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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057816
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】被膜形成用組成物及び被膜並びに薬液
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/06 20060101AFI20240418BHJP
   C09D 183/08 20060101ALI20240418BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
C09D201/06
C09D183/08
C09K3/18 104
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164737
(22)【出願日】2022-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 央基
(72)【発明者】
【氏名】三田 海人
(72)【発明者】
【氏名】井上 僚
(72)【発明者】
【氏名】賀川 みちる
【テーマコード(参考)】
4H020
4J038
【Fターム(参考)】
4H020AA06
4H020BA32
4H020BA33
4H020BA34
4J038DL082
4J038FA251
4J038GA09
4J038JB04
4J038JB07
4J038KA03
4J038MA07
4J038MA14
4J038NA01
4J038NA07
4J038PB03
4J038PB06
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】透明性が高く、優れた撥水性及び滑水性を有する被膜を形成することができる被膜形成用組成物及び被膜並びに薬液を提供する。
【解決手段】本発明の被膜形成用組成物は、少なくとも二個のアミノ基を有する化合物Aと、少なくとも二個のエポキシ基を有する化合物Eと、シリコーン骨格の片末端にアミノ基又はエポキシ基を有する化合物Sとを含み、前記化合物Sは、前記化合物A、前記化合物E及び前記化合物Sの総質量に対して3~50質量%含まれる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも二個のアミノ基を有する化合物Aと、
少なくとも二個のエポキシ基を有する化合物Eと、
シリコーン骨格の片末端にアミノ基又はエポキシ基を有する化合物Sと
を含み、
前記化合物Sは、前記化合物A、前記化合物E及び前記化合物Sの総質量に対して3~50質量%含まれる、被膜形成用組成物。
【請求項2】
前記化合物Aの分子量は、300以下である、請求項1に記載の被膜形成用組成物。
【請求項3】
少なくとも二個のアミノ基を有する化合物Aに基づく構造単位Aと、
少なくとも二個のエポキシ基を有する化合物Eに基づく構造単位Eと、
シリコーン骨格の片末端にアミノ基又はエポキシ基を有する化合物Sに基づく構造単位Sと
を有する化合物Pを含み、
前記構造単位Sは、前記構造単位A、前記構造単位E及び前記構造単位Sの総質量に対して3~50質量%以上含まれる、被膜。
【請求項4】
前記化合物Aの分子量は、300以下である、請求項3に記載の被膜。
【請求項5】
転落角が10°以下である、請求項3又は4に記載の被膜。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の被膜形成用組成物の硬化物を含む、被膜。
【請求項7】
転落角が10°以下である、請求項6に記載の被膜。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の被膜形成用組成物を含有する、薬液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被膜形成用組成物及び被膜並びに薬液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超撥水性を対象物の表面に付与しうる被膜が種々提案されている。例えば、特許文献1には、分子内に2つ以上の重合性基を有する化合物を用いることで、超撥水性及び耐摩耗性を両立した超撥水性被膜を形成できることが開示されている。特許文献2には、フッ素原子を含む被膜であって、被膜の諸性能を適切に制御することで、超撥水性及び耐摩耗性を両立した超撥水性被膜を形成できる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2016/056663号
【特許文献2】国際公開第2017/179678号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、透明性が高く、優れた撥水性及び滑水性を有する被膜を形成することができる被膜形成用組成物及び被膜並びに薬液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本開示は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
少なくとも二個のアミノ基を有する化合物Aと、
少なくとも二個のエポキシ基を有する化合物Eと、
シリコーン骨格の片末端にアミノ基又はエポキシ基を有する化合物Sと
を含み、
前記化合物Sは、前記化合物A、前記化合物E及び前記化合物Sの総質量に対して3~50質量%含まれる、被膜形成用組成物。
項2
前記化合物Aの分子量は、300以下である、項1に記載の被膜形成用組成物。
項3
少なくとも二個のアミノ基を有する化合物Aに基づく構造単位Aと、
少なくとも二個のエポキシ基を有する化合物Eに基づく構造単位Eと、
シリコーン骨格の片末端にアミノ基又はエポキシ基を有する化合物Sに基づく構造単位Sと
を有する化合物Pを含み、
前記構造単位Sは、前記構造単位A、前記構造単位E及び前記構造単位Sの総質量に対して3~50質量%以上含まれる、被膜。
項4
前記化合物Aの分子量は、300以下である、項3に記載の被膜。
項5
転落角が10°以下である、項3又は4に記載の被膜。
項6
項1又は2に記載の被膜形成用組成物の硬化物を含む、被膜。
項7
転落角が10°以下である、項6に記載の被膜。
項8
項1又は2に記載の被膜形成用組成物を含有する、薬液。
【発明の効果】
【0006】
本開示の被膜形成用組成物によれば、透明性が高く、優れた撥水性及び滑水性を有する被膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0008】
本開示の被膜形成用組成物は、
少なくとも二個のアミノ基を有する化合物Aと、
少なくとも二個のエポキシ基を有する化合物Eと、
シリコーン骨格の片末端にアミノ基又はエポキシ基を有する化合物Sと
を含み、
前記化合物Sは、前記化合物A、前記化合物E及び前記化合物Sの総質量に対して3~50質量%含まれる。
【0009】
本開示の被膜形成用組成物によれば、透明性が高く、優れた撥水性及び滑水性を有する被膜を形成することができる。
【0010】
また、本開示の被膜は、
少なくとも二個のアミノ基を有する化合物Aに基づく構造単位Aと、
少なくとも二個のエポキシ基を有する化合物Eに基づく構造単位Eと、
シリコーン骨格の片末端にアミノ基又はエポキシ基を有する化合物Sに基づく構造単位Sと
を有する化合物Pを含み、
前記構造単位Sは、前記構造単位A、前記構造単位E及び前記構造単位Sの総質量に対して3~50質量%以上含まれる。
【0011】
本開示の被膜は、透明性が高く、優れた撥水性及び滑水性を有する。
【0012】
以下、本開示の被膜形成用組成物及び本開示の被膜における前記化合物A、前記化合物E及び前記化合物Sを順に説明する。
【0013】
(化合物A)
化合物Aは、少なくとも二個のアミノ基を有する化合物である。化合物Aは、分子中に少なくとも二個のアミノ基を有する限りは特に限定されず、例えば、公知の化合物を広く挙げることができる。
【0014】
化合物Aにおいて、アミノ基は、アンモニアから一個の水素を除去した1価の基(すなわち、-NH)であってもよいし、第一級アミンから一個の水素を除去した1価の基(すなわち、-NHR)であってもよく、被膜形成用組成物の硬化性が向上しやすい点で、化合物Aにおけるアミノ基は、-NHであることが好ましい。
【0015】
化合物Aが有するアミノ基の個数は、十個以下であることが好ましく、六個以下であることがより好ましい。化合物Aが有するアミノ基の個数は、二個であることが特に好ましい。
【0016】
化合物Aとしては、エポキシ樹脂との硬化反応に用いられる各種アミン化合物であることが好ましく、例えば、エポキシ樹脂との硬化反応に用いられる各種の直鎖脂肪族アミン、芳香族アミン、脂環式アミン等を挙げることができる。
【0017】
前記直鎖脂肪族アミンとしては、例えば、炭素数が2~20のアミン化合物を挙げることができ、具体的には、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン等のジアミン化合物;その他、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタミン;等を挙げることができる。
【0018】
前記芳香族アミンとしては、m-キシレンジアミン、o-キシレンジアミン、p-キシレンジアミン、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、パラキシレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジシクロヘキサン、ビス(4-アミノフェニル)フェニルメタン、1,5-ジアミノナフタレン、メタキシレンジアミン、パラキシレンジアミン等を挙げることができる。
【0019】
前記脂環式アミンとしては、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、イソフォロンジアミン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ノルボルネンジアミン、1,2-ジアミノシクロヘキサン等を挙げることができる。
【0020】
化合物Aの分子量は特に制限はない。被膜の透明性が高く、優れた撥水性及び滑水性を有しやすい点で、化合物Aの分子量は、300以下であることが好ましく、250以下であることがより好ましく、200以下であることがさらに好ましく、150以下であることが特に好ましい。化合物Aの分子量の下限は、少なくとも二個のアミノ基を有する限りは特に限定されず、例えば、50とすることができる。
【0021】
化合物Aは、m-キシレンジアミン及び1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサンからなる群より選ばれる1種を含むことが特に好ましい。この場合、本開示の被膜形成用組成物は、より透明性が高く、また、より一層優れた撥水性及び滑水性を有する被膜を形成しやすい。
【0022】
本開示において、化合物Aは、1種単独とすることができ、あるいは、2種以上とすることもできる。
【0023】
(化合物E)
本開示において、化合物Eは、少なくとも二個のエポキシ基を有する化合物である。言い換えれば、化合物Eは、3員環のエーテルであるオキシランを少なくとも二個有する化合物である。なお、エポキシ基はグリシジル基であってもよい。
【0024】
化合物Eは、分子中に少なくとも二個のエポキシ基を有する限りは特に限定されず、例えば、公知の化合物を広く挙げることができる。
【0025】
化合物Eが有するエポキシ基の個数は、十個以下であることが好ましく、六個以下であることがより好ましい。化合物Eが有するエポキシ基の個数は、二個であることが特に好ましい。
【0026】
化合物Eとしては、例えば、脂環式エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、アルキレンオキシド変性ビスフェノールエポキシ化合物、ナフタレン型2官能エポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ化合物、ポリグリシジルエーテル等を挙げることができる。
【0027】
前記脂環式エポキシ化合物は、特に限定はされず、例えば、富士フイルムワコーケミカル社製の3´,4´―エポキシシクロヘキサンカルボン酸3,4―エポキシシクロヘキシルメチル、東京化成工業社製の1,2:5,6―ジエポキシヘキサヒドロインダン等を挙げることができる。
【0028】
前記ビスフェノールA型エポキシ化合物は、特に限定はされず、例えば、Merck社製の分子量の異なるポリ(ビスフェノールA-co-エピクロロヒドリン)各種を挙げることができる。
【0029】
化合物Eの分子量は特に制限はない。被膜の透明性が高く、優れた撥水性及び滑水性を有しやすい点で、化合物Eの分子量は、1000以下であることが好ましく、800以下であることがより好ましく、600以下であることがさらに好ましく、400以下であることが特に好ましい。化合物Eの分子量の下限は、少なくとも二個のエポキシ基を有する限りは特に限定されず、例えば、80とすることができる。
【0030】
ただし、化合物Eが重合反応を伴い調製された化合物である場合(すなわち、オリゴマー又はポリマーである場合)、化合物Eの分子量とは「数平均分子量」であることを意味する。化合物Eの数平均分子量は、1000以下であることが好ましく、800以下であることがより好ましく、600以下であることがさらに好ましく、400以下であることが特に好ましい。化合物Eの数平均分子量の下限は、少なくとも二個のエポキシ基を有する限りは特に限定されず、例えば、80とすることができる。なお、本明細書において、数平均分子量は、例えば、核磁気共鳴法、質量分析法又は高速液体クロマトグラフィー法若しくはこれらを組み合わせて測定された値を意味するが、化合物Eの数平均分子量のメーカー保証値等が判明している場合は、その値を化合物Eの数平均分子量とすることができる。
【0031】
化合物Eは、ポリグリシジルエーテル及び脂環式エポキシ化合物からなる群より選ばれる1種を含むことが特に好ましい。この場合、被膜は、より透明性が高く、また、より一層優れた撥水性及び滑水性を有しやすい。
【0032】
本開示において、化合物Eは、1種単独とすることができ、あるいは、2種以上とすることもできる。
【0033】
(化合物S)
本開示において、化合物Sは、シリコーン骨格の片末端にアミノ基又はエポキシ基を有する化合物である。より詳しくは、化合物Sは、シリコーン骨格の片末端のみにアミノ基又はエポキシ基を有する化合物である。従って、化合物Sにおいて、シリコーン骨格の逆末端には、アミノ基及びエポキシ基以外の基を有し、例えば、水素やアルキル基である。なお、エポキシ基はグリシジル基であってもよい。
【0034】
化合物Sは、シリコーン骨格の片末端にアミノ基又はエポキシ基を有する限り、その種類は特に限定されず、例えば、公知のシリコーンを広く適用することができる。
【0035】
化合物Sにおいて、シリコーン骨格は、シロキサン結合(-Si-O-結合)に基づく主骨格である。シリコーン骨格におけるSiには、例えば、炭素数1~22のアルキル基が結合し得る。また、化合物Sの分子量は特に限定されず、例えば、数平均分子量で100~10000とすることができる。
【0036】
化合物Sの製造方法は特に限定されず、例えば、公知の製造方法を広く採用することができる。また、化合物Sは市販品から入手することもでき、例えば、Gelest,Inc.の「MCR-A12-h」を挙げることができる。
【0037】
以下、本開示の被膜形成用組成物及び本開示の被膜を説明する。
【0038】
(被膜形成用組成物)
本開示の被膜形成用組成物は、前述のように、前記化合物Aと、前記化合物Eと、前記化合物Sとを必須成分として含有する。
【0039】
本開示の被膜形成用組成物において、前記化合物Sは、前記化合物A、前記化合物E及び前記化合物Sの総質量に対して3~50質量%含まれる。これにより、本開示の被膜形成用組成物から形成される被膜は、所望の透明性、撥水性及び滑水性を有することができる。
【0040】
本開示の被膜形成用組成物において、前記化合物Sの含有割合は、前記化合物A、前記化合物E及び前記化合物Sの総質量に対し、好ましくは4質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、特に好ましくは15質量%以上である。前記化合物Sの含有割合は、前記化合物A、前記化合物E及び前記化合物Sの総質量に対し、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、特に好ましくは35質量%以下である。
【0041】
本開示の被膜形成用組成物において、前記化合物Aの含有割合は特に限定されない。例えば、前記化合物Aの含有割合は、前記化合物A、前記化合物E及び前記化合物Sの総質量に対し、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、特に好ましくは40質量%以上である。また、前記化合物Aの含有割合は、前記化合物A、前記化合物E及び前記化合物Sの総質量に対し、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、特に好ましくは60質量%以下である。
【0042】
本開示の被膜形成用組成物は、被膜形成用組成物の効果が阻害されない限り、他の成分を含有することもできる。例えば、本開示の被膜形成用組成物は、必要に応じて、溶媒を含むこともできる。溶媒の種類は限定されず、例えば、被膜を形成するために使用されている溶媒を広く使用することができ、例えば、ハイドロフルオロエーテル等のフッ素系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル化合物;アルコール化合物等を挙げることができる。
【0043】
本開示の被膜形成用組成物に含まれる溶媒の含有量は特に限定されず、例えば、前記化合物A、前記化合物E及び前記化合物Sの総質量100質量部あたり、2000質量部以下とすることができる。本開示の被膜形成用組成物は溶媒を含まなくてもよい。すなわち、本開示の被膜形成用組成物に含まれる溶媒の含有量は前記化合物A、前記化合物E及び前記化合物Sの総質量100質量部あたり、0質量部であってもよい。
【0044】
本開示の被膜形成用組成物は、前記化合物A、前記化合物E及び前記化合物Sのみからなるものであってもよく、また、本開示の被膜形成用組成物は、前記化合物A、前記化合物E、前記化合物S及び前記溶媒のみからなるものであってもよい。
【0045】
本開示の被膜形成用組成物の調製方法は特に限定されない。例えば、前記化合物A、前記化合物E及び前記化合物Sを所定の配合量で混合することで調製することができる。混合方法も特に限定されず、例えば、公知の混合機等を広く使用することができる。
【0046】
本開示の被膜形成用組成物を用いて被膜を形成する方法は特に限定されない。例えば、被膜形成用組成物を、被膜を形成するための基材に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を硬化することで、被膜を形成することができる。斯かる被膜は本開示の被膜形成用組成物の硬化物である。
【0047】
被膜形成用組成物を基材に塗布する方法は特に制限されず、公知の塗膜形成方法を広く採用することができる。例えば、刷毛塗り、スプレー、スピンコート、ディスペンサー等の方法で被膜形成用組成物を基材に塗布できる。
【0048】
被膜形成用組成物の塗膜を形成するための基材の種類は特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の公知の樹脂基材、その他、金属、無機基材等の各種の基材を挙げることができる。
【0049】
被膜形成用組成物の塗膜を硬化する方法も特に限定されず、例えば、公知の熱硬化方法を広く採用することができる。斯かる熱硬化方法としては、被膜形成用組成物の塗膜を60~150℃に加熱する方法が好ましい。加熱時間は特に制限されず、加熱温度に応じて適宜設定することができる。溶媒を含む場合、前述の塗膜形成過程及び塗膜の硬化過程において、溶媒の一部または全部が除去され得る。
【0050】
本開示の被膜形成用組成物は、上記のように硬化させることで、前記化合物A、前記化合物E及び前記化合物Sの反応が進行する。例えば、化合物Aが有するアミノ基、化合物Eが有するエポキシ基、化合物Sが有するアミノ基又はエポキシ基が互いに反応することで重合反応が起こり、高分子化合物が形成される。斯かる高分子化合物は、後記する化合物Pになり得る。
【0051】
本開示の被膜形成用組成物を用いて薬液を調製することができる。斯かる薬液は、本開示の被膜形成用組成物を含むので、被膜を形成するための使用に好適である。薬液は、被膜形成用組成物のみで構成することができ、あるいは、本開示の被膜形成用組成物の目的とする諸性能が阻害されない程度である限り、他の添加剤(例えば、被膜形用溶薬剤として使用される公知の添加剤)を含むことができる。
【0052】
(被膜)
本開示の被膜は、前述のように、前記化合物Aに基づく構造単位Aと、前記化合物Eに基づく構造単位Eと、前記化合物Sに基づく構造単位Sとを有する化合物Pを含む。前記構造単位Sは、前記構造単位A、前記構造単位E及び前記構造単位Sの総質量に対して3~50質量%以上含まれる。これにより、本開示の被膜形成用組成物から形成される被膜は、所望の透明性、撥水性及び滑水性を有することができる。前記構造単位Sが、前記構造単位A、前記構造単位E及び前記構造単位Sの総質量に対して50質量%を超過すると、被膜表面が液状となり、その液状成分が被膜表面に物理接触した物体表面に容易に付着することで、その物体に対しての汚染物となり、被膜の実用的価値の低下を引き起こし、あるいは使用用途が制限されるおそれがあり、また、被膜が硬化しにくくなるおそれもある。前記構造単位Sが、前記構造単位A、前記構造単位E及び前記構造単位Sの総質量に対して3質量%未満であると、十分な撥水性及び滑水性が発現しにくくなる。
【0053】
本開示の被膜は、例えば、前述の本開示の被膜形成用組成物を硬化することで形成することができる。
【0054】
本開示の被膜において、前記構成単位Sの含有割合は、前記構造単位A、前記構造単位E及び前記構造単位Sの総質量に対し、好ましくは4質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、特に好ましくは15質量%以上である。本開示の被膜において、前記構成単位Sの含有割合は、前記構造単位A、前記構造単位E及び前記構造単位Sの総質量に対し、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、特に好ましくは35質量%以下である。
【0055】
本開示の被膜形成用組成物において、前記構造単位Aの含有割合は特に限定されない。例えば、前記構造単位Aの含有割合は、前記構造単位A、前記構造単位E及び前記構造単位Sの総質量に対し、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、特に好ましくは40質量%以上である。また、前記構造単位Aの含有割合は、前記構造単位A、前記構造単位E及び前記構造単位Sの総質量に対し、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、特に好ましくは60質量%以下である。
【0056】
本開示の被膜は、前記化合物Pを必須成分として含有する。斯かる化合物Pは、通常は、高分子化合物であり、前記化合物A、前記化合物E及び前記化合物Sの反応生成物(重合生成物)である。
【0057】
本開示の被膜は、前記化合物Pのみで形成されていてもよいし、本開示の被膜の目的とする諸性能が阻害されない程度である限り、他の成分を含有することもできる。
【0058】
本開示の被膜の厚みは特に限定されず、所望の用途に応じて適宜の範囲とすることができる。例えば、本開示の被膜は、平均膜厚が、10nm~100μm、最低局部膜厚が5nm~50μm、最大局部膜厚が15nm~150μmであり、好ましくは、平均膜厚が、15nm~95μm、最低局部膜厚が10nm~45μm、最大局部膜厚が20nm~145μm、より好ましくは、平均膜厚が、20nm~90μm、最低局部膜厚が15nm~40μm、最大局部膜厚が25nm~140μm、である。
【0059】
平均膜厚の算出方法は、特に限定されず、例えば、塗布量、固形分濃度及び原料の密度に基づいて概算できる他、種々の(分)光学的分析手法(レーザー顕微鏡、エリプソメトリー、フィルメトリクス、膜厚計等)等を用いて測定することができる。その他、収束イオンビーム装置やミクロトームで等で断面を露出させ、試料切片を作製することで走査型又は透過型電子顕微鏡で算出する方法も挙げられる。これらの手法を単独もしくは、複数用いることで、塗膜膜厚の算出が可能である。尚、具体的に挙げた測定手法に加えて、他の分析手法と組み合わせて算出してもよい。最低局部膜厚、最大局部膜厚は、3次元の形状を測定できる装置を用いることで、算出可能である。その装置の一例として、KEYENCE製の形状解析レーザー顕微鏡VK-X1000が挙げられる。尚、最低局部膜厚、最大局部膜厚は、レーザー顕微鏡のみを用いて、算出してもよいし、上記に具体的に挙げた測定方法に加え、他の分析手法と組み合わせて算出してもよい。また、なんらかの方法にて予め部分的に基材を露出させ、測定する塗膜の局部と基材との高低差を観察し算出してもよい。
【0060】
本開示の被膜は、例えば、水の静的接触角が60°以上である。これにより、本開示の被膜は優れた撥水性が発揮され得る。本開示の被膜は、水の静的接触角が120°以下であることが好ましい。
【0061】
水の静的接触角は、接触角計(協和界面科学社「Drop Master 701」)を用いて測定され、具体的には、水(2μLの液滴)を用いて、1サンプルに対して5点の測定が行われる。静的接触角が150°以上になると、その液体は自立して基材表面に存在することができなくなる場合がある。このような場合はシリンジのニードルを支持体として静的接触角を測定し、その時の得られた値を静的接触角とする。
【0062】
本開示の被膜は、例えば、厚さ0.010~500μmにおけるヘイズ値が3%以下であることができる。これにより、本開示の被膜は優れた透明性を有する。本開示の被膜は、厚さ0.05~100μmにおけるヘイズ値が2%以下であることが好ましい。
【0063】
本開示の被膜のヘイズ値は、市販のヘイズメーター、例えば、日本電色工業株式会社「NDH 7000SP」を用いて測定することができる。ヘイズ値(%)は、拡散透過率/全光線透過率×100によって算出された値を意味する。測定は、白色LEDを試料の測定面に対し垂直に照射することで行い、ポリカーボネート基板上に本開示の被膜を形成させた試料を測定対象とした。斯かるポリカーボネート基板の種類は特に限定されず、例えば、アズワン社提供の樹脂サンプルプレート「PC・透明型番:PCC-□300-1」を適宜の大きさ(例えば,50mm角の大きさ)に切断して使用することができる。
【0064】
本開示の被膜は、例えば、転落角が10°以下である。これにより、本開示の被膜は優れた撥水性及び滑水性が発揮され得る。本開示の被膜は、転落角が0.1以上であることが好ましい。
【0065】
転落角の測定には、協和界面科学社の接触角計「Drop Master 701」を用える。具体的には、水(20μLの液滴)を用いて、1サンプルに対して3回測定し、これらの平均値を転落角とする。注射針の先端に20μLの水滴を形成させた後、水平な試料ステージ上に載せたコーティング基板表面と注射針先端の水滴との距離を、試料ステージ側の可動により、徐々に近づけ、両者が接触したときに試料ステージと注射針を一旦静止させ、次いで、試料ステージ側を動かし、注射針と試料ステージをゆっくりと離すことにより、コーティング基板表面に水滴を着滴させる。着滴後、概ね5秒以内に、試料ステージを2°/秒の傾斜速度で傾斜させ、傾斜角1°ごとにズーム倍率「W1」で基板表面の水滴画像の静止画を撮影する。水滴の後退側の接触線が移動し始めたとき(0.1~1mm移動したとき)の試料ステージの傾斜角度を転落角とする。
【0066】
本開示の被膜は、被膜は、撥水性及び/又は撥油性を被処理面に付与するために用いられ、超撥液性が要求される種々の物品等に好適に使用することができる。
【0067】
本開示の被膜の用途は特に限定されず、例えば、撥水撥油剤、着霜遅延用途、防氷効果剤、防雪効果剤、指紋付着防止剤、指紋不認化剤、低摩擦剤、潤滑剤、タンパク質付着制御剤、細胞付着制御剤、微生物付着制御剤、スケール付着抑制剤、防カビ剤、防菌剤等に本開示の被膜を好適に使用することができる
【実施例0068】
以下、実施例により本開示をより具体的に説明するが、本開示はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0069】
(原料)
下記に示す原料から適宜の原料を選択して、被膜形成用組成物を調製した。
【0070】
<化合物A>
少なくとも二個のアミノ基を有する化合物として、下記の化合物を用いた。
・化合物A1:東京化成工業社製のm-キシレンジアミン(m-XDA;分子量136)
・化合物A2:東京化成工業社製の1,3-ビススアミノメチルシクロヘキサン(1,3-BAC;分子量142)
【0071】
<化合物E>
少なくとも二個のエポキシ基を有する化合物として、下記の化合物を用いた。
・化合物E1:メルク社から販売されているシグマ-アルドリッチ製のポリ(ビスフェノールA-co-エピクロロヒドリン)(両末端にエポキシ基を有するエポキシ化合物;数平均分子量377)
・化合物E2:富士フイルムワコーケミカル社製の3´,4´―エポキシシクロヘキサンカルボン酸3,4―エポキシシクロヘキシルメチル(ECHM―ECHC;分子量252)
・化合物E3:東京化成工業社製の1,2:5,6―ジエポキシヘキサヒドロインダン (DEHHI;分子量152)
【0072】
<化合物S>
シリコーン骨格の片末端にアミノ基を有する化合物として、下記の化合物を用いた。
・化合物S1:Gelest,Inc.社製「MCR-A12-h」(片末端シリコーンアミン、数平均分子量2,000g/mol)
【0073】
(実施例1)
表1に示す実施例1の配合条件に従い、各種の原料を選択して、被膜形成用組成物を調製した。具体的には、化合物E1を0.51g、化合物A1を0.18g、化合物S1を0.22g、溶媒として酢酸ブチル(双葉化学薬品株式会社)を3.57g準備し、これらをガラスバイアルに投入し、撹拌器にて100rpmの回転数で10分間にわたって攪拌を続けた。これにより、被膜形成用組成物を得た。
【0074】
(実施例2~15、比較例1~9)
表1に示すように原料の種類及び使用量を変更したこと以外は実施例1と同様の方法で被膜形成用組成物を得た。なお、実施例12~15及び比較例7~9は溶媒を不使用とした。
【0075】
(被膜評価)
以下のように作製した被膜を用いて、被膜のヘイズ、静的接触角及び転落角を測定した。
【0076】
<被膜の作製>
各実施例及び比較例で得られた被膜形成用組成物それぞれに対して、手振りを約1分実施してから、スプレー法により基材であるポリカーボネート板に塗布して、塗膜を形成させた。この塗膜を130℃の雰囲気化で10分間にわたって熱処理を実施し、被膜を形成させた。
【0077】
<ヘイズ測定>
被膜のヘイズ値は、日本電色工業社の「NDH 7000SP」を用い、拡散透過率/全光線透過率×100によってヘイズ値を算出した。測定は、白色LEDを試料の測定面に対し垂直に照射することで行い、ポリカーボネート基板上に本開示の被膜を形成させた試料を測定対象とした。ポリカーボネート基板は、アズワン社提供の樹脂サンプルプレート「PC・透明型番:PCC-□300-1」を適宜の大きさに切断することで準備した。
【0078】
<静的接触角>
水の静的接触角は、協和界面科学社の接触角計「Drop Master 701」を用いた。具体的には、水(2μLの液滴)を用いて、1サンプルに対して5点の測定を行った。静的接触角が150℃以上になると、その液体は自立して基材表面に存在することができなくなる場合があるので、この場合はシリンジのニードルを支持体として静的接触角を測定し、その時の得られた値を静的接触角とした。
【0079】
<転落角>
転落角の測定には、協和界面科学社の接触角計「Drop Master 701」を用いた。具体的には、水(20μLの液滴)を用いて、1サンプルに対して3回測定し、これらの平均値を転落角とした。注射針の先端に20μLの水滴を形成させた後、水平な試料ステージ上に載せたコーティング基板表面と注射針先端の水滴との距離を、試料ステージ側の可動により、徐々に近づけ、両者が接触したときに試料ステージと注射針を一旦静止させ、次いで、試料ステージ側を動かし、注射針と試料ステージをゆっくりと離すことにより、コーティング基板表面に水滴を着滴させた。着滴後、概ね5秒以内に、試料ステージを2°/秒の傾斜速度で傾斜させ、傾斜角1°ごとにズーム倍率「W1」で基板表面の水滴画像の静止画を撮影した。水滴の後退側の接触線が移動し始めたとき(0.1~1mm移動したとき)の試料ステージの傾斜角度を転落角とした。
【0080】
【表1】
【0081】
表1には、各実施例及び比較例で調製した被膜形成用組成物の配合条件及び該組成物から形成された被膜物性の結果を示している。なお、表1において、配合条件の空欄は、その原料を使用していないことを意味する。
【0082】
表1から、実施例で得られた被膜形成用組成物から形成される被膜は、ヘイズが小さいことから透明性が高いものであることがわかった。加えて、実施例で得られた被膜形成用組成物から形成される被膜は、静的接触角が大きく、また、転落角が小さいことから、優れた撥水性及び滑水性を有することがわかった。