(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057694
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】積層製品及び積層製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 28/02 20060101AFI20240418BHJP
B21D 28/10 20060101ALI20240418BHJP
B21D 39/03 20060101ALI20240418BHJP
B32B 15/01 20060101ALN20240418BHJP
【FI】
B21D28/02 D
B21D28/10 Z
B21D39/03 B
B32B15/01 K
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164514
(22)【出願日】2022-10-13
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】591093494
【氏名又は名称】株式会社ミスズ工業
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】窪田 貴則
(72)【発明者】
【氏名】望月 英治
【テーマコード(参考)】
4E048
4F100
【Fターム(参考)】
4E048EA04
4F100AB01A
4F100AB01B
4F100BA02
4F100DD01A
4F100DD01B
4F100EC10
4F100EJ26
4F100EJ33
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】上層の金属板部材と下層の金属板部材との結合強度を高めた積層製品と、高い生産効率の積層製品の製造方法を提供すること。
【解決手段】積層製品1は、金属板部材Wを積層一体化して構成される。金属板部材Wは、半抜き加工によって、表面11に形成される凹部13と、裏面12に形成され凹部13に嵌合可能な凸部14とを有している。凸部14は、平面視して円周20又は四角形23の辺から内側に向かって形成される複数の切り込み部21を有し、一方の金属板部材Wの凹部13に、他方の金属板部材Wの凸部14を嵌合することによって一体化されている。このことによって、上層の金属板部材Wと下層の金属板部材Wとの結合強度を高めることが可能となる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板部材を積層一体化して構成される積層製品であって、
前記金属板部材は、半抜き加工によって、前記金属板部材の表面に形成される凹部と、裏面に形成され前記凹部に嵌合可能な凸部とを有し、
前記凸部は、平面視して円周又は多角形の辺から内側に向かって形成される複数の切り込み部を有し、
一方の前記金属板部材の前記凹部に、他方の前記金属板部材の前記凸部を嵌合することによって一体化されている、
ことを特徴とする積層製品。
【請求項2】
請求項1に記載の積層製品において、
下層の前記金属板部材の前記凹部と、上層の前記金属板部材の前記凸部とを嵌合させるとき、前記凹部及び前記凸部の接触側面の全周にわたって締め代が設けられている、
ことを特徴とする積層製品。
【請求項3】
請求項1に記載の積層製品において、
前記円周に沿って前記切り込み部が等間隔に複数設けられている、
ことを特徴とする積層製品。
【請求項4】
請求項1に記載の積層製品において、
前記切り込み部の底部、隣り合う前記切り込み部の間に形成される突起部の頂部、及び前記切り込み部と前記頂部とを接続する位置は円弧で形成されている、
ことを特徴とする積層製品。
【請求項5】
請求項1に記載の積層製品において、
前記凹部の前記表面からの深さは、前記凸部の前記裏面からの高さより大きい、
ことを特徴とする積層製品。
【請求項6】
最下層となる金属板材料に凸部に倣う形状の貫通孔を形成する工程と、
前記金属板材料から前記最下層となる金属板部材を打ち抜く工程と、
半抜き加工によって、円周又は多角形の辺から内側に向かって形成される略U字形状の切り込み部と、隣り合う前記切り込み部の間に形成される突起部とを有する前記凸部と、前記凸部に倣う形状を有し、前記凸部が嵌合可能な凹部とを形成する工程と、
前記凹部及び前記凸部が形成された前記金属板材料から前記最下層の直ぐ上層となる前記金属板部材の外形を打ち抜き、前記凸部を前記貫通孔に嵌合する工程と、
前記金属板材料に前記上層となる前記金属板部材のさらに上層の前記金属板部材の前記凹部及び前記凸部を形成する工程と、
前記さらに上層の前記金属板部材の外形を打抜き、前記上層の前記凸部を下層の前記凹部に嵌合する工程と、を含み、
所定数に達するまで、前記凹部及び前記凸部を形成する工程と、前記上層となる前記金属板部材の外形を打抜き、下層の前記凹部に前記上層の前記凸部を嵌合し一体化する、
ことを特徴とする積層製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層製品及び積層製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層製品は、金属板部材を所定数積層して一体化することによって構成されるものである。各層の金属板部材は、金属板部材の一部を半抜き加工によって、一方の表面に形成される円形の凹部と、その裏面に形成される円形の凸部とを有している。積層製品は、上層側の金属板部材の凸部を下層側の金属板部材の凹部に嵌合することを繰り返し、複数枚の金属板部材を一体化することによって構成されている。
【0003】
しかし、円形の凸部と凹部とを単純に嵌着させるだけでは、積層される金属板部材が、例えば、0.5mmというような薄板の場合においては結合強度(密着強度)が弱く、上層と下層の金属板部材とが剥がれたり、浮いてしまったりすることがある。そこで、金属板部材の結合強度を高めるために、下層の金属板部材の凹部に上層の凸部を嵌合させて一体化した後に、上層の金属板部材の凹部にポンチの先端を押圧するという積層製品の製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、特許文献2には、上記特許文献1と同様に、金属板部材の一部を半抜き加工によって、一方の表面に円形の凹部と、裏面に円形の凸部とを形成し、上層側の金属板部材の凸部を下層側の金属板部材の凹部に嵌着することを繰り返して複数の金属板部材が一体化される積層製品が開示されている。この金属板部材は、凸部及び凹部の平面形状が円形に限らず、三角形、長方形、正方形又はトラック形状とすることが例示されている。
【0005】
また、特許文献3には、断面形状を台形、平面形状を長方形とする、いわゆる山型形状を有する凹部及び凸部を形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-125519号公報
【特許文献2】特開2004-324760号公報
【特許文献3】特開2020-22255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の積層製品の製造方法は、下層の金属板部材の凹部に上層の凸部を嵌着させて一体化した後に、上層の金属板部材の凹部にポンチの先端を押圧するというものである。このような製造方法によれば、ポンチの先端で圧縮された部分が外周方向に移動することによって、上層の金属板部材の凸部と下層の金属板部材の凹部との結合度を高めようとするものである。しかし、ポンチ先端で押圧するだけでは、凸部の外周方向への移動量は小さく、十分な結合強度が得られないおそれがある。また、下層の金属板部材の凹部に上層の凸部を嵌着させて一体化した後に、上層の金属板部材の凹部にポンチの先端を押圧するため、加工工程が増えることから生産性がよいとはいえない。結合強度を高めるためには、各層においてポンチの押圧が必要になることから、さらに加工工程が増加することになる。
【0008】
特許文献2に記載の積層製品は、凸部及び凹部の形状を円形、三角形、長方形、正方形又はトラック形状としている。しかし、これらの形状にしても、凸部及び凹部が同じ外形サイズの場合、凸部と凹部との接触面積が円形の場合に対してそれほど大きくならないため、結合強度の向上は望めない。
【0009】
特許文献3に記載の積層製品は、特許文献1に記載の積層製品と同様に、下層の金属板部材の凹部に上層の凸部を嵌着させて一体化した後に、上層の金属板部材の凹部にポンチ(プッシュパンチという)の先端を押圧し、ポンチの先端で圧縮された部分を山型形状の傾斜した側面方向に移動させるというものである。しかし、金属板部材が薄板の場合には、パンチで押圧したときに生ずる押圧力が傾斜面で逃げてしまうために、十分な結合強度を得ることは困難である。また、特許文献1と同様に、ポンチで凹部を押圧するという工程が増えてしまうという課題がある。
【0010】
上記特許文献に記載の積層製品の製造方法以外の方法としては、従来から金属板部材の側面溶接や、接着などがあるが、工程増やコストアップとなる課題があった。
【0011】
そこで、本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、上層の金属板部材と下層の金属板部材との結合強度を高めた積層製品、及び生産性が高い積層製品の製造方法を実現しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[1]本発明の積層製品は、金属板部材を積層一体化して構成される積層製品であって、前記金属板部材は、半抜き加工によって、前記金属板部材の表面に形成される凹部と、裏面に形成され前記凹部に嵌合可能な凸部とを有し、前記凸部は、平面視して円周又は多角形の辺から内側に向かって形成される複数の切り込み部を有し、一方の前記金属板部材の前記凹部に、他方の前記金属板部材の前記凸部を嵌合することによって一体化されていることを特徴とする。
【0013】
[2]本発明の積層製品においては、下層の前記金属板部材の前記凹部と、上層の前記金属板部材の前記凸部とを嵌合させるとき、前記凹部及び前記凸部の接触側面の全周にわたって締め代が設けられていることが好ましい。
【0014】
「3」本発明の積層製品においては、前記円周に沿って前記切り込み部が等間隔に複数設けられていることが好ましい。
【0015】
[4]本発明の積層製品においては、前記切り込み部の底部、隣り合う前記切り込み部の間に形成される突起部の頂部、及び前記切り込み部と前記頂部とを接続する位置は円弧で形成されていることが好ましい。
【0016】
[5]本発明の積層製品においては、前記凹部の前記表面からの深さは、前記凸部の前記裏面からの高さより大きいことが好ましい。
【0017】
[6]本発明の積層製品の製造方法は、最下層となる金属板材料に凸部に倣う形状の貫通孔を形成する工程と、前記金属板材料から前記最下層となる金属板部材を打ち抜く工程と、半抜き加工によって、円周又は多角形の辺から内側に向かって形成される略U字形状の切り込み部と、隣り合う前記切り込み部の間に形成される突起部とを有する前記凸部と、前記凸部に倣う形状を有し、前記凸部が嵌合可能な凹部とを形成する工程と、前記凹部及び前記凸部が形成された前記金属板材料から前記最下層の直ぐ上層となる前記金属板部材の外形を打ち抜き、前記凸部を前記貫通孔に嵌合する工程と、前記金属板材料に前記上層となる前記金属板部材のさらに上層の前記金属板部材の前記凹部及び前記凸部を形成する工程と、前記さらに上層の前記金属板部材の外形を打抜き、上層の前記凸部を下層の前記凹部に嵌合する工程と、を含み、所定数に達するまで、前記凹部及び前記凸部を形成する工程と、前記上層となる前記金属板部材の外形を打抜き、下層の前記凹部に前記上層の前記凸部を嵌合する工程を繰り返すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の積層製品は、下層の金属板部材の凹部に上層の金属板部材の凸部を嵌合させ一体化される。凸部は、円周、又は多角形の辺から内側に向かって形成された切り込み部を有し、隣り合う切り込み部の間に形成される突起部を有して構成される。凹部及び凸部は、半抜き加工によって形成されているため平面視して同じ形状を有している。そのため、凸部を凹部に嵌合したときに相互に接触する長さ、すなわち、外周側面の接触面積が、凹部及び凸部の形状が単純な円形や四角形などの場合より大きくなるため、上層の金属板部材と下層の金属板部材との結合強度を高めることが可能となる。
【0019】
ところで、従来技術の凹部及び凸部が単純な円形や四角形などの場合には、上層の金属板部材の凸部を下層の金属板部材の凹部に嵌合させたときに、相互の接触側面に発生する圧縮力のうち、凹部外側方向に向かう圧縮力によって、何ら規制がない金属板部材の凹部外周縁が平面方向に変形したり、厚み方向に膨らんだりすることがあり、十分な結合力が選らないことがある。本発明の積層製品においては、金属板部材に形成される凹部及び凸部は、複数の切り込み部と突起部とによって構成されている。そのために、上層の金属板部材の凸部を下層の金属板部材の凹部に嵌合させたときに相互の接触側面に発生する圧縮力は一つひとつの突起部を挟み込むように働くため、十分な結合力を得ることが可能となる。また、凹部及び凸部の外周の接触面積が増加するため結合力を高めることが可能となる。
【0020】
また、本発明の積層製品の製造方法は、半抜き加工によって、凹部及び凸部を形成し、凹部及び凸部が形成された金属板材料から金属板部材の外形を打ち抜き、下層の金属板部材の凹部に上層の金属部材の凸部を嵌合させて一体化する。これらの工程は、例えば、順送型を用いて連続して行うことが可能である。また、旧来の金属板部材の側面溶接や、接着などよりも生産性が高く、さらに、既述した従来技術のように、ポンチ(プッシュパンチ)による押圧工程がなくても、十分な結合強度が得られるため、生産性を高めることが可能となる。
【0021】
以上のことから、本発明によれば、上層の金属板部材と下層の金属板部材との結合強度を高めた積層製品、及び生産性が高い積層製品の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】第1例に係る凹部13及び凸部14の概略構成を示す図である。
【
図3】第1例に係る凸部14の詳細構成を示す平面図である。
【
図4】第2例に係る凸部14の構成を示す図である。
【
図5】第3例に係る凸部30の構成を示す図である。
【
図6】第4例に係る凸部40の構成を示す図である。
【
図7】第5例に係る凸部40の構成を示す図である。
【
図8】第6例に係る凸部50の構成を示す図である。
【
図9】積層製品1の製造方法を示す工程フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態に係る積層製品1及び積層製品1の製造方法について、
図1~
図9を参照しながら説明する。
【0024】
(積層製品1の構成)
図1は、積層製品1の1構成例を示す図である。
図1(a)は平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A切断線で切断した断面図である。積層製品1は、複数の金属板部材Wを積層し、結合部10で結合して構成されている。
図1(a)に示す金属板部材Wは、略コの字形状をしているが、形状はこれに限らない。金属板部材Wにおいて、本例に使用する金属板部材Wの材質は、例えば、純鉄や電磁鋼板などであって、積層製品1としては、積層型電流センサーの端子や、モータのコアなどである。このように使用される金属板部材Wの厚みT0(
図2(c)参照)は、一般に0.3mm~0.5mmの薄板であって、本例の金属板部材Wの幅は1.5mmである。しかし、積層製品1は、純鉄や電磁鋼板以外の鉄系材料、銅系材料などにも適用可能である。なお、
図1(a)に示す結合部10は、配置の1例を表しており、結合部10の数や配置は、金属板部材Wの全体のサイズ、幅及び形状に応じて適宜設定されるものである。
【0025】
図1(b)に示すように、積層製品1は、8層の金属板部材Wで構成されており、上層から下層に向かって金属板部材W1,W2,W3,W4,W5,W6,W7,W8とする。なお、以降の説明において、金属板部材W1~W8を共通に説明することが可能な場合には総称して金属板部材Wと記載することがある。なお、金属板部材Wの数は8個に限らず、もっと少ない数であったり、さらに多くしたりすることが可能である。金属板部材Wの構成について金属板部材W1を代表例として説明する。金属板部材W1には、各結合部10の位置に一方の表面11から窪みである凹部13が形成され、他方の裏面12から凸部14が突設されている。この凹部13及び凸部14は、金属板部材W1をプレス金型による半抜き加工によって形成される。したがって、凹部13の平面形状は、凹凸の関係にあるが凸部14の平面形状と同じになる。なお、金属板部材Wが、本例のように厚みT0(
図2(C)参照)が0.3mm~0.5mmというような薄板の場合、半抜き加工は、押出し加工ともいえる。
【0026】
金属板部材W2~W7は、金属板部材W1の構成と同じであって、上層の金属板部材W1の凸部14は、下層の金属板部材W2の凹部13に嵌合可能である。凸部14は、凹部13の形状よりも締め代に相当する分大きくしている。すなわち、上層の金属板部材W1の凸部14を下層の金属板部材W2の凹部13に嵌合(圧入)することによって、金属板部材W1と金属板部材W2とが結合される。同様に、金属板部材W2と金属板部材W3、金属板部材W3と金属板部材W4、金属板部材W4と金属板部材W5,金属板部材W5と金属板部材W6、及び金属板部材W6と金属板部材W7は、下層の凹部13に上層の凸部14を嵌合することが可能な構成としている。
【0027】
最下層となる金属板部材W8には、凹部13と同じ平面形状の貫通孔15が形成されている。この貫通孔15に上層の金属板部材W7の凸部14を嵌合することによって金属板部材W7と金属板部材W8とが結合される。積層製品1は、最下層の金属板部材W8から上層の金属板部材W7~W1まで順次結合することによって構成される。なお、凸部14が、最下層の金属板部材W8の裏面12から突出してもよい場合には、金属板部材W1~W8の全ての構成を同じにすることが可能である。凹部13及び凸部14は、様々な形態に適応することが可能であり、そのことについて、第1例~第6例を例示して説明する。
【0028】
(第1例)
図2は、第1例に係る凹部13及び凸部14の概略構成を示す図である。
図2(a)は凹部13を表面11側から見た斜視図、
図2(b)は凸部14を裏面12側から見た斜視図、
図2(c)は、
図2(a)の切断線A-Aで切断した断面図である。凹部13は、
図2(a)に示すように、原料である金属板材料W0の表面11に形成された窪みとなる部分である。凸部14は、
図2(b)に示すように、金属板材料W0の裏面12から突出した部分であり、凹部13は平面視して凸部14と同じ形状(相似形)を有している。ただし、凸部14の外周形状は、締め代に相当する分だけ凹部13の外周形状の全体にわたって大きく形成されている。半抜き加工によって、金属板材料W0に凹部13及び凸部14を形成した後、或いは、貫通孔15を形成した後、外形を打ち抜くことによって金属板部材W1~W8が形成される。
【0029】
図2(c)に示すように、凹部13の表面11からの凹部13の深さT1、及び凸部14の裏面12からの高さT2は、金属板部材Wの厚みT0の略1/2としている。ただし、凹部13の深さT1は、凸部14の高さT2よりも、例えば、0.05mm程度深くなるように形成される。このように、凹部13の深さT1を凸部14の高さT2より深くすることによって、上層の金属板部材Wと下層の金属板部材Wとを結合した際に、凹部13と凸部14との間の厚み方向に隙間ができるため、上層と下層の金属板部材Wを密着させることができる。また、凸部14を凹部13に嵌合する(圧入する)際に切粉などが発生することがあるが、発生した切粉などをこの隙間で吸収することができる。なお、凹部13を形成したときの残り厚みT3は、金属板材料W0の厚みT0と凹部13の深さT1の差であるため、残り厚み部分の強度と、必要な結合強度とのバランスが好適になるように、深さT1が決定される。なお、以下に説明する第1例~第6例において、金属板部材Wの断面構成は同じに説明できることから断面形状の説明は省略することがある。
【0030】
図3は、第1例に係る凸部14の詳細構成を示す平面図である。なお、金属板部材W1~W7は、同じ構成であることから金属板部材Wと記載して説明する。また、凹部13及び凸部14は、
図2に示すように、凹凸の関係(裏返しの関係)にあるものの裏面12側から平面視して同じ形状を有していることから凸部14にて詳細構成を説明する。つまり、凸部14の切り込み部21は、凹部13の突起部分であり、凸部14の突起部22は、凹部13の切り込み部分である。凸部14は、円周20から内側に向かう略U字形状の切り込み部21を有している。切り込み部21は、円周20に沿って等間隔の4か所に設けられている。但し、切り込み部21は、必ずしも幾何学的に正確な等間隔としなくてもよい。隣り合う切り込み部21の間は突起部22となる。切り込み部21の底部21aは円弧R1で成形され、突起部22の頂部22aは円弧R2で成形されている。
図3に示す例においては、円弧R1と円弧R1とが直接接続されている。但し、突起部22は、円弧R1と円弧R2とを直線を介在させて接続する形状としてもよい。円周20は、4個の頂部22aの外接円となるため外接円20と記載することがある。
図3において、符号Pは凸部14の図心である。
【0031】
図3を参照して、切り込み部21と突起部22との関係について説明する。第1例においては、切り込み部21の最小幅H1は、突起部22の最小幅H2とほぼ同じであり、さらに、切り込み部21の切り込み深さDが最小幅H1とほぼ同じになるように形成されている。本例において、切り込み部21の最小幅H1は、円弧R1の直径に相当する。
図3に示すように、第1例は、突起部22の頂部22a及び切り込み部21の底部21aが、それぞれ4か所の円弧R1,R2で形成されている。このように、凸部14は、4か所の頂部22aを構成する円弧R2と、4か所の切り込み部21の底部21aを構成する円弧R1を含む形状を有している。そのため、円弧R1,R2の形成部分においては、凹部13に対する噛み合い力、つまり、圧縮応力が高くなり、かつ、凸部14が単純な円形の場合より外周側面の接触面積を大きくすることにより、上層の金属板部材Wと下層の金属板部材Wとの結合強度を高めている。
【0032】
ところで、
図3に示すように、凸部14は、四角形23をベース形状として形成されているともいえる。四角形23は、本例では正方形である。すなわち、切り込み部21は、四角形23の4つの辺24それぞれに形成されており、4か所の頂角となる部分を内接円(円弧R2)で成形し突起部22を形成しているとも言い換えることができる。特許文献1、特許文献2に記載の積層製品は、凹部13及び凸部14の外形形状を単純な円形、三角形や四角形で成形されている。そのことに対して、本例は、切り込み部21を設けることによって、ベース形状が四角形であっても、凹部13及び凸部14の接触長さ、つまり、外周側面の接触面積を大きくすることができる。
【0033】
なお、
図3に示す例では、凸部14側の突起部22の最小幅H2が、金属板部材Wの厚みT0とほぼ同じである。このようにすると、最小幅H2の位置で切断したときの断面形状は正方形となる。したがって、突起部22の厚み方向の強度と横方向の強度とがほぼ同じになり、厚み方向と横方向で強度が偏ることがなくなる。ただし、切り込み部21の最小幅H1、突起部22の最小幅H2、及び切り込み部21の切り込み深さDは、側面接触面積を円周20や四角形23の外周長さ(側面の接触面積)よりも大きくすれば、必ずしも同じにしなくてもよい。突起部22の最小幅H2は、突起部22の裏面12からの高さT2と同じ程度まで小さくすることが可能である。
【0034】
(第2例)
図4は、第2例に係る凸部14の構成を示す図である。
図4に示す凹部13及び凸部14は、
図3に示した第1例における突起部22を4個から6個にした変形例である。金属板部材W1~W7は同じ構成であり、断面形状は
図2(c)と同じに説明できるので図示は省略する。また、凹部13及び凸部14は、凹凸の関係(裏返しの関係)にあるものの裏面12側から平面視して同じ形状を有していることから凸部14の構成を例示して説明する。つまり、凸部14の切り込み部21は、凹部13の突起部分であり、凸部14の突起部22は、凹部13の切り込み部分である。凸部14は、円周20から内側に向かう切り込み部21を有している。切り込み部21は、円周20に沿って等間隔の6か所に設けられている。但し、切り込み部21は、必ずしも幾何学的に正確な等間隔としなくてもよい。隣り合う切り込み部21の間は突起部22である。切り込み部21の底部21aは円弧R1で成形され、突起部22の頂部22aは円弧R2で成形されている。
図4に示す例においては、円弧R1と円弧R1とが直接接続する例である。但し、突起部22は、円弧R1と円弧R2とを直線を介在して接続する形状としてもよい。円周20は、6個の頂部22aの外接円であるため外接円20と記載することがある。
【0035】
図4を参照して、切り込み部21と突起部22との関係について説明する。切り込み部21の最小幅H1は、切り込み深さDとほぼ同じであり、突起部22の最小幅H2は、切り込み深さD及び切り込み部21の最小幅H1より大きい。本例において、切り込み部21の最小幅H1は、円弧R1の直径に相当する。ただし、突起部22の最小幅H2は、切り込み深さD及び切り込み部21の最小幅H1とほぼ同じになるように形成してもよい。例えば、第1例と同様に、突起部22の最小幅H2は、突起部22の裏面12からの高さT2と同じ程度まで小さくすることが可能である。このように、凸部14は、6か所の頂部22aを構成する円弧R2と、6か所の切り込み部21の底部21aを構成する円弧R1を含む形状を有している。そのため、
図3に示す第1例よりも、外周側面の接触面積を大きくでき、また、突起部22の数が増えることから凹部13に対する噛み合い力が高くなり、第1例よりも上層の金属板部材Wと下層の金属板部材Wとの結合強度が高くなる。
【0036】
ところで、
図4に示すように、凸部14は六角形25をベースに形成されているともいえる。すなわち、切り込み部21は、六角形25の6つの辺26それぞれに形成されており、6か所の頂角となる部分が内接円である円弧R2で形成されていると言い換えることができる。なお、切り込み部21及び突起部22の数は、6個に限らず、5個や8個というように増減してもよい。つまり、五角形や八角形などの多角形の各辺に切り込み部21を設ける構成も可能である。
【0037】
(第3例)
図5は、第3例に係る凸部30の構成を示す図である。凹部31及び凸部30は、凹凸の関係(裏返しの関係)にあるため凸部30の構成を説明する。第3例は、既述した第2例の変形例であり、突起部32の形状が異なる。
図4と共通に説明できる部分には、
図4と同じ符号を付している。なお、凸部30の対となる窪み部分を凹部31とする。凸部30は、円周20から内側に向かって形成された略U字形状の切り込み部21を有している。切り込み部21は、円周20に沿って等間隔の6か所に設けられている。隣り合う切り込み部21の間が突起部32となる。切り込み部21の底部21aは円弧R1で成形されている。
【0038】
ここで、突起部32のうち、対角に配置される突起部32aと突起部32bとは、それぞれの底部21aの円弧R1、円弧R1の接線を円周20に交差するまで延伸させた直線部32c、及び2本の直線部32cで挟まれた領域の円周20の一部である外周部33で構成される。外周部33と直線部32cとの交差部は、円弧R3で接続されている。突起部32a,32b以外の他の各突起部32も同様に構成されている。突起部32は、突起部32の外周部33、直線部32c、及び12か所の小径の円弧R3で形成されている。このように、凸部14が、多数の小径の円弧R3と、切り込み部21の底部21aの円弧R1を含む形状を有している。第3例においては、突起部32の数は第2例と同じであって、側面の接触面積も同等であるが、突起部32の先端の円弧R3の数が第2例よりも多い。そのため、円弧R3の形成部分においては、凹部13に対する噛み合い力が高くなり、上層の金属板部材Wと下層の金属板部材Wとの結合強度を高めることが可能となる。
【0039】
続いて、第4例及び第5例について
図6及び
図7を参照して説明する。第4例及び第5例は、凸部40及び凸部50の外形形状が略四角形の例である。
【0040】
(第4例)
図6は、第4例に係る凸部40の構成を示す図である。なお、図示は省略するが、凸部40の対となる窪み部分を凹部41とする。凸部40及び凹部41は、凸凹の関係(裏返しの関係)にあるため、凸部40の構成を説明する。凸部40は、四角形(本例は正方形)の4つの辺42の中央部から内側に向かって形成された略U字形状の切り込み部43を有している。切り込み部43は、各辺42の中央部に設けられている。隣り合う切り込み部43の間が突起部44となる。突起部44は、四角形の4隅に設けられ、突起部44の平面形状は略四角形となる。切り込み部43の底部43aは円弧R1で形成され、突起部44の頂部45及び他の角部46は円弧R4で成形されている。突起部44の4か所の頂部45は、外接円47に接している。
【0041】
図6を参照して、切り込み部43と突起部44との関係について説明する。切り込み部43の最小幅H1は切り込み深さDより小さく、突起部44の最小幅H2は、切り込み部43の最小幅H1より大きく、切り込み深さDより小さい。切り込み部43の最小幅H1、突起部44の最小幅H2、及び切り込み部43の切り込み深さDは、単純な四角形の外周長さ(側面の接触面積)よりも大きくすれば、それぞれの大きさを同じにしても、異なるように形成してもよく、適宜設定可能である。例えば、突起部44の最小幅H2は、突起部44の裏面12からの高さT2と同じ程度まで小さくすることが可能である。一つの突起部44は、頂部45及び角部46がそれぞれ円弧R4で接続されている。このように、突起部44が、多数の小径の円弧R4と、切り込み部43の底部43aの円弧R4を含む形状で形成されていることから凹部13に対する噛み合い力が高くなり、かつ、外形形状が単純な四角形の場合よりも凹部41及び凸部40の外周側面の接触面積を大きくすることができるため、結合強度を高めることが可能となる。
【0042】
(第5例)
図7は、第5例に係る凸部40の構成を示す図である。第5例は、第4例(
図6参照)の変形例であり、第4例との相違箇所について説明する。なお、第4例と共通に説明できる部分には、
図6と同じ符号を付している。第5例の凸部40は、第4例の頂部45の位置に第2切り込み部48を設け、第2切り込み部48の両側に小突起部44a,44bが形成されている点が異なる。つまり、突起部44は、2か所の小突起部44a,44bで構成されている。したがって、第4例の凸部50が4か所の突起部44を有していることに対して、第5例においては、8か所の小突起部44a,44bを有していることになる。小突起部44a,44bは、各角となる部分が円弧R4で形成されている。
【0043】
このように構成される第5例は、第4例に対して凸部40と凹部41との外周側面の接触面積に大きな差はないものの、8か所の小突起部44a,44bの凹部41に対する噛み合い力が高くなり、上層の金属板部材Wと下層の金属板部材Wとの結合強度が第4例よりも高めることが可能となる。
【0044】
(第6例)
図8は、第6例に係る凸部50の構成を示す図である。なお、図示は省略するが、凸部50の対となる窪み部分を凹部51とする。凸部50及び凹部51は、凸凹の関係(裏返しの関係)にあるため、凸部50の構成を説明する。凸部50は、4つの辺52それぞれから内側に向かって形成された略U字形状の切り込み部53を有している。切り込み部53は、各辺の中心から同じ方向に偏った位置に形成される。
図8に示す例では、切り込み部53は、4つの辺52のうち、突起部54の最小幅H2を残す位置に偏って配置されている。隣り合う切り込み部53の間が突起部54となる。突起部54は、4か所に設けられ、切り込み部53の底部53aは円弧R5で形成され、突起部54の頂部55は、円弧R6で形成されている。突起部54の4隅の頂部55は、外接円57に接している。
【0045】
図8に示す例は、円弧R5と円弧R6は同じ大きさである。突起部54の最小幅H2は、切り込み部53の最小幅H1と同じになるように形成され、切り込み部53の切り込み深さDより小さい。切り込み部53の最小幅H1、突起部54の最小幅H2、及び切り込み部53の切り込み深さDは、単純な四角形の外周長さ(側面の接触面積)よりも大きくすれば、それぞれを同じにしても、異なるように形成してもよく、適宜設定可能である。例えば、突起部54の最小幅H2は、突起部54の裏面12からの高さT2と同じ程度まで小さくすることが可能である。
図8に示す例は、第4例の突起部44に対して突起部44の幅が小さくなっているため、締め代を同じにした場合、凸部50を凹部51に嵌合したときの圧縮応力が高くなり、さらに、凸部50と凹部51とのの外周側面の接触面積を単純な四角形よりも大きくすることができるため、結合強度を高めることが可能となる。
【0046】
続いて、積層製品1の製造法について
図9に示す工程フロー説明図に沿って説明する。
【0047】
図9は、積層製品1の製造方法を示す工程フロー説明図である。既述した第1例~第5例は、形状は異なるものの同じ工程で製造することが可能であるから、
図8の工程フロー説明図に沿って、
図1を参照しながら説明する。なお、積層製品1の製造方法は、順送型によって各工程が連続的に実行されるものである。まず、原料である金属板材料W0に最下層となる金属板部材W8の貫通孔15を形成する(ステップS1)。次いで、金属板材料W0から最下層の金属板部材W8の外形を打ち抜く(ステップS2)。次いで、半抜き加工によって、金属板部材W8の上層となる金属板部材W7の凹部13及び凸部14を形成する(ステップS3)。次いで、金属板部材W7の外形を打抜き、金属板部材W8の貫通孔15に金属板部材W7の凸部14を嵌合する(ステップS4)。なお、ここで、嵌合するとは、貫通孔15に凸部14を嵌め合わせて圧入することをさす。
【0048】
このようして、最下層の金属板部材W8にその上層の金属板部材W7を積層する。続いて、半抜き加工によって、金属板材料W0に金属板部材W7のさらに上層となる金属板部材W6の凹部13及び凸部14を形成する(ステップS5)。次いで、金属板材料W0から金属板部材W6の外形を打抜き、下層の金属板部材W7の凹部13に金属板部材W6の凸部14を嵌合する(ステップS6)。金属板部材W6より上層となる金属板部材W5~W1においても、ステップS5及びステップS6の工程を繰り返す。つまり、金属板部材W5~W1は、金属板材料W0に、金属板部材Wの各層それぞれの凹部13及び凸部14を順次形成して外形を打抜き、下層の凹部13に上層の凸部14を嵌合し一体化する(ステップS7)。そして、次工程において、所定数の金属板部材Wを嵌合したかを判定する(ステップS8)。積層製品1は、所定数の金属板部材Wの嵌合によって一体化される。そして、所定数に達するまで、ステップS1~ステップS8までの工程を繰り返す。
【0049】
ステップS8において、所定数の金属板部材Wが嵌合されていない場合には(NO)、金属板部材Wに凹部13及び凸部14を形成して外形を打抜き、下層の凹部13に上層の凸部14を嵌合する各工程を所定数に達するまで繰り返す(ステップS7に相当する工程)。
【0050】
以上説明した積層製品1の製造方法は、順送型によって各工程が連続的に実行されるものである。順送型による製造方法においては、最下層の金属板部材W8の外形を打ち抜く工程(ステップS2)と、上層の金属板部材W7の凹部13及び凸部14を形成する工程(ステップS3)とを同時に行うことが可能である。また、金属板部材W7の外形を打抜き、金属板部材W8の貫通孔15に金属板部材W7の凸部14を嵌合する工程(ステップS4)と、さらに上層の金属板部材W6の凹部13及び凸部14を形成する工程(ステップS5)を同時に行うことが可能である。金属板部材W6よりも上層の金属板部材Wにおいても、外形打ち抜き工程と、凸部14を凹部13に嵌合する工程と、同時に上層の金属板部材Wとなる凹部13及び凸部14を形成する工程とを、同時に行うことが可能である。
【0051】
以上説明した第1例の積層製品1は、下層の金属板部材Wの凹部13に、上層の金属板部材Wの凸部14を嵌合し一体化される。凸部14は、円周20、又は四角形23の4つの辺24から内側に向かって形成される複数の切り込み部21を有し、隣り合う切り込み部21の間に形成される突起部22を有している。既述した従来技術のような凹部13及び凸部14が単純な円形や四角形の場合には、上層の金属板部材Wの凸部14を下層の金属板部材Wの凹部13に嵌合させたときに、相互の接触側面に発生する圧縮力のうち、図心Pから凹部13の外側方向に向かう圧縮力によって、何ら規制がない金属板部材Wの凹部13外周縁が平面方向に変形したり、厚み方向に膨らんだりすることによって、十分な結合力が得られないことがある。
【0052】
第1例の積層製品1においては、凸部14は、複数の切り込み部21と突起部22とによって構成されていることから、上層の金属板部材Wの凸部14を下層の金属板部材Wの凹部13に嵌合させたときに相互の接触側面に発生する圧縮力は一つひとつの突起部22を挟み込むように働くため、十分な結合力を得ることが可能となる。また、凸部14を凹部13に嵌合したときに相互に接触する長さ、すなわち、外周側面の接触面積が、凹部13及び凸部14が単純な円形や四角形などの場合より大きくなる。そのため、上層の金属板部材Wと下層の金属板部材Wとの結合強度を高めることが可能となる。第2例~第6例においても、第1例と同様な理由で結合強度を高めることが可能となる。ただし、第3例は、突起部22が第1例よりも増やしていることから、第1例よりも結合力が高くなる。また、第5例は、突起部44に小突起部44a,44bを設けているために、第4例よりも結合力が高くなる。以上のことから、各例において突起部22,32,44,54の数を増やしていけば、上層の金属板部材Wと下層の金属板部材Wとの結合力を高めることが可能となるといえる。
【0053】
また、下層の金属板部材Wの凹部13と、上層の金属板部材Wの凸部14とを嵌合させたとき、相互の接触側面の全周にわたって締め代が設けられる。そのために、単純な円や四角形のときよりも凹部13と凸部14との外周側面の接触面積が大きく、凸部14を凹部13に嵌合したときに相互の外周側面に発生する総圧縮力が大きくなる。このことから、上層の金属板部材Wと下層の金属板部材Wとの結合強度を高めることが可能となる。
【0054】
第1例の凸部14は、
図2及び
図3に示すように、円周20に沿って切り込み部21及び突起部22が等間隔(90度間隔)に4か所ずつ設けられている。また、第2例(
図4参照)及び第3例(
図5参照)の凸部14、凸部30それぞれが、切り込み部21及び突起部22が円周20に沿って等間隔(60度間隔)の6か所ずつに設けられている。このような構成にすることによって、上層の凸部14を下層の凹部13に嵌合する際に、場所毎に発生する圧縮力のばらつきを抑えることができるため、嵌合時の歪みを抑え、金属板部材Wの反りを抑えることが可能となる。外形が四角形の第4例及び第5例においても、それぞれの突起部44,54が外周方向に等間隔に設けられているため、第1例及び第2例と同様な効果が得られる。
【0055】
また、第1例及び第2例の凸部14は、切り込み部21の底部21aが円弧R1、突起部22の頂部22aが円弧R2で形成されている。第3例の凸部30は、切り込み部21の底部21aが円弧R1、外周部33と直線部32cとの交差位置が小径の円弧R3で形成されている。また、第4例の凸部40は、切り込み部43の底部43aが円弧R1、突起部44の頂部45及び角部46が円弧R4で形成されている。第5例の凸部50は、切り込み部53の底部53aが円弧R5、突起部54の頂部55、及び切り込み部53と辺52が交差する位置が円弧R6で形成されている。このように、第1例~第6例の各突起部は、角となる部分が円弧R1~R6のいずれかで丸められて構成されているため、下層の各凹部に上層の各凸部を嵌合したときに角となる部分に生ずる応力集中を抑え、損傷を抑えることが可能となる。さらに、図示は省略するが、半抜き加工の際に用いる金型のパンチやダイなどにおいて、角ができることによる損傷を抑えることが可能となる。
【0056】
また、第1例~第6例において、各凹部の表面11からの深さT1は、各凸部の裏面12からの高さT2より大きくしている。このように構成すれば、上層の金属板部材Wと下層の金属板部材Wとを結合した際に、下層の各凹部と上層の各凸部との間の厚み方向に隙間ができるため、嵌合工程において発生する切粉などをこの隙間で吸収することができ、上層の金属板部材Wと下層の金属板部材Wとを密着させることが可能となる。
【0057】
積層製品1の製造方法は、まず、金属板材料W0に貫通孔15を形成し、最下層となる金属板部材W8を打ち抜く。次いで、金属板材料W0に上層の金属板部材W7の凹部13及び凸部14を形成した後、金属板部材W7の外形を打抜き、金属板部材W7の凸部14を最下層の金属板部材W8の貫通孔15に嵌合する。そして、金属板部材W7より上層の金属板部材W6~W1においては、金属板材料W0に上層となる金属板部材Wの凹部13及び凸部14を形成し、外形を打ち抜き、上層の金属板部材Wの凸部14を下層の金属板部材Wの凹部13に嵌合する。積層製品1は、以上の工程を所定数だけ繰り返し、8層の金属板部材Wを一体化することによって形成される。
【0058】
このような製造法によれば、積層製品1は、最下層の金属板部材W8の貫通孔15を形成する工程、金属板材料W0に金属板部材Wの半抜き加工工程、金属板部材Wの外形を打抜き、下層の金属板部材Wの凹部13に上層の金属板部材Wの凸部14を嵌合する工程によって形成される。これらの各工程は、単純な工程で構成され、旧来の金属板部材の側面溶接や、接着などによる製造方法、或いは、特許文献に記載のポンチなどによる補強工程を有する製造方法に対して、格段に生産性を高めることが可能となる。
【符号の説明】
【0059】
1…積層製品、10…結合部、11…表面、12…裏面、13,31,41,51…凹部、14,30,40,50…凸部、15…貫通孔、20…円周(外接円)、21,43,53…切り込み部、22,32,44,54…突起部、21a,43a,53a…切り込み部の底部、22a,45,55…突起部の頂部、24,42,52…四角形の辺、25…六角形、26…六角形の辺、32a,32b…対角の突起部、32c…直線部、33…外周部、42…辺、44a,44b…小突起部、46,56…角部、47…外接円、D…切り込み深さ、48…第2切り込み部、H1…切り込み部の最小幅、H2…突起部の最小幅、P…図心、R1~R6…円弧、T0…金属板部材の厚み、T1…凹部深さ(凸部高さ)、W0…金属板材料、W,W1~W8…金属板部材
【手続補正書】
【提出日】2023-07-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
金属板部材を積層一体化して構成される積層製品であって、
前記金属板部材は、半抜き加工によって、前記金属板部材の表面に形成される凹部と、裏面に形成され前記凹部に嵌合可能な凸部とを有し、
前記凸部は、平面視して円周又は多角形の辺から内側に向かって形成される複数の切り込み部と、隣り合う前記切り込み部の間に形成される突起部とを有し、
前記突起部の最も幅が小さい領域は、前記突起部の最も幅が大きい領域より前記突起部の頂部から遠い位置に配置されており、
一方の前記金属板部材の前記凹部に、他方の前記金属板部材の前記凸部を嵌合することによって一体化されている、
ことを特徴とする積層製品。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項6
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項6】
最下層となる金属板材料に凸部に倣う形状の貫通孔を形成する工程と、
前記金属板材料から前記最下層となる金属板部材を打ち抜く工程と、
半抜き加工によって、円周又は多角形の辺から内側に向かって形成される略U字形状の切り込み部と、隣り合う前記切り込み部の間に形成される突起部とを有する前記凸部と、前記凸部に倣う形状を有し、前記凸部が嵌合可能な凹部とを形成する工程と、
前記凹部及び前記凸部が形成された前記金属板材料から前記最下層の直ぐ上層となる前記金属板部材の外形を打ち抜き、前記凸部を前記貫通孔に嵌合する工程と、
前記金属板材料に前記上層となる前記金属板部材のさらに上層の前記金属板部材の前記凹部及び前記凸部を形成する工程と、
前記さらに上層の前記金属板部材の外形を打抜き、前記上層の前記凸部を下層の前記凹部に嵌合する工程と、を含み、
前記突起部の最も幅が小さい領域は、前記突起部の最も幅が大きい領域より前記突起部の頂部から遠い位置に配置されており、
所定数に達するまで、前記凹部及び前記凸部を形成する工程と、前記上層となる前記金属板部材の外形を打抜き、下層の前記凹部に前記上層の前記凸部を嵌合し一体化する、
ことを特徴とする積層製品の製造方法。