IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友電気工業株式会社の特許一覧

特開2024-57727熱電変換材料、熱電変換素子および熱電変換モジュール
<>
  • 特開-熱電変換材料、熱電変換素子および熱電変換モジュール 図1
  • 特開-熱電変換材料、熱電変換素子および熱電変換モジュール 図2
  • 特開-熱電変換材料、熱電変換素子および熱電変換モジュール 図3
  • 特開-熱電変換材料、熱電変換素子および熱電変換モジュール 図4
  • 特開-熱電変換材料、熱電変換素子および熱電変換モジュール 図5
  • 特開-熱電変換材料、熱電変換素子および熱電変換モジュール 図6
  • 特開-熱電変換材料、熱電変換素子および熱電変換モジュール 図7
  • 特開-熱電変換材料、熱電変換素子および熱電変換モジュール 図8
  • 特開-熱電変換材料、熱電変換素子および熱電変換モジュール 図9
  • 特開-熱電変換材料、熱電変換素子および熱電変換モジュール 図10
  • 特開-熱電変換材料、熱電変換素子および熱電変換モジュール 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057727
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】熱電変換材料、熱電変換素子および熱電変換モジュール
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/851 20230101AFI20240418BHJP
   H10N 10/855 20230101ALI20240418BHJP
   H10N 10/857 20230101ALI20240418BHJP
【FI】
H01L35/14
H01L35/22
H01L35/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164577
(22)【出願日】2022-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(74)【代理人】
【識別番号】100158861
【弁理士】
【氏名又は名称】南部 史
(74)【代理人】
【識別番号】100194674
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 覚史
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】足立 真寛
(57)【要約】
【課題】熱電変換の効率を向上させることができる熱電変換材料を提供する。
【解決手段】熱電変換材料は、SiGeから構成されるベース材料と、ドーパントとして機能する第1の添加元素と、第1の添加元素と異なる第2の添加元素と、酸素と、を含む。第2の添加元素は、Mg、Ca、Tiのうちの少なくともいずれか1つを含む。ベース材料に対する第2の添加元素の含有割合は、0.5at%以上5at%以下である。ベース材料の断面の視野であって、粒界が視野の互いに対向する辺を横切るように選択された視野において、第2の添加元素と酸素の分布が正の相関関係を有する。相関関係の相関係数は、0.2以上1.0未満の範囲である。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiGeから構成されるベース材料と、
ドーパントとして機能する第1の添加元素と、
前記第1の添加元素と異なる第2の添加元素と、
酸素と、を含み、
前記第2の添加元素は、Mg、Ca、Tiのうちの少なくともいずれか1つを含み、
前記ベース材料に対する前記第2の添加元素の含有割合は、0.5at%以上5at%以下であり、
前記ベース材料の断面の視野であって、粒界が前記視野の互いに対向する辺を横切るように選択された視野において、前記第2の添加元素と前記酸素の分布が正の相関関係を有し、
前記相関関係の相関係数は、0.2以上1.0未満の範囲である、熱電変換材料。
【請求項2】
100nm角以上2μm角以下の前記視野において、前記酸素の濃度が第1の濃度である第1領域と、前記酸素の濃度が前記第1の濃度よりも高い第2の濃度である第2領域と、を含み、
前記第1の濃度と前記第2の濃度との差は、10at%以上である、請求項1に記載の熱電変換材料。
【請求項3】
前記熱電変換材料は、窒素を含む、請求項1または請求項2に記載の熱電変換材料。
【請求項4】
前記ベース材料は、アモルファス相を含む、請求項1または請求項2に記載の熱電変換材料。
【請求項5】
前記第1の添加元素は、B、Al、Ga、P、As、Sbのいずれかである、請求項1または請求項2に記載の熱電変換材料。
【請求項6】
熱電変換材料部と、
前記熱電変換材料部と電気的に接触して配置される第1電極と、
前記熱電変換材料部と電気的に接触し、前記第1電極と離れて配置される第2電極と、を備え、
前記熱電変換材料部を構成する材料は、導電型がp型またはn型となるように成分が調整された請求項1または請求項2に記載の熱電変換材料である、熱電変換素子。
【請求項7】
請求項6に記載の熱電変換素子を複数含む、熱電変換モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱電変換材料、熱電変換素子および熱電変換モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
温度差(熱エネルギー)を電気に変換するSiGe系の熱電変換材料が開示されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3および非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-114606号公報
【特許文献2】特表2011-527517号公報
【特許文献3】特開2013-157362号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Tatsuhiko Aizawa et al.、“Solid-State Synthesis of Thermoelectric Materials in Mg-Si-Ge System”、Material Transactions, Vol. 46,No.7(2005)pp.1490 to 1496
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱電変換を実施するための材料(熱電変換材料)を用いた温度差(熱エネルギー)の電気エネルギーへの変換効率ηは以下の式(1)で与えられる。
【0006】
η=ΔT/T・(M-1)/(M+T/T)・・・(1)
【0007】
ηは変換効率、ΔTはTとTとの差、Tは高温側の温度、Tは低温側の温度、Mは(1+ZT)1/2、ZT=αST/κ、ZTは無次元性能指数、αはゼーベック係数、Sは導電率、κは熱伝導率である。変換効率はZTの単調増加関数である。
【0008】
また、単位温度差あたりの発電量に相当するパワーファクター(以下、「PF」と略す場合もある。)は、以下の式(2)で示される。ここで、式(2)中において、αはゼーベック係数であり、Sは導電率である。
【0009】
PF=α×S・・・(2)
【0010】
効率的な熱電変換を行うためには、PFを増加させることが重要である。PFを増加させることができれば、熱電変換の効率を向上させることができる。
【0011】
そこで、熱電変換の効率を向上させることができる熱電変換材料を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示に従った熱電変換材料は、SiGeから構成されるベース材料と、ドーパントとして機能する第1の添加元素と、第1の添加元素と異なる第2の添加元素と、酸素と、を含む。第2の添加元素は、Mg、Ca、Tiのうちの少なくともいずれか1つを含む。ベース材料に対する第2の添加元素の含有割合は、0.5at%以上5at%以下である。ベース材料の断面の視野であって、粒界が視野の互いに対向する辺を横切るように選択された視野において、第2の添加元素と酸素の分布が正の相関関係を有する。相関関係の相関係数は、0.2以上1.0未満の範囲である。
【発明の効果】
【0013】
上記熱電変換材料によれば、熱電変換の効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施の形態1における熱電変換材料の組織の状態を示す概略図である。
図2図2は、ベース材料の断面であって、得られた熱電変換材料の一部を示すTEM画像である。
図3図3は、TEM/EDXにおけるO(酸素)の分布分析結果を示す図である。
図4図4は、TEM/EDXにおけるMg(マグネシウム)の分布分析結果を示す図である。
図5図5は、本開示の範囲外である、第2の添加元素を含まない熱電変換材料の一部を示すTEM画像である。
図6図6は、本開示の範囲外である熱電変換材料のTEM/EDXにおけるO(酸素)の分布分析結果を示す図である。
図7図7は、第2の添加元素の種類および第2の添加元素の含有割合を種々変更した場合の含有割合とPFとの関係を示すグラフである。
図8図8は、各領域における相関係数を示すグラフである。
図9図9は、酸素濃度とマグネシウム濃度との関係を示すグラフである。
図10図10は、本実施の形態における熱電変換素子であるπ型熱電変換素子(発電素子)の構造を示す概略図である。
図11図11は、発電モジュールの構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。本開示に係る熱電変換材料は、
(1)SiGeから構成されるベース材料と、ドーパントとして機能する第1の添加元素と、第1の添加元素と異なる第2の添加元素と、酸素(O)と、を含む。第2の添加元素は、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)、Ti(チタン)のうちの少なくともいずれか1つを含む。ベース材料に対する第2の添加元素の含有割合は、0.5at%以上5at%以下である。ベース材料の断面の視野であって、粒界が視野の互いに対向する辺を横切るように選択された視野において、第2の添加元素と酸素の分布が正の相関関係を有する。相関関係の相関係数は、0.2以上1.0未満の範囲である。
【0016】
本願発明者らは、熱電変換材料に用いるのに好適なSiGeをベース材料とし、PFを増加させて熱電変換の効率の向上を図ることを考えた。PFの増加を図るには、導電率の低下を抑制する必要があると考え、本開示に係る熱電変換材料を構成するに至った。ここで、本願発明者らは、作製プロセス中にベース材料のうちのSiが酸化してしまい、その結果、導電率が低下することに着目した。作製プロセス中に不活性ガスの雰囲気で作業を行う等の対策を行ったとしても、酸素が少なからず熱電変換材料中に含まれてしまう。そして、本願発明者らは鋭意検討し、熱電変換材料中に酸素を吸着する元素を含有させ、Siの酸化を抑えることにより、熱電変換材料の導電性の低下を抑制し、結果的にPFを増加させようとした。具体的には、ドーパントとして機能する第1の添加元素の他に、酸素を捕捉する第2の添加元素を加え、熱電変換材料中に低酸素濃度の領域を形成することにより導電性の低下を抑制しようとした。この場合、さらに粒界に第2の添加元素および酸素が凝集することで、エネルギーフィルタリング効果を発生させてゼーベック係数を増加させ、PFを増加させることとした。
【0017】
本開示の熱電変換材料によると、第1の添加元素と異なり、Mg、Ca、Tiのうちの少なくともいずれか1つを含む第2の添加元素を含む。このような第2の添加元素は、Siよりも酸化しやすい。そうすると、熱電変換材料中において、Siの酸化に優先して第2の添加元素の酸化を優先させることができる。また、ベース材料に対する第2の添加元素の含有割合は、0.5at%以上5at%以下である。第2の添加元素の含有割合を0.5at%以上とすることにより、Siの酸化よりも第2の添加元素の酸化を優先させて導電率の低下を抑制する効果を十分に得ることができる。また、第2の添加元素の含有割合を5at%以下とすることにより、過剰な第2の添加元素の添加による第2の添加元素の界面への酸化物の顕著な析出を抑え、キャリア散乱による導電率の低下を抑制することができる。そして、ベース材料の断面の視野であって、粒界が視野の互いに対向する辺を横切るように選択された視野において、第2の添加元素と酸素の分布が正の相関関係を有し、相関関係の相関係数は、0.2以上1.0未満の範囲である。このようにすることにより、第2の添加元素と酸素の分布において、均一な酸素濃度が幅広く広がるのを抑制し、粒界を含むことによって表れる高酸素濃度領域と低酸素濃度領域とを分布させることができる。そうすると、低酸素濃度領域においては、導電性が高いため、全体として低酸素濃度領域を分布させて導電率の向上を図ることができる。以上より、このような熱電変換材料は、熱電変換の効率を向上させることができる。
【0018】
(2)上記(1)において、100nm角以上2μm角以下の視野において、酸素の濃度が第1の濃度である第1領域と、酸素の濃度が第1の濃度よりも高い第2の濃度である第2領域と、を含んでもよい。第1の濃度と第2の濃度との差は、10at%以上であってもよい。このようにすることにより、高酸素濃度領域と低酸素濃度領域とを明確にして低酸素濃度領域における高い導電性を確保し、PFを増加させて熱電変換の効率を向上させることができる。
【0019】
(3)上記(1)または(2)において、熱電変換材料は、窒素(N)を含んでもよい。このようにすることにより、エネルギーフィルタリング効果を大きく得ることができるため、より熱電変換の効率を向上させることができる。
【0020】
(4)上記(1)から(3)のいずれかにおいて、ベース材料は、アモルファス相を含んでもよい。このようにすることにより、より熱電変換の効率を向上させることができる。
【0021】
(5)上記(1)から(4)のいずれかにおいて、第1の添加元素は、B(ホウ素)、Al(アルミニウム)、Ga(ガリウム)、P(リン)、As(ヒ素)、Sb(アンチモン)のいずれかであってもよい。このような第1の添加元素は、ベース材料がSiGeから構成される熱電変換材料において、好適に使用される。
【0022】
本開示の熱電変換素子は、熱電変換材料部と、熱電変換材料部に接触して配置される第1電極と、熱電変換材料部に接触し、第1電極と離れて配置される第2電極と、を備える。熱電変換材料部を構成する材料は、導電型がp型またはn型となるように成分組成が調整された上記(1)から(5)のいずれかに記載の熱電変換材料である。
【0023】
本開示の熱電変換素子は、熱電変換材料部を構成する材料が、導電型がp型またはn型となるように成分組成が調整された上記熱電変換の効率の向上を図った熱電変換材料である。そのため、本開示の熱電変換素子によれば、熱電変換の効率の向上を図った熱電変換素子を提供することができる。
【0024】
本開示の熱電変換モジュールは、上記熱電変換素子を複数含む。本開示の熱電変換モジュールによれば、熱電変換の効率の向上を図った本開示の熱電変換素子を複数含むことにより、熱電変換の効率の向上を図った熱電変換モジュールを得ることができる。
【0025】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、本開示の熱電変換材料の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付しその説明は繰り返さない。
【0026】
(実施の形態1)
本開示の実施の形態1における熱電変換材料の構成について説明する。図1は、実施の形態1における熱電変換材料の組織の状態を示す概略図である。図1を参照して、本開示の実施の形態1に係る熱電変換材料11は、半導体であるベース材料12と、ドーパントとして機能する第1の添加元素と、第1の添加元素と異なる第2の添加元素と、酸素と、を含む。本実施形態においては、半導体であるベース材料12は、SiGe(シリコンゲルマニウム)である。ベース材料12は、アモルファス相を含む。図1における第1の添加元素、第2の添加元素、Oおよび後述するNの図示は省略する。なお、図1においては、粒界13を図示している。
【0027】
第1の添加元素は、ドーパントとしての機能を有し、B、Al、Ga、P、As、Sbのいずれかである。このような第1の添加元素は、ベース材料がSiGeから構成される熱電変換材料において、好適に使用される。本実施形態においては、PおよびGeである。第2の添加元素は、酸素ゲッターとしての機能を有し、Mg、Ca、Tiのうちの少なくともいずれか1つを含む。本実施形態においては、第2の添加元素として、Mgが採用される。また、熱電変換材料11は、Nを含む。
【0028】
ここで、ベース材料12の断面の視野であって、粒界13が視野の互いに対向する辺を横切るように選択された視野において、第2の添加元素と酸素の分布が正の相関関係を有する。そして、相関関係の相関係数は、0.2以上1.0未満の範囲である。また、ベース材料12は、100nm角以上2μm角以下の視野において、酸素の濃度が第1の濃度である第1領域16と、酸素の濃度が第1の濃度よりも高い第2の濃度である第2領域17と、を含む。これらについては、後に詳述する。そして、第1の濃度と第2の濃度との差は、10at%以上である。これらについては、後に詳述する。
【0029】
次に、実施の形態1における熱電変換材料11の製造方法について、簡単に説明する。まず準備される原料としては、ベース材料を構成する母材元素となるSiおよびGe、第1の添加元素としてのPおよびGe、第2の添加元素としてのMgが粉末の状態で準備される。ここで、第2の添加元素としては、Mg-Nの粉末として準備される。このようにすることにより、Mgの材料準備段階における酸化を防ぐことができる。
【0030】
次に、狙いの組成となるように計量した原料粉末を、ミリング用のボールと共に、粉砕容器に投入する。このとき、作業は、不活性ガス雰囲気に置換したグローブボックス内で行うことで、原料粉末の酸化を抑制する。そして、粉砕容器をミリング装置にセットし、ミリングを行う。ミリングは、例えば回転数を100rpm以上700rpm以下として、例えば5時間以上10時間以下で行う。このミリング工程により、原料粉末が混ぜられ、微粉末化される。
【0031】
次に、得られた微粉末を準備した型(ダイス)に充填する。その後、ダイスを焼結装置に入れ、スパークプラズマ焼結(Spark Plasma Sintering)法により焼結体を形成する。この時の温度は、例えば500℃以上1000℃以下とすることができる。これらの行程もグローブボックスやチャンバの雰囲気置換等により、不活性ガス雰囲気中で行う。これにより、実施の形態1における熱電変換材料11が得られる。なお、このような熱電変換材料11は、第2の添加元素としてMg-Nの粉末を用いており、熱電変換材料11がNを含むこととなる。また、上記の製造方法の一例では、第2の添加元素としてMg-Nの粉末を用いることとしたが、これに限らず、第2の添加元素としてMg-Siの粉末を用いることとしてもよい。
【0032】
なお、添加元素の含有割合については、例えば、EDX(Energy Dispersive X-ray spectrometry)により測定することができる。EDXについては、熱電変換材料11の一部のTEM(Transmission Electron Microscope)像を撮影して測定した。TEM像の撮影については、JEM-2800(日本電子株式会社製)を用い、測定条件については、加速電圧を200kV、プローブのサイズを0.5nm、CL絞りを3とした。また、EDXによる原子の検出の条件としては、EDX(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)を用い、測定条件については、スポットサイズを0.5nmとし、CL絞りを3とし、分析モードをマッピングとし、分析時間を20分間とした。また、0.1at%以下の添加元素の含有割合については、例えばSIMS(Secondary Ion Mass Spectromrtry)により測定することができる。具体的な測定方法としては、株式会社アルバック製のADEPT-1010を用い、測定に用いるイオン源は、添加元素Rに対しCsR+イオンとした。
【0033】
図2は、ベース材料12の断面であって、得られた熱電変換材料11の一部を示すTEM画像である。図2は、Mgを添加し、n型SiGeのx=3at%の場合を示す。図3は、TEM/EDXにおけるO(酸素)の分布分析結果を示す図である。図4は、TEM/EDXにおけるMg(マグネシウム)の分布分析結果を示す図である。図3および図4において白くなっている領域が、各元素が高濃度で存在している状態を示している。図2図3および図4を併せて参照して、実施の形態1における熱電変換材料11において、ベース材料12中に粒界13が見られる。そして、特に図3を参照して、粒界13の付近に、酸素の高濃度領域である第2領域17が配置されている。この粒界13を避けた領域が、酸素の低濃度領域である第1領域16となる。また、特に図4を参照して、粒界13の付近には、マグネシウムも高濃度に配置されている。すなわち、Siよりも酸化しやすいマグネシウムが酸素を捕捉して酸化し、粒界13付近に表れていることが把握できる。領域18は、酸素の高濃度領域である第2領域17であって、特に粒界13が視野の互いに対向する辺を横切るように選択され、100nm角の領域である。
【0034】
なお、本開示の範囲外である熱電変換材料の例について説明すると、以下の通りである。図5は、本開示の範囲外である、第2の添加元素を含まない熱電変換材料の一部を示すTEM画像である。図6は、本開示の範囲外である熱電変換材料のTEM/EDXにおけるO(酸素)の分布分析結果を示す図である。図5および図6に示す熱電変換材料については、第2の添加元素(例えばMg)を含まない構成であり、その他は実施の形態1の場合と同様である。図5および図6を参照して、本開示の範囲外である熱電変換材料においては、粒界13が存在するものの、粒界13に酸素が密集することが無く、どの領域においても酸素の濃度が均一に分布している。このような熱電変換材料においては、酸素の含有割合が2.2at以下で均一に含まれている。なお、図2図4に示す実施の形態1における熱電変換材料11については、高濃度領域である第2領域17では、酸素の含有割合が15at%と高いが、その他の領域である第1領域16では、酸素の含有割合が0.7at%以下と、非常に低い値を示す。この酸素濃度の低い第1領域16により、導電性の低下を抑制することができる。すなわち、熱電変換材料の製造工程においては、どれだけ注意しても不活性ガス中に含まれているppb(parts per billion)オーダーの酸素や、粉砕容器の微小リーク等から、原料の微粉末の酸化が進んでしまうが、本開示の熱電変換材料11によると、材料中に含まれる第2の添加元素により、その混入した微量の酸素を吸着して、ベース材料であるSiGe自体の酸化を防ぐものである。
【0035】
図7は、第2の添加元素の種類および第2の添加元素の含有割合を種々変更した場合の含有割合とPFとの関係を示すグラフである。図7において、横軸は含有割合x(at%)を示し、縦軸はPF(μW/cmK)を示す。また、表1は、図7のPFの値を示す表であり、第2の添加元素の含有割合と種類とを併せて示す。
【0036】
【表1】
【0037】
図7および表1を参照して、いずれの第2の添加元素においても、含有割合が0.5at%以上5at%以下であれば、PFを26(μW/cmK)以上として高いPFを維持することができる。
【0038】
なお、上記の実施の形態においては、第2の添加元素としてMgを用いることとしたが、これに限らず、第2の添加元素として、CaまたはTiを用いることとしてもよい。すなわち、第2の添加元素は、Mg、CaおよびTiのうちの少なくともいずれか1つを含むこととしてもよい。また、ベース材料に対する第2の添加元素の含有割合については、0.5at以上5at%以下とすることにしてもよい。
【0039】
図8は、各領域における相関係数を示すグラフである。図8において、横軸は各領域を示し、縦軸は相関係数を示す。なお、領域1、領域2、領域3および領域4は、Mgを添加し、n型のSiGeでx=3at%の場合(サンプル1)を示し、領域5、領域6、領域7および領域8は、Mgを添加し、p型のSiGeでx=3at%の場合(サンプル2)を示す。領域1、領域2、領域3、領域5、領域6および領域7は、図3中の領域18で示すように、酸素の高濃度領域である第2領域17であって、粒界13が視野の互いに対向する辺を横切るように選択された、100nm角の領域である。領域4および領域8は、粒界13を避けた領域である第1領域16であって、100nm角の領域である。図9は、酸素濃度とマグネシウム濃度との関係を示すグラフである。図9において、横軸は酸素濃度を示し、縦軸はマグネシウム濃度を示す。図9については、図3中の領域18で示す100nm角の範囲内の濃度である。また、表2において、サンプル1およびサンプル2の各領域における相関係数の値を示す。
【0040】
【表2】
【0041】
なお、相関係数については、画素iとOとMgの濃度(検出量)をxi,yiとしたときに、相関係数rは、次式(数1)によって算出される。
【0042】
【数1】
【0043】
図8図9および表1を参照して、まず、図9において、酸素濃度とマグネシウム濃度とは、同じように分布していることが把握できる。すなわち、酸素濃度が高ければマグネシウム濃度も高く、酸素濃度が低ければマグネシウム濃度も低いことが把握できる。これにより、マグネシウムによって酸素が吸着されていることが把握できる。
【0044】
そして、相関係数については、ベース材料12の断面の視野であって、粒界13が視野の互いに対向する辺を横切るように選択された視野において(領域1、領域2、領域3、領域5、領域6、領域7)、第2の添加元素と酸素の分布が正の相関関係を有する。第2の添加元素の含有割合が0.5at%以上5at%以下であれば、ベース材料12の断面の視野であって、粒界が視野の互いに対向する辺を横切るように選択された視野において、相関関係の相関係数は、0.2以上1.0未満の範囲である。粒界を含まない視野、つまり、領域4および領域8においては、相関係数がそれぞれ0.11、0.10である。このように、第2の添加元素によって、均一な酸素濃度が幅広く広がるのを抑制し、酸素を粒界13に密集させることができる。つまり、より確実にPFを増加させることができ、熱電変換の効率を向上させることができる。
【0045】
(実施の形態2)
次に、本開示に係る熱電変換材料を用いた熱電変換素子の一実施形態として、発電素子について説明する。
【0046】
図10は、本実施の形態における熱電変換素子であるπ型熱電変換素子(発電素子)の構造を示す概略図である。なお、理解を容易にする観点から、図10において断面を示すハッチングを一部省略している。
【0047】
図10を参照して、π型の熱電変換素子21は、p型の熱電変換材料部22と、n型の熱電変換材料部23と、高温側電極24と、第1の低温側電極25と、第2の低温側電極26と、配線27とを備えている。高温側電極24は、熱電変換材料部22,23に接触して配置される第1電極である。第1の低温側電極25は、熱電変換材料部22に接触し、高温側電極24と離れて配置される第2電極である。第2の低温側電極26は、熱電変換材料部23に接触し、高温側電極24と離れて配置される第2電極である。
【0048】
p型の熱電変換材料部22を構成する材料は、例えば導電型がp型となるように成分組成が調整された実施の形態1の熱電変換材料である。n型の熱電変換材料部23を構成する材料は、例えば導電型がn型となるように成分組成が調整された実施の形態1の熱電変換材料である。
【0049】
p型の熱電変換材料部22とn型の熱電変換材料部23とは、間隔をおいて並べて配置される。高温側電極24は、p型の熱電変換材料部22の一方の端部31からn型の熱電変換材料部23の一方の端部32にまで延在するように配置される。高温側電極24は、p型の熱電変換材料部22の一方の端部31およびn型の熱電変換材料部23の一方の端部32の両方に接触するように配置される。高温側電極24は、p型の熱電変換材料部22の一方の端部31とn型の熱電変換材料部23の一方の端部32とを接続するように配置される。高温側電極24は、導電材料、例えば金属からなっている。高温側電極24は、p型の熱電変換材料部22およびn型の熱電変換材料部23にオーミック接触している。
【0050】
熱電変換材料部22もしくは熱電変換材料部23はp型あるいはn型であることが望ましいが、どちらかが金属導線としても良い。
【0051】
第1の低温側電極25は、p型の熱電変換材料部22の他方の端部33に接触して配置される。第1の低温側電極25は、高温側電極24と離れて配置される。第1の低温側電極25は、導電材料、例えば金属からなっている。第1の低温側電極25は、p型の熱電変換材料部22にオーミック接触している。
【0052】
第2の低温側電極26は、n型の熱電変換材料部23の他方の端部34に接触して配置される。第2の低温側電極26は、高温側電極24および第1の低温側電極25と離れて配置される。第2の低温側電極26は、導電材料、例えば金属からなっている。第2の低温側電極26は、n型の熱電変換材料部23にオーミック接触している。
【0053】
配線27は、金属などの導電体からなる。配線27は、第1の低温側電極25と第2の低温側電極26とを電気的に接続する。
【0054】
π型の熱電変換素子21において、例えばp型の熱電変換材料部22の一方の端部31およびn型の熱電変換材料部23の一方の端部32の側が高温、p型の熱電変換材料部22の他方の端部33およびn型の熱電変換材料部23の他方の端部34の側が低温、となるように温度差が形成されると、p型の熱電変換材料部22においては、一方の端部31側から他方の端部33側に向けてp型キャリア(正孔)が移動する。このとき、n型の熱電変換材料部23においては、一方の端部32側から他方の端部34側に向けてn型キャリア(電子)が移動する。その結果、配線27には、矢印Iの向きに電流が流れる。このようにして、π型の熱電変換素子21において、温度差を利用した熱電変換による発電が達成される。すなわち、π型の熱電変換素子21は発電素子である。
【0055】
そして、p型の熱電変換材料部22およびn型の熱電変換材料部23を構成する材料として、実施の形態1の熱電変換材料11が採用される。その結果、π型の熱電変換素子21は高効率な発電素子となっている。
【0056】
上記実施の形態においては、本開示の熱電変換素子の一例としてπ型熱電変換素子について説明したが、本開示の熱電変換素子はこれに限られない。本開示の熱電変換素子は、例えばI型(ユニレグ型)熱電変換素子など、他の構造を有する熱電変換素子であってもよい。
【0057】
また、上記の実施の形態においては、p型の熱電変換材料部22およびn型の熱電変換材料部23を構成する材料として、実施の形態1の熱電変換材料11が採用されることとしたが、これに限らない。すなわち、p型の熱電変換材料部22およびn型の熱電変換材料部23を構成する材料として、実施の形態2の熱電変換材料を採用してもよいし、実施の形態3の熱電変換材料を採用してもよい。なお、p型の熱電変換材料部22を構成する材料とn型の熱電変換材料部23を構成する材料を異なる材料としてもよい。
【0058】
(実施の形態3)
π型の上記熱電変換素子21を複数個電気的に接続することにより、熱電変換モジュールとしての発電モジュールを得ることができる。本実施の形態の熱電変換モジュールである発電モジュール41は、π型の熱電変換素子21が直列に複数個接続された構造を有する。
【0059】
図11は、発電モジュールの構造の一例を示す図である。図11を参照して、本実施の形態の発電モジュール41は、複数のp型の熱電変換材料部22と、複数のn型の熱電変換材料部23と、第1の低温側電極25および第2の低温側電極26に対応する低温側電極25、26と、高温側電極24と、低温側絶縁体基板28と、高温側絶縁体基板29とを備える。低温側絶縁体基板28および高温側絶縁体基板29は、アルミナなどのセラミックからなる。p型の熱電変換材料部22とn型の熱電変換材料部23とは、交互に並べて配置される。低温側電極25、26は、上述のπ型の熱電変換素子21と同様にp型の熱電変換材料部22およびn型の熱電変換材料部23に接触して配置される。高温側電極24は、上述のπ型の熱電変換素子21と同様にp型の熱電変換材料部22およびn型の熱電変換材料部23に接触して配置される。p型の熱電変換材料部22は、一方側に隣接するn型の熱電変換材料部23と共通の高温側電極24により接続される。また、p型の熱電変換材料部22は、上記一方側とは異なる側に隣接するn型の熱電変換材料部23と共通の低温側電極25、26により接続される。このようにして、全てのp型の熱電変換材料部22とn型の熱電変換材料部23とが直列に接続される。
【0060】
低温側絶縁体基板28は、板状の形状を有する低温側電極25、26のp型の熱電変換材料部22およびn型の熱電変換材料部23に接触する側とは反対側の主面側に配置される。低温側絶縁体基板28は、複数の(全ての)低温側電極25、26に対して1枚配置される。高温側絶縁体基板29は、板状の形状を有する高温側電極24のp型の熱電変換材料部22およびn型の熱電変換材料部23に接触する側とは反対側に配置される。高温側絶縁体基板29は、複数の(全ての)高温側電極24に対して1枚配置される。
【0061】
直列に接続されたp型の熱電変換材料部22およびn型の熱電変換材料部23のうち両端に位置するp型の熱電変換材料部22またはn型の熱電変換材料部23に接触する高温側電極24または低温側電極25、26に対して、配線42、43が接続される。そして、高温側絶縁体基板29側が高温、低温側絶縁体基板28側が低温となるように温度差が形成されると、直列に接続されたp型の熱電変換材料部22およびn型の熱電変換材料部23により、上記π型の熱電変換素子21の場合と同様に矢印Iの向きに電流が流れる。このようにして、発電モジュール41において、温度差を利用した熱電変換による発電が達成される。
【0062】
このような発電モジュール41によると、熱電変換の効率を向上した本開示の熱電変換素子21を複数含むことにより、高い熱電変換効率を実現することができる。
【0063】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって規定され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0064】
11 熱電変換材料
12 ベース材料
13 粒界
16 第1領域
17 第2領域
18 領域
21 熱電変換素子
22,23 熱電変換材料部
24 高温側電極
25,26 低温側電極
27,42,43 配線
28 低温側絶縁体基板
29 高温側絶縁体基板
31,32,33,34 端部
41 発電モジュール
I 矢印
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11