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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057771
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】繊維およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/46 20060101AFI20240418BHJP
   D01F 6/04 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
D01F6/46 C
D01F6/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164659
(22)【出願日】2022-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河相 龍宜
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝太郎
【テーマコード(参考)】
4L035
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035BB31
4L035BB89
4L035BB91
4L035EE20
4L035GG02
4L035HH01
4L035HH02
4L035HH03
4L035HH10
(57)【要約】
【課題】超高分子量ポリエチレンを用いた溶融紡糸法により得られ、強度および摺動性に優れる繊維を提供すること。
【解決手段】135℃のデカリン溶媒中で測定される極限粘度[η]が6~40dl/gである超高分子量ポリエチレン(A)と、135℃のデカリン溶媒中で測定される極限粘度[η]が0.1~5dl/gである低分子量ないし高分子量ポリエチレン(B)とを含み、かつ、135℃のデカリン溶媒中で測定される極限粘度[η]が3~15dl/gであるポリエチレン組成物(X)からなる、繊維。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
135℃のデカリン溶媒中で測定される極限粘度[η]が6~40dl/gである超高分子量ポリエチレン(A)と、
135℃のデカリン溶媒中で測定される極限粘度[η]が0.1~5dl/gである低分子量ないし高分子量ポリエチレン(B)と
を含み、かつ、135℃のデカリン溶媒中で測定される極限粘度[η]が3~15dl/gであるポリエチレン組成物(X)からなる、繊維。
【請求項2】
前記ポリエチレン組成物(X)において、前記超高分子量ポリエチレン(A)の含有量が5~30質量部であり、前記低分子量ないし高分子量ポリエチレン(B)の含有量が70~95質量部である(ただし、成分(A)および(B)の合計を100質量部とする。)、請求項1に記載の繊維。
【請求項3】
動摩擦係数が0.14未満である、請求項1に記載の繊維。
【請求項4】
繊維径が0.01~3.0mmの範囲にある、請求項1に記載の繊維。
【請求項5】
延伸倍率が5~30倍の範囲にある、請求項1に記載の繊維。
【請求項6】
溶融紡糸法で作製されたものである、請求項1に記載の繊維。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の繊維を製造する方法であって、前記ポリエチレン組成物(X)を溶融紡糸する工程を含む、繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高分子量ポリエチレンを含むポリエチレン組成物からなる繊維およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン製繊維は、軽量で強度があるため広く使用されており、その中でも、超高分子量ポリエチレン製繊維は高強度繊維として知られている。超高分子量ポリエチレンから繊維を製造する方法としては、その溶融粘度の高さから、押出成形による溶融紡糸法ではなく、現状では、溶媒を使用したゲル紡糸法が採用されている(例えば特許文献1、2参照)。
【0003】
しかしながら、超高分子量ポリエチレンを原料としたゲル紡糸法では、大量の有機溶媒を必要とするため、環境負荷が高く、工程の複雑化および設備の大規模化を引き起こすことから、コストの面で課題がある。
【0004】
一方、溶融粘度の低い、比較的分子量の低いポリエチレンを使用すれば、溶融紡糸は可能である(例えば特許文献3参照)。しかしながら、超高分子量ポリエチレンと比べて分子量が低いため、得られる繊維の弾性率が低いという課題がある。
【0005】
また、超高分子量ポリエチレン粒子を融点以下の温度で圧縮成形した後、延伸させる固相延伸法が知られているが(例えば特許文献4参照)、テープ形状の成形品となるため、細く均一な径の繊維を作成しにくいという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平1-24887号公報
【特許文献2】特表2012-509413号公報
【特許文献3】特開2003-55833号公報
【特許文献4】特開平9-254252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、超高分子量ポリエチレンを用いた溶融紡糸法により得られ、強度および摺動性に優れる繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討した結果、超高分子量ポリエチレンを含む特定のポリエチレン組成物を用いることによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明の態様の例を以下に示す。
【0009】
[1] 135℃のデカリン溶媒中で測定される極限粘度[η]が6~40dl/gである超高分子量ポリエチレン(A)と、
135℃のデカリン溶媒中で測定される極限粘度[η]が0.1~5dl/gである低分子量ないし高分子量ポリエチレン(B)と
を含み、かつ、135℃のデカリン溶媒中で測定される極限粘度[η]が3~15dl/gであるポリエチレン組成物(X)からなる、繊維。
【0010】
[2] 前記ポリエチレン組成物(X)において、前記超高分子量ポリエチレン(A)の含有量が5~30質量部であり、前記低分子量ないし高分子量ポリエチレン(B)の含有量が70~95質量部である(ただし、成分(A)および(B)の合計を100質量部とする。)、項[1]に記載の繊維。
【0011】
[3] 動摩擦係数が0.14未満である、項[1]または[2]に記載の繊維。
[4] 繊維径が0.01~3.0mmの範囲にある、項[1]~[3]のいずれか1項に記載の繊維。
[5] 延伸倍率が5~30倍の範囲にある、項[1]~[4]のいずれか1項に記載の繊維。
【0012】
[6] 溶融紡糸法で作製されたものである、項[1]~[5]のいずれか1項に記載の繊維。
[7] 項[1]~[6]のいずれか1項に記載の繊維を製造する方法であって、前記ポリエチレン組成物(X)を溶融紡糸する工程を含む、繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、超高分子量ポリエチレンを含み、強度および摺動性に優れるとともに、溶融紡糸法により製造することができる繊維を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書中、数値範囲の説明における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下のことを表す。例えば、「6~40dl/g」とは「6dl/g以上40dl/g以下」を意味する。
【0015】
本発明に係る繊維は、135℃のデカリン溶媒中で測定される極限粘度[η]が6~40dl/gである超高分子量ポリエチレン(A)と、135℃のデカリン溶媒中で測定される極限粘度[η]が0.1~5dl/gである低分子量ないし高分子量ポリエチレン(B)とを含み、かつ、135℃のデカリン溶媒中で測定される極限粘度[η]が3~15dl/gであるポリエチレン組成物(X)からなる。
【0016】
[ポリエチレン組成物(X)]
本発明で用いられるポリエチレン組成物(X)は、前記超高分子量ポリエチレン(A)と、前記低分子量ないし高分子量ポリエチレン(B)とを含む。
【0017】
<超高分子量ポリエチレン(A)>
上記超高分子量ポリエチレン(A)(以下「成分(A)」ともいう。)としては、例えば、エチレンの単独重合体、またはエチレンと、プロピレン、1-ブテン、イソブテン、1-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-イコセンなどの炭素数3以上のα-オレフィンとの共重合体が挙げられる。
【0018】
上記成分(A)の135℃のデカリン溶媒中で測定される極限粘度[η]は、6~40dl/g、好ましくは10~40dl/g、さらに好ましくは25~35dl/gである。成分(A)の極限粘度が前記範囲内であることにより、優れた強度及び摺動性を発現することができる。
【0019】
<低分子量ないし高分子量ポリエチレン(B)>
上記低分子量ないし高分子量ポリエチレン(B)(以下「成分(B)」ともいう。)は、135℃のデカリン溶媒中で測定される極限粘度が0.1~5dl/gであるポリエチレンであれば特に制限されるものではなく、通常、前記成分(A)と同様に、上記のようなエチレンの単独重合体、または、エチレンと炭素数3以上のα-オレフィンとの共重合体からなる。
【0020】
成分(B)の135℃のデカリン溶媒中で測定される極限粘度[η]は、0.1~5dl/g、好ましくは0.1~2dl/g、より好ましくは0.5~1.5dl/gである。成分(B)の極限粘度が前記範囲内であることにより、良好な溶融紡糸性が得られる。
【0021】
<ポリエチレン組成物(X)の組成および物性>
ポリエチレン組成物(X)において、成分(A)および成分(B)の合計を100質量部とした場合、成分(A)の含有量は、好ましくは5~30質量部、より好ましくは10~30質量部、さらに好ましくは10~28質量部の範囲であり、成分(B)の含有量は、好ましくは70~95質量部、より好ましくは70~90質量部、さらに好ましくは72~90質量部である。成分(A)および成分(B)の含有量が前記範囲内であることにより、溶融紡糸性と繊維の物性を両立することができる。
【0022】
ポリエチレン組成物(X)の135℃のデカリン溶媒中で測定される極限粘度は、3~15dl/g、好ましくは3~10dl/g、より好ましくは3~8dl/g、さらに好ましくは3~6dl/gの範囲である。ポリエチレン組成物(X)の極限粘度が前記範囲内であることにより、良好な溶融紡糸性が得られる。
【0023】
<ポリエチレン組成物(X)の調製方法>
ポリエチレン組成物(X)は、成分(A)と成分(B)とを、公知の方法で混合することによって調製される。
【0024】
また、オレフィンの重合時に、特定のチーグラー型触媒を用いる多段階重合を行なって超高分子量ポリエチレン(A)と低分子量ないし高分子量ポリエチレン(B)とを特定の割合で含む混合物を製造することによってポリエチレン組成物(X)を調製することができる。
【0025】
多段階重合によって 成分(A)と成分(B)とを含むポリエチレン組成物(X)を調製する方法としては、マグネシウム、チタンおよび及びハロゲンを必須成分とする高活性固体状チタン触媒成分(a)および及び有機アルミニウム化合物触媒成分(b)から形成されるチーグラー型触媒の存在下にオレフィンを多段階重合させる方法が採用される。
【0026】
ポリエチレン組成物(X)の調製に用いることのできる具体的なチーグラー触媒として、例えば、特開2001-279093号に記載されているチーグラー触媒が挙げられる。特開2001-279093号には、このようなチーグラー触媒の製造方法も記載されている。
【0027】
前記ポリエチレン組成物(X)は、前記成分(A)および(B)のみにより構成されていてもよいが、所望により、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに他の樹脂や添加剤等を含むことができる。
【0028】
添加剤としては、例えば、可塑剤、紫外線安定化剤、着色防止剤、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、耐候剤、帯電防止剤、糸摩擦低減剤、スリップ剤、離型剤、抗酸化剤、イオン交換剤、および着色顔料等が挙げられる。
【0029】
前記ポリエチレン組成物(X)は、上述した各成分を、公知の方法、例えば単軸や二軸の押出機、ニーダー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、タンブラーミキサー等を用いて溶融混練することにより調製することができ、必要に応じてペレット化して使用することもできる。
【0030】
[繊維]
本発明の繊維は、上述したポリエチレン組成物(X)からなる。
本発明の繊維における動摩擦係数は、特に限定されないが、好ましくは0.14未満、より好ましくは0.13以下である。動摩擦係数が前記範囲内であることにより、摺動性に優れた繊維となる。なお、前記動摩擦係数は、後述する実施例に記載の方法で測定される値である。
【0031】
本発明の繊維における繊維径は、特に限定されないが、好ましくは0.01~3.0mm、より好ましくは0.05~2.0mm、さらに好ましくは0.1~1.0mmの範囲である。
【0032】
本発明の繊維における延伸倍率は、特に限定されないが、好ましくは5~30倍、より好ましくは10~30倍の範囲である。延伸倍率が前記範囲内であることにより、繊維の強度や伸度などの機械的特性を向上させることができる。
【0033】
<繊維の製造方法>
本発明の繊維を製造する方法としては、特に限定されず、従来公知の方法を採用することができるが、製造効率等の観点から溶融紡糸法が好ましい。
本発明の繊維を溶融紡糸法で製造する方法としては、上述したポリエチレン組成物(X)を溶融紡糸する工程を含む限り、特に限定されず、公知の溶融紡糸法を採用することができる。以下、本発明の繊維を溶融紡糸法により製造する方法の一例を説明する。
【0034】
上述したポリエチレン組成物(X)を溶融紡糸機にて溶融し、計量ポンプで計量した後、紡糸口金から吐出して紡出糸条を得る。紡出糸条は冷却装置によって冷却、固化された後、巻取機で巻き取られて巻取糸となる。
【0035】
溶融紡糸機は、紡糸ができれば特に制限はなく、例えばエクストルーダー型、プレッシャーメルター型が挙げられる。製糸操業性、生産性、繊維の機械的特性を向上させるために、必要に応じて紡糸口金下部に2~20cmの長さの加熱筒や保温筒を設置してもよい。
【0036】
溶融紡糸における紡糸温度は、200~270℃であることが好ましい。紡糸温度が前記範囲内であることにより、紡糸口金より吐出された紡出糸条の伸長粘度が十分に低下するため吐出が安定し、紡糸張力が過度に高くならず、糸切れを抑制することができるとともに、紡糸時の熱分解を抑制することができ、得られる繊維の機械的特性不良や着色を抑制することができる。
【0037】
溶融紡糸における紡糸速度は、紡糸温度などに応じて適宜選択することができる。
溶融紡糸によって引き取られた未延伸糸は、所望の特性を有する繊維を得るために延伸を行った方が好ましい。延伸の方法は、特に制限がなく、公知の方法に従い、ドラムに一旦巻き取った未延伸糸を延伸する2工程法、ドラムへ巻き取らずに連続して延伸する直接紡糸延伸法などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
延伸における加熱方法としては、走行糸条を直接的あるいは間接的に加熱できる装置であれば、特に限定されない。加熱方法の具体例として、加熱ローラー、熱ピン、熱板、レーザーなどの装置、温水、熱水などの液体浴、熱空、スチームなどの気体浴などが挙げられるがこれらに限定されない。これらの加熱方法は単独で使用してもよく、複数を併用してもよい。加熱方法としては、加熱温度の制御、走行糸条への均一な加熱、装置が複雑にならない観点から、加熱ローラーとの接触、熱ピンとの接触、熱板との接触、温水や熱水などの液体浴への浸漬を好適に採用できる。
【0039】
延伸を行う場合の延伸倍率は、延伸後の繊維の強度や伸度などに応じて適宜選択することができ、上述した繊維の延伸倍率となることが好ましい。1段延伸法または2段以上の多段延伸法のいずれの方法によってもよい。
【0040】
延伸を行う場合の延伸温度は、延伸後の繊維の強度や伸度などに応じて適宜選択することができるが、80~140℃であることが好ましい。延伸温度が前記範囲内であれば、延伸に供給される糸条の予熱が充分に行われ、延伸時の熱変形が均一となり、繊度斑の発生を抑制できるとともに、延伸時の糸切れが抑制され、安定した延伸を行うことができる。
【0041】
<用途>
本発明の繊維は、モノフィラメント、マルチフィラメント、フラットヤーンの形態にすることで、ロープ、養生ネット、漁網、釣り糸、ライフジャケット、防虫網、婦人服、紳士服、裏地、アンダーウエア、ダウン、ベスト、ウインドブレーカー、靴下、靴の中敷き、マスク、手術用ガウン、離型布、吸油布、防水布、アウトドアウエア、サポーター、包帯、寝袋用生地、テント用生地、スキーウエア、ゴルフウエア、水着などのスポーツウエア、人工芝、布団用中綿、布団用側地、布団カバー、毛布、毛布用側地、毛布カバー、シーツ、枕用中綿、枕カバー、ぬいぐるみ用中綿、紙おむつ、生理用品、衛生用品、縫糸、フィルター、バグフィルター、集塵用フィルター、エアクリーナー、中空糸フィルター、浄水フィルター、ガス分離膜、デンタルフロス、歯ブラシ、ブラシ、カツラ、ベルト、鞄、靴、テーブルクロス、カーテン、カーペット、自動車用マット、ベルトコンベア基布、光ファイバー、吸音材、断熱材などの用途に好適であり、その用途はこれらに限定されるものではない。
【0042】
また、本発明の繊維は、軽量かつ高強度であるのに加えて、極細繊維の製造が可能になるため、不織布の形態にすることで、ダウン、マスク、吸油布、防水布、布団用中綿、布団用側地、布団カバー、毛布、毛布用側地、毛布カバー、シーツ、枕用中綿、枕カバー、ぬいぐるみ用中綿、不織布、紙おむつ、生理用品、衛生用品、縫糸、フィルター、バグフィルター、集塵用フィルター、エアクリーナー、中空糸フィルター、浄水フィルター、ガス分離膜、バッテリーセパレータフィルム、吸音材、断熱材などの用途に好適であり、その用途はこれらに限定されるものではない。
【実施例0043】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0044】
実施例および比較例で用いた成分(A)、(B)およびポリエチレン組成物の極限粘度は下記方法により測定した。
【0045】
(極限粘度[η])
デカリン溶媒を用いて、135℃で極限粘度[η]を測定した。すなわち、サンプル(約20mg)をデカリン溶媒(15mL)に溶解し、135℃のオイルバス中で比粘度ηspを測定した。このデカリン溶液にデカリン溶媒(5mL)を追加して希釈した後、前記と同様に比粘度ηspを測定した。この希釈操作をさらに2回繰り返し、サンプルの濃度(C)を0に外挿したときのηsp/Cの値をオレフィン重合体の極限粘度[η]とした。
極限粘度[η]=lim(ηsp/C) (C→0)
【0046】
[実施例1]
<ポリエチレン組成物(X)>
極限粘度が28dl/gの超高分子量ポリエチレン24質量部と、極限粘度が1.1dl/gであるポリエチレン樹脂76質量部からなるポリエチレン組成物を調製した。このポリエチレン組成物の極限粘度は5.3dl/gであった。
【0047】
<繊維の作製>
得られたポリエチレン組成物を原料として、キャピログラフ(東洋精機社製)を用いて、温度250℃、ノズル径1.0mmの条件で、直径0.98mmの原糸を作製した。この時、ノズル径と原糸の径が同一となるように、樹脂の押出速度と巻き取り速度を調整した。次いで、乾式繊維延伸装置(炉長:1.0m、送りボビン径5.0cm、巻き取りボビン径5.0cm)を用い、以下の条件および表1に示す延伸倍率となるように延伸を行った。なお、延伸倍率は、1次延伸および2次延伸を経た延伸倍率として算出した。
1次延伸:炉設定温度125℃、送り速度1rpm、巻き取り速度12rpm
2次延伸:炉設定温度140℃、送り速度1rpm、巻き取り速度1.3~2.0rpm
【0048】
得られた繊維について、以下に示す方法で、繊維径および動摩擦係数の測定を行った。結果を表1に示す。
<繊維径>
TRUSCO製デジタルノギス(品番:TDN-100)を用いて、繊維上の任意の3点の径を測定し、平均値を繊維径とした。
【0049】
<動摩擦係数>
学振摩耗試験機を用いて動摩擦係数を測定した。具体的には、作製した繊維3本を貼り付けたガラス板(10cm×10cm)を試験ステージに設置し、相手材としてガラス片(3cm×3cm)を繊維に接地させた。次いで、ガラス片に250gの荷重をかけ、3mm/sの速度で一方向に摺動させた際の摩擦係数を動摩擦係数とした。
【0050】
[実施例2および3]
実施例1と同様にして調製したポリエチレン組成物を用いて、延伸倍率が表1に示す倍率となるように延伸を行ったこと以外は実施例1と同様にして繊維を作製して物性を測定した。結果を表1に示す。
【0051】
[実施例4]
極限粘度が28dl/gの超高分子量ポリエチレン13質量部と、極限粘度が1.1dl/gであるポリエチレン樹脂87質量部からなるポリエチレン組成物を調製した。このポリエチレン組成物の極限粘度は3.2dl/gであった。得られたポリエチレン組成物を用いたこと、および、表1に示す延伸倍率としたこと以外は、実施例1と同様にして繊維を作製して物性を測定した。結果を表1に示す。
【0052】
[比較例1]
成分(A)を用いずに、成分(B)に相当するプライムポリマー製「ハイゼックス 7000F」(極限粘度:4.9dl/g)のみを用いたこと以外は実施例1と同様にして繊維を作製したが、2次延伸の最中に破断したため、1次延伸のみとした。1次延伸のみにより得られた繊維について、実施例1と同様にして物性を測定した。結果を表1に示す。
【0053】
[比較例2]
成分(A)を用いずに、成分(B)に相当するプライムポリマー製「ハイゼックス 1700J」(極限粘度:1.2dl/g)を用いたこと以外は実施例1と同様にして繊維を作製したが、2次延伸の最中に破断したため、1次延伸のみとした。1次延伸のみにより得られた繊維について、実施例1と同様にして物性を測定した。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】