IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士機械工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-グラビア印刷機等のドクター装置 図1
  • 特開-グラビア印刷機等のドクター装置 図2
  • 特開-グラビア印刷機等のドクター装置 図3
  • 特開-グラビア印刷機等のドクター装置 図4
  • 特開-グラビア印刷機等のドクター装置 図5
  • 特開-グラビア印刷機等のドクター装置 図6
  • 特開-グラビア印刷機等のドクター装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057763
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】グラビア印刷機等のドクター装置
(51)【国際特許分類】
   B41F 9/10 20060101AFI20240418BHJP
   B41F 31/20 20060101ALI20240418BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20240418BHJP
   B05C 1/08 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
B41F9/10
B41F31/20
B05C11/10
B05C1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164646
(22)【出願日】2022-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000237260
【氏名又は名称】富士機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮村 勲
(72)【発明者】
【氏名】亀井 悟
(72)【発明者】
【氏名】薄井 利周
【テーマコード(参考)】
2C034
2C250
4F040
4F042
【Fターム(参考)】
2C034CA04
2C034CA10
2C034CA12
2C250DC10
4F040AA22
4F040AB04
4F040AC01
4F040BA26
4F040CB06
4F040CB16
4F040CB33
4F042AA22
4F042AB00
4F042CC02
4F042CC07
(57)【要約】
【課題】幅広機でも、手動操作で簡単かつ高精度に調整できるドクター装置を提供する。
【解決手段】長尺なドクターブレード20を支持する長尺なブレードホルダー21、ブレードホルダー21をスライド可能な状態で支持する取付部22、および、版胴に沿って延びる支持軸24を中心に回動可能な状態で取付部22を支持する軸支部23を有するドクター作用部10aと、ドクター作用部10aを上下方向に移動させる昇降部10bと、昇降部10bの動作を補助するアシスト部10cとを備えるドクター装置10である。アシスト部10cにより、ドクター作用部10aおよび昇降部10bの双方が、所定の押上力で押し上げた状態に保持される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラビア印刷機またはグラビア塗工機に付設されて、版胴に付着する過剰なインキを掻き落とすドクター装置であって、
先端が前記版胴に接する長尺なドクターブレードと、
前記ドクターブレードを支持する長尺なブレードホルダーと、
前記ブレードホルダーをスライド可能な状態で支持する取付部と、
前記版胴に沿って延びる支持軸を中心に回動可能な状態で前記取付部を支持する軸支部と、
を有するドクター作用部と、
前記ドクター作用部を上下方向に移動させる昇降部と、
前記昇降部の動作を補助するアシスト部と、
を備え、
前記アシスト部により、前記ドクター作用部および前記昇降部の双方が、所定の押上力で押し上げた状態に保持される、ドクター装置。
【請求項2】
請求項1に記載のドクター装置において、
前記昇降部が、
上下方向に延びるラックギヤと、
前記ラックギヤと噛み合うピニオンギヤと、
前記ピニオンギヤを回転させるハンドルと、
を有し、
前記ラックギヤと前記ピニオンギヤとが常時噛み合った状態で前記ドクター作用部および前記昇降部の荷重が相殺されるように前記押上力が設定されている、ドクター装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のドクター装置において、
前記版胴の版面の幅が1300mm以上である、ドクター装置。
【請求項4】
請求項3に記載のドクター装置において、
前記インキが水性である、ドクター装置。
【請求項5】
請求項3に記載のドクター装置において、
前記グラビア印刷機または前記グラビア塗工機は、左右に対向するように配置されて前記版胴を支持する一対のサイドプレートを備え、
前記昇降部が、上下方向に移動可能な状態で前記サイドプレートの各々に架設された可動梁部を有し、
前記取付部および前記軸支部の各々が、前記支持軸に沿って所定の間隔で4つ以上設けられ、
前記ブレードホルダーが、複数の前記取付部および前記軸支部を介して前記可動梁部に支持されている、ドクター装置。
【請求項6】
請求項5に記載のドクター装置において、
前記アシスト部が、空気圧によって上下動する一対のアクチュエータを有し、
同じ流路からの所定圧の空気の分配供給により、前記一対のアクチュエータが、前記可動梁部の各端部を支持している、ドクター装置。
【請求項7】
請求項6に記載のドクター装置において、
前記一対のアクチュエータが、前記サイドプレートの各々に架設された固定梁部にスライド可能な状態で支持されるとともに、前記可動梁部が前記サイドプレートの各々に左右方向にスライド可能に架設されていて、
前記昇降部に、前記アシスト部と共に左右方向に往復動させるドクター揺動機構が設けられている、ドクター装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示する技術は、グラビア印刷機やグラビア塗工機などに付設されるドクター装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、グラビア印刷機等では、インキを版胴の外周面に形成された版面に付着させ、シートに転写することで印刷等が行われる。インキの転写量を一定にするために、グラビア印刷機等にはドクター装置が付設されている。ドクター装置は、先端が鋭利な帯板状のドクターブレードを有し、そのドクターブレードで版胴の周面に付着した過剰なインキを掻き取る。そうすることで、インキの転写量を一定にしている。
【0003】
版胴へのドクターブレードの当たりが適切でないと、版胴に付着するインキ量がばらついて、適切な印刷や塗工が行えない。従って、版胴を切り替える場合などには、その都度、ドクターブレードの版胴への当たりを調整する必要がある。しかも、ドクターブレードは細長い薄板形状であるし、摩耗によって変化するので、その当たり具合は極めて微妙である。ドクターブレードの位置調整は、繊細で熟練を要する。
【0004】
特許文献1には、そのようなドクターブレードの位置調整が、熟練を要することなく簡単にできるようにしたドクター装置が開示されている。そのドクター装置では、ドクターブレードを支持する支持軸を、モータの駆動で昇降および回転できるように構成している。そして、ロータリエンコーダにより、その昇降量および回転量を検出し、予め記憶したデータに基づいて、支持軸の変位を制御するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平5-82543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
グラビア印刷機やグラビア塗工機には、塗り幅の広い機種(幅広機)がある。幅広機の場合、ドクターブレードもそれに応じて長くなる。
【0007】
ドクターブレードが長くなると、その長手方向の剛性が低下するため、ドクターブレードの当たりの均一性を確保することが難しくなる。そのため、ドクターブレードの長手方向の剛性を高めようとすると、ドクターブレードの支持部材等の強化が必要になって大型化し、ドクター装置全体の重量が増加する。その結果、高重量なドクター装置を上下動させなければならないので、作業負担が増え、繊細な高さ調整が難しくなるという新たな課題が生じる。
【0008】
従って、幅広機の場合、特許文献1のような機械的な手段では、作業負担は低減できても、ドクターブレードの当たりを適切に調整することは、非常に難しい。
【0009】
特に、インキが水性である場合、油性のインキに比べてドクターブレードがインキを掻き取る際に受ける抵抗は大きい。その抵抗に対抗するために、ドクターブレードの当たりを強くする必要があり、ドクター装置は更に大型化、高重量になる。
【0010】
従って、機械的な手段による調整はよりいっそう難しくなる。そのため、幅広機の場合、その中でも特に水性のインキを用いる場合には、手動操作でドクターブレードの当たりを調整したいという要望がある。
【0011】
通常、ドクター装置を上下動させる手動操作は、ギヤ比によって負荷を軽減したハンドルを回転することによって行われている。従って、ドクター装置が重くなると、同じギヤ比であれば、そのハンドル操作は重くなるので、作業負担が増える。ハンドル操作を軽くするためにギヤ比を高めると、ハンドルの操作量が増えるので、これもまた作業負担が増える。
【0012】
すなわち、ドクター装置が大型化、高重量化した場合、手動操作でドクターブレードの当たりを調整するには、作業負担の増加は避けられない。
【0013】
そこで、開示する技術は、幅広機でも、手動操作で簡単かつ高精度に調整できるドクター装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
開示する技術は、グラビア印刷機またはグラビア塗工機に付設されて、版胴に付着する過剰なインキを掻き落とすドクター装置に関する。
【0015】
前記ドクター装置は、先端が前記版胴に接する長尺なドクターブレードと、前記ドクターブレードを支持する長尺なブレードホルダーと、前記ブレードホルダーをスライド可能な状態で支持する取付部と、前記版胴に沿って延びる支持軸を中心に回動可能な状態で前記取付部を支持する軸支部と、を有するドクター作用部と、前記ドクター作用部を上下方向に移動させる昇降部と、前記昇降部の動作を補助するアシスト部と、を備える。
【0016】
そして、前記アシスト部により、前記ドクター作用部および前記昇降部の双方が、所定の押上力で押し上げた状態に保持されることを特徴とする。
【0017】
すなわち、このドクター装置は、長尺な、つまり普通より長いドクターブレードと、これを支持する長尺なブレードホルダーを備える。従って、版胴へのドクターブレードの安定した当たりを確保するためには、ドクター作用部は大型化し、高重量にならざるを得ない。
【0018】
それに対し、このドクター装置には、ドクター作用部を上下方向に移動させる昇降部と、その昇降部の動作を補助するアシスト部とが備えられており、アシスト部により、ドクター作用部および昇降部の双方が、所定の押上力で押し上げた状態に保持される。それにより、高重量なドクター作用部が、それを上下動させて高さ調整を行う昇降部と共に、押上力の分だけ、これらの荷重がキャンセルされる。
【0019】
従って、ドクター作用部および昇降部の双方を、軽量化された状態で上下方向に移動させることができるので、ドクターブレードの当たりの調整作業時の操作負担が軽減される。幅広機でも、手動操作で簡単かつ高精度に調整できる。
【0020】
前記ドクター装置はまた、前記昇降部が、上下方向に延びるラックギヤと、前記ラックギヤと噛み合うピニオンギヤと、前記ピニオンギヤを回転させるハンドルと、を有し、前記ラックギヤと前記ピニオンギヤとが常時噛み合った状態で前記ドクター作用部および前記昇降部の荷重が相殺されるように前記押上力が設定されている、としてもよい。
【0021】
荷重軽減の観点からすれば、荷重がゼロになるように設定するのが最もよい。しかし、荷重がゼロになるように設定すると、ラックギヤとピニオンギヤとが噛み合わず、バックラッシュにより、耐久性が低下するおそれがある。それに対し、このように設定することで、バックラッシュを抑制できる。しかも、適度な操作感が得られるので扱い易い。
【0022】
前記ドクター装置はまた、前記版胴の版面の幅が1300mm以上である場合に好適である。
【0023】
すなわち、このような幅広機に付設する場合には、ドクター装置の高重量化は避けられないからである。
【0024】
前記インキが水性である場合には尚更である。
【0025】
この場合、上述したように、ドクターブレードを版胴に強く押し付ける必要があるので、ドクター装置が更に大型化、高重量化するからである。
【0026】
前記ドクター装置はまた、前記グラビア印刷機または前記グラビア塗工機は、左右に対向するように配置されて前記版胴を支持する一対のサイドプレートを備え、前記昇降部が、上下方向に移動可能な状態で前記サイドプレートの各々に架設された可動梁部を有し、前記取付部および前記軸支部の各々が、前記支持軸に沿って所定間隔で4つ以上設けられ、前記ブレードホルダーが、前記複数の前記取付部および前記軸支部を介して前記可動梁部に支持されている、としてもよい。
【0027】
そうすれば、長尺なドクターブレードでも、長手方向の強度および剛性を確保でき、安定して支持することができる。従って、高精度な印刷等が行える。
【0028】
前記ドクター装置はまた、前記アシスト部が、空気圧によって上下動する一対のアクチュエータを有し、同じ流路からの所定圧の空気の分配供給により、前記一対のアクチュエータが、前記可動梁部の各端部を支持している、としてもよい。
【0029】
そうすれば、簡単な構成でアシスト部を実現でき、長尺な可動梁部を、長手方向に偏ることなく、バランスよく支持できる。
【0030】
前記ドクター装置はまた、前記一対のアクチュエータが、前記サイドプレートの各々に架設された固定梁部にスライド可能な状態で支持されるとともに、前記可動梁部が前記サイドプレートの各々に左右方向にスライド可能に架設されていて、前記昇降部に、前記アシスト部と共に左右方向に往復動させるドクター揺動機構が設けられている、としてもよい。
【0031】
一般に、従来のドクター装置においても、ドクターブレードや版胴の耐久性向上等の観点から、印刷時にドクターブレードをその長手方向に所定範囲で往復動させるドクター揺動機構は設けられている。しかし、このドクター装置の場合、アシスト部が備えられいるので、ドクター揺動機構を設けるのは難しい。
【0032】
それに対し、このような構成を採用することで、アシスト部を備えたこのドクター装置においても、比較的簡単な構成で、ドクター揺動機構を実現することできる。従って、従来と同様に、ドクターブレードや版胴の耐久性向上等が図れる。
【発明の効果】
【0033】
開示する技術を適用したドクター装置によれば、ドクター装置が高重量であっても、手動操作で簡単に調整できるようになる。従って、付設するグラビア印刷機等が幅広機であっても、簡単な操作で高精度な印刷等が行える。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】開示する技術を適用したグラビア印刷機を前方から見た概略図である。
図2図1における矢印線A-Aでの概略断面図である。
図3】ドクター作用部の拡大図である。
図4】昇降部の構造を説明するための簡略図(前方から見た図)である。
図5】昇降部の構造を説明するための簡略図(上方から見た図)である。
図6】昇降部の要部を左方から見た簡略図である。
図7】アクチュエータの構造を説明するための簡略図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、開示する技術を説明する。ただし、以下の説明は本質的に例示に過ぎない。特に言及しない限り、説明で用いる上下、前後、および、左右の各方向は、図中の矢印に従う。
【0036】
<グラビア印刷機等>
図1に、グラビア印刷機1を示す。図2に、図1における矢印線A-Aでの概略断面図を示す。このグラビア印刷機1に、開示する技術を適用したドクター装置10が付設されている。なお、ドクター装置10はグラビア塗工機に付設してもよい。
【0037】
グラビア印刷機1は、版胴2、圧胴3、ファニッシャーロール4、ドクター装置10などで構成されている。グラビア印刷機1は、左右に対向するように床面に配置される一対のサイドプレート5,5を備える。これらサイドプレート5,5の間に、版胴2等が支持されている。
【0038】
版胴2は、両端に軸部を有する横長な円柱状の部材である。左右のサイドプレート5,5の上下方向および前後方向の双方における略中間部位に、軸受(不図示)が設けられている。
【0039】
版胴2は、これら軸受に着脱可能な状態で軸支され、印刷時には、図外の駆動装置によって回転駆動される。版胴2の外周面には、所定の幅で版面が形成されている。
【0040】
このグラビア印刷機1は、左右のサイドプレート5,5の間の間隔が一般的な機種よりも広い機種である(幅広機)。例示の機種では、左右のサイドプレート5,5の間の間隔は約3mである。それにより、このグラビア印刷機1では長尺な(普通よりも長い)版胴2の使用が可能である。具体的には、版面の幅が1300mm以上、更には、2000mm以上の版胴2を用いることが可能である。版胴2の外径は様々である。版胴2は、印刷条件に応じて交換される。
【0041】
ファニッシャーロール4は、横長な円柱状の部材であり、一対の揺動アーム6,6の先端に軸支されている。各揺動アーム6の基端は各サイドプレート5に軸支されている。左側のサイドプレート5には、揺動アーム6を揺動させるアーム揺動機構7が設けられている。
【0042】
このアーム揺動機構7により、ファニッシャーロール4は、図2に仮想線で示すように、版胴2に接する転写位置と、版胴2から離れる待機位置とに移動するように構成されている。印刷時には、ファニッシャーロール4は、転写位置にセットされる。そうして、ファニッシャーロール4は、不図示のインキパンからインキを受け取り、版胴2の版面にインキを転写するように構成されている。
【0043】
このグラビア印刷機1では、水性のインキを使用する。油性のインキと異なり、溶剤に有機溶媒を用いない。開示する技術は、水性のインキを使用する機種に好適であるが、油性のインキを使用する機種を排除するものではない。
【0044】
圧胴3も、両端に軸を有する横長な円柱状の部材である。圧胴3は、版胴2の上方に昇降可能な状態で軸支されている。印刷時には、図2に仮想線で示すように、搬送されるウェブW(印刷対象)を巻き掛けた状態で圧胴3が降下し、回転する版胴2と圧胴3で、そのウェブWを挟持する。そうすることにより、グラビア印刷機1は、版胴2の版面のインキをウェブWに転写し、搬送されるウェブWに連続して印刷するように構成されている。
【0045】
版胴2の版面には、ファニッシャーロール4から多量のインキが転写される。そのため、ドクター装置10が有するドクターブレード20により、版胴2に付着する過剰なインキを掻き落とす。ドクターブレード20の当たりが悪いと、インキの付着量がばらついて適切な印刷を安定して行えない。従って、版胴2の交換時はもとより、印刷の実行中においても、版胴2からウェブWに転写されるインキが適量となるように、ドクター装置10は、適宜、調整が必要である。
【0046】
しかし、上述したように、このグラビア印刷機1は、従来機よりも横幅の広い幅広機である。従って、ドクター装置10の横幅もそれに応じて広くなる。例えば、例示の機種の場合、後述するドクターホルダーの全長は2000mm以上2700mm以下である。
【0047】
長尺なドクターブレード20を強固かつ安定して支持するために、ドクター装置10は、大型化し、その重量も増加している。しかも、このグラビア印刷機1は水性のインキを使用する。水性のインキは油性のインキに比べてドクターブレード20がインキを掻き取る際に受ける抵抗が大きいので、ドクターブレード20の当たりを強くする必要がある。従って、ドクター装置10は、更に大型化し、高重量になっている。
【0048】
そのため、手動操作だけの調整では作業負担が大きいし、機械的な手段だけでは、ドクターブレード20の当たりを適切に調整するのが難しい。そこで、このドクター装置10では、高重量であっても、手動操作で簡単に調整できるように工夫されている。
【0049】
(ドクター装置)
図1図2に示すように、ドクター装置10は、大略、版胴2に直接作用するドクター作用部10aと、ドクター作用部10aを上下方向に移動させる昇降部10bと、昇降部10bの動作を補助するアシスト部10cとで構成されている。昇降部10bおよびアシスト部10cは、カバー11~13で覆われている。
【0050】
図3に、ドクター作用部10aを拡大して示す。ドクター作用部10aは、ドクターブレード20、ブレードホルダー21、複数(4つ)の取付部22、複数(5つ)の軸支部23などで構成されている。
【0051】
ドクターブレード20は、長尺な帯状の金属薄板などからなる。その全長は、版面の横幅が1300mmの版胴2であれば、それに対応して1300mmよりも長くなる。
【0052】
ブレードホルダー21は、左右方向に延びる長尺な金属部材からなり、幅広機の横幅に対応した長さを有している。ブレードホルダー21は、その先端部分にドクターブレード20を挟み込む挟持部21aを有している。その挟持部21aにより、ドクターブレード20は、その先端を版胴2に向けて突出させた状態で挟持される。
【0053】
取付部22は、ドクター作用部10aに4つある。これら取付部22は、図1に示すように、ブレードホルダー21の長手方向に所定の間隔を空けて配置されている。ブレードホルダー21は、図3に矢印Y1で示すように、これら取付部22にスライド可能な状態で支持されている。
【0054】
左右両端に位置する2つの取付部22,22の基端部分には、ブレードホルダー21をスライドさせる第1ハンドル22aが設置されている。これら第1ハンドル22a,22aの各々を操作することにより、長尺なドクターブレード20の先端を前後方向にスライドさせたり左右方向に傾動させたりすることができる。
【0055】
各取付部22の下側にはフランジ部22bが一体に設けられている。各フランジ部22bには、左右方向に貫通した軸孔が形成されている。これら軸孔に、版胴2に沿って左右方向に延びる支持軸24が挿通されている。それにより、各取付部22は、支持軸24を中心に回動可能な状態で支持軸24に支持されている。
【0056】
支持軸24にはまた、各取付部22を所定の圧力で回動させる加圧部25が組み付けられている。加圧部25は、図1に示すように、各取付部22に対応して4つ設置されている。加圧部25は、各取付部22に隣接して左右対称状に配置されている。加圧部25は、スライドアーム25a、押出シリンダ25b、リンクアーム25c、固着ボス25dなどで構成されている。
【0057】
スライドアーム25aは、その一端がブレードホルダー21の基端部分に連結され、その他端が押出シリンダ25bのロッドに連結されている。リンクアーム25cは、その一端が固着ボス25dに連結され、その他端が押出シリンダ25bの本体に連結されている。固着ボス25dは、支持軸24に固着されている。
【0058】
グラビア印刷機1には、図示はしないが、加圧された空気を供給するエア供給機構が付設されている。そのエア供給機構から押出シリンダ25bに所定圧に調整した空気を供給することで、取付部22は支持軸24回りに回動する。従って、印刷時には、その空気圧を調整することで、ドクターブレード20の先端を所定の圧力で版胴2に押し付けることができる。
【0059】
ドクター作用部10aの左端部には、支持軸24を回動させる第2ハンドル26が設置されている。第2ハンドル26を操作することにより、支持軸24および各加圧部25が回動する。それに伴い、支持軸24を中心にブレードホルダー21を回動させることができる。
【0060】
支持軸24は軸支部23によって軸支されている。各軸支部23は、支持軸24が挿通される円筒状の回動ボス23aと、回動ボス23aを突端に有する円柱状のピラー23bとを有している。各ピラー23bの基部は、後述する可動梁部30の上面に固定されている。軸支部23は、図1に示すように、ドクター作用部10aに5つあり、ブレードホルダー21の長手方向に所定の間隔を空けて配置されている。
【0061】
このように、ブレードホルダー21は、その長手方向に沿って延びる支持軸24に間隔を空けて軸支された複数の取付部22および軸支部23を介して可動梁部30に支持されている。従って、長尺なドクターブレード20でも、高い強度および剛性が得られるので、撓んだり位置ずれしたりすることなく、位置決めした状態で安定して支持できる。
【0062】
取付部22や加圧部25を長手方向に分散して配置してあるので、ドクターブレード20の長手方向の全域で押圧や位置ずれをバランスよく微調整できる。
【0063】
このようにドクター作用部10aを大型化したことにより、長尺なドクターブレード20を強固かつ安定して支持できるが、それと共にドクター作用部10aの重量は増加する。しかも、このグラビア印刷機1は水性のインキを使用するので、加圧部25も大型化し、更に高重量になっている。
【0064】
モータの駆動力等を用いれば、ドクター作用部10aが高重量でも簡単に上下動できる。しかし、更に大掛かりな駆動機構が必要になり、部材コストも高額になる。しかも、長尺なドクターブレード20を精度高く調整することは難しいため、従来通り、手動操作によってドクターブレード20の当たりを調整したいという要望がある。
【0065】
それに対し、通常、ドクター装置10を上下動させる手動操作は、ギヤ比の変速によって負荷を軽減したハンドルを回転することによって行われている。そのため、ドクター作用部10aが重くなると、そのハンドル操作は重くなり、作業負担が増える。ハンドル操作を軽くするためにギヤ比を高めると、ハンドルの操作量が増えるので、これもまた作業負担が増える。
【0066】
そこで、このドクター装置10には、手動操作によってドクター作用部10aを上下方向に移動させる昇降部10bと、昇降部10bの動作を補助するアシスト部10cとが備えられていて、アシスト部10cにより、ドクター作用部10aおよび昇降部10bの双方が、従来のハンドル操作で上下方向に移動できるように、所定の押上力で押し上げた状態に保持されるように構成されている。
【0067】
(昇降部)
昇降部10bは、ハンドル操作によってドクター作用部10aの上下方向の移動を可能にする昇降機構と、アシスト部10cと共にドクター作用部10aを左右方向に所定の範囲で往復動させるドクター揺動機構とを有している。なお、ドクター揺動機構は従来機にも設けられている。印刷時にドクター作用部10aを左右方向に揺動させることで、ドクターブレード20や版胴2の摩耗の偏りを抑制できる。
【0068】
図1に示すように、昇降部10bは、上下方向に移動可能かつ左右方向にスライド可能な状態で左右のサイドプレート5,5の各々に架設された可動梁部30を有している。昇降部10bは、一対のサイドカバー11,11およびビームカバー12によって覆われている。
【0069】
図4図6に、昇降部10bの構造を簡略化して示す。図4は、昇降部10bを前方から見た図である。図5は、昇降部10bを上方から見た図である。図6は、昇降部10bの要部を左方から見た図である。
【0070】
左右のサイドプレート5,5の各々には、上下に間隔を空けて配置された一対のリニアボールベアリング5a,5aが、互いに左右方向に対向した状態で設けられている。これらリニアボールベアリング5a,5aの各々に、スライドシャフト31が、左右方向にスライド可能な状態で軸支されている。
【0071】
サイドプレート5の内側に突出した各スライドシャフト31の突端には、取付フランジ31aが設けられている。上下方向に並ぶ2つの取付フランジ31a,31aに矩形板状のスイングベース32が取り付けられている。
【0072】
右側のサイドプレート5の上下のリニアボールベアリング5a,5aの間には、左右方向に貫通したスイングホール5bが形成されている。スイングホール5bには、ドクター揺動機構を構成するスイングシャフト61が挿通されている(スイングシャフト61の詳細は後述)。
【0073】
可動梁部30は、左右方向に対向している一対のスイングベース32,32の間に、スライドガイド33を介して設けられている。各スライドガイド33は、ガイドレール33aと、ガイドレール33aを上下方向にスライド自在な状態で支持するガイドシュー33bとで構成されている。
【0074】
可動梁部30は、複数のプレートで構成された横長な中空角柱状の部材からなる。上述したように、ドクター作用部10aの各軸支部23は、その上面に固定されている。従って、ドクター作用部10aは可動梁部30と一体化されている。
【0075】
可動梁部30は、その両端部に、各スイングベース32と対向するスライドベース34を有している。各スライドベース34にガイドシュー33bが固定され、各スイングベース32に各ガイドレール33aが固定されている。従って、可動梁部30は、一対のスライドベース34,34に対して上下方向にスライド可能な状態で連結されている。
【0076】
可動梁部30には、昇降シャフト35、一対の軸受部36,36、一対のラックギヤ37,37、一対のピニオンギヤ38,38、ウォームシャフト39、ウォームホイール40、第3ハンドル41などが設けられている。昇降シャフト35は、可動梁部30の内部を左右方向に延びており、その両端部がベアリングを介して各軸受部36によって軸支されている。
【0077】
図5図6に示すように、各軸受部36から突出した昇降シャフト35の突端に、各ピニオンギヤ38が固定されている。各スイングベース32の後縁部には、可動梁部30の側に張り出す片持ちプレート32aが取り付けられている。これら片持ちプレート32aの突端に、上下方向に延びて各ピニオンギヤ38と噛み合うラックギヤ37が取り付けられている。
【0078】
昇降シャフト35の突端の左側には、ピニオンギヤ38に隣接するようにウォームホイール40が固定されている。ウォームホイール40は、ピニオンギヤ38よりも大径であり、そのギヤ比は、従来機と同じ所定の値に設定されている。
【0079】
先端部分にウォームが形成されているウォームシャフト39が、回転可能な状態で可動梁部30の左端部に設置されている。ウォームシャフト39は前後方向に延びていて、そのウォームは、ウォームホイール40と噛み合うように構成されている。
【0080】
可動梁部30よりも前方に突出したウォームシャフト39に第3ハンドル41が取り付けられている。従って、第3ハンドル41を操作することにより、ウォームホイール40とともに昇降シャフト35が回転する。それに伴ってピニオンギヤ38が回転し、ラックギヤ37に沿って可動梁部30は上下方向に移動する。
【0081】
上述した昇降機構は、昇降シャフト35、ラックギヤ37、ピニオンギヤ38、ウォームシャフト39、ウォームホイール40、第3ハンドル41等によって構成されている。
【0082】
(アシスト部)
昇降機構のギヤ比は従来機と同じであるため、そのままでは第3ハンドル41の操作は重くなる。そこで、上述したように、アシスト部10cがドクター作用部10aおよび昇降部10b(厳密には可動梁部30)の双方を所定の押上力で押し上げた状態に保持し、第3ハンドル41の操作が従来と同様に行えるようにしている。
【0083】
押上力は、ラックギヤ37とピニオンギヤ38とが常時噛み合った状態でドクター作用部10aおよび昇降部10bの荷重が相殺されるように設定するのが好ましい。すなわち、ドクター作用部10aおよび昇降部10bの荷重を完全に相殺する、つまり荷重がゼロの押上力に設定するのではなく、僅かに押上力の方が小さくなるように設定する。
【0084】
荷重がゼロになるように設定すると、ラックギヤ37とピニオンギヤ38とが噛み合わず、バックラッシュにより、耐久性が低下するおそれがある。それに対し、このように設定することで、バックラッシュを抑制できるし、適度な操作感が得られるので扱い易い。
【0085】
僅かに押上力の方が大きくなるように設定してもよい。ただし、押上力を小さくするよりも安定性に欠ける。
【0086】
図1図2に示すように、左右のサイドプレート5,5の下端部の間には、角柱状の固定梁部8が架設されている。そして、この固定梁部8の上に、アシスト部10cが昇降カバー13で覆われた状態で設置されている。
【0087】
アシスト部10cは、左右に離れて位置する一対のアクチュエータ50,50を有し、これら一対のアクチュエータ50,50により、可動梁部30の各端部を支持している。各アクチュエータ50は、可動梁部30の前側に隣接するように配置されている。アクチュエータ50が位置している固定梁部8の下側には、床面に載置されて固定梁部8を下方から支持する一対のジャッキ台51,51が設けられている。
【0088】
図7に、各アクチュエータ50の構造を示す。アクチュエータ50は、支持台52、スライドブロック53、一対のガイドシャフト54,54、ピストン55、ピストンロッド56などで構成されている。支持台52は、固定梁部8の上面に取り付けられている(支持台52の詳細は後述)。
【0089】
一対のガイドシャフト54,54は、支持台52の上に設けられていて、左右方向の離れた位置から上方に延びている。支持台52の上にはまた、ピストンロッド56が、これらガイドシャフト54の間を平行して延びるように設けられている。
【0090】
スライドブロック53は、角柱状の部材からなり、一対のガイド孔53a,53aと上部が封止された円筒状のシリンダ部53bとが形成されている。ガイド孔53aの各々に各ガイドシャフト54がスライド自在な状態で挿通されている。シリンダ部53bには、ピストン55が摺動自在な状態で挿嵌されている。このピストン55にピストンロッド56の突端が連結されている。
【0091】
各スライドブロック53には、エア導入口57が設けられている。これらのエア導入口57は、シリンダ部53bに形成される密閉空間に連通するとともに、共通のエア流路58から分岐した一対の分岐流路59,59に接続されている。ドクター装置10の使用時には、エア供給機構から加圧された空気がエア流路58に供給されるように構成されている。
【0092】
エア流路58には、所定の調圧弁60が設けられている。調圧弁60により、予め設定された所定圧の空気が各分岐流路59およびエア導入口57を通じて各スライドブロック53の密閉空間に分配供給される。従って、左右のアクチュエータ50には、常に同じ空気圧が供給されて同じ押圧力が作用する。両アクチュエータ50は同期して作動するので、横幅が広い可動梁部30でもバランスよく上下動させることができる。
【0093】
(ドクター揺動機構)
上述したように、このドクター装置10も、従来機と同様に、ドクター揺動機構を有している。ただし、このドクター装置10はアシスト部10cを備えているので、昇降部10bには、アシスト部10cと共にドクター作用部10aを、左右方向に所定の範囲で往復動させるドクター揺動機構が設けられている。
【0094】
まず、アシスト部10cの各アクチュエータ50は、固定梁部8にスライド可能な状態で支持されている。具体的には、図7に示すように、支持台52が、一対の支持ベース52a,52a、スライドレール52b、スライドシュー52c、複数のスライドローラ52dなどで構成されている。
【0095】
一対の支持ベース52a,52aは、上下に対向して配置されている。下側の支持ベース52aに、スライドレール52bが左右方向に延びた状態で固定されている。上側の支持ベース52aに、スライドレール52bに嵌合した状態でスライドシュー52cが固定されている。
【0096】
上側の支持ベース52aにはまた、スライドシュー52cの両側に複数のスライドローラ52dが取り付けられていて、これらスライドローラ52dは、下側の支持ベース52aの上面に接して転がるように構成されている。そして、下側の支持ベース52aが固定梁部8の上面に固定され、上側の支持ベース52aの上面にアクチュエータ50が取り付けられている。従って、各アクチュエータ50は、左右方向に所定の範囲でスライド可能な状態で支持されている。
【0097】
上述したように、右側のサイドプレート5の上下のリニアボールベアリング5aの間には、左右方向に貫通したスイングホール5bが形成されていて、そのスイングホール5bにスイングシャフト61が挿通されている(図4参照)。
【0098】
図1に示すように、右側のサイドプレート5の外側には、スイングシャフト61を所定の範囲で左右方向に往復動させる揺動装置9が設置されている。スイングシャフト61の各端部は、リンクボール61aを介して揺動装置9およびスイングベース32の各々に連結されている。
【0099】
従って、揺動装置9が作動すると、スイングシャフト61は左右方向に往復動する。それに伴い可動梁部30もドクター作用部10aと共に左右方向に往復動する。各アクチュエータ50も往復動する。ドクターブレード20の位置調整により、可動梁部30の位置が上下方向に変化しても、スイングシャフト61の両端部がリンクボール61aで連結されているので、それに応じてスイングシャフト61が傾斜した状態で往復動できる。
【0100】
ドクター揺動機構は、上述したように、揺動装置9、スイングシャフト61、支持台52等で構成されている。
【0101】
このように、このドクター装置10によれば、長尺なドクターブレード20を使用する幅広機に付設した場合であっても、従来機と同様の手動操作でドクターブレード20の当たりの調整が行える。しかも、ドクターブレード20を強固かつ安定して支持できるので、高精度な印刷が行える。
【0102】
なお、開示する技術は、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。例えば、実施形態では水性のインキを用いるグラビア印刷機1を示したが、油性のインキを用いる機種であってもよい。アクチュエータ50は、2つに限らず3つ以上であってもよい。軸支部23等の個数も、一例であり、仕様に応じて変更できる。
【符号の説明】
【0103】
1 グラビア印刷機
2 版胴
3 圧胴
4 ファニッシャーロール
5 サイドプレート
8 固定梁部
9 揺動装置
10 ドクター装置
10a ドクター作用部
10b 昇降部
10c アシスト部
20 ドクターブレード
21 ブレードホルダー
22 取付部
22a 第1ハンドル
23 軸支部
24 支持軸
25 加圧部
30 可動梁部
31 スライドシャフト
32 スイングベース
33 スライドガイド
34 スライドベース
35 昇降シャフト
36 軸受部
37 ラックギヤ
38 ピニオンギヤ
39 ウォームシャフト
40 ウォームホイール
41 第3ハンドル
50 アクチュエータ
52 支持台
53 スライドブロック
54 ガイドシャフト
55 ピストン
56 ピストンロッド
57 エア導入口
58 エア流路
59 分岐流路
60 調圧弁
61 スイングシャフト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7