(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057669
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】基板の製造方法及びスペーストランスフォーマー用基板
(51)【国際特許分類】
H05K 3/00 20060101AFI20240418BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
H05K3/00 J
H05K1/03 610B
H05K1/03 610R
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164459
(22)【出願日】2022-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 哲也
(72)【発明者】
【氏名】豆田 和寛
(57)【要約】
【課題】半田浮きや配線の剥がれを抑制することができ、導通不良を生じ難くすることを可能とする、基板の製造方法を提供する。
【解決手段】ガラスと、セラミックフィラーとを含む、基板10の製造方法であって、基板1(元基板1)を準備する準備工程と、基板1(元基板1)を研磨する研磨工程とを備え、研磨工程において、固定砥粒を有する研磨パッドを用いて基板1(元基板1)を研磨する、基板10の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスと、セラミックフィラーとを含む、基板の製造方法であって、
基板を準備する準備工程と、
前記基板を研磨する研磨工程と、
を備え、
前記研磨工程において、固定砥粒を有する研磨パッドを用いて前記基板を研磨する、基板の製造方法。
【請求項2】
前記基板の準備工程において、
ガラス粉末と、セラミックフィラーの粉末とを含む、グリーンシートを複数枚用いて、内部配線を有する積層体を作製し、前記積層体を焼成することにより、前記基板を準備する、請求項1に記載の基板の製造方法。
【請求項3】
前記セラミックフィラーが、アルミナである、請求項1又は2に記載の基板の製造方法。
【請求項4】
前記基板の準備工程において、前記ガラスから析出結晶としてアノーサイトを析出させる、請求項1又は2に記載の基板の製造方法。
【請求項5】
前記基板の研磨工程において、前記基板の両側の主面を研磨する、請求項1又は2に記載の基板の製造方法。
【請求項6】
前記固定砥粒が、ダイヤモンドである、請求項1又は2に記載の基板の製造方法。
【請求項7】
前記固定砥粒の平均粒径が、1μm以上、8μm以下である、請求項1又は2に記載の基板の製造方法。
【請求項8】
前記研磨後の基板に、バッファードフッ酸処理、導体ペースト処理、及び焼き付け処理をこの順に施し、配線を形成する工程をさらに備える、請求項1又は2に記載の基板の製造方法。
【請求項9】
前記配線に、めっき処理及び半田付け処理をこの順に施し、スペーストランスフォーマー基板として用いる、請求項8に記載の基板の製造方法。
【請求項10】
ガラスと、セラミックフィラーとを含む、スペーストランスフォーマー用基板であって、
前記スペーストランスフォーマー用基板が、研磨面を有し、
前記スペーストランスフォーマー用基板の前記研磨面を25℃で10分間バッファードフッ酸処理したときに、前記バッファードフッ酸処理した後の前記研磨面の表面粗さRa1と、前記バッファードフッ酸処理する前の前記研磨面の表面粗さRa2との差(Ra1-Ra2)が、0.05μm以上である、スペーストランスフォーマー用基板。
【請求項11】
前記バッファードフッ酸処理する前の前記研磨面の表面粗さRa2が、0.05μm以上、0.45μm以下である、請求項10に記載のスペーストランスフォーマー用基板。
【請求項12】
前記バッファードフッ酸処理した後の前記研磨面の表面粗さRa1が、0.10μm以上、0.50μm以下である、請求項10又は11に記載のスペーストランスフォーマー用基板。
【請求項13】
前記研磨面が、固定砥粒による研磨面である、請求項10又は11に記載のスペーストランスフォーマー用基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスと、セラミックフィラーとを含む、基板の製造方法及びスペーストランスフォーマー用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子の電気的なテストには、プローブカードが用いられている。プローブカードには、スペーストランスフォーマー基板(ST基板)と呼ばれる配線ピッチ変換基板が用いられている(例えば、特許文献1等)。また、このような配線基板としては、ガラスとセラミックフィラーとからなる低温同時焼成セラミック(LTCC)により構成され、その表面や内部に配線が施された基板が用いられている(例えば、特許文献2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-10052号公報
【特許文献2】特開2009-74823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スペーストランスフォーマー基板の表層には、プローブカードの他の部材と接続するために、配線が施され、この配線が半田付けされて用いられている。しかしながら、この場合、半田付けの条件によって、半田浮きや配線の剥がれが生じ、その結果、導通不良が生じることがあった。
【0005】
本発明の目的は、半田浮きや配線の剥がれを抑制することができ、導通不良を生じ難くすることを可能とする、基板の製造方法及びスペーストランスフォーマー用基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する基板の製造方法及びスペーストランスフォーマー用基板の各態様について説明する。
【0007】
本発明の態様1に係る基板の製造方法は、ガラスと、セラミックフィラーとを含む、基板の製造方法であって、基板を準備する準備工程と、前記基板を研磨する研磨工程と、を備え、前記研磨工程において、固定砥粒を有する研磨パッドを用いて前記基板を研磨することを特徴としている。
【0008】
態様2の基板の製造方法では、態様1において、前記基板の準備工程において、ガラス粉末と、セラミックフィラーの粉末とを含む、グリーンシートを複数枚用いて、内部配線を有する積層体を作製し、前記積層体を焼成することにより、前記基板を準備することが好ましい。
【0009】
態様3の基板の製造方法では、態様1又は態様2において、前記セラミックフィラーが、アルミナであることが好ましい。
【0010】
態様4の基板の製造方法では、態様1から態様3のいずれか一つの態様において、前記基板の準備工程において、前記ガラスから析出結晶としてアノーサイト(CaO・Al2O3・2SiO2)を析出させることが好ましい。
【0011】
態様5の基板の製造方法では、態様1から態様4のいずれか一つの態様において、前記基板の研磨工程において、前記基板の両側の主面を研磨することが好ましい。
【0012】
態様6の基板の製造方法では、態様1から態様5のいずれか一つの態様において、前記固定砥粒が、ダイヤモンドであることが好ましい。
【0013】
態様7の基板の製造方法では、態様1から態様6のいずれか一つの態様において、前記固定砥粒の平均粒径が、1μm以上、8μm以下であることが好ましい。
【0014】
態様8の基板の製造方法では、態様1から態様7のいずれか一つの態様において、前記研磨後の基板に、バッファードフッ酸処理、導体ペースト処理、及び焼き付け処理をこの順に施し、配線を形成する工程をさらに備えることが好ましい。ここで、バッファードフッ酸とは、50質量%フッ酸(HF)水溶液と40質量%フッ化アンモニウム(NH4F)水溶液を任意の配合比で混合した水溶液である。
【0015】
態様9の基板の製造方法では、態様8において、前記配線に、めっき処理及び半田付け処理をこの順に施し、スペーストランスフォーマー基板として用いることが好ましい。
【0016】
態様10のスペーストランスフォーマー用基板は、ガラスと、セラミックフィラーとを含む、スペーストランスフォーマー用基板であって、前記スペーストランスフォーマー用基板が、研磨面を有し、前記スペーストランスフォーマー用基板の前記研磨面を25℃で10分間バッファードフッ酸処理したときに、前記バッファードフッ酸処理した後の前記研磨面の表面粗さRa1と、前記バッファードフッ酸処理する前の前記研磨面の表面粗さRa2との差(Ra1-Ra2)が、0.05μm以上であることを特徴としている。
【0017】
態様11のスペーストランスフォーマー用基板では、態様10において、前記バッファードフッ酸処理する前の前記研磨面の表面粗さRa2が、0.05μm以上、0.45μm以下であることが好ましい。
【0018】
態様12のスペーストランスフォーマー用基板では、態様10又は態様11において、前記バッファードフッ酸処理した後の前記研磨面の表面粗さRa1が、0.10μm以上、0.50μm以下であることが好ましい。
【0019】
態様13のスペーストランスフォーマー用基板では、態様10から態様12のいずれか一つの態様において、前記研磨面が、固定砥粒による研磨面であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、半田浮きや配線の剥がれを抑制することができ、導通不良を生じ難くすることを可能とする、基板の製造方法及びスペーストランスフォーマー用基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1(a)~(c)は、本発明の一実施形態に係る基板の製造方法を説明するための模式的断面図である。
【
図2】
図2は、固定砥粒を有する研磨パッドを用いて研磨された基板の研磨面のBHF処理前における走査型顕微鏡写真である。
【
図3】
図3は、固定砥粒を有する研磨パッドを用いて研磨された基板の研磨面のBHF処理後における走査型顕微鏡写真である。
【
図4】
図4(a)は、固定砥粒を有する研磨パッドを用いて研磨された基板のBHF処理前における構造を示す模式図であり、
図4(b)は、BHF処理後における構造を示す模式図である。
【
図5】
図5は、遊離砥粒形式で研磨された基板の研磨面のBHF処理前における走査型顕微鏡写真である。
【
図6】
図6は、遊離砥粒形式で研磨された基板の研磨面のBHF処理後における走査型顕微鏡写真である。
【
図7】
図7(a)は、遊離砥粒形式で研磨された基板のBHF処理前における構造を示す模式図であり、
図7(b)は、BHF処理後における構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0023】
[基板の製造方法]
本発明の基板の製造方法は、ガラスと、セラミックフィラーとを含む、基板の製造方法である。本発明の基板の製造方法は、基板を準備する準備工程と、準備した基板を研磨する研磨工程とを備える。
【0024】
本発明では、研磨工程において、固定砥粒を有する研磨パッドを用いて基板を研磨すること特徴としている。これにより、得られる基板において、半田浮きや配線の剥がれを抑制することができ、導通不良を生じ難くすることができる。
【0025】
以下、本発明の基板の製造方法の一例について、
図1(a)~(c)を参照し、詳細に説明する。
【0026】
(基板の準備工程)
基板の準備工程では、研磨前の元基板1を準備する。元基板1は、ガラス粉末と、セラミックフィラーの粉末とを含む、ガラスセラミックス焼結体であることが好ましく、特にLTCCであることがより好ましい。また、元基板1は、析出結晶としてアノーサイト結晶が析出したガラスセラミックス焼結体であることが好ましい。この場合、得られる基板をスペーストランスフォーマー基板に好適に用いることができる。
【0027】
元基板1を準備するに際しては、まず、ガラス粉末と、セラミックフィラーの粉末とを含む、グリーンシートを作製する。グリーンシートの作製に際しては、ガラス粉末とセラミックフィラーの粉末とを含む複合粉末を作製し、この複合粉末に、必要に応じてバインダー、可塑剤、溶剤等を添加してスラリーを調製する。次に、得られたスラリーをドクターブレード等によりシート状に成形し、乾燥させた後、所定の形状に加工することにより、グリーンシートを得る。
【0028】
ガラス粉末としては、特に限定されないが、例えば、ホウケイ酸ガラスを用いることができる。なかでも、ガラス組成として、CaOを含有するホウケイ酸ガラスであることが好ましい。この場合、ガラス中からアノーサイト結晶を容易に析出させることができ、この結果、LTCCの強度をより高めることができる。但し、ガラスからアノーサイト結晶を析出させると、残存するガラスマトリックス中のSiO2やCaOの含有量は少なくなるため、LTCCは軟質になり、このLTCCを遊離砥粒形式で研磨すると、優先的に残存ガラスマトリックスが研磨されることになる。一方、硬質なセラミックフィラーは、遊離砥粒形式では研磨され難いため、LTCCの表面からセラミックフィラーが突出した状態になり、セラミックフィラーがLTCCから抜け易くなる。このため、後述するセラミックフィラーの欠損(粒子の欠損A)が発生し易くなる。
【0029】
このようなガラス粉末としては、例えば、ガラス組成として、モル%で、SiO2 50%~80%、B2O3 5%~30%、CaO 3%~25%を含有するガラスを用いることができる。
【0030】
グリーンシート中に含まれるガラス粉末の含有量は、例えば、35質量%以上、75質量%以下とすることができる。また、ガラス粉末の平均粒子径D50としては、例えば、0.5μm以上、3.5μm以下とすることができる。なお、本明細書において、「平均粒子径D50」は、レーザー回折法で測定した値を指し、レーザー回折法で測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して50%である粒子径を表す。
【0031】
セラミックフィラーの粉末としては、例えば、アルミナ粉末、コージェライト粉末、ウイレマイト粉末等を用いることができる。なかでも、セラミックフィラーの粉末としては、アルミナ粉末を用いることが好ましい。この場合、アルミナをセラミックフィラーとして含有させることで、LTCCの強度を高めることができる。また、ガラス中のCaOと、セラミックフィラーであるアルミナが反応することで、ガラス中からアノーサイト結晶を析出させることができ、結果としてLTCCの強度を高めることができる。但し、LTCCを遊離砥粒形式で研磨すると、硬質なアルミナは研磨され難く、優先的にガラスが研磨される。特に、アノーサイト結晶が析出した後の残存ガラスマトリックスでは、この傾向が顕著である。この結果、LTCCの表面からアルミナが突出した状態になり、LTCCから抜け易くなる。このため、後述するセラミックフィラーの欠損(粒子の欠損A)が発生し易くなる。
【0032】
グリーンシート中に含まれるセラミックフィラーの粉末の含有量は、好ましくは25質量%以上、より好ましくは35質量%以上、好ましくは65質量%以下、より好ましくは55質量%以下である。セラミックフィラーの粉末の含有量が上記下限値以上である場合、得られるガラスセラミックス焼結体の強度をより一層高めることができる。一方、セラミックフィラーの粉末の含有量が上記上限値以下である場合、焼結性をより一層高めることができ、焼結体の強度をより一層高めることができる。
【0033】
セラミックフィラーの粉末の平均粒子径D50は、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1.0μm以上、好ましくは5.0μm以下、より好ましくは3.0μm以下である。セラミックフィラーの粉末の平均粒子径D50が上記範囲内にある場合、アノーサイト結晶をより析出させ易くすることができる。
【0034】
バインダーとしては、例えば、ポリビニルブチラール、アクリル樹脂等が挙げられる。可塑剤としては、例えば、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ブチルベンジル等が挙げられる。溶剤としては、メチルエチルケトン、トルエン、キシレン、2-プロパール、2-ブタノール等の有機溶剤等が挙げられる。
【0035】
次に、グリーンシートの表面及び内部に配線を形成するための導体ペースト層を形成する。導体ペーストとしては、例えば、銅、銀、金、白金、パラジウム等を主成分とする金属粉末に、エチルセルロース等のビヒクルや、必要に応じて溶剤等を添加してなるペーストを用いることができる。なお、この工程により形成される内部配線は、
図1(a)~(c)において図示を省略している。
【0036】
次に、導体ペースト層が形成されたグリーンシートを所定の順序で重ね合わせ、熱圧着により一体化する。それによって、グリーンシート成形体を得ることができる。次に、得られたグリーンシート成形体を焼結し、ガラスセラミックス焼結体からなる元基板1を得ることができる。
【0037】
なお、グリーンシート成形体の焼成温度は、例えば、800℃以上、900℃以下とすることができる。グリーンシート成形体の焼成時間は、例えば、30分以上、90分以下とすることができる。
【0038】
(基板の研磨工程)
基板の研磨工程では、準備した元基板1を研磨する。基板の研磨工程では、固定砥粒を有する研磨パッドを用いて元基板1を研磨する。それによって、
図1(b)に示す基板10を得ることができる。
【0039】
固定砥粒としては、例えば、ダイヤモンド、酸化ジルコニウムを用いることができる。なかでも、固定砥粒は、ダイヤモンドであることが好ましい。固定砥粒の平均粒径は、好ましくは1.0μm以上、より好ましくは3.0μm以上、好ましくは8.0μm以下、より好ましくは5.0μm以下である。なお、固定砥粒の平均粒径は、例えば、レーザー回折法やレーザー散乱法により、砥粒の固定前に測定することができる。
【0040】
研磨液としては、例えば、水や水溶性研削液(タイユ株式会社製のハイチップシリーズ等)を研削液として用いることができる。なお、研磨液がセリウムを含有すると、ガラス中のSiO2とセリウムとが化学的に固着し、元基板1の表面からガラスの耐酸性を高める成分であるSiO2が抜ける場合がある。これにより、後工程であるバッファードフッ酸処理におけるガラスの耐酸性が悪化する虞があるため、研磨液は、セリウムを含まないことが好ましい。研磨条件として、面荷重は、20g/cm2~200g/cm2であることが好ましく、50g/cm2~150g/cm2であることがより好ましい。また、定盤の回転数は、例えば、精密両面研磨機(例えば、スピードファム株式会社製の製品名「9B・10.5B-5L/P-V」等)の場合、5rpm~15rpmとすることができる。
【0041】
元基板1の研磨は、元基板1の第1の主面1a及び第2の主面1bの両面に行ってもよく、第1の主面1a又は第2の主面1bの片面にのみ行ってもよい。従って、得られる基板10の少なくとも一方側の主面に研磨面11が得られるように研磨すればよい。
【0042】
なお、本発明の基板の製造方法は、上述した基板の準備工程及び研磨工程を備えていればよいが、例えば、スペーストランスフォーマー基板を製造する場合には、以下のその他の処理工程を備えていてもよい。
【0043】
(その他の処理工程)
研磨後の基板10には、バッファードフッ酸処理(BHF処理)を施すことが好ましい。基板10にBHF処理を施すことにより、基板10表面の酸化膜を除去することができる。但し、基板10にBHF処理を施すことにより、基板10中の耐酸性の弱い成分であるガラス、特にアノーサイトを結晶析出させた後の残存ガラスマトリックスを溶かす虞がある。この場合、セラミックフィラーは、基板10の表面から突出した状態になり、LTCCからセラミックフィラーが抜け易くなる。このため、後述するセラミックフィラーの欠損(粒子の欠損A)が発生し易くなる。
【0044】
バッファードフッ酸溶液は、フッ酸(フッ化水素酸、HF)とフッ化アンモニウム(NH4F)溶液との混合水溶液であることが望ましく、さらに界面活性剤等を含んでいてもよい。バッファードフッ酸溶液中におけるフッ酸の含有量は、例えば、10.0質量%以上、20.0質量%以下とすることができる。バッファードフッ酸溶液中におけるフッ化アンモニウムの含有量は、例えば、10.0質量%以上、20.0質量%以下とすることができる。また、バッファードフッ酸溶液中における水の含有量は、例えば、60.0質量%以上、80.0質量%以下とすることができる。
【0045】
BHF処理の処理温度は、例えば、15℃以上、30℃以下とすることができる。また、BHF処理の処理時間は、例えば、5分以上、30分以下とすることができる。
【0046】
BHF処理後の研磨面11には、
図1(c)に示すような電極パッド12を含む配線を形成してもよい。配線は、例えば、研磨面11上に導体ペースト処理を施し、これを焼き付ける焼き付け処理を施すことにより形成することができる。
【0047】
導体ペーストとしては、例えば、銅、銀、金、白金、パラジウム等を主成分とする金属粉末に、エチルセルロース等のビヒクルや、必要に応じて溶剤等を添加してなるペーストを用いることができる。
【0048】
焼き付け処理の処理温度は、例えば、600℃以上、800℃以下とすることができる。焼き付け処理の処理時間は、例えば、5分以上、30分以下とすることができる。
【0049】
電極パッド12を含む配線には、めっき処理を施してもよい。これにより、電極パッド12を含む配線の表面を保護することができる。めっき処理は、例えば、電極パッド12を含む配線上に、無電解ニッケルめっき処理又無電解ニッケルリンめっき処理、無電解金めっき処理をこの順に施すことにより行うことができる。なお、
図1(c)において、めっき膜は図示していない。めっき膜の厚みは、例えば、0.1μm以上、1.0μm以下とすることができる。
【0050】
めっき処理を施した電極パッド12上には、
図1(c)に示すように、半田13を設けることができる。半田13を設けることにより、基板10を他の部材と半田付けすることができる。半田13としては、鉛フリー半田を用いることができ、例えば、Au-Sn半田を用いることができる。また、半田付けは、300℃以下で30秒以内保持して実施することができる。
【0051】
本実施形態の基板10の製造方法では、固定砥粒を有する研磨パッドを用いて元基板1を研磨することにより基板10を得るため、基板10上に半田13を配置して他の部材に半田付けを行った場合においても、半田浮きや配線の剥がれ(電極パッド12の剥がれを含む)を抑制することができ、導通不良を生じ難くすることができる。
【0052】
従来、プローブカードを構成するスペーストランスフォーマー基板等を製造するに際しては、遊離砥粒方式で元基板を研磨し、BHF処理が施されていた。また、このBHF処理が施された研磨面には、プローブカードの他の部材と接続するために、配線が施され、この配線が半田付けされて用いられていた。しかしながら、この場合、半田付けの条件によって、半田が端部等から剥がれたりする半田浮きや、配線の剥がれが生じ、その結果、導通不良が生じることがあった。
【0053】
これに対して、本発明者らは、固定砥粒を有する研磨パッドを用いて元基板1を研磨することにより、半田浮きや配線の剥がれを抑制することができ、導通不良を生じ難くすることができることを見出した。なお、この理由については、以下のように考察した。
【0054】
図2は、固定砥粒を有する研磨パッドを用いて研磨された基板の研磨面のBHF処理前における走査型顕微鏡写真である。
図5は、遊離砥粒形式で研磨された基板の研磨面のBHF処理前における走査型顕微鏡写真である。なお、
図2は後述の実施例1で得られた基板のBHF処理前における倍率2000倍の走査型顕微鏡写真であり、
図5は後述の比較例1で得られた基板のBHF処理前における倍率2000倍の走査型顕微鏡写真である。
【0055】
図2及び
図5に示すように、遊離砥粒形式で研磨された基板の研磨面では、ガラスとセラミックフィラーとの明確な界面が観察されたのに対し、固定砥粒を有する研磨パッドを用いて研磨された基板の研磨面では、ガラスとセラミックフィラーとの明確な界面が観察されていないことがわかる。なお、前述の通り、遊離砥粒形式で研磨された基板の研磨面では、LTCCの表面からセラミックフィラーが突出した状態になっている。また、BHF処理前において、固定砥粒を有する研磨パッドを用いて研磨された基板の研磨面及び遊離砥粒形式で研磨された基板の研磨面の表面粗さは、ほぼ同一であった。
【0056】
また、
図3は、固定砥粒を有する研磨パッドを用いて研磨された基板の研磨面のBHF処理後における走査型顕微鏡写真である。
図6は、遊離砥粒形式で研磨された基板の研磨面のBHF処理後における走査型顕微鏡写真である。なお、
図3は後述の実施例1で得られた基板のBHF処理後における倍率2000倍の走査型顕微鏡写真であり、
図6は後述の比較例1で得られた基板のBHF処理後における倍率2000倍の走査型顕微鏡写真である。
【0057】
図3及び
図6に示すように、BHF処理後においては、遊離砥粒形式で研磨された基板の研磨面に多数の粒子の欠損Aが観察されたのに対し、固定砥粒を有する研磨パッドを用いて研磨された基板の研磨面では、観察できる粒子の欠損Aは少なかった。なお、粒子の欠損Aとは、
図6や
図7(b)における黒色部分の欠損のことを指すものとする。
【0058】
また、遊離砥粒形式で研磨された基板の研磨面ではBHF処理前後で表面粗さがほぼ変化しなかったのに対し、固定砥粒を有する研磨パッドを用いて研磨された基板の研磨面では、BHF処理後に表面粗さが粗くなっていた。なお、これらの理由については、
図4及び
図7を参照して、以下のように説明することができる。
【0059】
図7(a)は、遊離砥粒形式で研磨された基板のBHF処理前における構造を示す模式図であり、
図7(b)は、BHF処理後における構造を示す模式図である。
【0060】
図7(b)に示すように、遊離砥粒形式で研磨された基板110では、BHF処理によりセラミックフィラー123の欠損(粒子の欠損A)が生じているものと考えられる。上述したように、遊離砥粒形式で研磨された基板110の研磨面111では、ガラス122とセラミックフィラー123との明確な界面、即ち、研磨面111から突出したセラミックフィラー123が形成されているので、この部分にバッファードフッ酸溶液が侵入し、これに起因してセラミックフィラー123の粒子抜けが生じているものと考えられる。
【0061】
図4(a)は、固定砥粒を有する研磨パッドを用いて研磨された基板のBHF処理前における構造を示す模式図であり、
図4(b)は、BHF処理後における構造を示す模式図である。
【0062】
図4(b)に示すように、固定砥粒を有する研磨パッドを用いて研磨された基板10では、BHF処理によりセラミックフィラー23の欠損が生じておらず、軟らかいガラス22の部分のみがより選択的にエッチングされているものと考えられる。特に、ガラスからアノーサイト結晶を析出すると、残存ガラスマトリックス中のSiO
2やCaOの含有量は少ないため、軟らかくなる傾向があり、より選択的にエッチングされるものと考えられる。そのため、
図4(b)に破線で囲むように、セラミックフィラー23とガラス22との間に段差が生じ、この部分に起因して研磨面11の表面粗さが粗くなっているものと考えられる。また、配線を形成する際に、段差により粗くなっている部分に導体ペーストが食い込むことにより、アンカー効果が高められ、それによって半田浮きや、配線の剥がれが抑制されているものと考えられる。
【0063】
[スペーストランスフォーマー用基板]
本実施形態のスペーストランスフォーマー用基板は、
図1(b)に示すように、固定砥粒による研磨面11を有する、基板10である。より具体的には、本実施形態のスペーストランスフォーマー用基板は、元基板1を準備する準備工程と、準備した元基板1を研磨する研磨工程とを備え、研磨工程において、固定砥粒を有する研磨パッドを用いて元基板1を研磨する、上述の製造方法により得られた基板10である。この基板10は、上述したBHF処理を含むその他の処理工程(スペーストランスフォーマー基板を形成するためのその他の処理工程)を施す前の基板である。以下において、その他の処理工程前におけるこの基板10を、スペーストランスフォーマー用基板10と称する場合があるものとする。なお、
図1(b)では、図示を省略しているが、スペーストランスフォーマー用基板10の内部には、内部配線が設けられている。
【0064】
本実施形態においては、スペーストランスフォーマー用基板10の研磨面11を25℃で10分間BHF処理したときに、BHF処理した後の研磨面11の表面粗さRa1と、BHF処理する前の研磨面11の表面粗さRa2との差(Ra1-Ra2)が、0.05μm以上である。なお、BHF処理には、50質量%フッ酸(HF)水溶液と40質量%フッ化アンモニウム(NH4F)水溶液を任意の配合比で混合したバッファードフッ酸溶液を用いることができる。また、研磨面11の表面粗さRaは、算術平均粗さRaであり、JIS B 0601:2001に準拠して測定することができる。
【0065】
本実施形態のスペーストランスフォーマー用基板10は、BHF処理前後における上記表面粗さの差(Ra1-Ra2)が0.05μm以上であるため、スペーストランスフォーマー基板を形成するためのその他の処理を施し、他の部材に半田付けを行ったときに、半田浮きや配線の剥がれを抑制することができ、導通不良を生じ難くすることができる。
【0066】
本実施形態において、BHF処理前後の研磨面11における上記表面粗さの差(Ra1-Ra2)は、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.08μm以上であり、好ましくは1.00μm以下、より好ましくは0.50μm以下、さらに好ましくは0.30μm以下である。表面粗さの差(Ra1-Ra2)が上記範囲内にある場合、スペーストランスフォーマー基板を形成するためのその他の処理を施し、他の部材に半田付けを行ったときに、半田浮きや配線の剥がれをより確実に抑制することができ、導通不良をより生じ難くすることができる。
【0067】
本実施形態において、BHF処理前の研磨面11における表面粗さRa2は、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.10μm以上、さらに好ましくは0.15μm以上であり、好ましくは0.45μm以下、より好ましくは0.40μm以下、さらに好ましくは0.30μm以下である。表面粗さRa2が上記範囲内にある場合、スペーストランスフォーマー用基板10としてより好適に用いることができる。
【0068】
本実施形態において、BHF処理後の研磨面11における表面粗さRa1は、好ましくは0.10μm以上、より好ましくは0.15μm以上であり、好ましくは0.50μm以下、より好ましくは0.40μm以下、さらに好ましくは0.35μm以下である。表面粗さRa1が上記範囲内にある場合、スペーストランスフォーマー基板を形成するためのその他の処理を施し、他の部材に半田付けを行ったときに、半田浮きや配線の剥がれをより確実に抑制することができ、導通不良をより生じ難くすることができる。
【実施例0069】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0070】
(実施例1)
まず、ホウケイ酸ガラスとアルミナフィラーとを含むグリーンシートを複数枚用いて、内部配線を有する積層体を作製し、この積層体を焼成することによりLTCC基板を用意した。次に、固定砥粒を有する研磨パッドを用いてこのLTCC基板を研磨して、実施例1の基板を作製した。固定砥粒としては、平均粒径が4.0μmのダイヤモンドを用いた。研磨液には、水を用いた。研磨条件として、面荷重は、100g/cm2とし、定盤の回転数は、上定盤5rpm、下定盤15rpm、キャリア5rpmとした。また、作製した基板の研磨面における表面粗さRa2は、0.11μmであった。
【0071】
次に、作製した基板にBHF処理を行った。バッファードフッ酸溶液としては、フッ化アンモニウムの含有量が13質量%により構成される水溶液を用いた。BHF処理の処理温度は25℃とし、処理時間は10分とした。また、BHF処理後の基板の研磨面における表面粗さRa1は、0.22μmであった。なお、表面粗さRa1及びRa2は、JIS B 0601:2001に準拠し、オリンパス株式会社製の3D測定レーザー顕微鏡LEXT-OLS4000を用いて測定した。なお、実施例1では、差(Ra1-Ra2)が、0.11μmであった。
【0072】
(比較例1)
まず、ホウケイ酸ガラスとアルミナフィラーとを含むグリーンシートを複数枚用いて、内部配線を有する積層体を作製し、この積層体を焼成することによりLTCC基板を用意した。次に、遊離砥粒形式でこのLTCC基板を研磨して、比較例1の基板を作製した。遊離砥粒としては、ナガセ研磨機材社製、品番「GC6000」(材質:炭化ケイ素、平均粒径2.0μm)を用いた。研磨液には、10質量%のスラリー研磨材を用いた。研磨条件として、面荷重は、100g/cm2とし、定盤の回転数は、上定盤5rpm、下定盤15rpm、キャリア55rpmとした。また、作製した基板の研磨面における表面粗さRa2は、0.11μmであった。
【0073】
次に、作製した基板にBHF処理を行った。バッファードフッ酸溶液としては、フッ化アンモニウムの含有量が13質量%により構成される溶液を用いた。バッファードフッ酸溶液での処理温度は25℃とし、処理時間は10分とした。また、BHF処理後の基板の研磨面における表面粗さRa1は、0.15μmであった。なお、比較例1では、差(Ra1-Ra2)が、0.04μmであった。
【0074】
[評価]
実施例1及び比較例1で得られたBHF処理後の基板の研磨面上に、導体ペースト処理、焼き付け処理を行い、電極パッドを作製した。作製した電極パッド上に無電解Niめっき及び無電解Auめっきを施し、めっき膜を形成した。めっき膜の上に半田を載置し、得られたLTCC基板上のビア付部8箇所に半田付けをした。半田付けの条件は、350℃で20秒間実施した。次に、前述の8か所の半田剥がれの確認を行ったところ、実施例1では、8サンプル中全てに剥がれが生じなかったのに対し、比較例1では、8サンプル中8サンプルに剥がれが生じた。