(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057684
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】金属製棒状材の表面検査方法及びその表面検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/952 20060101AFI20240418BHJP
【FI】
G01N21/952
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164489
(22)【出願日】2022-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】591053856
【氏名又は名称】新日本非破壊検査株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(72)【発明者】
【氏名】田村 祐基
(72)【発明者】
【氏名】宮佐 優歩
【テーマコード(参考)】
2G051
【Fターム(参考)】
2G051AA44
2G051AB02
2G051BA20
2G051BB01
2G051BB17
2G051BB20
2G051CA03
2G051CB01
(57)【要約】
【課題】金属製棒状材の表面疵を精度よく検査可能な金属製棒状材の表面検査方法及びその表面検査装置を提供する。
【解決手段】金属製棒状材11をその長手方向に移動させながらその周囲表面を検査する金属製棒状材の表面検査方法及びその表面検査装置10であり、リング状発光手段12と撮像手段13と画像処理手段14とを有し、金属製棒状材11をリング状発光手段12に形成された貫通孔18に挿通させながら、リング状発光手段12から金属製棒状材11の周囲表面に向けて可視光を照射し、金属製棒状材11の周囲表面への可視光の照射により発生する反射光を撮像手段13で撮影し、撮像手段13で撮影された画像を画像処理手段14で処理して金属製棒状材11の周囲表面の検査を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製棒状材を該金属製棒状材の長手方向に移動させて、リング状発光手段に形成された貫通孔に挿通させながら、該リング状発光手段から前記金属製棒状材の周囲表面に向けて可視光を照射するA工程と、
前記金属製棒状材の周囲表面への可視光の照射により発生する反射光を撮像手段で撮影するB工程と、
前記撮像手段で撮影された画像を画像処理手段で処理して前記金属製棒状材の周囲表面の検査を行うC工程と、を有することを特徴とする金属製棒状材の表面検査方法。
【請求項2】
請求項1記載の金属製棒状材の表面検査方法において、前記金属製棒状材は加熱された条鋼であり、前記リング状発光手段は、前記条鋼よりも高輝度の可視光を発生させる光源と、前記貫通孔を備えたリング状照射部とを有し、前記光源を前記条鋼から離れた位置に配置し、前記光源で発生させた可視光を、前記リング状照射部を介して前記条鋼の周囲表面に向けて照射することを特徴とする金属製棒状材の表面検査方法。
【請求項3】
請求項2記載の金属製棒状材の表面検査方法において、前記リング状照射部は耐熱性ケースに収容され、該耐熱性ケースの前記条鋼と対向する側に形成されたスリットを介して、前記条鋼の周囲表面に向けて可視光が照射されると共に、該スリットからガスが噴射されることを特徴とする金属製棒状材の表面検査方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の金属製棒状材の表面検査方法において、前記撮像手段で撮影する反射光は、前記リング状発光手段から照射された可視光が前記金属製棒状材の周囲表面で反射された光と、該光の一部を反射部材により前記金属製棒状材の周囲表面に再度照射して該金属製棒状材の周囲表面から反射された光であることを特徴とする金属製棒状材の表面検査方法。
【請求項5】
金属製棒状材を該金属製棒状材の長手方向に移動させながら該金属製棒状材の周囲表面を検査する装置であって、
貫通孔が形成され、該貫通孔に挿通する前記金属製棒状材の周囲表面に向けて可視光を照射するリング状発光手段と、
前記金属製棒状材の周囲表面への可視光の照射により発生する反射光を撮影する撮像手段と、
前記撮像手段で撮影された画像を処理して前記金属製棒状材の周囲表面の検査を行う画像処理手段と、を有することを特徴とする金属製棒状材の表面検査装置。
【請求項6】
請求項5記載の金属製棒状材の表面検査装置において、前記金属製棒状材は加熱された条鋼であり、前記リング状発光手段は、前記条鋼よりも高輝度の可視光を発生させる光源と、前記貫通孔を備えたリング状照射部とを有し、前記光源は前記リング状照射部から離れた位置に配置され、前記光源が発生させた可視光は、前記リング状照射部を介して前記条鋼の周囲表面に向けて照射されることを特徴とする金属製棒状材の表面検査装置。
【請求項7】
請求項6記載の金属製棒状材の表面検査装置において、前記リング状照射部は耐熱性ケースに収容され、該耐熱性ケースの前記条鋼と対向する側にはスリットが形成されて、該スリットを介して可視光が照射されると共に、該スリットからガスが噴出されることを特徴とする金属製棒状材の表面検査装置。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか1項に記載の金属製棒状材の表面検査装置において、前記リング状発光手段とは異なる位置に配置され、前記リング状発光手段から照射した可視光が前記金属製棒状材の周囲表面で反射された光の一部を、前記金属製棒状材の周囲表面に再度照射する反射部材を有することを特徴とする金属製棒状材の表面検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、条鋼(異形棒鋼や丸鋼等の棒鋼、線材、形鋼)や鋼管等の金属製棒状材の表面検査方法及びその表面検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、丸鋼や異形棒鋼(以下、条鋼とも称す)等の金属製棒状材の自動検査手法には、渦流探傷、漏洩磁束探傷、光切断法による形状検査、及び、赤熱状態において疵部分のみ部分的に温度が低下し輝度差が生じることを利用した自発光撮影による画像探傷が、利用されてきた。
しかし、近年の品質要求の高まり、また、検査に従事する人員の不足等により、従来の検査手法では、適用に限界があることが露呈してきた。
【0003】
渦流探傷や漏洩磁束探傷の場合、製品のサイズごとにプローブを用意する必要があり、作業者にとって大きな作業負担となる。また、断面がV字状の鋭いクラック等では高い検出精度が得られるが、剥離状の疵や打痕の検出は難しい。更に、異形棒鋼(異形鉄筋)に至っては、節やロールマークによる形状変化と疵による変化の識別が困難であり、事実上ほとんど検査として機能していない(例えば、特許文献1参照)。
光切断法による形状検査はその特性上、はっきりと凹凸のある変化でないと疵として検出できない、クラック状の疵は検出できない、サンプリング周期が早くても10kHz程度であり搬送速度が高速の場合は適用できない、非常に高価である等、探傷用途としては効果が薄く、費用対効果が悪い。
【0004】
一方、現在熱間画像探傷の主流である温度差による輝度差から疵を検出する画像処理手法(自発光撮影による画像探傷)は、ヘゲ状の疵に対しては非常に高い検出性能を誇り、特に上記した異形棒鋼の製造工程において渦流探傷に替わる手法として普及した。
しかし、大きなヘゲ疵は搬送中に大きな抵抗を受けるため剥がれ落ちる可能性が高く、ヘゲ部分が剥がれ落ち欠損したような形状の疵は、大きな疵であっても原理上検出できないことも多い。このような機械的強度に及ぼす影響が大きい疵を検出できないという点は、他の検査手法と比較しても重大な欠点である。また、線状疵の検出能力にも限界があり、開口の狭い線状疵は検出できない。更に、自発光を撮影しているためにぼんやりとした輪郭の画像しか得られず、検出画像を目視しても最終的な判断が難しく、異形棒鋼の結束前の工程で作業員が現物を確認しなければならない。なお、現物の確認作業は一般的に結束工程前に行われるが、圧延直後の場合は数百℃の余熱があり、チェーンコンベア上など足場が悪いこともあり、作業自体が危険である。場合によっては、線状疵の確認を諦め、線状疵が複数検出された鋼材については、同一ビレットから圧延された製品を全て破却する措置も取られている。
【0005】
反射光撮影による画像探傷では、反射光を撮影することにより、それ自体が発光していない物体を生物が目視で確認するのと同じ原理で物体を確認できる。よって、熱間検査であっても、あたかも冷却後の製品を目視確認するのと同じ見た目の画像を得ることができる。このことは、従来の探傷方法が電流値の変化や温度差による輝度変化など、疵の見た目の情報が直接得られず、現物を確認するまで最終的な疵の合否判断ができなかったことに対して、非常に大きな効果をもたらす。
反射光撮影による画像探傷の場合、作業者は検査システムの画面上で検出された疵の画像を確認すれば合否判断が可能である。当然、検出画像をシステム上で保存することが可能である。よって、従来の検査手法を運用する時のように、検出後に現物を確認し、記録のためにデジタルカメラ等で疵の画像を撮影する作業が解消される。
これにより、作業者の負担や時間的ロスを大幅に削減することが可能である。また、検出された疵を確実に判断して抜き取ることが可能であり、歩留まりの向上にも寄与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、曲率をもつ断面円形状(円形や楕円形等)の条鋼の表面に対し、均一に可視光を照射することは容易ではない。
上記条鋼は曲率があるため、照明の発光面から最も近い頂点部分からは多くの反射光が得られるが、頂点の両サイドでは光が拡散してしまい、カメラで撮影したときに得られる反射光のレベルに差が生じる、また、熱間検査の高温環境下においては照明機器の設置が難しい、冷間検査においても、検査対象の搬送速度が比較的高速な場合は、短い露光時間で撮影するために必要な光量を確保できるだけの照明機器が限られる等の理由により、反射光方式による画像探傷は普及してこなかった。
なお、上記現象は、例えば、異形棒鋼等の凹凸のある条鋼や、断面多角形状の曲率をもたない角鋼等の表面に凹部がない条鋼等についても同様である。
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、金属製棒状材の表面疵を精度よく検査可能な金属製棒状材の表面検査方法及びその表面検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的に沿う第1の発明に係る金属製棒状材の表面検査方法は、金属製棒状材を該金属製棒状材の長手方向に移動させて、リング状発光手段に形成された貫通孔に挿通させながら、該リング状発光手段から前記金属製棒状材の周囲表面に向けて可視光を照射するA工程と、
前記金属製棒状材の周囲表面への可視光の照射により発生する反射光を撮像手段で撮影するB工程と、
前記撮像手段で撮影された画像を画像処理手段で処理して前記金属製棒状材の周囲表面の検査を行うC工程と、を有する。
このように、金属製棒状材をリング状発光手段の貫通孔に挿通した状態で移動させながら、リング状発光手段から金属製棒状材の周囲表面に向けて可視光を照射することにより、金属製棒状材(例えば、曲率を持つ条鋼等)の全周表面に対し均一に可視光を照射できる。
【0010】
第1の発明に係る金属製棒状材の表面検査方法において、前記金属製棒状材は加熱された条鋼であり、前記リング状発光手段は、前記条鋼よりも高輝度の可視光を発生させる光源と、前記貫通孔を備えたリング状照射部とを有し、前記光源を前記条鋼から離れた位置に配置し、前記光源で発生させた可視光を、前記リング状照射部を介して前記条鋼の周囲表面に向けて照射することが好ましい。
このように、光源とリング状照射部を分離し、しかも、光源を条鋼から離れた位置に配置するため、一般的に、熱に弱いとされる発光素子が、高温の条鋼から放射される輻射熱の影響を受けることがない。また、光源の構成を、可視光の出力を大きくすることが可能な規模にできるため、高速搬送される条鋼を撮影する際にも、極めて短い露光時間にも対応できるレベルの強力な可視光を、リング状照射部を介して至近距離から照射できる。
なお、リング状照射部(リング状発光手段)は、周方向に連続した一体となった構成にできるが、大型の検査対象(金属製棒状材)に対応するリング状照射部が上記構成で製作できない場合は、例えば、円弧状や直線状の分割片部を複数製作し、これを周方向に組合せて(連結して)リング状とした構成にすることもできる。
【0011】
第1の発明に係る金属製棒状材の表面検査方法において、前記リング状照射部は耐熱性ケースに収容され、該耐熱性ケースの前記条鋼と対向する側に形成されたスリットを介して、前記条鋼の周囲表面に向けて可視光が照射されると共に、該スリットからガスが噴射されることが好ましい。
このように、リング状照射部を耐熱性ケースに収容し、この耐熱性ケースを介して条鋼にガスを噴射することにより、発光に伴う発熱や条鋼からの熱により熱せられたリング状照射部を冷却できると共に、スケールや水滴の付着を防止でき、更に画像処理による表面検査の妨げとなるスケールや水滴を吹き飛ばすことができる。
【0012】
第1の発明に係る金属製棒状材の表面検査方法において、前記撮像手段で撮影する反射光は、前記リング状発光手段から照射された可視光が前記金属製棒状材の周囲表面で反射された光と、該光の一部を反射部材により前記金属製棒状材の周囲表面に再度照射して該金属製棒状材の周囲表面から反射された光であってもよい。
このように、反射部材を使用することにより、可視光の反射光が拡散光となって(光の輝度を和らげて)金属製棒状材に再度照射されるため、例えば、金属製棒状材の表面に形成された僅かな凹凸による変化を目立たなくすることができる。また、反射部材を使用することにより、異形棒鋼等のように凹凸のある金属製棒状材に対し、リング状発光手段から可視光が直接照射される面の反対側にも光を照射することができるため、例えば、異形棒鋼の節等のように、検査対象の形状による影を生じさせることなく、金属製棒状材の周囲表面を満遍なく撮影でき、画像処理による検査の死角をなくすことができる。
【0013】
前記目的に沿う第2の発明に係る金属製棒状材の表面検査装置は、金属製棒状材を該金属製棒状材の長手方向に移動させながら該金属製棒状材の周囲表面を検査する装置であって、
貫通孔が形成され、該貫通孔に挿通する前記金属製棒状材の周囲表面に向けて可視光を照射するリング状発光手段と、
前記金属製棒状材の周囲表面への可視光の照射により発生する反射光を撮影する撮像手段と、
前記撮像手段で撮影された画像を処理して前記金属製棒状材の周囲表面の検査を行う画像処理手段と、を有する。
【0014】
第2の発明に係る金属製棒状材の表面検査装置において、前記金属製棒状材は加熱された条鋼であり、前記リング状発光手段は、前記条鋼よりも高輝度の可視光を発生させる光源と、前記貫通孔を備えたリング状照射部とを有し、前記光源は前記リング状照射部から離れた位置に配置され、前記光源が発生させた可視光は、前記リング状照射部を介して前記条鋼の周囲表面に向けて照射されることが好ましい。
【0015】
第2の発明に係る金属製棒状材の表面検査装置において、前記リング状照射部は耐熱性ケースに収容され、該耐熱性ケースの前記条鋼と対向する側にはスリットが形成されて、該スリットを介して可視光が照射されると共に、該スリットからガスが噴出されることが好ましい。
【0016】
第2の発明に係る金属製棒状材の表面検査装置において、前記リング状発光手段とは異なる位置に配置され、前記リング状発光手段から照射した可視光が前記金属製棒状材の周囲表面で反射された光の一部を、前記金属製棒状材の周囲表面に再度照射する反射部材を有するのがよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る金属製棒状材の表面検査方法及びその表面検査装置は、リング状発光手段から金属製棒状材の周囲表面に向けて可視光を照射するので、金属製棒状材の全周表面に対し均一に可視光を照射でき、その反射光を撮像手段で撮影することにより、この撮影された画像を画像処理手段で処理して金属製棒状材の周囲表面の検査を行うことができる。
これにより、金属製棒状材の表面疵を精度よく検査できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る金属製棒状材の表面検査装置の使用状態の説明図である。
【
図2】(A)は同金属製棒状材の表面検査装置に用いるリング状発光手段のリング状照射部とこれを収容する耐熱性ケースの正面図、(B)は(A)のa-a矢視断面図である。
【
図3】変形例に係る金属製棒状材の表面検査装置の使用状態の説明図である。
【
図4】同金属製棒状材の表面検査装置の他の使用状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1、
図2(A)、(B)に示すように、本発明の一実施の形態に係る金属製棒状材の表面検査装置(以下、単に表面検査装置ともいう)10は、条鋼(金属製棒状材の一例)11の表面疵を精度よく検査可能な装置であり、リング状(環状)発光手段12、ラインスキャンカメラ(撮像手段の一例)13、及び、コンピュータ(PC:画像処理手段の一例)14を有している。
以下、詳しく説明する。
【0020】
金属製棒状材の表面検査装置10の検査対象である条鋼11は、例えば、圧延の最終スタンドから連続的に搬出される加熱された高温状態(例えば、表面温度が1000℃程度)のものである。
具体的には、異形棒鋼や丸鋼等の棒鋼、線材、形鋼等であり、またその断面形状は、断面円形、断面楕円形、断面多角形等のように、表面に凹部がなく、断面が外方へ膨出した形状のものであり、高温状態や常温(低温)状態のものがある。なお、異形棒鋼とは、断面円形の棒鋼本体の外周面に突条が形成されたものであり、この突条は、例えば、「リブ」や「節」と呼ばれる凹凸(螺旋状でもよい)が繰り返された形状のものである。
また、検査対象は鋼管(金属製棒状材の一例)であってもよい。
【0021】
リング状発光手段12は、条鋼11の周囲表面に向けて可視光を照射するものであり、条鋼11の圧延工程の最終スタンドより下流の搬送ラインや精整工程の搬送ライン等、また、条鋼11が搬送される製造工程や検査工程に設置することができる。
このリング状発光手段12は、可視光を照射するリング状照射部(リングライトガイドとも称す)15と、このリング状照射部15から照射される可視光を発生させる光源(発光機器とも称す)16と、この光源16とリング状照射部15を接続する光ファイバ17とを有し、リング状照射部15に形成された貫通孔18に条鋼11を挿通し、条鋼11の長手方向に移動させる(搬送する)ことで、リング状照射部15から条鋼11の周囲表面に向けて可視光を照射できるものである。
【0022】
リング状照射部15は、
図2(A)、(B)に示すように、耐熱性ケース19に収容されている。
耐熱性ケース19は、内部にリング状照射部15を配置する連続した空間部20が形成されたリング状のものであり、外周側円筒部21と、この外周側円筒部21よりも小径で外周側円筒部21の内方に軸心を合わせて配置された内周側円筒部22と、外周側円筒部21と内周側円筒部22の間に空間部20が形成されるようにその軸心方向両側から取付け固定される環状の蓋部23、24とを有している。これにより、リング状照射部15に形成された貫通孔18内に内周側円筒部22が位置することになる。なお、リング状照射部15は、耐熱性ケース19の軸心方向一側(条鋼11の移動方向(搬送方向)下流側)の蓋部23に取付け固定した空間部20内の支柱(支持部)25に取付け固定される。
【0023】
この耐熱性ケース19の条鋼11と対向する側であって、軸心方向他側(条鋼11の移動方向(搬送方向)上流側、以下同じ)には、内周側円筒部22と蓋部24との間にスリット(隙間)26が、耐熱性ケース19の周方向に連続して形成されている。これにより、光源16で発生させた可視光を、リング状照射部15から耐熱性ケース19のスリット26を介して条鋼11の周囲表面に照射することができる。
また、耐熱性ケース19には、例えば、コンプレッサー(図示しない)から空間部20内に圧縮空気等(ガスの一例)を供給する空気供給部27が設けられている。このため、スリット26を介して、条鋼11に対して可視光を照射できると共に、圧縮空気を噴出することができる。
なお、スリット26の形状は、上記した可視光と圧縮空気が、条鋼11の周囲表面に対し移動方向下流側から上流側に向かって、可視光の照射と圧縮空気の噴射が行われるように形成されているが、移動方向上流側から下流側に向かって、可視光の照射と圧縮空気の噴射が行われるように形成することもでき、更には、その双方が行われるように形成することもできる。
【0024】
光源16は、条鋼11に照射する可視光を発生させるものであり、その可視光は、例えば、LED素子やキセノンランプにより発生させることができる。この光源16は、非常に強力な発光能力を有しており、例えば、高温状態の条鋼11よりも高輝度(強い光)の可視光を発生させることができる。
上記したリング状照射部15と光源16は分離され、
図1に示すように、光源16がリング状照射部15から離れた位置(例えば、高温状態の条鋼11の熱の影響を受けない位置)に配置されている。これにより、通常の照明機器では適用が難しかった条鋼の熱間搬送ラインにおいても適用が可能となり、1000℃前後の赤熱条鋼に対して至近距離から強力な可視光の照射が可能となる。また、光源16は非常に強力な発光能力を有しているため、冷間検査(例えば、1m/秒以上程度で高速搬送される条鋼)においても、ラインスキャンカメラ13を用いて、極めて短い露光時間で撮影する際に有利である。
【0025】
上記したように、リング状発光手段12は、リング状照射部15と光源16とが分離された構成であるが、これらが一体となった構成、例えば、LED等の発光素子自体がリング状に配列されたリング照明を、リング状発光手段として使用することもできる。
例えば、冷間検査に適用する場合や、熱間検査においても充分な冷却能力を有する耐熱性ケースを備えることができる場合は、上記したリング照明を使用してもよい。
特に、後述するエリアカメラを撮像手段として利用する場合は、軸方向のある程度の範囲に可視光を均一に照射することができる上記したリング照明や、瞬間的に強力な可視光を照射できるリング状のフラッシュ照明を、リング状発光手段として使用することが有効である。
【0026】
なお、リング状照射部15よりも条鋼11の移動方向上流側(リング状照射部15とは異なる位置)には、
図3に示すように、反射部材28を配置することができる。
反射部材28は、例えば、ステンレス製の鋼管や白色の樹脂パイプで構成され、内部を条鋼11が挿通可能になっている。即ち、反射部材28の内径は、条鋼11の外径よりも大きく、条鋼が高温状態の場合は反射部材を鋼管で構成し、条鋼が常温状態の場合は反射部材を樹脂パイプで構成することが好ましい。
この反射部材28は、リング状照射部15に対向する側がリング状照射部15に向けて拡径しており、リング状照射部15から照射され、条鋼11の周囲表面で反射された光(反射光)の一部を反射して、拡散光として、条鋼11の周囲表面に再度照射できる構成となっている。
【0027】
リング状照射部15により照射された可視光が条鋼11で反射された光(反射光)は直接光であるため、条鋼11表面の細かい凹凸からの反射光が強調されてラインスキャンカメラ13で撮影されることから、誤検知の原因となる。
そこで、可視光の照射方向と対向するように反射部材28を設置し、反射部材28からの反射光を拡散光にして条鋼11表面に照射し、条鋼11の周囲表面から反射された光をラインスキャンカメラ13で撮影することで、条鋼11表面の細かい凹凸からの反射光の影響を低減することが可能となる。特に、強い金属光沢を持つ材料で構成される条鋼に対しては高い効果を発揮する。
また、
図4に示すように、異形棒鋼を検査する際は、一方からの可視光の照射では節の裏側が影となるため、反射部材からの光を効率よく利用することで、節の裏側についても表面検査が可能となる。
【0028】
ラインスキャンカメラ13は、条鋼11の周囲表面への可視光の照射により発生する反射光を撮影(撮像)するものである。
ラインスキャンカメラ13は、撮像素子(受光素子)が1次元の線状に配置されたラインセンサカメラであり、線状に配置された撮像素子と条鋼11の軸心とが、直交するように配置されている。なお、ラインスキャンカメラ13は、1つでもよいが、条鋼11の全周を隙間なく撮影できるように、条鋼11の軸心を中心として周方向に等角度位置に複数配置することが好ましい。
このラインスキャンカメラ13は、検査対象を搬送状態で連続的に撮影する場合の利用に有効であるが、ラインスキャンカメラの代わりに、又は、ラインスキャンカメラと共に、エリアカメラ(撮像手段の一例)を利用しても、検査機能に何ら問題はなく、用途に応じて、ラインスキャンカメラとエリアカメラのいずれか一方又は双方を適宜選択できる。
【0029】
コンピュータ14は、記憶部、画像処理部、誤差検出部、判定部、及び、ディスプレイ(表示部)を有し、これらが行う各処理と、リング状発光手段12及びラインスキャンカメラ13の各制御を、予めコンピュータ14に設定したプログラムにより行い、ラインスキャンカメラ13で撮影された条鋼11の画像データを処理して、条鋼11の周囲表面の検査を行うものである。なお、コンピュータは、RAM、CPU、ROM、I/O、及び、これらの要素を接続するバスを備えた従来公知のものであるが、これに限定されるものではない。
以下、簡単に説明する。
【0030】
記憶部は、ラインスキャンカメラ13で撮影され、コンピュータ14へ送信された条鋼11の画像データを、記憶する処理を行う。
画像処理部は、記憶部に記憶された条鋼11の画像データを処理して、条鋼11表面の疵が有る部分と無い部分が明瞭になるようにするための処理を行う。
誤差検出部は、画像処理部で処理して得られた条鋼11と、表面の疵がない条鋼とを比較して、誤差(差分)を検出する処理を行う。
判定部は、誤差検出部で検出された誤差(差分)に基づいて、条鋼11の表面状態を評価する処理を行う。具体的には、例えば作業者が、キーボードやマウスを用いて、疵が発生しているか否かの判断基準となる誤差の値を入力する。
これにより、判定部は、誤差検出部で検出された誤差が、入力した値より大きければ、疵が有ると判定し、入力した値以下であれば、疵が無いと判定する。
なお、疵の有無の判定は、疵の有無を検出できれば上記した処理に限定されるものではなく、他の処理で行うこともでき、また、例えば、作業者が、コンピュータ14の画像処理部で得られた画像を用いて行うこともできる。
【0031】
次に、本発明の一実施の形態に係る金属製棒状材の表面検査方法について、
図1、
図2(A)、(B)を参照しながら説明する。
金属製棒状材の表面検査装置10は、条鋼11を製造する圧延工程の最終スタンドより下流側に配置されている。なお、条鋼11は、リング状発光手段12のリング状照射部15に形成された貫通孔18に挿通された状態で、リング状照射部15の軸心位置を通過するように条鋼11の長手方向に高速搬送される(例えば、1m/秒以上程度で高速移動する)。
これにより、圧延工程で条鋼11を製造しながら、製造された条鋼11をリング状照射部15に対して連続的に移動させながら、リング状照射部15から条鋼11の周囲表面に向けて光源16で発生させた可視光を照射できる。なお、条鋼11は、上記したように、リング状照射部15の軸心を通過するため、可視光の発光位置から条鋼11までの距離が、条鋼11の周方向で一定に近い距離となり、例えば、曲率をもつ円柱形状の条鋼の表面に対し、均一に可視光を照射することが可能となる(以上、A工程)。
【0032】
次に、条鋼11の周囲表面への可視光の照射により発生する反射光を、ラインスキャンカメラ13で撮影する。
前記したように、圧延工程で製造された条鋼11は、1000℃前後の赤熱状態であるため、光源16が条鋼11よりも高輝度の可視光を発生させることで、高温の条鋼11から放射される自発光の影響を受けることなく、ラインスキャンカメラ13で反射光を撮影できる。また、高速搬送される条鋼11を撮影する際にも、極めて短い露光時間にも対応できるレベルの強力な可視光を至近距離から照射することにより、ラインスキャンカメラ13で反射光を撮影できる。
特に、リング状照射部15を耐熱性ケース19に収容することにより、発光に伴う発熱や条鋼11からの熱により熱せられたリング状照射部15を冷却できると共に、スケールや水滴の付着を防止でき、更に画像処理による表面検査の妨げとなるスケールや水滴を吹き飛ばすことができる。
【0033】
なお、
図3に示す反射部材28を使用することにより、可視光の反射光が拡散光となって(光の輝度を和らげて)条鋼11に再度照射され、その反射光もラインスキャンカメラ13で撮影されるため、例えば、条鋼11の表面に形成された僅かな凹凸による変化を目立たなくすることができる。このとき、条鋼11は、上記したリング状照射部15の場合と同様に、反射部材28の軸心を通過するため、反射部材28の反射位置から条鋼11までの距離が、条鋼11の周方向で一定に近い距離となり、例えば、曲率をもつ円柱形状の条鋼11の表面に対し、均一に反射光(拡散光)を照射することが可能となる。
また、反射部材28を使用することにより、
図4に示すように、異形棒鋼に対し、リング状照射部から可視光が直接照射される面の反対側にも光を照射することができるため、検査対象の形状による影を生じさせることなく、異形棒鋼の周囲表面を満遍なく撮影でき、画像処理による検査の死角をなくすことができる。
取得した画像データは、コンピュータ14へ送信される(以上、B工程)。
【0034】
コンピュータ14へ送信された画像データは、記憶部に記憶された後、画像処理部で処理される。具体的には、記憶部に記憶された条鋼11の画像データを処理して、条鋼11表面の疵が有る部分と無い部分が明瞭になるようにするための処理を行う。
そして、誤差検出部で、画像処理部で処理して得られた条鋼11と、表面の疵がない条鋼とを比較して、誤差(差分)を検出する処理を行い、判定部で、誤差検出部で検出された誤差(差分)に基づいて、条鋼11の周囲表面の状態を評価する処理を行う。
これにより、判定部は、誤差検出部で検出された誤差が、入力した値より大きければ、疵が有ると判定し、入力した値以下であれば、疵が無いと判定する。
なお、疵の有無の判定は、疵の有無を検出できれば上記した処理に限定されるものではなく、他の処理で行うこともでき、また、例えば、作業者が、コンピュータ14の画像処理部で得られた画像を用いて行うこともできる。
ここで、疵が無いと判定された条鋼は、例えば、施工業者に出荷され、疵が有ると判定された条鋼は、再度、条鋼の製造工程へ戻される(以上、C工程)。
【実施例0035】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
ここでは、本発明の金属製棒状材の表面検査方法を適用して(表面検査装置を用いて)、異形棒鋼(条鋼)の表面疵を検出するテストを、既設の渦流探傷と併用して約3ヶ月間実施した。
その結果、ヘゲ疵のヘゲ部分が剥がれ落ちる等の理由で発生したと思われる欠損したような大きな疵が、平均して5操業日中1件程度検出された。このような疵は、従来の検査手法では検出することができず、機械的強度に影響を及ぼす可能性が高い疵が従来の検査環境下では一定数流出していると推察される。
よって、機械加工することなくそのまま使用される異形棒鋼においては、建設工事の際に疵が気付かれることなく使用されている可能性がある。
以上のことから、本発明の金属製棒状材の表面検査方法及びその表面検査装置の導入は、条鋼の品質向上のみならず、建築構造物の耐震強度等、広く社会に貢献できるものであると確信できる。
【0036】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の金属製棒状材の表面検査方法及びその表面検査装置を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
前記実施の形態においては、本発明の検査対象として条鋼を用いた場合について説明したが、金属製棒状材であれば、その構成や材質は、特に限定されるものではない。
【0037】
また、前記実施の形態においては、耐熱性ケースを、外周側円筒部と内周側円筒部と2枚の蓋部で構成した場合について説明したが、リング状照射部を収納でき、その熱による損傷を防止できれば、特に限定されるものではない。
なお、リング状照射部が熱の影響を受けない、又は、熱の影響が小さいのであれば、耐熱性ケースを使用しなくてもよい。この場合、リング状発光手段を、リング状照射部と光源とが分離されていない構成(一体となった構成)とすることもできる。
【0038】
そして、前記実施の形態においては、条鋼をリング状照射部に対して連続的に移動させながら、その周囲表面に向けて可視光を照射した場合について説明したが、条鋼を間欠的に移動させながら(移動と停止を繰返し行いながら)、可視光を照射することもできる。この場合、可視光の照射は移動時と停止時のいずれでもよい。
更に、前記実施の形態においては、可視光の照射と圧縮空気の噴射を行うスリットを、耐熱性ケースの周方向に連続して形成した場合について説明したが、予め設定したピッチで形成することもできる。また、可視光の照射と圧縮空気の噴射を行うスリットを別々に設けることもでき、耐熱性ケースに可視光の照射を行うスリットのみを形成し、圧縮空気の噴射を行う手段を耐熱性ケースとは別に設けることもできる。
10:金属製棒状材の表面検査装置、11:条鋼(金属製棒状材)、12:リング状発光手段、13:ラインスキャンカメラ(撮像手段)、14:コンピュータ(画像処理手段)、15:リング状照射部、16:光源、17:光ファイバ、18:貫通孔、19:耐熱性ケース、20:空間部、21:外周側円筒部、22:内周側円筒部、23、24:蓋部、25:支柱、26:スリット、27:空気供給部、28:反射部材