(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057828
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】抗菌性に優れるNi合金
(51)【国際特許分類】
C22C 19/03 20060101AFI20240418BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240418BHJP
C22F 1/10 20060101ALN20240418BHJP
【FI】
C22C19/03 Z
C22F1/00 623
C22F1/00 624
C22F1/00 625
C22F1/00 626
C22F1/00 630K
C22F1/00 640Z
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 684C
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691Z
C22F1/10 A
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164759
(22)【出願日】2022-10-13
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000232793
【氏名又は名称】日本冶金工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】武井 隆幸
(57)【要約】
【課題】合金中のCu量を大きく変化させることなく抗菌性を向上させたNi-Cu合金を提供する。
【解決手段】以下、mass%にて、C:0.01~0.3%、Si:0.01~0.5%、P:0.03%以下、S:0.0020%以下、Cu:28~34%、Al:0.010~0.1%、Fe:3%以下、Mg:0.005~0.05%、B:0.0001~0.01%、Sn:0.0004~0.05%を含有し、残部Niおよび不可避的不純物からなるともに、以下の式(1)および式(2)を満足することを特徴とするNi合金。
0.0004 < 0.08%Sn + %B …式(1)
0.01 > 0.35%Sn - %B …式(2)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下、mass%にて、
C:0.01~0.3%
Si:0.01~0.5%
P:0.03%以下
S:0.0020%以下
Cu:28~34%
Al:0.010~0.1%
Fe:3%以下
Mg:0.005~0.05%
B:0.0001~0.01%
Sn:0.0004~0.05%
を含有し、残部Niおよび不可避的不純物からなるともに、
以下の式(1)および式(2)を満足することを特徴とするNi合金。
0.0004 < 0.08%Sn + %B …式(1)
0.01 > 0.35%Sn - %B …式(2)
【請求項2】
上記成分組成に加えて、さらに式(3)を満足することを特徴とする請求項1に記載のNi合金。
0.001 < 0.1%Sn + %B …式(3)
【請求項3】
上記成分組成に加えてさらに、
Ti:0.01~0.3%
を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のNi合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性を有するNi合金に関するものである。なお、本発明の形状は、板に限定するものではなく、棒、線、管などいずれであってもよい。
【背景技術】
【0002】
Ag、Cu、Snなどが抗菌性を有していることは従来から知られており、種々の分野に用いられている。これらの金属元素が抗菌性を発現する理由として、金属から溶出したイオンが細菌の組織と反応して、呼吸機能や代謝機能を低下させて死滅させること、または、溶出した金属イオンの作用により酸素などのラジカルが生成して、微生物の細胞を破壊、分解するなどが挙げられる。
【0003】
抗菌性を有する一般的な元素としてはCuがあり、CuとNiを主とする合金として、キュプロニッケル(白銅。Cuを主体とし、Niを10~30%含有)やモネル(Niを65%前後含有、Cuを30%前後含有)などがある。
【0004】
Cu合金の抗菌性はCu含有量が多いほど良い。例えば特許文献1には、銅合金の粉末を積層造形し、その抗菌性を評価しており、粉末中のCu濃度が高いほど、抗菌性に優れる結果が得られている。
【0005】
一方、合金板を考えた場合、Ni-Cu合金は加工性や強度に優れるため、用途に合わせた形状に加工することが容易であり、そのため金属部材として様々な用途に用いられる。その強度はNiの含有量が多いほど大きくなるため、要求される強度により用いられるNi合金が異なる。これは、Ni-Cu合金中のCu量、つまりは抗菌性を、同一用途(部材)で大きく変更できないことを意味する。
【0006】
さらに、一般に、Ni-Cu合金ではCu量が増すにつれて赤みがかった色に変化するため、抗菌性向上のためにCu含有量を増やすことは外観上の色調統一の観点からも好ましくない場合が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上より、本発明の課題は、合金中のCu量を大きく変化させることなく抗菌性を向上させたNi-Cu合金を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は、上記問題を解決すべく鋭意検討を重ねた。結果、Snの添加により抗菌性が向上すること見出し、また、SnとBを複合添加することで、Sn添加による抗菌性向上効果をより有効に作用させられることを見出した。一方で、Snの多量添加は熱間加工性の低下を招くおそれがあるが、適切量のBを添加することでその低下を抑制できることを見出し、本発明を開発するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下、mass%にて、C:0.01~0.3%、Si:0.01~0.5%、P:0.03%以下、S:0.0020%以下、Cu:28~34%、Al:0.010~0.1%、Fe:3%以下、Mg:0.005~0.05%、B:0.0001~0.01%、Sn:0.0004~0.05%を含有し、残部Niおよび不可避的不純物からなるともに、以下の式(1)および式(2)を満足することを特徴とするNi合金である。
0.0004 < 0.08%Sn + %B …式(1)
0.01 > 0.35%Sn - %B …式(2)
【0011】
本発明においては、上記成分組成に加えて、さらに式(3)を満足することを好ましい態様とする。
0.001 < 0.1%Sn + %B …式(3)
【0012】
本発明においては、上記成分組成に加えてさらに、Ti:0.01~0.3%を含有することを好ましい態様とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、主成分を大きく変化させることなく、抗菌性を向上させたNi合金を提供することができるので、抗菌性が求められる部材に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実験1におけるSn濃度、B濃度、式(1)および式(3)と、抗菌性との関係を示すグラフである。
【
図2】実験2におけるSn濃度、B濃度および式(2)と、加工性との関係を示すグラフである。
【
図3】実施例の合金No.1群におけるSn濃度、B濃度、式(1)および式(3)と、抗菌性評価との関係を示すグラフである。
【
図4】実施例の合金No.1群におけるSn濃度、B濃度および式(2)と、加工性評価との関係を示すグラフである。
【
図5】実施例の合金No.2群におけるSn濃度、B濃度、式(1)および式(3)と、抗菌性評価との関係を示すグラフである。
【
図6】実施例の合金No.2群におけるSn濃度、B濃度および式(2)と、加工性評価との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明者らはNi-Cu合金へのSn、B添加の効果を検証するために、下記の実験を行った。
(実験1)
Cu:32%、Fe:1%、Mn:1%を含有し、さらにSn、Bを表1に示した組成で含有し、残部Niからなる合金を高周波誘導炉を用いてマグネシア坩堝中で大気溶解し、CaO-Al2O3-MgO-F系スラグで脱硫した後、鋳型で鋳込んで20kgインゴットとした。
【0016】
次いで、上記インゴットを熱間圧延し、焼鈍し、酸洗し、さらに冷間圧延し、板厚2mmの冷延版とし、その後、焼鈍、酸洗して冷延焼鈍板とした後、該冷延焼鈍板から50mm×50mmに切り出し抗菌試験用の試験片を採取した。
【0017】
次いで、JISZ2801:2010に規定される抗菌試験と同一手順であるが、規格菌濃度である2.5×105~10×105CFU/mlと比べ、高濃度である菌液濃度109~1010CFU/mlとした抗菌試験を実施した。試験片表面を#240湿式研磨を施し、水道水洗浄、洗剤洗浄、蒸留水洗浄を施し、乾燥させた後に、アルコール洗浄を施し自然乾燥させた、これを試験表面とした。
【0018】
表1のNo.A(Sn,B無添加)を無加工品として扱い、抗菌活性値Rを求めた。
試験手順は以下の通りである。まず、大腸菌NBRC3972を1/100NB培地に懸濁し、109~1010CFU/mlの菌液を調製した。それぞれシャーレ上に試験片を設置し、菌液0.4mlを接種し、PE製被覆フィルムを上から覆った。37℃、24時間培養したのち、SCDLP培地で試験片上の菌体を洗浄、回収し、生菌数測定し、抗菌活性値Rを算出した。抗菌活性値Rは、24時間後の無加工試験片の生菌数を、対象試験片の生菌数で除し、その対数値にて表したものである。
【0019】
JISでは抗菌活性値Rが2以上である場合、抗菌性を有すると判断される。しかし、本実験で対象としている合金(無加工品)が抗菌性を有しているため、抗菌活性値Rが1.3以上あれば十分な抗菌性向上の効果があったと判断した。すなわち抗菌活性値Rが、R<1.3を抗菌性向上効果なし(×)、1.3≦R≦1.7を抗菌性向上効果あり(〇)、1.7<Rを抗菌性向上効果が優れた(◎)と判定した。
【0020】
上記試験結果を表1に併記した。また、横軸にSn濃度、縦軸にB濃度として
図1に整理した。
図1より、Snを添加すると抗菌性が向上することがわかり、また、SnとBを複合添加で、より抗菌性が向上することが分かった。Bのみの添加では抗菌性向上効果はないことから(No.B)、抗菌効果を示す元素はSnであり、Bがその効果を補助していることがわかった。
【0021】
少量のSn添加であってもBを添加することで抗菌性を向上させる理由として、両元素ともに粒界に偏析しやすい元素であることが考えられる。Bとの競合偏析により、Snが比較的材料組織内に均一に存在することで、金属イオン放出時の不均一性が抑制されたことが一つの要因と考えられる。
【0022】
上記結果から、〇と◎がプロットされた
図1中の実線の右上領域を示す式(1)を満足すれば抗菌性が向上することがわかり、
0.0004 < 0.08%Sn + %B …式(1)
【0023】
また、◎がプロットされた
図1中の点線の右上領域を示す式(3)を満足すれば、さらなる抗菌性向上が認められることが分かった。
0.001 < 0.1%Sn + %B …式(3)
【0024】
【0025】
(実験2)
上記の実験1により、Sn添加が抗菌性向上に有効であり、添加するほどその特性は向上することがわかった。ただし、Snは熱間加工性を劣化させる元素であり、Sn多量添加は製造性を劣化させる。一方、Bは熱間加工性を向上させる元素として知られており、そこで、B添加によりSnによる加工性劣化の抑制を検討した。
【0026】
Cu:32%、Fe:1%、Mn:1%を含有し、さらにSn、Bを表2に示した組成で含有し、残部Niからなる合金を(実験1)と同様の方法で20kgインゴットとし、インゴットから直径8mmφ×長さ70mmの丸棒引張試験片を採取した。
【0027】
熱間加工性再現試験装置(グリーブル試験機)を使用して、高温引張試験に供した。上記引張試験では、上記丸棒引張試験片を1100℃に加熱して、60秒保持し、900℃まで10℃/sで冷却して、その温度で30秒保持した後、引張速度100mm/sの高速で引張試験を行い、試験後の破断面から絞り率を求めた。絞り率が60%以上で熱間圧延時の耳割れが発生しなくなることから、絞り率60%以上のものを加工性良(〇)、60%未満のものを加工性悪(×)と判定した。
【0028】
上記試験結果を表2に併記した。また、横軸にSn濃度、縦軸にB濃度として
図2に整理した。
図2より、Snを添加すると加工性が劣化することがわかり、その劣化をB添加により抑制させることができることがわかった。
【0029】
No.aに関しては、Sn無添加、B添加の条件にもかかわらず加工性に劣った。これは、B添加量が多く、凝固割れ感受性に劣り、インゴットを製造した段階で内部に欠陥が生じていたためである。その欠陥が引張試験片に加工した状態でも残存したため、絞りに劣った。
【0030】
上記結果から、
図2中の実線の左上領域を示す式(2)を満足すれば熱間加工性が向上することがわかった。
0.01 > 0.35%Sn - %B …式(2)
【0031】
【0032】
次に、本発明のNi合金の有すべき成分組成について説明する。
C:0.01~0.3%
Cは強度を制御するために必要な元素である。そのために0.01%以上の添加が必要である。一方、多量の添加は延性を損ない、また、熱処理時に著しい粒界酸化が生じるため、0.3%以下の添加とする必要がある。
好ましくは0.03~0.2%である。
【0033】
Si:0.01~0.5%
Siは脱酸元素である。脱酸を有効に作用させるために0.01%以上の添加が必要である。過剰な添加は溶接性を劣化させるため0.5%を上限とする。好ましくは0.03~0.4%である。
【0034】
P:0.03%以下
Pは合金中に不可逆的に混入する元素であり、凝固割れの助長や熱間加工性を低下させるため、低い方が良い。上限を0.03%とする。好ましくは0.02%以下とする。
【0035】
S:0.0020%以下
Sは熱間加工性を劣化させる元素で、0.0020%以下に低減する必要がある。好ましくは0.0010%以下である。
【0036】
Cu:28~34%
Cuは抗菌性を発現させる元素である。また、残部Niとのバランスで強度が決定される。そのため、28~34%の範囲にする必要がある。
【0037】
Al:0.010~0.1%
Alは脱酸元素であるため、0.010%以上含有する必要がある。0.1%を超えると熱間加工性を劣化させる。好ましくは0.015~0.080%である。
【0038】
Fe:3%以下
製造コストを低減するため、Feを添加する。ただし3%を超えると、抗菌試験時のFeイオン量溶出増大によるCuイオン溶出が抑制され、抗菌性が劣化する。好ましくは2%以下である。
【0039】
Mg:0.005~0.05%
Mgは熱間加工性を劣化させるSと結合してMgSを形成することでSを無害化する。その効果を得るために0.005%以上の添加が必要で、一方、0.05%を超えて添加してもS無害化効果は飽和し、MgNi2などの低融点金属間化合物を生成して逆に熱間加工性を劣化させる。そのため、0.005~0.05%を含有量とする。好ましくは0.01~0.03%である。
【0040】
B:0.0001~0.01%
BはSn添加による抗菌性向上を補助する効果があり、また、熱間加工性を向上させる効果もある。どちらの効果も、それぞれ0.0001%以上含むと効果がある。一方、多量の添加は凝固割れ感受性を増大させるため0.01%以下を上限とする。そのため0.0001~0.01%を含有量とする。好ましくは0.0002~0.007%の範囲である。
【0041】
Sn:0.0004~0.05%
Ni-Cu合金中において抗菌性を向上させる効果があり、0.0004%以上の添加が必要である。過剰な含有は熱間加工性を劣化させるため上限は0.05%とする。
好ましくは0.0014~0.040%である。
【0042】
抗菌性規定式(式(1))
本発明のNi合金は上記成分を満足することに加えて、式(1)を満足することが必要である。なお、式中の「%元素記号」は当該元素の含有量のmass%の数値を意味する。
0.0004 < 0.08%Sn + %B …式(1)
前述したとおり、Snには抗菌性を向上する効果があり、かつ、Snを含んだ上でBを含有させることで、よりSnによる抗菌性効果が向上することが実験1からわかっている。
【0043】
加工性規定式(式(2))
さらに、本発明のNi合金は上記成分を満足することに加えて、式(2)を満足することが必要である。
0.01 > 0.35%Sn - %B …式(2)
Snは熱間加工性を劣化させる元素である一方で、Bは熱間加工性を向上させる元素である。実験2に基づき、Snによる熱間加工劣化をB含有によって抑制するため、式(2)を満たすように含有する必要がある。
【0044】
より好ましい抗菌性規定式(式(3))
さらに、本発明のNi合金は上記成分組成および式(1)、(2)を満足することに加えてさらに、下の式(3)を満足することが好ましい。
0.001 < 0.1%Sn + %B …式(3)
【0045】
また、本発明のNi合金はTiを以下の範囲で含有することができる。
Ti:0.01~0.3%
Tiは、Oと結合しTiO2を形成する。TiO2は光触媒効果があり、暗所であっても抗菌性を発揮する。
TiO2は以下のような熱処理工程にて形成される。スラブ加熱時や、熱間圧延後の熱処理時、冷間圧延後の熱処理時において、炉内雰囲気中に存在するOと材料表面元素が反応して酸化スケールを形成する。酸化スケールより内部の領域は、スケールによる保護効果により酸素拡散が抑制され酸素分圧が低下し、主成分であるNiやCuは酸化せず、活性な元素であるTiのみが酸化して、粒界に沿って、または、粒内に粒状のTiO2を形成する。この現象は比較的広い酸素濃度、熱処理温度で起こり、例えば、大気炉(酸素濃度20%)~LNGガス炉(酸素濃度1%)で生じ、温度は800℃以上で生じる。その後、表面の酸化スケールは、酸洗などで除去されることで、TiO2が材料表面に露出し板製品となる。
上記効果を得るためには0.01%以上の含有が必要である。ただし、0.3%を超えると熱間加工性を劣化させるため、その上限を0.3%とする。好ましくは0.02~0.2%である。
【0046】
本発明のNi合金は上記各種主要成分および各副成分以外の残部は、Niおよび不可避的不純物である。不可避的不純物としては、特に限定されないが、例えば、非金属介在物などが挙げられる。また、必要に応じて、合金元素として、Cr、Co、Mn、Mo、W、N、V、Pbなどを含んでもよい。
【実施例0047】
モネル屑、キュプロニッケル屑、純ニッケルなどを所定の比率に調整した原料を電気炉にて溶解し、AOD(argon oxygen decarburization)炉で脱炭精錬するとともに、生石灰、蛍石、Al、Si等を投入して脱硫、脱酸処理を施した。その後、LF工程にて、表3に示した種々の成分組成に調整した後、連続鋳造してスラブとした。なお、表3に示したC、Sの組成は炭素硫黄同時分析装置(酸素気流中燃焼―赤外線吸収法)を用いて、上記以外の成分は蛍光X線分析を用いて、分析した値である。なお、表中の空欄は意図的な添加を行っていないことを示すものである。また、成分、式への代入値が発明範囲外の数値には括弧を付してある。
【0048】
次いで、上記スラブをスラブ加熱炉にて酸素濃度1~5%・温度950~1100℃で加熱し、熱間圧延し、酸素濃度1~4%・温度800~950℃で焼鈍し、酸洗し、冷間圧延し、酸素濃度1~3%・温度800~900℃で焼鈍し、酸洗して、板厚2mmの冷延コイルとした。この際、熱間圧延後の板の両幅端部をコイル全長にわたって目視確認して、長さ10mm以上の割れが、
100m当たり10箇所以上発生したものを加工性が劣(×)、
9箇所以下のコイルは加工性良(〇)、
と判定して表3に併記した。
【0049】
次いで、上記冷延コイルから50mm×50mmの小片を切りだし、表面を#240湿式研磨を施し、水道水洗浄、洗剤洗浄、蒸留水洗浄を施し、乾燥させた後に、アルコール洗浄を施し自然乾燥させ、抗菌試験用の試験片とした。
【0050】
実験1と同一の試験方法にて抗菌試験を実施した。表3の供試材はCu量で大きく2群に分かれる。それぞれNo.1群はCuを28.1%前後含有し、No.2群は33.8%前後含有する。両群ともに、Sn無添加(検出限界以下)、B無添加(検出限界以下)をベース材として、ベース材を抗菌試験無加工品とした。抗菌活性値の算出方法は実験1と同じであり、抗菌性の向上効果の評価×〇◎も実験1と同じで、以下とし、
【0051】
抗菌活性値Rが、
R<1.3を抗菌性向上効果なし(×)、
1.3≦R≦1.7を抗菌性向上効果あり(〇)、
1.7<Rを抗菌性向上効果が優れた(◎)
と判定して表3に併記した。
【0052】
総合評価として、
抗菌性が「◎」かつ加工性が「〇」である供試材を「◎」
抗菌性が「〇」かつ加工性が「〇」である供試材を「〇」
抗菌性と加工性の少なくともいずれか一方が「×」である供試材を「×」
と評価して表3に併記した。総合評価の◎○が本発明例である。なお、抗菌性と加工性が良好でも、割れの発生など他の不具合により総合評価不能「-」の例がある。
【0053】
【0054】
また、実施例のNo.1群、No.2群において、式(1)、式(3)と抗菌性評価の関係と、式(2)と加工性の関係を
図3~6に示す。
【0055】
表3中のNo.1-1~1-11および、No.2-1~2-14までの合金は本発明の条件を満たす発明例であり、ベース材と比較して抗菌性が向上しており、かつ、熱間加工性に優れる。中でも式(3)を満足する成分組成を満たす材料は抗菌性がより向上している。No.1-11、No.2-10に関しては、
図3、5に示す通り総合評価とプロット領域が合っていないが、これは、式(3)を僅かに満足しないも、Ti添加により抗菌性「◎」であったからである。
【0056】
一方、No.1群の比較例については、
比較例No.1-12、13はSnが範囲外であり、また(1)を満足せず、抗菌性向上効果に劣った。
比較例No.1-14は、式(1)は満足するも、Snが範囲外であり、抗菌性向上効果に劣った。
比較例No.1-15は、Snおよび式(1)が範囲外で、抗菌性向上効果に劣った。
比較例No.1-16は、Snが範囲外で、抗菌性向上効果に劣った。
比較例No.1-17は、Snおよび式(1)が範囲外で、抗菌性向上効果に劣った。
比較例No.1-18は、抗菌性向上効果および加工性は問題ないものの、表面欠陥が大量に発生し、研削による製造コストが増大し、歩留まりが低下した。
比較例No.1-19は式(1)を満足せず抗菌性向上効果に劣った。
比較例No.1-20、21は式(2)を満足せず熱間加工性に劣った。
比較例No.1-22はFe量が多く、抗菌試験時のFe溶解量が多くなることでCu溶解が抑制され、抗菌性向上効果が抑制された。
比較例No.1-23はAlが範囲外であり、熱間加工性に劣った。
比較例No.1-24はAlが範囲外であり、熱間加工性に劣った。
【0057】
No.2群の比較例については、
比較例No.2-15、16は式(1)を満足せず、抗菌性向上効果が劣った。
比較例No.2-17はSnが範囲外であり、式(2)を満足せず、熱間加工性に劣った
比較例No.2-18、19は、式(2)を満足せず、熱間加工性に劣った。
比較例No.2-20はBが範囲外であった。凝固割れ感受性が高まり、スラブに割れが生じ、板にできなかったので、評価不能とした。
比較例No.2-21は、Bが範囲外であった。凝固割れ感受性が高まり、スラブに割れが生じ、板にできなかった。
比較例No.2-22は、Snが範囲外で、加工性に劣った。
比較例No.2-23はCが範囲外であった。中間焼鈍、最終焼鈍時に粒界酸化が生じ、著しい肌荒れが生じたので、評価不能とした。
比較例No.2-24はPが範囲外であり、熱間加工性に劣った。
比較例No.2-25はSiが範囲外であった。コイルを通す際にコイル連結溶接を施すが、溶接性が劣るため強度確保ができず、通板できなかったので、評価不能とした。
比較例No.2-26はMgが範囲外であった、Sの固着効果がなく、熱間加工性が劣った。