(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057668
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】シート、及び樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
G02B 5/22 20060101AFI20240418BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20240418BHJP
H05B 33/02 20060101ALI20240418BHJP
H05B 33/12 20060101ALI20240418BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
G02B5/22
H05B33/14 A
H05B33/02
H05B33/12 E
G02B5/20 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164456
(22)【出願日】2022-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山下 久典
(72)【発明者】
【氏名】古谷 敏典
(72)【発明者】
【氏名】石塚 雅敏
【テーマコード(参考)】
2H148
3K107
【Fターム(参考)】
2H148CA04
2H148CA14
2H148CA19
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC31
3K107CC45
3K107EE22
3K107EE23
3K107FF06
3K107FF13
3K107FF14
(57)【要約】
【課題】従来のカラーフィルター層を設ける場合に比べて、形成する労力が小さいために歩留まりの低下に影響せず、かつ光線透過率が平均的に高いことで表示素子のエネルギーの浪費を低減できるシートを提供すること。
【解決手段】
基材上に樹脂組成物層が形成されたシートであって、
前記樹脂組成物層の波長450nm~650nmの範囲での光線透過率の平均値(光線透過率1)が80±8%であり、
前記樹脂組成物層の波長460nm、530nm、及び640nmにおける光線透過率の平均値(光線透過率2)が、波長430nm、波長500nm、580nm、及び690nmにおける光線透過率の平均値(光線透過率3)よりも大きい、シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に樹脂組成物層が形成されたシートであって、
前記樹脂組成物層の波長450nm~650nmの範囲での光線透過率の平均値(光線透過率1)が80±8%であり、
前記樹脂組成物層の波長460nm、530nm、及び640nmにおける光線透過率の平均値(光線透過率2)が、波長430nm、波長500nm、580nm、及び690nmにおける光線透過率の平均値(光線透過率3)よりも大きい、シート。
【請求項2】
前記樹脂組成物層の波長460nm、530nm、及び640nmにおける光線透過率の差が±5%以内である請求項1に記載のシート。
【請求項3】
基材上に樹脂組成物層が形成されたシートであって、
前記樹脂組成物層の波長450nm~650nmの範囲での光線透過率の平均値(光線透過率1)が80±8%であり、
前記樹脂組成物層が、赤、青、及び黄の着色剤を含有している、シート。
【請求項4】
前記樹脂組成物層が、着色剤として赤、青、及び黄の着色剤のみを含有している、請求項3に記載のシート。
【請求項5】
前記樹脂組成物層が、さらに緑の着色剤を含有している、請求項3に記載のシート。
【請求項6】
前記緑の着色剤の含有量が、前記黄の着色剤の含有量100重量部に対して、100重量部以下である、請求項5に記載のシート。
【請求項7】
水蒸気バリア層を有する、請求項1又は請求項3に記載のシート。
【請求項8】
前記基材が透明基材である請求項1又は請求項3に記載のシート。
【請求項9】
請求項1又は請求項3に記載のシートの前記樹脂組成物層に用いられる、樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に樹脂組成物層が形成されたシートの発明であり、赤、緑、及び青色の各画素が形成されたディスプレイの表面などに設置して用いられるカラーフィルターなどを代替できるシートに関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示素子の赤、緑、及び青色の各画素が形成されたディスプレイの前面に用いるカラーフィルターの発明として、特許文献1に記載の発明があった。特許文献1に記載の発明は、赤、緑、及び青色のそれぞれの色を発光する有機EL発光材料を微細なパターンに塗り分けて有機EL発光層からなる各画素を形成した後、その前面(上面)に緑色画素領域では光透過率が600~650nmにわたって15%以下であり、青色画素領域では光透過率が500~550nmにわたって30%以下であるカラーフィルターを形成する発明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の発明は、有機EL表示素子の赤、緑、及び青色の各画素上にそれぞれの色のカラーフィルター層を位置合わせして形成する必要があり、それを補うためにカラーフィルター層にブラックマトリックスを設けるなどの対策をする必要があった。そのため、カラーフィルター層を設ける労力が多大となり、歩留まりの低下の原因となっていた。
【0005】
また、特許文献1に記載の発明は、カラーフィルター層が緑色画素領域と青色画素領域の光線透過率が低いため当該領域の画素が暗くなり、それを補うために緑色と青色の有機EL表示素子の発光強度を上げる必要があり、エネルギーの浪費につながる課題があった。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、当該カラーフィルター層の代替となり、これらの課題を解決できるシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明は、以下である。
(1) 基材上に樹脂組成物層が形成されたシートであって、
前記樹脂組成物層の波長450nm~650nmの範囲での光線透過率の平均値(光線透過率1)が80±8%であり、
前記樹脂組成物層の波長460nm、530nm、及び640nmにおける光線透過率の平均値(光線透過率2)が、波長430nm、波長500nm、580nm、及び690nmにおける光線透過率の平均値(光線透過率3)よりも大きい、シート。
(2)
前記樹脂組成物層の波長460nm、530nm、及び640nmにおける光線透過率の差が±5%以内である前記(1)に記載のシート。
(3) 基材上に樹脂組成物層が形成されたシートであって、
前記樹脂組成物層の波長450nm~650nmの範囲での光線透過率の平均値(光線透過率1)が80±8%であり、
前記樹脂組成物層が、赤、青、及び黄の着色剤を含有している、シート。
(4) 前記樹脂組成物層が、着色剤として赤、青、及び黄の着色剤のみを含有している、前記(3)に記載のシート。
(5) 前記樹脂組成物層が、さらに緑の着色剤を含有している、前記(3)に記載のシート。
(6) 前記緑の着色剤の含有量が、前記黄の着色剤の含有量100重量部に対して、100重量部以下である、前記(5)に記載のシート。
(7) 水蒸気バリア層を有する、前記(1)~(6)のいずれかに記載のシート。
(8) 前記基材が透明基材である前記(1)~(7)のいずれかに記載のシート。
(9) 前記(1)~(8)のいずれかに記載のシートの前記樹脂組成物層に用いられる、樹脂組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、樹脂組成物層の光線透過率1が80±8%と非常に高いため、従来のカラーフィルター各層を形成した場合のような画素が暗くなることは殆どなく、表示素子の発光強度を上げる必要がない。また、樹脂組成物層は単一の層であるため表示素子の各画素と位置合わせをする必要がなく、光線透過率2が光線透過率3よりも大きいため樹脂組成物層のみでカラーフィルターと類似した役割を果たすことができる。したがって、歩留まりが高く生産性が向上し、かつ表示素子のエネルギー浪費を削減できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】基材上に樹脂組成物層が形成された本発明に係るシートの一実施例の断面図である。
【
図2】本発明に係るシートの樹脂組成物層を、大塚電子(株)製顕微分光測定器“LCF-100MA”を用いて測定した透過スペクトルの一例である。
【
図3】基材上に樹脂組成物層が形成された本発明に係るシートの一実施例の断面図であり、水蒸気バリア層が形成された断面図であり、(a)は樹脂組成物層上に水蒸気バリア層が形成された例であり、(b)は樹脂組成物層と反対側の基材面に水蒸気バリア層が形成された例である。
【
図4】基材上に樹脂組成物層が形成された本発明に係るシートと、ディスプレイとが積層された一実施例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明1は、基材上に樹脂組成物層が形成されたシートであって、前記樹脂組成物層の波長450nm~650nmの範囲での光線透過率の平均値(光線透過率1)が80±8%であり、前記樹脂組成物層の波長460nm、530nm、及び640nmにおける光線透過率の平均値(光線透過率2)が、波長430nm、波長500nm、580nm、及び690nmにおける光線透過率の平均値(光線透過率3)よりも大きい、シートである。
【0011】
そして本発明2は、基材上に樹脂組成物層が形成されたシートであって、前記樹脂組成物層の波長450nm~650nmの範囲での光線透過率の平均値(光線透過率1)が80±8%であり、前記樹脂組成物層が、赤、青、及び黄の着色剤を含有している、シートである。
【0012】
そして本発明といった場合、本発明1と本発明2の総称である。
【0013】
以下、本発明について図面を用いて詳説する。
【0014】
本発明1のシート100は、基材1上に樹脂組成物層2が形成されたシートであって(
図1参照)、前記樹脂組成物層2の波長450nm~650nmの範囲での光線透過率の平均値(光線透過率1)が80±8%であり、前記樹脂組成物層の波長460nm、530nm、及び640nmにおける光線透過率の平均値(光線透過率2)が、波長430nm、波長500nm、580nm、及び690nmにおける光線透過率の平均値(光線透過率3)よりも大きいことを特徴とする(
図2参照)。
【0015】
本発明のシート中の基材1は、樹脂組成物層2を形成するための土台であって、材質にとくに制限はなく、プラスチックフィルムのほか、紙、金属板、セラミックスシートなどであってもよい。また、これらを積層した基材であってもよい。また、基材1は透明であっても不透明であってもよいが、透明の方が好ましい。つまり基材としては、透明基材が好ましい。なお、不透明な基材を用いることも可能であるが、この場合は、後で剥離できるような基材が好ましい。
【0016】
なお上述の通り、基材としては透明基材が好適であるが、ここでいう透明基材とは、基材をレファレンスとして本発明の樹脂組成物層の光線透過率1~3の全てが測定できるレベルの基材であることを指す。このような透明基材は、より好ましくはJIS K 7375:2008で規定される方法で基材を測定したときに、全光線透過率が85%以上となる基材が、透明基材として好ましい。このような透明基材としては、後述する樹脂フィルムをあげることができる。
【0017】
基材としてプラスチックフィルムを用いる場合には、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、アクリル、ウレタン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリスチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、ポリビニルアルコール、シクロオレフィン、ポリイミドなどの樹脂フィルムが挙げられる。
【0018】
基材として紙を用いる場合は、セルロース素材の他、合成紙であってもよい。基材として金属板を用いる場合は、鉄板、銅板、アルミ箔、ニッケル箔などが挙げられる。基材がセラミックスシートの場合は、ソーダガラス板、無アルカリガラス板、アルミナボード、ジルコニアシート、窒化アルミシート、窒化ケイ素シートなどが挙げられる。
【0019】
基材の厚みは、とくに制限はされないが、適度な剛性と曲げ耐性を有し取り扱いがしやすい点から、50μm以上2mm以下が好ましい。
【0020】
本発明のシート中の樹脂組成物層は、基材上に形成される。このような樹脂組成物層2は、波長450nm~650nmの範囲での光線透過率の平均値(以下、光線透過率1とする。)が80±8%である。
【0021】
さらに本発明1のシートは、樹脂組成物層の波長460nm、530nm、及び640nmにおける光線透過率の平均値(以下、光線透過率2とする。)が、波長430nm、波長500nm、580nm、及び690nmにおける光線透過率の平均値(以下、光線透過率3とする。)よりも大きい光学特性を有する層である。
【0022】
本発明においては、樹脂組成物層2の光線透過率1が80±8%と非常に高いため、発光素子上に本発明1のシート100を形成しても、カラーフィルター層を形成した場合のように画素が暗くなることは殆どなく、表示素子の発光強度を上げる必要がない。したがって、表示素子のエネルギー浪費を削減できる効果を有する。
【0023】
また本発明1においては、樹脂組成物層2の光線透過率2が光線透過率3よりも大きいことにより、この樹脂組成物層2のみで従来の赤、緑および青色のカラーフィルター各層を代替する役割を果たすことが可能となり、表示素子が発する光線のうち、赤、緑および青色の波長の光線を他の色の波長と比較して相対的に透過させるので、各色の発光素子との位置合わせが不要となり、発光素子上に本願発明のシート100を形成しても歩留まりの低下の原因には殆どならず、生産性が向上する効果を有する。
【0024】
さらに本発明1においては、樹脂組成物層2の波長460nm、530nm、及び640nmにおける光線透過率の差は±5%以内になるように調整するのが好ましい。ここで樹脂組成物層の波長460nm、530nm、及び640nmにおける光線透過率の差が±5%以内とは、波長460nm、530nm、及び640nmのそれぞれの光線透過率の中で、最大の光線透過率となる波長と最小の光線透過率となる波長における光線透過率の差を求めて、それが±5%以内となることを意味する。各色の表示素子が発する光線の光量は、樹脂組成物層2の上記波長における光線透過率の差に応じて適宜調整する必要があるが、その光量の差が余り大きくなると上記の波長だけなくその周辺の波長の光量の差も大きくなってしまい、最終的にディスプレイを構成する赤、緑および青色の光線の色純度の低下を招く原因になる。また、表示素子を全て消灯してディスプレイ画面を観察した際、無彩色の黒色でなくなり外観が悪くなる可能性がある。
【0025】
なお、前記光線透過率1、2、3の各波長における光線透過率は、基材1をリファレンスとして、大塚電子(株)製顕微分光測定器“LCF-100MA”を用いて測定した透過スペクトル(
図2参照)から得られる数値である。基材1が不透明で測定が困難な場合には、別途透明な基材を準備し、それに樹脂組成物層2を転写形成するか、同じ条件の樹脂組成物層2を新たに形成して代用測定するとよい。
【0026】
樹脂組成物層2の組成は、少しでも前記カラーフィルター層の代替の役割を果たせる組成であればとくに限定されないが、主として赤、青、及び黄の着色剤とバインダー樹脂とを含む組成であることが好ましい。
【0027】
青の着色剤としては、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:5、15:6、16、60、64や、C.I.ソルベントブルー25,38,64,67,70,129などが挙げられる。
【0028】
赤の着色剤としては、C.I.ピグメントレッド9、48、97、122、123、144、149、166、168、177、179、180、192、209、215、216、217、220、223、224、226、227、228、240、254、255、256、257、258,260、261、264、266、267、268、269、273、274,291などが挙げられる。
【0029】
黄の着色剤としては、C.I.ピグメントイエロー1、1:1、2、3、4、5、6、9、10、12、13、14、16、17、24、31、32、34、35、35:1、36、36:1、37、37:1、40、41、42、43、48、53、55、61、62、62:1、63、65、73、74、75、81、83、87、93、94、95、97、100、101、104、105、108、109、110、111、116、117、119、120、126、127、127:1、128、129、133、134、136、138、139、142、147、148、150、151、153、154、155、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、172、173、174、175、176、180、181、182、183、184、185、188、189、190、191、191:1、192、193、194、195、196、197、198、199、200、202、203、204、205、206、207、211、213、218、220、221、228などが挙げられる。
【0030】
バインダー樹脂は、着色剤やその他の成分を保持する作用を奏する。バインダー樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂、尿素樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。樹脂組成物層は、これらの樹脂を2種以上含んでもよい。これらのバインダー樹脂の中でも、安定性の面からアクリル樹脂が好ましい。
【0031】
アクリル樹脂としては、例えば、不飽和カルボン酸の重合体や、不飽和カルボン酸と他のエチレン性不飽和化合物の共重合体などが挙げられる。これらの中でも、不飽和カルボン酸とエチレン性不飽和化合物の共重合体が好ましい。不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、ビニル酢酸などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0032】
エチレン性不飽和化合物としては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチルベンジルメタクリレートなどの不飽和カルボン酸アルキルエステル;スチレン、メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物;アミノエチルアクリレートなどの不飽和カルボン酸アミノアルキルエステル;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどの不飽和カルボン酸グリシジルエステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-クロルアクリロニトリルなどのシアン化ビニル化合物;1,3-ブタジエン、イソプレンなどの脂肪族共役ジエン;末端にアクリロイル基またはメタクリロイル基を有するポリスチレン、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリシリコーンなどのマクロモノマーなどが挙げられる。
【0033】
アクリル樹脂は、側鎖にエチレン性不飽和基を有することが好ましく、着色樹脂組成物が感光性を有する場合の感度を向上させることができる。エチレン性不飽和基としては、例えば、ビニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基などが挙げられる。エチレン性不飽和基をアクリル樹脂の側鎖に導入する方法としては、アクリル樹脂がカルボキシル基や水酸基などを有する場合には、これらにエポキシ基を有するエチレン性不飽和化合物、アクリル酸クロライド、メタクリル酸クロライドなどを付加反応させる方法、イソシアネートを利用してエチレン性不飽和基を有する化合物を付加させる方法などが挙げられる。
【0034】
側鎖にエチレン性不飽和基を有するアクリル樹脂としては、例えば、ダイセル・オルネクス(株)製、“サイクロマー”(登録商標)P(ACA)Z250(ジプロピレングリコールモノメチルエーテル45重量%溶液)、ADEKA(株)製、“アデカアークルズ”WR301(ジプロピレングリコールモノメチルエーテル45重量%溶液)、KRX-3802(ジプロピレングリコールモノメチルエーテル45重量%溶液)、アルカリ可溶性カルド樹脂などが挙げられる。
【0035】
バインダー樹脂の重量平均分子量Mwは、樹脂組成物を硬化してなる硬化膜の強度を向上させる観点から、3,000以上が好ましく、5,000以上がより好ましい。一方、樹脂組成物の安定性を向上させる観点から、200,000以下が好ましく、100,000以下がより好ましい。なお、ここでいうMwとは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定した標準ポリスチレン換算値を指す。
【0036】
バインダー樹脂の含有量は、樹脂組成物層2の膜を維持する観点から、固形分中0.5重量%以上が好ましく、1重量%以上がより好ましい。一方、各色の色純度を維持する観点から、固形分中99重量%以下が好ましく、95重量%以下がより好ましい。
【0037】
各着色剤の含有量は、それぞれの着色剤の特性(各波長での光線透過率)に応じて光線透過率1~3が本発明1の範囲になるよう適宜選択すればよく、とくに限定されないが、バインダー樹脂100重量部に対して、それぞれの着色剤の含有量が0.5~20重量部が好ましい。また赤、青、黄の着色剤の含有比率も特に限定されるものではなく、光線透過率1~3が本発明1の範囲となるように適宜調整し、また樹脂組成物層の波長460nm、530nm、及び640nmにおける光線透過率の差が±5%以内となるように調整することが可能である。
【0038】
さらに本発明のシート中の樹脂組成物層は、緑の着色剤を含有してもよい。緑の着色剤としては、C.I.ピグメントグリーン1、2、4、7、8、10、13、14、15、17、18、19、26、36、45、48、50、51、54、55、58、59や、C.I.ソルベントグリーン3,28,32、33などが挙げられる。
【0039】
緑の着色剤の含有量は、前記黄の着色剤の含有量100重量部に対して、100重量部以下が好ましい。緑の着色剤は、530nm付近に透過スペクトルのピークをもつ着色剤であり、一見するとこれを多く含有させた方が好ましく思えるが、その周辺の波長の光線透過率も上昇させてしまうので、総合的にみると緑の着色剤よりも黄の着色剤の方が好ましい。
【0040】
また本発明のシート中の樹脂組成物層は、前記着色剤以外に、C.I.ピグメントバイオレット14,19、23、29、30、32、33、36、37、40、50やC.I.ソルベントバイオレット2,8,9,11,13,14などの紫色着色剤、C.I.ピグメントオレンジ13、36、38、43、51、55、59、61、64、65、71などのオレンジ色着色剤、C.I.ピグメントブラウン28などの茶色着色剤、C.I.ピグメントブラック1、7などの黒色着色剤を含んでいてもよい。
【0041】
樹脂組成物層2は、その他の成分として、密着改良剤、界面活性剤、分散剤、反応性モノマー、光重合開始剤、連鎖移動剤、増感剤、重合禁止剤などを含んでいてもよく、これらは2種以上含んでもよい。密着改良剤としては、例えば、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤が挙げられる。密着改良剤の含有量は固形分中10重量%以下が好ましい。
【0042】
界面活性剤としては、例えば、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコン系界面活性剤などが挙げられる。界面活性剤を含むことにより、樹脂組成物層2の表面平滑性を向上させることができる。界面活性剤の含有量は、0.001重量%以上1重量%以下が好ましい。
【0043】
分散剤としては、顔料骨格のアルキルアミン変性体やカルボン酸誘導体、スルホン酸誘導体などの顔料誘導体などが挙げられ、シナジストとして顔料の湿潤や微細顔料の安定化に有効である。また、樹脂組成物層2に反応性モノマーおよび光重合開始剤を含むことにより、感光性を付与することができる。さらに連鎖移動剤および/または増感剤を含むことにより、感度を向上させることができる。
【0044】
反応性モノマーとしては、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリレートカルバメート、アルキッド変性(メタ)アクリレートなどのオリゴマー、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートまたはこれらのアルキル変性物、アルキルエーテル変性物やアルキルエステル変性物などが挙げられる。反応性モノマーの分子量はバインダー樹脂との相溶性の観点から、400以上が好ましい。反応性モノマーの含有量は、固形分中10重量%以上80重量%以下が好ましい。
【0045】
光重合開始剤としては、ベンゾフェノン系化合物、アルキルフェノン系化合物、アントラキノン系化合物、イミダゾール系化合物、ベンゾチアゾール系化合物、ベンゾオキサゾール系化合物、オキシムエステル化合物、トリアジン系化合物、リン系化合物、チタネート等が挙げられる。光重合開始剤の含有量は、固形分中0.1重量%以上が好ましく、10重量%以下が好ましい。
【0046】
連鎖移動剤としては、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、チオサリチル酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプト酪酸、メルカプト酢酸、トリメチロールプロパントリス、ペンタエリスリトールテトラキス、1,4ビス(3メルカプトブチリルオキシ)ブタン等のメルカプト化合物、該メルカプト化合物を酸化して得られるジスルフィド化合物、ヨード酢酸、ヨードプロピオン酸等のヨード化アルキル化合物などが挙げられる。連鎖移動剤の含有量は固形分中0.01重量%以上10重量%以下が好ましい。
【0047】
増感剤としては、チオキサントン系増感剤、芳香族または脂肪族の第3級アミンなどが挙げられる。増感剤の含有量は、固形分中10重量%以下が好ましい。重合禁止剤としては、ヒドロキノン、tert-ブチルヒドロキノン、2,5-ビス(1,1,3,3-テトラメチルブチル)ヒドロキノン、カテコール、tert-ブチルカテコールなどが挙げられる。重合禁止剤の含有量は固形分中0.0001重量%以上0.5重量%以下が好ましい。
【0048】
次に、樹脂組成物層2の形成方法について説明する。樹脂組成物層2は、樹脂組成物層2の塗液を作製し、その塗液を基材1上に塗布して塗膜を形成した後、乾燥して有機溶剤を飛散させて形成する方法が挙げられる。塗液を基材1上に塗布する方法としては、汎用の印刷方法のほか、ダイコート、スリットコート、スリットダイコート、グラビアコート、リバースコート、ディッピング、インクジェット、スプレー塗装などが挙げられる。塗膜を乾燥する方法としては、オーブン、ホットプレートなどが挙げられる。とくに、乾燥効率を上げるために真空乾燥を用いるのが好ましい。
【0049】
樹脂組成物層2の塗液を作製する方法としては、赤、青、及び黄の着色剤と、バインダー樹脂と、有機溶剤とを分散機により分散して顔料分散液を調製した後、必要に応じてその他の成分を添加して混合する方法が挙げられる。その他の成分として分散剤を含む場合には、顔料分散液調製時に分散剤を添加してもよい。
【0050】
分散機としては、例えば、サンドミル、ボールミル、ビーズミル、3本ロールミル、ア
トライター等が挙げられる。これらの中でも、分散効率に優れるビーズミルが好ましい。樹脂組成物層2の塗液に有機溶剤を含ませることにより、基材1上に塗布するために適した流動特性を得ることができる。有機溶剤としては、アセテート系溶剤、(ポリ)アルキレングリコールエーテル系溶剤、脂肪族エステル系溶剤、脂肪族アルコール類溶剤、ケトン系溶剤、炭化水素系などの溶剤が挙げられる。
【0051】
なお、樹脂組成物層2は粘着性を有していてもよい。粘着性を有することでディスプレイなどの表面に貼付しやすくできる。粘着性を付与する方法としては、天然ゴム、IR、SBR、NBR等のゴム系、アクリル系、シリコン系などの各種の粘着剤を樹脂組成物層2に添加するか、バインダー樹脂に替えて前記粘着剤の樹脂に変更する方法が挙げられる。ディスプレイなどの表面に貼付した後は基本的に再剥離しないので、粘着剤としては、架橋度が高い永久接着剤用のアクリル系粘着剤が好ましい。
【0052】
続いて本発明2のシートについて説明する。なお本発明2のシートは、特記しない限り、本発明1と共通であり、基材、樹脂組成物層、着色剤などは本発明1のシートの説明と同様である。
【0053】
本発明2のシート100は、基材1上に樹脂組成物層2が形成されたシートであって(
図1参照)、前記樹脂組成物層2の波長450nm~650nmの範囲での光線透過率の平均値(光線透過率1)が80±8%であり、前記樹脂組成物層が、赤、青、及び黄の着色剤を含有していることを特徴とする(
図2参照)。
【0054】
本発明2のシート中の樹脂組成物層も、本発明1と同様に、波長450nm~650nmの範囲での光線透過率の平均値(以下、光線透過率1とする。)が80±8%であるが、本発明2のシートにおいては、樹脂組成物層が、赤、青、及び黄の着色剤を含有していることが重要である。樹脂組成物層が赤、青、及び黄の着色剤を含有することにより、黄色の着色剤だけでは、緑色の波長の光線透過率が赤色や青色の波長の光線透過率に比べて不足している場合に、それを補って樹脂組成物層の波長460nm、530nm、及び640nmにおける光線透過率の差を±5%以内にし易くできる。
【0055】
本発明2のシートは、樹脂組成物層が、着色剤として赤、青、及び黄の着色剤のみを含有していることが好ましい。なお、この態様の本発明2のシートの樹脂組成物層は、着色剤以外の成分を含むことは許容されており、着色剤については赤、青、及び黄の着色剤のみを含有する。このような態様とすることで、混ぜたときに無彩色の黒色に調整しやすく、ディスプレイを消灯した際の外観を漆黒の色味に調整して外観の向上を図りやすくできる。
【0056】
本発明2のシートは、樹脂組成物層が、さらに緑の着色剤を含有していることも好ましい。つまりこのような態様の本発明2のシートは、着色剤として少なくとも赤、青、黄、及び緑の着色剤を含有する。このような態様にすることで、緑色のピーク波長の光線透過率を高く維持することができる。
【0057】
本発明2のシートが緑の着色剤を含有する場合、緑の着色剤の含有量は、黄の着色剤の含有量100重量部に対して、100重量部以下であることが好ましい。このようにすることで、緑色周辺の光線の透過スぺクトルの半値幅が広がってしまうのを防止しつつ、緑色のピーク波長の光線透過率を高く維持することができる。
【0058】
本発明のシート100は、さらに水蒸気バリア層5を有していてもよい。本発明でいう水蒸気バリア層5とは、「所定の温度及び湿度の条件で単位時間に単位面積の試験片を通過する水蒸気の量」(JIS K7129:2008)で定義され、JIS-Z0208:1976で規定されているカップ法の条件Aで測定した水蒸気透過度(g/m2/24h)が、同水蒸気バリア層5を設ける前のシート100と比較して、50%以下に低下させる性能を有する層のことである。水蒸気バリア層は、好ましくは、水蒸気バリア層を設ける前のシートと比較して、水蒸気透過度(g/m2/24h)を30%以下に低下させる性能を有する層がよい。
【0059】
とくに、有機ELディスプレイでは水分により劣化し易いので、それを覆うシート100に水蒸気バリア層を設けることにより、有機ELディスプレイの耐久性向上に寄与する効果が期待できる。水蒸気バリア層5の材質や厚みは、とくに限定されず、樹脂・金属・セラミックなどいずれの材質であってもよい。水蒸気バリア層5は、例えば反射防止性やその他の別の性能も同時に有する層であってもよい。
【0060】
本発明のシートにおいて、水蒸気バリア層の位置は特に限定されず、例えば水蒸気バリア層5は、本発明のシートの樹脂組成物層2上に設けてもよいし(
図3(a)参照)、また樹脂組成物層2形成面と反対側の基材1面に水蒸気バリア層を設けてもよい(
図3(b)参照)。また、基材1と樹脂組成物層2との間、樹脂組成物層2と水蒸気バリア層5との間、基材1と水蒸気バリア層5との間に、層間接着力等を向上させるアンカー層を設けてもよい。
【0061】
本発明のシート100は、有機EL、液晶、マイクロLED、プラズマ、CRT、レーザーなど各種のディスプレイ7の表面などに設置して(
図4参照)、ディスプレイ7の色彩を鮮やかにしたり、耐久性を向上させたり、外部光からの影響を低減したりすることができるが、少しでもカラーフィルターを代替する役割を果たす使用態様であれであれば、シート100にとくに制限はなく、各種のディスプレイ7の表面などに設置する使用態様に限定されるわけではない。
【実施例0062】
(樹脂組成物塗液の作製)
表に示す各重量部の着色剤、分散剤(着色剤全量対し40重量%)、及び溶剤(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート/3-エトキシプロピオン酸エチル=70/30(重量比))36重量部を混合し、着色剤分散液を調製した。この着色剤分散液に、バインダー樹脂(ベンジルメタクリレート/メタクリル酸=70/30(モル比)の共重合体:ポリスチレン換算重量平均分子量30,000)28重量部、多官能アクリレートモノマー(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)8重量部、重合開始剤(イルガキュアー907:チバ・ジャパン株式会社製)2重量部、界面活性剤(F477:ディーアイケー社製)2重量部、及び溶剤(同上)180重量部を添加し、十分に混合したのち、3μmのフィルターでろ過して樹脂組成物塗液を得た。
【0063】
なお、各表において、PRはピグメントレッド、PBはピグメントブルー、PYはピグメントイエロー、PGはピグメントグリーン、PVはピグメントバイオレット、POはピグメントオレンジを指す。
【0064】
(実施例1~7、比較例1,2のシートの作製)
次いで、表に示す基材に、前記樹脂組成物塗液をダイコーターを用いて塗布し、90℃に設定したオーブン内で10分間乾燥して溶剤を飛散除去した。さらに、紫外線照射機に晒してバインダー樹脂を硬化させ、基材表面に樹脂組成物層が形成されたシートを得た。なお、実施例6,7は前記樹脂組成物塗液を塗布する前の基材の表面に離型性のある樹脂からなる離型層をグラビアコーターで塗布形成しておいた。
【0065】
(実施例8のシートの作製)
基材表面の樹脂組成物層が形成された面に、インジウムチタン酸化物からなる水蒸気バリア層をスパッタリング法で100nmの厚みで形成した他は、実施例1と同様にしてシートを作製した。
【0066】
(実施例9のシートの作製)
基材表面の樹脂組成物層が形成された面と反対側の面に、フッ素樹脂からなる水蒸気バリア層をグラビアコート法で1μmの厚みで形成した他は、実施例1と同様にしてシートを作製した。
【0067】
(光線透過率の測定)
表に示した各シートの樹脂組成物層の光線透過率を測定した。
【0068】
実施例1~実施例5、比較例1,2は、各基材をリファレンスとして、シートを直接測定した透過スペクトルから得られる数値を示した。実施例6,7は、別途無アルカリ透明ガラスを準備し、ロール転写装置を用いて無アルカリ透明ガラス表面に樹脂組成物層を転写形成した評価用のサンプルを作製し、無アルカリ透明ガラスをリファレンスとして、LCF-100MA(MC-9800-3483;波長精度±0.3nm、測定時間Nomal)を用いて測定した。
【0069】
(有機EL素子の作製)
バンク枠を形成したTFT基板を作製したのち、インクジェット印刷機を用いてバッファ膜(PEDT:ポリ(3,4)エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(スタルクヴィテック社製、商品名:BaytronPCH8000)を0.1μm相当の膜厚で形成した。同様にインクジェット印刷機を用いて赤画素に赤色蛍光体インク(LUMATION RP-221(サメイション株式会社製))、緑画素に緑色蛍光体インク(LUMATION GP-1200(サメイション株式会社製))、青画素に青色蛍光体インク(LUMATION BP-105(サメイション株式会社製))を充填したのち、溶媒を除去し蛍光体層を形成した。真空中で十分溶媒を除いた後、インクジェット印刷機を用いて電荷注入層(IL40)を充填し、溶媒を乾燥除去し、カソードとして高純度Al-Mg膜を蒸着形成したのちCVDで窒化珪素膜を形成して有機EL素子を得た。
【0070】
(有機EL素子表面へのシートの添付)
上記作製した有機EL素子上に、スピンコーターで透明な紫外線硬化樹脂を塗布し、紫外線硬化樹脂が塗布された有機EL素子に対向するように、上記の実施例1~9および比較例1,2の各シートを貼り合わせた。次いで、有機EL素子と各シートの間隙に充填された紫外線硬化樹脂に対して光を照射して硬化させ、各シートと有機EL素子とを接着固定した。そして、実施例6,7のシートについては、その後基材を剥離除去した。
【0071】
(シートが添付された有機EL素子の評価結果)
光線透過率2が光線透過率3より大きい実施例1~9のシートは、光線透過率2が光線透過率3と同じまたは小さい比較例1、2のシートに比べて、赤、緑、青の波長の光線を透過し易くカラーフィルターと類似した機能を有していた。また、樹脂組成物層の光線透過率1が80±8%と非常に高く、従来のカラーフィルター各層を形成した場合のような画素が暗くなることは殆どなく、表示素子の発光強度を上げる必要がない優れたものであった。
【0072】
【0073】
【0074】