(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057701
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】IL-6レセプター抑制剤を含む、シミ形成阻害またはシミ改善組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9789 20170101AFI20240418BHJP
A61Q 19/02 20060101ALI20240418BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240418BHJP
A61K 36/752 20060101ALI20240418BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240418BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240418BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240418BHJP
A61K 36/489 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/02
A61P17/00
A61K36/752
A61P43/00 111
A61K45/00
A23L33/105
A61K36/489
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164534
(22)【出願日】2022-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 潤二
(72)【発明者】
【氏名】井上 大悟
(72)【発明者】
【氏名】大場 浩史
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C084
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD52
4B018MD57
4B018ME14
4B018MF01
4C083AA111
4C083AA112
4C083BB51
4C083CC02
4C083CC04
4C083CC05
4C083CC07
4C083CC12
4C083CC13
4C083CC14
4C083CC19
4C083CC25
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4C084AA17
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4C084NA14
4C084ZA89
4C084ZC01
4C084ZC42
4C088AB59
4C088AB62
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4C088MA52
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZC01
4C088ZC42
(57)【要約】
【課題】シミ形成阻害組成物およびシミ改善組成物の提供。
【解決手段】シミにかかわる遺伝子として特定されたIL-6レセプターの抑制剤を用いることで、新規のシミの形成の阻害またはシミの改善のための組成物が提供される。IL-6レセプターの抑制剤は、シークワーサー果皮エキスまたはクララエキスでありうる。さらに、IL-6レセプター抑制剤を含む組成物は、シミの形成の阻害またはシミの改善のための美容又は非治療的方法において使用されうる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量のIL-6レセプター抑制剤を含む、シミの形成の阻害またはシミの改善のための組成物。
【請求項2】
IL-6レセプター抑制剤が、IL-6レセプター遺伝子の発現を低下させる物質およびIL-6レセプター遺伝子の発現産物の機能を抑制する物質からなる群から選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
IL-6レセプター遺伝子の発現を低下させる物質が、植物抽出エキスから選択される、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
IL-6レセプター遺伝子の発現産物の機能を抑制する物質が、抗IL-6レセプター抗体、IL-6レセプターアンタゴニスト、IL-6ミミック、およびIL-6またはIL-6レセプター結合アプダマーからなる群から選択される、請求項2記載の組成物。
【請求項5】
IL-6レセプター抑制剤が、シークワーサー果皮エキスまたはクララエキスである、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
シミが、炎症によって生じる色素沈着であるか、または慢性的な表皮の炎症を有するシミである、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
シミが老人性色素斑である、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
経皮投与用または経口投与用である、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
シークワーサー果皮エキスまたはクララエキスを含む、IL-6レセプター抑制剤。
【請求項10】
IL-6レセプター抑制剤を含有する組成物を適用することを含む、シミの形成の阻害またはシミの改善のための美容又は非治療的方法。
【請求項11】
シミの形成の阻害またはシミの改善のためのIL-6レセプター抑制剤の使用。
【請求項12】
シミの形成の阻害またはシミの改善に使用するためのIL-6レセプター抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミ形成阻害またはシミ改善組成物に関し、より詳細には、IL-6レセプター抑制剤を含む、シミ形成阻害またはシミ改善組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シミ(色素斑)とは、肌に色素が沈着することにより生じ、肌の色素が沈着した部位と沈着していない部位との境界が明瞭である程度に色素が沈着した状態等を指す。シミにおける主要な色素成分としては、メラニン成分やヘモジデリン成分が挙げられる。
【0003】
これまで、シミの原因遺伝子を明らかにするために、老人性色素斑(lentigo senilis)における網羅的遺伝子発現解析(非特許文献1)や、ヒト皮膚組織を用いた関与因子の同定(特許文献1)が行われている。
【0004】
例えば、特許文献2には、皮膚のシミ状況分析方法として、被検対象より採取したヒト表皮組織におけるC19orf28、TRIM63、PI15、KCNE4、HOXD8、IGFBP7、LPL、LOC375295、NLRP2、CRTAC1、DOCK8、PFTK2、C2orf88、TRIM9、HMCN1、AEBP1、FLT1、MAPKBP1及びMKL2から選択される遺伝子の発現量、又は当該遺伝子の発現産物の量を指標とし、被検対象より採取した対照部位の同遺伝子の発現量、又は同遺伝子の発現産物の発現量と比較することにより、当該皮膚のシミ形成の進行度若しくは改善度を把握することを特徴とする方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、シミにおける生理機能は未だ未解明な点が多く、シミの形成に関わる遺伝子の解明、およびそのような遺伝子に基づくシミへの根本的なアプローチが必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3943490号公報
【特許文献2】特許第5858601号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Aoki H et al. (2007) Br. J. Dermatol. 156: 1214-1223
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示の目的の一つは、シミ形成阻害組成物およびシミ改善組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、シミの形成にかかわる遺伝子を同定するためには、RNAの変動だけでなく、DNAメチル化変化を加味して、遺伝子を抽出する必要があることを見出し、シミの形成に関わる遺伝子の同定方法として新規のスクリーニング方法を見出した(特願第2021-168116号)。そして、シミの形成にかかわる遺伝子として、IL-6レセプター遺伝子を新たに同定した。本発明はこのような知見に基づくものであり、本開示は以下の態様を包含する:
【0010】
[態様1]
有効量のIL-6レセプター抑制剤を含む、シミの形成の阻害またはシミの改善のための組成物。
[態様2]
IL-6レセプター抑制剤が、IL-6レセプター遺伝子の発現を低下させる物質およびIL-6レセプター遺伝子の発現産物の機能を抑制する物質からなる群から選択される、態様1の組成物。
[態様3]
IL-6レセプター遺伝子の発現を低下させる物質が、植物抽出エキスから選択される、態様2の組成物。
[態様4]
IL-6レセプター遺伝子の発現産物の機能を抑制する物質が、抗IL-6レセプター抗体、IL-6レセプターアンタゴニスト、IL-6ミミック、およびIL-6またはIL-6レセプター結合アプタマーからなる群から選択される、態様2の組成物。
[態様5]
IL-6レセプター抑制剤が、シークワーサー果皮エキスまたはクララエキスである、態様1~4のいずれかの組成物。
[態様6]
シミが、炎症によって生じる色素沈着であるか、または慢性的な表皮の炎症を有するシミである、態様1~5のいずれかの組成物。
[態様7]
シミが老人性色素斑である、態様1~6のいずれかの組成物。
[態様8]
経皮投与用または経口投与用である、態様1~7のいずれかの組成物。
[態様9]
シークワーサー果皮エキスまたはクララエキスを含む、IL-6レセプター抑制剤。
[態様10]
IL-6レセプター抑制剤を含有する組成物を適用することを含む、シミの形成の阻害またはシミの改善のための美容又は非治療的方法。
[態様11]
シミの形成の阻害またはシミの改善のためのIL-6レセプター抑制剤の使用。
[態様12]
シミの形成の阻害またはシミの改善に使用するためのIL-6レセプター抑制剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シミの形成に関わる遺伝子に基づくシミへの根本的なアプローチとして、新規のシミ形成阻害組成物およびシミ改善組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1B】
図1Bは、ID2の被験者の健常部位のHE染色像を示している。
【
図1C】
図1Cは、ID2の被験者の色素増強部位のHE染色像を示している。
【
図2A】
図2Aは、WGBSにより得られた全染色体のCGのメチル化率を主成分分析して、x軸PC1、y軸PC6として表示した散布図である。
【
図2B】
図2Bは、RNA-Seqにより得られた全遺伝子発現量を主成分分析し、x軸PC1、y軸PC6として表示した散布図である。
【
図3】
図3は、Whole genome bisulfate sequencing(WGBS)とRNA sequencing(RNA-Seq)の解析結果をまとめた図である。
【
図4】
図4は、実施例3に記載のように、メチル化とRNA発現の両方に変化が見られた遺伝子のプロモーター領域の平均メチル化率変化を表示している。
【
図5】
図5は、参照例としてGene02の転写開始部位付近の平均メチル化変化率を表示している。
【
図6A】
図6Aは、メチル化が亢進し発現量が低下した遺伝子(Hypermethylated and down-regulated genes)の遺伝子オントロジー(GO)を示している。
【
図6B】
図6Bは、メチル化が減少し発現量が増加した遺伝子(Hypomethylated and up-regulated genes)の遺伝子オントロジー(GO)を示している。
【
図7】
図7は、表1のID3の被験者の健常部位および色素増強部位の明視野像および免疫染色像を示している。
【
図8】
図8は、同定されたIL-6R抑制剤によるIL-6Rの発現量の変化を示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[IL-6レセプター抑制剤]
本発明者らは、シミ、すなわち色素増強にかかわる遺伝子の同定方法として、DNAメチル化が所定の標準と比較して亢進もしくは減少しており、かつRNA発現が所定の標準と比較して増加もしくは低下していることを指標として、色素増強にかかわる遺伝子を選択する、新規のスクリーニング方法を見出した。その結果、色素増強にかかわる遺伝子として、新たに、インターロイキン6レセプター(本明細書では、「IL-6レセプター」または「IL-6R」とも記載する)遺伝子を特定した。
【0014】
IL-6レセプター抑制剤により、IL-6レセプター遺伝子の発現またはその発現産物の機能を阻害することで、シミの形成を抑制またはシミを改善することができる。したがって、本発明の一つの側面は、有効量のIL-6レセプター抑制剤を含む、シミの形成の阻害(シミの形成の予防を含む)またはシミの改善のための組成物に関する。このようなIL-6レセプター遺伝子と色素増強との関連は今日まで知られておらず、本発明者らが初めて見出した知見である。
【0015】
さらに、本発明者らは、IL-6レセプター遺伝子の発現が色素増強部位で亢進しており、IL-6レセプター遺伝子の発現と色素増強に明確な相関が認められることから、IL-6レセプター遺伝子の発現レベルを指標として、シミの形成の抑制またはシミの改善に有用な物質を選択する、新たなスクリーニング方法を見出した。その結果、シミの形成の抑制またはシミの改善に有用なIL-6レセプター抑制剤として、新規物質を特定した。
【0016】
一部の実施形態において、IL-6レセプター抑制剤は、IL-6レセプター遺伝子の発現を低下させる物質である。IL-6レセプター遺伝子の発現を低下させる物質としては、植物抽出エキス等が挙げられるがこれに限定されない。
【0017】
植物抽出エキスとしては、シークワーサー果皮エキス、クララエキスなどが挙げられる。
【0018】
シークワーサー果皮エキス(Citrus depressa Hayata Pericarp Extract)は、シークワーサー(ミカン科の植物、標準和名:ヒラミレモン)の果皮から抽出されるエキスである。シークワーサーの果皮には、糖尿病、高血圧などの生活習慣病に対する効果などが注目されるポリメトキシフラボノイド類(PMFs)が含まれることが知られている。しかし、シークワーサー果皮エキスがIL-6レセプターの抑制効果およびそれによるシミの形成阻害・改善効果、例えばIL-6レセプターを介した炎症状態の改善によるシミの形成阻害・改善効果を有することはこれまでに報告されておらず、非常に驚くべき発見である。
【0019】
クララエキス(クララ根エキス(Sophora Root Extract))は、マメ科の植物のクララ(Sophora flavescense)の根または周皮を除いた根から抽出されるエキスである。クララエキスは、アルカロイド、フラボノイド(フラバノン、カルコン、イソフラボノイド)などの成分を含み、抗真菌作用、抗アレルギー作用などが知られている。しかし、クララエキスがIL-6レセプターの抑制効果およびそれによるシミの形成阻害・改善効果、例えばIL-6レセプターを介した炎症状態の改善によるシミの形成阻害・改善効果を有することはこれまでに報告されておらず、非常に驚くべき発見である。
【0020】
植物抽出エキスの製造方法としては、植物の抽出部位を、必要ならば予め水洗して異物を除いた後、そのまま又は乾燥した上、必要に応じて細切又は粉砕し、抽出溶媒と接触させて抽出を行う。抽出は、浸漬法等の常法に従って抽出溶媒と接触させることで行うことが可能であるが、超臨界抽出法や水蒸気蒸留法を用いてもよい。
【0021】
抽出を行う際には、植物体をそのまま使用することもできるが、顆粒状や粉末状に粉砕して抽出に供した方が、穏和な条件で短時間に高い抽出効率で有効成分の抽出を行うことができる。抽出温度は特に限定されるものではなく、粉砕物の粒径や溶媒の種類等に応じて適宜設定すればよい。通常は、室温から溶媒の沸点までの範囲内で設定される。また、抽出時間も特に限定されるものではなく、粉砕物の粒径、溶媒の種類、抽出温度等に応じて適宜設定すればよい。さらに、抽出時には、撹拌を行ってもよいし、撹拌せず静置してもよいし、超音波を加えてもよい。
【0022】
抽出溶媒としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコール類;オレイルアルコール、ステアリルアルコール、オクチルドデカノール等の高級アルコール類;エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、トリオクタン酸グリセリル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチルエーテル、イソプロピル、エーテル等のエーテル類;n-ヘキサン、トルエン、クロロホルム等の炭化水素系溶媒等が挙げられ、それらは単独で若しくは二種以上混合して用いることができる。好ましい溶媒としては、水、低級アルコール及び液状多価アルコール等の極性溶媒であり、より好ましくは、水、あるいはメタノール、エタノール又は1,3-ブチレングリコール等の低級アルコールである。低級アルコールは、例えば、含水低級アルコールであってもよく、その場合の含水率は、例えば0~10v/v%、10~40v/v%、20~30v/v%、30~50v/v%、50~80v/v%、80~99.5v/v%等であってもよい。低級アルコールは、例えば、C1~C5の低級アルコールであってもよい。これらの溶媒は一種でも二種以上を混合して用いてもよい。また、溶媒に酵素を加えて抽出処理を行ってもよい。
【0023】
混合溶媒を用いる場合の混合比は、例えば水とエチルアルコールとの混合溶媒であれば、容量比(以下同じ)で1:1~25:1の範囲;水とグリセリンとの混合溶媒であれば1:1~15:1の範囲;あるいは、水と1,3-プロパンジオール若しくは1,3-ブチレングリコールとの混合溶媒であれば、1:1~15:1の範囲とすることが好ましい。
【0024】
抽出物の調製を行う場合、pHは特に限定されないが、一般にはpH 3~9の範囲とすることが好ましい。必要であれば、前記抽出溶媒に、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ性調整剤、又はクエン酸、塩酸、リン酸、硫酸等の酸性調整剤を配合し、所望のpHとなるように調整してもよい。
【0025】
抽出温度や、抽出時間等の抽出条件は、用いる溶媒の種類やpHによっても異なり、限定されないが、例えば、水もしくは1,3-ブチレングリコール、又は水と1,3-ブチレングリコールとの混液を溶媒とする場合であれば、抽出温度は0℃~90℃の範囲であればよく、又抽出時間は0.5時間~7日間であればよい。
【0026】
このような抽出操作により、有効成分が抽出され、溶媒に溶け込む。抽出物を含む溶媒は、そのまま使用してもよいが、滅菌、洗浄、濾過、脱色、脱臭等の慣用の精製処理を加えてから使用してもよい。また、必要により濃縮又は希釈してから使用してもよい。さらに、溶媒を全て揮発させて固体状(乾燥物)としてから使用してもよいし、該乾燥物を任意の溶媒に再溶解してから使用してもよい。
【0027】
抽出処理に先立って、又は抽出処理と並行して、必要に応じて抽出部位に加水分解処理を施してもよい。これによって、当該抽出物の皮膚刺激性、有効性又は保存安定性等を改善して抽出物をより有効に利用できる可能性がある。
【0028】
また、原料の植物を圧搾することにより得られる圧搾液にも抽出物と同様の有効成分が含まれているので、抽出物の代わりに圧搾液を使用することもできる。
【0029】
本発明において用いられる「シークワーサー果皮エキス」、「クララエキス」などの植物エキスは、当業者に公知の方法により、植物原料から抽出することができる。そのような植物エキスは、例えば、溶媒を用いた抽出法、粉砕や圧搾工程を含む方法など、当業者に公知の任意の方法を用いて取得することができる。
【0030】
また、一部の実施形態において、IL-6レセプター抑制剤は、IL-6レセプター遺伝子の発現産物の機能を抑制する物質である。
【0031】
IL-6レセプターは、IL-6、IL-6レセプター、およびgp130からなる複合体を形成することでIL-6シグナル伝達に関与する分子である。したがって、例えば、IL-6レセプターに結合して、複合体形成を阻害することで、IL-6シグナル伝達を阻害する物質も、IL-6レセプター遺伝子の発現産物の機能を抑制する物質となりうる。そのようなIL-6レセプター遺伝子の発現産物の機能を抑制する物質の一例としては、抗IL-6レセプター抗体、IL-6レセプターアンタゴニスト、IL-6ミミック、およびIL-6またはIL-6レセプター結合アプダマー等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0032】
抗IL-6レセプター抗体は、IgM、IgD、IgG、IgA、及びIgEのいずれでもよく、キメラ抗体でも、ヒト化抗体でも、完全ヒト抗体でもよく、また、抗体はハイブリドーマ抗体でもよく、リコンビナント抗体でもよい。また、免疫グロブリン(またはそのバリアント)の全長でもよく、部分断片でもよい。部分断片は、Fab断片、Fab’断片、F(ab)’2断片、単鎖Fvタンパク質(scFv)、及びジスルフィド安定化Fvタンパク質(dsFv)でもよい。抗IL-6レセプター抗体は、好ましくはヒト抗IL-6Rモノクローナル抗体である。抗IL-6レセプター抗体として既知の抗体(例えば、トシリズマブ)を用いてもよい。
【0033】
IL-6レセプターアンタゴニストには、前述の抗IL-6レセプター抗体が包含されうるが、その他、IL-6レセプターに結合しうる抗体以外のリガンドであってもよい。
【0034】
また、IL-6ミミック、すなわち、IL-6を模倣した構造を有し、IL-6とIL-6レセプターの結合に対して拮抗作用を有する分子も、本発明におけるIL-6レセプター抑制剤となりうる。
【0035】
一部の実施形態において、IL-6レセプター遺伝子の発現産物の機能を抑制する物質は、IL-6阻害剤でありうる。
【0036】
[シミの形成の抑制またはシミの改善のための組成物]
本発明にかかるシミの形成の抑制またはシミの改善のための組成物は、上記のIL-6レセプター抑制剤を含む。IL-6レセプター抑制剤の量は、有効量、すなわち所望の効果を発揮しうる範囲であれば特に限定されないが、例えば、最終製品の全量に対して、0.0001~10体積%の範囲に含まれる任意の含有量でありうる。例えば、本発明にかかる組成物は、少なくとも0.0001体積%、0.001体積%、0.01体積%、0.1体積%のIL-6レセプター抑制剤を含んでいてもよい。また、例えば、本発明にかかる組成物は、10体積%以下、5体積%以下、1体積%以下、0.5体積%以下のIL-6レセプター抑制剤を含んでいてもよい。最終製品の特性に応じて、これらの上限値および下限値の任意の組み合わせが、IL-6レセプター抑制剤の含有量の範囲として規定されうる。
【0037】
本発明にかかる組成物は、シミの形成を抑制またはシミを改善することを目的として、化粧料、医薬部外品、医薬品、食品等に配合されうる。すなわち、本発明にかかるIL-6レセプター抑制剤を含む組成物は、化粧料、医薬部外品、医薬品、食品等として調製されうる。
【0038】
本発明にかかる組成物は、局所投与(経皮、吸入、注腸、点眼、点耳、経鼻、膣内等)、経腸投与(経口、経管、経注等)、非経口投与(経静脈、経動脈、筋肉注等)等を含む任意の投与経路で用いることができる。
【0039】
皮膚に直接作用させる観点では、経皮投与が好ましい。経皮投与とすることで、全身投与では副作用が生じる薬剤であっても皮膚状態の改善の観点で許容されうる。
【0040】
したがって、一部の実施形態では、本発明にかかる組成物を、皮膚に直接適用することができる皮膚外用剤として配合することが好ましい。かかる皮膚外用剤には、IL-6レセプター抑制剤に加えて、化粧品や医薬品等に用いられる任意配合成分を必要に応じて適宜配合することができる。そのような任意配合成分としては、例えば、油分、界面活性剤、粉末、色材、水、アルコール類、増粘剤、キレート剤、シリコーン類、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、保湿剤、香料、各種皮膚栄養剤、pH調整剤、中和剤、粉末成分、色材、水性成分、水等などが挙げられる。
【0041】
さらに、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属イオン封鎖剤、メチルパラベン、エチルパラベン、ブチルパラベン等の防腐剤、カフェイン、タンニン、ベラパミル、トラネキサム酸およびその誘導体、抗炎症成分、甘草抽出物、グラブリジン、カリンの果実の熱水抽出物、各種生薬、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸およびその誘導体またはその塩、サリチル酸およびその誘導体またはその塩等の各種薬効成分、ビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、3-O-エチルアスコルビン酸、アデノシン一リン酸二ナトリウムOT、アルブチン、コウジ酸、4-メトキシサリチル酸、およびその塩、4-n-ブチルレゾルシノールおよびレゾルシノール誘導体、リノール酸、エラグ酸、カモミラ抽出液、5,5’-ジプロピル-ビフェニル-2,2’-ジオール、デクスパンテノール等の美白剤、レチノイン酸、レチナール、レチノール、酢酸レチノール、プロピオン酸レチノール、パルミチン酸レチノール、およびその他レチノール導体、ニコチン酸アミドおよびその誘導体、三フッ化イソプロピルオキソプロピルアミノカルボニルピロリジンカルボニルメチルプロピルアミノカルボニルベンゾイルアミノ酢酸ナトリウム、ピリドキシンおよびその塩、ライスパワーエキス、さらにはグルコース、フルクトース、マンノース、ショ糖、トレハロース等の糖類なども適宜配合することができる。
【0042】
皮膚外用剤は、外皮に適用される化粧料、医薬部外品等に広く適用することが可能であり、その剤型も、皮膚に適用できるものであればいずれでもよく、溶液系、可溶化系、乳化系、粉末分散系、水-油二層系、水-油-粉末三層系、軟膏、化粧水、ゲル、エアゾール等、任意の剤型が適用される。皮膚外用剤としては、例えば、外用固形剤、外用散剤、外用液剤、リニメント剤、スプレー剤、外用エアゾール剤、ポンプスプレー剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤、テープ剤、パップ剤等が挙げられる。
【0043】
本発明にかかる組成物の使用形態も任意であり、例えば化粧水、美容液、乳液、クリーム、パック等のフェーシャル化粧料、化粧下地、ファンデーション、口紅、アイシャドウ等のメーキャップ化粧料、日焼け止め、アフターケアローション、サンオイル等の全身用化粧料、芳香化粧料、浴用剤等などが挙げられるが、皮膚に適用されるものであれば任意の化粧料に配合することができる。
【0044】
また、一部の実施形態では、本発明にかかる組成物を、医薬品、医薬部外品、食品等の経口投与用の組成物として配合することができる。
【0045】
本実施形態にかかる経口投与用の組成物には、IL-6レセプター抑制剤に加えて、必要に応じて、機能性素材、賦形剤、その他各種添加剤を任意に選択し併用することができる。
【0046】
機能性素材としては、パントテン酸、葉酸、ビオチン、ビタミンA、B、C、D、E群など各種ビタミン類、亜鉛、カルシウム(HMBカルシウム等)、マグネシウム、鉄など各種ミネラル類、アミノ酸、オリゴ糖(ラクチュロース等)、プロポリス、ローヤルゼリー、マカエキス、イチョウ葉、ウコン、EPA、DHA、コンドロイチン、乳酸菌、ラクトフェリン、イソフラボン、プルーン、キチン、キトサン、グルコサミン、α-リポ酸、アガリクス、ガルシニア、プロポリス、コラーゲン、アスタキサンチン、フォースリン、カテキン、セサミン、セラミド、モロヘイヤ、スピルリナ、キャッツクローなどが挙げられる。これらの機能性素材は、単独でまたは二種以上で組み合わせて使用できる。
【0047】
賦形剤としては、所望の剤型とするときに通常用いられるものであれば特に制限されず、例えば、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、デキストリン、シクロデキストリンなどのでんぷん類、結晶セルロース類、乳糖、ブドウ糖、砂糖、還元麦芽糖、水飴、フラクトオリゴ糖、乳化オリゴ糖などの糖類、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、ラクチトール、マンニトールなどの糖アルコール類が挙げられる。これら賦形剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0048】
その他添加剤としては、食品または医薬組成物等に通常用いられる各種添加剤、例えば、呈味剤(果汁、フレーバー等)、甘味料、酸味料、茶成分、調味料、着色剤、増粘剤、結合剤、強化剤、崩壊剤、緩衝剤、溶解補助剤、再吸収促進剤、分散剤、安定化剤、ゲル化剤、乳化剤、酸化防止剤、界面活性剤、保存剤、防湿剤、pH調整剤、着色料、無痛化剤、等張化剤等を適宜選択して使用できるが、これらの例示に限定されるものではない。
【0049】
本発明の組成物を医薬組成物として用いる場合、剤型は適宜選択できるが、例えば錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、咀嚼剤等の固形製剤や、液剤、シロップ剤、注射剤、点滴剤等の液体製剤等とすることができる。
【0050】
食品の形態としては、例えば、液体状、固形状、錠剤状、顆粒状、粉状、カプセル状、ペースト状、ゲル状など、例えば上記の固形または液体製剤等を任意に選択することができる。食品の具体例として、例えば、果汁飲料、野菜ジュース、清涼飲料、茶等の飲料類、スープ、プリン、ヨーグルト、ケーキプレミックス製品、菓子類、クッキー、キャンディー、グミ、ガム等の各種一般加工食品のほか、特別用途食品、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性食品、栄養補助食品、健康補助食品、栄養強化食品、栄養調整食品等、例えばサプリメント、ドリンク剤等が挙げられる。
【0051】
[シミの形成の阻害またはシミの改善のための美容又は非治療的方法]
本発明の一つの側面は、IL-6レセプター抑制剤を含有する組成物を適用することを含む、シミの形成の阻害またはシミの改善のための美容又は非治療的方法に関する。言い換えれば、本発明の一つの側面は、シミの形成の阻害またはシミの改善のためのIL-6レセプター抑制剤の使用に関する。さらに、本発明の一つの側面は、シミの形成の阻害またはシミの改善に使用するためのIL-6レセプター抑制剤に関する。
【0052】
本発明にかかる美容または非治療的方法においては、本発明の組成物、例えば皮膚外用剤を所望の効果を得たい部位、例えば顔、首、手、腕、脚等に適用する。一部の実施態様において、所望の効果を得たい部位は、紫外線の影響を受けた、または受けうる部位である。適用は、手や塗布具等によってする塗布など、任意の様式で行うことができる。適用の回数、頻度、量等は、所望の効果等に応じて適宜設定される。また、一部の実施形態では、本発明の組成物を経口投与してもよい。なお、一部の実施態様において、本発明にかかる美容または非治療的方法は、いわゆる医療行為を含まない。
【0053】
[シミの形成の阻害またはシミの改善のための組成物の製造]
さらに、本発明の一つの側面は、シミの形成の阻害またはシミの改善のための組成物の製造のためのIL-6レセプター抑制剤の使用に関する。
【0054】
[対象]
本発明にかかるIL-6レセプター抑制剤を含む組成物の適用対象は、限定されるものではないが、哺乳動物、特にヒト、ならびにイヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタなどの非ヒト哺乳動物であり得る。対象は、好ましくはヒトである。
【0055】
一部の実施形態において、本発明にかかるIL-6レセプター抑制剤を含む組成物の対象となるシミは老人性色素斑である。
【0056】
一部の実施形態において、シミは、紫外線、物理刺激、感染、生活習慣および疾患などに随伴する炎症によって生じる色素沈着である。また、一部の実施形態において、シミは、色素の定着を維持し恒常化させる慢性的な表皮の炎症を有する。一部の実施形態において、本発明にかかるIL-6レセプター抑制剤を含む組成物は、IL-6レセプターの抑制を介した炎症状態の改善によるシミの形成阻害・改善効果を有しうる。
【0057】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば本発明の構成要件の追加、削除および置換を行うことができる。
【実施例0058】
次に実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0059】
実施例1:研究に用いた臨床検体
5例の被験者より、皮膚科医によって老人性色素班として診断された皮膚を入手した。表1は、使用した皮膚の情報を示した表であり、左からID番号、年齢、性別、部位、臨床診断結果、備考が示されている。皮膚の代表例を
図1A~
図1Cに示すが、これらは典型的な老人性色素班の状態を呈している。
図1Aは、ID2の被験者の写真を示している。
図1Bは、ID2の被験者の健常部位のHE染色像を示している。
図1Cは、ID2の被験者の色素増強部位のHE染色像を示している。図中の矢印は、顕著なメラニンの局在箇所を示している。
【0060】
【0061】
実施例2:主成分分析
実施例1において説明した皮膚より、表皮を化学的に剥離して、そこからDNAとRNAを抽出し、それぞれを全ゲノムバイサルファイトシーケンス法(WGBS)(必要であれば、例えば、Lister et al., Nature. 2009 Nov 19;462(7271):315-22. doi: 10.1038/nature08514. Epub 2009 Oct 14.を参照)とRNAシーケンシング(RNA-Seq)(必要であれば、例えば、Mortazavi et al., Nat Methods. 2008 Jul;5(7):621-8. doi: 10.1038/nmeth.1226. Epub 2008 May 30.を参照)により解析した。
【0062】
図2Aは、WGBSにより得られた全染色体のCGのメチル化率を主成分分析して、x軸PC1、y軸PC6として表示した散布図である(lentigo senilisは老人性色素斑部位、adjacentはそれに隣接する健常部位を示している)。表2は、WGBSの主成分分析によって得られた上位の主成分座標上で、色素増強部位と近傍の健常部位が線形判別分析(LDA)によって判別できるかをROCにより示している。
【0063】
【0064】
図2Bは、RNA-Seqにより得られた全遺伝子発現量を主成分分析し、x軸PC1、y軸PC6として表示した散布図である。表3は、RNA-Seqの主成分分析によって得られた上位の主成分座標上で、色素増強部位と近傍の健常部位が線形判別分析(LDA)によって判別できるかをROCにより示している。
【0065】
【0066】
これらの結果が示すように、WGBSでは第6主成分によって色素増強部位と近傍の健常部位が完全に判別できるのに対して、RNA-Seqではどの上位主成分でも完全には判別できない。このことはDNAのメチル化は変化速度が遅いため病態の変動を反映しているのに対して、RNAは合成分解のサイクルが速く病態以外にも様々な環境変動、生理的な変動を反映してしまう可能性を示唆している。このため、正確な病態の理解にはRNAの変動だけでなく、DNAメチル化変化を加味した遺伝子を抽出する必要があると考えられる。
【0067】
実施例3:DNAメチル化とRNA発現変化のまとめ
図3は、全ゲノムバイサルファイトシーケンス法(WGBS)とRNAシーケンシング(RNA-Seq)の解析結果をまとめた図である。WGBSは平均のメチル化変化量が10%以上、T値の絶対値が2.7以上変化しているものをメチル化変化領域(Differentially methylated region (DMR))としている。遺伝子の転写開始領域の2kbp以内にDMRがある遺伝子の中で、メチル化量が色素増強部位において亢進しているものをHypermethylated geneとし、減少しているものをHypomethylated geneとした。RNAは平均発現変化量が1.5倍以上で、p<0.01のものを発現変動遺伝子としている。この中で、色素増強部位で発現量が上昇しているものをUp-regulated gene、低下しているものをDown-regulated geneとした。
【0068】
結果として、色素増強部位においてプロモーター領域のメチル化が亢進し、遺伝子発現が低下するものとして13遺伝子が検出された。また、色素増強部位においてプロモーター領域のメチル化が減少し、遺伝子発現が上昇するものとして29遺伝子が検出された。これらの遺伝子はシミ、特に老人性色素斑のマーカーとして有用となりうると考えられる。また、これらの遺伝子はシミ、特に老人性色素斑の抑制または改善のための標的として有用となりうると考えられる。
【0069】
実施例4:DNAメチル化の解析
図4は、実施例3に記載のように、メチル化とRNA発現の両方に変化が見られた遺伝子のプロモーター領域の平均メチル化率変化を表示している。値は色素増強部位のメチル化率から、近傍の健常部位のメチル化率を引いた値を示している。遺伝子名はここでは、変化率順にGene01~Gene42としている。
【0070】
参照例:代表例の転写開始部位付近の平均メチル化変化率の検証
図5は、代表例としてGene02の転写開始部位付近の平均メチル化変化率を表示している。y軸は上から、
- CG配列の場所
- それぞれのCG配列の平均メチル化変化率
- DMRとして検出される場所
- 培養ケラチノサイトのH3K4me3ChIP-seq結果
- 培養ケラチノサイトのH3K4me1ChIP-seq結果
- 培養ケラチノサイトのH3K27acChIP-seq結果
- 遺伝子モデル
をそれぞれ示している。
【0071】
ChIP-seq(必要であれば、例えば、Schmidt et al., Methods. 2009 Jul;48(3):240-8. doi: 10.1016/j.ymeth.2009.03.001. Epub 2009 Mar 9.を参照)の結果からこの遺伝子がケラチノサイトにおいてアクティブな遺伝子であり、またH3K4me3はプロモーター領域のマーカーなのでDMRがこの遺伝子の機能的なプロモーター領域を覆っていることがわかる。このことから今回の方法により検出されたメチル化変化領域は、ケラチノサイトの遺伝子発現制御において機能的な領域のメチル化変化を正しく検出していると考えられる。
【0072】
実施例5:遺伝子オントロジー
図6Aおよび
図6Bはそれぞれ、メチル化が亢進し発現量が低下した遺伝子(Hypermethylated and down-regulated genes)とメチル化が減少し発現量が増加した遺伝子(Hypomethylated and up-regulated genes)の遺伝子オントロジー(GO)を示している。DNAメチル化変化を加味して色素増強に関連する遺伝子を解析することにより、これまでの研究では見過ごされていたような遺伝子を検出することができた。このように、本開示に係るスクリーニング方法は、従来技術では達成できなかった顕著な効果を奏するものである。
【0073】
実施例6:選択された遺伝子のシミ部位における発現
実施例4(
図4)におけるGene26は、IL-6レセプター遺伝子である。
図7は、表1のID3の被検者の健常部位(非シミ部位)および色素増強部位(シミ部位)におけるメラニン沈着の状態(明視野像)およびIL-6レセプター発現量(抗IL-6レセプター抗体による免疫染色像)を示している。シミ部位の表皮層において、本開示に係るスクリーニング方法を用いて選択されたIL-6レセプター遺伝子の発現がタンパク質レベルで亢進していることが分かる。したがって、IL-6レセプター遺伝子の発現をマーカーとして、シミの形成を阻害するまたはシミを改善する物質をスクリーニングすることが可能である。IL-6レセプター遺伝子と色素増強との関連は、本発明者らが初めて見出したものである。
【0074】
実施例7:IL-6レセプターの発現を抑制する物質の同定
図8は、正常ヒト表皮角化細胞を用いた発現評価系において、シークワーサー果皮エキス(シークワーサーエキスBG(日油株式会社)、最終濃度:0.1体積%)、クララエキス(クララ抽出液BG-50(香栄工業株式会社)、最終濃度:0.1体積%)、コントロールとして70%ブチレングリコールをそれぞれ添加し、各サンプルのIL-6レセプターの発現量を定量PCRを用いて定量し、コントロールサンプルに対する相対量としてグラフ化したものである(各サンプル:n=6)。シークワーサー果皮エキスおよびクララエキスがIL-6レセプターの発現を抑制するIL-6レセプター抑制剤であることが同定された。