この例に限定されない。例えば、「有効電力値Peを基準値Pth以下に抑える制御(制限制御)」は、制御部70が有効電力値Peを監視しながら有効電力値Peを基準値Pth以下の目標値で維持しようとするフィードバック制御などであってもよい。このフィードバック制御は、有効電力値Peを監視しながらこの有効電力値Peを上記目標値に導くようにスイッチング素子63C,63Dのオン時間を調整するフィードバック制御(例えば、公知のPI制御やPID制御など)であってもよい。
【0062】
上述した例では、第1電極が直接又は他部材を介してガス流路内の空間に面するが、第2電極が直接又は他部材を介してガス流路内の空間に面してもよい。例えば、第2電極が「他部材」である誘電体層に覆われる構成で誘電体層を介してガス流路内の空間に面していてもよい。或いは、第2電極がガス流路内の空間に露出し、第2電極がガス流路の内壁の一部をなすような構成であってもよい。いずれの場合でも、第1電極は、第2電極よりもガス流路から離れた位置に配置されていればよい。
【0063】
なお、今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、今回開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示された範囲内又は特許請求の範囲と均等の範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0064】
2 :プラズマ照射装置
7 :ガス供給部
9 :電源部
20 :プラズマ照射部
20A :本体部
30 :ガス流路
34 :放出口
40 :放電部
42 :第1電極
44 :第2電極
50 :誘電体部(誘電体層)
61 :駆動回路
62A :電源
62B :交流発生回路(交流電圧発生部)
64 :昇圧トランス
64A :第1巻線部
64B :第2巻線部
66 :電流センサ
68 :電圧センサ
70 :制御部
72 :第1電力路
74 :第1電力路
76 :第2電力路
78 :第2電力路
P :プラズマ