(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057766
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】バルブステムシール用の密封装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3204 20160101AFI20240418BHJP
F16J 15/3212 20160101ALI20240418BHJP
F16J 15/3276 20160101ALI20240418BHJP
【FI】
F16J15/3204 101
F16J15/3212
F16J15/3276
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164650
(22)【出願日】2022-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100189289
【弁理士】
【氏名又は名称】北尾 拓洋
(72)【発明者】
【氏名】宮川 佳奈
(72)【発明者】
【氏名】稀代 昌道
【テーマコード(参考)】
3J006
3J043
【Fターム(参考)】
3J006AB13
3J006AE30
3J006AE38
3J006AE41
3J006CA01
3J043AA01
3J043CA05
3J043CB13
3J043DA03
3J043DA09
3J043HA01
(57)【要約】
【課題】既存のバルブステムシール用の密封装置の構成を流用できるとともに初期設定がユーザフレンドリーなバルブステムシール用の密封装置を実現する。
【解決手段】バルブステムガイド105およびバルブステム104を覆ってその間の隙間を封止する弾性材料からなるシール部材2と、シール部材2に一体的に成形されてシール部材2を支持する剛体材料からなる補強部材3と、これら2つの部材を取り囲み軸方向に延びる中空の外郭部材4であって、バルブスプリングの端部が当接してそのバネ付勢力を受ける台座部分を端部に有する外郭部材4と、外郭部材4と、シール部材2および補強部材3との間に配設されて、外郭部材4を、補強部材3およびシール部材2に接合する、ゴム材料からなるゴム層1と、を備え、封止された隙間の内部空間の圧力でシール部材が抜けることを阻害するストッパ機構を有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸形状を有し軸方向に往復動する、吸気/排気バルブのバルブステムと、筒形状を有し前記バルブステムを内側に挿通させて前記軸方向の往復動自在に支持するバルブステムガイドと、の間の隙間を封止するバルブステムシール用の密封装置において、
前記バルブステムガイドの一端部、および、該一端部の開口から突出した前記バルブステムを覆って前記隙間を封止する、弾性材料からなるシール部材と、
前記シール部材に一体的に成形されて該シール部材を支持する、剛体材料からなる補強部材と、
前記シール部材および前記補強部材を取り囲み前記軸方向に延びる中空の外郭部材であって、前記バルブステムが前記開口から突出する突出方向とは反対方向の側の端部に、該外郭部材の周りでらせん状に延びるバルブスプリングの前記反対方向の側の端部が当接して前記バルブスプリングから前記反対方向向きのバネ付勢力を受ける台座部分を有する外郭部材と、
前記外郭部材と、前記シール部材および前記補強部材との間に配設されて、前記外郭部材を、前記補強部材および前記シール部材に接合する、ゴム材料からなるゴム層と、を備え、
封止された前記隙間の内部空間の圧力により前記隙間を封止するシール部材が前記突出方向に抜けることを阻害するストッパ機構を有するものであるバルブステムシール用の密封装置。
【請求項2】
前記シール部材は、前記バルブステムガイドの前記一端部の端面における、前記バルブステムガイドの外周面と前記バルブステムの外周面との間の段差に対応した折れ曲がり形状を持つ折れ曲がり部を有するものであり、
前記補強部材は、前記バルブステムの外周面に沿って延び、前記バルブステムガイドの前記一端部を覆っている部分のシール部材を該シール部材の外周面側から支持する、環形状の環状部と、該環状部の前記突出方向の側の端部から屈曲して前記シール部材の前記折れ曲がり部の内部に入り込んで前記バルブステムに向かって延び前記折れ曲がり部を前記内部から支持する屈曲部と、を有するものであり、
前記外郭部材は、剛体材料から一体的に形成されたものであって、前記バルブステムに沿って広がる筒形状の筒状部と、該筒状部の前記突出方向の側の端部に接続し前記シール部材の前記折れ曲がり部に沿って前記突出方向の側の前記端部から前記バルブステムに向かって延びて前記ストッパ機構の役割を果たす内向きフランジ部と、前記筒状部の前記反対方向の側の端部に接続し前記バルブステムから遠ざかる方向に向かって前記反対方向の側の前記端部から延びて前記台座部分の役割を果たす外向きフランジ部と、を有するものであり、
前記ゴム層は、前記外郭部材の前記内向きフランジ部と前記シール部材の前記折れ曲がり部との間に配設されて前記内向きフランジ部と前記折れ曲がり部とを接合する第1ゴム層と、前記外郭部材の前記筒状部と前記補強部材の前記環状部との間に配設され前記筒状部と前記環状部とを接合する第2ゴム層と、を有するものである請求項1記載のバルブステムシール用の密封装置。
【請求項3】
前記ゴム層の前記第2ゴム層は、前記補強部材の前記環状部の、前記反対方向を向いた端面まで延びているものであり、前記ゴム層がさらに、前記第2ゴム層の前記反対方向の側の端部に接続し前記補強部材の前記環状部の前記端面を覆いつつ前記バルブステムガイドの外周面に向かって突出した凸部を有するものである請求項2記載のバルブステムシール用の密封装置。
【請求項4】
前記ゴム層は、前記第1ゴム層の、前記バルブステムの側の端部に接続し、前記外郭部材の前記内向きフランジ部の、前記バルブステムの側を向いた端面を覆うとともに、該内向きフランジ部の前記突出方向を向いた上面を覆う第3ゴム層を有するものである請求項2又は3に記載のバルブステムシール用の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸気/排気バルブのバルブステムとバルブステムガイドとの間の隙間を封止するバルブステムシール用の密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
軸形状を有し軸方向に往復動する、吸気/排気バルブのバルブステムと、筒形状を有しバルブステムを内側に挿通させて軸方向の往復動自在に支持するバルブステムガイドと、の間の隙間を封止するバルブステムシール用の密封装置が従来から知られている。以下では、従来のバルブステムシール用の密封装置について説明する。
【0003】
図1は、従来のバルブステムシール用の密封装置10Aを備えた吸気/排気バルブ100の模式的な断面図である。
【0004】
吸気/排気バルブ100は、自動車等の内燃機関のシリンダヘッド101に備えられた弁であり、カムシャフト107aの駆動により回転するカム107からリフタ108を介して押圧力を受けて吸気/排気ポート102の閉鎖・開放を切り換える。吸気/排気バルブ100は、弁本体103、バルブステム104、バルブステムガイド105、バルブスプリング106、および、従来のバルブステムシール用の密封装置10Aを備えている。
【0005】
弁本体103は、弁座102aに当接・離間して吸気/排気ポート102の閉鎖・開放の切り換えを実行する部材である。バルブステム104は軸形状を有する部材であって端部で弁本体103と一体化されており、吸気/排気ポート102の閉鎖・開放の切り換えの際に弁本体103とともに軸方向に往復動する。バルブステムガイド105は、シリンダヘッド101に形成された貫通孔に挿入された筒形状の部材であり、その一端部はシリンダヘッド101から(正確にはシリンダヘッド101に形成された貫通孔から)突出している。バルブステムガイド105は、バルブステム104を内側に挿通させて軸方向の往復動自在に支持している。バルブスプリング106は、リテーナ等のいくつかの部材を介してリフタ108に間接的に接続されており、カム107とリフタ108の当接状態を維持しつつバルブステム104と弁本体103の往復動を滑らかに実現するためのバネ付勢力を与える部材である。バルブスプリング106の、リフタ108の側とは反対側の端部は、シリンダヘッド101に固定されたスプリングシート109に当接しており、スプリングシート109は、バルブスプリング106の台座となってバルブスプリング106を支持している。ここで、バルブスプリング106は、常に自然長よりも短い状態となっており、このため、リフタ108を
図1の上方へ押し上げ、スプリングシート109を
図1の下方へ押し下げるバネ付勢力が常に発生するようになっている。以下、従来のバルブステムシール用の密封装置10Aについて説明する。
【0006】
図2は、
図1の従来のバルブステムシール用の密封装置10Aの構成を表す模式的な断面図である。
【0007】
従来のバルブステムシール用の密封装置10Aでは、シール部材2が、バルブステムガイド105の一端部、および、その一端部の開口から突出したバルブステム104を覆って、バルブステムガイド105とバルブステム104の間の隙間Gを封止している。補強部材3は、シール部材2に一体的に成形されてシール部材2を支持している。バルブステムガイド105の周囲には、オイルを蓄える油室Oが形成されており(
図1参照)、従来のバルブステムシール用の密封装置10Aの存在により、油室O内のオイルが隙間Gから漏洩するのが抑制される。
【0008】
近年では、低燃費の内燃機関への要請の高まりとともに、内燃機関の小型化や高出力化が進み、これに伴い、吸気/排気ポートの空間が高圧化する傾向が強まっている。このため、吸気/排気ポートと連通する、バルブステムガイドとバルブステムの間の隙間を封止するバルブステムシール用の密封装置に対しても、こうした高背圧に十分に耐え得る構成が求められるようになっている。こうした要請を受けて、バルブステムシール用の密封装置の中には、
図2の補強部材3の図の下端部を延長してスプリングシート109と一体化させることでスプリングシート109の役割を補強部材3が果たすように改良した密封装置が提案されている(特許文献1~3参照)。
図1で上述したように、バルブスプリング106によりスプリングシート109を図の下方向へ押し下げるバネ付勢力が発生するため、仮に補強部材3とスプリングシート109とが一体化した場合には、補強部材3を下方向へ押さえつける力が働くことになる。ここで、補強部材3はシール部材2と一体的に成形されているため、上記の押さえつける力は、隙間Gを封止しているシール部材2が上述の高背圧でバルブステム104の突出方向(図の上方向)に抜けるのを抑える力として作用することとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010-242823号公報
【特許文献2】特開2004-176881号公報
【特許文献3】特開2009-257509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、補強部材とスプリングシートとが一体化している場合、上述の高背圧は、シール部材を支持している補強部材からシール部材を無理に引き離そうとする形で作用するため、シール部材の損傷や、シール部材と補強部材との間の乖離が進むおそれがある。こうした事態を避けるため、補強部材とスプリングシートとを一体化させる代わりに、補強部材とは別体の外郭部材を別途設けて、この外郭部材に、シール部材を押さえつけてシール部材が高背圧で抜けるのを抑える役割とスプリングシートの役割との両方を担わせることが考えられる。
【0011】
図3は、補強部材3とは別体の外郭部材4を備えたバルブステムシール用の密封装置10Bの構成を表す模式的な断面図である。
【0012】
図3において、
図2と同じ構成要素については、同一の符号を付すこととし、その重複説明は省略する。
図3の構成では、
図2の構成におけるスプリングシート109が存在しない代わりに、新たな構成要素として外郭部材4が加わっている。外郭部材4は、シール部材2および補強部材3を取り囲み軸方向(図の上下方向)に延びる中空の部材である。外郭部材4は、図の上方向の側の端部に、シール部材2が上述の高背圧で図の上方向に抜けることを阻害する内向きフランジ部41を有しており、図の下方向の側の端部にバルブスプリング106が当接する台座部分43も有している。このような構成では、台座部分43が受けるバネ付勢力でシリンダヘッド101に押さえつけられている外郭部材4が、内向きフランジ部41により、図の上方向へのシール部材2の抜けを阻害することとなる。簡単に言えば、外郭部材4は、単に図の上方向からシール部材2を押さえているにすぎず、このため、補強部材とスプリングシートとが一体化している場合のようなシール部材2の損傷や乖離の問題は回避されている。
【0013】
ここで、
図2の従来のバルブステムシール用の密封装置10Aと同じタイプのバルブステムシール用の密封装置は広く普及しており、
図3のバルブステムシール用の密封装置10Bでは、こうした既存のバルブステムシール用の密封装置の構成をそのまま流用できる点でも好ましい。しかしながら、バルブステムシール用の密封装置10Bのユーザは、その使用を開始するための初期設定として、前もって、
図2の従来のバルブステムシール用の密封装置10Aと外郭部材4とを組み付ける作業を行うことが必要となり、初期設定がユーザフレンドリーとは言い難い面がある。
【0014】
上記の事情を鑑み、本発明では、既存のバルブステムシール用の密封装置の構成を流用できるとともに初期設定がユーザフレンドリーなバルブステムシール用の密封装置の実現を図っている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述の課題を解決するため、本発明は、以下の密封装置を提供する。
【0016】
[1] 軸形状を有し軸方向に往復動する、吸気/排気バルブのバルブステムと、筒形状を有し前記バルブステムを内側に挿通させて前記軸方向の往復動自在に支持するバルブステムガイドと、の間の隙間を封止するバルブステムシール用の密封装置において、
前記バルブステムガイドの一端部、および、該一端部の開口から突出した前記バルブステムを覆って前記隙間を封止する、弾性材料からなるシール部材と、
前記シール部材に一体的に成形されて該シール部材を支持する、剛体材料からなる補強部材と、
前記シール部材および前記補強部材を取り囲み前記軸方向に延びる中空の外郭部材であって、前記バルブステムが前記開口から突出する突出方向とは反対方向の側の端部に、該外郭部材の周りでらせん状に延びるバルブスプリングの前記反対方向の側の端部が当接して前記バルブスプリングから前記反対方向向きのバネ付勢力を受ける台座部分を有する外郭部材と、
前記外郭部材と、前記シール部材および前記補強部材との間に配設されて、前記外郭部材を、前記補強部材および前記シール部材に接合する、ゴム材料からなるゴム層と、を備え、
封止された前記隙間の内部空間の圧力により前記隙間を封止するシール部材が前記突出方向に抜けることを阻害するストッパ機構を有するものであるバルブステムシール用の密封装置。
【0017】
[2] 前記シール部材は、前記バルブステムガイドの前記一端部の端面における、前記バルブステムガイドの外周面と前記バルブステムの外周面との間の段差に対応した折れ曲がり形状を持つ折れ曲がり部を有するものであり、
前記補強部材は、前記バルブステムの外周面に沿って延び、前記バルブステムガイドの前記一端部を覆っている部分のシール部材を該シール部材の外周面側から支持する、環形状の環状部と、該環状部の前記突出方向の側の端部から屈曲して前記シール部材の前記折れ曲がり部の内部に入り込んで前記バルブステムに向かって延び前記折れ曲がり部を前記内部から支持する屈曲部と、を有するものであり、
前記外郭部材は、剛体材料から一体的に形成されたものであって、前記バルブステムに沿って広がる筒形状の筒状部と、該筒状部の前記突出方向の側の端部に接続し前記シール部材の前記折れ曲がり部に沿って前記突出方向の側の前記端部から前記バルブステムに向かって延びて前記ストッパ機構の役割を果たす内向きフランジ部と、前記筒状部の前記反対方向の側の端部に接続し前記バルブステムから遠ざかる方向に向かって前記反対方向の側の前記端部から延びて前記台座部分の役割を果たす外向きフランジ部と、を有するものであり、
前記ゴム層は、前記外郭部材の前記内向きフランジ部と前記シール部材の前記折れ曲がり部との間に配設されて前記内向きフランジ部と前記折れ曲がり部とを接合する第1ゴム層と、前記外郭部材の前記筒状部と前記補強部材の前記環状部との間に配設され前記筒状部と前記環状部とを接合する第2ゴム層と、を有するものである請求項1記載のバルブステムシール用の密封装置。
【0018】
[3] 前記ゴム層の前記第2ゴム層は、前記補強部材の前記環状部の、前記反対方向を向いた端面まで延びているものであり、前記ゴム層がさらに、前記第2ゴム層の前記反対方向の側の端部に接続し前記補強部材の前記環状部の前記端面を覆いつつ前記バルブステムガイドの外周面に向かって突出した凸部を有するものである 前記ゴム層の前記第2ゴム層は、前記補強部材の前記環状部の、前記反対方向を向いた端面まで延びているものであり、前記ゴム層がさらに、前記第2ゴム層の前記反対方向の側の端部に接続し前記補強部材の前記環状部の前記端面を覆いつつ前記バルブステムガイドの外周面に向かって突出した凸部を有するものである[2]に記載のバルブステムシール用の密封装置。
【0019】
[4] 前記ゴム層は、前記第1ゴム層の、前記バルブステムの側の端部に接続し、前記外郭部材の前記内向きフランジ部の、前記バルブステムの側を向いた端面を覆うとともに、該内向きフランジ部の前記突出方向を向いた上面を覆う第3ゴム層を有するものである[2]又は[3]に記載のバルブステムシール用の密封装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、ゴム層が外郭部材をシール部材および補強部材に接合することで、外郭部材はシール部材および補強部材と一体化している。このため、
図2の従来のバルブステムシール用の密封装置10Aと
図3の外郭部材4とをユーザの側で組み付ける作業を行う必要がなく、ユーザは、シール部材の抜け止め機能付きの一体的なバルブステムシール用の密封装置として本発明を使用することができる。この結果、本発明では、たとえばシール部材および補強部材だけからなる既存のバルブステムシール用の密封装置の構成をそのまま流用でき、初期設定がユーザフレンドリーなバルブステムシール用の密封装置が実現している。さらに、上記のゴム層により、シール部材および補強部材に外郭部材が強固に結合するため、上述の高背圧に対する耐久性も向上している。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】従来のバルブステムシール用の密封装置を備えた吸気/排気バルブの模式的な断面図である。
【
図2】
図1の従来のバルブステムシール用の密封装置の構成を表す模式的な断面図である。
【
図3】補強部材とは別体の外郭部材を備えたバルブステムシール用の密封装置の構成を表す模式的な断面図である。
【
図4】本実施形態のバルブステムシール用の密封装置の構成を、吸気/排気バルブの他の構成要素とともに表した模式的な断面図である。
【
図5】
図4のバルブステムシール用の密封装置の構成を拡大して表した図である。
【
図6】外郭部材以外のものがストッパ機構の役割を果たす別の実施形態のバルブステムシール用の密封装置の構成を、吸気/排気バルブの他の構成要素とともに表した模式的な断面図である。
【
図7】非剛体材料からなる外向きフランジ部が台座部分の役割を果たす別の実施形態のバルブステムシール用の密封装置の構成を、吸気/排気バルブの他の構成要素とともに表した模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0023】
本実施形態のバルブステムシール用の密封装置は、吸気/排気バルブに適用されるバルブステムシール用の密封装置である。本実施形態が適用される吸気/排気バルブは、
図1および
図2の従来のバルブステムシール用の密封装置10Aとは構成が異なるバルブステムシール用の密封装置が用いられており、さらに、スプリングシート109が不要となっている点を除き、
図1の吸気/排気バルブ100と同じである。そこで、バルブステムシール用の密封装置以外の吸気/排気バルブの構成要素については
図1を参照することとしてその重複説明は省略し、本実施形態に対応するバルブステムシール用の密封装置の構成に焦点を絞って説明を行う。
【0024】
図4は、本実施形態のバルブステムシール用の密封装置10の構成を、吸気/排気バルブの他の構成要素とともに表した模式的な断面図であり、
図5は、
図4のバルブステムシール用の密封装置10の構成を拡大して表した図である。
【0025】
図4および
図5では、
図1~
図3と同じ構成要素については、同一の符号が付されている。バルブステムシール用の密封装置10は、軸形状を有し軸方向に往復動する、吸気/排気バルブのバルブステム104と、筒形状を有しバルブステム104を内側に挿通させて軸方向の往復動自在に支持するバルブステムガイド105と、の間の隙間を封止するものである。バルブステムシール用の密封装置10は、ゴム層1、シール部材2、補強部材3、および外郭部材4、を備えている。
【0026】
シール部材2は、弾性材料からなる部材であり、シリンダヘッド101から突出したバルブステムガイド105の一端部、および、その一端部の開口105aから突出したバルブステム104を覆って、バルブステムガイド105とバルブステム104の間の隙間Gを封止している。ここで、シリンダヘッド101から突出したバルブステムガイド105の周囲には、オイルを蓄える油室(
図4では不図示・
図1の油室O参照)が形成されており、シール部材2が隙間Gを封止することで油室内のオイルが隙間Gから漏洩するのが抑制される。
【0027】
補強部材3は、剛体材料からなる部材であり、シール部材2に一体的に成形されてシール部材2を支持している。ここで、剛体材料とは、弾性材料と比べると硬度がきわめて高く変形しにくい材料を指しており、典型的には、金属や硬質プラスチック等の材料を指している。
【0028】
外郭部材4は、シール部材2および補強部材3を取り囲み軸方向(図の上下方向)に延びる中空の部材である。外郭部材4は、バルブステム104が開口105aから突出する突出方向(すなわち図の上方向)とは反対方向(すなわち図の下方向)の側の端部に台座部分を有している。台座部分は、外郭部材4の周りでらせん状に延びるバルブスプリング106の図の下方向の側の端部が当接してバルブスプリング106から図の下方向の向きのバネ付勢力を受ける部位である。
図4および
図5の例では、台座部分は外向きフランジ部43である。外向きフランジ部43については後述する。
【0029】
ゴム層1は、ゴム材料からなる部材である。ゴム層1は、外郭部材4と、シール部材2および補強部材3との間に配設されて、外郭部材4を、シール部材2および補強部材3に接合している。ゴム層1は、たとえば、外郭部材4にゴムを焼き付けてシール部材2および補強部材3に接合することで、外郭部材4と、シール部材2および補強部材3との間に配設される。
【0030】
また、バルブステムシール用の密封装置10は、封止された隙間Gの内部空間の圧力によりシール部材2が突出方向(図の上方向)に抜けることを阻害するストッパ機構を有している。
図4および
図5の例では、ストッパ機構は内向きフランジ部41である。内向きフランジ部41については後述する。
【0031】
本実施形態のバルブステムシール用の密封装置10では、ゴム層1が外郭部材4をシール部材2および補強部材3に接合することで、外郭部材4はシール部材2および補強部材3と一体化している。このため、
図2の従来のバルブステムシール用の密封装置10Aと
図3の外郭部材4とをユーザの側で組み付ける作業を行う必要がなく、ユーザは、シール部材の抜け止め機能付きの一体的な密封装置としてバルブステムシール用の密封装置10を使用することができる。この結果、本実施形態では、たとえばシール部材2および補強部材3だけからなる既存のバルブステムシール用の密封装置の構成をそのまま流用でき、初期設定がユーザフレンドリーなバルブステムシール用の密封装置が実現している。さらに、ゴム層1により、シール部材2および補強部材3に外郭部材4が強固に結合するため、上述の高背圧に対する耐久性も向上している。
【0032】
以下、バルブステムシール用の密封装置10の各構成要素について、主にその形状の観点からさらに詳しく説明する。
【0033】
シール部材2は、その1つの部位として折れ曲がり部22を有している。折れ曲がり部22は、
図4および
図5に示すように、バルブステムガイド105の一端部の端面105bにおける、バルブステムガイド105の外周面とバルブステム104の外周面との間の段差Dに対応した折れ曲がり形状を持っている。
【0034】
補強部材3は、その部位ごとに分けて考えると環状部32と屈曲部31とを備えている。環状部32は、
図4および
図5に示すように、バルブステム104の外周面に沿って延び、バルブステムガイド105の一端部を覆っている部分のシール部材2をシール部材2の外周面側から支持している部位である。一方、屈曲部31は、
図4および
図5に示すように、環状部32の、突出方向の側の端部から屈曲してシール部材2の折れ曲がり部22の内部に入り込んでバルブステム104に向かって延び折れ曲がり部22をその内部から支持する部位である。
【0035】
外郭部材4は、剛体材料から一体的に形成されたものであって、その部位ごとに分けて考えると筒状部42と、内向きフランジ部41と、外向きフランジ部43と、を有している。筒状部42は、
図4および
図5に示すようにバルブステム104に沿って広がる筒形状の部位である。内向きフランジ部41は、
図4および
図5に示すように筒状部42の上方向(上述のバルブステム104の突出方向)の側の端部に接続し、
図5に示すようにこの端部からシール部材2の折れ曲がり部22に沿ってバルブステム104に向かって内向きフランジ状に延びている部位である。この内向きフランジ部41が、上述のストッパ機構の役割を果たしている。外向きフランジ部43は、
図4および
図5に示すように筒状部42の下方向(上述のバルブステム104の突出方向の反対方向)の側の端部に接続し、この端部から、
図5に示すようにバルブステム104から遠ざかる方向に向かって外向きフランジ状に延びている部位である。この外向きフランジ部43が、上述の台座部分の役割を果たしている。
【0036】
ゴム層1は、その部位ごとに分けて考えると第1ゴム層11と第2ゴム層12とを有している。第1ゴム層11は、
図4および
図5に示すように外郭部材4の内向きフランジ部41とシール部材2の折れ曲がり部22との間に配設されて内向きフランジ部41と折れ曲がり部22とを接合する部位である。一方、第2ゴム層12は、
図4および
図5に示すように外郭部材4の筒状部42と補強部材3の環状部32との間に配設され筒状部42と環状部32とを接合する部位である。
【0037】
ゴム層1、シール部材2、補強部材3、および外郭部材4の各構成要素をそれぞれ構成する各部位が、以上説明したような形状を有することで、各構成要素は、上述した各構成要素の機能を、より的確に果たすことができる。
【0038】
以下、
図4および
図5を参照しつつ、ゴム層1のさらなる特徴について説明する。
【0039】
ゴム層1の第2ゴム層12は、補強部材3の環状部32の、図の下方向(上述のバルブステム104の突出方向の反対方向)を向いた端面32aまで延びている。ここで、ゴム層1には、この第2ゴム層の下方向の側の端部に接続し環状部32の端面32aを覆いつつバルブステムガイド105の外周面に向かって突出した凸部13が備えられている。
【0040】
このように凸部13が環状部32の端面32aを覆うことで、外郭部材4に対し補強部材3が位置ずれを起こしにくくなり、外郭部材4と補強部材3との接着が、より強固となっている。
【0041】
また、ゴム層1は、第1ゴム層11の、バルブステム104の側の端部に接続し、外郭部材4の内向きフランジ部41の、バルブステム104の側を向いた端面41aを覆う第3ゴム層14を有している。この第3ゴム層14は、さらに、内向きフランジ部41の、上方向(上述のバルブステム104の突出方向)を向いた上面41bも覆っている。
【0042】
このような第3ゴム層14が存在することで、ゴム層1が外郭部材4にしっかり固定されることとなり、ゴム層1が外郭部材4から乖離しにくくなる。また、剛体部材から構成されている外郭部材4の先端部(端面41aおよび上面41bを有する部分)が第3ゴム層14にカバーされるため、仮に外郭部材4がぐらついたしても、その先端部がその周囲の他の部材に接触して外郭部材4や他の部材が損傷するといった事態は避けられる。ここで、他の部材としては、外郭部材4の先端部の付近に存在する、バルブスプリング106やシール部材2や後述のガータスプリング5等が挙げられる。
【0043】
以下、バルブステムシール用の密封装置10における、ゴム層1以外の構成要素についてのさらなる特徴について説明する。
【0044】
バルブステムシール用の密封装置10では、シール部材2は、折れ曲がり部22の、バルブステム104の側の端部に接続し、バルブステム104に沿って上方向(バルブステム104の突出方向)延びるステム側部分21を有している。このステム側部分21は、
図4および
図5に示すように、バルブステム104の外周面に向かって延びて外周面に当接して外周面に対して相対的に摺動するリップ部21aを有している。
【0045】
このようなリップ部21aが存在することで、バルブステムガイド105と、このバルブステムガイド105に対し軸方向に往復動するバルブステム104と、の間の隙間(
図1の隙間G参照)が封止される。
【0046】
また、バルブステムシール用の密封装置10では、シール部材2に対向するバルブステムガイド105の外周面には、バルブステムガイド105を周回する環状の溝105cが形成されている。ここで、シール部材2は、折れ曲がり部22の、バルブステム104から遠い側の端部(バルブステム104の側の端部とは反対側の端部)に接続し、バルブステムガイド105に沿って延びるステムガイド側部分23を有している。このステムガイド側部分23は、
図4および
図5に示すように、上述の溝105cに入り込んでバルブステムガイド105を周回する突条部23aを有している、
【0047】
このような突条部23aが存在することで、シール部材2は、バルブステムガイド105の外周面上にしっかりと位置決めされ、位置ずれを起こしにくくなる。
【0048】
また、バルブステムシール用の密封装置10では、シール部材2のステム側部分21を、リップ部21aとは反対側の外周側からバルブステム104に押し付けるガータスプリング5が備えられている。
【0049】
このようなガータスプリング5が存在することで、リップ部21aは、バルブステム104の外周面に強く当接することとなり、シール部材2によるシール性が向上する。
【0050】
以上の
図4および
図5の実施形態の説明では、外郭部材4の一部である内向きフランジ部41がストッパ機構の役割を果たしていたが、本発明では、ストッパ機構の役割を果たすものが、外郭部材以外のものであってもよい。以下では、そのような別の実施形態について説明する。
【0051】
図6は、外郭部材以外のものがストッパ機構の役割を果たす別の実施形態のバルブステムシール用の密封装置10Xの構成を、吸気/排気バルブの他の構成要素とともに表した模式的な断面図である。
【0052】
図6において、
図4と同じ構成要素については同じ符号を付すこととしてその重複説明は省略する。以下では、
図4とは異なる点に焦点を絞って説明を行う。
【0053】
図6のバルブステムシール用の密封装置10Xでは、外郭部材4Xには内向きフランジ部41が存在せず、従って外郭部材4Xにはストッパ機構の役割を果たす部位が存在しない。その代わり、補強部材3Xの環状部32Xの外周面には、この外周面を周回する溝状の凹状部Hが形成されており、その溝状の凹状部Hに、ゴム層1Xの第2ゴム層12Xの凸状部Cが嵌まり込んでいる。このような凸状部Cは、たとえば、凹状部Hを有する補強部材3Xの環状部32Xの外周面にゴムを焼き付けることで凹状部H内に形成されるものである。
【0054】
このように凹状部Hに凸状部Cが嵌まり込むことで、封止された隙間Gの内部空間の圧力によりシール部材2が突出方向(図の上方向)に抜けることが阻害される。すなわち、補強部材3Xの凹状部Hおよびゴム層1Xの凸状部Cがストッパ機構の役割を果たしている。また、補強部材3Xは、既存のバルブステムシール用の密封装置における補強部材3(
図2参照)に凹状部Hを形成しただけのものであるため、既存のバルブステムシール用の密封装置の構成を流用して用いることができる。
【0055】
以上説明した点を除き、
図6の外郭部材4X、補強部材3X、およびゴム層1Xは、
図4の外郭部材4、補強部材3、およびゴム層1と同じ特徴を備えている。これらの特徴については、
図4の説明を参照することとして、これ以上の説明は省略する。
【0056】
また、以上の
図4および
図5の実施形態の説明では、外郭部材4は全体が剛体材料から一体的に形成されたものであってその一部である外向きフランジ部43が台座部分の役割を果たしていた。しかしながら。本発明では、外郭部材全体が剛体材料から一体的に形成されたものではなくてもよい。たとえば、外向きフランジ部が非剛体材料で形成されておりその外向きフランジ部が台座部分の役割を果たすものであってもよい。以下では、そのような別の実施形態について説明する。
【0057】
図7は、非剛体材料からなる外向きフランジ部43が台座部分の役割を果たす別の実施形態のバルブステムシール用の密封装置10Yの構成を、吸気/排気バルブの他の構成要素とともに表した模式的な断面図である。
【0058】
図7において、
図4と同じ構成要素については同じ符号を付すこととしてその重複説明は省略する。以下では、
図4とは異なる点に焦点を絞って説明を行う。
【0059】
図7のバルブステムシール用の密封装置10Yでは、外郭部材4Yの外向きフランジ部43Yは、剛体材料ではなくゴムで構成されている。このように外向きフランジ部43Yがゴムで構成されているため、バルブスプリング106から図の下方向の向きのバネ付勢力に対して柔軟に変形でき、吸気/排気バルブに組み付けがスムーズに行える。こうした構成材料の違いを除き、
図7の外郭部材4Yは、
図4の外郭部材4と同じ特徴を備えている。こうした共通の特徴については、
図4の説明を参照することとして、これ以上の説明は省略する。
【0060】
以上が本発明の実施形態の説明である。
【0061】
以上の説明では、バルブステムシール用の密封装置10のリップ部21aは1個であったが、本発明では、複数のリップ部21aを有するものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、既存の密封装置の構成を流用できるとともに初期設定がユーザフレンドリーな密封装置を実現するのに有用である。
【符号の説明】
【0063】
1,1X:ゴム層、
2:シール部材、
3,3X:補強部材、
4,4X,4Y:外郭部材、
5:ガータスプリング、
10,10A,10B,10X,10Y:バルブステムシール用の密封装置、
11:第1ゴム層、
12,12X:第2ゴム層、
13:凸部、
14:第3ゴム層、
21:ステム側部分、
21a:リップ部、
22:折れ曲がり部、
23:ステムガイド側部分、
23a:突条部、
31:屈曲部、
32,32X:環状部、
32a:端面、
41:内向きフランジ部、
41a:端面、
41b:上面、
42:筒状部、
43:外向きフランジ部、
100:吸気/排気バルブ、
101:シリンダヘッド、
102:吸気/排気ポート、
102a:弁座、
103:弁本体、
104:バルブステム、
105:バルブステムガイド、
105a:開口、
105b:端面、
105c:溝、
106:バルブスプリング、
107:カム、
107a:カムシャフト、
108:リフタ、
109:スプリングシート、
C:凸状部、
D:段差、
H:凹状部、
G:隙間、
O:油室。