(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057731
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】匂いセンサ、匂いデータ解析装置及び匂いセンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/12 20060101AFI20240418BHJP
G01N 5/02 20060101ALI20240418BHJP
G01N 27/00 20060101ALI20240418BHJP
G01N 27/02 20060101ALI20240418BHJP
G01N 27/04 20060101ALI20240418BHJP
G01N 27/22 20060101ALI20240418BHJP
G01N 29/02 20060101ALI20240418BHJP
G01N 29/036 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
G01N27/12 B
G01N27/12 M
G01N5/02 A
G01N27/00 J
G01N27/02 Z
G01N27/04 E
G01N27/22 A
G01N29/02 501
G01N29/036
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164585
(22)【出願日】2022-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】715010521
【氏名又は名称】株式会社アロマビット
(74)【代理人】
【識別番号】100123559
【弁理士】
【氏名又は名称】梶 俊和
(74)【代理人】
【識別番号】100177437
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 英子
(72)【発明者】
【氏名】水田 巽
(72)【発明者】
【氏名】前野 権一
(72)【発明者】
【氏名】寺田 絵里加
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 賢一
【テーマコード(参考)】
2G046
2G047
2G060
【Fターム(参考)】
2G046BA01
2G046BA07
2G046BA08
2G046BA09
2G046BB02
2G046BB04
2G046BC05
2G046DC18
2G046EA04
2G046FA01
2G046FA04
2G046FA08
2G046FC07
2G046FE02
2G046FE03
2G046FE10
2G046FE25
2G046FE31
2G046FE44
2G047AA01
2G047BA04
2G047BC04
2G047BC15
2G047CA01
2G047CB03
2G047GG32
2G060AA01
2G060AB26
2G060AE19
2G060AF06
2G060AF07
2G060AF11
2G060BA01
2G060BA07
2G060BB08
2G060DA12
2G060HC10
2G060JA01
2G060KA01
(57)【要約】
【課題】非導電性材料を用いて吸着膜のバリエーションを増やし、匂いのパターン分析の精度を向上させることができる匂いセンサ、匂いデータ解析装置及び匂いセンサの製造方法を提供すること。
【解決手段】匂いセンサ100は、匂い物質を吸着する吸着膜112と、匂い物質が吸着膜112へ吸着することに起因する吸着状態の変化を検出する検出部114と、を備え、吸着膜112は、非導電性材料(樹脂)とイオン導電性材料(イオン液体)との混合物を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
匂い物質を吸着する吸着膜と、
前記匂い物質が前記吸着膜へ吸着することに起因する吸着状態の変化を検出する検出部と、
を備え、
前記吸着膜は、非導電性材料とイオン導電性材料との混合物を含む、匂いセンサ。
【請求項2】
センサ素子を複数有し、
前記吸着膜は、前記センサ素子の上に形成され、
複数の前記センサ素子は、それぞれが、異なる前記非導電性材料及び/又は異なる前記イオン導電性材料との前記混合物を含む前記吸着膜を有する、請求項1に記載の匂いセンサ。
【請求項3】
前記吸着膜は、前記吸着状態を変化させる添加剤を含む、請求項1に記載の匂いセンサ。
【請求項4】
前記吸着状態の変化が、前記吸着膜の電気的特性の変化である、請求項1に記載の匂いセンサ。
【請求項5】
前記非導電性材料は、非導電性の固体マトリクス母材を含む、請求項1に記載の匂いセンサ。
【請求項6】
前記非導電性の前記固体マトリクス母材は、樹脂、多孔質性材料又は低分子自己組織化材料を含む、請求項5に記載の匂いセンサ。
【請求項7】
前記イオン導電性材料は、イオン液体、塩を溶解した可塑剤、イオン導電性の無機ガラス材料、又はイオン導電性を有する固体マトリクス母材を含む、請求項1に記載の匂いセンサ。
【請求項8】
匂い物質を吸着する吸着膜と、
前記匂い物質が前記吸着膜へ吸着することに起因する吸着状態の変化を検出する検出部と、
を備え、
前記吸着膜は、イオン導電性を有する固体マトリクス母材を含む、匂いセンサ。
【請求項9】
請求項1から請求項8のうちのいずれか1項に記載の匂いセンサと、
前記匂いセンサの検出結果に基づく解析を行う解析部と、
を備え、
前記匂いセンサは、センサ素子を複数有し、
前記吸着膜は、前記センサ素子の上に形成され、
前記解析部は、それぞれの前記センサ素子により検出した前記匂い物質の吸着量の違いに基づいて、前記匂い物質が接近してきた方向を解析する、匂いデータ解析装置。
【請求項10】
複数の前記匂いセンサを有し、
複数の前記匂いセンサは、配列を変更することが可能である、請求項9に記載の匂いデータ解析装置。
【請求項11】
請求項1から請求項7のうちのいずれか1項に記載の匂いセンサを製造する匂いセンサの製造方法であって、
前記非導電性材料と前記イオン導電性材料とを混合し前記混合物を生成する混合工程と、
前記混合物を前記検出部上に前記吸着膜として形成する膜形成工程と、
を備える、匂いセンサの製造方法。
【請求項12】
請求項1から請求項7のうちのいずれか1項に記載の匂いセンサを製造する匂いセンサの製造方法であって、
前記非導電性材料は、自己組織化材料を含み、
前記検出部の表面に前記自己組織化材料の膜を形成する膜形成工程と、
前記膜に前記イオン導電性材料を担持させる担持工程と、
を備える、匂いセンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、匂いセンサ、匂いデータ解析装置及び匂いセンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、匂い強度の計測や、匂い種類の特定のために、匂いセンサを用いてガスに含まれる匂い物質の検出が行われている。匂いセンサは、例えば、匂い物質を吸着する吸着膜と、匂い物質が吸着膜へ吸着することに起因する吸着状態(吸着特性)の変化を検出する検出部と、を有している(例えば、特許文献1参照)。匂いセンサの吸着膜には、ポリアニリン等の高分子が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2017/085939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、吸着膜の導電性のような、吸着に応じた電気的特性変化を検知する匂いセンサの吸着膜には、高導電性のような優れた電気的特性を確保することが求められるために、非導電性材料は適用できないことが多い。匂いセンサを用いた匂いのパターン分析においては、複数の異なる応答特性を有する吸着膜を用いることが望ましいが、導電性材料だけを用いた吸着膜では、吸着膜のバリエーションを増やすことに限界がある。このため、匂いセンサにおいては、応答特性の異なる吸着膜のバリエーションを拡げるために、非導電性材料も用いることが求められている。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、非導電性材料を用いて吸着膜のバリエーションを増やし、匂いのパターン分析の精度を向上させることができる匂いセンサ、匂いデータ解析装置及び匂いセンサの製造方法を提供することを例示的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の例示的側面としての匂いセンサは、以下の構成を有する。
【0007】
匂い物質を吸着する吸着膜と、
前記匂い物質が前記吸着膜へ吸着することに起因する吸着状態の変化を検出する検出部と、
を備え、
前記吸着膜は、非導電性材料とイオン導電性材料との混合物を含む、匂いセンサ。
【0008】
本発明の更に他の例示的側面としての匂いセンサは、以下の構成を有する。
【0009】
匂い物質を吸着する吸着膜と、
前記匂い物質が前記吸着膜へ吸着することに起因する吸着状態の変化を検出する検出部と、
を備え、
前記吸着膜は、イオン導電性を有する固体マトリクス母材を含む、匂いセンサ。
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の例示的側面としての匂いデータ解析装置は、以下の構成を有する。
【0011】
上記の匂いセンサと、
前記匂いセンサの検出結果に基づく解析を行う解析部と、
を備え、
前記匂いセンサは、センサ素子を複数有し、
前記吸着膜は、前記センサ素子の上に形成され、
前記解析部は、それぞれの前記センサ素子により検出した前記匂い物質の吸着量の違いに基づいて、前記匂い物質が接近してきた方向を解析する、匂いデータ解析装置。
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明の例示的側面としての匂いセンサの製造方法は、以下の構成を有する。
【0013】
上記の匂いセンサを製造する匂いセンサの製造方法であって、
前記非導電性材料と前記イオン導電性材料とを混合し前記混合物を生成する混合工程と、
前記混合物を前記検出部上に前記吸着膜として形成する膜形成工程と、
を備える、匂いセンサの製造方法。
【0014】
本発明の更に他の例示的側面としての匂いセンサの製造方法は、以下の構成を有する。
【0015】
上記の匂いセンサを製造する匂いセンサの製造方法であって、
前記非導電性材料は、自己組織化材料を含み、
前記検出部の表面に前記自己組織化材料の膜を形成する膜形成工程と、
前記膜に前記イオン導電性材料を担持させる担持工程と、
を備える、匂いセンサの製造方法。
【0016】
本発明の更なる目的又はその他の特徴は、以下添付図面を参照して説明される好ましい実施の形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、非導電性材料を用いて吸着膜のバリエーションを増やし、匂いのパターン分析の精度を向上させることができる匂いセンサ、匂いデータ解析装置及び匂いセンサの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態1の匂いセンサの概略構成を示す模式図で、(a)は匂いセンサの上面図、(b)は(a)のA-A線における矢視断面図
【
図2】実施形態1の匂いセンサの概略構成を示す模式図で、(a)は匂いセンサの上面図、(b)は(a)のB-B線における断面図
【
図3】実施形態1の匂いデータ解析装置の概略構成を示す模式図
【
図4】実施形態1の匂いセンサの電圧特性を示す図で、(a)は実施形態の吸着膜を有する匂いセンサの電圧特性を示す図、(b)は樹脂のみの吸着膜を有する匂いセンサの電圧特性を示す図
【
図5】(a)~(d)は実施例1の評価結果を示すレーダーチャート、(e)は比較例1の評価結果を示すレーダーチャート
【
図6】(a)~(d)は実施例2の評価結果を示すレーダーチャート
【
図7】実施形態2の匂いセンサユニットの概略構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
[実施形態1]
以下、本発明の実施形態1について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、以下の説明において、「匂い物質」とは、広義では吸着膜に吸着可能な物質を意味する。したがって、「匂い物質」には、一般的に匂いの原因物質とされていない物質、匂い物質として認知されていない物質又は未知の匂い物質も含まれる。また、「匂い物質」には、個々の匂い物質だけではなく、「複数の匂い物質の集合体」も含まれる。
【0020】
<匂いセンサ>
図1は、実施形態1の匂いセンサ100を示す図であり、(a)は匂いセンサ100の上面図、(b)は(a)のA-A線における矢視断面図である。実施形態1の匂いセンサ100は、複数のセンサ素子110、基板120を有している。センサ素子110は、吸着膜112、検出部114、電極116を有している。
【0021】
図1の匂いセンサ100は、例えば9つのセンサ素子110a~110iを有している。具体的には、センサ素子110aは吸着膜112a、検出部114a、電極116aを有し、センサ素子110bは吸着膜112b、検出部114b、電極116bを有し、・・・、センサ素子110iは吸着膜112i、検出部114i、電極116iを有している。なお、センサ素子(吸着膜、検出部、電極)を特定しない場合、符号の添え字a~i(後述するj~lも含む。)を省略する。吸着膜112は、匂い物質を吸着する膜であり、詳細は後述する。
【0022】
検出部114は、匂い物質が吸着膜112へ吸着することに起因する吸着状態(吸着特性ともいう。)の変化を検出する。なお、「匂い物質の吸着膜112への吸着」というとき、吸着膜112の表面への匂い物質の吸着だけでなく、吸着膜112の内部への匂い物質の吸収も含む。ここで、匂い物質が吸着膜112へ吸着したことに起因する吸着状態の変化とは、匂い物質による力学的特性、光学的特性又は電気的特性の変化を含む。検出部114は、吸着膜112の吸着状態の変化を、例えば、信号として出力する。すなわち、検出部114は、信号変換部(トランスデューサー)としても機能する。
【0023】
「力学的特性の変化」には、例えば、水晶振動子(QCM)における共振周波数の変化、表面弾性波の速度変化、圧電素子における膜の膨張・収縮、又はたわみの変化等が含まれる。「光学的特性の変化」には、吸収波長の変化、吸光度の変化、蛍光・発光特性の変化、表面プラズモン共鳴(SPR)素子等における屈折率の変化等を含む。「電気的特性の変化」には、例えば、電荷結合素子やCMOS等における電気伝導度、抵抗値、誘電率、電気化学的インピーダンス等の特性変化、酸化物半導体センサにおける酸化還元電位の変化、電界効果トランジスタ(FET)センサにおけるゲート電圧、インピーダンス、バンドギャップ等の変化が含まれる。
【0024】
検出部114に用いられる素子としては、例えば、次のような素子(センサ)が挙げられる。すなわち、水晶振動子センサ(QCM)、表面弾性波センサ、電界効果トランジスタ(FET)センサ、電荷結合素子センサ、MOS電界効果トランジスタセンサ、金属酸化物半導体センサ、有機導電性ポリマーセンサ、電気化学的センサ等である。検出部114に用いられる素子は、特にこれらに限定されず、匂いセンサ100の使用の目的等に応じて、種々の素子を適宜用いることができる。
【0025】
「匂い物質の吸着膜112への吸着状態」には、例えば、「匂い物質の吸着膜112への吸着量」も含む。匂い物質の吸着膜112への吸着量の増減によって、吸着膜112の力学的特性、光学的特性又は電気的特性が変化し、検出部114は、その変化量を検出することで、匂い物質の吸着膜112への吸着状態を検出する。
【0026】
電極116は、所定の導電性材料で形成することができる。所定の導電性材料としては、例えば、無機材料や有機材料を用いることができる。無機材料には、例えば、金、銀、白金、クロム、チタン、アルミニウム、ニッケル、ニッケル系合金、シリコン等を含む。有機材料には、例えば、ポリピロール、ポリアニリン、カーボン、カーボンナノチューブ、グラフェン等のナノカーボン材料等を含む。
【0027】
基板120は、例えば平板状で面120aと面120bを有し、一方の面120aにセンサ素子110が実装され、他方の面120bに電極116が実装される(
図1(b)参照)。基板120は、例えば、シリコン基板、水晶結晶からなる基板、プリント配線基板、セラミック基板、樹脂基板等を用いることができる。また、基板120は、インターポーザ基板等の多層配線基板であってもよい。
【0028】
<センサ素子>
図1(a)に示す匂いセンサ100は、3行×3列に配列された9つのセンサ素子110a~110iを有しているが、センサ素子110の個数や配列(配置)はこれに限定されない。また、
図1に示すセンサ素子110は、検出部114と吸着膜112とが1対1に対応してセンサ素子110を構成しているが、これに限定されない。
図2は、検出部114と吸着膜112との他の対応を示す図であり、(a)は匂いセンサ100の上面図、(b)は(a)のB-B線における断面図である。
【0029】
図2に示すように、3つの検出部114a、検出部114d、検出部114gに1つの吸着膜112jが対応して、3つのセンサ素子110a、110d、110gを構成してもよい。また、2つの検出部114b、検出部114cに1つの吸着膜112kが対応して、2つのセンサ素子110b、110cを構成してもよい。さらに、4つの検出部114e、検出部114f、検出部114h、検出部114iに1つの吸着膜112lが対応して、4つのセンサ素子110e、110f、110h、110iを構成してもよい。すなわち、n個の検出部114の上に1つの吸着膜112が設けられてn個のセンサ素子110を構成してもよい。ここで、nは1以上の整数である。さらに、1つ以上のセンサ素子110が、検出部114の上に吸着膜112を形成されずに、リファレンス用のセンサ素子110として用いられてもよい。
【0030】
<匂いデータ解析装置>
図3は、実施形態1の匂いデータ解析装置200の概略構成を示す模式図である。匂いデータ解析装置200は、上述した匂いセンサ100と解析部220とを有している。
【0031】
解析部220は、匂いセンサ100から出力された匂いデータF1を解析するためのものである。解析部220は、主として演算処理装置(CPU)220aを有して構成されており、記憶装置(メモリ)220bを有してもよい。メモリ220bは、解析部220と別体で外部に設けられてもよい。解析部220は、データの入出力ポート220cも有する。入出力ポート220cは、匂いセンサ100からの匂いデータF1を受信する機能と、CPU220aによる演算処理が行われた結果として演算済みデータRを制御部(不図示)に送信する機能を有する。なお、制御部(不図示)は、匂いデータ解析装置200が有線又は無線で公知の通信手段により接続された、例えばパーソナルコンピューター等の外部機器の制御部であってもよい。
【0032】
メモリ220b内には、匂いデータF1を解析するための解析プログラムPが格納されている。この解析プログラムPは、コンピュータとしての解析部220、すなわち解析部220の主要構成部としてのCPU220aに対し、公知の演算処理を実行させることにより、匂いデータF1の解析を実現させる。なお、
図3のデータ解析装置200は、1つの匂いセンサ100を有しているが、複数の匂いセンサ100を有していてもよい。
【0033】
<吸着膜>
実施形態1の吸着膜112は、非導電性材料とイオン導電性材料との混合物を含む。この点、従来のポリアニリン等の導電性高分子等、電子導電性材料が用いられていた吸着膜とは異なる。ここで、複数のセンサ素子110は、それぞれが異なるイオン導電性材料の混合物を含む吸着膜112を有していてもよい。複数のセンサ素子110は、それぞれが異なる非導電性材料の混合物を含む吸着膜112を有していてもよい。複数のセンサ素子110は、それぞれが、異なる非導電性材料と異なるイオン導電性材料との混合物を含む吸着膜112を有していてもよい。さらに、複数のセンサ素子110子は、それぞれが同じ混合物を含む吸着膜112を有していてもよい。
【0034】
非導電性材料は、非導電性(すなわち絶縁性)の固体材料を含む。非導電性の固体材料は、例えば、その内部に異なる材料を内包させることができる非導電性の材料であり、例えば、非導電性の固体マトリクス母材である。非導電性の固体マトリクス母材は、例えば、樹脂、多孔質性材料又は低分子自己組織化材料を含む。樹脂は、汎用樹脂を含み、汎用樹脂は、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、シクロオレフィンポリマー(COP)等である。
【0035】
多孔質(ポーラス)性材料は、例えば、ミクロポーラス材料、メソポーラス材料、マクロポーラス材料である。ミクロポーラス材料は、活性炭、ゼオライト、金属有機構造体(MOF:Metal Organic Frameworks)等を含む。メソポーラス材料は、シリカ等を含む。マクロポーラス材料は、軽石等を含む。
【0036】
また、低分子自己組織化材料というとき、低分子とは、例えば、数個から約100個の原子から構成される分子をいう。「自己組織化材料」とは、例えば、分子や原子、微粒子などが自発的に集合し、規則的な配列を形成する材料をいう。低分子自己組織化材料は、例えば、自己組織化単分子層(SAM:Self-Assembled Monolayer)、液晶分子材料、有機結晶等を含む。SAMは、例えば、有機シラン化合物、チオール(R-SH)類、ホスホン酸(R-PO3H2)類等を含む。
【0037】
イオン導電性材料は、吸着膜112内部でのイオンの移動を可能とする材料である。イオン導電性材料は、例えば、イオン液体、塩を溶解した可塑剤を含み、以下に示すアニオンとカチオンの組み合わせから成るイオン液体又は塩である。
【0038】
例えば、アニオンとして、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオン、塩素酸化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、ホウ酸イオン、テトラクロロ鉄(III)酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、アルキルスルホン酸イオン、アルキルリン酸イオン、アルキルホスフィン酸イオン、アルキルホスホン酸イオン、アルキルジチオリン酸イオン、チオシアン酸イオン、アルキル硫酸イオンや、ベンゼンスルホン酸等の芳香族スルホン酸イオン、カルボン酸イオン、ビス(パーフルオロアルキルスルホニル)イミドアニオン、ジシアナミドアニオン、トリシアノメタニドアニオンが考えられる。
【0039】
また、例えばカチオンとして、ナトリウムやカリウム等の金属イオン、アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオン、アルキルホスホニウムイオン、アルキルイミダゾリウムイオン、アルキルピリジニウムイオン、アルキルピペリジニウムイオン、アルキルピペラジニウムイオン、アルキルモルホリニウムイオン、アルキルピロリジニウムイオン及びアルキルスルホニウムイオンが考えられる。
【0040】
イオン導電性材料は、上述したイオン液体又は塩を溶解した有機液体材料である。有機液体材料としては、例えば、ニトロフェニルアルキルエーテル、フタル酸ジアルキル、トリメリット酸トリアルキル、セバシン酸ジアルキル、アジピン酸ジアルキル、リン酸トリアルキル等の可塑剤である。さらに、イオン導電性材料は、例えば、オルトケイ酸リチウム等のイオン導電性の無機ガラス材料を含んでもよい。
【0041】
なお、イオン導電性材料に、イオン導電性の固体マトリクス母材が含まれてもよい。イオン導電性の固体マトリクス母材としては、例えば、ナフィオン(登録商標)等の高分子材料が挙げられる。イオン導電性材料にイオン導電性の固体マトリクス母材が用いられる場合、吸着膜112は、非導電性材料としての樹脂との混合物を有しなくてもよい。また、イオン導電性材料にイオン導電性の固体マトリクス母材が用いられる場合、吸着膜112は、非導電性の固体マトリクス母材との混合物を有してもよい。
【0042】
吸着膜112には、非導電性材料とイオン導電性材料との混合物に、さらに添加剤(ドーパント)を添加してもよい。添加剤は1種類に限定されず、複数種類の添加剤が吸着膜112に添加されてもよい。添加剤の種類や添加量によって、吸着膜112の匂い物質に対する吸着状態を変化させることができる。
【0043】
添加剤には、例えば、無機イオンを含む。無機イオンは、例えば、塩化物イオン、塩素酸化物イオン、臭化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、及びホウ酸イオン等からなる群から選択されてよい。添加剤は、有機酸アニオンを含む。有機酸アニオンは、アルキルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、及びカルボン酸等からなる群から選択されてよい。添加剤は、例えば、高分子酸アニオンを含む。高分子酸アニオンは、ポリアクリル酸又はポリスチレンスルホン酸を含む。添加剤は、塩を含む。添加剤としては、他にもシクロデキストリンやクラウンエーテル誘導体のようなホスト材料、アルキルアミンやアリールアミン、含窒素複素環化合物等の有機塩基材料、尿素誘導体、チオ尿素誘導体等の水素結合性材料等が考えられる。
【0044】
<吸着膜の製造工程>
吸着膜112の製造方法は、混合工程、膜形成工程、乾燥工程、を備えている。混合工程は、非導電性材料の溶液を調整する第1調整工程、イオン導電性材料の溶液を調整する第2調整工程、を有している。第1調整工程と第2調整工程とは独立した工程である。混合工程は、第1調整工程において調整した非導電性材料の溶液と、第2調整工程において調整したイオン導電性材料の溶液とを混合した混合物の溶液(以下、混合物溶液という。)を調整する第3調整工程を有している。ここで、混合物溶液を100重量部とすると、非導電性材料は90重量部、イオン導電性材料は10重量部を混合する。なお、非導電性材料は、50重量部から95重量部の範囲で混合することが好ましく、イオン導電性材料は、5重量部から50重量部の範囲で混合することが好ましい。
【0045】
膜形成工程は、混合工程により調整した混合物溶液を、例えば、マイクロディスペンサ等を用いて検出部114の表面に滴下する滴下工程を有している。なお、膜形成工程は、例えば、インクジェットにより混合物溶液を検出部114の表面に塗布する塗布工程を有していてもよい。
【0046】
乾燥工程では、膜形成工程によって検出部114の表面に滴下又は塗布された混合物溶液を乾燥させる。乾燥工程においては、例えば、気圧1bar、温度25℃、湿度50%の環境下で混合物溶液を乾燥させる。なお、気圧、温度、湿度はこれらの値に限定されない。
【0047】
なお、非導電性材料にSAM等の自己組織化材料を用いる場合、検出部114の表面に自己組織化材料の膜(SAM)を形成させて(膜形成工程)、形成された膜にイオン導電性材料を担持させてもよい(担持工程)。これにより、自己組織化材料を用いる場合でも、吸着膜112にイオン導電性を付与することができる。
【0048】
添加剤を添加する場合には、吸着膜112の製造方法の第3調整工程は、混合物溶液に添加剤を添加する添加工程を有する。ここで、混合物溶液を100重量部とすると、添加剤は例えば10重量部を添加する。添加剤は、1重量部から20重量部の範囲で添加することが好ましい。なお、第1調整工程において添加剤を添加してもよいし、第2調整工程において添加剤を添加してもよい。さらに、吸着膜112の製造方法は、膜形成工程の後に添加工程を有していてもよく、膜形成工程において検出部114の表面に形成された混合物溶液の膜に添加剤が添加されてもよい。
【0049】
<匂いセンサの電圧特性>
図4は、実施形態1の匂いセンサの電圧特性を示す図であり、(a)は吸着膜に樹脂とイオン液体との混合物を用いた場合を示し、(b)は吸着膜に樹脂のみを用いた場合を示す。いずれも、横軸に参照電圧Vref[mV]を示し、縦軸に匂いセンサが出力する出力電圧Vout[mV]を示す。なお、検出部114には、CMOSを用いた。
【0050】
図4(a)では、参照電圧Vrefが500mVの近傍で、出力電圧Voutが右肩下がりの特性を示している。匂いセンサ100は、所定の参照電圧Vrefを印加した状態で、吸着膜112に匂い物質を吸着させることにより、匂い物質の吸着の前後における出力電圧Voutの変化を検出する。
図4(a)に示す実線は、吸着膜112に匂い物質が吸着していない場合の電圧特性である。吸着膜112に匂い物質が吸着すると、例えば、電圧特性のグラフが右側にシフトし(図中黒い矢印)破線で示す電圧特性に変化する。
【0051】
ここで、匂いセンサ100に参照電圧Vrefとして500mVを印加している場合、匂い物質が吸着膜112に吸着する前には出力電圧Voutは約3100mVである。吸着膜112に匂い物質が吸着すると、同じ参照電圧Vrefでも出力される出力電圧Voutは約3300mVとなる。これにより、検出部114から出力された出力電圧Voutの差分(以下、電位差ΔVという。)200mVが検出され、匂い物質を検知することが可能となる。
【0052】
一方、
図4(b)では、どの参照電圧Vrefを用いても、出力電圧Voutは一定である。このため、樹脂のみの吸着膜に匂い物質が吸着し、
図4(b)に示す電圧特性が、例えば右側にシフトしたとしても、
図4(a)のような出力電圧Voutの変化(電位差ΔV)は得られない。このため、
図4(b)の樹脂のみの吸着膜では、匂い物質を検知することができない。
【0053】
以上のように、本実施形態の吸着膜112は、樹脂のみの場合に比較して、イオン液体を混合したことにより、匂い物質の吸着の前後において出力電圧Vout、言い換えれば電圧特性を変化させることができ、匂い物質を検知することが可能となる。
【0054】
なお、
図4(a)に示す電圧特性(電気的特性)は一例であり、参照電圧Vrefが0mVにおけるグラフの切片の値(Voutの値)や右肩下がりの傾きの大きさ等は、このグラフに限定されない。また、匂い物質が吸着膜112に吸着した際に、電圧特性のグラフが右にシフトするか、左にシフトするかは、吸着膜112と匂い物質との関係に応じて変わるものである。さらに、上述した説明では、匂い物質が吸着膜112に吸着する前後で、電圧特性の傾きが変わらないものとして説明したが、匂い物質の吸着によって電圧特性の傾きが変わる場合もある。
【0055】
以上、
図4(a)に示すように、非導電性の樹脂とイオン液体との混合物を吸着膜112に含むことにより、非導電性の樹脂に導電性を付与することができ、匂い物質の検出が可能となる。
【0056】
[実施例及び比較例]
実施例では、吸着膜112に用いる混合物に、樹脂と相溶する次のイオン液体、より詳細には、樹脂と一定割合以上で相溶するイオン液体を用いた。ここで、「樹脂と一定割合以上で相溶する」とは、例えば、全体を100重量部としたときの少なくとも0.01重量部以上の相溶性を持つことをいう。
・トリブチルメチルアンモニウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド
・メチルトリオクチルアンモニウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド
・1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム クロリド
・1-メチル-3-オクチルイミダゾリウム クロリド
・ヘキサフルオロリン酸-1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム
・トリフルオロ酢酸-1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム
・メタンスルホン酸-1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム
・ジメチルリン酸トリブチルメチルホスホニウム
【0057】
また、実施例では、吸着膜112に用いる混合物に、次の樹脂(汎用樹脂)を用いた。
・ポリ塩化ビニル(PVC)
・ポリフッ化ビニリデン(PVDF)
・ポリメタクリル酸メチル(PMMA)
・シクロオレフィンポリマー(COP)
実施例では、上述した、非導電性材料である樹脂と、導電性材料であるイオン液体1つとを組み合わせて、吸着膜112に用いる混合物とした。
【0058】
さらに、実施例では、吸着膜112に用いる混合物に、次の非導電性の樹脂と、次の導電性材料としての可塑剤及び塩との組み合わせも用いた。
・PVC+フタル酸ジオクチル(DOP)+ジステアリルジメチルアンモニウム クロリド(DDAC)
・PVDF+DOP+トリブチルメチルアンモニウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド
【0059】
<実施例1>
図5(a)~
図5(d)は、所定の樹脂(以下、樹脂1という。)に対し、異なるイオン液体を混合した混合物を用いた吸着膜112を有する匂いセンサ100を用い、複数の試薬ガスを検出したときの検出結果を示すグラフである。なお、異なるイオン液体を、IL1~IL4とする。また、匂いセンサ100により検出する匂い物質について、Gas1からGas6までの6種類の試薬ガスを用いた。また、100重量部の混合物溶液について、樹脂1を1.9重量部、イオン液体を0.1重量部混合した。検出部114にはCMOSを用いた。樹脂1、及び、試薬ガスGas1~Gas6についての具体的な材料名は、次のとおりである。また、イオン液体LI1~LI4については、上述したイオン液体から所定の4つを選択した。
樹脂1:PVC
試薬ガスGas1:アセトン
試薬ガスGas2:酢酸
試薬ガスGas3:エタノール
試薬ガスGas4:水
試薬ガスGas5:ヘキサン
試薬ガスGas6:アンモニア
【0060】
ここで、
図5(a)~
図5(d)のグラフ(以下、レーダーチャートという。)は、匂いセンサ100により6種類の試薬ガスを検出した際に、
図4で説明した電位差ΔVを示したものであり、以下、応答パターンともいう。
図5(a)~
図5(d)では、正多角形(ここでは、正六角形)の頂点に6種類の試薬ガスを配置し、正六角形の中心から各頂点に向けて(0mV~300mV)、電位差ΔVを示す線上に検出結果をプロットした。
【0061】
<樹脂1とIL1との混合物を用いた吸着膜112>
図5(a)は、樹脂1とイオン液体IL1との混合物を用いた吸着膜112を有する匂いセンサ100により6種類の試薬ガスを検出した結果を示すレーダーチャートである。この吸着膜112では、Gas1とGas3とが検出された。また、Gas1の方がGas3よりも大きな値が得られた。Gas2、Gas4~Gas6は検出することができなかった。
【0062】
<樹脂1とIL2との混合物を用いた吸着膜112>
図5(b)は、樹脂1とイオン液体IL2との混合物を用いた吸着膜112を有する匂いセンサ100により6種類の試薬ガスを検出した結果を示すレーダーチャートである。この吸着膜112では、
図5(a)のGas1のような大きな値を示すものはなかったが、Ga1~Gas4、Gas6という、6種類の試薬ガスのうち5種類の試薬ガスを検出することができ、5種類の試薬ガスについては同程度の値が得られた。Gas5は検出することができなかった。
【0063】
<樹脂1とIL3との混合物を用いた吸着膜112>
図5(c)は、樹脂1とイオン液体IL3との混合物を用いた吸着膜112を有する匂いセンサ100により6種類の試薬ガスを検出した結果を示すレーダーチャートである。この吸着膜112では、検出できない試薬ガスはなかったが、Gas5で得られた値は小さく、Gas1もGas5よりは大きいがやや小さい値であった。一方、Gas3では、Gas1、Gas5よりも大きな値が得られた。さらに、Gas2、Gas4、Gas6では、Gas3よりも大きな値が得られた。
【0064】
<樹脂1とIL4との混合物を用いた吸着膜112>
図5(d)は、樹脂1とイオン液体IL4との混合物を用いた吸着膜112を有する匂いセンサ100により6種類の試薬ガスを検出した結果を示すレーダーチャートである。この吸着膜112では、Gas3で大きな値が得られた。Gas1では、わずかな値が検出できた。Gas2、Gas4~Gas6は非常に小さな値しか得られなかった、又は、検出することができなかった。
【0065】
以上のことから、同じ樹脂を用いた場合でも、イオン液体を変えることにより、異なる応答パターンを得ることができた。したがって、検出したい匂い物質に応じてイオン液体を選択することで、狙った匂い物質を精度良く測定することができる。また、異なるイオン液体を用いたセンサ素子110を複数用いることで、複数の匂い物質を測定することも可能である。
【0066】
[比較例1]
<樹脂1>
図5(a)~
図5(d)との比較のために、イオン液体を用いない樹脂1のみの吸着膜を有する匂いセンサ100により6種類の試薬ガスを検出した結果を、
図5(e)のレーダーチャートに示す。6種類の試薬ガスの全てにおいて、非常に小さな値しか得られなかった、又は、検出することができなかった。
以上のことから、吸着膜に非導電性の樹脂を用いただけでは、精度よく匂い物質の検出を行うことが困難であることがわかった。
【0067】
[実施例2]
図6(a)~
図6(d)は、所定のイオン液体に対し、異なる樹脂を混合した混合物を用いた吸着膜112を有する匂いセンサ100を用い、複数の試薬ガスを検出したときの検出結果を示すグラフである。ここで、所定のイオン液体には、
図5(c)で用いたイオン液体IL3を用いた。また、異なる樹脂を、樹脂1~樹脂4とする。また、匂いセンサ100により検出する匂い物質について、
図5と同様に、Gas1からGas6までの6種類の試薬ガスを用いた。具体的には、次のとおりである。また、100重量部の混合物溶液について、樹脂を1.9重量部、イオン液体IL3を0.1重量部混合した。検出部114にはCMOSを用いた。また、具体的な材料名は、次のとおりである。なお、実施例1で説明したものについては、説明を省略する。
樹脂2:PVDF
樹脂3:PMMA
樹脂4:COP
【0068】
<樹脂1とIL3との混合物を用いた吸着膜112>
図6(a)は、樹脂1とイオン液体IL3との混合物を用いた吸着膜112を有する匂いセンサ100により6種類の試薬ガスを検出した結果を示すレーダーチャートである。
図6(a)のレーダーチャートは、
図5(c)のレーダーチャートと同様であり、説明を省略する。
【0069】
<樹脂2とIL3との混合物を用いた吸着膜112>
図6(b)は、樹脂2とイオン液体IL3との混合物を用いた吸着膜112を有する匂いセンサ100により6種類の試薬ガスを検出した結果を示すレーダーチャートである。この吸着膜112では、Gas1~Gas4、Gas6について、大きな値が得られた。Gas5は検出することができなかった。
【0070】
<樹脂3とIL3との混合物を用いた吸着膜112>
図6(c)は、樹脂3とイオン液体IL3との混合物を用いた吸着膜112を有する匂いセンサ100により6種類の試薬ガスを検出した結果を示すレーダーチャートである。この吸着膜112では、検出結果の値が大きい順に、Gas2、Gas4、Gas6、Gas1の順で結果が得られた。一方、Gas3、Gas5については、非常に小さな値しか得られなかった、又は、検出することができなかった。
【0071】
<樹脂4とIL3との混合物を用いた吸着膜112>
図6(d)は、樹脂3とイオン液体IL3との混合物を用いた吸着膜112を有する匂いセンサ100により6種類の試薬ガスを検出した結果を示すレーダーチャートである。この吸着膜112では、検出結果の値が大きい順に、Gas6、Gas3、Gas2、Gas4の順で結果が得られた。一方、Gas1、Gas5については、非常に小さな値しか得られなかった。
【0072】
以上のことから、同じイオン液体を用いた場合でも、樹脂を変えることにより、異なる応答パターンを得ることができた。したがって、検出したい匂い物質に応じて樹脂を選択することで、狙った匂い物質を精度良く測定することができる。また、異なる樹脂を用いたセンサ素子110を複数用いることで、複数の匂い物質を測定することも可能である。さらに、実施例1及び実施例2の結果から、複数のセンサ素子110を用いる場合、吸着膜112に用いる樹脂とイオン液体との混合物を種々組み合わせることで、多様な応答パターンを得ることができる。吸着膜112にイオン導電性材料を用いることで、従来用いられていなかった非導電性材料を用いることが可能となり、匂いセンサ100の応答パターンのバリエーションを増やすことができる。
【0073】
以上、実施形態1によれば、非導電性材料を用いて吸着膜のバリエーションを増やし、匂いのパターン分析の精度を向上させることができる匂いセンサ、匂いデータ解析装置及び匂いセンサの製造方法を提供することができる。
【0074】
[実施形態2]
以下、実施形態2に係る匂いセンサについて説明する。
【0075】
<匂いセンサの構成>
匂いセンサにおいては、基部の表面に特有の匂い物質を吸着する吸着膜が形成されている。その吸着膜は、例えば導電性高分子膜等の膜材料に添加剤が添加されることにより形成される。
【0076】
基部としては、水晶振動子センサ(QCM)を用いることもできる。他にも、例えばCMOSセンサ、表面弾性波センサ、電界効果トランジスタ(FET)、電荷結合素子センサ、MOS電界効果トランジスタ、金属酸化物半導体センサ、有機導電性ポリマーセンサ、電気化学的センサ、圧電素子センサ、SPRセンサ等を基部として用いることができる。また、基部に用いるものによって、匂いデータF1を構成する物理量として、周波数、電位、質量、光や音の波長・強度、抵抗値、電流値等が考えられる。
【0077】
吸着膜を構成する膜材料としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子を適用することができる。なお、膜材料には、実施形態1で説明したイオン液体、汎用樹脂、可塑剤、塩等を用いることもできる。また、電極には、金、銀、白金、クロム、チタン、アルミニウム、ニッケル、ニッケル系合金、シリコン等の無機材料を適用することができる。他にも、カーボン、カーボンナノチューブ、グラフェン等のナノカーボン材料等を適用することができる。
【0078】
添加剤としては、例えば、無機イオン、有機酸アニオン、高分子酸アニオンを適用することができる。無機イオンとしては、例えば、塩化物イオン、塩素酸化物イオン、臭化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、及びホウ酸イオン等が考えられる。有機酸アニオンとしては、例えば、アルキルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、カルボン酸等が考えられる。高分子酸アニオンとしては、例えば、アルキルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、カルボン酸等の有機酸アニオン、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸等の高分子酸アニオンが考えられる。添加剤としては、他にもシクロデキストリンやクラウンエーテル誘導体のようなホスト材料、アルキルアミンやアリールアミン、含窒素複素環化合物等の有機塩基材料、尿素誘導体、チオ尿素誘導体等の水素結合性材料等が考えられる。他にも、実施形態1で挙げた各種イオン液体も添加剤になりうる。
【0079】
<匂いセンサの配列>
匂いセンサは、1つ又は複数の基部の表面に複数の吸着膜を配列して使用する事が可能である。この場合において、例えば、異なる匂い物質ごとに特有の吸着特性を有する各々異なる複数の吸着膜を一列に配列することができる。また、複数の吸着膜を複数個ずつ縦横に配列し平面状に整列配置することもできる。
【0080】
どの吸着特性を有する吸着膜をどの順序で配列したかの情報を暗号化キー又はパスコードとして利用することで種々の場面におけるセキュリティを高めることができる。この匂いセンサ又はそれを含むシステム全体を、匂いを利用したセキュリティシステムとして利用することができる。
【0081】
<匂いデータベースの秘匿化処理>
図7は、実施形態2に係る匂いセンサユニット1010の概略構成である。匂いセンサユニット1010は、5個の匂いセンサ1010a~1010eを有している。匂いセンサ1010a~1010eは、基部1002として、例えば水晶振動子センサ(QCM)を用いている。この実施形態2では、5個の匂いセンサ1010a~1010eが順に一列に配列されている。5個の基部1002の表面には、吸着膜1004a~1004eが各々形成されていて、吸着膜1004a~1004eは各々匂いセンサ1010a~1010eに対応している。吸着膜1004a~1004eは、それぞれ導電性高分子膜1005に添加剤1006a~1006eが添加されて形成されている。添加剤1006a~1006eの各々の特性の違いにより、吸着膜1004a~1004eは各々異なる匂い物質を吸着する吸着特性を発揮する。
【0082】
この匂いセンサ1010で例えば、3種類のガスGa、Gb、Gcの匂いを検出し、データベースDB1に格納する場合を想定する。ガスGa、Gb、Gcを匂いセンサ1010a~1010eで検出したときの検出結果は、例えば以下であるとする。()内の数値は、それぞれ匂いセンサ1010a~1010eの出力値である。
ガスGa:(0,5,10,5,0)
ガスGb:(2,4,6,8,10)
ガスGc:(10,8,6,4,2)
【0083】
この出力値をそのまま匂いデータベースDBに格納すると、仮にその匂いデータベースDB内の情報が盗用されると、ガスGa~Gcの匂いセンサ1010a~1010eによる検出結果が盗用者に容易に露呈してしまう。しかしながら、例えば、5個の匂いセンサ1010a~1010eの出力値の配列順序を変更し、配列順序を変更した状態で、匂いセンサ1010a~1010eからの出力値を匂いデータベースDBに格納する。そして、その変更順序の情報を暗号化キーとして匂いデータベースDBと別管理すれば、仮にデータベースDB内の情報が盗用されても、盗用者は、ガスGa~Gcの匂いセンサ1010a~1010eによる検出結果を容易に把握することができない。
【0084】
例えば、5個の匂いセンサ1010a~1010eの出力値の配列順序を(1,3,5,2,4)とすると、匂いデータベースDB内に格納される各ガスGa~Gcの検出結果は、以下の通りとなる。
ガスGa:(0,10,0,5,5)
ガスGb:(2,6,10,4,8)
ガスGc:(10,6,2,8,4)
【0085】
暗号化キーがなければ、ガスGa~Gcの匂いセンサ1010a~1010eによる検出結果をセンサ順序の通りに再現することができない。ここで、暗号化キー(1,3,5,2,4)を用いれば、匂いデータベースDB内のガスGa~Gcの検出結果を匂いセンサ1010a~1010eの順序通りに復号することができる。この方策により、匂いデータベースDB内に格納された匂いデータのセキュリティを向上させることができる。
【0086】
また、例えば、匂いデータベースDB内に格納する匂いデータを検出するための匂いセンサユニット内のセンサ配列の順序と、ユーザに販売する匂いセンサユニット内のセンサ配列の順序を変更し、その変更内容を暗号化キーとすることもできる。また、匂いセンサユニットを複数個生産する場合において、ユニットごと、又は複数ロットごとにユニット内のセンサ配列を変更し、その変更内容を暗号化キーとして管理することにより、匂いデータの秘匿管理性の向上により一層貢献することができる。
【0087】
<匂いを利用した入退室管理>
図7に示す匂いセンサユニット1010を用いることで、例えば、匂いを利用した入退室管理を実現することもできる。入退室の施錠解錠は特定の匂いを有するガスを利用して行う。ここで、その入退室に利用する匂いを「匂い鍵」と言うこととする。匂い鍵は、例えば特定の香水でもよいし、個人の体臭であってもよい。部屋のドアの施錠解錠を制御する入退室制御システムに匂いセンサユニット1010を連携させれば、匂い鍵によってドアの解錠を実現することができる。
【0088】
ここで、例えば、匂い鍵だけでは解錠できず、それに加えて、匂いセンサユニット1010内のセンサ配列情報をパスワードとして入力してようやく解錠が可能となるように構成することができる。例えば、ドアを解錠可能な検出結果が(2,4,6,8,10)であり、その情報が入退室制御システム内又はクラウド内のデータベース等に格納されている。匂いセンサユニット1010による匂い鍵の検出結果が、(2,6,10,4,8)であると、ドアを解錠することができない。しかしながら、匂いセンサユニット1010内のセンサ配列情報(1,3,5,2,4)を入力されると、(2,6,10,4,8)との検出結果が(2,4,6,8,10)に変換される。変換後の検出結果とデータベース等に格納された検出結果とが照合され、一致すればドアの解錠が可能となる。
【0089】
<産業上の利用可能性>
なお、上記の実施形態にて説明した匂いセンサやその匂いセンサで検出された匂いデータの解析方法を用いれば、複数の異なる匂い物質を含有するガス中に含まれる当該匂い物質を迅速かつ高精度に特定することができる。演算処理装置への負荷を軽減することもできる。ある特定のガスと他のガスとの匂いを弁別する場合においても、迅速かつ高精度に両者の弁別が可能となる。また、検出したガスに含有される匂い物質を、その検出された匂いデータとデータベース等に格納された匂いデータとを照合することにより特定する場合においても、迅速かつ高精度に照合が可能となる。なお、実施形態2の匂いセンサ1010a~1010eは、実施形態1の匂いセンサ100に置き換えることも可能である。
【0090】
以上、実施形態2によれば、非導電性材料を用いて吸着膜のバリエーションを増やし、匂いのパターン分析の精度を向上させることができる匂いセンサ、匂いデータ解析装置及び匂いセンサの製造方法を提供することができる。
【0091】
以上、本発明の好ましい実施の形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨の範囲内で様々な変形や変更が可能である。例えば、本発明は以下の趣旨を含むものとする。
【0092】
[趣旨1]
匂い物質を吸着する吸着膜と、
前記匂い物質が前記吸着膜へ吸着することに起因する吸着状態の変化を検出する検出部と、
を備え、
前記吸着膜は、非導電性材料とイオン導電性材料との混合物を含む、匂いセンサ。
【0093】
[趣旨2]
センサ素子を複数有し、
前記吸着膜は、前記センサ素子の上に形成され、
複数の前記センサ素子は、それぞれが、異なる前記非導電性材料及び/又は異なる前記イオン導電性材料との前記混合物を含む前記吸着膜を有していてもよい。
【0094】
[趣旨3]
前記吸着膜は、前記吸着状態を変化させる添加剤を含んでもよい。
【0095】
[趣旨4]
前記吸着状態の変化が、前記吸着膜の電気的特性の変化であってもよい。
【0096】
[趣旨5]
前記非導電性材料は、非導電性の固体マトリクス母材を含んでもよい。
【0097】
[趣旨6]
前記非導電性の前記固体マトリクス母材は、樹脂、多孔質性材料又は低分子自己組織化材料を含んでもよい。
【0098】
[趣旨7]
前記イオン導電性材料は、イオン液体、塩を溶解した可塑剤、イオン導電性の無機ガラス材料、又はイオン導電性を有する固体マトリクス母材を含んでもよい。
【0099】
[趣旨8]
匂い物質を吸着する吸着膜と、
前記匂い物質が前記吸着膜へ吸着することに起因する吸着状態の変化を検出する検出部と、
を備え、
前記吸着膜は、イオン導電性を有する固体マトリクス母材を含む、匂いセンサ。
【0100】
[趣旨9]
上記の匂いセンサと、
前記匂いセンサの検出結果に基づく解析を行う解析部と、
を備え、
前記匂いセンサは、センサ素子を複数有し、
前記吸着膜は、前記センサ素子の上に形成され、
前記解析部は、それぞれの前記センサ素子により検出した前記匂い物質の吸着量の違いに基づいて、前記匂い物質が接近してきた方向を解析する、匂いデータ解析装置。
【0101】
[趣旨10]
複数の前記匂いセンサを有し、
複数の前記匂いセンサは、配列を変更することが可能であってもよい。
【0102】
[趣旨11]
上記の匂いセンサを製造する匂いセンサの製造方法であって、
前記非導電性材料と前記イオン導電性材料とを混合し前記混合物を生成する混合工程と、
前記混合物を前記検出部上に前記吸着膜として形成する膜形成工程と、
を備える、匂いセンサの製造方法。
【0103】
[趣旨12]
上記の匂いセンサを製造する匂いセンサの製造方法であって、
前記非導電性材料は、自己組織化材料を含み、
前記検出部の表面に前記自己組織化材料の膜を形成する膜形成工程と、
前記膜に前記イオン導電性材料を担持させる担持工程と、
を備える、匂いセンサの製造方法。
【符号の説明】
【0104】
100 匂いセンサ
110、110a~110i センサ素子
112、112a~112l 吸着膜
114、114a~114i 検出部
116 電極
120 基板
120a、120b 面
200 データ解析装置
220 解析部
220b 記憶装置(メモリ)
220c 入出力ポート
1002 基部
1004a~1004e 吸着膜
1005 導電性高分子膜
1006a~1006e 添加剤
1010 匂いセンサユニット
1010a~1010e 匂いセンサ
F1 匂いデータ
Ga~Gc ガス
Gas1~Gas6 試薬ガス
IL1~IL4 イオン液体
P 解析プログラム
R 演算済みデータ
Vout 出力電圧
Vref 参照電圧
ΔV 電位差