(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005783
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】ランオフプレート及びランオフプレートを用いた溶接加工方法
(51)【国際特許分類】
B23K 37/06 20060101AFI20240110BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20240110BHJP
【FI】
B23K37/06 R
B23K26/21 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106152
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダ
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】吉村 泰典
(72)【発明者】
【氏名】入江 真
(72)【発明者】
【氏名】舟木 厚司
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA13
4E168BA56
4E168BA83
4E168FB03
(57)【要約】
【課題】ランオフプレート1の除去工数を大幅に削減する。
【解決手段】母材100(101及び102)を溶接する際に母材100の溶接継手100Jの母材端部100Eに固定され、母材100を溶接する接合作業の溶接終端部を母材100に残さないためのランオフプレート1であって、母材端部100Eに当接される突起部10と、突起部10の周囲に配置され、母材端部100Eに突起部10が当接した状態で母材100に対して固定される本体部20と、突起部10と本体部20とを繋ぎ接合作業時に生じる熱が加えられることで溶け落ちる接続部30と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材を溶接する際に前記母材の溶接継手の母材端部に固定され、前記母材を溶接する接合作業の溶接終端部を前記母材に残さないためのランオフプレートであって、
前記母材端部に当接される突起部と、
前記突起部の周囲に配置され、前記母材端部に前記突起部が当接した状態で前記母材に対して固定される本体部と、
前記突起部と前記本体部とを繋ぎ、前記接合作業時に生じる熱が加えられることで溶け落ちる接続部と、
を備えるランオフプレート。
【請求項2】
前記接続部は、前記突起部と前記本体部との熱伝導経路である
請求項1に記載のランオフプレート。
【請求項3】
前記接続部は、前記溶接継手の延長線上の位置で前記突起部と前記本体部とを繋ぐ
請求項1に記載のランオフプレート。
【請求項4】
前記接続部は、前記溶接終端部に位置し、前記接合作業により溶け落ちる大きさである
請求項1に記載のランオフプレート。
【請求項5】
前記突起部は、前記接続部を除き、熱絶縁要素により前記本体部と熱絶縁されている
請求項1に記載のランオフプレート。
【請求項6】
前記接続部は、前記本体部が固定される際に変形せずに前記突起部を保持する剛性を有する
請求項1に記載のランオフプレート。
【請求項7】
前記突起部の大きさは、前記接続部が前記溶接終端部に位置した場合に、前記突起部に生じる溶融池及びクレータが前記突起部内に収まり、前記突起部に生じる溶融池の大きさが前記母材に生じる溶融池の大きさと比較して一致又は小さくなるサイズである
請求項1に記載のランオフプレート。
【請求項8】
前記母材はレーザ溶接により接合され、
前記溶接継手の長さ方向の寸法を長さ、前記溶接継手の幅方向の寸法を幅と定義した場合、前記接続部の長さは(1)式を満たし、前記接続部の幅は(2)式を満たす
請求項1に記載のランオフプレート。
ただし、ビードは、前記接合作業時に生じる溶接金属の盛り上がり部であり、ビードの幅は測定されたビード幅の最小値から最大値までの範囲に含まれる。
[数1]
接続部の長さ=ビードの幅×0.3・・・(1)
[数2]
接続部の幅=ビードの幅×0.3・・・(2)
【請求項9】
前記母材はレーザ溶接により接合され、
前記溶接継手の長さ方向の寸法を長さ、前記溶接継手の幅方向の寸法を幅と定義した場合、前記突起部の長さは(3)式を満たし、前記突起部の幅は(4)式を満たす
請求項1に記載のランオフプレート。
ただし、ビードは、前記接合作業時に生じる溶接金属の盛り上がり部であり、ビードの幅は測定されたビード幅の最小値から最大値までの範囲に含まれ、クレータは、前記接合作業時に前記ビードの終端部にできる窪み部である。
[数3]
突起部の長さ≧クレータの長さ・・・(3)
[数4]
突起部の幅≧ビードの幅×3・・・(4)
【請求項10】
前記本体部は、平行する2つのクランプバンドにより前記溶接継手の長さ方向に沿って固定され、前記溶接継手の長さ方向の寸法を長さ、前記溶接継手の幅方向の寸法を幅と定義した場合、前記本体部の長さは(5)式を満たし、前記本体部の幅は(6)式を満たす
請求項1に記載のランオフプレート。
ただし、
Xは、前記接合作業が前記母材から前記突起部に移動し、前記接続部が溶け落ちるまで、前記本体部が移動しないで固定されるに要する面積となる必要最低限の長さであり、
クランプの間隔は、前記2つのクランプバンド間の距離であり、
クランプの押さえ代は、前記クランプバンドが前記本体部を固定する前記溶接継手の幅方向の寸法である。
[数5]
本体部の長さ≧突起部の長さ+接続部の長さ+X・・・(5)
[数6]
本体部の幅≧クランプの間隔+(2×クランプの押さえ代)・・・(6)
【請求項11】
前記突起部の平面形状は、一の辺が前記母材と当接する四角形状である
請求項1に記載のランオフプレート。
【請求項12】
前記突起部の平面形状は、一つの辺が前記母材と当接する三角形状、又は直径部分が前記母材と当接する半円形状である
請求項1に記載のランオフプレート。
【請求項13】
突合せ溶接、角継手溶接、すみ肉溶接、重ね継手溶接に用いることができる
請求項1に記載のランオフプレート。
【請求項14】
請求項1に記載のランオフプレートを用いた溶接加工方法であって、
前記溶接継手の前記母材端部に前記突起部を当接し、
前記本体部を前記母材に対して固定し、
前記接合作業を前記母材端部から前記突起部へ延長して前記接続部を溶け落とし、
前記接合作業後に前記母材に溶接された前記突起部を取り除く
ランオフプレートを用いた溶接加工方法。
【請求項15】
前記突起部へ延長した前記接合作業の溶接終端部は、前記接続部の位置に設定する
請求項14に記載のランオフプレートを用いた溶接加工方法。
【請求項16】
前記接続部が前記溶接継手の延長線上に位置するように前記本体部を前記母材に固定する
請求項15に記載のランオフプレートを用いた溶接加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランオフプレート及びランオフプレートを用いた溶接加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、溶接終端部にはクレータ又は溶落ちが生じることが知られており、これらの欠陥部位を溶接する母材に生じさせないようにするために、溶接終端部を継手の外側に設定するランオフプレートを用いた溶接加工が知られている(非特許文献1)。なお、本明細書で記載する「クレータ」とは、JIS Z3001-7:2018 番号73146(ISO/TR25901-4:2016)で定義されるクレータ(crater)を指し、「溶落ち」は、JIS Z3001-4:2013 番号47010(ISO6520-1:1998 番号510)で定義された溶落ち(burn through)を指す。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】横田 大和著「片面サブマージアーク溶接の終端割れ防止技術」KOBELCO書房 2018年10月号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ランオフプレートは母材に溶接されてしまうため、ランオフプレートの除去工程に時間を要することとなる。ランオフプレートの除去は、グラインダによる研磨除去が一般的であり、ランオフプレートと母材との接合部の容積が大きければ大きいほど除去に多大な時間を要する。また、ランオフプレートを折り曲げて除去する方法もあるが、ランオフプレートを除去した際に母材に切欠きが生じる可能性があり、商品としての品質を満たさない場合がある。つまり、ランオフプレートを用いた溶接加工は、溶接終端部に生じる溶接欠陥を排除できるが、ランオフプレートの除去に手間がかかるという課題がある。ただし、ランオフプレートは溶接前の母材との固定のために一定のサイズが必要であるため、ランオフプレートのサイズの小型化には限界がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、母材を溶接する際に母材の溶接継手の母材端部に固定され、母材を溶接する接合作業の溶接終端部を母材に残さないためのランオフプレートであって、母材端部に当接される突起部と、突起部の周囲に配置され、母材端部に突起部が当接した状態で母材に対して固定される本体部と、突起部と本体部とを繋ぎ、接合作業時に生じる熱が加えられることで溶け落ちる接続部と、を備える。
【0006】
本発明の一態様であるランオフプレートによれば、母材の溶接継手の母材端部に当接される突起部を備えることにより、母材の接合作業を母材端部から突起部へ延長することができる。これにより、溶接終端部に生じる欠陥部位が母材に生じることを防止することができる。突起部の周囲に配置され、母材端部に突起部が当接した状態で母材に対して固定される本体部を備えることにより、突起部が母材端部に当接した状態を保持することができる。突起部と本体部とを繋ぎ、接合作業時に生じる熱が加えられることで溶け落ちる接続部を備えることにより、接合作業を母材端部から突起部へ延長することで接続部を溶け落とし、本体部を突起部から溶断することができる。これにより、母材には突起部のみが接合される。
【0007】
本発明の一態様は、母材の溶接継手の母材端部に当接される突起部と、突起部の周囲に配置され、母材端部に突起部が当接した状態で母材に対して固定される本体部と、突起部と本体部とを繋ぎ、接合作業時に生じる熱が加えられることで溶け落ちる接続部と、を備えるランオフプレートを用いた溶接加工方法であって、母材の溶接継手の母材端部に突起部を当接し、本体部を母材に対して固定し、接合作業を母材端部から突起部へ延長して接続部を溶け落とし、接合作業後に母材に溶接された突起部を取り除く。
【0008】
本発明の一態様であるランオフプレートを用いた溶接加工方法によれば、母材の溶接継手の母材端部に突起部を当接し、本体部を母材に対して固定することにより、突起部が母材端部に当接した状態を保持することができる。これにより、母材の接合作業の溶接終端部を母材端部から突起部へ延長することができ、溶接終端部に生じる欠陥部位が母材に生じることを防止することができる。接合作業を母材端部から突起部へ延長して接続部を溶け落とすことで、本体部を突起部から溶断することができる。これにより、母材には突起部のみが接合される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、ランオフプレートの除去工数を大幅に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るランオフプレートの構成例を示す図である。
【
図2A】
図2Aは、本実施形態に係るランオフプレートが母材に固定された状態、及び接合作業が母材端部から突起部へ延長された状態を示す図である。
【
図2B】
図2Bは、本実施形態に係るランオフプレートの接合作業後の本体部が溶断された状態を示す図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係るランオフプレートの各部寸法の位置を示す図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係るランオフプレートの突起部及び接続部の寸法を決定するためのメルトランテストを示す図である。
【
図5A】
図5Aは、本実施形態に係るランオフプレートを固定する治具の一例を示す上面図であり、本体部の寸法の決定方法の一例を示す図である。
【
図5B】
図5Bは、本実施形態に係るランオフプレートを固定する治具の一例を示す側面図であり、本体部の寸法の決定方法の一例を示す図である。
【
図6A】
図6Aは、接続部の適切な寸法を決定する試験を行った際の試験プレートを示す図である。
【
図6B】
図6Bは、接続部が溶け落ちる寸法を決定するための試験内容を示す図である。
【
図7A】
図7Aは、接続部の試験結果を示す図である(その1)。
【
図7B】
図7Bは、接続部の試験結果を示す図である(その2)。
【
図8A】
図8Aは、メルトランテストで得られたビード幅を示す図である。
【
図8B】
図8Bは、接続部の試験結果を示す図である(その3)。
【
図8C】
図8Cは、接続部の試験結果を示す図である(その4)。
【
図9】
図9は、メルトランテストで得られたクレータの長さを示す図である。
【
図11】
図11は、突起部の他の平面形状の例を示す図である。
【
図12】
図12は、本実施形態に係るランオフプレートが適用可能な溶接継手の種類を例示する図である。
【
図13A】
図13Aは、本実施形態に係るランオフプレートを用いた溶接加工方法を模式的に示した図である(その1)。
【
図13B】
図13Bは、本実施形態に係るランオフプレートを用いた溶接加工方法を模式的に示した図である(その2)。
【
図13C】
図13Cは、本実施形態に係るランオフプレートを用いた溶接加工方法を模式的に示した図である(その3)。
【
図13D】
図13Dは、本実施形態に係るランオフプレートを用いた溶接加工方法を模式的に示した図である(その4)。
【
図13E】
図13Eは、本実施形態に係るランオフプレートを用いた溶接加工方法を模式的に示した図である(その5)。
【
図14】
図14は、本実施形態に係るランオフプレートを用いた溶接加工方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面を参照して、実施形態を説明する。図面の記載において同一部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0012】
[ランオフプレートの構成]
図1から
図2Bを参照して本実施形態に係るランオフプレート1の構成を説明する。本実施形態に係るランオフプレート1は、母材100(101及び102)を接合する際に母材100の溶接継手100Jの母材端部100Eに固定されて用いられ、母材100の接合作業の溶接終端部を、母材端部100Eから外側へ延長するための板状の部材である。本実施形態では、例えば、母材101及び母材102はレーザ溶接によって接合されるが、アーク溶接であってもよい。
【0013】
図1は、本実施形態に係るランオフプレートの構成例を示す図である。
図2Aは、本実施形態に係るランオフプレートが母材に固定された状態、及び接合作業が母材端部から突起部へ延長された状態を示す図である。
図2Bは、本実施形態に係るランオフプレートの接合作業後の本体部が溶断された状態を示す図である。なお、「接合作業」とは、母材100を溶融して接合する作業である。例えば、レーザ溶接の場合、接合作業は、溶接継手100Jへレーザを照射する作業に相当する。
【0014】
ランオフプレート1は、母材100の溶接継手100Jの母材端部100Eに当接される突起部10と、突起部10の周囲に配置され、母材端部100Eに突起部10が当接した状態で母材100に対して固定される本体部20と、突起部10と本体部20とを繋ぎ、接合作業時に生じる熱が加えられることで溶け落ちる接続部30と、を備えている。
【0015】
接続部30は、突起部10と本体部20との熱伝導経路である。接続部30は、接合作業の溶接終端部に位置し、接合作業により溶け落ちる大きさとなっている。接続部30は、溶接継手100Jの延長線上の位置で突起部10と本体部20とを繋いでもよい。
【0016】
突起部10は、接続部30を除き、熱絶縁要素により本体部と熱絶縁されている。本実施形態では、スリット40が熱絶縁要素として設けられている。なお、熱絶縁要素はスリット40に限定されない。例えば、熱絶縁要素は、突起部10及び本体部20に対して熱伝導率の低い部材であってもよく、接続部30を除き、突起部10の周囲に熱伝導率の低い部材を配置してもよい。
【0017】
ランオフプレート1は、例えば、レーザ加工機によって1枚の板金から切り出されてもよい。ランオフプレート1の材質は、ランオフプレート1と母材100との境界面で母材の合金とは異なる合金が生成されることが許されない場合には母材と同じ材質が用いられるが、このような場合を除きランオフプレート1の材質は限定されない。ランオフプレート1の材質は、例えば、冷間圧延鋼板(SPCC: Steel Plate Cold Commercial)であってもよい。後述するメルトランテストに基づいて、ランオフプレート1の各部寸法を決定することで、本実施形態に係るランオフプレート1に求められる条件を満たすことができる。
【0018】
次に、
図2A及び
図2Bを参照して、ランオフプレート1を用いた接合作業及び接合作業後のランオフプレート1の状態について説明する。
図2Aに示すように、接合作業は、溶接継手100Jに沿って母材端部100Eに向かって行われ、さらに母材端部100Eからランオフプレート1の突起部10へ延長して行われる。より詳細には、接合作業は、溶接終端部が接続部30にかかる位置まで延長される。例えば、レーザの照射(溶接作業の一例)を、接続部30の位置で終了してもよい。これにより、接続部30は、接合作業時に生じる熱が加えられることで溶け落ちて、本体部20を突起部10から溶断することができる。また、接合作業により生じる欠陥部位は突起部10に生じることとなる。したがって、突起部10は、母材100に欠陥部位が生じることを防止することができる。欠陥部位とは、溶接終端部に生じるクレータC又は溶落ちのことである。
【0019】
図2Bに示すように、接合作業後のランオフプレート1は、本体部20(不図示)が突起部10から切り離され、母材100には突起部10のみが接合されて残る。これにより、従来のランオフプレートに比べて母材100に接合されて残る突起部10が小さくなるので、除去工数を削減できる。なお、接合作業を溶接終端部が接続部30にかかる位置まで延長される例を図示した。しかし、接合作業後に接続部30が溶け落ちて本体部20が突起部10から溶断される限りにおいて、接合作業は溶接終端部が本体部20にかかる位置まで延長されても構わない。換言すれば、レーザの照射(接合作業の一例)を、突起部10及び接続部30を通過して本体部20まで延長しても構わない。
【0020】
上述したように、突起部10は、母材100に欠陥部位が生じることを防止する目的があり、接合作業で伝導された熱を母材100と同様に十分に放熱する必要ある。しかし、突起部10は、接合作業後の除去工数を削減するためにできる限り小さいことが望ましい。接続部30は、接合作業により生じる熱が加えられることで溶け落ちて、本体部20が突起部10から溶断されてもよく、溶断されなかった場合であっても容易に手作業で折って取り除くことが可能である。一方で、本体部20は、固定される際などの段取り作業中に作業性を確保するための十分な大きさと剛性を備え、かつ接続部30は、治具等で母材に当接し押圧されても変形しないほどの剛性を有することが望ましい。これらの条件を満たすためには、ランオフプレート1の各部寸法を適切に設定することが望ましい。
【0021】
以下、
図3から
図5Bを参照して、ランオフプレート1の各部寸法の設定方法ついて説明する。
図3は、本実施形態に係るランオフプレートの各部寸法の位置を示す図である。
図4は、本実施形態に係るランオフプレートの突起部及び接続部の寸法を決定するためのメルトランテストを示す図である。
図5Aは、本実施形態に係るランオフプレートを固定する治具の上面図であり、本体部の寸法を決定する方法の一例を示す図である。
図5Bは、本実施形態に係るランオフプレートを固定する治具の側面図であり、本体部の寸法を決定する方法の一例を示す図である。
【0022】
図3に示す、突起部10の長さ10L及び幅10W、ならびに接続部30の長さ30L及び幅30Wは、
図4に示すメルトランテストの結果に基づいて決定される。本体部20の長さ20L及び幅20Wは、本体部20を固定する治具50に基づいて決定してもよい。なお、
図2Aに示す、溶接継手100Jの長さ方向の寸法を長さとし、溶接継手100Jの幅方向の寸法を幅とする。
【0023】
メルトランテストとは、ランオフプレート1と同じ板厚及び材質の板金に母材100を溶接する時と同様の接合作業を行うことで、接合作業時に生じるビードの幅及びクレータの長さを測定するテストである。
図4に示すメルトランテストでは、ランオフプレート1と同じ板厚及び材質の板金SMの位置WSから位置WEまで接合作業を行い、この時に生じたビードBの幅BW及びクレータCの長さCLを測定する。ビードBは、接合作業時に生じる溶接金属WMの盛り上がり部であり、クレータCは、接合作業時にビードBの終端部(位置WE)に生じる窪み部である。なお、ビードBが形成される前の状態、すなわち接合作業時に生じる熱により母材が溶融してできた金属たまりを溶融池と呼ぶ。ビードBの幅BW及びクレータCの長さCLの測定方法については、
図8A及び
図9を参照して後述する。
【0024】
なお、メルトランテストの「メルトラン」は、JIS Z3001-1:2018 番号11707(ISO/TR25901-1:2016)で定義されるメルトラン(melt run)を指す。「ビード」は、JIS Z 3001-7 番号73102(ISO/TR 25901-4)で定義されるビード(bead)を指し、「クレータ」は、JIS Z 3001-7 番号73146(ISO/TR 25901-4)で定義されるクレータ(crater)を指す。「溶融池」は、JIS Z3001-7:2018 番号73143(ISO/TR25901-4:2016)で定義される溶融池(molten pool)を指す。
【0025】
ここで、メルトランテストによりランオフプレート1と同じ板厚及び材質の板金に形成されたビードBの幅BW及びクレータCの長さCLの測定方法について、
図8A及び
図9を参照して説明する。
図8Aは、メルトランテストで得られたビード幅を示す図である。
図9は、メルトランテストにより得られたクレータの長さを示す図である。ビードBの幅BW及びクレータCの長さCLは、例えば、デジタルマイクロスコープにより測定することができる。具体的には、デジタルマイクロスコープで画面に映したビードBの幅BW方向の両端に、デジタルマイクロスコープの機能で二本の平行線を重ね、デジタルマイクロスコープの機能で算出された平行線の距離をビードBの幅BWとしている。クレータC長さCLについても同様であり、デジタルマイクロスコープで画面に映したクレータCの長さCL方向の両端に、デジタルマイクロスコープの機能で二本の平行線を重ね、算出された平行線の距離をクレータCの長さCLとしている。なお、ビードBの幅BW方向の端部は波状になっており、ビードBの幅BWにはばらつきが生じる。そこで、本実施形態では、メルトランテストにより形成された1つのビードの幅の最大値と最小値の中央値に平行線を置いてビードBの幅BWを算出して寸法として記載している(
図8A)が、ビードBの幅BWの算出方法はこれに限定されず、ビードBの幅BWの最大値から最小値までのいずれかの値であればよい。又、単にビードBの幅BWと記載したものは、ビードBの幅BWの最小値から最大値までの範囲に含まれていればよい。
【0026】
メルトランテストにより測定されたビードBの幅BWに基づいて、接続部30の長さ30L及び幅30Wが決定する。具体的には、接続部30の長さ30Lは(1)式を満たし、接続部30の幅30Wは(2)式を満たす。
[数1]
接続部の長さ=ビードの幅×0.3・・・(1)
[数2]
接続部の幅=ビードの幅×0.3・・・(2)
【0027】
(1)式、及び(2)式を満たすことで、接続部30は、本体部20が固定される際に変形せずに突起部10を保持する剛性を有する。また、接続部30は、接合作業により生じる熱が加えられることで溶け落ちる。仮に接続部30が溶け落ちなかった場合でも接続部30を容易に折って本体部20を取り去ることができる。なお、(1)式及び(2)式の詳細については、
図6Aから
図8Cを参照して後述する。
【0028】
メルトランテストにより測定されたビードBの幅BW及びクレータCの長さCLに基づいて、突起部10の長さ10L及び幅10Wが決定する。具体的には、突起部10の長さ10Lは(3)式を満たし、突起部10の幅10Wは(4)式を満たす。
[数3]
突起部の長さ≧クレータの長さ・・・(3)
[数4]
突起部の幅≧ビードの幅×3・・・(4)
【0029】
(3)式、及び(4)式を満たすことで、突起部10の大きさ(長さ10L及び幅10W)は、接続部30が溶接終端部に位置した場合に、突起部10に生じる溶融池及びクレータCが突起部内に収まり、突起部10に生じる溶融池の大きさが母材100に生じる溶融池の大きさと比較して一致又は小さくなるサイズである。また、(3)式及び(4)式を満たすことで、突起部10は、欠陥部位となるクレータC及び溶落ちを母材100に生じさせない最小限の寸法となる。なお、(3)式及び(4)式の詳細については、
図9から
図10Dを参照して後述する。
【0030】
次に、
図5A及び
図5Bを参照して、ランオフプレート1を固定する治具50を用いると想定した場合の本体部20の長さ20L及び幅20Wを決定する方法の一例を説明する。
図5A及び
図5Bには、ランオフプレート1を固定する治具50の一例が示される。治具50は、ベースプレート51と、母材端部100Eを含む母材端面に直交し、かつ溶接継手100Jの延長線上の仮想線に対して平行する両サイドに位置して本体部20を押圧可能なクランプバンド52(52U及び52L)を備えている。母材100(101及び102)及びランオフプレート1は、ベースプレート51上に配置され、クランプバンド52(52U及び52L)により固定される。より詳細には、突起部10が母材端部100Eに当接した状態で、本体部20がクランプバンド52(52U及び52L)の自重により溶接継手100Jの長さ方向に沿って母材100に固定されている。
【0031】
図5Aを参照するに、本体部の長さ20Lは、突起部10と接続部30の長さに長さXを加えたものである。長さXは、接合作業が母材100から突起部10に移動し、接続部30が溶け落ちるまで、本体部20が移動しないで固定されるに要する面積となる必要最低限の長さである。本体部20の幅20Wは、クランプの間隔52Iに2つのクランプの押さえ代Hを加えたものである。クランプの間隔52Iは、2つのクランプバンド52(52U及び52L)間の距離であり、クランプの押さえ代Hは、一方のクランプバンド52が本体部20を固定する溶接継手100Jの幅方向の寸法である。クランプの間隔52Iは、クランプバンド52とレーザ溶接機の溶接ヘッドとの干渉を考慮して決定される。2つのクランプの押さえ代Hは、接合作業が母材100から突起部10に移動し、接続部30が溶け落ちるまで、本体部20が移動しないで固定されるに要する面積となる必要最低限の長さである。
【0032】
このような固定方法の治具50によって本体部20が固定される場合、本体部20の長さ20Lは(5)式を満たし、本体部20の幅20Wは(6)式を満たす。
[数5]
本体部の長さ≧突起部の長さ+接続部の長さ+X・・・(5)
[数6]
本体部の幅≧クランプの間隔+(2×クランプの押さえ代)・・・(6)
【0033】
次に、
図6Aから
図8Cを参照して、接続部30の長さ30Lが満たす(1)式、及び接続部30の幅30Wが満たす(2)式を求めた時の試験内容及び試験結果について説明する。
図6Aは、接続部の適切な寸法を決定するための試験を行った際の試験プレートを示す図である。
図6Bは、接続部が溶け落ちる寸法を決定するための試験内容を示す図である。
図7A及び
図7Bは、接続部の試験結果を示す図である。
図8B及び
図8Cは、接続部の試験結果を示す図である。
【0034】
図6Aに示すように、試験プレートTPにはスリットSが設けられており、破線で囲まれた領域Rには接続部30が形成されている。試験は接続部30の長さJL及び幅JWを変更しながら行い、接続部30の適切な寸法を決定した。試験プレートTPの各部寸法は、
図6Aに示す通りである。試験プレートTPの材質はSPCCであり、板厚は1.6mmである。
【0035】
先ず、発明者らは、本体部20を固定する際などの段取り作業中に接続部30が変形せずに、突起部10を保持する剛性を有する寸法を求める試験を行った。試験では、接続部30の長さJLを0.2mmに固定し、幅JWを変化させた。レーザ溶接機の設定値は、送り速度が200cm/min、レーザ出力が2000W、スポット径が0.72mm、ガスシールドがアルゴン(Ar)80L/minであり、母材100の接合作業時と同じである。この場合、メルトランテストで測定された接合作業時のビードBの幅BWは、1.83mmである(
図8A)。
図7Aでは、接続部30の幅JWを0.3mmとして、試験プレートTPを作業者又は治具が本体部20に相当する部位を母材側に相当する方向に押圧したところ、試験プレートTPは押圧力による接続部30へのモーメントの掛かり方に起因して剛性を保てず塑性変形した。なお、本体部20に相当する部位は、
図7Aに示す試験プレートTPの反り上がった側の部位である。続いて、
図7Bでは、幅JWを0.5mmに変更して試験プレートTPを作業者又は治具が本体部20に相当する部位を母材側に相当する方向に押圧したところ、試験プレートTPは変形せずに形状を維持した。したがって、ビードBの幅BW(1.83mm)に対して、突起部10を保持する剛性を保てる接続部30の幅30Wの倍率は約0.3であり、接続部30の幅30Wが満たす(2)式が求められる。なお、溶接前の接続部30が十分な剛性を持つかは、接続部30の板厚に左右されるので、ビードBの幅BWは直接には関係ない。しかし、母材100の板厚が厚くなるほど形成されるビード幅も大きくなる。つまり、板厚とビードBの幅BWは正の相関があるので、ビードBの幅BWを接続部30の剛性を判断するための基準に用いることができる。
【0036】
次に、発明者らは、接合作業を母材端部100Eから突起部10へ延長した場合に、接続部30が溶け落ちる寸法を求める試験を行った。
図6Bに示すように、試験では接合作業時と同じ条件にてレーザ照射を試験プレートTPの位置WSから位置WEまで行った。なお、試験では、接続部30の幅JWを接続部30が剛性を有する幅0.5mmに固定し、長さJLを変化させた。
図8Bでは、接続部30の長さJLを0.2mmとして溶接作業を行ったところ、スリットSに接続部30及びその周辺の溶融金属が溶け落ちずに凝固し、試験プレートTPは分離しなかった。続いて、
図8Bでは、接続部の長さJLを0.5mmに変更して接合作業を行ったところ、接続部30が溶け落ち、試験プレートTPが溶断した。したがって、ビードBの幅BW(1.83mm)に対して、溶接終端部が接続部30に位置し、接続部30が溶け落ちる接続部30の長さ30Lの倍率は約0.3であり、接続部30の長さ30Lが満たす(1)式が求められる。
【0037】
次に、
図9から
図10Dを参照して、突起部10の長さ10Lが満たす(3)式、及び突起部10の幅10Wが満たす(4)式を求めた時の試験内容及び試験結果をについて説明する。
図9は、メルトランテストで得られたクレータの長さを示す図である。
図10Aから
図10Cは、突起部の試験結果を示す図である。
【0038】
先ず、発明者らは、突起部10の長さ10Lを求めた。突起部10は、母材100に欠陥部位が生じることを防止することが求められる。したがって、突起部10の長さ10Lは、少なくとも溶接終端部を接続部30に位置させた状態で、クレータCが突起部10に収まる長さが望ましい。したがって、突起部10の長さ10Lが満たす(3)式が求められる。
【0039】
次に、発明者らは、突起部10の幅10Wを求める試験を行った。試験は、ランオフプレート1と同形状の試験プレートを作成して行った。先ず、メルトランテストによりクレータCの長さCLを測定した。なお、レーザ加工機の設定値は前記の通りである。
図9に示すように、クレータCの長さCLは、4.5mmと測定された。そのため、突起部10の長さ10Lは(3)式を満たす5mmに固定し、突起部10の幅10Wを変更した。
【0040】
図10Aは、突起部10の幅10Wを2mmとして溶接作業を行った結果を示している。
図10Aでは、突起部10全体が溶融し、突起部10の一部と接続部30が溶け落ちて、母材100までクレータCが及んでいる。
図10Bは、突起部10の幅10Wを3mmとして接合作業を行った結果を示し、
図10Cは、突起部10の幅10Wを4mmとして接合作業を行った結果を示している。
図10B及び
図10Cでは、突起部10は全体が溶け落ちずに母材100に接合しているものの、クレータCが過大となり、母材100まで及んでいる。これは、突起部10の熱容量が不足しており、メルトランテストの結果よりもクレータCの容積が母材100の方向に広がったためである。
図10Dは、突起部10の幅を5mmとして接合作業を行った結果を示している。
図10Dでは、クレータCが母材100に及んでいない。したがって、ビードBの幅BW(1.83mm)に対して、クレータCの容積が母材100側に広がらない突起部10の幅10Wの倍率は約3であり、突起部10の幅10Wが満たす(4)式が求められる。
【0041】
(3)式及び(4)式を満たす突起部10の大きさにおいて、接続部30が溶接終端部に位置した場合に、クレータCの大きさと溶融池の大きさはほぼ一致する。より詳細には、クレータCの幅と溶融池の幅がほぼ一致する。また、メルトランテストで生じる溶融池の幅と母材100の接合作業時に生じる溶融池の幅はほぼ一致し、メルトランテストで生じるクレータCの大きさと母材100の接合作業時に生じるクレータCの大きさはほぼ一致する。これは、(3)式及び(4)式を満たす突起部10の容積が、母材100と同等の熱伝導に耐えうる熱容量を有する容積となるためである。なお、例えば、突起部10の板厚を母材100の板厚よりも厚くするなどして、突起部10は母材100と同等以上の熱伝導率を有していてもよい。この場合、突起部10に形成される溶融池及びクレータCの大きさは、母材100に形成される溶融池及びクレータCの大きさよりも小さいサイズとなる。
【0042】
本実施形態では、突起部10の平面形状は、一つの辺が母材100と当接する四角形状であったが、突起部10に生じる溶融池及びクレータCが突起部10内に収まり、突起部10に生じる溶融池の大きさが母材100に生じる溶融池の大きさと一致する大きさであれば、突起部10の形状はこれに限定されない。すなわち(3)式及び(4)式を満たせば、突起部10の形状はこれに限定されない。
図11は、突起部の他の平面形状の例を示す図である。
図11は、突起部10の他の平面形状の例示に過ぎないが、突起部10の平面形状は、一つの辺が母材100と当接する三角形状PS1、又は直径部分が母材と当接する半円形状PS2であってもよく、突起部10を囲んでいればよい。
図11において、S20は、母材端部100Eに突起部10が当接した状態で母材100に対して本体部20が固定された状態を示している。S30は、接合作業が突起部10まで延長された状態を示している。S50は、接続部30が溶け落ちて本体部20が突起部10から溶断された状態を示している。
【0043】
また、ランオフプレート1は、複数種類の溶接継手に対応することができる。
図12は、本実施形態に係るランオフプレート1が適用可能な溶接継手の種類を例示する図である。例えば、ランオフプレート1は、
図12のAに示す突合せ溶接WT1、Bに示す角継手溶接WT2、Cに示すすみ肉溶接WT3、Dに示す重ね継手溶接WT4に対応することができる。図中のt及び2tは、母材100(101又は102)又はランオフプレート1の板厚を示している。なお、「突合せ溶接」は、JIS Z3001-1:2018 番号11507(ISO/TR25901-4:2016)で定義される突合せ溶接(butt weld)を指す。「角継手」は、JIS Z3001-1:2018 番号11307(ISO/TR25901-4:2016)で定義される角継手(corner joint)を指す。「すみ肉溶接」は、JIS Z3001-1:2018 番号11506(ISO/TR25901-4:2016)で定義されるすみ肉溶接(fillet weld)を指す。「重ね継手」は、JIS Z3001-1:2018 番号11304(ISO/TR25901-4:2016)で定義される重ね継手(lap joint)を指す。
【0044】
[ランオフプレートを用いた溶接加工方法]
図13Aから
図14を参照して、
図1に示すランオフプレート1を用いた溶接加工方法について説明する。
図13Aから
図13Dは、本実施形態係るランオフプレートを用いた溶接加工方法を模式的に示した図である。
図14は、本実施形態に係るランオフプレートを用いた溶接加工方法を示すフローチャートである。
【0045】
ステップS10(
図13A)において、例えば作業者が母材端部100Eにランオフプレート1の突起部10を当接させる。ステップS20(
図13B)に進み、その状態でランオフプレート1は、母材100に対して本体部20を固定される。より詳細には、接続部30が母材100の溶接継手100Jの延長線上に位置するように本体部20を母材100に固定する。なお、本体部20の固定方法は、治具50を用いてもよいし、溶接による仮止めであってもよい。
【0046】
ステップS30(
図13C)に進み、作業者または加工機が接合作業を、母材端部100Eを通過して溶融池が突起部10内に収まり、溶接終端部が接続部30に到達するように行う。ステップS40(
図13D)に進み、溶接作業時に生じる熱が加えられることで接続部30が溶け落ち、突起部10から本体部20が溶断される。ステップS40において、接合作業が終了しビームOFFすると、溶融池が凝固しクレータCになる。クレータCは溶融池とほぼ一致したサイズであり、溶融池と同じく突起部10内に収まる。ステップS50(
図13E)に進み、作業者は母材100に溶接された突起部10を除去する。例えば、グラインダを用いて研磨により突起部10を除去する。なお、除去方法は、除去後の母材端部100Eの品位を保てれば他の工具類を用いてもよい。
【0047】
[作用効果]
以上説明したように、本実施形態によれば以下作用効果が得られる。
【0048】
ランオフプレート1は、母材端部100Eに当接される突起部10と、突起部10の周囲に配置され、母材端部100Eに突起部10が当接した状態で母材100に対して固定される本体部20と、突起部10と本体部20とを繋ぎ、接合作業時に生じる熱が加えられることで溶け落ちる接続部30と備える。これにより、接合作業の溶接終端部を母材100から排除することが可能となり、接合作業により生じる欠陥部位が母材100に生じることを防止することができる。本体部20が母材100に固定されることにより、ランオフプレート1としての機能を満たすことができる。その上で、本開示のランオフプレート1は、本体部20がクレータCの熱を直接的に伝導されずに、母材100に当接された状態を保ち続けることができる。また、接合作業を母材端部100Eから突起部10へ延長することで接続部30を溶け落とすことができ、接続部30は接合作業終了時に突起部10と本体部20を容易に分断することができる。したがって、ランオフプレート1は、ランオフプレートとしての機能を最小の母材100との当接面で実現することができる。その結果、ランオフプレート1の除去工数を大幅に削減することができる。
【0049】
接続部30は、突起部10と本体部20との熱伝導経路である。これにより、突起部10と本体部20とは、接続部30を除いて突起部10内の溶接に起因する熱を伝導できない。したがって、接続部30からの熱伝導以外で本体部20が溶融しなくなるため、接続部30が溶け落ちるまで溶融による本体部20の形状や剛性の変化を防ぐことができ、接続部30が溶け落ちるまで当接状態を確実に維持できる。
【0050】
接続部30は、溶接継手100Jの延長線上の位置で突起部10と本体部20とを繋いでもよい。これにより、溶接継手100Jの延長線上の位置で接続部30を溶け落とすことができる。
【0051】
接続部30は、溶接終端部に位置し、接合作業により溶け落ちる大きさである。これにより、接合作業を母材端部100Eから突起部10へ延長することで接続部30を溶け落とすことができ、接続部30は接合作業終了時に突起部10と本体部20とを容易に分断することができる。したがって、ランオフプレート1の機能を最小の母材100との当接面で実現することができる。その結果、ランオフプレート1の除去工数を大幅に削減することができる。
【0052】
突起部10は、接続部30を除き、熱絶縁要素により本体部20と熱絶縁されている。これにより、突起部10と本体部20とは、接続部30を除いて突起部10内の溶接に起因する熱を伝導できない。したがって、接続部30からの熱伝導以外で本体部20が溶融しなくなるため、接続部30が溶け落ちるまで溶融による本体部20の形状や剛性の変化を防ぐことができ、接続部30が溶け落ちるまで当接状態を確実に維持できる。
【0053】
突起部10の大きさは、接続部30が溶接終端部に位置した場合に、突起部10に生じる溶融池及びクレータCが突起部10内に収まり、突起部10に生じる溶融池の大きさが母材100に生じる溶融池の大きさと比較して一致又は小さくなるサイズである。換言すれば、突起部10の大きさは、母材100と同等の熱伝導に耐えうる熱容量を有する容積、又は母材100と同等以上の熱伝導率を有する容積となる。したがって、ランオフプレート1は、母材100との機械的な当接要件を満たしながら、且つ最小サイズのランオフプレートの機能を有する突起部10を形成することができる。
【0054】
母材100はレーザ溶接により接合され、溶接継手100Jの長さ方向の寸法を長さ、溶接継手100Jの幅方向の寸法を幅と定義した場合、接続部30の長さ30Lは(1)式を満たし、接続部30の幅30Wは(2)式を満たす。これにより、母材100を接合する場合、ビードBの幅BWに基づいて、接続部30の大きさを決定することができる。したがって、接続部30に接合作業時に生じる熱を加えることで、接続部30を適切に溶け落とすことができる。
【0055】
母材100はレーザ溶接により接合され、溶接継手100Jの長さ方向の寸法を長さ、溶接継手100Jの幅方向の寸法を幅と定義した場合、突起部10の長さ10Lは(3)式を満たし、突起部10の幅10Wは(4)式を満たす。これにより、突起部10の大きさを、母材100に欠陥部位が生じさせることなく、かつ接合作業後の除去工数を大幅に削減することができるサイズとすることができる。したがって、溶接の品質を高めつつ、接合作業後のランオフプレート1の除去工数を大幅に削減することができる。
【0056】
本体部20は、平行する2つのクランプバンド52(52U及び52L)により溶接継手100Jの長さ方向に沿って固定され、溶接継手100Jの長さ方向の寸法を長さ、溶接継手100Jの幅方向の寸法を幅と定義した場合、本体部20の長さ20Lは(5)式を満たし、本体部20の幅20Wは(6)式を満たす。ただし、長さXは、接合作業が母材100から突起部10に移動し、接続部30が溶け落ちるまで、本体部20が移動しないで固定されるに要する面積となる必要最低限の長さである。クランプの間隔52Iは、2つのクランプバンド52(52U及び52L)間の距離であり、クランプの押さえ代Hは、一方のクランプバンド52が本体部20を固定する溶接継手100Jの幅方向の寸法である。したがって、本体部の長さ20Lは、突起部10と接続部30の長さに長さXを加えたものとなり、本体部の幅20Wは、クランプの間隔52Iに2つのクランプの押さえ代Hを加えたものとなる。これにより、本体部20の面積を、接合作業時も本体部20が移動しないで固定されるに要する面積とすることができ、突起部10を母材端部100Eに当接させた状態で溶接作業を行うことができる。
【0057】
突起部10の平面形状は、一つの辺が母材と当接する四角形状である。突起部10の平面形状を四角形状とすることで、上記(3)式、及び(4)式を満たす四角形状を簡単に成型することができる。
【0058】
突起部10の平面形状は、一つの辺が母材100と当接する三角形状PS1、又は直径部分が母材100と当接する半円形状PS2であってもよい。これにより、ランオフプレート1を固定する治具の形状や突起部の除去方法に合わせて突起部10の形状を変えることができる。
【0059】
ランオフプレート1は、突合せ溶接WT1、角継手溶接WT2、すみ肉溶接WT3、重ね継手溶接WT4に用いることができる。これにより、複数の継手方法において母材100に欠陥部位が生じることを防止することができる。
【0060】
突起部10へ延長した接合作業の溶接終端部は、接続部30の位置に設定する。これにより、接合作業の溶接終端部を母材100から排除することが可能となり、接合作業により生じる欠陥部位が母材100に生じることを防止することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 ランオフプレート
10 突起部
20 本体部
30 接続部
40 スリット
50 治具
52(52U及び52L) クランプバンド
52I クランプの間隔
100(101及び102) 母材
100J 溶接継手
100E 母材端部
B ビード
BW ビードの幅
C クレータ
CW クレータの長さ
H クランプの押さえ代
PS1 三角形状(突起部の形状)
PS2 半円形状(突起部の形状)
WM 溶接金属
WT1 突合せ溶接
WT2 角継手溶接
WT3 すみ肉溶接
WT4 重ね継手溶接