(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057875
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】電線弛度観測装置、電線弛度観測プログラム、及び電線弛度観測方法
(51)【国際特許分類】
H02G 1/02 20060101AFI20240418BHJP
【FI】
H02G1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164848
(22)【出願日】2022-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520320446
【氏名又は名称】中部電力パワーグリッド株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591280197
【氏名又は名称】株式会社構造計画研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】八尾 健一朗
(72)【発明者】
【氏名】牛本 卓二
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 茜
(72)【発明者】
【氏名】相川 実
【テーマコード(参考)】
5G352
【Fターム(参考)】
5G352AA12
5G352AA14
5G352AB09
5G352AM01
(57)【要約】
【課題】電線の弛度を適切に目標弛度となるよう調整できるようにする。
【解決手段】作業者15が携帯するコンピュータ16は、カメラとディスプレイとを備える。カメラは、互いに距離をおいた鉄塔11と鉄塔12とによって支持される電線13を、鉄塔11側から鉄塔12側に向けて撮影する。ディスプレイは、カメラによって撮影された映像を表示する。コンピュータ16は、ディスプレイ上に照準と上記電線13の弛度を目標弛度にするための目標位置とを上記映像に重ねて表示させる。コンピュータ16には、電線13の弛度を目標弛度とするための各種の情報が入力される。コンピュータ16は、カメラを鉄塔12における電線13の支持点Hに向けることによって照準を支持点Hに合わせたとき、入力された情報に基づきディスプレイ上に照準を基準とした目標位置を表示させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カメラと、ディスプレイと、制御部と、を備え、
前記カメラは、互いに距離をおいた第1の電線支持体と第2の電線支持体とによって支持される電線を撮影するものであり、
前記ディスプレイは、前記カメラによって撮影された前記電線の映像を表示するものであり、
前記制御部は、前記ディスプレイ上に前記電線の弛度を目標弛度にするための目標位置を前記映像に重ねて表示させるものである電線弛度観測装置において、
前記カメラは、前記第1の電線支持体から前記第2の電線支持体に向けられて前記電線を撮影するものであり
前記制御部は、前記ディスプレイ上に前記映像に重ねて照準を表示させる一方、前記電線の目標弛度、前記電線の諸元、前記第1の電線支持体と前記第2の電線支持体との径間長、前記第1の電線支持体における前記電線の支持点と前記第2の電線支持体における前記電線の支持点との高低差、及び、前記第1の電線支持体における前記カメラの設置位置といった情報が入力され、前記カメラを前記第2の電線支持体における前記電線の支持点に向けることによって前記照準を前記第2の電線支持体における前記電線の支持点に合わせたとき、入力された前記情報に基づき前記ディスプレイ上に前記照準を基準とした前記目標位置を表示させるものである電線弛度観測装置。
【請求項2】
前記第2の電線支持体における前記電線の支持点は、前記第1の電線支持体における前記電線の支持点よりも高い位置にあり、
前記カメラは、前記第1の電線支持体における前記電線の支持点よりも低い位置に設置されるものである請求項1に記載の電線弛度観測装置。
【請求項3】
前記制御部は、弛度を目標弛度とした前記電線に接するとともに前記カメラの設置位置を通過する接線の前記電線に対する接点を求め、前記カメラの設置位置と前記第2の電線支持体における前記電線の支持点とを結ぶ直線を求め、前記接点から前記直線まで延びて前記直線と垂直となる線分の長さを求め、前記線分の長さを前記ディスプレイの画素数に基づき前記ディスプレイ上の距離に変換し、前記ディスプレイにおける前記照準よりも前記距離分下げた位置に前記目標位置を表示するものである請求項2に記載の電線弛度観測装置。
【請求項4】
互いに距離をおいた第1の電線支持体と第2の電線支持体とによって支持される電線を撮影するカメラからの映像を入力し、その入力した映像をディスプレイに表示させるコンピュータに、照準表示処理、入力処理、及び目標表示処理を実行させるための電線弛度観測プログラムであって、
前記照準表示処理は、前記ディスプレイ上に前記映像に重ねて照準を表示させるものであり、
前記入力処理は、前記電線の目標弛度、前記電線の諸元、前記第1の電線支持体と前記第2の電線支持体との径間長、前記第1の電線支持体における前記電線の支持点と前記第2の電線支持体における前記電線の支持点との高低差、及び、前記第1の電線支持体における前記カメラの設置位置といった情報の入力を受けるものであり、
前記目標表示処理は、前記ディスプレイ上に前記電線の弛度を目標弛度にするための目標位置を表示させるものであり、前記カメラを前記第1の電線支持体から前記第2の電線支持体における前記電線の支持点に向けることによって前記照準を前記支持点に合わせたとき、入力された前記情報に基づき前記照準を基準とした前記目標位置を前記映像に重ねて表示させる電線弛度観測プログラム。
【請求項5】
互いに距離をおいた第1の電線支持体と第2の電線支持体とによって支持される電線を撮影するカメラ、及び、前記カメラが撮影した前記電線の映像を表示するディスプレイを用い、前記ディスプレイ上に前記電線の弛度を目標弛度にするための目標位置を前記映像に重ねて表示させる電線弛度観測方法において、
前記カメラを前記第1の電線支持体から前記第2の電線支持体に向けることによって前記電線を撮影し、
前記ディスプレイ上に前記映像に重ねて照準を表示させ、
前記カメラを前記第1の電線支持体から前記第2の電線支持体における前記電線の支持点に向けることによって前記照準を前記支持点に合わせたとき、前記電線の目標弛度、前記電線の諸元、前記第1の電線支持体と前記第2の電線支持体との径間長、前記第1の電線支持体における前記電線の支持点と前記第2の電線支持体における前記電線の支持点との高低差、及び、前記第1の電線支持体における前記カメラの設置位置といった情報に基づき、前記ディスプレイ上に前記照準を基準とした前記目標位置を表示させる電線弛度観測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線弛度観測装置、電線弛度観測プログラム、及び電線弛度観測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
互いに距離をおいた複数の電線支持体によって電線を支持した設備では、設備を新設したり電線を交換したりする際、複数の電線支持体に架け渡した電線の弛度を目標の弛度とするために上記電線を巻き上げたり繰り出したりするという作業が行われる。こうした作業を行う際、特許文献1では上記電線を観測しながら電線の巻き上げや繰り出しが行われる。
【0003】
詳しくは、複数の電線支持体によって支持される上記電線を撮影するカメラ、及び、そのカメラが撮影した上記電線の映像を表示するディスプレイを用い、そのディスプレイ上に上記電線の弛度を目標弛度にするためのウィンドウを上記映像に重ねて表示させる。そして、ウィンドウ内に上記電線が入るよう電線の巻き上げや繰り出すを行うことにより、上記電線の弛度を上記ウィンドウに対応した弛度、すなわち目標弛度に調整するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示すように電線の弛度を調整する場合、ウィンドウを目標弛度に対応するように適切に設定しないと、電線の弛度を目標弛度となるように調整できない。しかし、特許文献1では、上記ウィンドウを手動により設定しているため、そのウィンドウを目標弛度に対応するように適切に設定できるとは考えにくい。従って、特許文献1の技術を用いたとしても、電線の弛度を目標弛度となるよう適切に調整することは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決する電線弛度観測装置は、カメラと、ディスプレイと、制御部と、を備える。カメラは、互いに距離をおいた第1の電線支持体と第2の電線支持体とによって支持される電線を撮影するものである。ディスプレイは、カメラによって撮影された電線の映像を表示するものである。制御部は、ディスプレイ上に上記電線の弛度を目標弛度にするための目標位置を上記映像に重ねて表示させるものである。上記カメラは、第1の電線支持体から第2の電線支持体に向けられて上記電線を撮影するものである。上記制御部は、ディスプレイ上に上記映像に重ねて照準を表示させる。上記制御部は、上記電線の目標弛度、上記電線の諸元、第1の電線支持体と第2の電線支持体との径間長、第1の電線支持体における上記電線の支持点と第2電線支持体における上記電線の支持点との高低差、及び、第1の電線支持体におけるカメラの設置位置といった情報が入力される。上記制御部は、カメラを第2の電線支持体における電線の支持点に向けることによって上記照準を第2の電線支持体における電線の支持点に合わせたとき、入力された上記情報に基づきディスプレイ上に上記照準を基準とした上記目標位置を表示させる。
【0007】
上記構成によれば、カメラを第1の電線支持体から第2の電線支持体における電線の支持点に向けることにより、第1の電線支持体と第2の電線支持体に架け渡された電線が撮影される。ディスプレイにはカメラによって撮影された上記電線の映像が映されるとともに、その映像に重ねて照準が表示される。この照準が第2の電線支持体における電線の支持点に合わされたとき、ディスプレイ上には上記電線の弛度を目標弛度にするための目標位置が表示される。この目標位置は、上記照準を基準としたものであって上記映像に重ねて表示される。上記目標位置は、上記電線の目標弛度、上記電線の諸元、第1の電線支持体と第2の電線支持体との径間長、第1の電線支持体における上記電線の支持点と第2の電線支持体における上記電線の支持点との高低差、及び、第1の電線支持体におけるカメラの設置位置といった情報に基づき表示される。これにより、上記目標位置が上記電線における目標弛度に対応した位置として適切に設定される。従って、ディスプレイ上に表示される上記電線が上記目標位置に対応して位置するよう上記電線を巻き上げたり繰り出したりすることにより、上記電線の弛度を目標弛度となるよう適切に調整することができる。
【0008】
上記電線弛度観測装置において、第2の電線支持体における電線の支持点は第1の電線支持体における前記電線の支持点よりも高い位置にあり、上記カメラは第1の電線支持体における電線の支持点よりも低い位置に設置するものとされる。
【0009】
上記構成によれば、ディスプレイに表示された映像において、第2の電線支持体の支持点から電線が下がっていることが分かりやすくなる。そして、ディスプレイ上に表示される上記照準が第2の電線支持体における電線の支持点に合わされるとき、その照準の下に目標位置が表示される。このため、目標位置に対する上記電線の相対位置を把握しやすくなる。
【0010】
上記電線弛度観測装置において、上記制御部を次のようなものとすることが考えられる。上記制御部は、弛度を目標弛度とした上記電線に接するとともにカメラの設置位置を通過する接線の上記電線に対する接点を求める。上記制御部は、カメラの設置位置と第2の電線支持体における上記電線の支持点とを結ぶ直線を求める。上記制御部は、上記接点から上記直線まで延びて上記直線と垂直となる線分の長さを求める。上記制御部は、上記線分の長さをディスプレイの画素数に基づきディスプレイ上の距離に変換し、ディスプレイにおける上記照準よりも上記距離分下げた位置に上記目標位置を表示する。
【0011】
上記構成によれば、上記電線を目標の弛度とするための目標位置を、ディスプレイ上の適切な位置に表示することができる。
上記課題を解決する電線弛度観測プログラムは、互いに距離をおいた第1の電線支持体と第2の電線支持体とによって支持される電線を撮影するカメラからの映像を入力し、その入力した映像をディスプレイに表示させるコンピュータに、照準表示処理、入力処理、及び目標表示処理を実行させるためのものである。上記照準表示処理は、ディスプレイ上に上記映像に重ねて照準を表示させるものである。上記入力処理は、上記電線の目標弛度、上記電線の諸元、第1の電線支持体と第2の電線支持体との径間長、第1の電線支持体における上記電線の支持点と第2の電線支持体における上記電線の支持点との高低差、及び、第1の電線支持体におけるカメラの設置位置といった情報の入力を受けるものである。上記目標表示処理は、ディスプレイ上に上記電線の弛度を目標弛度にするための目標位置を表示させるものであり、カメラを第1の電線支持体から第2の電線支持体における電線の支持点に向けることによって上記照準を上記支持点に合わせたとき、入力された上記情報に基づき上記照準を基準とした上記目標位置を上記映像に重ねて表示させる。
【0012】
上記プログラムによれば、カメラを第1の電線支持体から第2の電線支持体における電線の支持点に向けて撮影することにより、カメラによって撮影された第1の電線支持体と第2の電線支持体との間の電線の映像がディスプレイに映される。ディスプレイ上には、その映像に重ねて照準が表示される。この照準が第2の電線支持体における電線の支持点に合わされたとき、ディスプレイ上には上記電線の弛度を目標弛度にするための目標位置が表示される。この目標位置は、上記照準を基準としたものであって上記映像に重ねて表示される。上記目標位置は、上記電線の目標弛度、上記電線の諸元、第1の電線支持体と第2の電線支持体との径間長、第1の電線支持体における上記電線の支持点と第2の電線支持体における上記電線の支持点との高低差、及び、第1の電線支持体におけるカメラの設置位置といった情報に基づき表示される。これにより、上記目標位置が上記電線における目標弛度に対応した位置として適切に設定される。従って、ディスプレイ上に表示される上記電線が上記目標位置に対応して位置するよう上記電線を巻き上げたり繰り出したりすることにより、上記電線の弛度を目標弛度となるよう適切に調整することができる。
【0013】
上記課題を解決する電線弛度観測方法は、互いに距離をおいた第1の電線支持体と第2の電線支持体とによって支持される電線を撮影するカメラ、及び、そのカメラが撮影した上記電線の映像を表示するディスプレイを用い、ディスプレイ上に上記電線の弛度を目標弛度にするための目標位置を上記映像に重ねて表示させるものである。この方法では、カメラを第1の電線支持体から第2の電線支持体に向けることによって上記電線を撮影する。ディスプレイ上には上記映像に重ねて照準を表示させる。そして、カメラを第1の電線支持体から第2の電線支持体における電線の支持点に向けることによって上記照準を上記支持点に合わせたとき、上記電線の目標弛度、上記電線の諸元、第1の電線支持体と第2の電線支持体との径間長、第1の電線支持体における上記電線の支持点と第2の電線支持体における上記電線の支持点との高低差、及び、第1の電線支持体におけるカメラの設置位置といった情報に基づき、ディスプレイ上に上記照準を基準とした上記目標位置を表示させる。
【0014】
上記電線弛度観測方法によれば、カメラを第1の電線支持体から第2の電線支持体における電線の支持点に向けて撮影することにより、カメラによって撮影された第1の電線支持体と第2の電線支持体との間の電線の映像がディスプレイに表示される。ディスプレイ上には、その映像に重ねて照準が表示される。この照準が第2の電線支持体における電線の支持点に合わされたとき、ディスプレイ上には上記電線の弛度を目標弛度にするための目標位置が表示される。この目標位置は、上記照準を基準としたものであって上記映像に重ねて表示される。上記目標位置は、上記電線の目標弛度、上記電線の諸元、第1の電線支持体と第2の電線支持体との径間長、第1の電線支持体における上記電線の支持点と第2の電線支持体における上記電線の支持点との高低差、及び、第1の電線支持体におけるカメラの設置位置といった情報に基づき表示される。これにより、上記目標位置が上記電線における目標とする弛度に対応した位置として適切に設定される。従って、ディスプレイ上に表示される上記電線が上記目標位置に対応して位置するよう上記電線を巻き上げたり繰り出したりすることにより、上記電線を目標弛度となるよう適切に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】電線弛度観測装置が用いられる設備を示す略図である。
【
図2】
図1の電線弛度観測装置を具体化したコンピュータの構造を示す略図である。
【
図3】
図2のコンピュータのディスプレイの表示を示す正面図である。
【
図4】
図2のコンピュータのディスプレイの表示を示す正面図である。
【
図5】
図2及び
図3のディスプレイに表示させる目標位置の定め方を説明するための模式図である。
【
図6】上記目標位置を定めるために用いられる式(1)を示す図である。
【
図7】上記目標位置を定めるために用いられる式(2)を示す図である。
【
図8】上記目標位置を定めるために用いられる式(3)を示す図である。
【
図9】上記目標位置を定めるために用いられる式(4)を示す図である。
【
図10】上記目標位置を定めるために用いられる式(5)を示す図である。
【
図11】上記目標位置を定めるために用いられる式(6)を示す図である。
【
図12】
図2及び
図3のディスプレイに表示させる目標位置の定め方を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、電線弛度観測装置、電線弛度観測フログラム、及び電線弛度観測方法の一実施形態について、
図1~
図12を参照して説明する。
図1に示すように、互いに距離を置いた鉄塔11,12によって電線13が支持されている送電設備では、鉄塔11が第1の電線支持体としての役割を担うとともに、鉄塔12が第2の電線支持体としての役割を担っている。こうした送電設備を新設したり電線13を交換したりする際には、電線13を鉄塔11,12に架け渡した後、その電線13をウィンチ14によって巻き上げたり繰り出したりすることにより、電線13の弛度が目標弛度に調整される。
【0017】
<電線弛度観測装置>
電線13の弛度を目標弛度に調整する際には、電線13の弛度を観測するための電線弛度観測装置が用いられる。同装置は、鉄塔11に登る作業者15が携帯することが可能なコンピュータ16によって実現される。コンピュータ16は、電線弛度観測装置の制御部としての役割を担う。コンピュータ16としては、例えばノート型及びタブレット型といったパーソナルコンピュータを採用したり、スマートフォン等の携帯型のコンピュータを採用したりすることが考えられる。
【0018】
図2に示すように、コンピュータ16は、カメラ17と、ディスプレイ18と、通信部21と、中央処理装置22と、を備えている。カメラ17は、電線13を撮影するためのものである。ディスプレイ18は、カメラ17によって撮影された電線13の映像を表示することが可能となっている。通信部21は、
図1に示すウィンチ14を操作する作業者19が視認することが可能な表示装置20と通信するためのものである。中央処理装置22は、コンピュータ16におけるカメラ17、ディスプレイ18、及び通信部21といった各種の機器を制御するためのものである。
【0019】
図1に示す作業者15は、電線13の弛度を目標弛度に調整する際にコンピュータ16を持って鉄塔11に登る。鉄塔11に登った作業者15は、コンピュータ16のカメラ17を鉄塔12に向けて電線13を撮影する。このときのカメラ17は、鉄塔11から鉄塔12に向けられて電線13を撮影するものとなる。電線13は、鉄塔11に対し支持点Lで支持されているとともに、鉄塔12に対し支持点Hで支持されている。
【0020】
上述したカメラ17による電線13の撮影は、コンピュータ16(カメラ17)を鉄塔11における電線13の支持点Lよりも低い位置に設置した状態で行われる。また、鉄塔12における電線13の支持点Hは、鉄塔11における電線13の支持点Lよりも高い位置にあってもよいし、低い位置にあってもよい。また、支持点Hと支持点Lとが同じ高さ位置にあってもよい。この例では、鉄塔12における電線13の支持点Hが、鉄塔11における電線13の支持点Lよりも高い位置にある。
【0021】
図3は、コンピュータ16のディスプレイ18を示している。
図3のディスプレイ18には、上記カメラ17によって撮影された映像が表示されている。コンピュータ16は、ディスプレイ18上に上記映像に重ねて照準23を表示させる。照準23は、水平線24と鉛直線25と円26とによって表されている。円26は、水平線24と鉛直線25との交点を中心とするものである。そして、円26の中心、すなわち水平線24と鉛直線25との交点が、照準23の中心となっている。コンピュータ16は、ディスプレイ18上に電線13の弛度を目標弛度にするための目標位置27を上記映像に重ねて、且つ水平方向に延びるように表示させる。
【0022】
鉄塔11に登った上記作業者15は、コンピュータ16のカメラ17を鉄塔12における電線13の支持点Hに向けることにより、ディスプレイ18上の上記照準23を上記支持点Hに合わせる。コンピュータ16は、上記照準23が上記支持点Hに合わされたとき、ディスプレイ18上に上記照準23を基準とした上記目標位置27を表示させる。このときの目標位置27は、電線13を目標位置27に対応して位置させたとき、電線13が目標弛度となるように表示される。
【0023】
コンピュータ16は、ディスプレイ18に表示されている映像を通信部21により
図1に示す表示装置20に転送する。表示装置20は、コンピュータ16から転送された上記映像を表示することにより、コンピュータ16のディスプレイ18に表示されている映像と同じ映像を表示する。ウィンチ14を操作する作業者19は、表示装置20に表示されている映像を見ながら、電線13が目標位置27に対応して位置するようウィンチ14を操作する。すなわち、作業者19は、電線13をウィンチ14によって巻き上げたり繰り出したりすることにより、電線13が
図4に示すように目標位置27に対応して位置するようにする。これにより、電線13の弛度が目標弛度となる。
【0024】
次に、ディスプレイ18上の照準23を鉄塔12における電線13の支持点Hに合わせたとき、ディスプレイ18上に表示される目標位置27について詳しく説明する。
コンピュータ16には、目標位置27を求めるための情報として、次のような情報が入力される。電線13の目標弛度d、電線13の諸元、鉄塔11と鉄塔12との径間長S、鉄塔11における電線13の支持点Lと鉄塔12における電線13の支持点Hとの高低差h、及び、鉄塔11におけるカメラ17の設置位置A。コンピュータ16は、入力された上記情報に基づき、ディスプレイ18上に照準23を基準とした上記目標位置27を表示させる。
【0025】
図5に示すように、電線13の目標弛度dは、鉄塔11と鉄塔12との中間付近において、支持点Lと支持点Hとを結ぶ直線L1に対し電線13を下げる距離(弛度)の目標値である。電線13の諸元とは、電線13に作用する水平張力T及び電線13の重量Wである。鉄塔11におけるカメラ17の設置位置Aとは、支持点Lを原点として水平方向をx軸とするとともに鉛直方向をy軸としたときの作業者15のいる座標、詳しくは作業者15が持つコンピュータ16のある座標(a,b)である。
【0026】
図5に示す電線13の弛度を目標弛度dとしたとき、支持点Lに対する電線13の水平弛度dLは、支持点Lを通過する水平面と位置Dとの距離によって表される。位置Dの座量は(n,dL)となる。位置Dのx座標nは、
図6に示す式(1)によって算出することができる。位置Dのy座標である水平弛度dLは、
図7に示す式(2)によって算出することができる。また、式(1)では、カテナリー数Cが用いられている。このカテナリー数Cは、
図8に示す式(3)によって算出することができる。式(3)のgは、重力加速度である。
【0027】
電線13の弛度を目標弛度とするための目標位置27(
図3、
図4)は、弛度を目標弛度dとしたときの電線13を
図5におけるカメラ17の設置位置Aから見たときの点Bに対応した位置となる。この点Bは、上記電線13に接するとともに設置位置Aを通過する接線L2の上記電線13に対する接点である。接線L2は、
図9に示す式(4)によって表される。また、式(4)の傾きkは、
図10に示す式(5)によって算出することができる。点Bの座標(xB,yB)は、
図11に示す式(6)によって表すことができる。
【0028】
コンピュータ16は、接線L2上の点Bの座標(xB,yB)を求める。コンピュータ16は、設置位置Aと支持点Hとを結ぶ
図12に示す直線L3を求め、更に点Bから直線L3まで延びて垂直となる線分L4の長さを求める。コンピュータ16は、線分L4の長さをディスプレイ18の画素数に基づきディスプレイ18上の距離に変換し、ディスプレイ18における照準23よりも上記距離分下げた位置に目標位置27を表示する。その結果、例えば
図3及び
図4に示すように、ディスプレイ18に目標位置27が表示される。
【0029】
<電線弛度観測プログラム>
次に、電線弛度観測プログラムについて説明する。
電線弛度観測プログラムは、コンピュータ16に照準表示処理、入力処理、及び目標表示処理を実行させるためのものである。
【0030】
上記照準表示処理は、ディスプレイ18上にカメラ17によって撮影された映像に重ねて照準23を表示させるものである。
上記入力処理は、上述した情報の入力を受けるものである。こうした情報としては、電線13の目標弛度d、電線13の諸元、鉄塔11と鉄塔12との径間長S、鉄塔11における電線13の支持点Lと鉄塔12における電線13の支持点Hとの高低差h、及び、鉄塔11におけるカメラ17の設置位置Aといったものがあげられる。
【0031】
上記目標表示処理は、ディスプレイ18上に電線13を目標の弛度にするための目標位置27を表示させるものである。詳しくは、カメラ17を鉄塔11から鉄塔12における電線13の支持点Hに向けることによって上記照準23を支持点Hに合わせたとき、入力された上記情報に基づき上記照準23を基準とした上記目標位置27を上記映像に重ねて表示させる。
【0032】
<電線弛度観測方法>
次に、電線弛度観測方法について説明する。
電線弛度観測方法では、コンピュータ16のカメラ17及びディスプレイ18を用い、カメラ17によって撮影された電線13の映像をディスプレイ18上に表示するとともに、その映像に重ねて電線13の弛度を目標弛度にするための目標位置27を表示させる。
【0033】
詳しくは、コンピュータ16のカメラ17を鉄塔11から鉄塔12に向けることによって電線13を撮影する。ディスプレイ18上にはカメラ17によって撮影された映像に重ねて照準23を表示させる。そして、カメラ17を鉄塔12から鉄塔12における電線13の支持点Hに向けることにより、上記照準23を支持点Hに合わせる。このとき、コンピュータ16に入力された情報に基づき、ディスプレイ18上に上記照準を基準とした上記目標位置27を、カメラ17によって撮影された電線13の映像に重ねて表示させる。
【0034】
上記情報としては、電線13の目標弛度d、電線13の諸元、鉄塔11と鉄塔12との径間長S、鉄塔11における電線13の支持点Lと鉄塔12における電線13の支持点Hとの高低差h、及び、鉄塔11におけるカメラ17の設置位置Aといったものがあげられる。
【0035】
以上詳述した本実施形態によれば、以下に示す作用効果が得られるようになる。
(1)鉄塔11,12に架け渡された電線13の弛度を目標弛度に調整する際、次のような作業が行われる。すなわち、作業者15がコンピュータ16のカメラ17を鉄塔11から鉄塔12における電線13の支持点Hに向けて撮影する。これにより、カメラ17によって撮影された鉄塔11と鉄塔12との間の電線13の映像がコンピュータ16のディスプレイ18に映される。更に、ディスプレイ18上には、その映像に重ねて照準23が表示される。
【0036】
また、作業者15のコンピュータ16には、電線13の弛度を目標弛度とするための各種の情報が入力される。こうした情報としては、電線13の目標弛度d、電線13の諸元、鉄塔11と鉄塔12との径間長S、鉄塔11における電線13の支持点Lと鉄塔12における電線13の支持点Hとの高低差h、及び、鉄塔11におけるカメラ17の設置位置Aがあげられる。
【0037】
ディスプレイ18上の照準23が鉄塔12における電線13の支持点Hに合わされたとき、コンピュータ16に入力された上記情報に基づき、ディスプレイ18に電線13の弛度を目標弛度にするための目標位置27が表示される。この目標位置27は、上記照準を基準としたものであって、ディスプレイ18に表示された上記映像に重ねて表示される。このときの目標位置27は、上記情報に基づきディスプレイ18に表示されているため、上記電線13における目標弛度に対応した位置として適切に設定されたものとなる。
【0038】
従って、ディスプレイ18上に表示される上記電線13が目標位置27に対応して位置するよう、電線13をウィンチ14によって巻き上げたり繰り出したりすることにより、上記電線13の弛度を目標弛度となるよう適切に調整することができる。
【0039】
(2)鉄塔12における電線13の支持点Hは、鉄塔11における電線13の支持点Lよりも高い位置にある。また、作業者15が持つコンピュータ16のカメラ17は、鉄塔11における電線13の支持点Lよりも低い位置に設置される。そして、作業者15は、コンピュータ16のカメラ17を鉄塔12の支持点Hに向けることにより、コンピュータ16のディスプレイ18上に表示される照準23を鉄塔12の支持点Hに合わせる。
【0040】
この場合、ディスプレイ18に表示された映像において、鉄塔12の支持点Hから電線13が下がっていることが分かりやすくなる。そして、ディスプレイ18上に表示される上記照準23が鉄塔12における電線13の支持点Hに合わされるとき、その照準23の下に目標位置27が表示される。このため、目標位置27に対する上記電線13の相対位置を把握しやすくなる。
【0041】
(3)コンピュータ16は、ディスプレイ18上に目標位置27を次のようにして表示させる。すなわち、コンピュータ16は、弛度を目標弛度とした電線13に接するとともにカメラ17の設置位置Aを通過する接線L2の上記電線13に対する接点である点Bの座標を求める。コンピュータ16は、カメラ17の設置位置Aと鉄塔12における電線13の支持点Hとを結ぶ直線L3を求める。コンピュータ16は、上記点Bから上記直線L3まで延びて上記直線L3と垂直となる線分L4の長さを求める。コンピュータ16は、上記線分L4の長さをディスプレイ18の画素数に基づきディスプレイ18上の距離に変換し、ディスプレイ18における照準23よりも上記距離分下げた位置に上記目標位置27を表示する。これにより、電線13の弛度を目標弛度とするための目標位置27を、ディスプレイ18上の適切な位置に表示することができる。
【0042】
なお、上記実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・コンピュータ16は、ノート型及びタブレット型といったパーソナルコンピュータ、及び、スマートフォン等の携帯型のコンピュータのように、必ずしもカメラ17が一体となったものである必要はなく、カメラ17が別体となるものであってもよい。
【0043】
・作業者19が表示装置20を見てウィンチ14の操作を行う代わりに、コンピュータ16を持つ作業者15がディスプレイ18を見ながらウィンチ14の操作に関する指示を音声通話等によって作業者19に伝えるようにしてもよい。この場合、作業者19は、作業者15からの指示に従ってウィンチ14を操作する。
【0044】
・作業者15は、必ずしも鉄塔11に登る必要はない。例えば、作業者15は、鉄塔11に登らずに、その鉄塔11の基部からカメラ17で電線13を撮影するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0045】
11,12…鉄塔
13…電線
14…ウィンチ
15…作業者
16…コンピュータ
17…カメラ
18…ディスプレイ
19…作業者
20…表示装置
21…通信部
22…中央処理装置
23…照準
24…水平線
25…鉛直線
26…円
27…目標位置