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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057757
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】捺染物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06P 5/30 20060101AFI20240418BHJP
   D06P 5/00 20060101ALI20240418BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240418BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
D06P5/30
D06P5/00 106
B41M5/00 114
B41M5/00 132
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164631
(22)【出願日】2022-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】林 暁子
(72)【発明者】
【氏名】志村 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】甲 こころ
(72)【発明者】
【氏名】白石 哲也
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4H157
【Fターム(参考)】
2C056EA13
2C056EE18
2C056FB03
2C056FC02
2C056HA42
2H186AA04
2H186AA17
2H186AB03
2H186AB13
2H186AB27
2H186AB54
2H186AB57
2H186BA08
2H186DA17
2H186FA14
2H186FB10
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB56
4H157AA02
4H157BA15
4H157BA27
4H157CA12
4H157CB08
4H157CB13
4H157CB14
4H157CB36
4H157CB45
4H157CB46
4H157CB56
4H157CB61
4H157CC01
4H157DA01
4H157DA24
4H157DA34
4H157GA06
(57)【要約】
【課題】洗濯した後の白色画像にひびが発生しにくい捺染物の製造方法を提供する。
【解決手段】前処理液を布に付与することと、前記前処理液が付与された前記布に、ホワイトインクをインクジェット法で付与することとを含み、前記前処理液は、多価金属塩、界面活性剤、及び水を含み、前記ホワイトインクは、白色無機顔料、樹脂粒子、界面活性剤、及び水を含み、前記白色無機顔料は、前記ホワイトインク全量に対し、5.0~15.0質量%であり、前記白色無機顔料及び前記樹脂粒子の合計が、前記ホワイトインク全量に対し、20~35質量%であり、前記布に対する前記ホワイトインクの前記樹脂粒子の付与量A(g/m)、及び前記布に対する前記前処理液の前記多価金属塩の付与量B(g/m)が、A/B≧50の関係を満たす、捺染物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前処理液を布に付与することと、
前記前処理液が付与された前記布に、ホワイトインクをインクジェット法で付与することとを含み、
前記前処理液は、多価金属塩、界面活性剤、及び水を含み、
前記ホワイトインクは、白色無機顔料、樹脂粒子、界面活性剤、及び水を含み、前記白色無機顔料は、前記ホワイトインク全量に対し、5.0~15.0質量%であり、前記白色無機顔料及び前記樹脂粒子の合計が、前記ホワイトインク全量に対し、20~35質量%であり、
前記布に対する前記ホワイトインクの前記樹脂粒子の付与量A(g/m)、及び前記布に対する前記前処理液の前記多価金属塩の付与量B(g/m)が、A/B≧50の関係を満たす、
捺染物の製造方法。
【請求項2】
前記ホワイトインクにおいて、前記白色無機顔料に対する前記樹脂粒子の質量比「樹脂粒子/白色無機顔料」が、2.5以上である、請求項1に記載の捺染物の製造方法。
【請求項3】
前記ホワイトインクは、前記樹脂粒子全量に対し、ポリエステル型ポリウレタン樹脂を50質量%以上含む、請求項1又は2に記載の捺染物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、捺染物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
織物、編み物、不織布等の布等に、文字、絵、図柄等の画像を捺染する方法として、インクジェット法を用いた捺染方法が注目されている。
【0003】
白色等の淡色の布と比較し、黒色等の濃色の布に形成した画像は視認しにくい傾向がある。特許文献1には、黒等の濃色の布に、多価金属塩を含有する前処理剤を塗布したのち、白色顔料を含むインクを印刷して白色画像を形成し、その上に所望の画像を形成する方法が記載されている。また、特許文献1には、前処理剤を塗布した後、熱処理を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-30014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
布に凝集剤を含む前処理液を付着させた後、乾燥工程を設けずに、いわゆるウェットオンウェット法でホワイトインクを付与して白色画像を形成する場合、得られた捺染物を洗濯した後に白色画像にひびが発生する場合があることがわかった。
本発明の実施形態は、洗濯した後の白色画像にひびが発生しにくい捺染物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態は、前処理液を布に付与することと、前記前処理液が付与された前記布に、ホワイトインクをインクジェット法で付与することとを含み、前記前処理液は、多価金属塩、界面活性剤、及び水を含み、前記ホワイトインクは、白色無機顔料、樹脂粒子、界面活性剤、及び水を含み、前記白色無機顔料は、前記ホワイトインク全量に対し、5.0~15.0質量%であり、前記白色無機顔料及び前記樹脂粒子の合計が、前記ホワイトインク全量に対し、20~35質量%であり、前記布に対する前記ホワイトインクの前記樹脂粒子の付与量A(g/m)、及び前記布に対する前記前処理液の前記多価金属塩の付与量B(g/m)が、A/B≧50の関係を満たす、捺染物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態によれば、洗濯した後の白色画像にひびが発生しにくい捺染物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態を詳しく説明するが、本発明がこれらの実施形態に限定されることはなく、様々な修正や変更を加えてもよいことはいうまでもない。
【0009】
一実施形態による捺染物の製造方法は、前処理液を布に付与することと、前処理液が付与された布に、ホワイトインクをインクジェット法で付与することとを含み、前処理液は、多価金属塩、界面活性剤、及び水を含み、ホワイトインクは、白色無機顔料、樹脂粒子、界面活性剤、及び水を含み、白色無機顔料は、ホワイトインク全量に対し、5.0~15.0質量%であり、白色無機顔料及び樹脂粒子の合計が、ホワイトインク全量に対し、20~35質量%であり、布に対するホワイトインクの樹脂粒子の付与量A(g/m)、及び布に対する前処理液の多価金属塩の付与量B(g/m)が、A/B≧50の関係を満たす。
この捺染物の製造方法を用いる場合、洗濯した後の白色画像にひびが発生しにくい捺染物を製造することができる。
【0010】
ウェットオンウェット法で、濃色の布に白色画像を形成する場合、ウェットオンドライ法と比べて洗濯後にひびが発生しやすい傾向がある。
理論に拘束されるものではないが、ウェットオンウェット法でひびが発生するメカニズムについては以下のように推測される。
ウェットオンウェット法では、前処理液で濡れたままの布の上に液状のホワイトインクが重ねられるため、ホワイトインクと前処理液とが混ざりやすい。このため、ホワイトインクの層の内部に前処理液の成分である多価金属塩等が混入した状態でインク皮膜が形成されやすい。また、インクの層に混入した多価金属塩は、洗濯により水に溶解し、インク皮膜から除去されやすい。多価金属塩がホワイトインクの皮膜から除去されると、ホワイトインクの皮膜には隙間が生じることで脆くなり、ひびが発生しやすくなると考えられる。
【0011】
これに対し、理論に拘束されるものではないが、一実施形態の捺染物の製造方法では、以下のような作用により、洗濯後のひびが発生しにくい捺染物を製造することができると推測される。ホワイトインクの白色無機顔料及び樹脂粒子の合計が、ホワイトインク全量に対し20~35質量%であり、ホワイトインクに固形分が多いことから、インク着弾後にインク流動性が低下しやすく、ホワイトインクと前処理液とが比較的混ざりにくくなると推測される。また、布に対するホワイトインクの樹脂粒子の、単位面積当たりの付与量A(g/m)、及び、布に対する前処理液の多価金属塩の単位面積当たりの付与量B(g/m)が、A/B≧50の関係を満たすこと、及び、白色無機顔料がホワイトインク全量に対して5.0~15.0質量%であることで、洗濯によって多価金属塩がインク皮膜から除去されたあともひびの発生を抑制し得るように、インク皮膜の強度が補強され得ると推測される。このようにして、ウェットオンウェット法の場合にも、洗濯後のひびが発生しにくい捺染物を製造することができると推測される。
【0012】
一実施形態による捺染物の製造方法は、前処理液を布に付与することと、前処理液が付与された布に、ホワイトインクをインクジェット法で付与することとを含む。
以下、布、前処理液、及びホワイトインクについて説明する。
【0013】
<布>
一実施形態の捺染物の製造方法は、布への印刷に好ましく用いることができる。
布に含まれる繊維としては、例えば、綿、絹、羊毛、麻等の天然繊維;ポリエステル、アクリル、ポリウレタン、ナイロン、レーヨン、キュプラ、アセテート等の化学繊維等を挙げることができる。布は、1種又は2種以上の繊維を含んでよい。また、布は、織物、編物、又は不織布等であってよい。
【0014】
<前処理液>
前処理液は、凝集剤として多価金属塩を含むことができる。
【0015】
多価金属塩は、2価以上の多価金属イオンとアニオンから構成される。2価以上の多価金属イオンとしては、例えば、Ca2+、Mg2+、Cu2+、Ni2+、Zn2+、Ba2+等が挙げられる。アニオンとしては、例えば、Cl、NO 、CHCOO、I、Br、SO 2-、ClO 等が挙げられる。多価金属塩として具体的には、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸銅、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム等が挙げられる。多価金属塩は、水和物であってもよく、無水和物であってもよい。
【0016】
これらの多価金属塩は、1種のみ、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
多価金属塩の含有量は、有効成分量で、前処理液全量に対し、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。一方、多価金属塩の含有量は、有効成分量で、前処理液全量に対し、40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。多価金属塩の含有量は、有効成分量で、例えば、前処理液全量に対し、10~40質量%が好ましく、15~35質量%がより好ましく、20~30質量%がさらに好ましい。
なお、多価金属塩として金属塩水和物を用いる場合は、多価金属塩の有効成分量は、無水和物に換算した量である。
【0017】
前処理液は、界面活性剤を含むことができる。界面活性剤として、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤又はこれらの組合せを好ましく用いることができ、非イオン性界面活性剤がより好ましい。また、低分子系界面活性剤、高分子系界面活性剤のいずれを用いてもよい。
【0018】
界面活性剤のHLB値は、5~20であることが好ましく、10~18であることがより好ましく、14~18であることがさらに好ましい。
【0019】
ここで、HLB値は、界面活性剤の性質を示す尺度の一つであり、分子中の親水基と親油基とのバランスを数値化したものである。HLB値は、いくつかの算出方法によって提唱されているが、本明細書において、グリフィン法によって算出される値であり、下記式(1)によって算出される。以下、界面活性剤のHLB値について同じである。
HLB値=20×(親水部の式量)/(界面活性剤の分子量)・・・式(1)
【0020】
ここで、「親水部」は、界面活性剤の分子構造中に含まれている親水性の部分を示し、好ましくは、ポリオキシアルキレン基、水酸基に対する主鎖の炭素数が3以下のアルコール基、又はこれらの組み合わせである。界面活性剤に複数の親水性の部分が含まれる場合は、上記式(1)において親水部の式量はこれらの合計量とする。
ポリオキシアルキレン基としては、ポリオキシエチレン基(ポリエチレンオキサイド;EO:-(CHCHO)-)、ポリオキシプロピレン基(ポリプロピレンオキサイド;PO:-(CHCHCHO)- ) 等が挙げられる。
また、アルコール基としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、グリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン、スクロース(ショ糖)、マンニット、グリコール類等に由来する基(例えばエタノールであれば-CHCHOH)が挙げられる。
【0021】
「疎水部」は、界面活性剤の分子構造中に含まれている疎水性の部分を示し、好ましくは、水酸基に対する主鎖の炭素数が4以上の脂肪族アルコール、アルキルフェノール、脂肪酸等に由来する脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基;有機シロキサン、ハロゲン化アルキル等に由来する基;又はこれらの組み合わせである。
【0022】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸ソルビタンエステル等のエステル型界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のエーテル型界面活性剤;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のエーテルエステル型界面活性剤;アセチレン系界面活性剤;シリコーン系界面活性剤;フッ素系界面活性剤等が挙げられる。なかでも、アセチレングリコール系界面活性剤等のアセチレン系界面活性剤を好ましく用いることができる。
【0023】
アセチレン系界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、アセチレン基を有する界面活性剤等を挙げることができる。
【0024】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、アセチレン基を有するグリコールであって、好ましくはアセチレン基が中央に位置して左右対称の構造を備えるグリコールであり、アセチレングリコールにエチレンオキサイドを付加した構造を備えてもよい。
アセチレン系界面活性剤の市販品としては、例えば、エボニックインダストリーズ社製サーフィノールシリーズ「サーフィノール104E」、「サーフィノール104H」、「サーフィノール420」、「サーフィノール440」、「サーフィノール465」、「サーフィノール485」等、日信化学工業株式会社製オルフィンシリーズ「オルフィンE1004」、「オルフィンE1010」、「オルフィンE1020」等を挙げることができる(いずれも商品名)。
【0025】
シリコーン系界面活性剤としては、例えば、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤、アルキル・アラルキル共変性シリコーン系界面活性剤、アクリルシリコーン系界面活性剤等が挙げられる。
シリコーン系界面活性剤の市販品としては、例えば、日信化学工業株式会社製の「シルフェイスSAG002」、「シルフェイス503A」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0026】
また、その他の非イオン性界面活性剤として、例えば、花王株式会社製エマルゲンシリーズ「エマルゲン102KG」、「エマルゲン103」、「エマルゲン104P」、「エマルゲン105」、「エマルゲン106」、「エマルゲン108」、「エマルゲン120」、「エマルゲン147」、「エマルゲン150」、「エマルゲン220」、「エマルゲン350」、「エマルゲン404」、「エマルゲン420」、「エマルゲン705」、「エマルゲン707」、「エマルゲン709」、「エマルゲン1108」、「エマルゲン4085」、「エマルゲン2025G」等のポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0027】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、花王株式会社製エマールシリーズ「エマール0」、「エマール10」、「エマール2F」、「エマール40」、「エマール20C」等、ネオペレックスシリーズ「ネオペレックスGS」、「ネオペレックスG-15」、「ネオペレックスG-25」、「ネオペレックスG-65」等、ペレックスシリーズ「ペレックスOT-P」、「ペレックスTR」、「ペレックスCS」、「ペレックスTA」、「ペレックスSS-L」、「ペレックスSS-H」等、デモールシリーズ「デモールN、デモールNL」、「デモールRN」、「デモールMS」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0028】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、花王株式会社製アセタミンシリーズ「アセタミン24」、「アセタミン86」等、コータミンシリーズ「コータミン24P」、コータミン86P」、「コータミン60W」、「コータミン86W」等、サニゾールシリーズ「サニゾールC」、「サニゾールB-50」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0029】
両性界面活性剤としては、例えば、花王株式会社製アンヒトールシリーズ「アンヒトール20BS」、「アンヒトール24B」、「アンヒトール86B」、「アンヒトール20YB」、「アンヒトール20N」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0030】
界面活性剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
界面活性剤の含有量は、有効成分量で、前処理液全量に対し、0.01~10質量%が好ましく、0.1~5質量%がより好ましく、0.2~3質量%がさらに好ましい。
【0032】
前処理液は、水を含むことができる。
水としては、特に制限されないが、イオン成分をできる限り含まないものが好ましい。水としては、例えば、イオン交換水、蒸留水、超純水等が挙げられる。
【0033】
水は前処理液全量に対して、20~90質量%であることが好ましく、30~70質量%であることがより好ましく、40~60質量%であることがさらに好ましい。
【0034】
前処理液は、必要に応じてその他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、例えば、水溶性有機溶剤、消泡剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤等が挙げられる。
【0035】
前処理液には、水溶性有機溶剤を配合することが好ましい。水溶性有機溶剤としては、室温で液体であり、水に溶解可能な有機化合物を使用することができ、1気圧20℃において同容量の水と均一に混合する水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、2-メチル-2-プロパノール等の低級アルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類;グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン等のグリセリン類;モノアセチン、ジアセチン等のアセチン類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類;トリエタノールアミン、1-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、β-チオジグリコール、スルホラン等を用いることができる。水溶性有機溶剤の沸点は、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましい。
【0036】
水溶性有機溶剤は、1種を単独で使用してもよく、水と単一の相を形成する限り2種以上を組み合わせて使用することもできる。水溶性有機溶剤の前処理液中の含有量は、前処理液全量に対し、5~50質量%であることが好ましく、10~35質量%であることがより好ましい。
【0037】
前処理液の製造方法は、特に限定されず、公知の方法により適宜製造することができる。例えば、スリーワンモーター等の攪拌機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等のろ過機を通すことにより得ることができる。
【0038】
前処理液のpHは、3~9が好ましく、4~8がより好ましい。
前処理液の粘度は、23℃における粘度が1~30mPa・sであることが好ましい。
【0039】
前処理液は、捺染用として好ましく用いることができる。前処理液の付与方法はとくに限定されないが、インクジェット法で付与されることが好ましい。
【0040】
<ホワイトインク>
ホワイトインクは、色材として、白色無機顔料を含む。
白色無機顔料としては、例えば、酸化チタン、亜鉛華、硫化亜鉛、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム等の無機顔料を挙げることができる。なかでも、隠蔽性の観点から、酸化チタンを用いることが好ましい。酸化チタンの平均粒子径は、隠蔽性の観点から100nm以上であることが好ましく、吐出安定性の観点から600nm以下であることが好ましい。酸化チタンを使用する場合は、光触媒作用を抑制するために、アルミナやシリカで表面処理されたものを用いることが好ましい。表面処理量は、顔料中に5~20質量%であることが好ましい。
【0041】
白色無機顔料として、自己分散性顔料を用いてもよい。自己分散性顔料は、化学的処理又は物理的処理により顔料の表面に親水性官能基が導入された顔料である。自己分散性顔料に導入させる親水性官能基としては、イオン性を有するものが好ましく、顔料表面をアニオン性又はカチオン性に帯電させることにより、静電反発力によって顔料粒子を水中に安定に分散させることができる。アニオン性官能基としては、カルボキシ基、スルホ基、スルフィノ基、硫酸エステル基、リン酸基、リン酸エステル基、亜リン酸基、亜リン酸エステル基等が好ましい。カチオン性官能基としては、第4級アンモニウム基、第4級ホスホニウム基等が好ましい。これらの親水性官能基は、顔料表面に直接結合させてもよいし、他の原子団を介して結合させてもよい。他の原子団としては、アルキレン基、フェニレン基、ナフチレン基等が挙げられるが、これらに限定されることはない。顔料表面の処理方法としては、ジアゾ化処理、スルホン化処理、次亜塩素酸処理、フミン酸処理、真空プラズマ処理等が挙げられる。
白色無機顔料として、顔料分散剤で顔料があらかじめ分散された顔料分散体を使用してもよい。後述する顔料分散剤で分散された顔料分散体を使用してもよい。
【0042】
白色無機顔料は、1種で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
白色無機顔料は、インク皮膜の強度の観点から、ホワイトインク全量に対し、5.0質量%以上であることが好ましく、5.5質量%以上であることがより好ましく、6.0質量以上であることがさらに好ましい。インク皮膜の強度の観点から、白色無機顔料は、ホワイトインク全量に対して、15.0質量%以下であることが好ましく、13.0質量%以下であることがより好ましく、11.0質量%以下であることがより好ましく、9.0質量%以下であることがさらに好ましい。白色無機顔料は、ホワイトインク全量に対して5.0~15.0質量%であることが好ましく、5.0~13.0質量%であることがより好ましく、5.5~11.0質量%であることがさらに好ましく、6.0~9.0質量%であることがさらに好ましい。
【0044】
ホワイトインク中に白色無機顔料を安定に分散させるために、高分子分散剤、界面活性剤型分散剤等に代表される顔料分散剤を用いることができる。
高分子分散剤としては、例えば、市販品として、EVONIK社製のTEGOディスパースシリーズ「TEGOディスパース740W」、「TEGOディスパース750W」、「TEGOディスパース755W」、「TEGOディスパース757W」、「TEGOディスパース760W」等、日本ルーブリゾール株式会社製のソルスパースシリーズ「ソルスパース20000」、「ソルスパース27000」、「ソルスパース41000」、「ソルスパース41090」、「ソルスパース43000」、「ソルスパース44000」、「ソルスパース46000」等、BASFジャパン株式会社製のジョンクリルシリーズ「ジョンクリル57」、「ジョンクリル60」、「ジョンクリル62」、「ジョンクリル63」、「ジョンクリル71」、「ジョンクリル501」等、ビックケミージャパン株式会社製の「DISPERBYK-102」、「DISPERBYK-185」、「DISPERBYK-190」、「DISPERBYK-193」、「DISPERBYK-199」等、第一工業製薬株式会社製の「ポリビニルピロリドンK-30」、「ポリビニルピロリドンK-90」等が挙げられる(いずれも商品名)。
界面活性剤型分散剤としては、例えば、花王株式会社製デモールシリーズ「デモールP」、「デモールEP」、「デモールN」、「デモールRN」、「デモールNL」、「デモールRNL」、「デモールT-45」等のアニオン性界面活性剤、花王株式会社製エマルゲンシリーズ「エマルゲンA-60」、「エマルゲンA-90」、「エマルゲンA-500」、「エマルゲンB-40」、「エマルゲンL-40」、「エマルゲン420」等の非イオン性界面活性剤等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0045】
顔料分散剤は、1種で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
顔料分散剤を使用する場合のホワイトインク中の量は、その種類によって異なり特に限定はされないが、一般に、有効成分の質量比で顔料1に対し、0.005~0.5が好ましい。
【0046】
ホワイトインクは、樹脂粒子を含むことができる。
【0047】
樹脂粒子は、水性溶媒中で分散可能な樹脂粒子であることが好ましい。樹脂粒子は、水中で水に溶解することなく分散して水中油(O/W)型エマルションを形成できるものであることが好ましい。
樹脂粒子は、ホワイトインクの製造に際し、水中油型樹脂エマルションとして配合することができる。
【0048】
樹脂粒子は、水に安定に分散させるために親水性基及び/又は親水性セグメントを樹脂に導入した自己乳化型の樹脂粒子でもよいし、分散剤を用いて樹脂を強制的に分散させた強制乳化型樹脂粒子でもよい。
樹脂粒子は、例えば、アニオン性、カチオン性、非イオン性、又は両性のいずれであってもよいが、アニオン性、又は非イオン性が好ましい。
【0049】
アニオン性樹脂粒子は、自己乳化型樹脂のように、樹脂が有するアニオン性官能基が樹脂粒子表面に存在するものでもよいし、樹脂粒子表面にアニオン性分散剤を付着させる等の表面処理がされたものでもよい。アニオン性の官能基としては、代表的にはカルボキシ基、スルホ基、スルフィノ基、硫酸エステル基、リン酸基、リン酸エステル基、亜リン酸基、亜リン酸エステル基等が挙げられる。アニオン性の分散剤としては、陰イオン界面活性剤等が挙げられる。
【0050】
非イオン性樹脂粒子は、自己乳化型樹脂のように、樹脂が有する非イオン性官能基が樹脂粒子表面に存在するものでもよいし、樹脂粒子表面に非イオン性分散剤を付着させる等の表面処理がされたものでもよい。非イオン性の官能基としては、代表的にはポリオキシアルキレングリコール基、ヒドロキシル基等が挙げられる。非イオン性の分散剤としては、非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0051】
樹脂粒子の平均粒子径は、インクジェット吐出性の観点から、600nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましく、400nm以下がより好ましい。例えば、樹脂粒子の平均粒子径は、10nm~600nmの範囲であってよく、50nm~500nmの範囲であってよい。インクジェット吐出性の観点から、平均粒子径100nm以上の樹脂粒子を含むことが好ましい。平均粒子径100nm以上の樹脂粒子の配合量は、インク中の樹脂粒子全量に対して、20質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましい。樹脂粒子中の平均粒子径100nm以上の樹脂粒子の割合が高いほど、構造粘性が付きにくくなる傾向にあるため、所定時間放置したあとも吐出不良が生じにくい。
【0052】
本明細書において、樹脂粒子の平均粒子径は、動的光散乱法により測定した粒度分布における体積基準のメジアン径である。樹脂粒子の粒度分布は、樹脂エマルションを樹脂粒子濃度0.5質量%となるように水で希釈した測定試料を用いて、25℃において、測定することができる。動的光散乱式粒子径分布測定装置としては、例えば、「ナノ粒子解析装置nano Partica SZ-100」(株式会社堀場製作所製)を用いることができる。
なお、樹脂粒子の平均粒子径は、インクを調製する前の原料の樹脂エマルションの状態で測定することが、色材の影響を排除できることから好ましく、その測定値を樹脂粒子の平均粒子径とすることができる。
【0053】
樹脂粒子の種類としては、例えば、
スチレン-ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体等の共役ジエン系樹脂;
アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの重合体、又はこれらとスチレン等との共重合体等のアクリル系樹脂;
エチレン-酢酸ビニル共重合体等のビニル系樹脂、
あるいはこれらの各種樹脂のカルボキシ基等の官能基含有単量体による官能基変性樹脂;
メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アルキッド樹脂等の樹脂粒子が挙げられる。これらの単独樹脂の樹脂粒子を用いてもよく、ハイブリッド型の樹脂粒子でもよい。
【0054】
樹脂粒子は、アクリル系樹脂粒子、ポリウレタン樹脂粒子、又はこれらの組合せを含むことが好ましい。
【0055】
ポリウレタン樹脂としては、脂肪族ポリウレタン及び芳香族ポリウレタンのいずれであってもよい。ポリウレタン樹脂は、ウレタン骨格を有する。ポリウレタン樹脂の例としては、例えば、ウレタン骨格以外に、主鎖にエーテル結合を含むポリエーテル型ポリウレタン樹脂、主鎖にエステル結合を含むポリエステル型ポリウレタン樹脂、主鎖にカーボネート結合を含むポリカーボネート型ポリウレタン樹脂、主鎖にエステル結合及びエーテル結合を含むポリエステル・エーテル型ポリウレタン樹脂等が挙げられる。
【0056】
樹脂粒子は、ポリウレタン樹脂を含むことが好ましい。多様な生地に対する優れた接着性という観点から、ポリエステル型ポリウレタン樹脂を含むことがより好ましい。
ポリエステル型ポリウレタン樹脂は、樹脂粒子全量に対して、10質量%以上含まれることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。ポリエステル型ポリウレタン樹脂は、例えば、樹脂粒子全量に対して、100質量%以下、又は95質量%以下であってよい。
【0057】
樹脂粒子のエマルションの市販品としては、住化コベストロウレタン株式会社製インプラニールシリーズ(DLP-R、DLU、DLF)、
第一工業製薬株式会社製のスーパーフレックスシリーズ(300、420、460、470、500M、740、150HS、E2000)、
ダイセルオルネクス株式会社のDAOTANシリーズ(TW6490/35WA、TW6492/35WA、TW6493/35WA、TW 6450/35WA、VTW6463/36WA)、
三井化学株式会社製のタケラックシリーズ(W-6061、W-6010)、
UBE株式会社製の「UW-1701F、UW-1005D-C1」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0058】
樹脂粒子は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
樹脂粒子は、ホワイトインク全量に対し、12質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、18質量%以上がさらに好ましく、21質量%以上がさらにいっそう好ましい。樹脂粒子は、ホワイトインク全量に対し、32質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、28質量%以下がさらに好ましく、26質量%以下がさらにいっそう好ましい。樹脂粒子は、ホワイトインク全量に対しは、例えば、12~32質量%が好ましく、15~30質量%がより好ましく、18~28質量%がさらに好ましく、21~26質量%がさらにいっそう好ましい。
【0059】
ホワイトインクにおいて、白色無機顔料及び樹脂粒子の合計は、ホワイトインクと前処理液を混ざりにくくし、洗濯後の白色画像のひびの発生を低減する観点から、ホワイトインク全量に対して、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、28質量%以上がさらに好ましく、30質量%以上がさらにいっそう好ましい。一方、白色無機顔料及び樹脂粒子の合計は、ホワイトインク全量に対して、35質量%以下が好ましく、32質量%以下であることがより好ましい。白色無機顔料及び樹脂粒子の合計は、例えば、ホワイトインク全量に対して、20~35質量%であることが好ましく、25~35質量%であることがより好ましく、28~32質量%であることがさらに好ましく、30~32質量%がさらにいっそう好ましい。
【0060】
インク皮膜強度をさらに向上させる観点から、ホワイトインクにおける白色無機顔料に対する樹脂粒子の質量比「樹脂粒子/白色無機顔料」は、1.2以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、2.0以上であることがさらに好ましく、2.5以上であることがさらにいっそう好ましい。白色無機顔料に対する樹脂粒子の質量比「樹脂粒子/白色無機顔料」は、例えば、5.0以下、4.5以下、又は4.0以下であってよい。ホワイトインクにおける白色無機顔料に対する樹脂粒子の質量比「樹脂粒子/白色無機顔料」は、例えば、1.2~5.0が好ましく、1.5~4.5がより好ましく、2.0~4.0がさらに好ましく、例えば、2.5~4.0であってもよい。
【0061】
ホワイトインクは、界面活性剤を含むことができる。
界面活性剤として、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤又はこれらの組合せを好ましく用いることができ、非イオン性界面活性剤がより好ましい。また、低分子系界面活性剤、高分子系界面活性剤のいずれを用いてもよい。
【0062】
界面活性剤のHLB値は、5~20であることが好ましく、10~18であることがより好ましく、10~15であることがさらに好ましい。
【0063】
例えば、前処理液とホワイトインクとをより混ざりにくくする観点から、ホワイトインク中の界面活性剤を、前処理液中の界面活性剤のHLBよりも低いHLBを有するものとしてもよい。例えば、ホワイトインクに含まれる界面活性剤のHLBを15未満とし、前処理液に含まれる界面活性剤をHLB15以上としてもよい。
【0064】
界面活性剤としては、例えば、上記した前処理液で説明したものから選択して用いることができる。なかでも、アセチレングリコール系界面活性剤等のアセチレン系界面活性剤を好ましく用いることができる。
【0065】
界面活性剤の含有量は、有効成分量で、ホワイトインク全量に対し、0.01~10質量%が好ましく、0.1~5質量%がより好ましく、0.2~3質量%がさらに好ましい。
【0066】
ホワイトインクは水を含むことができる。水としては、特に制限されないが、イオン成分をできる限り含まないものが好ましい。特に、インクの貯蔵安定性の観点から、カルシウム等の多価金属イオンの含有量が少ないことが好ましい。水としては、例えば、イオン交換水、蒸留水、超純水等を用いるとよい。
水は、インク粘度の調整の観点から、ホワイトインク全量に対して、30~70質量%で含まれることが好ましく、35~65質量%で含まれることがより好ましく、40~60質量%で含まれることがさらに好ましい。
【0067】
ホワイトインクは、必要に応じてその他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、水溶性有機溶剤、消泡剤、酸化防止剤、pH調整剤、防腐剤等が挙げられる。
【0068】
ホワイトインクには、水溶性有機溶剤を配合することが好ましい。水溶性有機溶剤としては、室温で液体であり、水に溶解可能な有機化合物を使用することができ、1気圧20℃において同容量の水と均一に混合する水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。水溶性有機溶剤の沸点は、機上安定性の観点から100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがさらに好ましく、250℃以上であることがさらにいっそう好ましい。
水溶性有機溶剤としては、例えば、上記した前処理液で説明したものから選択して用いることができる。
【0069】
水溶性有機溶剤は、1種を単独で使用してもよく、水と単一の相を形成する限り2種以上を組み合わせて使用することもできる。水溶性有機溶剤は、ホワイトインク全量に対し、5~50質量%であることが好ましく、5~40質量%であることがより好ましく、10~30質量%であることがより好ましい。
【0070】
水溶性有機溶剤は、機上安定性の観点から、質量比で樹脂粒子1に対し0.2以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましく、0.7以上であることがさらに好ましく、0.9以上であることがさらにいっそう好ましい。
【0071】
ホワイトインクの製造方法は、特に限定されず、公知の方法により適宜製造することができる。例えば、スリーワンモーター等の攪拌機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等のろ過機を通すことによりインクを得ることができる。
【0072】
ホワイトインクのpHは、インクの貯蔵安定性の観点から、7.0~10.0が好ましく、7.5~9.0がより好ましい。
ホワイトインクの粘度は、例えばインクジェット吐出性の観点から、23℃における粘度が1~30mPa・sであることが好ましい。
【0073】
ホワイトインクは、捺染用として好ましく用いることができる。
ホワイトインクは、インクジェット法によって布に付与して白色の画像を形成することができる。ホワイトインクが付与された布に、カラーインク付与して、非白色画像を形成することができる。ホワイトインクは、前処理液が付与された布に付与することが好ましい。
【0074】
<捺染物の製造方法>
一実施形態の捺染物の製造方法は、上記した前処理液を布に付与すること(以下、「前処理液付与工程」とも称する。)と、前処理液が付与された布に、上記したホワイトインクをインクジェット法で付与すること(以下、「ホワイトインク付与工程」とも称する。)とを含むことができる。布としては、上記した布を用いることができる。
【0075】
前処理液付与工程について説明する。
前処理液を布に付与する方法は特に限定されず、例えば、エアブラシ等を用いるスプレー法、浸漬法、パッド法、コーティング法等の任意の方法を用いることができ、さらにインクジェット印刷(インクジェット法)、スクリーン印刷等の各種印刷方法を用いてもよい。
インクジェット法は特に限定されず、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式などのいずれの方式であってもよい。インクジェット印刷装置を用いる場合は、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドから前処理液又はインクの液滴を吐出させ、吐出された液滴を布に付着させるようにすることが好ましい。
【0076】
前処理液を付与する領域は、ホワイトインクによる画像と同一の形状の領域であってもよいし、ホワイトインクによる画像の形状を含む広めの領域であってもよいし、布の全面であってもよい。
前処理液の付与領域、ホワイトインクの付与領域及びカラーインクの付与領域は、少なくとも部分的に重なることが好ましい。
【0077】
布への前処理液の付与量は、5~300g/mが好ましく、10~250g/mがより好ましく、15~200g/mがさらに好ましい。前処理液の付与量は布の種類によって変更してもよい。
【0078】
インク皮膜強度の向上の観点から、布に対するホワイトインクの樹脂粒子の単位面積当たりの付与量A(g/m)、及び、布に対する前処理液の多価金属塩の単位面積当たりの付与量B(g/m)は、A/B≧50の関係を満たすことが好ましい。
/Bは、60以上がより好ましく、80以上がさらに好ましく、100以上がさらに好ましく、150以上がさらに好ましい。A/Bは、例えば、3000以下、2000以下、1000以下、又は450以下であってよい。例えば、A/Bは、50~3000であることが好ましく、60~2000であることがより好ましく、80~1000であることがさらに好ましく、100~450であることがさらに好ましく、150~450であることがさらにいっそう好ましい。A/Bが3000以下の場合、ホワイトインクにカラーインクを重ねた際に、カラーインクの発色が良好である。
【0079】
布への前処理液の付与量は、布に対する前処理液の多価金属塩の付与量が、1g/m以上となる量であることが好ましく、3g/m以上となる量であることがより好ましく、6g/m以上となる量であることがさらに好ましい。布への前処理液の付与量は、布に対する前処理液の多価金属塩の付与量が、50g/m以下となる量であることが好ましく、45g/m以下となる量であることがより好ましく、40g/m以下となる量であることがさらに好ましい。布への前処理液の付与量は、布に対する前処理液の多価金属塩の付与量が、1~50g/mとなる量であることが好ましく、3~45g/mとなる量であることがより好ましく、6~40g/m以上となる量であることがさらに好ましい。
布に対する前処理液の多価金属塩の付与量は布の種類によって変更してもよい。
【0080】
ホワイトインク付与工程について説明する。
ホワイトインクは、インクジェット法で布に付与することが好ましい。インクジェット法は、特に限定されず、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式などのいずれの方式であってもよい。インクジェット印刷装置を用いる場合は、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドから前処理液又はインクの液滴を吐出させ、吐出された液滴を布に付着させるようにすることが好ましい。
【0081】
前処理液をインクジェット法で付与する場合、前処理液の付与と、ホワイトインクの付与は、別々の印刷装置で行ってもよく、1つの印刷装置を用いて行ってもよい。
【0082】
ホワイトインクは、前処理液の付与領域と、付与領域が少なくても部分的に重なるように付与することが好ましい。前処理液の付与領域とホワイトインクの付与領域は、少なくとも部分的に重なることが好ましい。
【0083】
ホワイトインクは、前処理液が付与された布に、ウェットオンウェット法で付与されてもよいし、前処理液が付与された布を乾燥してから付与されてもよい。ウェットオンウェット法では、ホワイトインクは、前処理液が付与された布から水分を完全に除去しない状態で付与されることが好ましい。好ましくは、ホワイトインクは、前処理液が付与された布が湿潤状態を保つ状態で付与され得る。例えば、前処理液を布に付与した後、加熱乾燥などの乾燥工程を行わずにホワイトインクを布に付与することが好ましい。前処理液付与後、ホワイトインク付与までの布表面の温度は、40℃以下であることが好ましく、35℃以下であることがより好ましい。前処理液付与後、布上の前処理液の揮発分の残存量が90質量%以上の状態で、ホワイトインクが付与されることが好ましい。布に前処理液を付与してからホワイトインクを付与するまでの時間は、0.1~200秒であることが好ましい。
【0084】
布へのホワイトインクの付与量は特に限定されないが、例えば、50~500g/mが好ましく、100~400g/mがより好ましい。
【0085】
布へのホワイトインクの付与量は、布に対するホワイトインクの樹脂粒子の付与量が、10g/m以上となる量であることが好ましく、20g/m以上となる量であることがより好ましく、35g/m以上となる量であることがさらに好ましい。布へのホワイトインクの付与量は、布に対するホワイトインクの樹脂粒子の付与量が、200g/m以下となる量であることが好ましく、150g/m以下となる量であることがより好ましく、100g/m以下となる量であることがさらに好ましい。布へのホワイトインクの付与量は、布に対するホワイトインクの樹脂粒子の付与量が、10~200g/mとなる量であることが好ましく、20~150g/mとなる量であることがより好ましく、35~100g/m以上となる量であることがさらに好ましい。
【0086】
捺染物の製造方法は、ホワイトインク付与工程の後に、布を熱処理する工程を設けることが好ましい。
熱処理温度は、布の材料等によって適宜選択することができる。熱処理温度は、例えば、100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましい。熱処理温度は、布へのダメージを低減する観点から、200℃以下が好ましい。
加熱装置は、特に制限されないが、例えば、ヒートプレス、ロールヒータ、温風装置、赤外線ランプヒーター等を用いることができる。
加熱処理時間は、加熱方法等に応じて適宜設定すればよく、例えば、1秒~10分が好ましく、5秒~5分がより好ましく、30秒~3分であってよい。
【0087】
捺染物の製造方法は、ホワイトインク付与工程の後に、カラーインクを付与する工程(以下、「カラーインク付与工程」とも称する。)をさらに含んでもよい。
【0088】
カラーインクとしては、マゼンタインク、シアンインク、イエローインク、ブラックインク等のホワイトインク以外のインクが挙げられる。
【0089】
カラーインクは、色材として、非白色の色材を含むことができる。非白色の色材としては、例えば、顔料、染料又はそれらの組合せを含むことができる。カラーインクは、水を含むことが好ましい。カラーインクは、その他、必要に応じて、樹脂粒子、界面活性剤、水溶性有機溶剤等を適宜含んでよい。
【0090】
カラーインクは、インクジェット法で布に付与することが好ましい。カラーインクは、ホワイトインクが付与された布に、ウェットオンウェット法で付与されてもよいし、ホワイトインクが付与された布を乾燥してから付与されてもよい。
【0091】
カラーインク付与工程の後に、布を熱処理する工程を設けてもよい。カラーインク付与工程の後に、後処理液を付与する工程を設けてもよい。例えば、カラーインク付与工程の後に、布を熱処理する工程を設け、その後に後処理液を付与してもよい。さらに、後処理液を付与したのちに、布を熱処理する工程を設けてもよい。
【0092】
本開示は、下記の実施形態を含む。
<1>
前処理液を布に付与することと、
前記前処理液が付与された前記布に、ホワイトインクをインクジェット法で付与することとを含み、
前記前処理液は、多価金属塩、界面活性剤、及び水を含み、
前記ホワイトインクは、白色無機顔料、樹脂粒子、界面活性剤、及び水を含み、前記白色無機顔料は、前記ホワイトインク全量に対し、5.0~15.0質量%であり、前記白色無機顔料及び前記樹脂粒子の合計が、前記ホワイトインク全量に対し、20~35質量%であり、
前記布に対する前記ホワイトインクの前記樹脂粒子の付与量A(g/m)、及び前記布に対する前記前処理液の前記多価金属塩の付与量B(g/m)が、A/B≧50の関係を満たす、
捺染物の製造方法。
<2>
前記ホワイトインクにおいて、前記白色無機顔料に対する前記樹脂粒子の質量比「樹脂粒子/白色無機顔料」が、2.5以上である、<1>に記載の捺染物の製造方法。
<3>
前記ホワイトインクは、前記樹脂粒子全量に対し、ポリエステル型ポリウレタン樹脂を50質量%以上含む、<1>又は<2>に記載の捺染物の製造方法。
【実施例0093】
以下、本発明の実施形態を実施例により詳細に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。
以下の説明において、特に説明のない箇所では、「%」は「質量%」を示す。
【0094】
1.前処理液の作製
表1に前処理液の処方を示す。表1に記載の配合比で原材料を混合し、孔径3μmのセルロースアセテートメンブレンフィルターでろ過し、前処理液UC1及びUC2を得た。
【0095】
表1に記載の原材料の詳細は以下の通りである。前処理液UC1及びUC2は、それぞれ、多価金属塩を有効成分量として25質量%含む。
(多価金属塩)
塩化カルシウム(無水):富士フイルム和光純薬株式会社製、純度95質量%
硝酸カルシウム四水和物:富士フイルム和光純薬株式会社製、純度98.5質量%
【0096】
(水溶性有機溶剤)
ジエチレングリコール:富士フイルム和光純薬株式会社製
【0097】
(界面活性剤)
オルフィンE1020:アセチレングリコール系界面活性剤、日信化学工業株式会社製、有効成分100質量%、HLB16
【0098】
【表1】
【0099】
2.ホワイトインクの作製
(1)白色顔料分散体の作製
白色顔料として酸化チタン「R62N」(堺化学工業株式会社製)250g、顔料分散剤として「デモールEP」(花王株式会社製)10g(有効成分で2.5g)を用い、イオン交換水740gと混合し、ビーズミル(株式会社シンマルエンタープライゼス製、DYNO-MILL KDL A型)を用いて、0.5mmΦのジルコニアビーズを充填率80%、滞留時間2分で分散し、白色顔料分散体(顔料分25質量%)を得た。
【0100】
(2)ホワイトインクの作製
表2及び3にホワイトインクW1~W10の処方を示す。表に記載の配合比で原材料を混合し、孔径3μmのセルロースアセテートメンブレンフィルターでろ過し、ホワイトインクW1~W10を得た。
【0101】
表2及び3に記載のホワイトインクW1~W10の原材料の詳細は以下の通りである。
【0102】
(顔料分散体)
白色顔料分散体:上記の方法で得られた白色顔料分散体、顔料分25質量%
【0103】
(樹脂エマルション)
スーパーフレックス740:ポリエステル型ポリウレタン樹脂エマルション、第一工業製薬株式会社製、平均粒子径170nm、樹脂分40質量%
スーパーフレックスE2000:ポリエステル型ポリウレタン樹脂エマルション、第一工業製薬株式会社製、平均粒子径588nm、樹脂分50質量%
スーパーフレックス470:ポリカーボネート型ポリウレタン樹脂エマルション、第一工業製薬株式会社製、平均粒子径108nm、樹脂分38質量%
インプラニールDLU:ポリエーテル型ポリウレタン樹脂エマルション、住化コベストロウレタン株式会社製、平均粒子径495nm、樹脂分60質量%
【0104】
上記の各樹脂エマルションの樹脂粒子の平均粒子径は、動的光散乱式粒子径分布測定装置「ナノ粒子解析装置nano Prtica SZ-100」(株式会社堀場製作所製)を用いて、各樹脂エマルションを樹脂粒子濃度0.5質量%となるように精製水で希釈して、分散媒屈折率:1.333、試料屈折率:1.600、演算条件:多分散・ナローの設定で、温度25℃で測定した体積基準のメジアン径である。
【0105】
(水溶性有機溶剤)
グリセリン:富士フイルム和光純薬株式会社製
ジエチレングリコール:富士フイルム和光純薬株式会社製
【0106】
(界面活性剤)
オルフィンE1010:アセチレングリコール系界面活性剤、日信化学工業株式会社製、有効成分100質量%、HLB13
【0107】
【表2】
【0108】
【表3】
【0109】
3.捺染物の作製
上記で作製した前処理液UC1~UC2、及びホワイトインクW1~W10を用いて、以下の手順で実施例1~9及び比較例1~7の捺染物を作製した。
表4~7に実施例1~9及び比較例1~7の捺染物の作製に用いた前処理液及びその付与量等、並びにホワイトインク及びその付与量等を示す。
黒綿Tシャツ(トムス株式会社製「Printstar」(商品名))の表面の10cm×20cmの部分に、前処理液を所定の付与量となるように、インクジェット法で付与した。前処理液付与後、乾燥工程を設けずに、前処理液を付与した部分にホワイトインクを所定の付与量となるようにインクジェット法で付与した。画像はベタ画像とした。前処理液の付与、及びホワイトインクの付与には、いずれも、印刷装置として、マスターマインド社製「MMP-8130」(商品名)を使用した。ホワイトインク付与後、FUSION社製ヒートプレス機を用いて160℃で2分間加熱乾燥し、10cm×20cmのベタ画像を有する捺染物を得た。
【0110】
4.洗濯後のひびの評価
得られた捺染物を、AATCC 61 2Aの規格で洗濯した後、画像部分のひびを以下基準で判断した。評価結果を表4~7に示す。
A:ひびが全く発生していない。
B:ひびがわずかに発生している。
C:ひびが発生しているが実使用上問題ないレベル。
D:ひびの非常に多く、実使用上問題あるレベル。
【0111】
【表4】
【0112】
【表5】
【0113】
【表6】
【0114】
【表7】
【0115】
実施例1~9は、洗濯後の白色画像のひびの発生が抑制されていた。一方、布に対するホワイトインクの樹脂粒子の付与量A(g/m)、及び布に対する前処理液の多価金属塩の付与量B(g/m)が、A/B≧50の関係を満たさない比較例1~5、及び、白色無機顔料の量が多いホワイトインク8が用いられた比較例6、ホワイトインク中の樹脂粒子及び白色無機顔料の合計が小さいホワイトインク7が用いられた比較例7では、いずれも洗濯後ひびが非常に多く、実用上問題のあるレベルだった。なお、比較例1~3及び5では、A/B≧50の関係を満たさないことに加え、いずれもホワイトインク中の樹脂粒子及び白色無機顔料の合計が小さいホワイトインクが用いられた。