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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057697
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】免震構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20240418BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
E04H9/02 331Z
F16F15/02 A
F16F15/02 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164519
(22)【出願日】2022-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】中井 武
(72)【発明者】
【氏名】栗野 治彦
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB10
2E139BA12
2E139BA53
2E139BC16
2E139BD35
2E139BD38
2E139CA02
2E139CA11
2E139CA21
2E139CC02
3J048AC04
3J048BE01
3J048CB21
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】対応可能な地震の特性の範囲をさらに拡大する。
【解決手段】免震構造1は、基礎構造体91に接続されると共に建物92に接続された第1主弾性要素21と、基礎構造体91に接続されると共に建物92に接続された第1可変弾性要素22と、を備える。第1可変弾性要素22は、第1副弾性部材221と、第1副弾性部材221に対して直列に接続されると共に互いに異なる複数の減衰係数(cX1,cX2,・・・)を相互に切り替え可能な第1可変減衰部材222と、を含む。建物92、第1主弾性要素21及び第1可変弾性要素22は、第1可変減衰部材222における減衰係数(cX1,cX2,・・・)に応じた共振振動数(ωX1,ωX2,・・・)を発揮する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部構造体と上部構造体との間に配置される免震構造であって、
前記下部構造体に接続されると共に前記上部構造体に接続された主弾性要素と、
前記下部構造体に接続されると共に前記上部構造体に接続された可変弾性要素と、を備え、
前記可変弾性要素は、副弾性部材と、前記副弾性部材に対して直列に接続されると共に互いに異なる複数の減衰係数を相互に切り替え可能な可変減衰部材と、を含み、
質量体である前記上部構造体、前記主弾性要素及び前記可変弾性要素は、前記可変減衰部材における前記減衰係数に応じた共振振動数を発揮する、免震構造。
【請求項2】
前記複数の減衰係数を相互に切り替えるための制御信号を前記可変減衰部材に与えるコントローラをさらに備える、請求項1に記載の免震構造。
【請求項3】
前記上部構造体または下部構造体に設置されて、変位、速度、加速度及び外力の少なくとも一つに関する情報を取得すると共に取得した前記情報を前記コントローラに与えるセンサをさらに備える、請求項2に記載の免震構造。
【請求項4】
前記可変減衰部材は、
速度に応じた減衰力を発生することによって前記複数の減衰係数を発生するダンパ部と、
前記ダンパ部を構成する部品の速度又は変位に応じて前記ダンパ部が発生する前記複数の減衰係数を相互に切り替える切替部と、を有する、請求項1に記載の免震構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震構造に関する。
【背景技術】
【0002】
免震構造は、免震層によって外部から加わるエネルギを吸収することによって、免震構造の適用対象である上部構造体に発生する損傷を抑制する。一般に、免震構造は、その特性が固定されている。例えば、免震構造を構成するオイルダンパの減衰係数は、入力の状態によらず一定である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6785630号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
建物が受ける地震力は、地震動の特性及び上部構造体の特性などに大きな影響を受ける。従って、免震構造の設計にあっては、免震の対象とする地震動の特性が予め条件として与えられる。例えば、免震構造は、大地震に対応するものとして設けられることがある。また、免震構造は、中小地震に対応するものとして設けられることもある。
【0005】
免震の対象としなかった特性を有する地震が建物に入力された場合には、所望の免震の効果を得ることができないことがあり得る。つまり、大地震に対応するものとして設けられた免震構造は、中小地震に対して十分な免震の効果を得ることができない。また、中小地震に対応するものとして設けられた免震構造は、大地震が発生したときに免震構造に損害が生じる可能性がある。
【0006】
例えば、特許文献1は、減衰力の大きさを変更できるオイルダンパを開示する。特許文献1のオイルダンパは、免震層の振幅が一定の閾値を超えた際に、オイルダンパの減衰力を急激に上げることによって過大な変形を抑制することができる。
【0007】
特許文献1が開示するようなオイルダンパを免震構造の構成要素として採用することにより、免震構造が対応可能な地震の特性の範囲を拡大することができる。しかし、当該技術分野では、対応可能な地震の特性の範囲をさらに拡大することが可能な免震構造が望まれていた。
【0008】
そこで、本発明は、対応可能な地震の特性の範囲をさらに拡大することが可能な免震構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一形態は、下部構造体と上部構造体との間に配置される免震構造である。免震構造は、下部構造体に接続されると共に上部構造体に接続された主弾性要素と、下部構造体に接続されると共に上部構造体に接続された可変弾性要素と、を備える。可変弾性要素は、副弾性部材と、副弾性部材に対して直列に接続されると共に互いに異なる複数の減衰係数を相互に切り替え可能な可変減衰部材と、を含む。質量体である上部構造体、主弾性要素及び可変弾性要素は、可変減衰部材における減衰係数に応じた共振振動数を発揮する。
【0010】
免震構造は、主弾性要素と可変弾性要素とを備えている。ここで、可変弾性要素は、副弾性部材に対して直列に接続された可変減衰部材を有しており、この可変減衰部材の減衰係数を切り替えることによって、可変弾性要素のバネ定数を切り替えることができる。可変弾性要素のバネ定数が変わると、主弾性要素のバネ定数と可変弾性要素のバネ定数とによって決まる共振振動数が変わる。つまり、免震構造の振動特性を切り替えることができる。従って、免震構造は、可変減衰部材の減衰係数を切り替えることによって、免震構造が対応可能な地震の特性の範囲も切り替えることができる。そうすると、免震構造が対応可能な地震の特性の範囲は、ある減衰係数に設定したときに対応可能な地震の特性範囲と、別の減衰係数に設定したときに対応可能な地震の特性範囲と、の和として考えることができる。従って、免震構造は、対応可能な地震の特性の範囲をさらに拡大することができる。
【0011】
上記の免震構造は、複数の減衰係数を相互に切り替えるための制御信号を可変減衰部材に与えるコントローラをさらに備えてもよい。この構成によれば、可変減衰部材を外部から制御することができる。
【0012】
上記の免震構造は、上部構造体または下部構造体に設置されて、変位、速度、加速度及び外力の少なくとも一つに関する情報を取得すると共に取得した情報をコントローラに与えるセンサをさらに備えてもよい。この構成によれば、上部構造体または下部構造体の所望の位置における、変位、速度、加速度及び外力の少なくとも一つに応じて、可変減衰部材の減衰係数を切り替えることができる。つまり、免震構造が対応可能な地震の特性範囲を上部構造体または下部構造体の所望の位置における、変位、速度、加速度及び外力の少なくとも一つに応じて切り替えることができる。
【0013】
上記の免震構造において、可変減衰部材は、速度に応じた減衰力を発生することによって複数の減衰係数を発生するダンパ部と、ダンパ部を構成する部品の速度又は変位に応じてダンパ部が発生する複数の減衰係数を相互に切り替える切替部と、を有してもよい。この構成によれば、可変減衰部材自身が減衰係数を切り替える機能を有する。従って、免震構造を構成するために要する部品の数を減らすことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、対応可能な地震の特性の範囲をさらに拡大することが可能な免震構造が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、免震構造を設置した建物を示す側面図である。
図2図2は、免震構造の構造を示す分解斜視図である。
図3図3(a)は、図2に示す免震構造をY方向からみた側面図である。図3(b)は、図2に示す免震構造をX方向からみた別の側面図である。
図4図4は、図2に示す免震構造をZ方向からみた平面図である。
図5図5は、図2に示す免震構造を力学モデルとして示す図である。
図6図6(a)は、図2に示す免震構造においてX方向の力学モデルを示す図である。図6(b)は、図2に示す免震構造においてY方向の力学モデルを示す図である。
図7図7は、コントローラの物理的な構成の示す概略図である。
図8図8は、変形例である免震構造を示す平面図である。
図9図9は、別の変形例である免震構造を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
図1に示される本実施形態に係る免震構造1は、基礎構造体91(下部構造体)と建物92(上部構造体)との間に配置されている。免震構造1によれば、基礎構造体91から建物92に与えられるエネルギを効果的に吸収することができる。その結果、建物92の損傷を抑制することができる。
【0018】
図2は、図1に示す免震構造1の分解斜視図である。図3(a)は、図2に示す免震構造をY方向からみた側面図である。図3(b)は、図2に示す免震構造をX方向からみた別の側面図である。図4は、図2に示す免震構造をZ方向からみた平面図である。免震構造1は、4個の第1支承装置12と、2個の第2支承装置13と、2個の第1可変減衰装置14と、2個の第2固定減衰装置15と、センサ16と、コントローラ17と、を有する。なお、上記支承装置及び減衰装置の数は例示であるから、免震構造1が備えるこれらの装置の数は、適宜変更が可能である。
【0019】
第1支承装置12は、基礎構造体91及び建物92に固定されている。免震構造1は、4個の第1支承装置12を含み、それぞれの第1支承装置12は、基礎構造体91に対して矩形の角部に対応する位置に配置されている。第1支承装置12は、基礎構造体91に固定される下部固定面121と、建物92に固定される上部固定面122と、下部固定面121及び上部固定面122との間に配置したせん断変形部123と、を有する。
【0020】
下部固定面121及び上部固定面122における固定箇所は、剛体とみなし、免震特性に有意な影響を及ぼさないものとする。第1支承装置12は、建物92を支持する。第1支承装置12は、X方向及びY方向のそれぞれに変形可能である。この変形とは、下部固定面121に対して上部固定面122の位置が、X方向及び/又はY方向にずれることをいう。この変形は、例えば、積層ゴム構造を有するせん断変形部123によってなされる。そして、第1支承装置12は、X方向への変形のしやすさと、Y方向への変形のしやすさに、有意な差異がない。換言すると、第1支承装置12は、X方向のバネ定数と、Y方向のバネ定数とに有意な差異がない。なお、第1支承装置12は、積層ゴム、転がり支承、すべり支承、球面すべり支承等の構造を採用してよい。
【0021】
第2支承装置13は、建物92及び第1可変減衰装置14に固定されている。単体の第2支承装置13の具体的な構成について、単体の第1支承装置12と共通する内容は詳細な説明を省略する。
【0022】
免震構造1は、2個の第2支承装置13を含み、それぞれの第2支承装置13は、基礎構造体91に対してY方向に沿って並んでいる。第2支承装置13は、第1可変減衰装置14に連結される下部固定面131と、建物92に固定される上部固定面132と、下部固定面131及び上部固定面132との間に配置したせん断変形部133と、を有する。
【0023】
第1支承装置12は、X方向及びY方向のそれぞれに変形可能であり、それぞれの変形に応じた復元力を発生する。従って、後に説明する免震構造1の力学モデルにおいて、第1支承装置12は、X方向の力学モデルに現れるし(図6(a)参照)、Y方向の力学モデルにも現れる(図6(b)参照)。一方、第2支承装置13は、X方向およびY方向に変形可能であり、X方向には復元力を発生するが、Y方向には復元力を発生しないとする。従って、後に説明する免震構造の力学モデルにおいて、第2支承装置13は、X方向の力学モデルにのみ現れ(図6(a)参照)、Y方向の力学モデルには現れない(図6(b)参照)。
【0024】
本実施形態の第2支承装置13は、下部固定面131が基礎構造体91に固定されていることを要しない。本実施形態では、第2支承装置13の下部固定面131は、基礎構造体91に接していないとして説明する。なお、第2支承装置13の下部固定面131が基礎構造体91に接している例示については、変形例として後述する。
【0025】
第1可変減衰装置14は、基礎構造体91及び第2支承装置13に固定されている。第1可変減衰装置14は、減衰係数(c)を所望の値に設定可能な構成であれば、任意の装置を採用してよい。例えば、第1可変減衰装置14として線形のオイルダンパを用いてもよい。第1可変減衰装置14は、例えば、X方向に沿って並ぶ一対の第1支承装置12の間に配置されている。第1可変減衰装置14は、基礎構造体91に固定される固定端141と、第2支承装置13に固定される固定端142と、減衰力を発生する減衰力発生部143と、を有する。減衰力発生部143は、固定端141、142の相対的な速度差に比例する減衰力を生じる。第1可変減衰装置14は、X方向に沿った減衰力を生じるように、軸線がX方向と平行になるように配置されている。
【0026】
第1可変減衰装置14は、減衰係数(c)をいくつかの値に切り替えることができる。例えば、第1可変減衰装置14は、第1減衰係数(cX1)と、第2減衰係数(cX2)と、を相互に切り替えることができる。第1可変減衰装置14は、さらに第3、第4~第N減衰係数(cX3、cX4~cXN)を相互に切り替えるものであってよい。このような第1可変減衰装置14は、オイルダンパであり、当該オイルの流路構成を切り替えることによって、減衰係数(c)を切り替えるものが例示できる。
【0027】
第1可変減衰装置14が行う第1減衰係数(cX1)から第2減衰係数(cX2)への切り替え、及び、第2減衰係数(cX2)から第1減衰係数(cX1)への切り替えは、自動制御によって実行されてもよい。
【0028】
自動制御は、地動の加速度を計測する加速度計といったセンサ16と、センサ16が取得した情報を分析して時々刻々に第1可変減衰装置14の減衰特性(減衰係数(c))を操作するコントローラ17(制御装置)と、により実行することができる。コントローラ17は、センサ16からの情報に基づき、予め記録されるアルゴリズムによって、第1可変減衰装置14の制御の要否を判断してもよい。この場合には、コントローラ17は、第1可変減衰装置14であるオイルダンパに制御信号φ2を送る。次に、制御信号φ2を受けたオイルダンパは、内部の油圧弁を開閉する。その結果、オイルダンパにおける作動油が流れる経路が切り替えられるので、作動油が受ける抵抗が切り替わる。つまり、オイルダンパが発生する減衰係数(c)が切り替わる。
【0029】
第2固定減衰装置15は、基礎構造体91及び建物92に固定されている。第2固定減衰装置15は、例えば、Y方向に沿って並ぶ一対の第1支承装置12の間に配置されている。第2固定減衰装置15は、基礎構造体91に固定される固定端151と、建物92に固定される固定端152と、減衰力を発生する減衰力発生部153と、を有する。第2固定減衰装置15は、Y方向に沿った減衰力を生じるように、軸線がY方向と平行になるように配置されている。
【0030】
X方向の共振振動数(ω)は、建物92の質量、第1支承装置12のバネ定数、第2支承装置13のバネ定数及び第1可変減衰装置14の減衰係数(c)に基づく。つまり、X方向の共振振動数(ω)は、第1可変減衰装置14の影響を受ける。換言するとX方向の共振振動数(ω)は、建物92の質量、第1支承装置12のバネ定数及び第2支承装置13のバネ定数だけでは定まらず、第1可変減衰装置14の減衰係数(c)が決まることによって定まる。第1可変減衰装置14の減衰係数(c)は、第2支承装置13のバネ定数に影響を及ぼす。第1可変減衰装置14の減衰係数(c)の影響を受けた第2支承装置13のバネ定数を、「見かけのバネ定数(αk’)」とも称する。
【0031】
一方、Y方向の共振振動数(ω)は、建物92の質量及び第1支承装置12のバネ定数に基づく。つまり、Y方向の共振振動数(ω)は、第2固定減衰装置15の影響を実質的に受けない。
【0032】
<センサ>
センサ16は、対象物における振動の変位、速度、加速度を測定する。センサ16を設置する位置は、特に限定はない。図2の例示では、センサ16は、基礎構造体91に設けている。また、センサ16は、建物92に設けてもよく、基礎構造体91と建物92の両方に設けてもよい。センサ16は、コントローラ17に接続されている。接続の構成は、有線であってもよいし、無線であってもよい。センサ16は、測定した変位、速度又は加速度に関するセンサ信号φ1をコントローラ17に与える。センサ16は、所定の時間が経過する毎にセンサ信号φ1をコントローラ17に与えることとしてよい。また、所定の時間は、センサ16が測定する変位、速度又は加速度の内容(例えば周期等)に応じて、変更してもよい。さらに、センサ16は、コントローラ17の求めに起因せず、主体的にセンサ信号φ1をコントローラ17に与えてもよい。さらには、センサ16は、主体的に動作せず、コントローラ17の求めに応じてセンサ信号φ1をコントローラ17に与えてもよい。
【0033】
<コントローラ>
コントローラ17は、センサ16からセンサ信号φ1を受ける。コントローラ17は、第1可変減衰装置14へ第1制御信号φ21又は第2制御信号φ22を与える。コントローラ17は、センサ16及び第1可変減衰装置14に接続されている。コントローラ17は、センサ16と同様に、有線又は無線によって第1可変減衰装置14と接続されている。第1制御信号φ21を受けた第1可変減衰装置14は、第1減衰係数(cX1)を発揮する構成となる。第2制御信号φ22を受けた第1可変減衰装置14は、第2減衰係数(cX2)を発揮する構成となる。コントローラ17は、センサ信号φ1を利用して、第1制御信号φ21又は第2制御信号φ22の何れか一方を第1可変減衰装置14に与える。なお、以下の説明において、制御信号φ21、φ22を特に区別する必要がない場合には、「制御信号φ2」と記す。
【0034】
図5に示すように、コントローラ17は、機能的構成要素として、センサ信号取得部171と、信号判定部172と、制御信号出力部173と、を有する。これらの機能的構成要素は、一例として、第1制御信号φ21又は第2制御信号φ22を選択するプログラムP1がコンピュータ5に実行されることにより実現されてもよい。なお、図5に示す機能ブロック図は、コントローラ17の機能構成の一例である。コントローラ17は、センサ信号φ1に基づいて第1制御信号φ21又は第2制御信号φ22を出力することが可能であれば、任意の機能構成を採用してよい。
【0035】
センサ信号取得部171は、センサ16からセンサ信号φ1を受ける。センサ信号取得部171は、センサ信号φ1そのものを第1内部信号φ11として信号判定部172に渡してもよい。センサ信号取得部171は、センサ信号φ1に対して所定のデータ演算を施した処理済みのセンサ信号φ1を第1内部信号φ11として信号判定部172に渡してもよい。
【0036】
信号判定部172は、センサ信号取得部171から第1内部信号φ11を受ける。信号判定部172は、第1内部信号φ11を用いて、第1制御信号φ21及び第2制御信号φ22のいずれを出力するかを判定する。例えば、信号判定部172は、第1内部信号φ11が示す振幅値が閾値を超えない場合に、第1制御信号φ21を出力すると判定してもよい。信号判定部172は、第1内部信号φ11が示す振幅値が閾値を超えた場合に、第2制御信号φ22を出力すると判定してもよい。信号判定部172は、判定結果を第2内部信号φ12として制御信号出力部173に渡す。
【0037】
制御信号出力部173は、信号判定部172から第2内部信号φ12を受ける。制御信号出力部173は、第2内部信号φ12が第1制御信号φ21を出力すると判定した結果を示す場合には、第1制御信号φ21を第1可変減衰装置14に与える。制御信号出力部173は、第2内部信号φ12が第2制御信号φ22を出力すると判定した結果を示す場合には、第2制御信号φ22を第1可変減衰装置14に与える。
【0038】
コントローラ17は、図7に示すような構成を有するコンピュータ5によって構成されてもよい。コンピュータ5は、CPU(Central Processing Unit)であるプロセッサ51と、主記憶装置52と、補助記憶装置53と、通信制御装置54と、入力装置55と、出力装置56とを有する。
【0039】
コントローラ17が複数のコンピュータ5を含む場合には、これらのコンピュータ5はローカルで接続されてもよいし、インターネット又はイントラネットなどの通信ネットワークを介して接続されてもよい。この接続によって、論理的に1つのコンピュータ5が構築される。
【0040】
プロセッサ51は、オペレーティングシステムやアプリケーション・プログラムなどを実行する。主記憶装置52は、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)により構成される。補助記憶装置53は、ハードディスク及びフラッシュメモリなどにより構成される記憶媒体である。補助記憶装置53は、一般的に主記憶装置52よりも大量のデータを記憶する。通信制御装置54は、ネットワークカード又は無線通信モジュールにより構成される。入力装置55は、キーボード、マウス、タッチパネル、及び、音声入力用マイクなどにより構成される。出力装置56は、ディスプレイ及びプリンタなどにより構成される。
【0041】
補助記憶装置53は、制御信号φ21、φ22を選択するプログラムP1及び処理に必要なデータを格納している。例えば、制御信号φ21、φ22を選択するプログラムP1は、プロセッサ51又は主記憶装置52によって読み込まれ、プロセッサ51、主記憶装置52、補助記憶装置53、通信制御装置54、入力装置55、及び出力装置56の少なくとも1つを動作させる。例えば、制御信号φ21、φ22を選択するプログラムP1は、主記憶装置52及び補助記憶装置53におけるデータの読み出し及び書き込みを行う。
【0042】
制御信号φ21、φ22を選択するプログラムP1は、例えば、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリなどの有形の記録媒体に記録された上で提供されてもよい。制御信号φ21、φ22を選択するプログラムは、データ信号として通信ネットワークを介して提供されてもよい。
【0043】
<免震構造の力学モデル>
以下、図1に示した免震構造1の力学特性について、図5及び図6に示す力学モデルを参照しながら、さらに詳細に説明する。
【0044】
免震構造1は、第1可変減衰装置14の減衰係数(c)に基づく減衰力によって、X方向における「みかけの剛性」を切り替える。「みかけの剛性」を切り替えることにより、大きな入力レベルに対するフェイルセーフ機能と、入力される地震動の特性に応じた応答抑制効果と、を得ることができる。本実施形態では、第1の方向であるX方向が短周期である。第2の方向であるY方向が長周期である。
【0045】
力学モデルの構成要素として免震構造1は、X方向弾性部2と、Y方向弾性部3と、を有する。X方向弾性部2は、建物92を基礎構造体91にX方向に連結する。Y方向弾性部3は、建物92を基礎構造体91にY方向に連結する。X方向弾性部2及びY方向弾性部3は、互いに影響を及ぼさない。つまり、建物92及びX方向弾性部2によって構成されるX方向振動系は、建物92及びY方向弾性部3によって構成されるY方向振動系に対して独立している。
【0046】
建物92は、基礎構造体91に対して水平方向に移動可能である。具体的には、建物92は、X方向及びY方向に移動可能である。建物92の質量は、質量(m)として示す。
【0047】
X方向弾性部2は、第1主弾性要素21と、第1可変弾性要素22と、を有する。第1主弾性要素21は、第1主弾性部材211を含む。第1可変弾性要素22は、第1副弾性部材221と、第1可変減衰部材222と、を有する。
【0048】
第1主弾性部材211は、図1に示す4個の第1支承装置12に対応する。第1主弾性部材211は、一端が基礎構造体91に連結され、他端が建物92に連結される。第1主弾性部材211は、固有バネ定数(k)を有する。
【0049】
第1副弾性部材221は、図1に示す2個の第2支承装置13に対応する。第1副弾性部材221は、一端が建物92に連結され、他端が可変減衰部材222に連結される。第1副弾性部材221は、固有のバネ定数(k’)を有する。
【0050】
第1副弾性部材221として、積層ゴム構造を有する第2支承装置13を採用する理由として、荷重変形の関係における線形性が高いことが挙げられる。また、積層ゴム構造を有する第2支承装置13を採用する理由として、第2支承装置13は、繰り返し加振に対する耐久性が高いこと、許容変形量が大きいこと、接続部の設計が容易である点も挙げられる。さらに、積層ゴム構造を有する第2支承装置13を採用する理由として、特注品の製造を要さないため、装置製造のコストアップを抑制可能であることが挙げられる。
【0051】
なお、第1副弾性部材221は、第2支承装置13に限定されない。例えば、第1副弾性部材221として、防舷材のようなゴム材料や金属バネを採用してもよい。金属バネとしては、コイルバネ、板バネ、皿バネ及びトーションバーなどが例示できる。
【0052】
可変減衰部材222は、図1に示す2個の第1可変減衰装置14に対応する。可変減衰部材222は、いくつかの減衰係数(c)に切り替えることができる。可変減衰部材222は、一端が第1副弾性部材221に連結され、他端が基礎構造体91に連結される。可変減衰部材222は、第1副弾性部材221の両端の速度差に対応する減衰力を発生させる。可変減衰部材222は、減衰器としての機能に加えて、第1副弾性部材221の固有バネ定数(k’)を調整し、見かけのバネ定数(調整バネ定数(αk’))を得る機能を併せ持っている。
【0053】
積層ゴム構造を備えた支承装置そのものの剛性を操作することは、一般に困難である。その一方で、可変減衰部材222として採用可能な減衰係数切替式オイルダンパは、既に実績のある製品が現存している。例えば、電磁制御弁を用いた油圧回路により制御が可能である装置が知られている。このような減衰係数切替式オイルダンパを用いることで、可変減衰部材222(オイルダンパ)の減衰係数(c)を容易に変化させることが出来る。
【0054】
なお、図5図6に示す例示では、第1副弾性部材221が建物92に連結され、可変減衰部材222が基礎構造体91に連結されていた。この接続構成は逆でもよい。つまり、第1副弾性部材221が基礎構造体91に連結され、可変減衰部材222が建物92に連結される構成でもよい。
【0055】
また、第1副弾性部材221及び可変減衰部材222を含む力学系であるX方向弾性部2は、調整弾性部と称することもできる。調整弾性部は、調整バネ定数(αk’)を有する。調整バネ定数(αk’)は、第1副弾性部材221の固有バネ定数(k’)が可変減衰部材222によって調整されたものである。αは、調整を意味する項である。
【0056】
さらに、オイルダンパといった可変減衰部材222に対して、直列にバネ要素である第1副弾性部材221を接続した構成を、一般にMaxwellモデルと称する。Maxwellモデルは静的な荷重に対しては、抵抗力を発生しない。その一方で、動的な荷重に対しては抵抗力を発揮する。言い換えると、第1副弾性部材221と可変減衰部材222とを含むMaxwellモデルは、振動状態において見かけのバネ定数(動的な剛性)を有する。Maxwellモデル(第1可変弾性要素22)を付加したX方向の共振振動数(ω)は、付加しないY方向の共振振動数(ω)よりも高くなる。その結果、免震構造1のX方向の固有周期を所望の値に設定することが可能になる。
【0057】
Y方向弾性部3は、第2主弾性要素31と、第2減衰要素32と、を有する。第2主弾性要素31は、第2主弾性部材311を含む。第2減衰要素32は、固定減衰部材321を有する。
【0058】
第2主弾性部材311は、図1に示す4個の第1支承装置12に対応する。第2主弾性部材311は、一端が基礎構造体91に連結され、他端が建物92に連結される。第2主弾性部材311は、固有バネ定数(k)を有する。
【0059】
固定減衰部材321は、図1に示す2個の第2固定減衰装置15に対応する。固定減衰部材321は、固有の減衰係数(c)を有する。固定減衰部材321は、一端が建物92に連結され、他端が基礎構造体91に連結される。固定減衰部材321は、第2主弾性部材311の両端の速度差に対応する減衰力を発生させる。また、固定減衰部材321は、減衰器としての機能を有する。
【0060】
<作用効果>
本実施形態の免震構造1は、基礎構造体91に接続されると共に建物92に接続された第1主弾性要素21と、基礎構造体91に接続されると共に建物92に接続された第1可変弾性要素22と、を備える。第1可変弾性要素22は、第1副弾性部材221と、第1副弾性部材221に対して直列に接続されると共に互いに異なる複数の減衰係数(c)を相互に切り替え可能な第1可変減衰部材222と、を含む。建物92、第1主弾性要素21及び第1可変弾性要素22は、第1可変減衰部材222における減衰係数(c)に応じた共振振動数(ω)を発揮する。
【0061】
要するに、免震構造1は、中小地震時に対しては可変減衰要素である第1可変減衰部材222の減衰係数(c)を小さくする。その結果、建物92の応答加速度を低減させるという免震性能を発揮することができる。免震構造1は、大地震時には第1可変減衰部材222の減衰係数(c)を大きくする。その結果、「免震層の共振振動数」と「免震層の等価減衰定数」が高まる。免震構造1の共振振動数を高めることは、変位の抑制をもたらす。その結果、免震構造1の変位が抑制されるので、擁壁等の周囲の構造体との衝突や免震構造1を構成する部品の破損を防止することができる。本実施形態の免震構造1は、X方向のバネ定数を切り替えるという機能を、第1副弾性部材221に対して直列に第1可変減衰部材222を接続した構成によって実現する。
【0062】
免震構造1は、第1主弾性要素21と第1可変弾性要素22とを備えている。ここで、第1可変弾性要素22は、第1副弾性部材221に対して直列に接続された第1可変減衰部材222を有しており、この第1可変減衰部材222の減衰係数(c)を切り替えることによって、第1可変弾性要素22のバネ定数(αk’)を切り替えることができる。第1可変弾性要素22のバネ定数(αk’)が変わると、第1主弾性要素21のバネ定数(k)と第1可変弾性要素22のバネ定数(αk’)とによって決まる共振振動数(ω)が変わる。つまり、免震構造1の振動特性を切り替えることができる。従って、免震構造1は、第1可変減衰部材222の減衰係数(c)を切り替えることによって、免震構造1が対応可能な地震の特性の範囲も切り替えることができる。そうすると、免震構造1が対応可能な地震の特性の範囲は、第1減衰係数(cX1)に設定したときに対応可能な地震の特性範囲と、第2減衰係数(cX2)に設定したときに対応可能な地震の特性範囲と、の和として考えることができる。従って、免震構造1は、対応可能な地震の特性の範囲をさらに拡大することができる。
【0063】
さらに、免震構造1によれば、狭小敷地の建物92などのように、十分な免震クリアランスをとることができない建物92に対して、大きな入力レベルに対するフェイルセーフ機能を与えることで、免震の適用を可能にすることができる。換言すると、免震構造1は、適用範囲を拡大することができる。
【0064】
また、免震構造1は、建物92に入力される地震動特性に応じた制御を行う。このような可変式の免震構造1は、精密機械工場などのように地震時の揺れが特に忌避される建物に対して、性能が固定された通常の免震建物を上回る応答抑制効果を提供することができる。
【0065】
また、免震構造1は、特別な部品を要することがないので、比較的安価かつ容易に上記を実現することができる。
【0066】
上記の免震構造1は、複数の減衰係数(c)を相互に切り替えるための制御信号φ2を第1可変減衰部材222に与えるコントローラ17をさらに備える。この構成によれば、第1可変減衰部材222を外部から制御することができる。
【0067】
上記の免震構造1は、建物92または基礎構造体91に設置されて、変位、速度、加速度及び外力の少なくとも一つに関する情報を取得すると共に取得した情報をコントローラ17に与えるセンサ16をさらに備える。
【0068】
免震構造1は、一定以上の入力を検知した際に、電気的または機械的に自動で第1可変減衰部材222の減衰係数(c)を切り替えることができる。その結果、地震動特性に応じて時々刻々に特性を変化させて地震動の卓越周期帯から建物92の周期をずらすことが可能になる。
【0069】
つまり、コントローラ17とセンサ16とによって実現される自動制御機構の採用によれば、一般的な免震建物を上回る応答低減効果を得られる。自動制御機構の採用した本実施形態の免震構造1は、建物92が壊れることを防ぐフェイルセーフ機能と、揺れを小さくするという免震特性の向上(免震構造の高性能化)と、を得ることができる。
【0070】
任意の場所の設置可能なセンサ16によれば、建物92または基礎構造体91の所望の位置における、変位、速度、加速度及び外力の少なくとも一つに応じて、第1可変減衰部材222の減衰係数(c)を切り替えることができる。つまり、免震構造1が対応可能な地震の特性範囲を建物92または基礎構造体91の所望の位置における、変位、速度、加速度及び外力の少なくとも一つに応じて切り替えることができる。
【0071】
本発明の免震構造は、前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0072】
<変形例1>
実施形態では、X方向弾性部2にのみMaxwellモデルの力学系を採用した。具体的には、免震構造1は、Maxwellモデル(第1可変弾性要素22)を採用するX方向の力学系と、Maxwellモデルを採用しないY方向の力学系と、を備えていた。例えば、Maxwellモデルは、Y方向にも採用してよい。つまり、図8に示すように、免震構造1Aは、Maxwellモデル(第1可変弾性要素22)を採用するX方向の力学系と、Maxwellモデル(第2可変弾性要素35)を採用するY方向の力学系と、を備えてもよい。具体的には、第2可変弾性要素35は、第4支承装置19aと、第2可変減衰装置19bと、を備える。
【0073】
また、免震構造1は、Maxwellモデルを採用しないX方向の力学系と、Maxwellモデル(第2可変弾性要素35)を採用するY方の力学系と、を備えてもよい。
【0074】
<変形例2>
図9は、変形例2の免震構造1Bを示す。実施形態では第2支承装置13の下部固定面131は、基礎構造体91に接していなかった。この接していないとは、より具体的には、下部固定面131が基礎構造体91から離間していることを意味する。図9に示すように、第2支承装置13Aの下部固定面131は、滑り支承部134を介して基礎構造体91に対して接していてもよい。滑り支承部134は、第2支承装置13の下部固定面131と基礎構造体91との間に配置される。滑り支承部134は、第2支承装置13の下部固定面131に固定されている。また、滑り支承部134には、第1可変減衰装置14の固定端142も取り付けられている。一方、滑り支承部134は、基礎構造体91には固定されていない。つまり、滑り支承部134は、基礎構造体91に対して滑ることができる。このような構成によれば、第2支承装置13のバネ係数に影響を与えることなく、建物92の荷重を支持することができる。つまり、第1可変減衰装置14と第2支承装置13との接続部分に滑り支承部134を設けることによって、上部構造体である建物92からの軸力を滑り支承部134で負担することができる。その結果、建物92の柱位置の自由度を拡大することができる。
【0075】
<そのほか変形例>
また、上記の実施形態では、第1可変減衰装置14は、外部から与えられる制御信号φ2に応じて減衰係数(c)を切り替えた。この減衰係数(c)の切り替えは、外部から与えられる制御信号φ2によらなくてもよい。つまり、第1可変減衰装置14は、第1可変減衰装置14を構成する部品の動作状態に応じて、減衰係数(c)を切り替えてもよい。例えば、第1可変減衰装置14は、ダンパ部と、切替部と、を有する。ダンパ部は、速度に応じた減衰力を発生することによって複数の減衰係数(c)を発生する。切替部は、ダンパ部を構成する部品の速度又は変位に応じて、ダンパ部が発生する複数の減衰係数(c)を相互に切り替える。このような第1可変減衰装置14の採用によっても、対応可能な地震の特性の範囲をさらに拡大することができる。
【0076】
免震構造1は、既存の免震建物への改修工事において適用することもできる。近年、蓄積された知見に基づいて設計用の入力地震動は大きくなっている。また、建物の立地によっては古い設計の免震建物で十分な免震クリアランスを確保できていない場合もある。そこで、このような場合に、既設の免震構造に対して、本実施形態の免震構造1が備えている可変減衰部材とそれに直列に接続する弾性部材を備えた構成を追加して設けてもよい。その結果、大地震時における変形を抑制する能力を高めることができるので、現在の一般的な免震建物の基準に合致するような改修を行うことができる。
【0077】
実施形態では、下部構造体である基礎構造体91と、上部構造体である建物92との間に免震構造1を設置した例を説明した。免震構造1は、中間層に設置することによって中間層免震として利用することもできる。免震構造1は、床下に設置することによって床下免震として利用することもできる。免震構造1は、機器に設置することによって機器免震として利用することもできる。この場合に、建物との共振を回避するような設定を能動的に選択することで、特性が固定された免震層を超える応答制御効果を期待することができる。
【0078】
なお、上述した「建物との共振を回避するような設定を能動的に選択する」という記載について機器免震や中間層免震の場合、免震層の共振周期が建物の揺れの卓越周期と合致してしまうと、入力されるエネルギーが大きくなってしまう。免震構造1の機構を用いることで、免震層の共振周期を建物の揺れの卓越周期から外し、通常の免震層以上の応答制御効果を期待することができる。
【符号の説明】
【0079】
1,1A,1B…免震構造、2…X方向弾性部、3…Y方向弾性部、5…コンピュータ、12…第1支承装置、13,13A…第2支承装置、14…第1可変減衰装置、15…第2固定減衰装置、16…センサ、17…コントローラ(制御装置)、91…基礎構造体(下部構造体)、92…建物(上部構造体)、171…センサ信号取得部、172…信号判定部、173…制御信号出力部、φ1…センサ信号、φ2…制御信号。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9