IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日本生物製剤の特許一覧

<>
  • 特開-コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤 図1
  • 特開-コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤 図2
  • 特開-コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤 図3
  • 特開-コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057696
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/65 20060101AFI20240418BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20240418BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20240418BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240418BHJP
   A61K 8/04 20060101ALI20240418BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20240418BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240418BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20240418BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20240418BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240418BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
A61K8/65
A61K8/73
A61K8/34
A61Q19/00
A61K8/04
A61K9/10
A61K47/36
A61K47/38
A61K47/42
A61K47/10
A61K47/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164518
(22)【出願日】2022-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】597044704
【氏名又は名称】株式会社日本生物製剤
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【弁理士】
【氏名又は名称】木元 克輔
(72)【発明者】
【氏名】田代 克昌
(72)【発明者】
【氏名】井上 慎二郎
(72)【発明者】
【氏名】宮井 遥
(72)【発明者】
【氏名】緒方 瑠美
(72)【発明者】
【氏名】林 泓錫
【テーマコード(参考)】
4C076
4C083
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076BB31
4C076CC18
4C076DD38
4C076EE30
4C076EE32
4C076EE43
4C076FF68
4C083AB051
4C083AB102
4C083AB282
4C083AC121
4C083AC122
4C083AC131
4C083AC172
4C083AD281
4C083AD351
4C083AD352
4C083AD431
4C083AD432
4C083BB44
4C083BB51
4C083CC02
4C083DD41
4C083EE12
4C083EE14
4C083FF04
(57)【要約】
【課題】コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤の提供。
【解決手段】1質量%~5質量%のコラーゲン、0.1質量%~20質量%の増粘剤、7質量%~25質量%の保湿剤及び70質量%以上の水を含有する、コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1質量%~5質量%のコラーゲン、0.1質量%~20質量%の増粘剤、7質量%~25質量%の保湿剤及び70質量%以上の水を含有する、コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤。
【請求項2】
前記増粘剤がキサンタンガム、ローカストビーンガム、カラギーナン及びヒドロキシエチルセルロースからなる群より選択された1種以上の増粘剤を含む、請求項1に記載の被膜形成剤。
【請求項3】
前記増粘剤がキサンタンガム、ローカストビーンガム及びカラギーナンからなる群より選択された1種以上の増粘剤である、請求項1に記載の被膜形成剤。
【請求項4】
前記増粘剤がキサンタンガムである、請求項1に記載の被膜形成剤。
【請求項5】
ラノリン、ポリソルベート60及びポリソルベート80の含有量の合計が10質量%以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の被膜形成剤。
【請求項6】
乳化剤の含有量が10質量%以下である、請求項5に記載の被膜形成剤。
【請求項7】
乳化剤を含まない、請求項6に記載の被膜形成剤。
【請求項8】
前記保湿剤がグリセリン、ソルビトール及びプロピレングリコールからなる群より選択された1種以上の保湿剤である、請求項7に記載の被膜形成剤。
【請求項9】
前記保湿剤がグリセリンである、請求項8に記載の被膜形成剤。
【請求項10】
pHが5.0~8.0である、請求項9に記載の被膜形成剤。
【請求項11】
緩衝剤を含む、請求項10に記載の被膜形成剤。
【請求項12】
前記コラーゲンの抽出並びに前記コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤の製造及び保存の過程において、コラーゲンを含有する溶液の温度が33℃以下に保たれ、かつpHが10.0以下に保たれる、請求項11に記載の被膜形成剤。
【請求項13】
1質量%~5質量%のアテロコラーゲン、0.14質量%~2質量%のキサンタンガム、7質量%~11質量%のグリセリン及び76質量%以上の水を含有し、かつ、乳化剤の含有量が10質量%以下である、コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤。
【請求項14】
1質量%~5質量%のコラーゲン、0.1質量%~20質量%の増粘剤、7質量%~25質量%の保湿剤及び70質量%以上の水を含有する、コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤の製造方法であって、前記コラーゲンが、抽出の過程でコラーゲンを含有する溶液のpHが10.0以下に保たれ、かつ、前記溶液の温度が33℃以下に保たれる条件で抽出されたコラーゲンであり、コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤の製造及び保存の過程で、コラーゲンを含有する溶液のpHが10.0以下に保たれ、かつ、前記溶液の温度が33℃以下に保たれる、製造方法。
【請求項15】
前記コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤がさらに緩衝剤及び酸を含有する、請求項14に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚に適用した場合に人工的な被膜(セカンドスキン)を形成する外用製剤(被膜形成剤)は、不織布シート等のマスクパック及び絆創膏では接触しにくい皮膚表面組織の微細な凹凸部にも浸潤可能であることから、保湿用途及び保護用途の化粧品への応用、並びに、創傷被覆材として、及び、薬剤を含有させた治療用外用製剤として用いる医薬品への応用が期待されている。
【0003】
被膜形成剤の中でも、動物由来天然高分子素材を含む被膜形成剤は、合成高分子化合物を含む被膜形成剤との比較において、皮膚組織のテクスチャに近似した特性を持ち、皮膚上の代謝を妨げず、皮膚への適用による刺激性が低く、且つ、水溶性で洗い流すことが可能であり剥離時に皮膚を傷める懸念がないという特徴がある。
【0004】
特許文献1及び非特許文献1には、動物由来天然高分子であるウシ由来コラーゲン及び/もしくはキトサン、並びに、乳化剤であるラノリン、ポリソルベート60もしくはポリソルベート80を含むコラーゲン含有クリーム剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】インド特許出願公開公報第18/2017号(インド特許出願第3554/DEL/2015号)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Sivalingam Udhayakumar,et al.,「Biomaterials Science」、2017年、5巻、p1868―1883
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
代表的な動物由来天然高分子であるコラーゲンは、生体内において三次元架橋を形成する。また、生体外で人為的に架橋させたコラーゲン繊維は、高い保湿作用、保護作用及び創傷治癒作用等を有することが知られている。しかし、一般的なスキンケア用途としてのコラーゲン材料は、製造工程の加熱処理及び/又は強塩基処理により繊維化能が失われている。一方、コラーゲンは等電点付近でゲル化するが、構造が脆弱であるため、被膜安定化を目的として乳化剤が添加されたクリーム剤として利用する必要があり、コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤として利用することができない。
【0008】
また、本発明者らは、コラーゲンの抽出過程及びコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤の製造過程において加熱処理及び強塩基処理を行わず、繊維化能を維持した状態で単離したコラーゲンを用いたハイドロゲル被膜形成剤について、コラーゲンに加えてグリセリン等の保湿剤を含有させたコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤を作成したとしても、形成される被膜の形態が不安定となってしまうという新規の課題を見出した。
【0009】
したがって、本発明の課題は、繊維化能を維持した状態のコラーゲンを含有し、かつ形成されるハイドロゲル被膜の形態が安定なコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねたところ、加熱処理及び強塩基処理を行わずに単離したコラーゲン並びにグリセリン等の保湿剤に加えて、増粘剤を含有するコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤によれば、さらに乳化剤を含有させることなく、形態が安定なハイドロゲル被膜を形成可能であることを見出した。
【0011】
さらに、保湿剤に加えて増粘剤を含有するコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤は、皮膚に対する適用によりコラーゲンハイドロゲル被膜を形成し、肌のシワ改善、キメ改善、ポルフィリン低減及び乾燥肌改善等の効果を有する化粧品、並びに、尋常性ざ瘡(ニキビ)の改善といった治療効果を有する医薬品として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[18]に関する。
[1]1質量%~5質量%のコラーゲン、0.1質量%~20質量%の増粘剤、7質量%~25質量%の保湿剤及び70質量%以上の水を含有する、コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤。
[2]上記増粘剤がキサンタンガム、ローカストビーンガム、カラギーナン及びヒドロキシエチルセルロースからなる群より選択された1種以上の増粘剤を含む、[1]に記載の被膜形成剤。
[3]上記増粘剤がキサンタンガム、ローカストビーンガム及びカラギーナンからなる群より選択された1種以上の増粘剤である、[1]に記載の被膜形成剤。
[4]上記増粘剤がキサンタンガムである、[1]に記載の被膜形成剤。
[5]ラノリン、ポリソルベート60及びポリソルベート80の含有量の合計が10質量%以下である、[1]~[4]のいずれか一つに記載の被膜形成剤。
[6]乳化剤の含有量が10質量%以下である、[1]~[5]のいずれか一つに記載の被膜形成剤。
[7]乳化剤を含まない、[1]~[6]のいずれか一つに記載の被膜形成剤。
[8]上記保湿剤がグリセリン、ソルビトール及びプロピレングリコールからなる群より選択された1種以上の保湿剤である、[1]~[7]のいずれか一つに記載の被膜形成剤。
[9]前記保湿剤がグリセリンである、[1]~[8]のいずれか一つに記載の被膜形成剤。
[10]pHが5.0~8.0である、[1]~[9]のいずれか一つに記載の被膜形成剤。
[11]緩衝剤を含む、[1]~[10]のいずれか一つに記載の被膜形成剤。
[12]酸を含む、[1]~[11]のいずれか一つに記載の被膜形成剤。
[13]防腐剤を含む、[1]~[12]のいずれか一つに記載の被膜形成剤。
[14]上記コラーゲンの抽出並びに上記コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤の製造及び保存の過程で、コラーゲンを含有する溶液の温度が33℃以下に保たれ、かつpHが10.0以下に保たれる、[1]~[13]のいずれか一つに記載の被膜形成剤。
[15]キトサンを含まない、[1]~[14]のいずれか一つに記載の被膜形成剤。
[16]1質量%~5質量%のアテロコラーゲン、0.14質量%~2質量%のキサンタンガム、7質量%~11質量%のグリセリン及び76質量%以上の水を含有し、かつ、乳化剤の含有量が10質量%以下である、コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤。
[17]1質量%~5質量%のコラーゲン、0.1質量%~20質量%の増粘剤、7質量%~25質量%の保湿剤及び70質量%以上の水を含有する、コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤の製造方法であって、上記コラーゲンが、抽出の過程でコラーゲンを含有する溶液のpHが10.0以下に保たれ、かつ、上記溶液の温度が33℃以下に保たれる条件で抽出されたコラーゲンであり、コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤の製造及び保存の過程で、コラーゲンを含有する溶液のpHが10.0以下に保たれ、かつ、上記溶液の温度が33℃以下に保たれる、製造方法。
[18]上記コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤がさらに緩衝剤及び酸を含有する、[17]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤によれば、さらに乳化剤を含有させることなく、形態が安定なハイドロゲル被膜を形成可能である。
【0014】
また、本発明のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤は、皮膚に対する適用によりコラーゲンハイドロゲル被膜を形成し、肌のシワ改善、キメ改善、ポルフィリン低減及び乾燥肌の改善といったスキンケア効果、並びに、尋常性ざ瘡(ニキビ)の改善といった治療効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤の増粘剤含有の有無における、形成されたハイドロゲル被膜の形態安定性を示す図である。
図2】コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤を皮膚に適用した場合のスキンケア効果における使用例の結果を示す図である。
図3】コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤を乾燥した手掌に適用した場合の乾燥肌改善効果における使用例の結果を示す図である。
図4】コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤を医薬部外品と併用した場合のニキビケア効果における使用例の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤は、1質量%~5質量%のコラーゲン、0.1質量%~20質量%の増粘剤、7質量%~25質量%の保湿剤及び70質量%以上の水を含有する。
【0017】
本発明のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤は、コラーゲンを含む。コラーゲンは、ヒトを含む脊椎動物における細胞外マトリックスの主成分であり、皮膚、関節及び骨等の結合組織を形成する繊維状のタンパク質である。本発明においてコラーゲンは、本発明の被膜形成剤を皮膚に適用した際にゲル化し、保湿作用及び保護作用を有するとともに、コラーゲンを含む被膜形成剤の成分を適用部位に担持する役割を果たす。コラーゲンを含む被膜形成剤の成分を適用部位に担持する役割は、例えば被膜形成剤に緩衝剤を添加した場合には付着部のpHの調整、並びに、薬剤を添加した場合には薬剤の患部への直接送達及び徐放に寄与する。コラーゲンを含む被膜形成剤を創傷部位に創傷被覆材として適用した場合には、細胞外マトリックスとしての創傷部位及びその周囲の組織環境を正常化する作用を有するとともに、血小板と接触することで血小板の粘着凝集反応を誘導する役割を果たし、血液凝固から始まる一連の創傷治癒カスケードの開始に寄与する。
【0018】
本発明に用いられるコラーゲンのタイプ、由来等は特に限定されず、例えば、哺乳類から収集された胎盤、哺乳類、爬虫類及び鳥類から収集された真皮、腱、骨もしくは軟骨又は魚類から抽出された魚鱗、皮膚、浮袋等のコラーゲン含有組織から抽出したものであってもよい。
【0019】
本発明のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤の好ましい一実施形態において、コラーゲンは、アテロコラーゲンである。
【0020】
アテロコラーゲンとは、コラーゲンのN末端とC末端のテロペプチドと呼ばれる非螺旋領域を除去した(以下では「アテロ化した」とも記載する。)タンパク質である。テロペプチドは種差が大きく抗原性が高いことが知られており、テロペプチドの除去により、抗原性を大きく低下させることが期待できる。コラーゲンのアテロ化方法は特に限定されないが、一般にはペプシン等の酵素による処理により行われ、より一般的にはコラーゲン含有組織からのコラーゲン抽出と同時に行われる。
【0021】
本発明に用いることができるコラーゲンの好ましい一例としては、上記コラーゲン含有組織の破砕物を前処理した後に、抽出することにより得られたコラーゲンを挙げることができる。すなわち、本発明に用いることができるコラーゲンの好ましい一例は、上記コラーゲン含有組織の破砕物から、前処理の過程及び抽出の過程を経て得られたコラーゲンである。
【0022】
コラーゲン含有組織の破砕物の前処理としては、高濃度塩化ナトリウム水溶液、界面活性剤等の溶液を用いた脱細胞化処理、有機溶剤等を用いた脱脂処理、塩基等を用いた夾雑タンパク質の分解処理、酸又はキレーター等を用いた脱灰処理を挙げることができ、これらの1つ以上を任意の組み合わせ及び順番で用いることができる。
【0023】
コラーゲンの抽出方法は特に限定されない。例えば塩化ナトリウム等を添加した塩析による抽出、塩酸等の酸による抽出及びペプシン等の酵素による抽出などによって得られたコラーゲンが利用可能である。コラーゲンの繊維化能を維持し、かつ高い収率で抽出する観点から、塩酸等の酸による抽出又はペプシン等の酵素による抽出が好ましく、コラーゲンをアテロ化し抗原性を抑える観点から、ペプシン等の酵素による抽出がより好ましく、酸性条件下におけるペプシン等の酵素による抽出が特に好ましい。
【0024】
コラーゲンの含有量は、コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤の総質量を基準として、1質量%~5質量%であればよく、2質量%~4質量%であることが好ましく、3質量%~4質量%であることがより好ましい。コラーゲンの含有量が1質量%未満になると、被膜の形成が困難になりうる。
【0025】
本発明のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤は、一実施形態において、キトサンを含まない。キトサンは、無脊椎動物(節足動物、菌類、甲殻類等)の結合組織に由来する動物由来天然高分子素材である一方、甲殻類アレルギーのアレルゲンであり、甲殻類アレルギーを持つ者がキトサン含有クリーム等の製品を使用した場合に接触性皮膚炎の症例が報告されている。したがって、キトサンを含まないことにより、使用者を限定せず、かつ、潜在的な甲殻類アレルギーによるアレルギー発症を抑制することが期待できる。
【0026】
増粘剤は、本発明のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤の粘性を高めることで、皮膚に適用された際に被膜形成剤の成分を適用部位に担持する役割を果たす。増粘剤は粘性を高める作用を有するものであれば特に限定されず、例えば、キサンタンガム、ローカストビーンガム、トラガントガム、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、デンプン、可溶性デンプン、アクリレーツコポリマー、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメタクリレート及びシリコーンゴムなどが挙げられ、これらのうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。皮膚に適用した後のゲル化を促進する観点から、キサンタンガム、ローカストビーンガム、カラギーナン及びヒドロキシエチルセルロースからなる群より選択された1種以上の増粘剤を用いるのが好ましく、キサンタンガム、ローカストビーンガム及びカラギーナンからなる群より選択された1種以上の増粘剤を用いるのがより好ましく、キサンタンガムを用いるのが特に好ましい。
【0027】
増粘剤の含有量は、コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤の総質量を基準として、0.1質量%~20質量%であればよく、0.11質量%~8質量%が好ましく、0.12質量%~4質量%がより好ましく、0.13質量%~2質量%がさらに好ましく、0.14質量%~2質量%がより一層好ましく、0.14質量%~1質量%が特に好ましい。
【0028】
保湿剤は、本発明のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤が皮膚上で被膜を形成した際に、適用部位を保湿する役割を果たす。保湿剤は保湿作用を有するものであれば特に限定されず、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングルコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール及びマルチトールなどが挙げられ、これらのうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。高い保湿作用を発揮する観点から、グリセリン、プロピレングリコール及びソルビトールからなる群より選択された1種以上の保湿剤を用いるのが好ましく、グリセリンを用いるのがより好ましい。
【0029】
保湿剤の含有量は、コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤の総質量を基準として、7質量%~25質量%であればよく、7質量%~20質量%が好ましく、7質量%~16質量%がより好ましく、7質量%~13質量%がさらに好ましく、7質量%~11質量%が特に好ましい。
【0030】
本発明のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤は水を含有する。水は、被膜全体に分布して保湿作用を発揮することに加え、特に医薬品として用いるために薬剤等を含有させた場合には、含有される薬物等をゲル中で拡散させることで、薬物を徐放的に直接送達し、効率的かつ長時間の治癒効果をもたらす役割を果たす。水は、精製水が好ましい。
【0031】
水の含有量は、コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤の総質量を基準として、70質量%以上であればよく、73質量%~91質量%が好ましく、76質量%~90質量%がより好ましく、79質量%~89質量%がさらに好ましく、82質量%~88質量%が特に好ましい。上記上限値以下であると、皮膚に適用した際のゲルの保型性が維持されやすい。
【0032】
本発明のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤は、一実施形態において、酸を含む。コラーゲンは、酸性条件においては水に溶解しやすいのに対し、中性条件においてはゲル化しやすく、特に生理的温度条件かつ中性条件下では溶解状態が維持できない。従って、本発明の被膜形成剤に酸を含有させ、製造過程中のコラーゲンの抽出及び/又は溶解において酸性条件とすることで、コラーゲンを溶解させることができる。
【0033】
酸は特に限定されず、例えば、ギ酸、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、硝酸、クエン酸、プロピオン酸、アジピン酸、乳酸、リン酸、酒石酸、メタンスルホン酸、マレイン酸、フマル酸、塩化カルシウム及び塩化アンモニウムなどが挙げられ、これらのうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。一実施形態において、酸は、塩酸である。
【0034】
本発明のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤は、一実施形態において、緩衝剤を含有する。緩衝剤を含有してpHが弱酸性から中性付近に保たれることにより、コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤の皮膚刺激性を低減することができる。更に、特に製造過程中のコラーゲンの抽出及び/又は溶解において、酸性条件下でコラーゲンを溶解させた場合、溶解後に緩衝剤により中和することで、コラーゲンの溶解状態を保ったまま被膜形成剤のpHを弱酸性から中性付近とすることができる。
【0035】
緩衝剤は特に限定されず、例えば、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、トリス緩衝剤、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩及びイプシロン-アミノカプロン酸などが挙げられ、これらのうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。一実施形態において、緩衝剤は、リン酸緩衝剤である。
【0036】
本発明のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤のpHは、皮膚刺激性の低減とコラーゲンの溶解を両立する観点から、pH4.0~9.0であることが好ましく、pH5.0~8.0であることがより好ましい。
【0037】
本発明のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤は、一実施形態において、防腐剤を含む。防腐剤は特に限定されず、例えば、2-フェノキシエタノール、ポリアミノプロピルビグアナイド水溶液、ブチレングリコール、プロパンジオール、ヘキサンジオール、ブチルパラベン、メチルパラベン、プロピルパラベン及び安息香酸ナトリウムなどが挙げられ、これらのうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。一実施形態において、防腐剤は、2-フェノキシエタノールである。
【0038】
本発明のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤は、上記成分の他に、可塑剤、安定化剤、清涼化剤、吸収促進剤、香料及び生理活性物質等を含んでいてもよい。
【0039】
本発明のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤は、一実施形態において、14質量%を超える量の乳化剤を含まない。乳化剤は、被膜形成剤の中でも特にクリーム剤などにおいて、乳化の役割、被膜形成剤中における構成成分の分散性を高める役割及び難溶性の有効成分の溶解性を高める役割等を果たすが、コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤中の乳化剤の含有量が少ないことにより、皮膚刺激性を低減することができる。
【0040】
本発明のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤は、一実施形態において、被膜形成剤の総質量を基準として、乳化剤としてのラノリン、ポリソルベート60及びポリソルベート80の含有量の合計が14質量%以下であり、13質量%以下、12質量%以下、11質量%以下、10質量%以下、9質量%以下、8質量%以下、7質量%以下、6質量%以下、5質量%以下、4質量%以下、3質量%以下、2質量%以下又は1質量%以下であってもよい。一実施形態において、本発明のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤は、ラノリン、ポリソルベート60及びポリソルベート80のいずれも含まない。
【0041】
また、本発明のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤は、一実施形態において、被膜形成剤の総質量を基準として、乳化剤の含有量が14質量%以下であり、13質量%以下、12質量%以下、11質量%以下、10質量%以下、9質量%以下、8質量%以下、7質量%以下、6質量%以下、5質量%以下、4質量%以下、3質量%以下、2質量%以下又は1質量%以下であってもよい。一実施形態において、本発明のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤は、乳化剤を含まない。
【0042】
本発明のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤の製造方法及び製造条件は特に限定されないが、好ましい一実施形態においては、コラーゲンの抽出並びにコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤の製造及び保存の過程でコラーゲンを含む溶液の加熱を行わず低温状態に維持される。コラーゲンは加熱により変性しやすく、変性したコラーゲンはゲル化しにくくなるため、製造の過程では加熱を行わず、低温状態に維持されることが好ましい。さらに、中性条件かつヒトの体温程度の温度条件下においてコラーゲンはゲル化しやすくなるため、皮膚に適用する前に中性かつ高温条件に置かれた溶液は、溶液中でコラーゲンがゲル化してしまい、コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤として利用することができない。本発明のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤に係るコラーゲンを含有する溶液は、例えば40℃以下に保たれることが好ましく、36℃以下に保たれることがより好ましく、33℃以下に保たれることがさらに好ましく、30℃以下に保たれることがより一層好ましく、25℃以下に保たれることが特に好ましい。
【0043】
また、好ましい一実施形態においては、コラーゲンの抽出並びにコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤の製造及び保存の過程で強塩基処理を行わない。すなわち、好ましい一実施形態において、コラーゲンの抽出並びにコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤の製造及び保存の過程で、コラーゲンを含む溶液は、強塩基性条件に曝されない。本発明のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤に係るコラーゲンを含有する溶液は、例えばpH11.0以下に保たれることが好ましく、pH10.5以下に保たれることがより好ましく、pH10.0以下に保たれることがさらも好ましく、pH9.5以下に保たれることがより一層好ましく、pH9.0以下に保たれることが特に好ましい。
【0044】
本発明のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤に係るコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤の適用方法は特に限定されず、例えば塗布又は塗擦であってよい。一実施形態においては、容器内に収容された被膜形成剤がポンプディスペンサーによって吸い上げられて皮膚上に液状、霧状又は泡状で吐出され、塗布もしくは塗擦される。さらに別の一実施形態においては二酸化炭素等の不活性ガスによって形成された泡を塗布又は塗擦される。
【0045】
本発明のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤の用途としては、例えば化粧品用途及び医薬品用途が挙げられる。
【0046】
化粧品用途としては、例えば以下が挙げられる。
【0047】
例えば、皮膚のキメ改善、シワ改善及びポルフィリン低減等の全体的なスキンケアを目的として、皮膚に適用する用途が挙げられる。本用途には、コラーゲンの有する保湿作用、保護作用及び付着部pH調整作用等が寄与することができる。また、本用途において、コラーゲン線維を基調としたハイドロゲル被膜は、皮膚上の代謝物に対する一定の吸着及び蒸散作用を有するため、合成ポリマーや油脂を用いた被膜形成剤により形成される被膜が皮膚上の水分蒸散や皮脂分泌を遮断することにより保湿効果を生ずるのとは異なり、皮膚上の代謝を完全に遮断することなく保湿作用を発揮することができる。さらに、本用途において、コラーゲン線維を基調としたハイドロゲル被膜は、美容成分等の有効成分に対する保持体として機能し、有効成分の徐放効果が期待できる。
【0048】
また、乾燥肌の改善を目的として、乾燥した皮膚に適用する用途が挙げられる。本用途には、コラーゲンの有する保湿作用及び被膜形成剤の成分を適用部位に担持する作用等が寄与することができる。
【0049】
また、敏感肌、マスク荒れの改善及び予防を目的として、これらの症状を呈した皮膚に適用する用途が挙げられる。本用途には、皮膚の保湿保護作用を有するコラーゲン及び被膜形成剤の成分を適用部位に担持する作用等が寄与することができる。
【0050】
また、フレグランスの維持及び香りの変質抑制を目的として、フレグランスを含有する香水、化粧品、リップクリーム、ハンドクリーム又はヘアクリーム等と併用する用途が挙げられる。本用途には、コラーゲンの有する付着部pH調整作用及び被膜形成剤の成分を適用部位に担持する作用等が寄与することができる。
【0051】
また、被膜形成剤にさらに顔料を含有させることによる、化粧下地としての用途が挙げられる。本用途には、コラーゲンの有する保湿作用及び被膜形成剤の成分を適用部位に担持する作用等が寄与することができる。さらに、本発明のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤はスキンケア用途及び創傷治癒用途等にも用いることができるため、一般的な化粧下地としての用途に加えて、スキンケア効果及び治療効果も有する化粧品(ケア化粧品、ケアメイク用品)としての用途も挙げることができる。
【0052】
また、冬場の乾燥及び水回りの作業等により手荒れが生ずることを防ぐ、又は、症状を緩和するケア用途が挙げられる。本用途には、コラーゲンの有する保湿作用及び保護作用等が寄与することができる。
【0053】
また、顔面皮膚のシワ及び毛穴等の凹凸を抑制し平面に近づけることで、肌に対する化粧品の馴染み具合(化粧のり、メイクノリ)を改善することを目的として、化粧の前に予め顔面皮膚に適用する用途が挙げられる。本用途には、コラーゲンの有する保湿作用及び被膜形成剤の成分を適用部位に担持する作用等が寄与することができる。
【0054】
医薬品用途としては、例えば以下が挙げられる。
【0055】
例えば、美容外科治療後に施術部位に頻発する赤み、内出血及び腫れといった症状が改善するまでの時間(ダウンタイム)を短縮し、かつ施術部位を保護することを目的として、美容外科治療後に施術部位に適用する用途が挙げられる。本用途には、コラーゲンの有する保湿作用、保護作用、細胞外マトリックスとして周囲組織環境を正常化する作用及び創傷治癒カスケードを開始する作用等が寄与することができる。
【0056】
また、軽度な熱傷及び擦過傷等に対する創傷被覆材となる創傷治癒促進剤としての用途が挙げられる。本用途には、コラーゲンの有する保湿作用、細胞外マトリックスとして周囲組織環境を正常化する作用及び創傷治癒カスケードを開始する作用等が寄与することができる。さらに、被膜形成剤に抗菌薬及びステロイド等の薬剤を包含させた場合、コラーゲンを含む被膜形成剤の成分が適用部位に担持され、薬剤の患部への直接送達及び徐放することが可能となり、より治癒効果の高い創傷治癒促進剤としての用途も挙げることができる。
【0057】
また、育毛効果を向上することを目的として、育毛剤と併用する用途が挙げられる。本用途には、コラーゲンの有する保湿作用及び保護作用の作用に加え、薬剤を患部へ直接徐放させることによる寄与が期待できる。加えて、薬剤を担持したまま二酸化炭素ガスによって泡状とすることにより、冷却及び刺激による血流改善作用による薬剤送達が期待できる。
【0058】
また、副作用の強い薬剤及び高額な薬剤の使用量抑制を目的とした、被膜形成剤に更に薬剤を包含させた徐放性薬剤のゲルマトリックスとしての用途を挙げることができる。
【0059】
また、抗がん剤の副作用の1つである手足症候群による手足皮膚及び爪の乾燥の改善、並びに、しびれ及び疼痛の軽減を目的として、手足皮膚に適用する用途が挙げられる。本用途には、コラーゲンの有する保湿作用及び保護作用等が寄与することができる。
【0060】
また、日焼け止めの効果を維持するために必要となる塗り直し回数を減らすことを目的として、日焼けを塗布した後の皮膚に適用する用途が挙げられる。本用途には、コラーゲンの有する保湿作用及び被膜形成剤の成分を適用部位に担持する作用等が寄与することができる。
【0061】
また、被膜形成剤にさらに抗真菌薬を含有させる、又は、抗真菌薬と併用することによる、水虫に代表される感染性皮膚疾患の治療用途が挙げられる。本用途には、コラーゲンの有する保湿作用及び保護作用の作用に加え、薬剤を患部へ直接徐放させることによる寄与が期待できる。
【0062】
また、ヒトに限らず、哺乳類に属する動物の皮膚疾患治療剤又は創傷治癒促進剤としての用途も挙げられる。
【0063】
本発明のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤はゲル状であることから、不織布シート等のマスクパック及び絆創膏では接触しにくい皮膚表面組織の微細な凹凸部(小じわ、毛穴及び擦過傷部位等)に浸潤することで有効成分を送達し、且つ、コラーゲンのゲル化作用により固着し、徐放するため、目的部位に対しムラ無く且つ長時間効果が持続する。
【0064】
本発明のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤を皮膚組織表面のケア及び治癒が完了した後に使用する場合は、本品が動物の繊維組織由来である性質上、皮膚組織に対し低刺激且つ皮膚組織の皮脂代謝を妨げない特性を持つため、正常な皮膚組織表面の状態維持及び他の刺激からの保護効果がもたらされる。また、コラーゲンハイドロゲルが形成する被膜は肌の性状に近似しているため、伸縮時に被膜形状が崩れずに維持される。さらに、コラーゲンハイドロゲル被膜は、ぬるま湯で洗い落とすことができ、除去のために剥離する必要が無いため、被膜剥離に伴う皮膚損傷の懸念が無い。
【0065】
以下、実施例等により、本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0066】
[実施例1A]
ブタ胎盤組織由来のコラーゲンを使用して、表1に示す組成のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤を調製した。
【0067】
ブタ胎盤組織を市水洗浄し、肉粉砕機を使用して約3mm径のカッターで細かく切り刻んだ。切り刻んだ胎盤組織をメッシュ袋に充填し、25%塩化ナトリウム水溶液を用いて2日間浸漬洗浄を繰り返すことによる脱細胞化処理及び2%エチレンジアミン四酢酸水溶液を使用して2日間浸漬洗浄を繰り返すことによる脱灰処理を実施した。処理後の胎盤組織は精製水で十分な洗浄を実施した。
【0068】
上記工程で得られた洗浄後済みの胎盤組織の約25倍量の水に懸濁した。胎盤組織中の固形分に対して約20%のペプシンを添加し、溶液のpHを1~2に調整した後、20~25℃で48時間緩やかに攪拌した。攪拌後の溶液に濾過助剤を添加した後、濾紙によって濾過し、得られた濾液をさらに0.45μmフィルターによって濾過した。得られた濾液を5~10℃まで冷却し、0.3規定水酸化ナトリウム水溶液によってpHを7.0に調整することで、アテロ化されたコラーゲンを析出させた。アテロコラーゲンの析出した溶液を遠心分離又は、濾過し、ペレットを回収した。得られたペレットを凍結乾燥することでアテロコラーゲンの粉末を得た。
【0069】
表1に示す割合の0.3wt% 塩酸とグリセリンの混合溶液に、上記工程で得られたアテロコラーゲン粉末を添加し、室温下で約10分間撹拌した後、蓋をした状態で4℃の冷蔵庫中に72時間静置し、アテロコラーゲンを溶解させた。同様に、得られた溶液に0.3mol/Lのリン酸緩衝液(pH7.0)との2質量%キサンタンガム水溶液を混合し、室温下で20分間撹拌した。一度攪拌を止め、2-フェノキシエタノールを添加した後、再び室温下で10分間撹拌した。得られた溶液を遠心によって脱泡することで、表1に示す組成のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤を得た。得られたコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤は冷蔵保存し、以降の実施例に使用した。
【0070】
【表1】
【0071】
[実施例1B]
ブタ真皮組織由来のコラーゲンを使用して、表1に示す組成のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤を調製した。コラーゲンの由来以外は実施例1Aと同様の方法によりコラーゲンの抽出及びコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤の製造を行った。
【0072】
[実施例1C]
ヒト胎盤組織由来のコラーゲンを使用して、表1に示す組成のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤を調製した。コラーゲンの由来以外は実施例1Aと同様の方法によりコラーゲンの抽出及びコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤の製造を行った。
【0073】
[実施例2]
魚類由来のコラーゲンを使用して、表2に示す組成のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤を調製した。
【0074】
真鯛魚鱗を市水洗浄し、肉粉砕機を使用して約3mm径のカッターで細かく切り刻んだ。前処理済みの真鯛魚鱗の約100倍量の水に懸濁した。魚鱗の固形物に対して約20%のペプシンを添加し、溶液のpHを1~2に調整した後、20~25℃で48時間緩やかに攪拌した。攪拌後の溶液に濾過助剤を添加した後、濾紙によって濾過し、得られた濾液をさらに0.45μmフィルターによって濾過した。得られた濾液を5~10℃まで冷却し、0.3規定水酸化ナトリウム水溶液によってpHを7.0に調整することで、アテロ化されたコラーゲンを析出させた。アテロコラーゲンの析出した溶液を遠心分離又は濾過し、ペレットを回収した。得られたペレットを凍結乾燥することでアテロコラーゲンの粉末を得た。
【0075】
表2に示す割合の0.3wt% 塩酸とグリセリンの混合溶液に、上記工程で得られたアテロコラーゲン粉末の20gを添加し、室温下で約10分間撹拌した後、蓋をした状態で4℃の冷蔵庫中に72時間静置し、アテロコラーゲンを溶解させた。同様に、得られた溶液に0.3mol/Lのリン酸緩衝液(pH7.0)と2質量%キサンタンガム水溶液を混合し、室温下で20分間撹拌した。一度攪拌を止め、2-フェノキシエタノールを添加した後、再び室温下で10分間撹拌した。得られた溶液を遠心によって脱泡することで、表2に示す組成のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤を得た。得られたコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤は冷蔵保存し、以降の実施例に使用した。
【0076】
【表2】
【0077】
[実施例3:増粘剤有無における、コラーゲンハイドロゲル被膜の水分に対する形態安定性]
本発明のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤により形成される被膜の形態安定性を評価した。具体的には、ハイドロゲル被膜が形状破綻しやすい環境として水分を多く含んだ環境を想定し、そのような環境下におけるハイドロゲル被膜の形態安定性を評価した。
【0078】
実施例1Aにおいて調製されたコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤(組成は表1と同一である。)又は上記被膜形成剤の2質量%キサンタンガム水溶液をリン酸緩衝液に置換した被膜形成剤(組成を表3に示す。)を1.0g計り取り、シャーレ底面に均一に塗り広げた。毛髪乾燥機により温風を供給することによりコラーゲンハイドロゲル被膜を形成させた後、精製水を10mLシャーレに添加した。精製水存在下でハイドロゲル被膜を取り出すことにより、ハイドロゲル被膜の形態安定性を検討した。結果を図1に示す。
【0079】
【表3】
【0080】
増粘剤としてキサンタンガムを含有する、本発明に係るコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤により形成された被膜は、精製水存在下でも取り出すことができ、かつ、持ち上げた状態で被膜状の形態が安定維持されたのに対し、増粘剤非添加の被膜形成剤では、水中からハイドロゲル被膜を被膜として取り出すことができず、かつ、被膜状の形態が不安定であった。以上から、本発明のコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤は、増粘剤を含有することにより、さらに乳化剤を含有させることなく、形態が安定なハイドロゲル被膜を形成可能であることを見出した。
【0081】
[実施例4:コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤のスキンケア効果における使用例]
実施例1Aにおいて調製されたコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤のスキンケア効果を検討した。
【0082】
30代~50代の女性5名及び20代~40代の男性3名に1箇月間に亘り、毎夕の洗顔後にコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤(4%コラーゲン)を2~3プッシュ(約2~3mL)、毎朝の洗顔後にコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤を市販化粧水により2倍に希釈した被膜形成剤(2%コラーゲン)を2~3プッシュ(約2~3mL)適用した(適用例1)。試験期間中はコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤以外の基礎化粧品及びサプリメント等の使用は禁止し、日中は日焼け止めを併用した。コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤の使用開始前と使用終了の一箇月間に最大5回、肌診断装置(VISIA(登録商標)evolution、インテグラル社製)を用いてシワ、キメ及びポルフィリン(アクネ菌代謝物)の面積値を測定し、使用開始前に対する改善率を算出した。
【0083】
一箇月間の使用終了後のシワ、キメ及びポルフィリンの改善率を表4に、使用前後の被験者の顔面写真の例を図2に、それぞれ示す。改善率は、使用前を基準としたシワ、キメ及びポルフィリンの面積値の減少した割合の各群被験者の平均値を表し、Upは面積が減少したことを、Downは面積が増加したことを、それぞれ表す。適用例1に従ったコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤の適用によって、男性、女性ともにシワ、キメ及びポルフィリンの改善を示した。一方、市販化粧品を同様の適用方法によって適用した被験者において改善が認められた項目は、男性被験者のキメのみであった。
【0084】
【表4】
【0085】
[実施例5:コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤の乾燥肌改善における使用例]
実施例1Aにおいて調製されたコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤の乾燥肌改善効果を検討した。
【0086】
68歳男性の乾燥した手掌及び手背部に1週間に亘り、コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤(4%コラーゲン)を毎日の起床時に1回あたりワンプッシュ(約1mL)適用し、1分間程度かけて塗布した。
【0087】
使用前後の手掌の写真を図3に示す。使用前は手掌には数ミリの大きさの白い角質の剥離が多数存在したのに対し、1週間の連日塗布後には、角質の剥離の数が大幅に減少し、白い部分も小さくなった。すなわち、乾燥肌の顕著な改善効果がみられた。
【0088】
[実施例6:コラーゲンハイドロゲル被膜形成剤のニキビケアにおける使用例]
実施例1Aにおいて調製されたコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤のニキビケア効果を検討した。
【0089】
医薬部外品である市販のニキビケア用クリーム剤を日常的に使用している20代後半の女性に、医薬部外品に加えてコラーゲンハイドロゲル被膜形成剤(4%コラーゲン)を併用した。1週間に亘り毎日就寝前に1回あたり2~3プッシュ(2~3mL)を適用し、1分間程度かけて顔面患部に広げて塗布した。
【0090】
併用前後の顔面の写真を図4に示す。併用開始後から早い段階で炎症が抑えられ、赤味が鎮静化した。新しいニキビの発生も医薬部外品単体より抑制された。併用前は挫創部以外も炎症で荒れた肌質だったが、併用後に正常な肌質に改善した。

図1
図2
図3
図4