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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057720
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】自動列車運転装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20240418BHJP
   B60L 15/40 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
B60L15/20 Y
B60L15/40 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164567
(22)【出願日】2022-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(72)【発明者】
【氏名】森田 隼史
【テーマコード(参考)】
5H125
【Fターム(参考)】
5H125AA05
5H125CA05
5H125CA15
5H125DD16
5H125EE42
5H125EE53
5H125EE54
5H125EE55
(57)【要約】
【課題】運転士が乗車しない場合であっても列車の滑走を抑制することのできる自動列車運転装置を提供する。
【解決手段】駅を出発してから次駅までの列車の走行状態を走行パターンに従って制御する自動列車運転装置としての車上制御装置14は、走行制御部142と、前記列車の加減速度を検出する加減速度検出部143とを含む。走行制御部142は、前記列車を加速走行させているときに加減速度検出部143によって検出される前記列車の加減速度(加速度)が加速度用閾値を超えると前記列車の車輪の空転を検知し、前記列車の車輪の空転を検知した場合、前記列車の走行状態の制御に用いる走行パターンを通常走行パターンから滑走防止用走行パターンに切り替えるように構成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駅を出発してから次駅までの列車の走行状態を走行パターンに従って制御する自動列車運転装置であって、
前記列車の車輪の空転を検知した場合、前記走行パターンを通常走行パターンから前記通常走行パターンに比べて許容最高速度及び減速度が低い滑走防止用走行パターンに切り替えるように構成されている、
自動列車運転装置。
【請求項2】
前記滑走防止用走行パターンは、前記列車を停止させる列車停止位置に対して前記通常走行パターンよりも手前の位置で前記列車の減速を開始させ、及び、前記通常走行パターンよりも低い減速度で前記列車を減速させるパターンとして設定される、請求項1に記載の自動列車運転装置。
【請求項3】
前記滑走防止用走行パターンは、前記列車を停止させる列車停止位置に対して前記通常走行パターンよりも手前の位置で前記列車の減速を開始させ、前記列車の速度が所定速度を超えている場合には前記通常走行パターンよりも低い減速度で前記列車を減速させ、及び、前記列車の速度が前記所定速度以下になると前記通常走行パターンと同じ減速度で前記列車を減速させるパターンとして設定される、請求項1に記載の自動列車運転装置。
【請求項4】
前記列車の車輪の空転検知のためのパラメータが閾値を超えた場合に、前記走行パターンを前記通常走行パターンから前記滑走防止用走行パターンに切り替えるように構成されている、請求項1に記載の自動列車運転装置。
【請求項5】
前記列車の車軸に取り付けられた速度発電機の出力信号に基づいて前記列車の加速度を検出する加速度検出部を含み、
検出された前記列車の加速度が加速度用閾値を超えた場合に、前記走行パターンを前記通常走行パターンから前記滑走防止用走行パターンに切り替えるように構成されている、請求項4に記載の列車の自動列車運転装置。
【請求項6】
前記加速度用閾値は、前記列車を加速走行させるために出力される力行ノッチ指令のノッチ段に応じて設定される、請求項5に記載の自動列車運転装置。
【請求項7】
前記列車の車軸に取り付けられた速度発電機の出力信号に基づいて前記列車の加速度を検出する加速度検出部と、検出された前記列車の加速度から前記列車のジャーク(加加速度)を算出するジャーク算出部と、含み、
算出された前記列車のジャークがジャーク用閾値を超えた場合に、前記走行パターンを前記通常走行パターンから前記滑走防止用走行パターンに切り替えるように構成されている、請求項4に記載の列車の自動列車運転装置。
【請求項8】
前記ジャーク用閾値は、前記列車を加速走行させるために出力される力行ノッチ指令のノッチ段に応じて設定される、請求項7に記載の自動列車運転装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駅を出発してから次駅までの列車の走行状態を走行パターンに従って制御するように構成された自動列車運転装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動列車運転装置の一例として、特許文献1に記載された列車運転制御装置が知られている。特許文献1に記載された列車運転制御装置は、列車の走行する線路の所定の線区情報を記憶する、地上装置に設けられた線区情報記憶手段と、前記地上装置に記憶されている所定の線区情報を車上に向けて送信する送信手段と、送信されてきた所定の線区情報に基づいて所定の運転パターンを作成する、前記線路を走行する列車に搭載された車上装置に設けられた運転パターン作成手段と、作成された所定の運転パターンに基づいて列車を加減速制御する制御手段と、を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-66988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
列車の自動運転が普及すれば運転士の要員確保や養成に関する費用削減を図ることができる。しかし、踏切などがある線区においては、異常時の安全確保の観点などから列車の運転を完全に自動化(無人化)することは難しい。そのため、前方監視などを行うための係員(運転士免許を持たない添乗員)を乗車させるGoA2.5レベルの自動運転(添乗員付き自動運転)が検討されている。
【0005】
雪など悪天候時やレール凍結時には列車が滑走することがある。列車が滑走すると、フェールセーフの観点から非常ブレーキが作動し易く、非常ブレーキによる列車の停止は列車の安定運行に支障をきたす。よって、悪天候時やレール凍結時には滑走を抑制するように列車を走行させるのが望ましい。運転士が乗車している列車では、運転士がこれまでの経験や車両の挙動などから列車の滑走が発生する可能性を判断し、滑走を抑制するように列車を走行させることができる。しかし、GoA2.5レベルの自動運転が行われる列車には運転士が乗車しない。そのため、悪天候時やレール凍結時に列車の滑走の発生頻度が増加し、非常ブレーキによって列車が停止する事象が増加してしまうおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、運転士が乗車しない場合であっても列車の滑走を抑制することのできる自動列車運転装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面によると、駅を出発してから次駅までの列車の走行状態を走行パターンに従って制御する自動列車運転装置は、前記列車の車輪の空転を検知した場合、前記走行パターンを通常走行パターンから前記通常走行パターンに比べて許容最高速度及び減速度が低い滑走防止用走行パターンに切り替えるように構成されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、運転士が乗車しない場合であっても列車の滑走を抑制することができる自動列車運転装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る自動列車運転装置が適用された列車制御システムの一例の概略構成を示す図である。
図2】自動列車運転装置としての車上制御装置の構成を示すブロック図である。
図3】車上制御装置による列車の走行状態の制御の概要を示す図である。
図4】車上制御装置による列車の走行状態の制御の概要を示す図である。
図5】車上制御装置による列車の走行状態の制御の概要を示す図である。
図6】車上制御装置による列車の走行状態の制御の概要を示す図である。
図7】車上制御装置による列車の走行状態の制御の概要を示す図である。
図8】車上制御装置による列車の走行状態の制御の概要を示す図である。
図9】車上制御装置による列車の走行状態の制御の概要を示す図である。
図10】車上制御装置による列車の走行状態の制御の概要を示す図である。
図11】車上制御装置が列車の車輪の滑走を防止するために行う処理を説明するための図である。
図12】車上制御装置が列車の滑走を防止するために行う処理を説明するための図である。
図13】車上制御装置が列車の滑走を防止するために行う処理を説明するための図である。
図14】車上制御装置が列車の滑走を防止するために行う処理を説明するための図である。
図15】車上制御装置が列車の滑走を防止するために行う処理を説明するための図である。
図16】車上制御装置が列車の滑走を防止するために行う処理を説明するための図である。
図17】車上制御装置が列車の滑走を防止するために処理(走行パターンの切り替え)の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係る自動列車運転装置が適用された列車制御システムの一例の概略構成を示す図である。図1に示された列車制御システムにおいて、複数の駅(図1にはそのうちの1つの駅Sのみが示されている)を経由する列車走行路Rには、地上側設備として複数の地上子が設置されている。列車走行路Rを走行する列車Tには、車上側設備として車上子11、速度発電機12、車上データベース13及び自動列車運転装置としての車上制御装置14が搭載されている。なお、特に限定されないが、本実施形態においては、GoA2.5レベルの自動運転が行われ、列車Tには前方監視などを行うための係員が乗車するが、運転士は乗車しないものとする。
【0011】
[地上側設備]
前記地上側設備としての複数の地上子は、列車走行路Rにおける互いに異なる位置に設置されている。前記複数の地上子のそれぞれは、自身の上方を通過する列車Tの車上子11に対して自身の識別情報(以下「地上子ID」という)や各種の情報などを地上子情報として発信するように構成されている。本実施形態において、前記複数の地上子は、2つの定位置停止制御地上子(以下「TASC地上子」という)21、22を含む。2つのTASC地上子21、22は、主に各駅(ここでは駅S)における列車停止位置(以下「駅停止位置」という)Xに列車Tを停止させるために利用される。また、前記複数の地上子は、各駅(ここでは駅S)の出口側に設置された出発信号機30に連動する4つの地上子31~34と、各駅(ここでは駅S)の入口側に設置された場内信号機40に連動する4つの地上子41~44と、を含む。
【0012】
2つのTASC地上子21、22は、駅Sに向かう列車Tから見て、駅Sの駅停止位置Xの手前に設置されている。以下、2つのTASC地上子21、22のうち、駅Sの駅停止位置Xから離れている方の地上子21を「第1TASC地上子21」といい、駅Sの駅停止位置Xに近い方の地上子22を「第2TASC地上子22」という。
【0013】
第1TASC地上子21は、駅Sに向かう列車Tから見て駅Sの手前であって、且つ駅Sに近い位置に設置されている。第2TASC地上子22は、駅S内において駅停止位置Xの手前数十メートル(例えば、30m)の位置に設置されている。第1TASC地上子21及び第2TASC地上子22は、自身の地上子ID及び自身の位置から駅Sの駅停止位置Xまでの距離情報を前記地上子情報として発信する。
【0014】
出発信号機30に連動する4つの地上子31~34は、出発信号機30に向かう列車Tから見て出発信号機30の手前に設置されている。以下、出発信号機30に連動する4つの地上子31~34のうち、最も手前に設置された地上子31を「第1ロング地上子31」といい、残りの3つの地上子32~34を「第1直下地上子32」、「第1冒進防護地上子33」及び「第1予備直下地上子34」という。
【0015】
第1ロング地上子31は、出発信号機30から最も離れた位置に設置されている。第1ロング地上子31は、列車Tの車上子11に対して出発信号機30の現示情報を最初に発信する地上子である。第1ロング地上子31は、駅Sに向かう列車Tから見て第1TASC地上子21よりも手前に設置されている。第1ロング地上子31は、出発信号機30が進行現示の場合、自身の地上子ID及び出発信号機30が進行現示であることを示す情報(以下「出発信号機30の進行現示情報」という)を前記地上子情報として発信する。また、第1ロング地上子31は、出発信号機30が停止現示の場合、自身の地上子ID及び出発信号機30が停止現示であることを示す情報(以下「出発信号機30の停止現示情報」という)を前記地上子情報として発信する。
【0016】
第1直下地上子32、第1冒進防護地上子33及び第1予備直下地上子34は、駅Sにおける駅停止位置Xと出発信号機30との間に、つまり、駅Sの出口近傍に列車Tの走行方向にこの順序で設置されている。
【0017】
第1直下地上子32は、駅Sにおける駅停止位置Xに近い位置に設置されている。第1直下地上子32は、出発信号機30が進行現示の場合、自身の地上子ID及び出発信号機30の進行現示情報を前記地上子情報として発信する。また、第1直下地上子32は、出発信号機30が停止現示の場合、自身の地上子ID及び列車Tに非常ブレーキを作動させる(つまり、列車Tを緊急停止させる)即時停止情報を前記地上子情報として発信する。
【0018】
第1冒進防護地上子33は、第1直下地上子32の内方、すなわち、第1直下地上子32よりも出発信号機30に近い位置に設置されている。第1予備直下地上子34は、第1冒進防護地上子33の内方、すなわち、第1冒進防護地上子33よりもさらに出発信号機30に近い位置(出発信号機30の直前)に設置されている。第1冒進防護地上子33及び第1予備直下地上子34は、第1直下地上子32と同様、出発信号機30が進行現示の場合には自身の地上子ID及び出発信号機30の進行現示情報を前記地上子情報として発信し、出発信号機30が停止現示の場合には自身の地上子ID及び前記即時停止情報を前記地上子情報として発信する。
【0019】
場内信号機40に連動する4つの地上子41~44は、場内信号機40に向かう列車Tから見て場内信号機40の手前に設置されている。以下、場内信号機40に連動する4つの地上子41~44のうち、最も手前に設置された地上子41を「第2ロング地上子41」といい、残りの3つの地上子42~44を「第2直下地上子42」、「第2冒進防護地上子43」及び「第2予備直下地上子44」という。
【0020】
第2ロング地上子41は、場内信号機40から最も離れた位置に設置されている。第2ロング地上子41は、列車Tの車上子11に対して場内信号機40の現示情報を最初に発信する地上子である。第2ロング地上子41は、場内信号機40の手前数百メートル(例えば、600m)の位置に設置されている。第2ロング地上子41は、場内信号機40が進行現示の場合、自身の地上子ID及び場内信号機40が進行現示であることを示す情報(以下「場内信号機40の進行現示情報」という)を前記地上子情報として発信する。また、第2ロング地上子41は、場内信号機40が停止現示の場合、自身の地上子ID及び場内信号機40が停止現示であることを示す情報(以下「場内信号機40の停止現示情報」という)を前記地上子情報として発信する。
【0021】
第2直下地上子42、第2冒進防護地上子43及び第2予備直下地上子44は、場内信号機40が停止現示のときに列車Tを停止させる列車停止位置(以下「信号停止位置」という)Yと場内信号機40との間に、列車Tの走行方向にこの順序で設置されている。本実施形態において、信号停止位置Yは、場内信号機40の手前数十メートル(例えば、80m)の位置に設定される。
【0022】
第2直下地上子42は、信号停止位置Yに近い位置に設置されている。第2直下地上子42は、場内信号機40が進行現示の場合、自身の地上子ID及び場内信号機40の進行現示情報を前記地上子情報として発信する。また、第2直下地上子42は、場内信号機40が停止現示の場合、自身の地上子ID及び前記即時停止情報を前記地上子情報として発信する。
【0023】
第2冒進防護地上子43は、第2直下地上子42の内方、すなわち、第2直下地上子42よりも場内信号機40に近い位置に設置されている。第2予備直下地上子44は、第2冒進防護地上子43の内方、すなわち、第2冒進防護地上子43よりもさらに場内信号機40に近い位置(場内信号機40の直前)に設置されている。第2冒進防護地上子43及び第2予備直下地上子44は、第2直下地上子42と同様、場内信号機40が進行現示の場合には自身の地上子ID及び場内信号機40の進行現示情報を前記地上子情報として発信し、場内信号機40が停止現示の場合には自身の地上子ID及び前記即時停止情報を地上子情報として発信する。
【0024】
[車上側設備]
車上子11は、列車Tの下部(好ましくは前側下部)に取り付けられている。車上子11は、列車Tが列車走行路Rに設置された各地上子の上方を通過する際に各地上子から発信された前記地上子情報を受信する。車上子11によって受信された前記地上子情報は、車上制御装置14へと送られる。
【0025】
速度発電機12は、列車Tの車軸に取り付けられている。速度発電機12は、列車Tの車軸の回転数に応じた信号を出力する。速度発電機12の出力信号は、車上制御装置14へと送られる。
【0026】
車上データベース13には、列車走行路Rに関する情報や各地上子に関する情報が格納されている。列車走行路Rに関する情報は、列車走行路Rにおける最高速度情報を含む。前記地上子に関する情報は、列車走行路Rに設置された各地上子の位置情報(例えば地上子IDと対応付けられた位置情報)を含む。
【0027】
車上制御装置14は、図2に示されるように、速度・距離検出部141と、走行制御部142と、を有する。
【0028】
速度・距離検出部141は、速度発電機12の出力信号に基づいて列車Tの速度及び走行距離を検出(算出)する。
【0029】
走行制御部142は、列車Tの走行状態を制御する。本実施形態において、走行制御部142は、力行ノッチ指令を出力することにより、列車Tの駆動装置15の動力(駆動力)を列車Tの車軸に与えて列車Tを加速走行させる(加速制御)。また、走行制御部142は、前記力行ノッチ指令の出力を停止することにより、列車Tを惰行させる(惰行制御)。さらに、走行制御部142は、ブレーキノッチ指令を出力することにより、列車Tの常用ブレーキ装置16の制動力を列車Tの車軸又は車輪に与えて列車Tを減速走行させる(減速制御)。ここで、前記力行ノッチ指令は、列車Tの駆動装置15の出力(駆動力)を設定(調整)するためのノッチ段(力行ノッチ段)の指定を含み、前記ブレーキノッチ指令は、列車Tの常用ブレーキ装置16の制動力を設定(調整)するためのノッチ段(ブレーキノッチ段)の指定を含む。以下、走行制御部142による列車Tの走行状態の制御について具体的に説明する。
【0030】
[駅出発及び再発進]
列車Tが駅Sの駅停止位置Xに停止しているときに、出発信号機30が進行現示になって列車Tの係員が走行開始操作を行うと、車上制御装置14の走行制御部142は、列車Tを駅Sの駅停止位置Xから出発させる(駅出発)。また、走行制御部142は、列車Tが信号停止位置Yで停止しているときに、場内信号機40が進行現示になって列車Tの係員が走行開始操作を行うと、列車Tを信号停止位置Yから発進させる(再発進)。具体的には、走行制御部142は、ブレーキ解除指令を出力することで常用ブレーキ装置16を解除し、及び前記力行ノッチ指令を出力することで列車Tを出発(発進)させる。
【0031】
[駅間走行]
走行制御部142は、列車Tを駅停止位置Xから出発させると列車Tを所定速度(例えば15km/h)以下の低速で走行させる。同様に、走行制御部142は、信号停止位置Yで停止した列車Tを発進させると(すなわち、駅間で停止した列車Tを再発進させると)列車Tを前記所定速度以下の低速で走行させる。そして、走行制御部142は、地上子の位置情報を取得すると、列車走行路Rに関する情報及び取得された地上子の位置情報に基づいて、速度照査パターンP1及び運転パターンP2を発生させる。
【0032】
ここで、走行制御部142は、列車Tが走行を開始してから所定距離だけ走行しても地上子の位置情報を取得しない場合には列車Tを停止させる。前記所定距離は、列車停止位置(駅停止位置Xや信号停止位置Y)と、列車Tの走行方向において前記列車停止位置の先にあり且つ前記列車停止位置に最も近い地上子(第1直下地上子32や第2直下地上子42)との距離よりも大きく設定される。
【0033】
本実施形態において、速度照査パターンP1は、列車走行路Rにおける各区間の最高速度(区間最高速度)に基づく最高速度パターンと、信号機に対する信号機冒進防護パターンと、を含む。前記最高速度パターンは、列車Tが前記区間最高速度を超える速度で走行することを防止するためのパターンである。前記信号機に対する信号機冒進防護パターンは、列車Tが対象信号機を冒進することを防止するためのパターンである。
【0034】
運転パターンP2は、前記最高速度パターンに対応する運転パターンと、前記信号機冒進防護パターンに対応する運転パターンとを含む。前記最高速度パターンに対応する運転パターンは、前記区間最高速度よりも所定速度(例えば10~15km/h)だけ低い速度で列車Tを走行させるためのパターンである。換言すれば、前記最高速度パターンに対応する運転パターンは、列車Tの許容上限速度(又は目標速度)が前記区間最高速度よりも前記所定速度だけ低く設定されたパターンである。前記信号機冒進防護パターンに対応する運転パターンは、列車Tを対象信号機の手前の信号停止位置Yで停止させるため運転パターンである。
【0035】
なお、以下の説明においては、前記最高速度パターンに対応する運転パターンを「通常運転パターン」といい、前記信号機冒進防護パターンに対応する運転パターンを「信号停止パターン」という。
【0036】
走行制御部142は、速度照査パターンP1及び運転パターンP2を発生させると、運転パターンP2に従って列車Tの走行状態を制御する。すなわち、走行制御部142は、運転パターンP2に追随するように、列車Tを加速走行させ、惰行走行させ、定速走行させ、及び/又は減速走行させる。具体的には、走行制御部142は、運転パターンP2のうち、列車Tの位置に応じて、パターン上の速度が最も低いパターンに従って列車Tの走行状態を制御する。
【0037】
また、走行制御部142は、列車Tの速度が速度照査パターンP1(上の対応速度)を超過すると、非常ブレーキ装置17により列車Tを停止させるように構成されている。
【0038】
[駅停車]
走行制御部142は、列車Tが駅Sに接近して、車上子11を介して第1TASC地上子21から駅Sの駅停止位置Xまでの距離情報を受信すると、列車Tを駅Sの駅停止位置Xの少し手前に停止させるための駅停車パターンP3を発生させる。そして、走行制御部142は、駅停車パターンP3を発生させると、駅停車パターンP3に従って列車Tの走行状態を制御する。すなわち、走行制御部142は、駅停車パターンP3に追随するように列車Tを減速させる。その際、走行制御部142は、車上子11を介して第2TASC地上子22から受信される駅Sの駅停止位置Xまでの距離情報に基づいて列車Tの減速状態を調整し、最終的に列車Tを駅停止位置Xに停止させる。
【0039】
次に、図3図10を参照して列車TがA駅を出発してからB駅に到着するまでの間に走行制御部142(すなわち、自動列車運転装置としての車上制御装置14)が行う列車Tの走行状態の制御の概要を説明する。なお、図3図10において、破線は、速度照査パターンP1を示し、実線は、運転パターンP2及び駅停車パターンP3を示し、二重線は、列車Tの走行軌跡(速度及び位置)を示している。また、図3図10において、前記地上側設備に関し、A駅に関連する設備については符号の末尾に「A」が付加されており、B駅に関連する設備については符号の末尾に「B」が付加されている。
【0040】
図3は、列車TがA駅の駅停止位置XAから出発した直後の様子を示している。走行制御部142は、列車Tを出発させると、列車Tを前記所定速度の近傍まで加速させ、その後、列車Tを惰行又は定速走行させる(図3の二重線を参照)。つまり、走行制御部142は、駅を出発した直後においては前記所定速度以下の低速で列車Tを走行させる。
【0041】
ここで、A駅の出発信号機30Aが進行現示であるので、第1直下地上子32A、第1冒進防護地上子33A及び第1予備直下地上子34Aは前記即時停止情報を発信しない。したがって、列車Tは、第1直下地上子32A、第1冒進防護地上子33A及び第1予備直下地上子34Aを通過することになる。
【0042】
図4は、駅停止位置XAを出発した列車TがA駅の出発信号機30Aに連動する第1直下地上子32Aまで移動したときの様子を示している。列車Tが第1直下地上子32Aまで移動すると、走行制御部142は、車上子11を介して第1直下地上子32Aから第1直下地上子32Aの地上子ID及び出発信号機30の進行現示情報を受信する。すると、走行制御部142は、車上データベース13にアクセスして第1直下地上子32Aの位置情報を取得する。これにより、走行制御部142は、列車Tの位置を把握する。そして、以降、走行制御部142は、把握された列車Tの位置及び速度・距離検出部141によって検出される列車Tの走行距離に基づいて列車Tの位置を検出するようになる。
【0043】
また、走行制御部142は、列車Tの位置を把握すると、車上データベース13にアクセスし、列車走行路Rの対応区間(ここではA駅-B駅間)の情報を参照して速度照査パターンP1を発生させる。速度照査パターンP1は、A駅-B駅間の最高速度に基づく最高速度パターンと、B駅の場内信号機40Bに対する信号機冒進防護パターン(以下「第1信号機冒進防護パターン」という)と、を含む(図4の破線を参照)。
【0044】
さらに、走行制御部142は、パターン上の各速度が速度照査パターンP1上の対応速度よりも低い速度に設定された運転パターンP2を発生させる。運転パターンP2は、前記最高速度パターンに対応する通常運転パターンと、第1信号機冒進防護パターンに対応する第1信号停止パターンと、を含む(図4の実線を参照)。
【0045】
図5は、速度照査パターンP1及び運転パターンP2の発生後の様子を示している。走行制御部142は、速度照査パターンP1及び運転パターンP2を発生させると、運転パターンP2に従って列車Tの走行状態を制御する。具体的には、走行制御部142は、前記通常運転パターンに追随するように、列車Tを加速走行させ、その後、列車Tを惰行走行させ又は定速走行させる(図5の二重線を参照)。
【0046】
図6は、B駅の場内信号機40Bが進行現示であるときに、列車TがB駅の場内信号機40Bに連動する第2ロング地上子41Bに到達したときの様子を示している。列車Tが第2ロング地上子41Bに到達すると、走行制御部142は、車上子11を介して第2ロング地上子41Bから第2ロング地上子41Bの地上子ID及び場内信号機40Bの進行現示情報を受信する。すると、走行制御部142は、車上データベース13にアクセスして第2ロング地上子41Bの位置情報を取得する。そして、走行制御部142は、取得された第2ロング地上子41Bの位置情報に基づいて列車Tの位置を更新(補正)し、以降、更新(補正)された列車Tの位置及び速度・距離検出部141によって検出される列車Tの走行距離に基づいて列車Tの位置を検出するようになる。
【0047】
また、走行制御部142は、場内信号機40Bの進行現示情報を受信したことにより、前記第1信号機冒進防護パターン及び前記第1信号停止パターンを消去する。そして、走行制御部142は、B駅の出発信号機30Bに対する信号機冒進防護パターン(以下「第2信号機冒進防護パターン」という)を速度照査パターンP1として発生させ、及び前記第2信号機冒進防護パターンに対応する第2信号停止パターンを運転パターンP2として発生させる。したがって、走行制御部142は、前記通常運転パターンに従って列車Tの走行状態を制御する。基本的には、走行制御部142は、前記通常運転パターンに追随するように、列車Tを加速走行させ、惰行走行させ、及び/又は定速走行させる。
【0048】
ここで、B駅の場内信号機40Bが進行現示であるので、第2直下地上子42B、第2冒進防護地上子43B及び第2予備直下地上子44Bは前記即時停止情報を発信しない。したがって、列車Tは、第2直下地上子42B、第2冒進防護地上子43B及び第2予備直下地上子44Bを通過することになる。
【0049】
図7は、B駅の出発信号機30Bが進行現示であるときに、列車TがB駅の出発信号機30Bに連動する第1ロング地上子31Bに到達したときの様子を示している。列車Tが第1ロング地上子31Bに到達すると、走行制御部142は、車上子11を介して第1ロング地上子31Bから第1ロング地上子31Bの地上子ID及び出発信号機30Bの進行現示情報を受信する。すると、走行制御部142は、車上データベース13にアクセスして第1ロング地上子31Bの位置情報を取得する。そして、走行制御部142は、取得された第1ロング地上子31Bの位置情報に基づき列車Tの位置を更新(補正)し、以降、更新(補正)された列車Tの位置及び速度・距離検出部141によって検出される列車Tの走行距離に基づいて列車Tの位置を検出するようになる。
【0050】
また、走行制御部142は、出発信号機30Bの進行現示情報を受信したことにより、前記第2信号機冒進防護パターン及び前記第2信号停止パターンを消去する。そして、走行制御部142は、B駅の次の駅であるC駅の場内信号機に対する第3信号機冒進防護パターン(図示省略)を速度照査パターンP1として発生させると共に、前記第3信号機冒進防護パターンに対応する第3信号停止パターン(図示省略)を発生させる。
【0051】
図8は、列車Tが第1TASC地上子21Bに到達したときの様子を示している。列車Tが第1TASC地上子21Bに到達すると、走行制御部142は、車上子11を介して第1TASC地上子21Bの地上子ID及び第1TASC地上子21BからB駅の駅停止位置XBまでの距離情報を受信する。すると、走行制御部142は、受信されたB駅の駅停止位置XBまでの距離情報に基づき、列車Tを駅停止位置XBの手前に停止させるための駅停車パターンP3を発生させる。
【0052】
図9は、駅停車パターンP3の発生後の様子を示している。走行制御部142は、駅停車パターンP3を発生させると、駅停車パターンP3に従って列車Tの走行状態を制御する。具体的には、走行制御部142は、駅停車パターンP3に追随するように列車Tを減速走行させる。その際、走行制御部142は、車上子11を介して第2TASC地上子22Bから受信するB駅の駅停止位置XBまでの距離情報に基づいて列車Tの減速状態を調整する。これにより、列車TがB駅の駅停止位置XBに精度よく停止する(図9の二重線を参照)。
【0053】
図10は、B駅の場内信号機40Bが停止現示であるときに、列車Tが第2ロング地上子41Bに到達した場合を示している。この場合、走行制御部142は、車上子11を介して第2ロング地上子41Bから第2ロング地上子41Bの地上子ID及び場内信号機40Bの停止現示情報を受信する。走行制御部142は、場内信号機40Bの停止現示情報を受信すると前記第1信号機冒進防護パターン及び前記第1信号停止パターンを維持する。したがって、走行制御部142は、前記第1信号停止パターンに追随するように列車Tを減速走行させ、最終的に列車TをB駅の場内信号機40Bの信号停止位置YBで停止させる(図10の二重線を参照)。
【0054】
その後、B駅の場内信号機40Bが進行現示になり且つ列車Tの係員が前記所定の走行開始操作を行うと、走行制御部142は、列車Tを信号停止位置YBから発進させる(再発進)。そして、列車TがB駅の場内信号機40Bに連動する第2直下地上子42Bまで移動すると、走行制御部142は、車上子11を介して第2直下地上子42Bから第2直下地上子42Bの地上子ID及び場内信号機40Bの進行現示情報を受信する。すると、走行制御部142は、車上データベース13にアクセスして第2直下地上子42Bの位置情報を取得し、取得された第2直下地上子42Bの位置情報に基づいて列車Tの位置を把握する。
【0055】
また、走行制御部142は、場内信号機40Bの進行現示情報を受信したことにより、前記第1信号機冒進防護パターンを消去し、前記第2信号機冒進防護パターンを速度照査パターンP1として発生させると共に、前記第2信号停止パターンを運転パターンP2として発生させる(図6参照)。その後については、B駅の場内信号機40Bが進行現示であるときに列車Tが第2ロング地上子41Bに到達した場合と同様である。
【0056】
このように、走行制御部142(すなわち、自動列車運転装置としての車上制御装置14)は、A駅を出発してからB駅までの列車Tの走行状態を走行パターン(運転パターンP2及び駅停車パターンP3)に従って制御するように構成されている。
【0057】
ところで、上述のように、本実施形態においては、GoA2.5レベルの自動運転が行われており、列車Tには運転士が乗車しない。そのため、列車Tに運転士が乗車している場合に比べて、悪天候時やレール凍結時における列車Tの滑走の発生頻度が増加し、非常ブレーキによって列車Tが停止する事象が増加してしまうおそれがある。そこで、本実施形態において、車上制御装置14の走行制御部142は、列車Tの走行状態をさらに以下のように制御することにより、列車Tの滑走の発生及びこれに伴う非常ブレーキによる列車Tの停止を抑制するようにしている。
【0058】
まず、本実施形態において、車上制御装置14は、加減速度検出部143をさらに有している(図2参照)。加減速度検出部143は、速度発電機12の出力信号に基づき、単位時間あたりの列車Tの速度の変化率を列車Tの加減速度(km/h/s)として検出(算出)するように構成されている。列車Tが加速走行している場合、列車Tの加減速度は正の値(つまり、加速度)として検出(算出)され、列車Tが減速走行している場合、列車Tの加減速度は負の値(つまり、減速度)として検出(算出)される。
【0059】
また、走行制御部142は、列車Tの車輪の空転を検知するための加速度用の判定閾値(以下「加速度用閾値」という)を前記力行ノッチ指令の前記力行ノッチ段ごとに記憶している。そして、走行制御部142は、前記力行ノッチ指令を出力しているとき、換言すれば、列車Tを加速走行させているとき、加減速度検出部143によって算出される列車Tの加減速度(すなわち、列車Tの加速度)が前記力行ノッチ指令の前記力行ノッチ段に応じた加速度用閾値を超えると、列車Tの車輪の空転を検知する。
【0060】
走行制御部142は、列車Tの車輪が空転を検知するとその後の列車Tの減速走行において列車Tが滑走するおそれがあると判断し、新たな走行パターンを発生させる。発生させる新たな走行パターンは、列車Tの滑走を防止するためのパターンであり、通常時の走行パターン(以下単に「通常走行パターン」という)である運転パターンP2及び駅停車パターンP3に比べて、列車Tの許容最高速度(又は目標速度)及び減速度が低く設定される。そして、走行制御部142は、新たな走行パターンの発生後においては、前記通常走行パターン(運転パターンP2、駅停車パターンP3)に代えて新たな走行パターンに従って列車Tの走行状態を制御する。つまり、走行制御部142は、列車Tの走行状態の制御に用いる走行パターンを前記通常走行パターンから前記新たな走行パターンに切り替える。なお、以下では前記新たな走行パターンのことを「滑走防止用走行パターンP4」という。また、本実施形態において、滑走防止用走行パターンP4は、前記通常走行パターンの運転パターンP2に対応する滑走防止用運転パターンと、前記通常走行パターンの駅停車パターンP3に対応する滑走防止用駅停車パターンとを含む。
【0061】
以下、図11図17を参照して、走行制御部142(すなわち、自動列車運転装置としての車上制御装置14)が列車Tの滑走を防止するために行う処理について説明する。
【0062】
図11は、図5に対応する図であり、速度照査パターンP1及び運転パターンP2の発生後、走行制御部142が運転パターンP2の前記通常運転パターンに追随するように列車Tを加速走行させているとき、位置Zにおいて列車Tの加速度が前記力行ノッチ段に応じた加速度用閾値を超えた場合を示している。この場合、走行制御部142は、位置Zにおいて列車Tの車輪の空転を検知し、滑走防止用走行パターンP4の前記滑走防止用運転パターンを発生させる。発生させる滑走防止用運転パターンは、図11中に一点鎖線で示されるように、列車Tの許容上限速度(又は目標速度)が運転パターンP2の前記通常運転パターンのそれよりも低い運転パターン(以下「低速運転パターン」という)と、列車Tの減速度が運転パターンP2の前記第1信号停止パターンのそれよりも低い運転パターン(以下「第1低減速度パターン」という)とを含む。ここで、図11から明らかなように、前記滑走防止用運転パターンは、列車Tを停止させる信号停止位置YBに対して運転パターンP2よりも手前の位置で列車Tの減速を開始させ、及び、運転パターンP2よりも低い減速度で列車Tを減速させるパターンということもできる。
【0063】
図12は、前記滑走防止用運転パターンの発生後の様子を示している。走行制御部142は、前記滑走防止用運転パターンを発生させると、運転パターンP2(の前記通常運転パターン)に代えて前記滑走防止用運転パターン(の前記低速運転パターン)に従って列車Tの走行状態を制御する。よって、列車Tの走行状態が運転パターンP2(前記通常運転パターン)に従って制御される(すなわち、列車Tの車輪の空転が検知されていない)通常時に比べて列車Tの走行速度が抑制される。
【0064】
図13は、図6に対応する図であり、前記滑走防止用運転パターンの発生後、B駅の場内信号機40Bが進行現示であるときに、列車TがB駅の場内信号機40Bに連動する第2ロング地上子41Bに到達したときの様子を示している。走行制御部142は、場内信号機40Bの進行現示情報を受信したことにより、前記第1信号機冒進防護パターン、第1信号機停止パターン及び前記第1低減速度パターンを消去する。よって、走行制御部142は、引き続き前記低速運転パターンに従って列車Tの走行状態を制御する。また、走行制御部142は、前記第2信号機冒進防護パターンを発生させると共に、運転パターンP2の前記第2信号停止パターンに代えて列車Tの減速度が前記第2信号停止パターンのそれよりも低い第2低減速度パターンを前記滑走防止用運転パターンとして発生させる。
【0065】
なお、図示は省略するが、前記滑走防止用運転パターンの発生後、B駅の出発信号機30Bが進行現示であるときに、列車TがB駅の出発信号機30Bに連動する第1ロング地上子31Bに到達すると、走行制御部142は、前記第2信号機冒進防護パターン及び前記第2低減速度パターンを消去する。そして、走行制御部142は、前記第3信号機冒進防護パターンを発生させると共に、前記第3信号停止パターン(運転パターンP2)に代えて列車の減速度が前記第3信号停止パターンのそれよりも低い第3低減速度パターン(前記滑走防止用運転パターン)を発生させる。
【0066】
図14は、図8に対応する図であり、前記滑走防止用運転パターンの発生後、列車Tが第1TASC地上子21Bに到達したときの様子を示している。列車Tが第1TASC地上子21Bに到達すると、走行制御部142は、車上子11を介して第1TASC地上子21BからB駅の駅停止位置XBまでの距離情報を受信する。すると、走行制御部142は、通常時の駅停車パターンP3(図8)よりも減速度の低い滑走防止用駅停車パターンを発生させる。
【0067】
図15は、図9に対応する図であり、前記滑走防止用駅停車パターンの発生後の様子を示している。走行制御部142は、前記滑走防止用駅停車パターンを発生させると、前記滑走防止用駅停車パターンに追随するように列車Tを減速走行させ、及び、第2TASC地上子22Bから受信する距離情報に基づき列車Tの減速状態を調整して列車Tを駅停止位置XBに停止させる(図15の二重線を参照)。よって、列車Tは、通常時(図9)よりも低い減速度で減速してB駅の駅停止位置XBに停止する。
【0068】
図16は、図10に対応する図であり、前記滑走防止用運転パターンの発生後、B駅の場内信号機40Bが停止現示であるときに、列車Tが第2ロング地上子41Bに到達した場合を示している。走行制御部142は、場内信号機40Bの停止現示情報を受信し、前記第1信号機冒進防護パターン、前記第1信号停止パターン及び前記第1低減速度パターンを維持する。そして、走行制御部142は、前記第1低減速度パターンに追随するように列車Tを減速走行させて、列車TをB駅の場内信号機40Bの信号停止位置YBで停止させる(図16の二重線を参照)。この場合、列車Tは、場内信号機40Bに対して通常時(図10)よりも手前の位置(場内信号機40Bから離れた位置)で減速を開始し、通常時よりも低い減速度で減速して信号停止位置YBに停止する。
【0069】
図17は、列車Tの車輪の滑走を防止するために走行制御部142が行う処理(走行パターンの切り替え)の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、A駅を出発した列車TがB駅の場内信号機40Bの信号停止位置YBで停止することなく走行する場合の処理を示している。また、このフローチャートは、例えば、列車TがA駅の駅停止位置XAから出発すると開始される。
【0070】
ステップS1において、走行制御部142は、第1直下地上子32Aの位置情報を取得したか否かを判断する。そして、走行制御部142は、第1直下地上子32Aの位置情報を取得するとステップS2の処理に移行する。
【0071】
ステップS2において、走行制御部142は、速度照査パターンP1及び運転パターンP2を発生させる(図4参照)。
【0072】
ステップS3において、走行制御部142は、前記力行ノッチ指令を出力しているか否か(列車Tを加速走行させているか否か)を判断する。前記力行ノッチ指令を出力していない場合、走行制御部142は、ステップS4の処理に移行する。他方、前記力行ノッチ指令を出力している(列車Tを加速走行させている)場合、走行制御部142は、ステップS6の処理に移行する。
【0073】
ステップS4において、走行制御部142は、B駅の駅停止位置XBまでの距離情報を受信したか否かを判断する。B駅の駅停止位置XBまでの距離情報を受信した場合、走行制御部142は、ステップS5の処理に移行する。他方、B駅の駅停止位置XBまでの距離情報を受信していない場合、走行制御部142は、ステップS3の処理に戻る。
【0074】
ステップS5において、走行制御部142は、駅停車パターンP3を発生させる(図8参照)。そして、駅停車パターンP3を発生させると、走行制御部142は、本フローを終了する。
【0075】
ステップS6において、走行制御部142は、加減速度検出部143から列車Tの加減速度(すなわち、列車Tの加速度)を入力する。
【0076】
ステップS7において、入力された列車Tの加速度が前記力行ノッチ指令の前記力行ノッチ段に応じた加速度用閾値を超えているか否かを判断する。列車Tの加速度が前記加速度用閾値以下である場合、走行制御部142は、ステップS4の処理に移行する。他方、列車Tの加速度が前記加速度用閾値を超えている場合、走行制御部142は、ステップS8の処理に移行する。
【0077】
ステップS8において、走行制御部142は、列車Tの車輪の空転を検知する。
【0078】
ステップS9において、走行制御部142は、前記滑走防止用運転パターンを発生させる(図12参照)。これにより、走行制御部142は、運転パターンP2(の前記通常運転パターン)に代えて前記滑走防止用運転パターン(の低速運転パターン)に従って列車Tの走行状態を制御することになる。
【0079】
ステップS10において、走行制御部142は、B駅の駅停止位置XBまでの距離情報を受信したか否かを判断する。そして、走行制御部142は、B駅の駅停止位置XBまでの距離情報を受信するとステップS11の処理に移行する。
【0080】
ステップS11において、走行制御部142は、前記滑走防止用駅停車パターンを発生させる(図14参照)。そして、前記滑走防止用駅停車パターンを発生させると、走行制御部142は、本フローを終了する。
【0081】
以上説明したように、本実施形態において、自動列車運転装置としての車上制御装置14は、走行制御部142と、加減速度検出部143とを含む。
【0082】
走行制御部142は、駅を出発してから次駅までの列車Tの走行状態を走行パターン(運転パターンP2及び駅停車パターンP3)に従って制御するように構成されている。すなわち、走行制御部142は、前記走行パターンに追随するように、列車Tを加速走行させ、列車Tを惰行走行させ、列車Tを定速走行させ、及び列車Tを減速走行させるように構成されている。
【0083】
また、走行制御部142は、前記力行ノッチ指令を出力して列車Tを加速走行させているとき、加減速度検出部143によって検出された列車Tの加減速度(加速度)が前記力行ノッチ段に応じた加速度用閾値を超えると列車Tの車輪の空転を検知する。そして、走行制御部142は、列車Tの車輪の空転を検知した場合、列車Tの走行状態の制御に用いる走行パターンを前記通常走行パターン(運転パターンP2、駅停車パターンP3)から滑走防止用走行パターンP4(前記滑走防止用運転パターン、前記滑走防止用駅停車パターン)に切り替えるように構成されている。ここで、滑走防止用走行パターンP4は、通常走行パターンに比べて、列車Tの許容最高速度(又は目標速度)及び減速度が低く設定されている。
【0084】
そのため、運転士が乗車しない場合であっても悪天候時やレール凍結時における列車Tの滑走が抑制され得る。
【0085】
なお、上述の実施形態において、走行制御部142は、列車Tを加速走行させているときに加減速度検出部143によって検出された列車Tの加減速度(加速度)が加速度用閾値を超えた場合に列車Tの車輪の空転を検知している。しかし、これに限られるものではない。走行制御部142は、列車Tの車輪の空転検知に使用可能なパラメータが閾値を超えた場合に列車Tの車輪の空転を検知するように構成され得る。例えば、図2中の破線で示されるように、車上制御装置14がジャーク算出部144を含んでもよい。この場合、ジャーク算出部144は、加減速度検出部143によって検出された列車Tの加減速度(加速度)からジャーク(加加速度)を算出するように構成され、走行制御部142は、列車Tの車輪の空転を検知するためのジャーク用の判定閾値(ジャーク用閾値)を前記力行ノッチ指令の前記力行ノッチ段ごとに記憶している。そして、走行制御部142は、列車Tを加速走行させているときにジャーク算出部144によって算出された列車Tのジャーク(加加速度)がジャーク用閾値を超えた場合に列車Tの車輪の空転を検知するように構成される。
【0086】
また、上述の実施形態において、走行制御部142は、列車Tの車輪の空転を検知した場合に前記滑走防止用運転パターン(前記低速運転パターン、前記第1低減速度パターン)を発生させている。しかし、これに限られるものではない。走行制御部142は、速度照査パターンP1及び運転パターンP2と一緒に前記滑走防止用運転パターンを発生させておき、列車Tの車輪の空転を検知した場合に、列車Tの走行状態の制御に用いる走行パターンを運転パターンP2から前記滑走防止用運転パターンに切り替えるようにしてもよい。
【0087】
また、上述の実施形態において、前記滑走防止用運転パターンは、列車Tを停止させる信号停止位置に対して運転パターンP2よりも手前の位置で列車Tの減速を開始させ、及び、運転パターンP2よりも低い減速度で列車Tを減速させるパターンとして設定されている。しかし、これに限られるものではない。前記滑走防止用運転パターンは、列車Tを停止させる信号停止位置に対して運転パターンP2よりも手前の位置で列車Tの減速を開始させ、列車Tの速度が所定速度を超えている場合には運転パターンP2よりも低い減速度で列車Tを減速させ、及び、列車Tの速度が前記所定速度以下になると運転パターンP2と同じ減速度で列車Tを減速させるパターンとして設定されてもよい。この場合、前記所定速度は、列車Tの車輪が滑走するおそれのない列車Tの速度に設定される。
【0088】
さらに、上述の実施形態において、走行制御部142は、地上子の位置情報を取得すると、前記通常運転パターン及び前記信号機停止パターンを運転パターンP2として発生させている。しかし、これに限られるものではない。走行制御部142は、列車走行路Rに速度制限区間などが存在する場合には、速度制限区間用運転パターンをさらに発生させるように構成され得る。この速度制限区間用運転パターンは、前記速度制限区間にその制限速度以下の速度で列車Tを進入させ且つ前記速度制限区間をその制限速度以下の速度で列車Tを走行させるためのパターンである。この場合、走行制御部142は、列車Tの車輪の空転を検知すると、前記速度制限区間用運転パターンに対して許容最高速度及び減速度が低い滑走防止用運転パターンをさらに作成するように構成され得る。
【0089】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に制限されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて変形及び変更が可能であることはもちろんである。
【符号の説明】
【0090】
1…列車制御システム、11…車上子、12…速度発電機、13…車上データベース、14…車上制御装置(自動列車運転装置)、15…駆動装置、16…常用ブレーキ装置、17…非常ブレーキ装置、30…出発信号機、40…場内信号機、141…速度・距離検出部、142…走行制御部、143…加減速度検出部、R…列車走行路、S…駅、T…列車
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17