(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057691
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】ピロロキノリンキノン含有塩又はその溶媒和物、それらを含む組成物、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 471/04 20060101AFI20240418BHJP
【FI】
C07D471/04 104Z
C07D471/04 CSP
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164502
(22)【出願日】2022-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】池本 一人
【テーマコード(参考)】
4C065
【Fターム(参考)】
4C065AA04
4C065AA19
4C065BB04
4C065CC01
4C065DD02
4C065EE02
4C065HH08
4C065JJ01
4C065KK08
4C065LL04
4C065LL06
4C065PP01
(57)【要約】
【課題】ピロロキノリンキノンを含む新規の物質を提供すること。
【解決手段】組成式:(PQQ)CaxMyで表され、常磁性を示す、塩又はその溶媒和物(前記組成式中、PQQはピロロキノリンキノンアニオンであり、Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(ただしCaを除く。)、及び有機カチオンからなる群より選択される少なくとも1種であり、xは0.5以上1.5以下の値を示し、yは0以上2.0以下の値を示す。)。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式:(PQQ)CaxMy
で表され、
常磁性を示す、塩又はその溶媒和物。
(前記組成式中、PQQはピロロキノリンキノンアニオンであり、Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(ただしCaを除く。)、及び有機カチオンからなる群より選択される少なくとも1種であり、xは0.5以上1.5以下の値を示し、yは0以上2.0以下の値を示す。)
【請求項2】
前記組成式中、PQQがピロロキノリンキノンラジカルアニオンを含む、請求項1に記載の塩又はその溶媒和物。
【請求項3】
青色を呈する、請求項1に記載の塩又はその溶媒和物。
【請求項4】
前記アルカリ金属がナトリウム及びカリウムであり、
前記アルカリ土類金属がマグネシウムである、
請求項1に記載の塩又はその溶媒和物。
【請求項5】
前記有機カチオンが有機アンモニウムカチオン及び有機イミニウムカチオンである、請求項1に記載の塩又はその溶媒和物。
【請求項6】
前記組成式中、Mがアルギニンイオン、ジメチルアミンカチオン、ナトリウム、カリウム、及びマグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の塩又はその溶媒和物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の塩又はその溶媒和物を含む、組成物。
【請求項8】
認知機能を改善するための請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
ピロロキノリンキノンカルシウム塩と、アミン及び/又はイミンとを溶媒中で反応させることを含む、ピロロキノリンキノン含有塩又はその溶媒和物を製造する方法。
【請求項10】
前記アミン及び/又はイミンが、ジメチルアミン及び/又はアルギニンである、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
ピロロキノリンキノン、並びにピロロキノリンキノンのアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩からなる群より選択される少なくとも1種と、還元性を示すカルシウム化合物とを溶媒中で反応させることを含む、ピロロキノリンキノン含有塩又はその溶媒和物を製造する方法。
【請求項12】
前記還元性を示すカルシウム化合物がアスコルビン酸カルシウムである、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
請求項9~12のいずれか1項に記載の製造方法により製造される、ピロロキノリンキノン含有塩又はその溶媒和物。
【請求項14】
請求項1~6のいずれか1項に記載の塩又はその溶媒和物にキレート剤を接触させてピロロキノリンキノンを溶出させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピロロキノリンキノン含有塩又はその溶媒和物、それらを含む組成物、及びその製造方法、特にピロロキノリンキノンアニオンを含む塩又はその溶媒和物、それらを含む組成物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ピロロキノリンキノン(以下、「PQQ」ともいう。)は下記式(1)で表される構造の物質である。下記式(1)で表される構造を有する物質は酸化型PQQとも呼ばれる。ピロロキノリンキノンは、一般的には下記式(1)で表される構造を有するものの、容易に還元して2つの水素が付加した還元型PQQとなることが知られている。還元型PQQは下記式(2)で表される構造を有する。還元型PQQは、空気によって容易に酸化して酸化型PQQに変化することが知られている。
【0003】
【0004】
ピロロキノリンキノンは新しいビタミンである可能性があることが提案され、健康補助食品、及び化粧品等に有用な物質として注目を集めている。ピロロキノリンキノンは、細菌、真核生物のカビ、及び酵母に含まれ、補酵素として重要な働きを行っていることが明らかにされている。また、ピロロキノリンキノンは、細胞の増殖促進作用、抗白内障作用、肝臓疾患予防治療作用、及び脳機能改善等の多くの生理活性機能を有することが明らかにされている。
【0005】
ところで、食用として使用可能なピロロキノリンキノン含有物質として、ピロロキノリンキノンジナトリウム三水和物が知られており、ピロロキノリンキノンのほとんどの機能はこの物質を用いて調べられている。ピロロキノリンキノンジナトリウム三水和物をはじめとして、ピロロキノリンキノン及びその塩類は赤色かそれが濃くなった黒色を呈することが知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2751183号公報
【特許文献2】特公平7-113024号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】K. Ikemoto et al., Chemistry Central Journal, 2012, 6:57
【非特許文献2】T. Ishida et al., J. Am. Chem. Soc., 1995, 117, 3278-3279
【非特許文献3】A. Mitchell et al., Anal. Biochem., 1999, 269, 317-325
【非特許文献4】K. Ikemoto et al., Acta Crystallographica Section B, 2017, 73, 489-487
【非特許文献5】A. SATO et al., Biochemical Journal, 2001, 357(3) 893-898; DOI: 10.1042/bj3570893
【非特許文献6】C. Kay et al., PNAS, 2006, 103, 5267-5272
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ピロロキノリンキノンはアミノ基含有化合物、特にアミノ酸と反応しやすいことが知られている。例えばアミノ酸とピロロキノリンキノンが反応するとイミダゾピロロキノリンキノン構造を生じ、特にグリシン及びアルギニン等と反応しやすい(非特許文献2,3)。ピロロキノリンキノンは、アミノ基含有化合物と反応すると生理活性を有するピロロキノリンキノンが減少するだけでなく、変色を生じる可能性がある。アミノ基は、アミノ酸、ペプチド、及びタンパク質のような多くの食品に含まれる成分が有するため、ピロロキノリンキノンを食品と共存させることは難しい。
【0009】
また、嗜好性の高い食品では色調を制御することが重要である。これまでにピロロキノリンキノンのカルシウム塩が赤色及び白色を呈することが知られている(特許文献1)。また、還元型PQQは黄色、及び黒色を呈することが知られている(非特許文献4)。このように、ピロロキノリンキノン含有物質が呈する色としては赤、黄、黒、白系の色が一般的である。ピロロキノリンキノンをアパタイトに吸着させたときに青色になる現象が知られている(特許文献2)ものの、青色を呈するピロロキノリンキノン含有物質は限定的である。
【0010】
また、酸化型PQQ、及び当該酸化型PQQが二電子還元された還元型PQQ以外の形態として、ピロロキノリンキノンは酵素に含まれた状態で酸化型PQQを一電子還元した構造となることが知られており、そのような構造は溶液において電気化学的に発生させることができることも知られている(非特許文献5,6)。この構造はセミキノン構造であり、固体として安定的に取り出されてはいない。
【0011】
上記事情に鑑みて、本発明は、ピロロキノリンキノンを含む新規の物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ピロロキノリンキノン及び/又はその塩を所定の条件で反応させることによりピロロキノリンキノンを含む新規物質を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
組成式:(PQQ)CaxMy
で表され、
常磁性を示す、塩又はその溶媒和物。
(前記組成式中、PQQはピロロキノリンキノンアニオンであり、Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(ただしCaを除く。)、及び有機カチオンからなる群より選択される少なくとも1種であり、xは0.5以上1.5以下の値を示し、yは0以上2.0以下の値を示す。)
[2]
前記組成式中、PQQがピロロキノリンキノンラジカルアニオンを含む、[1]に記載の塩又はその溶媒和物。
[3]
青色を呈する、[1]又は[2]に記載の塩又はその溶媒和物。
[4]
前記アルカリ金属がナトリウム及びカリウムであり、
前記アルカリ土類金属がマグネシウムである、
[1]~[3]のいずれか1つに記載の塩又はその溶媒和物。
[5]
前記有機カチオンが有機アンモニウムカチオン及び有機イミニウムカチオンである、[1]~[4]のいずれか1つに記載の塩又はその溶媒和物。
[6]
前記組成式中、Mがアルギニンイオン、ジメチルアミンカチオン、ナトリウム、カリウム、及びマグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の塩又はその溶媒和物。
[7]
[1]~[6]のいずれか1つに記載の塩又はその溶媒和物を含む、組成物。
[8]
認知機能を改善するための[7]に記載の組成物。
[9]
ピロロキノリンキノンカルシウム塩と、アミン及び/又はイミンとを溶媒中で反応させることを含む、ピロロキノリンキノン含有塩又はその溶媒和物を製造する方法。
[10]
前記アミン及び/又はイミンが、ジメチルアミン及び/又はアルギニンである、[9]に記載の製造方法。
[11]
ピロロキノリンキノン、並びにピロロキノリンキノンのアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩からなる群より選択される少なくとも1種と、還元性を示すカルシウム化合物とを溶媒中で反応させることを含む、ピロロキノリンキノン含有塩又はその溶媒和物を製造する方法。
[12]
前記還元性を示すカルシウム化合物がアスコルビン酸カルシウムである、[11]に記載の製造方法。
[13]
[9]~[12]のいずれか1つに記載の製造方法により製造される、ピロロキノリンキノン含有塩又はその溶媒和物。
[14]
[1]~[6]のいずれか1つに記載の塩又はその溶媒和物にキレート剤を接触させてピロロキノリンキノンを溶出させる方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ピロロキノリンキノンを含む新規の物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例で得られた物質の吸光スペクトルである。
【
図2】実施例で用いた原料物質の吸光スペクトルである。
【
図3】実施例で得られた物質をEDTA水溶液に溶解させたときの吸光スペクトルである。
【
図4】実施例で得られた物質の電子スピン共鳴(ESR)測定の結果である。
【
図5】実施例で調製した反応液の電子スピン共鳴(ESR)測定の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0017】
[ピロロキノリンキノン含有塩]
本実施形態の塩は、組成式:(PQQ)CaxMyで表され、常磁性を示す。ただし、組成式中、PQQはピロロキノリンキノンアニオンであり、Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(ただしCaを除く。)、及び有機カチオンからなる群より選択される少なくとも1種であり、xは0.5以上1.5以下の値を示し、yは0以上2.0以下の値を示す。
【0018】
本明細書中、「溶媒和物」とは、塩と溶媒との任意の化学量論の複合体を意味する。本実施形態の塩の溶媒和物は組成式:(PQQ)CaxMy・n(Sol)で表されてよい。ここで、nは任意の自然数であり、Solは溶媒分子を意味する。溶媒和物に含まれる溶媒は特に限定されず、例えば水分子である。本実施形態の溶媒和物としては、例えば、水和物が挙げられ、1~3溶媒和物である。本実施形態の溶媒和物は、例えば1~3水和物であってよい。
【0019】
(組成式)
本実施形態の塩は、組成式:(PQQ)CaxMy(以下、単に「組成式」ということがある。)で表される。
【0020】
組成式中、PQQはピロロキノリンキノンアニオンである。本明細書中、「ピロロキノリンキノン」は、下記式(1)で表される酸化型PQQ、下記式(2)で表される還元型PQQ、及び酸化型PQQが一電子還元された(1つの水素原子が付加した)化合物(以下、「一電子還元型PQQ」という。)のいずれかを意味する。本実施形態の塩は一電子還元型PQQのアニオンを少なくとも含む。本実施形態の塩は、一電子還元型PQQに加えて、酸化型PQQ及び/又は還元型PQQを含んでいてもよい。
【0021】
【0022】
ピロロキノリンキノンアニオンは、1~3価のアニオンであってよい。本実施形態の塩において、ピロロキノリンキノンアニオンは好ましくは2~3価、より好ましくは3価のアニオンである。
【0023】
本実施形態の塩がピロロキノリンキノンアニオンを含むことは、例えば液体クロマトグラフィーにより確認することができる。より具体的には、本実施形態の塩を、キレート剤を含む水溶液に溶解させ、液体クロマトグラフィー(例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC))により分析すればよい。キレート剤の具体例は後述する。
【0024】
本実施形態の塩が一電子還元型PQQを含むことは、液体クロマトグラフィーに加えて、常磁性測定、又は吸光分析を実施することにより確認することができる。一電子還元型PQQは不対電子を有する(すなわち、ピロロキノリンキノンラジカルアニオンである)一方、還元型PQQ及び酸化型PQQは不対電子を有しない。したがって、一電子還元型PQQを含む物質は、ピロロキノリンキノンとして還元型PQQ及び/又は酸化型PQQしか含まない物質と比較して、磁性及び吸光スペクトルが異なる。より具体的には、電子スピン共鳴(ESR)分析により常磁性を確認するか、吸光分析により還元型PQQ含有塩及び酸化型PQQ含有塩が示さない吸光ピークを示すことを確認することにより、一電子還元型PQQを含むことを確認できる。
【0025】
本実施形態の塩において、xは0.5以上1.5以下の値であり、すなわち、ピロロキノリンキノンアニオン1分子に対してカルシウムイオンが0.5個以上1.5個以下含まれる。xは好ましくは0.5以上1.5未満であり、より好ましくは0.5以上1.4以下であり、さらに好ましくは0.8以上1.3以下であり、特に好ましくは1.0である。カルシウムイオンは、典型的には2価のカチオンである。本実施形態の塩がカルシウムイオンを含むこと、及びxの値は、ICP発光分光分析法(ICP-AES)等のICP分析により確認することができる。
【0026】
組成式中、Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(ただしCaを除く。)、及び有機カチオンからなる群より選択される少なくとも1種である。
Mとしての有機カチオンとしては、窒素原子含有有機カチオンが好ましく、有機アンモニウムカチオン及び有機イミニウムカチオンがより好ましい。有機アンモニウムカチオンとしては、例えば第4級アンモニウムカチオン、塩基性アミノ酸のアンモニウムカチオン、第3級アミンのアンモニウムカチオン、第2級アミンのアンモニウムカチオン、及び第1級アミンのアンモニウムカチオン等が挙げられる。有機イミニウムカチオンとしては、例えばアミジン骨格を有する有機カチオン、グアニジン骨格を有する有機カチオン、及び塩基性アミノ酸のイミニウムカチオンが挙げられる。
有機カチオンに含まれる窒素原子の数は、例えば1以上6以下、好ましくは1以上5以下、より好ましくは1以上4以下である。有機カチオンに含まれる炭素原子の数は、例えば2以上15以下、好ましくは2以上12以下、より好ましくは2以上8以下であり、例えば2以上6以下であってもよい。
【0027】
第4級アンモニウムカチオンとしては、例えばNR4
+が挙げられ、Rはそれぞれ独立に炭素数1~4のアルキル基である。塩基性アミノ酸のアンモニウムカチオン及びイミニウムカチオンとしては、例えばアルギニン、リシン、及びヒスチジンそれぞれのカチオンが挙げられる。第3級アミンのアンモニウムカチオンとしては、例えばNHR3
+が挙げられ、Rはそれぞれ独立に炭素数1~4のアルキル基である。第2級アミンのアンモニウムカチオンとしては、例えばNH2R2
+が挙げられ、Rはそれぞれ独立に炭素数1~4のアルキル基である。第1級アミンのアンモニウムカチオンとしては、例えばNH3R+が挙げられ、Rはそれぞれ独立に炭素数1~4のアルキル基である。
アミジン骨格を有する有機カチオンとしては、例えばR’C(=N+R’2)NR’2が挙げられ、R’はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~4のアルキル基である。グアニジン骨格を有する有機カチオンとしては、例えばR’2N-C(=N+R’2)NR’2が挙げられ、R’はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~4のアルキル基である。以上において、R及びR’のアルキル基の炭素数は、好ましくは1~3であり、より好ましくは1~2である。有機カチオンとしては、好ましくは塩基性アミノ酸のアンモニウムカチオン及びイミニウムカチオンであり、より好ましくはアルギニンイオンである。
【0028】
Mとしてのアルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、ルビジウム及びセシウムが挙げられ、好ましくはナトリウム、及びカリウムである。アルカリ土類金属としては、マグネシウム、バリウム、及びストロンチウムが挙げられ、好ましくはマグネシウムである。
【0029】
Mは、好ましくは水素原子、アルカリ金属、及び有機カチオンからなる群より選択される少なくとも1種であり、より好ましくはアルカリ金属、マグネシウム、及び有機カチオンからなる群より選択される少なくとも1種であり、さらに好ましくはナトリウム、カリウム、マグネシウム、有機アンモニウムカチオン及び有機イミニウムカチオンからなる群より選択される少なくとも1種であり、さらにより好ましくはナトリウム、カリウム、マグネシウム、塩基性アミノ酸のアンモニウムカチオン及びイミニウムカチオン、並びに第2級アミンのアンモニウムカチオンからなる群より選択される少なくとも1種であり、特に好ましくはナトリウム、カリウム、マグネシウム、アルギニンイオン、及びジメチルアミンカチオンからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0030】
本実施形態の塩において、yは0以上2.0以下の値であり、すなわち、ピロロキノリンキノンアニオン1分子に対してMが0個以上2.0個以下含まれる。yは好ましくは0.1以上2.0以下であり、より好ましくは0.3以上2.0以下であり、さらに好ましくは0.5以上1.5以下である。Mが1価のカチオンである場合、yは好ましくは0.5以上1.5以下であり、より好ましくは0.7以上1.3以下である。Mが2価のカチオンである場合、yは好ましくは0.2以上1.0以下であり、より好ましくは0.3以上0.7以下である。yが0である場合、本実施形態の塩は、ピロロキノリンキノンアニオンとカルシウムイオンとからなる。
【0031】
本実施形態の塩が水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(ただしCaを除く。)、及び有機カチオンからなる群より選択される少なくとも1種を含むこと、及びyの値は、イオン電極測定、ICP-AES等のICP分析、元素分析、及び液体クロマトグラフィー等の従来公知の分析手法により確認することができる。
【0032】
本実施形態の塩はピロロキノリンキノンをジナトリウム塩相当で10質量%以上含んでいてよい。ジナトリウム塩相当とは、塩に含まれるピロロキノリンキノンをピロロキノリンキノンジナトリウム塩として換算したときの質量%である。ピロロキノリンキノンの含有量は、ジナトリウム塩相当で、10質量%以上90質量%以下であってよく、20質量%以上85質量%以下であってよい。ピロロキノリンキノンの含有量は、塩からピロロキノリンキノンをキレート剤等により遊離させて液体クロマトグラフィーで測定するか、元素分析することによって求めることができる。
【0033】
本実施形態の塩は上記のようにピロロキノリンキノン、カルシウム、及び任意に上記Mを含むことにより、以下に詳述する特性を有し得る。酸化型PQQのカルシウム塩が難溶性であること、酸化型PQQはアミノ基含有化合物と不可逆的に反応しやすいこと、酸化型PQQ又は還元型PQQを含むこれまでに単離されている物質は赤、黄、黒、又は白系の色を呈すこと、並びにピロロキノリンキノンとして還元型PQQ及び/又は酸化型PQQしか含まない物質は反磁性であること等を考慮すると、本実施形態の塩が以下に詳述する特性を有し得ることは驚くべきことである。
【0034】
(常磁性)
本実施形態の塩及びその溶媒和物は常磁性を有する。塩及びその溶媒和物が常磁性を有することは、粉末の状態で、あるいは溶液の状態で電子スピン共鳴(ESR)測定をすることにより確認することができる。本実施形態の塩及びその溶媒和物が示す常磁性は、一電子還元型PQQに由来すると考えられるが、その要因はこれに限定されない。
【0035】
粉末のESR測定は、例えば常温にて、ESR測定装置(例えば、BRUKER社製、ESP300E)により測定すればよい。
溶液のESR測定は、例えば水中、常温にて、ESR測定装置(例えば、BRUKER社製、ESP300E)により測定すればよい。
本実施形態の塩は2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシルフリーラジカル(TEMPO)のESRピークを基準として、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.10%以上、さらに好ましくは0.30%以上の強度を有するESRピークを示す。
【0036】
ESR測定はX,K,Qバンドを使用して測定できる。好ましくはXバンドである。ピーク位置のg値はMn2+を標準物質として使用できる。一般的に有機ラジカルは不安定であり、低温、不活性ガス中で、石英製容器(石英ガラスを含む)を使って測定される。しかし、本実施形態の物質は安定であり、粉末での測定を空気中、室温で行うことができる。また、水溶液中のESR感度は一般的に低い。しかし、本実施形態の物質は水溶液用のセルで測定可能である。粉末の測定時にはそのまま、管状セルに詰めて測定してもよいし、キャピラリーに詰めてからそれをセルに入れて測定してもよい。水溶液を測定する場合、ピークの分裂を観察するために濃度の調整をすることが好ましい。予備的な測定を行うことにより、分裂が観測できる濃度を求めることができる。
【0037】
(色)
本実施形態の塩及びその溶媒和物は、青色を呈してよい。本明細書中、「青色」とは青系の色を全て包含する。青系の色にはアパタイトキャッツアイ、アクア、アクアグレイ、アスター、アッシュライト、アズライトマラカイト、バレノブルー、ベルフラワー、バミューダ、ブルーサファイヤ、ブラックオニキス、ブラックオパール、ブルーアシード、ブルーアゲート、ブルーカナール、ブルームーン、ブルーシエル、ブルージルコン、ボルダーオパール、セルリアンブルー、チョークブルー、クリソベリルアレキサンドライト、サイネリア、コバルトブルー、コーンフラワーブルー、シアン、シアンブルー、ディープロイヤルブルー、デルフィニウム、ダックブルー、エジプシャンブルー、フォーゲットミーノットブルー、グリーンスピネル、アウイン、ヘブンリーブルー、へミモルファイト、ヒヤシンス、ヒヤシンスブルー、インディゴ、インディゴライト、インクブルー、アイオライト、アヤメ、ラピスラズリ、ラベンダーブルー、ライトサックスブルー、ロベリア、マドンナブルー、マジョリカブル、マリンブルー、マヤブルー、ミッドナイトブルー、ミヨゾティ、マルベリー、ネービーブルー、ネットターコイズ、オリエンタルブルー、ペールパステルブルー、ペールサルビアブルー、ペールサックスブルー、パンジー、パステルブルー、ピーコックブルー、ペールヨットブルー、プリムラ、プルシャンブルー、パープルネイビー、パープルジルコン、リバーブルー、ロイヤルブルー、セージ、サファイヤ、サファイヤブルー、サクソニーブルー、スカラベ、シーブルー、ソーダライト、スペクトロライト、スペクトラムブルー、スチールブルー、タンザナイト、ディープブルー、トルマリン、ターコイズブルー、ウルトラマリーン、ウルトラマリン、ウルトラマリンブルー、バイオレット、バイオレットサファイヤ、ウイスタリア、ヨットブルー、ゼニスブルー、及びジルコン等の色が含まれる。
【0038】
本実施形態の塩及びその溶媒和物は、水溶液の状態で吸光スペクトルを測定した場合に、可視光領域(例えば400~800nm(両端値を含む。以下同様である。))の範囲における吸光度の最大値が、500nm以上の領域に存在していることが好ましく、600nm以上の領域に存在していることがより好ましい。また、上記方法により測定される吸光スペクトルは、500~800nmの範囲に吸光ピークを有することが好ましい。当該吸光ピークは、好ましくは600~800nmの範囲に位置し、より好ましくは620~760nmの範囲に位置する。また、上記方法により測定される吸光スペクトルは、400~800nmの範囲において、500~800nmの範囲に最も大きい吸光ピークがあることが好ましく、600~800nmの範囲に最も大きい吸光ピークがあることがより好ましく、620~760nmの範囲に最も大きい吸光ピークがあることがさらに好ましい。また、上記方法により測定される吸光スペクトルは、400~500nmの範囲に吸光ピークを有しないことが好ましく、400~550nmの範囲に吸光ピークを有しないことがより好ましく、400~600nmの範囲に吸光ピークを有しないことがさらに好ましい。なお、吸光ピークとは、吸光スペクトルの極大値を意味する。
【0039】
青色を呈する物質は限定されており、従来は青色を付与するために青色色素をコーティング又は混合する。また、食品や医薬品の分野においては、色素を添加することは好ましくないことがある。他方、本実施形態の塩及びその溶媒和物は、固体及び/又は水溶液の状態で青色を呈し得る。また、後述のように、キレート剤等と反応させることにより、酸化型PQQを遊離することが容易である。
【0040】
本実施形態の塩及びその溶媒和物を使用することでピロロキノリンキノン含有化合物により様々な色を表現することができる。すなわち、ピロロキノリンキノンジナトリウムは赤色、還元型PQQは黄色、本実施形態の塩及びその溶媒和物は青色を呈するため、ピロロキノリンキノン含有化合物のみにより、色の3原色を表現することができ、それらを適宜混合することで自由度高く所望の色を作ることができる。また、本実施形態の塩及びその溶媒和物は安定性が高い傾向にあるため、色を調整するために他の物質を混合することができる。本実施形態の塩及びその溶媒和物に白色の物質を混合することで薄い色としてもよい。白色の物質に制限はなく、食品用途では、糖類、デンプン、オリゴ糖、及び米粉等が好ましい。
【0041】
本実施形態の塩及びその溶媒和物による青色物質は、単独でも、他の物質と組み合わせても使用できる。組み合わせ可能な物質としては、ビタミンB群、ビタミンC及びビタミンE等のビタミン類、アミノ酸類、アスタキサンチン、α-カロテン、及びβ-カロテン等のカロテノイド類、ドコサヘキサエン酸、及びエイコサペンタエン酸等のω3脂肪酸類、アラキドン酸等のω6脂肪酸類等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
(反応性)
本実施形態の塩及びその溶媒和物は、様々な溶媒に可溶であり得る。可溶であり得る溶媒としては、例えば水及びアルコールが挙げられ、好ましくは水である。
【0043】
また、本実施形態の塩及びその溶媒和物は、アミノ酸、ペプチド、及びタンパク質のようなアミノ基含有化合物との反応性が、酸化型PQQ及び還元型PQQと比較して低い傾向にある。従来、酸化型PQQ及び還元型PQQ、並びにその塩はアミノ基含有化合物と混合物を形成することが非常に困難である。これは、固体状態では両者が反応せずに共存できても、水に溶解させると反応が進行しやすくなるためである。本実施形態の塩及びその溶媒和物は溶液の状態でもアミノ基含有化合物との反応性が低い傾向にあるため、両者の混合物(特に溶液の状態の組成物)を得ることが容易である傾向にある。したがって、本実施形態の塩及びその溶媒和物によれば、栄養素として有効なアミノ酸と、ピロロキノリンキノンとを含む組成物を提供することができる。
【0044】
また、本実施形態の塩及びその溶媒和物は、キレート剤を含む溶液に添加することにより酸化型PQQを遊離し得る。すなわち、青色物質である本実施形態の塩及びその溶媒和物は、キレート剤と反応させて赤色にすることができる。キレート剤はカルシウムに対してキレート効果を奏するものであれば特に限定されず、リン酸、ピロリン酸、核酸、フィチン酸、酒石酸、コハク酸、クエン酸、EDTA、ヘキサメタリン酸、及びポリリン酸、並びにその塩が挙げられる。キレート剤の添加量は、キレート剤の種類に応じて適宜調整すればよいが、本実施形態の塩及びその溶媒和物に対して0.1~1000倍の質量としてよく、好ましくは1~100倍である。この方法により、青色物質である本実施形態の塩及びその溶媒和物からピロロキノリンキノンを遊離して、通常のピロロキノリンキノンの形態である酸化型PQQを得ることができる。
【0045】
したがって、本発明は、本実施形態の塩及びその溶媒和物にキレート剤を接触させてピロロキノリンキノンを溶出させる方法をも提供する。
【0046】
なお、本実施形態の塩及びその溶媒和物は、別の態様において、組成式:(PQQ)CaxMyで表されば足り、常磁性を示すことが確認されていなくてもよい。本実施形態の塩及びその溶媒和物は、別の態様において、組成式:(PQQ)CaxMyで表され、水溶液の状態で500~800nmの範囲に吸光ピークを有していてよい。これらの態様において、組成式及び吸光ピークの位置を含む吸光スペクトルの特徴は、上述したものと同じであってよい。
【0047】
[製造方法]
本実施形態の塩及びその溶媒和物は、例えば以下のA)及びB)いずれかの方法により製造することができる。反応効率の観点からはA)の方法が好ましい。
A)ピロロキノリンキノンカルシウム塩と、アミン及び/又はイミンとを溶媒中で反応させることを含む、ピロロキノリンキノン含有塩又はその溶媒和物を製造する方法。
B)ピロロキノリンキノン、並びにピロロキノリンキノンのアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩からなる群より選択される少なくとも1種と、還元性を示すカルシウム化合物とを溶媒中で反応させることを含む、ピロロキノリンキノン含有塩又はその溶媒和物を製造する方法。
【0048】
方法A)で用いるピロロキノリンキノンカルシウム塩には、ピロロキノリンキノン1分子に対してカルシウムイオンが0.5個以上2.0個以下含まれることが好ましく、1.0個含まれることがより好ましい。ピロロキノリンキノンカルシウム塩は、市販のものを入手してもよく、事前に又は同一反応系内で製造してもよい。ピロロキノリンキノンカルシウム塩の製造方法としては、従来公知の方法を用いてよく、例えば国際公開第2012/039474号に記載の方法を用いてよい。ピロロキノリンキノンカルシウム塩の製造において、ピロロキノリンキノンとしてはフリー体(単体)、ピロロキノリンキノンのアルカリ金属塩、及びアンモニウム塩等を用いてよい。また、カルシウムイオン源としては、例えば、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、炭酸カルシウム、重炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、酸化カルシウム、乳酸カルシウム、リン酸カルシウム、及びアスコルビン酸カルシウム等が挙げられる。
【0049】
方法A)で用いるアミンとしては、第1級アミンNH2R、第2級アミンNHR2、及び塩基性アミノ酸が挙げられる。Rはそれぞれ独立に炭素数1~4のアルキル基であり、その炭素数は好ましくは1~3であり、より好ましくは1~2である。用いるアミンは、還元性を示すアミンであることが好ましく、塩基性アミノ酸がより好ましく、アルギニンがさらに好ましい。
方法A)で用いるイミンとしては、アミジン骨格を有するイミンR’C(=NR’)NR’2、グアニジン骨格を有するイミンR’2N-C(=NR’)NR’2、及び塩基性アミノ酸が挙げられる。R’はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~4のアルキル基である。少なくとも1つのR’が水素原子であってもよい。R’におけるアルキル基の炭素数は好ましくは1~3であり、より好ましくは1~2である。用いるイミンは、還元性を示すイミンであることが好ましく、塩基性アミノ酸がより好ましく、アルギニンがさらに好ましい。
方法A)で用いるアミン及び/又はイミンは、例えば塩基性アミノ酸及び第2級アミンNHR2から選択されてよく、アルギニン及びジメチルアミンから選択されてよい。
【0050】
方法A)において、ピロロキノリンキノンカルシウム塩とアミン及びイミンの合計量とのモル比は、1:0.5~1:100であることが好ましく、1:1~1:20であることがより好ましい。すなわち、アミン及びイミンはピロロキノリンキノンカルシウム塩に対して、モル比で、好ましくは0.5~100倍、より好ましくは1~20倍用いられる。
【0051】
方法A)において、ピロロキノリンキノンカルシウム塩と、アミン及び/又はイミンとを混合する際の温度は80℃以下が好ましく、より好ましくは-20℃以上50℃以下である。混合後、-20℃以上120℃以下で反応させることが好ましく、0℃以上80℃以下で反応させることがより好ましい。反応温度が高いと青色を呈する変化が速い傾向にある。反応時間は、還元剤の種類、反応条件に応じて設定すればよい。方法A)において、最も好ましくはピロロキノリンキノンカルシウム塩とアルギニンを反応させる。反応に用いる溶媒は、例えば水であってよい。
【0052】
ピロロキノリンキノンカルシウム塩とアルギニンとの反応を例にして、具体的な操作方法について説明する。以下の例示は、用いる原料を限定するものではない。
ピロロキノリンキノンカルシウム塩は溶解度が低いため、懸濁液とした状態でアルギニン水溶液と混合する。反応時間は特に限定されないが、例えば5分以上1週間以下であってよい。アルギニンとの反応により水への溶解性が向上する。生成物の沈殿を生成させるためには、エタノールのような水溶性有機溶媒を加え、溶解度を下げて析出させる。沈殿物は分離後必要に応じてエタノールのような有機溶媒でさらに洗ってよい。この得られた固体は風乾、減圧乾燥することで水分を除くことができる。
【0053】
方法B)で用いるピロロキノリンキノンのアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩において、ピロロキノリンキノンの対イオンの例及び好ましい態様は、本実施形態の塩に含まれ得るアルカリ金属及びアルカリ土類金属の例及び好ましい態様と同様である。
【0054】
方法B)で用いる還元性を示すカルシウム化合物としては、特に限定されないが、例えばアスコルビン酸カルシウム、エルソルビン酸カルシウムが挙げられる。
【0055】
方法B)において、ピロロキノリンキノン、並びにピロロキノリンキノンのアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩の合計量と、還元性を示すカルシウム化合物とのモル比は、1:0.1~1:10000であることが好ましく、1:1~1:1000であることがより好ましい。還元性を示すカルシウム化合物はピロロキノリンキノン並びにピロロキノリンキノンのアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩の合計量に対して、モル比で、好ましくは1~1000倍、より好ましくは2~100倍用いられる。
【0056】
方法B)において、ピロロキノリンキノン、並びにピロロキノリンキノンのアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩からなる群より選択される少なくとも1種と、還元性を示すカルシウム化合物とを混合する際の温度は80℃以下が好ましく、より好ましくは-20℃以上50℃以下である。混合後、-20℃以上120℃以下で反応させることが好ましく、0℃以上80℃以下で反応させることがより好ましい。反応温度が高いと青色を呈する変化が速い傾向にある。反応時間は、還元剤の種類、反応条件に応じて設定すればよい。方法B)において、最も好ましくはピロロキノリンキノンジナトリウム塩とアスコルビン酸カルシウムを反応させる。反応に用いる溶媒は、例えば水であってよい。
【0057】
ピロロキノリンキノンジナトリウム塩とアスコルビン酸カルシウムとの反応を例にして、具体的な操作方法について説明する。以下の例示は、用いる原料を限定するものではない。
ピロロキノリンキノンジナトリウム塩水溶液と、アスコルビン酸カルシウムとを撹拌しながら混合する。反応時間は特に限定されないが、例えば5分以上1週間以下であってよい。析出物が得られた後、ブフナーロート等でろ過する。ろ物は分離後必要に応じてエタノールのような有機溶媒でさらに洗ってよい。この得られた固体は風乾、減圧乾燥することで水分を除くことができる。
【0058】
以上説明した製造方法は空気中で行うことも可能であるが、好ましくは窒素、及びアルゴンのような不活性ガス中で行うことが好ましい。反応液中の溶存酸素を除去するために、反応溶液を不活性ガスでバブルすることが好ましい。
【0059】
本実施形態の塩及びその溶媒和物の製造方法は、上記の方法A)及びB)の後に、陽イオンを交換するイオン交換工程を含んでいてもよい。イオン交換工程は、方法A)及びB)における反応後、反応液、又は反応物を単離後溶媒に溶解させた溶液に、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及び有機カチオンからなる群より選択される少なくとも1種を含む塩、又はその溶液を添加することで行うことができる。アルカリ金属、アルカリ土類金属、及び有機カチオンの例及び好ましい態様は、本実施形態の塩において説明したものと同様である。アルカリ金属、アルカリ土類金属、及び有機カチオンの対イオンとしては、特に限定されないが、例えば塩化物イオン、臭化物イオン、硝酸イオン、及び硫酸イオンが挙げられる。反応時間は特に限定されないが、例えば5分以上1週間以下であってよい。
【0060】
本発明は、上記の製造方法に加え、上記の製造方法により製造されるピロロキノリンキノン含有塩又はその溶媒和物をも提供する。かかるピロロキノリンキノン含有塩又はその溶媒和物は、本実施形態の塩及びその溶媒和物と同様の組成及び/又は特性を有していてよい。
【0061】
[組成物]
本実施形態の塩及びその溶媒和物は、その他の成分と混合して組成物としてもよい。
したがって、本発明は本実施形態の塩及び/又はその溶媒和物を含む組成物をも提供する。本実施形態の塩及びその溶媒和物は、医薬又は機能性食品の有効成分とすることができ、皮膚外用剤、注射剤、経口剤、又は坐剤等の形態、あるいは、日常食する飲食物、栄養補強食、又は各種病院食等の形態で提供可能である。なお、調製の際に使用される添加剤としては、種々のものを用いることができる。液剤としては、水、果糖及びブドウ糖等の糖類、落下生油、大豆油及びオリーブ油等の油類、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコール等のグリコール類が挙げられる。錠剤、カプセル剤及び顆粒剤等の固形剤の賦型剤としては乳糖、ショ糖及びマンニット等の糖類;滑沢剤としてはカオリン、タルク及びステアリン酸マグネシウム等;崩壊剤としてはデンプン及びアルギン酸ナトリウム;結合剤としてはポリビニルアルコール、セルロース及びゼラチン等;界面活性剤としては脂肪酸エステル等;可塑剤としてはグリセリン等が挙げられる。本実施形態の組成物は、必要に応じて溶解促進剤、又は充填剤等を含んでいてもよい。
【0062】
ピロロキノリンキノンは認知機能を改善することが知られている。したがって、本実施形態の組成物は、認知機能を改善するための組成物であってよい。本実施形態の塩及びその溶媒和物は、アミノ基含有化合物との反応性がピロロキノリンキノン単体よりも低い傾向にあるため、本実施形態の組成物は、安定性が高い傾向にある。
【0063】
以上、具体的な実施形態を用いて本実施形態の説明をしたが、上記の実施形態は例示であり、上記の実施形態は適宜変更が可能である。例えば、上記実施形態において、例示した態様や、好ましい、より好ましい、さらに好ましい、及びさらにより好ましい態様等として記載する態様は、任意に組み合わせてよい。また、本明細書中に記載される数値範囲は、上限値及び下限値を任意に組み合わせて得られる数値範囲としてよい。例えば好ましい範囲の下限値又は上限値と、より好ましい範囲の下限値又は上限値とを任意に組み合わせて、数値範囲を選択してもよい。
【実施例0064】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0065】
[原料]
ピロロキノリンキノンとしては、ピロロキノリンキノンジナトリウム塩含水物(三菱ガス化学製、BioPQQ)を使用した。その他の物質は特に断りがない場合、和光製試薬を使用した。
【0066】
[分析方法]
各物質のピロロキノリンキノン含有量は、HPLC及び/又は元素分析により測定した。カルシウム含有量は、ICP分析により測定した。ナトリウム及びカリウム含有量は、イオン電極を用いて測定した。水分含有量は、カールフィッシャー法により測定した。なお、以下、元素分析の結果は質量%で示した。
【0067】
(HPLC測定方法)
ピロロキノリンキノンジナトリウム塩を基準(100%)として、クロマトグラムのピーク面積から各物質のピロロキノリンキノン含有量を算出した。サンプルを1g/Lになるようにエチレジアミン四酢酸トリナトリウム(EDTA-3NA)10%水溶液に溶かして分析した。
〔HPLC分析条件〕
送液ユニット :LC-10AD(島津製作所社製)
カラム :YMC-Pack ODS-A
(YMC社製、長さ150mm、内径4.6mm、粒子径5μm)
検出器 :UV259nm
HPLC溶離液:100mM CH3COOH/100mM CH3COONH4=30/70(pH5.1)
カラム温度 :40℃
【0068】
(カルシウム含有量測定方法)
湿式灰化してサンプルを溶かし、ICP分析によりカルシウム含有量を算出した。サンプルを20mg程度秤量する試験管、濃硝酸0.5mL加えた。試験管をアルミブロックに挿し込み、ヒーターブロックを150℃に設定した。還流状態で6時間行った。これを水で希釈してICP分析した。
【0069】
(ナトリウム及びカリウム含有量測定方法)
ナトリウム及びカリウムはイオン電極で測定した。堀場製イオン電極LAQUAtwinを使用した。Na+用とK+用をそれぞれ使用した。サンプルを水に溶かし、LAQUAtwinを使用して濃度を測定した。
【0070】
[製造例1:ピロロキノリンキノンカルシウム塩(CaPQQ)]
国際公開第2012/039474号の実施例2に従い合成した。
ピロロキノリンキノンジナトリウム塩3gを水800gに加え溶解した。この時のpHは3.5であった。6gの塩化カルシウムを水100mLに溶解した水溶液を加え、2日間攪拌後、析出した固体をろ過し、水、及びエタノールで洗った。これを70℃で一晩減圧乾燥し、赤色のピロロキノリンキノンカルシウム塩3.29gを得た。
【0071】
[実施例1:アルギニンイオン含有塩]
製造例1で得たピロロキノリンキノンカルシウム塩0.40gとアルギニン1.6gを水40mLに添加した。窒素ガス100mL/minを吹き込みながら攪拌を20分間した後、エタノール40mLを加えた。氷で冷やし、遠心分離して上澄みを捨てた。50%エタノール水40mL、及びエタノール40mLで順に洗った。減圧乾燥を2日間行い青色の物質0.44gを得た。分析結果は、水分含有量8.2質量%、ピロロキノリンキノン含有量64質量%であった。また、ナトリウム及びカリウムは検出されず、ピロロキノリンキノン1分子に対してカルシウム1分子が含まれることが分かった。以上のことから、組成式:(PQQ)Ca1.0Arg1.0・2.0H2Oで表される物質が得られたことがわかった。ここで、Argはアルギニンイオンである。なお、この物質の元素分析結果は以下のとおりであった。
【0072】
【0073】
[実施例2:Na含有塩]
製造例1で得たピロロキノリンキノンカルシウム塩0.10gとアルギニン0.40gを水10mLに添加した。窒素ガス100mL/minを吹き込みながら攪拌を30分間した。食塩1gを加えて30分間攪拌後、遠心分離して上澄みを除去した。1M NaCl水溶液10mLを加え、遠心分離して上澄みを除いた。水10mLを加えて固形分を溶かし、エタノール10mLを加えた。5℃で一晩保存した。エタノール10mLで洗った。減圧乾燥を2日間行い青色の物質0.089gを得た。分析結果は、水分含有量8.8質量%、ピロロキノリンキノン含有量90質量%であった。また、カリウムは検出されず、ピロロキノリンキノン1分子に対してカルシウム1分子及びナトリウム1分子が含まれることが分かった。以上のことから、組成式:(PQQ)Ca1.0Na1.0・3.0H2Oで表される物質が得られたことがわかった。なお、この物質の元素分析結果は以下のとおりであった。
【0074】
【0075】
[実施例3:K含有塩]
製造例1で得たピロロキノリンキノンカルシウム塩0.10gとアルギニン0.40gを水10mLに添加した。窒素ガス100mL/minを吹き込みながら攪拌を30分間した。KCl 1gを加えて30分間攪拌後、遠心分離して上澄みを除去した。1M KCl水溶液を10mL加え、遠心分離して上澄みを除いた。水10mLを加えて固形分を溶かし、エタノール10mLを加えた。5℃で一晩保存した。エタノール10mLで洗った。減圧乾燥を2日間行い青色の物質0.091gを得た。分析結果は、水分含有量8.7質量%、ピロロキノリンキノン含有量77質量%であった。また、ナトリウムは検出されず、ピロロキノリンキノン1分子に対してカルシウム1分子及びカリウム1分子が含まれることが分かった。以上のことから、組成式:(PQQ)Ca1.0K1.0・3.0H2Oで表される物質が得られたことがわかった。
【0076】
[実施例4:ジメチルアミンカチオン含有塩]
製造例1で得たピロロキノリンキノンカルシウム塩0.10gを水7.5mLに加えた。窒素ガス100mL/minを吹き込みながらジメチルアミン(約50%水溶液)2.5mLと混合し、攪拌を30分間した。エタノール35mLを加え、30分間攪拌した後、遠心分離して上澄みを除去した。エタノール10mLで洗った。減圧乾燥を2日間行い青色の物質0.079gを得た。分析結果は、水分含有量10.9質量%、ピロロキノリンキノン含有量75質量%であった。また、ナトリウム及びカリウムは検出されず、ピロロキノリンキノン1分子に対してカルシウム1分子が含まれることが分かった。以上のことから、組成式:(PQQ)Ca1.0(NHMe2)1.0・3.0H2Oで表される物質が得られたことがわかった。
【0077】
[実施例5:ピロロキノリンキノンジナトリウム塩とアスコルビン酸カルシウムとの反応]
ピロロキノリンキノンジナトリウム塩を水に溶かし、2g/Lの水溶液を調製した。アスコルビン酸カルシウム2gを水50mLに溶かし、調製した2g/L ピロロキノリンキノンジナトリウム塩200mLに攪拌しながら混合した。5分後、ブフナーロートでろ過した。水20mL、及びエタノール20mLで順に洗い、一晩減圧乾燥して、0.55gの青色固体を得た。分析結果は、水分含有量19.7質量%であった。また、この物質の元素分析結果は以下のとおりであった。元素分析結果から、ピロロキノリンキノン含有量は61%と推測された。また、ピロロキノリンキノン1分子に対してカルシウム1.5分子が含まれることが分かった。以上のことから、組成式:(PQQ)Ca1.5・8.0H2Oで表される物質が得られたことがわかった。
【0078】
【0079】
[比較例1]
ピロロキノリンキノンジナトリウム塩0.2gとアルギニン1.0gを水10mLに添加し、攪拌を2時間した。エタノール20mL加えた。蓋をして4℃の冷蔵庫に18時間静置した。これを遠心分離した後、70℃で18時間減圧乾燥した。黄色の物質0.10gを得た。
【0080】
[吸光測定]
(水溶液の測定)
製造例1及び実施例1~4で得られた物質、並びに原料物質をサンプルとして、不活性ガス(窒素又はアルゴン)バブルした水にサンプルを混合してUVスペクトルを測定した。
具体的には、10mg/Lになるようにサンプルを混合し、混合液のUVスペクトルを測定した。測定範囲は200-1100nmの範囲とし、用いた溶媒と同様の液でゼロ合わせを行った。測定装置としては、島津UV-1800を用いた。得られたスペクトルを
図1及び2に示す。また、各スペクトルのピーク位置及び吸光度を以下の表に示す。
【0081】
【0082】
実施例1~4で得られた物質は、製造例1で得られたピロロキノリンキノンカルシウム塩、アルギニン、及びピロロキノリンキノンジナトリウム塩には存在しない680nm付近に吸収ピークを有していた。また、ピロロキノリンキノンジナトリウム塩は水に対して可溶であったがピロロキノリンキノンカルシウム塩は溶け残りがあり、溶解度が6.6mg/Lと、非常に難溶性であった。一方、実施例1~4で得られた物質は水に対して可溶であった。
【0083】
(EDTA溶液の測定)
次に、測定溶液をEDTA溶液として、実施例1及び5で得られた物質、並びにピロロキノリンキノンジナトリウム塩のUVスペクトルを測定した。具体的には、空気下でEDTA-3Naが1%含まれる水溶液に、100mg/Lになるようにサンプルを加えた。この溶液を10倍に希釈して10mg/Lの濃度とした溶液を測定した。測定範囲は200-1100nmの範囲とし、用いた溶媒と同様の液でゼロ合わせを行った。測定装置としては、島津UV-1800を用いた。得られたスペクトルを
図1及び2に示す。
100mg/Lのサンプルを調製する際、空気下、EDTA溶液と混合することにより、実施例1及び5で得られた物質が赤く変色することが観察された。また、得られたUVスペクトルから、実施例1及び5で得られた物質をEDTA溶液に混合することで、ピロロキノリンキノンが酸化型PQQの形態で遊離することがわかった。
【0084】
[ESR測定]
実施例1~4で得られた物質の粉末を1mg使用して、電子スピン共鳴(ESR)測定装置(JES-FA200(Jeol Resonance)又はBRUKER社製、ESP300E)によりESR測定を行った。2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシルフリーラジカル(TEMPO)を標準物質として、標準物質のESRピークの強度を1としたときの各物質のESRピークの強度を算出した。
図4に結果を示す。実施例1~4で得られた物質が常磁性を示すことが確認された。
【0085】
次に、以下の反応液を調製し、上記と同様にESR測定を行った。
製造例1で得たピロロキノリンキノンカルシウム塩0.10gとアルギニン0.4gを水10mLに窒素バブルしながら添加した。室温で1時間攪拌した。ふたを閉め、1晩冷蔵後、ピロロキノリンキノンカルシウム塩が1mg/mLになるように希釈して電子スピン共鳴(ESR)測定装置(JES-FA200(Jeol Resonance)又はBRUKER社製、ESP300E)によりESR測定した。結果を
図5に示す。
図5から、得られたESRピークが多重に分裂していることがわかる。この分裂から、ラジカルがピロロキノリンキノンの芳香環上に非局在化していることが示唆された。これより予想されるピロロキノリンキノンラジカルアニオンの構造は以下のようであることが推測できる。以下の構造は、ピロロキノリンキノンカルシウムがアルギニンによって1電子還元されることにより生じたと考えられる。
【化3】
【0086】
[アミノ酸との反応性評価]
製造例1で得たピロロキノリンキノンカルシウム塩0.1gとアルギニン0.8gを水5gに添加し1時間反応させた。そこにグリシン0.8g加え、30℃で1日静置した。ピロロキノリンキノン含有量の減少量は11%であった。
製造例1で得たピロロキノリンキノンカルシウム塩0.1gとグリシン0.8gを水5gに添加し、30℃で1日静置した。ピロロキノリンキノン含有量の減少量は51%であった。
ピロロキノリンキノンジナトリウム塩0.1gとグリシン0.8gを水5gに添加し、30℃で1日静置した。ピロロキノリンキノン含有量の減少量は87%であった。
以上の結果から、本実施形態の塩及びその溶媒和物はアミノ酸のようなアミノ基含有化合物との反応性が低く、酸化型PQQよりもピロロキノリンキノンとしての安定性が高いことがわかった。
【0087】
[熱安定性評価]
実施例1~4で得られた物質、及びピロロキノリンキノンジナトリウム塩について、加熱による色の変化を観察した。各サンプルを70℃で一晩加熱した。実施例1~4で得られた物質の青色に変化はなかった。ピロロキノリンキノンジナトリウム塩は赤色から黒色に変化した。これは、結晶水の減少に起因すると考えられる。