(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057767
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】固定部材及び固定構造
(51)【国際特許分類】
H02G 3/30 20060101AFI20240418BHJP
F16B 19/00 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
H02G3/30
F16B19/00 E
F16B19/00 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164652
(22)【出願日】2022-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】308011351
【氏名又は名称】大和化成工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131048
【弁理士】
【氏名又は名称】張川 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100174377
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100215038
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 友子
(72)【発明者】
【氏名】岩原 利夫
(72)【発明者】
【氏名】平川 勝也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】村本 俊教
【テーマコード(参考)】
3J036
5G363
【Fターム(参考)】
3J036AA03
3J036DA06
3J036DA13
3J036DA14
3J036DB04
5G363AA07
5G363AA13
5G363BA01
5G363BA02
5G363BA07
5G363DA13
5G363DA15
5G363DA16
5G363DC02
(57)【要約】
【課題】板状部材の貫通孔に固定部材の係合部が挿入固定される固定構造を、固定部材の貫通孔からの取り外しが容易でかつ取り外すときに傷や破損が生じにくい構造にする。その際、固定部材の防塵・防水性能、射出成形金型による加工性、皿状当接部の弾性(柔軟性)を従来と同程度に維持するとともに、サイズ増も抑える。
【解決手段】 板状部材100の貫通孔101に挿入固定された固定部材10を取り外すために、貫通孔101の周辺部102に対し挿入方向Iの手前側から環状に当接する皿状当接部13において、対をなす弾性係止片12、12の側にそれぞれ折り返し部13Sを形成し、皿状当接部13の内側に治具を進入させる案内部とする。折り返し部13Sは、弾性係止片12、12の最下端12bよりも外側において、当該最下端12bの位置に向かって上り勾配となり、かつ支柱11の軸線11Z周りに滑らかに連続する湾曲面をなして形成される。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に延びる支柱と、
前記支柱を左右方向から挟むように対をなし、それぞれが支柱上端側から支柱下端側に向けて延びる弾性係止片と、
前記支柱の下端側から前記支柱を取り囲みつつ外向き斜め上方へと拡径する皿状当接部と、
を備え、板状部材の貫通孔に前記支柱及び前記弾性係止片を支柱上端側から挿入することにより、各前記弾性係止片が、前記支柱に接近する弾性変形を伴う形で貫通孔を通過し、所定係合位置に到達したとき弾性復帰して、貫通孔から下方に突出して貫通孔の内壁面を押し付けつつ貫通孔の周辺部を挿入方向の奥側から係止し、かつ前記皿状当接部が、貫通孔の周辺部に対し挿入方向の手前側から環状に当接することで、板状部材に固定される固定部材であって、
前記皿状当接部は、外向き斜め上方へ延びた先で外向き斜め下方に折り返す折り返し部を有し、
前記折り返し部は、左右方向において各前記弾性係止片の前記支柱との接続位置よりも外側にそれぞれ独立して形成され、
各前記折り返し部の上面は、前記支柱の軸線周りに滑らかに連続する湾曲面をなし、かつ前記支柱の軸線方向から見たときの当該湾曲面の外縁から自然状態の前記弾性係止片の最下端に向かう方向が、上り勾配となるよう形成されることを特徴とする固定部材。
【請求項2】
各前記折り返し部の前記支柱の軸線に対する径方向の長さは、前記支柱に対する左右方向の外側において最も長く、そこから当該軸線周りに向かって離れていくほど短くなるように形成され、当該軸線周りの両端側で前記皿状当接部における前記折り返し部の非形成部に対し滑らかに接続するように形成される請求項1に記載の固定部材。
【請求項3】
各前記折り返し部は、前記皿状当接部の最下面よりも下方に突出しない請求項1に記載の固定部材。
【請求項4】
前記皿状当接部の下側にワイヤーハーネスの保持部を備える請求項1に記載の固定部材。
【請求項5】
貫通孔が設けられる板状部材と、
上下方向に延びる支柱と、前記支柱を左右方向から挟むように対をなし、それぞれが支柱上端側から支柱下端側に向けて延びる弾性係止片と、前記支柱の下端側から前記支柱を取り囲みつつ外向き斜め上方へと拡径する皿状当接部と、を有した係合部が設けられる固定部材と、
を備え、前記板状部材の前記貫通孔に前記支柱及び前記弾性係止片を支柱上端側から挿入することにより、各前記弾性係止片が、前記支柱に接近する弾性変形を伴う形で前記貫通孔を通過し、所定係合位置に到達したとき弾性復帰して、前記貫通孔から下方に突出して当該貫通孔の内壁面を押し付けつつ当該貫通孔の周辺部を挿入方向の奥側から係止し、かつ前記皿状当接部が、当該貫通孔の周辺部に対し挿入方向の手前側から環状に当接することで、前記係合部が前記板状部材に係合固定される固定構造であって、
前記皿状当接部は、外向き斜め上方へ延びた先で外向き斜め下方に折り返す折り返し部を有し、
前記折り返し部は、左右方向において各前記弾性係止片の前記支柱との接続位置よりも外側にそれぞれ独立して形成され、
各前記折り返し部の上面は、前記支柱の軸線周りに滑らかに連続する湾曲面をなし、かつ前記支柱の軸線方向から見たときの当該湾曲面の外縁から自然状態の前記弾性係止片の最下端に向かう方向が、上り勾配となるよう形成されることを特徴とすることを特徴とする固定構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固定部材及び固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤーハーネスを保持した状態で車体側に固定する車両用の固定部材は、ワイヤーハーネスを保持する保持部と、板状部材(車両用パネル材)の貫通孔に係合挿入する係合部を有した樹脂射出成形体として形成される(特許文献1参照)。
【0003】
具体的にいえば、係合部には、支柱と、支柱を挟むように対をなしそれぞれが支柱の上端側から下端側に向けて延びる弾性係止片と、支柱の下端側から支柱を取り囲みつつ支柱の径方向の外向き斜め上方へと広がる皿状当接部と、が設けられる。支柱及び弾性係止片が板状部材の貫通孔に対し支柱上端側から挿入されると、対をなす弾性係止片が、支柱に接近する内向きの弾性変形を伴う形で貫通孔を通過し、所定係合位置に到達したときに弾性復帰(完全に復帰した状態でなくてもよい)して、それら弾性係止片の先端の各係止部が、貫通孔の内周壁を外向きに押し付け、かつ貫通孔の周辺部を挿入方向の奥側から係止した係止状態となる一方、皿状当接部は、貫通孔の周辺部に対し挿入方向の手前側から環状に当接した当接状態となる。これにより、係合部が板状部材を挿入方向において挟んだ係合固定状態となる。
【0004】
こうした係合部による固定部材の固定構造において、係合部を板状部材から取り外すためには、従来であれば、例えば板状部材と皿状当接部との間にマイナスドライバー等の治具を差し入れて、貫通孔から下方に突出している各弾性係止片の突出先端部を、それぞれ支柱側に押し付けて弾性変形させることにより係合を解除し、その上で挿入方向の逆向きに抜き取ることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、こうした従来のやり方では、互いに強く密着した板状部材と皿状当接部との間にマイナスドライバー等の治具を差し入れることが難しく、容易に取り外すことはできない。また、板状部材と皿状当接部との間に治具を差し入れる際に、それらを傷つけたり破損させたりする可能性もある。傷ついたり破損した固定部材は、取り外せたとしても再利用は難しい。一方で、再利用可能に取り外せるものが新たに作成できたとしても、従来品よりも皿状当接部が大型化するような場合は、コスト及び配置自由度の観点から採用することは難しい。
【0007】
本発明の課題は、板状部材の貫通孔に固定部材の係合部が挿入固定される固定構造を、固定部材の貫通孔からの取り外しが容易で、かつ取り外すときに傷や破損が生じにくい構造にすることにある。また、その際に、固定部材の挿入固定時における防塵・防水性能、射出成形金型による加工性、皿状当接部の弾性(柔軟性)を従来と同程度に維持するとともに、サイズ増を抑えることも課題としている。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0008】
上記課題を解決するための固定部材は、
上下方向に延びる支柱と、
前記支柱を左右方向から挟むように対をなし、それぞれが支柱上端側から支柱下端側に向けて延びる弾性係止片と、
前記支柱の下端側から前記支柱を取り囲みつつ外向き斜め上方へと拡径する皿状当接部と、
を備え(を備える係合部が設けられ)、板状部材の貫通孔に前記支柱及び前記弾性係止片を支柱上端側から挿入することにより、各前記弾性係止片が、前記支柱に接近する弾性変形を伴う形で貫通孔を通過し、所定係合位置に到達したとき弾性復帰(自然状態に完全復帰していなくてもよい)して、貫通孔から下方に突出して貫通孔の内壁面を押し付けつつ貫通孔の周辺部を挿入方向の奥側(上側)から係止し、かつ前記皿状当接部が、貫通孔の周辺部に対し挿入方向の手前側(下側)から環状に当接することで(係合固定状態となり)、板状部材に固定(挿入固定)される固定部材であって、
前記皿状当接部は、外向き斜め上方へ延びた先で外向き斜め下方に折り返す折り返し部を有し、
前記折り返し部は、左右方向において各前記弾性係止片の前記支柱との接続位置よりも外側にそれぞれ独立して形成され、
各前記折り返し部の上面は、前記支柱の軸線周りに滑らかに連続する湾曲面をなし、かつ前記支柱の軸線方向から見たときの当該湾曲面の外縁から自然状態(非弾性変形状態)の前記弾性係止片の最下端に向かう方向が、上り勾配となるよう形成されることを特徴とする。
また、上記課題を解決するための固定構造は、
貫通孔が設けられる板状部材と、
上下方向に延びる支柱と、前記支柱を左右方向から挟むように対をなし、それぞれが支柱上端側から支柱下端側に向けて延びる弾性係止片と、前記支柱の下端側から前記支柱を取り囲みつつ外向き斜め上方へと拡径する皿状当接部と、を有した係合部が設けられる固定部材と、
を備え、前記板状部材の前記貫通孔に前記支柱及び前記弾性係止片を支柱上端側から挿入することにより、各前記弾性係止片が、前記支柱に接近する弾性変形を伴う形で前記貫通孔を通過し、所定係合位置に到達したとき弾性復帰して、前記貫通孔から下方に突出して当該貫通孔の内壁面を押し付けつつ当該貫通孔の周辺部を挿入方向の奥側から係止し、かつ前記皿状当接部が、当該貫通孔の周辺部に対し挿入方向の手前側から環状に当接することで、前記係合部が前記板状部材に係合固定される固定構造であって、
前記皿状当接部は、外向き斜め上方へ延びた先で外向き斜め下方に折り返す折り返し部を有し、
前記折り返し部は、左右方向において各前記弾性係止片の前記支柱との接続位置よりも外側にそれぞれ独立して形成され、
各前記折り返し部の上面は、前記支柱の軸線周りに滑らかに連続する湾曲面をなし、かつ前記支柱の軸線方向から見たときの当該湾曲面の外縁から自然状態の前記弾性係止片の最下端に向かう方向が、上り勾配となるよう形成されることを特徴とすることを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、皿状当接部に折り返し部が形成されることで、板状部材と皿状当接部との間にマイナスドライバー等の治具を差し入れやすくなる。また、差し入れやすくなることで、傷をつけたり破損させたりする可能性も大きく減じられるから、固定部材の再利用も可能になり、SDGs(Sustainable Development Goals)にも貢献できる。また、折り返し部は、皿状当接部において対をなす弾性係止片が位置する側にのみ形成されるから、折り返し部によるサイズ増を最小限にとどめることができるし、弾性係止片先端の爪の位置(即ち治具を差し入れる位置)も把握しやすい。また、支柱の軸線方向から見て、折り返し部がその外縁から弾性係止片の最下端位置に向かって上り勾配となり、かつ軸線周りに滑らかに連続する弧状の湾曲面をなすことで、弾性係止片の下側に位置する係止部への治具のアクセスが良好になる。即ち、治具の差し込み位置がずれたとしても、治具を係止部へと向かわせる方向修正を容易に行うことが可能になる。さらにいえば、折り返し部は、各弾性係止片の支柱との接続位置よりも左右方向の外側に形成される。貫通孔の周辺部に対し係止した弾性係止片は、最大でも支柱との接続位置付近まで撓んでいるため、この部分まで折り返し部が形成されていれば、仮に治具の差し込み位置がずれたとしても、折り返し部上面上を摺動させる形で方向修正をしながら治具を係止部に到達させることができる。また、皿状当接部において折り返し部が弾性係止片の位置する側にのみ限定的に形成されることで、固定部材の防塵・防水性能、射出成形金型による加工性、皿状当接部の弾性能力(柔軟性)を従来のものより損なうこともない。
【0010】
各前記折り返し部の前記支柱の軸線に対する径方向の長さは、前記支柱に対する左右方向の外側において最も長く、そこから当該軸線周りに向かって離れていくほど短くなるように形成され、当該軸線周りの両端側で前記皿状当接部における前記折り返し部の非形成部に対し滑らかに接続するように形成できる。上記構成によれば、折り返し部は、弾性係止片の係止部の外側という弧状中央部においては確実に治具を案内できるよう斜面幅(斜面長さ)が長く形成される一方、弧状両端部に近づくほど斜面幅(斜面長さ)が短く形成されて、大きくずれた治具の差し込み操作にまで手厚い案内形状を形成する無駄を省き、サイズ増を最小限にとどめることができる。また、折り返し部において斜面幅(斜面長さ)が短くなる支柱の軸線周りの両端側は、皿状部において折り返し部が形成されない非形成部に対し、斜面幅(斜面長さ)を減じていく形で接近し、最終的にはゼロとなって接続するため、治具が引っかかるような部分(凹凸や切り欠き)が皿状当接部には形成されない。このため、軸線周りの両端側から治具が挿入されたとしても、そこから治具を方向修正して係止部へと向かわせることも可能になる。
【0011】
また、各前記折り返し部は、前記皿状当接部の最下面よりも下方に突出しないように形成できる。例えば、皿状当接部の高さ(上下方向幅)の上から2/3の位置よりも下方に突出しないようにすることができる。これにより、治具の差し込み案内を確実に行いつつ、折り返し部による皿状当接部の拡がりを最小限にとどめることができる。
【0012】
前記皿状当接部の下側にワイヤーハーネスの保持部(所定機能部)を設けてもよい。この構成によれば、車両販売後の機能追加に際して、ワイヤーハーネスの交換や移動、取り外したワイヤーハーネスのリユース等が可能になり、SDGsに貢献可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図7】
図2の係合部の挿入孔に対する係合固定状態を示した断面図。
【
図8】
図7の係合固定状態の解除を説明する断面図。
【
図9】
図5のIX-IX断面を用いて係合解除状態を示した断面図。
【
図12】
図11の固定部材が備える機能部の使用方法を説明する断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例を、図面を参照して説明する。
図1(a)及び
図1(b)は、本実施例の固定部材10を上側から見た斜視図と下側から見た斜視図である。
図2(a)及び
図2(b)は、
図1の固定部材1のII-II切断面よりも上側を拡大した図である。
【0015】
図1及び
図2に示す固定部材10は樹脂成形体であり、板状部材100の貫通孔101(
図8参照)に挿入固定される係合部15と、係合部15の下側に所定機能を有した機能部16と、を備える。これにより、固定部材10は、板状部材100に固定された状態で機能部16を機能させることができる。
【0016】
ここでの機能部16は長手状配策材の保持部として設けられる。具体的には、
図3及び
図4に示すように、機能部16は、長手状配策材200(例えばワイヤーハーネス)の外周を取り巻くベルト部16Bと、ベルト部16Bをその先端側から受け入れて固定可能なバックル部16Aと、を有した周知の結束部(例えばワイヤーハーネス保持部)である。
【0017】
係合部15は、
図5及び
図6に示すように、上下方向Zに延びる支柱11と、支柱11を左右(左右方向Y)から挟むように対をなし、それぞれが支柱上端側から支柱下端側に向けて延び、それぞれの先端部に係止部12Aを有した弾性係止片12、12と、支柱11の下端側に接続し、支柱11を取り囲みつつ外向き斜め上方へと拡径する皿状(スカート状)の皿状当接部13(拡径当接部)と、を備える。なお、ここでいう互いに直交する上下方向Z及び左右方向Yや、それらと直交する前後方向Xは、3次元形状を説明するために便宜的に設定した方向であり、支柱11の延出方向が上下方向Z(重力方向)に一致している必要はない。
【0018】
図7に示すように、係合部15は、板状部材100の貫通孔101に対し支柱11及び弾性係止片12、12を支柱上端側から挿入する(挿入方向I)ことにより、貫通孔101に挿入固定される。挿入に際しては、対をなす弾性係止片12、12が、支柱11に接近する内向きの弾性変形を伴う形で幅を狭めて貫通孔101を通過するとともに、貫通孔101を通過して所定係合位置に到達したときには弾性復帰(自然状態に完全復帰しなくてもよい)して広がる。このとき係止部12Aは、貫通孔101内を通って下方に突出して内壁面101aを外向きに押し付け、かつ貫通孔101の周辺部102を上側(挿入方向Iの奥側)から係止した係止状態(抜け止め状態)となる。一方で、皿状当接部13は、貫通孔101に対し挿入されず、貫通孔101の周辺部102に対し下側(挿入方向Iの手前側)から環状に当接して押し付けた押付状態(当接状態)となる。その結果、板状部材100は、貫通孔101の周辺部102において上下から(挿入方向Iの手前側と奥側から)挟持(具体的には挟圧)された係合固定状態となる。これにより、固定部材10が板状部材100に固定された固定構造1が形成される。
【0019】
なお、ここでの係止部12Aは、対をなす弾性係止片12、12の並び方向(左右方向Y)の外向き(支柱11から離れる方向)に階段状に複数段(ここでは3段)突出する係止突出部12cを有する。係止突出部12cを階段状に複数段有することで、様々な厚み、様々な貫通孔形状の板状部材100に対応できるようになっている。複数段の係止突出部12cにおいて、各段の下方を臨む面が貫通孔101の周辺部102を上側から係止する係止面であり、各段の弾性係止片12、12の並び方向Yの外側を臨む面が貫通孔101の内壁面101aを外向きに押し付ける押付面である。
【0020】
また、係合部15は、
図9に示すように、板状部材100の貫通孔101に対し支柱11及び弾性係止片12、12と共に挿入され、係合固定状態となったときに貫通孔101の内壁面101aに対し当接し、係合部15を位置決めする貫通孔内位置決め部14A、14A、14Bを備える。
【0021】
ところで、ここでの皿状当接部13は、
図5及び
図6に示すように、支柱11に接続する底面部13Bと、底面部13Bから軸線11Zに対する径方向の外向き斜め上方へ延びる主皿状部13Aと、その先から外向き斜め下方に折り返す折り返し部13Sと、を有する。折り返し部13Sは、対をなす弾性係止片12、12の側にそれぞれ設けられる。さらにいえば、折り返し部13Sは、左右方向Yにおいて各弾性係止片12、12の支柱11との接続位置12r、12r(各弾性係止片12、12の付け根部分)よりも外側にそれぞれ独立して形成される。ここでの皿状当接部13には、支柱11の軸線11Zの方向から見たときに(
図6参照)、略楕円形状(オーバル形状:卵形や長円、あるいは楕円や、角丸長方形等を含む)をなし、その長径方向(ここではY方向に一致する)の両側に折り返し部13Sが形成されている。
【0022】
各折り返し部13Sの上面13sは、支柱11の軸線11Z周りに滑らかに連続する湾曲面をなし、かつ支柱11の軸線Zの方向から見たときの当該湾曲面の外縁から自然状態(弾性変形していない状態)の弾性係止片12、12の最下端12bに向かう方向が、上り勾配となるよう形成される。具体的にいえば、各折り返し部13Sは、対応する側の弾性係止片12、12が自然状態にあるときのその最下端12b(
図5及び
図6参照)を左右方向Yの外側で弧状をなして取り囲みつつその弧状の両端位置が、各弾性係止片12、12の支柱11との接続位置12r、12r(各弾性係止片12、12の付け根部分)よりも左右方向Yの外側(
図5及び
図6において破線RPよりも左右外側)となる。
【0023】
係合固定状態における皿状当接部13は、
図7及び
図8に示すように、主皿状部13Aにおいて外向き斜め上方へと延びた先の環状の端部13U(屈曲部、環状当接部)によって板状部材100に上方(挿入方向Iの奥側)に押し付ける一方で、当該端部13Uが下方に押し下げられ、主皿状部13Aが弾性変形した状態となる。
【0024】
係合固定状態における各折り返し部13Sの上面13sは、板状部材100に対し間に空隙を挟んで上下方向Zに対面する。この上面13sは、
図6に示すように、支柱11の軸線11Z周りに滑らかに連続する弧状の湾曲面をなし、かつ軸線11Zの方向(軸線方向)から見たときの当該湾曲面の外縁から自然状態の弾性係止片12、12の最下端12bの位置に向かう方向が、上り勾配の斜面となるように形成される。
【0025】
また、各折り返し部13Sの支柱11の軸線11Zに対する径方向の長さは、支柱11に対する左右方向Yの外側において最も長く、そこから当該軸線11Zの周りに向かって離れていくほど短くなるように形成され、当該軸線11Zの周りの両端側で皿状当接部13における折り返し部13Sの非形成部13Tに対し滑らかに接続するように形成される。つまり、弧状の湾曲面をなす折り返し部13Sは、弧状の中央部ほど斜面長さが長く(斜面幅が広く)、弧状の両端側ほど斜面斜面長さが短く(斜面幅が狭く)なるように形成される。具体的にいえば、当該折り返し部13Sの長さは、並び方向Y(弾性係止片12、12の対向方向)の外側から弧状に沿って一定距離離れるまでは、ほぼ同一長さに形成され、そこから軸線11Z周りにさらに離れていくに従い短くなるように形成されている。そして、各折り返し部13Sは、弧状の両端においてその長さがゼロになる形で非形成部13Tに対し滑らかに接続する。
【0026】
なお、折り返し部13Sは、皿状当接部13の底面13b(機能部16との接続面でもよい)よりも下方に突出しないように形成されている。ここでの折り返し部13Sは、
図5に示すように、皿状当接部13の高さh(上下方向幅)に対し上から2/3の位置h0よりも下方に突出しない(h0よりも上となる)ように定められており、折り返し部13Sの長さを制限している。これは大型化を避けるためだけでなく、皿状当接部13の直下の機能部16との干渉を避けるためでもある。
【0027】
一方、弾性係止片12、12は、係合固定状態において、
図7に示すように、係止部12Aの一部(12p)が板状部材100の貫通孔101を下方に向けて突出する。このとき貫通孔101から下方に突出している突出先端部12pは、皿状当接部13の内側に隠され、板状部材100の下側において非露出とされる。
【0028】
この突出先端部12pに対し、治具300(
図8参照)を接触させて支柱11側へと押し付けることにより、各弾性係止片12、12は、係止部12Aによる係止状態(抜け止め状態)が解除され、係合部15を貫通孔101から挿入方向Iの逆向きに抜き取ることが可能になる。
【0029】
ところが、治具300を突出先端部12pまで到達させるには、押付状態にある皿状当接部13と板状部材100(周辺部102)との間を押し広げて皿状当接部13の内側に進入させなければならない。このとき、皿状当接部13に折り返し部13Sが形成されていることで、折り返し部13Sの上面13sを摺動させる形で皿状当接部13と板状部材100(周辺部102)との間に治具300を差し入れることができ、押し広げが容易になる。また、折り返し部13Sの上面13sが、軸線11Z周りにおいて滑らかに連続する湾曲面を形成し、その湾曲面が係止部12Aに向けて上り勾配をなす斜面であるため、治具300の挿入方向が軸線11Z周りにおいて多少ずれたとしても、折り返し部13Sの上面13sを摺動させながら方向修正をすることも容易になる。
【0030】
したがって、治具300がマイナスドライバーのようなものであっても、係合部15の貫通孔101からの抜き取りが容易となる。また、治具300が折り返し部13Sの上面13sを摺動する形で皿状当接部13の内側に進入するから、皿状当接部13に傷や破損を生じさせにくい。
【0031】
なお、係止部12Aによる係止状態(抜け止め状態)の解除は、
図7及び
図8に示すように、治具300によって双方の弾性係止片12、12をそれらの並び方向Yの両外側から内側にそれぞれ同時に押し付けることにより、双方の弾性係止片12、12を弾性変形させる形で行ってもよいし、治具300によって弾性係止片12、12の並び方向Yの一方側から他方側に押し付けることにより、双方の弾性係止片12、12を弾性変形させる形で行ってもよい。
【0032】
このように、固定部材10が板状部材100に係合固定された本実施例の固定構造1(
図7参照)は、治具300によって固定部材10を取り外し可能(
図8参照)な構造であるだけでなく、皿状当接部13に折り返し部13Sが形成されていることで治具300を差し入れやすく、差し入れる際に傷をつけたり破損させたりする可能性を大きく減じることが可能な構造となっている。
【0033】
以上、本発明の一実施例を説明したが、これはあくまでも例示にすぎず、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、追加及び省略等の種々の変更が可能である。
【0034】
上記実施例の第一変形例について
図10を用いて説明する。
図10(a)は、第一変形例をなす固定部材10の使用状態を示す斜視図、
図10(b)は、第一変形例をなす固定部材10を
図10(a)とは別方向から見た斜視図、
図10(c)及び
図10(d)は、第一変形例をなす固定部材10の右側面図及び平面図である。第一変形例をなす固定部材10の左側面図は、右側面図である
図10(c)と同じに表れる。
【0035】
上記実施例の皿状当接部13は、支柱11の軸線11Zの方向から見たときに、対をなす弾性係止片12、12の並び方向Yを長径方向とする略楕円形状をなし、その長径方向の両端に折り返し部13Sがそれぞれ設けられているが、第一変形例の固定部材10の皿状当接部13は、支柱11の軸線11Zの方向から見たときに真円状(ここでは真円)、対をなす弾性係止片12、12の並び方向Yの両端に折り返し部13Sがそれぞれ設けられている(
図10(d)参照)。
【0036】
また、第一変形例の固定部材10の機能部16は、上記実施例と同様、長手状配策材200(例えばワイヤーハーネス)の保持機能を有するが、その保持形態が異なっている。即ち、上記実施例の機能部16は、ベルト部16Bによって長手状配策材200を結束保持するが、第一変形例の機能部16は、係合部15の下端から、上下方向Zと直交する所定方向に延びる板状の袖部16C、16Cを有した形状をなす。板状の袖部16C、16Cには、底面上に長手状配策材200を載置し、載置した長手状配策材200を袖部16C、16Cごとテープ等の結束部材20、20で結束して保持状態とする(
図10(a)参照)。
【0037】
上記実施例の第二変形例について
図11及び
図12を用いて説明する。
図11(a)及び
図11(b)は、第二変形例の固定部材10を上側から見た斜視図と下側から見た斜視図である。
図11(c)、
図11(d)、
図11(e)は、第二変形例の固定部材10の平面図、正面図、背面図である。
図12は、
図11の固定部材10の機能部16の使用方法を説明する図である。
【0038】
第二変形例では、係合部15の皿状当接部13が、支柱11の軸線11Zの方向から見たときに、対をなす弾性係止片12、12の並び方向Yを短径方向とする略楕円形状をなし、その短径方向の両端に折り返し部13Sがそれぞれ設けられている。また、機能部16は着脱部であり、機能部16に対し所定機能を有した別体の組付け機能部160を組み付けること、そして取り外すことが可能となっている(
図12参照)。なお、この組付け構造及び組付け方法については周知のものであるから、詳細な説明は省略する。また、組付け機能部160についてはその全体が図示はされていないが、上記実施例や第一変形例で述べた長手状配策材200(例えばワイヤーハーネス)の保持機能部としてもよいし、配線部材の端部に設けられたコネクタ等としてもよいし、他の機能部としてもよい。
【0039】
上記実施例とその第一変形例と第二変形例については、係合部15の下側に位置する機能部16を交換した形で形成してもよい。
【0040】
例えば
図1及び
図2に示す上記実施例の固定部材10の場合は、
図2のA-A断面より上側の係合部15を残し、その下側に、
図10に示す第一変形例のB-B断面(
図10(c)参照)より下側の機能部16が例えば互いの正面及び背面が同方向又は逆方向(反対方向)を向くように組み付く、あるいは
図11に示す第二変形例のC-C断面(
図11(d)及び
図11(e)参照)より下側の機能部16が例えば互いの正面及び背面が互いに同方向又は逆方向(反対方向)を向くように組み付くようにしてもよい。
【0041】
図10に示す第一変形例の固定部材10の場合は、
図10(c)に示すB-B断面(
図10(c)参照)より上側の係合部15を残し、その下側に、
図2に示す上記実施例のA-A断面(
図2(a)及び
図2(b)参照)より下側の機能部16が例えばそれぞれの正面及び背面が互いに同方向又は逆方向(反対方向)を向くように組み付く、あるいは
図11に示す第二変形例のC-C断面(
図11(d)及び
図11(e)参照)より下側の機能部16が例えばそれぞれの正面及び背面が互いに同方向又は逆方向(反対方向)を向くように組み付くようにしてもよい。
【0042】
図11及び
図12に示す第二変形例の固定部材10の場合は、
図11(d)及び
図11(e)に示すC-C断面よりも上側の係合部15を残し、その下側に、
図2に示す上記実施例のA-A断面(
図2(a)及び
図2(b)参照)より下側の機能部16が例えばそれぞれの正面及び背面が互いに同方向又は逆方向(反対方向)を向くように組み付く、あるいは
図10に示す第一変形例のB-B断面(
図10(c)参照)より下側の機能部16が例えば互いの正面及び背面が同方向又は逆方向(反対方向)を向くように組み付くようにしてもよい。
【0043】
なお、異なる実施例・変形例の係合部15と機能部16を組付ける時のそれぞれの向きは上記した向きに限らず、上記とは異なる向きで組付けてもよい。なお、機能部16は、上記実施例及び上述した各種変形例とは異なる機能及び形状のものであってもよい。
【0044】
また、上記実施例と上述した各種変形例については、皿状当接部13を除いた係合部15の部位を交換した形で形成してもよい。ただし、この場合、皿状当接部13における折り返し部13S、13Sが弾性係止片12、12の並び方向Yと一致する方向に位置するように組付いている必要がある。なお、係合部15は、上記実施例及び上述した各種変形例とは異なる形状のものであってもよい。
【0045】
また、上記実施例と上述した各種変形例においては、弾性係止片12、12が支柱11を挟んで設けられ、支柱11を挟む1組の弾性係止片12、12に対し並び方向Yを設定し、その並び方向Yの両側に折り返し部13S、13Sが形成されている。ところが、支柱11を挟む弾性係止片12、12の組が複数存在する場合には、並び方向Yが互いに交差する形で複数存在するから、皿状当接部13には、並び方向Yの数に応じた折り返し部13S、13Sを形成できる。ただし、この場合、少なくとも1つの弾性係止片12、12の組に対し折り返し部13S、13Sが形成されていればよく、必ずしも全ての弾性係止片12、12の組に対し折り返し部13S、13Sを形成する必要はない。
【符号の説明】
【0046】
1 固定部材の固定構造
10 固定部材
11 支柱
11Z 支柱の軸線
12 弾性係止片
12A 係止部
12p 突出先端部(下方突出部)
12c 係止突出部
13 皿状当接部
13S 折り返し部
13s 折り返し部の上面
15 係合部
16 機能部(ワイヤーハーネスの保持部)
100 板状部材
101 貫通孔
101a 貫通孔の内壁面
102 貫通孔の周辺部
200 長手状部材(ワイヤーハーネス)
300 治具
I 挿入方向
X 前後方向
Y 左右方向(弾性係止片の並び方向)
Z 上下方向