(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057722
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】発毛又は育毛を目的として摂取される組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 33/105 20160101AFI20240418BHJP
A61K 36/74 20060101ALI20240418BHJP
A61P 17/14 20060101ALI20240418BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240418BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240418BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20240418BHJP
A61Q 7/00 20060101ALI20240418BHJP
A23F 5/10 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K36/74
A61P17/14
A61P29/00
A61P43/00 105
A61K8/9789
A61Q7/00
A23F5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164570
(22)【出願日】2022-10-13
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100211122
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 卓也
(72)【発明者】
【氏名】礒田 博子
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一憲
(72)【発明者】
【氏名】高倉 康彰
(72)【発明者】
【氏名】金谷 華帆
(72)【発明者】
【氏名】萩野 武史
【テーマコード(参考)】
4B018
4B027
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD57
4B018ME14
4B018MF01
4B027FB28
4B027FC06
4B027FK10
4B027FQ20
4C083AA111
4C083CC37
4C083EE22
4C088AB14
4C088AC04
4C088BA09
4C088CA05
4C088CA08
4C088MA52
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA92
4C088ZB11
4C088ZB22
4C088ZC01
(57)【要約】
【課題】焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓に由来し、発毛剤や育毛剤として有用な組成物及び当該組成物の製造方法の提供。
【解決手段】焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓からエタノール含有溶媒により抽出された抽出物を有効成分とし、発毛又は育毛を目的として摂取される組成物、前記エタノール含有溶媒が、エタノール又はエタノールと水の混合溶媒である、前記記載の組成物、及び、焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓から、エタノール含有溶媒により抽出した抽出物を調製し、前記抽出物を有効成分として、発毛又は育毛を目的として摂取される組成物を調製する、発毛又は育毛のための組成物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓からエタノール含有溶媒により抽出された抽出物を有効成分とし、発毛又は育毛を目的として摂取される、組成物。
【請求項2】
前記エタノール含有溶媒が、エタノール又はエタノールと水の混合溶媒である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
経口摂取用組成物である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
経皮摂取用組成物である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
さらに、抗炎症作用も有する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項6】
さらに、メラニン産生増強作用も有する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項7】
焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓からエタノール含有溶媒により抽出された抽出物を有効成分とする、毛乳頭細胞の活性化剤。
【請求項8】
焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓からエタノール含有溶媒により抽出された抽出物を有効成分とする、メラニン産生の増強剤。
【請求項9】
焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓からエタノール含有溶媒により抽出された抽出物を有効成分とする、抗炎症剤。
【請求項10】
焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓から、エタノール含有溶媒により抽出した抽出物を調製し、
前記抽出物を有効成分として、発毛又は育毛を目的として摂取される組成物を調製する、発毛又は育毛のための組成物の製造方法。
【請求項11】
前記エタノール含有溶媒が、エタノール又はエタノールと水の混合溶媒である、請求項10に記載の組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓に由来し、発毛又は育毛を目的として摂取される組成物、及び当該組成物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
頭髪は、加齢やストレス等により薄毛となりやすく、豊かな頭髪は、健康や美、若さの象徴とされている。このため、発毛剤や育毛剤の需要は高く、より効果的な発毛剤等の開発が求められている。特に、発毛剤等の多くは、継続的に使用することでその効果を発揮させるものであるため、安価で手軽に使用でき、しかも安全な育毛・発毛剤の有効成分を得ることが求められている。
【0003】
発毛剤としては、例えば、ミノキシジル(CAS Mo.: 38304-91-5)が知られている。しかし、ミノキシジルはもともと血管拡張薬として開発された成分であり、長期服用における安全性に懸念がある。より安全に摂取可能な育毛・発毛剤の有効成分として、各種の植物抽出物が期待されている。例えば、特許文献1には、チョウセンゴミシ果実抽出液、カモミラ抽出液、オウレン抽出液、米アルコール発酵液、親水性乳酸菌発酵米、メリロート抽出液、ブクリョウ抽出液、プランクトン抽出液、アマモ抽出液、ドクダミ抽出液、ローヤルゼリー抽出液、オトギリソウ抽出液、シソ抽出液、ハトムギ種子サッカロミセス発酵液、ヘチマ抽出液、シモツケソウ抽出液、アーティチョーク葉抽出液、及び、クワ抽出液から選ばれる1種又は2種以上の物質を有効成分とする育毛・発毛剤が開示されている。また、特許文献2には、シーバックソーンの果実の極性溶媒抽出エキスを有効成分とする毛乳頭細胞増殖促進剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-140953号公報
【特許文献2】特許第6922064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓に由来し、発毛又は育毛を目的として摂取される組成物、及び当該組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓からエタノール含有溶媒により抽出された抽出物に、毛乳頭細胞の活性化作用を有する成分が含まれており、当該抽出物は、発毛又は育毛を目的として摂取される組成物野有効成分となり得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
[1] 焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓からエタノール含有溶媒により抽出された抽出物を有効成分とし、発毛又は育毛を目的として摂取される、組成物。
[2] 前記エタノール含有溶媒が、エタノール又はエタノールと水の混合溶媒である、前記[1]の組成物。
[3] 経口摂取用組成物である、前記[1]又は[2]の組成物。
[4] 経皮摂取用組成物である、前記[1]又は[2]の組成物。
[5] さらに、抗炎症作用も有する、前記[1]~[4]のいずれかの組成物。
[6] さらに、メラニン産生増強採用も有する、前記[1]~[5]のいずれかの組成物。
[7] 焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓からエタノール含有溶媒により抽出された抽出物を有効成分とする、毛乳頭細胞の活性化剤。
[8] 焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓からエタノール含有溶媒により抽出された抽出物を有効成分とする、メラニン産生の増強剤。
[9] 焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓からエタノール含有溶媒により抽出された抽出物を有効成分とする、抗炎症剤。
[10] 焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓から、エタノール含有溶媒により抽出した抽出物を調製し、
前記抽出物を有効成分として、発毛又は育毛を目的として摂取される組成物を調製する、発毛又は育毛のための組成物の製造方法。
[11] 前記エタノール含有溶媒が、エタノール又はエタノールと水の混合溶媒である、前記[10]の組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る組成物は、焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓からエタノール含有溶媒により抽出された抽出物を有効成分とする。当該抽出物には、毛乳頭細胞の活性化作用を有する物質が含まれており、よって本発明に係る組成物は、発毛又は育毛を目的として摂取される組成物として有用である。特に、当該抽出物は焙煎コーヒー豆由来であることから、比較的安全に摂取可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1において、サンプル抽出液A(A)及びミノキシジル(B)で処理したHFDPC細胞のATP測定試験の結果を示した図である。
【
図2】実施例1において、サンプル抽出液A又はα-MSHで処理したマウスメラノーマ細胞(B16F10細胞)のメラニン産生量の測定結果を示した図である。
【
図3】実施例1において、サンプル抽出液A又はDEXで処理したマウスマクロファージ様RAW264細胞のLPS刺激によるNO産生量の測定結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明及び本願明細書において、コーヒー抽出滓とは、焙煎コーヒー豆を熱水抽出した残渣を意味する。言い換えると、焙煎コーヒー豆から水溶性固形分の少なくとも一部が除去された残りである。コーヒー抽出滓には、焙煎コーヒー豆の水溶性固形分が含まれていてもよい。
【0011】
本発明に係る発毛又は育毛を目的として摂取される組成物(以下、「発毛・育毛用組成物」ということがある)は、焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓からエタノール含有溶媒により抽出された抽出物(以下、「コーヒー滓エタノール抽出物」ということがある。)を有効成分とする。コーヒー滓エタノール抽出物には、毛乳頭細胞の活性化作用を有する物質が含まれており、このため、コーヒー滓エタノール抽出物を有効成分とする組成物は、毛髪、特に頭皮毛髪やまつ毛、眉毛に対する発毛効果又は育毛効果を有している。
【0012】
コーヒー滓エタノール抽出物には、毛乳頭細胞の活性化作用を有する物質に加えて、メラニン産生増強作用を有する物質も含まれていてもよい。本発明に係る発毛・育毛用組成物が、毛乳頭細胞の活性化作用に加えてメラニン産生増強作用も有している場合には、メラニン色素を含む有色の毛を増加させることができる。
【0013】
また、コーヒー滓エタノール抽出物には、抗炎症作用を有する物質も含まれている。毛乳頭細胞近傍の皮膚の炎症は、薄毛を進行させる要因の一つである。本発明に係る発毛・育毛用組成物は、毛乳頭細胞の活性化作用と抗炎症作用の両方を有しているため、より高い発毛効果や育毛効果が期待できる。
【0014】
前記の通り、コーヒー滓エタノール抽出物には、毛乳頭細胞の活性化作用を有する物質、メラニン産生増強作用を有する物質、及び抗炎症作用を有する物質が含まれている。このため、コーヒー滓エタノール抽出物は、毛乳頭細胞の活性化剤、メラニン産生の増強剤、及び抗炎症剤の有効成分となり得る。
【0015】
本発明に係る発毛・育毛用組成物の有効成分であるコーヒー滓エタノール抽出物は、焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓をエタノール含有溶媒と混合して、当該熱水抽出滓中に含まれているエタノール含有溶媒に対する親和性の高い成分を抽出することによって製造できる。
【0016】
原料となる焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓は、焙煎コーヒー豆又はその粉砕物に加熱した水を接触させて水溶性固形分を抽出した後に得られる残渣である。水溶性固形分の抽出方法は、一般的にコーヒーを淹れる際に用いられる方法や、インスタントコーヒーを製造する際に、焙煎コーヒー豆の粉砕物から可溶性固形分を抽出する際に用いられる方法により行うことができる。具体的には、ドリップ式、エスプレッソ式、サイフォン式、パーコレーター式、コーヒープレス(フレンチプレス)式、カラム式等のいずれを用いて行ってもよい。抽出は常圧式であってもよく、加圧式であってもよい。また、コーヒー抽出滓は、熱水抽出を一回のみ行った後の残渣であってもよく、複数回熱水抽出を繰り返した後の残渣であってもよい。
【0017】
原料となる焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓としては、焙煎コーヒー豆からの熱水抽出の温度や圧力条件は、特に限定されるものではない。本発明においては、毛乳頭細胞の活性化作用に加えてメラニン産生増強作用も有しているコーヒー滓エタノール抽出物が得られる点から、比較的高温での熱水抽出、例えば、100℃以上、好ましくは100~250℃、より好ましくは100~180℃の熱水抽出で得られた熱水抽出滓が好ましい。
【0018】
原料となる熱水抽出滓を得るための焙煎コーヒー豆は、コーヒー豆の種類や産地は特に限定されず、アラビカ種であってもよく、ロバスタ種であってもよく、2種以上の品種のコーヒー豆をブレンドしたものであってもよい。また、焙煎方法も特に限定されるものではなく、一般的にコーヒー豆の焙煎に使用されるいずれの方法で行ったものであってもよい。コーヒー豆の焙煎方法としては、例えば、直火焙煎法、熱風焙煎法、遠赤外線焙煎法、炭火式焙煎法、マイクロ波焙煎リベリカ種等が挙げられる。
【0019】
原料として用いる熱水抽出滓を得るための焙煎コーヒー豆の焙煎度は、特に限定されるものではなく、極浅煎りであってもよく、浅煎りであってもよく、中煎りであってもよく、深煎りであってもよい。また、焙煎コーヒー豆の粉砕度は特に限定されるものではなく、粗挽き、中粗挽き、中挽き、中細挽き、細挽きなどの種々の形状の焙煎コーヒー豆を用いることができる。
【0020】
原料となる焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓は、エタノール含有溶媒で抽出される前に、粉砕されていることが好ましい。粉砕は、ロールミル等の一般的な粉砕機を用いて行うことができる。
【0021】
本発明において用いられる抽出用溶媒であるエタノール含有溶媒は、エタノールを含む溶媒であれば特に限定されるものではないが、焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓は通常、水分を多く含むため、抽出時のエタノール濃度が低下しすぎないよう、エタノール含有溶媒のエタノール濃度は高い方が好ましい。エタノール含有溶媒のエタノール濃度は、50容量%以上である溶媒が好ましく、66容量%以上である溶媒がより好ましく、70容量%以上である溶媒がさらに好ましく、90容量%以上である溶媒がよりさらに好ましく、95容量%以上である溶媒が特に好ましく、エタノールのみからなる溶媒であってもよい。
【0022】
抽出用溶媒がエタノール以外の他の溶媒を含む場合、当該他の溶媒としては、極性溶媒が好ましく、メタノール、プロパノール、イソプロパノール等のエタノール以外のアルコールや水がより好ましく、抽出効率及び人体への安全性の点から水が特に好ましい。エタノール又はエタノールと水の混合溶媒を抽出用溶媒とすることにより、得られた抽出物は、ヒトがそのまま摂取することもできる。当該他の溶媒が、可食性の溶媒ではなかった場合には、得られたエタノール抽出物を減圧乾燥等により除去した後にヒト等の動物に摂取させることが好ましい。
【0023】
焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓とエタノール含有溶媒とを混合した後に、固形分を除去することにより、液状のコーヒー滓エタノール抽出物を得ることができる。焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓とエタノール含有溶媒の混合は、エタノール含有溶媒の沸点以下のいずれの温度で行ってもよく、室温で行うことができる。焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓とエタノール含有溶媒を混合した後、直ちに固形分除去処理を行ってもよく、焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓とエタノール含有溶媒の混合物を一定時間保持した後に固形分除去処理を行ってもよい。当該混合物を保持する場合、静置して保持してもよく、攪拌を行いながら保持してもよい。
【0024】
焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓とエタノール含有溶媒の混合物に対する固形分除去処理の方法は、特に限定されるものではなく、例えば、濾紙や濾過フィルター等を用いた濾過処理により行うことができる。使用される濾過フィルターとしては、例えば、焙煎コーヒー豆の粉砕物から水溶性固形分を熱水抽出した抽出物から固形分を除去する際に使用されるものと同様のものを用いることができる。
【0025】
こうして得られた液状のコーヒー滓エタノール抽出物は、エタノールをはじめとする液性成分を除去することにより、濃縮することができる。また、コーヒー滓エタノール抽出物から液性成分を完全に除去することにより、固形状のコーヒー滓エタノール抽出物が得られる。エタノール等の液性成分の除去は、エバポレーターを用いた減圧蒸留法等の一般的に有機溶媒を除去する際に用いられる方法を適宜利用することができる。
【0026】
得られたコーヒー滓エタノール抽出物は、焙煎コーヒー豆に含まれている物質であり、比較的安全に服用できる。そこで、当該コーヒー滓エタノール抽出物は、飲食品、医薬品、衛生用品、化粧料、飼料等の原料として好適であり、なかでも、発毛又は育毛を目的として摂取される機能性食品(サプリメント)、栄養ドリンク、ヘアトニック(頭皮用化粧水)、頭皮用オイル、まつ毛用美容液、マスカラ、アイライナー、シャンプー、リンス、コンディショナー、ヘアトリートメント等が特に好ましい。
【0027】
例えば、溶媒を除去したコーヒー滓エタノール抽出物をそのまま、液体コーヒー、インスタントコーヒー、コーヒーミックス等に添加して使用することもできる。ここで、液体コーヒーとしては、缶又はいわゆるペットボトル容器に入れられて市販されているコーヒー飲料(若しくはコーヒー入り飲料と呼ばれるもの)が挙げられる。また、インスタントコーヒーとしては、焙煎粉砕コーヒーを熱湯で抽出した抽出液を噴霧又は凍結乾燥方法により水分を除去した可溶性粉末コーヒーと呼ばれるものが挙げられる。コーヒーミックス飲料としては、可溶性粉末コーヒーに砂糖、クリーミングパウダーなどを添加して混合した飲料などが挙げられる。
【0028】
また、コーヒー滓エタノール抽出物をそのままカプセル等に充填し、発毛・育毛用機能性食品として適用できる。
その他、液状のコーヒー滓エタノール抽出物を、その他の成分と共にヘアトニック用の液状基材に混合させることで、発毛・育毛用ヘアトニックを製造することもできる。
【0029】
本発明に係る発毛・育毛用組成物は、前記コーヒー滓エタノール抽出物を有効成分とする。本発明に係る発毛・育毛用組成物は、前記コーヒー滓エタノール抽出物のみからなるものであってもよく、その他の成分を含有するものであってもよい。本発明に係る発毛・育毛用組成物における前記コーヒー滓エタノール抽出物の含有量は、発毛効果や育毛効果が達成される量であれば特に限定されるものではなく、製品の種類や剤型に応じて適宜決定される。例えば、発毛・育毛用組成物の組成物全量に対する前記コーヒー滓エタノール抽出物の含有量は、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。
【0030】
本発明に係る発毛・育毛用組成物に含まれる当該他の成分としては、コーヒー滓エタノール抽出物による発毛効果や育毛効果を損なわないものであればよく、例えば、賦形剤、結合剤、流動性改良剤(固結防止剤)、安定剤、保存剤、pH調整剤、溶解補助剤、希釈化剤、懸濁化剤、乳化剤、粘稠剤、矯味剤、甘味料、酸味料、香料、着色料等として用いられている各種物質を、所望の製品品質に応じて適宜含有させてもよい。
【0031】
コーヒー滓エタノール抽出物を有効成分とする発毛・育毛用組成物は、経口摂取用組成物であってもよく、経皮摂取用組成物であってもよい。本発明に係る発毛・育毛用組成物が医薬品や機能性食品、衛生用品、化粧料の場合、その剤型は特に限定されるものではなく、各種の剤型を適用できる。当該剤型のうち、経口摂取用としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等が挙げられる。当該剤型のうち、経皮摂取用としては、例えば、ローション剤、リニメント剤、クリーム剤、軟膏剤、スプレー剤、貼付剤等が挙げられる。本発明に係る発毛・育毛用組成物は、その他、注射剤、坐剤、点眼剤、点鼻剤等であってもよい。
【実施例0032】
次に、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等に限定されるものではない。
【0033】
[実施例1]
コーヒー抽出粕(コーヒー抽出滓)からエタノールと水の混合溶媒で抽出したコーヒー粕エタノール抽出物の育毛促進能に及ぼす影響を、培養細胞を用いた方法により評価した。なお、ポジティブコントロールとしてミノキシジルを用いた。
【0034】
<サンプルA~E>
測定サンプルとして、下記の5種類のコーヒーサンプルを用いた。
ベトナム産ロブスタ豆とブラジル産アラビカ豆をブレンドしたコーヒー豆を、焙煎(中煎り)した後に粉砕し、100~180℃の条件で熱水抽出してコーヒー液を得た。残ったコーヒー抽出粕を、80℃で乾燥させ、これを抽出粕サンプルAとした。
ウガンダ産アラビカ豆を焙煎(中煎り)した後に粉砕し、80~100℃の条件で熱水抽出してコーヒー液を得た。残ったコーヒー抽出粕を、80℃で乾燥させ、これを抽出粕サンプルBとした。
ウガンダ産アラビカ豆を凍結した後に粉砕したものを、生豆サンプルCとした。
ウガンダ産アラビカ豆を焙煎(中煎り)した後に粉砕し、これを焙煎豆サンプルDとした。
市販のインスタントコーヒー粉末(製品名「マキシム」、味の素AGF社製)を、ICサンプルEとした。
【0035】
<コーヒー滓エタノール抽出物の調製>
サンプルA~Eからエタノール含有溶媒で抽出物を調製した。
具体的には、サンプルAの乾燥粉末500mgに対し、5mLの70容量%エタノール水溶液を加え、混合した後、室温にて暗所で2週間静置した。静置後、遠心(1,000×g、30分間)を行い、上清を回収した。回収した上清を、濃縮及び乾固させ、再度70容量%エタノール水溶液に溶解させた後、フィルター滅菌を行い、これを細胞試験用の試料(サンプル抽出液A)とした。サンプルB~Eについても同様にして、細胞試験用のサンプル抽出液を調製した。
【0036】
<細胞の培養>
HFDPC細胞(ヒト毛乳頭細胞)(Cell Applications社より入手)は、入手元より推奨されている専用培地(Cell Applications社製)を用いて、37℃、5容量% CO2存在下で培養した。
B16F10細胞(マウスメラノーマ細胞)(理化学研究所 バイオリソース研究センターより入手)は、RPMI1640培地に、10容量% FBS、1容量% ペニシリン/ストレプトマイシンを添加した培地を用いて、37℃、5容量% CO2存在下で培養した。
マウスマクロファージ様RAW264細胞(理化学研究所 バイオリソース研究センターより入手)は、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)に10容量% FBS及び1容量% ペニシリン/ストレプトマイシンを添加した培地を用いて、37℃、5容量% CO2存在下で培養した。
【0037】
(1)毛乳頭細胞の活性化能の測定
HFDPC細胞の活性化能は、HFDPC細胞のATP産生量を指標にして測定した。
具体的には、まず、HFDPC細胞を、3.0×104個/ウェルの細胞数で96ウェルマイクロプレートに播種し、48時間培養した。培養後の培養液を、サンプル抽出液Aを最終濃度が5μg/mL、10μg/mL、25μg/mL、50μg/mL、75μg/mL、又は100μg/mLになるように添加した培養培地に置き換え、24時間の処理後、細胞のATP測定試薬(東洋ビーテック社製)を100μLずつ各ウェルに添加し、プレートシェーカー上で3分間振とうさせた。振とう後、当該96ウェルマイクロプレートを暗所で10分間インキュベートし、その後各ウェルの培養液を、新しい96ウェルプレートに150μLずつ移し、プレートリーダーを用いて発光度を測定した。なお、ポジティブコントロールであるミノキシジルについては、最終濃度が0.1μM、0.25μM、0.5μM、0.75μM、1μM、2.5μM、又は5μMになるように、培養培地に添加した。
【0038】
サンプル抽出液AのATP測定試験の結果を
図1(A)に、ミノキシジルのATP測定試験の結果を
図1(B)に、それぞれ示す。サンプル抽出液Aを添加した細胞では、処理濃度25μg/mL、50μg/mL、75μg/mL、及び100μg/mLにおいて、有意なATP産生量の増加が認められた(
図1(A))。ミノキシジルについては、0.75μM、1μM、2.5μM、及び5μMの処理濃度において、有意なATP産生量の増加が認められた(
図1(B))。
【0039】
同様にして、HFDPC細胞をサンプル抽出液A~Dで処理し、ATP産生量を測定した。各サンプル抽出液の添加濃度は、5μg/mL、10μg/mL、20μg/mLとした。測定結果を表1に示す。表中、「++」は、サンプル無添加条件と比較して有意に(P<0.01)ATP産生量が増加したことを示し、「+」は、サンプル無添加条件と比較して有意に(P<0.05)ATP産生量が増加したことを示し、「-」は、サンプル無添加条件と比較してATP産生量が増加しなかったことを示す。
【0040】
【0041】
サンプル抽出液A(抽出粕)、サンプル抽出液B(抽出粕)、及びサンプル抽出液D(焙煎豆)で処理した細胞については、サンプル無添加条件(コントロール)に対して、有意なATP産生量の増加が認められた(表1)。これらの結果から、コーヒー豆の種類や熱水抽出の条件、焙煎条件等に関わらず、焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓からエタノール水溶液により抽出された抽出物は、毛乳頭細胞の活性化作用を有することが確認された。一方で、サンプル抽出液C(生豆)で処理した細胞では、ATP産生量の増加が確認されなかった。これらの結果から、コーヒー豆の焙煎処理が、毛乳頭細胞の活性化作用を有する物質の生成に寄与している可能性が示唆された。
【0042】
(2)メラニン産生の増強能の測定
メラニン産生の増強能は、マウスメラノーマ細胞(B16F10細胞)を用いて測定した。
具体的には、まず、B16F10細胞を1.0×105個/ウェルの細胞数で10cmディッシュに播種し、24時間培養した。培養後の培養液を、サンプル抽出液Aを最終濃度が10μg/mL、25μg/mL、又は50μg/mLになるように添加した培養培地に置き換え、48時間処理した。当該処理後、各ディッシュの培養培地を除去し、Trypsin/EDTAを用いて細胞を回収した。細胞の回収後、1% Triton-X100/PBS溶液で処理した後、10% トリクロロ酢酸溶液処理を行い、さらに超音波処理をして細胞を破砕した。得られた細胞破砕物に、8N 水酸化ナトリウム溶液を添加し、80℃で加熱しながら、細胞中のメラニンを溶解させた。その後、メラニンを溶解させた溶液を96ウェルプレートに移し、410nmにおける吸光度を測定した。なお、メラニン産生量については、各処理群における細胞数で補正をかけた。ポジティブコントロールとして、メラニン産生促進剤であるα-MSH(メラニン細胞刺激ホルモン)で処理した。
【0043】
サンプル抽出液AのATP測定試験の結果を
図2に示す。サンプル抽出液Aを添加した細胞では、処理濃度50μg/mLにおいて、有意なATP産生量の増加が認められた(
図1(A))。ミノキシジルについては、0.75μM、1μM、2.5μM、及び5μMの処理濃度において、有意なメラニン産生量の増加が認められた(
図2)。
【0044】
同様にして、B16F10細胞をサンプル抽出液A~Eで処理し、メラニン産生量を測定した。各サンプル抽出液の添加濃度は、100μg/mLとした。測定結果を表2に示す。表中、「++」は、サンプル無添加条件と比較して有意に(P<0.01)メラニン産生量が増加したことを示し、「-」は、サンプル無添加条件と比較してメラニン産生量が増加しなかったことを示す。
【0045】
【0046】
この結果、サンプル抽出液A(抽出粕)で処理した細胞については、有意なメラニン産生量の増加が認められたが、他のサンプル抽出液で処理した細胞からは、メラニン増加効果は確認されなかった(表2)。これらの結果より、焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓のうち、特に高温抽出によって得られた熱水抽出滓にメラニン産生増加作用を有する物質が存在していると推察された。
【0047】
(3)抗炎症能の測定
抗炎症能は、マウスマクロファージ様RAW264細胞を用いて、炎症メディエーターの一種である一酸化窒素(NO)産生量を指標として測定した。
具体的には、まず、RAW264細胞を、2×105個/ウェルの細胞数になるように96ウェルマイクロプレートに播種し、37℃、5% CO2の条件下で24時間培養した。培養後、各ウェルから培地を除去し、サンプル抽出液Aを最終濃度が25μg/mL、50μg/mL、75μg/mL、又は100μg/mLになるように添加した培養培地に置換し、24時間処理した。当該処理後、各ウェルに、リポ多糖(lipopolysaccharide, LPS)を100ng/mLの最終濃度で含む培養培地を10μLずつ添加し、12時間インキュベートしてNO産生を促した。LPS処理後、各ウェルからそれぞれ60μLの上清を新しい96ウェルマイクロプレートに回収し、等量のGriess試薬(1% スルファニル酸、0.1% N-(1-ナフチル)エチレンジアミンジハイドロクロライドを含む、2.5質量% リン酸水溶液)を添加してよく混和し、室温で10分間静置した。その後、当該96ウェルマイクロプレートをマイクロプレートリーダーに設置して、各ウェルの540nmの吸光度を測定した。ポジティブコントロールとして、抗炎症剤であるデキサメタゾン(DEX)を用いた。
【0048】
サンプル抽出液AのNO産生量測定試験の結果を
図3に示す。サンプル抽出液Aを添加した細胞では、LPS刺激により誘導されるNO産生量増加が有意に抑制された(
図3)。
【0049】
同様にして、RAW264細胞をサンプル抽出液A~Eで処理し、LPS刺激により誘導されるNO産生量を測定した。各サンプル抽出液の添加濃度は、10μg/mL又は100μg/mLとした。測定結果を表3に示す。表中、「++」は、LPS処理かつサンプル無添加の条件と比較して有意に(P<0.01)NO産生量が低減したことを示し、「-」は、LPS処理かつサンプル無添加条件と比較してNO産生量が低減しなかったことを示す。
【0050】
【0051】
RAW264細胞では、LPS刺激によりNO産生量が増大する。これに対して、表3に示すように、サンプル抽出液A(抽出粕)、サンプル抽出液B(抽出粕)、及びサンプル抽出液D(焙煎豆)を100μg/mL添加して処理した細胞では、LPS刺激によるNO産生量増加に対して有意な抑制効果が認められた。これらの結果から、コーヒー豆の種類や熱水抽出の条件、焙煎条件等に関わらず、焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓からエタノール水溶液により抽出された抽出物は、抗炎症作用を有することが確認された。